(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】医療用マニピュレータ
(51)【国際特許分類】
A61B 34/30 20160101AFI20230213BHJP
B25J 17/00 20060101ALI20230213BHJP
【FI】
A61B34/30
B25J17/00 E
(21)【出願番号】P 2019054937
(22)【出願日】2019-03-22
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514063179
【氏名又は名称】株式会社メディカロイド
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福野 智大
【審査官】羽月 竜治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/099200(WO,A1)
【文献】特開平09-057680(JP,A)
【文献】特開平10-175188(JP,A)
【文献】特開平07-194610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 34/30
A61B 1/00
B25J 17/00
B25J 7/00- 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が先端部に医療器具を保持するように構成された複数の多自由度マニピュレータアームと、
前記複数の多自由度マニピュレータアームを支持するアームベースと、
車輪により移動可能な台車の上部に設けられたベースに対して垂直軸回りに回転可能に支持されており、前記複数の多自由度マニピュレータアームを支持した前記アームベースを前記ベースに対して移動させ、中空部を有するポジショナと、
少なくとも一部が前記ポジショナの前記中空部に引き回されたケーブルと、を備え、
前記ポジショナは、
少なくとも第1~第3リンクを含む複数のリンクと、
前記ベースに対して前記第1リンクを前記垂直軸回りに回転させる第1関節、前記第1リンクに対して前記第2リンクを第1水平軸回りに回転させる第2関節および前記第2リンクに対して前記第3リンクを第2水平軸回りに回転させる第3関節を含む複数の関節と、
前記第1関節に対応して設けられた第1モータ、前記第2関節に対応して設けられた第2モータおよび前記第3関節に対応して設けられた第3モータを含む複数のモータと、
前記第1モータの動作に連動する第1減速機、前記第2モータの動作に連動する第2減速機および前記第3モータの動作に連動する第3減速機を含む複数の減速機と、を有し、
前記ケーブルのうち前記ポジショナの前記第2リンクの前記中空部に引き回された部分よりも基端側の前記第2関節に対応する部分は、前記第2減速機の軸心方向である水平方向と異なる方向に沿って前記第2減速機を迂回して前記中空部から前記ポジショナの外方に出されて引き回されており、前記ケーブルのうち前記第1リンク、前記第2リンク、前記第3関節および前記第3リンクに対応する部分は、前記中空部内を引き回されている、医療用マニピュレータ。
【請求項2】
前記ケーブルの前記ポジショナの外方に出された前記部分を覆うカバー部材をさらに備えている、請求項1に記載の医療用マニピュレータ。
【請求項3】
前記ケーブルは、前記ポジショナに電力を供給する給電ケーブルである、請求項1又は2に記載の医療用マニピュレータ。
【請求項4】
前記複数の多自由度マニピュレータアームの各々に対応し、対応する前記多自由度マニピュレータアームに電力を供給するアーム用給電ケーブルをさらに備え、
前記アーム用給電ケーブルは、前記
ポジショナの外側で引き回されている、請求項1乃至3の何れか1項に記載の医療用マニピュレータ。
【請求項5】
前記アームベースに電力を供給するアームベース用給電ケーブルをさらに備え、
前記アームベース用給電ケーブルは、前記
ポジショナの外側で引き回されている、請求項1乃至4の何れか1項に記載の医療用マニピュレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用マニピュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のマニピュレータアームを備え、所定の作業を行うマニピュレータが知られている(例えば、特許文献1,2,3参照)。これらのマニピュレータは産業用ロボットとして用いられることがある。また、複数のマニピュレータアームを備えたマニピュレータは、施術者の操作に基づいて複数のマニピュレータアームを動かすことで外科手術を行うことのできる医療用ロボットとしても用いられることも知られている。
【0003】
