(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】ソール構造及びそれを用いたシューズ
(51)【国際特許分類】
A43B 5/06 20220101AFI20230213BHJP
A43B 13/41 20060101ALI20230213BHJP
A43B 13/14 20060101ALI20230213BHJP
【FI】
A43B5/06
A43B13/41
A43B13/14 D
(21)【出願番号】P 2021060946
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2021-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 陽平
【審査官】新井 浩士
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-153355(JP,A)
【文献】国際公開第2010/049983(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0123495(US,A1)
【文献】特開2017-131656(JP,A)
【文献】特開2004-242692(JP,A)
【文献】特開昭58-049101(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0104805(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 5/06
A43B 13/41
A43B 13/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シューズ用のソール構造であって、
着用者の足裏面が位置する側に配置される第1ミッドソール部と、
前記第1ミッドソール部の下側に配置される第2ミッドソール部と、
前記第1ミッドソール部と前記第2ミッドソール部との間に積層配置され、且つ、少なくとも着用者の足の後足部に対応する位置に配置される、前記第1ミッドソール部及び前記第2ミッドソール部よりも剛性の高い支持プレートと、を備え、
前記支持プレートは、
少なくとも1つの山部と少なくとも1つの谷部とを有する波形状に形成された基部と、
前記基部の内側に位置する周縁部から、前記第1ミッドソール部及び前記第2ミッドソール部にそれぞれ向かって互いに離れるように分岐した第1支持部及び第2支持部と、を有し、
前記第1支持部は、上面が前記基部の上面と連続し、且つ、少なくとも1つの山部と少なくとも1つの谷部とを有する波形状に形成されており、
前記第2支持部は、前記第1支持部の下側に位置し、且つ、少なくとも1つの山部と少なくとも1つの谷部とを有する波形状に形成されており、
前記第2支持部の谷部は、着用者の足の載距突起に対応する位置に配置されて
おり、
内側から見た側面視において、着用者の足の載距突起、舟状骨及び内側楔状骨に対応する位置には、前記第2支持部のただ1つの谷部と、前記第2支持部のただ1つの山部とが足長方向に連続して並ぶように配置されており、
内側から見た側面視において、前記第2支持部における前記ただ1つの谷部及び前記ただ1つの山部は、載距突起、舟状骨及び内側楔状骨に対応する位置の足長方向全体に亘る湾曲線を構成している、
ソール構造。
【請求項2】
請求項1に記載のソール構造において、
前記第2支持部の谷部は、該谷部の最下部が、着用者の足の載距突起に対応する位置に配置されている、ソール構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のソール構造において、
前記基部の谷部は、着用者の足の踵骨に対応する位置に配置されており、着用者の足の踵骨に対応する位置で前記ソール構造を足幅方向に沿って切断したときの切断面において、足幅方向略中央の部分が下方に窪んだ椀状に形成されている、ソール構造。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のソール構造において、
前記支持プレートは、着用者の足の中足部に対応する位置から後足部に対応する位置に亘る範囲を含むように配置されており、
前記基部は、着用者の足の第5中足骨の近位骨頭に対応する位置に配置された外側谷部を有し、
