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特許7225113プロトン伝導体、プロトン伝導型セル構造体、水蒸気電解セルおよび水素極-固体電解質層複合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】プロトン伝導体、プロトン伝導型セル構造体、水蒸気電解セルおよび水素極-固体電解質層複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/08 20060101AFI20230213BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20230213BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20230213BHJP
   H01M 8/1246 20160101ALI20230213BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20230213BHJP
   H01M 8/124 20160101ALI20230213BHJP
   C25B 13/04 20210101ALI20230213BHJP
   C25B 1/042 20210101ALI20230213BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20230213BHJP
   C25B 9/19 20210101ALI20230213BHJP
   C25B 13/07 20210101ALI20230213BHJP
【FI】
H01B1/08
H01B1/06 A
H01M8/12 101
H01M8/1246
H01M4/86 T
H01M8/124
C25B13/04 301
C25B1/042
C25B9/00 A
C25B9/19
C25B13/07
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2019557154
(86)(22)【出願日】2018-11-16
(86)【国際出願番号】 JP2018042539
(87)【国際公開番号】W WO2019107194
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】P 2017229685
(32)【優先日】2017-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018030074
(32)【優先日】2018-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東野 孝浩
(72)【発明者】
【氏名】野田 陽平
(72)【発明者】
【氏名】平岩 千尋
(72)【発明者】
【氏名】水原 奈保
(72)【発明者】
【氏名】小川 光靖
(72)【発明者】
【氏名】俵山 博匡
(72)【発明者】
【氏名】真嶋 正利
(72)【発明者】
【氏名】宇田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】韓 東麟
(72)【発明者】
【氏名】大西 崇之
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/157566(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/008407(WO,A1)
【文献】特開2014-013694(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104806(WO,A1)
【文献】特開2017-041308(JP,A)
【文献】特開2015-147997(JP,A)
【文献】特開2001-307546(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/08
H01B 1/06
H01M 8/12
H01M 8/1246
H01M 4/86
H01M 8/124
C25B 1/042
C25B 13/04
C25B 9/00
C25B 9/19
C25B 13/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素極と、水素極と、前記酸素極および前記水素極の間に介在するプロトン伝導体と、を備え、
前記プロトン伝導体が、ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(1):
x1-yy3-δ
で表される金属酸化物を含み、
元素Aは、Ba、CaおよびSrよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
元素Bは、CeおよびZrよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、InおよびScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x≦1、0<y≦0.5を満たす、プロトン伝導体であって、
前記水素極がニッケルを含み、
前記プロトン伝導体に含まれる前記元素A、前記元素Bおよび前記元素Mの総量に対する、前記プロトン伝導体に含まれるNiの割合:RNiが、1.2原子%以下であり、
前記水素極が、前記元素A、前記元素Bおよび前記元素Mのいずれとも異なる元素Xを更に含み、
前記元素Xは、1500℃以上の温度で前記プロトン伝導体と反応せず、かつNiの活量を低下させる、プロトン伝導型セル構造体。
【請求項2】
前記プロトン伝導体の600℃の加湿酸素雰囲気中におけるイオン輸率が0.8以上である、請求項1に記載のプロトン伝導型セル構造体。
【請求項3】
前記式(1)が、0.98≦x≦1を満たす、請求項1または請求項2に記載のプロトン伝導型セル構造体。
【請求項4】
前記元素AがBaを含み、
前記元素BがZrを含み、
前記元素MがYを含む、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のプロトン伝導プロトン伝導型セル構造体。
【請求項5】
前記元素Xは、Niを含む化合物を形成し得る、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のプロトン伝導型セル構造体。
【請求項6】
前記元素Xは、少なくともMgを含む、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のプロトン伝導型セル構造体。
【請求項7】
前記Niの割合:RNiが1.0原子%以下である、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のプロトン伝導型セル構造体。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のプロトン伝導型セル構造体を備える、水蒸気電解セル。
【請求項9】
水素極の前駆体である多孔質な第1固体電解質層と、プロトン伝導体である緻密な第2固体電解質層と、が一体化されたセル前駆体を得る第1工程と、
前記第1固体電解質層の細孔内に、ニッケル成分を付与する第2工程と、を有し、
前記第1固体電解質層および前記プロトン伝導体が、それぞれペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(1):
x1-yy3-δ
