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  • 特許-グラスライニング製品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】グラスライニング製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23D 5/00 20060101AFI20230213BHJP
   C03C 8/14 20060101ALI20230213BHJP
【FI】
C23D5/00 J
C03C8/14
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022500249
(86)(22)【出願日】2020-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2020047753
(87)【国際公開番号】W WO2021161661
(87)【国際公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2020021894
(32)【優先日】2020-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000209773
【氏名又は名称】エヌジーケイ・ケミテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 宗之
(72)【発明者】
【氏名】河島 崇
(72)【発明者】
【氏名】後藤 秀樹
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/018357(WO,A1)
【文献】特開2001-131777(JP,A)
【文献】特開平03-265542(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108264232(CN,A)
【文献】特開2013-151401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23D 5/00-5/08
C03C 8/00-8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材の表面上に、
SiO2を主成分としNa2Oを含有する、平均粒径が1.5~20μmのフリット;並びに
珪石、アルミナ及び窒化アルミニウムからなる群から選択される1種又は2種以上の無機質耐火性粉体;
を含む第一釉薬を施釉し、焼成することにより、一層又は複数層で構成される厚み0.1~0.5mmのグランドコート層を形成する工程と、
グランドコート層の上に、SiO2を主成分としNa2Oを含有する、平均粒径が1.5~20μmのフリットを含有し;
第一釉薬より、珪石、アルミナ及び窒化アルミニウムからなる群から選択される1種又は2種以上の無機質耐火性粉体が少ない第二釉薬を施釉し、焼成することにより、一層又は複数層で構成される厚み0.4~1.1mmの中間層を形成する工程と、
中間層の上に、Na2Oを含有せず、SiO2を主成分とし平均粒径が1.5~50μmのフリットを含有する第三釉薬を施釉し、焼成することにより、一層又は複数層で構成される厚み0.1~1.3mmのカバーコート層を形成する工程と、
を含むグラスライニング製品の製造方法。
【請求項2】
第一釉薬、第二釉薬及び第三釉薬が共に金属繊維を含有する請求項1に記載のグラスライニング製品の製造方法。
【請求項3】
金属繊維がステンレス系金属繊維、貴金属系金属繊維、及び白金と白金族金属との合金繊維からなる群から選択される1種又は2種以上を含む請求項2に記載のグラスライニング製品の製造方法。
【請求項4】
第一釉薬は、第一釉薬中のフリット100質量部に対して直径0.1~2μm、長さ50~1000μmの金属繊維を0.01~5質量部含有し、
第二釉薬は、第二釉薬中のフリット100質量部に対して直径0.2~2μm、長さ50~1000μmの金属繊維を0.01~5質量部含有し、
第三釉薬は、第三釉薬中のフリット100質量部に対して直径0.2~2μm、長さ50~1000μmの金属繊維を0.01~5質量部含有する、
請求項2又は3に記載のグラスライニング製品の製造方法。
【請求項5】
金属基材の前記表面は、JIS B 0633:2001で測定される表面粗さRaが2~10μmである請求項1~4の何れか一項に記載のグラスライニング製品の製造方法。
【請求項6】
第一釉薬及び第二釉薬中のフリット中のNa2Oの含有量はそれぞれ8~22質量%である請求項1~5の何れか一項に記載のグラスライニング製品の製造方法。
【請求項7】
第三釉薬中のフリットの平均粒径は、第一釉薬中のフリットの平均粒径及び第二釉薬中のフリットの平均粒径よりも大きい請求項1~6の何れか一項に記載のグラスライニング製品の製造方法。
【請求項8】
第三釉薬中のフリットの平均粒径が10~50μmである請求項7に記載のグラスライニング製品の製造方法。
【請求項9】
第三釉薬中のフリットの平均粒径が1.5~20μmである請求項1~6の何れか一項に記載のグラスライニング製品の製造方法。
【請求項10】
グランドコート層、中間層及びカバーコート層の合計厚みが0.6~1.8mmである請求項1~9の何れか一項に記載のグラスライニング製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグラスライニング製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラスライニング製品は、高耐食性や高製品純度が求められる化学工業、医薬品工業、食品工業、電子産業等の分野で用いられる。グラスライニング製品は低炭素鋼板及びステンレス鋼板等の金属基材を素地とし、この素地表面にSiO2を主成分とする所定の組成を有するグラスライニング組成物を融着させることで耐食性、不活性、耐熱性を兼備するグラスライニング層を形成することにより作製されている。
【0003】
グラスライニング製品は、その外側に設置されたジャケット等を用いて、製品の外側から鉄素材を加熱又は冷却することにより、製品内部の温度調節が行われることが多いが、従来のグラスライニング層は熱伝導性が金属基材よりも悪いため、きめ細かい温度調節をし難いとう問題点があった。更に、グラスライニング層の熱伝導性が悪いために、製造リードタイムが長期化し、更には製品品質及び収率の低下を招くこともあった。
【0004】
このため、グラスライニング層の熱伝導性を向上させるために、グラスライニング用スラリー組成物を構成するフリットの粒度構成を特定の範囲とすることが提案されている(特許文献1:特許第5860713号公報)。具体的には、フリットの粒径が0.1~250μmの範囲内にあり、粒径が0.1~1μmの範囲内にあるフリット微粒子の割合が1~50質量%の範囲内にあり、且つフリットの粒度正規分布が50%表示で、1.5~20μmの範囲内にあるフリットから構成されることを特徴とするグラスライニング組成物が提案されている。
