(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】光源モジュールおよび照明器具
(51)【国際特許分類】
H01L 33/00 20100101AFI20230214BHJP
H05K 1/02 20060101ALI20230214BHJP
F21V 23/00 20150101ALI20230214BHJP
F21S 8/02 20060101ALI20230214BHJP
H05K 1/18 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
H01L33/00 H
H05K1/02 J
F21V23/00 160
F21S8/02 430
H01L33/00 L
H05K1/18 S
(21)【出願番号】P 2017209142
(22)【出願日】2017-10-30
【審査請求日】2020-07-31
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390014546
【氏名又は名称】三菱電機照明株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109612
【氏名又は名称】倉谷 泰孝
(74)【代理人】
【識別番号】100153176
【氏名又は名称】松井 重明
(74)【代理人】
【識別番号】100116643
【氏名又は名称】伊達 研郎
(72)【発明者】
【氏名】西川 弘明
(72)【発明者】
【氏名】下村 知也
(72)【発明者】
【氏名】中村 聡
(72)【発明者】
【氏名】藤間 美子
【審査官】東松 修太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-084402(JP,A)
【文献】特開2009-059883(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0062482(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00
H05K 1/02
F21V 23/00
F21S 8/02
H05K 1/18
F21Y 105/10
F21Y 115/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に第1の列を形成するように配置された複数の第1の発光素子と、
前記基板上に前記第1の列に隣接する第2の列を形成するように配置された複数の第2の発光素子と、
前記複数の第1の発光素子および前記複数の第2の発光素子と接続されるとともに、前記第1の列の前記複数の第1の発光素子と前記第2の列の前記複数の第2の発光素子とが同極どうしで対向するように前記基板上に設けられた複数の接続導体と、
前記第1の列内の前記複数の第1の発光素子を直列に接続するように、前記複数の第1の発光素子間を結ぶ直線と鈍角をなすように前記基板上に設けられた第1の斜め配線部
と、
前記第2の列内の前記複数の第2の発光素子を直列に接続するように、前記複数の第2の発光素子間を結ぶ直線と鈍角をなすように前記基板上に設けられた第2の斜め配線部と、を備え、
前記複数の第1の発光素子は、前記第1の列を形成する方向において隣り合う前記第1の発光素子が同極どうしで対向するように配置されている光源モジュール。
【請求項2】
前記複数の第1の発光素子および前記複数の第2の発光素子は、それぞれ陽極と陰極とを有し、
前記複数の接続導体は、前記第1の列の前記第1の発光素子の陽極と前記第2の列の前記第2の発光素子の陰極とを結ぶ線分上に、前記第1の列の前記第1の発光素子の陰極または前記第2の列の前記第2の発光素子の陽極のいずれか一方が存在するように配置されることを特徴とする請求項1に記載の光源モジュール。
【請求項3】
前記第1の列の前記第1の発光素子は、前記第2の列の列方向に配置された前記複数の第2の発光素子のうち距離が最も近い前記第2の発光素子と行方向において同極どうしで対向するように配置されたことを特徴とする請求項1および2のいずれか1項に記載の光源モジュール。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか1項に記載の光源モジュールと、
前記光源モジュールを点灯させる点灯回路と、
前記光源モジュールが取り付けられる器具本体と、
