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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】イオン生成装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/04 20060101AFI20230213BHJP
   H05H 7/08 20060101ALI20230213BHJP
   G21K 1/093 20060101ALI20230213BHJP
   H01J 37/08 20060101ALI20230213BHJP
【FI】
H01J37/04 Z
H05H7/08
G21K1/093 D
H01J37/08
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019074962
(22)【出願日】2019-04-10
(65)【公開番号】P2020173966
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 猛
(72)【発明者】
【氏名】山口 晶子
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-097769(JP,A)
【文献】特開昭61-019036(JP,A)
【文献】特表2009-524907(JP,A)
【文献】特開平01-137549(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0069257(KR,A)
【文献】実開平02-025157(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37
H01J 27
H05H 7
G21K 1
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内で電離生成した第1イオン及び第2イオンを混合状態のまま開口から放出させるイオン生成エネルギー設定部と、
前記開口と引き出し電極との間に形成される電位ポテンシャルを第1電界電圧及び第2電界電圧に切り替えて印加し、前記第1イオン及び前記第2イオンの各々に、予め定められた同一の核子当りエネルギーを付与する電界電圧調節部と、
分離電磁石のコイルに第1励磁電流及び第2励磁電流を切り替えて供給し、前記第1イオン及び前記第2イオンを異なるタイミングで出力させる励磁電流調節部と、を備え、
前記イオン生成エネルギー設定部は、イオン生成エネルギー供給部の出力強度を、前記タイミングに応じて切り替えるイオン生成装置。
【請求項2】
真空チャンバ内で電離生成した第1イオン及び第2イオンを混合状態のまま開口から放出させるイオン生成エネルギー設定部と、
前記開口と引き出し電極との間に形成される電位ポテンシャルを第1電界電圧及び第2電界電圧に切り替えて印加し、前記第1イオン及び前記第2イオンの各々に、予め定められた同一の核子当りエネルギーを付与する電界電圧調節部と、
分離電磁石のコイルに第1励磁電流及び第2励磁電流を切り替えて供給し、前記第1イオン及び前記第2イオンを異なるタイミングで出力させる励磁電流調節部と、
異なるタイミングで入射した前記第1イオン及び前記第2イオンを加速させる線形加速器と、
前記線形加速器で加速された前記第1イオン及び前記第2イオンを、それぞれ別々の輸送路に分配する分配器と、を備え、
前記同一の核子当りエネルギーは、前記線形加速器の仕様として規定されている入射エネルギーに対応するものであるイオン生成装置。
【請求項3】
真空チャンバ内で電離生成した第1イオン及び第2イオンを混合状態のまま開口から放出させるイオン生成エネルギー設定部と、
前記開口と引き出し電極との間に形成される電位ポテンシャルを第1電界電圧及び第2電界電圧に切り替えて印加し、前記第1イオン及び前記第2イオンの各々に、予め定められた同一の核子当りエネルギーを付与する電界電圧調節部と、
分離電磁石のコイルに第1励磁電流及び第2励磁電流を切り替えて供給し、前記第1イオン及び前記第2イオンを異なるタイミングで出力させる励磁電流調節部と、を備え、
前記引き出し電極は、第1電極及び第2電極から成り、
