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特許7225121微小胞核酸および/またはタンパク質、並びに腎移植拒絶反応マーカーとしてのその使用
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  • 特許-微小胞核酸および/またはタンパク質、並びに腎移植拒絶反応マーカーとしてのその使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】微小胞核酸および/またはタンパク質、並びに腎移植拒絶反応マーカーとしてのその使用
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6883 20180101AFI20230213BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230213BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20230213BHJP
   C12N 15/19 20060101ALN20230213BHJP
   C07K 14/53 20060101ALN20230213BHJP
   C07K 14/54 20060101ALN20230213BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20230213BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20230213BHJP
【FI】
C12Q1/6883 Z
G01N33/50 P
G01N33/68
C12N15/19
C07K14/53
C07K14/54
C07K14/705
C12N5/071
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019563802
(86)(22)【出願日】2018-05-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-27
(86)【国際出願番号】 US2018032888
(87)【国際公開番号】W WO2018213392
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-05-17
(31)【優先権主張番号】62/507,433
(32)【優先日】2017-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513282272
【氏名又は名称】エクソサム ダイアグノスティクス,インコーポレイティド
(73)【特許権者】
【識別番号】518427018
【氏名又は名称】ザ ブリガム アンド ウィメンズ ホスピタル,インコーポレイティド
【住所又は居所原語表記】75 Francis Street, Boston, MA 02115, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ ハーレイ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーン コティッチア
(72)【発明者】
【氏名】ロバート キッチン
(72)【発明者】
【氏名】バシッシュト タディゴルタ
(72)【発明者】
【氏名】ヨーアン カール オロフ スコグ
(72)【発明者】
【氏名】ジャミル アジー
【審査官】加藤 幹
(56)【参考文献】
【文献】Journal of Extracellular Vesicles,2017年05月15日,6:sup1,1310414,p.207, IP.09
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00- 3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者において腎移植拒絶反応を評価することを補助するための方法であって、
a) 前記患者の尿試料から微小胞画分を単離する段階;
b) 前記微小胞画分からタンパク質を抽出する段階;
c) 前記抽出したタンパク質から少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを決定する段階、ここで、少なくとも1つのバイオマーカーは、CX3CL1、PD-L1、およびCSF-1の少なくとも1つを含む;
d) 随意に少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを正規化する段階;および
e) 前記少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルまたは正規化された発現レベルが対応するカットオフレベルよりも大きい時に、前記患者が腎移植拒絶を受けていると判定する段階、ここで、前記対応するカットオフレベルが、腎臓移植拒絶反応に患っていない対象の対照群における前記少なくとも1つのバイオマーカーの発現の集団レベルに基づくスコアである、
を含む、方法。
【請求項2】
患者において腎移植拒絶反応を評価することを補助するための方法であって、
a) 前記患者の尿試料から微小胞画分を単離する段階;
b) 前記微小胞画分からタンパク質を抽出する段階;
c) 前記抽出したタンパク質から少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを決定する段階、ここで、少なくとも1つのバイオマーカーは、MCP-4、MCP-1、CCL11、およびADAの少なくとも1つを含む;
d) 随意に少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを正規化する段階;および
e) 前記少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルまたは正規化された発現レベルが対応するカットオフレベルよりも小さい時に、前記患者が腎移植拒絶を受けていると判定する段階、ここで、前記対応するカットオフレベルが、腎臓移植拒絶反応に患っていない対象の対照群における前記少なくとも1つのバイオマーカーの発現の集団レベルに基づくスコアである、
を含む、方法。
【請求項3】
患者における腎移植拒絶を評価することを補助するための方法であって、
a) 前記患者の尿試料から微小胞画分を単離する段階;
b) 前記微小胞画分から核酸を抽出する段階;
c) 前記抽出した核酸から少なくとも2つのバイオマーカーの発現レベルを決定する段階、ここで、少なくとも2つのバイオマーカーは、CXCL9およびCXCL10、および少なくとも1つの正規化遺伝子の発現レベルの各々を含み、前記少なくとも1つの正規化遺伝子の発現レベルは、IL17RAである;
d) 前記少なくとも2つのバイマーカーの発現レベルを、前記少なくとも1つの正規化遺伝子の発現レベルに正規化する段階;および
e) 前記少なくとも2つのバイオマーカーの正規化された発現レベルまたは正規化された発現レベルが対応するカットオフレベルよりも大きい時に、前記患者が腎移植拒絶を受けていると判定する段階、ここで、前記対応するカットオフレベルが、腎臓移植拒絶反応に患っていない対象の対照群における前記少なくとも2つのバイオマーカーの発現の集団レベルに基づくスコアである、
を含む、方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つのバイオマーカーがCX3CL1を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つのバイオマーカーが、MCP1-およびMCP-4の少なくとも1つを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも2つのバイオマーカーおよび前記少なくとも1つの正規化された遺伝子がRNAを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記RNAがmRNAである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、患者における腎拒絶反応の進行を監視するために定期的基準で実行される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記患者が腎疾患の治療法を受けている、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法が、
(a)腎拒絶の治療法を選択することを補助すること、または
(b)腎拒絶の治療法を監視することを補助すること、をさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
患者の尿試料から微小胞画分を単離する段階の後、前記方法が(i) 微小胞画分を処理して脂質、細胞残屑、無関係の微小胞および他の汚染物質を取り除く段階;(ii) アフィニティークロマトグラフィー、捕捉カラム、免疫捕捉、超遠心、またはナノ膜限外ろ過濃縮装置を使って前記小胞画分から微小胞を精製する段階;および(iii) 微小胞を洗浄する段階を更に含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
患者における腎拒絶反応のタイプを決定することを補助することを更に含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記腎拒絶反応のタイプが、細胞性拒絶、抗体媒介性拒絶(AMR)、またはそれらの組み合わせである、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔発明の分野〕
本発明は、一般に、患者における腎移植拒絶反応を評価するための、微小胞バイオマーカー、例えば核酸シグネチャーを含む核酸および/またはタンパク質の使用に関する。本発明は更に、腎移植を受けた患者における腎移植拒絶反応の評価および/または監視(モニタリング)に関する。
【背景技術】
【0002】
〔関連出願〕
本出願は、2017年5月17日に出願された米国仮出願第62/507,433号の利益を主張する。その全内容が参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
細胞で起こる遺伝的およびエピジェネティック変化の知識が高まることで、疾患特異的な核酸とタンパク質の配列およびプロファイルを分析することにより、疾患や障害を検出し、特徴付け、監視する機会が得られる。これらの変化は、多様な疾患関連バイオマーカーを検出することにより観察可能である。これらのバイオマーカーを検出し、患者、医師、臨床医および研究者にとって有益な情報をもたらすために、様々な分子診断アッセイが利用されている。
【0004】
体液試料を使ってこれらの試験を実施できる能力は、患者の福利、長期的な疾患モニタリングを実施する能力、および組織細胞が容易に入手できない場合でも発現プロファイルを取得できる能力の観点から幅広い意味合いを持つ。
【0005】
従って、疾患または他の医学的状態の特徴付け、診断、監視または治療法選択を支援するために、バイオマーカー、例えば微小胞内のバイオマーカーを検出する新たな非侵襲的方法の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0006】
