(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】シュワン細胞のアンギオポエチン1(Ang-1)分泌を促進するための、ベニバナエキスを含んでなる、組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20230213BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230213BHJP
A61K 36/286 20060101ALI20230213BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230213BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20230213BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/00
A61K36/286
A61P43/00 111
A61P17/16
(21)【出願番号】P 2022089900
(22)【出願日】2022-06-01
【審査請求日】2022-09-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【氏名又は名称】小島 一真
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】スッチノント チャワパン
(72)【発明者】
【氏名】東條 も絵
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/084742(WO,A1)
【文献】Naoki Mochizuki,Vascular Integrity Mediated by Vascular Endothelial Cadherin and Regulated by Sphingosine 1-Phosphate and Angiopoietin-1,Circulation Journal,2009年,Volume 73 Issue 12,Pages 2183-2191
【文献】柱本照,臨床リウマチ医のための基礎講座 血管新生因子Angiopoietin-1の多彩な機能,臨床リウマチ,2007年06月30日,19巻2号,136-138
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 36/00-36/9068
A61P 1/00-43/00
C12N 1/00- 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトシュワン細胞のアンギオポエチン1(Ang-1)分泌を促進するための
Ang-1分泌促進剤であって、ベニバナエキスを含んでなる、
Ang-1分泌促進剤。
【請求項2】
シュワン細胞が非ミエリンシュワン細胞である、請求項1に記載の
Ang-1分泌促進剤。
【請求項3】
シュワン細胞がRemak束を形成する、請求項2に記載の
Ang-1分泌促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シュワン細胞のアンギオポエチン1(Ang-1)分泌を促進するための、ベニバナエキスを含んでなる、組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
生命がその活動を正常に維持するためには、各臓器へ十分な酸素や栄養を供給し、さらにその活動で生じる老廃物を適切に運搬・処理することが重要であるが、この機能を担う器官が血管である。血管は、血液を通して全身の臓器に酸素や栄養素を送るだけでなく、組織中からの老廃物を運び体外へ排泄する役割を担っており、人体が生命活動を維持するにあたって重要な組織である。
【0003】
血管には、心臓から送り出された血液が流れる動脈、心臓へ戻る血液が通る静脈の他に、血管のうち90%以上(人間の場合)を占める毛細血管がある。毛細血管は主に血管内皮細胞と血管壁細胞により構成される。
【0004】
血管内皮細胞は、例えば、互いに接着し血管内環境因子(細胞および液性因子)が容易には血管外に漏出しないような内皮細胞間の接着斑を形成すること等によって、血管のバリアとして働き、また、物質の透過性すなわちバリア機能を調節することで、生命の健康維持に重要な役割を担うことが近年分かってきた。血管バリア機能の障害により、炎症、動脈硬化など様々な血管の病気の引き金となるだけではなく、末梢細胞への酸素、栄養の不足が生じることが知られている。
【0005】
