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特許7224864ホイップドクリームの製造方法及びホイップドクリーム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】ホイップドクリームの製造方法及びホイップドクリーム
(51)【国際特許分類】
   A23C 13/14 20060101AFI20230213BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20230213BHJP
【FI】
A23C13/14
A23D7/00 508
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018212645
(22)【出願日】2018-11-13
(65)【公開番号】P2019141031
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2018025845
(32)【優先日】2018-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】井原 啓一
(72)【発明者】
【氏名】羽原 一宏
(72)【発明者】
【氏名】西村 康宏
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/129569(WO,A1)
【文献】特開昭62-220145(JP,A)
【文献】国際公開第2018/021199(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
A23D
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイッパーの回転速度を1回以上変更してクリームをホイップする工程を含み、
前記クリームをホイップする工程は、
一定の回転速度のホイッパーを用いてクリームをホイップする第一ホイップ工程と、
前記第一ホイップ工程の後に、前記第一ホイップ工程における前記回転速度より小さい回転速度のホイッパーを用いて前記クリームをホイップする第二ホイップ工程と、を含み、
前記第二ホイップ工程における前記回転速度は、35~50cm/sである、ホイップドクリームの製造方法。
【請求項2】
前記第二ホイップ工程の後に、前記第二ホイップ工程における前記回転速度と異なる回転速度のホイッパーを用いて前記クリームをホイップする第三ホイップ工程を含む、請求項1に記載のホイップドクリームの製造方法。
【請求項3】
前記クリームは、フレッシュクリームである、請求項1又は2に記載のホイップドクリームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術はホイップドクリームの製造方法及びホイップドクリームに関する。
【背景技術】
【0002】
クリームをホイップして得られたホイップドクリームは、ケーキ等の冷蔵保存される食品に用いられることが多いため、冷蔵保存時の保形性が重要である。
【0003】
ホイップドクリームに冷蔵保存時の保形性を付与する方法としては、油脂の脂肪酸組成並びに固形脂含量を調整し、冷蔵保存時の油を固くする手法がある(特許文献1)。また、LMペクチンのような増粘剤を使用して、ホイップドクリームの粘度を高めることで低脂肪のクリームであっても保形性を付与する手法もある(特許文献2)。更には、脂肪球径の異なるクリームを混合して冷蔵保存時の保形性を向上する手法もある(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-19516号公報
【文献】特開2015-84656号公報
【文献】特開2014-68605号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】日本食品科学工学会誌,52号,公益社団法人 日本食品科学工学会発行,p.553-559,2005年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、クリームをホイップする際のミキサー撹拌子(以下、単に「ホイッパー」ともいう。)の回転速度を一般的な回転速度より低速にすると、冷蔵保存時の保形性の低下が抑えられることが知られているが、ホイップ時間が遅延し、生産性が低下するという問題がある。一方、ホイッパーの回転速度を一般的な回転速度より高速にすることで、ホイップ終了までの時間が短縮されて生産性が向上するが、冷蔵保存時の保形性が低下する(非特許文献1)。このため、ホイップドクリームの生産性と冷蔵保存時の保形性とを両立する手段が要望されていた。
