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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】クリーンルームの空調システム
(51)【国際特許分類】
   F24F 7/06 20060101AFI20230213BHJP
   F24F 6/04 20060101ALI20230213BHJP
   F24F 3/14 20060101ALI20230213BHJP
   F24F 3/16 20210101ALI20230213BHJP
   F24F 6/00 20060101ALI20230213BHJP
【FI】
F24F7/06 C
F24F6/04
F24F3/14
F24F3/16
F24F6/00 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019061764
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020159653
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】弁理士法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池亀 大輔
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 啓介
(72)【発明者】
【氏名】矢萩 明人
(72)【発明者】
【氏名】永田 淳一郎
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-004178(JP,A)
【文献】特開昭61-202026(JP,A)
【文献】特開平08-296876(JP,A)
【文献】特開2000-271552(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 7/06
F24F 6/04
F24F 3/14
F24F 3/16
F24F 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象空間のうち、他の領域に比べて高い清浄度の要求される領域を高度清浄域に設定すると共に、該高度清浄域以外の領域を非高度清浄域に設定し、
前記対象空間の床上には排熱を伴う複数の機器が、前面部を前記高度清浄域にわずかに突出するように、前面部以外は前記非高度清浄域内に位置するように側方を作業員が移動できる間隔で並べて配置されていて、
前記高度清浄域の上方には、浄化した空気を下方へ向けて供給する所定数の送風ユニットと、
前記送風ユニットの無いところに載置される閉鎖パネルとが設置された天井と、前記非高度清浄域の上方は上階の床スラブ下面が露出している直天井と
を備え、
前記天井の上側の空間は、天井側壁により天井内空間として画成され、
前記送風ユニットは、前記天井内空間内の空気を前記高度清浄域へ供給するよう前記天井に設置され、
前記高度清浄域に供給された空気は、床上の前記複数の機器の間を通って前記非高度清浄域に至り、該非高度清浄域内を前記複数の機器の排熱を伴って上昇し、前記送風ユニットから再度前記高度清浄域に供給されるよう構成され、
前記非高度清浄域を上昇して前記送風ユニットへ至る空気を冷却する冷却ユニットと、
前記冷却ユニットの前段において空気を加湿するよう、水を保持する保水体と該保水体に対して空気を吹き付ける加湿ファンと該加湿ファンの回転数を制御できる回転数制御装置とを有する加湿ユニットとを備え、
前記冷却ユニットおよび前記加湿ユニットは、前記複数の機器が並んで配置されている直上の天井側壁ではない天井側壁の開口そばの前記天井から上方に設置されている
ことを特徴とするクリーンルームの空調システム。
【請求項2】
前記高度清浄域と前記非高度清浄域との間における床より上方の位置に、鉛直方向に沿って延びる垂壁を備えたこと
を特徴とする請求項1に記載のクリーンルームの空調システム。
【請求項3】
前記非高度清浄域の室壁側の一部上方には第二の天井が位置し、
前記第二の天井の上側の空間は、第二の天井側壁により吸込チャンバとして画成され、
前記冷却ユニットは、前記吸込チャンバから前記天井内空間へ至る経路に設置され、
前記加湿ユニットは、前記吸込チャンバ内に設置され、
前記非高度清浄域から前記天井内空間へ移動する空気は、前記第二の天井側壁の開口から前記吸込チャンバを経由し、前記送風ユニットにより前記高度清浄域に供給されること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載のクリーンルームの空調システム。
【請求項4】
前記第二の天井は、前記天井と同じ高さで連続し、前記吸込チャンバは、前記天井内空間と隣接すること
を特徴とする請求項3に記載のクリーンルームの空調システム。
【請求項5】
前記天井側壁に、前記非高度清浄域内の空気を前記天井内空間へ導く吸込口を備え、
前記吸込口に前記冷却ユニットを備え、
前記非高度清浄域内における前記冷却ユニットの前段に前記加湿ユニットを備えたこと
を特徴とする請求項1または請求項2に記載のクリーンルームの空調システム。
【請求項6】
前記対象空間には、被加工物を搬送する天井搬送装置を構成する搬送レールが設置されており、
前記高度清浄域として、前記搬送レールの周辺の領域を設定すること
を特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のクリーンルームの空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーンルームの空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近頃の工業用クリーンルームでは、生産装置内での製品が暴露される個所の局所クリーン化、工程間搬送での製品暴露箇所の局所クリーン化が進んでおり、工場の生産環境であるクリーンルームは、間仕切りの無い大空間として、生産装置を天井搬送との位置関係で配置するボールルーム方式が一般化している。
【0003】
図12はクリーンルームにおける空調システムの一例を示している。対象空間Sはボールルーム方式の工業用クリーンルームとして構成されており、天井1には、所定の間隔で離れて複数の送風ユニット2が設置されている。送風ユニット2は、筐体の上側にファンが、下側にはHEPAフィルタが設けられたファン・フィルタ・ユニット(FFU)等と称される装置であり、天井1の上方の空気をファンにより筐体内に吸い込んでフィルタに吹き付け、該フィルタを通って浄化された空気を清浄室内向空気A1として下方の対象空間Sへ下向きに送り出すようになっている。
【0004】
対象空間Sの床3は、躯体床から持ち上げパンチングパネルやグレーチング等を床材とする上げ床として構成されている。送風ユニット2から対象空間Sに清浄室内向空気A1として送り込まれた空気は、室内の機器5の熱負荷や発塵した塵埃を含んで床3の開孔を通って還気A2として床下の空間に抜け、床下と天井裏を連通するレタンシャフト4を通って天井裏の空間へ送られ、再度送風ユニット2から清浄室内向空気A1として対象空間Sに供給される。
【0005】
工業用クリーンルームである対象空間Sでは生産装置等の機器5が稼働しており、清浄室内向空気A1は、機器5の排熱を受け取り昇温した状態となって還気A2として床下へ抜ける。昇温した還気A2は、床下から天井裏へ戻って再度送風ユニット2から送り出されるまでの間に、再び床下に抜ける際に機器5の稼働に適した温度でありかつ室内空気条件の温度となるよう室内負荷を賄える室内吹出し温度まで冷却される必要があり、送風ユニット2で除塵されて清浄室内向空気A1として吹出される。ここに示した例では、レタンシャフト4の入口付近に冷却ユニット6を備え、対象空間Sの床3を抜けた後の還気A2を冷却するようになっている。冷却ユニット6は、例えば内部に冷媒が流通するドライコイルである。
【0006】
また、工業用クリーンルームの場合、塵埃の侵入を防ぐために内部を陽圧に保つ必要がある。そしてそれ以上に、生産工程で各種排気を要求する各機器5の排気量も外部から給気しなければならない。ここに示した例の場合、外調機7から外気A3を取り込み、適当な温度と湿度に調整したうえで床下の空間へ供給するようになっている。外調機7は、外気A3を浄化するプレフィルタ8,外気最終フィルタ9と、取り込んだ外気A3を予熱するための予熱コイル10と、該予熱コイル10の下流で外気A3を冷却する冷却コイル11と、該冷却コイル11の下流で外気A3を加熱するための加熱コイル12と、気流を作り出す送気ファン13を備えている。また、加熱コイル12の下流側且つ送気ファン13の上流側の位置には、加湿器14を備えている。