で表される金属酸化物を含み、
元素Aは、Ba、CaおよびSrよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
元素Bは、CeおよびZrよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、InおよびScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x≦1、0<y≦0.5を満たし、
前記プロトン伝導体に含まれる前記元素A、前記元素Bおよび前記元素Mの総量に対する、前記プロトン伝導体に含まれるNiの割合:RNiが、1.2原子%以下であり、
前記第1固体電解質層が、前記元素A、前記元素Bおよび前記元素Mのいずれとも異なる元素Xを更に含み、
前記元素Xは、1500℃以上の温度で前記プロトン伝導体と反応せず、かつNiの活量を低下させる、水素極-固体電解質層複合体の製造方法。
【請求項10】
前記プロトン伝導体の600℃における加湿酸素雰囲気中におけるイオン輸率が、0.8以上である、請求項9に記載の水素極-固体電解質層複合体の製造方法。
【請求項11】
前記第1工程が、前記第1固体電解質層の原料と造孔材とを含む第1ペースト層と、前記プロトン伝導体の原料を含み、前記造孔材を含まない第2ペースト層と、を積層して、ペースト積層体を得る工程と、
前記ペースト積層体を400℃~1000℃で焼成工程と、を有する、請求項9または請求項10に記載の水素極-固体電解質層複合体の製造方法。
【請求項12】
前記第2工程が、前記細孔内にニッケル化合物溶液を含有させた後、200℃~600℃で焼成することを含む、請求項9~請求項10のいずれか1項に記載の水素極-固体電解質層複合体の製造方法。
【請求項13】
酸素極と、水素極と、前記酸素極および前記水素極の間に介在するプロトン伝導体と、を備え、
前記プロトン伝導体が、ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(1):
x1-yy3-δ
で表される金属酸化物を含み、
元素Aは、Ba、CaおよびSrよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
元素Bは、CeおよびZrよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、InおよびScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x≦1、0<y≦0.5を満たし、
前記プロトン伝導体の600℃の加湿酸素雰囲気中におけるイオン輸率が0.8以上である、水蒸気電解セル。
【請求項14】
前記式(1)が、0.98≦x≦1を満たす、請求項13に記載の水蒸気電解セル。
【請求項15】
前記元素AがBaを含み、
前記元素BがZrを含み、
前記元素MがYを含む、請求項13または請求項14に記載の水蒸気電解セル。
【請求項16】
前記水素極がニッケルを含み、
前記プロトン伝導体に含まれる前記元素A、前記元素Bおよび前記元素Mの総量に対する、前記プロトン伝導体に含まれるNiの割合:RNiが、1.2原子%以下である、請求項13~請求項15のいずれか1項に記載の水蒸気電解セル。
【請求項17】
前記水素極が、前記元素A、前記元素Bおよび前記元素Mのいずれとも異なる元素Xを更に含み、
前記元素Xは、1500℃以上の温度で前記プロトン伝導体と反応せず、かつNiの活量を低下させる、請求項16に記載の水蒸気電解セル。
【請求項18】
前記元素Xは、Niを含む化合物を形成し得る、請求項17に記載の水蒸気電解セル。
【請求項19】
前記元素Xは、少なくともMgを含む、請求項17または請求項18に記載の水蒸気電解セル。
【請求項20】
前記Niの割合:RNiが1.0原子%以下である、請求項16~請求項19のいずれか1項に記載の水蒸気電解セル。
【請求項21】
酸素極と、水素極と、前記酸素極および前記水素極の間に介在するプロトン伝導体と、を備える水蒸気電解セルの製造方法であって、
前記水素極の前駆体である多孔質な第1固体電解質層と、前記プロトン伝導体である緻密な第2固体電解質層と、が一体化されたセル前駆体を得る第1工程と、
前記第1固体電解質層の細孔内に、ニッケル成分を付与する第2工程と、を有し、
前記第1固体電解質層および前記プロトン伝導体が、それぞれペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(1):
x1-yy3-δ
で表される金属酸化物を含み、
元素Aは、Ba、CaおよびSrよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
元素Bは、CeおよびZrよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、InおよびScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x≦1、0<y≦0.5を満たし、
前記プロトン伝導体の600℃の加湿酸素雰囲気中におけるイオン輸率が0.8以上である、水蒸気電解セルの製造方法。
【請求項22】
前記第1工程が、前記第1固体電解質層の原料と造孔材とを含む第1ペースト層と、前記第2固体電解質層の原料を含み、前記造孔材を含まない第2ペースト層と、を積層して、
ペースト積層体を得る工程と、
前記ペースト積層体を400℃~1000℃で焼成工程と、を有する、請求項21に記載の水蒸気電解セルの製造方法。
【請求項23】
前記第2工程が、前記細孔内にニッケル化合物溶液を含有させた後、200℃~600℃で焼成することを含む、請求項21または請求項22に記載の水蒸気電解セルの製造方法。
【請求項24】
多孔質な第1固体電解質層と、緻密な第2固体電解質層と、が一体化されたセル前駆体を得る第1工程と、
前記第1固体電解質層の細孔内に、ニッケル成分を付与する第2工程と、を有し、
前記第1固体電解質層および前記第2固体電解質層が、それぞれペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(1):
x1-yy3-δ
で表される金属酸化物を含み、
元素Aは、Ba、CaおよびSrよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
元素Bは、CeおよびZrよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、InおよびScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x≦1、0<y≦0.5を満たし、
前記第1工程が、前記第1固体電解質層の原料と造孔材とを含む第1ペースト層と、前記第2固体電解質層の原料を含み、前記造孔材を含まない第2ペースト層と、を積層して、ペースト積層体を得る工程と、
前記ペースト積層体を400℃~1000℃で焼成工程と、を有する、水素極-固体電解質層複合体の製造方法。
【請求項25】
前記第2固体電解質層の600℃における加湿酸素雰囲気中におけるイオン輸率が、0.8以上である、請求項24に記載の水素極-固体電解質層複合体の製造方法。
【請求項26】
前記第2工程が、前記細孔内にニッケル化合物溶液を含有させた後、200℃~600℃で焼成することを含む、請求項24または請求項25に記載の水素極-固体電解質層複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プロトン伝導体、プロトン伝導型セル構造体、水蒸気電解セルおよび水素極-固体電解質層複合体の製造方法に関する。
