(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】グラウンドアンカー及びグラウンドアンカー工法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/80 20060101AFI20230213BHJP
E02D 17/04 20060101ALI20230213BHJP
E21D 9/06 20060101ALI20230213BHJP
【FI】
E02D5/80 Z
E02D17/04 Z
E21D9/06 301E
(21)【出願番号】P 2019070839
(22)【出願日】2019-04-02
【審査請求日】2022-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390036504
【氏名又は名称】日特建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】松本 真輔
(72)【発明者】
【氏名】堀 壮大
(72)【発明者】
【氏名】菅 浩一
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 玄之
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-096562(JP,A)
【文献】特開昭61-038016(JP,A)
【文献】特開2001-262564(JP,A)
【文献】特開2013-117100(JP,A)
【文献】特開2001-131951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/80
E02D 17/04
E21D 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状部材と、
前記線状部材の第1端部の外面を覆うように配置され、両端部と前記線状部材との間がそれぞれ封止された第1筒状部材と、
前記線状部材の外面における前記第1筒状部材よりも前記線状部材の第2端部側の部分を覆うように配置され、両端部と前記線状部材との間がそれぞれ封止された第2筒状部材と、
第1端部が前記第1筒状部材と前記線状部材との間に配置され、第2端部が前記第1筒状部材の外部に配置された第1管状体と、
第1端部が前記第2筒状部材と前記線状部材との間に配置され、第2端部が前記第2筒状部材の外部に配置された第2管状体と、
を備え
、
前記第2筒状部材における前記第1筒状部材側の前記端部である第1端部は、前記線状部材の外面に固定され、
前記第1筒状部材における前記第2筒状部材側の前記端部である第1端部は、前記第2筒状部材の前記第1端部の外周面を覆った状態で、前記第2筒状部材の前記第1端部に固定されているグラウンドアンカー。
【請求項2】
前記第1筒状部材における前記第1筒状部材の軸線方向の中間部は、前記第1筒状部材の前記第1端部に対して折り返されている
請求項1に記載のグラウンドアンカー。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のグラウンドアンカーを地盤に固定するグラウンドアンカー工法であって、
前記地盤に管材を挿入して前記地盤に挿入穴を形成し、
前記管材内に前記グラウンドアンカーを挿入し、
前記管材から前記第1筒状部材が露出するように、前記地盤に対して前記管材を引き抜き、
前記第1管状体を通して前記第1筒状部材内に固化材を注入して前記第1筒状部材を拡径させ、前記地盤における前記挿入穴の周縁部に前記第1筒状部材を固定し、
前記管材から前記第2筒状部材が露出するように、前記地盤に対して前記管材を引き抜き、
前記第2管状体を通して前記第2筒状部材内に固化材を注入して前記第2筒状部材を拡径させ、前記地盤における前記挿入穴の周縁部に前記第2筒状部材を固定するグラウンドアンカー工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラウンドアンカー及びグラウンドアンカー工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネル工事等において、シールド工法が用いられている。シールド工法では、最初に、地盤に縦穴たる立坑が形成される。立坑には、土圧等に対抗して立坑内の空間を保持するための土留め壁が設けられている。土留め壁には、通常、シールド掘削機が発進・到着する際に開口を形成しなければならない。
