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特許7225210床フィードフォワード補助を備えた精密振動絶縁システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】床フィードフォワード補助を備えた精密振動絶縁システム
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20230213BHJP
   G05D 19/02 20060101ALI20230213BHJP
【FI】
F16F15/02 A
F16F15/02 M
G05D19/02 D
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020508508
(86)(22)【出願日】2018-08-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 US2018000146
(87)【国際公開番号】W WO2019035882
(87)【国際公開日】2019-02-21
【審査請求日】2021-08-16
(31)【優先権主張番号】62/545,948
(32)【優先日】2017-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507394938
【氏名又は名称】テクニカル・マニュファクチャリング・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】Technical Manufacturing Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コルダンスキー イーゴリ
(72)【発明者】
【氏名】ウォーゼイ ジェフリー アイ
(72)【発明者】
【氏名】ロペス アントニオ
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-518947(JP,A)
【文献】特表2011-530047(JP,A)
【文献】特表2009-507359(JP,A)
【文献】特開平08-054039(JP,A)
【文献】特開2001-271870(JP,A)
【文献】特開平08-326834(JP,A)
【文献】特開2003-232398(JP,A)
【文献】米国特許第05613009(US,A)
【文献】国際公開第2005/121901(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
G05D 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクティブ振動絶縁システムであって、
中間質量と、
第1の感度を有し、前記中間質量の運動を感知するようになされたフィードバック運動センサ回路と、
前記第1の感度より低い第2の感度を有し、前記中間質量を支持する基部の運動を感知するように構成されたフィードフォワード運動センサ回路と、
前記中間質量を、前記基部に対して相対的に駆動するようになされたアクチュエータと、
前記フィードバック運動センサ回路からのフィードバック信号と前記フィードフォワード運動センサ回路からのフィードフォワード信号を処理し、前記中間質量の望ましくない振動運動を低減するように前記アクチュエータを駆動する駆動信号を出力するように構成された制御回路とを含み、
前記制御回路は、
前記フィードフォワード運動センサ回路からの前記フィードフォワード信号と並列して前記フィードバック運動センサ回路からの前記フィードバック信号を処理し、
前記駆動信号を生成するために、前記フィードバック運動センサ回路と前記フィードフォワード運動センサ回路とからの処理された前記信号を合計するように構成され、
前記制御回路は、前記フィードバック運動センサ回路からの前記フィードバック信号を受信する第1の信号経路を含み、
前記第1の信号経路は、
第1の信号フィルタと、
第1の位相調整器と、
第1の増幅器とを含み、
前記制御回路は、前記フィードフォワード運動センサ回路からの前記フィードフォワード信号を受信する第2の信号経路を含み、
前記第2の信号経路は、
第2の信号フィルタと、
第2の位相調整器と、
第2の増幅器とを含む、
ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
【請求項2】
請求項1に記載のアクティブ振動絶縁システムであって、前記制御回路に前記フィードフォワード運動センサ回路からの前記フィードフォワード信号を印加しない状態で、前記アクティブ振動絶縁システムの設置場所における振動レベルが前記フィードバック運動センサ回路からの前記フィードバック信号を飽和させるレベルであることを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
【請求項3】
請求項1に記載のアクティブ振動絶縁システムであって、前記第1の信号経路においてアナログ-デジタル変換器をさらに含み、前記第1の信号フィルタと、前記第1の位相調整器と、前記第1の増幅器とが、プロセッサ上で実行されるソフトウェアとして実装されている、ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
【請求項4】
請求項1に記載のアクティブ振動絶縁システムであって、
前記アクチュエータと、
前記中間質量を支持するようになされたオフロードスプリングと、
を含む絶縁アセンブリをさらに含む、ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
【請求項5】
請求項4に記載のアクティブ振動絶縁システムであって、前記絶縁アセンブリは、
前記中間質量と、
水平調整器と、をさらに含む、ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
【請求項6】
請求項5に記載のアクティブ振動絶縁システムであって、前記絶縁アセンブリは、
ペイロード支持部材と、
前記ペイロード支持部材と前記中間質量との間に結合されたペイロード支持ばねと、
前記ペイロード支持部材と前記中間質量との間の前記ペイロード支持ばねと並列して結合されたダンパと、
をさらに含む、ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
【請求項7】
請求項4に記載のアクティブ振動絶縁システムであって、前記オフロードスプリングは、前記アクチュエータがペイロードの重量を実質的にまったく支持しないように、設置場所において前記絶縁アセンブリに作用する前記ペイロードの重量のほぼすべてを支持するような大きさとされている、ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
【請求項8】
請求項1に記載のアクティブ振動絶縁システムであって、前記アクチュエータはボイスコイルモータである、ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
【請求項9】
請求項1に記載のアクティブ振動絶縁システムであって、
前記アクチュエータと前記制御回路とを含む第1の絶縁アセンブリと、
前記フィードバック運動センサ回路からの前記フィードバック信号と前記フィードフォワード運動センサ回路からの前記フィードフォワード信号を処理するようになされた、前記制御回路内の第1のプロセッサと、
第2の絶縁アセンブリであって、
第2の中間質量を前記基部に対して相対的に駆動するようになされた第2のアクチュエータと、
第2のフィードバック運動センサ回路からの第2のフィードバック信号と前記フィードフォワード運動センサ回路からの前記フィードフォワード信号を処理し、前記第2の中間質量の望ましくない振動運動を低減するように前記第2のアクチュエータを駆動する第2の駆動信号を出力するように構成された第2の制御回路とを含む第2の絶縁アセンブリと、
前記第1のプロセッサと並行して、前記第2のフィードバック運動センサ回路からの前記第2のフィードバック信号と前記フィードフォワード運動センサ回路からの前記フィードフォワード信号を処理するようになされた、前記第2の制御回路内の第2のプロセッサとをさらに含む、ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
【請求項10】
設置場所におけるペイロードに振動絶縁を与える方法であって、
前記設置場所における振動レベルが、アクティブ振動絶縁システムの中間質量に取り付けられた1つまたは複数のフィードバック運動センサ回路から受信される信号を飽和させるレベルであると判断することであって、前記アクティブ振動絶縁システムが、
前記中間質量を基部に対して相対的に駆動するようになされたアクチュエータと、
前記1つまたは複数のフィードバック運動センサ回路から信号を受信し、前記アクチュエータを駆動するために1つまたは複数の駆動信号を出力するように構成された制御回路とを含む、前記判断することと、
前記基部に取り付けられた1つまたは複数のフィードフォワード運動センサ回路からの信号を前記制御回路に供給することと、
前記1つまたは複数のフィードフォワード運動センサ回路からの前記信号を前記制御回路によって処理することと、
前記1つまたは複数のフィードフォワード運動センサ回路からの処理された前記信号に応答して、前記1つまたは複数のフィードバック運動センサ回路から受信される信号が飽和しないように、前記基部の運動によって誘起される前記中間質量の運動を低減するように前記アクチュエータを駆動することとを含み、
前記1つまたは複数のフィードフォワード運動センサ回路が、前記1つまたは複数のフィードバック運動センサ回路が飽和する第2の振動レベルよりも高い第1の振動レベルで飽和する、ことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、前記中間質量と前記基部との間の前記アクチュエータと並列に結合されたオフロードスプリングによって、前記中間質量の重量と、前記中間質量に作用する前記ペイロードの重量とのほぼすべてを支持することをさらに含む、ことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、前記アクチュエータと前記中間質量とは、前記ペイロードの重量の一部を支持する第1の絶縁アセンブリの一部であり、前記アクティブ振動絶縁システムは、前記ペイロードの重量の支持を補助する追加の絶縁アセンブリを含む、ことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項10に記載の方法であって、振動絶縁が複数の方向にもたらされる、ことを特徴とする方法。