【0007】
送気ファン13を作動させると、外気A3はプレフィルタ8を通って塵埃を除去されたうえで、予熱コイル10、冷却コイル11、加熱コイル12、加湿器14の順に外調機7内を通過し、外気最終フィルタ9により再び浄化されたうえで対象空間Sの床下へ供給される。
【0008】
夏季など、外気温および絶対湿度が高い条件下においては、冷却コイル11に冷熱媒を多量に流し加熱コイル12に熱媒を流して作動させると、外気A3は冷却コイル11を通過する際に露点以下に冷却されて水分が凝結し、絶対湿度を下げられる。さらに、飽和点の乾球温度で供給すると、床下で循環空気と温度差があって混合しづらい場合、外気A3は下流側の加熱コイル12を通過する際に再び適当な温度まで加熱される。一方、冬季など、外気温が低い条件下においては、加熱コイル12に加えて予熱コイル10も熱媒を流して作動させる。冷却コイル11の運転は、外気の絶対湿度が十分に低ければ不要である。プレフィルタ8を通過した外気A3は、予熱コイル10で予熱され、さらに下流側の加熱コイル12で十分な温度まで加熱される。要求される湿度に対して外気A3の絶対湿度が不足している場合には、加湿器14を作動させ、外気A3の湿度を上昇させる。加湿器14の形式が蒸気加湿の場合は、加熱コイル12で室内の絶対湿度の飽和点まで加熱すればよく、加湿器14の形式が水加湿の場合は、加熱コイル12の出口空気温度を室内の絶対湿度の飽和点の等エンタルピ線と外気絶対湿度との交点より加湿飽和効率分高く加熱すればよい。こうして外調機7は、季節にかかわらず、外気A3を適当な温度および湿度に調和して対象空間Sの床下へ供給することができる。
【0009】
また、床下の空間には各機器5に接続され各機器から各種排気を導く排気ダクト15が設置されており、該排気ダクト15の途中に設置された排気ファン16の作動により、対象空間S内部の清浄室内向空気A1の一部が適宜外部へ排出されるようになっている。
【0010】
尚、外調機7からは、他のクリーンルームや、クリーンルーム以外の付帯室等に対しても調和された外気A3が供給されるようになっていることが通常であるが、ここでは図示を省略している。
【0011】
対象空間Sの床下から天井裏に至る還気A2の経路の途中(ここでは、レタンシャフト4の入口付近)には、さらに加湿器17が設けられている。外調機7にて温度と湿度を調和されて送り込まれた外気A3は、還気A2と混合され、続いて冷却ユニット6および加湿器17により温度と湿度を改めて精密に調整され、送風ユニット2のHEPAフィルタで浄化されて、清浄室内向空気A1として対象空間Sに供給されるようになっている。
【0012】
この種のクリーンルームの空調システムに関連する先行技術文献としては、例えば、下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2007-178116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述の如きクリーンルームの空調システムにおいて、加湿器17としては、百数十度の加熱源が必要な蒸気加湿方式の加湿器よりも、機器発熱の熱や加熱器の熱媒のように30℃以上程度の加熱源で済む水加湿方式の加湿器が省エネルギーの観点からは好ましい。また水加湿器の場合、湿り空気状態として等エンタルピ線上を動いて加湿するので、熱負荷の大きいクリーンルームでは年間を通して冷房を要するが、水加湿方式の加湿器であれば、還気A2を加湿すると同時に気化熱を奪って冷却することができるからである。
【0015】
水加湿方式の加湿器には、スプレー方式(ここではエアワッシャ方式と高圧水噴霧による加湿量分噴霧方式を含む)と気化方式がある。スプレー方式では、空気に対して水を微細な水滴として噴射する。気化方式では、保水機能を有するエレメントに空気を通過させる。
【0016】
精密な湿度管理が要求される工業用クリーンルームでは、古くはエアワッシャ方式の水加湿器が、その加湿飽和効率の高さから、循環水ポンプの電力多消費にかかわらず用いられてきた。その後、同様の工業用クリーンルームでは、高圧水噴霧によるほぼ加湿量に見合う水量の、スプレー方式の加湿器が使用されることが多くなってきた。スプレー方式の加湿器では、時間比例制御や空気量比例制御といった手法によって加湿量を精度よく管理することができることを以前出願人は知見を得、実用化してきた。ところが、気化方式の加湿器ではエレメントの保水量を即時的に操作することが難しく、加湿量をその時に要求される水分量に応じて厳密に制御できない特性があり採用が難しいからである。
【0017】
しかしながら、水を水滴として噴霧するスプレー方式の加湿器を上述の如きクリーンルーム用の加湿器17として採用する場合、対象空間S内の機器5や、その他の機器類に水滴が付着しないようにしなくてはならない。このため、まずは空調機内設置スプレー式加湿器のように平均噴霧粒径100μm~300μmで蒸発しづらい0.3MPa程度の噴霧圧から、6MPaまで圧力を高めノズル孔径を小さくして10~30μmの微小粒径のミストとして噴霧し蒸発しやすくする。それでも、例えばレタンシャフト4内や、あるいは床下等の広い空間に加湿器17を設置しなくてはならず、レイアウト上の制約が生じていた。
【0018】
本発明は、斯かる実情に鑑み、加湿器の設置に係る制約を極力排し得るクリーンルームの空調システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、対象空間のうち、他の領域に比べて高い清浄度の要求される領域を高度清浄域に設定すると共に、該高度清浄域以外の領域を非高度清浄域に設定し、
前記対象空間の床上には排熱を伴う複数の機器が、前面部を前記高度清浄域にわずかに突出するように、前面部以外は前記非高度清浄域内に位置するように側方を作業員が移動できる間隔で並べて配置されていて、
前記高度清浄域の上方には、浄化した空気を下方へ向けて供給する所定数の送風ユニットと、
前記送風ユニットの無いところに載置される閉鎖パネルとが設置された天井と、前記非高度清浄域の上方は上階の床スラブ下面が露出している直天井と
を備え、
前記天井の上側の空間は、天井側壁により天井内空間として画成され、
前記送風ユニットは、前記天井内空間内の空気を前記高度清浄域へ供給するよう前記天井に設置され、
前記高度清浄域に供給された空気は、床上の前記複数の機器の間を通って前記非高度清浄域に至り、該非高度清浄域内を前記複数の機器の排熱を伴って上昇し、前記送風ユニットから再度前記高度清浄域に供給されるよう構成され、
前記非高度清浄域を上昇して前記送風ユニットへ至る空気を冷却する冷却ユニットと、
前記冷却ユニットの前段において空気を加湿するよう、水を保持する保水体と該保水体に対して空気を吹き付ける加湿ファンと該加湿ファンの回転数を制御できる回転数制御装置とを有する加湿ユニットとを備え、
前記冷却ユニットおよび前記加湿ユニットは、前記複数の機器が並んで配置されている直上の天井側壁ではない天井側壁の開口そばの前記天井から上方に設置されている
ことを特徴とするクリーンルームの空調システムにかかるものである。
【0021】
本発明のクリーンルームの空調システムは、前記高度清浄域と前記非高度清浄域との間における床より上方の位置に、鉛直方向に沿って延びる垂壁を備えることができる。
【0023】
本発明のクリーンルームの空調システムにおいて、前記非高度清浄域の室壁側の一部上方には第二の天井が位置し、前記第二の天井の上側の空間は、第二の天井側壁により吸込チャンバとして画成され、前記冷却ユニットは、前記吸込チャンバから前記天井内空間へ至る経路に設置され、前記加湿ユニットは、前記吸込チャンバ内に設置され、前記非高度清浄域から前記天井内空間へ移動する空気は、前記第二の天井側壁の開口から前記吸込チャンバを経由し、前記送風ユニットにより前記高度清浄域に供給される構成とすることができる。
【0024】
本発明のクリーンルームの空調システムにおいて、前記第二の天井は、前記天井と同じ高さで連続し、前記吸込チャンバは、前記天井内空間と隣接する構成とすることができる。
【0025】
本発明のクリーンルームの空調システムは、前記天井側壁に、前記非高度清浄域内の空気を前記天井内空間へ導く吸込口を備え、前記吸込口に前記冷却ユニットを備え、前記非高度清浄域内における前記冷却ユニットの前段に前記加湿ユニットを備えることができる。
【0026】
本発明のクリーンルームの空調システムにおいて、前記対象空間には、被加工物を搬送する天井搬送装置を構成する搬送レールが設置された構成とし、前記高度清浄域として、前記搬送レールの周辺の領域を設定することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明のクリーンルームの空調システムによれば、加湿器の設置に係る制約を極力排し得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施によるクリーンルームの空調システムの一例を示す概略立面図及び図11の空気状態点を示す図である。