これらのマニピュレータにおいては、上記複数のマニピュレータアーム又はハンドリング装置等に対して圧縮エアや電力を供給するためのケーブルが引き回されている。詳細には、特許文献1のマニピュレータでは、上アームの先端部に胴体が取り付けられており、この胴体は上アームの長手方向の軸回りに回転するように構成されている。この構成において、ケーブルは上記軸を有するモータ(減速機)を迂回して配置されている。また、特許文献2のマニピュレータにおいては、ケーブルがモータを迂回するように当該モータの側方を迂回して配置されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1,2のように、ケーブルをアームの外で引き回すと、アームの回転に伴ってケーブルが発塵の原因となることがあるため、マニピュレータをクリーンルーム内で稼動させる場合等には、クリーン度を損なう恐れがある。
【0005】
そこで、特許文献3のように、中空状に構成されたベース内において、ケーブルが減速機の中空軸内に挿通されずに当該減速機を迂回させて配置されることが開示されている。これにより、クリーンルーム内でケーブルが発塵の原因になることが防止される、とのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4088332号公報
【文献】特開2016-140917号公報
【文献】特開平8-57792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献3のマニピュレータにおいては、ケーブルが減速機を迂回するように当該減速機の側方に引き回されてはいるものの、当該ケーブルを引き回すためのスペースがベース内に必要となる。そのため、ベースの径が増大するので、当該ベースの周辺に機器を配置するのが困難となっていた。また、同文献のマニピュレータにおいては、ベースの上部に回動可能に設けられたアームが回動する際には、ケーブルに捩れが生じて負担がかかる。
【0008】
そこで、本発明は、ポジショナの回動に伴うケーブルへの負担を抑制しつつ、ポジショナを支持するベースの径が増大することを抑制することが可能な医療用マニピュレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の医療用マニピュレータは、各々が先端部に医療器具を保持するように構成された複数の多自由度マニピュレータアームと、前記複数の多自由度マニピュレータアームを支持するアームベースと、車輪により移動可能な台車の上部に設けられたベースに対して垂直軸回りに回転可能に支持されており、前記複数の多自由度マニピュレータアームを支持した前記アームベースを前記ベースに対して移動させ、中空部を有するポジショナと、少なくとも一部が前記ポジショナの前記中空部に引き回されたケーブルと、を備え、前記ポジショナは、少なくとも第1~第3リンクを含む複数のリンクと、前記ベースに対して前記第1リンクを前記垂直軸回りに回転させる第1関節、前記第1リンクに対して前記第2リンクを第1水平軸回りに回転させる第2関節および前記第2リンクに対して前記第3リンクを第2水平軸回りに回転させる第3関節を含む複数の関節と、前記第1関節に対応して設けられた第1モータ、前記第2関節に対応して設けられた第2モータおよび前記第3関節に対応して設けられた第3モータを含む複数のモータと、前記第1モータの動作に連動する第1減速機、前記第2モータの動作に連動する第2減速機および前記第3モータの動作に連動する第3減速機を含む複数の減速機と、を有し、前記ケーブルのうち前記ポジショナの前記第2リンクの前記中空部に引き回された部分よりも基端側の前記第2関節に対応する部分は、前記第2減速機の軸心方向である水平方向と異なる方向に沿って前記第2減速機を迂回して前記中空部から前記ポジショナの外方に出されて引き回されており、前記ケーブルのうち前記第1リンク、前記第2リンク、前記第3関節および前記第3リンクに対応する部分は、前記中空部内を引き回されているものである。
【0010】
本発明に従えば、ケーブルのうちポジショナの第2リンクの中空部に引き回された部分よりも基端側の上記第2関節に対応する部分が第2減速機の軸心方向である水平方向と異なる方向に沿って当該第2減速機を迂回して上記中空部からポジショナの外方に出されて引き回されて配置される。また、ケーブルのうち第1リンク、第2リンク、第3関節および第3リンクに対応する部分は中空部内を引き回されている。つまり、本発明では、ケーブルの上記第2関節に対応する上記部分が第2減速機の中空軸内に挿通されたり、ベース内においてケーブルが減速機の側方に引き回されるような構成を採用していない。これにより、ベースの径が増大することを回避することができる。また、ケーブルを第2減速機の中空軸内に挿通したり、第2減速機の軸心に沿って当該第2減速機の側方に引き回していないので、第2減速機の回転(即ちアームの回動)に伴う捩れの負担がケーブルにかかることが抑制される。