【請求項14】
第1の中間質量と、
第1の感度を有し、前記第1の中間質量の運動を感知するようになされた第1のフィードバック運動センサ回路と、
前記第1の感度より低い第2の感度を有し、前記第1の中間質量を支持する基部の運動を感知するように構成されたフィードフォワード運動センサ回路と、
前記第1の中間質量を、前記基部に対して相対的に駆動するようになされた第1のアクチュエータと、
前記第1のフィードバック運動センサ回路からの第1の信号と前記フィードフォワード運動センサ回路からのフィードフォワード信号とを処理し、前記第1の中間質量の望ましくない振動運動を低減するように前記第1のアクチュエータを駆動する駆動信号を出力するように構成された第1の制御回路と、
前記第1のアクチュエータと前記第1の制御回路とを含む第1の絶縁アセンブリと、
前記第1のフィードバック運動センサ回路からの前記第1の信号と前記フィードフォワード運動センサ回路からの前記フィードフォワード信号を処理するようになされた、前記第1の制御回路内の第1のプロセッサと、
第2の絶縁アセンブリであって、
第2の中間質量を前記基部に対して相対的に駆動するようになされた第2のアクチュエータと、
第2のフィードバック運動センサ回路からの第2の信号と前記フィードフォワード運動センサ回路からの前記フィードフォワード信号を処理し、前記第2の中間質量の望ましくない振動運動を低減するように前記第2のアクチュエータを駆動する第2の駆動信号を出力するように構成された第2の制御回路と、を含む第2の絶縁アセンブリと、
前記第1のプロセッサと並行して、前記第2のフィードバック運動センサ回路からの前記第2の信号と前記フィードフォワード運動センサ回路からの前記フィードフォワード信号を処理するようになされた、前記第2の制御回路内の第2のプロセッサと、
を含むことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
【請求項15】
請求項14に記載のアクティブ振動絶縁システムであって、前記第1の制御回路に前記フィードフォワード運動センサ回路からの前記フィードフォワード信号を印加しない状態で、前記アクティブ振動絶縁システムの設置場所における振動レベルが前記第1のフィードバック運動センサ回路からの前記第1の信号を飽和させるレベルである、ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
【請求項16】
請求項14に記載のアクティブ振動絶縁システムであって、前記第1の制御回路は、
前記フィードフォワード運動センサ回路からの前記フィードフォワード信号と並列して前記第1のフィードバック運動センサ回路からの前記第1の信号を処理し、
前記駆動信号を生成するために、前記第1のフィードバック運動センサ回路と前記フィードフォワード運動センサ回路とからの処理された前記信号を合計する、ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
【請求項17】
請求項16に記載のアクティブ振動絶縁システムであって、前記第1の制御回路は、前記第1のフィードバック運動センサ回路からの前記第1の信号を受信する第1の信号経路を含み、前記第1の信号経路は、
第1の信号フィルタと、
第1の位相調整器と、
第1の増幅器とを含む、ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
【請求項18】
請求項17に記載のアクティブ振動絶縁システムであって、前記第1の信号経路においてアナログ-デジタル変換器をさらに含み、前記第1の信号フィルタと、前記第1の位相調整器と、前記第1の増幅器とが、プロセッサ上で実行されるソフトウェアとして実装されている、ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
【請求項19】
請求項17に記載のアクティブ振動絶縁システムであって、前記第1の制御回路は、前記フィードフォワード運動センサ回路からの前記フィードフォワード信号を受信する第2の信号経路を含み、前記第2の信号経路は、
第2の信号フィルタと、
第2の位相調整器と、
第2の増幅器とを含む、ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
【請求項20】
請求項14に記載のアクティブ振動絶縁システムであって、前記第1の絶縁アセンブリは、
ペイロード支持部材と、
前記ペイロード支持部材と前記第1の中間質量との間に結合されたペイロード支持ばねと、
前記ペイロード支持部材と前記第1の中間質量との間の前記ペイロード支持ばねと並列して結合されたダンパと、
をさらに含む、ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
【請求項21】
請求項14に記載のアクティブ振動絶縁システムであって、前記第1の絶縁アセンブリが、
前記第1のアクチュエータと、
前記第1の中間質量を支持するようになされたオフロードスプリングと、
を含む、ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
【請求項22】
請求項21に記載のアクティブ振動絶縁システムであって、前記オフロードスプリングは、前記第1のアクチュエータがペイロードの重量を実質的にまったく支持しないように、設置場所において前記第1の絶縁アセンブリに作用する前記ペイロードの重量のほぼすべてを支持するような大きさとされている、ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、支持されたペイロードにおける望ましくない運動を低減するアクティブ振動絶縁システムに関する。ある実装形態では、支持されるペイロードは、光学顕微鏡、原子間力顕微鏡または電子顕微鏡などの精密機器とすることができる。
【背景技術】
【0002】
本出願は、2017年8月15日に出願された「Precision Vibration-Isolation System with Floor Feedforward Assistance」という名称の米国仮特許出願第62/545,948号の優先権を主張し、本願に引用して援用する。
【0003】
様々な技術分野で使用される精密機器(例えば、集積回路製造、計測、顕微鏡法の様々な分野、精密医療機器など)にとっては、望ましくない運動(例えば振動、衝撃など)を精密機器に持ち込む可能性のある雑音の環境発生源の絶縁が有利である。振動絶縁の1つの手法は、パッシブモーションダンパ(例えば、粘性流体または物質を有するパッシブダンパなど、運動減衰構成要素を備えた空気サスペンションおよび/またはばねサスペンションシステム)を有する台の上に機器を取り付けることである。場合によっては、精密機器が、パッシブ運動ダンパでは十分な絶縁をもたらさないレベルまでの外部発生源からの振動絶縁を必要とすることがある。そのような性能を実現するために、精密機器とその機器を支持する基部との間にアクティブ振動絶縁システムを採用することができる。例えば、外部から誘起される精密機器の運動に対抗するようにアクチュエータを駆動するために、アクティブフィードバックシステムを使用することができる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
アクティブ振動絶縁システムを改良するための装置および方法について記載する。ある実施形態によると、アクティブ振動絶縁システムは、精密機器などのペイロードを支持する中間質量の外部および/または内部誘起運動に対抗する1つまたは複数のアクチュエータを駆動するフィードバックシステムを含む。雑音環境では、外部の運動発生源がフィードバックシステムの動作範囲を超える可能性がある。フィードバックシステムの限界を超えるのを防止するために、振動絶縁システムを支持する基部に振動センサを取り付け、中間質量の運動を低減しシステムをコンプライアンス状態にするように中間質量を駆動するために、アクチュエータにフィードフォワード制御を与えることができる。コンプライアンス状態の場合、フィードバックシステムは、雑音のより少ない環境で通常であれば動作するように、振動を低減するために満足に動作することができる。本明細書に記載のようにフィードフォワード制御を採用することによって、フィードバックシステムは、通常ならフィードバックシステムに変更を加える必要なしに動作することができるはずの環境よりも雑音の多い環境でも動作することができる。このようにして、フィードバックシステムにハードウェアの変更を加えることなく、既存のフィードバックシステムの有効動作範囲および/または性能を向上させることができる。
【0005】
ある実施形態は、中間質量と、第1の感度を有し、中間質量の運動を感知するようになされたフィードバック運動センサと、第1の感度より低い第2の感度を有し、中間質量を支持する基部の運動を感知するように構成されたフィードフォワード運動センサと、中間質量を基部に対して相対的に駆動するようになされたアクチュエータと、フィードバック運動センサとフィードフォワード運動センサとからの信号を処理し、中間質量の望ましくない振動運動を低減するようにアクチュエータを駆動するための信号を出力するように構成された制御回路とを含むアクティブ振動絶縁システムに関する。
【0006】
