IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ラボラトワール・エム・アンド・エルの特許一覧 ▶ センター ナショナル ド ラ ルシェルシュ サイエンティフィークの特許一覧 ▶ ユニヴェルシテ・コート・ダジュールの特許一覧

特許7225372皮膚の老化の兆候に有効であるホワイトファーの木の枝の精油の使用
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】皮膚の老化の兆候に有効であるホワイトファーの木の枝の精油の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9767 20170101AFI20230213BHJP
   A61K 8/31 20060101ALI20230213BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20230213BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20230213BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20230213BHJP
【FI】
A61K8/9767
A61K8/31
A61K8/37
A61Q19/08
A61Q17/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021504154
(86)(22)【出願日】2019-06-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-13
(86)【国際出願番号】 FR2019051557
(87)【国際公開番号】W WO2020021175
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-01-22
(31)【優先権主張番号】1856839
(32)【優先日】2018-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517121892
【氏名又は名称】ラボラトワール・エム・アンド・エル
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】520100435
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・コート・ダジュール
【氏名又は名称原語表記】Universite Cote d’Azur
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アンヌ-ソフィ・ブヴィル
(72)【発明者】
【氏名】グザヴィエ・フェルナンデス
(72)【発明者】
【氏名】パスカル・ポルテ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-シャルル・ロメ
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-224073(JP,A)
【文献】国際公開第2005/046632(WO,A2)
【文献】特開2016-079186(JP,A)
【文献】特開2008-074743(JP,A)
【文献】特開2006-104117(JP,A)
【文献】国際公開第2003/084302(WO,A2)
【文献】特開2010-100658(JP,A)
【文献】FLAVOUR AND FRAGRANCE JOURNAL,2007年,Vol.22,PP.293-299
【文献】Softening Foot Cream,(ID#)5251407,Mintel GNPD,2017年11月,<https://www.gnpd.com>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Japio-GPG/FX
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シルバーファー(Abies alba)の枝の精油から構成され、前記精油が、主成分としてリモネン、並びに第二成分としてアルファ-ピネン、カンフェン、及び酢酸ボルニルを、ガスクロマトグラフィーによる測定で2:1から20:1の範囲の、リモネンの酢酸ボルニルに対するモル比で含む、顔、首及び/又はデコルテに適用され、エラスチンの分解によって起こる皮膚の老化の兆候に対処することを目的とするエラスターゼ阻害剤。
