(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20230213BHJP
【FI】
H02K1/276
(21)【出願番号】P 2019052235
(22)【出願日】2019-03-20
【審査請求日】2021-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】松原 正克
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-339919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子鉄心及びコイルを有する固定子と、
複数の埋め込み孔が形成された回転子鉄心と、複数の永久磁石と、非磁性の材料で形成された複数のスペーサと、を有し、中心軸線の回りで前記固定子に対して回転自在に設けられた回転子と、を備え、
各々の前記埋め込み孔は、前記永久磁石が装填された装填領域と、前記永久磁石の磁化方向と直交する方向において前記装填領域から前記回転子鉄心の外周側に延出し前記スペーサが装設された外周側空隙領域と、を有し、
各々の前記永久磁石は、第1磁極面と、第2磁極面と、前記外周側空隙領域に面し前記回転子鉄心に接触していない外周側端面と、を有し、
各々の前記スペーサは、前記永久磁石の前記外周側端面に接触した接触部と、前記回転子鉄心のうち外周縁と前記外周側空隙領域との間のブリッジ部の端の円弧面のみに当接し前記接触部と一体に形成された突起部と、を有し、
前記円弧面は、前記第1磁極面から延長する第1面と前記第2磁極面から延長する第2面との間に位置し、
前記回転子は、複数の弾性体をさらに有し、
各々の前記埋め込み孔は、さらに、前記磁化方向と直交する方向において前記装填領域から前記回転子鉄心の内周側に延出し前記弾性体が装設された内周側空隙領域を有し、
各々の前記永久磁石は、さらに、前記内周側空隙領域に面し前記回転子鉄心に接触していない内周側端面を有し、
各々の前記弾性体は、前記内周側空隙領域の内面に接触し、前記内周側端面を押圧している、
回転電機。
【請求項2】
前記内周側空隙領域は、前記装填領域のうち前記第1磁極面と対向した内周側内側面から連続した第4内側面と、前記装填領域のうち前記第2磁極面と対向した外周側内側面から連続した第5内側面と、を有し、
前記第4内側面のうち少なくとも前記内周側内側面から連続した一部、及び前記第5内側面のうち少なくとも前記外周側内側面から連続した一部は、それぞれ、前記第1面と前記第2面との間に位置していない、
請求
項1に記載の回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、永久磁石の目覚しい研究開発により、高磁気エネルギ積の永久磁石が開発され、このような永久磁石を用いた永久磁石型の回転電機が電車や自動車の電動機あるいは発電機として適用されつつある。通常、永久磁石型の回転電機は、円筒状の固定子と、この固定子の内側に回転自在に支持された円柱形状の回転子と、を備えている。回転子は、回転子鉄心と、この回転子鉄心内に埋め込まれた複数の永久磁石と、を備えている。
このような中、エネルギ効率を高めるための様々な構造の回転電機が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-45634号公報
【文献】特開平6-133513号公報
【文献】特開平9-182332号公報
【文献】特開平9-215236号公報
【文献】特開2002-10544号公報
【文献】特開2001-339885号公報
【文献】特開2004-260920号公報
【文献】特開2004-328970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本実施形態は、エネルギ効率の高い回転電機を提供する。又は、高出力化を図ることのできる回転電機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態に係る回転電機は、