図2】本発明の実施例によるクリーンルームの空調システムの構成を示す概略平面図である。
図3】本発明の実施例によるクリーンルームの空調システムの構成を示す概略側断面図であり、図1のIII-III矢視相当図である。
図4】本発明の実施例によるクリーンルームの空調システムの構成を示す斜視図である。
図5】本発明の実施例によるクリーンルームの空調システムの構成を示す斜視図であり、図4とは別の方向から見た図である。
図6】本発明の実施に用いる加湿ユニットの構成の一例を示す概略断面図である。
図7】本発明の実施によるクリーンルームの空調システムの別の一例を示す概略平面図である。
図8】本発明の実施によるクリーンルームの空調システムのさらに別の一例を示す概略平面図である。
図9】本発明の参考例によるクリーンルームの空調システムの構成を示す概略立面図及び図10の空気状態点を示す図である。
図10】本発明の参考例における空気の温度および湿度の変動を概略的に示すT-X空気線図である。
図11】本発明の実施例における空気の温度および湿度の変動を概略的に示すT-X空気線図である。
図12】従来のクリーンルームの空調システムの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0030】
図1図5は本発明の実施によるクリーンルームの空調システムの形態の一例を示しており、図中、図12と同一の符号を付した部分は同一物を表している。尚、図1図5に示した構成は、例えば空調システムを備えた対象空間Sにおける一部分であり、同様の構成が平面視で縦横に複数連続していても、後述する吸込口35(図7参照)に対面する天井側壁と並行する中央通路を対象軸としてシンメトリーに展開しても良い。
【0031】
本実施例のクリーンルームの空調システムは、対象空間Sの天井1に複数の送風ユニット2を設置し、浄化された清浄室内向空気A1を下方の対象空間Sへ下向きに送り出す構成に関しては図12に示した上記従来例と共通している。また、外気A3を取り込む外調機7は外気A3を上部天井内空間Cへ供給するようになっており、外調機7は上記従来例と共通の構成を備え、プレフィルタ8,外気最終フィルタ9と、予熱コイル10、冷却コイル11、加熱コイル12、送気ファン13および加湿器14を備えた構成により、外気A3が適当な温度および湿度に調和されて供給されるようになっている。
【0032】
本実施例の場合、対象空間S内の構成に特徴を有しており、対象空間Sのうち一部の領域を高度清浄域S1、その他の領域を非高度清浄域S2に設定して、高度清浄域S1に対しては送風ユニット2からダウンフローにより清浄な清浄室内向空気A1を供給すると共に、非高度清浄域S2においては機器5の排熱と送風ユニット2の吸込み力とにより清浄室内向空気A1に機器発熱と発生塵埃を含んだ還気A2のアップフローを生じさせるようになっている。すなわち、空気は床下の空間を通ることなく循環する。これに伴い、外調機7により温度と湿度を調和された外気A3は、床下ではなく非高度清浄域S2の上部天井内空間Cへ供給されるようになっている。また、上記従来例におけるレタンシャフト4にあたる構成が省略され、冷却ユニット6についても配置が変更されている。また、本実施例では上記従来例における加湿器17に代えて後述する加湿ユニット29を備えており、この加湿ユニット29の構成および配置にも特徴を有している。
【0033】
尚、高度清浄域S1とは、「対象空間Sのうち、他の領域と比較して高い清浄度が要求される領域」を指し、非高度清浄域S2とは、「対象空間Sのうち、高度清浄域S1以外の領域」を指す。高度清浄域S1の設定清浄度は、例えばクラス5~6であり、非高度清浄域S2の設定清浄度は、例えばクラス6程度である(尚、これは一例であって、各領域の清浄度については本発明を実施するにあたり適宜設定し得る)。
【0034】
工業用クリーンルームである対象空間S内の床3上では、機器5が稼働している。機器5は、例えば半導体集積回路を形成する母材のウエハや、フラットパネルディスプレイの基板、あるいはそれらの物品を複数収納できる容器等の物体(被加工物18)を加工する生産装置である。対象空間S内の天井1付近には、被加工物18を搬送するための天井搬送装置19が設けられている。天井搬送装置19は、天井1の下面に沿って取り付けられた搬送レール20と、該搬送レール20に沿って移動可能な搬送車21とを備えている。搬送レール20は、天井1の構成材、あるいは上階の床スラブから吊られるようにして、天井1に沿って取り付けられる。搬送車21は、被加工物18をポッドやFOUPなどの容器に入れて外界と遮断して局所クリーンを保ちつつ積み込んで搬送レール20に沿って移動し、ポッドなどを降下して機器5との間でポッド内の被加工物18の機器5内への受け渡しを行うようになっている。
【0035】
このようなクリーンルームである対象空間S内において、最も清浄度を確保すべき領域は、被加工物18が露出する可能性のある領域である。より具体的には、被加工物18が搬送車21によって搬送され、搬送車21からポッドに入った被加工物18が降下され、機器5のロード・アンロード部との間で被加工物18の受け渡しが行われる場所、すなわち平面視で搬送レール20の周辺の領域である。そこで、本実施例では、平面視で搬送レール20の周辺にあたる領域を高度清浄域S1、その他の領域を非高度清浄域S2に設定している。
【0036】
高度清浄域S1および非高度清浄域S2それぞれの構成を説明する。高度清浄域S1の上方には、図3に示す如く、天井1が上階の床スラブから吊下設置され、天井1の上側に天井裏の空間が形成されている。一方、非高度清浄域S2の上方は天井1の設置されない直天井となっており、上階の床スラブ下面(スラブ面22)が露出している。天井1の縁にあたる部分の上側、すなわち高度清浄域S1と非高度清浄域S2との境界の上方には天井側壁23が設けられ、天井1の設置された高度清浄域S1の上方の領域は、天井側壁23によって非高度清浄域S2の上方の領域と区画されている(以下では、天井1とスラブ面22に挟まれ、且つ天井側壁23により画成された領域を上部天井内空間Cと称する)。
【0037】
非高度清浄域S2の平面積は、高度清浄域S1の平面積と同等以上とすることが好ましい。後述する空気の循環のためである。
【0038】
高度清浄域S1の上方にあたる天井1には、送風ユニット2が設置されている。天井1は、例えばアルミ等を材料とする構成材を平面視で格子状に組んだ天井セルにより形成され、スラブ面22の下面から吊下設置される。そして、構成材によって組まれた格子の開口であるグリッドに、送風ユニット2を適宜な配置により設置する。送風ユニット2を設置しない残りのグリッドは、閉鎖パネル2aを設置して塞ぐ。こうして、送風ユニット2を高度清浄域S1の上方(すなわち、搬送レール20の上方)にあたる位置に集中して配置し、送風ユニット2から送り出される清浄な清浄室内向空気A1を、高度清浄域S1に集中して供給するようにしている。
【0039】
さらに、高度清浄域S1と非高度清浄域S2との間には、垂壁24が設置されている。垂壁24は、天井1の縁にあたる部分から下方に向かって鉛直方向に沿って延びる垂壁部材であり、高度清浄域S1と非高度清浄域S2との間を、両空間の下方が連通するように不完全に隔てている(尚、ここでいう「鉛直方向に沿って延びる」とは、必ずしも正確な鉛直面を有することを指すものではなく、垂壁24は鉛直方向に対して傾きを有していても良い。鉛直方向に沿った向きとは、鉛直方向を成分として含む向きといった程度の意味である)。
【0040】
天井1から垂壁24の下端までの寸法は、以下のように設定される。まず、垂壁24の下端は、床3における機器5の側方の作業員移動の妨げや、清浄室内向空気A1の機器5の吸い込んだ排気分を除いた分の循環の妨げとならないよう、床3よりは上方に位置するようにする。また、垂壁24が機器5に接すると、やはり機器5のメンテナンスや移設の妨げとなるため、垂壁24の下端は機器5の上端よりは上方に位置していることが好ましい。一方、後述する清浄室内向空気A1の循環の観点から、床3と垂壁24の下端とは一定の距離を保ちながらある程度近接させ、垂壁24の下方を流れる清浄室内向空気A1の流速をある程度小さく保つことが好ましい。以上のことから、清浄室内向空気A1の循環と機器5のメンテナンスや移設自由度の両立のためには、垂壁24は下端が機器5の上端から10cmほど上方に位置する程度の寸法とするのが最も好適である。本実施例では、垂壁24の下端は同じ高さで連続しており、また、機器5同士の間を遮るものはない。
【0041】
