(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】微細作業用マニピュレータ
(51)【国際特許分類】
A61B 34/30 20160101AFI20230214BHJP
【FI】
A61B34/30
(21)【出願番号】P 2021523331
(86)(22)【出願日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2020029243
(87)【国際公開番号】W WO2022024296
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2021-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】522461756
【氏名又は名称】F.MED株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小栗 晋
【審査官】羽月 竜治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/078022(WO,A1)
【文献】特開2015-150425(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0238883(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0095596(US,A1)
【文献】特開平07-012232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 34/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人に代わって作業対象に対し微細作業に係る所定動作を実行する微細作業用マニピュレータにおいて、
前記作業対象の存在する空間における所定箇所に支持されるベースと、前記作業対象又は作業用器具を取り扱うエンドエフェクタと、前記ベースと前記エンドエフェクタとの間に並列に配置される複数のリンクとを有し、前記エンドエフェクタの位置及び向きを前記ベースに対し所定範囲内で可変とする、3以上の複数自由度のパラレルリンク機構を備え、
前記パラレルリンク機構は、前記ベースに支持された複数のリニアアクチュエータで前記リンク毎にその一端部を直線移動させて、前記各リンク他端部に連結した前記エンドエフェクタを動かすものとされ、
さらに、
前記エンドエフェクタと前記パラレルリンク機構との間に設けられ、前記エンドエフェクタを所定の回転軸周りに回動可能に支持する回動支持部と、
前記エンドエフェクタに前記回転軸周りの回動力を発生させる液圧駆動機構と
を有し、
前記液圧駆動機構に対し外部から作動液の液圧変化を与えて、前記エンドエフェクタを回動させる動きを生じさせ
、
前記液圧駆動機構は、
前記回転軸を中心として円弧状に形成され、この回転軸周りに回動可能に支持されたたガイド部材と、
前記作動液の液圧変化に基づいて前記ガイド部材に前記回転軸周りの回動力を前記ガイド部材に付与する伸縮自在のダイヤフラムと
を有することを特徴とする微細作業用マニピュレータ。
【請求項2】
前記ダイヤフラムは、前記ガイド部材が収容される円弧状の凹部と、前記作動液が収容され、前記作動液の液圧変化に基づいて前記凹部に収容された前記ガイド部材を前記回転軸周りに移動させるダイヤフラム本体とを有することを特徴とする請求項
1記載の微細作業用マニピュレータ。
【請求項3】
前記パラレルリンク機構が、前記リニアアクチュエータ及び前記リンクを6つ以上並列配置した、6自由度以上の機構とされることを特徴とする請求項1~
2のいずれかに記載の微細作業用マニピュレータ。
【請求項4】
前記リニアアクチュエータが、コイルを可動子の一部とすると共に、永久磁石を固定子の一部とする、コイル可動型のリニアモータとされ、
前記可動子が、前記ベースに対して直線移動可能に取り付けられた直動スライダと、当該直動スライダに一体に取り付けられた円筒状の前記コイルとを有し、当該コイルが、その軸方向を前記
直動スライダの移動方向に平行する向きで配置され、
前記固定子が、前記コイルより短い円筒状の前記永久磁石を有し、当該永久磁石が、前記コイルと筒軸方向を一致させ、且つ前記コイルが前記永久磁石の筒内空間部分を移動可能に貫通する配置状態とされていることを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載の微細作業用マニピュレータ。