ある実施形態は、設置場所におけるペイロードに振動絶縁を与える方法に関する。方法は、設置場所における振動レベルが、アクティブ振動絶縁システムの中間質量に取り付けられた1つまたは複数のフィードバック運動センサから受信される信号を飽和させると判断する動作を含むことができ、アクティブ振動絶縁システムは、中間質量を基部に対して相対的に駆動するようになされたアクチュエータと、1つまたは複数のフィードバック運動センサから信号を受信し、少なくとも1つのアクチュエータを駆動するための1つまたは複数の駆動信号を出力するように構成された制御回路とを含む。振動絶縁を与える方法は、基部に取り付けられた1つまたは複数のフィードフォワード運動センサからの信号を制御回路に供給する動作と、制御回路によって1つまたは複数のフィードフォワード運動センサからの信号を処理する動作と、1つまたは複数のフィードバック運動センサから受信される信号が飽和しないように、基部の運動によって誘起される中間質量の運動を低減するために、1つまたは複数のフィードフォワード運動センサからの処理された信号に応答してアクチュエータを駆動する動作とをさらに含み得る。
【0007】
上記の概要は、例示のために示しており、限定的であることを意図していない。上記の装置および方法の実施形態は、上述の、または以下で詳述する、態様、特徴および動作の任意の適合する組み合わせによって実装可能である。本教示の上記およびその他の態様、実施形態および特徴は、添付図面とともに以下の説明を読めばよりよく理解することができる。
【0008】
当業者は、本明細書に記載の図面が例示のみを目的としていることがわかるであろう。場合によっては実施形態の様々な態様は、実施形態をわかりやすくするために誇張または拡大されて示されていることがあることを理解されたい。図中、同様の文字は、様々な図面全体を通じて同様の特徴、機能的に類似および/または構造的に類似した要素を総称的に指す。図面は必ずしも一律の縮尺ではなく、本教示の原理を示すことに重点をおいている。図面は、決して本教示の範囲を限定することを意図したものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ある実施形態による、アクティブ振動絶縁システムを示す図である。
図2】ある実施形態による、フィードフォワード補助を含むアクティブ振動絶縁システムを示す図である。
図3A】ある実施形態による、アクティブ振動絶縁システムのための制御回路を示す図である。
図3B】ある実施形態による、アクティブ振動絶縁システムのための制御回路を示す図である。
図4】フィードバック制御もフィードフォワード制御も採用していない第1の設置場所における第1の振動絶縁システム内の運動センサからの例示の信号のプロットを示す図である。
図5】フィードバック制御のみを採用した図4の振動絶縁システムにおける同じ運動センサからの例示の信号のプロットを示す図である。
図6】フィードバック制御を採用した第2の設置場所における第2の振動絶縁システムにおける2つの運動センサからの2つの例示の信号のプロットを示す図である。
図7】フィードバック制御と床補助フィードフォワード制御とを採用した図6の振動絶縁システムにおける同じ運動センサからの2つの例示の信号のプロットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本教示の態様、実施形態および特徴は、添付図面とともに以下の説明を読めばよりよく理解することができる。
【0011】
科学研究界と、微細加工、医療、ナノテクノロジー、光学、および半導体業界とは、研究環境および商用環境で使用される精密機器の振動絶縁に対する難しい要求を生み出し続けている。振動絶縁は、精密機器に影響を及ぼし、摂動させ、その性能を損なうことになる(典型的には外部発生源からの)動的力の抑制を一般に必要とする。ある種の精密機器の正常な動作と性能改善を得るためには、機器の望ましくない運動をサブミクロン、またはさらに100nm未満のレベルにまで抑制する必要がある場合がある。
【0012】
本発明人らは、望ましくない運動を生じさせる発生源がわずかである場合も複数ある場合もある多様な環境に精密機器が配置され得ることを認識し、理解している。発生源は精密機器の外部にある場合もあれば、精密機械の内部に由来する場合もある。場合によっては、精密機器を摂動させる動的力が機器の外部にあり、(例えば基部支持部材、給電線、および/または装置への音響結合を介して)機器内に結合し、機器の望ましくない運動を生じさせることがある。
【0013】
パッシブ型振動絶縁では十分ではない可能性がある、大きく異なる複数の雑音源を有する場所において振動絶縁を与える1つの手法は、アクティブ振動絶縁システムを採用することである。アクティブ振動絶縁システムは、1つまたは複数の運動センサと、1つまたは複数のフィードバックシステムを含み得る。運動センサを、精密機器を支持する構造の少なくとも1つの自由度において運動を感知するように構成することができ、フィードバックシステムを、雑音源によって誘起される運動に対抗するために構造を電気機械的に駆動するように構成することができる。例えば、フィードバックシステムは、雑音源によって誘起される構造の運動に対抗するように1つまたは複数のフィードバック信号によって駆動される1つまたは複数のアクチュエータを含むことができる。
【0014】
多くの場合、より高い性能を達成するために、アクティブ振動絶縁システムを、システムが支持することになるペイロードと、システムが配置されることになる環境とに合わせて調整することができる。例えば、まず、雑音環境を特性解析するためにエンジニアが現場査察を行うことができる。現場査察中に収集されたデータをアクティブ振動絶縁システムの製造時に使用してアクティブ振動絶縁システムをその雑音環境に対応するように調整する(例えば、アクティブ振動絶縁システムにおけるフィードバックループの利得および雑音フィルタパラメータを設定する)ことができる。場合によっては、この調整は、システムハードウェアを変更せずに、例えばソフトウェアコードで利得値とフィルタ設定を調整することによって電子的に行うことができる。このようにして、既存のアクティブ振動絶縁システムが、システムハードウェアを変更することなく異なる雑音環境に対応することができる。システムハードウェアを変更すると、システムコストが無用に増加することになり、製造に遅延を生じさせる可能性がある。
【0015】
図1に、ある実施形態による、フィードバックループを採用するアクティブ振動絶縁システム100の略図を示す。ある実施形態では、アクティブ振動絶縁システム100は、複数の絶縁アセンブリ105a、105bによって基部105の上方に支持される中間質量110を含むことができる。1つまたは複数の方向(例えば、図1に示す実施形態の場合はz方向であるが、他の実施形態では追加のセンサを使用してx方向およびy方向も感知してもよい)の中間質量の運動を感知するために、中間質量に1つまたは複数の運動センサ112を取り付けることができる。場合によっては、単一の多軸センサ(例えば多軸受振器または加速度計)が中間質量の2つ以上の方向の運動を感知することができる。信号を処理し、感知された運動に対抗し、低減するために絶縁アセンブリ105a、105b内のアクチュエータ107a、107bに駆動信号を供給する制御回路160に、運動センサからの出力を供給することができる。アクチュエータ107a、107bは、中間質量110を基部105に対して相対的に駆動するように構成することができる。そのようなフィードバック制御は、中間質量110の望ましくない運動を低減するように動作する。アクティブ振動絶縁システム100は、ペイロード162を支持する中間質量の上方に配置されたパッシブ振動絶縁(例えばダンパ120a、120bおよびばね126a、126b)を備えた支持構造(例えばペイロード支持部材130)をさらに含むことができる。場合によって、ペイロード162は精密機器とすることができ、その例は上記で示してある。
【0016】
図1の図面には2つの絶縁アセンブリ105a、105bのみが示されているが、アクティブ振動絶縁システム100は、中間質量110と基部105との間に配置された3つ以上の絶縁アセンブリを含むことができる。ある実施形態では、図1に示すようにz方向だけでなく、複数の方向に(例えばx方向および/またはy方向に、中間質量110と側壁または、基部105から上方に延びる柱との間に配置された)振動絶縁をもたせるように構成された絶縁アセンブリがあってもよい。
【0017】
ある実施形態では、絶縁アセンブリは、中間質量110のピッチ、ロールおよび/またはヨーに影響を与えることになる摂動に対する絶縁を与えるように構成することができる。例えば、中間質量110上の異なる場所に位置する2つまたは3つの運動センサが、中間質量110のピッチ、ロールおよび/またはヨーを検出することができ、検出されたピッチ、ロールおよび/またはヨーを相殺するようにアクチュエータを駆動するために制御回路160によって処理可能なフィードバック信号を発生することができる。ロールの一例として、第1の絶縁アセンブリ105aの近傍の第1のセンサが、第2の絶縁アセンブリ105bの近傍の第2のセンサによって検出されるものとの差である中間質量110のz運動を検出してもよい。(中間質量110のロールを示す)検出されたz運動の相違に応答して、ロールを相殺するために、制御回路が第1のアクチュエータ107aを第2のアクチュエータ107bとは異なるように駆動することができる。
【0018】
ある実施形態では、絶縁アセンブリがオフロードスプリングとアクチュエータとを含むことができる。例えば、第1の絶縁アセンブリ105aがオフロードスプリング116aとアクチュエータ107aとを含むことができる。ある実施形態では、オフロードスプリング116a、116bが、ペイロード162と、中間質量110と、中間質量110の上方の支持構造との重量のほとんどまたは全部を担うように、オフロードスプリング116a、116bはアクチュエータ107a、107bより高い剛性を有することができる。オフロードスプリングがアクチュエータより高い剛性を有するシステムの例は、米国特許第8,899,393号および第9,353,824号に記載されており、それらの全体を本願に引用して援用する。そのような実装形態では、アクチュエータはボイスコイルドライバなどのソフトアクチュエータを含み得る。
【0019】