を備えた照明器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光源モジュールおよび光源モジュールを搭載した照明器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、天井に取り付けられて屋内を照明する照明器具が知られている。特許文献1には、基板に複数の光源素子が直列に実装され、絶縁部分よりも広い面積を有する配線パターンに光源素子を接続することにより、放熱性を高めた照明器具が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】電気学会・イオンマイグレーションの発生特性と防止方法調査専門委員会編、「プリント基板の試験と評価―イオンマイグレーション現象とその対策―」株式会社オーム社出版、2007年12月25日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の光源素子が特許文献1に記載された照明器具よりも基板上に高密度に実装された光源モジュールを照明の光源とする場合、製品の設計寿命までに短絡故障を引き起こさないことが要求される。特に光源素子を高密度に実装した場合は、部品の小型化、電気回路の高密度化により配線パターンが狭くなるため、イオンマイグレーションによる経年劣化を考慮する必要がある。
【0006】
イオンマイグレーション(以下、マイグレーションという)とは、エレクトロケミカルマイグレーションとも呼称される金属の電気化学的な移動現象である。マイグレーションは、基板上に配置された電極や配線から電気的または化学的要因により溶出した金属イオンが電極間や配線間を移動し、他方の電極や配線から還元されることによって金属が析出する現象である。プリント基板上でマイグレーションが発生した場合、パターン間の電気的絶縁性を低下させ短絡故障を引き起こす。
【0007】
マイグレーションに影響を与える要因としては、以下が挙げられる。
(1)電位差および電極の間隔
短絡が問題となるまでの時間(以下、「マイグレーション劣化時間」という)は、電界強度、即ち(陽極と陰極との間の電位差)を(陽極と陰極との間の距離)で除したものと相関がある。
縦軸に時間の対数をとり、横軸に電界強度の対数をとり実験データをプロットすると、ほぼ直線的な関係が得られる。基板の基材がガラスエポキシの場合、マイグレーション劣化時間t(×10^2[h])と電界強度E[V/mm]の回帰式は数式(1)となる(非特許文献1
図2・2 電界強度とマイグレーション劣化時間)。
t=137.21E^(-0.418) (1)
(2)湿度
湿度が高いほど、短絡するまでの時間が加速される。また、基板の吸湿性が高いほど、短絡するまでの時間が加速される。
【0008】
照明器具の場合、耐マイグレーション性を向上させるには発光素子間の距離を長くすればよい。しかし発光素子間の距離を長くすると、後述するように設計上の自由度が低くなりコスト増が懸念される。
本発明は、複数の発光素子を高密度に配置するとともに耐マイグレーション性を向上させた光源モジュールおよび照明器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る光源モジュールは、第1の列を形成するように配置された複数の第1の発光素子および第1の列に隣接する第2の列を形成するように配置された複数の第2の発光素子と、
該複数の第1の発光素子および複数の第2の発光素子と接続されるとともに、第1の列の複数の第1の発光素子と第2の列の複数の第2の発光素子とが同極どうしで対向するように基板上に設けられた複数の接続導体と、第1の列内の複数の第1の発光素子を直列に接続するように複数の第1の発光素子間を結ぶ直線と鈍角をなすように基板上に設けられた第1の斜め配線部と、第2の列内の複数の第2発光素子を直列に接続するように複数の第2の発光素子間を結ぶ直線と鈍角をなすように基板上に設けられた第2の斜め配線部とを備え、第1の列を形成する方向において隣り合う第1の発光素子が同極どうしで対向するように配置されたものである。
【0010】
この発明に係る照明器具は、光源モジュールと、該光源モジュールを点灯させる点灯回路と、光源モジュールが取り付けられる器具本体と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、第1の列の複数の第1の発光素子と第2の列の複数の第2の発光素子とが同極どうしで対向するように複数の接続導体を配置することにより、発光素子を高密度に配置した光源モジュールおよび照明器具の耐マイグレーション性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態1における光源モジュールを示す平面図である。
【
図2】実施の形態1における発光素子を示す底面図である。
【
図3】実施の形態1における発光素子を示す正面図である。
【
図4】実施の形態1における光源モジュールを示す平面図である。
【
図5】実施の形態1における光源モジュールを示す拡大平面図である。
【
図6】実施の形態1における光源モジュールを示す拡大平面図である。
【
図7】実施の形態2における器具本体を示す側面図である。
【
図8】実施の形態2における器具本体を示す分解斜視図である。
【
図9】実施の形態2における照明器具を示す分解斜視図である。
【
図10】比較例における光源モジュールを示す平面図である。
