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特許7225260積層体、積層体の製造方法、積層体を備えた構造物、及び構造物の保護又は補修方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】積層体、積層体の製造方法、積層体を備えた構造物、及び構造物の保護又は補修方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20230213BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20230213BHJP
【FI】
B32B27/30 A
B32B27/30 D
E04G23/02 E
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2020552938
(86)(22)【出願日】2019-09-04
(86)【国際出願番号】 JP2019034869
(87)【国際公開番号】W WO2020079980
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2018197027
(32)【優先日】2018-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大石 真之
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-021944(JP,U)
【文献】特開平05-105259(JP,A)
【文献】特開平10-193483(JP,A)
【文献】特表2013-526033(JP,A)
【文献】特開2016-124105(JP,A)
【文献】特開2016-125193(JP,A)
【文献】特開2016-144926(JP,A)
【文献】特表2008-531329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/30
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記A層~C層をこの順に備えた積層体であり、JIS K7161-1994に準拠し、試験速度200mm/min、標線間距離50mm、試験片の幅10mmの条件で、引張特性の試験方法を実施することで得られる荷重-変位線図から算出した変位0mmから50mmまでの積分値が、1.0N・m(=J)以上であり、且つ、JIS Z0237-2009に準拠して測定されるB層とC層の間の接着強度が10N/25mm以上であり、JIS K7361-1-1997で規定された測定方法に準拠して測定した全光線透過率が90%以上である積層体。
A層;ポリフッ化ビニリデン系樹脂5質量部以上95質量部以下とポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂質量部以上45質量部以下(両者の合計を100質量部とする)を含有する樹脂組成物からなる層。
B層;ポリフッ化ビニリデン系樹脂質量部以上45質量部以下とポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂5質量部以上95質量部以下(両者の合計を100質量部とする)を含有する樹脂組成物からなる層。
C層;延性破壊を示すと共に、降伏点を有する樹脂又は樹脂組成物からなる層。
【請求項2】
A層を構成する樹脂組成物中、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の合計含有量が80質量%以上である請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
B層を構成する樹脂組成物中、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の合計含有量が80質量%以上である請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
C層は、JIS K7161-1994に準拠し、試験速度200mm/min、標線間距離50mm、試験片の幅10mmの条件で、引張特性の試験方法を実施したときに、引張呼びひずみ(伸び)が100%以上である請求項1~3の何れか一項に記載の積層体。
【請求項5】
C層が押出成形シートである、請求項1~4の何れか一項に記載の積層体。
【請求項6】
JIS K7136-2000で規定された測定方法に準拠して測定したHAZEが60%以下である、請求項1~5の何れか一項に記載の積層体。
【請求項7】
前記B層を構成する樹脂組成物が、紫外線吸収剤を0.05~15質量部含有する、請求項1~6の何れか一項に記載の積層体。
【請求項8】
前記C層を構成する樹脂又は樹脂組成物が、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、及びアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)よりなる群から選択される一種又は二種以上を含有する、請求項1~7の何れか一項に記載の積層体。
【請求項9】
前記C層を構成する樹脂又は樹脂組成物中、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、及びアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)の合計含有量が80質量%以上である請求項8に記載の積層体。
【請求項10】
前記C層が、二軸延伸加工された層である、請求項1~9の何れか一項に記載の積層体。
【請求項11】
前記B層と前記C層が、直接接触している請求項1~10の何れか一項に記載の積層体。
【請求項12】
請求項11に記載の積層体の製造方法であって、下記工程を備える、積層体の製造方法。
工程1;前記A層と前記B層とが積層された積層体を準備する工程。
工程2-A;前記積層体の、前記B層における前記A層が積層された側とは反対側の面に前記C層を、熱融着させる工程。
【請求項13】
前記B層と前記C層の間に、粘接着剤からなるD層が積層されている請求項1~10の何れか一項に記載の積層体。
【請求項14】
請求項13に記載の積層体の製造方法であって、下記工程を備える、積層体の製造方法。
工程1;前記A層と前記B層とが積層された積層体を準備する工程。
工程2-B1;工程1の後の前記積層体の、前記B層における前記A層が積層された側とは反対側の面に前記D層を形成する工程。
工程2-C1;工程2-B1の後の前記積層体の、前記D層における前記B層が積層された側とは反対側の面に前記C層を形成する工程。
或いは、
工程1;前記A層と前記B層とが積層された積層体を準備する工程。
工程2-B2;前記C層と前記D層とが積層された積層体を準備する工程。
工程2-C2;工程1の後の前記積層体の、前記B層における前記A層が積層された側とは反対側の面と、工程2-B2の後の前記積層体の、前記D層における前記C層が積層された側とは反対側の面とを貼り合わせる工程。
【請求項15】
請求項1~11及び13の何れか一項に記載の積層体の前記C層における前記B層が積層された側とは反対側の面に粘接着剤からなるE層が積層されている積層体。
【請求項16】
前記E層を構成する粘接着剤が、二液混合型粘着剤、二液硬化型接着剤、熱硬化型接着剤、又はUV硬化型接着剤である、請求項15に記載の積層体。
【請求項17】
請求項12に記載の工程2-A又は請求項14に記載の工程2-C1若しくは工程2-C2の後に下記工程を備える、請求項15又は16に記載の積層体の製造方法。
工程3-A;前記積層体の、前記C層における前記B層が積層された側とは反対側の面に前記E層を形成する工程。
【請求項18】
請求項15又は16に記載の積層体が、前記E層を貼り付け側として構造物に貼り付けられている構造物。
【請求項19】
前記構造物が、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ガラス、コンクリート及び金属よりなる群から選択される一種又は二種以上の材料で構成されている請求項18に記載の構造物。
【請求項20】
前記構造物が透光性又は不透光性である遮音壁又は外装板である請求項18又は19に記載の構造物。
【請求項21】
前記構造物が設置後1年以上経過した遮音壁又は設置後1年以上経過した外装板である請求項20に記載の構造物。
【請求項22】
請求項15又は16に記載の積層体を、前記E層を貼り付け側として構造物に貼り付ける工程を備える構造物の保護又は補修方法。
【請求項23】
前記構造物が、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ガラス、コンクリート及び金属よりなる群から選択される一種又は二種以上の材料で構成されている請求項22に記載の構造物の保護又は補修方法。
【請求項24】
前記構造物が、遮音壁又は外装板である請求項22又は23に記載の構造物の保護又は補修方法。
【請求項25】
前記構造物が、設置後1年以上経過した遮音壁又は設置後1年以上経過した外装板である請求項24に記載の構造物の保護又は補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層体及びその製造方法に関する。とりわけ、本発明は屋内外で使用される各種構造物の保護又は補修に適した積層体及びその製造方法に関する。また、本発明はそのような積層体を備えた構造物に関する。また本発明は構造物の保護又は補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、屋内外で使用される遮音壁、透光板、コンクリート構造物、橋梁等の各種構造物は、経年劣化による外観低下、強度低下、並びに、破損及び崩壊等で発生した破片の飛散による安全性低下の懸念がある。そこで、シート(フィルムを含む)等の積層体を構造物の表面に貼り付け施工することで、経年劣化した各種構造物の保護や補修が実施されており、積層体への機能性付与及び特性向上を目指して種々の提案がなされている(特許文献1~13)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-036441号公報
【文献】特開2014-176998号公報
【文献】国際公開第2016/017339号
【文献】特表2013-507270号公報
【文献】特開平7-299890号公報
【文献】国際公開第2016/010013号
【文献】国際公開第2017/047600号
【文献】特開2001-171055号公報
【文献】特開2002-234121号公報
【文献】特開2004-223919号公報
【文献】特開2012-219199号公報
【文献】特開2013-199077号公報
【文献】国際公開第2013/146820号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者の検討結果によれば、従来技術に係る積層体は防汚性及び飛散防止性の両立の観点から未だ改善の余地がある。本発明は、上記事情に鑑み、各種構造物へ貼り付け施工することにより、当該構造物の防汚性及び飛散防止性の向上効果を高い次元で得られる積層体を提供することを課題の一つとする。本発明は、このような積層体の製造方法を提供することを別の課題の一つとする。本発明は、このような積層体を備えた構造物を提供することを更に別の課題の一つとする。また、本発明は構造物の保護又は補修方法を提供することを更に別の課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を達成するべく鋭意研究を行った結果、少なくとも下記のA層~C層を備え、下記の引張試験により得られる荷重-変位線図から算出した変位0mmから50mmまでの積分値が1.0N・m(=J)以上、且つ、B層とC層の間の接着強度が10N/25mm以上であるときに、上記の課題が解決し得ることを見出し、以下に例示される本発明に至った。特に、本発明の積層体における、上記の荷重-変位線図から算出した変位0mmから50mmまでの積分値が、1.0N・m(=J)以上という範囲は、従来の同種の積層体とは異なる値であり、本発明による課題解決のための大きな要因になっていると考えられる。
【0006】
[1]
少なくとも下記A層~C層をこの順に備えた積層体であり、JIS K7161-1994に準拠し、試験速度200mm/min、標線間距離50mm、試験片の幅10mmの条件で、引張特性の試験方法を実施することで得られる荷重-変位線図から算出した変位0mmから50mmまでの積分値が、1.0N・m(=J)以上であり、且つ、JIS Z0237-2009に準拠して測定されるB層とC層の間の接着強度が10N/25mm以上である積層体。
A層;ポリフッ化ビニリデン系樹脂50質量部以上100質量部以下とポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂0質量部以上50質量部以下(両者の合計を100質量部とする)を含有する樹脂組成物からなる層。
B層;ポリフッ化ビニリデン系樹脂0質量部以上50質量部未満とポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂50質量部超100質量部以下(両者の合計を100質量部とする)を含有する樹脂組成物からなる層。
C層;延性破壊を示すと共に、降伏点を有する樹脂又は樹脂組成物からなる層。