【請求項2】
精油が、皮膚の弾性線維の分解、皮膚のたるみ、及び/又は皮膚の弾力性の喪失、及び/又はしわの出現を制限及び/又は減少させるために使用される、請求項1に記載のエラスターゼ阻害剤。
【請求項3】
精油が、欧州、好ましくは仏国で成長したシルバーファーの枝のハイドロ蒸留又は水蒸気蒸留、好ましくはハイドロ蒸留によって得られる、請求項1又は2に記載のエラスターゼ阻害剤。
【請求項4】
リモネンの酢酸ボルニルに対するモル比が、ガスクロマトグラフィーによる測定で5:1から10:1の範囲である、請求項1から3のいずれか一項に記載のエラスターゼ阻害剤。
【請求項5】
ガスクロマトグラフィーによる測定で、カンフェンのアルファ-ピネンに対するモル比は、0.5:1及び2:1の間、好ましくは1:1及び1.5:1の間に含まれ、並びに/又はカンフェンの酢酸ボルニルに対するモル比は、1:1及び5:1の間、好ましくは2:1及び3:1の間に含まれる、請求項4に記載のエラスターゼ阻害剤。
【請求項6】
精油が、皮膚への局所適用に適した化粧品組成物、好ましくは抗老化、抗しわ、及び/又は日焼け止め組成物中に含まれる、請求項1から5のいずれか一項に記載のエラスターゼ阻害剤。
【請求項7】
精油が、組成物の総質量を基準にして、0.001から5質量%、及び優先的には0.01から0.5質量%存在する、請求項6に記載のエラスターゼ阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の老化の兆候に対処するための、特に、皮膚の弾性線維の分解、皮膚のたるみ、及び/又は皮膚の弾力性の喪失、及び/又はしわの出現を制限及び/又は減少させるための、エラスターゼ阻害剤としてのシルバーファー(Abies alba)の精油の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、相互に接触する2つの区画を含み、一方は表面の表皮、及び他方はより深くの真皮である。天然のヒトの表皮は、主として3種類の細胞、すなわち、大多数であるケラチノサイト、メラノサイト、及びランゲルハンス細胞から構成される。真皮は、表皮に硬い支持を提供する。真皮は、栄養成分でもある。真皮は、主として、線維芽細胞、並びに主にコラーゲン、エラスチン、及び物質(硫酸化(例えば、コンドロイチン硫酸)グリコサミノグリカン又は非硫酸化グリコサミノグリカン(例えば、ヒアルロン酸)、プロテオグリカン、及び様々なプロテアーゼを含む基質として知られる)から構成される細胞外基質からなる。これらの構成要素は、線維芽細胞によって合成される。白血球、肥満細胞、及び組織マクロファージも存在する。最終的には、真皮は、血管及び神経線維と交わる。表皮及び真皮の間の結合は真皮-表皮接合部によって提供される。
【0003】
真皮の構成要素の中で、エラスチンは、皮膚の弾力性及び柔軟性において必要不可欠な役割を果たすタンパク質である。
【0004】
化学、物理、細菌由来であってもよい表在性皮膚ストレスの間、表皮の表層中のケラチノサイトが、特定の浸潤性皮膚細胞を引き付ける能力を有する生物学的メディエーターを放出することが知られており、生物学的メディエーター自体は一時的な局所の炎症の維持の原因である。炎症を起こした領域又は攻撃された領域に浸潤した、これらの細胞は、次いで酵素を放出し、上述の酵素は白血球エラスターゼを含み得る。この酵素の作用下において、結合組織の弾性細胞外補助線維(elastic extracellular support fibers)は分解され得る。従って、長期的に見ると、表在性皮膚マイクロストレス、例えば紫外線への長期にわたる曝露、又は刺激物質によって起こされるマイクロストレス、の総和は、結合組織の弾性線維によって形成されるネットワークの破壊を引き起こし得る。結果は、皮膚の弾力性及び柔軟性の喪失、並びにしわの強調である。
【0005】
本発明の目的は、この問題に対する解決策を提案することであり、特に、皮膚の老化、特にエラスチンの分解によって起こる老化、を制限する化粧品において有用な新しい化合物を提案することである。
【0006】
この目的を達成するために、本出願人は、シルバーファー(Abies alba)の精油が、抗エラスターゼ活性を有し、この生物学的標的に作用すると思われているその他の植物抽出物よりも優れていることを実証した。
【0007】