また、血管壁細胞と総称される血管平滑筋細胞やペリサイトは、血管内皮細胞の外腔面から、細胞外マトリックスを介してまたは直接的に血管内皮細胞に接着している。血管径の大きさによっては血管内皮細胞と血管壁細胞の接着する比率は異なり、大血管系では、1層の血管内皮細胞に、複数層の血管壁細胞が裏打ちしており、中、小血管では、血管内皮細胞1細胞に血管壁細胞が1細胞裏打ちするものが多く、また、さらに径の細い血管では、1個の血管壁細胞が複数の血管内皮細胞に接着している。このように、血管壁細胞が血管内皮細胞に対し裏打ちすることは血管の構造上重要である。例えば、組織の酸素や栄養分の需要に応じて、とくにそれらが不足する際には、血管は管腔を拡大化させることで血流を増加させ、酸素、養分を組織に十分に行き渡らせるように調節することが可能である。
【0006】
この血管のバリア機能に影響を与える因子としては、例えば、血管内皮細胞に発現する受容体型チロシンキナーゼであるTie2(Tyrosine kinase with Ig and EGF homology domain2)があり、Tie2を活性化することにより、血管が成熟化および安定化すること等が知られている。
【0007】
より具体的には、例えば、非特許文献1において、Ang-1が、Tie2受容体を介して、内皮細胞間および内皮細胞-壁細胞間接着を増強し、血管安定化と血管透過性の低下を引き起こすこと、Ang-1がin vitroの内皮細胞において、VEカドヘリン接着を増強し、血管透過性を低下させること、およびAng-1-Tie2シグナルはVEカドヘリン接着を増強し、血管バリア機能を制御していると考えられることが記載されている。
【0008】
一方で、血管のバリア機能には、末梢神経系のグリア細胞の一種であるシュワン細胞が影響を与えることも報告されている(非特許文献2および3)が、その詳細についてはいまだ不明な点が多く存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Journal of Japanese Biochemical Society 89(3): 368-376 (2017)
【文献】Acta Biomaterialia Vol 126, May 2021, Pages 224-237
【文献】Neurobiology of Disease Vol 48, Issue 3, December 2012, Pages 546-555
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは、ベニバナエキスが、シュワン細胞のAng-1分泌を促進することを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0011】
よって、本発明は、シュワン細胞のAng-1分泌を促進するための、ベニバナエキスを含んでなる、組成物を提供する。
【0012】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)被験体においてシュワン細胞のアンギオポエチン1(Ang-1)分泌を促進するための組成物であって、ベニバナエキスを含んでなる、組成物。
(2)シュワン細胞が非ミエリンシュワン細胞である、(1)に記載の組成物。
(3)シュワン細胞がRemak束を形成する、(2)に記載の組成物。
(4)前記被験体がヒトである、(1)~(3)のいずれかに記載の組成物。
(5)局所用組成物である、(1)~(4)のいずれかに記載の組成物。
(6)溶液、懸濁液、分散液、エマルジョン、クリーム、軟膏、ゲル、ローション、フォーム、ペースト、またはスプレーの形態である、(5)に記載の組成物。
(7)化粧料組成物である、(1)~(6)のいずれかに記載の組成物。
(8)被験体におけるシュワン細胞のアンギオポエチン1(Ang-1)分泌の促進を目的とする薬剤の製造のための、ベニバナエキスの使用。
(9)シュワン細胞が非ミエリンシュワン細胞である、(8)に記載の使用。
(10)シュワン細胞がRemak束を形成する、(9)に記載の使用。
(11)前記被験体がヒトである、(8)~(10)のいずれかに記載の使用。
(12)ベニバナエキスを含んでなる組成物の、被験体においてシュワン細胞のアンギオポエチン1(Ang-1)分泌を促進するための使用。
(13)シュワン細胞が非ミエリンシュワン細胞である、(12)に記載の使用。
(14)シュワン細胞がRemak束を形成する、(13)に記載の使用。
(15)前記被験体がヒトである、(12)~(14)のいずれかに記載の使用。
(16)前記組成物が局所用組成物である、(12)~(15)のいずれかに記載の使用。
(17)前記組成物が溶液、懸濁液、分散液、エマルジョン、クリーム、軟膏、ゲル、ローション、フォーム、ペースト、またはスプレーの形態である、(16)に記載の使用。