固定子鉄心及びコイルを有する固定子と、複数の埋め込み孔が形成された回転子鉄心と、複数の永久磁石と、非磁性の材料で形成された複数のスペーサと、を有し、中心軸線の回りで前記固定子に対して回転自在に設けられた回転子と、を備え、各々の前記埋め込み孔は、前記永久磁石が装填された装填領域と、前記永久磁石の磁化方向と直交する方向において前記装填領域から前記回転子鉄心の外周側に延出し前記スペーサが装設された外周側空隙領域と、を有し、各々の前記永久磁石は、第1磁極面と、第2磁極面と、前記外周側空隙領域に面し前記回転子鉄心に接触していない外周側端面と、を有し、各々の前記スペーサは、前記永久磁石の前記外周側端面に接触した接触部と、前記回転子鉄心のうち外周縁と前記外周側空隙領域との間のブリッジ部の端の円弧面のみに当接し前記接触部と一体に形成された突起部と、を有し、前記円弧面は、前記第1磁極面から延長する第1面と前記第2磁極面から延長する第2面との間に位置し、前記回転子は、複数の弾性体をさらに有し、各々の前記埋め込み孔は、さらに、前記磁化方向と直交する方向において前記装填領域から前記回転子鉄心の内周側に延出し前記弾性体が装設された内周側空隙領域を有し、各々の前記永久磁石は、さらに、前記内周側空隙領域に面し前記回転子鉄心に接触していない内周側端面を有し、各々の前記弾性体は、前記内周側空隙領域の内面に接触し、前記内周側端面を押圧している。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る回転電機を示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の固定子及び回転子を線II-IIに沿って示す断面図である。
【
図3】
図3は、上記回転電機の比較例の回転子の一部を拡大して示す断面図である。
【
図4】
図4は、
図3に示した回転子の一部をさらに拡大して示す断面図であり、磁束線を併せて示す図である。
【
図5】
図5は、上記回転電機の実施例1の回転子の一部を拡大して示す断面図である。
【
図6】
図6は、上記回転電機の実施例2の回転子の一部を拡大して示す断面図である。
【
図7】
図7は、上記回転電機の実施例3の回転子の一部を拡大して示す断面図である。
【
図8】
図8は、上記回転電機の実施例4の回転子の一部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0008】
本実施形態において、回転電機1について説明する。回転電機1は、埋込磁石同期モータである。回転電機1は、例えば、ハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(EV)において、駆動モータあるいは発電機に好適に適用される。
図1は、本実施形態に係る回転電機1を示す断面図である。
図2は、
図1の固定子12及び回転子14を線II-IIに沿って示す断面図である。
【0009】
図1及び
図2に示すように、本実施形態の回転電機1は、永久磁石型の回転電機として構成されている。回転電機1は、固定子12と、回転子14と、回転子14の一部及び固定子12を収容するハウジング6と、ハウジング6に固定されるカバー7と、を備えている。回転子14は、固定子12の内側に位置し、中心軸線Cの回りで回転自在に支持され、かつ固定子12と同軸的に支持されている。
【0010】
固定子12は、円筒状の固定子鉄心16と、固定子鉄心16に装着されたコイル(固定子コイル)18と、絶縁紙25と、を備えている。固定子鉄心16は、磁性材、例えば、ケイ素鋼などの円環状の電磁鋼板16aを多数枚、同心状に積層した積層体として構成されている。固定子鉄心16は、中心軸線Cを有している。また、中心軸線Cに平行な方向において、固定子鉄心16は、一端に位置する第1端面16bと、第1端面16bとは反対側の他端に位置する第2端面16cと、を有している。固定子鉄心16の内周面16dには、複数のスロット20が形成されている。複数のスロット20は、固定子鉄心16の周方向に等間隔を置いて並んでいる。各スロット20は、固定子鉄心16の内周面16dに開口し、この内周面から放射方向(固定子鉄心16の半径方向)に延出している。また、中心軸線Cに平行な方向において、各スロット20は、固定子鉄心16の全長に亘って延在し、第1端面16b及び第2端面16cに開口している。
【0011】
コイル18には絶縁紙25が巻かれ、コイル18は絶縁紙25とともにスロット20に埋め込まれている。絶縁紙25は、コイル18を外部から電気的に絶縁し、コイル18を物理的に保護している。複数のスロット20を形成することにより、固定子鉄心16の内周部は、回転子14に面する多数のティース21を構成している。なお、各ティース21は、中心軸線Cに平行な方向に延在している。
【0012】