【請求項5】
前記リニアモータが、それぞれ前記可動子の移動方向を互いに平行としつつ、当該可動子の移動方向と平行となる所定の仮想中心線の周りに、前記永久磁石が最も前記仮想中心線に近い側となる配置で並べられていることを特徴とする請求項
4記載の微細作業用マニピュレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細作業用マニピュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
整形外科や形成外科に係る手術や欠損部再建手術等における、直径0.5ないし2mm程度の細い血管や神経、リンパ管の吻合など、微細な手術対象に対して顕微鏡下で手術を行う、いわゆるマイクロサージャリーは、手術対象が小さいため、極めて精密で正確な作業が要求され、手術は熟練を要するものとなっている。また、手術はその困難性から長時間に及ぶものとなりやすく、そうした長時間にわたる手術の場合、術者の負担も大きくなる。こういった点から、マイクロサージャリーは、その必要性に比較して手術可能な術者が限られ、頻繁に手術を実施することはできなかった。
【0003】
ここで、近年技術的に大幅に進歩したマニピュレータ(ロボット)の活用を検討すると、マスタスレーブマニピュレータは人の動きをそのまま再現するだけに留まらず、人の動きを縮小した動作が可能であり、精密に動作するマニピュレータで手術に係る動作を肩代わりすれば、手ぶれ等の影響を排除して精度を確保した上で、術者の負担を減らし、手術の能率向上が期待できる。
【0004】
そこで、本発明者等は、遠隔操作で作業に係る動作を適切に行わせて効率よく作業支援が行え、作業者の負担を軽減可能な微細作業支援システム、及びこれに用いる微細作業用マニピュレータを提案した(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された微細作業用マニピュレータは、先端部に設けられた鉗子をパラレルリンク機構により動作させていた。ここで、マイクロサージャリーに限らず、外科手術において鉗子を捻る(回動させる)動作は、術者が手術対象に対して行う作業として重要なものであり、特許文献1に開示された微細作業用マニピュレータにおいては、パラレルリンク機構を作動させることにより実現していた。
【0007】
しかしながら、パラレルリンク機構を作動させることにより鉗子を捻る動作を実現すると、鉗子を円滑にかつ微細な角度だけ回動させる制御を確実に行えない場合があった。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたもので、エンドエフェクタの回動動作を円滑にかつ確実に制御することが可能な微細作業用マニピュレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明の一つの観点に従う微細作業用マニピュレータは、人に代わって作業対象に対し微細作業に係る所定動作を実行する微細作業用マニピュレータであって、作業対象の存在する空間における所定箇所に支持されるベースと、作業対象又は作業用器具を取り扱うエンドエフェクタと、ベースとエンドエフェクタとの間に並列に配置される複数のリンクとを有し、エンドエフェクタの位置及び向きをベースに対し所定範囲内で可変とする、3以上の複数自由度のパラレルリンク機構を備え、パラレルリンク機構は、ベースに支持された複数のリニアアクチュエータでリンク毎にその一端部を直線移動させて、各リンク他端部に連結したエンドエフェクタを動かすものとされ、さらに、エンドエフェクタとパラレルリンク機構との間に設けられ、エンドエフェクタを所定の回転軸周りに回動可能に支持する回動支持部と、エンドエフェクタに回転軸周りの回動力を発生させる液圧駆動機構とを有し、液圧駆動機構に対し外部から作動液の液圧変化を与えて、エンドエフェクタを回動させる動きを生じさせることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エンドエフェクタの回動動作を円滑にかつ確実に制御することが可能な微細作業用マニピュレータを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る微細作業用マニピュレータが適用された微細作業用装置の概略構成を示す斜視図である。
【