【0005】
グラスライニング組成物には、金属基材と熱膨張率を合わせたり、ガラス溶融時の温度を低下させたり、複数成分の溶解性を確保するために、Na2Oが従来配合されている。即ち、Na2Oは、グラスライニングのガラス網目構造を修飾し、SiO2網目構造を切断し、(i)線熱膨張係数を大きくしたり、(ii)易溶性を大きくしたりするために作用することから、グラスライニングには必須の成分となっている。しかしながら、Na2Oが配合されたグラスライニング層からはナトリウム成分が溶出し易く、このナトリウム成分は、薬液製造過程において薬液中に混入するため、半導体やTFT型パネルの製造工程に使用される薬液の製造には、従来のグラスライニング製品を使用することはできない。
【0006】
そこで、Na2Oが配合された下ぐすり層の上にNa2Oを配合しない上ぐすり層を形成することで、ナトリウム成分の溶出量の少ないグラスライニング層を得ることが提案されている(特許文献2:特許第5191384号公報)。
【0007】
また、従来のグラスライニング層は体積抵抗率が1×1010~1×1012Ω・mの絶縁材料であるため、導電率が低いベンゼン、ノルマルヘキサン等の有機物内容液を撹拌操業すると、内容液の発生電荷量が漏洩電荷量を大幅に上回って、静電気帯電が大きくなり、グラスライニング製品にアースを接地していてもグラスライニング層の絶縁破損を引き起こすことがあった。
【0008】
そこで、グラスライニング製品の静電気帯電を抑制するため、白金等の金属繊維をグラスライニング組成物中に配合することが知られている(特許文献3:特許第3783742号公報、特許文献4:特許第3432399号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5860713号公報
【文献】特許第5191384号公報
【文献】特許第3783742号公報
【文献】特許第3432399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、グラスライニング製品に要求される特性は多岐にわたり、また、用途によっても異なる。このため、一つの特性に優れたグラスライニング製品は必ずしも他の特性に優れているとは限らず、用途に応じて適切なグラスライニング製品を吟味して選択する必要があった。
【0011】
例えば、伝熱に優れたグラスライニング層を使用したとしても、静電気帯電を抑制することはできないし、ナトリウム成分を嫌う分野では使用できない。
ナトリウム成分の溶出量を抑制可能なグラスライニング製品は、ガラス中の気泡の存在や膜厚が厚くなることにより伝熱が悪く、熱交換を伴う用途においては生産性が低くなるという問題が生じる。また、ナトリウム成分の溶出量を抑制できたとしても静電気帯電を抑制することはできない。
静電気帯電を抑制可能なグラスライニング製品は、ガラス中の気泡の存在や膜厚が厚くなることにより伝熱が悪く、熱交換を伴う用途においては生産性が低くなるという問題が生じる。また、ナトリウム成分を嫌う分野では使用できない。
従って、複数の特性を併せ持つハイブリッド型のグラスライニング製品が得られることが望ましい。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、一実施形態において、伝熱に優れ、且つ、ナトリウム成分の溶出量を抑制可能なグラスライニング製品の製造方法を提供することを課題とする。本発明は好ましい実施形態においては、更に静電気帯電を抑制することも可能なグラスライニング製品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
[1]
金属基材の表面上に、
SiO2を主成分としNa2Oを含有する、平均粒径が1.5~20μmのフリット;並びに
珪石、アルミナ及び窒化アルミニウムからなる群から選択される1種又は2種以上の無機質耐火性粉体;
を含む第一釉薬を施釉し、焼成することにより、一層又は複数層で構成される厚み0.1~0.5mmのグランドコート層を形成する工程と、
グランドコート層の上に、SiO2を主成分としNa2Oを含有する、平均粒径が1.5~20μmのフリットを含有する第二釉薬を施釉し、焼成することにより、一層又は複数層で構成される厚み0.4~1.1mmの中間層を形成する工程と、
中間層の上に、Na2Oを含有せず、SiO2を主成分とし平均粒径が1.5~50μmのフリットを含有する第三釉薬を施釉し、焼成することにより、一層又は複数層で構成される厚み0.1~1.3mmのカバーコート層を形成する工程と、
を含むグラスライニング製品の製造方法。
[2]
第一釉薬、第二釉薬及び第三釉薬が共に金属繊維を含有する[1]に記載のグラスライニング製品の製造方法。
[3]
金属繊維がステンレス系金属繊維、貴金属系金属繊維、及び白金と白金族金属との合金繊維からなる群から選択される1種又は2種以上を含む[2]に記載のグラスライニング製品の製造方法。
[4]
第一釉薬は、第一釉薬中のフリット100質量部に対して直径0.1~2μm、長さ50~1000μmの金属繊維を0.01~5質量部含有し、
第二釉薬は、第二釉薬中のフリット100質量部に対して直径0.2~2μm、長さ50~1000μmの金属繊維を0.01~5質量部含有し、
第三釉薬は、第三釉薬中のフリット100質量部に対して直径0.2~2μm、長さ50~1000μmの金属繊維を0.01~5質量部含有する、
[2]又は[3]に記載のグラスライニング製品の製造方法。
[5]
金属基材の前記表面は、JIS B 0633:2001で測定される表面粗さRaが2~10μmである[1]~[4]の何れか一項に記載のグラスライニング製品の製造方法。
[6]
第一釉薬及び第二釉薬中のフリット中のNa2Oの含有量はそれぞれ8~22質量%である[1]~[5]の何れか一項に記載のグラスライニング製品の製造方法。
[7]
第三釉薬中のフリットの平均粒径は、第一釉薬中のフリットの平均粒径及び第二釉薬中のフリットの平均粒径よりも大きい[1]~[6]の何れか一項に記載のグラスライニング製品の製造方法。
[8]
第三釉薬中のフリットの平均粒径が10~50μmである[7]に記載のグラスライニング製品の製造方法。
[9]
第三釉薬中のフリットの平均粒径が1.5~20μmである[1]~[6]の何れか一項に記載のグラスライニング製品の製造方法。
[10]