コイル18は、コイルエンド18a,18bを有している。コイルエンド18a,18bは、中心軸線Cに平行な方向にて固定子鉄心16の両側から突出し、固定子鉄心16の外側に露出している。ここでは、コイルエンド18aは第1端面16bと対向し、コイルエンド18bは第2端面16cと対向している。コイルエンド18a,18bのうち、固定子鉄心16側の端部は、絶縁紙25で覆われている。
ハウジング6は、略円筒状の内周面6aを有している。固定子12は、ハウジング6に固定されている。
【0013】
回転子14は、固定子12より中心軸線C側に位置している。回転子14は、固定子12との間に僅かな隙間(エアギャップ)をおいて配置され、固定子12の内側に回転自在に且つ固定子12と同軸的に支持されている。回転子14は、回転軸22と、円筒形状の回転子鉄心24と、回転子鉄心24に埋設された複数の永久磁石26と、円筒形状の第1エンドプレート2と、円筒形状の第2エンドプレート5と、座金3と、ナット4と、を備えている。
【0014】
回転軸22は、中心軸線Cに平行な方向に延在し、回転子鉄心24と同軸的に設けられている。回転軸22には、軸受8及び9が取り付けられている。軸受8及び9は、ハウジング6及びカバー7によって固定されている。回転軸22は、軸受8及び9を介して回転自在にハウジング6及びカバー7に支持されている。なお、図示した例は、回転軸22を支持する軸受構造の一例を簡略的に示すものであり、詳細な構造についての説明は省略する。
【0015】
回転軸22には、回転子鉄心24、第1エンドプレート2、及び第2エンドプレート5が固定されている。本実施形態において、回転軸22は、突出部22aと、雄ねじ22bと、を有している。突出部22a及び雄ねじ22bは、回転軸22の外周面側に位置し、中心軸線Cに平行な方向に間隔を空けて位置している。突出部22aは、鍔部であり、円環状の形状を有している。
【0016】
第1エンドプレート2、回転子鉄心24、及び第2エンドプレート5は、回転軸22に挿入されている。中心軸線Cに平行な方向において、第1エンドプレート2、回転子鉄心24、及び第2エンドプレート5は、突出部22aと、雄ねじ22bとの間に位置している。回転子鉄心24は、中心軸線Cに平行な方向にて第1エンドプレート2と第2エンドプレート5とで挟まれている。ナット4は、雄ねじ22bに対応する雌ねじ4aを有している。雌ねじ4aが雄ねじ22bに螺合され、ナット4は座金3を介して第1エンドプレート2、回転子鉄心24、及び第2エンドプレート5を突出部22aに押し付けている。ナット4は、止めねじとしての機能を有している。そのため、回転軸22に対する第1エンドプレート2、回転子鉄心24、及び第2エンドプレート5の相対的な位置は固定されている。
【0017】
本実施形態において、回転軸22は、筒状の形状を有し、内部が中空に形成されている。筒状の回転軸22を使用することにより、回転子14の軽量化を図ることができる。但し、本実施形態と異なり、回転軸22は、中実軸であってもよい。
回転子鉄心24は、磁性材、例えば、多数枚の円環状の電磁鋼板24aを有している。回転子鉄心24は、同心状の複数の電磁鋼板24aを中心軸線Cに平行な方向に積層した積層体として構成されている。回転子鉄心24は、複数の埋め込み孔34と、複数の空隙孔(空洞部)30と、を有している。例えば、埋め込み孔34及び空隙孔30は、それぞれプレス加工が施された複数の電磁鋼板24aを積層することにより形成されている。
【0018】
各々の埋め込み孔34は、中心軸線Cに平行な方向に延在し、回転子鉄心24を貫通している。各々の永久磁石26は、中心軸線Cに平行な方向に延在し、対応する埋め込み孔34に挿入されている。複数の永久磁石26(複数の埋め込み孔34)は、中心軸線Cを中心とする周方向に並べられている。例えば、
図2に示した回転子14は、8磁極を有し、16個の永久磁石26を使用している。これらの16個の永久磁石26は、同一形状及び同一サイズを有している。
【0019】
回転子鉄心24は、中心軸線Cに直交する方向あるいは回転子鉄心24の半径方向に延びるd軸AX1と、d軸AX1に対して電気的に直交するq軸AX2と、を有している。d軸AX1及びq軸AX2は、回転子鉄心24の円周方向に交互に、かつ、所定の位相で設けられている。回転子鉄心24の1磁極は、q軸AX2間の領域(1/8周の周角度領域)をいう。このため、回転子鉄心24は、8極(磁極)に構成されている。1磁極のうちの周方向中央がd軸AX1となる。
【0020】