前記電位ポテンシャルを、前記第1電極から第2電極に印加される前記第1電界電圧、及びこの第1電極から真空チャンバに印加される前記第2電界電圧に切り替えるスイッチを備えるイオン生成装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のイオン生成装置において、
線形加速器に供給する高周波電力の強度を、前記タイミングに応じて切り替える電力設定部を備えるイオン生成装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のイオン生成装置において、
前記第1励磁電流及び前記第2励磁電流の切り替えに際し、前記コイルに消磁電流を与え前記分離電磁石の鉄心の残留磁場を消去するゼロ磁場帰還回路を備えるイオン生成装置。
【請求項6】
請求項1又は請求項3に記載のイオン生成装置において、
異なるタイミングで入射した前記第1イオン及び前記第2イオンを加速させる線形加速器を備え、
前記同一の核子当りエネルギーは、前記線形加速器の仕様として規定されている入射エネルギーに対応するものであるイオン生成装置。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載のイオン生成装置において、
前記引き出し電極は、第1電極及び第2電極から成り、
前記電位ポテンシャルを、前記第1電極から第2電極に印加される第1電界電圧、及びこの第1電極から真空チャンバに印加される前記第2電界電圧に切り替えるスイッチを備
えるイオン生成装置。
【請求項8】
真空チャンバ内で電離生成した第1イオン及び第2イオンを混合状態のまま開口から放出させるステップと、
前記開口と引き出し電極との間に形成される電位ポテンシャルを第1電界電圧及び第2電界電圧に切り替えて印加し、前記第1イオン及び前記第2イオンの各々に、予め定められた同一の核子当りエネルギーを付与するステップと、
分離電磁石のコイルに第1励磁電流及び第2励磁電流を切り替えて供給し、前記第1イオン及び前記第2イオンを異なるタイミングで出力させるステップ、を含み、
前記第1イオン及び前記第2イオンを生成するために供給するエネルギーの出力強度を、前記タイミングに応じて切り替えるイオン生成方法。
【請求項9】
真空チャンバ内で電離生成した第1イオン及び第2イオンを混合状態のまま開口から放出させるステップと、
前記開口と引き出し電極との間に形成される電位ポテンシャルを第1電界電圧及び第2電界電圧に切り替えて印加し、前記第1イオン及び前記第2イオンの各々に、予め定められた同一の核子当りエネルギーを付与するステップと、
分離電磁石のコイルに第1励磁電流及び第2励磁電流を切り替えて供給し、前記第1イオン及び前記第2イオンを異なるタイミングで出力させるステップと、
異なるタイミングで入射した前記第1イオン及び前記第2イオンを線形加速器で加速させるステップと、
前記線形加速器で加速された前記第1イオン及び前記第2イオンを、それぞれ別々の輸送路に分配するステップと、を含み、
前記同一の核子当りエネルギーは、前記線形加速器の仕様として規定されている入射エネルギーに対応するものであるイオン生成方法。
【請求項10】
コンピュータに、
真空チャンバ内で電離生成した第1イオン及び第2イオンを混合状態のまま開口から放出させるステップ、
前記開口と引き出し電極との間に形成される電位ポテンシャルを第1電界電圧及び第2電界電圧に切り替えて印加し、前記第1イオン及び前記第2イオンの各々に、予め定められた同一の核子当りエネルギーを付与するステップ、
分離電磁石のコイルに第1励磁電流及び第2励磁電流を切り替えて供給し、前記第1イオン及び前記第2イオンを異なるタイミングで出力させるステップ、を実行させ
前記第1イオン及び前記第2イオンを生成するために供給するエネルギーの出力強度を、前記タイミングに応じて切り替えるイオン生成プログラム。
【請求項11】
コンピュータに、
真空チャンバ内で電離生成した第1イオン及び第2イオンを混合状態のまま開口から放出させるステップ、
前記開口と引き出し電極との間に形成される電位ポテンシャルを第1電界電圧及び第2電界電圧に切り替えて印加し、前記第1イオン及び前記第2イオンの各々に、予め定められた同一の核子当りエネルギーを付与するステップ、
分離電磁石のコイルに第1励磁電流及び第2励磁電流を切り替えて供給し、前記第1イオン及び前記第2イオンを異なるタイミングで出力させるステップ、
異なるタイミングで入射した前記第1イオン及び前記第2イオンを線形加速器で加速させるステップ、
前記線形加速器で加速された前記第1イオン及び前記第2イオンを、それぞれ別々の輸送路に分配するステップ、を実行させ、
