(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】二酸化バナジウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 31/02 20060101AFI20230213BHJP
C09K 9/00 20060101ALN20230213BHJP
【FI】
C01G31/02
C09K9/00 E
(21)【出願番号】P 2020533407
(86)(22)【出願日】2019-07-17
(86)【国際出願番号】 JP2019028054
(87)【国際公開番号】W WO2020026806
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2018143546
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【氏名又は名称】大宅 一宏
(72)【発明者】
【氏名】深沢 純也
【審査官】田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1693212(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1693211(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101628736(CN,A)
【文献】特開2017-132677(JP,A)
【文献】国際公開第2016/084441(WO,A1)
【文献】特開2016-088827(JP,A)
【文献】特開平02-021564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 31/02
C09K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
五酸化二バナジウムと炭素材料源とを混合し原料混合物を得る原料混合工程と、
前記原料混合物を不活性ガス雰囲気中で340℃以上370℃未満で焼成して焼成体を得る焼成工程と、
前記焼成体を室温まで冷却する冷却工程と
を含み、
前記原料混合工程において、五酸化二バナジウム中のバナジウム原子に対する炭素材料源中の炭素原子のモル比(C/V)が、2.2以上であり、
前記冷却工程は、冷却途中で不活性ガス雰囲気から酸素含有雰囲気に切り替える酸化処理工程を含
み、
前記原料混合工程において、前記炭素材料源が有機酸であり、且つ前記原料混合工程が、五酸化二バナジウムと有機酸とを水溶媒中で混合し、各原料を溶解した原料溶解液を得、次いで前記原料溶解液を噴霧乾燥する工程を含むことを特徴とする二酸化バナジウムの製造方法。
【請求項2】
前記不活性ガス雰囲気から前記酸素含有雰囲気に切り替える温度が35~180℃であり、切り替え後に35~180℃の温度で10分間~5時間保持することを特徴とする請求項1に記載の二酸化バナジウムの製造方法。
【請求項3】
前記原料混合工程において、五酸化二バナジウム中のバナジウム原子に対する有機酸中の炭素原子のモル比(C/V)が、2.2~4.5であることを特徴とする請求項
1又は2に記載の二酸化バナジウムの製造方法。
【請求項4】
前記有機酸が、カルボン酸であることを特徴とする請求項
1~3の何れか一項に記載の二酸化バナジウムの製造方法。
【請求項5】
前記有機酸が、シュウ酸であることを特徴とする請求項
1~
4の何れか一項に記載の二酸化バナジウムの製造方法。
【請求項6】
前記原料混合工程は、副成分元素を添加する工程を更に含むことを特徴とする請求項1~
5の何れか一項に記載の二酸化バナジウムの製造方法。
【請求項7】
前記副成分元素が、Cr、W、Mo、Nb、Ta、Os、Ir、Ru及びReから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項
6に記載の二酸化バナジウムの製造方法。
【請求項8】
製造される二酸化バナジウムの平均一次粒子径が100nm以下であることを特徴とする請求項1~