一態様では、本発明は、患者の腎拒絶反応を評価する方法に関し、該方法は以下の段階を含む:
a)患者の生体試料から微小胞画分を分離し;
b)微小胞画分から複数のバイオマーカーを抽出し;
c)患者試料中の複数のバイオマーカーから少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを決定し;
d)随意に、少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを正規化し;そして
e)少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを測定して、患者が腎拒絶反応を受けているかまたは非拒絶であるかどうかを判定する。
【0007】
好ましい一実施形態では、腎拒絶反応は腎移植拒絶反応である。
【0008】
幾つかの実施形態では、本明細書に開示される方法のいずれか1つによって同定される複数のバイオマーカーはRNAを含み、他の実施形態では、複数のバイオマーカーはタンパク質を含む。幾つかの実施形態では、複数のバイオマーカーはRNAとタンパク質の組み合わせを含む。
【0009】
一実施形態では、本法の対象は腎移植を受けた患者である。幾つかの実施形態では、対象における腎拒絶反応の評価は、患者の予後因子を提供する。
【0010】
関連する態様において、本発明は、微小胞RNAシグネチャーを使用して、対象における腎移植拒絶反応を評価し、アッセイし、決定し、測定し、特徴付け、同定しまたは診断する方法に関し、その幾つかの実施形態では、前記対象が成人である。他の実施形態では、前記対象が子供である。幾つかの実施形態では、該方法は、治療効果を長期的に監視するために使用される。
【0011】
本明細書で提供される方法と組成物は、例えば腎移植拒絶反応のような移植拒絶反応の診断薬として、微小胞から得られる核酸、例えば本明細書でエキソソームRNAまたはエキソソーム由来RNAとも呼ばれる微小胞RNA、および微小胞から得られるタンパク質、例えば微小胞タンパク質またはエキソソームタンパク質の測定に有用である。
【0012】
伝統的に、バイオマーカーの発見と開発は、組織生検から得られた材料の使用を必要としてきた。しかしながら、微小胞の分野における最近の発達は、生物流体のバイオマーカー研究に進化をもたらした。エキソソームは、直径が約30~200 nmの非常に安定した微小胞であり、無傷のタンパク質とRNAの豊富な源を担持している血液、尿、脳脊髄液などの全ての生物流体中に細胞により排出される。エキソソームおよび他の小胞は、多小胞体経路によって、または原形質膜での直接出芽によって放出される。RT-qPCRやNGSなどの技術を使用して、RNAを効率的に単離し検討することができる(例えばBrock、G.他(2015)”Liquid biopsy for cancer screening, patient stratification and monitoring.”Translational Cancer Research, 4(3) 280-290; およびEnderle, D.他(2015) “Characterization of RNA from Exosomes and Other Extracellular Vesicles Isolated by a Novel Spin Coumn-Based Method.” PLoS ONE、10(8):e0136133. doi:10.1371/journal.pone.0136133参照)。
【0013】
幾つかの態様において、本明細書に記載の方法およびキットは、微小胞を表面に捕捉し、続いて微小胞を溶解させてその中に含まれる核酸、特にRNAまたはタンパク質を放出させることにより微小胞画分を単離する。本明細書で提供される方法およびキットは、任意の適切な技術を使用して微小胞画分を単離する。幾つかの実施形態では、微小胞は、PCT公開第WO 2014/107571号パンフレットおよびPCT公開第WO 2016/007755号パンフレットに記載された方法と捕捉表面を使用して単離され、そのそれぞれの全内容が参照により本明細書に組み込まれる。幾つかの実施形態では、微小胞は、PCT公開第WO 2015/021158号パンフレットに記載された方法と捕捉表面を使用して尿試料から単離され、その全内容が参照により本明細書に組み込まれる。幾つかの実施形態では、微小胞は、免疫捕捉法を使用することにより尿試料から単離される。幾つかの実施形態では、免疫捕捉表面はカラムである。幾つかの実施形態では、免疫捕捉表面はビーズまたは他の固体表面である。
【0014】
一態様では、本発明は、例えば腎移植拒絶反応などの移植拒絶反応の診断、モニタリング、または治療法選択を支援するために生体試料中の複数のバイオマーカーを検出する方法に関する。本明細書で提供される方法およびキットは、患者の生体試料、例えば尿試料(尿サンプル)の微小胞画分から複数のバイオマーカーを検出するのに有用である。
【0015】
一態様では、随意の正規化段階は、バイオマーカーの少なくとも1つの発現レベルを少なくとも1つの正規化遺伝子または少なくとも1つの正規化タンパク質と比較することを含む。
【0016】
別の態様では、バイオマーカーのセットは遺伝子シグネチャーを含む。別の態様では、少なくとも1つのバイオマーカーは遺伝子シグネチャーを含む。幾つかの実施形態では、遺伝子シグネチャーは遺伝子CXCL9、CXCL10およびIL17RAのうちの少なくとも1つを含む。幾つかの実施形態において、少なくとも1つのバイオマーカーまたは少なくとも1つの正規化遺伝子は、遺伝子CXCL9、CXCL10およびIL17RAのうちの少なくとも1つを有する遺伝子シグネチャーを含む。
【0017】
別の態様において、複数のバイオマーカーはタンパク質を含む。別の実施形態では、バイオマーカーのセットはタンパク質シグネチャーを含む。幾つかの実施形態では、タンパク質は、タンパク質、タンパク質モノマー、タンパク質複合体およびタンパク質凝集体をはじめとする多数のタンパク質形態を包含する。幾つかの実施形態では、少なくとも1つのバイオマーカーまたは正規化タンパク質は、表4から選択される少なくとも1つのタンパク質バイオマーカーを含む。他の実施形態では、少なくとも1つのバイオマーカーまたは少なくとも1つの正規化タンパク質は、MCP-4、MCP-1、CX3CL1、CXCL9、CXCL10、CCL11、PD-L1、ADA、IL-8およびCSF-1の少なくとも1つ、またはそれらの組み合わせを含む。
【0018】
別の態様において、本開示の方法は、患者の腎移植拒絶反応の進行を監視するために定期的に実行される。別の実施形態では、患者は腎拒絶治療を受けている。
【0019】
一実施形態では、本開示の方法は、腎移植拒絶反応の治療法を選択すること、腎移植拒絶反応の治療法を監視すること、または進行中の腎移植拒絶療法を最適化することを含む。
【0020】
本発明の様々な態様と実施形態を今から詳細に説明する。本発明の範囲から逸脱することなく、細部の修正を行いうることが理解されるであろう。更に、前後関係により特に必要とされない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含むものとする。
【0021】
異なって定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語と科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと類似のまたは同等の方法と材料を、本発明の実施または試験に使用することができるが、適切な方法と材料を下記に記載する。本明細書に言及される全ての出版物、特許出願、特許およびその他の参考文献は、参照によりその全体が組み込まれる。矛盾がある場合、定義をはじめ、本明細書が支配する。その上、材料、方法および実施例は説明のみを目的とし、限定を意図するものではない。
【0022】
特定された全ての特許、特許出願および刊行物は、例えば、本発明に関連して使用される可能性のあるそのような刊行物に記載された方法論を説明および開示する目的で、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。それらの出版物は、本出願の出願日前のそれらの開示のためにのみ提供される。この点に関して、先行発明によって、または他の何らかの理由で、発明者らがそのような開示に先行する権利がないという承認として解釈されてはならない。日付に関する全ての陳述またはこれらの文書の内容に関する表現は、出願人が入手可能な情報に基づいており、これらの文書の日付または内容の正確性に関する何らかの承認を構成するものではない。
【0023】
上記および更なる特徴は、添付の図面と併せて以下の詳細な説明からより明確に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、改良された採尿カップ図を示す(WO2016/054252参照;これは参照によりその全内容が本明細書に組み込まれる)。これは、分画した尿試料を生成するための採尿装置である。カップは、初尿または中間尿の採取用に最適化される。初尿の採取で認められる前立腺に豊富な細胞外小胞(EV)はカップの底に捕捉され、腎臓と膀胱からのEVを含む尿はカップの上部チャンバーに収集される。
図2図2は、収集されそして処理まで保存される尿試料を示す。エキソソームRNAは、臨床試料濃縮フィルター膜を使用して抽出される。エキソソームRNAは、濃縮された微小胞から抽出され、リアルタイムPCRにより炎症に関連する転写産物の発現について分析される。
図3図3は、正規化因子(ノーマライザ)としてIL17RAを用いた訓練(図3A)および検証(図3B)群にバイオマーカーとしてexoRNA CXCL9とCXCL10を使用した腎拒絶反応の受信者動作特性(ROC)曲線を示す。
図4図4は、バイオマーカーとしてCXCL9とCXCL10のタンパク質発現を使用した急性拒絶反応の診断に関する受信者動作特性(ROC)曲線を示す。CXCL9とCXCL10を使用した急性拒絶反応の診断のための真陽性結果の割合(感度)と偽陽性結果の割合(1-特異度)。
図5図5は、尿エキソソームタンパク質が差次的に発現され、非拒絶反応試料から腎拒絶反応を有する試料を同定できることを示す。図5は、非拒絶反応試料と拒絶反応試料間で差次的に発現する8つのタンパク質(調べた92個から)の箱ひげ図を示す(P=0.05、ANOVA)。
図6図6は、尿エキソソームタンパク質MCP-1、MCP-4およびCX3CL1が、腎拒絶反応のない個体から腎拒絶反応を有する個体を正確に識別することを示す。図6は、非拒絶反応試料と拒絶反応試料間で差次的に発現する3つの極めて重要なエキソソームタンパク質の箱ひげ図を示す(P=0.01、ANOVA)。
【発明の詳細な説明】
【0025】
本開示は、腎拒絶反応を評価するため、および/または腎拒絶反応の治療効果を監視するために、微小胞から単離された核酸およびタンパク質バイオマーカーの使用方法を提供する。幾つかの実施形態では、該方法は、治療効果を長期的に監視するために使用される。
【0026】
