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  • 特許-スラグの解析方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】スラグの解析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/02 20060101AFI20230213BHJP
   G01N 33/24 20060101ALI20230213BHJP
   C22B 15/00 20060101ALN20230213BHJP
【FI】
G01N15/02 B
G01N33/24 A
C22B15/00 102
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019061596
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2019174473
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2018065431
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500483219
【氏名又は名称】パンパシフィック・カッパー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐野 浩行
(72)【発明者】
【氏名】洪 在亨
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-084733(JP,A)
【文献】特公昭48-018690(JP,B1)
【文献】特開2016-190759(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102564953(CN,A)
【文献】特開平06-331621(JP,A)
【文献】特開2009-092795(JP,A)
【文献】東 勝,(1)錬暖炉の操業解析について,資源と素材,日本,1993年,109 No.4,pp.253-257
【文献】赤坂 啓,銅溶鉱炉スラグの浮選-とくに亜鉛の挙動について,日本鉱業会誌,日本,1968年,84巻961号,p. 553-558
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/00-15/14
G01N 1/00-1/44
G01N 33/24
C22B 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象とするスラグを樹脂埋めして分析試料を作製することと、
デジタルマイクロスコープの明度を調整し、観察視野内の懸垂マット相をハイライト表示させることと、
前記懸垂マット相をハイライト表示する前又は後に、前記デジタルマイクロスコープの明度を調整し、観察視野内のスラグ相をハイライト表示させることと、
ハイライト表示させた前記懸垂マット相及び前記スラグ相の面積を測定することにより、前記分析試料中に存在する懸垂マット粒の濃度、粒径及び粒度分布の少なくともいずれかを解析することを含むスラグの解析方法。
【請求項2】
前記懸垂マット粒の粒度分布から懸垂マットロスを解析する請求項1に記載のスラグの解析方法。
【請求項3】
前記スラグが水砕スラグである請求項1又は2に記載のスラグの解析方法。
【請求項4】
前記懸垂マット粒が銅を含む請求項1~3のいずれか1項に記載のスラグの解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラグの解析方法に関し、特に、マット及びスラグに比重分離した際のスラグ中に存在するマット粒の濃度や粒度分布(粒径、個数)などの物理的性質の解析に好適なスラグの解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非鉄金属製錬は、原料を溶解してマットとスラグとに比重分離し、マット中に目的金属を濃縮するという方法により行われている。非鉄金属製錬の一例である銅製錬においては、原料となる銅精鉱を、酸素富化空気とともに自溶炉に吹き込み、酸化熱により銅精鉱を溶解させ、銅等の有価金属を濃縮したマットと、酸化鉄及びケイ酸などからなるスラグとを生成させる。マットとスラグは、比重差を利用して分離され、その後マットは転炉に投入されることにより粗銅が生成され、スラグは加圧水により急冷されることにより水砕スラグが生成される。
【0003】
マットとスラグとを生成させる上記手法においては、目的金属がスラグ中に混入してしまうことが知られている。スラグ中に目的金属が混入することによって生じるロスを「スラグロス」という。スラグロスとしては、スラグ中に目的金属が溶解してロスを生じさせる化学溶解ロスと、スラグ中に物理的に混入して懸垂したマット粒子による懸垂ロスと呼ばれるものがある。目的金属の回収率を高めるためには、スラグに懸垂するマット粒子に起因する懸垂ロスをなるべく少なくすることが望ましい。
【0004】