7の何れか一項に記載の二酸化バナジウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーモクロミック材料等として有用な二酸化バナジウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サーモクロミック材料は、温度により、光学特性が可逆的に変化する性質を持つ材料であり、この性質を利用したフィルムやガラスの開発が進められている。例えば窓ガラスにサーモクロミック材料を用いた場合、夏には太陽光を反射させて熱を遮断し、冬には太陽光を通過させて熱を利用することが可能となることから、サーモクロミック材料を用いた省エネルギー技術が注目されている。
【0003】
サーモクロミック材料として、二酸化バナジウムが知られている。二酸化バナジウムは、相転移温度以下では単斜晶の結晶構造を示し、半導体的な性質を有する。一方、相転移温度以上では、ルチル型の結晶構造へ変化し、金属的な性質を示す。この相転移にともない、二酸化バナジウムはその抵抗や赤外線領域での透過率が大きく変化する。二酸化バナジウムのサーモクロミックス材料を窓へ適用する場合は、サーモクロミック特性のほか、透明性も求められ、粒径がナノオーダーであることが必要とされている。
【0004】
このナノオーダーの二酸化バナジウムを製造する方法としては、例えば、酸化バナジウムと酸化タングステンとを溶融法により合成した材料をビーズミルで粉砕する方法(特許文献1参照)、酸化バナジウム化合物を過酸化水素で酸化した後、所定の温度で多孔質のバナジウム酸化物を析出させ、粉砕した後に還元処理を行う方法(特許文献2参照)等が提案されている。
しかしながら、特許文献1及び2に記載の方法は、煩雑な工程を必要とするため工業的に有利でない。
【0005】
また、二酸化バナジウムを水熱合成で製造する方法も提案されている(例えば、特許文献3及び4参照)が、省エネルギー・省コスト、環境配慮等を考慮した工業的に有利な方法の開発が望まれている。
【0006】
また、本発明者は、先に、特に蓄熱剤として有用な二酸化バナジウムの製造方法として、五酸化二バナジウムと有機酸とを含有する原料混合液を調製し、該原料混合液を噴霧乾燥処理して、反応前駆体を得た後に600~900℃で焼成する方法を提案した(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-233929号公報
【文献】特開2011-136873号公報
【文献】特開2017-186398号公報
【文献】特開2017-110144号公報
【文献】特開2017-132677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献5の方法によれば、焼成温度が高く、ナノオーダーの二酸化バナジウムを製造することが難しいという課題があった。
【0009】
従って、本発明の目的は、サーモクロミック材料として有用な一次粒子の平均粒子径がナノオーダーの二酸化バナジウムを工業的に有利な方法で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、五酸化二バナジウムと炭素材料源とを混合し原料混合物を得、この原料混合物を不活性ガス雰囲気中で焼成して酸化バナジウムを得る方法において、還元剤となる炭素材料源を、従来より過剰にして、特定温度範囲の低温域で焼成すると、V5O9、V4O7等の酸化バナジウム化合物を含む焼成体が得られること、また、これらのV5O9、V4O7等の酸化バナジウム化合物を冷却する過程で、不活性ガス雰囲気から酸素含有雰囲気に切り替えて酸化処理を行うことにより、V5O9、V4O7等の酸化バナジウム化合物を単斜晶の二酸化バナジウムに転換することができること、また、このようにして得られる二酸化バナジウムは一次粒径がナノオーダーのものであり、解砕又は粉砕を行うことによりナノオーダーの粒子が得られることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0011】