図2】実施形態に係る微細作業用マニピュレータが適用された微細作業用装置の概略構成を示す斜視図である。
【
図3】実施形態に係る微細作業用マニピュレータが適用された微細作業用装置の概略構成を示す側面図である。
【
図4】実施形態に係る微細作業用マニピュレータを示す斜視図である。
【
図5】実施形態に係る微細作業用マニピュレータの要部を示す斜視図である。
【
図6】実施形態に係る微細作業用マニピュレータの要部を示す斜視図である。
【
図7】実施形態に係る微細作業用マニピュレータのエンドエフェクタ及び回動支持部を示す斜視図である。
【
図8】実施形態に係る微細作業用マニピュレータのエンドエフェクタ及び回動支持部を示す一部破断斜視図である。
【
図9】実施形態に係る微細作業用マニピュレータの液圧駆動機構を示す斜視図である。
【
図10】実施形態に係る微細作業用マニピュレータの液圧駆動機構を示す斜視図である。
【
図11】実施形態に係る微細作業用マニピュレータのガイド部材及びダイヤフラムを示す斜視図である。
【
図12】実施形態に係る微細作業用マニピュレータのガイド部材及びダイヤフラムを示す斜視図である。
【
図13】実施形態に係る微細作業用マニピュレータのエンドエフェクタに設けられたダイヤフラムを示す斜視図である。
【
図14】実施形態に係る微細作業用マニピュレータのエンドエフェクタに設けられたダイヤフラムを示す斜視図である。
【
図15】実施形態に係る微細作業用マニピュレータのダイヤフラムを示す斜視図である。
【
図16】実施形態に係る微細作業用マニピュレータの液圧供給機構を示す斜視図である。
【
図17】実施形態に係る微細作業用マニピュレータの液圧供給機構を示す一部破断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0013】
なお、実施形態を説明する図において、同一の機能を有する箇所には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0014】
本実施形態では、微細作業としてのマイクロサージャリーに対応した手術支援用の微細作業用マニピュレータが適用された微細作業用装置について説明する。
【0015】
本実施形態に係る微細作業用装置1は、
図1~
図3に示すように、本実施例に係る微細作業用マニピュレータ10と、この微細作業用マニピュレータ10が先端部に取り付けられたロボット部20と、このロボット部20を下方から支持する基台30と、同様に基台30に取り付けられ、手術対象を撮像する撮像部40と、微細作業用装置1全体の動作を制御する図略の制御部とを有する。また、必要に応じて表示部が設けられる。
【0016】
ロボット部20は、回転3自由度及び半径方向への併進1自由度を有する。図示例では基台30に一対のロボット部20及び微細作業用マニピュレータ10が設けられているが、ロボット部20及び微細作業用マニピュレータ10の個数に特段の制限はない。
【0017】
撮像部40は、後述する微細作業用マニピュレータ10のエンドエフェクタの先端作動部及び手術対象を撮像するものであり、例えばロボット部20の上方等で微細作業用マニピュレータ10の少なくとも先端部及び手術対象を俯瞰可能な位置に配置されている。この撮像部40は、従来のマイクロサージャリー用顕微鏡で見るのと同様の倍率まで拡大しても再現性を確保できる、高解像度の撮像画像を取得可能な公知のビデオカメラであり、従ってここでは詳細な説明を省略する。
【0018】
表示部は、撮像部40で取得された手術対象の画像を必要に応じ拡大して使用者に視認可能に表示するものである。この表示部は撮像により得られた画像を高解像度で表示可能な液晶ディスプレイなどの公知の表示装置であり、従ってここでは詳細な説明を省略する。
【0019】
基台30は図略の移動機構を有し、この基台30に設けられた微細作業用マニピュレータ10、ロボット部20及び撮像部40を含めて図略の手術室の床上を、制御部からの移動支持に基づいて所定の位置に移動可能に構成されている。これにより、本実施例の微細作業用装置1は、
図1に示す手術対象である患者2が横臥する手術台3に対して接近、離隔可能にされ、さらに、患者2の手術箇所に微細作業用マニピュレータ10の少なくとも先端部を配置することができる。
【0020】
次に、
図4~
図6を参照して、本実施例の微細作業用マニピュレータ10について説明する。
【0021】