本出願は、2017年11月29日出願の日本出願第2017-229685号、及び、2018年2月22日出願の日本出願第2018-030074号に基づく優先権を主張し、これらの日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
電荷のキャリアとして水素イオン(プロトン)を用いるPCFC(Protonic Ceramic Fuel Cells、プロトン伝導性酸化物型燃料電池)に適用できる固体電解質として、ペロブスカイト型構造(Perovskite structure)を有するプロトン伝導性金属酸化物が知られている(特許文献1および特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-307546号公報
【文献】特開2007-197315号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示のプロトン伝導体は、ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(1):
1-y3-δ (1)
で表される金属酸化物を含み、
元素Aは、Ba、CaおよびSrよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
元素Bは、CeおよびZrよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、InおよびScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x≦1、0<y≦0.5を満たす。
【0005】
本開示のプロトン伝導型セル構造体は、酸素極と、水素極と、前記酸素極および前記水素極の間に介在する本開示のプロトン伝導体と、を備える。
【0006】
本開示の水蒸気電解セルは、本開示のプロトン伝導型セル構造体を備える。
【0007】
本開示の水素極-固体電解質層複合体の製造方法は、
多孔質な第1固体電解質層と、緻密な第2固体電解質層と、が一体化されたセル前駆体を得る第1工程と、
前記第1固体電解質層の細孔内に、ニッケル成分を付与する第2工程と、を有し、
前記第1固体電解質層および前記第2固体電解質層が、それぞれペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(1):
1-y3-δ (1)
で表される金属酸化物を含み、
元素Aは、Ba、CaおよびSrよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
元素Bは、CeおよびZrよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、InおよびScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
δは酸素欠損量であり、0.95≦x≦1、0<y≦0.5を満たす。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施形態に係るプロトン伝導型セル構造体を模式的に示す断面図である。
図2】本開示の一実施形態に係るプロトン伝導体におけるBa欠損量とイオン輸率との関係を示す図である。
図3】本開示の一実施形態に係るプロトン伝導体におけるアレニウスプロットを示す図である。
図4】本開示の一実施形態に係るプロトン伝導体における雰囲気温度とイオン輸率との関係を示す図である。
図5】本開示の一実施形態に係るプロトン伝導体に含まれるNiの割合(RNi)と水素雰囲気中での600℃での全伝導度との関係を示す図である。
図6】本開示の一実施形態に係る水素極-固体電解質層複合体が具備する固体電解質層におけるY濃度とRNiとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[発明が解決しようとする課題]
イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を固体電解質層に用いたセル構造体では、NiOと固体電解質とを混合した水素極を薄膜化された固体電解質層の支持体とする構成が検討されている。プロトン伝導性金属酸化物でも上記構成により固体電解質層を薄膜化することは可能である。
【0010】
しかし、上記セル構造体は、水素極と固体電解質層との共焼結により形成される。共焼結の際、水素極のNiがプロトン伝導性金属酸化物中に拡散すると、金属酸化物のプロトン伝導性が低下する。プロトン伝導性金属酸化物中に拡散したNiは、イオン輸率も低下させるため、リーク電流が増加し得る。よって、セル構造体を水蒸気電解セルに使用する際には電解効率が低下しやすい。
【0011】
また、プロトン伝導性金属酸化物が、イットリウムをドープしたジルコン酸バリウムである場合、焼結性が低いことを考慮して、通常1600℃以上の温度で焼結が行われる。その際、Baが蒸発により欠損することで、イオン輸率とプロトン伝導度の低下を引き起こすことがある。
[発明の効果]
【0012】
本開示に係るプロトン伝導体を水蒸気電解セルおよび/または燃料電池に適用すると、高いイオン輸率が得られ、電流効率が向上する。また、本開示に係る水素極-固体電解質層複合体の製造方法によれば、電流効率に優れたプロトン伝導型セル構造体を形成することができる。
【0013】
[発明の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
【0014】
(1)本開示の一実施形態は、
ペロブスカイト型構造を有し、かつ式(1):A1-y3-δで表される金属酸化物を含むプロトン伝導体に関する。ここで、元素Aは、Ba、CaおよびSrよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素Bは、CeおよびZrよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、InおよびScよりなる群から選択される少なくとも一種である。上記式(1)は、0.95≦x≦1および0<y≦0.5を満たし、δは酸素欠損量である。
このような構成を有するプロトン伝導体を水蒸気電解セルおよび/または燃料電池に適用すると、高いプロトン伝導性と高いイオン輸率とを確保できるため、高い電流効率を発揮することができる。
【0015】
(2)上記プロトン伝導体は、600℃の加湿酸素雰囲気中におけるイオン輸率が0.8以上であることが好ましい。
イオン輸率がこのような範囲であれば、該プロトン伝導体を水蒸気電解セルおよび/または燃料電池に適用した場合、より高い電流効率を発揮することができる。ここで、加湿酸素雰囲気は、水蒸気と酸素の混合ガス雰囲気であればよく、水蒸気分圧0.05atm(5.0×10Pa)、酸素分圧0.95atm(9.5×10Pa)の雰囲気であればよい。
【0016】
(3)上記式(1)は、0.98≦x≦1を満たすことが好ましい。
xがこのような範囲では、より高いプロトン伝導性とイオン輸率を確保し得る。
【0017】
(4)元素AはBaを含み、元素BはZrを含み、元素MはYを含んでもよい。これにより、セル構造体の耐久性を向上させることができる。
【0018】
(5)本開示の他の一実施形態は、酸素極と、水素極と、酸素極および水素極の間に介在する上記プロトン伝導体とを備えるプロトン伝導型セル構造体に関する。
この構成を有するプロトン伝導型セル構造体を燃料電池および/または水蒸気電解セルに適用すると、高い電流効率が発揮される。