ある実施形態では、アクチュエータが、ペイロード162と、中間質量110と、中間質量110の上方の支持構造との重量のほとんどまたは全部を担うように、オフロードスプリング116a、116bが存在しなくてもよいか、またはアクチュエータ107a、107bよりも低い剛性を有してもよい。オフロードスプリングがアクチュエータより低い剛性を有するシステムの例は、米国特許第5,660,255に記載されており、その全体を本願に引用して援用する。そのような実装形態では、アクチュエータは圧電アクチュエータなどの硬いアクチュエータを含み得る。
【0020】
中間質量110は、アルミニウム、ステンレス鋼、またはこれらの組み合わせなどの任意の適切な材料で形成可能であるが、実施形態によっては他の材料も使用可能である。図1は、複数の絶縁アセンブリ105a、105bにわたる1つの中間質量110を示すが、場合によっては、各絶縁アセンブリが、他のすべての絶縁アセンブリの中間質量に接続されていないそれ自体の中間質量を有することができる。そのような場合、1つまたは複数の方向の運動を感知するために各絶縁アセンブリの中間質量に1つまたは複数の運動センサ112を取り付けることができる。各絶縁アセンブリは、ペイロード162の別々の領域を支持することができる。場合によっては、共通のアクチュエータ駆動信号により絶縁アセンブリが並列して動作するように、所与の方向について同じフィードバックループによって各絶縁アセンブリを制御してもよい。場合によっては、異なるアクチュエータ駆動信号により絶縁アセンブリが並列して動作するように、所与の方向について各絶縁アセンブリを異なるフィードバックループによって制御してもよい。各絶縁アセンブリが異なるフィードバックループによって制御され、絶縁アセンブリが分離されている場合、ピッチ、ロールおよび/またはヨーの相殺を自動的に行うことができ、別々に感知されて考慮される必要がない。
【0021】
基部105は、アルミニウム、ステンレススチール、またはこれらの組み合わせなど任意の適切な材料を含み得るが、他の材料を使用することも可能である。実装形態によっては、基部105は、施設の床、テーブルまたはその他の構造を含むことができ、製造される振動絶縁システム100の一部として含まれなくてもよい。そのような実装形態では、絶縁アセンブリ105aを、ペイロード162と基部105との間に取り付けるように構成された、別個にパッケージ化されたアセンブリとして提供することができる。
【0022】
ある実装形態によると、中間質量110および/またはペイロード162の水平度を調整するために絶縁アセンブリとともに水平調整器108a、108bを含めることができる。例えば、水平調整器108aは、アクチュエータ107aに結合され、基部105の上方のアクチュエータ107a、107bの高さを調整するために(手動および/または自動で)回転させることができる、ねじ式駆動アセンブリを含むことができる。場合によっては、水平調整器は、基部105の上方のオフロードスプリング116aの高さをさらに調整することができる。
【0023】
ある実施形態によると、運動センサ112が、例えば加速度計または受振器を含むことができ、1方向(例えばz方向)の運動を表す少なくとも1つの信号を制御回路160に出力することができる。他の種類の運動センサ(例えばひずみゲージセンサ、マイクロエレクトロメカニカルセンサ、ジャイロメータ、光学干渉センサなど)も使用可能であり、本発明は加速度計および受振器のみには限定されない。多軸振動絶縁システムでは、1つまたは複数の運動センサ112が、2つ以上の方向の運動(例えば、x、y、z、ピッチ、ロールおよびヨーの任意の組み合わせ)を表す運動信号を出力することができる。制御回路160を、運動センサ112からの信号を処理し、運動センサによって感知された運動に対抗するような方式で中間質量110を駆動する駆動信号をアクチュエータ107a、107bに出力するように構成することができる。制御回路160に含めることができるフィードバック制御のいくつかの例が、米国特許第5,823,307号に図1図2図4図18図19、および図22に関連して記載され、米国特許第7,726,452号に図4に関連して記載されており、これらの両方を本願に引用して援用する。制御回路160は、受動、能動、アナログおよび/またはデジタル回路構成要素を含むことができ、本明細書および上記の各米国特許の項に記載のように、望ましくない運動のフィードバック相殺を行うようになされた処理電子素子(例えば、論理素子、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、フィールドプログラマブルゲートアレイ、特定用途向け集積回路、デジタルシグナルプロセッサ、またはこれらの何らかの組み合わせ)を含むことができる。
【0024】
ある実施形態によると、ユーザーインターフェース180が制御回路160と通信することができ、ユーザー入力を受け取り、振動絶縁システム100の動作の安定性を示すように構成することができる。ユーザーインターフェースは、タッチスクリーン、タッチパネル、グラフィカルユーザーインターフェース、機械式ノブ、ボタン、トグル、またはスイッチ、インジケータライト、画像ディスプレイ、またはこれらの何らかの組み合わせを含み得る。ある実装形態では、ユーザーインターフェース180は、無線または有線通信リンクを介して制御回路と通信するパーソナルコンピュータまたはスマートフォンを含む。パーソナルコンピュータまたはスマートフォン上では、制御回路160の処理電子素子上で実行されるソフトウェア要素との通信と、それらのソフトウェア要素の再構成とを可能にするカスタムソフトウェアアプリケーションを実行することができる。
【0025】
ある実施形態によると、追加の支持ばね126a、126bによって中間質量110の上方にペイロード支持部材130を支持することができる。また、ペイロード支持部材130の運動を減衰させるために、ペイロード支持部材130と中間質量110との間にダンパ120a、120bを付加することができる。ある実施形態では、支持ばね126a、126bとダンパ120a、120bの組が3組以上あってもよい。場合によっては、ペイロード支持部材130および/またはペイロード162を水平にするために、ペイロード支持部材130と中間質量110との間に水平調整器108a、108bを含めることができる。実装形態によっては、ペイロード162は、図のように複数の支持ばね126a、126bおよびダンパ120a、120bにわたる単一のペイロード支持部材130上に直接搭載することができる。他の実装形態では、ペイロード支持部材130は、複数の支持ばねおよびダンパにわたっていなくてもよい。その代わりに、各支持ばねおよびダンパに別々のペイロード支持板を配置し、ペイロード162の一部を支持してもよい。場合によっては、支持ばね126a、126bおよびダンパ120a、120bをペイロード162上の別々の位置に直接接続してもよく、ペイロード支持部材またはペイロード支持板を使用しなくてもよい。
【0026】
本発明者らは、設置場所によっては、図1に関連して説明したシステムのような既存または既製振動絶縁システムの限界を超える可能性があることを認識し、理解した。そのような設置場所は、大規模な鋼構造建造物(例えば1辺が500メートルを超える建造物)の高層階(例えば3階より上の階)である場合がある。そのような場所では、床の振動が大き過ぎて、振動絶縁システムにおけるフィードバックループを閉じることができず、フィードバックループがペイロードの望ましくない運動をすべて有意に低減するように正常に動作することができないか、または、フィードバックループがその他の点では正常に動作していても精密機器の仕様を満たすような振動の十分な低減をもたらすことができない場合がある。
【0027】
本発明者らは、雑音環境において中間質量上に取り付けられたセンサ112には問題が生じることがあることを発見した。典型的には、運動センサ112は、サブミクロンレベルの運動を検出することができるほどきわめて高感度である。大振幅振動の場合、運動センサ112は反応が非線形になることがある。例えば、運動センサ112は高い振動レベルで飽和する(ロールオーバおよび/または平坦化する)信号を出力することがある。センサ112のこの非線形挙動は、フィードバックループによって正常に対応することができる正しい運動感知信号を提供しない場合があり、その結果、振動絶縁システム100の望ましくない性能につながる。
【0028】
既存のアクティブ振動絶縁システム100は、そのセンサ112に合わせて製造され、調整され得るため、フィードバックセンサ112を変更すると、その結果としてフィードバック回路の再調整を必要とすることがあり、場合によってはアクティブ振動絶縁システム100内の他のハードウェア構成要素の変更を必要とすることもある。上述のように、このような変更は費用がかかり、製造の遅延につながる可能性がある。場合によっては、アクティブ振動絶縁システム100が設置場所にすでに設置されており、以前には満足に動作していた場合がある。しかし、設置場所における雑音条件が時間の経過とともに増大し、アクティブ振動絶縁システム100の範囲を超えるほどになっていることがある。既存のアクティブ振動絶縁システム100を再設計または交換するのではなく、アクティブ振動絶縁システム100が環境雑音を正しく検出するように元々構成されているよりも雑音の多い環境でアクティブ振動絶縁システム100を使用し、環境雑音の影響をアクティブ振動絶縁システム100が正常に機能することができるレベルまで低減する方が好ましいであろう。
【0029】
図2に、フィードフォワード制御によって補助される少なくとも1つのフィードバックループを有するアクティブ振動絶縁システム200を示す。ある実施形態では、1つまたは複数のフィードフォワード運動センサ114を、アクティブ振動絶縁システム200を支持する基部105(例えば床)に取り付けることができる。この1つまたは複数のフィードフォワード運動センサ114は、基部105の1つまたは複数の方向の運動を感知することができる。フィードフォワード運動センサ114は、フィードバック運動センサ112と同じ種類であっても異なる種類であってもよいが、アクティブ振動絶縁システム200が設置されている雑音環境でその出力信号が飽和しないように、運動センサ112よりは感度を低くすることができる。ある実施形態では、フィードフォワード運動センサ114の感度は、フィードバック運動センサ112の感度の1.5分の1から30分の1の間である。運動センサの感度は、運動感知単位当たりのボルトまたは電流出力(例えば1ミクロン当たりのボルト数)で表して測定されてもよい。より低い感度を有することによって、フィードフォワード運動センサ114は、飽和せずにフィードバック運動センサ112より多くの量の振動運動を検出することができる。したがって、フィードフォワード運動センサ114は、フィードバック運動センサ112よりも高い振動運動レベルで飽和し得る。場合によっては、フィードフォワード運動センサ114の感度は、フィードバック運動センサ112の感度とほぼ同じであってもよい。