グランドコート層、中間層及びカバーコート層の合計厚みが0.6~1.8mmである[1]~[9]の何れか一項に記載のグラスライニング製品の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一実施形態に係るグラスライニング製品の製造方法を採用することにより、伝熱に優れ、且つ、ナトリウム成分の溶出量を抑制可能なグラスライニング製品を得ることができる。また、本発明の好ましい実施形態に係るグラスライニング製品の製造方法を採用することにより、更に静電気帯電を抑制可能なグラスライニング製品を得ることができる。よって、本発明によれば複数の特性を併せ持つハイブリッド型のグラスライニング製品を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るグラスライニング製品の層構造の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係るグラスライニング製品の製造方法は、
金属基材の表面上に、
SiO2を主成分としNa2Oを含有する、平均粒径が1.5~20μmのフリット;並びに
珪石、アルミナ及び窒化アルミニウムからなる群から選択される1種又は2種以上の無機質耐火性粉体;
を含む第一釉薬を施釉し、焼成することにより、一層又は複数層で構成される厚み0.1~0.5mmのグランドコート層を形成する工程と、
グランドコート層の上に、SiO2を主成分としNa2Oを含有する、平均粒径が1.5~20μmのフリットを含有する第二釉薬を施釉し、焼成することにより、一層又は複数層で構成される厚み0.4~1.1mmの中間層を形成する工程と、
中間層の上に、Na2Oを含有せず、SiO2を主成分とし平均粒径が1.5~50μmのフリットを含有する第三釉薬を施釉し、焼成することにより、一層又は複数層で構成される厚み0.1~1.3mmのカバーコート層を形成する工程と、
を含む。
【0017】
図1には、当該製造方法によって得られたグラスライニング製品10の層構造例が模式的に示されている。グラスライニング製品10は、金属基材11の表面に、グランドコート層12、中間層13、及びカバーコート層14が順に積層された表面構造を有する。一実施形態において、グランドコート層、中間層及びカバーコート層の合計厚みは0.6~1.8mmである。この合計厚みが1.8mm以下、好ましくは1.4mm以下であることで、熱伝導性向上効果が得られる。この合計厚みが0.6mm以上、好ましくは0.8mm以上であることで、製品として安全な耐食性が得られる。
【0018】
グラスライニング製品としては、限定的ではないが、反応機、撹拌翼、タンク(例:撹拌槽)、熱交換器、乾燥機、蒸発機、ろ過機等が挙げられる。
【0019】
<1.グランドコート層の形成>
グランドコート層は、金属基材の表面上に第一釉薬を施釉し、焼成することにより形成される。金属基材としては、限定的ではないが、低炭素鋼、ステンレス鋼等の鉄合金が例示される。金属基材の形状にも特に制限はないが、壁状、板状、翼状及び棒状等が挙げられる。
【0020】
金属基材の表面は、JIS B 0633:2001で測定される表面粗さRa(JIS B 0601:1994)が2~10μmであることが好ましく、2~9μmであることがより好ましい。金属基材の表面粗さRaの下限が2μm以上であることで、金属基材とグランドコート層の密着強度を高めることができる。金属基材の表面粗さRaは好ましくは3μm以上であり、より好ましくは5μm以上である。また、金属基材の表面粗さRaの上限が9μm以下であることで、グランドコート層の粗大気泡の発生抑制という利点が得られる。金属基材の表面粗さRaは好ましくは8μm以下であり、より好ましくは7μm以下である。
【0021】
また、金属基材の前記表面は、JIS B 0633:2001で測定される表面粗さRz(十点平均粗さ)(JIS B 0601:1994)が15~39μmであることが好ましい。金属基材の表面粗さRzの下限が15μm以上であることで、金属基材とグランドコート層の密着強度を更に高めることができる。金属基材の表面粗さRzは好ましくは20μm以上であり、より好ましくは25μm以上である。また、金属基材の表面粗さRzの上限が39μm以下であることで、グランドコート層の粗大気泡の発生抑制という利点が得られる。金属基材の表面粗さRzは好ましくは37μm以下であり、より好ましくは35μm以下である。
【0022】
金属基材の表面粗さは粗面化処理を行うことで制御可能である。例えば、金属基材の表面に対してサンドブラスト処理を行うことで粗面化することができる。一実施形態において、サンドブラスト処理は、平均粒径が0.5mm以上1.6mm以下の研磨材を吹き付けることを含む。平均粒径が1.6mm以下、好ましくは1.5mm以下の研磨材を使用してサンドブラスト処理することで、気泡を伴うブロー欠陥が発生するのを抑制可能である。また、平均粒径が0.5mm以上、好ましくは0.6mm以上の研磨材を使用してサンドブラスト処理することで、金属基材の表面を上述した範囲に制御しやすくなり、グランドコート層と金属基材の密着性が向上しやすくなる。研磨材としては、限定的ではないが、ガラスとの過剰な反応防止の理由から、アルミナ粉、鉄グリッド粉、鉄ショット粉等を好適に使用できる。本明細書において、研磨材の平均粒径はJIS Z 8801-1:2019に規定される試験用ふるいを用いたふるい分け試験により得られる、各ふるいの公称目開きに対する積算百分率(質量%)をプロットし、各点を直線でつないだ図において、積算百分率が50質量%となる目開きの値を以て、平均粒径とする。
【0023】
グランドコート層を形成するための施釉操作、焼成温度等の条件は特に限定されるものではなく、グラスライニングにおける慣用、公知の操作を使用することができる。但し、施釉操作は、厚みを制御しやすい理由から、スプレー施工することが好ましい。また、焼成温度は、金属基材の変形抑制の理由から、800~900℃が好ましい。金属基材の表面上に第一釉薬を施釉し、焼成することにより形成されたグランドコート層の厚みは、0.1~0.5mmであることが好ましい。グランドコート層の厚みが0.5mm以下であることで、熱伝導性を高めることができる。グランドコート層の厚みは0.4mm以下であることがより好ましい。また、グランドコート層の厚みが0.1mm以上であることで、安定したグラスライニング層が得られる。グランドコート層の厚みは0.2mm以上であることがより好ましい。グランドコート層は一層又は複数層で構成することができる。
【0024】
第一釉薬は一実施形態において、SiO2を主成分としNa2Oを含有する、平均粒径が1.5~20μmのフリットと、珪石、アルミナ及び窒化アルミニウムからなる群から選択される1種又は2種以上の無機質耐火性粉体とを含む。
【0025】