空隙孔30は、中心軸線Cに平行な方向に延在し、回転子鉄心24を貫通している。空隙孔30は、それぞれq軸AX2上で、回転子鉄心24の径方向ほぼ中央に位置し、隣合う磁極の2つ埋め込み孔34の間に設けられている。空隙孔30は、多角形、例えば、三角形の断面形状を有している。空隙孔30の断面は、q軸AX2に直交する一辺と、それぞれ埋め込み孔34に間隔を置いて対向する2辺と、を有している。空隙孔30は、磁束を通り難くするフラックスバリアとして機能し、固定子12の鎖交磁束の流れや永久磁石26の磁束の流れを規制する。また、空隙孔30を形成することにより、回転子鉄心24の軽量化を図ることができる。
【0021】
回転子鉄心24は、第1端面24s1と、中心軸線Cに平行な方向において第1端面24s1とは反対側の第2端面24s2と、を有している。各永久磁石26は回転子鉄心24のほぼ全長に亘って埋め込まれている。第1エンドプレート2は、第1端面24s1及び複数の永久磁石26と対向し、第1端面24s1及び複数の永久磁石26を覆っている。
【0022】
第1エンドプレート2は、第1端面24s1に当接している。第1エンドプレート2は、複数の永久磁石26のうち、第1端面24s1側に露出する端面にさらに当接していてもよい。第2エンドプレート5は、第2端面24s2及び複数の永久磁石26と対向し、第2端面24s2及び複数の永久磁石26を覆っている。第2エンドプレート5は、第2端面24s2に当接している。第2エンドプレート5は、複数の永久磁石26のうち、第2端面24s2側に露出する端面にさらに当接していてもよい。
上記回転電機1において、コイル18に電流を流すと、コイル18の周囲に磁束が発生する。上記の磁束が回転子14の永久磁石26に作用することで、中心軸線Cを中心に回転子14(回転軸22)が回転する。
【0023】
次に、本実施形態に係る回転電機1の実施例1の回転子14、実施例2の回転子14、実施例3の回転子14、実施例4の回転子14、及び比較例の回転子14について説明する。
【0024】
(比較例)
まず、比較例の回転子14について説明する。
図3は、回転電機1の比較例の回転子14の一部を拡大して示す断面図である。
【0025】
図3に示すように、回転子鉄心24には、1磁極ごとに、2つの永久磁石26が埋設されている。回転子鉄心24の円周方向において、各d軸AX1の両側に、永久磁石26の形状に対応した形状の埋め込み孔(磁石埋め込み孔)34が形成されている。2つの永久磁石26は、それぞれ埋め込み孔34内に装填及び配置されている。永久磁石26は、例えば、接着剤等により回転子鉄心24に固定されてもよい。
【0026】
埋め込み孔34は、ほぼ矩形の断面形状を有し、それぞれd軸AX1に対して傾斜している。回転子鉄心24の中心軸線Cと直交する断面でみた場合、2つの埋め込み孔34は、例えば、ほぼV字状に並んで配置されている。すなわち、2つの埋め込み孔34の内周側端はそれぞれd軸AX1に隣接し、僅かな隙間をおいて互いに対向している。回転子鉄心24において、2つの埋め込み孔34の内周側端の間に、幅の狭いブリッジ部(磁路狭隘部)36が形成されている。2つの埋め込み孔34の外周側端は、回転子鉄心24の円周方向に沿ってd軸AX1から離れ、回転子鉄心24の外周面の近傍及びq軸AX2の近傍に位置している。これにより、埋め込み孔34の外周側端は、隣合う磁極の埋め込み孔34の外周側端と、q軸AX2を挟んで対向している。回転子鉄心24において、各埋め込み孔34の外周側端と回転子鉄心24の外周面との間に幅の狭いブリッジ部(磁路狭隘部)38が形成されている。このように、2つの埋め込み孔34は、内周側端から外周側端に向かうに従って、d軸AX1からの距離が徐々に広がるように配置されている。
【0027】
永久磁石26の中心軸線Cと直交する断面形状は、例えば、矩形状の細長い平板状である。永久磁石26は、中心軸線Cに平行な方向に複数に分割された磁石を組み合わせて構成されてもよく、この場合、複数の磁石の合計の長さが回転子鉄心24の軸方向長さとほぼ等しくなるように形成される。各永久磁石26は回転子鉄心24のほぼ全長に亘って埋め込まれている。永久磁石26の磁化方向は、永久磁石26の第1磁極面26a及び第2磁極面26bと直交する方向としている。なお、第1磁極面26a及び第2磁極面26bの一方がN極面であり、第1磁極面26a及び第2磁極面26bの他方がS極面である。
【0028】