【0030】
フィードフォワード運動センサ114からの信号を制御回路160に供給することができる。制御回路160は、フィードフォワード運動センサ114から受信した信号を処理し、フィードフォワード運動センサ114によって感知された運動によって誘起されることになる中間質量110a、110bの運動に対抗するように1つまたは複数のアクチュエータ107a、107bにフィードフォワード駆動信号を出力することができる。例えば、フィードフォワード運動センサ114が+z方向の床の運動を感知した場合、制御回路160は中間質量を-z方向に移動させるようにアクチュエータ107a、107bにフィードフォワード駆動信号を出力することができる。実装形態によっては、基部に取り付けられたフィードフォワード運動センサ114からの信号を、中間質量に取り付けられたフィードバックセンサ112から受信した信号とは別に処理することができる。
【0031】
図2に示す実施形態は、各絶縁アセンブリ105a、105bの一部としての別々の中間質量110a、110bを示している。このような場合、各絶縁アセンブリを支持ユニットとしてパッケージ化することができる。絶縁アセンブリ105aは、支持ばね126aとダンパ120aとをさらに含むことができる。場合によっては、各絶縁アセンブリを機器162の、または機器が載置される台の一部の下に配置することができるように、(単一のペイロード支持部材130が存在するのではなく)各絶縁アセンブリが別個のペイロード支持部材をさらに含むことができる。
【0032】
場合によっては、基部取り付け運動フィードフォワードセンサ114からの信号を、基部105の振動が最も顕著な特定の帯域に限定することができる。例えば、基部取り付け運動フィードフォワードセンサ114からの信号を、バンドパスフィルタによってフィルタリングすることができる。バンドパスフィルタの(半値全幅で測定した)帯域幅は、中間質量110a、110bの最大の運動を誘起する基部105からの(半値全幅で測定した)周波数の帯域幅とほぼ一致するかまたはより大きくすることができる。基部105が、中間質量110a、110bの最大の運動を誘起する原因である単一の周波数または周波数の小クラスタを示す場合、バンドパスフィルタの中心周波数を実施的にその周波数とすることができ、その周波数または周波数のクラスタより有意に大きい帯域幅を有してもよい。実装形態によっては、バンドパスフィルタは中心周波数値の20%と50%の間の半値全幅値を有することができ、その場合、低い方の周波数でより狭い帯域幅が使用される。例えば、5Hzを中心とする外乱の半値全幅値は1Hzとすることができ、100Hzを中心とする外乱の半値全幅値を50Hzとすることができる。ある実施形態では、バンドパスフィルタを制御回路160で実装されるソフトウェアフィルタとして実現することができる。場合によっては、バンドパスフィルタを回路として実現することができる。場合によっては、異なる周波数にある複数の外乱を通過させるために複数のフィルタを使用することができ、その複数のフィルタの複合帯域幅は外乱周波数のうちの1つの周波数の50%より大きく(例えば最大500%)であってもよい。実装形態によっては、フィルタはDCから、雑音環境で検出される外乱の最高周波数の最大5倍までとすることができる周波数値まで及び得る周波数の選択された範囲にわたるように、デジタルで実装することができる。
【0033】
動作時、基部取り付けフィードフォワード運動センサ114と、制御回路160と、アクチュエータ107a、107bとによって提供されるフィードフォワード制御により、基部の運動により誘起される中間質量110の運動を、中間質量に取り付けられたより高感度のフィードバックセンサ112が非線形挙動または飽和を示さない程度まで減衰させることができる。これにより、通常であれば既製アクティブ振動絶縁システム100には対処し難く、システムハードウェアの再設計(例えば運動センサ112の交換、アクチュエータ107a、107bの交換)を必要とするような設置場所において、システムのフィードバックループ(中間質量取り付けセンサ112と、制御回路160と、アクチュエータ107a、107bとを含む)を正常に動作させることができるようにし、中間質量110とペイロード162とに適切な振動絶縁を与えることができる。
【0034】
本発明者らは、フィードフォワード制御は、通常のフィードバック制御下で動作するアクティブ振動絶縁システム100の性能を(少なくとも2倍から5倍)向上させることができることも見出した。例えば、特定の周波数(例えば2Hz)でペイロード162のz方向の振動の20dBの減衰をもたらすアクティブ振動絶縁システム100を、通常ならアクティブ振動絶縁システム100では対処し難い環境において、上述のようにz方向フィードフォワード運動センサ114の追加とフィードフォワード制御によって同じ周波数でペイロード162のz方向の振動の26dBから30dBの減衰をもたらすことで向上させることができる。本明細書に記載のようにフィードフォワード制御を加えることによって、性能のより大幅な向上も得られる。一般に、フィードフォワード制御を含むアクティブ振動絶縁システム200は、約0.3Hzから約100Hzまでに及び得る周波数範囲で低周波の動的外力からの絶縁(振動の大幅な減衰)をもたらすことができる。さらに、アクティブ振動絶縁システム200のパッシブダンピング構成要素(支持ばね126a、126bおよびパッシブダンパ120a、120bなど)は、例えばマルチキロヘルツ周波数に及ぶシステムの固有振動周波数を超える周波数での絶縁をもたらすことができる。
【0035】
フィードバック制御とフィードフォワード補助とのための制御回路160の一例を図3Aに示すが、本発明は図に示す回路構成のみには限定されない。ある実施形態によると、制御回路160は、周波数フィルタ220と、位相調整器230と、増幅器240と、信号分割器250とを含む、少なくとも1つのフィードバック回路を含むことができる。周波数フィルタと、位相調整器と、増幅器とは、図に示す順序とは異なる順序で配置することもできるが、これらの構成要素のうちの少なくとも1つが運動センサ112から信号を受信することができる。実施形態によっては、周波数フィルタ220および/または位相調整器230を含まなくてもよい。場合によっては、周波数フィルタリングおよび/または位相調整機能を増幅器240に含めてもよい。実施形態よっては、周波数フィルタ220と、位相調整器230と、増幅器240とを含むフィードバックループに積分器(図示せず)を含んでもよい。ある実施形態では、積分器の積分時定数に関連付けられたパラメータを、ユーザー調整可能振動絶縁設定によって変更することができる。信号分割器250は、中間質量110に接続された複数のアクチュエータ107aないし107dを駆動するための複数の信号を出力することができる。実装形態によっては、特定の自由度のためにすべてのアクチュエータに同じ信号が印加される(例えば、図1の中間質量110にz方向支持を与えるように配置された4つのアクチュエータ107aないし107dに印加される)。場合によっては、受信したフィードバック信号またはフィードフォワード信号または処理されたフィードバック信号またはフィードフォワード信号は、プロセッサ270または受動素子によって操作されることができる。場合によっては、上述のようにアクチュエータ107aないし107dに異なる信号が印加されるように、各アクチュエータがそれ自体のセンサ112とフィードバック回路とを有することができる。
【0036】
図3Aには4つのアクチュエータが図示されているが、アクティブ振動絶縁システム200は、制御回路160によって制御される、これより少ないかまたは多い数のアクチュエータを有することができる。場合によっては、システム200に複数の制御回路160があってもよい。例えば、システム内の一部のアクチュエータが第1の方向(例えば垂直方向)の振動を抑制するようになされ、1つの制御回路によって制御されてもよく、システム内の一部のアクチュエータが第2の、異なる方向(例えば水平方向)の振動を抑制するようになされてもよい。
【0037】
より詳細には、図3Aに示す回路は、少なくとも1方向(例えば、図2を参照するとz方向)のフィードフォワード補助を備えたアクティブ振動絶縁制御を与えることができる。中間質量110上のフィードバック運動センサ112を、z方向の運動を感知するように構成することができる。フィードバック回路は、感知されたz方向の運動を処理し、アクチュエータ107aないし107dに送信される、z方向の望ましくない運動を抑制する制御信号を生成することができる。ある実施形態は、振動絶縁制御が望まれる追加の自由度(例えばx、y、ピッチ、ロール、ヨー)のために1つまたは複数の追加のフィードバック運動センサ112と、追加のフィルタ220と、追加の位相調整器230と、追加の増幅器240と、少なくとも1つの追加のアクチュエータ107とを含むことができる。場合によっては、各フィードバック回路が他のフィードバック回路とは独立して動作してもよい。
【0038】
ある実施形態によると、周波数フィルタ220はフィードバック運動センサ112から信号を受信することができ、受信した信号の異なるスペクトル成分を異なる量だけ減衰させることができる。ある実施形態では、周波数フィルタ220が、周波数フィルタによって操作される異なるスペクトル帯域幅についての減衰量を決定する複数の設定可能フィルタパラメータを含むことができる。例えば、フィルタパラメータ値は、1つまたは複数のスペクトル帯域幅の減衰値を決定することができる。ある実施形態によると、フィルタパラメータ値は、0.01Hzから30kHzの周波数範囲で設定可能である。周波数フィルタ220は、ハードウェア、ソフトウェアまたはその組み合わせで実装可能である。