[2]
A層を構成する樹脂組成物中、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の合計含有量が80質量%以上である[1]に記載の積層体。
[3]
B層を構成する樹脂組成物中、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の合計含有量が80質量%以上である[1]又は[2]に記載の積層体。
[4]
C層は、JIS K7161-1994に準拠し、試験速度200mm/min、標線間距離50mm、試験片の幅10mmの条件で、引張特性の試験方法を実施したときに、引張呼びひずみ(伸び)が100%以上である[1]~[3]の何れか一項に記載の積層体。
[5]
JIS K7361-1-1997で規定された測定方法に準拠して測定した全光線透過率が90%以上である、[1]~[4]の何れか一項に記載の積層体。
[6]
JIS K7136-2000で規定された測定方法に準拠して測定したHAZEが60%以下である、[1]~[5]の何れか一項に記載の積層体。
[7]
前記B層を構成する樹脂組成物が、紫外線吸収剤を0.05~15質量部含有する、[1]~[6]の何れか一項に記載の積層体。
[8]
前記C層を構成する樹脂又は樹脂組成物が、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、及びアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)よりなる群から選択される一種又は二種以上を含有する、[1]~[7]の何れか一項に記載の積層体。
[9]
前記C層を構成する樹脂又は樹脂組成物中、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、及びアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)の合計含有量が80質量%以上である[8]に記載の積層体。
[10]
前記C層が、二軸延伸加工された層である、[1]~[9]の何れか一項に記載の積層体。
[11]
前記B層と前記C層が、直接接触している[1]~[10]の何れか一項に記載の積層体。
[12]
[11]に記載の積層体の製造方法であって、下記工程を備える、積層体の製造方法。
工程1;前記A層と前記B層とが積層された積層体を準備する工程。
工程2-A;前記積層体の、前記B層における前記A層が積層された側とは反対側の面に前記C層を、熱融着させる工程。
[13]
前記B層と前記C層の間に、粘接着剤からなるD層が積層されている[1]~[10]の何れか一項に記載の積層体。
[14]
[13]に記載の積層体の製造方法であって、下記工程を備える、積層体の製造方法。
工程1;前記A層と前記B層とが積層された積層体を準備する工程。
工程2-B1;工程1の後の前記積層体の、前記B層における前記A層が積層された側とは反対側の面に前記D層を形成する工程。
工程2-C1;工程2-B1の後の前記積層体の、前記D層における前記B層が積層された側とは反対側の面に前記C層を形成する工程。
或いは、
工程1;前記A層と前記B層とが積層された積層体を準備する工程。
工程2-B2;前記C層と前記D層とが積層された積層体を準備する工程。
工程2-C2;工程1の後の前記積層体の、前記B層における前記A層が積層された側とは反対側の面と、工程2-B2の後の前記積層体の、前記D層における前記C層が積層された側とは反対側の面とを貼り合わせる工程。
[15]
[1]~[11]及び[13]の何れか一項に記載の積層体の前記C層における前記B層が積層された側とは反対側の面に粘接着剤からなるE層が積層されている積層体。
[16]
前記E層を構成する粘接着剤が、二液混合型粘着剤、二液硬化型接着剤、熱硬化型接着剤、又はUV硬化型接着剤である、[15]記載の積層体。
[17]
[12]に記載の工程2-A又は[14]に記載の工程2-C1若しくは工程2-C2の後に下記工程を備える、[15]又は[16]に記載の積層体の製造方法。
工程3-A;前記積層体の、前記C層における前記B層が積層された側とは反対側の面に前記E層を形成する工程。
[18]
[15]又は[16]に記載の積層体が、前記E層を貼り付け側として構造物に貼り付けられている構造物。
[19]
前記構造物が、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ガラス、コンクリート及び金属よりなる群から選択される一種又は二種以上の材料で構成されている[18]に記載の構造物。
[20]
前記構造物が透光性又は不透光性である遮音壁又は外装板である[18]又は[19]に記載の構造物。
[21]
前記構造物が設置後1年以上経過した遮音壁又は設置後1年以上経過した外装板である[20]に記載の構造物。
[22]
[15]又は[16]に記載の積層体を、前記E層を貼り付け側として構造物に貼り付ける工程を備える構造物の保護又は補修方法。
[23]
前記構造物が、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ガラス、コンクリート及び金属よりなる群から選択される一種又は二種以上の材料で構成されている[22]に記載の構造物の保護又は補修方法。
[24]
前記構造物が、遮音壁又は外装板である[22]又は[23]に記載の構造物の保護又は補修方法。
[25]
前記構造物が、設置後1年以上経過した遮音壁又は設置後1年以上経過した外装板である[24]に記載の構造物の保護又は補修方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一実施形態によれば、各種構造物へ貼り付け施工することにより、当該構造物の防汚性及び飛散防止性の向上効果を高い次元で得られる積層体が提供可能である。このため、本発明の一実施形態に係る積層体が表面に貼付された構造物は長期間にわたって使用可能となり、また、衝撃を受けた際にも構造物の破片が飛散し難いため、構造物の安全性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1-1】本発明の第一実施形態に係る積層体の積層構造を示す概略図である。
図1-2】本発明の第二実施形態に係る積層体の積層構造を示す概略図である。
図1-3】本発明の第三実施形態に係る積層体の積層構造を示す概略図である。
図1-4】本発明の第四実施形態に係る積層体の積層構造を示す概略図である。
図2-1】本発明の第一実施形態に係る構造物の積層構造を示す概略図である。
図2-2】本発明の第二実施形態に係る構造物の積層構造を示す概略図である。
図3】荷重-変位線図の例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態を例示的に示したものであり、これにより本発明の技術的範囲が狭く解釈されることを意図するものではない。
【0010】
<<1.積層体>>
図1-1は本発明の第一実施形態に係る積層体(10)の積層構造を示す概略図である。図1-1における積層体(10)は、A層(11)と、A層の一方の面に積層されたB層(12)と、B層(12)におけるA層(11)が積層された側とは反対側の面に積層されたC層(14)とを備える。本実施形態においては、B層とC層は直接接触している。
【0011】
積層体(10)は、例えば下記工程を実施することによって製造可能である。
工程1;A層(11)とB層(12)とが積層された積層体を準備する工程。
工程2-A;前記積層体の、B層(12)におけるA層(11)が積層された側とは反対側の面にC層(14)を、熱融着させる工程。
【0012】
A層(11)とB層(12)とが積層された積層体は、例えば複数の押出成形機を利用して複数の樹脂を溶融状態で接着積層する共押出成形法により製造可能である。共押出成形法には、複数の樹脂をシートの状態にした後に、Tダイ内部の先端で各層を接触接着するマルチマニホールドダイ方式と、複数の樹脂を合流装置(フィードブロック)内で接着後にシート状に拡げるフィードブロックダイ方式と、複数の樹脂をシートの状態に成形した後、Tダイ外部の先端で各層を接触させて接着するデュアルスロットダイ方式がある。また丸型ダイを使用するインフレーション成形法でも製造可能である。
【0013】
また、押出ラミネート法と称し、一体に結合すべき層のうち、一方の層を予めフィルム状に成形しておき、他層を押出成形しながら熱又は粘接着剤(一般には前もって粘接着剤を塗布しておく)で圧着結合する方法も採用出来る。更に、両層とも予めフィルム状に成形したのち、両層を熱又は粘接着剤を使用して一体化する方法もあるが、工程数及びコストの観点から先の方法に比べて不利である。
【0014】
A層とB層とが積層された積層体を成形する際、当該積層体の透明性を高めるためには、積層体の引き取りに使用するピンチロールは鏡面仕上げされたものを採用することが好ましい。
【0015】
図1-2は本発明の第二実施形態に係る積層体(20)の積層構造を示す概略図である。第二実施形態の積層体(20)は、第一実施形態の積層体(10)に対して、B層(12)とC層(14)の間に、粘接着剤からなるD層(13)を更に備える点で相違する。D層(13)は、B層(12)とC層(14)の間の接着強度が低い場合に両者の接着強度を高めることができる。
【0016】
積層体(20)は、例えば下記工程を実施することによって製造可能である。
工程1;A層(11)とB層(12)とが積層された積層体を準備する工程。
工程2-B1;工程1の後の積層体の、B層(12)におけるA層(11)が積層された側とは反対側の面にD層(13)を形成する工程。
工程2-C1;工程2-B1の後の前記積層体の、D層(13)におけるB層(12)が積層された側とは反対側の面にC層(14)を形成する工程。
代替的に、積層体(20)は、下記工程を実施することによっても製造可能である。
工程1;A層(11)とB層(12)とが積層された積層体を準備する工程。
工程2-B2;C層(14)とD層(13)とが積層された積層体を準備する工程。
工程2-C2;工程1の後の積層体の、B層(12)におけるA層(11)が積層された側とは反対側の面と、工程2-B2の後の積層体の、D層(13)におけるC層(14)が積層された側とは反対側の面とを貼り合わせる工程。
【0017】
図1-3は本発明の第三実施形態に係る積層体(30)の積層構造を示す概略図である。第三実施形態の積層体(30)は、第一実施形態の積層体(10)に対して、C層(14)におけるB層(12)が積層された側とは反対側の面に粘接着剤からなるE層(15)が積層されている点で相違する。E層(15)は、積層体を構造物に貼り付ける場合の接合層として機能することができる。
【0018】
積層体(30)は、先述した工程2-Aの後に下記工程を実施することで製造可能である。
工程3-A;積層体(10)のC層(14)におけるB層(12)が積層された側とは反対側の面にE層(15)を形成する工程。
【0019】
E層(15)を保護するため、積層体(30)を構造物へ適用する前は、E層(15)におけるC層(14)が積層された側とは反対側の面にセパレータ(16)を貼り付けておくこともできる。
【0020】
図1-4は本発明の第四実施形態に係る積層体(40)の積層構造を示す概略図である。第四実施形態の積層体(40)は、第二実施形態の積層体(20)に対して、C層(14)におけるB層(12)が積層された側とは反対側の面に粘接着剤からなるE層(15)が積層されている点で相違する。E層(15)は、積層体を構造物に貼り付ける場合の貼合面として機能することができる。
【0021】
積層体(40)は、先述した工程2-C1又は工程2-C2の後に下記工程を実施することで製造可能である。
工程3-A;積層体(20)の、C層(14)におけるB層(12)が積層された側とは反対側の面にE層(15)を形成する工程。
【0022】
第三実施形態と同様に、積層体(40)を構造物へ適用する前は、E層(15)におけるC層(14)が積層された側とは反対側の面にセパレータ(16)を貼り付けておくこともできる。
【0023】
何れの実施形態においても、積層体は例えばシート状(フィルム状を含む)の形態で提供することができる。
【0024】
本発明者は、種々の積層構造を有する積層体を遮音壁等の構造物に貼り付け、耐衝撃性試験を実施した際、構造物の耐衝撃性試験における飛散率が大きく、破片が飛散する場合は、積層体の伸びや破損に関わらず、錘(鉄球)が遮音壁を打ち抜き、積層体を貼り付けた遮音壁の変位は50mmを超え、破片が飛散したという実験結果を得た。一方、耐衝撃性試験における飛散率が小さく、破片の飛散が防止される場合は、積層体を貼り付けた構造物の変位は50mm以内となったという実験結果も得た。この結果から、本発明者は構造物の変位が0mmから50mmまでに破壊エネルギーが吸収される必要があると考えた。
【0025】
上記知見に基づいて鋭意検討を重ねたところ、一般的なシート状積層体の評価として実施されるJIS K7161-1994に準拠し、試験速度200mm/min、標線間距離50mm、試験片の幅10mmの条件で、引張特性の試験方法から、荷重-変位線図を求め、変位0mmから50mmまでの積分値(N・m)を算出したとき、1.0N・m(=J)以上で構造物の耐衝撃性試験における飛散率が良好となることを見出した。
【0026】