(18)前記組成物が化粧料組成物である、(12)~(17)のいずれかに記載の使用。
(19)被験体において、シュワン細胞のアンギオポエチン1(Ang-1)分泌を促進する方法であって、ベニバナエキスを含んでなる組成物の有効量を投与することを含む、方法。
(20)シュワン細胞が非ミエリンシュワン細胞である、(19)に記載の方法。
(21)シュワン細胞がRemak束を形成する、(20)に記載の方法。
(22)前記被験体がヒトである、(19)~(21)のいずれかに記載の方法。
(23)前記組成物が局所用組成物である、(19)~(22)のいずれかに記載の方法。
(24)前記組成物が溶液、懸濁液、分散液、エマルジョン、クリーム、軟膏、ゲル、ローション、フォーム、ペースト、またはスプレーの形態である、(23)に記載の方法。
(25)前記組成物が化粧料組成物である、(19)~(24)のいずれかに記載の方法。
【0013】
本発明によれば、シュワン細胞のAng-1分泌を促進するための、ベニバナエキスを含んでなる、組成物が提供される。本発明の組成物を用いることにより、被験体におけるシュワン細胞のAng-1分泌を促進することが可能である。また、本発明の組成物を用いることにより、被験体における血管のバリア機能を向上させることも可能である。また、本発明の組成物を用いることにより、被験体における血管をより安定化させることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、ヒトシュワン細胞(hSC)からAng-1が放出された量を測定した結果を表す。
【発明の具体的説明】
【0015】
本発明によれば、ベニバナエキスを含んでなる組成物が提供され、該組成物は、被験体においてシュワン細胞のAng-1分泌を促進することができる。
【0016】
本発明における「ベニバナ」は、キク科植物のベニバナ(Carthamus tinctorius L.)を意味する。使用部位としては、限定されるわけではないが、葉、茎、幹、花、根、果実等が挙げられ、好ましくは花である。
【0017】
本発明における「ベニバナ」の産地としては、限定されるわけではないが、中国、韓国、日本国、イスラエル、アメリカ、インド等が挙げられる。また、本発明における「ベニバナ」の仕入れ時期も限定されず、いかなる仕入れ時期のものを使用してもよい。
【0018】
本発明におけるベニバナエキスの製造方法は、特に制限されず、該技術分野において通常使用される方法に応じて抽出することができる。前記抽出方法としては、限定されるわけではないが、例えば、熱水抽出法、超音波抽出法、ろ過法、還流抽出法、溶媒抽出法等が挙げられる。これらは単独で実行、または2種以上の方法を併用して行ってもよい。また、高純度のエキスを得るためにエキスを同様の方法で1回以上ずつさらに抽出してもよい。
【0019】
本発明におけるベニバナエキスの製造のために使用される抽出溶媒の種類は特に制限されず、本発明の組成物に本発明の効果を付するベニバナエキスが得られるものであれば、該技術分野において公知となっている任意の溶媒を使用してもよい。そのような溶媒の例としては、限定されるわけではないが、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、1,3-ブチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、酢酸、酢酸エチル、エーテル、ヘキサン等が挙げられ、これらは2つ以上組み合わせて使用してもよい。
【0020】
ベニバナエキスが商業的に販売されている場合、本発明の組成物に本発明の効果を付するものであれば、それを使用してもよい。
【0021】
本発明の組成物に含まれるベニバナエキスの配合量は、用途に応じて適宜決定できる。
【0022】
本発明の組成物は、限定されるわけではないが、化粧料組成物としてもよい。本発明における化粧料組成物とは、化粧をすることを目的に使用される組成物のことを意味し、経口用組成物、局所用組成物のいずれであってもよい。
【0023】
本発明の組成物は、経口用組成物、局所用組成物のいずれであってもよいが、好ましくは局所用組成物である。本発明の組成物を局所用組成物とする場合、局所用組成物に配合される公知の成分(添加剤)をさらに配合することができる。このような成分としては、限定されるわけではないが、例えば、乳化剤、水和剤、溶媒、エモリエント、安定剤、増粘剤、保存剤、滑沢剤、キレート剤、充填剤、賦形剤、粉末、芳香剤、香料、吸収剤、染料、乳白剤、抗酸化剤、ビタミン、アミノ酸等が挙げられる。
【0024】
本発明における局所用組成物は、液体、半固体、固体のいずれであってもよく、限定されるわけではないが、好ましくは、溶液、懸濁液、分散液、エマルジョン、クリーム、軟膏、ゲル、ローション、フォーム、ペースト、またはスプレーの形態である。