幾つかの実施形態では、バイオマーカーは、腎拒絶反応を有する患者と非拒絶反応の患者間で差次的に発現される。
【0027】
ある特定の実施形態では、患者の腎拒絶反応を評価する方法が提供され、該方法は以下の段階を含む:
a)患者の生体試料から微小胞画分を単離し;
b)微小胞画分から複数のバイオマーカーを抽出し;
c)患者試料中の複数のバイオマーカーから少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを測定し;
d)随意に、少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを正規化し;そして
e)少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを測定し、患者が腎拒絶反応を受けているかまたは非拒絶であるかどうかを判定する。
【0028】
特定の一実施形態では、患者の腎拒絶反応をアッセイする方法が提供され、該方法は以下の段階を含む:
a)患者の生体試料から微小胞画分を分離し;
b)微小胞画分から複数のバイオマーカーを抽出し;
c)患者試料中の複数のバイオマーカーからの少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを分析し;
d)随意に、少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを正規化し;そして
e)少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを分析し、患者が腎拒絶反応を受けているかまたは非拒絶であるかどうかを判定する。
【0029】
別の実施形態では、該方法は、患者において腎拒絶反応をアッセイし、評価し、判定し、測定し、特徴づけ、同定しまたは診断することを含む。別の実施形態では、腎拒絶反応は腎移植拒絶反応である。
【0030】
一実施形態では、本明細書に開示される随意の正規化段階は、少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを、対照(コントロール)バイオマーカーの1セットの発現プロファイルと比較することを含む。一実施形態では、対照バイオマーカーのセットが、1つ以上の正規化遺伝子を含む。別の実施形態では、対照バイオマーカーのセットが、1つ以上の正規化タンパク質を含む。別の実施形態では、少なくとも1つのバイオマーカーが、腎拒絶反応を有する患者を表すバイオマーカーの対照セットの発現プロファイルと比較して差次的に発現される。別の実施形態では、少なくとも1つのバイオマーカーが、腎拒絶反応のない患者を表すバイオマーカーの対照セットの発現プロファイルと比較して差次的に発現される。
【0031】
一実施形態では、随意の正規化段階は、少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを既知バイオマーカーシグネチャーと比較することを含む。別の実施形態では、随意の正規化段階は、バイオマーカーの少なくとも1つの発現レベルを対照バイオマーカーシグネチャーと比較することを含む。別の実施形態では、随意の正規化段階は、バイオマーカーの少なくとも1つの発現レベルを対照バイオマーカー遺伝子シグネチャーと比較することを含む。別の実施形態では、随意の正規化段階は、少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを対照バイオマーカータンパク質シグネチャーと比較することを含む。
【0032】
一実施形態では、任意の正規化段階は、バイオマーカーの少なくとも1つの発現レベルを、正規化された遺伝子の発現プロファイルと比較することを含む。別の実施形態では、本明細書の随意の正規化段階は、バイオマーカーの少なくとも1つの発現レベルを対照バイオマーカー遺伝子シグネチャーの発現プロファイルと比較することを含む。一実施形態では、遺伝子シグネチャーは、遺伝子CXCL9、CXCL10、およびIL17RAの少なくとも1つを含む。一実施形態では、正規化遺伝子は、CXCL9、CXCL10、IL17RA、またはそれらの組み合わせから選択された遺伝子を含む。
【0033】
一実施形態では、正規化段階は、バイオマーカーの正規化された相対発現レベルを決定することを含み、ここでバイオマーカーの相対発現レベルは、バイオマーカーの発現レベルと参照(リファレンス)遺伝子の発現レベルとの比である。バイオマーカーの相対発現レベルがバイオマーカー発現のカットオフレベルよりも大きい場合、対象は腎拒絶反応に苦しんでいる、または拒絶反応に至る腎臓の医学的状態を有すると特定される。一部の実施形態では、バイオマーカーの相対発現レベルがバイオマーカー発現のカットオフレベルよりも低い。幾つかの実施形態では、腎臓の医学的状態が、当技術分野で公知の任意の種類および本明細書で更に開示される任意の種類の腎拒絶反応または腎移植拒絶反応を含む。
【0034】
一実施形態では、バイオマーカー発現のカットオフレベルは、腎拒絶反応または腎拒絶反応に至る医学的状態に苦しんでいる患者の対照群におけるバイオマーカー発現の集団レベルに基づくスコアである。他の実施形態では、腎拒絶反応は腎移植拒絶反応である。このようなスコアは、患者を拒絶反応がないか非拒絶と同定するのに役立つ。
【0035】
幾つかの実施形態では、バイオマーカー発現のカットオフレベルは、以下を含むがこれに限定されない任意のタイプの腎拒絶反応に苦しんでいる対象の対照群におけるバイオマーカー発現の集団レベルに基づくスコアである:ボーダーライン(境界域変化)拒絶反応、急性または慢性活動性のいずれかの抗体媒介拒絶反応(AMR)、または細胞性拒絶およびAMR、臨床的拒絶反応、をはじめとする細胞性拒絶反応またはそれらの組み合わせ。
【0036】
他の実施形態では、バイオマーカー発現のカットオフレベルは、腎拒絶反応を患っていない対象の対照群におけるバイオマーカー発現の集団レベルに基づくスコアである。そのようなスコアは、腎拒絶反応を有する患者を決定または特徴づけるのに役立つ。従って、本明細書に開示された方法を使用する場合、当業者は、患者を腎拒絶反応の有無にかかわらず特徴付けることができる。
【0037】
幾つかの態様において、バイオマーカー発現のカットオフレベルは、腎移植拒絶反応を患っていない対象の対照群におけるバイオマーカー発現の集団レベルに基づくスコアである。
【0038】
幾つかの態様において、バイオマーカー発現のカットオフレベルは、腎拒絶反応の任意のタイプ、例えば限定されないが、ボーダーライン拒絶反応、急性または慢性活動性のいずれかの抗体媒介性拒絶反応(AMR)、または細胞性およびAMR性拒絶反応、臨床的拒絶反応、またはそれらの組み合わせを含む腎拒絶反応を患っていない対象の対照群におけるバイオマーカー発現の集団レベルに基づくスコアである。
【0039】
一実施形態では、複数のバイオマーカーは少なくとも1つのRNAを含む。幾つかの実施形態では、本明細書で提供される方法および組成物は、例えば腎移植などの移植拒絶反応の診断として、微小胞から得られる核酸、例えば本明細書ではエキソソームRNAまたはエキソソーム由来RNAとも呼ばれる微小胞RNAの測定に有用である。
【0040】
微小胞は、真核細胞によって脱落するか、または原形質膜から出芽して細胞の外側に出る。これらの膜小胞は、直径が約10 nmから約5000 nmの範囲の不均一なサイズを有する。直径<0.8μmの細胞により脱落されたすべての膜小胞は、本明細書では集合的に「細胞外小胞」または「微小胞」と呼ばれる。これらの細胞外小胞には、微小胞、エキソソーム、微小胞様粒子、プロスタソーム、デキソソーム、テキソソーム、エクトソーム、オンコソーム、アポトーシス小体、レトロウイルス様粒子、およびヒト内在性レトロウイルス(HERV)粒子が含まれる。細胞内多小胞体のエキソサイトーシス(開口分泌)により放出される小さな微小胞(直径約10~1000 nm、より頻繁には直径30~200 nm)は、当技術分野で「微小胞」と呼称される。
【0041】
幾つかの実施形態では、用語「エキソソーム」、「微小胞」および細胞外小胞(EV)は、本明細書で互換的に使用される。幾つかの実施形態では、本開示の方法は、患者の生体試料から微小胞画分を単離することを含む。
【0042】
一実施形態では、対照バイオマーカーのセットが少なくとも1つのRNAを含む。別の実施形態では、対照バイオマーカーのセットが遺伝子シグネチャーを含む。
【0043】
一実施形態では、複数のバイオマーカーがRNAを含む場合、本明細書の段階d)の方法は、複数のバイオマーカーからの少なくとも1つのRNAバイオマーカーの発現レベルを、RNAバイオマーカーの既知または対照セットと比較することを含む。
【0044】
別の実施形態では、1もしくは複数の既知または対照RNAバイオマーカーは、CXCL9、CXCL10、IL17RAまたはそれらの組み合わせを含む。別の実施形態において、1もしくは複数の既知または対照RNAは、CXCL9、CXCL10およびIL17RAから成る群より選択される。別の実施形態では、少なくとも1つの正規化遺伝子が、CXCL9、CXCL10、IL17RAまたはそれらの組み合わせを含む。別の実施形態において、少なくとも1つの正規化遺伝子は、CXCL9、CXCL10、およびIL17RAからなる群より選択される。
【0045】
一実施形態において、少なくとも1つのバイオマーカーまたは少なくとも1つの正規化遺伝子は、遺伝子CXCL9、CXCL10およびIL17RAの少なくとも1つを有する遺伝子シグネチャーを含む。
【0046】
当業者に理解されるように、「核酸」という用語はDNAおよびRNAを指す。核酸は一本鎖でも二本鎖でもよい。ある場合には、核酸はDNAである。ある場合には、核酸はRNAである。RNAには、メッセンジャーRNA、トランスファーRNA、リボソームRNA、非コードRNA、マイクロRNA、およびHERV要素が含まれるが、これらに限定されない。本開示の方法のいずれかにおいて、核酸はDNAまたはRNAである。RNAの例としては、メッセンジャーRNA、トランスファーRNA、リボソームRNA、小分子RNA(非タンパク質コードRNA、非メッセンジャーRNA)、マイクロRNA、piRNA、exRNA、snRNAおよびsnoRNAが挙げられる。幾つかの実施形態では、RNAはmiRNAである。
【0047】
前述の方法のいずれかにおいて、核酸は、微小胞画分から単離されるか、または別の方法で誘導される。幾つかの実施形態において、核酸は、RNAもしくはDNA、または微小胞画分から単離されたまたは他の方法で誘導されたRNAもしくはDNAである。幾つかの実施形態では、核酸は、微小胞画分から単離されたまたは他の方法で誘導されたRNAである。
【0048】
本開示の方法のいずれにおいても、核酸は無細胞核酸であり、本明細書では循環核酸とも称する。幾つかの実施形態では、無細胞核酸はDNAまたはRNAである。幾つかの実施形態では、無細胞核酸は無細胞DNAである。幾つかの実施形態では、無細胞核酸はDNAおよびRNAである。
【0049】
一実施形態では、複数のバイオマーカーは少なくとも1つのタンパク質を含む。
【0050】