各埋め込み孔34は、永久磁石26の断面形状に対応した矩形状の装填領域34aと、この装填領域34aの長手方向の両端からそれぞれ延出する2つの空隙(内周側空隙領域34b及び外周側空隙領域34c)と、更に、装填領域34aの長手方向両端において埋め込み孔34の内周側内側面35aから埋め込み孔34内に突出した一対の係止凸部34dと、を有している。
【0029】
装填領域34aは、平坦な矩形状の内周側内側面35aと、この内周側内側面35aと平行に対向する平坦な矩形状の外周側内側面35bとの間に規定されている。
【0030】
外周側空隙領域34cは、第1内側面46aと、第2内側面46bと、第3内側面46cと、を有している。第1内側面46aは、装填領域34aの内周側内側面35aの一端(回転子鉄心外周面側の端、ここでは、係止凸部34d)から回転子鉄心24の外周縁24bに向かって延出している。第2内側面46bは、装填領域34aの外周側内側面35bの一端(回転子鉄心外周面側の端)から回転子鉄心24の外周縁24bに向かって延出している。第3内側面46cは、第1内側面46aの延出端と第2内側面46bの延出端とに跨り、回転子鉄心24の外周縁24bに沿って延出している。なお、第3内側面46cの両端部は、円弧面を介して第1内側面46a及び第2内側面46bに繋がっている。第3内側面46cと回転子鉄心24の外周縁24bとの間に、ブリッジ部38が規定されている。
【0031】
内周側空隙領域34bは、第4内側面44aと、第5内側面44bと、第6内側面44cと、を有している。第4内側面44aは、装填領域34aの内周側内側面35aの他端(d軸AX1側の端、ここでは、係止凸部34d)から回転子鉄心24の中心軸線C(回転子鉄心24の内周縁24c)に向かってd軸AX1とほぼ平行に延出している。第5内側面44bは、外周側内側面35bから連続している。第5内側面44bは、外周縁24b側に突にしていない。第6内側面44cは、第4内側面44aの延出端と第5内側面44bの延出端とに跨り、d軸AX1とほぼ平行に延在している。なお、第6内側面44cの両端部は、円弧面を介して第4内側面44a及び第5内側面44bに繋がっている。2つの埋め込み孔34の内周側空隙領域34bは、第6内側面44c同士がd軸AX1及びブリッジ部36を挟んで互いに対向して配置されている。
【0032】
永久磁石26は、埋め込み孔34の装填領域34aに装填され、第1磁極面26aが内周側内側面35aに当接し、第2磁極面26bが外周側内側面35bに当接している。永久磁石26は、一対の角部が係止凸部34dにそれぞれ当接している。これにより、永久磁石26は、装填領域34a内に位置決めされている。
【0033】
各d軸AX1の両側に位置する2つの永久磁石26、すなわち、1磁極を構成する2つの永久磁石26は、磁化方向が同一となるように配置されている。また、各q軸AX2の両側に位置する2つの永久磁石26は、磁化方向が逆向きとなるように配置されている。複数の永久磁石26を上記のように配置することにより、回転子鉄心24の外周部において各d軸AX1上の領域は1つの磁極を中心に形成し、各q軸AX2上の領域は磁極間部を中心に形成している。本比較例では、回転電機1は、隣接する1磁極毎に永久磁石26のN極とS極の表裏を交互に配置した、8極(4極対)、48スロットで、単層分布巻で巻線した永久磁石埋め込み型の回転電機を構成している。
【0034】
図4は、
図3に示した回転子14の一部をさらに拡大して示す断面図であり、上記コイル18が発生する磁束線を併せて示す図である。
図4に示すように、比較例において、永久磁石26のガイド(係止凸部34d)を通り、永久磁石26の外周側端部及び内周側端部に反磁界がかかり易いことが分かる。ここで、上記反磁界とは、永久磁石26の磁界方向に対してコイル18が逆向きに発生する磁界である。永久磁石26の外周側端部及び内周側端部において、見掛けの厚みが実際の厚みより薄くみえると、磁化が壊れ易くなるものである。そのため、永久磁石26の外周側端部及び内周側端部において、減磁(磁力低下)し易くなる。例えば、高速回転時の逆起電圧抑制を目的として反磁界を与える際、反磁界が係止凸部34dに集中し、係止凸部34d付近で不可逆減磁が発生し易くなる。
【0035】
そのため、永久磁石26の外周側端部及び内周側端部において、見掛けの厚みが実際の厚みと同一である方が望ましい。言い換えると、永久磁石26の外周側端部及び内周側端部に反磁界を入り難くした方が望ましい。さらに言い換えると、永久磁石26の外周側端部及び内周側端部に、コイル18が発生する磁界を通り難くした方が望ましい。これにより、永久磁石26の外周側端部及び内周側端部における減磁を抑制することができるものである。永久磁石26の減磁を抑制することで、エネルギ効率の高い回転電機1を得ることができる。又は、高出力化を図ることのできる回転電機1を得ることができる。