前記同一の核子当りエネルギーは、前記線形加速器の仕様として規定されている入射エネルギーに対応するものであるイオン生成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、加速器に供給するイオンを生成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、イオンを加速器に供給し高速で照射して、工学や医学等の幅広い分野で、応用が進められている。現在、広く運用されている加速器システムは、大まかにイオン源(イオン生成装置)と線形加速器と円形加速器とで構成され、この順番でイオンを段階的に加速して、高エネルギーのイオンビームを照射する。
【0003】
線形加速器は、隣同士で逆向きの電位ポテンシャル成分を持つ複数の加速電場を直線状に並べ、電場方向を高周波周波数で繰り返し反転させ、加速電場を通過するイオンを常に進行方向のみに加速させるものである。このような原理に基づく線形加速器は、入力電力の相違により質量や荷電量が異なる異種イオンを、加速し出射することができる。
【0004】
ただし、条件として入射するイオンの核子当り運動エネルギーが、線形加速器の入射エネルギーの仕様(スペック)に一致している必要がある。この条件を満たせば、質量電荷比が異なる異種イオンを加速し、線形加速器の出射エネルギーの仕様に一致したエネルギーでイオンを出射することができる。
【0005】
このため、複数のイオン源及び複数の円形加速器に対し、一つの線形加速器で、システムを構築することができる。このシステムでは、各々のイオン源で生成した異種イオンを線形加速器にタイミングをずらして入射させる。そして、線形加速器から出射した異種イオンの各々は、別々の円形加速器に分配され、さらに加速される。これにより、高エネルギーで異種のイオンビームを別々に得ることができ、効率的に実験用及び治療用のイオンビームを供給することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Y. Kageyama, et al., “Present Status of HIMAC injectors at NIRS”, Proceedings of the 7th Annual Meeting of Particle Accelerator Society of Japan (2010) 1135-1138.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した公知のイオンビーム供給施設は、必要とするビーム種ごとに複数のイオン源を用意する必要があり各々イオン源から線形加速器までの複数のビーム輸送路、輸送路切り替え装置を含めるとシステム全体として大規模となる。また、複数のイオン源の各々で生成した異種イオンを、タイミングをずらして線形加速器に入射させることも、高度な制御技術が要求される。
【0008】
本発明の実施形態はこのような事情を考慮してなされたもので、1台のイオン源を用いて、核子当りエネルギーが一致する異種イオンを、異なるタイミングで出力させるイオン生成技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態に係るイオン生成装置において、真空チャンバ内で電離生成した第1イオン及び第2イオンを混合状態のまま開口から放出させるイオン生成エネルギー設定部と、前記開口と引き出し電極との間に形成される電位ポテンシャルを第1電界電圧及び第2電界電圧に切り替えて印加し前記第1イオン及び前記第2イオンの各々に予め定められた同一の核子当りエネルギーを付与する電界電圧調節部と、分離電磁石のコイルに第1励磁電流及び第2励磁電流を切り替えて供給し前記第1イオン及び前記第2イオンを異なるタイミングで出力させる励磁電流調節部と、を備え、前記イオン生成エネルギー設定部は、イオン生成エネルギー供給部の出力強度を、前記タイミングに応じて切り替えるか、もしくは、さらに異なるタイミングで入射した前記第1イオン及び前記第2イオンを加速させる線形加速器と、前記線形加速器で加速された前記第1イオン及び前記第2イオンを、それぞれ別々の輸送路に分配する分配器と、を備え、前記同一の核子当りエネルギーは、前記線形加速器の仕様として規定されている入射エネルギーに対応するものであるか、もしくは、前記引き出し電極は、第1電極及び第2電極から成り、前記電位ポテンシャルを、前記第1電極から第2電極に印加される前記第1電界電圧、及びこの第1電極から真空チャンバに印加される前記第2電界電圧に切り替えるスイッチを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態により、1台のイオン源を用いて、核子当たりエネルギーが一致する異種イオンを、異なるタイミングで出力するイオン生成技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施形態に係るイオン生成装置を示す構成図。