別の実施形態では、対照バイオマーカーのセットは、少なくとも1つのタンパク質バイオマーカーを含む。別の実施形態において、対照バイオマーカーのセットはタンパク質シグネチャーを含む。別の実施形態では、複数のバイオマーカーがタンパク質を含む場合、任意の正規化段階は、複数のバイオマーカーからの少なくとも1つのタンパク質バイオマーカーの発現レベルをタンパク質バイオマーカーの既知または対照セットのそれと比較することを含む。別の実施形態では、複数のバイオマーカーがタンパク質を含む場合、任意の正規化段階は、複数のバイオマーカーからの少なくとも1つのタンパク質バイオマーカーの発現レベルを少なくとも1つの正規化タンパク質のそれと比較することを含む。別の実施形態では、複数のバイオマーカーがタンパク質を含む場合、段階d)の方法は、複数のバイオマーカーからの少なくとも1つのタンパク質バイオマーカーの発現レベルを、表4からの少なくとも1つのタンパク質バイオマーカーのそれと比較することを含む。複数のバイオマーカーがタンパク質を含む場合、正規化段階は、複数のバイオマーカーからの少なくとも1つのタンパク質バイオマーカーの発現レベルを、以下から選ばれる少なくとも1つのタンパク質バイオマーカーのそれと比較することを含む:MCP-4、MCP-1、CX3CL1、CXCL9 、CXCL10、CCL11、PD-L1、ADA、IL-8およびCSF-1、またはそれらの組み合わせ。別の実施形態では、少なくとも1つの正規化タンパク質は表4から選択される。
【0051】
一実施形態では、対照タンパク質シグネチャーは表4から選択される。別の実施形態では、1つ以上の既知または対照タンパク質バイオマーカーは表4から選択される。別の実施形態では、1つ以上の既知または対照タンパク質バイオマーカーがMCP-4、MCP-1、CX3CL1、CXCL9、CXCL10、CCL11、PD-L1、ADA、IL-8、CSF-1、またはそれらの組み合わせを含む。別の実施形態では、1つ以上の既知または対照タンパク質バイオマーカーは、MCP-4、MCP-1、CX3CL1、CXCL9、CXCL10、CCL11、PD-L1、ADA、IL-8、およびCSF-1から成る群より選択される。別の実施形態では、少なくとも1つの正規化タンパク質が次から選択される:MCP-4、MCP-1、CX3CL1、CXCL9、CXCL10、CCL11、PD-L1、ADA、IL-8およびCSF-1、またはそれらの組み合わせ。
【0052】
一実施形態では、少なくとも1つのバイオマーカーおよび/または少なくとも1つの正規化タンパク質は、表4から選択された少なくとも1つのタンパク質を含む。別の実施形態では、少なくとも1つのバイオマーカーおよび/または少なくとも1つの正規化タンパク質タンパク質は、MCP-4、MCP-1、CX3CL1、CXCL9、CXCL10、CCL11、PD-L1、ADA、IL-8およびCSF-1の少なくとも1つまたはそれらの組み合わせを含む。
【0053】
一実施形態では、患者の試料から単離されたバイオマーカーのセットは、腎移植拒絶反応を経験した患者の1つ以上のコホート/群、並びに腎拒絶反応の任意症状を全く経験していない患者の1つ以上のコホート/群からのものである。腎拒絶反応の任意症状を経験していない患者のコホート/群は、細胞性または抗体媒介性拒絶反応の臨床的症状を何ら持たない。一実施形態では、本開示の方法は、腎移植拒絶反応を特定するためのアルゴリズムを使用することを含む。別の実施形態では、該アルゴリズムが次のリスク因子の少なくとも1つを使用することを含む:a) 女性;b)年齢<50;c)アフリカ系アメリカ人;d) 反復移植;e)最新のパネル反応性抗体(PRA)>25%(幾つかの研究は>0%を示した):これはHLA抗体の存在を測定する;f)ヒト白血球抗原(HLA)ミスマッチの数(A、BおよびDR):3~6ミスマッチ;g)死後の腎臓(献腎); h)遅延移植片機能;i)ドナー特異的抗体の存在;j)サイモグロブリン誘導なし;またはその組み合わせ。
【0054】
一実施形態では、本開示の方法は、患者の腎拒絶反応のタイプを決定することを含む。別の実施形態では、腎拒絶反応は腎移植拒絶反応である。別の実施形態において、腎拒絶反応のタイプは、ボーダーライン拒絶反応、急性もしくは慢性活動性の抗体媒介性拒絶反応(AMR)、または細胞性およびAMR、臨床的拒絶反応、またはそれらの組み合わせを含む。別の実施形態では、本開示の腎移植拒絶反応のタイプは、ボーダーライン拒絶反応、急性もしくは慢性活動性の抗体媒介性拒絶反応(AMR)、または細胞性およびAMR、臨床的拒絶反応、またはそれらの組み合わせを含む。
【0055】
一実施形態において、腎移植拒絶反応患者からの尿試料の判定基準には、ボーダーライン拒絶反応、急性もしくは慢性活動性抗体媒介性拒絶反応(AMR)、または細胞性およびAMRをはじめとする細胞性拒絶反応が含まれる。
【0056】
一実施形態では、腎拒絶反応患者または非拒絶反応患者から生体試料が得られる。幾つかの実施形態では、微小胞画分は患者の生体試料から単離される。本明細書で使用される「生体試料」という用語は、DNA、RNAおよびタンパク質などの生物学的材料を含む試料を指す。
【0057】
幾つかの実施形態では、生体試料は、適切には対象からの体液を含むことができる。体液は、対象の身体の任意の部位から、例えば末梢位置から、分離された液体であり、例えば、限定されないが血液、血漿、血清、尿、痰、脊髄液、脳脊髄液、胸膜液、乳頭吸引液、リンパ液、呼吸器液、腸管および尿生殖路の液、涙液、唾液、母乳、リンパ系からの液、精液、臓器内組織液、腹水、腫瘍嚢胞液、羊水および細胞培養上清、並びにそれらの組み合わせを含み得る。生体試料には、糞便または盲腸の試料、またはそれらから単離された上清も含まれ得る。
【0058】
幾つかの実施形態では、生体試料は、適当には対象からの組織試料を含むことができる。組織試料は対象の体のどの場所からでも単離することができる。
【0059】
体液の適当な試料量は、例えば、約0.1 mL~約30 mL体液の範囲である。体液の量は、使用する体液の種類など幾つかの要因に依存する場合がある。例えば、血清試料の量は、約0.1 mLから約4 mL、好ましくは約0.2 mLから4 mLであってもよい。血漿試料の量は、約0.1 mLから約4 mL、好ましくは0.5 mLから4 mLであってもよい。尿試料の量は、約10 mLから約30 mL、好ましくは約20 mLであり得る。
【0060】
本明細書で提供される実施例は血漿試料を使用したが、当業者はこれらの方法が様々な生体試料に適用可能であることを理解するだろう。他の適切な生体試料としては、尿、脳脊髄液、血液成分、例えば血漿および血清を含む血液、胸膜液、乳頭吸引液、リンパ液、呼吸器、腸管および尿生殖路の液、涙液、唾液、母乳、リンパ系からの液、精液、臓器内組織液、腹水、腫瘍嚢胞液、羊水、細胞培養上清、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0061】
本開示の方法およびキットはまた、ヒト対象から誘導された試料と共に使用するのに適する。本開示の方法およびキットは、例えば、げっ歯類、非ヒト霊長類、コンパニオンアニマル(例えば、ネコ、イヌ、ウマ)および/または家畜(例えば、ニワトリ)などの非ヒト対象から誘導された試料と共に使用するのに適する。
【0062】
「対象」という用語は、核酸を含む細胞外小胞を有することが示されているかまたは予想されるヒトおよび動物を包含することを意図する。この用語には、タンパク質を含む細胞外小胞を有することが示されているまたは予想されるヒトおよび動物も含まれる。特定の実施形態では、対象は哺乳動物、ヒトまたは非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、他の家畜、またはげっ歯類(例えばマウス、ラット、モルモットなど)である。ヒト対象は、観察可能な異常、例えば疾病のない正常なヒトであってもよい。ヒト対象は、観察可能な異常、例えば疾病を有するヒトであってもよい。ヒト対象は、成人または子供であってよい。観察可能な異常は、そのヒト自身によりまたは医療専門家により観察されうる。
「対象」、「患者」、および「個体」という用語は、本明細書中で互換的に用いられる。
【0063】
別の実施形態では、患者が腎拒絶反応を有すると評価する方法は、腎拒絶反応の治療を監視することを更に含む。一実施形態では、本開示の方法は、腎拒絶反応療法を受けている患者の腎拒絶反応の進行を監視するために、初期評価に続いて定期的に実施される。
【0064】
幾つかの実施形態では、該方法は、毎日、毎週、隔週、三週間毎、毎月、2ヶ月毎、2~12ヶ月毎、毎年、または2~5年毎に実行される。他の実施形態では、本開示の方法は、腎移植を受けた患者において腎拒絶反応のエピソードに続いて、必要に応じて実施することができる。他の実施形態では、本開示の方法は、腎不全後の患者において腎拒絶反応のエピソードに続いて、必要に応じて実施することができる。
【0065】
一実施形態において、患者が腎拒絶を有すると評価する方法は、腎拒絶反応のための治療法を選択することを更に含む。一実施形態では、腎拒絶反応を有する患者を評価する方法は、腎拒絶反応を有する患者にとって最適な治療法を選択することを更に含み、幾つかの実施形態では、当業者は、当技術分野で利用可能な幾つかの治療法を比較して、治療を必要とする特定患者にとって最適なものを決定するだろう。
【0066】
一実施形態では、腎拒絶療法は、最新の標準腎移植ガイドライン(PMDID:PMC5455080)に従って、免疫抑制療法を含む当技術分野で利用可能な任意の形式の療法を含むことができる。腎移植拒絶反応の診断のための最新の標準ガイドラインは、腎臓のコア針生検とそれに続く病理学者による組織試料の免疫組織化学的および組織学的分析を包含する。
【0067】
幾つかの実施形態では、腎拒絶療法を受けている患者について、本開示の方法は、患者の腎拒絶反応の進行を防止または軽減する腎拒絶療法の選択を可能にする。
【0068】
幾つかの実施形態において、本開示の方法を使用することにより、必要な患者に施用される腎拒絶反応または腎疾患療法の最適化は、臨床医によって決定されるように、任意の必要な治療法の調整を行うことを更に含む。これらの調整としては、限定されないが、薬物または薬物カクテルの調整、薬物製剤の調整、薬物用量の調整、薬物用量投与スケジュールの調整、追加の薬物療法の使用(例えば、感染の管理、高血圧の治療など)または当該技術分野で利用可能な他の治療法を含むそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0069】
幾つかの実施形態では、生体試料(例えば尿試料など)を分析のために収集し、例えば個体の健康などを判定することができる。幾つかの実施形態では、改良された試料収集カップ(図1参照)は、最適結果を得るために、試料の他の部分から試料の一部分を分離するように構成されてよい(例えば、試料の初回量などが該試料の他の部分から分離されてもよい)。幾つかの実施形態では、例えば輸送中および/または同様のものの間の漏出またはこぼれを防ぐため、および試料の一部の希釈を防ぐため、容器の部品を複数の方法で密封することができる。この試料収集カップの例は国際公開WO 2016/054252パンフレットに記載されており、その全内容が本明細書中に組み込まれる。
【0070】