【
図11】比較例における光源モジュールを示す拡大平面図である。
【
図12】比較例における発光素子間の距離を広げた光源モジュールを示す平面図である。
【
図13】比較例における光源モジュールを示す拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
本実施の形態では、本発明に係る光源モジュールについて説明する。
・光源モジュール
まず、
図1を用いて、本実施の形態の光源モジュール10の全体構成を説明する。
図1に示すように、光源モジュール10は、基板11と、発光素子であるLED(Light Emitting Diode)12と、配線13と、コネクタ14と、接続導体であるパッド15とを備える。複数のLED12は全て、配線13によって基板11上に直列接続されている。正極側コネクタ14-1が電源30の正極に接続され、負極側コネクタ14-2が電源30の負極に接続されることによって、光源モジュール10が点灯する。
【0014】
図1において、LED12とコネクタ14は配置される位置のみが示されている。LED12とコネクタ14のそれぞれの端子が接続される位置に、接続導体であるパッド15が複数配置されている。部品を実装する前の基板11は、パッド15の表面が酸化しないように保護処理されていてもよい。
後で詳細に述べるように、LED12は基板11上に高密度に配置され、パッド15は耐マイグレーション性を向上させるように配置されている。
【0015】
本実施の形態では、基板11として放熱性を考慮しアルミ基板を用いる。アルミ基板の吸湿性は、ガラスエポキシ基板と同等以下である。したがって、アルミ基板のマイグレーション劣化時間もガラスエポキシ基板と同様に、数式(1)を用いて算出することができる。
本実施の形態では、LED12としてCSP(Chip Scale Package)を用いる。CSPとは、発光部を収納するパッケージを簡素化したLEDである。
図2に示すように、LED12は、底面に陽極であるアノード12-1と陰極であるカソード12-2を備える。
図2(b)は、LED12の回路記号である。アノード12-1とカソード12-2とは、識別のためそれぞれの電極の形状を変えている。
図3に示すように、LED12は、蛍光体層12-3とパッケージ12-4を有する。(日亜化学工業株式会社が作成したCSP製品のデータシート(標準仕様書)に基づき
図2、3、5、11を作成した。)
【0016】
本実施の形態では、LED12を24個用い、複数のLED12が列を形成するように配置されている。
図1に示すように、正極側コネクタ14-1から1~2番目のLED12が1列目、3~6番目のLED12が2列目、7~12番目のLED12が3列目、13~18番目のLED12が4列目、19~22番目のLED12が5列目、23~24番目のLED12が6列目となるように配置されている。
2列目の一端と3列目の一端および4列目の一端と5列目の一端は、それぞれコネクタ14側で接続され、1列目の他端と2列目の他端、3列目の他端と4列目の他端および5列目の他端と6列目の他端は、それぞれコネクタ14の反対側で接続されている。
このように本実施の形態では、複数のLED12からなる列が、1列目から6列目まで全体として蛇行するように配線13により直列接続されている。配線13は、絶縁膜で覆われている。
【0017】
配線13は、列の中に複数配置されたLED12の間を直列接続するように基板11に配置される複数の列内配線部13-1と、一方の列の一端のLED12と隣接する他方の列の一端のLED12との間を直列接続するように基板11に配置されるU字形状の列間配線部13-4とを有する。列内配線部13-1は、直線配線部13-2と斜め配線部13-3とを有する。
【0018】
図1に示すようにLED12は、点線で示される仮想円16内に収まるように配置されている。仮想円16は、複数のLED12全体が発する光の発光径を示す。本実施の形態では、LED12として1辺が約2[mm]のチップを用い、仮想円16で示される発光径が約φ16[mm]となるように高密度に配置されている。
基板11上には、LED12の電圧降下による電位差が生じる。本実施の形態で用いるLED12は、LED12の1個当たり約3[V]の電圧降下が生じる。
本実施の形態のようにLED12を配置した場合、
図1に示す基板11上では、正極側コネクタ14-1から7番目のLED12である「L7」のアノード12-1と18番目のLED12である「L18」のカソード12-2間で約33[V]の電位差が生じ、電界強度が高くなる。
【0019】
また、本実施の形態の構成では、正極側コネクタ14-1から3番目のLED12である「L3」のアノード12-1と12番目のLED12である「L12」のカソード12-2間および13番目のLED12である「L13」のアノード12-1と22番目のLED12である「L22」のカソード12-2間でそれぞれ約30[V]の電位差が生じ、電界強度が高くなる。