微細作業用マニピュレータ10は、ロボット部20に支持される図略のベースと、手術対象又は手術用器具を取り扱うエンドエフェクタ12と、並列に配置される六つのリンク13と、ベースとエンドエフェクタ12との間に配置される回動支持部17と、ベースに支持されて各リンク13を動かす六つのリニアアクチュエータ14とを有する。
【0022】
これらベース、エンドエフェクタ12、リンク13、及びリニアアクチュエータ14が、リンク13毎にリニアアクチュエータ14でリンク13の一端部を直線移動させて、リンク13の他端部に連結したエンドエフェクタ12を動かす、6自由度のパラレルリンク機構を構成している。
【0023】
パラレルリンク機構は、手術対象又は手術用器具を取り扱うエンドエフェクタ12の位置及び向きをベースに対し所定範囲内で可変とするものであるが、6自由度を有することで、先端のエンドエフェクタ12に手で支持する場合と同等の動きを与えられる
【0024】
リニアアクチュエータ14は、コイル15bを可動子15の一部とすると共に、永久磁石16aを固定子16の一部とする、コイル可動型のリニアモータである。
【0025】
可動子15は、ベースに対し直線移動可能に配設される直動スライダ15aと、この直動スライダ15aに対してその移動方向が平行する向きで一体に取り付けられた細い円筒状配置のコイル15bと、コイル15bの先端に取り付けられ、このコイル15bと直動スライダ15aとを連結する連結部材15cとを有する。可動子15における直動スライダ15aの先端に、リンク13の一端部が連結部材15cを介して連結固定され、このリンク13の一端部が直動スライダ15aをはじめとする可動子15と共に直線移動することとなる。
【0026】
固定子16は、可動子15のコイル15bより太く且つ短い円筒状に形成され、図略の固定手段によりベースに固定された永久磁石16aを有する。
【0027】
固定子16では、ベースに固定された円筒状の永久磁石16aが、可動子15のコイル15bと筒軸方向を一致させ、且つコイル15bが永久磁石16bの筒内空間部分を移動可能に貫通する配置状態とされる。
【0028】
このようにリニアアクチュエータ14をリニアモータとしていることで、ボールねじなどの他の直動機構と比べて、機械的な可動部分を削減できる上、摺動や転動を伴う接触部分を減らすことができ、バックラッシも生じさせず、機構としての信頼性を高めると共に、摩擦抵抗を減らして駆動に要する電力消費を抑えられることとなる。
【0029】
可動子15及び固定子16からなるリニアモータであるリニアアクチュエータ14は、それぞれ可動子15の移動方向を互いに平行としつつ、この可動子15の移動方向と平行となり、且つリニアアクチュエータ14の長手方向に延びる所定の仮想中心線の周りに、固定子16の永久磁石16a及び可動子15のコイル15bが最も仮想中心線に近い側となり、且つ仮想中心線の周りで各永久磁石16a同士及び各コイル15b同士が等間隔となる配置で、並べて配設された状態となっている。
【0030】
なお、固定子16をなす永久磁石16aは、その筒内空間部分を貫通して一組のリニアモータをなすコイル15b以外の他コイル15bにも近付いた配置となっているが、固定される永久磁石16aは、コイル15bとは異なり磁場の変動がないことから、他の各コイル15bの移動に対し磁気的影響を与えるものとはならない。
【0031】
リニアアクチュエータ14をなす各リニアモータの可動子15及び固定子16を仮想中心線周りに並べた配置しているので、微細作業用マニピュレータ10のリニアアクチュエータ部分をコンパクトな構造にまとめることができる。さらに、機械構造上、固定磁場を変動させる可動子15のコイル15bの端部が固定子16の永久磁石16aにさほど近付かないので、可動子15の移動に対してコギングの原因となる磁場の変動を抑制でき、リニアアクチュエータ14のスムースな動作を実現することができる。
【0032】
リンク13は、剛性が高く変形しない略棒状の二つの部材を長手方向に連結して組み合わせた棒状体の両端に、リニアアクチュエータ14や回動支持部17と連結するための複数自由度の継手13a、13bをそれぞれ配設した構成である。このリンク13では、棒状体をなす略棒状部材同士は互いに回転可能に連結しており、リンク13の一端寄り部分と他端寄り部分との間には、互いに長手方向と平行な軸回りの回転の自由度を付与した構造である。
【0033】