例えば、改良された試料収集容器は、下蓋で閉める(ボトムキャップ)設計、2カップ式設計などにより成形され得る。国際公開第2016/054252号パンフレットの図1を参照すると、幾つかの実施形態では、研究室で、試料収集容器にボトムキャップ式設計102を使用することができる。幾つかの実施形態では、該容器は、二重シール式上蓋104、単一成形収集カップ106、フロート装置108、およびねじ込み式下蓋110を備えることができる。幾つかの実施形態では、収集容器は、試料識別情報(例えば、患者の名前、試料が取得された日時、取得された試料の種類など)が刻印されたラベル112のためのスペースを有することもできる。
【0071】
幾つかの実施形態では、標準採尿カップを使用して尿などを採取し、幾つかの実施形態では、この標準カップを使用して少なくとも30 mLの患者の尿試料を収集する。
【0072】
本開示の方法は、例えば、第一捕集尿(初尿)の25~40 mLの試料が廃棄される場合、対象からの少なくとも30 mLの第二捕集尿試料を使用する。
【0073】
好ましい実施形態では、尿試料は、膀胱から最初に排尿された後の尿であり、これは「第二捕集(second catch)」尿と呼ばれる。第二の尿すなわち第一の排尿(初尿)の後の尿は、腎臓由来の微小胞を最高濃度で含むため、第二のまたは以降の排尿の分析は、腎バイオマーカーからのより高いシグナルを提供する。
【0074】
一実施形態では、腎特異的バイオマーカーシグナルを増加させる方法は、a) 改良された採尿カップ(図1参照)の上部チャンバーから患者の生体試料を採集する段階または標準の採尿カップ中に少なくとも約30 mLを採集する段階;ここで生体試料は尿である;b) 複数の腎特異的バイオマーカーを含む患者の生体試料から微小胞画分を分離する段階;およびc) 微小胞画分から複数の腎特異的バイオマーカーを抽出し、それにより腎特異的バイオマーカーシグナルを増加させる段階を含む。
【0075】
別の実施形態では、腎特異的バイオマーカーシグナルを増加させる方法は、以下の段階を更に含む:d)患者試料中の複数のバイオマーカーから少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを決定する段階;e)随意に、少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを正規化する段階;およびf)少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを測定して、患者が腎拒絶反応を受けているかまたは非拒絶であるかどうかを判定する段階。
【0076】
別の実施形態では、改良カップの上部チャンバーからの収集、または標準採尿カップ中への少なくとも約30 mLの尿の採集は、腎特異的微小胞の濃度を増加させる。別の実施形態では、少なくとも約30~40 mL、41~50 mL、51~60 mL、または61~70 mLの尿が標準採尿カップまたは同等物中に収集される。
【0077】
微小胞単離方法が捕捉表面を使用する実施形態において、幾つかの実施形態では、捕捉表面は膜であり、そして生体試料から微小胞画分を単離するためのデバイスは少なくとも1つの膜を含む。幾つかの実施形態では、デバイスは、1、2、3、4、5または6つの膜を含む。幾つかの実施形態では、デバイスは3つの膜を含む。デバイスが複数の膜を含む実施形態では、膜はすべて、カラムの一端で互いに直接隣接している。デバイスが2つ以上の膜を含む実施形態では、膜はすべて互いに同一であり、すなわち同じ電荷のものであり、そして/または同じ官能基を有する。
【0078】
微小胞よりも小さい孔径を通して濾過することによる微小胞捕捉は、本明細書で提供される方法による捕捉の主機構ではないことに留意すべきである。しかしながら、それにもかかわらずフィルターの孔径は非常に重要であり、例えばmRNAは20 nmフィルターに引き留められるので回収することはできないのに対し、マイクロRNAは簡単に溶出させることができる。これはフィルターの孔径が、利用可能な表面捕捉領域の重要なパラメーターであるためである。
【0079】
本明細書で提供される方法は、様々な捕捉表面のいずれかを使用する。幾つかの実施形態では、捕捉表面は膜であり、本明細書ではフィルターまたは膜フィルターとも呼ばれる。幾つかの実施形態では、捕捉表面は市販の膜である。幾つかの実施形態では、捕捉表面は帯電した市販の膜である。幾つかの実施形態では、捕捉表面は中性である。幾つかの実施形態において、捕捉表面はPALL Corporation製のMustang(登録商標)イオン交換膜;Sartorius AGからのVivapure(登録商標)Q膜;Sartobind QまたはVivapure(登録商標)Q Maxi H;Sartorius AG製のSartobind(登録商標)D、Sartorius AG製のSartobind S、Sartorius AG製のSartobind(登録商標)Q、Sartorius AG製のSartobind(登録商標)IDA、Sartorius AG製のSartobind(登録商標)Aldehyde、Sigma社製のWhatman(登録商標)DE81、EMD Millipore製のFast Trap Virus Purificationカラム;Thermo ScientificおよびPierce社製の強カチオンおよびアニオン交換スピンカラムである。
【0080】
一実施形態では、捕捉表面として膜が使用される場合、捕捉表面の構成(format)、例えばビーズであるかフィルター(本明細書では膜とも呼ばれる)であるかは、生体試料から微小胞を効率的に捕捉するための本開示の方法の能力に影響を与えないことを理解されたい。
【0081】
広範囲の表面が、本開示の方法に従って微小胞を捕捉することができるが、全ての表面 が微小胞を捕捉するわけではない(一部の表面は何も捕捉しない)。
【0082】
幾つかの実施形態では、捕捉表面は正に帯電している。別の実施形態では、捕捉表面は負に帯電している。さらに別の実施形態では、捕捉表面は中性である。幾つかの実施形態において、捕捉表面は、免疫捕捉法のために抗体、ペプチド、エピトープまたはリガンドで修飾される。
【0083】
捕捉表面が帯電している実施形態では、捕捉表面は、0.65μmの正に帯電したQ PES真空ろ過膜(Millipore製)、3~5μmの正に帯電したQ RCスピンカラムろ過膜(Sartorius製)、0.8μmの正に帯電したQ PES自社製スピンカラムろ過膜(Pall製)、0.8μmの正に帯電したQ PESシリンジろ過膜(Pall製)、0.8μmの負に帯電したS PES自社製スピンカラムろ過膜(Pall製)、0.8μmの負に帯電したS PESシリンジろ過膜(Pall製)、および50 nmの負に帯電したナイロンシリンジろ過膜(Sterlitech製)からなる群より選択された荷電フィルターであることができる。Qiazol/RNAはこのような実施形態でフィルターから解離するのがより困難であるため、好ましくは、荷電フィルターはシリンジ濾過装置に収容されない。好ましくは、荷電フィルターはカラムの一端に収容される。
【0084】
捕捉表面が膜である実施形態では、膜は様々な適切な材料から製造することができる。幾つかの実施形態において、膜はポリエーテルスルホン(PES)(例えば、MilliporeまたはPALL Corp.製)である。幾つかの実施形態では、膜は再生セルロース(RC)(例えば、SartoriusまたはPierce製)である。
【0085】
幾つかの実施形態において、捕捉表面は正に帯電した膜である。幾つかの実施形態では、捕捉表面は、正に帯電した膜でありかつ第四級アミンを有する陰イオン交換体であるQ膜である。たとえば、Q膜は、第四級アンモニウムR-CH2-N+(CH3)3で官能化されている。幾つかの実施形態では、捕捉表面は負に帯電した膜である。幾つかの実施形態では、捕捉表面はS膜であり、これは負に帯電した膜でありかつスルホン酸基を有する陽イオン交換体である。例えば、S膜はスルホン酸R-CH2-SO3 -で官能化されている。幾つかの実施形態では、捕捉表面はD膜であり、これはジエチルアミン基R-CH2-NH+(C2H5)2を有する弱塩基性陰イオン交換体である。幾つかの実施形態では、捕獲表面は金属キレート膜である。例えば、膜は、アミノ二酢酸-N(CH2COOH-)2で官能化されたIDA膜である。幾つかの実施形態では、捕捉表面は、アルデヒド基-CHOで官能化された微孔質膜である。他の実施形態において、膜は、ジエチルアミノエチル(DEAE)セルロースを含む弱塩基性陰イオン交換体である。全ての荷電膜が本開示の方法での使用に適しているわけではない。例えば、Sartorius Vivapure S膜スピンカラムを使用して単離されたRNAはRT-qPCR阻害を示したため、PCR関連の下流アッセイには適さない。
【0086】
捕捉表面が帯電している実施形態では、正に帯電したフィルターで微小胞を分離することができる。
【0087】
捕捉表面が帯電している実施形態では、微小胞捕捉中のpHは、pH≦7である。幾つかの実施形態では、pHは4より大きく8以下である。
【0088】
膜材料に応じて、膜の孔径は3μmから20 nmの範囲である。
【0089】
幾つかの実施態様において、捕捉表面は膜である。捕捉表面の表面電荷は、正、負または中性である。幾つかの実施形態では、捕捉表面は正に帯電したビーズである。例えば、ビーズは磁性である。或いは、ビーズは非磁性である。更に別の実施形態では、ビーズは親和性リガンド、抗体、または捕捉オリゴで官能化される。
【0090】
本明細書で提供される方法は、溶解試薬を含む。幾つかの実施形態では、膜上溶解に使用される薬剤は、フェノールベースの試薬である。幾つかの実施形態では、溶解試薬はグアニジン塩ベースの試薬である。幾つかの実施形態では、溶解試薬は高塩濃度の緩衝液である。一部の実施形態では、溶解試薬はQIAzolである。
【0091】
幾つかの実施態様において、当該方法は、例えば生体試料を捕捉表面と接触させた後に1または複数の洗浄工程を含む。幾つかの実施形態では、界面活性剤を洗浄バッファーに添加し、非特異的結合(すなわち汚染物質、細胞残屑、および循環タンパク質複合体または核酸)の除去を促進し、より純粋な微小胞画分を取得する。使用に適した洗剤としては、限定されないが、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、Tween-20、Tween-80、Triton X-100、Nonidet P-40(NP-40)、Brij-35、Brij-58、オクチルグルコシド、オクチルチオグルコシド、CHAPSまたはCHAPSOが挙げられる。
【0092】
幾つかの実施形態では、捕捉表面、例えば膜は、遠心分離に使用される装置、例えばスピンカラム、または真空システム用に使用される装置、例えば真空フィルターホルダー、または加圧ろ過用、例えばシリンジフィルターに使用される。好ましい実施形態では、捕捉表面はスピンカラムまたは真空システム内に収容される。
【0093】