【0039】
位相調整器230は、フィードバック運動センサ112から受信した信号の1つまたは複数の周波数成分の位相を変更する(例えば信号遅延を加える)ことができる。ある実施形態では、位相調整器230は、異なるスペクトル帯域幅にわたる位相調整の量を決定する複数の設定可能位相パラメータを含むことができる。例えば、位相パラメータ値は、特定のスペクトル帯域幅について加えられる信号遅延の量を決定することができる。位相調整器230は、ハードウェア、ソフトウェアまたはその組み合わせで実装可能である。
【0040】
増幅器240は、フィードバック運動センサ112から受信した信号を増幅し、アクティブ振動絶縁システム200の1つまたは複数のアクチュエータを駆動するために出力信号を供給する任意の適合する増幅器を含み得る。ある実施形態によると、増幅器240は、増幅器により操作される1つまたは複数のスペクトル帯域幅の利得値を決定する1つまたは複数の設定可能な利得パラメータを含むことができる。ある実施形態では、増幅器は、増幅信号の帯域幅全体にわたって適用される単一の設定可能利得値を有することができる。場合によっては、増幅器240は、反転増幅器であってもよい。増幅器240の電力利得値は、ある実施形態によると1.5と5の間とすることができるが、これより高いかまたは低い電力利得の値も可能である。ある実施形態では、振動を制御する対象となる異なる自由度のために異なる利得値を使用することができる。例えば、x方向、y方向およびz方向のアクティブ振動絶縁制御のために異なる利得値を使用することができる。実装形態によっては、フィードバック回路内に追加の利得が存在してもよく、フィードバック回路のループ利得は1.5と200の間の値を有し得る。場合によっては、ループ利得を調整するために利得設定可能増幅器240が含まれていてもよい。増幅器240は、ハードウェア、ソフトウェアまたはその組み合わせで実装可能である。実装形態によっては、ループ利得を調整するためにフィードバックループに調整可能減衰器が含まれてもよい。
【0041】
制御回路160は、フィードフォワード制御のために並列して使用される周波数フィルタ222と、位相調整器232と、増幅器242も含むことができる。周波数フィルタ222と、位相調整器232と、増幅器242とは、上述の周波数フィルタ220、位相調整器230および増幅器240と同じか類似していてもよい。場合によっては、各絶縁アセンブリ105a、105bが、専用のフィードフォワード制御回路を有し得る。他の場合には、複数の絶縁アセンブリ内のアクチュエータを制御するために共通のフィードフォワード制御回路を使用することができる。
【0042】
ある実施形態によると、フィードバックとフィードフォワードの結合信号が1つまたは複数のアクチュエータに印加されるように、フィードフォワード増幅器242から出力されたフィードフォワード信号を、フィードバック増幅器240から出力されたフィードバック信号に加えることができる。例えば、信号分割器250によって分割される前または後に、フィードバック信号にフィードフォワード信号を加えることができる。実装形態によっては、信号分割器を、フィードフォワード信号とフィードバック信号とを信号分割器の入力で加算し、次に、1つまたは複数のアクチュエータへの送信のためにその結果の結合信号を分割するように構成することができる。ある実施形態では、結合されたフィードバックおよびフィードフォワード信号を単一の増幅器で増幅してから1つまたは複数のアクチュエータに印加することができるように、増幅の前にフィードバック信号にフィードフォワード信号を加えることができる。
【0043】
本明細書で使用するフィードバック信号とは、中間質量110の感知された運動から導出され、中間質量の感知された運動に対抗するようにそれに反応して印加される信号である。フィードフォワード信号とは、中間質量110を支持する基部105の感知された運動から導出され、基部の感知された運動に起因する中間質量の予測される運動を相殺するように未然に印加される信号である。
【0044】
制御回路160は、入力コントロール205から信号を受信するように構成されたパラメータ設定器210をさらに含むことができる。入力コントロールは、ある実施形態によると、ユーザーインターフェース180の一部(例えば、機械式ノブ、トグルスイッチ、押しボタン、またはグラフィカルユーザーインターフェース上の項目)を含み得る。入力コントロール205を操作するユーザーは、振動絶縁システムによって提供される複数の「振動絶縁」設定のうちの1つを選択することができる。
【0045】
ある実施形態では、制御回路160が、上述のパラメータ設定、フィルタリング、位相調整、および増幅機能の一部または全部を実行するように機械可読コードによって構成することができるプロセッサ270も含むことができる。プロセッサ270は、論理回路、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、デジタルシグナルプロセッサ、フィールドプログラマブルゲートアレイ、またはこれらの何らかの組み合わせを含むことができる。制御回路160は、プロセッサ270と通信するデータ記憶装置275(例えば、ROMおよび/またはRAM型メモリ)をさらに含み得る。プロセッサ270は、ある実施形態ではパラメータ設定器210とも通信することができる。
【0046】
図3Aは、フィードバックと床フィードフォワード補助とを有する制御回路160における単一のプロセッサ270を示すが、本発明は単一のプロセッサ270には限定されない。実施形態によっては、各振動絶縁アセンブリの1つまたは複数の制御ループ用、または、2つ以上の振動絶縁アセンブリのために実装された制御ループのグループ用の専用プロセッサがあってもよい。例えば、そのアセンブリのx、y、z制御ループのうちの1つまたは複数の制御ループを扱う第1の振動絶縁アセンブリ105a用の第1の専用プロセッサ、第2の振動絶縁アセンブリ105b用の第2の専用プロセッサなどのように、振動絶縁システム200における各振動絶縁アセンブリ用のプロセッサがあってもよい。あるいは、システム内の振動絶縁アセンブリの一部または全部のためのすべてのx制御ループを扱う第1のプロセッサがあってもよい。実施形態では、プロセッサ270は互いに通信することができる。それらのプロセッサのうちの1つ、または別個のプロセッサを、マスターコントローラとして機能するように構成することができ、プロセッサの動作を監視し、および/または、連係させてもよい。複数のプロセッサを使用する利点は、複数の複雑なフィルタリングアルゴリズム、フィードバックアルゴリズム、および/またはフィードフォワードアルゴリズムを単一のプロセッサで同時に扱おうとするのではなく、各プロセッサでより複雑なフィルタリングアルゴリズムを採用し、並列して実行することができることである。場合によっては、単一のプロセッサが特定の雑音環境のために同時に複数の複雑なフィルタリングアルゴリズム、フィードバックアルゴリズム、および/またはフィードフォワードアルゴリズムを扱うのに十分な処理能力を持たないことがある。
【0047】
図3Bに、いくつかの構成要素が、プロセッサ270上で実行されるソフトウェアで実装されている制御回路161の一実施形態を示す。例えば、周波数フィルタ220、222、位相調整器230、232、および増幅器240、242を、図3Aに関して上述した機能を持たせるようにソフトウェアで実装することができる。実装形態によっては、フィードバック運動センサ112とフィードフォワード運動センサ114からの信号をそれぞれ増幅するために、アナログ前置増幅器244、246を含めることができる。前置増幅器からの出力をアナログ-デジタル(A/D)変換器212、214に供給することができる。場合によっては、A/D変換器は、プロセッサ270の信号入力ポートにおいて、アナログ信号を受信するように構成されたハードウェア入力回路を含む。デジタル増幅器240、242からの出力をプロセッサ270によって合計し、単一の出力信号として、少なくとも1つのアクチュエータ107aを駆動するように構成された駆動増幅器248に供給することができる。固定または調整可能利得Gを有する駆動増幅器248は、アクチュエータ107aを駆動するのに十分な電流を供給する電力ハードウェア増幅器を含み得る。
【0048】
図3Bに示す制御回路160は、単一のアクチュエータを駆動するものとして示されている。このような実施形態では、アクティブ振動絶縁システム200内の各アクチュエータ用に別々の制御回路があってもよい。ある実施形態では、基部105の1方向の運動を感知するために単一のフィードフォワードセンサ114を使用することができる。フィードフォワードセンサ114からの出力信号を、加算の前にフィードフォワード信号経路のいずれかの個所で分割し、他のアクチュエータを駆動するようになされた1つまたは複数の制御回路161に供給することができる。ある実施形態では、図3Aに示すような信号分割器250と、追加の駆動増幅器とを含めることによって、図3Bに示す制御回路161を使用して複数のアクチュエータを駆動することができる。
【0049】
図4のグラフは、第1の設置場所において、図2に関して説明したシステムと類似したアクティブ振動絶縁システム200の運動センサ112(受振器)から検出された例示の信号をプロットしたものである。運動センサ112は、アクティブ振動絶縁システム200上の第1の位置におけるy方向の運動を感知するように構成されている。システム上の複数の位置におけるx、yおよびz方向の運動を検出するために、システム上の複数の異なる位置に他のセンサも存在していたが、これらのセンサからの信号はグラフを簡単にするためにプロットされていない。ある実施形態では、それぞれが中間質量板を含み、それぞれが異なる位置においてペイロードを支持する、個別の絶縁アセンブリ105a、105bに配置された1つまたは複数の運動センサが存在し得る。図4のグラフにプロットされている信号は、設置場所における中間質量の振動誘起運動のベースライン特性解析を得るために、フィードバック制御またフィードフォワード制御を作動させていないときに設置場所において得たものである。この出力記録は、運動センサ112からの信号が様々な時点で飽和し得る(±30,000カウントの信号レベルを超える)ことを示している。この設置場所における精密機器の振動誘起運動は、フィードバック運動センサ112の線形範囲を超えるため、フィードバック制御のみを採用するアクティブ振動絶縁システム100の能力または動作範囲を超えることになる。