【0011】
上記発明において、医療用マニピュレータは、前記ケーブルの前記ポジショナの外方に出された前記部分を覆うカバー部材をさらに備えていることが好ましい。
【0012】
上記構成に従えば、ケーブルによる発塵をカバー部材により防ぐことができる。
【0013】
上記発明において、前記ケーブルは、前記ポジショナに電力を供給する給電ケーブルであってもよい。
【0014】
上記構成に従えば、給電ケーブルの捩れ負担が抑制されるため、捩れに起因したケーブルの破損による電力停止を回避することができる。
【0015】
上記発明において、医療用マニピュレータは、前記複数の多自由度マニピュレータアームの各々に対応し、対応する前記多自由度マニピュレータアームに電力を供給するアーム用給電ケーブルをさらに備え、前記アーム用給電ケーブルは、前記ポジショナの外側で引き回されていてもよい。
【0016】
上記構成に従えば、アーム用給電ケーブルが医療用マニピュレータの外側で引き回されているため、多自由度マニピュレータアームを付け替える際に、当該アーム用給電ケーブルの付け替え作業が行い易くなる。
【0017】
上記発明において、医療用マニピュレータは、前記アームベースに電力を供給するアームベース用給電ケーブルをさらに備え、前記アームベース用給電ケーブルは、前記ポジショナの外側で引き回されていてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ポジショナの回動に伴うケーブルへの負担を抑制しつつ、ポジショナを支持するベースの径が増大することを抑制することが可能な医療用マニピュレータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る医療用マニピュレータの使用風景を示す図である。
【
図2】
図1の医療用マニピュレータのマニピュレータアームの構成を示す図である。
【
図3】
図1の医療用マニピュレータにおける制御系統の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図1のポジショナの一部を示す側面図である。
【
図6】
図5のポジショナの一部分よりも先端側の部分を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る医療用マニピュレータについて図面を参照して説明する。以下に説明する医療用マニピュレータは、本発明の一実施形態に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除および変更が可能である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態の医療用マニピュレータ1は、例えば、ロボット支援手術やロボット遠隔手術などのように、医師などの施術者203が、手術台202上の患者201に内視鏡外科手術を施す際に使用されるシステムである外科手術システム100において設けられるものである。
【0023】
外科手術システム100は、患者側システムである医療用マニピュレータ1と、この医療用マニピュレータ1を操るための指示装置2とを備えている。指示装置2は医療用マニピュレータ1から離れて配置され、医療用マニピュレータ1は指示装置2によって遠隔操作される。施術者203は医療用マニピュレータ1に行わせる動作を指示装置2に入力し、指示装置2はその動作指令を医療用マニピュレータ1に送信する。医療用マニピュレータ1は、指示装置2から送信された動作指令を受け取り、この動作指令に基づいて医療用マニピュレータ1が具備する内視鏡アセンブリやインストゥルメントなどの長軸状の医療器具4を動作させる。
【0024】
指示装置2は、外科手術システム100と施術者203とのインターフェースを構成し、医療用マニピュレータ1を操作するための装置である。指示装置2は、手術室内に又は手術室外に配置されている。指示装置2は、施術者203が動作指令を入力するための操作用マニピュレータアーム51、操作ペダル52、タッチパネル53、内視鏡アセンブリで撮影された画像を表示するモニタ54、医師などの操作者の顔の高さ位置にモニタ54を支持する支持アーム55、およびタッチパネル53が配されたバー56等を含む。施術者203は、モニタ54で患部を視認しながら、操作用マニピュレータアーム51および操作ペダル52を操作して指示装置2に動作指令を入力する。指示装置2に入力された動作指令は、有線又は無線により医療用マニピュレータ1のコントローラ600に伝達される。医療用マニピュレータ1はコントローラ600により動作制御される。なお、コントローラ600は例えばマイクロコントローラ等のコンピュータにより構成されている。後述の医療用台車70のケーシング71内には、コントローラ600および動作制御に用いられる制御プログラムおよび各種データが記憶される記憶部602が格納されている。また、医療用台車70には、主に施術前における後述のポジショナ7、アームベース5および複数の多自由度マニピュレータアーム(以下、単にアームと記載)3の位置および姿勢を設定入力するための操作部604が設けられている。