リンク13の一端部の継手13aは、互いに直交する二つの軸回りの各回転の自由度を有する構造を有して、リニアアクチュエータ14の直動スライダ15a端部に連結されている。また、リンク13の他端部の継手13bは、前記同様の互いに直交する二つの軸回りの各回転の自由度を有する構造を有して、回動支持部17と連結されている。
【0034】
リンク13の一端寄り部分と他端寄り部分との間に回転の自由度を付与していることと、リンク13両端部における二つの回転の自由度を有する各継手13a、13bによる連結とにより、各リンク13は、連結されるリニアアクチュエータ14や回動支持部17に対し、球継手を用いて連結した場合と同様に自由に向きを変化させることができる。そして、こうしたリンク13をリニアアクチュエータ14と回動支持部17との間に配置するリンク機構を、六つのリンク13を並列させたパラレルリンク機構としていることで、ベースに対し、回動支持部17、及び回動支持部17の先端部に設けられたエンドエフェクタ12の位置及び向きの変化に係る様々な動きを、人の手でエンドエフェクタ12を支持した場合と同様の、互いに直交する三つの軸方向への移動の3自由度と、前記三つの軸回りの各回転の3自由度とを合わせた6自由度で許容できる仕組みである。
【0035】
次に、
図7~
図15を参照して、本実施例の微細作業用マニピュレータ10におけるエンドエフェクタ12及び回動支持部17について説明する。
【0036】
回動支持部17は外径筒状に形成された外筒部材17aと、この外筒部材17aの中空部に収納された、同様に内筒部材17bとを有する。外筒部材17aの内部には、この外筒部材17aの中心軸周りにドーナツ状の中空部17cが形成されている。
【0037】
内筒部材17bには、
図9~
図12に詳細に示すように、この内筒部材17bから突出して内筒部材17bの中心軸(これは外筒部材17aの中心軸とも一致する)周りに延在する円弧状のガイド部材17dが設けられている。このガイド部材17dの外周には、例えばシリコーンゴム等の伸縮自在な素材からなるローリングダイアフラム17eが設けられている。
【0038】
ローリングダイアフラム17eは、
図15に示すように、ガイド部材17dと略同一の中心を有する円弧状に形成されたダイヤフラム本体17fと、このダイヤフラム本体17fの一端側(
図15において右端側)に形成され、ガイド部材17dの外周よりやや大径に形成された円弧状の凹部17gとを有する。そして、
図9~
図12に示すように、ローリングダイアフラム17eの凹部17gには、内筒部材17bのガイド部材17dが嵌め込まれている。
【0039】
ダイヤフラム本体17fは凹部17gが設けられた一旦側と反対側にも図略の凹部が形成されており、この凹部には後述する液圧供給機構から作動液が供給される。つまり、ダイヤフラム本体17f内の凹部は作動液室として作用する。
【0040】
これにより、ローリングダイアフラム17eの凹部17gが作動液によりその体積が増減し、これにより、ガイド部材17dが内筒部材17bの中心軸に沿って回動する。
図11は、ローリングダイアフラム17eのダイヤフラム本体17f内に作動液が満たされて、その結果、ガイド部材17dが図中反時計回り方向に回動された状態を示し、一方、
図12は、ローリングダイアフラム17eのダイヤフラム本体17f内から作動液が排出されて、その結果、ガイド部材17dが図中反時計回り方向に回動された状態を示している。
【0041】
図10に示すように、外筒部材17aと内筒部材17bとはベアリング17hにより互いに相対的に回動自在に固定されている。そして、外筒部材17aはリンク13の継手13bに固定されている。従って、作動液供給による液圧の増減に伴って、内筒部材17bは外筒部材17aに対して相対的に回動される。この内筒部材17bはエンドエフェクタ12に連結されているので、結果、作動液供給による液圧の増減に伴ってエンドエフェクタ12も回動される。
【0042】
従って、回動支持部17の内筒部材17b及びローリングダイアフラム17eは、エンドエフェクタ12に内筒部材17bの中心軸周りの回動力を発生させる液圧駆動機構に相当する。
【0043】
エンドエフェクタ12は、手術対象又は手術用器具の取り扱いを実行可能とされるものである。詳細には、このエンドエフェクタ12は、パラレルリンク機構による全体の動きとは別の、1自由度の開閉する動きで手術対象又は手術用器具の取り扱いを実行する先端作動部18と、この先端作動部18の前記手術対象又は手術用器具を取り扱う動きを発生させる液圧駆動機構19とを有する。