【0007】
本技術は、前記の課題を解決するためになされたものであって、生産性及び保形性に優れたホイップドクリームの製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が研究を進めた結果、クリームをホイップする際に、ホイッパーの回転速度を変化させることで、生産性及び保形性に優れたホイップドクリームが得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本技術は、ホイッパーの回転速度を1回以上変更してクリームをホイップする工程を含む、ホイップドクリームの製造方法を提供する。
前記ホイップドクリームの製造方法は、一定の回転速度のホイッパーを用いてクリームをホイップする第一ホイップ工程と、前記第一ホイップ工程の後に、前記第一ホイップ工程における前記回転速度より小さい回転速度のホイッパーを用いて前記クリームをホイップする第二ホイップ工程と、を含んでもよい。
前記第一ホイップ工程において、ホイップを開始してから終了するまでの時間は、前記第一ホイップ工程における前記回転速度のホイッパーを用いて該回転速度を変更せずにクリームのホイップを開始してから終了するまでの時間を100%とした場合に、20~90%の時間であってもよい。
前記第一ホイップ工程において、ホイップを開始してから終了するまでの時間は、前記第一ホイップ工程における前記回転速度のホイッパーを用いて該回転速度を変更せずにクリームのホイップを開始してから終了するまでの時間を100%とした場合に、70~90%の時間であってもよい。
前記第一ホイップ工程における前記回転速度は、40~70cm/sであってもよい。
前記第二ホイップ工程における前記回転速度は、35~50cm/sであってもよい。
前記ホイップドクリームの製造方法は、前記第二ホイップ工程の後に、前記第二ホイップ工程における前記回転速度と異なる回転速度のホイッパーを用いて前記クリームをホイップする第三ホイップ工程を含んでもよい。
前記クリームは、フレッシュクリームであってもよい。
また、本技術は、平均気泡径が54μm以下であり、オーバーランが120%以下であり、下記ΔPeが6.0mm以下である、ホイップドクリームを提供する。
ΔPe=(24時間冷蔵保存した後のホイップドクリームのペネトロ値)-(ホイップ直後のホイップドクリームのペネトロ値)
【発明の効果】
【0010】
本技術によれば、生産性及び保形性に優れたホイップドクリームの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本技術の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本技術は以下の好ましい実施形態に限定されず、本技術の範囲内で自由に変更することができるものである。尚、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。
【0012】
本明細書において「ホイッパーの回転速度」とは、バッチ式ミキサーの撹拌子の回転速度であり、ホイッパー(ミキサーの撹拌子である回転部分)の中心軸が単位時間あたりに移動した距離を意味する。
【0013】
また、本明細書において「ホイップドクリーム」とは、流動性のあるクリームを撹拌して、気泡を含有させたものである。ホイップドクリームは、撹拌の程度に応じて流動性が減じていき、保形性が増していく特性を有する。
【0014】
<ホイップドクリームの製造方法>
[クリームをホイップする工程]
本技術のホイップドクリームの製造方法は、ホイッパーの回転速度を1回以上変更してクリームをホイップする工程を含む。
【0015】
ここで、クリームをホイップすることを目的とせずにホイッパーの回転速度を変更することは、本技術における「ホイッパーの回転速度を1回以上変更してクリームをホイップする工程」には包含されない。例えば、ホイップドクリームの泡立て状態を見極める目的でホイッパーの回転速度を下げることは、本技術に包含されない。また、ホイッパーが停止状態から目的とする回転速度に到達するまでの間、回転速度が漸増している状態や、ホイッパーが回転状態から停止状態に移行するまでの間、回転速度が漸減している状態も、本技術に包含されない。
【0016】