第一釉薬中のフリットの平均粒径の上限が20μm以下であることで、非常に薄い厚さでの施釉が可能となり、得られるグラスライニング層を著しく薄膜化することができ、また、フリット粒子間の隙間が小さくなるのでグラスライニング層中の内在気泡径を小さくすることができる。フリットの平均粒径は好ましくは15μm以下であり、より好ましくは10μm以下である。また、フリットの平均粒径の下限が1.5μm以上であることで、粒子の凝集が起りにくくなり薄膜化したときの膜厚の均一性を高めることができるという利点が得られる。フリットの平均粒径は好ましくは3μm以上であり、より好ましくは5μm以上である。本明細書において、フリットの平均粒径はレーザー回折法により体積基準の累積粒度分布を測定したときの、メジアン径(D50)を指す。実施例においては、(株)セイシン企業製のレーザー回折粒度分布装置(型式:LMS-30)により測定した。
【0026】
第一釉薬中のフリットは、粒径が0.1~1μmの範囲内にあるフリット微粒子を好ましくは1~50質量%、より好ましくは1.5~30質量%含有する。粒径が0.1~1μmの範囲内にあるフリット微粒子の割合が、1質量%以上であることで、均一に薄膜化施工がしやすいという利点が得られる。また、当該フリット微粒子の割合が50質量%以下であることで、グランドコート層のめくれやクラックが発生するのを防止することができる。本明細書において、フリット中の粒径が0.1~1μmの範囲内にあるフリット微粒子の含有割合は、レーザー回折法により測定した体積基準の粒度分布に基づいて求められる。実施例においては、(株)セイシン企業製のレーザー回折粒度分布装置(型式:LMS-30)により測定した。
【0027】
第一釉薬中のフリットの粒径は0.1~250μmの範囲内にあることが好ましく、0.1~149μmの範囲内にあることがより好ましい。フリットの粒径が0.1μm以上であることで粒子の凝集を起り難くすることができる。また、フリットの粒径が250μm以下であることでスプレーガン施工したときの膜厚均一性を高めることができる。本明細書において、フリットの粒径の範囲はレーザー回折法により測定される体積基準の累積粒度分布から求めることができる。
【0028】
上述のような粉体特性を有するフリットは、所定の組成を有するガラス溶融物を急冷・粗粉砕した後、アルミナボールを使用するボールミルにて乾式粉砕し、更に、分級及び粉砕を適宜実施することで得ることができる。
【0029】
第一釉薬中のフリットはSiO2を主成分としNa2Oを含有する。第一釉薬は金属基材と密着するグランドコート層を形成する。そこで、Na2Oを含有することにより、金属基材に熱膨張率を近づけることで密着性を高めることが重要である。フリットがSiO2を主成分とするというのは、フリット中でのSiO2の質量濃度が最も高いことを意味する。フリット中のSiO2の濃度は41~72質量%とすることが好ましく、50~65質量%とすることがより好ましい。フリット中のNa2Oの濃度は8~22質量%とすることが好ましく、10~15質量%とすることがより好ましい。
【0030】
好ましい実施形態において、第一釉薬中のフリットは以下の組成を有する。
(A)SiO2+TiO2+ZrO2:41~72質量%
ただし、
SiO2:41~72質量%
TiO2:0~16質量%
ZrO2:0~10質量%
(B)R2O(RはNa、K又はLiを表す):8~22質量%
ただし、
Na2O:8~22質量%
2O:0~16質量%
Li2O:0~10質量%
(C)R’O(R’はCa、Ba、Zn又はMgを表す):1~7質量%
ただし、
CaO:1~7質量%
BaO:0~6質量%
ZnO:0~6質量%
MgO:0~5質量%
(D)B23+Al23:1~18質量%
ただし、
23:1~18質量%
Al23:0~6質量%
(E)CoO+NiO+MnO2+CeO2:0~6質量%
ただし、
CoO:0~6質量%
NiO:0~5質量%
MnO2:0~5質量%
CeO2:0~5質量%
【0031】
フリット中の成分(A)の含有量が41質量%以上であることで、フリット自体の強度が低下するのを防止することができる。また、フリット中の成分(A)の含有量が72質量%以下であることで、フリットの溶融粘性が高くなり過ぎたり、第一釉薬の溶融点が過度に上昇したりするのを防止できる。
【0032】
フリット中の成分(B)の含有量が8質量%以上であることで、フリットの溶融性を良好にすることができる。また、フリット中の成分(B)の含有量が22質量%以下であることで、フリットの線熱膨張係数が過度に上昇して物性バランスが崩れるのを防止できる。
【0033】
フリット中の成分(C)の含有量が1質量%以上であることで、フリットの耐アルカリ性能を向上することができる。フリット中の成分(C)の含有量が7質量%以下であることで、フリットの溶融粘性が高くなり過ぎたり、第一釉薬の溶融点が過度に上昇したりするのを防止できる。
【0034】
フリット中の成分(D)の含有量が1質量%以上であることで、失透防止という効果が得られる。また、フリット中の成分(D)の含有量が18質量%以下であることで、焼成中の発泡現象を抑制することができる。
【0035】
フリット中の成分(E)の含有量が6質量%以下であることで、焼成中の発泡現象を抑制しながら金属基材との密着性向上という効果が得られる。
【0036】
第一釉薬は更に、珪石、アルミナ及び窒化アルミニウムからなる群から選択される1種又は2種以上の無機質耐火性粉体を含有する。これにより、第一釉薬を施釉する際の焼成温度を上昇(調節)することができ、また、グランドコート層を更に薄膜化することができると共に、耐火性及び熱伝導性を更に向上させることができる。無機質耐火性粉体の含有量は、フリット100質量部に対し20~120質量部とすることができ、好ましくは40~100質量部とすることができる。無機質耐火性粉体の含有量がフリット100質量部に対し20質量部以上であることで、その含有効果が有意に発揮される。また、無機質耐火性粉体の含有量がフリット100質量部に対し120質量部以下であることで、焼成不良を起こしにくくなる。
【0037】
なお、無機質耐火性粉体の粒径は、好ましくは149μm以下であり、より好ましくは0.1~74μmの範囲内である。無機質耐火性粉体の粒径が149μm以下であることでグランドコート層を均一に薄膜化しやすくなる。無機質耐火性粉体の粒径が0.1μm以上であることで第一釉薬中に均一に分散しやすい。本明細書において、無機質耐火性粉体の範囲はレーザー回折法により測定される体積基準の累積粒度分布から求めることができる。一実施形態において、無機質耐火性粉体の平均粒径は5~50μmとすることができ、好ましくは10~40μmとすることができ、より好ましくは15~25μmとすることができる。本明細書において、無機質耐火性粉体の平均粒径はレーザー回折法により体積基準の累積粒度分布を測定したときの、メジアン径(D50)を指す。実施例においては、(株)セイシン企業製のレーザー回折粒度分布装置(型式:LMS-30)により測定した。
【0038】