【0044】
このうち、先端作動部18は、液圧駆動機構19に対し着脱可能に取り付けられており、液圧駆動機構19に対して分離交換可能とされる。
【0045】
こうして、エンドエフェクタ12において、実際に手術対象又は手術用器具の取り扱いを実行する先端作動部18のみを、手術対象や状況に対応したものに容易に交換可能とすることで、手術に係る作業を効率よく進められる仕組みである。
【0046】
先端作動部18は、具体的には、開閉して手術対象又は手術用器具を挟持可能な鉗子部分をなす二つの末端部分を有する略円錐形状とされ、液圧駆動機構19に着脱可能として取り付けられるものである。この先端作動部18は、開閉する鉗子部分と連動して直線移動可能とされるロッド部18aを有しており、このロッド部18aを液圧駆動機構19で動かすことで鉗子部分を開閉可能とされる。
【0047】
エンドエフェクタ12の交換可能な先端作動部18としては、鉗子の他、剪刀(はさみ)、ピンセット、持針器、バイポーラ(高周波通電凝固器具)、ディスポーザブル(使い捨て)鉗子等が挙げられる。この他、先端作動部としては、手術に係る作業の実行にあたり、リニアアクチュエータによるエンドエフェクタ全体としての動きで足り、液圧駆動機構による独自の作動を要しないもの、例えば、電気メス(いわゆるモノポーラ)なども交換使用できる。
【0048】
液圧駆動機構19は、直線移動可能に支持されるロッド19b及びピストン19cを作動液の液圧変化に対応させて往復動させる液圧シリンダ部19aを有する。この液圧駆動機構19に先端作動部18を取り付けると、先端作動部18のロッド部18aに液圧駆動機構19のロッド19bが連結し、連動して先端作動部18の鉗子部分に液圧シリンダ部19aの液圧変化に応じた動きを伝えられる仕組みである。
【0049】
液圧シリンダ部19aは、外部から与えられる作動液の液圧変化によりシリンダ内部の作動液室19dの容積を変化させてピストン19cを動かし、このピストン19cの動きをロッド19bを介して先端作動部18のロッド部18aに伝えて、鉗子部分の開閉動作を生じさせる。この液圧シリンダ部19aのピストン19cと作動液室19dとの間には、ピストン19cの動きに合わせて変形しつつ、シリンダ内部をピストン19cのある領域と作動液室19dとに区画し、ピストン19cと作動液室19d間の液密状態を維持するローリングダイアフラム19eが設けられている(
図13参照)。
【0050】
同様に、液圧シリンダ部19aのピストン19cの後端部(
図10において右端部)にも作動液室19fが形成され、この液圧シリンダ部19aのピストン19cと作動液室19fとの間には、ピストン19cの動きに合わせて変形しつつ、ピストン19cと作動液室19f間の液密状態を維持するローリングダイアフラム19gが設けられている(
図14参照)。そして、液圧シリンダ部19aは、外部から与えられる作動液の液圧変化によりシリンダ内部の作動液室19fの容積を変化させてピストン19cを動かし、このピストン19cの動きをロッド19bを介して先端作動部18のロッド部18aに伝えて、鉗子部分の開閉動作を生じさせる。
【0051】
ここで、ローリングダイアフラム19e、19gはローリングダイアフラム17eと同様に、例えばシリコーンゴム等の伸縮自在な素材からなる。
【0052】
このエンドエフェクタ12の液圧駆動機構19の作動液室19d、19fには、後述する液圧供給機構から作動液が供給される。
【0053】
この他、エンドエフェクタ12の他部分に対し分離交換可能な先端作動部18を除く、スレーブ部全体を覆うシート状の抗菌性のカバーを設けると共に、エンドエフェクタの先端作動部18を、例えば磁石等を用いて、カバー配設状態でも液圧駆動機構19に着脱可能とするようにしてもよい。
【0054】
このようなカバーを設ける場合、滅菌が可能で清浄性を確保できる先端作動部18、及び手術対象のある領域から、先端作動部18以外のスレーブ部のある領域、すなわち、各種可動機構や通電部分の存在により滅菌作業ができず清浄性を確保しにくい領域、をカバーで空間として確実に分離することで、手術対象のある領域の清浄性を確保できる。
【0055】
なお、エンドエフェクタ12は、先端作動部18を液圧駆動機構19に対し着脱可能とする構成としているが、この他、先端作動部18と液圧駆動機構19を一体に取り扱い、これらを回動支持部17に対して着脱可能として、パラレルリンク機構をなす六つのリンク13の他端部に連結している回動支持部17に対して、先端作動部18及び液圧駆動機構19を含む先端側部分を分離交換できるようにする構成とすることもでき、同様に先端作動部18を液圧駆動機構19ごと、手術対象や状況に対応したものに交換することで、手術に係る作業を効率よく進められる。