【0019】
(6)上記プロトン伝導型セル構造体が具備するプロトン伝導体において、元素A、元素Bおよび元素Mの総量に対するNiの割合:RNi(Ni Cation Ratio)は、1.2原子%以下であることが好ましい。
これにより、上記セル構造体による水蒸気電解セルおよび/または燃料電池の電流効率が向上する。
【0020】
(7)上記水素極は、元素A、元素Bおよび元素Mのいずれとも異なる元素Xを含んでもよい。元素Xは、1500℃以上の温度でプロトン伝導体と反応せず、かつNiの活量を低下させる元素であることが好ましい。
これにより、上記プロトン伝導体中にNiが拡散するのを抑制することができる。また、プロトン伝導体とニッケルとの副生成物(例えば、BaYNiO)が生成するのを防ぐことができる。
【0021】
(8)元素Xは、例えば、Niを含む化合物を形成し得る元素であればよい。
Niを含む化合物を形成することでNiの活量を低減することができる。
【0022】
(9)元素Xは、少なくともMgを含むことが好ましい。
Mgはプロトン伝導体中にNiが拡散するのを抑制する作用が大きいからである。元素Xのうち、90原子%以上がMgであることがより好ましい。
【0023】
(10)上記Niの割合:RNiは1.0原子%以下が好ましい。
これにより、上記セル構造体を具備する水蒸気電解セルおよび/または燃料電池の電流効率が顕著に向上する。
【0024】
(11)本開示の他の一実施形態は、上記プロトン伝導型セル構造体を備える水蒸気電解セルに関する。
【0025】
(12)本開示の他の一実施形態は、多孔質な第1固体電解質層と、緻密な第2固体電解質層と、が一体化されたセル前駆体を得る工程と、第1固体電解質層の細孔内に、ニッケル成分(金属Niまたはニッケル化合物)を付与する工程と、を有し、第1固体電解質層および第2固体電解質層が、それぞれペロブスカイト型構造を有し、かつ式(1):A1-y3-δで表される金属酸化物を含み、元素Aは、Ba、CaおよびSrよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素Bは、CeおよびZrよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素Mは、Y、Yb、Er、Ho、Tm、Gd、InおよびScよりなる群から選択される少なくとも一種であり、δは酸素欠損量であり、0.95≦x≦1、0<y≦0.5を満たす、水素極-固体電解質層複合体の製造方法に関する。
この方法によれば、固体電解質層へのNiの拡散を抑制することができる。この方法で得られる水素極-固体電解質層複合体を水蒸気電解セルおよび/または燃料電池に適用すると、高い電流効率が発揮される。
【0026】
(13)上記第2固体電解質層の600℃における加湿酸素雰囲気中におけるイオン輸率は0.8以上であることが好ましい。上記水素極-固体電解質層複合体の製造方法によれば、第2固体電解質層のイオン輸率を0.8以上とすることが容易である。
【0027】
(14)上記水素極-固体電解質層複合体の製造方法において、セル前駆体を得る工程は、第1固体電解質層の原料と造孔材とを含む第1ペースト層と、第2固体電解質層の原料を含み、造孔材を含まない第2ペースト層とを積層して、ペースト積層体を得る工程と、ペースト積層体を400℃~1000℃で焼成する工程とを含み得る。
【0028】
(15)上記水素極-固体電解質層複合体の製造方法において、細孔内にニッケル成分(金属Niまたはニッケル化合物)を付与する工程は、細孔内にニッケル化合物溶液を含有させた後、200℃~600℃で焼成することを含んでもよい。
【0029】
[実施形態の詳細]
本開示の実施形態の具体例を、適宜図面を参照しつつ以下に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0030】
[プロトン伝導体]
プロトン伝導体は、ペロブスカイト型構造(ABO相)を有する金属酸化物であり、その組成は上記式(1)で表される。Aサイトには、元素Aが入り、Bサイトには、元素B(ホウ素を示すものではない)が入る。Bサイトの一部は、高いプロトン伝導性を確保する観点から、元素Mで置換されている。
【0031】
元素Bおよび元素Mの合計に対する元素Aの比率xは、高いプロトン伝導性とイオン輸率を確保する観点から、0.95≦x≦1であることが好ましく、0.98≦x≦1であることがより好ましい。また、xが1を越えないことで、元素Aの析出が抑制され、水分の作用によりプロトン伝導体が腐食することを抑制できる。yは、プロトン伝導性を確保する観点から、0<y≦0.5であることが好ましく、0.1<y≦0.3がより好ましい。
【0032】
元素Aは、Ba(バリウム)、Ca(カルシウム)およびSr(ストロンチウム)よりなる群から選択される少なくとも一種である。なかでも、優れたプロトン伝導性が得られる点で、元素AはBaを含むことが好ましく、元素Aに占めるBaの比率は、50原子%以上であることが好ましく、80原子%以上であることがより好ましい。元素AはBaのみで構成されることが更に好ましい。
【0033】
元素Bは、Ce(セリウム)およびZr(ジルコニウム)よりなる群から選択される少なくとも一種である。なかでも、耐久性の観点から、元素BはZrを含むことが好ましく、元素Bに占めるZrの比率は、50原子%以上であることが好ましく、80原子%以上であることがより好ましい。元素BはZrのみで構成されることが更に好ましい。
【0034】
元素Mは、Y(イットリウム)、Yb(イッテルビウム)、Er(エルビウム)、Ho(ホルミウム)、Tm(ツリウム)、Gd(ガドリニウム)、In(インジウム)およびSc(スカンジウム)よりなる群から選択される少なくとも一種である。元素Mはドーパントであって、これにより酸素欠陥が生じ、ペロブスカイト型構造を有する金属酸化物はプロトン伝導性を発現する。
【0035】
上記式(1)において、酸素欠損量δは、元素Mの量に応じて決定でき、例えば、0≦δ≦0.15である。金属酸化物における各元素の比率は、例えば、電子プローブマイクロアナライザを使用した波長分散型X線分析 (Wavelength Dispersive X-ray spectroscopy、以下、WDXと称する)を用いて求めることができる。
【0036】
ペロブスカイト型構造を有する金属酸化物の具体例としては、イットリウムがドープされたジルコン酸バリウム[BaZr1-y3-δ(以下、BZYと称する)]、イットリウムがドープされたセリウム酸バリウム[BaCe1-y3-δ(BCY)]、イットリウムがドープされたジルコン酸バリウム/セリウム酸バリウムの混合酸化物[BaZr1-y-zCe3-δ(BZCY)]などが挙げられる。
【0037】
発明者らは、固体電解質にBZYを用い、水素極にBZYとNiOの混合体を用いた水蒸気電解セルを検討する中、従来の共焼結法で作製したセルではBZY中へのNiの拡散によりイオン輸率が低下し、BZYの物性値から試算される電流効率よりも実際の電流効率は低いということを明らかにした。さらに、高いイオン輸率を確保し、高い電流効率を有するプトロン伝導体に必要な条件を探求した。その結果、上記式(1)の化合物における元素A(特にBa)の欠損量の増大に伴って加湿酸素雰囲気中におけるイオン輸率が低下するという新たな知見を得た。水蒸気電解セルにおいては、固体電解質層の加湿酸素雰囲気中におけるイオン輸率を確保することが重要である。
【0038】