図2】各実施形態に係るイオン生成装置においてイオン分離の原理を説明する数式。
図3】(A)要求信号受信部の動作タイミングを示すグラフ、(B)電界電圧調節部の動作タイミングを示すグラフ、(C)励磁電流調節部の動作タイミングを示すグラフ、(D)イオン生成エネルギー供給部の動作タイミングを示すグラフ、(E)線形加速器へ入力される高周波電力のタイミングを示すグラフ。
図4】(A)実施例としてゼロ磁場帰還回路による鉄心の残留磁場の消去プロセスを示すグラフ、(B)比較例としてゼロ磁場帰還回路を設けない場合、分離電磁石を励磁したときに発生する鉄心の残留磁場を示すグラフ。
図5】鉄心に発生した残留磁場の消磁させる消磁電流の制御を示すフローチャート。
図6】本発明の第2実施形態に係るイオン生成装置を示す構成図。
図7】実施形態に係るイオン生成装置を適用した加速器システムの構成図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。図1は本発明の第1実施形態に係るイオン生成装置10Aを示す構成図である。このようにイオン生成装置10は、真空チャンバ25内で電離生成した第1イオン21及び第2イオン22を混合状態のまま開口26から放出させるイオン生成エネルギー設定部32と、この開口26と引き出し電極28との間に形成される電位ポテンシャル27を第1電界電圧V1及び第2電界電圧V2に切り替えて印加し第1イオン21及び第2イオン22の各々に予め定められた同一の核子当りエネルギーを付与する電界電圧調節部33と、分離電磁石41のコイル(図示略)に第1励磁電流I1及び第2励磁電流I2を切り替えて供給し第1イオン21及び第2イオン22を異なるタイミングで出力させる励磁電流調節部35と、を備えている。
【0013】
真空チャンバ25内でイオン生成エネルギー供給部23により電離生成した第1イオン21及び第2イオン22を、可変電源47により真空チャンバ25と引き出し電極28との間に作用する電位ポテンシャル27より開口26から混合状態で放出する。
【0014】
なおイオン生成エネルギー設定部32は、イオン生成エネルギー供給部23の出力強度を、第1イオン21及び第2イオン22が出力されるタイミングに応じて切り替えることができる。
【0015】
第1イオン21及び第2イオン22の生成量および割合は、イオン生成エネルギー供給部23からの出力の大小により異なるため、選択するイオンが多量に生成される出力設定値へ切り替えることが有効である。イオン生成エネルギー設定部32からイオン生成エネルギー供給部23へタイミング毎に出力を変更できる。
【0016】
さらにイオン生成装置10は、線形加速器42に供給する高周波電力の強度を、第1イオン21及び第2イオン22が出力されるタイミングに応じて切り替える電力設定部39を備えている。
【0017】
第1イオン21及び第2イオン22の各々質量荷電比A/Zの相違により最適とされる線形加速器42への高周波電力Prf1、Prf2が相違する場合がある。このような場合、電力設定部39により、出力される第1イオン21及び第2イオン22に応じて高周波電力Prf1、Prf2がそれぞれ設定される。
【0018】
真空チャンバ25には、外部から導入した原料37をプラズマ化するイオン生成エネルギー供給部23が設けられている。この真空チャンバ25には、中性粒子、電子、プラスイオン(第1イオン21及び第2イオン22)が混合した状態で生成される。このように原料をプラズマ化する公知のイオン生成エネルギー供給部23として、ECR(Electron Cyclotron Resonance)イオン源、PIG(Penning Ionization Gauge)イオン源といった高周波(マイクロ波を含む)照射型の他に、レーザ照射型のイオン源等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