【0056】
また、こうした先端作動部18を着脱可能とする構成に限られるものではなく、エンドエフェクタ12を回動支持部17から先端作動部18に至るまで分離できない一体構造として形成する構成としてもかまわない。
【0057】
次に、
図16及び
図17を参照して、本実施例の微細作業用装置1における液圧供給機構について説明する。
【0058】
微細作業用装置1の微細作業用マニピュレータ10に作動液を供給してこの作業液の液圧を変化させる液圧供給機構50は、微細作業用マニピュレータ10の可動子15及び固定子16と同様の構造を有する可動子52及び固定子53からなるリニアアクチュエータ51と、このリニアアクチュエータ51により作動される液圧シリンダ部54とを有する。
【0059】
液圧シリンダ部54は、円柱状のピストン54aとこのピストン54aの両端に設けられた一対の円筒状のシリンダ54bとを有する。このシリンダ54bには図略の作動液が満たされている。そして、リニアアクチュエータ51の可動子52とピストン54aとが固定部材55により連結されることで、リニアアクチュエータ51の可動子52の移動に伴ってピストン54aがシリンダ54b内を摺動し、その結果、シリンダ54b内の作動液に差動的な液圧が付与される。この作動液は微細作業用マニピュレータ10に供給される。
【0060】
次に、本実施例の微細作業用装置1の動作について説明する。まず、微細作業用装置1の操作者は、図略の制御部を介して基台30を移動させることで、手術台3上に横臥する患者2の近傍まで微細作業用マニピュレータ10を含むロボット部20を移動させ、さらに、図略の制御部を介してロボット部20の各部位を移動させることで、微細作業用マニピュレータ10の先端作動部18を手術対象となる患者2の患部近傍に位置させる。また、微細作業用装置1の操作者は、制御部を介して撮像部40が患者2の患部近傍を含む領域が撮像可能となるように、撮像部40の各部位を移動させる。
【0061】
この状態で、微細作業用装置1の操作者が、エンドエフェクタ12を手術対象に対し所望の向きに回転させる(捻る)動作をする、また、先端作動部18で手術対象の所定箇所を挟持したり、吻合や縫合用の針などの手術用器具を把持する必要がある場合には、制御部を介して液圧供給機構50を動作させ、作動液の液圧を調整する。
【0062】
液圧供給機構50の作動液供給による液圧調整により、回動支持部17のガイド部材17dが内筒部材17bの中心軸周りに回動されることで、この回動支持部17の先端部に設けられた先端作動部18を含むエンドエフェクタ12が回動し、これによりエンドエフェクタ12の捻り動作が実現される。
【0063】
なお、本実施例の微細作業用マニピュレータ10は、リニアアクチュエータ14及びリンク13によっても、回動支持部17、先端作動部18を含むエンドエフェクタ12を回動させることができる。但し、リニアアクチュエータ14及びリンク13のみの動作によってエンドエフェクタ12を、手術作業等で必要とされる角度(例えば±90°)回動させる(捻る)と、リンク13が振動して先端作動部18、特に鉗子部分が振動してしまう可能性がある。一方、回動支持部17は、その構造上±90°回動させることは難しく、±70°程度の回動範囲に限定される。
【0064】
そこで、本実施例の微細作業用マニピュレータ10では、エンドエフェクタ12の捻り(回動)動作は主に回動支持部17で行い、リニアアクチュエータ14及びリンク13による捻り動作は、これらリニアアクチュエータ14及びリンク13により円滑な動作が期待できる範囲(上記した例では±20°程度)で行っている。これにより、エンドエフェクタ12に必要とされる回動角度を確保しつつ、安定した鉗子部分の捻り動作を実現することができる。
【0065】
また、液圧供給機構50の作動液供給による液圧調整により、エンドエフェクタ12のロッド19bが移動し、これにより先端作動部18のロッド部18aが移動することで鉗子部分が開閉する。
【0066】
これらエンドエフェクタ12の捻り動作及び先端作動部18の鉗子部分の開閉動作は、ロボット部20の各部位の移動及び微細作業用マニピュレータ10の位置や向きの移動(すなわちエンドエフェクタ12の位置や向きの移動)とは別個に行われる。