着用者の足の第5中足骨の近位骨頭に対応する位置で前記ソール構造を足幅方向に沿って切断したときの切断面において、前記基部の外側谷部は、足幅方向略中央よりも外側寄りに位置する部分が下方に窪んだ椀状に形成されている、ソール構造。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のソール構造において、
前記支持プレートは、着用者の足の中足部に対応する位置から後足部に対応する位置に亘る範囲を含むように配置されており、
前記第1支持部の山部は、着用者の足の内側楔状骨及び舟状骨に対応する位置に配置されている、ソール構造。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のソール構造において、
前記支持プレートは、前記第1支持部と前記第2支持部との間に架け渡された少なくとも1つのリブを有している、ソール構造。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のソール構造を備えたシューズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ソール構造及びそれを用いたシューズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シューズ用のソール構造として、例えば特許文献1のようなソール構造が提案されている。
【0003】
この特許文献1には、軟質弾性部材からなる上部ミッドソールと、上部ミッドソールの下方に配置され、軟質弾性部材からなる下部ミッドソールと、上部ミッドソールと下部ミッドソールとの間に配置され且つ着用者の足の後足部に対応する位置に配置された波形シートと、を備えたシューズ用のソール構造が開示されている。波形シートは、上部ミッドソール及び下部ミッドソール部よりも高い硬度を有する硬質弾性材からなり、波形状を有する1枚の板状部材により構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般的に、効率的でより良い走り心地を好むランナーは、走行中においてランニングシューズが地面又は路面に接地した時(以下「接地時」という)のクッション性をランニングシューズのソール構造に求める傾向にある。すなわち、接地時において主に鉛直上下方向の衝撃(初期衝撃)が着用者の足の後足部(踵部)を中心に生じるようになるが、上記クッション性により上記衝撃が適切に緩和される。
【0006】
これに対し、ソール構造のクッション性を偏重した場合には、ランニングの接地時において載距突起と呼ばれる足の骨に対応する位置において不安定となりやすく、接地後に着用者の足の踵骨が載距突起を起点として内側に過度に倒れ込むといったオーバープロネーションと呼ばれる現象が生じやすくなる。このオーバープロネーションにより踵骨に連動する下肢の様々な部位に負担が生じてしまい、当該部位に慢性的な痛みを伴うランニング障害が起こりうる。
【0007】
ここで、特許文献1のソール構造では、着用者の足の後足部に対応する位置で上記ソール構造を足幅方向に沿って切断したときの切断面において、上部ミッドソール及び下部ミッドソール部の各々は、厚みが足幅方向に沿って略一定となるように構成されている(特許文献1の
図6参照)。また、波形シートの厚みも足幅方向に沿って略一定となるように構成されている。すなわち、上記ソール構造では、クッション性と剛性とが、上記切断面において足幅方向に沿って一様に担保されている。しかしながら、接地時の衝撃を緩和させるためにクッション性を偏重した場合には、着用者の足の載距突起を含む踵骨全体に求められる剛性が不十分となってしまう。その結果、着用者の足の載距突起を含む踵骨全体が不安定になりやすく、上記オーバープロネーションを助長してしまうおそれがある。
【0008】
本開示は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、特にランニングにおいて良好な走り心地を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、第1の開示はシューズ用のソール構造に係るものであり、ソール構造は、着用者の足裏面が位置する側に配置される第1ミッドソール部と、第1ミッドソール部の下側に配置される第2ミッドソール部と、第1ミッドソール部と第2ミッドソール部との間に積層配置され、且つ、少なくとも着用者の足の後足部に対応する位置に配置される、第1ミッドソール部及び第2ミッドソール部よりも剛性の高い支持プレートと、を備えている。支持プレートは、少なくとも1つの山部と少なくとも1つの谷部とを有する波形状に形成された基部と、基部の内側に位置する周縁部から、第1ミッドソール部及び第2ミッドソール部にそれぞれ向かって互いに離れるように分岐した第1支持部及び第2支持部と、を有している。第1支持部は、上面が基部の上面と連続し、且つ、少なくとも1つの山部と少なくとも1つの谷部とを有する波形状に形成されている。第2支持部は、第1支持部の下側に位置し、且つ、少なくとも1つの山部と少なくとも1つの谷部とを有する波形状に形成されている。そして、第2支持部の谷部は、着用者の足の載距突起に対応する位置に配置されている。