コモンファー(common fir)又はヨーロピアンシルバーファー(European silver fir)とも呼ばれるシルバーファーは、植物学用語Abies alba Mill.(又はAbies pectinata Lam. DC、又はAbies excelsa Lam.、又はPinus picea L.、又はAbies picea L.)によって知られている。それは欧州を原産とする、枝が、常緑の針葉(又は葉)、及び苞葉を有する球果(松かさ)を有する針葉樹である。
【0008】
シルバーファー球果の精油は、香水において知られている(D.L.J. Opdyke, Monographs on Fragrance Raw Materials, Pergamon Press, 1979)。さらに、アジア由来のシルバーファーの枝及び針葉の水蒸気蒸留によって得られる精油は、抗ラジカル特性を有するといわれている(SA Yang et al., Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition, 2009, 44(3), 253-259)。しかしながら、皮膚の老化の処置における使用を可能にするであろう、この精油の抗エラスターゼ効果は示唆されていない。
【0009】
さらに、化粧目的で、シルバーファーの精油以外に枝及び/又は葉の抽出物を使用することが示唆されてきた。特に、国際公開第2017/044050号は、沸騰水を用いたシルバーファーの枝からの抽出及び水相の回収によって得られるポリフェノールの抗しわ活性物質としての使用を開示している。また、FR 1 525 945は、アルコール抽出によって得られるシルバーファーの葉の抽出物の抗老化活性物質としての使用を開示している。
【0010】
最後に、シルバーファーでないファーの木由来の抽出物の抗エラスターゼ特性は、JP 2014-224073に記載された。この文献に記載された方法は、特にトドマツ(Abies mariesii)のグリコール抽出物を使用する。
【0011】
従って、本出願人の知る限りでは、シルバーファーの枝由来の精油はエラスターゼを阻害することができ、結果として、皮膚の老化の兆候に有効であることを目的とした化粧品組成物において使用され得ることは示唆されたことはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2017/044050号
【文献】FR 1 525 945
【文献】JP 2014-224073
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、目的として、皮膚の老化の兆候に有効であるエラスターゼ阻害剤としてのシルバーファー(Abies alba)の枝の精油の使用を有する。
【0014】
本発明は、目的として、シルバーファー(Abies alba)の枝の精油を含む化粧品組成物の皮膚への局所適用を含む、皮膚の老化の兆候に対処するための、特に、皮膚の弾性線維の分解、皮膚のたるみ、及び/又は皮膚の弾力性の喪失、及び/又はしわの出現を制限及び/又は減少させるための美容方法も有する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、シルバーファーの枝の精油を使用する。
【0016】
本明細書において、「枝」は、全ての枝と、及び球果を除く、枝が有する針葉とを意味すると理解される。本明細書において、「精油」は、蒸留、すなわち、シルバーファーの枝に存在する揮発性有機化合物の乾留、又はハイドロ蒸留(hydrodistillation)、又は水蒸気蒸留(steam distillation)生成物を意味すると理解される。ハイドロ蒸留及び水蒸気蒸留の方法は、本発明における使用に関して好ましい。これらの方法において、植物に含まれる匂い分子は放出され、植物が加えられた水を沸騰させることによって形成された(古典的ハイドロ蒸留)、又は植物に含まれる水を沸騰させることによって形成された(マイクロ波ハイドロ蒸留)、又はボイラーによって供給され植物中を循環させられた(水蒸気蒸留)、いずれかの水蒸気と機械的に同伴される。これらの方法は、場合によっては、真空下又は加圧下で行われ得る。
【0017】
より優先的には、本発明によって使用される精油は、ハイドロ蒸留によって得られる。ハイドロ蒸留方法は、1から48時間、好ましくは3から24時間、よりよくは6から12時間の時間、行われ得る。実際に、蒸留時間が2日よりも長い場合、シルバーファーの精油の抗エラスターゼ活性は減少することが観察された。