【0025】
医療用台車70のケーシング71の後部には、操作軸46が立設された状態で設けられている。操作軸46には、略水平方向に延在するレバー47が設けられている。レバー47には、図略の前輪を駆動するため等に操作されるレバー装置48が設けられている。医療従事者は、レバー47を把持して医療用台車70を所定位置まで移動させることができる。また、医療従事者はレバー47により後輪43の向きを変えることができ、それにより医療用台車70の進行方向を変えることができる。
【0026】
医療用マニピュレータ1は、外科手術システム100と患者とのインターフェースを構成する。医療用マニピュレータ1は、滅菌された滅菌野である手術室内に配置されている。
【0027】
図1において、医療用マニピュレータ1は、ポジショナ7と、ポジショナ7の先端部に取り付けられた長尺状のアームベース5と、アームベース5にその基端部が着脱可能に取り付けられた複数(本実施形態では4本)のアーム3とを備えている。医療用マニピュレータ1は複数のアーム3が折り畳まれた収納姿勢をとるように構成されている。
【0028】
ポジショナ7は、垂直多関節形ロボットとして構成されており、手術室の所定位置に配置された医療用台車70のケーシング71上に一部露出されたベース90に設けられており、アームベース5の位置を3次元的に移動させることができる。アーム3およびアームベース5は、図略の滅菌ドレープで覆われ、手術室内の滅菌野から遮蔽されている。
【0029】
ポジショナ7は、ケーシング71内に設けられた図略の基台(シャーシ)に取り付けられた上述のベース90と、当該ベース90から先端部に向けて順次連結された複数のポジショナリンク部を備えている。ポジショナ7は、一のポジショナリンク部が他の一のポジショナリンク部に対して回動するように順に連結されることにより複数の関節部を構成する。複数のポジショナリンク部は、第1リンク91~第6リンク96を含む。複数の関節部は、第1関節J71~第7関節J77を含む。なお、本実施の形態における複数の関節部は、回転軸を備えた回転関節により構成されているが、少なくとも一部の関節部が直動関節により構成されてもよい。
【0030】
詳細には、ベース90の先端部に、捩り(ロール)関節である第1関節J71を介して第1リンク91の基端部が連結されている。第1リンク91の先端部に、曲げ(ピッチ)関節である第2関節J72を介して第2リンク92の基端部が連結されている。第2リンク92の先端部に、曲げ関節である第3関節J73を介して第3リンク93の基端部が連結されている。第3リンク93の先端部に、捩り関節である第4関節J74を介して第4リンク94の基端部が連結されている。第4リンク94の先端部に、曲げ関節である第5関節J75を介して第5リンク95の基端部が連結されている。第5リンク95の先端部に、捩り関節である第6関節J76を介して第6リンク96の基端部が連結されている。第6リンク96の先端部に、捩り関節である第7関節J77を介してアームベース5のポジショナ取り付け部5aが連結されている。これにより、ポジショナ7は、複数の自由度(7自由度)を有する多軸関節アームとして構成される。
【0031】
複数のアーム3のうちアーム3Aの先端部には、医療器具4として、例えば取り替え用のインストゥルメント(例えば鉗子など)が保持される。アーム3Bの先端部には、医療器具4として、例えば鉗子などのインストゥルメントが保持される。また、アーム3Cの先端部には、医療器具4として、例えば内視鏡アセンブリが保持される。アーム3Dの先端部には、医療器具4として、例えば取り替え用の内視鏡アセンブリが保持される。
【0032】
医療用マニピュレータ1において、アームベース5は、複数のアーム3の拠点となるハブとしての機能を有している。本実施形態では、ポジショナ7およびアームベース5によって、複数のアーム3を移動可能に支持するマニピュレータアーム支持体Sが構成されている。
【0033】
医療用マニピュレータ1では、ポジショナ7から医療器具4まで、要素が一連に繋がっている。以下、本明細書では、上記一連の要素において、ポジショナ7へ向かう側の端部を基端部といい、その反対側の端部を先端部という。