マット及びスラグに比重分離した際のスラグロスを評価するためにスラグの性状を観察することが行われている。例えば、非特許文献1及び2には、電子線マイクロアナライザ(EMPA)を用いてスラグの相の状態を測定することやスラグに含まれるスピネル等の固溶体の定量的微量分析を行うこと等が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Evgueni Jakら、“Integrated Experimental Phase Experimental Phase Equilibria and Thermodynamic Modelling Studies For Copper Pyrometallurgy”, Copper 2016, pp.1316-1331
【文献】Hector M. Henaoら、“Investigation of Liquidus Temperartures and Phase Equilibria of Copper Smelting Slags in the FeO-Fe2O3-SiO2-CaO-MgO-Al2O3 System at PO210-8atm”, Metallurgical and Materials Transactions B, Volume 41B, August 2010, pp.767-779
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1及び2のいずれも、スラグロスを解析する手法としてはまだ検討の余地がある。例えば、非特許文献1及び2に記載されるようなEMPAを用いてスラグロスを解析する手法はスラグの微視的観察に基づくものであるため、特に様々な粒径のマット粒が懸垂して生じている懸垂ロスを適切に評価できているとはいえない場合がある。また、懸垂マット粒の粒度分布などのマクロ的視点からの解析はできない。
【0007】
上記課題を鑑み、本開示は、より簡易な手法でスラグ中に存在する懸垂マット粒の解析を行うことが可能なスラグの解析方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者が鋭意検討を重ねた結果、スラグをデジタルマイクロスコープで観察することが有用であるとの知見を得た。
【0009】
以上の知見を基礎として完成した本発明の実施形態に係るスラグの解析方法は一側面において、デジタルマイクロスコープを用いてスラグ中に存在する懸垂マット粒を解析するスラグの解析方法である。
【0010】
本発明の実施の形態にスラグの解析方法は一実施態様において、懸垂マット粒の粒度分布を解析する。
【0011】
本発明の実施の形態にスラグの解析方法は一実施態様において、懸垂マット粒の粒度分布から懸垂マットロスを解析する。
【0012】
本発明の実施の形態にスラグの解析方法は一実施態様において、分析対象とするスラグを樹脂埋めして分析試料を作製することと、デジタルマイクロスコープの明度を調整し、観察視野内の懸垂マット相をハイライト表示させることと、デジタルマイクロスコープの明度を調整し、観察視野内のスラグ相をハイライト表示させることと、ハイライト表示させた懸垂マット相及びスラグ相の面積を測定することにより、分析試料中に存在する懸垂マット粒の濃度、粒径及び粒度分布の少なくともいずれかを解析することを含むスラグの解析方法である。
【0013】
本発明の実施の形態にスラグの解析方法は一実施態様において、スラグが水砕スラグである。
【0014】
本発明の実施の形態にスラグの解析方法は一実施態様において、懸垂マット粒が銅を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、より簡易な手法でスラグ中に存在するマット粒の濃度の解析を行うことが可能なスラグの解析方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】スラグとマットとを有する炉内のスラグとマットの比重分離を表す図である。
図2】観察視野内のスラグ相を抽出した場合の例を示す説明図である。
図3】観察視野内の懸垂マット相を抽出した場合の例を示す説明図である。
図4】マイクロスコープによるサンプル全体観察写真である。
図5】スラグ相部分抽出画像である。
図6】懸垂マット相部分抽出画像である。
図7】検出した懸垂マット粒写真と各粒の最小粒径である。
図8】懸垂マット粒子の分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明の実施の形態に係るスラグの解析方法は、例えば、原料を溶解してスラグとマットとを生成させる炉から生じるスラグの濃度分析に利用可能である。
【0018】
本発明において「スラグとマットとを生成させる炉」とは、例えば、銅鉱石を用いる場合には、自溶炉等があげられるが、自溶炉以外の様々な溶融炉を含むことは勿論である。以下においては、自溶炉に銅鉱石を投入して溶解させることにより得られたスラグを水砕した水砕スラグを抽出し、水砕スラグ中の銅成分を解析する例を説明するが、本実施形態銅鉱石に限られず、種々の材料を対象とすることができるものであり、以下の例に限定されるものではないことは勿論である。
【0019】
図1は自溶炉内で比重分離された溶融マットと溶融スラグとの位置関係を示している。最下層には、目的金属が濃縮された液相のマット(バルクマット1)が存在し、バルクマット1の上方には液相のスラグ(バルクスラグ3)が存在している。バルクマット1とバルクスラグ3との間には液相の中間層2が生成されている。