核酸の抽出前の生体試料からの微小胞の単離は、以下の理由で有利である:1)微小胞からの核酸の抽出は、疾患または腫瘍特異的微小胞を液体試料中の他の微小胞から単離することにより得られた疾患または腫瘍特異的核酸を選択的に分析する機会を提供する;2)核酸を含む微小胞は、最初に液体試料から核酸を直接抽出することにより得られる収量/完全性に比べて、より高い完全性をもつ核酸種を極めて高い収量で生成する;3)拡張可能性、例えば、低レベルで発現される核酸を検出するために、本明細書に記載の方法を使ってより大量の試料から微小胞を濃縮することにより、感度を高めることができる;4)生体試料中に天然に観察されるタンパク質、脂質、細胞残屑、細胞および他の潜在的な汚染物質が、核酸抽出段階の前に除去されるという点で、抽出核酸のより純粋なまたは高品質/完全性;および5)単離された微小胞画分は出発試料量よりも少量となり得るため、小容量カラムフィルターを使用してこれらの画分またはペレットから核酸を抽出することが可能になり、核酸抽出法についてより多くの選択肢を使用できる。タンパク質を抽出する前に生体試料から微小胞を分離することは、次の理由で有利である:1)タンパク質を微小胞から抽出することは、液体試料中の別の微小胞から離れて疾患または腫瘍特異的微小胞を選択的に分析する機会を提供する;2)タンパク質を含有する微小胞は、最初に微小胞を単離することなく液体試料からタンパク質を直接抽出することにより得られる収量/完全性に比べて、より高い純度の組織特異的タンパク質を生成する;3)拡張可能性、例えば、低レベルで発現されるタンパク質を検出するために、本明細書に記載の方法を使用してより大量の試料から微小胞を濃縮することにより、感度を高めることができる;4)タンパク質抽出段階の前に、生体試料中に天然に観察される無関係なタンパク質、脂質、細胞残屑、細胞、およびその他の潜在的な汚染物質と阻害剤がタンパク質抽出段階の前に除去されるという点で、より純粋なまたは高品質/完全性のタンパク質を生成する;5)単離された微小胞画分は出発試料量よりも少量となりうるため、小容量カラムフィルターを使用してこれらの画分またはペレットからタンパク質を抽出することが可能になり、タンパク質抽出法についてより多くの選択肢を使用できる。
【0094】
生体試料から微小胞を単離する幾つかの方法が、当技術分野で記載されている。例えば、段階的遠心分離方法は、Raposo他による論文(Raposo他、1996)、Skog他による論文(Skog他、2008)およびNilsson他による論文(Nilsson他、2009)中に記載されている。イオン交換および/またはゲル浸透クロマトグラフィーの方法は、米国特許第6,899,863号および同第6,812,023号明細書に記載されている。ショ糖密度勾配またはオルガネラ電気泳動方法は、米国特許第7,198,923号明細書に記載されている。磁気活性化細胞選別(MACS)方法は、Taylor&Gercel Taylorの論文(Taylor&Gercel-Taylor、2008)に記載されている。ナノ膜限外ろ過濃縮方法は、Cheruvanky他の論文(Cheruvanky他、2007)に記載されている。パーコール勾配分離方法は、Miranda他による文献(Miranda他、2010)中に記載されている。更に、微小流体デバイスによって被験者の体液から微小胞を特定・分離することができる(Chen他、2010)。核酸バイオマーカーの研究開発および商業用途では、一貫した信頼性の高い実用的な方法で、生体試料から高品質の核酸を抽出することが望ましい。幾つかの実施形態では、微小胞の単離段階の前または後に、方法は更に以下を含む:(i)微小胞を処理して、脂質、細胞残屑、無関係の微小胞を非罹患組織および他の汚染物質から排除する段階;(ii)超遠心またはナノ膜限外ろ過濃縮器を使用して微小胞を精製する段階;および(iii)微小胞を洗浄する段階。
【0095】
幾つかの実施形態では、試料は、生体試料からの核酸、例えばDNAおよび/またはRNA、またはタンパク質単離と抽出前に前処理されない。
【0096】
幾つかの実施形態では、試料は、生体試料中に存在する大きい不要な粒子、細胞および/または細胞残屑、疾患に無関係の非関連微小胞および他の汚染物を除去するために、微小胞の単離、精製または濃縮を実施する前に前処理段階にかけられる。前処理段階は1もしくは複数の遠心分離段階(例えば段階的遠心分離)または1もしくは複数のろ過段階(例えば限界濾過)またはそれの組み合わせを通して達成することができる。処理段階は、微小胞を単離・精製する前または後に、特定の微小胞を免疫捕捉することにより達成できる。複数の遠心分離による前処理段階が行われる場合、生体試料は最初に低速で遠心分離され、次いで高速で遠心分離される。所望であれば、更に適当な遠心分離前処理段階を実施してよい。1もしくは複数の遠心分離前処理段階の代わりにまたはそれに加えて、生体試料をろ過することができる。例えば、生体試料をまず最初に20,000×gで1時間遠心分離して大きい不要な粒子を取り除き;次いで試料を例えば0.8μmフィルターを通してろ過することができる。
【0097】
幾つかの実施形態では、試料を前ろ過し、0.8μmより大きな粒子を排除する。幾つかの実施形態では、試料はEDTA、クエン酸ナトリウム、および/またはクエン酸-リン酸-ブドウ糖のような添加剤を含む。幾つかの実施形態では、試料に非関連微小胞の予備浄化または関連の微小胞の予備濃縮が施される。
【0098】
幾つかの実施形態では、生体試料を捕捉表面と接触させる前または後に、1または複数の遠心分離段階を実施し、微小胞を分離しそして生体画分より単離された微小胞を濃縮する。例えば、試料を4℃で20,000×gで1時間遠心分離する。大きな不必要な粒子、細胞および/または細胞残屑を除去するために、試料を約100~500×g、好ましくは約250~300×gの低速で遠心分離することができる。あるいはまたはそれに加えて、試料を高速で遠心分離することができる。適当な遠心速度は約200,000×gまで;例えば約2,000×gから約200,000×g未満までである。約15,000以上で約200,000×g未満、または約15,000×g以上で約100,000×g未満、または約15,000×g以上で約50,000×g未満の速度が好ましい。約18,000×gから約40,000×gまたは約30,000×g;および約18,000×g~約25,000×gの速度がより好ましい。特に好ましいのは、約20,000×gの遠心速度である。通常、適当な遠心分離時間は、約5分から約2時間、例えば約10分~約1.5時間、より好ましくは約15分~約1時間である。約0.5時間の時間が好ましいだろう。場合によっては生体試料を約20,000×gで約0.5時間の遠心分離にかけることが好ましい。しかしながら、前記速度と時間は任意組み合わせで適切に使用することができる(例えば約18,000×g~約25,000×g、または約30,000×g~約40,000×gで、約10分~約1.5時間、または約15分~約1時間、または約0.5時間など)。遠心分離段階(1もしくは複数)は、周囲温度以下、例えば約0~10℃、好ましくは約1~5℃、約3℃または約4℃で実施することができる。
【0099】
ある実施形態では、当該方法はろ過濃縮の段階を含む。幾つかの実施形態では、ろ過濃縮段階は、微小胞画分を保持しかつ他の全ての細胞画分と細胞残屑を除去する分子量カットオフを有するフィルターを使用する。幾つかの実施形態では、フィルターは少なくとも100 kDaの分子量カットオフを有する。
【0100】
幾つかの実施形態では、1または複数のろ過段階は、生体試料を捕捉表面と接触させる前または後に実施される。約0.1~約1.0μmの範囲の孔径、好ましくは約0.8μmまたは0.22μmの孔径を有するフィルターが使用できる。ろ過は、多孔度を漸減させたフィルターを用いる段階的ろ過により実施することも可能である。
【0101】
幾つかの実施形態では、クロマトグラフィー段階の間に処理しなければならない試料量を減らすために、生体試料を捕捉表面と接触させる前または後に、1または複数の濃縮段階が実施される。濃縮は、微小胞の沈降を引き起こすように、試料を高速、例えば10,000~100,000×gでの試料の遠心分離を通して達成されてよい。これは、一連の段階的遠心分離から成る。得られたペレット中の微小胞は、該プロセスの後続の段階のためにより小容量で適当な緩衝液中に再構成することができる。濃縮段階は限外ろ過により実施してもよい。実際、この限界濾過は、生体試料を濃縮しかつ微小胞画分の追加の精製を果たす。別の実施形態では、ろ過は限外ろ過、好ましくは接線流(tangential)限外ろ過である。接線流限外ろ過は、所定のカットオフ閾値を有する膜により隔てられた2つの区画(ろ液側と保持液側)の間に溶液を濃縮し分画することから成る。分離は、保持液区画に流れ(フロー)とこの保持液区画とろ液区画との間に膜間差圧力を適用することにより実施される。限外ろ過を行うのに別の系、例えば螺旋状膜(Millipore, Amicon)、平膜または中空繊維(Amicon, Millipore, Sartorius, Pall, GF, Sepracor各社製)を使用することができる。本発明の範囲内で、1000 kDa未満、好ましくは100 kDa~1000 kDa、より好ましくは100 kDa~600 kDaのカットオフ閾値を有する膜の使用が有利である。
【0102】
幾つかの実施形態では、生体試料を捕捉表面と接触させる前または後に、1もしくは複数のサイズ排除クロマトグラフィー段階またはゲル浸透クロマトグラフィー段階が実施される。ゲル浸透クロマトグラフィー段階を実施するために、シリカ、アクリルアミド、アガロース、デキストラン、エチレングリコール-メタクリレート共重合体またはその混合物、例えばアガロース-デキストラン混合物から選択された支持体が好ましく用いられる。例えば、そのような支持体としては、限定されないが、SUPERDEX(登録商標)200HR(Pharmacia社製)、TSK G6000(TosoHaas社製)またはSEPHACRYL(登録商標)S(Pharmacia社製)が挙げられる。
【0103】
幾つかの実施形態では、生体試料を捕捉表面と接触させる前または後に、1または複数のアフィニティークロマトグラフィー段階が実施される。幾つかの微小胞は特定の表面分子により特徴づけることもできる。微小胞は細胞原形質膜の出芽から生成するため、それらの微小胞はしばしば、その微小胞が由来する細胞上に認められる多くの同一表面分子を共有する。本明細書中で用いられる「表面分子」という語は、総称的に、微小胞の表面上に見つかるまたは微小胞の膜中もしくは膜上に見つかる抗原、タンパク質、脂質、炭水化物、およびマーカーを指す。それらの表面分子は、例えば、受容体、腫瘍関連抗原、膜タンパク質修飾(例えばグリコシル化構造)を包含しうる。例えば、腫瘍細胞から出芽する微小胞は、しばしばそれらの細胞表面上に腫瘍関連抗原を提示する。そのようなものとして、アフィニティークロマトグラフィーまたはアフィニティー排除クロマトグラフィーを本開示の方法と組み合わせて使用し、特定のドナー細胞型から特定の微小胞集団を単離し、同定しそして/または濃縮することができる(Al-Nedawi他、2008;Taylor & Gercel-Taylor, 2008)。例えば、腫瘍(悪性または非悪性)微小胞は腫瘍関連表面抗原を担持しており、それらの特異的腫瘍関連表面抗原を介してその腫瘍微小胞を検出し、単離し、そして/または濃縮することができる。一例として、表面抗原は、肺癌、結腸直腸癌、乳癌、前立腺癌、頭頚部癌、および肝臓由来の癌からの微小胞に対し特異的であるが、血液系細胞由来の癌からの微小胞には特異的でない(Balzar他、1999;Went他、2004)。その上、腫瘍特異的微小胞は、特定の細胞マーカー、例えばCD80とCD86の欠損により特徴づけることもできる。そのような場合、それらのマーカーを有する微小胞は、例えばアフィニティー排除クロマトグラフィーにより、腫瘍特異的マーカーの更なる分析のために排除することができる。アフィニティークロマトグラフィーは、例えば、様々な支持体、樹脂、ビーズ、抗体、アプタマー、アプタマー類似体、分子インプリントポリマー、または微小胞上の所望の表面分子を特異的に標的指向(ターゲッティング)する当業界で既知の他の分子を使用することにより達成することができる。