【0003】
近年、立坑の土留め壁に、繊維で補強された樹脂成形体(例えば、FRP(Fiber Reinforced Plastics)等)により構成された部材を組み込み、この樹脂成形体を設けた部分(切削可能領域)の曲げ強度をグラウンドアンカーを用いて間接的に補強する方法(グラウンドアンカー工法)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に開示されたグラウンドアンカー工法では、切削可能領域をシールド掘削機で直接的に切削し、土留め壁に開口を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
グラウンドアンカーを用いて切削可能領域を補強するには、切削可能領域及び地盤にケーシングパイプ(管材)を挿入して挿入穴を形成する。ケーシングパイプ内にグラウンドアンカーを挿入し、地盤に対してケーシングパイプを引き抜く。グラウンドアンカーのパッカー(筒状部材)内にグラウト材等の固化材を注入してパッカーを拡径させ(パッカーの外径を大きくさせ)、地盤における挿入穴の周縁部とパッカーの外周面との間に作用する摩擦力により、地盤における挿入穴の周縁部にパッカーを固定する。グラウンドアンカーのグリップに嵌め合うナットで切削可能領域を押さえることで、切削可能領域を補強する。
【0006】
しかしながら、地盤に対してケーシングパイプを引抜くと、ケーシングパイプとグラウンドアンカーとの間に作用する摩擦力等により、ケーシングパイプと同時にグラウンドアンカーも引き抜かれてしまうという、共上がりの問題が生じる。
共上がりが生じたグラウンドアンカーを棒等で押込みながらケーシングパイプを引抜くことも考えられるが、共上がりによりグラウンドアンカーの位置決め精度が低下する上に、押込み作業により施工工数が増加する。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、管材を引き抜く際の共上がりを抑制したグラウンドアンカー及びグラウンドアンカー工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明のグラウンドアンカーは、線状部材と、前記線状部材の第1端部の外面を覆うように配置され、両端部と前記線状部材との間がそれぞれ封止された第1筒状部材と、前記線状部材の外面における前記第1筒状部材よりも前記線状部材の第2端部側の部分を覆うように配置され、両端部と前記線状部材との間がそれぞれ封止された第2筒状部材と、第1端部が前記第1筒状部材と前記線状部材との間に配置され、第2端部が前記第1筒状部材の外部に配置された第1管状体と、第1端部が前記第2筒状部材と前記線状部材との間に配置され、第2端部が前記第2筒状部材の外部に配置された第2管状体と、を備え、前記第2筒状部材における前記第1筒状部材側の前記端部である第1端部は、前記線状部材の外面に固定され、前記第1筒状部材における前記第2筒状部材側の前記端部である第1端部は、前記第2筒状部材の前記第1端部の外周面を覆った状態で、前記第2筒状部材の前記第1端部に固定されていることを特徴としている。
【0009】
この発明によれば、例えば地盤に管材を挿入して地盤に挿入穴を形成し、管材内にグラウンドアンカーを挿入する。管材から第1筒状部材が露出するように地盤に対して管材を引き抜く際に、管材から第1筒状部材及び第2筒状部材の両方が露出するように管材を一度に引き抜く場合に比べて管材を引き抜く長さが短くなるため、管材を引き抜く際のグラウンドアンカーの共上がりを抑制することができる。
次に、第1管状体を通して第1筒状部材内に固化材を注入して第1筒状部材を拡径させ(第1筒状部材の外径を大きくさせ)、地盤における挿入穴の周縁部と第1筒状部材の外周面との間に作用する摩擦力により、地盤における挿入穴の周縁部に第1筒状部材を固定する。管材から第2筒状部材が露出するように、地盤に対して管材を引き抜く。この際に、地盤における挿入穴の周縁部に第1筒状部材が固定されているため、管材を引き抜く際の共上がりを抑制することができる。
なお、次に、第2管状体を通して第2筒状部材内に固化材を注入して第2筒状部材を拡径させ、地盤における挿入穴の周縁部に第2筒状部材を固定することにより、地盤にグラウンドアンカーが固定される。