このため、何れの実施形態においても、優れた飛散防止特性を得るためには、積層体に対して、JIS K7161-1994に準拠し、試験速度200mm/min、標線間距離50mm、試験片の幅10mmの条件で、引張特性の試験方法を実施することで得られる荷重-変位線図から算出した変位0mmから50mmまでの積分値が1.0N・m(=J)以上であることが必要である。当該積分値は好ましくは1.5N・m以上であり、より好ましくは2.0N・m以上であり、更に好ましくは4.0N・m以上である。当該積分値に特段の上限はないが、通常は20.0N・m以下であり、典型的には15.0N・m以下である。図3に荷重-変位線図の例を示す。上記の積分値は、図中の斜線で示された部分の面積に相当する。
【0027】
また、B層/C層間の接着強度は遮音壁の耐衝撃性試験における飛散率と相関すると考えられる。遮音壁の耐衝撃性試験を実施した際、遮音壁の耐衝撃性試験における飛散率が大きく、破片が飛散する場合は、被着体から積層体が剥がれた。被着体から積層体が剥離すると、積層体が破壊エネルギーを効率的に吸収することができず、飛散率が大きく、破片が飛散すると考えられる。この破片と剥がれた積層体を確認した結果、シート状積層体のB層/C層間で剥離が生じたことを確認した。一方、遮音壁の耐衝撃性試験における飛散率が小さく、破片の飛散が防止される場合は、B層/C層間での剥離は生じなかった。つまり、B層/C層の間の接着強度が高いことが、遮音壁の耐衝撃性試験における飛散率の低下に有意に寄与する。当然、被着体と積層体の接着強度も重要であり、破壊エネルギーにて積層体が被着体から剥離しないことも重要である。
【0028】
具体的には、何れの実施形態においても、優れた飛散防止特性を得るためには、D層の有無にかかわらず、JIS Z0237-2009に規定する方法1(180°引きはがし粘着力の測定方法)に準じて、測定されるB層とC層の間の接着強度が10N/25mm以上であることが必要である。当該接着強度は好ましくは12N/25mm以上であり、より好ましくは13N/25mm以上であり、更に好ましくは15N/25mmである。当該接着強度に特段の上限はないが、通常は50N/25mm以下であり、典型的には30N/25mm以下である。
【0029】
一実施形態において、積層体は、JIS K7361-1-1997で規定された測定方法に準拠して測定した全光線透過率が90%以上(例えば90~99%)となり得る。また、一実施形態において、積層体は、JIS K7136-2000で規定された測定方法に準拠して測定したHAZEが60%以下となり得る。当該HAZEは50%以下とすることもでき、40%以下とすることもでき、30%以下とすることもでき、20%以下とすることもでき、更には10%以下とすることもでき、例えば0.1~60%の範囲とすることができる。全光線透過率及びHAZEは透明性と関連するパラメータであるところ、高い全光線透過率及び低いHAZEを示すことは積層体の透明性が高いことを意味する。これにより、積層体を貼り付けた後も構造物の劣化が目視確認可能となるため、当該積層体は劣化予知保全作業を実施するのに有利である。また、透光性の構造物に積層体を貼り付けた時にも透光性を維持できる。
【0030】
<1-1.A層>
一実施形態において、A層は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂50質量部以上100質量部以下とポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂0質量部以上50質量部以下(両者の合計を100質量部とする)を含有する樹脂組成物からなる層である。A層におけるポリフッ化ビニリデン系樹脂とポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の混合比は、両者の合計100質量部に対して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂:ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂=95~55質量部:5~45質量部であることが好ましく、85~60質量部:15~40質量部であることがより好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂が50質量部以上であると耐候性や耐汚染性などポリフッ化ビニリデン系樹脂の持つ特性を向上させることができる。また、A層中にポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂が少量含有することで、B層との接着性、密着性を向上させることができる。
【0031】
A層は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の他に、本発明の目的を損なわれない範囲において、他の樹脂、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、結晶核剤、ブロッキング防止剤、シール性改良剤、離型剤、着色剤、顔料、発泡剤、難燃剤などを適宜含有することができる。しかしながら、一般的には、A層におけるポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の合計含有量は80質量%以上であり、典型的には90質量%以上であり、より典型的には95質量%以上であり、100質量%とすることもできる。A層は単層で形成してもよいし、複数層で形成してもよい。また、A層に紫外線吸収剤を含有させてもよいが、コストやブリードアウトの観点からは、含有させないことが好ましい。
【0032】
本発明において、ポリフッ化ビニリデン系樹脂とは、フッ化ビニリデンのホモポリマーの他、フッ化ビニリデン及びフッ化ビニリデンと共重合可能な単量体の共重合体をいう。フッ化ビニリデンと共重合可能な単量体としては、例えばフッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、六フッ化イソブチレン、三フッ化塩化エチレン、各種のフッ化アルキルビニルエーテル、更にはスチレン、エチレン、ブタジエン、及びプロピレン等の公知のビニル単量体などがあり、これらを単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン及び三フッ化塩化エチレンからなる群より選択される少なくとも一種が好ましく、六フッ化プロピレンがより好ましい。
【0033】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂を得るための重合反応としては、ラジカル重合、アニオン重合等の公知の重合反応が挙げられる。また、重合方法としては、懸濁重合、乳化重合等の公知の重合方法が挙げられる。重合反応及び重合方法により、得られる樹脂の結晶化度、力学的性質等が変化する。
【0034】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点は、150℃以上が好ましく、160℃以上がより好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点の上限は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)の融点に等しい170℃が好ましい。
【0035】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点は、熱流束示差走査熱量測定(熱流束DSC)にて測定することができる。例えば、ブルカー・エイエックスエス社製、示差走査熱量測定装置DSC3100SAを用い、サンプル質量1.5mg、昇温速度10℃/分で室温から200℃まで加熱したときに得られるDSC曲線(first run)から求めることができる。
【0036】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂のMFRは、ISO1133に準拠し、230℃、3.8kg荷重での測定条件にて、5~50g/10分が好ましい。MFRが高いほど溶融押出時の流動性が向上するため、成形加工性が向上する傾向があり、MFRが低いほど、積層体の衝撃強度が向上する傾向がある。強度と成形加工性を両立する観点から、MFRは5~30g/10分がより好ましく、10~30g/10分が更に好ましく、15~26g/10分が特に好ましい。
【0037】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量(Mw)の下限は、40,000以上が好ましく、50,000以上がより好ましく、60,000以上が更に好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量(Mw)の上限は、1,000,000以下が好ましく、500,000以下がより好ましく、350,000以下が更に好ましい。重量平均分子量(Mw)が高いほど積層シートの衝撃強度が向上する傾向があり、重量平均分子量(Mw)が低いほど溶融押出時の流動性が向上するため、成形加工性が向上する傾向がある。強度と成形加工性とを両立する観点から、重量平均分子量(Mw)は、40,000~1,000,000が好ましく、50,000~500,000がより好ましく、60,000~350,000が更に好ましい。
【0038】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の分散度(Mw/Mn、ここでMnは数平均分子量である。)の下限は、1.0以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、2.0以上が更に好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂の分散度(Mw/Mn)の上限は、4.0以下が好ましく、3.5以下がより好ましく、3.0以下が更に好ましい。分散度(Mw/Mn)が大きいほど、積層体の厚み精度が向上する傾向があり、分散度(Mw/Mn)が小さいほど、溶融押出時の流動性が向上するため、成形加工性が向上する傾向がある。厚み精度と成形加工性とを両立する観点から、分散度(Mw/Mn)は、1.0~4.0が好ましく、1.5~3.5がより好ましく、2.0~3.0が更に好ましい。
【0039】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分散度(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。例えば、10mmol/Lの臭化リチウム入りのN,N’-ジメチルホルムアミドを溶離液とし、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール及びテトラエチレングリコールを標準物質として求めることができる。
【0040】
本発明において、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂とは、アクリル酸メチル及びメタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステルのホモポリマー、(メタ)アクリル酸エステル及び(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な単量体の共重合体をいう。(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な単量体としては、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、トリスチレン等の芳香族ビニル単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;グリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基含有単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル系単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体;1,3-ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体;マレイン酸、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸系単量体;ビニルメチルケトン等のエノン系単量体などがあり、これらを単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、ポリフッ化ビニリデン系樹脂との相溶性、積層体の強度、及びB層との接着性、密着性の理由により、(メタ)アクリル酸メチルのホモポリマー、又は、(メタ)アクリル酸ブチルを主体としたアクリル系ゴムに対して(メタ)アクリル酸メチルを主体としたモノマーを共重合させたアクリル系ゴム変性アクリル系共重合体が好ましい。
【0041】
共重合体としては、ランダム共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体(例えばジブロックコポリマー、トリブロックコポリマー、グラジエントコポリマー等のリニアタイプ、アームファースト法又はコアファースト法で重合した星型共重合体など)、重合可能な官能基を持つ高分子化合物であるマクロモノマーを用いた重合により得られる共重合体(マクロモノマー共重合体)、及びこれらの混合物などが挙げられる。なかでも、樹脂の生産性の観点から、グラフト共重合体及びブロック共重合体が好ましい。