【0036】
特に、永久磁石26の外周側端部における減磁を抑制できる方が望ましい。外周側の係止凸部34dに永久磁石26の遠心力がかかるため、外周側の係止凸部34dのサイズが内周側の係止凸部34dのサイズより大きくなる傾向にあるためである。そこで、実施例1乃至実施例4では、永久磁石26の外周側端部における減磁を抑制する技術について開示する。実施例4では、さらに永久磁石26の内周側端部における減磁を抑制する技術について開示する。
【0037】
(実施例1)
次に、実施例1の回転子14について説明する。
図5は、回転電機1の実施例1の回転子14の一部を拡大して示す断面図である。
図5に示すように、埋め込み孔34は、装填領域34aと、内周側空隙領域34bと、外周側空隙領域34cと、を有している。埋め込み孔34のうち、装填領域34aは、上記比較例(
図3)と同様に構成されている。内周側空隙領域34bは、外周縁24b側に突にしていない。
【0038】
外周側空隙領域34cは、永久磁石26の磁化方向と直交する方向において、装填領域34aから回転子鉄心24の外周側に延出している。外周側空隙領域34cにはスペーサ40が装設されている。各々の外周側空隙領域34cにスペーサ40が装設されているため、回転子14は、複数のスペーサ40を備えている。
【0039】
外周側空隙領域34cは、第1内側面46aと、第2内側面46bと、第3内側面46cと、を有している。第1内側面46aは、装填領域34aのうち第1磁極面26aと対向した内周側内側面35aから連続している。第2内側面46bは、装填領域34aのうち第2磁極面26bと対向した外周側内側面35bから連続している。第3内側面46cは、第1内側面46aと第2内側面46bとの間に位置し、外周縁24bに沿って延在している。第3内側面46cは、円弧面46d,46eを介して第1内側面46a及び第2内側面46bに繋がっている。円弧面46dは、第1内側面46aと第3内側面46cとの間に位置している。円弧面46eは、第2内側面46bと第3内側面46cとの間に位置している。
【0040】
永久磁石26は、外周側端面26cと、外周側端面26cと反対側の内周側端面26dと、をさらに有している。外周側端面26cは、外周側空隙領域34cに面し、回転子鉄心24に接触していない。そのため、永久磁石26の外周側端部における減磁を抑制することができる。内周側端面26dは、内周側空隙領域34bに面し、係止凸部34dに接触している。
【0041】
スペーサ40は、非磁性の材料で形成されている。本実施例1において、スペーサ40は、アルミニウム、非磁性鋼、ステンレス鋼などの非磁性の金属を利用し、押出成形により形成されている。永久磁石26の遠心力がスペーサ40に加わっても、スペーサ40に座屈が生じないよう、スペーサ40の材料が選定されている方が望ましい。また、スペーサ40が十分な剛性を得ることができるのであれば、スペーサ40は、樹脂など金属以外の材料で形成されていてもよい。
【0042】
スペーサ40は、接触部41と、接触部41と一体に形成された突起部42と、を有している。接触部41は、永久磁石26の外周側端面26cに接触した接触面41aを有している。接触面41aは、外周側端面26cと平行である。突起部42は、接触面41aの鉛直方向にほぼ平行に、かつ、直線状に延在している。本実施例1において、突起部42は、I字の断面形状を有している。スペーサ40は、接触面41aから最も距離が離れた部分で、外周側空隙領域34cにおける回転子鉄心24の内面に接触する部分を有している。
【0043】
突起部42は、回転子鉄心24のうち外周縁24bと外周側空隙領域34cとの間のブリッジ部38の端の円弧面46dのみに当接している。本実施例1において、突起部42の先端の円弧面42aは、円弧面46dに沿って延在し、円弧面46dのみに当接している。直線状に延在している。円弧面42aは、概ね、円弧面46dに線接触している。スペーサ40は、係止凸部34dなどとともに永久磁石26を装填領域34a内に位置決めすることができる。
【0044】
ここで、第1磁極面26aから延長する仮想の面を第1面S1とし、第2磁極面26bから延長する仮想の面を第2面S2とする。すると、円弧面46dは、第1面S1と、第2面S2との間に位置している。これにより、スペーサ40に永久磁石26の遠心力が加わっても、スペーサ40は、永久磁石26を装填領域34a内に良好に位置決めすることができる。