【0025】
本発明における被験体は、いかなる動物であってもよく、限定されるわけではないが、好ましくは哺乳動物、例えば、ヒト、チンパンジーなどの霊長類、イヌ、ネコなどのペット動物、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギなどの家畜動物、マウス、ラットなどの齧歯類等の哺乳動物とされ、より好ましくはヒトとされる。
【0026】
一般に、シュワン細胞は、末梢神経において、例えば、ミエリン形成、神経発達および再生、栄養補助、神経細胞外マトリックスの産生、神経筋シナプス活動の調整等に関与しており、ミエリン形成の有無で、ミエリン形成シュワン細胞と非ミエリンシュワン細胞の2つに大別される。ミエリン形成シュワン細胞は、すべての運動神経や一部の感覚神経を含む、比較的大きい直径の軸索の周囲を覆い、軸索の直径や神経線維のリン酸化を制御している。1つのミエリン形成シュワン細胞は、一つの軸索に付随し、ミエリンを形成している。一方、非ミエリンシュワン細胞は、一部の感覚神経細胞からのC線維や交感神経節後細胞等、比較的小さい直径(0.5~1.5μm)の軸索ならびに神経筋接合部に関連し、例えば、軸索周囲で細胞体を薄く伸展させRemak束を形成している、または運動神経の前シナプス終末を覆っている。1つの非ミエリンシュワン細胞は複数の軸索と接触している。本発明におけるシュワン細胞は、限定されるわけではないが、好ましくは非ミエリンシュワン細胞であり、より好ましくはRemak束を形成している。
【0027】
本発明の「シュワン細胞のアンギオポエチン1(Ang-1)分泌を促進する」という用途は、直接的にまたは間接的に、シュワン細胞からのAng-1の分泌が促進されることを意味し、限定されるわけではないが、例えば、シュワン細胞から分泌されるAng-1の量が増加すること、シュワン細胞からAng-1が分泌される速度が上がること等をいう。該シュワン細胞が存在する場所は血管の周囲をはじめ身体のどこであってよい。
【0028】
本発明の組成物の「シュワン細胞のアンギオポエチン1(Ang-1)分泌を促進する」という用途により、例えば、Tie2活性化、血管透過性抑制等が達成されてもよく、さらに血管の安定化、血管のバリア機能の強化が達成されてもよい。
【0029】
本発明において「Tie2活性化」とは、Tie2をリン酸化することで、その活性体(リン酸化Tie2)に変換できる能力をいう。毛細血管の構造の安定化には血管内皮細胞に存在するTie2の活性化が重要な役割を果たしている。このTie2は血管内皮細胞のほかリンパ管内皮細胞にも存在が示され、例えば、血管壁細胞から放出されるAng-1によって活性化され、血管内皮細胞同士の接着や血管壁細胞との接着を強め、血管構造の安定化に関与している。このTie2の活性は、例えば、年齢と共に低下するという知見も報告され、それに伴い血管やリンパ管も老化することが明らかとなっている。また、Tie2活性化により血管内皮細胞の安定化、血管透過性の抑制等が観察される。よって、例えば、血管内皮細胞が強固に結びつくことにより肌に栄養が行き渡り、肌のハリやキメの改善、しわ防止等をすることも可能である。また、血管やリンパ管の内皮細胞の隙間が塞がれることにより血流が改善し、組織中からの水分や老廃物が回収されて、冷え、肩こり、むくみ、クマなどの諸症状を改善、予防することも可能である。したがって、本発明の組成物により、シュワン細胞からのAng-1分泌を促進することにより、Tie2活性化、血管透過性抑制等を達成し得る。また、これらの作用により、血管やリンパ管の状態を改善することによって、血管の安定化、血管のバリア機能の増強も達成し得る。
【実施例】
【0030】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。含有量は特記しない限り、質量%で示す。
【0031】
ヒトシュワン細胞の培養
入手したヒトシュワン細胞(hSC)(ScienCell Research Laboratories社製)を、成長サプリメント(ScienCell Research Laboratories社製)を含むシュワン細胞培地(ScienCell Research Laboratories社製)で培養した。hSC培養液がコンフルエント状態の70%になるまで3日ごとに培地交換をし、その後、コンフルエント状態の90%に達するまで1日ごとに培地交換をした。
【0032】
ヒトシュワン細胞の継代培養