本開示に係るプロトン伝導体は、加湿酸素雰囲気中においても高いイオン輸率を確保できる。イオン輸率とは、電解質に電流を流した際に、電子、ホール、陽イオン、陰イオンによって運ばれる全電気量のうち、陰イオンと陽イオンによって運ばれる電気量の割合である。なお、運ばれる全電気量が陰イオンと陽イオンによって運ばれる電気量と等しい場合にはイオン輸率が1となる。例えばBZYの場合は、プロトンと酸化物イオンとホールとがキャリアとして存在することから、イオン輸率は、プロトンと酸化物イオンによって流れた電気が全体の何割であるのかを示す。
【0039】
[プロトン伝導型セル構造体]
本開示の一実施形態に係るセル構造体の断面模式図を図1に示す。プロトン伝導型セル構造体1は、酸素極2と、水素極3と、酸素極2および水素極3の間に介在し、プロトン伝導性を備える固体電解質層(プロトン伝導体)4と、を備える。プロトン伝導型セル構造体1において、固体電解質層4は、酸素極2と水素極3との間に挟持されており、固体電解質層4の一方の主面は、水素極3に接触し、他方の主面は酸素極2と接触している。水素極3および固体電解質層4は、焼成により一体化されて、水素極3と固体電解質層4との複合体5を形成している。固体電解質層の厚みは、例えば、1μm~100μm、好ましくは3μm~20μmである。固体電解質層の厚みがこのような範囲である場合、固体電解質層の抵抗が低く抑えられる点で好ましい。
【0040】
図示例では、積層型のセル構造体を示しているが、セル構造体の形状はこれに限定されない。例えば、中空を有するように、水素極3を内側にして丸めた円筒形状であってもよい。また、水素極3の厚みは、酸素極2よりも大きくなっており、水素極3が固体電解質層4(ひいてはプロトン伝導型セル構造体1)を支持する支持体として機能している。ただし、水素極3の厚みを、必ずしも酸素極2よりも大きくする必要はなく、例えば、水素極3の厚みと酸素極2の厚みとは同程度であってもよい。
【0041】
固体電解質層4において、元素A、元素Bおよび元素Mの総量に対するNiの割合:RNiは、1.2原子%以下であることが好ましく、0.8原子%以下がより好ましく、0.5原子%以下がさらに好ましい。RNiは、固体電解質層4に含まれる酸素を除く全てのカチオン量に対するNiの割合である。このように、固体電解質層4へのNiの拡散を抑制することで、伝導度の低下を防ぐことができる。
【0042】
Niは、WDXを用いて、元素分布状態(デプスプロファイル)を評価することによって求めることができる。例えば、固体電解質層4のある一点を通る、固体電解質層4の主面に対する法線を引いたとき、法線上にある、水素極3と固体電解質層4との境界から固体電解質層4と酸素極2との境界までを、1μm間隔で評価する。その後、全ての測定点を平均化することによって、RNiを求めればよい。ただし、元素A、元素Bの量によって、プロトン伝導体でないと判断される点は除外する。
【0043】
[酸素極]
酸素極2は、例えば、燃料電池の場合、酸素分子を吸着し、解離させてイオン化することができる多孔質の構造を有している。酸素極2では、固体電解質層4を介して伝導されたプロトンと、酸化物イオンとの反応(酸素の還元反応)が生じている。酸化物イオンは、酸化剤流路から導入された酸化剤(酸素)が解離することにより生成する。
【0044】
酸素極2の材料としては、例えば、燃料電池のカソードとして用いられる公知の材料を用いることができる。なかでも、ランタンを含み、かつ、ペロブスカイト構造を有する化合物(フェライト、マンガナイト、および/またはコバルタイトなど)が好ましく、これらの化合物のうち、さらにストロンチウムを含むものがより好ましい。具体的には、ランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF:La1-xSrFe1-yCo3-δ、0<x<1、0<y<1)、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM:La1-xSrMnO3-δ、0<x<1)、ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC:La1-xSrCoO3-δ、0<x<1)等が挙げられる。ここでも、δは酸素欠損量を示す。
【0045】
酸素極2は、例えば、上記材料を焼結することにより形成することができる。プロトンと酸化物イオンとの反応を促進させる観点から、酸素極2は、Pt等の触媒を含んでいてもよい。触媒を含む場合、酸素極2は、触媒と上記材料とを混合して、焼結することにより形成することができる。必要に応じて、上記の酸素極2の材料とともに、バインダ、添加剤および/または分散媒などを用いてもよい。酸素極2の厚みは、特に限定されないが、5μm~40μm程度であればよい。
【0046】
[水素極]
水素極3は、多孔質の構造を有している。水素極3では、例えば、燃料電池の場合、水素などの燃料が酸化され、プロトンと電子とを放出する反応(燃料の酸化反応)が行われる。
【0047】
水素極3の材料としては、例えば、燃料電池のアノードとして用いられる材料を用いることができる。具体的には、触媒成分であるニッケルもしくはニッケル化合物(酸化ニッケル等)と、プロトン伝導体との複合物等が挙げられる。なお、ニッケル化合物は、セルの使用中に還元され、Niを生成する。プロトン伝導体には、上記式(1)の化合物を用いる。これにより、水素極3と固体電解質層4に含まれる金属元素の実質的な相互拡散が抑制されるため、抵抗が高くなり難い。
【0048】
水素極3は、例えば、NiO粉末とプロトン伝導体の粉末等とを混合して焼結することにより形成することができる。水素極3の厚みは、例えば、10μm~2mmから適宜決定でき、10μm~100μmであってもよい。水素極3の厚みを大きくして、固体電解質層4を支持する支持体として機能させてもよい。この場合、水素極3の厚みは、例えば、100μm~2mmの範囲から適宜選択できる。
【0049】
ここで、水素極3として、例えば、NiO粉末とプロトン伝導体のBZY粉末とを混合して共焼結することにより形成された複合物を用いる場合、BZY中にNiが拡散しやすい。このような水素極3をプロトン伝導型セルに使用すると、セルの伝導度およびイオン輸率が低下する。セルの伝導度およびイオン輸率を低下させないためには、水素極3が、1500℃以上の温度においてプロトン伝導体のBZY粉末と反応せず、かつ、Niの活量を低下させる元素Xを含むことが好ましい。
【0050】
元素Xは、例えば、Niを含む化合物を形成し得る元素であればよい。元素Xは、少なくともMgを含むことが好ましく、元素Xの90原子%以上がMgであることがより好ましく、元素Xの99原子%以上もしくは全量がMgであることが更に好ましい。これにより、Niの割合:RNiを容易に1.0原子%以下、更には0.5原子%以下とすることができる。
【0051】
具体的には、例えばMgOとNiOとを混合し、空気中で熱処理して得られる固溶体を水素極3に用いることができる。なお、水素極3は、還元によりNiを生成するものであればよい。MgOとNiOの固溶体を用いる場合、MgとNiとの合計に占めるMgの割合は、Ni量を確保する観点から言えば、例えば30~70原子%であればよく、40~50原子%が好ましい。
【0052】
水素極3に、アンモニア、メタン、プロパン等の気体を含むガスを導入すると、水素極3では、これらの気体の分解反応が起こり、水素が発生する。つまり、プロトン伝導型セル構造体1は、ガス分解性能を備えており、このプロトン伝導型セル構造体1をガス分解装置に用いることも可能である。
【0053】