好ましい実施形態において、第一釉薬は更に金属繊維を含有することができる。第一釉薬が金属繊維を含有することで、グランドコート層の電気抵抗が低下し、グラスライニング製品の静電気帯電を抑制することが可能となり、熱伝導性を向上させることが可能となる。金属繊維としては、限定的ではないが、ステンレス系金属繊維、貴金属系金属繊維、及び白金と白金族金属との合金繊維からなる群から選択される1種又は2種以上を含むことが好ましい。貴金属系金属繊維としては、例えばAg繊維(体積抵抗率:1.6×10-8Ωm)、Au繊維(体積抵抗率:2.4×10-8Ωm)、Pt繊維(体積抵抗率:10.6×10-8Ωm)等を使用することができる。白金と白金族金属との合金繊維としては、例えばPtと、Pd、Ir、Rh、Os及びRuよりなる群から選択される1種又は2種以上との合金を使用することができる。
【0039】
金属繊維のフリットへの添加量は、フリット100質量部に対して0.01~5質量部とすることが好ましい。金属繊維の添加量がフリット100質量部に対して0.01質量部以上であることで、導電性を有意に向上させることができる。金属繊維の添加量はフリット100質量部に対して0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることが更により好ましい。また、金属繊維の添加量がフリット100質量部に対して5質量部以下であることで、スプレー施工性が向上する。金属繊維の添加量はフリット100質量部に対して2質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることが更により好ましい。
【0040】
金属繊維の直径は0.1~2μmであることが好ましく、0.2~2μmであることがより好ましく、更に、0.3~1μmであることがより好ましい。金属繊維の直径が0.1μm以上であることで、金属繊維を低コストで加工可能である。また、金属繊維の直径が2μm以下であることで、スプレー施工性が向上する。本明細書において、金属繊維の直径は、金属繊維の延びる方向に直交する断面の面積に等しい円の直径を指す。
【0041】
金属繊維の長さは50~1000μmであることが好ましく、100~800μmであることがより好ましい。金属繊維の長さが50μm以上であることで、金属繊維を添加したことによる効果が有意に発揮されやすくなる。また、該長さが1000μm以下であることで、スプレー施工性が向上する。
【0042】
また、金属繊維の長さ/直径の平均アスペクト比は50以上であることが好ましい。金属繊維の長さ/直径の平均アスペクト比が50以上であると、金属繊維を多量に配合しなくてもグラスライニング層の電気抵抗を低下させることができるようになる。
【0043】
第一釉薬が金属繊維を含有する場合は、増粘剤を添加することが好ましい。増粘剤を添加することで、第一釉薬中で金属繊維が沈降して下方に偏在するのを防止することができる。これにより、グラスライニング層の導電性向上効果及び熱伝導性向上効果を得ることができる。増粘剤はフリット100質量部に対して32~65質量部添加することが好ましく、38~60質量部添加することがより好ましく、45~55質量部添加することが更により好ましい。増粘剤の添加量がフリット100質量部に対して45質量部以上であることで、金属繊維の沈降防止効果を高めることができる。また、増粘剤の添加量がフリット100質量部に対して65質量部以下であることで、スプレー施工性向上の効果を得ることができる。
【0044】
増粘剤としては、限定的ではないが、セルロース誘導体を好適に使用することができる。セルロース誘導体としては、CMC(カルボキシメチルセルロース)、HEC(ヒドロキシエチルセルロース)、HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロース(MC)等が挙げられる。これらの中でも、焼成時の気泡発生抑制の理由により、CMC(カルボキシメチルセルロース)が好ましい。増粘剤は一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
第一釉薬が金属繊維を含有する場合は、分散剤を添加することが好ましい。分散剤を添加することで、金属繊維の均一分散性を向上することができ、これにより、導電性向上効果及び熱伝導性向上効果を得ることができる。また、溶媒としてアルコールを使用しなくてもスプレー施工に適した釉薬を得ることができる。分散剤はフリット100質量部に対して0.01~0.2質量部添加することが好ましく、0.02~0.1質量部添加することがより好ましく、0.03~0.08質量部添加することが更により好ましい。分散剤の添加量がフリット100質量部に対して0.01質量部以上であることで、金属繊維の分散性を高めることができる。また、分散剤の添加量がフリット100質量部に対して0.2質量部以下であることで、臭気抑制の効果を得ることができる。
【0046】
分散剤としては、限定的ではないが、焼成時の気泡発生抑制の理由により、ポリカルボン酸系分散剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合系、ポリエチレングリコール、ポリエーテル系、ポリアルキレンポリアミン系等の高分子型分散剤を好適に使用することができる。ポリカルボン酸系分散剤としては、例えばポリカルボン酸アンモニウム塩を好適に使用可能である。分散剤は一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
その他、第一釉薬にはグラスライニングに慣用の添加剤(例えば粘土、塩化バリウム、亜硝酸ナトリウム等)、及び所定量の溶媒を添加することができる。粘土は、限定的ではないが、フリット100質量部に対して3~8質量部、好ましくは5~7質量部添加することができる。塩化バリウムは、限定的ではないが、フリット100質量部に対して0.05~0.3質量%、好ましくは0.1~0.2質量%添加することができる。亜硝酸ナトリウムは、限定的ではないが、フリット100質量部に対して0.1~0.6質量部、好ましくは0.2~0.5質量部添加することができる。使用される溶媒としては、限定的ではないが、水及びアルコール等の水溶性溶媒が挙げられ、臭気がなく作業環境が改善するという理由により水が好ましい。アルコールとしては、例えば、エタノールが挙げられる。溶媒は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。溶媒は、限定的ではないが、フリット100質量部に対して0~40質量部、好ましくは5~30質量部添加することができる。第一釉薬中のアルコール濃度は好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以下であり、更により好ましくは0質量%である。
【0048】
<2.中間層の形成>
中間層は、グランドコート層の上に第二釉薬を施釉し、焼成することにより形成される。
【0049】