即ち、本発明は、五酸化二バナジウムと炭素材料源とを混合し原料混合物を得る原料混合工程と、前記原料混合物を不活性ガス雰囲気中で340℃以上370℃未満で焼成して焼成体を得る焼成工程と、前記焼成体を室温まで冷却する冷却工程とを含み、前記原料混合工程において、五酸化二バナジウム中のバナジウム原子に対する炭素材料源中の炭素原子のモル比(C/V)が、2.2以上であり、前記冷却工程は、冷却途中で不活性ガス雰囲気から酸素含有雰囲気に切り替える酸化処理工程を含むことを特徴とする二酸化バナジウムの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、サーモクロミック材料として有用な一次粒子の平均粒子径がナノオーダーの二酸化バナジウムを工業的に有利な方法で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1の原料混合工程により得られた原料混合物のX線回折図である。
【
図2】実施例1の原料混合工程により得られた原料混合物のSEM像である。
【
図3】実施例1で得られた二酸化バナジウム試料のX線回折図である。
【
図4】比較例1で得られた試料のX線回折図である。
【
図5】実施例2で得られた二酸化バナジウム試料のSEM像である。
【
図6】比較例2で得られた試料のX線回折図である。
【
図7】比較例6で得られた試料のX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて説明する。
【0015】
<原料混合工程>
本発明に係る原料混合工程は、五酸化バナジウムと炭素材料源とを混合し原料混合物を調製する工程である。
【0016】
原料混合工程において用いる炭素材料源としては、炭素原子のみからなる材料、或いは後述する焼成工程で焼成することにより加熱分解して炭素を生じる材料が挙げられる。具体的な炭素材料源としては、炭素材、水酸基を有する有機化合物等が挙げられる。
【0017】
炭素材としては、例えば、カーボンブラック、炭素繊維、黒鉛、活性炭等が挙げられる。カーボンブラックは、如何なる製造方法により得られたものであるかは制限されず、例えば、ファーネス法で得られたファーネスブラック、チャンネル法で得られたチャンネルブラック、アセチレン法で得られたアセチレンブラック、サーマル法で得られたサーマルブラック等が挙げられる。炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。
【0018】
水酸基を有する有機化合物としては、例えば、糖類、多価アルコール類、有機酸等が挙げられる。
【0019】
糖類としては、例えば、フルクトース等の単糖類、スクロース、ラクトース等の二糖類、単糖が3~20分子程度結合したオリゴ糖類、でんぷん、セルロース等の多糖類、キシリトール、ソルビトール等の糖アルコール類が挙げられる。
【0020】
多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等の2価のアルコール類、グリセリン、トリメチロールプロパン等の3価のアルコール類、分子中に4以上のヒドロキシル基を有する4価以上のアルコール類、ポリビニルアルコール等の多数のヒドロキシル基を有するポリマー等が挙げられる。
【0021】
有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、グリコール酸、乳酸、グルコン酸等のモノカルボン酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸等のジカルボン酸、カルボキシル基の数が3であるクエン酸等のカルボン酸が挙がられる。
【0022】
これらの水酸基を有する有機化合物の中でも、五酸化二バナジウムを容易に還元でき、更に後述するように湿式で混合処理したときに、五酸化二バナジウムを水溶媒に溶解できるという観点から、有機酸が好ましい。
【0023】
原料混合工程において、五酸化二バナジウム中のバナジウム原子に対する炭素材料源中の炭素原子のモル比(C/V)は、2.2以上であることが重要である。
この理由は、五酸化二バナジウムを還元する炭素材料源が上記の量より少ないと、反応性の優れた原料混合物が得られなくなり、後述する焼成温度で焼成を行った場合に、原料の五酸化二バナジウムが未反応で残存するからである。