例えば、アンモニアの分解により発生した水素は、水素極3によって酸化され、プロトンが生成する。生成したプロトンは、固体電解質層4を通って、酸素極2に移動する。一方、アンモニアの分解により同時に生成したNは、排気ガスとして排出される。水素極3には、上記ガスを分解する機能を有する触媒を含ませてもよい。アンモニア等のガスを分解する機能を有する触媒としては、Fe、Co、Ti、Mo、W、Mn、RuおよびCuよりなる群から選択される少なくとも1種の触媒成分を含む化合物が挙げられる。
【0054】
[水蒸気電解セル]
水蒸気電解セルは、上記のプロトン伝導型セル構造体1を含んでいればよく、その他の構成は、公知のものが採用できる。また、水蒸気電解セルは、上記のプロトン伝導型セル構造体1を用いる以外は、公知の方法で製造できる。
【0055】
水蒸気電解セルに用いる場合には、加湿酸素雰囲気中のイオン輸率はより高いことが好ましく、少なくとも0.8以上である固体電解質層4を備えることが好ましい。これにより、水蒸気電解セルにおいて電子性の漏れ電流を抑制し、水蒸気電解の効率を向上させることができる。
【0056】
本開示に係るプロトン伝導体を水蒸気電解セルに適用する場合、イオン輸率がより高いことが好ましい理由を以下に説明する。
【0057】
例えば、BZYの場合は、プロトンと酸化物イオンとホールとがキャリアとして存在しており、ホール伝導が存在すると、漏れ電流が流れる。漏れ電流は電解に関係なく流れてしまうため、電流効率が低くなる。ここで、漏れ電流をj、セルの電圧をV、電解質中のホール伝導に対する抵抗値をRとすると、j=V/Rという関係が成り立つ。燃料電池として発電を行うときには、Vは小さくなり、Rは大きくなるため、jは小さくなる。一方、水蒸気電解セルの場合には、Vは大きくなり、Rは小さくなるため、jは大きくなる。したがって、水蒸気電解セルの場合、燃料電池の場合と比べて漏れ電流jが大きくなる傾向がある。漏れ電流を抑えて電解の効率を良好にするためには、イオン輸率をできるだけ高くすることが望まれる。
【0058】
[水素極-固体電解質層複合体の製造方法]
本開示の一実施形態に係る水素極-固体電解質層複合体の製造方法は、多孔質な第1固体電解質層と、緻密な第2固体電解質層とが一体化されたセル前駆体を得る第1工程と、第1固体電解質層の細孔内に、ニッケル成分(金属Niまたはニッケル化合物)を付与する第2工程と、を有する。
【0059】
第1固体電解質層および第2固体電解質層は、それぞれペロブスカイト型構造を有し、かつ上記式(1)で表される金属酸化物を含む。このような製造方法を用いることにより、第2固体電解質層に拡散するニッケル成分(金属Niまたはニッケル化合物)を制御することが可能となり、ニッケル成分(金属Niまたはニッケル化合物)の固溶に起因するプロトン伝導型セル構造体の伝導度の低下を抑えることができる。
【0060】
[第1工程]
第1工程では、第1固体電解質層の原料と造孔材(例えば、カーボン)とを含む第1ペースト層と、第2固体電解質層の原料を含み、造孔材を含まない第2ペースト層と、を積層して、ペースト積層体を得る工程と、ペースト積層体を焼成し、造孔材の少なくとも一部を除去する工程とを有することが好ましい。焼成温度については、400℃~1000℃が好ましく、400℃~800℃がより好ましい。積層体の焼成物は、その後、過剰のBZY粉末に埋めた状態で、例えば1500~1650℃程度(好ましくは1550~1650℃)の高温にて酸素雰囲気で焼成する。この焼成により、多孔質な第1固体電解質層と緻密な第2固体電解質層の二層が一体化した焼結体を得ることができる。なお、第1固体電解質と造孔材を混合した粉末と、第2固体電解質とを、共に加圧成型し、次に、この加圧成型された成型体を熱処理することにより、造孔材を焼き飛ばしてもよい。
【0061】
[第2工程]
第2工程では、第1固体電解質層の細孔内に、ニッケル成分(金属Niまたはニッケル化合物)を付与する。例えば、硝酸ニッケル水溶液に第1工程で得られた焼結体を投入し、減圧下において、焼結体の第1固体電解質層の細孔内に硝酸ニッケル水溶液を含浸する。その後、熱処理を行うことにより、硝酸ニッケルを酸化ニッケルに変換する。このようにすることで、第1固体電解質層の細孔内に、ニッケル成分(金属Niまたはニッケル化合物)を付与することができる。細孔内に硝酸ニッケル水溶液を含浸させた後、200℃~600℃の温度で焼成することが好ましく、300℃~500℃の温度で焼成することがより好ましい。この焼成温度であれば、ニッケルが第2固体電解質層に拡散することがほとんどなく、Ni含有量が低い第2固体電解質層を得ることができる。硝酸ニッケル水溶液の含浸と、熱処理については、数回繰り返すことが好ましい。
【0062】
第1固体電解質層の細孔内にニッケル成分(金属Niまたはニッケル化合物)を付与する手法として、第1固体電解質層に対して、金属NiやNiOを真空蒸着等により直接付着させてもよい。また、金属Niナノ粒子を懸濁させた液中で上記焼結体にめっき、または無電解めっきを施してもよい。
【0063】
以下、実施例に基づき、本開示をより具体的に説明するが、以下の実施例は本開示を限定するものではない。
【0064】
[実施例1]
(1)金属酸化物m1~m3(BaZr1-y3-δ)の作製
炭酸バリウムと、酸化ジルコニウムと、酸化イットリウムとを、Baの比率xが表1に示す値、Yの比率yが0.200になるようなモル比で、それぞれボールミルに入れて24時間混合し、混合物を得た。得られた混合物を、1000℃で10時間の仮焼成を行った。仮焼成された混合物をボールミルで10時間処理して、一軸成形した後、大気雰囲気において、1300℃で10時間焼成した。焼成した試料を乳鉢で粉砕した後、ボールミルで10時間処理した。得られた粉末に対して、再度、一軸成形した後、1300℃、10時間の焼成を行い、ボールミルで10時間処理することによって金属酸化物m1~m3を得た。
【0065】
(2)焼結体およびサンプル電極の作製
金属酸化物m1~m3を一軸成形してそれぞれのペレットを得た後、これをBZYと炭酸バリウムとの混合粉末[BZY:BaCO=100:1(質量比)]に埋めて、酸素雰囲気中、1600℃で、24時間の熱処理をすることにより焼結させ、ペロブスカイト型構造を有する各金属酸化物m1~m3の焼結体S1~S3を作製した。各焼結体S1~S3の両面にスパッタによりPt電極を形成することによりサンプル電極を作製した。
【0066】
【表1】
【0067】
(3)イオン輸率の測定
Ptスパッタ後のサンプル電極を測定用のホルダーに取り付け、電気炉に入れ、700℃まで昇温した。水蒸気分圧が0.05atm(5×10Pa)、酸素分圧が0.95atm(9.5×10Pa)となるように加湿した酸素を供給しながら、交流インピーダンス測定により伝導度を求めた。交流インピーダンス測定には、Solartron1260(Solartron Analytical社製)を使用した。その後、ArにOを20%混合したガス[水蒸気分圧0.05atm(5×10Pa)、酸素分圧0.19atm(1.9×10Pa)、アルゴン分圧0.76atm(7.6×10Pa)]、ArにHを5%混合したガス[水蒸気分圧0.05atm(5×10Pa)、水素分圧0.0475atm(4.75×10Pa)、アルゴン分圧0.9025atm(9.025×10Pa)]、ArにHを10%混合したガス[水蒸気分圧0.05atm、水素分圧0.095atm(9.5×10Pa)、アルゴン分圧0.855分圧(8.55×10Pa)]、ArにHを50%混合したガス[水蒸気分圧0.05atm(5×10Pa)、水素分圧0.475atm(4.75×10Pa)、アルゴン分圧0.475atm(4.75×10Pa)]、およびH雰囲気[水蒸気分圧0.05atm(5×10Pa)、水素分圧0.95atm(9.5×10Pa)]においても、それぞれ伝導度を求めた。