垂壁24の素材としては、パネルのような硬質の素材、あるいは下端に重りを入れたビニールシートのような軟質の素材など、各種の素材を採用することができる。
【0042】
本実施例では、図2図4図5に示す如く、対象空間Sにおいて搬送レール20が平面視でH型に設置されている。そして、搬送レール20に沿ったH型の領域を高度清浄域S1に設定し、該高度清浄域S1の上側の空間を上部天井内空間Cとしている。天井側壁23、及び垂壁24は、H型の高度清浄域S1と、非高度清浄域S2との境界に、平面視で一対のコの字型となるよう配置される。天井側壁23や垂壁24は、例えば天井1を構成する前記天井セルを利用し、平面視で前記天井セルの構成材に沿って配置することができる。尚、天井側壁23を設置する位置は必ずしもここに示すように平面視で天井1の縁でなくとも良く、高度清浄域S1の上方の空間を上部天井内空間Cと隔てるように配置されていれば良い。また、垂壁24についても、ここに示すように平面視で天井1の縁に配置する必要はなく、高度清浄域S1と非高度清浄域S2の境界に配置されていれば良い。
【0043】
このようにして高度清浄域S1および非高度清浄域S2を設定された対象空間Sにおいて、機器5は図2図3に示す如く、前面部5aが搬送レール20下方の高度清浄域S1へわずかに突出するように配置され、前面部5a以外は非高度清浄域S2内に位置している。機器5にとっては、搬送車21から降下するポッドとの間で被加工物18の受け渡しを行うロード・アンロード部の前面部5aで特に高い清浄度が要求されるからである。
【0044】
送風ユニット2から高度清浄域S1へ清浄室内向空気A1として送り出された空気は、機器5の前面部5aに吹き付けられ、垂壁24と床3の間を通って非高度清浄域S2へ抜け、その間に機器5の背面部5bなどから排出された排熱や発生個所があれば発塵塵埃を受け取って昇温して還気A2となる。そして、非高度清浄域S2から還気A2として上部天井内空間Cに吸い込まれ、再び送風ユニット2から清浄室内向空気A1として送り出される。
【0045】
空気の循環については後に詳しく説明するが、このように構成される空気の流路の一部には、さらに空気を冷却し、加湿するための機構が設けられる。
【0046】
本実施例においては、上述の如く高度清浄域S1の上方に設置した天井1の上側の空間を上部天井内空間Cとして画成しているが、天井1の構成部材は同じ高さで非高度清浄域S2の一部(ここでは、図2中における室壁である左端の壁際の通路のうち、左側にあたる部分)の上方まで延長しており(以下、この延長部分を第二の天井25と称する)、この第二の天井25の上方を、上部天井内空間Cとは別の空間(以下、吸込チャンバC1と称する)として画成している。すなわち、非高度清浄域S2の上方の領域(図2における左側の領域)と上部天井内空間Cとの間は、天井側壁(第一の天井側壁)23とは別の側壁(第二の天井側壁)26により隔てられており、これにより、第二の天井25と上階のスラブ面22に挟まれ、且つ第二の天井側壁26に囲まれた吸込チャンバC1が画成されている。吸込チャンバC1は上部天井内空間Cと連通しており、非高度清浄域S2内の清浄室内向空気A1が機器の発熱と発塵を伴い還気A2となったのち、一旦吸込チャンバC1を経由してから清浄前の室内向空気として上部天井内空間Cに送り込まれるようになっている。そして、この経路の途中に冷却ユニット6および後述する加湿ユニット29が設置され、吸込チャンバC1を通過する還気A2が冷却され、また必要に応じて加湿されるようになっている。ここで吸込チャンバC1は、図7に示すごとく第二の天井25、上階のスラブ面22、第一の天井側壁23に区画された構成でもよい。
【0047】
吸込チャンバC1の構成について、より具体的に説明する。第二の天井25は、非高度清浄域S2の一部の天井をなすと共に吸込チャンバC1の下面部分を構成する。本実施例においては、第二の天井25は天井1と同じ高さで連続しているが、第二の天井25の役割は非高度清浄域S2の上方に吸込チャンバC1を画成することであり、この役割を果たす限りにおいて種々の構成や配置を取り得る。例えば、第二の天井25は天井1とは異なる高さに設置されていても良いし、天井1から水平方向に離間した位置に設置されていても良い。ただし、本実施例の如く天井1と第二の天井25とは同じ高さで連続した構成とすると、第二の天井25にかかる設置の手間やコストの面で最も簡便である。
【0048】
吸込チャンバC1は、こうして上部天井内空間Cと隣接するように画成されるが、吸込チャンバC1には送風ユニット2は設置されない。また、上部天井内空間Cにおいて吸込チャンバC1を区画する第二の天井側壁26は第一の天井側壁23と直接連続していない。吸込チャンバC1は、上部天井内空間Cの一部(図2中、左端にあたる部分)を挟んで非高度清浄域S2と向かい合う形となっており、吸込チャンバC1を画成する第二の天井側壁26は、上部天井内空間Cを画成する第一の天井側壁23と、上部天井内空間Cを挟んで対向している。そして、互いに対向する第一の天井側壁23と第二の天井側壁26との間には吸込ダクト27が設置されており、上部天井内空間Cの一部を貫いて非高度清浄域S2と吸込チャンバC1とを連通している。
【0049】
本実施例の場合、吸込ダクト27は互いに向かい合う第二の天井側壁26と第一の天井側壁23の間を水平方向に繋ぐダクト状の部材として構成される。上述の如く、吸込チャンバC1は非高度清浄域S2と水平方向に直に隣接してはいないが、両空間が吸込ダクト27により上部天井内空間Cの一部を通して連結される形である。吸込ダクト27の内部は、上部天井内空間Cとは隔絶されている。
【0050】
吸込ダクト27の設置位置は、第一の天井側壁23ないし第二の天井側壁26のなるべく上方(スラブ面22の直下)とすることが好ましい。後述する空気の循環のためであり、また加湿を効率よく行うためである。
【0051】
また、第二の天井側壁26における吸込ダクト27とは別の箇所には連通口28が設けられており、この連通口28において、吸込チャンバC1と、上部天井内空間Cとが連通している。冷却ユニット6はこの連通口28に備えられており、吸込チャンバC1から上部天井内空間Cへ流れる還気A2の全量が、冷却ユニット6を通過するようになっている。吸込チャンバC1内における冷却ユニット6の前段には、さらに加湿ユニット29が設けられており、冷却ユニット6に到達する前の還気A2に対し加湿を行うようになっている。
【0052】
加湿ユニット29は、図6に示す如き保水体30と加湿ファン31を備えた気化方式の加湿器である。保水体30と加湿ファン31は、方形の箱型のダクトチャンバ32の両側に互いに対向する形で設けられており、水を含ませた保水体30に対し加湿ファン31から空気を吹き付けることで、保水体30に保持された水を気化させ、空気を加湿するようになっている。保水体30は、一般的な気化方式の加湿器に用いられるような保水性の素材により構成され、外部から給水管33を通して水が供給されるようになっている。保水体30から下方に垂れた水は、保水体30の下方に設けたドレンパン34から排出される。この加湿ユニット29の加湿ファン31は、インバータなど回転数制御が外部信号により可能な回転数制御装置31aを備えている。高度清浄域S1に設置される湿度センサから送られる信号を湿度調節器により湿度設定値と湿度実測値の偏差から演算し、回転数制御装置31aへ例えば送電の最低周波数から定格周波数までに割り付けた回転数の信号により湿度の比例制御ができるようになっている。
【0053】
このような構成を備えた加湿ユニット29が、図1図5に示す如く吸込チャンバC1内に配置される。保水体30および加湿ユニット29は、還気A2の流通する流路の断面に対して一部を占めるように配置されており、加湿ファン31を作動させると、吸込チャンバC1を流れる還気A2のうち一部が加湿ユニット29に引き込まれ、保水体30を通って加湿されて排出され、連通口28に流れる。加湿ユニット29に引き込まれない残りの還気A2は、加湿ユニット29および保水体30を迂回して連通口28に流れる。加湿ファン31を作動させなければ、還気A2はほぼ全量が加湿ユニット29に引き込まれることなく連通口28に流れる。
【0054】
このように、本実施例の加湿ユニット29は気化方式を採用しているが、加湿量については加湿ファン31の回転数を制御することで自在に制御することができる。一般的な気化方式の加湿器の場合、エレメント(本実施例の保水体30に相当)に保持される水の量が多く、上部の滴下水量を制御したところで通風に対して蒸発量を制限できず、加湿量を即時的に調整できないために加湿量を細かく制御することが難しいが、本実施例の如き加湿ユニット29であれば、気化方式を採用しつつ、還気A2全体量の部分であるが大きな割合を加湿ファン31で引き込んで加湿を乗せた空気量を加湿ファン31の回転数制御つまり風量制御でき、還気A2の流れに戻すことで、加湿量を比例制御することができる。これにより、加湿量を工業用クリーンルームに要求される精度で十分精密に制御することができるのである。