本技術のホイップドクリームの製造方法によれば、生産性を向上させることができ、且つ、冷蔵保存時の保形性に優れたホイップドクリームを製造することができる。より詳細には、本技術のホイップドクリームの製造方法によれば、ホイップに要する時間を短縮することができ、且つ、戻りが抑制されたホイップドクリームを得ることができる。
【0017】
ホイップドクリームにおける品質不良の1つとして、保形性の低下が知られている。「保形性」とは、重力によって形状が変化しない程度の硬さを維持する性質を意味する。保形性の低下は、ホイップドクリームの戻り、離水、ひび割れなどの原因となりうる。「戻り」とは、冷蔵保存時におけるホイップドクリームの軟化を意味する。「離水」とは、ホイップドクリームの固形分と水分とが分離することを意味する。「ひび割れ」とは、水分が蒸発してホイップドクリームにひびが入ることを意味する。本技術のホイップドクリームの製造方法は、特に「戻り」を効果的に抑制することにより、ホイップドクリームの冷蔵保存時の保形性を向上させる技術である。
【0018】
本技術のホイップドクリームの製造方法は、一定の回転速度のホイッパーを用いてクリームをホイップする第一ホイップ工程と、第一ホイップ工程の後に、第一ホイップ工程における回転速度より小さい回転速度のホイッパーを用いてクリームをホイップする第二ホイップ工程と、を含むことが好ましい。第一ホイップ工程及び第二ホイップ工程は、連続して行われることが好ましい。
【0019】
第一ホイップ工程におけるホイッパーの回転速度(以下、「第一回転速度」ともいう。)は、40~70cm/sが好ましく、40~60cm/sがより好ましく、50~60cm/sが更に好ましく、55~60cm/sが特に好ましい。この第一回転速度の範囲であれば、第二ホイップ工程と組み合わせてホイップを行った際に生産性及び保形性をより向上させることができる。
【0020】
第一ホイップ工程において、ホイップを開始してから終了するまでの時間は、第一ホイップ工程における回転速度のホイッパーを用いて、該回転速度を変更せずに(すなわち一定の回転速度で)、クリームのホイップを開始してから終了するまでの時間を100%とした場合に、20~90%の時間であることが好ましく、25~90%の時間であることがより好ましい。この第一ホイップ工程の時間であれば、ホイップ時間をより短縮して生産性を高めながら、冷蔵保存時の保形性の低下をより効果的に抑制することが出来る。
【0021】
なお、本明細書において「ホイップを開始してから終了するまでの時間」(以下、「ホイップ時間」ともいう。)とは、具体的には、ホイッパーが回転し始めた時点からホイッパーの回転が完全に停止する時点までに要した時間である。ホイップの終了の判断基準は、ホイップドクリームのペネトロ値(Pe、詳細は後述)が、例えばケーキのデコレーションに用いることができる範囲に入った時とすることができ、そのPeの範囲は、19.0mm~23.0mmと設定することができる。ただし、ホイップの終了の判断基準に用いられるPeの値の範囲は、ホイップドクリームの用途などに応じて適宜設定されうるものであり、上記範囲に限定されるものではない。
【0022】
本技術の製造方法では、第一ホイップ工程における回転速度のホイッパーを用いて該回転速度を変更せずにクリームのホイップを開始してから終了するまでの時間を、予め把握しておく必要がある。よって、本技術の製造方法は、上記第一ホイップ工程の前に、第一ホイップ工程における回転速度のホイッパーを用いて該回転速度を変更せずにクリームのホイップを開始してから終了するまでの時間を測定する第一時間測定工程を含んでもよい。ただし、本技術の製造方法において、ホイップドクリームを製造する度に上記第一時間測定工程を行う必要はなく、過去に行った第一時間測定工程の結果を用いてもよい。
【0023】
また、第一ホイップ工程において、ホイップを開始してから終了するまでの時間は、
第一ホイップ工程における回転速度のホイッパーを用いて該回転速度を変更せずにクリームのホイップを開始してから終了するまでの時間を100%とした場合に、70~90%の時間であることが特に好ましい。このように70~90%の範囲とすることで、ホイップドクリームの生産性と冷蔵保存時の保形性とを向上させつつ、更にホイップドクリームのオーバーランを低くすることが可能であり、具体的にはオーバーランを120%以下とすることが可能である。
【0024】
ここで、ホイップドクリームの「オーバーラン」とは、ホイップする前のクリームの体積に対する、導入された気泡の体積の割合(%)を意味する。ホイップドクリームは、オーバーランが高くなると軽くふわっとした食感になり、低くなると重くしっかりとした食感になることが知られている。