【0050】
図5のグラフは、図4に関して説明した振動絶縁システムのためにフィードバックのみを採用した場合のフィードバック運動センサ112から検出された例示の信号をプロットしたものである。フィードバックのみを採用するアクティブ振動絶縁は、約2秒の時点で開始され、最適ではない。大きな絶対運動(±15,000カウントを超える)は、フィードバック運動センサによって依然として検出される。これらの結果は、フィードバック運動制御だけでは、一部の雑音環境における外部誘起運動を適切に抑制するのに十分ではない可能性があることを示している。
【0051】
図6のグラフは、フィードバックのみを採用している第2の設置場所における第2の振動絶縁システムの2つのフィードバック運動センサ112からの2つの例示の信号をプロットしたものである。第2の振動絶縁システムは、第1の振動絶縁システムと実質的に同じであるが、環境雑音が異なる。図5の場合と比較してより高い周波数雑音が少なく、改善されたフィードバック制御があるが、約2.5秒においてxセンサ112によって検出された中間質量110の外乱など、この環境にはフィードバック運動センサ112を飽和させる可能性のあるランダムな大きな外乱がある。図6のグラフにはyセンサ112からの信号もプロットされている。この環境においても、フィードバック制御のみを採用した場合、検出される中間質量の外乱は15,000カウントを超えることがある。
【0052】
図7は、図6のシステムにおける同じ2つの運動センサ112からの例示の信号をプロットしたものである。図7の場合、上述のようにフィードバックと床フィードフォワード制御の両方が採用されている。この例では、約5秒において床フィードフォワードがオンにされ、すでに動作しているフィードバック制御に追加される。その他の条件は実質的に図6の条件と同じである。床フィードフォワード制御の補助により、アクティブ振動絶縁システム200は、振動の十分な減衰を確実に行うことができる。30,000個を超える量による中間質量のふれを、5,000カウント未満に抑制することができ、全体的に6分の1未満に低減される。図6に示すフィードバックのみの場合と比較しても、少なくとも4分の1に改善することができる。
【0053】
実施形態は、上述のアクティブ振動絶縁システムを動作させる方法を含む。例示の方法は、フィードバックセンサを有するアクティブ振動絶縁システムを、アクティブ振動絶縁システムによって相殺することができる振動の範囲を超える振動雑音レベルを有する設置場所に設置する動作を含むことができる。この方法は、アクティブ振動絶縁システムの基部の運動を検出するために、フィードバックセンサよりも低い感度を有するフィードフォワード運動センサを設けることと、振動雑音レベルの影響を、アクティブ振動絶縁システムのフィードバック制御によって補償することができる範囲まで低減するために、フィードフォワード運動センサからアクティブ振動絶縁システムのアクチュエータに信号を供給することとを含むことができる。
【0054】
別の例示の方法は、アクティブ振動絶縁システムの基部に取り付けられたフィードフォワード運動センサからフィードフォワード信号を受信する動作を含むことができ、振動絶縁システムは、振動雑音レベルが振動絶縁システムのフィードバック回路の動作範囲を超える場所に設置される。この方法は、アクティブ振動絶縁システムの中間質量に取り付けられたフィードバックセンサから受信したフィードバック信号と並行してフィードフォワード信号を処理することと、振動雑音レベルの影響をアクティブ振動絶縁システムのフィードバック制御によって補償することができる範囲まで低減するように、アクティブ振動絶縁システムのアクチュエータに、フィードフォワード信号に少なくとも基づく駆動信号を印加することとをさらに含むことができる。
【0055】
本明細書に記載の振動絶縁装置は、様々な構成で実現することができる。例示の構成は、以下で説明する構成(1)から(12)の組み合わせを含む。
【0056】
(1)アクティブ振動絶縁システムであって、中間質量と、第1の感度を有し、上記中間質量の運動を感知するようになされたフィードバック運動センサと、上記第1の感度より低い第2の感度を有し、上記中間質量を支持する基部の運動を感知するように構成されたフィードフォワード運動センサと、上記中間質量を、上記基部に対して相対的に駆動するようになされたアクチュエータと、上記フィードバック運動センサおよび上記フィードフォワード運動センサからの信号を処理し、上記中間質量の望ましくない振動運動を低減するように上記アクチュエータを駆動する駆動信号を出力するように構成された制御回路とを含むアクティブ振動絶縁システム。
【0057】
(2)上記制御回路に上記フィードフォワードセンサからの信号を印加しない状態で、上記アクティブ振動絶縁システムの設置場所における振動レベルが上記フィードバック運動センサからの信号を飽和させる、構成(1)のアクティブ振動絶縁システム。
【0058】
(3)上記制御回路は、上記フィードフォワード運動センサからの信号と並列して上記フィードバック運動センサからの信号を処理し、上記駆動信号を生成するために、上記フィードバック運動センサと上記フィードフォワード運動センサとからの処理された上記信号を合計するようになされた、構成(1)または(2)のアクティブ振動絶縁システム。
【0059】
(4)上記制御回路は、上記フィードバック運動センサからの信号を受信する第1の信号経路を含み、上記第1の信号経路は、第1の信号フィルタと、第1の位相調整器と、第1の増幅器とを含む、構成(3)のアクティブ振動絶縁システム。
【0060】
(5)上記第1の信号経路においてアナログ-デジタル変換器をさらに含み、上記信号フィルタと、上記位相調整器と、上記増幅器とが、プロセッサ上で実行されるソフトウェアとして実装される、構成(4)のアクティブ振動絶縁システム。
【0061】
(6)上記制御回路は、上記フィードバック運動センサからの信号を受信する第2の信号経路を含み、上記第2の信号経路は、第2の信号フィルタと、第2の位相調整器と、第2の増幅器とを含む、構成(4)または(5)のアクティブ振動絶縁システム。
【0062】
(7)上記アクチュエータと、上記中間質量を支持するようになされたオフロードスプリングとを含む絶縁アセンブリをさらに含む、構成(1)ないし(6)のいずれか1つの構成のアクティブ振動絶縁システム。
【0063】
(8)上記絶縁アセンブリは、上記中間質量と、水平調整器と、をさらに含む、構成(7)のアクティブ振動絶縁システム。
【0064】
(9)上記絶縁アセンブリは、ペイロード支持部材と、上記ペイロード支持部材と上記中間質量との間に結合されたペイロード支持ばねと、上記ペイロード支持部材と上記中間質量との間の上記ペイロード支持ばねと並列して結合されたダンパとをさらに含む、構成(8)のアクティブ振動絶縁システム。
【0065】
(10)上記オフロードスプリングは、上記アクチュエータがペイロードの重量を実質的にまったく支持しないように、設置場所において上記絶縁アセンブリに作用する上記ペイロードの重量のほぼすべてを支持するような大きさとされた、構成(7)ないし(9)のいずれか1つの構成のアクティブ振動絶縁システム。
【0066】
(11)上記アクチュエータはボイスコイルモータである、構成(1)ないし(10)のいずれか1つの構成のアクティブ振動絶縁システム。
【0067】
(12)上記アクチュエータと上記制御回路とを含む第1の絶縁アセンブリと、上記フィードバック運動センサと上記フィードフォワード運動センサとからの上記信号を処理するようになされた、上記制御回路内の第1のプロセッサと、第2の絶縁アセンブリであって、第2の中間質量を上記基部に対して相対的に駆動するようになされた第2のアクチュエータと、第2のフィードバック運動センサと上記フィードフォワード運動センサとからの第2の信号を処理し、上記第2の中間質量の望ましくない振動運動を低減するように上記第2のアクチュエータを駆動するために第2の駆動信号を出力するように構成された第2の制御回路とを含む上記第2の絶縁アセンブリと、上記第1のプロセッサと並行して、上記第2のフィードバック運動センサと上記フィードフォワード運動センサとからの上記第2の信号を処理するようになされた、上記第2の制御回路内の第2のプロセッサとをさらに含む、構成(1)ないし(11)のいずれか1つの構成のアクティブ振動絶縁システム。
【0068】
上記の構成の振動絶縁装置を動作させる方法は、以下の方法(13)から(17)に記載のような動作の異なる組み合わせを含む。
【0069】
(13)設置場所におけるペイロードに振動絶縁を与える方法であって、上記設置場所における振動レベルがアクティブ振動絶縁システムの中間質量に取り付けられた1つまたは複数のフィードバック運動センサから受信される信号を飽和させると判断することであって、上記アクティブ振動絶縁システムが、上記中間質量を基部に対して相対的に駆動するようになされたアクチュエータと、上記1つまたは複数のフィードバック運動センサから信号を受信し、上記アクチュエータを駆動するために1つまたは複数の駆動信号を出力するように構成された制御回路とを含む、上記判断することと、上記基部に取り付けられた1つまたは複数のフィードフォワード運動センサからの信号を上記制御回路に供給することと、上記1つまたは複数のフィードフォワード運動センサからの信号を上記制御回路によって処理することと、上記1つまたは複数のフィードフォワード運動センサからの処理された上記信号に応答して、1つまたは複数のフィードバック運動センサから受信される信号が飽和しないように上記基部の運動によって誘起される上記中間質量の運動を低減するように上記アクチュエータを駆動することとを含む方法。
【0070】