なおこの真空チャンバ25は可変電源47によりプラス電位が印加され、外部および最も近接する引き出し電極28との間に電位ポテンシャル27を形成する。そして、真空チャンバ25に導入される原料37は、ガス、液体および固体のいずれも対象にすることができ、また単一元素から構成されるものに限らず、分子化合物及びそれら多種の混合物を適応することができる。
【0020】
そしてこの第1イオン21及び第2イオン22の集団は、可変電源47により真空チャンバ25と引き出し電極28との間に作用する電位ポテンシャル27によりプラズマからイオンが引き出し加速され引き出し電極28方向に進み、分離電磁石41へ導入される。
【0021】
図2は実施形態に係るイオン生成装置10においてイオン分離の原理を説明する数式である。図2(1)式に示すように、電荷量qxのイオンは、電界電圧Vxで形成された電界27に導入されるとエネルギーWxが付与される。なおこのイオンに付与されたエネルギーWxは、イオンの質量数Axと核子当りエネルギーwとの積で表される。また、イオンの電荷量qxは、電気素量eとイオンの価数Zxとの積で表される。
【0022】
ここで図2(2)式に示すように、第1イオン21の質量荷電比A1/Z1、第2イオン22の質量荷電比A2/Z2、電気素量eで表すと、予め定められた核子当りエネルギーwを付与するのに、第1イオン21の場合は可変電源47により電界電圧V1を印加し、第2イオン22の場合は可変電源47により電界電圧V2を印加して電位ポテンシャル27を形成する必要がある。なお電位ポテンシャル27で付与する核子当りエネルギーwは、後段の線形加速器42の仕様として規定されている入射エネルギーに対応して予め定められている。
【0023】
図1に戻って説明を続ける。可変電源47で電界電圧VxをV1及びV2に切り替えて印加することで、予め定められた核子当りエネルギーwが付与された第1イオン21及び第2イオン22が、異なるタイミングで分離電磁石41に導入される。なお電界電圧Vx(V1,V2)の切り替えに伴って、電界電圧V1が印加されたタイミングの第2イオン22及び電界電圧V2が印加されたタイミングの第1イオン21についても、予め定められた核子当りエネルギーwとは異なるエネルギーが付与されて分離電磁石41に導入される。
【0024】
分離電磁石41は、励磁電流Ixをコイルに流して発生させた磁場Bxにより、ローレンツ力を付与し通過するイオンの軌道を曲げる作用を発揮する。この分離電磁石41に第1励磁電流I1を供給すると第1励磁磁場B1が励磁され、第2励磁電流I2を供給すると第2励磁磁場B2が励磁される。
【0025】
図2(3)(4)式に示すように、エネルギーWxが付与された質量Mxのイオンは、速度vxで分離電磁石41に入射する。ここで、イオンの質量Mxは、核子質量mとイオンの質量数Axとの積で表される。
【0026】
そして図2(5)式に示すように、イオンは磁場Bxから受けたローレンツ力Fを向心力として、半径Rの円軌道を描く。そこで、図2(6)式に示すxを1又は2として、予め定められた核子当りエネルギーwが付与された、質量荷電比Ax/Zxの第1イオン21及び第2イオン22は、分離電磁石41を磁場Bxに調整することで、曲率半径Rの分離電磁石41を、選択的に通過させることができる。
【0027】
図1に戻って説明を続ける。分離電磁石41で磁場BxをB1及びB2に切り替えて付与することで、予め定められた核子当りエネルギーwが付与された第1イオン21及び第2イオン22が、異なるタイミングで線形加速器42に導入される。そして、この予め定められた核子当りエネルギーwとは異なるエネルギーが付与された第2イオン22及び第1イオン21は、分離電磁石41の曲率半径Rとは異なる軌道を描くため線形加速器42に到達できない。
【0028】
ここで、一例として、原料37にメタンガス(CH4)を採用した場合について検討する。真空チャンバ25でメタンガス(CH4)がプラズマ化して、炭素イオン124+と水素分子イオンH2 +とが生成された場合を考える。炭素イオン124+は、質量数Aが12で価数Zが4であるために質量荷電比A/Zは3である。一方水素分子イオンH2 +は、質量数Aが2で価数Zが1であるために質量荷電比A/Zは2である。
【0029】