【0104】
随意に、微小胞単離または核酸(もしくはタンパク質)抽出前に、微小胞精製および/または核酸抽出の効率または品質を評価するための内部標準として働くコントロール粒子を試料に添加してもよい。本明細書に記載の方法は、効率的単離に備え、微小胞画分と一緒にコントロール粒子を提供する。それらのコントロール粒子としては、コントロール核酸(例えば少なくとも1つの対照標的遺伝子)を含むバクテリオファージQβ、ウイルス粒子、または任意の他の粒子が挙げられる。それらは天然に存在するものであってもよく組換えDNA技術により工作されてもよい。幾つかの実施形態では、試料への添加前にコントロール粒子の量が認知される。コントロール標的遺伝子は、リアルタイムPCR分析を使って定量することができる。幾つかの実施形態では、試料への添加前にコントロール粒子のサイズが認知される。コントロール標的遺伝子の定量化を利用して、微小胞精製または核酸抽出工程の効率や品質を決定することができる。
【0105】
好ましくは、コントロール粒子は、本明細書中では「Qβ粒子」と呼称されるバクテリオファージQβである。本明細書中に記載の方法で用いられるQβ粒子は、天然に存在するウイルス粒子または組換えもしくは遺伝子工作されたウイルスであってよく、ここで該ウイルス粒子の少なくとも1つの成分(例えばゲノムまたはコートタンパク質の一部分)が当業界で既知の組換えDNA技術または分子生物学技術により合成される。Qβは、4つのウイルスタンパク質:コートタンパク質、成熟タンパク質、溶解タンパク質およびRNAレプリカーゼをコードする3遺伝子から成る直鎖状一本鎖RNAゲノムにより特徴づけられる、レビウイルス科の一員である。Qβは、平均的な微小胞に類似したサイズを持つため、本明細書に記載のような微小胞の単離に用いるのと同じ精製方法を使って、生体試料から容易に精製することができる。加えて、Qβ粒子は、試料中のQβ粒子の量の定量のために検出または測定すべきコントロール標的遺伝子またはコントロール標的配列を含有する。例えば、コントロール標的遺伝子はQβタンパク質遺伝子である。生体試料へのQβ粒子の添加の後、Qβ粒子からの核酸は生体試料由来の核酸と一緒に、本明細書に記載の方法を使って抽出される。Qβコントロール標的遺伝子の検出は、RT-PCR分析により、例えば着目の(1または複数の)バイオマーカーと同時に、測定することができる。コントロール標的遺伝子の10倍希釈での少なくとも2、3または4つの既知濃度の検量線を使用し、コピー数を決定することができる。検出されたコピー数とQ-β粒子の添加量を比較して、単離および/または抽出工程の品質を調べることができる。
【0106】
好ましい実施形態では、Qβ粒子は核酸抽出の前に尿試料に添加される。例えば、Q-β粒子は限外ろ過の前および/または前ろ過段階の後に尿試料に添加される。
【0107】
好ましい実施形態では、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、1,000または5,000コピーのQβ粒子が体液試料に添加される。好ましい実施形態では、100コピー数のQ-β粒子が体液試料に添加される。Qβ粒子のコピー数は、標的細胞に感染するQバクテリオファージQβの感染能に基づいて計算することができる。よって、Qβ粒子のコピー数は、バクテリオファージQβのコロニー形成単位に相関する。
【0108】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載の方法およびキットは、1または複数のインプロセスコントロールを含む。幾つかの実施形態では、インプロセスコントロールは、試料の品質を表す参照(リファレンス)遺伝子(すなわち体液試料の品質の指標)の検出と分析である。幾つかの実施形態では、1または複数の参照遺伝子は試料に固有の転写物である。幾つかの実施形態では、参照遺伝子は追加のqPCRにより分析される。
【0109】
幾つかの実施形態では、抽出された核酸またはタンパク質は、更なる分析にかけられる。様々な核酸シーケンシングおよびタンパク質同定技術を用いて、生体試料由来の微小胞から抽出された核酸(例えば無細胞DNAおよび/またはRNA)またはタンパク質を検出し分析することができる。診断目的で微小胞から抽出された核酸またはタンパク質の分析は、そこから微小胞を容易に収集することができるという非侵襲性のために、広範囲の意味合いを有する。
核酸バイオマーカーの検出
【0110】
幾つかの実施形態では、抽出された核酸はDNAおよび/またはDNAとRNAを含む。抽出された核酸がDNAとRNAを含む実施形態では、RNAは好ましくは相補的DNA(cDNA)に逆転写された後で更に増幅される。そのような逆転写は単独でまたは増幅段階と組み合わせて実施できる。逆転写と増幅段階とを組み合わせる方法の一例は、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)であり、これは定量的PCRに、例えば米国特許第5,639,606号明細書に記載の定量的RT-PCR(この教示への参考のために本明細書中に組み込まれる)に改変することができる。該方法の別の例は、2つの別々の段階を含む:第一段階はRNAをcDNAへ変換する逆転写であり、第二段階は定量的PCRまたはRNAシーケンシングを使ってcDNAの量を定量する段階である。後述する実施例にて実証されるように、本開示の方法を使って核酸含有粒子から抽出されたRNAは、多種類の転写産物、例えば限定されないが、リボソーム18Sおよび28S rRNA、ミクロRNA、トランスファーRNA、疾患または医学的状態に関連する転写産物、および診断や医学的状態のモニタリングに重要であるバイオマーカーを含む。
【0111】
例えば、RT-PCR分析は、反応ごとにCt値(サイクル閾値)を決定する。RT-PCRでは、蛍光シグナルの集積によりポジティブ反応が検出される。Ct値は閾値を交差する(すなわちバックグラウンドレベルを超える)蛍光シグナルに必要なサイクル数として定義される。
Ctレベルは試料中の標的核酸の量またはコントロール核酸の量に反比例する(すなわち、Ct値が低くなるほど試料中の対照核酸の量が大きい)。
【0112】
別の実施形態では、対照核酸のコピー数は様々な当該技術分野で知られている技術のいずれか、例えば限定されないがRT-PCRを使って測定することができる。コントロール核酸のコピー数は当該技術分野で既知の方法を使って、例えば較正曲線または検量線を作成しそれを使用することにより、決定することができる。
【0113】
よって、幾つかの実施形態では、遺伝子発現を判定し、評価し、測定し、特徴づけまたはアッセイする方法は、RT-PCRを使って実施される。別の実施形態では、遺伝子発現を判定し、評価し、測定し、特徴づけまたはアッセイする方法は、遺伝子発現を測定するための当該技術分野で既知の任意の他のPCR法を使うことを含む。
【0114】
幾つかの実施形態では、試料から抽出された核酸を、コントロール遺伝子のセットと、または本明細書に提供されるような遺伝子シグネチャーと比較する方法は、定量的PCR(qPCR)または少なくとも1つもしくは複数の遺伝子の遺伝子発現を比較するために有用であると当該技術分野で知られている任意の他の方法論を使うことを含む。
【0115】
幾つかの実施形態では、1または複数のバイオマーカーは、遺伝子異常の1つまたはコレクションであることができ、それは核酸含有粒子内の核酸量並びに核酸変異体を指すために本明細書中で用いられる。具体的には、遺伝子異常としては、限定されないが、一遺伝子(例えば腫瘍遺伝子)もしくは遺伝子のパネルの過剰発現、一遺伝子(例えばp53やRBといった腫瘍抑制遺伝子)もしくは遺伝子のパネルの過少発現、一遺伝子もしくは遺伝子のパネルのスプライス変異体の選択的発現、遺伝子コピー数変異体(CNV)(例えば二重微小DNA)(Hahn, 1993)、核酸修飾(例えばメチル化、アセチル化およびリン酸化)、単一ヌクレオチド多型(SNP)、染色体再配列(例えば逆位、欠失および重複)、および一遺伝子もしくは遺伝子のパネルの突然変異(挿入、欠失、重複、ミスセンス、ナンセンス、同義または他の任意のヌクレオチド変異)、これは多くの場合、遺伝子産物の活性と機能に最終的に影響を及ぼし、選択的転写スプライス変異体および/または遺伝子発現レベルの変化、または前記のもののいずれかの組み合わせが挙げられる。
【0116】
単離された粒子中に存在する核酸の分析は定量的および/または定性的である。定量分析の場合、単離された粒子中の目的の特定核酸の相対量または絶対量いずれか(発現レベル)が、当該技術分野で既知の方法(後述)により測定される。定性分析の場合、単離された微小胞中の目的の特定核酸の種類、野生型であるかまたは変異型であるか、が当該技術分野で既知の方法により同定される。
【0117】
本発明は、生体試料からの高品質核酸抽出のための生体試料から微小胞を単離する新規方法の様々な利用(用途)、すなわち(i) 対象の診断を助けるため;(ii) 対象における疾患または他の医学的症状の進行または再発を監視するため;または(iii) 疾患または他の医学的症状の治療を受けているまたは目論んでいる対象に対する治療効果の評価を助けるためを含み;ここで当該方法から得られた核酸抽出物中の1または複数のバイオマーカーの存否が決定され、そしてその1または複数のバイオマーカーが、疾患または他の医学的症状の診断、進行もしくは再発、または治療効果にそれぞれ関連付けられる。
エキソソームタンパク質バイオマーカーの検出
【0118】
本開示の方法を使って体液から単離された細胞外微小胞(EV)は、疾患または医学的状態に関連付けられる多数のタイプのタンパク質を含有し、それらのタンパク質バイオマーカーは医学的状態の診断と監視に重要である。
【0119】
尿細胞外小胞(EV)から抽出され、そして腎移植拒絶反応の評価および/または監視に用いられるタンパク質バイオマーカーがここに記載される。本明細書に提供する実施例は、EVの効率的捕捉とその中に含まれるタンパク質の放出を可能にする遠心分離および/またはハウジング装置に用いられる様々な膜と装置を使用する。
【0120】
微小胞単離からのタンパク質検出方法は当該技術分野で用いられている任意方法であることができる。タンパク質はEVの表面上のタンパク質であってよく、またはEVの中に含められてもよい。
【0121】
幾つかの実施形態では、EVタンパク質分析は、無傷の微小胞の表面上のタンパク質を同定する方法を用いる。無傷のエキソソームは、捕捉表面から無傷のエキソソームを溶出させる様々な方法を使って単離することができる。例えば、ある方法ではサイズ排除クロマトグラフィーを利用する。別の実施形態では、溶出バッファーを使って捕捉材料から無傷の小胞が溶出される。溶出バッファーは、pH 3からpH 8.5までのpHを有するバッファーであることができる。別の実施形態では、無傷のEVは、ろ過膜を使って尿または血漿から単離することができる。別の実施形態では、微小胞は、光、UV光、pH変化または酵素に暴露すると微小胞を解離し放出するリンカー分子により、アフィニティー捕捉材料から溶出させることができる。