【0018】
この精油は、有利には、欧州、好ましくは仏国で成長したシルバーファーの枝に由来し、その結果、リモネン、アルファ-ピネン、及びカンフェンの大多数の存在(合計で、精油の50%よりも多く存在)、並びに酢酸ボルニルの中程度の含有量によって、その他のファーの種又は同じ種だがアジアに由来するファーの精油と、組成が異なる。
【0019】
より詳細には、本発明によって使用される精油は、主成分としてリモネン、並びに第二成分としてアルファ-ピネン、カンフェン、及び酢酸ボルニルを、ガスクロマトグラフィーによる測定で2:1から20:1、好ましくは5:1から10:1の範囲の、リモネンの酢酸ボルニルに対するモル比で含む。
【0020】
また、ガスクロマトグラフィーによる測定で、カンフェンのアルファ-ピネンに対するモル比は、一般に0.5:1及び2:1の間、好ましくは1:1及び1.5:1の間に含まれ、並びに/又はカンフェンの酢酸ボルニルに対するモル比は、1:1及び5:1の間、好ましくは2:1及び3:1の間に含まれる。
【0021】
シルバーファーの枝の精油は、白血球エラスターゼを阻害することによって皮膚の老化の兆候に有効であり、より具体的には、皮膚の弾性線維の分解、皮膚のたるみ、及び/又は皮膚の弾力性の喪失、及び/又はしわの出現を制限及び/又は減少させるために使用することができる。
【0022】
それは一般に、皮膚への局所適用に適した化粧品組成物中に含まれる。シルバーファーの枝の精油は、有利には、本発明による組成物の総質量を基準にして、0.001から5質量%、及び優先的には0.01から0.5質量%存在する。
【0023】
この組成物は、一般に、生理的に許容可能な、特に化粧品的に許容可能な、すなわち、化粧的使用と相容れないヒリヒリ感又は赤みを起こさない、不快な匂いを有さない、及び局所の投与経路に相容れる、媒体を含む。この媒体は、好ましくは、水相と場合によっては混じった脂肪相を含む。従って、組成物は、無水形態(多くても5質量%の水を含む)、水中油型若しくは油中水型エマルション又は水中油型分散体の形態で提供され得る。
【0024】
存在する場合、水相は、水、並びに場合によってはポリオール及び水性ゲル化剤から選択される少なくとも1つの成分、を含む。水は、有利には、組成物の総質量の40から80%存在する。ポリオールは、特に、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、及びそれらの混合物から選択され得り、ポリオールは組成物の総質量の3から30%存在し得る。
【0025】
「水性ゲル化剤」は、水和及びその結果、水相の粘性を増加させることによって、水分子を固定することができる高分子化合物を指す。そのようなゲル化剤は、多糖(例えば、セルロース及びその誘導体、加工デンプン、カラギナン、寒天、キサンタンガム及び植物ガム(グアー又はローカストビーンガム等));合成ポリマー、特に、場合によっては架橋されたアクリル酸ナトリウムホモポリマー(sodium acrylate homopolymers)、及びアクリル共重合体(場合によっては少なくとも一つのその他のモノマー、有利には、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)を有する)、特に、アクリル酸ナトリウム及び/又は(メタ)アクリル酸アルキル及び/又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル及び/又は(メタ)アクリル酸(ポリエトキシ)アルキルの共重合体(これらの共重合体は場合によっては架橋されている);並びにそれらの混合物から選択され得る。
【0026】
また、脂肪相は、1又はそれよりも多くの揮発性及び/又は非揮発性油を含んでもよい。揮発性油の例は、分岐アルカン(イソドデカン等)及び直鎖C10-C13アルカンである。非揮発性油として、以下を含み得る:
-以下から選択される、酸及びモノアルコールのエステル:直鎖飽和C2-C10(好ましくはC6-C10)酸及び直鎖飽和C10-C18(好ましくはC10-C14)モノアルコールのモノ-及びポリエステル、直鎖飽和C10-C20酸及び分岐又は不飽和C3-C20(好ましくはC3-C10)モノアルコールのモノ-及びポリエステル、分岐又は不飽和C5-C20酸及び分岐又は不飽和C5-C20モノアルコールのモノ-及びポリエステル、分岐又は不飽和C5-C20酸及び直鎖C2-C4モノアルコールのモノ-及びポリエステル;