【0068】
得られた伝導度σはσion+σeleで表される。このとき、σion(イオン伝導度)は一定である。σele(ホール伝導度)は酸素分圧pOの1/4乗に比例するため、A(pO1/4と表される。
ここで、ある雰囲気で伝導度を測定した場合、その雰囲気での全伝導度しか求めることができない。つまり、ホール伝導度σeleは雰囲気によって変化するため、雰囲気による変化を見る必要がある。そこで、酸素雰囲気中のホール伝導度を確認するために、雰囲気を変えて、その変化を見ることにした。
具体的には、σ=σion+A(pO1/4の式で伝導度をフィッティングし、σionとσeleを求めた。イオン輸率はσion/(σionele)であり、フィッティングから得られた値を用い、加湿酸素雰囲気におけるイオン輸率を算出した。なお、加湿酸素雰囲気におけるイオン輸率測定は、600℃、500℃でも同様にして行った。
【0069】
イオン輸率の測定結果を図2に示す。イオン輸率は、いずれの温度でも、Baの欠損量の増大に伴って低下する傾向があることがわかる。
【0070】
(4)イオン伝導度の測定
Ptスパッタ後のS1~S3について、水蒸気分圧が0.05atm(5×10Pa)、水素分圧が0.95atm(9.5×10Pa)の加湿水素雰囲気中において600℃から100℃まで温度を変えながら伝導度を測定することにより、イオン伝導度の温度依存性を確認した。
【0071】
イオン伝導度の測定結果(アレニウスプロット)を図3に示す。なお、図3に示す各プロットと各焼結体との関係は、それぞれ以下のとおりである。
S1:化学量論組成(BaZr0.80.23-δ
S2:Ba欠損量0.02(Ba0.98Zr0.80.23-δ
S3:Ba欠損量0.05(Ba0.95Zr0.80.23-δ
イオン伝導度は、加湿水素雰囲気の温度低下に伴って低下した。イオン伝導度は、いずれの温度でも、Baの欠損量の増大に伴って低下する傾向があることがわかる。
【0072】
[実施例2]
金属酸化物m1中のBa、ZrおよびYの合計に対するNiの割合(RNi)が2.1原子%となるように、金属酸化物m1にNiOを混合した。得られた混合粉末を一軸成形した後、酸素雰囲気中、1500℃で10時間焼成して焼結体(以下、試料BZY-Niと称する)を得た。
【0073】
試料BZY-NiのようにNiがBZY中に固溶している場合、水素雰囲気と酸素雰囲気ではイオン伝導度が異なると考えられる。これは、水素雰囲気と酸素雰囲気では固溶体中のNiの状態が異なるためである。そのため、実施例1で行ったように水素雰囲気中でのイオン伝導度の測定結果を酸素雰囲気中でのイオン伝導度と仮定し、イオン輸率を求めることは困難である。そこで、試料BZY-Niについては、起電力測定法によりイオン輸率を求めた。また、比較のため、Niを含まない試料S1についても同様に測定を行った。
【0074】
起電力測定法によるイオン輸率の算出は以下のとおりである。
焼結体の両側にPtをスパッタし、電極(I)及び電極(II)を作製する。電極(I)側のガスにおける水蒸気分圧をPH2O(I)、水素分圧をPH2(I)、酸素分圧をPO2(I)とする。電極(II)側のガスにおける水蒸気分圧をPH2O(II)、水素分圧をPH2(II)、酸素分圧をPO2(II)とする。
【0075】
プロトンおよび酸化物イオンが電荷のキャリアとなり得るため、各電極のガス分圧が異なると起電力Vcellが生じる。起電力Vcellは、下記式(2)もしくは式(3)で表される。
【0076】
【数1】
【0077】
【数2】
【0078】
ここで、t はプロトンの輸率、t 2-は酸化物イオンの輸率、Rは気体定数、Fはファラデー定数、Tは温度(K)を示している。
【0079】
加湿水素雰囲気下におけるイオン輸率(t ++t 2-)を測定する場合には、式(2)を使用する。両電極の水蒸気分圧PH2O(I)、PH2O(II)は0.03とした。一方の電極側の水素分圧PH2(I)を0.97に固定し、他方の電極側の水素分圧PH2(II)を0.29、0.39、0.49、0.58、0.68、0.78とし、各水素分圧での起電力Vmeaを測定した。測定された起電力を横軸log[PH2(II)]、縦軸Vのグラフにプロットした。プロットを直線近似したときの傾きと、イオン輸率(t ++t 2-)が1であるときの傾きから、イオン輸率を算出した。このとき、電極の過電圧の影響を受けるため、下記式(4)で補正を行った。式(4)において、Vcellは式(2)に(t ++t 2-)=1を代入したときに得られる値である。
【0080】
【数3】
【0081】
加湿酸素雰囲気下におけるイオン輸率を測定する場合には、式(3)を使用する。両電極の水蒸気分圧PH2O(I)、PH2O(II)は0.03とした。一方の電極側の酸素分圧PO2(II)を0.97に固定し、他方の電極側の酸素分圧PO2(I)を0.29、0.39、0.49、0.58、0.68、0.78とし、各酸素分圧での起電力Vmeaを測定した。測定された起電力を横軸log[PO2(I)]、縦軸Vのグラフにプロットした。プロットを直線近似したときの傾きからイオン輸率を算出し、上記と同様に補正した。
【0082】
イオン輸率の測定結果を図4に示す。加湿酸素雰囲気下におけるイオン輸率は、温度の上昇に伴って低下する傾向がある。この傾向は、Niを含まない試料S1(図4の符号●)と比較して、Niを含む固溶体である試料BZY-Ni(図4の符号▲)において大きい。そのため、試料BZY-Niのイオン輸率は、試料S1のイオン輸率よりも低くなる。したがって、試料BZY-Niを中温域の水蒸気電解セルに適用する場合には、BZYに含まれるNi量を可能な限り小さくすることが望ましい。なお、図4には、加湿水素雰囲気下におけるイオン輸率について測定した結果も示した。図4の符号〇は、Niを含まない試料S1の結果であり、図4の符号△は、Niを含む固溶体である試料BZY-Niの結果である。加湿水素雰囲気下では、イオン輸率がほとんど変化しないことがわかる。
【0083】
[実施例3]
金属酸化物m1中のBa、ZrおよびYの合計に対するNiの割合(RNi)が0.4原子%、0.6原子%、1.3原子%となるように、それぞれ金属酸化物m1とNiOとを混合した。得られた混合粉末を一軸成形した後、酸素雰囲気中で1500℃、10時間の熱処理を行うことで、焼結体を得た。焼結体の両面にスパッタによりPt電極を形成することによりサンプル電極を作製した。
【0084】
Ptスパッタ後のサンプル電極を測定用のホルダーに取り付け、電気炉に入れ昇温した。600℃において、水蒸気分圧が0.05atm(5×10Pa)、水素分圧が0.95atm(9.5×10Pa)となるように加湿した水素を供給しながら、交流インピーダンス測定により伝導度を求めた。得られた水素雰囲気中の全伝導度を図5に示す。なお、実施例1で作製した焼結体S1及び実施例2で作製した試料BZY-Niについても、サンプル電極を作製した後、水素雰囲気中の全伝導度を求め、合わせて図5に示した。
【0085】
図5より、RNiが増大するに伴い、全伝導度が低下することがわかる。プロトン伝導型セル構造体を水蒸気電解セルに適用する場合には、固体電解質層の抵抗を抑え、少なくとも全伝導度を0.005S/cm以上にすることが求められる。
【0086】
ここで、プロトン伝導型セル構造体を有する水蒸気電解セルにおいて、全伝導度から水蒸気電解効率を試算すると、以下のようになる。
【0087】