【0122】
別の実施形態では、当該技術分野からのタンパク質検出アッセイが、EVから溶解されたEVタンパク質を調べるのに用いられるだろう。無傷のEVが捕捉材料から抽出され、次いで溶解される。別の実施形態では、EVタンパク質は、溶解緩衝液を捕捉面に直接添加することによって捕捉面から抽出される。タンパク質精製法を用いて、無傷のEV、溶解したEVまたはその組み合わせ上に存在するタンパク質が同定される。
【0123】
タンパク質を同定する当該技術分野からのタンパク質検出方法は、定量的または定性的であることができる。生来のタンパク質を検出する方法もあり;変性タンパク質を検出する方法もあり、タンパク質複合体を検出する方法もあり、タンパク質凝集体、ポリペプチド、リポタンパク質および/またはタンパク質修飾を検出する方法もある。無傷の小胞タンパク質を用いる場合、生来のコンホメーションでタンパク質を検出する方法を用いることが好ましいが、要求はされない。幾つかの実施形態では、EVからの溶解タンパク質を使用する場合、しばしば、要求はされないが、変性タンパク質を検出する方法がしばしば用いられる。
【0124】
別の実施形態では、体液から単離された細胞外小胞中に存在する無傷のおよび/または溶解したタンパク質の検出および/または定量は、様々な当該技術分野で知られている技術、例えば限定されないが、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、ウエスタン免疫ブロット法、近接ライゲーションアッセイ(PLA)、近接拡張アッセイ(PEA)、免疫蛍光測定法(IF)、免疫組織化学的分析(IHC)、免疫細胞化学的分析(ICC)、フローサイトメトリーおよびFACS分析、免疫沈澱法(IP)、酵素結合免疫スポット(ELISPOT)、中規模開発ELISAアッセイ、アプタマーベースのアッセイ、表面プラズモン共鳴、ラマン分光法、酵素測定法、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)、均一系時間分解蛍光法(HTFR)、質量分析法および/または総タンパク濃度測定法、例えばBradfordタンパク検査法、またはスミスアッセイとしても知られるビシンコニン酸アッセイ(BCA)、を使って実施/測定することができる。
【0125】
幾つかの実施形態では、抗体ベースの検出法が用いられる。別の方法では、アプタマーまたは合成抗体検出法が用いられる。
生体試料から微小胞を単離するためのキット
【0126】
本発明の1つの態様は更に、本開示の方法で用いられるキットに向けられる。該キットは、生体試料中に同じく存在する望ましくない粒子、残屑および小分子から生体試料由来の微小胞を分離するのに十分な捕捉表面装置を含む。本発明は場合により、単離および随意のその後の核酸および/またはタンパク質抽出工程において前記試薬類を使用するための説明書を含んでもよい。
【実施例
【0127】
本項目に提供する実施例は、遠心分離および/またはろ過目的で使用される様々な膜と装置を用いるが、これらの方法は微小胞の効率的捕捉とその中に含まれる核酸(特にRNA)の効率的捕捉を可能にする任意の捕捉表面および/またはハウジング装置を用いて実施することができると理解すべきである。
実施例1:腎移植拒絶反応の診断のための尿エキソソームmRNAシグネチャーの発見と検証
【0128】
本実施例に与えられる研究では、尿試料は、臨床的適応の移植腎生検を受けている患者より採取した。発現プロファイリング用に20 mLまでの尿から尿エキソソームRNAを単離した。2つの患者コホートをスクリーニングした:第一は候補マーカーパネル(訓練)を作製するためのコホート、第二はより小さいパネルの性能を検証するためのコホート。エキソソームからのRNAは、本明細書中exoRNAとも称され、逆転写しそして予備増幅した後でOpenArrayTM(商標)Human Inflammation Panelを使ってそれのRNAシグネチャーの分析を行った。OpenArrayは、Taqman qPCRアレイである。Human Inflammation Panel(ヒト炎症パネル)は、586の標的遺伝子(ターゲット)と、21の内因性コントロールアッセイから成る。腎移植拒絶患者からの尿試料の拒絶判定基準は、ボーダーライン拒絶、急性もしくは慢性活動性の抗体媒介性拒絶(AMR)または細胞性拒絶およびAMRをはじめとする細胞性拒絶反応を含む。腎移植患者からの非拒絶尿試料は、細胞性移植拒絶も抗体媒介性移植拒絶もいずれの臨床的兆候も示さず症状も示さない。加えて、3つの社内尿コントロール試料を使用した:1つはプールしたヒト男女試料(CTRL_1)、1つはプールしたヒト男性試料(CTRL_M)、そして1つはプールしたヒト女性試料(CTRL_F)。
【0129】
各対象の簡単な説明は下記の表1と表2に与えられる。
【0130】
表1:訓練コホート患者情報。各患者を拒絶反応状態と拒絶反応の性質により特徴づけた(AMR-抗体媒介性拒絶反応、*-RNA抽出中に拒絶反応した試料)
【表1】
【0131】
表2:検証コホート患者情報。各患者を拒絶反応状態と拒絶反応の性質により特徴づけた(AMR-抗体媒介性拒絶反応、*-RNA抽出中に拒絶反応した試料、†-拒絶前試料)
【表2】
【0132】
簡単に言えば、実験計画は次の通りであった:20 mLの尿試料を2000×gで20分間遠心分離した。次いで上清を処理し、PCT出願公開第WO 2014/10757号、同第WO 2015/021158号、同第WO2016/007755号および同第WO 2016/054252号パンフレットに記載の通り、尿臨床試料濃縮法(uCSC)を使ってEV RNAを抽出した。次いでペレットを処理してRNAを抽出した。RNAをヌクレアーゼフリーの水(NFW)に溶出させ、VILO cDNA合成キットを使って製造元の教示に従って逆転写した。RNAプロファイリングを実施した(図2)。
【0133】
OpenArray(OA)ヒト炎症パネルの全体を、TaqMan qPCRアッセイに供した。計586の標的遺伝子(ターゲット)を、21の内因性コントロールアッセイと共に、ある範囲の炎症疾患について標的として以前に研究されている遺伝子に関してアッセイを行った。
【0134】
各試料についての607アッセイからの生データを、拒絶と非拒絶についてのシグネチャーを明らかにするために全体をクラスタ化する統計分析と、多変量ロジスティック回帰解析にかけた。尿試料中のEVから誘導された3遺伝子シグネチャーを決定する統計分析は、腎移植拒絶反応を経験した患者を、拒絶反応の症状を示さなかった患者から、有意に識別することができた。該シグネチャーは遺伝子CXCL9、CXCL10およびIL17RAを含んだ。この3遺伝子シグネチャーの性能を多変量ロジスティック回帰により評価し、その結果を図3Aと3Bに示す。該シグネチャーの受容者動作特性(ROC)分析は、0.792という有意な曲線下面積(AUC)を示した(図3B)。
【0135】
このように、本実施例に与えられる研究は、腎移植拒絶反応を有する患者を評価するのに有用である、尿エキソソーム中の3遺伝子シグネチャーを同定した。
実施例2:腎移植拒絶反応の診断のための尿エキソソームタンパク質の発見
【0136】
本実施例に与えられる研究において、臨床的適応の腎移植生検を受けている患者から尿試料を採取した。全く拒絶反応の臨床的または亜臨床的症状を示さない9名の腎移植対象者を、10名の細胞性または抗体媒介性拒絶または臨床的拒絶を有する腎移植対象者と共に使用した。表3の患者情報を参照のこと。
表3.患者情報。タンパク質コホート患者情報。各患者を拒絶反応状態と拒絶反応の性質により特徴づけた(AMR-抗体媒介性拒絶)。
【0137】
【表3】
【0138】
尿エキソソーム由来タンパク質を、発現プロファイリング用に10 mLまでの尿から単離した。簡単に言えば、10 mLの患者またはコントロールの尿を、試料全部がカラムを通過するまでエキソソーム捕捉膜カラムに添加した。次いで該カラムを15 mLの洗浄バッファーで洗浄し、そして400μLの溶出バッファーで溶出させた。一実施態様では、各試料のEV溶出液を、近接拡張アッセイ(proximity extension assay (PEA))を使って炎症性タンパク質についてアッセイした。92の炎症性タンパク質を標的とするプロテオミクス分析を、各尿エキソソーム溶出液についてProseek(商標)MultiPlex Inflammation Panel(OLINK Proteomics, Uppsala, Sweden)を使って実施した。別の実施形態では、各尿由来EV試料からELISAおよび/またはウエスタンブロットを使っておよび/または他のタンパク質検出法を使って炎症性タンパク質を定量した。こうして尿細胞外小胞関連タンパク質が同定され、それを表4に列挙する。
表4.バイオマーカーとして使用することができる尿EV中に検出されるタンパク質。
【0139】
【表4】
【0140】
EV mRNA CXCL9およびCXCL10遺伝子発現データに加えて、CXCL9およびCXCL10タンパク質発現値も、拒絶と非拒絶の尿エキソソーム試料間を有意に識別することができた(図4)。これは本明細書に記載のexoRNAシグネチャーを更に検証する。多変量ロジスティック回帰は、CXCL9とCXCL10タンパク質の診断性能が高度に有意であることを示した(受容者操作特性(ROC)AUC=0.827)(図4)。
【0141】
18個の尿エキソソーム試料の中の92種の標的タンパク質各々についての正規化タンパク質発現を、ボンフェロニ(Bonferroni)補正を用いたANOVAにより分析した。試験した92種のタンパク質のうち、8つが拒絶試料と非拒絶試料間で差次的に発現された(MCP-4, MCP-1, CXCL1, CXCL9, CCL11, PD-L1, ADA, CSF-1(P=0.05)(図5)。3つのタンパク質において、拒絶と非拒絶のエキソソームタンパク質試料間でタンパク質発現レベルが高度に有意に異なっていた:MCP-1、MCP-4およびCX3CL1(P=0.01)(図6)。
【0142】
このように、本実施例に示した研究は、腎移植拒絶反応を有する患者を正確に判定することができる非常に有能な尿EVタンパク質プロファイルを同定した。
【0143】
このように、本明細書に示した研究は、腎拒絶反応を有する患者を判定するのに有用である、尿エキソソーム中の遺伝子シグネチャーおよびタンパク質バイオマーカーを同定した。尿由来の細胞性RNAの分析は、斯かるシグネチャーを生成することはできなかった(米国特許WO2017/192945 A1)。
他の実施形態
【0144】
本発明をその詳細な説明と共に記載してきたが、上記の説明は本発明を例示するためであり本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の範囲は特許請求の範囲によって定義される。他の態様、利点および改良は本発明の特許請求の範囲内に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6