中間層を形成するための施釉操作、焼成温度等の条件は特に限定されるものではなく、グラスライニングにおける慣用、公知の操作を使用することができる。但し、施釉操作は厚み制御の理由から、スプレー施工することが好ましい。また、焼成温度は、グランドコートより低いことが望ましいことから、700~800℃が好ましい。グランドコート層の上に第二釉薬を施釉し、焼成することにより形成された中間層の厚みは、0.4~1.1mmであることが好ましい。中間層の厚みが1.1mm以下であることで、熱伝導性を高めることができる。中間層の厚みは1.0mm以下であることがより好ましく、0.8mm以下であることが更により好ましい。また、中間層の厚みが0.4mm以上であることで、グランドコート層からの気泡を抑制するという利点が得られる。中間層の厚みは0.5mm以上であることがより好ましく、0.6mm以上であることがより好ましい。中間層は一層又は複数層で構成することができる。
【0050】
第二釉薬は一実施形態において、SiO2を主成分としNa2Oを含有する、平均粒径が1.5~20μmのフリットを含む。フリットの平均粒径、フリット微粒子の割合、及び粒径といった粉体特性の好適な実施形態については第一釉薬中のフリットと同様であるので、説明を省略する。
【0051】
第二釉薬中のフリットはSiO2を主成分としNa2Oを含有する。第二釉薬も、第一釉薬と同様にNa2Oを含有することにより、グランドコート層との密着性向上という利点が得られる。フリットがSiO2を主成分とするというのは、フリット中でのSiO2の質量濃度が最も高いことを意味する。フリット中のSiO2の濃度は41~72質量%とすることが好ましく、45~70質量%とすることがより好ましい。フリット中のNa2Oの濃度は8~22質量%とすることが好ましく、10~20質量%とすることがより好ましい。
【0052】
好ましい実施形態において、第二釉薬中のフリットは、第一釉薬中のフリットと同様の理由により、以下の組成を有する。
(A)SiO2+TiO2+ZrO2:41~72質量%
ただし、
SiO2:41~72質量%
TiO2:0~16質量%
ZrO2:0~10質量%
(B)R2O(RはNa、K又はLiを表す):8~22質量%
ただし、
Na2O:8~22質量%
2O:0~16質量%
Li2O:0~10質量%
(C)R’O(R’はCa、Ba、Zn又はMgを表す):1~7質量%
ただし、
CaO:1~7質量%
BaO:0~6質量%
ZnO:0~6質量%
MgO:0~5質量%
(D)B23+Al23:1~18質量%
ただし、
23:1~18質量%
Al23:0~6質量%
(E)CoO+NiO+MnO2+CeO2:0~6質量%
ただし、
CoO:0~6質量%
NiO:0~5質量%
MnO2:0~5質量%
CeO2:0~5質量%
【0053】
第一釉薬より焼成温度を低くでき、耐食性を低下させないという理由により、第二釉薬においては、珪石、アルミナ及び窒化アルミニウムからなる群から選択される1種又は2種以上の無機質耐火性粉体はできるだけ少ないことが好ましい。無機質耐火性粉体の含有量は、フリット100質量部に対し10質量部以下とすることが好ましく、5質量部以下とすることがより好ましく、1質量部以下とすることが更により好ましい。
【0054】
好ましい実施形態において、第二釉薬は更に金属繊維を含有することができる。第二釉薬が金属繊維を含有することで、中間層の電気抵抗が低下し、グラスライニング製品の静電気帯電を抑制することが可能となり、熱伝導性を向上させることも可能となる。金属繊維の種類、添加量、直径、長さ、及び平均アスペクト比といった金属繊維の好適な実施形態については第一釉薬中の金属繊維と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0055】
第二釉薬が金属繊維を含有する場合は、増粘剤及び分散剤を添加することが好ましい。増粘剤及び分散剤の好適な実施形態については第一釉薬中の増粘剤及び分散剤と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0056】
その他、第二釉薬にはグラスライニングに慣用の添加剤(例えば粘土、塩化バリウム、亜硝酸ナトリウム等)、及び所定量の溶媒を添加することができる。添加剤及び溶媒の好適な実施形態については第一釉薬中の添加剤と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0057】
<3.カバーコート層の形成>
カバーコート層は、中間層の上に第三釉薬を施釉し、焼成することにより形成される。
【0058】
カバーコート層を形成するための施釉操作、焼成温度等の条件は特に限定されるものではなく、グラスライニングにおける慣用、公知の操作を使用することができる。但し、施釉操作は、厚み制御の理由から、スプレー施工することが好ましい。また、焼成温度は、グランドコートより低いことが望ましいことから、700~800℃が好ましい。中間層の上に第三釉薬を施釉し、焼成することにより形成されたカバーコート層の厚みは、0.1~1.3mmであることが好ましい。カバーコート層の厚みが1.3mm以下であることで、熱伝導性を高めることができる。カバーコート層の厚みは1.0mm以下であることがより好ましく、0.8mm以下であることが更により好ましい。また、カバーコート層の厚みが0.1mm以上であることで、Na溶出を効果的に抑制できるという利点が得られる。カバーコート層の厚みは0.2mm以上であることがより好ましく、0.3mm以上であることが更により好ましい。カバーコート層は一層又は複数層で構成することができる。
【0059】
第三釉薬は一実施形態において、Na2Oを含有せず、SiO2を主成分とし平均粒径が1.5~50μmのフリットを含む。
【0060】
一実施形態において、第三釉薬中のフリットの平均粒径は、第一釉薬中のフリットの平均粒径及び第二釉薬中のフリットと同様に、1.5~20μmとすることができ、好ましい範囲も第一釉薬中のフリットの平均粒径及び第二釉薬中のフリットと同様である。
【0061】
別の一実施形態において、第三釉薬中のフリットの平均粒径を10~50μmとすることができる。この場合、第一釉薬中のフリットの平均粒径及び第二釉薬中のフリットの平均粒径よりも大きくしてもよい。第三釉薬中のフリットの平均粒径が、第一釉薬中のフリットの平均粒径及び第二釉薬中のフリットの平均粒径よりも大きいことで、厚みが確保しやすいという利点が得られる。フリットの平均粒径の上限が10μm以上であることで、一層で厚く施工できるという利点が得られる。フリットの平均粒径は好ましくは20μm以上であり、より好ましくは30μm以上である。但し、スプレー作業性が悪くなるという理由により、フリットの平均粒径の上限は50μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましい。第三釉薬においては、フリットの平均粒径の上限を第一釉薬及び第二釉薬よりも大きくできるが、これはNa溶出を効果的に抑制するという理由による。