コンフルエント状態の90%に達したヒトシュワン細胞は以下の方法により継代した。継代培養にあたり、まず、ポリDリジン(PDL)でコーティングされたT-75培養フラスコ、および5mLのFBSまたはトリプシン中和溶液(Life technologies社製)を入れた50mLコニカル遠心チューブを準備した。
【0033】
T-75培養フラスコのPDLでのコーティングは以下の手順で行った。まず、PDL(Gibco社製)をPBSで希釈し、50μg/mLのPDL溶液を調製した。このPDL溶液をT-75培養フラスコに添加し、室温で1時間インキュベートした。インキュベート後、PDL溶液を除去し、培養表面を蒸留水で3回すすいだ。表面をすすいだ後、この培養表面を処理したT-75培養フラスコをクリーンベンチ内でカバーを外したままにして乾燥させることにより、PDLでコーティングされたT-75培養フラスコを得た。
【0034】
継代培養は以下の手順で行った。まず、フラスコ上で培養したhSCをPBSですすぎ、その後5mLのPBSに5mLの0.05%トリプシン/EDTA(Life technologies社製)を添加した混合溶液をフラスコ上の培養したhSCに加えた。フラスコを静かにタブで覆い、37度で1分間インキュベートした後、添加した混合溶液を、トリプシン中和溶液を入れた50mLコニカル遠心チューブに移し、5mLのトリプシン中和溶液をフラスコに加えて、そのフラスコをさらに37度で2分間インキュベートした。インキュベート後、フラスコ内の分離したhSCを50mLコニカル遠心チューブに移した。さらに5mLのトリプシン中和溶液を加えて、フラスコをすすぎ、フラスコ内の残りのhSCを50mLコニカル遠心チューブに回収した。50mLコニカル遠心チューブを1000rpmで5分間遠心分離し、hSCを、シュワン細胞培地で穏やかに懸濁した。この懸濁液中のhSCを数え、375000hSC数/フラスコとなるように新しいPDLコーティングフラスコにhSC懸濁液を播種することにより、hSCの継代培養を行った。
【0035】
ベニバナエキスがhSCからのAng-1放出に与える影響の評価
第四継代hSCを、10%FBSを含むシュワン細胞培地で培養した。この培養したhSCを、PDLコーティングされた24ウェルプレート(イワキ社製)に3×104hSC数/ウェルになるように播種した。1日後、培地を、2%FBSを含むシュワン細胞培地に交換し、ベニバナエキスをそれぞれ0.1%、0.5%、0.9%になるように各ウェルに添加した。ベニバナエキスの添加から4時間後、24時間後、および48時間後に、各ウェルにおける上清を回収した。ベニバナエキスの抽出は、公知の方法に準じ、抽出溶媒として1,3ブチレングリコール水溶液を用いて行った。
【0036】
ヒトAng-1の検出には、Quantikine ELISAキット(バイオテック社製)を使用した。まず、キットに付属の説明書にしたがって、すべての試薬、各種溶液、サンプル、およびブランクを準備した。アッセイ希釈液RD1-20を各ウェルに100μLずつ添加し、次に、コントロール、標準サンプル、および試験サンプルをそれぞれ1ウェルあたり50μL添加した。キットに付属の粘着テープを使用してプレートを覆い、マイクロプレートシェーカー上で、室温で2時間インキュベートした。次に、各ウェルの溶液をアスピレートし、400μLの洗浄バッファーで4回洗浄し、洗浄後、200μLのヒトAng-1のコンジュゲートを各ウェルに添加した。プレートを新しい粘着テープで再び覆い、マイクロプレートシェーカー上で、室温で2時間インキュベートした。各ウェルの溶液をアスピレートし、400μLの洗浄バッファーで4回洗浄し、洗浄後、400μLの基質液を各ウェルに添加し、遮光条件で、室温で30分間インキュベートした。50μLの反応停止液を各ウェルに添加し、添加後30分以内に、マイクロプレートリーダーを使用して、各ウェルの450nmおよび570nmの光学密度(OD)の値を得た。得られた結果に対しては、t-test(P<0.05の場合*と記載)による統計解析を行った。
【0037】
結果を
図1に示す。ベニバナエキスを添加してから4時間後の群においては、コントロールと比較して、hSCからのAng-1放出量が増加している傾向が見られた。また、ベニバナエキスを添加してから24時間後および48時間後の群においては、コントロールと比較して、hSCからのAng-1放出量が有意に増加していることが示された。以上の結果から、ベニバナエキスはhSCからAng-1を放出させることが示された。
【要約】
【課題】被験体においてシュワン細胞のアンギオポエチン1(Ang-1)分泌を促進するための組成物であって、ベニバナエキスを含んでなる、組成物を提供する。
【解決手段】被験体においてシュワン細胞のアンギオポエチン1(Ang-1)分泌を促進するための組成物であって、ベニバナエキスを含んでなる、組成物
【選択図】なし