炭素イオン124+が電位ポテンシャル27で核子当りエネルギーwを得るのに必要な可変電源47による電界電圧は、VC4+=3w/eで表される(図2(2)式)。そして同様に、水素分子イオンH2 +が核子当りエネルギーwを得るのに必要な電界電圧は、VH2+=2w/eで表される。よって、可変電源47により真空チャンバ25には、この電界電圧VC4+及び電界電圧VH2+がタイミング毎に、電界電圧調節部33からの要求信号により、選択的に印加される。
【0030】
また、核子当りエネルギーwの炭素イオン124+が半径Rの分離電磁石41を通過するのに必要な励磁磁場BC4+=3×√(2mw)/eRと表される(図2(6)式)。一方、核子当りエネルギーwの水素分子イオンH2 +が半径Rの分離電磁石41を通過するのに必要な励磁磁場BC4+=2×√(2mw)/eRと表される(図2(6)式)。
【0031】
線形加速器42は、隣同士で逆向きの電位ポテンシャル成分を持つ複数の加速電場を直線状に並べ、電場方向を高周波周波数で繰り返し反転させ、加速電場を通過するイオンを常に進行方向のみに加速させるものである。そしてこの線形加速器42は、入射エネルギーの仕様(スペック)に一致している核子当りエネルギーwを持つ第1イオン21及び第2イオン22が入射され、各々質量荷電比A/Zのイオンに対して必要とされる高周波電力Prf1、Prf2が投入されると加速される。
【0032】
第1イオン21及び第2イオン22の各々の質量荷電比A/Zの相違により最適とされる高周波電力Prf1、Prf2は異なる場合がある。そのような場合、線形加速器42の電力設定部39から高周波電力供給部43へ、タイミング毎に設定変更信号が送られる。高周波電力供給部43は、タイミング毎に設定された高周波電力Prf1、Prf2を、線形加速器42へ出力する。そして、線形加速器42で加速された第1イオン21及び第2イオン22は、仕様(スペック)で定められたエネルギーまで高められた後に出射される。
【0033】
制御部30は、要求信号受信部31と、イオン生成エネルギー設定部32と、電界電圧調節部33と、励磁電流調節部35と、ゼロ磁場帰還回路36と、線形加速器電力設定部39とを少なくとも含んで構成される。この制御部30は、一般的なコンピュータのプロセッサで、各要素の機能を実現させることができ、コンピュータプログラムにより動作させることができる。
【0034】
図3(A)は要求信号受信部31の動作タイミングを示すグラフである。このように要求信号受信部31は、イオン生成装置10におけるイオン生成のトリガとなる要求信号38を、外部のタイミングシステム(図示略)から入力する。
【0035】
図3(B)は電界電圧調節部33の動作タイミングを示すグラフである。このように電界電圧調節部33は、第1電界電圧V1を初期設定値として、要求信号38の受信を契機として、所定期間T1だけ真空チャンバ25に印加する。そして、この所定期間T1を経過した後は、第1電界電圧V1を第2電界電圧V2に変更する。そして次の要求信号38の受信を契機として、第2電界電圧V2を所定期間T1だけ真空チャンバ25に印加する。第1電界電圧V1を第2電界電圧V2への移行またその逆について傾斜的に変化するように図示されているが、変化方法には依らない。
【0036】
そして、この所定期間T1を経過した後は、第2電界電圧V2を増加させ第1電界電圧V1に変更する。このように第1電界電圧V1及び第2電界電圧V2を切り替えて真空チャンバ25に印加し、電界27を形成することにより、予め定められた同一の核子当りエネルギーwを第1イオン21及び第2イオン22の各々に対し異なるタイミングで付与する。第1電界電圧V1を第2電界電圧V2への移行またその逆について傾斜的に変化するように図示されているが、変化方法には依らない。
【0037】
図3(C)は励磁電流調節部35の動作タイミングを示すグラフである。このように励磁電流調節部35は、要求信号38の受信を契機として、予め設定された遅延時間D2の経過後に、第1励磁電流I1を所定期間P2だけ分離電磁石41に供給する。そして、所定期間T2の経過後は、第1励磁電流I1を0にする。ここで遅延時間D2及び期間T2は、設定されている電流値が平坦状に安定するのに充分な時間が設定される。
【0038】
さらに励磁電流調節部35は、次の要求信号38の受信を契機として、遅延時間D2の経過後に、第2励磁電流I2を所定期間P2だけ分離電磁石41に供給する。そして、所定期間P2の経過後は、第2励磁電流I2を0にする。このように励磁電流調節部35は、断続的に受信される要求信号38に基づいて分離電磁石41のコイル(図示略)に第1励磁電流I1及び第2励磁電流I2を切り替えて供給する。