【0034】
図2に示すように、医療器具4がインストゥルメントである場合、当該医療器具4はその基端部に設けられた駆動ユニット89を有している。このインストゥルメントの先端部に設けられたエンドエフェクタは、動作する関節を有する器具(例えば、鉗子、ハサミ、グラスパー、ニードルホルダ、マイクロジセクター、ステープルアプライヤー、タッカー、吸引洗浄ツール、スネアワイヤ、および、クリップアプライヤー等)、ならびに、関節を有しない器具(例えば、切断刃、焼灼プローブ、洗浄器、カテーテル、および、吸引オリフィス等)を含む群より選択される。
【0035】
外科手術システム100においては、医療従事者が操作部604に含まれるタッチパネルを操作することにより、アームベース5と手術台202又は患者201とが所定の位置関係となるように、ポジショナ7を動作させてアームベース5の位置決めを行う。次に、コントローラ600が、患者201の体表に留置されたスリーブ(カニューレスリーブ)と医療器具4とが所定の初期位置関係となるように、各アーム3を動作させて医療器具4の位置決めを行う。なお、ポジショナ7の位置決め動作と各アーム3の位置決め動作とは同時に行われてもよい。そして、コントローラ600は、原則としてポジショナ7を静止させた状態で、指示装置2からの動作指令に応じて、各アーム3により医療器具4を動作させて適宜変位および姿勢変化させつつ施術を行う。
【0036】
続いて、アーム3の詳細な構成について説明する。
図2に示すように、アーム3は、アーム本体30と、アーム本体30の先端部に連結された並進ユニット35とを備え、基端部に対し先端部を3次元空間内で移動させることができるように構成されている。なお、本実施の形態では、医療用マニピュレータ1が具備する複数のアーム3はいずれも同様または類似の構成を有するが、複数のアーム3のうち少なくとも1本が他のアームと異なる構成を有してもよい。アーム3の先端部には、医療器具4を保持可能なホルダ36が設けられている。医療器具4は、基端部に設けられた駆動ユニット65と、先端部に設けられたエンドエフェクタ(処置具)66と、駆動ユニット65とエンドエフェクタ66との間を繋ぐ細長いシャフト67とを有している。駆動ユニット65、シャフト67、およびエンドエフェクタ66は長軸方向Dtに沿って配置される。
【0037】
アーム3はアームベース5に対し着脱可能に構成されている。アーム3は、洗浄処理および滅菌処理のための耐水性、耐熱性、および耐薬品性を備えている。アーム3の滅菌処理には様々な方法があるが、例えば、高圧蒸気滅菌法、EOG滅菌法、消毒薬による化学滅菌法などが選択的に用いられる。
【0038】
アーム本体30は、アームベース5に着脱可能に取り付けられるベース80と、ベース80から先端部に向けて順次連結された第1リンク81~第6リンク86とを含む。より詳細には、ベース80の先端部に、捩り関節J31を介して第1リンク81の基端部が連結されている。第1リンク81の先端部に、曲げ関節J32を介して第2リンク82の基端部が連結されている。第2リンク82の先端部に、捩り関節J33を介して第3リンク83の基端部が連結されている。第3リンク83の先端部に、曲げ関節J34を介して第4リンク84の基端部が連結されている。第4リンク84の先端部に、捩り関節J35を介して第5リンク85の基端部が連結されている。第5リンク85の先端部に、曲げ関節J36を介して第6リンク86の基端部が連結されている。第6リンク86の先端部に、曲げ関節J37を介して並進ユニット35の基端部が連結されている。これにより、アーム3は、複数の自由度(7自由度)を有する多軸関節(7軸関節)アームとして構成される。したがって、アーム3は、当該アーム3の先端部の位置を変化させることなく姿勢を変えることができるようになっている。
【0039】
アーム本体30の外殻は、主にステンレスなどの耐熱性および耐薬品性を有する部材で形成されている。また、リンク同士の連結部には、耐水性を備えるための図略のシールが設けられている。このシールは、高圧蒸気滅菌法に対応する耐熱性や、消毒薬に対する耐薬品性を備えている。なお、リンク同士の連結部において、連結される一方のリンクの端部の内側に他方のリンクの端部が挿入されており、これらのリンクの端部同士の間を埋めるようにシールが配置されることによって、シールが外観から隠蔽されている。これにより、シールとリンクとの間から水、薬液、蒸気の浸入が抑制されている。
【0040】
並進ユニット35は、その先端部に取り付けられたホルダ36を長軸方向Dtに並進移動させることにより、このホルダ36に取り付けられた医療器具4をシャフト67の延在方向に並進移動させる。
【0041】