(14)上記1つまたは複数のフィードフォワード運動センサが、上記1つまたは複数のフィードバック運動センサが飽和する第2の振動レベルよりも高い第1の振動レベルで飽和する、(13)の方法。
【0071】
(15)上記中間質量と上記基部との間の上記アクチュエータと並列に結合されたオフロードスプリングによって、上記中間質量の重量と、上記中間質量に作用する上記ペイロードの重量とのほぼすべてを支持することをさらに含む、(13)または(14)の方法。
【0072】
(16)上記アクチュエータと中間質量とは、上記ペイロードの重量の一部を支持する第1の絶縁アセンブリの一部であり、上記アクティブ振動絶縁システムは、上記ペイロードの重量の支持を補助する追加の絶縁アセンブリを含む、(15)の方法。
【0073】
(17)振動絶縁が複数の方向にもたらされる、(13)ないし(16)のいずれか1つの方法。
【0074】
本明細書に記載の技術は方法として実現することができ、そのうちの少なくとも1つの例を示した。この方法の一部として実行される動作は、任意の適切な方式で順序付けることができる。したがって、示されているものと異なる順序で動作が行われる実施形態も構成することができ、これには、例示の実施形態で順次動作として示されていても一部の動作を同時に行うことが含まれ得る。したがって、方法が、ある実施形態では示されている動作よりも多くの動作を含んでもよく、他の実施形態では示されている動作よりも少ない動作を含んでいてもよい。
【0075】
特に明記されていない限り、「ほぼ」および「約」という用語は、ある実施形態では目標寸法の±20%以内、ある実施形態では目標寸法の±10%以内、ある実施形態では目標寸法の±5%以内、ある実施形態では目標寸法のさらに±2%以内を意味するために使用されている。「ほぼ」および「約」という用語は、目標寸法を含み得る。「実質的に」という用語は、目標寸法の±3%以内を意味するために使用されている。
【0076】
以上、本発明の少なくとも1つの例示の実施形態について説明したが、当業者には様々な変更、変形、および改良が容易に思いつくであろう。そのような変更、変形および改良は、本発明の思想および範囲に含まれるものと意図される。したがって、上記の説明は、例示に過ぎず、限定的であることを意図していない。
<付記>
[1]
アクティブ振動絶縁システムであって、
中間質量と、
第1の感度を有し、前記中間質量の運動を感知するようになされたフィードバック運動センサと、
前記第1の感度より低い第2の感度を有し、前記中間質量を支持する基部の運動を感知するように構成されたフィードフォワード運動センサと、
前記中間質量を、前記基部に対して相対的に駆動するようになされたアクチュエータと、
前記フィードバック運動センサおよび前記フィードフォワード運動センサからの信号を処理し、前記中間質量の望ましくない振動運動を低減するように前記アクチュエータを駆動する駆動信号を出力するように構成された制御回路とを含む、ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
[2]
上記[1]に記載のアクティブ振動絶縁システムであって、前記制御回路に前記フィードフォワードセンサからの信号を印加しない状態で、前記アクティブ振動絶縁システムの設置場所における振動レベルが前記フィードバック運動センサからの信号を飽和させる、ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
[3]
上記[1]に記載のアクティブ振動絶縁システムであって、前記制御回路は、
前記フィードフォワード運動センサからの信号と並列して前記フィードバック運動センサからの信号を処理し、
前記駆動信号を生成するために、前記フィードバック運動センサと前記フィードフォワード運動センサとからの処理された前記信号を合計する、ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
[4]
上記[3]に記載のアクティブ振動絶縁システムであって、前記制御回路は、前記フィードバック運動センサからの信号を受信する第1の信号経路を含み、前記第1の信号経路は、
第1の信号フィルタと、
第1の位相調整器と、
第1の増幅器とを含む、ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
[5]
上記[4]に記載のアクティブ振動絶縁システムであって、前記第1の信号経路においてアナログ-デジタル変換器をさらに含み、前記信号フィルタと、前記位相調整器と、前記増幅器とが、プロセッサ上で実行されるソフトウェアとして実装されている、ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
[6]
上記[4]に記載のアクティブ振動絶縁システムであって、前記制御回路は、前記フィードバック運動センサからの信号を受信する第2の信号経路を含み、前記第2の信号経路は、
第2の信号フィルタと、
第2の位相調整器と、
第2の増幅器とを含む、ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
[7]
上記[1]に記載のアクティブ振動絶縁システムであって、
前記アクチュエータと、
前記中間質量を支持するようになされたオフロードスプリングと、
を含む絶縁アセンブリをさらに含む、ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
[8]
上記[7]に記載のアクティブ振動絶縁システムであって、前記絶縁アセンブリは、
前記中間質量と、
水平調整器と、をさらに含む、ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
[9]
上記[8]に記載のアクティブ振動絶縁システムであって、前記絶縁アセンブリは、
ペイロード支持部材と、
前記ペイロード支持部材と前記中間質量との間に結合されたペイロード支持ばねと、
前記ペイロード支持部材と前記中間質量との間の前記ペイロード支持ばねと並列して結合されたダンパと、
をさらに含む、ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
[10]
上記[7]に記載のアクティブ振動絶縁システムであって、前記オフロードスプリングは、前記アクチュエータがペイロードの重量を実質的にまったく支持しないように、設置場所において前記絶縁アセンブリに作用する前記ペイロードの重量のほぼすべてを支持するような大きさとされている、ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
[11]
上記[1]に記載のアクティブ振動絶縁システムであって、前記アクチュエータはボイスコイルモータである、ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
[12]
上記[1]に記載のアクティブ振動絶縁システムであって、
前記アクチュエータと前記制御回路とを含む第1の絶縁アセンブリと、
前記フィードバック運動センサと前記フィードフォワード運動センサとからの前記信号を処理するようになされた、前記制御回路内の第1のプロセッサと、
第2の絶縁アセンブリであって、
第2の中間質量を前記基部に対して相対的に駆動するようになされた第2のアクチュエータと、
第2のフィードバック運動センサと前記フィードフォワード運動センサとからの第2の信号を処理し、前記第2の中間質量の望ましくない振動運動を低減するように前記第2のアクチュエータを駆動するために第2の駆動信号を出力するように構成された第2の制御回路とを含む前記第2の絶縁アセンブリと、
前記第1のプロセッサと並行して、前記第2のフィードバック運動センサと前記フィードフォワード運動センサとからの前記第2の信号を処理するようになされた、前記第2の制御回路内の第2のプロセッサとをさらに含む、ことを特徴とするアクティブ振動絶縁システム。
[13]
設置場所におけるペイロードに振動絶縁を与える方法であって、
前記設置場所における振動レベルが、アクティブ振動絶縁システムの中間質量に取り付けられた1つまたは複数のフィードバック運動センサから受信される信号を飽和させると判断することであって、前記アクティブ振動絶縁システムが、
前記中間質量を基部に対して相対的に駆動するようになされたアクチュエータと、
前記1つまたは複数のフィードバック運動センサから信号を受信し、前記アクチュエータを駆動するために1つまたは複数の駆動信号を出力するように構成された制御回路とを含む、前記判断することと、
前記基部に取り付けられた1つまたは複数のフィードフォワード運動センサからの信号を前記制御回路に供給することと、
前記1つまたは複数のフィードフォワード運動センサからの前記信号を前記制御回路によって処理することと、
前記1つまたは複数のフィードフォワード運動センサからの処理された前記信号に応答して、1つまたは複数のフィードバック運動センサから受信される信号が飽和しないように、前記基部の運動によって誘起される前記中間質量の運動を低減するように前記アクチュエータを駆動することとを含む、ことを特徴とする方法。
[14]
上記[13]に記載の方法であって、前記1つまたは複数のフィードフォワード運動センサが、前記1つまたは複数のフィードバック運動センサが飽和する第2の振動レベルよりも高い第1の振動レベルで飽和する、ことを特徴とする方法。
[15]
上記[13]に記載の方法であって、前記中間質量と前記基部との間の前記アクチュエータと並列に結合されたオフロードスプリングによって、前記中間質量の重量と、前記中間質量に作用する前記ペイロードの重量とのほぼすべてを支持することをさらに含む、ことを特徴とする方法。
[16]
上記[15]に記載の方法であって、前記アクチュエータと中間質量とは、前記ペイロードの重量の一部を支持する第1の絶縁アセンブリの一部であり、前記アクティブ振動絶縁システムは、前記ペイロードの重量の支持を補助する追加の絶縁アセンブリを含む、ことを特徴とする方法。
[17]
上記[13]に記載の方法であって、振動絶縁が複数の方向にもたらされる、ことを特徴とする方法。

図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7