【0010】
また、第1、第2筒状部材内に固化材が注入されると、第1、第2筒状部材の軸線方向の中間部が拡径して地盤における挿入穴の周縁部に固定されるが、第1、第2筒状部材の端部は線状部材の外面等に固定されているため拡径しない。第1筒状部材の第1端部が第2筒状部材の第1端部の外周面を覆っていることで、第1筒状部材の中間部と第2筒状部材の中間部との間に生じる、地盤における挿入穴の周縁部に固定されない部分の軸線方向の長さを短く抑え、所望の摩擦力が生じるのに必要な第1筒状部材及び第2筒状部材全体としての軸線方向の長さを短く抑えることができる。
【0011】
また、上記のグラウンドアンカーにおいて、前記第1筒状部材における前記第1筒状部材の軸線方向の中間部は、前記第1筒状部材の前記第1端部に対して折り返されていてもよい。
この発明によれば、第1筒状部材の中間部と第2筒状部材の中間部との間に生じる、地盤における挿入穴の周縁部に固定されない部分の軸線方向の長さを、さらに短く抑えることができる。
【0012】
また、本発明のグラウンドアンカー工法は、上記のいずれかのグラウンドアンカーを地盤に固定するグラウンドアンカー工法であって、前記地盤に管材を挿入して前記地盤に挿入穴を形成し、前記管材内に前記グラウンドアンカーを挿入し、前記管材から前記第1筒状部材が露出するように、前記地盤に対して前記管材を引き抜き、前記第1管状体を通して前記第1筒状部材内に固化材を注入して前記第1筒状部材を拡径させ、前記地盤における前記挿入穴の周縁部に前記第1筒状部材を固定し、前記管材から前記第2筒状部材が露出するように、前記地盤に対して前記管材を引き抜き、前記第2管状体を通して前記第2筒状部材内に固化材を注入して前記第2筒状部材を拡径させ、前記地盤における前記挿入穴の周縁部に前記第2筒状部材を固定することを特徴としている。
この発明によれば、管材から第1筒状部材が露出するように地盤に対して管材を引き抜く際に、管材から第1筒状部材及び第2筒状部材の両方が露出するように管材を一度に引抜く場合に比べて管材を引き抜く長さが短くなるため、管材を引き抜く際のグラウンドアンカーの共上がりを抑制することができる。また、管材から第2筒状部材が露出するように地盤に対して管材を引き抜いても、地盤における挿入穴の周縁部に第1筒状部材が固定されているため、管材を引き抜く際の共上がりを抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のグラウンドアンカー及びグラウンドアンカー工法によれば、管材を引き抜く際の共上がりを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態のグラウンドアンカーを土留め壁に設置した状態を模式的に示す断面図である。
【
図2】切削可能領域が形成される土留め壁の正面図である。
【
図4】本発明の一実施形態におけるグラウンドアンカー工法を示すフローチャートである。
【
図5】同グラウンドアンカー工法における挿入穴形成工程を説明する断面図である。
【
図6】同グラウンドアンカー工法におけるアンカー挿入工程を説明する断面図である。
【
図7】同グラウンドアンカー工法における第1引き抜き工程を説明する断面図である。
【
図8】同グラウンドアンカー工法における第1固定工程を説明する断面図である。
【
図9】同グラウンドアンカー工法における第2引き抜き工程を説明する断面図である。
【
図10】同グラウンドアンカー工法における第2固定工程を説明する断面図である。
【
図11】本発明の実施形態の変形例におけるグラウンドアンカーの要部の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るグラウンドアンカーの一実施形態を、
図1から
図11を参照しながら説明する。
図1に示すように、本実施形態のグラウンドアンカー1は、地盤(地山)Gに形成された立坑100において、土留め壁101の切削可能領域(構造物)102を補強するのに用いられる。
立坑100は、平面視で四角形状を呈する。切削可能領域102は、立坑100の土留め壁101のうち、シールド掘削機M1の発進方向に位置する土留め壁101(以下、土留め壁101Aとも言う)に形成される。
【0016】