【0055】
また、加湿ユニット29はスプレー方式の加湿器ではないので、気化していない水滴が還気A2に乗ってさえぎり部分で滴下飛散したり、さらに循環空気に乗って機器5等に空気中の塵埃などを含んだ汚い水滴として付着するといった事態について特に考慮する必要がない。したがって、吸込チャンバC1のような狭い空間にも支障なく設置することができ、限られたスペースに設置するにあたって有利である。
【0056】
非高度清浄域S2の還気A2が冷却ユニット6を通って清浄前の室内向空気として上部天井内空間Cへ移動する際には、非高度清浄域S2から吸込ダクト27を通って一旦吸込チャンバC1に入り、そこから冷却ユニット6の設置された連通口28を通って上部天井内空間Cに到達する。この過程において、清浄前の室内向空気は送風ユニット2から高度清浄域S1に清浄室内向空気A1として送り込まれる前に、還気A2として通過した連通口28において冷却ユニット6で冷却される。さらに必要に応じ、冷却ユニット6において冷却される前に、吸込チャンバC1に設置された加湿ユニット29で加湿される。
【0057】
こうして、上部天井内空間Cから送風ユニット2を介して高度清浄域S1に供給された清浄室内向空気A1は、機器5の排熱を回収しつつ非高度清浄域S2に流れて還気A2となり、さらに吸込ダクト27から吸込チャンバC1を経由し、連通口28から上部天井内空間Cへ清浄前の室内向空気として戻る。こうした空気の循環にかかる搬送力は、送風ユニット2の静圧により賄うことができ、冷却ユニット6における空気の通過や、吸込チャンバC1における空気の流通等に関し、特に送風のための機構を別途配置する必要はない(ただし、本発明を実施するにあたり、送風ユニット2だけで搬送力が不足するような場合には、冷却ユニット6や吸込チャンバC1等に送風のための機構を設置し、搬送力を補っても良い)。
【0058】
以上のような空気の流れにおいて、加湿ユニット29が吸込チャンバC1に配置されていることは、加湿の効率の面でも有利である。非高度清浄域S2に到達した清浄室内向空気A1は、機器5の排熱を受け取って昇温し還気A2となり、さらに非高度清浄域S2の上部で熱溜まりを形成する(詳しい温度分布については、後に具体的な数値例を挙げて詳述する)。この熱溜まりにある高温の還気A2が吸込チャンバC1に引き込まれ、連通口28から上部天井内空間Cへ流れるのであるが、ここで吸込チャンバC1内に加湿ユニット29が設置されていると、非高度清浄域S2上部の熱溜まりから引き込まれた高温の還気A2が、連通口28に設けられた冷却ユニット6の前段で加湿ユニット29により加湿されることになる。すなわち、冷却ユニット6にて冷却される前の、高温の状態で絶対湿度がほとんど変わらないので乾いた湿度の低い空気に対して加湿が行われるため、素早く効率の良い加湿が可能である。また、この際、水の気化に伴って還気A2が冷却されることにもなるので、冷却ユニット6や、外調機7(図1参照)において要求される冷熱量を減らし、省エネルギーを図ることもできる。
【0059】
尚、ここでは上部天井内空間Cの一端側に位置する空間を第二の天井側壁26により画成して吸込チャンバC1を形成した場合を例に説明したが、吸込チャンバC1を設置する位置や形式はこれに限定されない。吸込チャンバC1の役割は、上述の通り送風ユニット2から空気を送り出すにあたり、空気を冷却ユニット6に確実に通過させることにあり、この役割を好適に果たし得る限りにおいて、吸込チャンバC1としては種々の形式を採用し得る。
【0060】
例えば、図7に別の実施例として示す如く、搬送レール20の配置が異なる場合には、それに合わせて高度清浄域S1や吸込チャンバC1の配置も変更され得る。図7に示す例では、搬送レール20が平面視でT字状に配置されており、これに伴い、上方に送風ユニット2の設置された高度清浄域S1の形状も平面視でT字状になっている。そして、吸込チャンバC1と非高度清浄域S2とは、第二の天井側壁26を介して直接隣接している。冷却ユニット6は連通口28に設置され、加湿ユニット29は、吸込チャンバC1内における冷却ユニット6の前段に設置されている。非高度清浄域S2内の上方で熱溜まりを形成する還気A2は、第一の天井側壁23に設けた吸込口35から吸込チャンバC1に引き込まれ、加湿ユニット29で必要に応じて加湿されたうえ、冷却ユニット6で冷却され清浄前の室内向空気として連通口28から上部天井内空間Cに送られるようになっている。
【0061】
図8はさらに別の実施例を示しており、ここに示す例では、吸込チャンバC1や第二の天井側壁26、第二の天井25を省略し、非高度清浄域S2と上部天井内空間Cとを連通口28にて直接連通している。連通口28は非高度清浄域S2と上部天井内空間Cとを隔てる第一の天井側壁23に備えられ、冷却ユニット6はコイル部分が上部天井内空間C内に位置するように連通口28に設置されている。非高度清浄域S2の上部で熱溜まりを形成する還気A2は、第一の天井側壁23に設けられた連通口28を通り、冷却ユニット6で冷却され清浄前の室内向空気として上部天井内空間Cに送られる。加湿ユニット29は、非高度清浄域S2の上部で、且つ空気の流れに関して連通口28の手前の位置に設置され、冷却ユニット6の前段で連通口28に引き込まれる前の還気A2に対し加湿を行う。
【0062】
このように、加湿ユニット29は、空間構成にかかわらず、冷却ユニット6の前段に設置すると、冷却される前で温度の高い空気に対して効率よく加湿を行うことができる。特に、図1図8に示した各実施例では、非高度清浄域S2で温度成層をなす還気A2に対して上部寄りの高さに冷却ユニット6を配置し、温度成層のうち床3よりも上方にあって特に温度の高い還気A2を引き込んで冷却するようにしており、このように配置された冷却ユニット6に対して前段に加湿ユニット29を設置することで、高い加湿効率を確実に実現できるようになっている。
【0063】
このほか、例えば上部天井内空間C内の複数箇所に連通するように複数の吸込チャンバC1を設け、各吸込チャンバC1毎に冷却ユニット6を備えるといったこともできる。あるいは、上部天井内空間Cと隣接する場所以外に吸込チャンバC1を設置しても良いし、また例えば、ダクトもしくはチューブ状の空間として吸込チャンバC1を構成することもできる。こうした配置は、高度清浄域S1への適切な送風や、空気の冷却効率等を考慮して適宜決定すべきである。ただし、対象空間S内における床3上のスペースの有効利用や、冷却ユニット6における経済的な熱交換といった観点からは、本明細書や図面に示した各実施例の如く、吸込チャンバC1を上部天井内空間Cと同じ高さに形成すると共に吸込ダクト27や連通口28により空気の流路を形成し、連通口28に備えた冷却ユニット6で空気を冷却するよう構成することが最も好ましく、且つ簡便である。加湿ユニット29の位置については、冷却ユニット6の前段の適宜位置に設定すれば良い。
【0064】
上記した第一実施例に関し、空気の循環、および室内における温度の分布を、さらに数値例を挙げつつ説明する。高度清浄域S1の上方の天井1には、送風ユニット2が所定の送風量や清浄度を満たし得るように適当な密度で設置されており、送風ユニット2から下向きに吹き出される清浄室内向空気A1は、送風ユニット2の設置数がある程度密に多くなっていて垂壁24により床方向へ導かれるので、ほぼダウンフローとなって高度清浄域S1に流れる。清浄室内向空気A1は、機器5の前面部5aを下向きに流れ、垂壁24の下端や機器5の端面を迂回する側方流れとなって非高度清浄域S2ヘ押し出される。機器5の前面部5aでの発熱量は、機器のそれ以外での発熱量に比べ半分以下例えば3割である。非高度清浄域S2では、機器5の発熱が多い部分の側方をなめながら清浄室内向空気A1は還気A2の流れとなり、天井1より上方に位置する吸込ダクト27の入口に向かうアップフローとなる。
【0065】
送風ユニット2における吹出温度は一例として以下のように設定される。高度清浄域S1において接触するポッドや接触可能性のあるポッド内製品の温度条件、排気のための給気温度として例えば23℃に設定されていれば、送風ユニット2における吹出温度は20℃であり、天井搬送の発熱量や機器5の前面部5aの発熱量を処理して23℃となる。上部天井内空間Cから送風ユニット2を通って20℃で供給される清浄室内向空気A1は、下方の高度清浄域S1へ送り込まれ、搬送レール20や機器5の前面部5aへ吹き付けられる(図1図5参照)。搬送車21により搬送され、収容されるポッドが搬送車21から下降され機器5に受け渡される被加工物18は、送風ユニット2で浄化されて間のない清浄室内向空気A1を吹き付けられ、清浄に保たれる。