【0062】
第三釉薬中のフリットは、粒径が0.1~1μmの範囲内にあるフリット微粒子を好ましくは1~50質量%、より好ましくは1.5~30質量%含有する。粒径が0.1~1μmの範囲内にあるフリット微粒子の割合が、1質量%以上であることで、均一に薄膜化施工がしやすいという利点が得られる。また、当該フリット微粒子の割合が50質量%以下であることで、カバーコート層のめくれやクラックが発生するのを防止することができる。本明細書において、フリット中の粒径が0.1~1μmの範囲内にあるフリット微粒子の含有割合は、レーザー回折法により測定した体積基準の粒度分布に基づいて求められる。実施例においては、(株)セイシン企業製のレーザー回折粒度分布装置(型式:LMS-30)により測定した。
【0063】
第三釉薬中のフリットの粒径は0.1~250μmの範囲内にあることが好ましく、0.1~149μmの範囲内にあることがより好ましい。フリットの粒径が0.1μm以上であることで粒子の凝集を起り難くすることができる。また、フリットの粒径が250μm以下であることでスプレーガン施工したときの膜厚均一性を高めることができる。本明細書において、フリットの粒径の範囲はレーザー回折法により測定される体積基準の累積粒度分布から求めることができる。
【0064】
上述のような粉体特性を有するフリットは、所定の組成を有するガラス溶融物を急冷・粗粉砕した後、アルミナボールを使用するボールミルにて乾式粉砕し、更に、分級及び粉砕を適宜実施することで得ることができる。
【0065】
第三釉薬中のフリットはNa2Oを含有せず、SiO2を主成分とする。これにより、ナトリウム成分の溶出量を抑制可能である。フリットがSiO2を主成分とするというのは、フリット中でのSiO2の質量濃度が最も高いことを意味する。フリット中のSiO2の濃度は40~75質量%とすることが好ましく、45~70質量%とすることがより好ましい。フリット中のSiO2の濃度が40質量%以上であることで、耐酸性及び耐水性が向上する。フリット中のSiO2の濃度が75質量%以下であることで、粘性が高くなり過ぎず、線熱膨張係数が小さくなり過ぎることもない。
【0066】
好ましい実施形態において、第三釉薬中のフリットはSiO2を40~75質量%、ZrO2を0~10質量%、R2O(但し、RはLi、K、及びCsよりなる群から選択される1種又は2種以上を示す)を8~22質量%、R’O(但し、R’はMg、Ca、Sr、及びBaよりなる群から選択される1種又は2種以上を示す)を1~7質量%を含有し、Na2Oが不添加である。
【0067】
フリット中のZrO2の含有量が10質量%以下であることで、結晶化し難くなり、且つ粘性が高くなりすぎるのを防止できる。また、フリット中のZrO2の含有量が0質量%以上であることで、耐水性及び耐アルカリ性が向上する。フリット中のZrO2の好適な含有量は、2~8質量%の範囲内である。
【0068】
フリット中のR2Oの含有量が22質量%以下であることで、耐水性が低下し難くなる。また、フリット中のR2Oの含有量が8質量%以上であることで、粘性が高くなりすぎるのを防止できる。フリット中のR2Oの好適な含有量は、10~20質量%の範囲内である。
【0069】
フリット中のR’Oの含有量が7質量%以下であることで、耐酸性が向上する。フリット中のR’Oの含有量が1質量%以上であることで、耐水性が向上する。フリット中のR’Oの好適な含有量は、2~5質量%の範囲内である。
【0070】
また、フリットは、TiO2、Al23、La23、B23及びZnOからなる群から選択された1種または2種以上を含有することができる。これらの成分は、グラスライニング焼成中の分相、結晶化を防止し、ガラス網目構造内に強く固定され、網目を充填して引き締め、耐水性能を向上し、気泡の発生を抑制するために作用する。
【0071】
ここで、フリット中にけるTiO2の含有量は、0~16質量%、好ましくは0~10質量%、Al23の含有量は、0~6質量%、好ましくは0~4質量%、La23の含有量は、0~4質量%、好ましくは0~2質量%、B23の含有量は、0~18質量%、好ましくは0~14質量%、ZnOの含有量は、0~6質量%、好ましくは0~4質量%の範囲内にあり、2種以上を併用する場合には、その合計量が1~10質量%、好ましくは1~8質量%の範囲内である。なお、これらの成分の各含有量及び合計含有量が上限を超えると、フリットの溶融点が高くなり、溶解性が悪化しやすい。また、下限を下回ると、添加効果が発現しにくい。
【0072】
更に、フリットには、CoO、Sb23、Cr23、Fe23、SnO2及びCeO2からなる群から選択される1種又は2種以上の着色成分をフリット100質量%に対してFe23換算量で3質量%までの量で配合することができる。着色成分としては視認性の観点から青色成分であるCoOが好ましい。これにより、グラスライニング層の腐食状態等の表面状態が認識しやすくなるという利点が得られる。ここで、着色成分の配合量がFe23換算量で3質量%を超えると、耐酸性が低下し、また、焼成時に発泡現象が起こりやすくなる。なお、特許第5156277号公報の全文を本明細書に参照により組み込む。
【0073】
第三釉薬中のフリットの溶融を促進するために、上記SiO2、Al23及びCaO成分のうちの10質量%までをフッ化物の形態で使用することもできる。なお、フッ化物としては、例えばK2SiF6、K3AlF6、CaF2等を用いることができる。
【0074】
耐食性を低下させない理由により、第三釉薬においては、珪石、アルミナ及び窒化アルミニウムからなる群から選択される1種又は2種以上の無機質耐火性粉体はできるだけ少ないことが好ましい。無機質耐火性粉体の含有量は、フリット100質量部に対し10質量部以下とすることが好ましく、5質量部以下とすることがより好ましく、1質量部以下であることが更により好ましい。
【0075】
好ましい実施形態において、第三釉薬は更に金属繊維を含有することができる。第三釉薬が金属繊維を含有することで、カバーコート層の電気抵抗が低下し、グラスライニング製品の静電気帯電を抑制することが可能となり、熱伝導性を向上させることも可能となる。金属繊維の種類、添加量、直径、長さ、及び平均アスペクト比といった金属繊維の好適な実施形態については第一釉薬中の金属繊維と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0076】
第三釉薬が金属繊維を含有する場合は、増粘剤及び分散剤を添加することが好ましい。増粘剤及び分散剤の好適な実施形態については第一釉薬中の増粘剤及び分散剤と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0077】