【0042】
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を得るための重合反応としては、ラジカル重合、リビングラジカル重合、リビングアニオン重合、リビングカチオン重合等の公知の重合反応が挙げられる。また、重合方法としては、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等の公知の重合方法が挙げられる。重合反応及び重合方法により、得られる樹脂の力学的性質が変化する。
【0043】
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂のMFRは、ISO1133に準拠し、230℃、10kg荷重での測定条件にて、2~30g/10分が好ましい。MFRが高いほど溶融押出時の流動性が向上するため、成形加工性が向上する傾向があり、MFRが低いほど、積層シートの衝撃強度が向上する傾向がある。強度と成形加工性を両立する観点から、MFRは3~20g/10分がより好ましく、4~15g/10分が更に好ましく、5~10g/10分が特に好ましい。
【0044】
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の重量平均分子量(Mw)の下限は、50,000以上が好ましく、70,000以上がより好ましく、100,000以上が更に好ましい。ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の重量平均分子量(Mw)の上限は、1,000,000以下が好ましく、750,000以下がより好ましく、500,000以下が更に好ましい。積層体の衝撃強度を保つには重量平均分子量(Mw)が高いほど好ましく、重量平均分子量(Mw)が低いほど溶融押出時の流動性が向上するため、成形加工性が向上する傾向がある。強度と成形加工性を両立する観点から、重量平均分子量(Mw)は、50,000~1,000,000が好ましく、70,000~750,000がより好ましく、100,000~500,000が更に好ましい。
【0045】
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の分散度(Mw/Mn、ここでMnは数平均分子量である。)の下限は、1.0以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、2.0以上が更に好ましい。ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の分散度(Mw/Mn)の上限は、4.0以下が好ましく、3.5以下がより好ましく、3.0以下が更に好ましい。分散度(Mw/Mn)が大きいほど、積層体の厚み精度が向上する傾向があり、分散度(Mw/Mn)が小さいほど、溶融押出時の流動性が向上するため、成形加工性が向上する傾向がある。厚み精度と成形加工性を両立する観点から、分散度(Mw/Mn)は、1.0~4.0が好ましく、1.5~3.5がより好ましく、2.0~3.0が更に好ましい。
【0046】
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分散度(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。例えば、テトラヒドロフランを溶離液とし、ポリスチレンを標準物質として求めることができる。
【0047】
アクリル系ゴム変性アクリル系共重合体において、分散相を形成するゴム状分散粒子の体積中位粒子径は5.0μm以下が好ましい。体積中位粒子径が大きいほど積層体の衝撃強度が優位となり、小さいほど透明性が優位となる。強度と透明性を両立する観点から、体積中位粒子径は0.05~3.0μmが好ましく、0.1~2.0μmがより好ましく、0.5~1.5μmが特に好ましい。
【0048】
ゴム状分散粒子の体積中位粒子径を調整する方法としては、重合工程においてゴム粒子の相転域での攪拌速度を調整する方法、原料液中の連鎖移動剤の量を調整する方法等が挙げられる。
【0049】
ゴム状分散粒子の体積中位粒子径は、例えば、アクリル系ゴム変性アクリル系共重合体を電解液(3%テトラ-n-ブチルアンモニウム/97%ジメチルホルムアミド溶液)に溶解させ、コールターマルチサイザー法(コールター社製マルチサイザーII;アパチャーチューブのオリフィス径30μm)により測定して求めた体積基準の累積粒径分布曲線の50体積%粒子径を用いることができる。
【0050】
A層の厚さについては、5~100μmであることが好ましく、5~80μmであることがより好ましく、10~60μmであることが更により好ましい。A層が5μm以上であると保護層としての機能を向上させることができ、100μm以下とすることにより、コスト削減を実現することができる。A層は、単層で形成してもよいし、複数層で形成してもよいが、合計厚みが上述した厚さに収まるようにすることが望ましい。
【0051】
A層におけるB層が積層されている側の面は、A層とB層の間の接着強度を高めるために、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理(大気圧、及び真空)、高周波スパッタエッチング処理、フレーム処理、イトロ処理、エキシマUV処理、プライマー処理などの表面処理がされていてもよい。またサンドペーパーやケレン、ブラスト処理等で物理的に表面を削るような目粗し処理を行ってもよい。プライマーとしては、アクリル系、エチレン酢酸ビニル系、ウレタン系及びエポキシ系等があるが、B層との接着強度を高めるという観点からはアクリル系が好ましい。
【0052】
A層におけるB層が積層されていない側の面は、積層体を大面積に施工する際、重ね合わせて貼り付ける可能性が考えられ、積層シート同士の接着強度を高めるために、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理(大気圧、及び真空)、高周波スパッタエッチング処理、フレーム処理、イトロ処理、エキシマUV処理、プライマー処理などの表面処理がされていてもよい。またサンドペーパーやケレン、ブラスト処理等で物理的に表面を削るような目粗し処理を行ってもよい。プライマーとしては、アクリル系、エチレン酢酸ビニル系、ウレタン系及びエポキシ系等があるが、積層シート同士の接着強度を高めるという観点からはアクリル系が好ましい。
【0053】
<1-2.B層>
一実施形態において、B層は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂0質量部以上50質量部未満とポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂50質量部超100質量部以下(両者の合計を100質量部とする)を含有する樹脂組成物からなる層である。B層におけるポリフッ化ビニリデン系樹脂とポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の混合比は、両者の合計100質量部に対して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂:ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂=5~45質量部:95~55質量部であることが好ましく、15~40質量部:85~60質量部であることがより好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂が50質量部超であるとC層又はD層との密着性を向上させることができる。また、B層中にポリフッ化ビニリデン系樹脂が少量含有することで、耐候性やA層との接着性、密着性を向上させることができる。
【0054】
B層は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の他に、本発明の目的を損なわれない範囲において、紫外線吸収剤、他の樹脂、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、結晶核剤、ブロッキング防止剤、シール性改良剤、離型剤、着色剤、顔料、発泡剤、難燃剤などを適宜含有することができる。しかしながら、一般的には、B層におけるポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の合計含有量は80質量%以上であり、典型的には90質量%以上であり、より典型的には95質量%以上であり、100質量%とすることもできる。
【0055】
B層は好ましくは紫外線吸収剤を含有する。B層が紫外線吸収剤を含有することで、紫外線が遮断され、耐候性を効果的に高めることができる。紫外線吸収剤としては、限定的ではないが、ハイドロキノン系、トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、シアノアクリレート系、オキザリックアシッド系、ヒンダードアミン系、サリチル酸誘導体等が挙げられ、これらを単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。中でも紫外線遮断効果の持続性からベンゾトリアゾール系、トリアジン系化合物が好ましい。B層中の紫外線吸収剤の含有量は、B層のポリフッ化ビニリデン系樹脂とポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して0.05~15質量部であることが好ましい。B層中の紫外線吸収剤の含有量を、ポリフッ化ビニリデン系樹脂とポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、0.05質量部以上とすることにより、好ましくは1質量部以上とすることにより、より好ましくは2質量部以上とすることにより、耐候性の更なる向上効果と共に、紫外線吸収効果、更にはUVカット性付与によるC層、D層、E層、及び被着体の劣化抑制効果が期待でき、また、B層中の紫外線吸収剤の含有量を、ポリフッ化ビニリデン系樹脂とポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、15質量部以下とすることにより、好ましくは10質量部以下とすることにより、より好ましくは5質量部以下とすることにより、紫外線吸収剤が積層体表面にブリードアウトすることを防止し、飛散防止機能を有する樹脂層との密着性低下を防止でき、また、コスト削減を実現することができる。
【0056】
B層の厚さについては、5~100μmであることが好ましく、10~100μmであることがより好ましく、13~80μmであることが更により好ましい。B層が5μm以上であるとC層又はD層との密着性を向上させることができ、100μm以下とすることにより、コスト削減を実現することができる。B層は、単層で形成してもよいし、複数層で形成してもよいが、合計厚みが上述した厚さに収まるようにすることが望ましい。
【0057】
<1-3.C層>
一実施形態において、C層は、延性破壊を示すと共に、降伏点を有する樹脂又は樹脂組成物からなる層である。C層がこのような特性を有することで、積層体を構造物に貼り付けたときの当該構造物の耐衝撃性を有意に向上させることができ、結果的に飛散防止性を有意に高めることが可能となる。
【0058】
より詳細には、C層が延性破壊を示すことで、破壊エネルギーが積層体の伸びに変化し、変位0mmから50mmまでの上述した積分値(N・m)が大きくなり、効率的に破壊エネルギーを吸収した結果、飛散防止性が向上すると考えられる。また、C層が降伏点を示すことで変位0mmから50mmまでの上述した積分値(N・m)がより大きくなりやすく、効率的に破壊エネルギーを吸収した結果、飛散防止性が向上すると考えられ、これらを両立することで飛散防止性が発現すると考えられる。一方、降伏点を有さず、伸びが良好な積層体は、破壊エネルギーがすぐに伸びに変化し、降伏点も示さないため、変位0mmから50mmまでの積分値(N・m)が大きくなりづらく、飛散防止性が得られないと考えられる。
【0059】
本発明において、延性破壊を示す樹脂又は樹脂組成物からなる層とは、JIS K7161-1994に準拠し、試験速度200mm/min、標線間距離50mm、試験片の幅10mmの条件で、引張特性の試験方法を実施したときに、くびれ(ネッキング)を伴いながら塑性変形した後に破断する層を意味する。例えばJIS K7161-1994の図1(代表的な応力-ひずみ曲線)における曲線b、c、及びdが該当する。積層体からC層を取り出して試験を実施することが困難であるときは、C層と同スペックの樹脂又は樹脂組成物に対して当該引張特性の試験方法を実施して延性破壊の有無を調査してもよい。
【0060】
本発明において、降伏点を有する樹脂又は樹脂組成物からなる層とは、JIS K7161-1994に準拠し、試験速度200mm/min、標線間距離50mm、試験片の幅10mmの条件で、引張特性の試験方法を実施したときに、引張呼びひずみ(伸び)0~100%間において1つ以上の降伏点を有する層を意味する。例えばJIS K7161-1994の図1(代表的な応力-ひずみ曲線)における曲線bとcが該当する。積層体からC層を取り出して試験を実施することが困難であるときは、C層と同スペックの樹脂又は樹脂組成物に対して当該引張特性の試験方法を実施して降伏点の有無を調査してもよい。