【0067】
これにより、エンドエフェクタ12の位置や向きを変える作動とは別に、先端作動部18の鉗子部分が動いて、手術対象の所定箇所を挟持したり、手術用器具を把持する動作が実行される。
【0068】
微細作業用装置1の操作者は、以上の手順により微細作業用マニピュレータ10を含む微細作業用装置1を操作し、エンドエフェクタ12の先端作動部18を動かして、手術対象の血管等を挟持又は解放したり、針等の手術用器具を把持又は解放することができ、表示部を見ながら微細作業用マニピュレータ10全体を動かす操作と合わせて、例えば、先端作動部18で把持した吻合用針を血管接合部分に通すなどの精密な作業を、エンドエフェクタ12と先端作動部18をそれぞれ適切に動かして実行させることができる。
【0069】
以上詳細に説明したように、本実施形態に係る微細作業用装置1は、ベースに対しエンドエフェクタ12を可動とするリンク機構として、複数自由度のパラレルリンク機構を用い、且つ、ベースに支持される複数のリニアアクチュエータ14で各リンク一端部を移動させてエンドエフェクタ12を動かすようにし、操作者からの指示に基づいてリニアアクチュエータ14を作動させ、エンドエフェクタ12の位置及び向きを変えることから、誤差が累積しにくい簡略で剛性の高いリンク機構でエンドエフェクタ12の精密な動きを実現可能とし、表示された撮像画像を見ながらの使用者の遠隔操作でも、エンドエフェクタ12にマイクロサージャリーに係る諸動作を行わせることができ、熟練した医師の手技と同等の動作を再現可能としつつ、作業性を向上させて使用者の負担を軽減できる。
【0070】
また、エンドエフェクタ12の回動動作及び実際に手術対象や手術用器具の取り扱いを実行する先端作動部18を液圧駆動とすることで、先端作動部18にはモータ駆動の場合のような力検出用のセンサを設けずに済むこととなり、センサの較正等の煩わしい作業を不要にする他、エンドエフェクタ12の小型化が可能となり、手術使用時のエンドエフェクタ12に対する滅菌作業も容易となる。
【0071】
加えて、作動液はローリングダイアフラム17e、19e、19gにより区画された作動液室19d、19f内に供給されるので、回動支持部17及び液圧駆動機構19の移動に際してパッキン等を設けることがなく、従って摺動面がないことにより、回動支持部17及び液圧駆動機構19の移動の際に摩擦力が作用することがない。さらに、ローリングダイアフラム17e、19e、19gはいずれも例えばシリコーンゴム等の伸縮自在な素材からなり、微小な作動液供給の液圧変動に対するエンドエフェクタ12、先端作動部18の応答性に優れる、という利点もある。加えて、ローリングダイアフラム17e、19e、19gはいずれも回動支持部17及び液圧駆動機構19に固定されているので、作動液の液漏れに強い、という利点もある。
【0072】
なお、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために構成を詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成に追加、削除、置換することが可能である。
【0073】
一例として、上述の実施形態では、微細作業用マニピュレータ10はロボット部20及び基台30に取り付けられていたが、微細作業用マニピュレータ10の手術対象に対する位置等の粗調整は、微細作業用マニピュレータ10を支持用のスタンドやアーム等にいったん取り付けて支持した状態で、エンドエフェクタ12が手術対象に向くと共に手術対象と適切な間隔をなすように、人の手でスタンドやアーム等を動かして調整を行う構成としてもよい。
【0074】
上述の実施例において、制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。全ての構成が相互に接続されていてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1…微細作業用装置 10…微細作業用マニピュレータ 12…エンドエフェクタ 13…リンク 14…リニアアクチュエータ 15…可動子 15a…直動スライダ 15b…コイル 16…固定子 16a…永久磁石 17…回動支持部 17a…外筒部材 17b…内筒部材 17c…中空部 17d…ガイド部材 17e…ローリングダイアフラム 17f…ダイヤフラム本体 17g…凹部 18…先端作動部 19…液圧駆動機構