【0025】
上述の通り、第一ホイップ工程における回転速度のホイッパーを用いて該回転速度を変更せずにクリームのホイップを開始してから終了するまでの時間(100%)に対して、第一ホイップ工程におけるホイップ時間を70~90%の範囲とすることにより、オーバーランが120%以下であり、重くしっかりとした食感のホイップドクリームが得られうる。このように、本技術のホイップドクリームの製造方法は、第一ホイップ工程におけるホイップ時間を所定の範囲とすることで、オーバーランを調整し、所望の食感のホイップドクリームを製造することが可能である。
【0026】
得られるホイップドクリームのオーバーランを120%以下に調整する場合、ホイップドクリームの平均気泡径を54μm以下に調整することが好ましい。このようなホイップドクリームは、戻りが効果的に抑制されており、冷蔵保存時の保形性が良好である。
【0027】
なお、ホイップドクリームの平均気泡径及びオーバーランは、下記実施例に記載された方法により測定することが可能である。
【0028】
第二ホイップ工程におけるホイッパーの回転速度(以下、「第二回転速度」ともいう。)は、第一ホイップ工程で用いたホイッパーの回転速度より小さい速度であり、35~50cm/sが好ましく、37~50cm/sがより好ましく、37~47cm/sが更に好ましく、37~42cm/sが特に好ましい。この第二回転速度の範囲であれば、前記第一ホイップ工程と組み合わせてホイップを行った際に生産性及び保形性をより向上させることができる。
【0029】
第二ホイップ工程において、ホイップ時間は、第二ホイップ工程における回転速度のホイッパーを用いて該回転速度を変更せずにクリームのホイップを開始してから終了するまでの時間を100%とした場合に、5~80%の時間であることが好ましく、10~75%の時間であることがより好ましい。後述する第三ホイップ工程を行う場合は、第二ホイップ工程におけるホイップ時間は、20~50%の時間であることが好ましく、20~35%の時間であることがより好ましい。第二ホイップ工程におけるホイップ時間をこのような範囲とすることで、ホイップ時間をより短縮して生産性を高めながら、冷蔵保存時の保形性の低下をより効果的に抑制することが出来る。
【0030】
「第二ホイップ工程における回転速度のホイッパーを用いて該回転速度を変更せずにクリームのホイップを開始してから終了するまでの時間」は、予め把握しておくことが好ましい。よって、上記第二ホイップ工程の前に、第二ホイップ工程における回転速度のホイッパーを用いて該回転速度を変更せずにクリームのホイップを開始してから終了するまでの時間を測定する第二時間測定工程を行ってもよい。ただし、ホイップドクリームを調製する度に上記第二時間測定工程を行う必要はなく、過去に行った第二時間測定工程の結果を用いてもよい。
【0031】
本技術のホイップドクリームの製造方法は、第二ホイップ工程の後に、第二ホイップ工程における回転速度と異なる回転速度のホイッパーを用いてクリームをホイップする第三ホイップ工程を含むことが好ましい。第三ホイップ工程におけるホイッパーの回転速度(以下、「第三回転速度」ともいう。)は、35~70cm/sが好ましく、35~60cm/sがより好ましく、35~55cm/sが更に好ましく、37~55cm/sが特に好ましい。この第三回転速度の範囲であれば、前記の第一ホイップ工程及び第二ホイップ工程と組み合わせてホイップを行った際に生産性と保形性をより向上させることができる。
【0032】
[ホイップ用のクリームを調製する工程]
本技術のホイップドクリームの製造方法は、乳原料からホイップ用のクリームを調製する工程を含むことが可能である。例えば、ホイップ用のクリームとしてフレッシュクリームを用いる場合、本技術のホイップドクリームの製造方法は、乳原料から乳脂肪分以外の成分を除去してフレッシュクリームを調製する工程を含むことが可能である。
【0033】
日本における乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(以下、「乳等省令」という。)では、フレッシュクリームは、「生乳・牛乳または特別牛乳から乳脂肪分以外の成分を除去したものをいう」と定義されている。フレッシュクリームはその風味の良好さに特徴があるが、ホイップする際の取扱いが難しく、ホイップ過剰になると組織が荒れ、見た目の品質が低下する。一方、ホイップを抑えると冷蔵保存時の保形性の低下が顕著となる。しかしながら、本技術の製造方法によれば、フレッシュクリームを用いた場合であっても、冷蔵保存時の保形性の低下を抑制することができ、更には、ホイップドクリームの生産性を向上させることもできる。