【0066】
次に、清浄室内向空気A1は、機器5同士の間や、機器5と垂壁24との間、垂壁24と床3との間を抜けて非高度清浄域S2へ移る。非高度清浄域S2では被加工物18の受け渡しや搬送が行われないため、仮に高度清浄域S1から非高度清浄域S2へ至る途中で清浄室内向空気A1の清浄度が低下し還気A2となったとしても、その状態の還気A2が被加工物18に直接接触する虞はない。
【0067】
上述の如く、機器5は前面部5aが高度清浄域S1へわずかに突出するように配置されており、清浄室内向空気A1は、高度清浄域S1から非高度清浄域S2へ移動するまでの間に機器5の前面部5aから排熱を受け取る。この過程で前面部5aから清浄室内向空気A1が受け取る排熱は、機器5全体の発熱の例えば3割程度である。
【0068】
非高度清浄域S2に向かう清浄室内向空気A1は、さらに機器5の前面部5a以外の部分(背面部5b等)から排熱を受け取って昇温し還気A2となる。非高度清浄域S2は天井1が設置されず、スラブ面22が露出した直天井構造となっており、高温の還気A2は非高度清浄域S2をスラブ面22の近傍まで上昇し、熱溜まりを形成する。熱溜まりにおける還気A2の温度は、例えば30℃程度である。還気A2は機器5の前面部5aのように製品に触れる可能性はなく、排気に用いられる空気も前面部5aから機器へ導入されるので、機器内温度条件23℃より高くてよい。すなわち、機器5全体の排熱を受け取った結果、清浄室内向空気A1は吹出温度の20℃から10℃程度昇温する。前述のように、高度清浄域S1において清浄室内向空気A1が機器5の前面部5aから受け取る排熱は機器5全体の排熱の3割程度なので、非高度清浄域S2へ移行する直前における清浄室内向空気A1の温度は23℃程度である。これは、基板等である被加工物品18にとって適正な温度である。冷却ユニット6では、この機器5の前面部5aにおける適正温度23℃を保つため、非高度清浄域S2へ移行する直前の清浄室内向空気A1の温度を計測し、これに基づいて冷媒の温度等を調整し、熱交換量を制御する。
【0069】
昇温した還気A2が非高度清浄域S2を上昇する際、非高度清浄域S2の上方と、上部天井内空間Cとの間に設けられた第一の天井側壁23が非高度清浄域S2を囲む形で鉛直の逆向き槽の如き役割を果たし、還気A2は、この逆向き槽状の空間で温度成層を形成しながらゆっくりと上方へ運搬されることになる。併せて、第一の天井側壁23の下方に設けられた垂壁24も同様の役割を果たす。尚、この温度成層の下方における清浄室内向空気A1から還気A2へなりかける途中の空気の温度は、機器5からの排熱を受け取りつつも周辺の冷えた清浄室内向空気A1と混合するため、25℃前後である。温度成層の上方においては、上述の通り30℃程度である。ここで、非高度清浄域S2の平面積が高度清浄域S1の平面積と同等以上に設定されていると、全体としてゆっくりした清浄室内向空気A1の流れが形成されやすく、さらに安定した温度成層が形成されやすい。
【0070】
また、垂壁24は、高度清浄域S1と非高度清浄域S2との間を隔てることで、送風ユニット2から高度清浄域S1に供給されて間もない清浄且つ比較的低温の清浄室内向空気A1に、非高度清浄域S2内の還気A2が混合することを抑える機能をも担っている。送風ユニット2から下方へ向かう清浄室内向空気A1の流れと、機器5の近傍から上方へ向かう還気A2の流れを垂壁24により分割することで、非高度清浄域S2内の還気A2の状態(温度や清浄度)が、高度清浄域S1内の清浄室内向空気A1の状態に大きく影響することを防いでいるのである。
【0071】
尤も、高度清浄域S1に十分な数の送風ユニット2を配置し、送風ユニット2から下へ向かう清浄室内向空気A1の送風量を確保すれば、仮に垂壁24を設置しないとしても、高度清浄域S1において生じる強いダウンフローにより一定の清浄度を保つことは可能である。ただし、高度清浄域S1における清浄度をより確実に保持するためには、やはり垂壁24を設置することが好ましい。また、垂壁24は、上述の如く温度成層を形成する機能の点や、高度清浄域S1と非高度清浄域S2との清浄室内向空気A1と還気A2との温度差を確保するという点においても有用である。後述するように、空気の循環の観点から、両領域間における清浄室内向空気A1と還気A2との温度差はある程度高く保たれている方が有利である。
【0072】
非高度清浄域S2の上方を囲む第一の天井側壁23の一部に設けられた吸込ダクト27の入口からは、非高度清浄域S2の上方で熱溜まりを形成する30℃程度の還気A2が、吸込チャンバC1へ引き込まれる。吸込チャンバC1に設置された加湿ユニット29の加湿ファン31がある回転数で作動している場合、吸込チャンバC1内の還気A2の一部は加湿ユニット29に引き込まれ、加湿されると共に冷却されて排出される。ここで、加湿ユニット29に引き込まれる還気A2の温度は30℃程度と高いので、保水体30における水の気化が効率よく進行し、加湿・冷却を効果的に行うことができる。
【0073】
加湿ユニット29から排出された還気A2は、加湿ユニット29を迂回した還気A2と合流し、連通口28へ流れる。還気A2は、さらに連通口28に設けられた冷却ユニット6にて20℃程度の温度まで冷却されて上部天井内空間Cへ清浄前の室内向空気として戻され、送風ユニット2から除塵されたのち、高度清浄域S1へ清浄室内向空気A1として再度供給される。
【0074】
以上のような空気の循環は、主に送風ユニット2におけるファンの動作により駆動されるが、このほかに、空気の比重差も機能する。すなわち、高度清浄域S1には20℃程度の清浄室内向空気A1が供給される一方、非高度清浄域S2には25℃前後~30℃程度の相対的に高温で比重の小さい還気A2が位置することになり、こうした比重の差が手伝って、高度清浄域S1から垂壁24の下方を回り込んだ清浄室内空気が、非高度清浄域S2において垂壁24や第一の天井側壁23に囲まれた空間を上昇するのである。
【0075】
一方、図12に示す如き従来例の場合、機器5全体に清浄室内向空気を吹き付け機器5のどの部位においても適正温度(23℃程度45%RH程度)を保つために、送風ユニット2における吹出温度は、発熱を処理した還気A2までの熱負荷100%を処理するため、室内で除湿が生じないようこの適正温度の露点温度でのドライコイルでの冷却最大温度差8℃で処理できる15℃に設定される。清浄室内向空気A1は、ここから還気A2として床下へ抜けるまでの間に、機器5の排熱を受け取って23℃程度まで上昇する。そして、冷却ユニット6において15℃まで冷却され、再度送風ユニット2へ送られる。
【0076】
このように、図12に示す上記従来例と、図1図5に示す本実施例を比較すると、各所における空気の温度が合理的に異なってよいこととなり、本実施例では、空調システム全体の平均温度を上記従来例と比較して底上げしつつ、機器5周囲の温度は非高度清浄域S2においては25℃前後とし、高度清浄域S1に面する前面部5aでは23℃程度の適温を保つような制御が可能となっている。こうした温度設定は、従来例のように対象空間S全体における排熱量を基準として設定温度を決め、全体の温度を一律に管理するのではなく、対象空間S内に清浄室内向空気A1及び還気A2の温度が相対的に高い領域と低い領域を設定し、特に冷却を要する領域(本実施例の場合は、機器5の周辺、特に前面部5a付近)をその他の領域(本実施例の場合は、非高度清浄域S2の上方)よりも上流側とすることで実現されている。換言すれば、冷却された空気の供給対象を精密な温度制御が必要な高度清浄域S1に限定し、その他の領域における設定温度を上昇させることで、冷却に必要な冷熱量を小さくしているのである。
【0077】
また、冷却ユニット6に供給される冷媒の冷却効率の点でも本実施例は有利である。従来例の場合、23℃の還気A2を冷却ユニット6で15℃まで冷却しなくてはならない。また、冷却ユニット6において空気中の水分が凝縮して予期せぬ除湿が生じないようにすることも考慮に入れ、冷却ユニット6に供給される冷媒の温度は、例えば入口で10℃、出口で15℃程度に設定される(23℃における相対湿度が45%の空気の場合)。一方、本実施例では、加湿ユニット29の加湿ファン31を作動させない場合、冷却ユニット6においては30℃の還気A2を20℃まで冷却することになる。この場合、冷却ユニット6に供給される冷媒の温度は、入口で15℃、出口で20℃程度である。加湿ファン31を作動させて還気A2を加湿・冷却する場合は、30℃よりは多少低い温度となった還気A2を冷却ユニット6で冷却することになるが、そうであっても、冷媒の温度設定は従来例と比較すれば十分に高くなる。
【0078】