図2に示すように、土留め壁101Aにおいて、切削可能領域102は、上下方向に延びる複数の長尺樹脂体103を備えている。複数の長尺樹脂体103は、水平面に沿う方向のうち土留め壁101Aの外面に沿う方向(以下、水平方向と言う)に互いに間隔を空けて配置されている。例えば、長尺樹脂体103はFRPにより形成されている。切削可能領域102において、複数の長尺樹脂体103の間には、ソイルセメント硬化体104が充填されている。
土留め壁101Aのうち切削可能領域102以外の部分は、シールド掘削機M1により切削されない非切削可能領域106である。非切削可能領域106は、切削可能領域102を上下左右から囲うように配置されている。非切削可能領域106は、上下方向に延びる複数の金属部材107を備えている。複数の金属部材107は、水平方向に互いに間隔を空けて配置されている。非切削可能領域106において、複数の金属部材107の間には、ソイルセメント硬化体108が充填されている。
【0017】
切削可能領域102と非切削可能領域106とを一体にするために、長尺樹脂体103と金属部材107とは、継手及びボルトナット等の締結部材(不図示)により接続されている。互いに接続された長尺樹脂体103と金属部材107との間に、ソイルセメント硬化体104,108が充填されている。
【0018】
図3に示すように、本実施形態のグラウンドアンカー1は、テンドン(線状部材)10と、第1パッカー(第1筒状部材)25と、第2パッカー(第2筒状部材)35と、第1パイプ(第1管状体)45と、第2パイプ(第2管状体)50と、第3パイプ55とを備えている。
テンドン10は、複数のワイヤー部材11を備えている。ワイヤー部材11としては、FRP製のケーブル、具体的には炭素繊維を有する複数の芯線を束ねたケーブルが用いられる。なお、ワイヤー部材11を構成する芯線としては、ガラス繊維を有するものであってもよい。複数のワイヤー部材11は、束ねられた状態で配置されている。
【0019】
テンドン10の第1端部10a側の外面には、テンドン10と同軸に第1シース13が配置されている。第1シース13としては、コルゲート(波形)管が好適に用いられる。以下では、テンドン10において、第1端部10aとは反対側の端部を第2端部10bとし、第2端部10bに対する第1端部10a側を先端側と言い、第1端部10aに対する第2端部10b側を基端側と言う。テンドン10の軸線に沿う方向を、軸線方向と言う。テンドン10の軸線に直交する方向を径方向と言い、テンドン10の軸線回りに周回する方向を、周方向と言う。
第1シース13の内径は、テンドン10の外径よりも大きい。テンドン10は、第1シース13よりも先端側に延びている。第1シース13の内周面とテンドン10の外面との間には、第1止水材14が配置されている。第1止水材14には、ウレタン樹脂が用いられている。第1止水材14は、第1シース13の全長にわたって配置されている。
第1シース13の基端部の外面には、第2止水材15が第1シース13と同軸に配置されている。第2止水材15には、ブチルゴムが用いられている。
【0020】
テンドン10の第2端部10bの外面には、テンドングリップ17が固定されている。テンドングリップ17は、詳細には図示しないが、小径部と、小径部よりも基端側に配置された大径部と、を備えている。小径部及び大径部は、それぞれ円筒状に形成されている。小径部の外径は、大径部の外径よりも小さい。大径部の外周面には、雄ネジが形成されている。小径部及び大径部は、互いに同軸に配置されている。テンドングリップ17は、FRPにより一体に形成されている。
テンドングリップ17の小径部及び大径部の内部にはテンドン10の第2端部10bが配置され、小径部及び大径部に固定されている。
【0021】
テンドングリップ17の小径部には、自由長部シース18の基端部が外嵌されている。自由長部シース18としては、第1シース13と同様のコルゲート管が用いられている。自由長部シース18の内径は、テンドン10の外径よりも大きい。自由長部シース18内には、テンドン10が配置されている。より詳しくは、自由長部シース18内には、テンドン10のうち、外力によって引張り力が発生する部分である自由長部が配置されている。