-C6-C12脂肪酸トリグリセライド(カプリル酸及びカプリン酸トリグリセライド、並びにトリヘプタノイン等);
-分岐及び/又は不飽和C10-C20脂肪酸(リノール酸、ラウリン酸、及びミリスチン酸等);
-分岐及び/又は不飽和C10-C20脂肪族アルコール(オクチルドデカノール及びオレイルアルコール);
-炭化水素(スクアラン(C30)、特にオリーブオイルから抽出された植物スクアラン、及びヘミスクアラン(C15)等);
-炭酸ジアルキル(炭酸ジカプリリル及び炭酸ジエチルへキシル等)
-ジアルキルエーテル(ジカプリリルエーテル等)、並びに
-それらの混合物。
1又はそれよりも多くの上述した構成成分を含む植物油も含み得る。
【0027】
酸及びモノアルコールのエステルとして、ココナッツカプリン酸エステル及びカプリル酸エステル(coconut caprate and caprylate)の混合物、エチルマカダミエート(ethyl macadamiate)、シア脂エチルエステル(shea butter ethyl ester)、イソステアリン酸イソステアリル(isostearyl isostearate)、イソノナン酸イソノニル(isononyl isononanoate)、イソノナン酸エチルへキシル(ethylhexyl isononanoate)、ネオペンタン酸へキシル(hexyl neopentanoate)、ネオペンタン酸エチルへキシル(ethylhexyl neopentanoate)、ネオペンタン酸イソステアリル(isostearyl neopentanoate)、ネオペンタン酸イソデシル(isodecyl neopentanoate)、ミリスチン酸イソプロピル(isopropyl myristate)、ミリスチン酸オクチルドデシル(octyldodecyl myristate)、パルミチン酸イソプロピル(isopropyl palmitate)、パルミチン酸エチルへキシル(ethylhexyl palmitate)、ラウリン酸へキシル(hexyl laurate)、ラウリン酸イソアミル(isoamyl laurate)、ノナン酸セテアリル(ketostearyl nonanoate)、カプリル酸プロピルヘプチル(propylheptyl caprylate)、及びそれらの混合物等のモノエステルを含んでもよい。その他の使用できるエステルは、酸及びモノアルコールのジエステル(アジピン酸ジイソプロピル(diisopropyl adipate)、アジピン酸ジエチルへキシル(diethylhexyl adipate)、セバシン酸ジイソプロピル(diisopropyl sebacate)、及びセバシン酸ジイソアミル(diisoamyl sebacate)等)である。
【0028】
植物油の例は、特に、小麦麦芽、ヒマワリ、アルガン、ハイビスカス、コリアンダー、ブドウの種子、ゴマ、トウモロコシ、アプリコット、トウゴマ、シア、アボカド、オリーブ、大豆、スイートアーモンド、ヤシ、菜種、及び綿実油、ヘーゼルナッツ、マカデミア、ホホバ、アルファルファ、ケシ、カボチャ(pumpkin)、ゴマ、カボチャ(squash)、クロフサスグリ、マツヨイグサ、ラベンダー、ルリジサ、キビ、オオムギ、キノア、ライムギ、ベニバナ、ククイノキ、トケイソウ、マスカットローズ(muscat rose)、シャゼンムラサキ(Echium)、アマナズナ(camelina)、又はツバキである。
【0029】
脂肪相は、少なくとも1つの脂肪相構造化剤を含んでもよい。「脂肪相構造化剤」は、組成物に含まれる油を増粘することができる化合物、特に、ろう、脂肪相ゲル化剤、及びペースト状の脂肪から選択される化合物、並びにそれらの混合物を意味する。
【0030】
好ましい実施形態によると、この組成物は、少なくとも1つの抗老化活性物質、特に、しわ、皮膚のたるみ、及び/又はしみの形成を抑制及び/又は処置するのに適した活性物質、も含む。抗老化活性物質は、特に、抗ラジカル物質、ケラチノサイト及び/又は線維芽細胞の分化及び/又は増殖を刺激する物質、グリコサミノグリカン及び/又はコラーゲン及び/又は真皮表皮固定線維(dermo-epidermal anchoring fibrils)の合成を刺激する物質、コラーゲン及び/又はグリコサミノグリカン及び/又は真皮表皮固定線維の分解を抑制する物質、抗糖化物質、脱色素及び/又はメラニン形成抑制物質、並びにそれらの混合物から選択されてもよい。