【0010】
第1の開示では、ソール構造は第1ミッドソール部と第2ミッドソール部と支持プレートとを備えるので、第1ミッドソール部及び第2ミッドソール部によりソール構造にクッション性を与えつつ、支持プレートにより足裏を安定して支持できる。また、支持プレートは、基部の内側に位置する周縁部から上下に分岐した第1支持部及び第2支持部からなる二重構造を有しているので、足の内側に対応する部分の剛性を特に高くして、内側縦アーチを特に安定して支持できる。そして、第2支持部は、載距突起に対応する位置に配置された谷部を有するので、載距突起に対応する位置では、第2ミッドソール部を薄くできる。すなわち、第2ミッドソール部は、第2支持部の山部の下側よりも谷部の下側で、相対的に薄くなる。その結果、オーバープロネーションの発生の起点である載距突起を支持する部分の剛性を特に高めて、載距突起部分のソール構造の沈み込みを抑制できる。以上の構成により、オーバープロネーションを抑制できる。その結果、良好な走り心地を実現できる。
【0011】
第2の開示では、第1の開示において、第2支持部の谷部は、該谷部の最下部が、着用者の足の載距突起に対応する位置に配置されている。
【0012】
第2の開示では、第2支持部の谷部の最下部が、載距突起に対応する位置に配置されているので、オーバープロネーションの発生の起点である載距突起を支持する部分の剛性を最も高め、オーバープロネーションを抑制できる。その結果、良好な走り心地を実現できる。
【0013】
第3の開示は、第1又は第2の開示において、基部の谷部は、着用者の足の踵骨に対応する位置に配置されており、着用者の足の踵骨に対応する位置でソール構造を足幅方向に沿って切断したときの切断面において、足幅方向略中央の部分が下方に窪んだ椀状に形成されている。
【0014】
第3の開示では、基部の谷部が、踵骨に沿って下方に窪んだ椀状に形成されているので、踵骨に荷重がかかり第1ミッドソール部が後足部に対応する位置で圧縮変形した際に、後足部が基部の谷部で安定して支持される。すなわち、後足部がソール構造に対してずれるのを抑制する。これにより、載距突起と第2支持部の谷部との位置関係が維持され、載距突起部分のソール構造への沈み込みを抑制するという前述の効果を維持できる。その結果、良好な走り心地を実現できる。
【0015】
第4の開示は、第1又は第2の開示において、支持プレートは、着用者の足の中足部に対応する位置から後足部に対応する位置に亘る範囲を含むように配置されており、基部は、第5中足骨の近位骨頭に対応する位置に配置された外側谷部を有し、第5中足骨の近位骨頭に対応する位置でソール構造を足幅方向に沿って切断したときの切断面において、基部の外側谷部は、足幅方向略中央よりも外側寄りに位置する部分が下方に窪んだ椀状に形成されている。
【0016】
第4の開示では、基部の谷部が、第5中足骨の近位骨頭に沿って下方に窪んだ椀状に形成されているので、第5中足骨の近位骨頭に荷重がかかり第1ミッドソール部が第5中足骨の近位骨頭に対応する位置で圧縮変形した際に、中足部の外側領域が基部の谷部で安定して支持される。すなわち、中足部がソール構造に対してずれるのを抑制する。これにより、載距突起と第2支持部の谷部との位置関係が維持され、載距突起部分のソール構造への沈み込みを抑制するという前述の効果を維持できる。その結果、良好な走り心地を実現できる。
【0017】
第5の開示は、第1又は第2の開示において、支持プレートは、着用者の足の中足部に対応する位置から後足部に対応する位置に亘る範囲を含むように配置されており、第1支持部の山部は、着用者の足の内側楔状骨及び舟状骨に対応する位置に配置されている。
【0018】
第5の開示では、第1支持部の山部は、内側楔状骨及び舟状骨に対応する位置に配置されているので、第1支持部の山部が内側縦アーチに沿い、内側縦アーチが安定して支持される。この構成により、オーバープロネーションをさらに抑制できる。その結果、良好な走り心地を実現できる。