【0020】
図1に示すように、バルクスラグ3及び中間層2は、液相スラグ13中に固相析出したスピネル10と懸垂マット粒11とが分散している。本実施形態に係るスラグの解析方法は、デジタルマイクロスコープを用いて、液相スラグ13中に分散する懸垂マット粒11を直接、解析することで、目的金属の濃度を解析する。
【0021】
従来は、特許文献1及び2に示されるようなEMPAを用いてバルクスラグ3を微視的に観察し、そこからバルクスラグ3中の懸垂マット粒11の濃度を推定していた。一方、本実施形態では、デジタルマイクロスコープを用いてバルクスラグ3の液相スラグ13中に分散する目的金属からなる懸垂マット粒11を直接定量する。そして、バルクスラグ3の化学分析値からこれを差し引くことで、バルクスラグ3中に溶解する化学溶解金属量(濃度)を推定するものである。
【0022】
本実施形態に係るデジタルマイクロスコープとしては、例えばキーエンス社製マイクロスコープCHX-6000などがあげられる。デジタルマイクロスコープを用いた測定は簡便かつ迅速に結果が得られやすく、懸垂マット相及び懸垂マット粒子の分析に特に好適に利用可能である。また、EMPAなどを用いる場合に比べてマクロ的な視点からの解析が可能となるため、懸垂マット粒11の濃度だけでなく、懸垂マット粒の粒径、数量などの物理的性質を解析することが可能となる。
【0023】
一方、特許文献1及び2に記載されるような従来法では、液相スラグ13中に化学溶解した目的金属量を測定することで、バルクスラグ3の化学分析値との差から懸垂マット粒11の濃度を算出する方法であるため、化学溶解した目的金属量の精度はよい。しかしながら、微視観察のため、バルクスラグ3中に分散して存在し、実質的なスラグロスに影響を及ぼす懸垂マット粒11の詳細な解析などには適用できない上、分析に高度なスキルが必要となっていた。
【0024】
本実施形態に係る解析方法としては、具体的には、まず、分析対象とするスラグを樹脂埋めして分析試料を作製する。スラグとしては、懸垂マット粒11を生じさせるものであれば特に限定されないが、例えば、自溶炉に銅鉱石を投入して溶解させることにより得られたスラグを水砕した水砕スラグを用いることができる。
【0025】
図2の模式図に示すように、樹脂埋めして得られる分析試料をデジタルマイクロスコープで断面観察する。具体的には、デジタルマイクロスコープ観察において、懸垂マット粒11を含む懸垂マット相と、液相スラグ13とスピネル10を含むスラグ相(10+13)の明度が異なるように調整する。なお、液相スラグ13とスピネル10の明度は近いため、図2に示されるように、デジタルマイクロスコープ観察においては、液相スラグ13とスピネル10を併せたスラグ相10+13として抽出することができる。
【0026】
更に、観察視野内のスラグ相10+13をデジタルマイクロスコープに付随するモニタにハイライト表示させ、解析ソフトを用いてスラグ相10+13の面積(図1の液相スラグ13とスピネル10の面積の和)を算出する。
【0027】
次に、観察視野内のバルクスラグ3中の懸垂マット粒11を含むスラグ相をハイライト表示させる。そして、ハイライト表示させたスラグ相の中から懸垂マット粒11の面積を、解析ソフトを用いて算出し、バルクスラグ3中に分散する目的金属の濃度(=懸垂スラグロス)を算出する。
【0028】
懸垂スラグロスの算出方法としては、例えば、以下の式を用いることができる。
懸垂スラグロス=(懸垂マット粒の面積)×(マット密度4.7)×マット品位(%Cu)/[{(バルクスラグ面積)×(バルクスラグ密度3.0)}+{懸垂マット粒11の面積×マット密度4.7}]
【実施例
【0029】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0030】
自溶炉に銅鉱石を投入して溶解させることにより得られたスラグを水砕した水砕スラグのサンプルを12個用意して、その水砕スラグ中の懸垂マット粒をデジタルマイクロスコープで観察した。デジタルマイクロスコープには、キーエンス社製マイクロスコープCHX-6000を使用した。まず、スラグサンプルを樹脂に埋め込み、研磨により断面を出した。次に、デジタルマイクロスコープによりサンプル全体を観察した。明度設定によりスラグ相部分(即ち、液相スラグ部分とスピネルとを含む部分)と懸垂マット相部分とを判別し、画像抽出することで各相の粒径や個数、面積を測定した。
【0031】
図4にマイクロスコープによるサンプル全体観察写真、図5にスラグ相部分抽出画像及び図6に懸垂マット相部分の抽出画像を示す。図6の懸垂マット相部分抽出画像から、図7に示すように懸垂マット粒を検出し、その粒子の最小粒径を測定した。測定した全粒子数の結果を表1に示す。全粒子数が210個、D50は13.9μmであった。粒子分布を図8に示す。粒子分布から算出される懸垂マット粒中の銅の量は、0.19質量%であった。
【0032】
【表1】
【符号の説明】
【0033】
1…バルクマット
2…中間層
3…バルクスラグ
10…スピネル
11…懸垂マット粒
13…液相スラグ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8