【0034】
クリームの脂肪率は乳等省令上、乳脂肪含量が18%以上のものである。本技術に用いるフレッシュクリームの脂肪率は30~50%が好ましく、35~48%がより好ましく、40~45%がさらに好ましい。また、フレッシュクリームは異なる製法で作られたクリームを混合して使用することが可能であり、高脂肪率のクリームを、脱脂乳、低脂肪乳、脱脂濃縮乳、原料乳、牛乳等の乳由来の原料で調整したものを用いることが可能である。また、ホイップ用のクリームとして、フレッシュクリーム以外の植物油脂、添加物等を本技術の効果を失わない範囲内で含んだものを用いることも可能である。しかしながら、風味の点からホイップ用クリームとしてフレッシュクリームを用いることが最も好ましい。
【0035】
本技術で用いるホイップ用のクリームがフレッシュクリームである場合は公知の製造方法でフレッシュクリームを製造することが可能である。具体的には、乳原料からの乳脂肪成分以外の除去には通常の分離機を用いる。分離は複数回行うことが可能である。その後、公知の殺菌方法、例えばUHT殺菌(超高温加熱殺菌;Ultra high temperature heating method)やHTST殺菌(高温短時間殺菌;High temperature short time method)等にて加熱・殺菌を行い、殺菌前及び/又は後に均質処理を行うことも可能である。均質処理は一般的な均質機によって行うことが可能である。均質圧はクリーム粘度が増加しない範囲であれば任意の圧力を用いることが出来るが、1~10MPaが好ましく、1~5MPaがより好ましい。
【0036】
<ホイップドクリーム>
本技術のホイップドクリームは、上記製造方法により得られる。本技術のホイップドクリームは、好ましくは、下記式で示されるΔPeが6.0mm以下のホイップドクリームである。
ΔPe=(24時間冷蔵保存した後のホイップドクリームのペネトロ値)-(ホイップ直後のホイップドクリームのペネトロ値)
【0037】
「ペネトロ値」(以下「Pe」ともいう。)とは、ホイップドクリームの硬度を示す値である。ペネトロ値は、先端角40°、質量12gのコーンをホイップドクリーム表面から自由落下させ、落下後5秒後のコーンの落下距離として測定される。Peが大きいほどホイップドクリームの保形性は低く、Peが小さいほど、ホイップドクリームの保形性が高いことを示す。上記ΔPe、すなわち、24時間冷蔵保存した後のPeからホイップ直後のPeを引いたものは、冷蔵中に失われた保形性を意味し、ΔPeが大きいほど、冷蔵保存時の保形性低下が大きいことを示し、ΔPeが小さいほど、冷蔵保存時の保形性低下が抑制されていることを示す。ΔPeが小さいホイップドクリーム、特にΔPeが6.0mm以下のホイップドクリームは、冷蔵保存時の保形性が良好であり、ケーキ等の冷蔵保存される食品に好適である。
【0038】
なお、本明細書において「ホイップ直後のホイップドクリームのペネトロ値」とは、ホイップ終了後1分以内に測定したペネトロ値を意味する。
【0039】
本技術のホイップドクリームは、より好ましくは、平均気泡径が54μm以下であり、オーバーランが120%以下であり、ΔPeが6.0mm以下である。このようなホイップドクリームは、下記実施例で示されるように、生産性と冷蔵保存時の保形性が良好であり、且つ、低オーバーランで重くしっかりとした食感を呈する。ホイップドクリームの平均気泡径及びオーバーランは、下記実施例に記載された方法により測定される。
【0040】
本技術のホイップドクリームは、生産性が良好で冷蔵保存時の保形性の低下が抑制されているため、様々な用途に用いることが出来る。特に、ホイップした後、冷蔵保存した時に保形性が低下しにくいため、冷蔵保存時に保形性が求められる用途、例えばデコレーションケーキ(ショートケーキ等)、ロールケーキ、デザートに添える絞り用クリーム等に好適である。その他にも、ウインナーコーヒー用クリーム(ホイップしたクリームをコーヒーに乗せたもの)、コーヒーホワイトナー、調理用クリーム等にも用いることが出来る。
【実施例
【0041】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0042】
[試験例1]