この電界強度が高くなる箇所に位置するLED12のパッド15の耐マイグレーション性を向上させるように対策を講ずることが、光源モジュール10の設計上、重要である。
【0020】
次に
図10、11を用いて、比較例における光源モジュール10aのマイグレーションの発生について説明する。
図10の基板11a上には、
図1の基板11上と同じ位置にLED12が列を形成し、複数の列が互いに隣接するように配置されている。したがって、
図10においても、正極側コネクタ14-1から7番目のLED12である「L7」のアノード12-1と18番目のLED12である「L18」のカソード12-2との間に約36[V]の電位差が生じる。
図10が
図1と異なるのは、配線13が、直線配線部13-2と列間配線部13-4からなり、斜め配線部13-3がない点である。
【0021】
本実施の形態において、複数のLED12が「高密度」に配置されているとは、基板11上に直列に接続された複数のLED12の内、複数の第1のLED12が第1の列を形成し、複数の第2のLED12が第2の列を形成しており、第1の列の一方のLED12と第2の列の他方のLED12との最短距離が、LED12のパッケージ長さの半分以下(以下、「距離条件」という)であるときをいう。
このとき、第1の列と第2の列とが平行である必要はなく、第1の列と第2の列とが角度をなしている場合も「高密度」に配置されているものとする。また、第1の列の複数のLED12と第2の列の複数のLED12が上述の距離条件を満たしている必要はない。第1の列の1つのLED12と第2の列の別の1つのLED12が上述の距離条件を満たしていれば、複数のLED12は「高密度」に配置されているものとする。
【0022】
更に、電圧が一定の場合のマイグレーションの発生や進行を加速する要因である距離と電界強度を用いて、本実施の形態における「隣接」を規定することを考える。しかし、JIS規格のZ 3197:2012「はんだ付用フラックス試験方法」の「8.5.4 電圧印加耐湿性試験-マイグレーション試験」に準拠して高温高湿の環境で直流を通電する加速試験を実施しても、基板11に吸湿性の高い基材を使用するなどの悪条件が重ならない限り、数ヶ月程度の評価期間ではマイグレーションは発生し難い。
そこで、上述のJIS規格に規定の試験条件を最悪の条件とみなし、当該JIS規格に規定された試験条件に安全率を乗じたもので「隣接」を規定することとする。
【0023】
JIS規格のZ 3197:2012「はんだ付用フラックス試験方法」の「8.5.4 電圧印加耐湿性試験-マイグレーション試験」の試験条件(試験規格)は、陽極と陰極との電極間隔が0.318[mm]、印加電圧が、45~50[V]と規定されている。この試験条件を満足することが、信頼性試験で要求されている。言い換えると、マイグレーションの発生を抑制するために最低限必要な条件といえる。そこで、この試験条件に安全率をかけた数値に基づき、「隣接」を以下のように規定する。
【0024】
本実施の形態において、基板11上に直列に接続された複数のLED12の内、複数の第1のLED12が第1の列を形成し、複数の第2のLED12が第2の列を形成しているとき、第1の列と第2の列が「隣接」するとは、一方の第1のLEDおよび他方の第2のLED12のアノード12-1とカソード12-2間の電極間の最短距離(電極間隔)または電界強度のいずれか1つが表1の第1条件または第2条件の範囲内にあるときをいう。
電極間隔を用いて判断する場合は、電圧を固定し(例えば50[V])電極間の最短距離で判断する。
また、電界強度で判断する場合は、電極間の長さを固定した(例えば0.318[mm])場合、第1の列の複数のLED12と第2の列の複数のLED12の内、電位差の大きいLED12間で判断する。
【0025】
このとき、第1の列と第2の列とが平行である必要はなく、第1の列と第2の列とが角度をなしている場合も「隣接」しているものとする。また、第1の列の複数のLED12と第2の列の複数のLED12が上述の距離条件を満たしている必要はない。第1の列の1つのLED12と第2の列の別の1つのLED12が上述の距離条件を満たしていれば、第1の列と第2の列は「隣接」しているものとする。
本実施の形態では、設計値と測定値のいずれかの数値を表1と比較して判断する。
なお、表1を規定する際に用いた安全率は1つの例であり、基板11の材質、光源モジュール10の使用環境などの条件によって、変えるべきものである。
【0026】
【0027】
図11は、比較例である
図10の拡大平面図である。
図11では、向かって右側に「L7」が、向かって左側に「L18」が配置されている。