並進ユニット35は、アーム本体30の第6リンク86の先端部に、曲げ関節J37を介して連結される基端側リンク61と、先端側リンク62と、基端側リンク61と先端側リンク62との間で連動して動く連結リンク63と、連動機構(図略)とを有する。曲げ関節J37は長軸方向Dtに直交する方向に延びている。また、並進ユニット35の先端部、すなわち先端側リンク62の先端部には回動軸64が設けられている。並進ユニット35の駆動源は基端側リンク61に設けられている。連結リンク63は長軸方向Dtに沿って延びている。このような構成において、並進ユニット35は、連動機構により、基端側リンク61と連結リンク63との長軸方向Dtにおける相対位置が変化するとともに、連結リンク63と先端側リンク62との長軸方向Dtにおける相対位置が変化することにより、基端側リンク61に対して先端側リンク62に設けられたホルダ36に保持された医療器具4の長軸方向Dtに関する位置を変化させることができるようになっている。
【0042】
続いて、
図3に示すように、アーム3には、各関節J31~J37に対応して、駆動用のサーボモータM31~M37、サーボモータM31~M37の回転角を検出するエンコーダE31~E37、および、サーボモータM31~M37の出力を減速させてトルクを増大させる減速機(図略)が設けられる。なお、
図3では、関節J31~J37のうち、捩り関節J31と曲げ関節J37との制御系統が代表的に示され、その他の関節J33~J36の制御系統は省略されている。さらに、並進ユニット35には、並進動作のためのサーボモータM38と、回転軸64回りの回動動作のためのサーボモータM39と、サーボモータM38,M39の回転角を検出するエンコーダE38,E39と、サーボモータM38,M39の出力を減速させてトルクを増大させる減速機(図略)とが設けられる。
【0043】
また、
図3に示すように、ポジショナ7には、ポジショナ7の各関節J71~J77に対応して、駆動用のサーボモータM71~M77、サーボモータM71~M77の回転角を検出するエンコーダE71~E77、および、サーボモータM71~M77の出力を減速させてトルクを増大させる減速機(図略)が設けられる。なお、
図3においては、ポジショナ7の関節J71~J77のうち、関節J71,J77の制御系統が代表的に示され、その他の関節J72~J76の制御系統は省略されている。
【0044】
コントローラ600は、動作指令に基づいて複数のアーム3の移動を制御するアーム制御部601と、ポジショナ7の移動制御するポジショナ制御部603とを含む。アーム制御部601には、サーボ制御部C31~C37,C38,C39が電気的に接続されている。サーボ制御部C31~C37,C38,C39には、エンコーダE31~E37,E38,E39が電気的に接続されている。また、ポジショナ制御部603には、サーボ制御部C71~C77が電気的に接続されている。サーボ制御部C71~C77には、エンコーダE71~E77が電気的に接続されている。
【0045】
指示装置2に入力された動作指令に基づいて、アーム制御部601にアーム3の先端部の位置姿勢指令が入力される。アーム制御部601は、位置姿勢指令とエンコーダE31~E37,E38,E39で検出された回転角とに基づいて、位置指令値を生成して出力する。この位置指令値を取得したサーボ制御部C31~C37,C38,C39は、エンコーダE31~E37,E38,E39で検出された回転角および位置指令値に基づいて駆動指令値(トルク指令値)を生成して出力する。この駆動指令値を取得した増幅回路は、駆動指令値に対応した駆動電流をサーボモータM31~M37,M38,M39へ供給する。このようにして、アーム3の先端部が、位置姿勢指令と対応する位置および姿勢に到達するように、各サーボモータM31~M37,M38,M39がサーボ制御される。
【0046】
コントローラ600には、アーム制御部601にデータを読み出し可能な記憶部602が設けられている。記憶部602には、指示装置2を介して入力された手術情報が予め記憶されている。
【0047】
ポジショナ制御部603は、操作装置2から入力された準備位置の設定等に関する動作指令とエンコーダE71~E77で検出された回転角とに基づいて、位置指令値を生成して出力する。この位置指令値を取得したサーボ制御部C71~C77は、エンコーダE71~E77で検出された回転角および位置指令値に基づいて駆動指令値(トルク指令値)を生成して出力する。この駆動指令値を取得した増幅回路は、駆動指令値に対応した駆動電流をサーボモータM71~M77へ供給する。このようにして、ポジショナ7が、位置指令値と対応する位置・姿勢に到達するように、各サーボモータM71~M77がサーボ制御される。
【0048】