【0039】
図3(D)はイオン生成エネルギー供給部23の動作タイミングおよび出力を示すグラフである。このようにイオン生成エネルギー供給部23には、イオン生成エネルギー設定部32から、イオンを生成させるタイミング信号が送信される。イオン生成エネルギー設定部32は、予め設定された遅延時間D3の経過後に、設定された出力時間T3と出力強度でイオン生成エネルギー供給部23が動作するよう制御する。
【0040】
イオン生成エネルギー供給部23からは真空チャンバ25の原料37へエネルギーが与えられ、第1イオン21及び第2イオン22が混合状態のまま出力時間T3だけ生成される。そして、第1イオン21を選択する場合はPMW1を、第2イオン22を選択する場合はPMW2を、タイミング毎に変更することで各々のイオン生成量効率を向上させる。
【0041】
このようにして断続的に受信される要求信号38に基づいて、第1電界電圧V1及び第2電界電圧V2並びに第1励磁電流I1及び第2励磁電流I2を切り替えることにより、予め定められた核子当りエネルギーwを持つ第1イオン21及び第2イオン22が異なるタイミングで出力される。
【0042】
このように分離電磁石41により出力された第1イオン21または第2イオン22は、線形加速器42に予め定められた核子当りエネルギーwを持って入射される。線形加速器42へ入力される電力は、第1イオン21及び第2イオン22の各々質量荷電比A/Zの相違により、最適とされる高周波電力Prf1、Prf2が異なる。そこで、線形加速器42の電力設定部39から高周波電力供給部43へタイミング毎に設定信号が送られる。
【0043】
そして、高周波電力供給部43からは、第1イオン21及び第2イオン22のタイミング毎に、設定された高周波電力Prf1、Prf2が、線形加速器へ入力される(図3(E))。これにより線形加速器42で、質量荷電比A/Zの異なる第1イオン21及び第2イオン22は、タイミング毎に加速され、仕様(スペック)で定められたエネルギーまで高められた後に出射される。
【0044】
図4(A)は分離電磁石41の運用実施例としてゼロ磁場帰還回路36と励磁電源44と磁場検出器48とによる鉄心の残留磁場Brの消去プロセスを示すグラフである。ゼロ磁場帰還回路36は、励磁電流調節部35における第1励磁電流I1及び第2励磁電流I2の切り替えに際し、磁場検出器48から残留磁場Brを検出し、その残留磁場Brをゼロとなるように励磁電源44を制御し、分離電磁石41のコイルに消磁電流IDを与え分離電磁石41の鉄心(図示略)の残留磁場Brをゼロにする。
【0045】
図4(B)は比較例としてゼロ磁場帰還回路36を設けない場合、分離電磁石41を励磁したときに発生する鉄心の残留磁場Brを示すグラフである。分離電磁石41に第1励磁電流I1で磁場B1を生成させた後、励磁電流を0アンペアに戻しても、磁気ヒステリシスによる残留磁場Brが鉄心に残るため、磁場Bは0テスラに戻らない。この残留磁場Brをそのままにして第2励磁電流I2に切り替えて分離電磁石41を励磁した場合、発生する第2磁場は誤差を含むことになる。
【0046】
このように、残留磁場Brをそのままにしておくと、分離電磁石41において大きな磁場を発生させた後に発生させた小さな磁場は、誤差が大きくなる傾向がある。このため、励磁電流の切り替えをする際は、確実に残留磁場Brが消滅していることが望まれる。
【0047】
図5は鉄心に発生した残留磁場をゼロにするゼロ磁場帰還回路36にて行われる消磁電流の制御を示すフローチャートである。励磁電流の供給が終了して電流値Iが0アンペアになったところで(S11)、分離電磁石41の鉄心の残留磁場Brを磁場検出器48にて測定する(S12)。そして、残留磁場Brの許容閾値Pを取得して残留磁場Brの測定値との対比を行う(S13,S14)。この測定した残留磁場Brの絶対値が許容閾値Pを超えていれば(S14 Yes)、異常と判定される。磁場検出器48はガウスメータなどである。
【0048】
そして、残留磁場Brが正方向に許容閾値Pを超えていれば(S15 Yes)、負方向に磁場を発生させる消磁電流IDを供給し(S16)、再度、残留磁場Brを測定し許容閾値Pとの対比を行う(S14)。また、残留磁場Brが負方向に許容閾値Pを超えていれば(S15 No,S17)、正方向に磁場を発生させる消磁電流IDを供給し(S18)、再度、残留磁場Brを測定し許容閾値Pとの対比を行う(S14)。そして、測定した残留磁場Brの絶対値が許容閾値Pの範囲内であれば(S14 No)、正常と判定される。