図11のC点を含むアノード12-1のパッド15とD点を含むカソード12-2のパッド15との間には約36[V]の電位差が生じる。A点とB点の電極間距離の設計値を1.24[mm]とした場合、A点とB点間の電界強度は、約29.0[V/mm]である。基板11aがアルミ基板の場合、マイグレーション劣化時間t1は、数式(1)を用い33.6×10^2[h]と算出される。
図11において、LED12は、位置のみ枠線で示されている。配線13は直線状に配線され、アノード12-1とカソード12-2が配置される位置に、パッド15が配置されている。LED12のアノード12-1およびカソード12-2は、パッド15にはんだ付けにより接続される。
【0028】
アノード12-1およびカソード12-2がはんだ付けされたパッド15の表面は、はんだ合金に覆われる。はんだ合金は、RoHS指令(電気・電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限に関する欧州議会および理事会指令)に準拠する鉛を含まない鉛フリーはんだである。はんだ合金は、スズ、銀および銅などの金属を含む合金である。
一方、マイグレーションは、特に銀、銅を含む金属において起こりやすいとされる。前述したように、配線13は、絶縁膜で覆われているため金属イオンの移動が起きることがなく、マイグレーションは発生しない。したがって、本実施の形態における発明の課題を解決するためには、はんだ合金に覆われたパッド15に発生するマイグレーションを抑制すればよい。
【0029】
マイグレーションは、高湿度の環境において光源モジュール10または10aに直流を連続して印加する条件で問題となる。陽極と陰極間に水分が付着すると、陽極から陰極に向かって、銀イオンなどの金属イオンが移動する。陰極に移動した金属イオンは、陰極から電子が供給されることにより、金属となって析出する。析出した金属は、木の枝状に成長していくことから、デンドライト(樹状結晶)と呼ばれる。
【0030】
図11の比較例では、電位が高いA点から電位が低いB点に向かう矢印に平行な向きに電界が生じているため、基板11a上に水分がある場合、アノード12-1に電子を放出してイオン化した金属イオンは、
図A点からB点に向かって移動する。B点に移動した金属イオンは、カソード12-2から電子が供給され、金属が析出する。析出した金属は、B点からA点に向かってデンドライトとなって成長する。
同様に、電位が高いD点から電位が低いC点に向かう向きに電界が生じているため、金属イオンはD点からC点に移動し、逆方向である
図11の点線方向への金属イオンの移動は起こりにくい。しかし、C点とD点との間に水滴を滴下して実験した結果では、カソード12-2であるD点からアノード12-1のC点に向かってデンドライトが成長した。これは、どこからかD点付近に移動してきた金属イオンにカソード12-2から電子が供給された結果、金属が析出したと考えられる。
実験結果から、カソード12-2がアノード12-1より電位が低い場合であっても高い場合であっても、マイグレーションによるデンドライトは、カソード12-2からアノード12-1に向かって成長すると考えられる。
【0031】
発明が解決しようとする課題で述べたように、マイグレーション劣化時間は、電界強度、即ち(陽極と陰極との間の電位差)を(陽極と陰極との間の距離)で除したものと相関があり、基板がアルミ基板またはガラスエポキシ基板の場合、数式(1)で算出される。よって光源に印加される電圧が一定の場合、マイグレーション劣化時間を延ばす方法として、例えば
図12に示すように、基板11b上のLED12間の距離を
図10に示す基板11a上のLED12間の距離よりも長くすることが考えられる。
【0032】
図12において、
図11のA点とB点に相当するA’点とB’点間の距離は、2.26[mm]と長くされている。このとき、A’点とB’点間の電界強度は、約16[V/mm]であるため、
図12の構成のマイグレーション劣化時間t2は、数式(1)を用い43.1×10^2[h]となる。t2/t1から、
図12の構成のマイグレーション劣化時間は、
図11の構成の1.28倍となる。
【0033】
しかし、
図12に示す光源モジュール10bの構成とした場合、
図10の光源モジュール10aの構成よりもマイグレーション劣化時間を長くすることができる反面、
図12の仮想円16で囲まれた領域で示されるLED12が発する光の発光径が大きくなるため、LED12が発する光を配光制御するレンズの直径を大きくする必要がある。
図12の場合、発光径は約φ20[mm]と
図11の約φ16[mm]から大きくなる。
また
図12の構成では、
図10の構成よりもLED12の配置間隔が大きくなることにより、LED12が発する光が離散した光となり、光源の粒々感を使用者が感じるなど、照射面から光のむらが見えやすくなる。光のむらを低減させるためには、レンズにシボを入れる拡散加工またはLED12の照射面への拡散シートの追加が必要となる。更に拡散加工や拡散シートを追加しLED12が発する光を拡散させたことにより、