【0019】
第6の開示は、第1~第5の開示のいずれか1つにおいて、支持プレートは、第1支持部と第2支持部との間に架け渡された少なくとも1つのリブを有している。
【0020】
第6の開示では、支持プレートは、第1支持部と第2支持部との間に架け渡された少なくとも1つのリブを有しているので、第1支持部及び第2支持部が互いに近づくように変形するのを抑制できる。これにより、載距突起部分のソール構造への沈み込みを抑制するという効果がさらに高くなる。その結果、良好な走り心地を実現できる。
【0021】
第7の開示は、第1~第6の開示のいずれか1つにおいて、ソール構造を備えたシューズである。
【0022】
第7の開示では、第1~第6の開示の効果を奏するシューズが得られる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本開示によると、特にランニングにおいて良好な走り心地を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施形態に係るソール構造を示す全体斜視図である。
【
図2】実施形態に係るソール構造の各構成を示す分解斜視図である。
【
図3】着用者の足の骨格構造を、実施形態に係るソール構造と重ね合わせた状態を仮想的に示す平面図である。
【
図4】実施形態に係るソール構造を底面側から見て示す斜視図である。
【
図5】実施形態に係るソール構造を内側から見て示す側面図である。
【
図6】実施形態に係るソール構造を外側から見て示す側面図である。
【
図8】支持プレートを外側から見て示す側面図である。
【
図9】支持プレートを内側から見て示す側面図である。
【
図13】
図3のXIII-XIII線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0026】
[実施形態]
≪ソール構造≫
図1は、本開示の実施形態に係るソール構造1の全体を示している。このソール構造1を備えたシューズは、例えばランニング用や各種競技用のスポーツシューズとして使用される。
【0027】
ここで、ソール構造1は、左足用シューズのソール構造のみを例示している。右足用シューズのソール構造は、左足用シューズのものと左右対称となるように構成されている。このため、以下の説明では、左足用シューズのソール構造1のみについて説明し、右足用シューズのソール構造の説明を省略する。
【0028】
以下の説明において、上側(上方)及び下側(下方)とは、ソール構造1の上下方向の位置関係を表すものとする。具体的に、上側(上方)は、ソール構造1において後述する足裏当接面が位置する側を指すものとする。下側(下方)は、ソール構造1において後述するアウトソールが位置する側を指すものとする。また、前側及び後側とは、ソール構造1の足長方向の位置関係を表すものとする。具体的に、前側は、ソール構造1において着用者の足ftの爪先部分に対応する位置の側(
図3参照)を指すものとする。後側は、ソール構造において着用者の足ftの踵部に対応する位置の側(
図3参照)を指すものとする。また、内側及び外側とは、ソール構造1を備えたシューズにおいて、それぞれ内甲側及び外甲側を指すものとする。すなわち、足長方向から見た足の中心(足幅方向中心)に対して、逆足に向かう方向を内側、逆足から離れる方向を外側という。また、
図3では、ソール構造1において、ソール構造1を備えたシューズを着用したもの(以下「着用者」という)の足ftの前足部に対応する範囲を符号Fにより示し、着用者の足ftの中足部に対応する範囲を符号Mにより示し、着用者の足ftの後足部に対応する範囲を符号Hにより示すものとする。
【0029】
また、「載距突起SC」とは、一般的に、足ftの骨の一部であって、足ftの踵骨HLの足長方向略中央よりも前側に位置し且つ略足幅方向において内側に向かって略水平に突出した突起を指す。以下の説明において、ソール構造1の各要素を説明する便宜上、「載距突起SC」を除いた部分を「踵骨HL」と呼称する。
【0030】
<アウトソール>
ソール構造1は、アウトソール2を備えている(
図1~
図6参照)。アウトソール2は、ソール構造1において足ftの前足部Fから後足部Hに亘る範囲に対応して配置されている。
【0031】