なお、永久磁石26を磁化方向に二等分する仮想の平面を平面S3とする。本実施例1において、円弧面46dは、平面S3と第1面S1との間に位置している。
【0045】
第1内側面46aのうち少なくとも内周側内側面35aから連続した一部、及び第2内側面46bのうち少なくとも外周側内側面35bから連続した一部は、それぞれ、第1面S1と第2面S2との間に位置していない。これにより、永久磁石26の外周側端部における減磁を一層、抑制することができる。
なお、本実施例1において、第1内側面46aのうち内周側内側面35aから連続した一部、及び第2内側面46bの全部は、それぞれ、第1面S1と第2面S2との間に位置していない。
【0046】
接触部41は、さらに、第1内側面46a及び第2内側面46bに接触していた方が望ましい。本実施例1において、接触部41は、第1内側面46a及び第2内側面46bに接触している。永久磁石26の磁化方向におけるスペーサ40の位置ずれを抑制することができ、ひいては、スペーサ40は、永久磁石26を一層、良好に位置決めすることができる。
【0047】
外周側空隙領域34cにおいて、スペーサ40と円弧面46eとの間に空隙を残している。これにより、ブリッジ部38の破損を抑制することができる。
外周側空隙領域34cにおいて、スペーサ40と第1内側面46aとの間に空隙を残している。これにより、スペーサ40が永久磁石26を不所望に押圧し難くなるため、第2磁極面26bが外周側内側面35bを過度に押圧し、永久磁石26の位置がずれる事態を回避することができる。なお、本実施例1と異なり、外周側空隙領域34cにおいて、スペーサ40と第1内側面46aとの間に空隙が残っていなくともよい。
【0048】
(実施例2)
次に、実施例2の回転子14について説明する。
図6は、回転電機1の実施例2の回転子14の一部を拡大して示す断面図である。本実施例2は、スペーサ40の形状に関して上記実施例1と相違している。
図6に示すように、スペーサ40は、非磁性の材料で形成されている。本実施例2において、スペーサ40は、アルミニウム、非磁性鋼、ステンレス鋼などの非磁性の金属を利用し、板材をプレス加工することにより形成されている。
【0049】
接触部41は、第1接触部51及び第2接触部52を有している。第1接触部51及び第2接触部52は、物理的に独立し、永久磁石26の磁化方向に間隔を空けて位置している。第1接触部51は永久磁石26の外周側端面26cに接触した接触面51aを有し、第2接触部52は外周側端面26cに接触した接触面52aを有している。
【0050】
突起部42は、第1接触部51及び第2接触部52と一体に形成されている。突起部42は、接触面51a,52aの鉛直方向にほぼ平行に、かつ、直線状に延在している。本実施例2において、突起部42は、U字の断面形状を有している。突起部42は、円弧面46dのみに当接している。本実施例2において、突起部42の先端の円弧面は、円弧面46dに沿って延在し、円弧面46dのみに当接している。
【0051】
円弧面46dは、第1面S1と、第2面S2との間に位置している。本実施例2において、円弧面46dは、平面S3と第1面S1との間に位置している。
第1接触部51は第1内側面46aに接触し、第2接触部52は第2内側面46bに接触していた方が望ましい。本実施例2において、第1接触部51は第1内側面46aに接触し、第2接触部52は第2内側面46bに接触している。
また、外周側空隙領域34cにおいて、スペーサ40と円弧面46eとの間に空隙を残し、スペーサ40と第1内側面46aとの間に空隙を残している。
【0052】
(実施例3)
次に、実施例3の回転子14について説明する。
図7は、回転電機1の実施例3の回転子14の一部を拡大して示す断面図である。本実施例3は、スペーサ40の形状に関して上記実施例2と相違している。
図7に示すように、突起部42はY字の断面形状を有している。また、スペーサ40は、実施例2のスペーサ40と比較し、肉厚に形成されている。
【0053】
(実施例4)
次に、実施例4の回転子14について説明する。
図8は、回転電機1の実施例4の回転子14の一部を拡大して示す断面図である。本実施例4は、回転子14の構成に関して、上記比較例、実施例1、実施例2、及び実施例3と相違している。
【0054】