また、未反応の炭素材料源は、目的とする二酸化バナジウムにそのまま残存する可能性があるので、高純度な二酸化バナジウムを得る観点から、五酸化二バナジウム中のバナジウム原子に対する炭素材料源中の炭素原子のモル比(C/V)は、2.2~4.5であることが好ましく、2.4~4.0であることが更に好ましい。
【0024】
五酸化二バナジウムと炭素材料源との混合は、湿式又は乾式で行うことができるが、炭素材料源として有機酸を用いる場合、原料混合物は、五酸化二バナジウムと有機酸とを水溶媒中で混合して各原料を溶解した原料溶解液を得(以下、「原料溶解工程」ということがある)、次いで原料溶解液を噴霧乾燥する工程(以下、「噴霧乾燥工程」ということがある)を経て得られるものであることが、反応性に優れた原料混合物となる観点から特に好ましい。
【0025】
以下、好ましい原料混合工程について説明する。
原料溶解工程において、各原料を全溶解させるという観点から、五酸化二バナジウムの添加量は、水溶媒100質量部に対して10~40質量部であることが好ましく、15~30質量部であることが更に好ましい。また、原料溶解工程で用いる有機酸としては、五酸化二バナジウムを溶解する能力が高いという点で、カルボン酸が好ましく、シュウ酸が更に好ましい。また、原料溶解工程において、経済的観点から、五酸化二バナジウム中のバナジウム原子に対する有機酸中の炭素原子のモル比(C/V)は、2.2~4.5とすることが好ましく、2.4~4.0とすることが更に好ましい。
【0026】
原料溶解工程における溶解温度は、特に制限されるものではないが、15~100℃、好ましくは20~60℃とすることが工業的に有利となる観点から好ましい。
【0027】
噴霧乾燥工程は、原料溶解工程で調製した原料溶解液を噴霧乾燥して原料混合物を得る工程である。噴霧乾燥により得られる原料混合物は、各原料が分子レベルで均一配合されたものであり、反応性に優れたものである。
【0028】
噴霧乾燥法においては、所定手段によって原料溶解液を霧化し、それによって生じた微細な液滴を乾燥させることで原料混合物を得る。原料溶解液の霧化には、回転円盤を用いる方法及び圧力ノズルを用いる方法がある。噴霧乾燥工程においてはいずれの方法も用いることもできる。
【0029】
噴霧乾燥法においては、霧化された原料溶解液の液滴の大きさが、安定した乾燥や、得られる乾燥粉の性状に影響を与える。詳細には、液滴の大きさに対して粉砕処理物の原料粒子の大きさが小さすぎると、液滴が不安定になり、乾燥を首尾よく行いづらくなる。この観点から、霧化された原料溶解液の液滴の大きさは、1~50μmであることが好ましく、3~30μmであることが更に好ましい。噴霧乾燥装置への原料溶解液の供給量は、この観点を考慮して決定することが望ましい。
【0030】
なお、噴霧乾燥装置における乾燥温度は、熱風入口温度が180~300℃、好ましくは200~250℃となるように調整し、熱風出口温度が100~200℃、好ましくは105~150℃となるように調整することが粉体の吸湿を防ぎ粉体の回収が容易になることから好ましい。
【0031】
また、二酸化バナジウムの相転移温度を変える目的で、副成分元素を原料混合物に添加することができる。
【0032】
副成分元素としては、Cr、W、Mo、Nb、Ta、Os、Ir、Ru及びReの群から選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。副成分元素は、副成分元素自体であってもよいし、或いは副成分元素を含有する化合物であってもよい。副成分元素を含有する化合物としては、副成分元素の酸化物、モリブデン酸、タングステン酸のような金属酸、その金属酸塩又はアンモニウム塩、副成分元素のアルコラート或いは副成分元素の有機酸塩等が挙げられる。副成分元素は、溶液、懸濁液又は粉体として原料混合物に添加することができる。また、原料溶解工程を有する場合、五酸化二バナジウムと有機酸と副成分元素とを水溶媒中で混合すればよい。
【0033】
副成分元素の添加量は、後述する一般式(1)で表される二酸化バナジウムの組成に合わせて適宜調整することが好ましい。
【0034】
なお、原料混合工程で得られる原料混合物は、非晶質の状態であっても、結晶質の状態であってもよいが、非晶質の状態であることが組成の均一性に優れ、反応性に優れた原料混合物となる観点から好ましい。