図10の構成よりもLED12が発する光の光束が減衰する。この光束が減衰した分を補償するためには、LED12に供給する電流を大きくする必要がある。これにより、消費電力が増えるのみならず、コストをかけた消費電力の増加に伴う放熱対策も必要となる。
加えて、
図12の構成では、LED12間の距離を長くしたことにより、コネクタ14を基板11bの端に近い位置に配置しなければならない点も、設計の自由度の確保の点から不利となる。
【0034】
また、別の比較例として、LED12および配線13を
図10と同じ配置とし、電位差が大きい「L7」のアノード12-1と「L18」のカソード12-2の間に凹凸を設けることにより絶縁物の表面に沿った最短距離である沿面距離を確保する構成を考える。この場合、LED12が高密度に配置されているため、量産時の個々の製品間のばらつきによるLED12の位置ずれにより、確保しようとする沿面距離の管理が困難となる。
【0035】
上述の問題を解決するために本実施の形態では、LED12を
図4の基板11上にシルク印刷されたLEDの配置表示17に示す配置としている。
図4に示すように、1列目の複数のLED12と2列目の複数のLED12とは、同極どうしであるアノード12-1が対向するように配置される。同様に3列目と4列目および5列目と6列目も同極どうしであるアノード12-1が対向するように配置される。
図1は、LEDの配置表示17が省略されている以外、
図4と同一である。
また、2列目の複数のLED12と3列目のLED12は、同極どうしであるカソード12-2が対向するように配置される。同様に4列目と5列目も同極どうしであるカソード12-2が対向するように配置される。
【0036】
図5は、本実施の形態である
図1の拡大平面図である。
図5ではLED12を配置する位置は比較例の
図11と同じであるため、向かって右側に「L7」が、向かって左側に「L18」が配置されている。この時、
図5のA点を含むパッド15とB点を含むパッド15との間に
図11と同様に約36[V]の電位差が生じる。
ここで、「「L7」のアノード12-1のA点から「L18」のカソード12-2のB点間のAB間の電界は、AB間の電界はA点とB点を結ぶ直線とはならず、折れ線のようになる。なぜなら、AB間の電界は、A点を含むアノード12-1およびB点を含むカソード12-2との間に位置する「L18」のアノード12-1の正の電荷を迂回するからである。したがってAB間の電界強度は、迂回した距離の分小さくなる。
同様に、CD点間の電界も、C点とD点を結ぶ直線とはならず、
図5の点線の折れ線で示すように、「L7」のアノード12-1を迂回する。したがって、CD間の電界強度も迂回した距離の分小さくなる。
【0037】
図5において、A点とB点の電極間距離の設計値を1.70[mm]とした場合、A点とB点間の電界強度は、約21.2[V/mm]である。基板11の基材がガラスエポキシと同等の場合、マイグレーション劣化時間t3は、数式(1)を用い38.3×10^2[h]と算出される。
【0038】
本実施の形態の
図5と比較例の
図11とを比較すると、LED12が配置される位置および配置されるLED12の間の間隔は同一である。しかし、同極どうしが対向するように「L7」と「L18」のLED12を配置した結果、マイグレーションが問題となるカソード12-2とアノード12-1との間の直線距離は、
図5の本実施の形態の構成の方が、
図11の比較例の構成よりも1.7[mm]/1.24[mm]から約40%長くすることができる。
【0039】
なお、電界強度は電位差のある2つのLED12の間の距離に反比例するため、第1の列をなす複数のLED12の内、特定のLED12の耐マイグレーション性を考慮する場合は、隣接する第2の列の複数のLED12のうち、第1の列の特定のLED12に最も近接するLED12のみを検討すればよい。
【0040】
次に
図6と
図13を用いて、第1の列を形成するように配置された複数のLED12と第1の列に隣接する第2の列を形成するように配置された複数のLED12とが同極どうしで対向するように配置されている場合でも、第1の列の一方のLED12のアノード12-1と第2の列の他方のLED12のカソード12-2間の距離が本実施の形態の方が比較例よりも小さい箇所について、計算上のマイグレーション劣化時間を比較する。
図6において、正極側コネクタ14-1から3番目のLED12である「L3」のE点を含むアノード12-1と12番目のLED12である「L12」のF点を含むカソード12-2との間に30[V]の電位差が生じる。E点とF点の電極間距離の設計値は、2.10[mm]であるため、E点とF点間の電界強度は、約14.3[V/mm]である。基板11の基材がガラスエポキシと同等の場合、マイグレーション劣化時間t5は、数式(1)を用い45.1×10^2[h]となる。