次に、ポジショナ7の構成について説明する。上述の通り、ポジショナ7は第1リンク91~第6リンク96を含んで構成されている。第1リンク91は、第1関節J71を介して、鉛直方向に延びる旋回軸A1回りに旋回可能に構成されている。第1リンク91は、当該第1リンク91に収容されている図略のモータを駆動源として図略の減速機を介して駆動されるように構成されている。
【0049】
第2リンク92は、第2関節J72を介して、水平方向に延びる回動軸(水平軸)A2回りに回動(揺動)可能に構成されている。第2リンク92は、例えばモータ一体型の減速機23を介して駆動されるように構成されている。さらに、第2リンク92の基端側部分と第1リンク90とにカバー部材24が架橋されて設けられている。このカバー部材24は、例えば長尺状の板部材を湾曲させて形成することができ、後述するケーブル(給電ケーブル)50の一部を覆うものである。詳細については後述する。
【0050】
第3リンク93は、第3関節J73を介して、水平方向に延びる回動軸A3回りに回動(揺動)可能に構成されている。第3リンク93は、当該第3リンク93内に収容されている図略のモータを駆動源として図略の減速機を介して駆動されるように構成されている。また、第2リンク92の先端側部分には、例えば円盤状のカバー部材28が設けられている。
【0051】
図5に示すように、ポジショナ7は中空状に形成されている。詳細には、ポジショナ7の第1リンク91は中空部91aを有している。また、ポジショナ7の第2リンク92は、当該第2リンク92の長手方向に延在する中空部92aを有している。
【0052】
このような構成において、ポジショナ7に電力を供給する給電ケーブルであるケーブル50の一部が中空部91aおよび中空部92aに引き回されている。ケーブル50は、後述のように、部分50a,50b,50c,50d,50eを含む。ケーブル50の引き回しを基端側から詳細に説明すると、ケーブル50は、中空部91aに引き回されて、第1リンク91の開口から一旦ポジショナ7の外方に出る。
図5において、ケーブル50のうちポジショナ7の外方に出ている部分を50bとしている。そして、ケーブル50は、ポジショナ7の外方から第2リンク92に設けられた開口92cを介して当該第2リンク92の中空部92aへと引き回される。
図5において、ケーブル50のうち第2リンク92の中空部92aに引き回された部分を50aとしている。上述したカバー部材24は、ポジショナ7の外方に存在するケーブル50の部分および開口92cを覆うように、第2リンク92の基端側部分と第1リンク91とに架橋されて設けられている。なお、アームベース5やアーム3に電力を供給する給電ケーブルについては、その一部又は全部を、医療用マニピュレータ1の外側で引き回してもよいし、ポジショナ7の中空部内で引き回してもよい。手術内容によってアーム3を付け替えるときがあり、その際に給電ケーブルが外側で引き回されていれば当該給電ケーブルの付け替え作業が行い易くなる。一方、給電ケーブルがポジショナ7の中空部内で引き回されていれば、当該給電ケーブルの挙動が規制されるため、医療従事者との不用意な干渉を防ぐことができる。
【0053】
第2リンク92の中空部92aに引き回されたケーブル50は、当該第2リンク92の側壁92fの上部に形成された開口92gに挿入された筒部92hの中空部92h1に引き回される。
図5において、ケーブル50のうち筒部92hの中空部92h1に引き回された部分を50cとしている。
【0054】
以上の構成において、ケーブル50のうち、ポジショナ7の第2リンク92の中空部92aに引き回された部分50aよりも基端側の部分50bは、減速機23の軸心方向と異なる方向に沿って(つまり、減速機23内を通らずに)、当該減速機23を迂回して配置されている。
【0055】
なお、
図5において、第2リンク92の上述の側壁92fに対向配置された側壁92bの下部には、開口92dが形成されている。この開口92dを覆うように板状のカバー部材27が設けられている。通常、カバー部材27は取り付けられた状態であるが、ケーブル50の引き回しの際に、当該ケーブル50の部分50aを、第2リンク92の中空部92aに設けられた図略の留め具に留める作業などを行う場合にカバー部材27が外されて開口92dが開放されるようになっている。また、第2リンク92の側壁92bの上部には、開口92dよりも開口面積の大きい開口92eが形成されている。この開口92eを覆うように板状のカバー部材28が設けられている。通常、カバー部材28は取り付けられた状態であるが、ケーブル50の引き回しの際に、当該ケーブル50の部分50aを、第2リンク92の中空部92aに設けられた図略の留め具に留める作業などを行う場合にカバー部材28が外されて開口92eが開放されるようになっている。
【0056】
続いて、上述のように筒部92hの中空部92h1に引き回されたケーブル50は、