【0061】
好ましくは、C層は、JIS K7161-1994に準拠し、試験速度200mm/min、標線間距離50mm、試験片の幅10mmの条件で、引張特性の試験方法を実施したときに、引張呼びひずみ(伸び)が100%以上である。C層の強度、及び積層体の飛散防止性の観点から、引張呼びひずみ(伸び)はより好ましくは120%以上であり、更により好ましくは150%以上である。当該引張呼びひずみ(伸び)に特段の上限はないが、引張呼びひずみ(伸び)の値が大きくなると、C層の粘性が優位となり、積層体の引張降伏応力が低下し、積層体の荷重-変位線図から算出した変位0mm~50mmまでの積分値が小さくなり、C層の強度、及び積層体の飛散防止性が低下する可能性が示唆される。よって、引張呼びひずみ(伸び)はより好ましくは300%以下であり、更により好ましくは200%以下である。積層体からC層を取り出して試験を実施することが困難であるときは、C層と同スペックの樹脂又は樹脂組成物に対して当該引張特性の試験方法を実施して引張呼びひずみ(伸び)を調査してもよい。
【0062】
延性破壊を示し、且つ、降伏点を有する樹脂又は樹脂組成物としては、限定的ではないが、ポリカーボネート系樹脂(PC樹脂)、ポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、及びアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)よりなる群から選択される一種又は二種以上を含有する樹脂又は樹脂組成物が挙げられる。これらの中でも、飛散防止性向上の観点から、引張呼びひずみ(伸び)と引張降伏応力の値が共に高く、積層体の荷重-変位線図から算出した変位0mm~50mmまでの積分値が高くなりやすいポリアミド系樹脂、及びポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、PC樹脂とABS樹脂をブレンドしたPC/ABS樹脂が好ましい。
【0063】
C層は二軸延伸加工されていることが好ましい。これにより、C層の強度が上昇し、飛散防止性能を高めることができる。二軸延伸加工には、インフレーション法、逐次二軸延伸加工、及び同時二軸延伸加工が含まれる。
【0064】
C層の厚さは衝撃強度を高めて飛散防止性能を高めるために、15μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、50μm以上が更により好ましく、70μm以上が更により好ましく、80μm以上が更により好ましく、100μm以上が更により好ましい。また、C層の厚さはハンドリングやコストの観点から、1,500μm以下が好ましく、1,000μm以下がより好ましく、500μm以下が更に好ましい。C層は、単層で形成してもよいし、複数層で形成してもよいが、合計厚みが上述した厚さに収まるようにすることが望ましい。
【0065】
ポリカーボネート系樹脂は、モノマー同士の結合を主にカーボネート基が担う樹脂である。ポリカーボネート系樹脂としては、例えば、1種以上のビスフェノール類とホスゲン又は炭酸ジエステルとを反応させたもの、或いは、1種以上のビスフェノール類とジフェニルカーボネート類とをエステル交換法によって反応させたもの等が挙げられる。前記ビスフェノール類としては、例えば、ビスフェノールAに代表されるビス-(4-ヒドロキシフェニル)-アルカンの他、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-シクロアルカン、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-スルフィド、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-エーテル、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-ケトン、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-スルホン、ビスフェノールフルオレン等が挙げられる。また、加工特性を向上させる目的等でビスフェノール類以外の他の2価フェノールとしてハイドロキノン、4,4-ジヒドロキシビフェニル等の化合物をコポリマーとして共重合させたものも好適に用いられる。ポリカーボネート系樹脂は単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0066】
ポリアミド系樹脂は、モノマー同士の結合を主にアミド基が担う樹脂である。ポリアミド系樹脂としては、脂肪族ポリアミド樹脂、脂環式ポリアミド樹脂及び芳香族ポリアミド樹脂の何れを使用することもできる。脂肪族ポリアミドとしては、ポリアミド46、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド9、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6/66、ポリアミド66/610等が挙げられる。脂環式ポリアミドとしては、ポリ-1,4-ノルボルネンテレフタルアミド及びポリ-1,4-シクロヘキサンテレフタルアミド、及びポリ-1,4-シクロヘキサン-1,4-シクロヘキサンアミドが挙げられる。芳香族ポリアミドとしては、ポリアミド4T、ポリアミド5T、ポリアミドM-5T、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10T、ポリアミド11T、ポリアミド12T、ポリアミドMXD6、ポリアミドPXD6、ポリアミドMXD10、ポリアミドPXD6、ポリアミド6I、ポリアミドPACMT、ポリアミドPACMI、ポリアミドPACM12、ポリアミドPACM14等が挙げられる。ポリアミド系樹脂は単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0067】
ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、ジオール成分としてエチレングリコールをモノマーの主成分とする樹脂である。成形時の結晶化抑制、加工性改良等の為に、他のコモノマー成分を共重合させてもよい。コモノマー成分の具体例としては、ジカルボン酸成分としてイソフタル酸、セバシン酸、アジピン酸、アゼライン酸等が、ジオール成分として、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ブタンジオール等が挙げられる。ポリエチレンテレフタレート系樹脂は単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0068】
ポリ塩化ビニル系樹脂には、ポリ塩化ビニルの他、塩素化ポリエチレン、及び、塩化ビニルとコモノマー成分を共重合させた樹脂(例:塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体、塩化ビニル-プロピレン共重合体)が挙げられる。ポリ塩化ビニル系樹脂は単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0069】
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)は、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンを原料モノマーとして用い、共重合を行うことにより得られる樹脂の総称であり、各成分の比率は任意のものを用いることができる。ABS樹脂に用いられる原料モノマーには、スチレンに加えて又は置き換えて、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジメチルスチレン、クロロスチレン、ビニルナフタレン等の単量体を含有するものも含まれる。またアクリロニトリルに加えて又は置き換えて、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリル等の単量体を含有するものも含まれる。また、ブタジエンに加えて又は置き換えて、(メタ)アクリル酸ブチルを主体としたアクリル系ゴム、塩素化ポリエチレン、エチレン系ゴムであるエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)等の単量体を含有するものも含まれる。従って、本明細書において、ABS樹脂とは、AES樹脂、ASA樹脂、ACS樹脂等を包含する概念である。
【0070】
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)の重合法は、任意の方法を選択することができる。ABS樹脂の製造方法としては、ポリブタジエンにアクリロニトリル-スチレン共重合体をグラフトするグラフト共重合法が一般的ではあるが、例えば乳化グラフト法、塊状重合法、ポリマーブレンド法等で重合したABS樹脂を用いることができる。
【0071】
乳化グラフト法では、アクリロニトリル、ラテックス、スチレンおよび触媒や乳化剤を重合反応機内で重合させ、水分などを遠心分離機で取り除いた後、押出機でペレット化する。塊状重合法では、重合反応槽を使用してそれぞれを重合させ、未重合のモノマーを回収した後、押出機でペレット化する。ポリマーブレンド法では、AS樹脂にゴムと添加剤を加えてミキサーでコンパウンドした後、押出機でペレット化する。極端にブタジエン比率が高いABS樹脂をグラフト法にて製造し、AS樹脂とコンパウンドする手法も同法の一種にあたる。
【0072】
ABS樹脂としては、ABS樹脂を主成分とするものであれば如何なる樹脂、例えばABS樹脂ブレンド物、ABS樹脂アロイ等を用いることが可能である。そのようなものとしては、例えばPC樹脂とABS樹脂をブレンドしたPC/ABS樹脂が挙げられる。またABS樹脂の耐熱性向上や、PC/ABS樹脂ブレンドやポリアミド/ABS樹脂ブレンドの相溶性、相容性向上を目的として、スチレン-N-フェニルマレイミド-無水マレイン酸共重合体をブレンドしてもよい。
【0073】
C層は、本発明の目的を損なわれない範囲において、他の樹脂、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、ブロッキング防止剤、シール性改良剤、離型剤、着色剤、顔料、発泡剤、難燃剤などを適宜含有することができる。しかしながら、一般的には、C層におけるポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、及びポリ塩化ビニル系樹脂、及びアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)の合計含有量は80質量%以上であり、典型的には90質量%以上であり、より典型的には95質量%以上であり、100質量%とすることもできる。
【0074】
D層の有無にかかわらず、C層におけるB層が積層されている側の面は、B層とC層の間の接着強度を高めるために、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理(大気圧、及び真空)、高周波スパッタエッチング処理、フレーム処理、イトロ処理、エキシマUV処理、プライマー処理などの表面処理がされていてもよい。またサンドペーパーやケレン、ブラスト処理等で物理的に表面を削るような目粗し処理を行ってもよい。プライマーとしては、アクリル系、エチレン酢酸ビニル系、ウレタン系及びエポキシ系等があるが、B層との接着強度を高めるという観点からはアクリル系が好ましい。
【0075】
また、E層が存在する場合、C層におけるE層が積層されている側の面は、C層とE層の間の接着強度を高めるために、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理(大気圧、及び真空)、高周波スパッタエッチング処理、フレーム処理、イトロ処理、エキシマUV処理、プライマー処理などの表面処理がされていてもよい。またサンドペーパーやケレン、ブラスト処理等で物理的に表面を削るような目粗し処理を行ってもよい。プライマーとしては、アクリル系、エチレン酢酸ビニル系、ウレタン系及びエポキシ系等があるが、E層との接着強度を高めるという観点からはアクリル系が好ましい。
【0076】
<1-4.D層>
D層は粘接着剤で構成されており、B層とC層の間の接着強度が低い場合に両者の接着強度を高めることができる。本発明において、粘接着剤とは粘着剤、接着剤又は両者の混合物を指す。本発明において、粘着剤と接着剤の違いは、粘着剤が貼り合わせ時からゲル状の柔らかい固体であり、そのままの状態で被着体に濡れ広がり、その後も態の変化を起こさず、剥離に抵抗する力を発揮する。つまり粘着剤は貼り合わせるとすぐに実用に耐える接着力を発現するのに対して、接着剤が貼り合わせ時は流動性のある液体で貼り合わせ界面に濡れ広がり、その後化学反応により固体に変化し、界面で強固に結びつき、剥離に抵抗する力を発揮する。接着剤は貼り合わせた後に、実用に耐える接着力を発現するまでに接着剤が化学反応により固化する時間が必要である。D層に使用する粘接着剤の種類は、B層及びC層の材質により適宜決定すればよい。
【0077】