アウトソール2は、後述するミッドソール3よりも高硬度の硬質弾性部材により構成されている。具体的に、アウトソール2の材料としては、例えばエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等の熱可塑性合成樹脂、ポリウレタン(PU)等の熱硬化性樹脂、又はブタジエンラバーやクロロプレンラバー等のラバーが適している。アウトソール2の硬度は、デュロメーターCまたはAにおいて、例えば50C~80A(より好ましくは60A~70A)に設定されるのが好ましい。
【0032】
<ミッドソール>
ソール構造は1、ミッドソール3を備えている(
図1~
図6参照)。ミッドソール3は、足裏面を支持するように構成されている。ミッドソール3は、例えば接着剤によりアウトソール2の上側に積層配置される。なお、ソール構造1を備えたシューズでは、足ftを覆うためのアッパー(図示せず)が、ミッドソール3の周縁(後述する足裏当接面の周縁)に設けられている。
【0033】
ミッドソール3は、第1ミッドソール部4及び第2ミッドソール部5により構成されている。第1ミッドソール部4及び第2ミッドソール部5は、アウトソール2よりも剛性が低い軟質の弾性材により形成されている。具体的に、第1ミッドソール部4及び第2ミッドソール部5の材料としては、例えばエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等の熱可塑性合成樹脂やその発泡体、ポリウレタン(PU)等の熱硬化性樹脂やその発泡体、ブタジエンラバーやクロロプレンラバー等のラバーやその発泡体などが適している。
【0034】
第1ミッドソール部4は、ソール構造1において足裏全体に対応する位置に配置されている。第1ミッドソール部4は、足ftが位置する側に配置されている(
図5及び
図6参照)。第1ミッドソール部4の上面は、着用者の足裏面を支持するための足裏当接面6として構成されている。
【0035】
第2ミッドソール部5は、ソール構造1において中足部Mに対応する位置から後足部Hに対応する位置に亘る範囲に配置されている。第2ミッドソール部5は、後述する支持プレート9を挟んで、アウトソール2が位置する側に配置されている。第2ミッドソール部5には、第2ミッドソール部5の一部が厚み方向に貫通する孔部7が設けられている(
図2、
図4、
図10~
図13参照)。
【0036】
<支持プレート>
ソール構造1は、支持プレート9を備えている(
図1~
図3参照)。支持プレート9は、ソール構造1において中足部Mに対応する位置から後足部Hに対応する位置に亘る範囲に配置されている(
図3参照)。
図10~
図13に示すように、支持プレート9は、第1ミッドソール部4と第2ミッドソール部5との間に積層配置されている。
【0037】
支持プレート9は、ソール構造1において中足部Mに対応する位置から後足部Hに対応する位置に亘る範囲の剛性を高めるための部材である。支持プレート9は、アウトソール2及びミッドソール3よりも剛性の高い薄肉層からなり、好ましくは硬質弾性材により構成されている。
【0038】
硬質弾性材の具体例としては、熱可塑性ポリウレタン(TPU)やポリアミドエラストマー(PAE)、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂、又はエポキシ樹脂等や不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。なお、炭素繊維やアラミド繊維、ガラス繊維等を強化用繊維とし、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とした繊維強化プラスチック(FRP)を用いてもよい。
【0039】
図2及び
図7に示すように、支持プレート9は、基部10と、第1支持部11及び第2支持部12と、を有している。基部10と、第1支持部11及び第2支持部12とは互いに一体に形成されている。
【0040】
<基部>
基部10は、略板状に形成されている。基部10は、山部10aと谷部10cとが足長方向に交互に繰り返される波形状に形成されている(
図10参照)。
【0041】
山部10aは、中足部Mに対応する位置に形成されている(
図10参照)。山部10aは、足ftの土踏まずの形状に沿うように形成されている。
【0042】
谷部10cは、踵骨HLに対応する位置に形成されている(
図10参照)。基部10の谷部10cは、踵骨HLに対応する位置を下方から支持している。谷部10cは踵骨HLに対応する位置でソール構造1を足幅方向に沿って切断したときの切断面において、足幅方向略中央の部分が下方に窪んだ椀状に形成されている(