図8に示すように、係止凸部34d無しに内周側空隙領域34bが形成されている。内周側空隙領域34bは、永久磁石26の磁化方向と直交する方向において、装填領域34aから回転子鉄心24の内周側に延出している。各々の内周側空隙領域34bに弾性体60が装設されているため、回転子14は、複数の弾性体60を備えている。
【0055】
内周側空隙領域34bは、第4内側面44aと、第5内側面44bと、第6内側面44cと、を有している。第4内側面44aは、内周側内側面35aから連続している。第5内側面44bは、外周側内側面35bから連続している。第6内側面44cは、第4内側面44aと第5内側面44bとの間に位置し、d軸AX1とほぼ平行に延在している。第6内側面44cは、円弧面44d,44eを介して第4内側面44a及び第5内側面44bに繋がっている。円弧面44dは、第4内側面44aと第6内側面44cとの間に位置している。円弧面44eは、第5内側面44bと第6内側面44cとの間に位置している。
永久磁石26の内周側端面26dは、内周側空隙領域34bに面し、回転子鉄心24に接触していない。
【0056】
弾性体60は、非磁性の材料で形成されている。本実施例4において、弾性体60は、アルミニウム、非磁性鋼、ステンレス鋼などの非磁性の金属を利用し、板材をプレス加工することにより形成されている。弾性体60は、内周側空隙領域34bの内面に接触し、永久磁石26の内周側端面26dを押圧している。弾性体60は、スペーサ40などとともに永久磁石26を装填領域34a内に位置決めすることができる。また、弾性体60は、弾性変形するため、永久磁石26及びスペーサ40に高い寸法精度を求めること無しに、永久磁石26を位置決めすることができる。
【0057】
第4内側面44aのうち少なくとも内周側内側面35aから連続した一部、及び第5内側面44bのうち少なくとも外周側内側面35bから連続した一部は、それぞれ、第1面S1と第2面S2との間に位置していない。これにより、永久磁石26の内周側端部における減磁を一層、抑制することができる。
なお、本実施例4において、第4内側面44aの全部、及び第5内側面44bの全部は、それぞれ、第1面S1と第2面S2との間に位置していない。
【0058】
上記のように構成された実施形態によれば、エネルギ効率の高い回転電機1を得ることができる。又は、高出力化を図ることのできる回転電機1を得ることができる。永久磁石26に重希土類元素を添加し保磁力を向上させたり、永久磁石26の厚みを大きくしたり、すること無しに、回転電機1のエネルギ効率を高めたり、高出力化を図ることができるため、永久磁石26の製造コストの高騰を抑制することができる。
【0059】
本発明の実施形態を説明したが、上記の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上記の新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記の実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0060】
例えば、上記実施例1、実施例2、及び実施例3の各々に実施例4を組合せることも可能である。
回転子の磁極数、寸法、形状等は、上述した実施形態に限定されることなく、設計に応じて種々変更可能である。内周側空隙領域、外周側空隙領域、および空隙孔の断面形状は、実施形態の形状に限定されることなく、種々の形状を選択可能である。各磁極において、永久磁石の数は、一対に限らず、3個以上としてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1…回転電機、12…固定子、16…固定子鉄心、18…コイル、14…回転子、
24…回転子鉄心、24b…外周縁、34…埋め込み孔、34a…装填領域、
35a…内周側内側面、35b…外周側内側面、34d…係止凸部、
34c…外周側空隙領域、46a…第1内側面、46b…第2内側面、
46c…第3内側面、46d,46e…円弧面、34b…内周側空隙領域、
44a…第4内側面、44b…第5内側面、44c…第6内側面、
44d,44e…円弧面、38…ブリッジ部、26…永久磁石、26a…第1磁極面、
26b…第2磁極面、26c…外周側端面、26d…内周側端面、40…スペーサ、
41…接触部、41a…接触面、42…突起部、42a…円弧面、51…第1接触部、
52…第2接触部、51a,52a…接触面、60…弾性体、C…中心軸線、
S1…第1面、S2…第2面、S3…平面。