【0035】
また、原料混合物は、五酸化二バナジウムと炭素材料源との反応生成物、或いは五酸化二バナジウムと炭素材料源と必要により添加される副成分元素との反応生成物であってもよい。
【0036】
<焼成工程>
焼成工程は、原料混合工程で得られた原料混合物を不活性ガス雰囲気中で所定の温度で焼成して焼成体を得る工程である。
【0037】
焼成工程では、特許文献5と比べて低温で焼成することにより、得られる焼成体の粒成長を抑制することができるので、平均一次粒子径がナノオーダーの二酸化バナジウムを最終的に得ることができる。
【0038】
焼成工程における焼成温度は340℃以上370℃未満であることが重要である。この温度域で焼成することにより、V5O9及び/又はV4O7(以下、「酸化バナジウム化合物」ということがある)を主成分とする焼成体が得られ、これらの酸化バナジウム化合物は、後述する酸化処理を施すことにより、単斜晶の二酸化バナジウムへ転換することができる。X線回折分析したときの純度がより高い単斜晶の二酸化バナジウムを得る観点から、焼成温度は、340℃以上365℃以下であることが好ましい。
焼成時間は、特に制限されるものではなく、通常は1時間以上、好ましくは2~30時間で満足のいく焼成体が得られる。
【0039】
使用できる不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等が挙げられる。
【0040】
<冷却工程>
冷却工程は、焼成工程で得られた焼成体を室温まで冷却し、目的とする単斜晶の二酸化バナジウムを得る工程である。
【0041】
焼成工程で得られたV4O7及び/又はV5O9の酸化バナジウム化合物を主成分とする焼成体に対し、冷却途中で不活性ガス雰囲気から酸素含有雰囲気に切り替えることによる酸化処理工程を施すことで、V4O7及び/又はV5O9の酸化バナジウム化合物を単斜晶の二酸化バナジウムに転換することができる。冷却速度は、特に制限されるものではなく、通常は200℃/時間以下であり、好ましくは30~100℃/時間である。
【0042】
V4O7及び/又はV5O9の酸化バナジウム化合物を高効率で酸化処理するという観点から、酸素含有雰囲気における酸素濃度は10体積%以上とすることが好ましく、15~100体積%とすることが更に好ましい。
【0043】
不活性ガス雰囲気から酸素含有雰囲気に切り替える温度は、35~180℃であることが好ましく、35~150℃であることが更に好ましい。この理由は、切り替え温度が35℃未満であると、V4O7及び/又はV5O9の酸化バナジウム化合物を主成分とする焼成体が単斜晶の二酸化バナジウムに転換し難くなり、一方、切り替え温度が180℃を超えると、単斜晶でないVO2を主成分とする焼成体となる傾向があるためである。
【0044】
不活性ガス雰囲気から酸素含有雰囲気に切り替えた後、好ましくは35~180℃、更に好ましくは35~150℃で保持する。その温度での保持は、特に制限されるものではないが、X線回折分析において、V4O7及び/又はV5O9の酸化バナジウム化合物の回折ピークが実質的に観察されなくなるまで行えばよい。保持時間は、通常は10分以上であり、好ましくは10分間~5時間である。なお、V4O7及び/又はV5O9の酸化バナジウム化合物の回折ピークが実質的に観察されなくなるとは、生成される二酸化バナジウムの物性に影響しない範囲という意味であり、必ずしも完全に消失させるということを意味するものではない。
また、酸化処理後の焼成体を、必要により粉砕、解砕、分級等を行い製品とする。
【0045】
上述した製造方法で得られる二酸化バナジウムは、X線回折分析したときの純度が高い下記一般式(1):
V1-xMxO2 (1)
(式中、Mは、Cr、W、Mo、Nb、Ta、Os、Ir、Ru及びReの群から選ばれる少なくとも1種又は2種以上の副成分元素を示す。xは0≦x≦0.5を示す。)で表わされる単斜晶の二酸化バナジウムであることが好ましい。
【0046】