自由長部シース18の先端部の内周面とテンドン10の外面との間には、第3止水材19が配置されている。第3止水材19には、ウレタン樹脂が用いられている。自由長部シース18の先端部の外面には、第4止水材20が自由長部シース18と同軸に配置されている。第4止水材20には、ブチルゴムが用いられている。
【0022】
テンドングリップ17の小径部及び大径部内には、管部材21が配置されている。この例では、管部材21の第1端部は、テンドングリップ17よりも基端側に突出している。管部材21は、テンドン10に沿って延びている。管部材21における第1端部とは反対側の第2端部は、自由長部シース18内に配置されている。
管部材21の第1端部には、図示しない固化材供給装置が接続される。固化材供給装置は、管部材21を通して自由長部シース18内にグラウト材等の固化材を注入することができる。
【0023】
第2パッカー35は、布又はナイロン樹脂で円筒状に形成されている。第2パッカー35は、テンドン10の外面の一部を覆うように配置されている。第2パッカー35内には、第2パッカー35の軸線方向の全長にわたってテンドン10が配置されている。
第2パッカー35における先端側の端部である第1端部36は、第2止水材15の外面に固定されている。第1端部36は、第2パッカー35における第1パッカー25側の端部である。第2パッカー35の第1端部36は、第2止水材15の外面を覆うように配置され、鋼製のワイヤ等の固定部材40により第2止水材15に固定されている。固定部材40は、第1端部36の外周面に巻き付けられている。
第1端部36は、第2止水材15、第1シース13、及び第1止水材14を介してテンドン10の外面に固定されている。第1端部36とテンドン10との間は、第2止水材15、第1シース13、及び第1止水材14により封止されている。
【0024】
第2パッカー35における、第2パッカー35の軸線方向の中間部37は、第1端部36の基端から基端側に向かって延びている。中間部37は、テンドン10の外面の一部を覆っている。中間部37とテンドン10の外面とは、互いに固定等されていなく、互いに離間できる。
第2パッカー35における中間部37を挟んで第1端部36とは反対側に配置された第2端部38は、中間部37の基端から基端側に向かって延びている。第2端部38は、第4止水材20と同軸に配置され、第4止水材20の外面を覆っている。第2端部38は、固定部材41により第2止水材15に固定されている。第2端部38とテンドン10との間は、第4止水材20、自由長部シース18、及び第3止水材19により封止されている。
【0025】
第1パッカー25は、第2パッカー35と同様に構成されている。第1パッカー25は、テンドン10の第1端部10aの外面を覆っている。第1パッカー25は、第2パッカー35よりも先端側に配置されている。
第1パッカー25における第2パッカー35側の端部である第1端部26は、第2パッカー35の第1端部36の外周面及び固定部材40を覆った状態で、固定部材30により第1端部36及び固定部材40に固定されている。第1端部26とテンドン10との間は、固定部材40、第2パッカー35の第1端部36、第2止水材15、第1シース13、及び第1止水材14により封止されている。
【0026】
第1パッカー25における、第1パッカー25の軸線方向の中間部27は、第1パッカー25の第1端部26に対して折り返されて、第1端部26、及び固定部材30の径方向の外側を通って第2パッカー35とは反対側に向かって、先端側に延びている。すなわち、中間部27は、第1端部26の基端から、第1端部26及び固定部材30の径方向の外側を通って先端側に延びている。中間部27とテンドン10の外面とは、互いに固定等されていなく、互いに離間できる。なお、中間部27における固定部材30の径方向の外側に位置する部分の外周面にゴムテープ等を巻き、中間部27を保護してもよい。
第1パッカー25における中間部27を挟んで第1端部26とは反対側に配置された第2端部28は、中間部27の先端から先端側に向かって延びている。第2端部28は、テンドン10の先端に止水部材31により固定されている。第2端部28とテンドン10との間は、止水部材31により封止されている。
第1パッカー25は、第2パッカー35よりもテンドン10の先端側の部分を覆っている。第1パッカー25内には、第1パッカー25の軸線方向の全長にわたってテンドン10が配置されている。第1パッカー25の軸線方向の長さは、例えば500mmである。