図13参照)。
【0043】
なお、
図10に示される谷部10cの最下部は、足裏当接面6の後端部から、足裏当接面6の足長方向長さの10~20%の長さ分前側にいった領域にあるのが好ましく、
図13に示される谷部10cの最下部は、支持プレート9の足幅方向内側端部から支持プレート9全体幅の45~55%の長さ分だけ足幅方向外側にいった領域(すなわち、幅方向略中央)にあるのが好ましい(
図13参照)。
【0044】
基部10は、第5中足骨MT5の近位骨頭(
図3参照)に対応する位置でソール構造1を足幅方向に切断したときの切断面(
図11参照)において、外側が下方に窪んで形成された、外側谷部10bを有する。すなわち、この外側谷部10bは、第5中足骨MT5の近位骨頭に対応する位置を下方から支持している。この外側谷部10bは、足幅方向略中央よりも外側寄りに位置する部分が下方に窪んだ椀状に形成されている(
図11参照)。
【0045】
図2及び
図6~
図8に示すように、基部10には、側壁部13が設けられている。側壁部13は、基部10の外側に位置する周縁部から上方に向かって立ち上がるように形成されている(
図11及び
図12参照)。側壁部13は、足長方向に沿って延びている。側壁部13は、ソール構造1において足ftの外側縦アーチに対応する位置に配置されている(
図6参照)。
【0046】
<第1支持部及び第2支持部>
第1支持部11及び第2支持部12は、ソール構造1を足幅方向に沿って切断したときの切断面において、基部10の内側に位置する周縁部から第1ミッドソール部4及び第2ミッドソール部5の内側に位置する周縁部にそれぞれ向かって、互いに離れるように分岐している(
図11~
図13参照)。すなわち、支持プレート9は、内側において板状部分が上下に分岐した二重構造を有している。この二重構造は、少なくとも載距突起SCに対応する位置から内側楔状骨CMに対応する位置に亘る範囲に形成されている。
【0047】
内側から見た側面視において、第1支持部11の前部と第2支持部12の前部とは上下に重なっている(
図5、
図7及び
図9参照)。また、第1支持部11の後部と第2支持部12の後部とは上下に重なっている。そして、第1支持部11及び第2支持部12は、各々の中途部が上下方向に互いに間隔をあけた状態となっている。
【0048】
第1支持部11は、山部11aと谷部11bとが足長方向に交互に繰り返される波形状に形成されている(
図5、
図7及び
図9参照)。第1支持部11の上面は、基部10の上面と連続している。
【0049】
ここで、基準線L1は、支持プレート9を内側から見た側面視において、第1支持部11を構成する波形状の基準となる線(仮想線)である(
図7及び
図9参照)。第1支持部11の山部11aは基準線L1よりも上側に位置する一方、第1支持部11の谷部11bは基準線L1よりも下側に位置している。
【0050】
第1支持部11の山部11aは、内側楔状骨CM及び舟状骨NBに対応する位置に配置されている(
図5参照)。すなわち、第1支持部11の山部11aは、足ftの内側縦アーチの最も高い部分を下方から支持するように構成されている。なお、一般的に、内側縦アーチは、拇趾中足骨、内側楔状骨CM、舟状骨NB、距骨及び踵骨HLにより構成される部位(いわゆる土踏まず)に相当する。
【0051】
第2支持部12は、第1支持部11の下側に位置している(
図5、
図7及び
図9)。第2支持部12は、山部12aと谷部12bとが足長方向に交互に繰り返される波形状に形成されている。本実施形態において、第2支持部12を構成する波形状は、第1支持部11を構成する波形状と異なっている。例えば、第1支持部11の山部11a及び第2支持部12の山部12aの位置は、足長方向で互いに少しずれている(
図5及び
図7参照)。
【0052】
基準線L2は、支持プレート9を内側から見た側面視において、第2支持部12を構成する波形状の基準となる線(仮想線)である(
図5、
図7及び
図9参照)。基準線L2は、基準線L1よりも下側に位置している。基準線L2は、足長方向に沿って基準線L1と略平行に延びている。第2支持部12の山部12aは基準線L2よりも上側に位置する一方、第2支持部12の谷部12bは基準線L2よりも下側に位置している。
【0053】
第2支持部12の山部12aは、内側楔状骨CMに対応する位置に配置されている(
図5及び