冷却ユニット6に冷媒を供給する冷熱源(図示せず)においては、往き冷媒温度が高いほど、蒸発器と凝縮器との圧力差が小さくなることで冷熱発生量と圧縮機での仕事とのKW比率である成績係数COPが高くなる。したがって、図示しない前記冷熱源において冷媒の冷却のために消費されるエネルギーについても、本実施例であれば消費量を抑えることができるのである。さらに、中間期や冬季においては冷媒の冷却に外気の冷熱を利用したフリークーリングを行うことがあるが、往き冷媒温度が高ければ、それだけフリークーリングの利用できる期間は長くなり、いっそうの省エネルギー化を図ることができる。また無論、冷媒の温度が高ければ、その分だけ冷却ユニット6の表面における水分の凝縮はいっそう生じにくく、予期せぬ除湿が発生する心配もない。
【0079】
空気の循環を駆動するエネルギーに関しても、本実施例では空気の比重差により駆動される割合が大きくなっており、ここでも省エネルギー効果を得ることができる。すなわち、従来例では清浄室内向空気A1の吹出温度は約15℃、機器5の排熱を受け取った後の温度は23℃前後であり、温度差は8℃程度であったが、本実施例では、清浄室内向空気A1の吹出温度は約20℃、非高度清浄域S2の上方で熱溜まりを形成する還気A2の温度は30℃程度であり、温度差は10℃程度である。空気の比重差は温度差に比例するため、本実施例の場合、空気の比重差による駆動力が大きくなる分、送風ユニット2において、空気の循環に必要なファンの駆動エネルギーが小さく済む。
【0080】
ここで、上述の如く吸込ダクト27がスラブ面22の直下に設置されていると、非高度清浄域S2の上方で熱溜まりを形成する30℃程度の温度の高い還気A2を吸込ダクト27から定常的に吸い込み、冷却することになる。冷熱を運搬する空気の温度差が、上記従来例では8℃程度であるところ、本実施例では10℃ほどの大温度差となるので、同じ熱量を運搬するのに必要な風量は8/10となり、送風量を2割も減らすことができる。また、比重差による駆動力を得る上でもより有利である。
【0081】
上述の如き本実施例のクリーンルームの空調システムにおいて、外気A3として取り込まれた空気が還気A2と混合し、清浄室内向空気A1として供給され、清浄室内向空気A1または還気A2として循環するまでの温度および湿度の変動と、これに伴う省エネルギー効果について、さらに図11のT-X空気線図を用いて説明する。
【0082】
図9は、本実施例との比較対象として想定した参考例である。基本的な構成は図12に示した従来例と同様であるが、本参考例の場合、加湿器17にあたる構成を備えておらず、清浄室内向空気A1の湿度の調整に関しては、外調機7のエアワッシャなど水加湿器14で全てを賄っている。
【0083】
このような参考例における空気の温度および湿度の変動を図10に模式的に示す。冬季の外気条件を想定した場合、外調機7に引き込まれる前の外気A3は、例えば図中の飽和蒸気曲線に対して左下、Aの符号にて示した位置に相当する状態である。
【0084】
加湿器14が空気に対して液体の水を添加し、気化させる方式の加湿装置である場合、予熱コイル10および加熱コイル12により、図中にBの符号にて示す位置まで外気A3を加熱する。続いて、外気A3は加湿器14により、等エンタルピ線に沿ってB点と飽和曲線との交点の線分長に加湿飽和効率を乗じたCの符号にて示す位置まで加湿・冷却される。ここで図中Baの符号にて示す位置は、外気A3が予熱コイル10により加熱され、更に、冬季には熱交換しない冷却コイル11を越えた出口で加熱コイル12により加熱される前の段階を示している。
【0085】
加湿器14が空気に対して低圧蒸気を添加する方式の加湿装置である場合、Aの位置にある外気A3は、予熱コイル10および加熱コイル12によって上記C点と同じ乾球温度のB'の符号にて示す位置まで加熱され、さらに図中に破線にて示す如く、加湿器14によってCの位置まで加湿される。
【0086】
続いて、床下に導入された外気A3は、床下の空間内の還気A2と混合し、ここで温度が上昇する(図中D)。さらに、ドライコイルである冷却ユニット6で冷却されたうえで(図中E)、清浄室内向空気A1として対象空間S内に導入され、機器5の排熱により昇温する。そして、還気A2として床下に戻る(図中F)。
【0087】
図1図5に示す本実施例では、空気の温度および湿度の変動を図11に示し、例えば外調機7での加湿量受持ち50%量で室内の加湿ユニット29全体の加湿量受持ち50%として説明する。Aの位置にある外気A3が、水加湿の場合はG、または蒸気加湿の場合はG'の位置を経て、必要な加湿量の半分の絶対湿度であるHの位置まで加熱・加湿される。続いて、清浄室内向空気A1は排熱を受け取りつつ還気A2となりアップフローにより非高度清浄域S2内を上昇し、上方で熱溜まりを形成する。熱溜まりの最上方の還気A2がIの位置として吸込チャンバC1内に引き込まれる。
【0088】
さらに、吸込チャンバC1など非高度清浄域S2の上部に導入された外気A3は、ここで機器5の排熱を受け取った熱だまり最上方還気A2とそれぞれの風量比(例えば1:7)で混合し、温度および湿度が上昇する(図中J)。吸込みチャンバC1内では加湿ユニット29に吸引された空気は加湿・冷却され(図中K)、加湿ユニット29に吸い込まれなかった空気は素通りして混合され(図中L)、集まった熱処理中の還気A2は、冷却ユニット6で冷却され(図中M)、送風ユニット2の吸引から筐体の下側HEPAフィルタへ吹出すことで清浄室内向空気A1として対象空間S内の高度清浄域S1に供給される。高度清浄域S1に供給された清浄室内向空気A1は、機器5の排熱を受け取って昇温し還気A2となり、吸込チャンバC1など非高度清浄域S2の上部にて外気A3と混合される(図中J)。このように空気は図11に示すT-X空気線図上で動く。
【0089】
本実施例の空調システムでは、図9図10に示す参考例と異なり、加湿の一部を屋内の加湿ユニット29が担っている。このため、外調機7における加湿量は参考例と比較して図11の例では50%と少ない。つまり、図11におけるHの位置での湿度が、図10におけるCの位置での湿度と比較して絶対湿度差として半分となり加湿量も半分である。したがって、加湿器14が空気に対して液体の水を添加し、気化させる方式の加湿装置である場合は、予熱コイル10および加熱コイル12による加熱量(Aの位置からGの位置までの左右方向の距離)が少なく済み、また、加湿器14において添加する水の量(Gの位置からHの位置までの上下方向の距離)が少なく済む。また、飽和線近くまでシビアに加湿を乗せることが少なくなり加湿飽和効率の高さを要求しない。加湿器14が空気に対して低圧蒸気を添加する方式の加湿装置である場合は、加湿器14において添加する水蒸気の量(G'の位置からHの位置までの上下方向の距離)が少なく済む。
【0090】
クリーンルームを備えた施設においては、通常、クリーンルームの他に図示しない付帯室等が設けられており、外調機7は、クリーンルームである対象空間Sのほか、それらの付帯室の空調も担っていることが普通である。ここで、図9に示す参考例の如く、クリーンルームである対象空間Sの加湿の全部を外調機7で賄うようにすると、対象空間Sに対して行うのと同様の加湿を付帯室等に対しても行うことになる。つまり、図10にCの位置で示す状態の空気を、対象空間Sの他に付帯室等に対しても供給することになる。これに対し、本実施例の場合は、図11にHで示す状態の空気が対象空間Sおよび付帯室等に供給され、その後、対象空間Sに供給される空気に対してのみ、改めて加湿ユニット29により加湿が行われることになる。このため、施設全体における合計の加湿量を大幅に減らし、加湿に要するエネルギーを節減することができる。
【0091】
尚、ここでは本発明の実施例として外調機7を備えた空調システムを例示したが、要求される加湿量や冷熱量、クリーンルームおよびその周辺のレイアウト、その他の条件によっては、外調機を備えず、温度および湿度の調整の全部を室内の冷却ユニット6と加湿ユニット29で賄うことも原理的には可能である。
【0092】
また、本実施例の空調システムは、上述の如き温度管理に関するエネルギー面での利点と同時に、清浄度の管理においても品質及びコストの面で利点を有している。すなわち、本実施例では、上述の如く対象空間Sのうち高度清浄域S1に送風ユニット2からの空気を集中して供給することで、大きい空間内の空気を一律に浄化する場合と比較して、必要な送風ユニット2の設置台数を減らすことも可能である。こうして、空気の浄化にかかるコストを節減しつつ、高度清浄域S1では高い清浄度を保つことができる。
【0093】
この際、空気清浄の対象空間Sとして、仕切りのない大空間を設定できることも本実施例における利点の一つである。送風ユニット2の集中配置により、床3上に仕切りがなくとも局所的に清浄度の高い高度清浄域S1を設定することができ、大空間である対象空間Sを利用する上で高い清浄度と自由度を両立できるのである。ここで、高度清浄域S1と非高度清浄域S2との境界の床3や機器5よりも上の位置に垂壁24を設置すれば、高度清浄域S1においては清浄度に関して一層高い信頼性を保ちつつ、床3上における機器5のレイアウト変更等には柔軟に対応することができる。