D層の厚さは特に制限はない。一般的に粘着剤層の厚さが小さくなると被着体に対する密着性は低下しやすくなる傾向にあることから、例えば、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることが更により好ましく、20μm以上であることが特に好ましい。D層の厚さは、150μmを超える場合、D層に起因する各種性能が頭打ちとなる傾向があり、また、コスト高となるため、150μm以下であることが好ましく、110μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることが更により好ましく、75μm以下であることが特に好ましい。これらの観点から、D層の厚さは、5~150μmであることが好ましく、10~110μmであることがより好ましく、15~100μmであることが更により好ましく、20~75μmであることが特に好ましい。なお、上記厚さはD層の乾燥後、もしくは反応後の厚さ(μm/Dry)を意味する。
【0078】
粘着剤としては、例えば、ゴム系粘着剤、(メタ)アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、ポリビニルアルコール系粘着剤、ポリビニルピロリドン系粘着剤、ポリアクリルアミド系粘着剤、セルロース系粘着剤等を挙げることができる。このような粘着剤は、単独で使用してもよいし、又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0079】
粘着剤は、粘着形態で分類すると、ホットメルト粘着剤、二液混合型粘着剤、熱硬化型粘着剤、及びUV硬化型粘着剤などに分けることができるが、これらの中でも取り扱いの容易さと安定した接着強度発現の理由により、二液混合型粘着剤が好適に利用可能である。
【0080】
これらの中でも、透明であること及び優れた粘着性を有しているという観点から、二液混合型(メタ)アクリル系粘着剤は好適に使用可能である。(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルの両者を意味する。本発明に好適に用いられる(メタ)アクリル系粘着剤の詳細は国際公開第2016/010013号に記載されている。
【0081】
(メタ)アクリル系粘着剤の具体例としては、たとえば、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、2-メチルブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のC2~C12アルキルエステルの少なくとも1種(モノマーA)と、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート等の官能基含有アクリル系モノマーの少なくとも1種(モノマーB)との共重合体を好適に使用することができる。上記モノマーAとモノマーBの共重合比は、モノマーAとモノマーBの合計100質量部中、質量比で表して、モノマーA/モノマーB=99.9/0.1~70/30であり、好ましくは99/1~75/25の範囲である。
【0082】
特に好適な(メタ)アクリル系共重合体としては、ブチルアクリレート(BA)とアクリル酸(AA)の共重合体が挙げられる。この場合、ブチルアクリレート(BA)とアクリル酸(AA)の共重合比は、BAとAA合計100質量部中、質量比で表して、BA/AA=99.9/0.1~70/30であり、好ましくは99.5/0.5~80/20の範囲である。BAとAAの合計100質量部中、AAが0.1質量部以上であると、架橋剤併用での粘着物性コントロールが容易になる。また、BAとAAの合計100質量部中、AAが30質量部以下であると、ガラス転移点(Tg)が下がり、低温での構造物への貼り付きが良くなり、施工性も向上する。
【0083】
上記(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは200,000~1,000,000、より好ましくは400,000~800,000であり、かかる分子量は、重合開始剤の量によって、また、連鎖移動剤を添加することによって調整することができる。重量平均分子量(Mw)が200,000以上であると、(メタ)アクリル系共重合体の凝集力が向上し、構造物への糊残りや粘着シートの剥がれを防止することができる。また、1,000,000以下であると、(メタ)アクリル系共重合体に適度な柔軟性があり、構造物の凹凸への追従性が向上する。
【0084】
粘着剤には、必要に応じて、架橋剤、粘着付与剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加物を添加することができる。
【0085】
架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アミン系架橋剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種類以上を混合して用いてもよい。特に好適な架橋剤はイソシアネート系架橋剤であり、粘着剤を構成するポリマーの構成単位となるモノマー(例えば、BAとAAの合計)100質量部に対して、イソシアネート系架橋剤0.3~4質量部であり、好ましくは0.5~3質量部である。イソシアネート系架橋剤が0.3質量部以上であると、粘着剤の凝集力が向上し、構造物から粘着シートを剥がす際、構造物への糊残りを防止でき、再剥離性を向上させることができる。また、イソシアネート系架橋剤が4質量部以下であると、粘着剤に適度な柔軟性があり、構造物表面の凹凸への追従性を向上し、粘着シートを貼る際、気泡を巻き込むことを防止することができる。
【0086】
イソシアネート系架橋剤の具体例としては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、3-メチルジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-2,4’-ジイソシアネート、リジンイソシアネート等の多価イソシアネート化合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0087】
上記粘着剤が(メタ)アクリル系共重合体の架橋体を含む場合、D層の架橋度(ゲル分率)は、特に制限されないが、例えば10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上が更に好ましく、25質量%以上が特に好ましい。D層の架橋度(ゲル分率)は、80質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下が更に好ましく、60質量%以下が特に好ましい。すなわち、D層の架橋度(ゲル分率)は、例えば、10~80質量%が好ましく、15~75質量%がより好ましく、20~70質量%が更に好ましく、25~60質量%が特に好ましい。架橋度(ゲル分率)は、例えば、(メタ)アクリル系共重合体のベースポリマー(粘着剤)の組成、分子量、架橋剤の使用の有無及びその種類並びに使用量の選択等により調節することができる。なお、架橋度の上限は、原理上、100質量%である。
【0088】
粘着付与剤は、軟化点、各成分との相溶性等を考慮して選択することができる。例えば、テルペン樹脂、ロジン樹脂、水添ロジン樹脂、クマロン・インデン樹脂、スチレン系樹脂、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、テルペン-フェノール樹脂、キシレン系樹脂、その他脂肪族炭化水素樹脂又は芳香族炭化水素樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0089】
紫外線吸収剤は、紫外線吸収能や使用する(メタ)アクリル系粘着剤との相溶性等を考慮して選択することができる。例えば、ハイドロキノン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系、シアノアクリレート系等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0090】
光安定剤は、使用する(メタ)アクリル系粘着剤との相溶性や厚み等を考慮して選択することができる。例えば、ヒンダードアミン系化合物、ヒンダードフェノール系化合物、ベンゾエート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0091】
粘着剤で構成されるD層は、一般的な方法で形成することができる。例えば、B層におけるC層との貼合面及び/又はC層におけるB層との貼合面に粘着剤を直接塗布し乾燥させる方法(ダイレクト塗工法)がある。また、セパレータに粘着剤を塗工し、乾燥させてから基材(B層及び/又はC層)に貼り合せる方法もある。
【0092】
粘着剤の塗工は、例えば、グラビアロールコーター、ダイコーター、バーコーター、ドクターブレード、コンマコーター、リバースコーター等、従来公知の塗工装置を用いて行うことができる。また、含浸、カーテンコート法等により粘着剤を塗工してもよい。必要に応じて冷却、加熱、又は電子線照射を行いながら粘着剤を塗工してもよい。
【0093】
粘着剤を塗工した後の乾燥は、架橋反応の促進、製造効率向上等の観点から、加熱下で行うことが好ましい。乾燥温度は、例えば40℃以上(通常は60℃以上)であり、150℃以下(通常は130℃以下)程度とすることが好ましい。
【0094】
D層を形成する工程では、粘着剤を塗工し、乾燥させた後、さらに、D層内における成分移行の調整、架橋反応の進行、並びに、基材(例えば、A層/B層積層体、セパレータ等)及びD層内に存在し得る歪の緩和などを目的としてエージングを行ってもよい。
【0095】
接着剤としては、(メタ)アクリル樹脂系接着剤、天然ゴム接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、エチレン-酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤、エチレン-酢酸ビニル樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、塩化ビニル樹脂溶剤系接着剤、クロロプレンゴム系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、シリコーン系接着剤、スチレン-ブタジエンゴム溶剤系接着剤、ニトリルゴム系接着剤、ニトロセルロース系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、変性シリコーン系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリイミド系接着剤、オレフィン樹脂系接着剤、酢酸ビニル樹脂エマルジョン系接着剤、ポリスチレン樹脂溶剤系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ポリビニルピロリドン樹脂系接着剤、ポリビニルブチラール系接着剤、ポリベンズイミダゾール接着剤、ポリメタクリレート樹脂溶剤系接着剤、メラミン樹脂系接着剤、ユリア樹脂系接着剤、レゾルシノール系接着剤等が挙げられる。接着剤は、1種単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0096】
接着剤は、接着形態で分類すると、ホットメルト接着剤、二液硬化型接着剤、熱硬化型接着剤、及びUV硬化型接着剤などに分けることができるが、これらの中でも取り扱いの容易さと安定した接着強度発現の理由により、二液硬化型接着剤、熱硬化型接着剤及びUV硬化型接着剤が好適に利用可能である。
【0097】
上記の接着剤の中では、取り扱いの容易さと安定した接着強度発現の理由により、(メタ)アクリル樹脂系二液硬化型接着剤が好ましい。
【0098】
接着剤においても、必要に応じて、先述した架橋剤、粘着付与剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加物を添加することができる。また性能に影響がでない範囲で、揺変剤、顔料、消泡剤、希釈剤、硬化速度調整剤等を加えることもできる。
【0099】
接着剤で構成されるD層は、一般的な方法で形成することができる。例えば、B層におけるC層との貼合面及び/又はC層におけるB層との貼合面に接着剤を直接塗布する方法が挙げられる。接着剤の硬化方法は、B層とC層をD層を介して貼り合わせた後に接着剤の種類に応じて適切な方法(加熱、UV照射等)を採用すればよい。また、セパレータに接着剤を塗工し、乾燥させてから基材(B層及び/又はC層)に貼り合せる方法もある。
【0100】
接着剤の塗工は、例えば、溶剤型ドライラミネート法、無溶剤型ドライラミネート法、ウェットラミネート法、ホットメルトラミネート法等が挙げられ、この方法を適宜使用すればよい。このうち、最適な塗工方法は、溶剤型ドライラミネート法である。
【0101】
溶剤型ドライラミネート法で使用される有機溶剤としては、接着剤との溶解性を有するあらゆる溶剤が使用できる。例えば、トルエン、キシレン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトンなどの非水溶性系溶剤、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-プロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、1-プロポキシ-2-プロパノールなどのグリコールエーテル類、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノールなどのアルコール類、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドなどのアルデヒド類、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドンなどの非プロトン性極性溶剤などが挙げられる。