パッカー25,35は、軸線方向に並べて配置されている。
【0027】
第1パイプ45の先端部は、テンドン10に沿って配置され、テープ等の固定部材(不図示)によりテンドン10に固定されている。第1パイプ45では、第1端部45aが第1パッカー25の内周面とテンドン10の外面との間に配置されている。例えば、第1パイプ45は、第2止水材15の外面と第2パッカー35の第1端部36の内周面との間、第4止水材20の外面と第2パッカー35の第2端部38の内周面との間を通して基端側に向かって延びている。第1パイプ45では、第2端部45bが第1パッカー25の外部、すなわちグラウンドアンカー1の外部に配置されている。第1パイプ45の第2端部45bには、図示しない排気装置及び固化材供給装置が接続される。排気装置は、第1パイプ45を通して第1パッカー25内の空気をグラウンドアンカー1の外部に排気する。
【0028】
第2パイプ50の先端部は、テンドン10に沿って配置され、固定部材(不図示)によりテンドン10に固定されている。第2パイプ50では、第1端部50aが第2パッカー35の内周面とテンドン10の外面との間に配置されている。例えば、第2パイプ50は、第4止水材20の外面と第2パッカー35の第2端部38の内周面との間を通して基端側に向かって延びている。第2パイプ50では、第2端部50bが第2パッカー35の外部、すなわちグラウンドアンカー1の外部に配置されている。第2パイプ50の第2端部50bには、排気装置及び固化材供給装置が接続される。
【0029】
第3パイプ55では、第1端部が自由長部シース18の径方向の外側に配置されている。第3パイプ55の第2端部には、固化材供給装置が接続される。
【0030】
次に、以上のように構成されたグラウンドアンカー1を地盤に固定する、本実施形態ののグラウンドアンカー工法について説明する。
図4は、本発明の一実施形態におけるグラウンドアンカー工法Sを示すフローチャートである。
まず、挿入穴形成工程(ステップS1、
図4参照)において、
図5に示すように、土留め壁101Aの切削可能領域102及び地盤Gにケーシングパイプ(管材)Pを挿入して、切削可能領域102及び地盤Gに挿入穴Hを形成する。ケーシングパイプPは、挿入方向の先端側に向かうに従い漸次、下方に向かうように傾斜させて挿入する。これにより、挿入穴Hは、切削可能領域102から離間するに従い漸次、下方に向かうように傾斜して形成される。
挿入穴形成工程S1が終了すると、ステップS3に移行する。
【0031】
次に、アンカー挿入工程(ステップS3)において、
図6に示すように、ケーシングパイプP内にグラウンドアンカー1を挿入する。このとき、グラウンドアンカー1の先端側からケーシングパイプP内に挿入し、例えば、グラウンドアンカー1の止水部材31が挿入穴Hの底面に接触するまで挿入する。なお、
図6から
図9では、パイプ45,50,55を示していない。
アンカー挿入工程S3が終了すると、ステップS5に移行する。
【0032】
次に、第1引き抜き工程(ステップS5)において、
図7に示すように、ケーシングパイプPから第1パッカー25が露出するように、地盤Gに対してケーシングパイプPを引き抜く。このとき、ケーシングパイプPを引き抜く長さは、第1パッカー25の軸線方向の長さ程度である。
第1引き抜き工程S5においてケーシングパイプPを一度に引き抜く長さが第1パッカー25の軸線方向の長さ程度であるため、ケーシングパイプPを一度に引き抜く長さがパッカー25,35全体の軸線方向の長さ程度の場合に比べてケーシングパイプPを引き抜く長さが短くなり、ケーシングパイプPを引き抜く際の共上がりを抑制することができる。
第1引き抜き工程S5が終了すると、ステップS7に移行する。
【0033】
次に、第1固定工程(ステップS7)において、第1パイプ45の第2端部45bに排気装置を接続する。排気装置を駆動して、第1パイプ45を通して第1パッカー25内の空気をグラウンドアンカー1の外部に排気する。第1パイプ45の第2端部45bから排気装置を取外し、第2端部45bに固化材供給装置を接続する。固化材供給装置を駆動して、