【0031】
そのような抗老化活性物質の例は、特に、アスコルビン酸、その塩、そのエーテル、及びそのエステル、特にアスコルビルグルコシド(ascorbyl glucoside);アデノシン;リボース;ハチミツ抽出物;特にスイートアーモンドから抽出されるタンパク質及び糖タンパク質;特にイネ、ハイビスカスの種子、又はハウチワマメ(lupin)由来の植物タンパク質加水分解物;ポリペプチド及びシュードジペプチド(例えば、塩酸カルシニン(carcinine hydrochloride)、SEDERMAによってそれぞれMatrixyl(登録商標)3000及びMatrixyl(登録商標)Synthe′6のブランド名で販売されるパルミトイルペンタペプチド-4(palmitoyl pentapeptide-4)(Pal-Lys-Thr-Thr-Lys-Ser)及びパルミトイルトリペプチド-38(palmitoyl tripeptide-38)、LUCAS MEYER社によってNutrazen(登録商標)のブランド名で販売されるパルミトイルトリペプチド-8(palmitoyl tripeptide-8)、LIPOTEC社によってLeuphasyl(登録商標)Solutionのブランド名で販売されるペンタペプチド-18(pentapeptide-18)、SANDREAM社によってNeoendorphin(登録商標)のブランド名で販売される合成ヒトデカペプチド-9(sh-decapeptide-9)、並びにINFINITEC社によってX50 Myocept(登録商標)Powderのブランド名で販売されるパルミトイルヘキサペプチド-52(palmitoyl hexapeptide-52);シラン(例えば、マンヌロン酸メチルシラノール(methylsilanol mannuronate));特にライ麦粉から抽出されたアラビノキシラン(arabinoxylanes);並びに特にカラマツに由来するガラクトアラビナン(galactoarabinanes);ヒアルロン酸及びその塩;特にミモザから抽出されたポリフェノール;アルファヒドロキシ酸(レモンから抽出されたアルファヒドロキシ酸を含む);植物(例えば、デンジソウ、三色スミレ、トクサ、オランダセンニチ(Acmella oleracea)、ゴロツキアザミ(Onopordum acanthium)、セイヨウノコギリソウ(Achillea millefolium)(特にBASF社の製品Neurobiox(登録商標)に含まれる)、エムベリアコンシナ(Embelia concinna)(SEPPIC社によって販売されている)、ウチワサボテン(Opuntia ficus indica)(MIBELLE AG BIOCHEMISTRYによってAquaCacteenのブランド名で販売されている)、セージ(Salvia officinalis)(特にPROVITAL GROUPによって販売されている)、ニンジンボク(Vitex negundo)(特にLABORATOIRES EXPANSCIENCEによってNeurovity(登録商標)のブランド名で販売されている)、クリ、パパイヤ、アルガン、エンバク、ヒマワリ、ヒナギク、ピオニー、又はイノンド)の抽出物(一般に水性);藻、特にサンゴモ、ジャニアルベンス(Jania rubens)、ワカメ(Ungaria pinnatifada)、アラリアエスクレンタ(Alaria esculenta)、又はナノンクロロプシスオクラタ(Nannochlorosis oculata)の水性抽出物;ギンバイカを含む精油;亜鉛及び/又は銅グルコネート;並びにそれらの混合物である。
【0032】
代替又は追加として、本発明によって使用される組成物は、少なくとも1つのテンソルポリマー(tensor polymer)(すなわち、機械的作用によって皮膚をピンと張り、その結果、しわ及び細かい線を減少させることができる)を含んでもよい。これは、合成又は天然ポリマー、特に多糖、特に藻又は海洋プランクトン抽出物又は植物ガムであってよい。
【0033】
本発明による組成物は、エマルションの脂肪相中及び/又は水相中に分散し得る、さらに異なる構成成分を含んでもよいが、但し、構成成分は皮膚への局所適用に適合しなければならない。
【0034】