図11参照)。すなわち、第2支持部12は、山部12aが内側楔状骨CMに対応する位置を下側で支持するように構成されている。なお、第2支持部12の山部12aは、第1中足骨MT1の近位骨頭と内側楔状骨CMとの関節(リスフラン関節)に対応する位置を含むように配置されていてもよい。
【0054】
本開示の特徴として、第2支持部12の谷部12bは、載距突起SCに対応する位置に配置されている(
図5及び
図12参照)。具体的に、第2支持部12の谷部12bは、その最下部が、載距突起SCに対応する位置の下側に位置するように配置されている。すなわち、第2支持部12の谷部12bは、載距突起SCに対応する位置を下方から支持するように構成されている。また、ソール構造1において載距突起SCに対応する位置では、第2ミッドソール部5の、第2支持部12の谷部12bの下側に位置する部分の厚みが相対的に薄くなっている。なお、
図12では、後述するリブ14の図示を省略している。
【0055】
<リブ>
支持プレート9は、複数のリブ14を有している(
図5、
図7及び
図9参照)。複数のリブ14は、支持プレート9と同じ材料からなる。複数のリブ14は、支持プレート9と一体に形成されている。各リブ14は、第1支持部11と第2支持部12との間に架け渡されている。足長方向に隣り合うリブ14,14同士は、各々の上端部が第1支持部11の下面の位置で連続するように配置されている。また、足長方向に隣り合うリブ14,14同士は、各々の下端部が第2支持部12の上面の位置で連続するように配置されている。
【0056】
[実施形態の作用効果]
一般的に、効率的でより良い走り心地を好むランナーは、走行中においてランニングシューズが地面又は路面に接地した時(以下「接地時」という)のクッション性をランニングシューズに求める傾向にある。すなわち、接地時において主に鉛直上下方向の衝撃(初期衝撃)が着用者の足ftの後足部H(踵部)を中心に生じるようになるが、上記クッション性により上記衝撃が適切に緩和される。これに対し、クッション性を偏重した場合には、接地後において着用者の足ftの踵骨HLが内側に倒れ込むといったプロネーションと呼ばれる現象が起こりやすくなる。
【0057】
ここで、プロネーションのメカニズムを具体的に説明する。一般的に、ランニングにおいて足ftにかかる荷重(体重)は、主に脛骨よび距骨を介して載距突起SCに強く加わることになる。このため、ランニング時の荷重が載距突起SCに集中すると、載距突起SCが不安定となり、踵骨HLが内側に倒れ込むように動作する。通常、このような倒れ込む動作を抑制するように、足ftの内側縦アーチにおける筋群の張力が載距突起SCを支えている。これにより、接地時の衝撃が適切に緩和される。しかしながら、内側縦アーチにおける筋群の張力が不十分である場合、或いは、足ftの骨及び関節の配列(いわゆる骨格アライメント)が適正でない場合には、オーバープロネーションと呼ばれる過度の踵骨HLの倒れ込む動作が生じてしまう。このオーバープロネーションは、足関節の構造上、踵骨HLが倒れ込む動作と同時に下腿の内旋も生じさせる。その結果、膝関節近傍及び/又は股関節近傍の筋肉及び靭帯にも過度なストレスを与えることになる。すなわち、オーバープロネーションが生じると、踵骨HLに連動する下肢の様々な部位に負担が生じてしまい、当該部位に慢性的な痛みを伴うランニング障害が起こりうる。このように、載距突起SCが、プロネーションが発生する起点となる。そして、上記オーバープロネーションを抑制するためには、ランニングにおいて載距突起SCを安定的に支持することが重要となる。
【0058】
このような知見に基づき、本実施形態に係るソール構造1は、以下のような構成にした。すなわち、ソール構造1は、第1ミッドソール部4と第2ミッドソール部5と、両者4,5間に積層配置された支持プレート9とを備え、支持プレート9は、基部10の内側に位置する周縁部から、第1ミッドソール部4及び第2ミッドソール部5にそれぞれ向かって互いに離れるように分岐した第1支持部11及び第2支持部12と、を有している。この構成によれば、軟質の第1ミッドソール部4及び第2ミッドソール部5によりソール構造1にクッション性を与えつつ、硬質の支持プレート9により足裏を安定して支持できる。また、支持プレート9は、基部10の内側に位置する周縁部から上下に分岐した第1支持部11及び第2支持部12からなる二重構造を有しているので、足ftの内側に対応する部分の剛性を特に高くして、足ftの内側縦アーチを特に安定して支持できる。そして、第2支持部12は、載距突起SCに対応する位置に配置された谷部12bを有するので、載距突起SCに対応する位置では、第2ミッドソール部5を薄くできる。すなわち、第2ミッドソール部5は、第2支持部12の山部12aの下側よりも谷部12bの下側で、相対的に薄くなる(