図8に示すように、第1パイプ45を通して第1パッカー25内に固化材M3を注入して第1パッカー25を拡径させる(第1パッカー25の外径を大きくさせる)。このとき、第1パッカー25のうち他の部材に固定されていない第1パッカー25の中間部27が拡径する。これにより、地盤Gにおける挿入穴Hの周縁部に第1パッカー25の外周面を接触させ、前記周縁部と第1パッカー25の外周面との間に作用する摩擦力により、前記周縁部に第1パッカー25を固定する。第1パイプ45の第2端部45bから、固化材供給装置を取外す。
第1固定工程S7が終了すると、ステップS9に移行する。
【0034】
次に、第2引き抜き工程(ステップS9)において、
図9に示すように、ケーシングパイプPから第2パッカー35が露出するように、地盤Gに対してケーシングパイプPを引き抜く。この例では、切削可能領域102及び地盤Gに対してケーシングパイプPの全体を引き抜く。このとき、ケーシングパイプPを引き抜く長さは、第2パッカー35の軸線方向の長さ以上である。
地盤Gにおける挿入穴Hの周縁部に第1パッカー25が固定されているため、地盤Gに対してケーシングパイプPを引き抜いても、グラウンドアンカー1の共上がりが抑制される。
第2引き抜き工程S9が終了すると、ステップS11に移行する。
【0035】
次に、第2固定工程(ステップS11)において、第2パイプ50の第2端部50bに排気装置を接続する。排気装置を駆動して、第2パイプ50を通して第2パッカー35内の空気をグラウンドアンカー1の外部に排気する。第2パイプ50の第2端部50bから排気装置を取外し、第2端部50bに固化材供給装置を接続する。固化材供給装置を駆動して、
図10に示すように、第2パイプ50を通して第2パッカー35内に固化材M3を注入して第2パッカー35を拡径させる。このとき、第2パッカー35のうち他の部材に固定されていない第2パッカー35の中間部37が拡径する。これにより、地盤Gにおける挿入穴Hの周縁部に第2パッカー35の外周面を接触させ、前記周縁部と第2パッカー35の外周面との間に作用する摩擦力により、前記周縁部に第2パッカー35を固定する。第2パイプ50の第2端部50bから、固化材供給装置を取外す。グラウンドアンカー1が、地盤Gに固定される。
第2固定工程S11が終了すると、ステップS13に移行する。
【0036】
次に、締め付け工程(ステップS13)を、固化材M3が完全に硬化した後でに行う。
テンドングリップ17の基端側からテンドングリップ17に、受圧板65及び支圧板66を外装する。テンドングリップ17の雄ネジにナット67を嵌め合わせ、図示しない工具によりナット67を受圧板65側に締め付ける。そして、前記工具による締め付け後に、図示しないジャッキアップ装置を用いて、テンドン10に引き抜き方向の力を作用させるとともに、ナット67をさらに締め付けて、テンドン10に所定の張力を付与する。すなわち、地盤Gとナット67との間に切削可能領域102を挟むことにより、地盤Gに切削可能領域102を固定する。こうして、切削可能領域102が補強される。
グラウンドアンカー1からジャッキアップ装置を取外す。
締め付け工程S13が終了すると、ステップS15に移行する。
【0037】
次に、固化工程(ステップS15)において、管部材21の第1端部に固化材供給装置を接続する。固化材供給装置を駆動して、管部材21を通して自由長部シース18内に固化材M3を注入する。必要に応じて、第3パイプ55の第2端部に固化材供給装置を接続し、自由長部シース18の径方向の外側に固化材M3を注入する。これにより、地盤Gにおける挿入穴Hの周縁部にグラウンドアンカー1を固定することができる。
固化工程S15が終了すると、グラウンドアンカー工法Sの全工程が終了する。
なお、グラウンドアンカー工法Sが終了した後で、諸々の段取りを行ってから、シールド掘削機M1を用いて、グラウンドアンカー1で補強された切削可能領域102を掘削する。
【0038】
以上説明したように、本実施形態のグラウンドアンカー1によれば、地盤GにケーシングパイプPを挿入して地盤Gに挿入穴Hを形成し、ケーシングパイプP内にグラウンドアンカー1を挿入する。ケーシングパイプPから第1パッカー25が露出するように地盤Gに対してケーシングパイプPを引き抜く際に、ケーシングパイプPから第1パッカー25及び第2パッカー35の両方が露出するようにケーシングパイプPを一度に引抜く場合に比べてケーシングパイプPを引き抜く長さが短くなるため、ケーシングパイプPを引き抜く際のグラウンドアンカー1の共上がりを抑制することができる。