t5は、後述する比較例のマイグレーション劣化時間であるt6よりも短いが、電界が最も高い「L7」のアノード12-1と「L18」のカソード12-2間のマイグレーション時間であるt3およびt4よりは長い。したがって、t5と対応する「L3」のアノード12-1と「L12」のカソード12-2間も、マイグレーション対策上の距離が確保されていることがわかる。
【0041】
参考までに
図13を用いて、t5と対応するの「L3」と「L12」間のマイグレーション劣化時間t6を計算する。
図13において、「L3」のLED12のE点を含むアノード12-1のパッド15と「L12」のLED12のF点を含むカソード12-2のパッド15との間に30[V]の電位差が生じる。E点とF点の電極間距離の設計値は、3.83[mm]であるため、E点とF点間の電界強度は、約7.83[V/mm]である。基板11の基材がガラスエポキシと同等の場合、マイグレーション劣化時間t6は、数式(1)を用い58.0×10^2[h]となる。
【0042】
本実施の形態と比較例とで、「L3」のLED12のアノード12-1と「L12」のカソード12間の電界強度を比較すると、本実施の形態よりも比較例の方が電界強度は低くなる。しかし、本実施の形態のE点とF点間の電界強度である約14.3[V/mm]は、比較例のA‘点とB’点間の電界強度である約16[V/mm]よりも低いため問題とならない。
したがって、本実施の形態の光源モジュール10の方が比較例の光源モジュール10aよりも計算上のマイグレーション劣化時間が長くなっている。
【0043】
以上述べた本実施の形態に示す光源モジュール10は、以下のような効果を奏する。
第1の列を形成するように配置された複数のLED12と第1の列に隣接する第2の列を形成するように配置された複数のLED12とが同極どうしで対向するように配置することにより、LED12を高密度に配置した光源モジュール10の耐マイグレーション性を向上させることができる。
また、同じ列の中のLED12間を直線配線部13-2で直列接続した比較例から、仮想円16で示される複数のLED12で形成される発光径やコネクタ14の位置を変えることなく、電位差を有するLED12間のアノード12-1とカソード12-2間の距離を広げ、耐マイグレーション性を向上させることができる。
【0044】
本実施の形態は、光源モジュール10に限らず、部品の小型化、回路の高密度化により配線パターン間隔が狭くなる直流負荷を有する製品において、耐マイグレーション性を向上させることができる。
【0045】
なお、本実施の形態では、基板11上に複数のLED12を6列に配置し、1列目から6列目まで全体として蛇行する構成を説明したが、配線13が渦巻き状、くし状、かぎ状など、蛇行配線以外の配線パターンであってもよい。
また、本実施の形態では、第1の列を形成するように配置された複数の第1のLED12と、第1の列に隣接する第2の列を形成するように配置された複数の第2のLED12とが、格子状に配置される構成について説明したが、複数の第1のLED12と複数の第2のLED12とが千鳥状に配置されるなど、格子状とは別の形に配置されていてもよい。更に複数の第1のLED12の配置間隔と複数の第2のLED12の配置間隔が異なっていてもよい。更に第1の列内または第2の列内でLED12の間隔が不均一に配置されていてもよい。
【0046】
実施の形態2.
本実施の形態では、実施の形態1で説明した光源モジュール10を用いた照明器具100の構成を説明する。本実施の形態において、実施の形態1と同一または相当する構成については同一の符号を付す。
【0047】
・器具本体
図7、8を用いて、器具本体20を説明する。器具本体20は、本体枠23と、レンズ24と、ソケット25と、光源モジュール10と、放熱ユニット26とを備える。光源モジュール10は、ソケット25によって放熱ユニット26に固定される。
【0048】
・照明器具
図9を用いて、照明器具100を説明する。照明器具100は、器具本体20と、取付枠21と、取付ばね22と、点灯回路である電源30と、電源取付ばね31と、端子台32と、電源カバー33とを備える。電源30は、光源モジュール10に直流電力を給電ケーブル27を介して供給し、光源モジュール10を点灯させる。電源30は、電源取付ばね31で弾性力を持つように器具本体20に保持されている。端子台32には、外部から商用電源線が接続される。
【0049】
本実施の形態では、照明器具100の光源として光源モジュール10を用いることにより、照明器具100の耐マイグレーション性を向上させることができる。
なお、本実施の形態では、照明器具100が天井埋め込み型のダウンライトである構成を示したが、照明器具100を天井に固定するスポットライトとする構成としてもよい。
【符号の説明】
【0050】
10 10a 10b 光源モジュール、11 11a 11b 基板、12 LED、12-1 アノード、12-2 カソード、13 配線、15 パッド、20 器具本体、30 電源、100 照明器具。