図6に示すように、中空状の第3リンク93内に設けられた筒部93aの中空部93a1に引き回される。
図6において、ケーブル50のうち筒部93aの中空部93a1に引き回された部分を50dとしている。なお、第3リンク93の基端付近には第4関節J74用のモータ92iが設けられている。
【0057】
第3リンク93の中空部93dの先端側領域には2つのモータ93b,93cが設けられている。モータ93bは第5関節J75用のモータであり、モータ93cは第6関節J76用のモータである。筒部93aの中空部93a1に引き回されたケーブル50は、第3リンク93の中空部93dに引き回されている。
図6において、ケーブル50のうち中空部93dに引き回された部分を50eとしている。ケーブル50の先端部(上記の部分50eの先端部)はモータ93b,93cに連結されている。以上の通り、ケーブル50は、その一部が減速機23を迂回して引き回され、その残余部分がポジショナ7の各中空部に引き回されている。
【0058】
以上説明したように、本実施形態の医療用マニピュレータ1によれば、ケーブル50のうち、ポジショナ7の第2リンク92の中空部92aに引き回された部分50aよりも基端側の部分50bは、減速機23の軸心方向と異なる方向に沿って当該減速機23を迂回して配置される。つまり、本実施形態の医療用マニピュレータ1においては、ケーブル50が減速機の中空軸内に挿通されたり、上述した特許文献3のように減速機の軸心に沿って当該減速機の側方に引き回されるような構成を採用していない。これにより、減速機23が大型化することを回避することができる。このことによって、減速機23の周辺に種々の機器を設置するためのスペースを確保することができる。また、ケーブル50を減速機の中空軸内に挿通したり、減速機の軸心に沿って当該減速機の側方に引き回していないので、減速機の回転(即ちアームの回動)に伴う捩れの負担がケーブル50にかかることが抑制される。
【0059】
また、本実施形態では、ケーブル50の基端側の部分50bは、第2リンク92の中空部92aから当該ポジショナ7の外方に出されて引き回されている。これにより、ケーブル50に対する外方からのアクセスが容易となるので、当該ケーブル50の中空部92aにおける引き回し等の作業が容易となる。
【0060】
また、本実施形態では、ケーブル50の外方に出された部分50bがカバー部材24により覆われているので、ケーブル50による発塵をカバー部材24で防ぐことができる。
【0061】
さらに、本実施形態では、ケーブル50はポジショナ7に電力を供給する給電ケーブルである。このような給電ケーブルであるケーブル50への捩れ負担が上述の通り抑制されるため、捩れに起因したケーブル50の破損による電力停止を回避することができる。
【0062】
(他の実施形態)
上記実施形態の他にも、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で次のような種々の変形も可能である。
【0063】
上記実施形態では、ポジショナ7を水平軸である回動軸A2回りに回動させる減速機23を迂回するようにケーブル50を引き回す態様について説明したが、これに限らず、ポジショナ7の第1リンク91の減速機についても同様に適用することが可能である。すなわち、第1リンク91の減速機の軸心方向と異なる方向に沿って当該減速機を迂回してケーブル50を引き回すことも可能である。
【0064】
また、上記実施形態では、ケーブル50の部分50bを減速機23を迂回させて配置するために、当該部分50bをカバー部材24で覆ってはいるもののポジショナ7の外方に引き回す構成を採用したが、これに限定されるものではない。ケーブル50の部分50bをポジショナ7の外方に引き回すことなく当該ポジショナ7の中空部に引き回すように構成してもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、ケーブル50として給電ケーブルを採用したが、これに限定されるものではなく、例えばエアを供給するエアケーブル等の他のケーブルを採用してもよい。
【0066】
さらに、上記実施形態では、モータ一体型の減速機23を採用することとしたが、これに限定されるものではなく、減速機23とモータとを独立して設けてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 医療用マニピュレータ
2 指示装置
3 多自由度マニピュレータアーム
4 医療器具
7 ポジショナ
23 モータ一体型の減速機(モータ)
24 カバー部材
50 ケーブル
50a,50b,50c,50d,50e ケーブルの部分
91a,92a,92h1,93a1,93d ポジショナの中空部