また、上述した製造方法で得られる二酸化バナジウムの物性は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察法により求められる一次粒子の平均粒子径が100nm以下であることが好ましく、20~80nmであることが更に好ましく、BET比表面積が30m2/g以上であることが好ましく、35~70m2/gであることが更に好ましい。なお、本明細書において、SEM観察法により求められる平均一次粒子径とは、二酸化バナジウム試料のSEM像中から任意に100個の粒子を抽出し、各粒子の一次粒子径を測定し、それらを算術平均した値とする。
【0047】
上述した製造方法で得られる二酸化バナジウムは、温度によって透過率や反射率等の光学的特性が可逆的に変化するサーモクロミック現象を示す材料としての利用の他、蓄熱材としての利用も期待できる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<X線回折分析>
X線回折分析は、Bruker社製のD8 Advance Sを用いて行った。線源としてCu-Kαを用いた。測定条件は、管電圧40kV、管電流40mA及び走査速度0.1°/secとした。
【0049】
〔実施例1〕
<原料混合工程>
容器に、V
2O
5400g、シュウ酸・2水塩1108g及びイオン交換水2000gを室温下(20℃)で仕込み、次いで室温(20℃)で24時間撹拌して原料を水に溶解させて原料溶解液を調製した。
次いで、熱風入り口の温度を220℃、出口温度を120℃に設定した噴霧乾燥装置に、原料溶解液を供給し噴霧乾燥して原料混合物を得た。得られた原料混合物をX線回折分析した結果を
図1に示す。
図1から分かるように、原料混合物はV
2O
5の回折ピークが観察されず、非結晶質であることが確認された。また、得られた原料混合物のSEM像を
図2に示す。
【0050】
<焼成工程>
原料混合工程で得られる原料混合物をアルミナるつぼに投入し、窒素ガス雰囲気の炉内で350℃で4時間焼成を行って焼成体を得た。
【0051】
<冷却工程・酸化処理工程>
焼成後、冷却途中の45℃で炉内を窒素ガス雰囲気から大気雰囲気(酸素含有量21体積%)に切り替え、そのまま45℃で30分間保持して酸化処理を行った。次いで、焼成体をビーズ破砕装置で粉砕処理したものを二酸化バナジウム試料とした。
【0052】
得られた二酸化バナジウム試料をX線回折分析した結果を
図3に示す。
図3から分かるように、X線回折分析したときの純度が高い単斜晶の二酸化バナジウムが得られていることを確認した。
【0053】
〔比較例1〕
実施例1において、酸化処理を行わず、焼成後に窒素ガス雰囲気のまま室温(20℃)まで冷却したこと以外は実施例1と同様にして試料を作製した。
【0054】
得られた試料をX線回折分析した結果を
図4に示す。
図4から分かるように、単斜晶の二酸化バナジウムの回折ピークは観察されず、V
4O
7の回折ピークが観察された。
【0055】
〔実施例2~5〕
<原料混合工程>
容器に、V2O5、シュウ酸・2水塩及びイオン交換水を表1の配合量にて室温下(20℃)で仕込み、次いで室温(20℃)で24時間撹拌して原料を水に溶解させて原料溶解液を調製した。
次いで、熱風入り口の温度を220℃、出口温度を120℃に設定した噴霧乾燥装置に、原料溶解液を供給し噴霧乾燥して原料混合物を得た。得られた原料混合物をX線回折分析した結果、原料混合物はV2O5の回折ピークが観察されず、非結晶質であることが確認された。
【0056】
<焼成工程>
原料混合工程で得られた原料混合物をアルミナるつぼに投入し、窒素ガス雰囲気の炉内で表1に示す条件にて焼成を行って焼成体を得た。
【0057】
<冷却工程・酸化処理工程>
焼成後、表1に示す条件にて冷却途中で窒素ガス雰囲気から大気雰囲気(酸素含有量21体積%)に切り替え、表1に示す保持温度及び保持時間にて酸化処理を行った。次いで、焼成体をビーズ破砕装置で粉砕処理したものを二酸化バナジウム試料とした。
【0058】
得られた二酸化バナジウム試料をX線回折分析した結果、X線回折分析したときの純度が高い単斜晶の二酸化バナジウムが得られていることを確認した。また、実施例2で得られた二酸化バナジウム試料のSEM像を
図5に示す。
【0059】
〔比較例2〕