【0094】
ここで、クリーンルームで被加工物を加工するにあたっては、一時的に被加工物を対象空間内の一部にストックすることがある。この被加工物のストック場所に関し、間仕切り式の古い型のクリーンルームでは、例えば垂直棚式のストッカーを対象空間の床上に備えるようにしていたが、上記従来例や本実施例の如き天井搬送装置19を採用したクリーンルームの場合、搬送レール20にストック用待避線を設け、ストッカーの機能を天井搬送装置19に代替させることが可能である。こうすることで、床上に間仕切りを備えることによる機器配置自由度の低下を回避し、高価な床上搬送のイニシャルコストを削減することに成功している。
【0095】
尤も、天井搬送装置19にも移設に関し不自由さがあることは否めない。つまり、搬送レール20は天井構造物やスラブ面22から吊られて強固に固定されているので、搬送レール20の配置を変更したり、搬送レール20を移設するといった工事には手間やコストが嵩む。このため、結局、被加工物18の搬送ルートはある程度固定化されるし、また、機器5の配置も搬送レール20の配置によって影響される。したがって、本発明においても、大空間のクリーンルームを実現するにあたり、対象空間Sにおける高度清浄域S1の位置はある程度固定されることになる。しかしながら、本実施例では、ある程度固定された高度清浄域S1に対し、送風量に応じた台数の送風ユニット2を発熱も考慮しながら自在に設置できるという点で、上記従来例と比較して有利である。また、非高度清浄域S2の中では、機器類の配置転換は自由にできる。
【0096】
さらに、本実施例では、上記従来例の如きレタンシャフト4(図12参照)を不要とし、対象空間Sをより有効に利用することができるようになっている。すなわち、上記従来例においては、対象空間Sに供給した空気を床下から天井1の上方へ戻すためのレタンシャフト4が必要であり、このレタンシャフト4の分だけ空間に無駄が生じて利用効率が低下していた。一方、本実施例の場合、対象空間Sのうち高度清浄域S1に送られた空気は、同じ対象空間S内の別の領域である非高度清浄域S2内を上昇して上部天井内空間Cへ戻る。いわば、第一の天井側壁23や垂壁24、及びそれらに囲まれた非高度清浄域S2がレタンシャフト4の代わりをする形であるが、第一の天井側壁23や垂壁24は上述の如く床3より上にあり、垂壁24の寸法は機器5の移動を妨げないように設定されている。よって、これらが対象空間Sの利用に関して自由度を下げることはない。こうして、本実施例では、維持に高い費用を要するクリーン空間の利用効率を高めている。
【0097】
また、実施例の空調システムでは、高度清浄域S1での強いダウンフローの後、側方流れから非高度清浄域S2におけるアップフローへ転換する流れにより、床下の空間を経ることなく空気が循環される。上記従来例においては、空気を確実に循環させるために、床3に設けた開口から床下の空間に空気を引き込んで下向きの気流を形成していた。これに対し、本実施例では空気の循環に床下の空間を利用する必要がない。よって、床下の空間を別の用途、例えば機器5の補機を設置する専用のエリアや、何らかの作業用の空間等として利用することができる。あるいは、図1図3では床3を上げ床として図示しているが、クリーンルームの用途等によっては床3を上げ床とせず、スラブ床の床面、またはスラブ床の床面に沿って設けた床面をそのまま床3として利用することも可能である。また、上記従来例では床3の開口からの吸込み気流の調整に手間がかかってしまうが、こうした操作も不要である。
【0098】
以上のように、上記各実施例のクリーンルームの空調システムは、対象空間Sのうち、他の領域に比べて高い清浄度の要求される領域を高度清浄域S1に設定すると共に、該高度清浄域S1以外の領域を非高度清浄域S2に設定し、高度清浄域S1の上方に、浄化した空気(清浄室内向空気A1)を下方へ向けて供給する送風ユニット2を備え、高度清浄域S1に供給された空気(清浄室内向空気A1)は、床3上を通って非高度清浄域S2に至り、該非高度清浄域S2内を上昇し還気A2となって、送風ユニット2から再度高度清浄域S1に供給されるよう構成され、非高度清浄域S2を上昇して送風ユニット2へ至る空気(還気A2)を冷却する冷却ユニット6と、冷却ユニット6の前段において空気(還気A2)を加湿する加湿ユニット29とを備えている。こうすることにより、空気の浄化に係るコストを節減すると共に、高度清浄域S1では高い清浄度を実現することができる。また、高度清浄域S1に対し空気をダウンフローにて供給することができ、且つ空気の循環に床下の空間を利用する必要がない。そして、冷却ユニット6により冷却される前の空気を加湿ユニット29により加湿することで、効率よく加湿を行うことができる。
【0099】
上記各実施例において、加湿ユニット29は、水を保持する保水体30と、該保水体30に対して空気を吹き付ける加湿ファン31と、該加湿ファン31の回転数を制御できる回転数制御装置31aとを備えて構成することができる。このようにすると、加湿器として気化方式の加湿ユニット29を採用しつつ、加湿ファン31に取り込む風量を湿度センサの信号に基づいてファンの回転数制御として比例制御することにより、加湿量をクリーンルームに要求される精度で十分精密に制御することができる。
【0100】
上記各実施例は、高度清浄域S1と非高度清浄域S2との間における床3より上方の位置に、鉛直方向に沿って延びる垂壁24を備えている。このようにすると、高度清浄域S1を送風ユニット2から下方へ向かう空気の流れと、非高度清浄域S2を上方へ向かう空気の流れを垂壁24で分割することにより、非高度清浄域S2内の空気の状態が、高度清浄域S1内の空気の状態に大きく影響することを防ぐことができる。
【0101】
一部の実施例において、高度清浄域S1の上方には、送風ユニット2と送風ユニット2の無いところに載置される閉鎖パネル2aとが設置された天井1が位置し、天井1の上側の空間は、天井側壁23により上部天井内空間Cとして画成され、送風ユニット2は、上部天井内空間C内の空気を高度清浄域S1へ供給するよう天井1に設置され、冷却ユニット6および加湿ユニット29は、天井1から上方に設置された構成としている。このようにすると、冷却された空気の供給対象を精密な温度制御が必要な高度清浄域S1に限定し、その他の領域における設定温度を上昇させることで、冷却に必要な冷熱量を小さくすることができる。
【0102】
一部の実施例において、非高度清浄域S2の室壁側の一部上方には第二の天井25が位置し、第二の天井25の上側の空間は、第二の天井側壁26により吸込チャンバC1として画成され、冷却ユニット6は、吸込チャンバC1から上部天井内空間Cへ至る経路に設置され、加湿ユニット29は、吸込チャンバC1内に設置され、非高度清浄域S2から上部天井内空間Cへ移動する空気は、第二の天井側壁26の開口から吸込チャンバC1を経由し、送風ユニット2により高度清浄域S1に供給される構成としている。
【0103】
一部の実施例において、第二の天井25は、天井1と同じ高さで連続し、吸込チャンバC1は、上部天井内空間Cと隣接する構成としている。このようにすると、第二の天井25にかかる設置の手間やコストの面で簡便である。
【0104】
一部の実施例は、天井側壁23に、非高度清浄域S2内の空気を上部天井内空間Cへ導く吸込口35を備え、吸込口35に冷却ユニット6を備え、非高度清浄域S2内における冷却ユニット6の前段に加湿ユニット29を備えた構成としている。
【0105】
各実施例において、対象空間Sには、被加工物18を搬送する天井搬送装置19を構成する搬送レール20が設置された構成とし、高度清浄域S1として、搬送レール20の周辺の領域を設定している。
【0106】
したがって、上記各実施例によれば、加湿器の設置に係る制約を極力排し得る。
【0107】
尚、本発明のクリーンルームの空調システムは、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0108】
1 天井
2 送風ユニット
2a 閉鎖パネル
3 床
6 冷却ユニット
18 被加工物
19 天井搬送装置
20 搬送レール
23 天井側壁
24 垂壁
25 第二の天井
26 第二の天井側壁
28 連通口
29 加湿ユニット
30 保水体
31 ファン
31a 回転数制御装置
35 吸込口
A1 空気(清浄室内向空気)
A2 空気(還気)
C 天井内空間(上部天井内空間)
C1 吸込チャンバ
S 対象空間
S1 高度清浄域
S2 非高度清浄域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12