次に、第1パイプ45を通して第1パッカー25内に固化材M3を注入して第1パッカー25を拡径させ、地盤Gにおける挿入穴Hの周縁部と第1パッカー25の外周面との間に作用する摩擦力により、地盤Gにおける挿入穴Hの周縁部に第1パッカー25を固定する。ケーシングパイプPから第2パッカー35が露出するように地盤Gに対してケーシングパイプPを引き抜く。この際に、地盤Gにおける挿入穴Hの周縁部に第1パッカー25が固定されているため、ケーシングパイプPを引き抜く際の共上がりを抑制することができる。
【0039】
挿入穴H内で、グラウンドアンカー1を確実に位置決めすることができる。グラウンドアンカー1が軸線方向に2つのパッカー25,35を備えることで、地盤Gにおける挿入穴Hの周縁部と固化材M3との有効摩擦長さを損なうことなく、グラウンドアンカー1を設計・施工することができる。
【0040】
パッカー25,35内に固化材M3が注入されると、パッカー25,35の中間部27,37が拡径して地盤Gにおける挿入穴Hの周縁部に固定されるが、パッカー25,35の端部26,28,36,38はテンドン10の外面等に固定されているため拡径しない。第1パッカー25の第1端部26が第2パッカー35の第1端部36の外周面に固定されていることで、第1パッカー25の中間部27と第2パッカー35の中間部37との間に生じる、地盤Gにおける挿入穴Hの周縁部に固定されない部分の軸線方向の長さを短く抑え、所望の摩擦力を生じるのに必要な第1パッカー25及び第2パッカー35全体としての軸線方向の長さを短く抑えることができる。
【0041】
第2パッカー35の中間部37が、第1端部36に対して折り返されて先端側に向かって延びている。これにより、第1パッカー25の中間部27と第2パッカー35の中間部37との間に生じる、地盤Gにおける挿入穴Hの周縁部に固定されない部分の軸線方向の長さを、さらに短く抑えることができる。
【0042】
また、本実施形態のグラウンドアンカー工法Sによれば、ケーシングパイプPから第1パッカー25が露出するように地盤Gに対してケーシングパイプPを引き抜く際に、ケーシングパイプPから第1パッカー25及び第2パッカー35の両方が露出するようにケーシングパイプPを一度に引抜く場合に比べてケーシングパイプPを引き抜く長さが短くなるため、ケーシングパイプPを引き抜く際のグラウンドアンカー1の共上がりを抑制することができる。また、ケーシングパイプPから第2パッカー35が露出するように地盤Gに対してケーシングパイプPを引き抜いても、地盤Gにおける挿入穴Hの周縁部に第1パッカー25が固定されているため、ケーシングパイプPを引き抜く際の共上がりを抑制することができる。
【0043】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、前記実施形態では、
図11に示すグラウンドアンカー1Aのように、第1パッカー25において、中間部27は、第1端部26の先端から先端側に延びていてもよい。このように構成しても、前記グラウンドアンカー工法Sの手順で施工することにより、ケーシングパイプPを引き抜く際の共上がりを抑制することができる。
なお、グラウンドアンカー1Aにおいて、第1パッカー25の第1端部26と、第2パッカー35の第1端部36とは、軸線方向に重なっていなくてもよい。
グラウンドアンカー工法Sでは、締め付け工程S13、固化工程S15、及び掘削工程S17は行わなくてもよい。
【0044】
グラウンドアンカー1,1Aが備えるパッカーの数は2つであるとしたが、グラウンドアンカーが備えるパッカーの数は特に限定されず、3つ以上でもよい。
グラウンドアンカー1,1Aは、第1シース13、第1止水材14、第2止水材15、テンドングリップ17、自由長部シース18、第3止水材19、第4止水材20、管部材21、及び第3パイプ55を備えなくてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1,1A グラウンドアンカー
10 テンドン(線状部材)
10a,26,36,45a,50a 第1端部
10b,28,38,45b,50b 第2端部
25 第1パッカー(第1筒状部材)
27 中間部
35 第2パッカー(第2筒状部材)
45 第1パイプ(第1管状体)
50 第2パイプ(第2管状体)
G 地盤
H 挿入穴
M3 固化材
P ケーシングパイプ(管材)
S グラウンドアンカー工法