ミキサーは、デロンギ社製シェフクラシックを用いた。400gのクリーム(森永乳業社製、乳脂肪分45%)に32gの砂糖を添加し、7℃に調整したものをホイップして、ホイップドクリームを製造した。表1にホイップ時の第一回転速度及び第二回転速度を示した。なお、第一ホイップ工程における回転速度のホイッパーを用いて該回転速度を変更せずにクリームのホイップを開始してから終了するまでの時間を100%とした場合の第一ホイップ工程におけるホイップ時間の割合(%)は、「ホイップ時間に対する第一回転速度でのホイップ時間の割合(%)」として表1に示した。
【0043】
下記表1に示すように、比較例における「ホイップ時間に対する第一回転速度でのホイップ時間の割合(%)」は100%である。これは、ホイッパーの回転速度をホイップ中に1回も変更せず、一定速でホイップしたことを意味する。
【0044】
(i)保形性の評価
ホイップドクリームのペネトロ値(Pe)が、21.5±1.0mmの範囲に入った時点でホイップを終了し、ホイップが終了した直後(ホイップ終了後1分以内)、及び5℃にて24時間冷蔵保存した後にペネトロ値(Pe)を測定した。先端角40°、質量12gのコーンをホイップドクリーム表面から自由落下させ、落下後5秒後のコーンの落下距離を測定し、当該落下距離をPeとした。24時間冷蔵保存した後のPeからホイップ直後のPeを引いてΔPeを算出した。ΔPeは大きいほど、冷蔵保存時の保形性低下が大きい。実際にホイップドクリームをケーキ等に用いる際にはΔPeは6.0mm以下であることが好ましい。
【0045】
(ii)生産性の評価
ホイップはホイップドクリームのPeが21.5±1.0mmとなった時に終了し、ホ
イップを開始してから終了するまでの時間(ホイップ時間)が2分30秒以下である場合に生産性が良いと評価した。
試験例1の結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示される通り、一定速でのホイップを行った比較例1、2と比較して、ホイップ途中で回転速度を変化させた実施例1~5では、ホイップ時間が2分30秒以下に収まり、かつΔPeが6.0mm以下となり、生産性、冷蔵保存時の保形性とも良好なホイップドクリームを得ることが出来た。
【0048】
[試験例2]
ミキサーは、デロンギ社製シェフクラシックを用い、400gの45%乳脂肪率のクリーム(森永乳業社製)に32gの砂糖を添加し、7℃に調整したものをホイップして、ホイップドクリームを製造した。ホイップ途中で二回、回転速度を変えた以外は前記試験例1と同じ実験操作を行った。試験例2の第一回転速度、第二回転速度、及び第三回転速度、並びに試験例2の結果を表2に示す。なお、第二ホイップ工程における回転速度のホイッパーを用いて該回転速度を変更せずにクリームのホイップを開始してから終了するまでの時間を100%とした場合の第二ホイップ工程におけるホイップ時間の割合(%)は、「ホイップ時間に対する第二回転速度でのホイップ時間の割合(%)」として表2に示した。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に示されるように、ホイップ途中で二回変速してホイップを行った実施例6~8においても、ホイップ時間が2分30秒以下となり、ΔPeが6.0mm以下となり、生産性、冷蔵保存時の保形性とも良好なホイップドクリームを得ることが出来た。
【0051】
[試験例3]
ミキサーは、愛工舎社製KENMIX MAJOR PREMIERを用い、400gの42%乳脂肪率クリーム(森永乳業社製)に32gの砂糖を添加し、7℃に調整したものをホイップして、ホイップドクリームを製造した。脂肪率42%のクリームを用いた以外は、試験例1と同じ実験操作を行った。この条件でもホイップ時間が2分30秒以下の場合、生産性が良好であると判定した。第一回転速度及び第二回転速度、並びに試験例3の結果を表3に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
表3で示される通り、乳脂肪率42%のクリームの場合においても、比較例3、比較例4に示した一定速度でのホイップの場合は、ホイップ時間2分30秒以下かつΔPe6.0mm以下をともに満たさなかった。一方、実施例9~12で示した通り、途中で回転速度を変化させた場合はホイップ時間2分30秒以下かつΔPeが6.0mm以下であり、生産性、冷蔵保存時の保形性共に良好であった。
【0054】
[試験例4]