従って、それは、少なくとも1つの水中油型又は油中水型乳化剤(一般に、非イオン性)、例えば、ポリオキシエチレンエステル(polyoxyethylene esters)、場合によってはポリエトキシ化ソルビタンエステル(polyethoxylated sorbitan esters)、場合によってはポリエトキシ化脂肪酸及びグリセロールエステル(polyethoxylated fatty acid and glycerol esters)、脂肪族アルコール及び糖エーテル(例えば、アルキルグリコシド(alkyl glucosides))、並びにそれらの混合物、を含んでもよい。乳化剤は、組成物の総質量の2から10%存在してよい。代替的には、本発明による組成物は、乳化剤を含まなくてもよい。
【0035】
本発明による組成物は1つ又はそれよりも多くの粉末状フィラーも含んでもよく、粉末状フィラーは、有利には、多孔質の又は中空の形態であって、好ましくは多孔質の微小粒子である。これらの微小粒子は、原則として、実質的に球状である。これらのフィラーは、特に、以下から選択される:
-有機フィラー(例えば、多糖の粉末(特に天然デンプン、加工デンプン、又はセルロース);アクリルポリマーの粉末(例えば、ポリ(メタクリル酸メチル)(poly(methyl methacrylate)、ポリアミド(polyamides)、又はポリオレフィン(polyolefins));乾燥させた藻(例えば、サンゴモ(Corallina officinalis))の粉末);
-無機フィラー(例えば、シリカ、クレー、パーライト、及びタルク);
-並びにそれらの混合物。
【0036】
これらのフィラーは、組成物の総質量を基準にして、1から5質量%存在し得る。
【0037】
本発明による組成物は、さらに、特に有機及び/又は無機の光保護剤(UVA及び/又はUVBに活性)、香料、酸化防止剤、封鎖剤、pH調整剤、防腐剤、顔料、染料、並びにそれらの混合物から選択される添加物を含んでもよい。
【0038】
紫外フィルターの例は、以下を含むが、以下に限定はされない:
ベンゾフェノン(benzophenones)(例えば、INCI名DIETHYLAMINO HYDROXYBENZOYL HEXYL BENZOATE (BASF社のUvinul(登録商標)A Plus)及びBENZOPHENONE-3で識別されるベンゾフェノン);ベンゾトリアゾール(benzotriazoles)(例えば、INCI名METHYLENE BIS-BENZOTRIAZOLYL TETRAMETHYLBUTYLPHENOL (BASF社のTinosorb(登録商標)M)で識別されるベンゾトリアゾール);トリアジン(triazines)(例えば、INCI名ETHYLHEXYL TRIAZONE (BASF社のUvinul(登録商標)T150)及びBIS ETHYLHEXYLOXYPHENOL METHOXYPHENYL TRIAZINE (BASF社のTinosorb(登録商標)S)で識別されるトリアジン);ベンゾイミダゾール(benzimidazoles)(例えば、INCI名PHENYLBENZIMIDAZOLE SULFONIC ACID (MERCK社のEusolex(登録商標)232)で識別されるベンゾイミダゾール);ヒドロキシベンゾエート(hydroxybenzoates)(例えば、ETHYLHEXYL SALICYLATE (MERCK社のEusolex(登録商標)OS)及びHOMOSALATE (MERCK社のEusolex(登録商標)HMS));BUTYL METHOXYDIBENZOYLMETHANE (MERCK社のEusolex(登録商標)9020);ETHYLHEXYL METHOXYCINNAMATE (BASF社のUvinul(登録商標)MC 80);シアノアクリレート(cyanoacrylates)(例えば、OCTOCRYLENE (MERCK社のEusolex(登録商標)OCR);並びにそれらの混合物。
【0039】
この組成物は、皮膚への局所適用に適した任意の形態、特に、乳液、クリーム、ローション、ゲル、又は美容用パックの形態で、提供され得る。それは、一般に、すすぎ不要の組成物である。
【0040】
この組成物は、スキンケア製品(特に、顔用)、特に、抗老化若しくは抗しわ製品;日焼け止め若しくはアフターサン製品;セルフタンニング製品;又は肌化粧製品(例えば、ファンデーション)を構成することができる。代替的には、それは、スキンクリーニング組成物であってもよい。本発明によって使用される組成物は、抗老化、抗しわ、及び/又は日焼け止め組成物であることが好ましい。
【0041】