図11及び
図12参照)。その結果、オーバープロネーションの発生の起点である載距突起SCを支持する部分の剛性を特に高めて、載距突起SC部分のソール構造1の沈み込みを抑制できる(
図12参照)。以上の構成により、オーバープロネーションを抑制できる。その結果、良好な走り心地を実現できる。
【0059】
また、本実施形態では、第2支持部12の谷部12bの最下部が、載距突起SCに対応する位置に配置されているので、オーバープロネーションの発生の起点である載距突起SCを支持する部分の剛性を最も高め、オーバープロネーションを抑制できる。その結果、良好な走り心地を実現できる。
【0060】
また、本実施形態では、基部10の谷部10cが、踵骨HLに沿って下方に窪んだ椀状に形成されているので、踵骨HLに荷重がかかり第1ミッドソール部4が後足部Hに対応する位置で圧縮変形した際に、後足部Hが基部10の谷部10cで安定して支持される。すなわち、後足部Hがソール構造1に対してずれるのを抑制する。これにより、載距突起SCと第2支持部12の谷部12bとの位置関係が維持され、載距突起SC部分のソール構造1への沈み込みを抑制するという前述の効果を維持できる。その結果、良好な走り心地を実現できる。
【0061】
また、本実施形態では、基部10の外側谷部10bが、第5中足骨MT5の近位骨頭に沿って下方に窪んだ椀状に形成されているので(
図11参照)、第5中足骨MT5の近位骨頭に荷重がかかり第1ミッドソール部4が第5中足骨MT5の近位骨頭に対応する位置で圧縮変形した際に、中足部Mの外側領域が基部10の外側谷部10bで安定して支持される。すなわち、中足部Mがソール構造1に対してずれるのを抑制する。これにより、載距突起SCと第2支持部12の谷部12bとの位置関係が維持され、載距突起SC部分のソール構造1への沈み込みを抑制するという効果を維持できる。その結果、良好な走り心地を実現できる。
【0062】
また、本実施形態では、第1支持部11の山部11aは、内側楔状骨CM及び舟状骨NBに対応する位置に配置されているので、第1支持部11の山部11aが内側縦アーチに沿い、内側縦アーチが安定して支持される。この構成により、オーバープロネーションをさらに抑制できる。その結果、良好な走り心地を実現できる。
【0063】
また、本実施形態では、支持プレート9は、第1支持部11と第2支持部12との間に架け渡された少なくとも1つのリブ14を有しているので、第1支持部11及び第2支持部12が互いに近づくように変形するのを抑制できる。これにより、載距突起SC部分のソール構造1への沈み込みを抑制するという効果がさらに高くなる。その結果、良好な走り心地を実現できる。
【0064】
[その他の実施形態]
上記実施形態では、第2支持部12の谷部12bは、その最下部が、載距突起SCに対応する位置の下側に位置するように配置されているが、第2支持部12の谷部12bの最下部は、載距突起SCの真下から少しずれていてもよい。載距突起SCの下側に第2支持部12の谷部12bが位置していればよい。
【0065】
また、上記実施形態では、隣り合うリブ14,14同士の上端部が第1支持部11の下面で連続し、隣り合うリブ14,14同士の下端部が第2支持部12の上面で連続するが、リブ14の構成はこれに限られない。リブ14は、第1支持部11及び第2支持部12が互いに近づくように変形するのを抑制できるような構成であればよい。
【0066】
以上、本開示についての実施形態を説明したが、本開示は上述の実施形態のみに限定されず、本開示の範囲内で種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本開示は、例えばランニングや各種競技に適用されるシューズ用のソール構造1及びそれを用いたシューズとして産業上の利用が可能である。
【符号の説明】
【0068】
1:ソール構造
4:第1ミッドソール部
5:第2ミッドソール部
9:支持プレート
10:基部
10a:基部の山部
10b:基部の外側谷部
10c:基部の谷部
11:第1支持部
11a:第1支持部の山部
11b:第1支持部の谷部
12:第2支持部
12a:第2支持部の山部
12b:第2支持部の谷部
14:リブ