【0049】
(第2実施形態)
次に図6を参照して本発明における第2実施形態について説明する。図6は本発明の第2実施形態に係るイオン生成装置10Bを示す構成図である。なお、図6において図1と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0050】
第2実施形態に係るイオン生成装置10Bにおいて、引き出し電極28は、第1電極28aと第2電極28bとから構成されている。そして、第1電極28aと第2電極28bは、第1固定電源46aを介して接続されている。そして、第2電極28bと真空チャンバ25は、第2固定電源46b及びスイッチ45を介して接続されている。
【0051】
電位ポテンシャル27は、第1電極28aから第2電極28bに印加される第1電界電圧V1と、第1電極28aから真空チャンバ25に印加される第2電界電圧V2とが、スイッチ45により切り替え操作される。
【0052】
そして、電界電圧調節部33は、第2電極28bから真空チャンバ25に接続する回路に設けられたスイッチ45により、第2固定電源46bを介する回路と介さない経路とに切り替えることができる。これにより電界電圧調節部33は、スイッチ45を切り替えることで電位ポテンシャル27を第1電界電圧V1及び第2電界電圧V2のいずれか一方に切り替えることができる。
【0053】
図7は実施形態に係るイオン生成装置10を適用した加速器システム40の構成図である。なお、図7において図1と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。この加速器システム40は、線形加速器42で加速された第1イオン21及び第2イオン22を、それぞれ別々の輸送路53(53a,53b)に分配する分配器52を、備えている。そして、分配器52の先には、入射装置54(54a,54b)さらにイオンを加速させる円形加速器51(51a,51b)が設けられ、出射装置55(55a,55b)を介して利用装置56(56a,56b)で利用される。
【0054】
線形加速器42からは、第1イオン21及び第2イオン22が異なるタイミングで出力される。分配器52は、第1イオン21が通過するタイミングで第1輸送路53aに誘導し、第2イオン22が通過するタイミングで第2輸送路53bに誘導する。そして、第1イオン21は第1円形加速器51aにおいてエネルギーが更に高められ、第2イオン22は第2円形加速器51bにおいてエネルギーが更に高められる。これにより、1台のイオン生成装置10で、高エネルギーのイオンビームを別々に利用装置56(56a,56b)において複数照射することができる。
【0055】
以上述べた少なくともひとつの実施形態のイオン生成装置によれば、異種イオンを生成し、加速電場に付与する電界電圧を切り替え印加し、分離電磁石に供給する励磁電流を切り替え供給することで、1台のイオン源を用いて、核子当りエネルギーが一致する異種イオンを、異なるタイミングで出力することができる。
【0056】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0057】
10(10A,10B)…イオン生成装置、21…第1イオン、22…第2イオン、23…イオン生成エネルギー供給部、25…真空チャンバ、26…開口、27…電位ポテンシャル、28…引き出し電極、28a(28)…第1電極、28b(28)…第2電極、30…制御部、31…要求信号受信部、32…イオン生成エネルギー設定部、33…電界電圧調節部、35…励磁電流調節部、36…ゼロ磁場帰還回路、37…原料、38…要求信号、39…電力設定部、40…加速器システム、41…分離電磁石、42…線形加速器、43…高周波電力供給部、44…励磁電源、45…スイッチ、46a…第1固定電源、46b…第2固定電源、47…可変電源、48…磁場検出器、51a(51)…第1円形加速器(円形加速器)、51b(51)…第2円形加速器(円形加速器)、52…分配器、53a(53)…第1輸送路(輸送路)、53b(53)…第2輸送路(輸送路)、54(54a,54b)…入射装置、55(55a,55b)…出射装置、56(56a,56b)…利用装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7