【0102】
溶剤で希釈した接着剤(以下、これを「塗布液」と称する場合がある。)は、そのザーンカップ(No.3)粘度が5~30秒(25℃)の範囲となるような濃度で希釈され得る。ザーンカップ(No.3)粘度が5秒以上であれば接着剤が被塗物に十分塗布され、ロールの汚染などが生じない。またザーンカップ(No.3)粘度が30秒以下であれば、接着剤がロールに十分移行し、容易に均一な接着層を形成することができる。たとえばドライラミネートではザーンカップ(No.3)粘度はその使用中に10~20秒(25℃)であることが好ましい。
【0103】
また、溶剤を使用した場合には、接着剤を塗布した後の溶剤乾燥温度は20℃から140℃までの様々なものであってよいが、溶剤の沸点に近く、被塗物への影響が及ばない温度が望ましい。乾燥温度が20℃未満ではラミネートフィルム中に溶剤が残存し、接着不良や臭気の原因となる。また乾燥温度が140℃を超えると、ポリマーフィルムの軟化などにより、良好な外観のラミネートフィルムを得るのが困難となる。例えば40~120℃が望ましい。
【0104】
接着性塗料を塗布する際の塗装形式としては、ロール塗布やスプレー塗布、エアナイフ塗布、浸漬、はけ塗りなどの一般的に使用される塗装形式の何れも使用され得るが、ロール塗布又はスプレー塗布が好ましい。
【0105】
<1-5.E層>
E層は粘接着剤で構成されている。E層は積層体を構造物に貼り付ける時の接合層として機能することができる。また、構造物が透明部材のとき、厚みのある透明なE層を使用することで、表面が傷ついて透明性が低下した透明部材の透明性を回復する機能を発揮することができる。
【0106】
E層に使用する粘接着剤の種類は、積層体を貼り付ける構造物表面の材質により適宜決定すればよい。例えば、構造物表面がポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ガラス及び金属よりなる群から選択される一種又は二種以上の材料で構成されている場合には、粘着剤を好適に使用できる。また、構造物表面がコンクリート及び金属よりなる群から選択される一種又は二種の材料で構成されている場合には、接着剤を好適に使用できる。また、表面凹凸が大きいコンクリートのような場合は接着剤が適しており、樹脂やガラスのような表面凹凸が小さい場合は粘着剤が適している。また再剥離したい場合は粘着剤、再剥離せず、強固に接着したい場合は接着剤を用いることが好ましい。
【0107】
E層の厚さは、構造物表面の凹凸への追従性を向上し、透明性の回復機能を高めるという観点からは、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることが更により好ましい。また、E層の厚さは、粘接着剤の乾燥工程で乾燥不良の発生を防止し、粘接着性能を十分に発揮するために、100μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましく、60μm以下であることが更により好ましい。
【0108】
また、E層におけるC層が積層されている側の面は、C層とE層の間の接着強度を高めるために、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理(大気圧、及び真空)、高周波スパッタエッチング処理、フレーム処理、イトロ処理、エキシマUV処理、プライマー処理などの表面処理がされていてもよい。またサンドペーパーやケレン、ブラスト処理等で物理的に表面を削るような目粗し処理を行ってもよい。プライマーとしては、アクリル系、エチレン酢酸ビニル系、ウレタン系及びエポキシ系等があるが、C層との接着強度を高めるという観点からはアクリル系が好ましい。
【0109】
その他、粘着剤及び接着剤の具体例及び好適な態様はD層において述べた通りであるので説明を省略する。
【0110】
<1-6.セパレータ>
セパレータとしては、公知の一般的なセパレータを使用することができる。例えば、PETシート表面にシリコーン系剥離剤が塗布されているもの、紙とポリエチレンのラミネートシートのポリエチレン側にシリコーン系剥離剤が塗布されたもの等が挙げられる。
【0111】
<<2.構造物>>
本発明に係る積層体を、E層を貼り付け側として各種構造物へ貼り付け施工することにより、当該構造物の防汚性及び飛散防止性が向上する。従って、本発明に係る積層体は構造物の保護又は補修のために用いることができる。例えば、本発明に係る積層体をコンクリートに貼り付けることは、コンクリートの劣化防止用の表面被覆方法になり、又は、コンクリート片の剥落防止方法にもなる。
【0112】
図2-1は、本発明の第一実施形態に係る構造物(17)の積層構造を示す概略図である。第一実施形態においては、積層体(30)のE層(15)が構造物(17)の表面に貼り付けられている。また、図2-2は、本発明の第二実施形態に係る構造物(17)の積層構造を示す概略図である。第二実施形態においては、積層体(40)のE層(15)が構造物(17)の表面に貼り付けられている。
【0113】
積層体が貼付される構造物の形状には特に制約はないが、例えば板状とすることができる。その場合は、板状構造物の一方又は両方の主表面に表面保護シートを貼付することができ、両方の主表面に貼付することが好ましい。
【0114】
積層体が貼付される構造物の材質には特に制約はないが、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ガラス、コンクリート及び金属(アルミニウム箔及び鋼板等)よりなる群から選択される一種又は二種以上の材料で構成されることが可能である。その他にも、構造物の材質はアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、FRP等のプラスチック基材、合板等幅広く選択することができる。
【0115】
構造物の用途の具体例としては、限定的ではないが、高速道路や幹線道路等に設置される遮音壁(防音壁を含む)、外装板、エクステリア、カーポート、自動販売機の窓、自動車、電車、新幹線及び飛行機等の乗り物の窓、鉄道の駅に設置されるホームドア、看板等が挙げられる。これらの中でも特に活用が期待される用途としては、透光性又は不透光性の遮音壁及び外装板が挙げられる。本発明に係る積層体は透明性の高いシート状の形態で容易に提供可能であることから、構造物が透光部材(透光部材には透明部材が含まれる。)であるときに好適に使用することができる。
【0116】
例えば、高速道路や幹線道路等に設置される遮音壁等には透光板(プラスチック板、ガラス板、典型的にはポリカーボネート板)や外装板(典型的には金属板)が用いられることが多いが、透光板は経年劣化によって、透明性や強靱性が低下するという問題がある。本発明に係る積層体を劣化した透光板の一方又は両方の主表面、好ましくは両方の主表面に貼付することで、透光板が破損した時の飛散防止性能を高めることが可能となり、好ましくは透明性を回復することも可能となる。つまり、本発明に係る積層体を使用することで透光板の補修工事を簡単な施工で行うことができるという顕著な効果が得られる。具体的には、本発明に係る積層体は、設置後1年以上、好ましくは5年以上、更に好ましくは15年以上経過した遮音壁又は外装板の補修工事に好適に利用可能である。また、本発明に係る表面保護シートを新品の透明板の一方又は両方の主表面、好ましくは両方の主表面に貼付することで、経時劣化を抑制し、透明板が破損した時の飛散防止性能を高めることが可能となり、好ましくは透明板自体の不透明化を防止することも可能となる。
【実施例
【0117】
以下、本発明を実施例に基づいて、比較例と対比しつつ詳細に説明する。
【0118】
(1.A層用ペレットの作製)
ポリフッ化ビニリデン系樹脂として、アルケマ社製、商品名Kynar720(フッ化ビニリデンのホモポリマー、MFR(ISO1133準拠、230℃、3.8kg荷重):18~26g/10分、以下「PVDF」と略称する)を用意した。ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂として、商品名三菱ケミカル社製、ハイペットHBS000Z60(メチルメタクリレート-ブチルアクリレート共重合体、MFR(ISO1133準拠、230℃、10kg加重):5~9g/10分、以下「アクリル系樹脂」と略称する)を用意した。A層を構成する樹脂組成物全体の質量に対するPVDF及びアクリル系樹脂の含有率が表1に記載の値となるように成形番号に応じて種々の比率でブレンドし、φ30mm異方向回転二軸押出機(神戸製鋼所社製、KTX-30)を用い、押出温度240℃、スクリュー回転数200rpmの条件にて溶融混練し、ストランド状に押し出した。ストランド状の混練物を冷却した後、ペレタイザーにてペレット化した。なお、当該ペレットに紫外線吸収剤等他の添加剤は配合しなかった。
【0119】
(2.B層用ペレットの作製)
A層と同じPVDF及びアクリル系樹脂を用意した。B層を構成する樹脂組成物全体の質量に対するPVDF及びアクリル系樹脂の含有率が表1に記載の値となるように成形番号に応じて種々の比率でブレンドし、φ30mm異方向回転二軸押出機(神戸製鋼所社製、KTX-30)を用い、押出温度240℃、スクリュー回転数200rpmの条件にて溶融混練し、ストランド状に押し出した。ストランド状の混練物を冷却した後、ペレタイザーにてペレット化した。なお、当該ペレットに紫外線吸収剤等他の添加剤は配合しなかった。
【0120】
(3.A層とB層が積層されたシート状成形体の作製)
上記で作製したA層用ペレットとB層用ペレットを、φ40mm短軸押出機2台と先端にフィードブロック、リップ幅550mmのTダイを取り付けたフィードブロック方式のTダイ式多層押出機を使用して二種二層共押出成形を行い、A層とB層が積層された種々のシート状成形体(表1に記載の成形例1~14)を得た。A層及びB層の押出は、共に押出温度240℃、Tダイ温度240℃の条件にて実施した。なお、引取装置のダイに最も近いピンチロールは温度30℃とした。ピンチロールとしては、成形番号に応じて、鏡面加工されたもの又はエンボス加工されたものを使用した。
【0121】
【表1】
【0122】
(4.C層用シート状成形体の用意)
ポリエチレンテレフタレート系樹脂として、表2に記載のPET-1~PET-9を使用した。PET-1~PET-4は二軸延伸加工及び両面がアクリル系プライマー処理されたシートの形態で販売されているものであり、そのまま使用した。PET-5~PET-9は、ペレットの形態で販売されているものであり、先端にフィードブロック、リップ幅300mmのTダイを取り付けたφ65mm単軸押出機(田辺プラスチックス機械株式会社製、VS65-34V)を用い、押出温度280℃、Tダイ温度280℃、スクリュー回転数30rpmにて、配合例の樹脂を用いてシート押出を実施し、キャストロール温度30℃、延伸ロール温度95℃、熱固定ロール温度30℃設定とした400型縦延伸ロールユニット(田辺プラスチックス機械株式会社製)を用い、流れ方向(Machine Direction、MD)の設定延伸倍率2.0倍で延伸することで、MD一軸延伸シートを作製した。このシートを予熱ゾーン140℃、延伸ゾーン125℃、熱固定温度220℃設定としたテンター式延伸設備(小林機械工業株式会社製)にて、MDに対して垂直となる方向(Transverse Direction、TD)に設定延伸倍率5.0倍で延伸することで、表2に記載の二軸延伸シートを作製した。
ポリアミド系樹脂として、表2に記載のPA-1及びPA-2を使用した。PA-1及びPA-2は二軸延伸加工されたシートの形態で販売されているものである。また、PA-1及びPA-2は片面がコロナ放電処理された状態で販売されているが、反対側の面もコロナ放電処理を施した。
ポリカーボネート系樹脂として、表2に記載のPC-1を使用した。PC-1はシートの形態で販売されているものであり、そのまま使用した。
ポリ塩化ビニル系樹脂として、表2に記載のPVC-1を使用した。PVC-1はシートの形態で販売されているものであり、そのまま使用した。
ポリスチレン系樹脂として、表2に記載のPS-1を使用した。PS-1は、ペレットの形態で販売されているものであり、φ40mm短軸押出機の先端に、リップ幅550mmのTダイを取り付け、単層押出成形を行い、シート状の成形体を作製した。押出温度210℃、Tダイ温度210℃、冷却ロール温度30℃の条件にて実施した。
メチルメタクリレートブタジエンスチレン共重合体系樹脂として、表2に記載のMBS-1を使用した。MBS-1は、ペレットの形態で販売されているものであり、φ40mm短軸押出機の先端に、リップ幅550mmTダイを取り付け、単層押出成形を行い、シート状の成形体を作製した。押出温度230℃、Tダイ温度230℃、冷却ロール温度30℃の条件にて実施した。
ポリウレタン系樹脂として、表2に記載のPU-1及びPU-2を使用した。PU-1及びPU-2はシートの形態で販売されているものであり、そのまま使用した。
【0123】