ミキサーは、愛工舎社製マイティ30コートを用いた。7kgの45%乳脂肪率クリーム(森永乳業社製)に560gの砂糖を添加し、7℃に調整したものをホイップして、ホイップドクリームを製造した以外は、試験例1と同じ実験操作を行った。ミキサーのスケールが大きくなると、ホイップ時間がかなり遅延する傾向にあるため、試験例4ではホイップ時間が10分以下の場合、生産性が良好であると判定した。7kgのクリームを一時にホイップするため、10分であっても、一バッチ400gでのホイップより生産性は高い。第一回転速度及び第二回転速度、並びに試験例4の結果を表4に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
表4で示される通り、一定速でホイップを行った比較例5、6と比較して、ホイップ途中でホイップ速度を変化させた実施例13では、ホイップ時間が10分以下に収まり、かつΔPeが6.0mm以下となり、生産性、冷蔵保存時の保形性とも良好なホイップドクリームを得ることが出来た。
【0057】
[試験例5]
ミキサーは、デロンギ社製シェフクラシックを用いた。400gのクリーム(森永乳業社製、乳脂肪分45%)に32gの砂糖を添加し、7℃に調整したものをホイップして、ホイップドクリームを製造した。ホイップ時間が2分30秒以下である場合に生産性が良いと評価した。表5にホイップ時の第一回転速度及び第二回転速度を示した。ホイップドクリームの平均気泡径とオーバーランは、下記手順で測定した。
【0058】
(i)平均気泡径の測定
(A)気泡の観察
気泡の変形をできるだけ防止するため、以下の操作を行い、顕微鏡観察試料を調製した。
まず、スライドグラス上にスペーサーとしてカバーグラス(厚み0.15mm)を間隔をあけて置き、その間にホイップドクリーム(試料)を置いた。次に、試料の上をカバーグラスで覆った。この時、試料は、スペーサーとしてのカバーグラスが存在するために、0.15mm以下に圧縮されないことになる。気泡は0.01~0.1mm程度であるため、この処理により気泡の変形を防ぐことができる。顕微鏡(BX53、オリンパス社製)で、10倍の対物レンズを用いて気泡の観察を行い、3視野の写真を撮影した。視野の選択は、変形が少なく球状を維持している気泡が多い視野を選択した。
(B)気泡径測定及び平均気泡径の算出
顕微鏡写真の気泡を画像処理ソフト(イメージプロプラス7.0J、メディアサイバネティクス社製)を用い、個々の気泡の円相当径を求めた。3視野とも写真に写っているすべての気泡を測定した(1視野凡そ200個)。下記式(1)で算出されるザウター径(D32)を、平均気泡径とした。なお、下記式(1)において、「d」は個々の気泡径を示す。
32=Σd /Σd ・・・(1)
【0059】
(ii)オーバーランの測定
加糖されたホイップ前のクリームの比重(ρ)(単位:g/mL)及びホイップ後のホイップドクリームの比重(ρ)(単位:g/mL)を測定し、下記式(2)にてオーバーランを算出した。
オーバーラン(%)=(ρ-ρ)/ρ×100 ・・・(2)
【0060】
上記比重は、加糖されたホイップ前のクリーム又はホイップ後のホイップドクリームを容量100mLの容器に充填した際のクリーム又はホイップドクリームの重量(g)を測定して当該重量(g)を容量(100mL)で除することにより算出した。
【0061】
【表5】
【0062】
表5に示される通り、一定速でのホイップを行った比較例7~9と比較して、ホイップ途中で回転速度を変化させた実施例14~19では、ホイップ時間が2分30秒以下に収まり、かつΔPeが6.0mm以下となり、生産性、冷蔵保存時の保形性とも良好なホイップドクリームを得ることが出来た。また、第一ホイップ工程のホイップ時間が70~90%の時間である実施例15~17及び19では、平均気泡径が54μm以下、オーバーランが120%以下、ΔPeが6.0mm以下であるホイップドクリームが得られた。
【0063】
[試験例6]
ミキサーは、デロンギ社製シェフクラシックを用い、400gの45%乳脂肪率のクリーム(森永乳業社製)に32gの砂糖を添加し、7℃に調整したものをホイップして、ホイップドクリームを製造した。ホイップ途中で二回、回転速度を変えた以外は前記試験例1と同じ実験操作を行った。試験例6の第一回転速度、第二回転速度、及び第三回転速度、並びに試験例6の結果を表6に示す。
【0064】
【表6】
【0065】
表6に示されるように、ホイップ途中で二回変速してホイップを行った実施例20~23においても、ホイップ時間が2分30秒以下となり、ΔPeが6.0mm以下となり、生産性、冷蔵保存時の保形性とも良好なホイップドクリームを得ることが出来た。