実施例2において、酸化処理を行わず、焼成後に窒素ガス雰囲気のまま室温(20℃)まで冷却したこと以外は実施例2と同様にして試料を作製した。
【0060】
得られた試料をX線回折分析した結果を
図6に示す。
図6から分かるように、単斜晶の二酸化バナジウムの回折ピークは観察されず、V
4O
7の回折ピークが観察された。
【0061】
〔比較例3〕
実施例3において、焼成工程における焼成温度を370℃に変更したこと以外は実施例3と同様にして試料を作製した。
【0062】
得られた試料をX線回折分析した結果、単斜晶の二酸化バナジウムの回折ピークは観察されず、V5O9の回折ピークが観察された。
【0063】
〔比較例4〕
<原料混合工程>
容器に、V2O520g、シュウ酸・2水塩13.86g及びイオン交換水100gを室温下(25℃)で仕込み、次いで昇温して80℃で3時間加熱処理してV2O5が一部溶解した原料混合物のスラリーを得た。
次いで、熱風入り口の温度を220℃、出口温度を120℃に設定した噴霧乾燥装置に、原料混合物のスラリーを供給し噴霧乾燥して反応前駆体を得た。得られた反応前駆体をX線回折分析した結果、V2O5の回折ピークが確認された。
【0064】
<焼成工程・冷却工程>
原料混合工程で得られた反応前駆体をアルミナるつぼに投入し、窒素ガス雰囲気の炉内で330℃で4時間焼成を行った。焼成後は、窒素ガス雰囲気でそのまま室温(20℃)まで冷却した。次いで、焼成体をビーズ破砕装置で粉砕処理したものを試料とした。
【0065】
得られた試料をX線回折分析した結果、V2O5と単斜晶の二酸化バナジウムとの混合物であることが確認された。
【0066】
〔比較例5〕
比較例4において、焼成後、冷却途中の50℃で炉内を窒素ガス雰囲気から大気雰囲気(酸素含有量21体積%)に切り替え、そのまま50℃で30分間保持して酸化処理を行ったこと以外は比較例4と同様にして試料を作製した。
【0067】
得られた試料をX線回折分析した結果、V2O5と単斜晶の二酸化バナジウムとの混合物であることが確認された。
【0068】
〔比較例6〕
実施例2において、焼成工程における焼成温度を330℃に変更したこと以外は実施例2と同様にして試料を作製した。
【0069】
得られた試料をX線回折分析した結果を
図7に示す。
図7から分かるように、V
3O
7と単斜晶の二酸化バナジウムとの混合物であることが確認された。
【0070】
【0071】
〔実施例6〕
<原料混合工程>
容器に、V2O5300g、シュウ酸・2水塩581.3g、イオン交換水1500g及びメタタングステン酸アンモニウム溶液(WO3換算50重量%)5gを室温下(20℃)で仕込み、次いで室温(20℃)で24時間撹拌して原料を水に溶解させて原料溶解液を調製した。なお、V2O5中のバナジウム原子に対するシュウ酸・2水塩中の炭素原子のモル比(C/V)は、2.8であった。
次いで、熱風入り口の温度を220℃、出口温度を120℃に設定した噴霧乾燥装置に、原料溶解液を供給し噴霧乾燥して原料混合物を得た。得られた原料混合物をX線回折分析した結果、回折ピークが観察されず、非結晶質であることが確認された。
【0072】
<焼成工程>
原料混合工程で得られた原料混合物をアルミナるつぼに投入し、窒素ガス雰囲気の炉内で360℃で4時間焼成を行って焼成体を得た。
【0073】
<冷却工程・酸化処理工程>
焼成後、冷却途中の60℃で炉内を窒素ガス雰囲気から大気雰囲気(酸素含有量21体積%)に切り替え、そのまま60℃で30分間保持して酸化処理を行った。
次いで、焼成体をビーズ破砕装置で粉砕処理したものをW原子として0.7質量%ドープした二酸化バナジウム試料とした。
【0074】
得られた二酸化バナジウム試料をX線回折分析した結果、X線回折分析したときの純度が高い単斜晶の二酸化バナジウムが得られていることを確認した。
【0075】
〔物性評価〕
実施例及び比較例で得られた各試料について、平均一次粒子径及びBET比表面積を測定した。その結果を表2に示す。また、各試料のX線回折分析の結果も表2に併記した。
【0076】
【0077】
なお、本国際出願は、2018年7月31日に出願した日本国特許出願第2018-143546号に基づく優先権を主張するものであり、この日本国特許出願の全内容を本国際出願に援用する。