まず、電解効率は電流効率(電解に用いられる正味の電流/漏れ電流を含む全電流)と仮定する。ここで、電解効率に影響するパラメーターは電解質の伝導度以外に多数(電解質厚み、電極のガス組成、電極の触媒性能、電流密度等)存在するが、イオン伝導度の低下は確実に電解効率の低下に繋がる。
【0088】
具体的には、例えば、電解質がBZYの水蒸気電解セルにおけるポテンシャルとして理想に近い以下のパラメーターで試算すると、0.3A/cmの電流密度で電解したときの電解効率は、電解質伝導度0.018S/cm(Niフリー)において90.9%から、0.005S/cmにおいて87.5%に低下する。
(試算パラメーター)
電解質厚み:20μm
水素極:水蒸気分圧0.05atm(5×10Pa)、水素分圧0.95atm(9.5×10Pa)
酸素極:酸素分圧0.01atm(1×10Pa)、水蒸気分圧0.99atm(9.9×10Pa) (加湿水蒸気供給を想定)
ホール伝導度:加湿酸素雰囲気(水蒸気分圧0.05atm(5×10Pa)、酸素分圧0.95atm(9.5×10Pa))下で0.0044S/cm
電極反応抵抗:0.1Ωcm(実績値は水素極で0.15Ωcm、酸素極で0.5Ωcm)
【0089】
したがって、プロトン伝導型セル構造体を有する水蒸気電解セルにおいて、全伝導度を0.005S/cm以上にすることで、水蒸気電解として良好な効率(具体的には、水蒸気電解効率85%以上)を得ることができると推認される。図5の結果によれば、RNiの低下に伴って全伝導度が増加する傾向にあり、RNiが1.2原子%以下であれば全伝導度が0.005S/cm以上となることがわかる。
【0090】
[実施例4]
(1)MgOとNiOの固溶体の調製
酸化マグネシウムと酸化ニッケルとを1:1のモル比率でそれぞれボールミルに入れて24時間混合し、混合物を得た。得られた混合物をボールミルで10時間処理して、一軸成形した後、大気雰囲気において、1300℃で10時間焼成した。焼成した試料を乳鉢で粉砕した後、ボールミルで10時間処理することによってMgOとNiOの固溶体(以下、NiO/MgO固溶体と称する)を得た。なお、NiO/MgO固溶体はX線回折(XRD:X-ray Diffraction)測定により、単相の立方晶(空間群:Fm-3m)XRDパターンのみが検出され、MgO/NiO固溶体の単相であることが確認された。XRD測定には、Panalytical製X’pert Proを使用し、X線はCuKα線(管電圧45kV、管電流40mA)とし、集中法、2θ走査範囲5-90degree、0.017degree/step、10.16sec/stepとした。
【0091】
(2)水素極用粉末の調製
水素極用材料として、NiO/MgO固溶体および金属酸化物m1を使用した。NiO/MgO固溶体、金属酸化物m1、および適量の2-プロパノールとともに、ボールミルで混合した後、乾燥させることで水素極用粉末を調製した。なお、NiO/MgO固溶体と金属酸化物m1は1:1の重量比で混合した。また、バインダおよび添加剤の量は、NiO/MgO固溶体および金属酸化物m1の合計100質量部に対して、それぞれ、10質量部および0.5質量部とした。
【0092】
(3)固体電解質用ペーストの調製
固体電解質層用材料として、上記金属酸化物m1を用いた。金属酸化物m1と、エチルセルロース(バインダ)と、適量のαテルピネオールとを混合して、固体電解質用ペーストを調製した。バインダの量は、金属酸化物m1の100質量部に対して、4質量部とした。
【0093】
(4)水素極-固体電解質層複合体Aの作製
上記水素極用粉末を、392MPaの圧力で一軸成形して、円盤状のペレット(直径11mm)を得た後、これを大気中、1000℃で、10時間の熱処理を行った。得られた円盤状のペレットの一方の主面に、上記固体電解質用ペーストをスピンコートにより塗布して、塗膜を形成した。塗膜が形成されたペレットを、600℃で1時間加熱することにより脱バインダ処理を行った。次いで、得られたペレットを酸素雰囲気中にて1600℃で10時間、本焼成し、水素極-固体電解質層複合体Aを得た。走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、水素極の厚みは約1.4mmであり、固体電解質層の厚みは20μmであった。
【0094】
(5)水素極-固体電解質層複合体Bの作製
比較のために、酸化マグネシウムを用いずに酸化ニッケルのみを用いて水素極用ペーストを調製したこと以外、水素極-固体電解質層複合体Aと同様の方法で、水素極-固体電解質層複合体Bを作製した。
【0095】
次に、水素極-固体電解質層複合体Aが具備する固体電解質層中のRNiおよび水素極-固体電解質層複合体Bが具備する固体電解質中のRNiを、それぞれ測定した。まず水素極-固体電解質層複合体AおよびBをそれぞれエポキシ樹脂に埋めた後、研磨によって断面出しを行い、続いて日本電子製IB-19510CPを用いて断面加工を行った。これを、メイワフォーシス製CADE-Eを用いてカーボンコートを行った後、日本電子製JXA-8530Fにセットし、WDXを行った。WDXは、固体電解質層を表面から厚さ方向に、1μm間隔で14点の測定を行った。この時の、加速電圧は15kV、照射電流は50nAとした。その後、全ての測定点を平均化することによって、RNiを求めた。ただし、隣の測定点の値よりも1原子%以上差が生じた点に関しては除外した。
【0096】
水素極-固体電解質層複合体AおよびBが具備する固体電解質層におけるY濃度とRNiとの関係を図6に示す。ここで、Y濃度とは、BZY中の元素A、元素B、元素Mの総量に対するYの割合(原子%)である。なお、水素極-固体電解質層複合体A、Bの調製について、化学量論組成のBZY20(BaZr0.80.23-δ)を得るために、以下に示す異なる3種の調製条件によりそれぞれ行った。図6に示すプロットと調製条件との関係は以下のとおりである。
符号□および符号■:水素極用粉末を、392MPaで一軸成形して、円盤状のペレット(直径11mm)を得た後、これを大気中、1000℃で、10時間の熱処理を行った。得られた円盤状のペレットの一方の主面に、上記固体電解質用ペーストをスピンコートにより塗布して、塗膜を形成した。塗膜が形成されたペレットを、600℃で1時間程度加熱することにより脱バインダ処理を行った。これをBZYと炭酸バリウムとの混合粉末[BZY:BaCO=100:1(質量比)]に埋めて、酸素雰囲気中、1600℃で、10時間の熱処理を行う。
符号△および符号▲:脱バインダ処理後のペレットをBZYと炭酸バリウムとの混合粉末[BZY:BaCO=100:1(質量比)]に載置すること以外、上記符号□の場合と同様の方法で熱処理を行う。
符号〇および符号●:脱バインダ処理後のペレットをそのまま露出した状態にすること以外、上記符号□の場合と同様の方法で熱処理を行う。
図6において、Y濃度が10原子%の場合、化学量論組成のBZY20(BaZr0.80.23-δ)が調製されているとみなす。
【0097】
図6より、固体電解質層中のY濃度が増加するに伴い、YとNiとを含む副生成物(例えば、BaYNiO)が生成されやすくなるため、RNiが増加する傾向があることがわかる。ただし、水素極-固体電解質層複合体Aと水素極-固体電解質層複合体Bとを比較すると、RNiが同じ場合では、複合体AのY濃度は複合体Bのほぼ倍である。この結果は、複合体Aの固体電解質層では、複合体BのそれよりもNiの拡散が進行しにくいことを示している。
【符号の説明】
【0098】
1:セル構造体
2:酸素極
3:水素極
4:固体電解質層
5:電解質層-電極接合体
図1
図2
図3
図4
図5
図6