C層用の各シート状成形体に対しては、東洋精機製作所製、引張試験機、ストログラフ VE1Dを用い、JIS K7161-1994に準拠し、試験速度200mm/min、標線間距離50mm、試験片の幅10mmの条件で、引張特性の試験方法を実施することで応力-ひずみ曲線を得た。そして、得られた応力-ひずみ曲線に基づき、引張呼びひずみ(伸び)の値、延性破壊又は脆性破壊の区分、及び降伏点の有無を調査した。結果を表2に示す。
【0124】
【表2】
【0125】
(5.D層用粘接着剤の作製)
粘着剤1:表3に記載のアクリル系粘着剤100質量部に対し、表3に記載のイソシアネート系架橋剤を表3に記載の質量部でブレンドして粘着剤1を作製した。
粘着剤2:表3に記載のアクリル系粘着剤100質量部に対して、表3に記載のイソシアネート系架橋剤を表3に記載の質量部でブレンドして粘着剤2を作製した。
粘着剤3:表3に記載のアクリル系粘着剤60質量部に対して、表3に記載のエポキシ系架橋剤及び希釈溶媒を表3に記載の質量部でブレンドして粘着剤3を作製した。
【0126】
【表3】
【0127】
(6.A層、B層及びC層を備えた積層体の作製)
上述したA層とB層が積層された成形体、D層用の粘着剤、及びC層用の成形体を使用して、表4に記載の積層構造を有する実施例及び比較例の各種積層体を製造した。
D層用の接着剤を使用しない場合は、A層とB層が積層された成形体と、C層用の成形体とを、B層とC層を対向させて160℃で熱ラミネート加工(熱融着)し、A層、B層及びC層をこの順に備えたシート状積層体を作製した。
D層用の接着剤を使用する場合は、A層とB層が積層された成形体のB層にD層用の粘接着剤を塗布し、130℃で乾燥させ、厚さ50μm(dry)のD層を形成した。このD層にC層の成形体を貼り合わせ、A層、B層、D層及びC層をこの順に備えたシート状積層体を作製した。
このようにして作製した実施例及び比較例の各シート状積層体に対して下記に示す各種特性評価を行った。結果は表4に示す。
【0128】
<全光線透過率>
ヘーズメーターNDH7000(日本電色工業社製)を使用し、JIS K7361-1-1997に準拠して、各シート状積層体の全光線透過率を求めた。
【0129】
<HAZE>
ヘーズメーターNDH7000(日本電色工業社製)を使用し、JIS K7136-2000に準拠して、各シート状積層体のHAZE値を測定した。
【0130】
<防汚性>
一般財団法人土木研究センター 防汚材料評価促進試験 防汚材料評価促進試験方法IIIに準拠し、各シート状積層体の試験前後の明度差(ΔL*)を測定し、明度差(ΔL*)の絶対値(|ΔL*|)を防汚性の指標とした。各シート状積層体の明度はA層側から測定した。懸濁液は、指定の材料及び方法で調製したものを用い、試験片の前処理は、指定の方法で行った。明度差(ΔL*)は日本電色工業社製、カラーメーターZE6000を用い、下記式に基づき算出した。得られた明度差(ΔL*)の絶対値(|ΔL*|)を指標として防汚性を評価した。試験前後で明度差(ΔL*)の絶対値(|ΔL*|)が大きい程汚れていることを示す。防汚性が良好であると判断される絶対値(|ΔL*|)は、防汚材料評価促進試験方法IIIの基準では3.2以下であるが、本実施例での評価時には、2.0以上の場合でも、目視で明確に汚染されていると判断できたことから、より厳しい基準として2.0未満を好適とした。絶対値(|ΔL*|)は、より好ましくは1.5以下であり、更に好ましくは1.3以下であり、特に好ましくは1.2以下である。
明度差(ΔL*)=(試験後の平均明度L1 *)-(試験前の平均明度L0 *
【0131】
<接着強度>
各シート状積層体に対して、B層及びC層の間の接着強度を東洋精機製作所製、引張試験機、ストログラフ VE1Dを用い、JIS Z0237-2009記載の引きはがし粘着力の測定、方法1;試験板に対する180°引きはがし粘着力の測定方法に準じ、測定した。この際、引きはがし粘着力が強く、引きはがす前に材料破壊してしまった場合は、>20N/25mmと表示した。
なお比較例13のみ、粘着剤1を介した太陽電池用白色不透明フィルムとアクリル板(三菱ケミカル社製、アクリライトL、色調;無色001)との接着強度を示す。
【0132】
具体的には、まず各シート状積層体のB層/C層間を25mm剥離させ、各シート状積層体を剥離させた方向と直交する方向に25mm幅にカットして、25mm幅の測定用サンプルを作製した。次いで、測定用サンプルをステンレス板に固定し、引きはがし速度300mm/分で180°剥離力を測定し、25~75mm間の平均剥離力をB層/C層間の接着強度(N/25mm)とした。この際、25~75mm間の平均剥離力を算出した。MD/TDが区別できる場合は、MD/TD各々の平均剥離力を算出し、その平均値を用いた。MD/TDが区別できない場合は、任意の方向の平均剥離力を算出し、その値を用いた。B層/C層間の接着強度は、10N/25mm以上を好適とした。10N/25mm未満であると、衝撃試験の際にシート状積層体がB層/C層間の界面で剥離し、飛散防止性の低下が懸念される。B層/C層間の接着強度は、より好ましくは12N/25mm以上であり、更に好ましくは13N/25mm以上であり、特に好ましくは15N/25mm以上である。
【0133】
<荷重-変位線図積分値>
各シート状積層体に対して、東洋精機製作所製、引張試験機、ストログラフ VE1Dを用い、JIS K7161-1994に準拠し、試験速度200mm/min、標線間距離50mm、試験片の幅10mmの条件で、引張特性の試験方法を実施し、荷重-変位線図から変位0mmから50mmまでの積分値(N・m)を算出した。MD/TDが区別できる場合は、MD/TD各々の積分値(N・m)を算出し、その平均値を用いた。MD/TDが区別できない場合は、任意の方向の積分値(N・m)を算出し、その値を用いた。
【0134】
<高速衝撃試験>
各シート状積層体のC層(C層がない場合はB層)を、アクリル系粘着剤(比較例6及び7のみ粘着剤2を使用し、それ以外はすべて粘着剤1を使用した。)を介して、アクリル板(三菱ケミカル社製、アクリライトL、色調;無色001、寸法:120mm×120mm×厚み5mm)の表面(片面又は両面)全体に気泡が入らないように室温下で貼り付け、試験板を得た。次いで、JIS K7211-2:2006に準拠し、株式会社島津製作所の島津ハイドロショット・高速パンクチャー衝撃試験機「HITS-P10」(型式名)を用いて、以下に示す条件で各試験板の積層体貼付面に対して衝撃を与えたときの飛散率を測定した。飛散率は下記式によって算出される値である。なお、参考例1として、積層体を貼付しなかった場合の結果を示した。
<試験条件>
ストライカ速度:4.3m/s
ストライカ先端:φ20mm
試験片受け台のダイス径:φ40mm
飛散率(%)=100-(高速衝撃試験後の試験板重さ/高速衝撃試験前の試験板重さ×100)
【0135】
高速衝撃試験は遮音壁の耐衝撃性試験の簡便な評価方法として実施した。遮音壁の耐衝撃性試験の錘(鉄球)質量300kg(m)、重力加速度9.8m/s2(g)、衝突点からの錘の吊り上げ高さ0.95m(h)より、位置エネルギー(U=mgh=2,793J)を算出し、エネルギー保存の法則(U=K)より、運動エネルギー(K=1/2mv2)に当てはめ、衝突点での錘(鉄球)速度(v=4.3m/s)を算出し、高速衝撃試験でのストライカ速度とした。また遮音壁の耐衝撃性試験で用いた錘(鉄球)の突起直径に近く、JIS K7211-2:2006で定められたストライカ先端径φ20mmを選定した。その結果、高速衝撃試験の結果と遮音壁の耐衝撃性試験の結果は相関することを確認した。
【0136】
<遮音壁の耐衝撃性試験>
各シート状積層体のC層(C層がない場合はB層)を、アクリル系粘着剤(比較例6及び7のみ粘着剤2を使用し、それ以外はすべて粘着剤1を使用した。)を介して、遮音壁を模したPVC透光板(三菱ケミカル社製、ヒシプレート NT300、寸法:1,000mm×2,000mm×厚さ10mmを用い、遮音壁で用いられる金属サッシで周囲を固定。)の表面(片面又は両面)全体に気泡が入らないように室温下で貼り付け、試験板を得た。次いで、NEXCO試験方法 第9編 環境関係試験方法 平成28年8月版「遮音壁の耐衝撃性試験方法」に準拠して、以下に示す条件で各試験板の積層体貼付面に対してショットバッグ試験を実施し、飛散率を測定した。飛散率は下記式によって算出される値である。なお、参考例2として、積層体を貼付しなかった場合の結果を示した。
<試験条件>
錘(鉄球)重量:300kg
衝突点からの錘の吊り上げ高さ:95cm
錘の突起:先端φ24mm×突起長さ50mm
飛散率(%)=100-(高速衝撃試験後の試験板重さ/高速衝撃試験前の試験板重さ×100)
【0137】
【表4-1】
【0138】
【表4-2】
【0139】
<考察>
何れの実施例に係る積層体についても、透明性(全光線透過率、HAZE)、防汚性及び飛散防止性が優れていた。一方、比較例に係る積層体は、これらの特性の少なくとも一つにおいて満足のいく特性が得られなかった。以下に詳細な考察を加える。
【0140】
実施例1~6と比較例1の対比より、A層はPVDFが50質量%未満であり、アクリル系樹脂が50質量%を超えたため、防汚性が低下したことが理解できる。
【0141】
実施例3、7~11と比較例2の対比より、B層はPVDFが50質量%を超え、アクリル系樹脂が50質量%未満のため、B層/C層間の接着強度が低下し、飛散防止性が低下したことが理解できる。
【0142】
実施例3と実施例14の対比、及び実施例12と実施例13の対比より、D層の有無により、物性に変化がないことが理解できる。
【0143】
実施例13~23と比較例3~5の対比より、C層のメーカーや材質によらず、積層体の荷重-変位線図から算出した変位0mmから50mmまでの積分値が1.0N・m(=J)未満の場合、飛散防止性が低下したことが理解できる。
【0144】
実施例17~20と比較例3の対比より、C層が延性破壊を示すと共に、降伏点を有していても、積層体の荷重-変位線図から算出した変位0mmから50mmまでの積分値が、1.0N・m(=J)未満の場合、飛散防止性が低下したことが理解できる。この結果、積層体の積分値が1.0N・m(=J)以上を満たすことが、耐飛散防止性を発現する上で重要と考えられる。
【0145】
実施例13~23と比較例4、5の対比より、C層が脆性破壊を示す場合、積層体の荷重-変位線図から算出した変位0mmから50mmまでの積分値が、1.0N・m(=J)未満となり、飛散防止性が低下したことが理解できる。
【0146】
実施例13~23と比較例6、7の対比より、C層が降伏点を有しない場合、B層/C層の間に粘接着層であるD層を用いてもB層/C層間の接着強度が不十分となり、飛散防止性が低下したことが理解できる。
【0147】
実施例3、12及び24と、比較例8の対比より、C層を設けなかった場合、積層体の荷重-変位線図から算出した変位0mmから50mmまでの積分値が、1.0N・m(=J)未満となり、飛散防止性が低下したことが理解できる。
【0148】
実施例3、14、22~24と、比較例9~12の対比より、A層/B層を設けなかったことで、積層体の防汚性が低下したことが理解できる。
【0149】
実施例3及び25と、比較例13の対比より、全光線透過率、HAZEが高い場合、構造物への施工後に透明性が得られなかったことが理解できる。また粘着剤層との接着性が悪く、被着体への貼り付け後に剥離してしまい、飛散防止性が低下したことが理解できる。
比較例13の太陽電池用白色不透明フィルムとしては、Kynar PGM TRフィルム/PETフィルム/Kynar PGM TRフィルムの積層構造を有するフィルム(アルケマ社製KPKバックシート、厚み330μm)を使用した。なお、KPKバックシートに用いられているKynar PGM TRフィルム(アルケマ社製)は、フッ素ポリマー・顔料混合物の中間層をPVDF100%単独層で挟んだ二種三層構造で、特有の白色を示すことが知られている。KPKバックシートの表層がPVDF100%単独層であるため、粘着剤が剥がれやすく、被着体から剥がれたため、飛散防止性が得られなかったと考えられる。
【0150】
実施例3と、比較例14の対比より、エチレン-テトラフルオロエチレン(ETFE)共重合体の単層フィルム(AGC社製、アフレックス25N1250S、厚み25μm)を用いた場合、C層との接着強度が不十分となり、飛散防止性が低下したことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明の積層体は、その優れた防汚性や飛散防止性などの機械的特性を活かし、上述した構造物へ貼り付けて使用する用途の他、(1)看板用の積層体、(2)建築物の内外装材用の積層体、(3)自動車、原動機付自転車、軽車両及びトロリーバスなどの車両における内装又は外装の意匠性や美観を長期に渡って維持するような合成樹脂表皮材用の積層体、(4)電車や新幹線などの鉄道車両における内装又は外装の意匠性や美観を長期に渡って維持するような合成樹脂表皮材用の積層体、(5)飛行機などの航空機における内装又は外装の意匠性や美観を長期に渡って維持するような合成樹脂表皮材用の積層体、(6)重要文化財の意匠性や美観を長期に渡って維持するような保護材料用の積層体として広く利用できる。
【符号の説明】
【0152】
10、20、30、40 積層体
11 A層
12 B層
13 D層
14 C層
15 E層
16 セパレータ
17 構造物
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図2-1】
図2-2】
図3