その他、第三釉薬にはグラスライニング組成物に慣用の添加剤(例えば粘土、塩化バリウム、亜硝酸ナトリウム等)、及び所定量の溶媒を添加することができる。添加剤及び溶媒の好適な実施形態については第一釉薬中の添加剤と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【実施例
【0078】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0079】
<1.フリットの作製>
表1に記載する組成の原料配合物を1260℃で4時間加熱することにより溶融し、次いで、急冷することにより粗粉砕物を得た。得られた粗粉砕物を慣用のアルミナボールを用いたボールミルにて乾式粉砕し、得られた粉砕物を種々の条件で分級することにより、表1に記載の粒度分布をもつ各種のフリットを得た。粒度分布は、(株)セイシン企業製のレーザー回折粒度分布装置(型式:LMS-30)により測定される体積基準の累積粒度分布に基づいて求めた。
【0080】
【表1】
【0081】
<2.釉薬の調製>
(実施例1~2、比較例1~3)
上記で作製したフリットを試験番号に応じて表2に示すように選択し、フリットの100質量部に対して、珪石(平均粒径20μm、粒径範囲0.1μm~100μm)及びCMC1.5質量%水溶液を表2に記載の質量割合(固形分換算)で混合機に投入し、5分間撹拌した。その後、エタノールを表2に記載の質量割合で混合機に投入し、更に20分間撹拌して、スラリー状の第一釉薬を得た。
【0082】
上記で作製したフリットを試験番号に応じて表3に示すように選択し、フリットの100質量部に対して、CMC1.5質量%水溶液を表3に記載の質量割合(固形分換算)で混合機に投入し、5分間撹拌した。その後、エタノールを表3に記載の質量割合で混合機に投入し、更に20分間撹拌して、スラリー状の第二釉薬を得た。
【0083】
上記で作製したフリットを試験番号に応じて表4に示すように選択し、フリットの100質量部に対して、CMC1.5質量%水溶液を表4に記載の質量割合(固形分換算)で混合機に投入し、5分間撹拌した。その後、エタノールを表4に記載の質量割合で混合機に投入し、更に20分間撹拌して、スラリー状の第三釉薬を得た。
【0084】
(実施例3~6、比較例4)
上記で作製したフリットを試験番号に応じて表2に示すように選択し、フリット100質量部に対して、珪石、白金繊維及びCMC1.5質量%水溶液を表2に記載の質量割合で混合機に投入し、10分間撹拌した。その後、エタノール、水、及びポリカルボン酸アンモニウム塩を表2に記載の質量割合で混合機に投入し、更に20分間撹拌して、スラリー状の第一釉薬を得た。
【0085】
上記で作製したフリットを試験番号に応じて表3に示すように選択し、フリット100質量部に対して、白金繊維及びCMC1.5質量%水溶液を表3に記載の質量割合で混合機に投入し、10分間撹拌した。その後、エタノール、水、及びポリカルボン酸アンモニウム塩を表3に記載の質量割合で混合機に投入し、更に20分間撹拌して、スラリー状の第二釉薬を得た。
【0086】
上記で作製したフリットを試験番号に応じて表4に示すように選択し、フリット100質量部に対して、白金繊維及びCMC1.5質量%水溶液を表4に記載の質量割合で混合機に投入し、10分間撹拌した。その後、エタノール、水、及びポリカルボン酸アンモニウム塩を表4に記載の質量割合で混合機に投入し、更に20分間撹拌して、スラリー状の第三釉薬を得た。
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
【表4】
【0090】
<3.熱伝導性試験>
低炭素鋼製の最大直径100mmのお椀状のテストピースを用意した。当該テストピースの内面に実施例及び比較例の各第一釉薬をスプレー塗布により施釉して860℃で15分間焼成する工程を1回行うことにより、表5に記載の厚みのグランドコート層を得た。次いで、実施例及び比較例の各第二釉薬をグランドコート層の上にスプレー塗布により施釉して800℃で15分間焼成する工程を3回実施することにより、表5に記載の厚みの中間層を得た(比較例1、2及び4を除く。)。次いで、実施例及び比較例の各第三釉薬を中間層の上にスプレー塗布により施釉して800℃で15分間焼成する工程を1~3回実施することにより、表5に記載の厚みのカバーコート層を得た。このようにして得られたグラスライニング層付きテストピースに水を200cc入れ、600Wのヒーターで加熱したときに、水温が20℃から80℃まで上昇するのに要する時間を測定した。結果は、比較例1における時間を100%としたときの比率として表5に示す。
【0091】
<4.Na溶出試験>
直径12mm×長さ80mmの低炭素鋼製の丸棒を用意した。当該丸棒の表面に熱伝導性試験と同様の工程で、グランドコート層、中間層、及びカバーコート層で構成されるグラスライニング層を形成した。このようにして得られたグラスライニング層付き丸棒を、PTFE製の容器に入れた50℃の超純水(比抵抗:18MΩ)200mL中に100時間浸漬することでNa溶出試験を行った。試験後、超純水中のNa濃度をICP分析(誘導結合プラズマ質量分析)することで、Na溶出量を求めた。結果は、比較例1におけるNa溶出量を100%としたときの比率として表5に示す。
【0092】
<5.電気抵抗値>
1辺が100mmの正方形状で厚みが5mmの低炭素鋼板の一方の主表面に熱伝導性試験と同様の工程で、グランドコート層、中間層、及びカバーコート層で構成されるグラスライニング層を形成した。このようにして得られたグラスライニング層付き鋼板について、電池式絶縁抵抗計を用いて、グラスライニング層表面と鋼板に電極(プローブ)を当て、電気抵抗値を測定した。結果を表5に示す。
【0093】
【表5】
【0094】
<6.機械衝撃性試験>
1辺が100mmの正方形状で厚みが5mmの低炭素鋼板の一方の主表面に対して、サンドブラスト処理を行った。この際、サンドブラスト処理するときの研磨材(ブラウンアルミナ)の平均粒径を変化させることで種々の表面粗さをもつ低炭素鋼板を得た。サンドブラスト処理後の各低炭素鋼板の表面粗さRa及びRz(JIS B 0601:1994)を接触式のポータブル粗さ計(MITECHINSTRUMENT製/MDT310)でJIS B 0633:2001に準拠して測定した。結果を表6に示す。
【0095】
次いで、熱伝導性試験と同様の工程で、グランドコート層、中間層、及びカバーコート層で構成される実施例1グラスライニング層を形成した。このようにして得られたグラスライニング層付き鋼板について、DIN-51155規格の機械衝撃性試験により、グラスライニング層と鋼板の機械衝撃性、及び気泡を伴うブロー欠陥の状態を測定した。結果を表6に示す。
【0096】
【表6】
【符号の説明】
【0097】
10 グラスライニング製品
11 金属基材
12 グランドコート層
13 中間層
14 カバーコート層
図1