この組成物は、皮膚の老化の兆候を示す人(例えば、少なくとも30又はもっと言えば40歳である人)の身体の少なくとも1つの領域に適用され得り、さらに具体的には、顔、首、及び/又はデコルテに適用され得る。代替的には、それは身体全体に適用され得る。それは、また、1日に1度又は数回(例えば、午前中及び/若しくは夜に)、処置されるべき領域に適用され得る。
【実施例
【0042】
本発明は、以下の実施例を参照にして、よりよく理解されるが、実施例はただ例示を目的としており、付随する請求項によって定義される本発明の範囲を制限するものではない。
【0043】
実施例1:シルバーファーの枝の精油の抗エラスターゼ効果
Abies alba種のシルバーファーの枝の精油は、ドローム県(la Drome)で採集された枝(枝及び針葉)のハイドロ蒸留によって得られた。ハイドロ蒸留は、1.15kgの乾燥及び破砕された枝から、再留(コホベーション)下で4時間行った。得られた精油は、質量分析を併用したガスクロマトグラフィーによって分析された。精油は、基本的に、リモネン(35%)、アルファ-ピネン(10.8%)、及びカンフェン(12.3%)、並びにより少ない量の酢酸ボルニル(4.6%)を含んでいた。
【0044】
そのエラスターゼ阻害活性は、インビトロにおいて、以下のものと比較して評価した:
-市販のラズベリー(Rubus idaeus L)抽出物(VITALAB社のHydraberry)、及び
-エタノール中で4時間、攪拌下での、乾燥及び細かく切断された枝の抽出によって得られた、シルバーファーの枝のアルコール抽出物。
【0045】
この目的のために、酵素、基質(Ala-Ala-Ala-p-ニトロアニリド)、及びサンプルを接触させ、エラスターゼ活性によって誘導されたp-ニトロアニリドペプチドの放出を410nmの波長で、分光光度法で測定した。
【0046】
試験は、以下のように正確に行われた:
Tris緩衝液(濃度は50mM及びpH 8)中で0.171U/mLに調製された150μLのブタ膵エラスターゼ溶液を96ウェルプレート(Thermo Nunc社)のウェルに分注し(1ウェルあたりの酵素の終濃度が0.1U/mLになる)、7.5μLの評価される抽出物(DMSO中に3.433mg/mLになるように希釈された)を加えた(1ウェルあたりの終濃度が100μg/mLになる)。DMSO単独は、ネガティブコントロール(ODcontrol)とした。プレートを接着フィルム(Greiner Bio-One社)で密封し、室温で20分間インキュベーションした。最初の測定は、Spectramax Plus 384 plate reader(Molecular Devices社)を用いて、ブランクの光学密度を得るために、410nmで、行った。次いで、Tris緩衝液中で2.06mMであるN-スクシニル-Ala-Ala-p-ニトロアニリド(Suc-AAA-pNA)100μLを、プレートの各ウェルに加えた(Suc-AAA-pNAの終濃度は1ウェルあたり0.8mM)。室温で40分間のインキュベーション後、パーセント阻害を評価するために、吸光度を410nmで測定した。この目的のために、データは、SoftMaxPro software(Molecular Devices社)を使用して取得し、阻害パーセンテージは、以下の式に従って、Prism software(GraphPad Software社)を使用して計算した:
I% = [(ODsample-ODcontrol)/ODcontrol] × 100
(式中、ODは光学密度を指す。)
【0047】
各光学密度の値は、基質の添加前のサンプル吸光度に相当するブランクの測定値で補正した。
【0048】
全ての試験は3度実施した。結果は、関連する標準偏差と共に、阻害のパーセンテージとして表される。
【0049】
結果:
シルバーファーの精油に関して測定された抗エラスターゼ活性は、おおよそ100%であり、一方、ポジティブコントロールに関してはたった77.1±0.095%であり、アルコール抽出物に関しては69.6±0.015%である。
【0050】
実施例2:化粧品組成物
示された重量比で下記の材料を混合することによって、当業者にとって従来の方法で、以下の組成物を調製した。
【0051】
実施例1による精油 0.01から0.5%
アデノシン 0.05%
油 5から15%
油性ゲル化剤 1から5%
水性ゲル化剤 1から3%
ポリオール 20から25%
封鎖剤 適量
酸化防止剤 適量
香料 適量
防腐剤 適量
水 適量 100%