(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】インジケータ付き摺動部材及びそれを用いた摺動特性検知システム
(51)【国際特許分類】
G01N 29/14 20060101AFI20230214BHJP
G01M 13/04 20190101ALI20230214BHJP
【FI】
G01N29/14
G01M13/04
(21)【出願番号】P 2018158756
(22)【出願日】2018-08-27
【審査請求日】2021-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2017162889
(32)【優先日】2017-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000107619
【氏名又は名称】スターライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】市川 智和
(72)【発明者】
【氏名】長谷 亜蘭
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0106429(US,A1)
【文献】特開昭55-110909(JP,A)
【文献】特開2008-144870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
G01M 13/00 - G01M 13/045
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に変位する二つの機工部品間に設け、一方の第1機工部品に保持するとともに、他方の第2機工部品の対向面に対して摺動面を摺接する摺動部材であって、
前記摺動部材の前記摺動面よりも摩耗進行側に後退した部分に、規定の摩耗量に達した際に摺動摩擦によって発生するアコースティックエミション(AE)の信号が変化する測定インジケータを
成形により一体的に設け
、
前記摺動部材は、樹脂材料を含む主材料で構成し、
前記測定インジケータは、前記主材料に充填剤を加えた異種材料で形成され、
主材料より異種材料の方が、AE信号レベルが大きい又は小さい、
ことを特徴とするインジケータ付き摺動部材。
【請求項2】
前記充填剤が、短繊維状無機物である請求項
1記載のインジケータ付き摺動部材。
【請求項3】
相対的に変位する二つの機工部品間に設け、一方の第1機工部品に保持するとともに、他方の第2機工部品の対向面に対して摺動面を摺接する摺動部材であって、
前記摺動部材の前記摺動面よりも摩耗進行側に後退した部分に、規定の摩耗量に達した際に摺動摩擦によって発生するアコースティックエミション(AE)の信号が変化する測定インジケータを成形により一体的に設け、
前記摺動部材が、主材料と
前記測定インジケータとなる異種材料とが積層された樹脂積層体であり、前記主材料と異種材料が、織布又は不織布からなる基材と熱硬化性樹脂の複合物からな
り、
主材料より異種材料の方が、AE信号レベルが大きい又は小さい、
ことを特徴とするインジケータ付き摺動部材。
【請求項4】
前記主材料と異種材料とに充填する充填剤が異なる請求項
3記載のインジケータ付き摺動部材。
【請求項5】
前記摺動部材が、圧縮機用シール部材、鉄道用スリ板、軸受、歯車の何れか1種である請求項1~
4何れか1項に記載のインジケータ付き摺動部材。
【請求項6】
前記請求項1~
5何れか1項に記載のインジケータ付き摺動部材を組み込んだ機器にAEセンサーを配置し、該AEセンサーで検知した前記摺動部材からのAE信号から摺動特性情報を取得することを特徴とする摺動特性検知システム。
【請求項7】
前記AEセンサーで検知した前記摺動部材からのAE信号に基づき、前記測定インジケータからのAE信号の有無若しくは強度を検出して摩耗情報を取得する請求項
6記載の摺動特性検知システム。
【請求項8】
前記摺動部材の摺動特性情報若しくは摩耗情報を通信手段によって電子情報処理装置に送り、インジケータ付き摺動部材を組み込んだ機器から離れた位置で、摺動特性情報若しくは摩耗情報を閲覧可能とした請求項
6又は
7記載の摺動特性検知システム。
【請求項9】
複数の摺動部材の摺動特性情報若しくは摩耗情報を、前記電子情報処理装置で一括管理する請求項
8記載の摺動特性検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジケータ付き摺動部材及びそれを用いた摺動特性検知システムに係わり、更に詳しくは各種産業機器に使用される摺動部材の摩耗を検知するためのインジケータ付き摺動部材及びそれを用いた摺動特性検知システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、可動部や回転部を備えた各種産業機器には、シール部材としてあるいは軸受部材として摺動部材が多用されている。例えば、産業用大型レシプロ圧縮機のライダーリング、ピストンリング及びロッドパッキンやポンプ用軸受等には、摺動部材が使用されている。これらの摺動部材は摩耗によって本来の機能が低下するので、メンテナンスによって摩耗量の確認や部品の交換が行われている。従来は、産業機器の稼働時間から摺動部材の摩耗具合を予測して、定期的にラインを停止させてメンテナンスを行っていたが、摺動部材の摩耗は計画通りにはならず、予想外の摩耗によって産業機器を損傷させ、あるいは不良品が大量に発生する等の多大な被害が発生することもある。
【0003】
特許文献1には、摩擦圧接部品から生じるアコースティックエミション(AE)を検出し、AE信号からAEエネルギーを算出し、このAEエネルギーを経時的に積算した積算量に基づいて、摩擦圧接部品の摩耗状況が定量的に推定でき、摩擦圧接部品の交換点検時期や、摩擦圧接部品の突発的な異常又はその兆候をより正確に判定することができる摩擦検出装置が記載されている。AEセンサーは、被測定体に取付けられ、被測定体から発せられるAE信号を受信するようになっている。しかし、AEエネルギーの積算量から予め設定した閾値との比較で摩耗状況を判断するので、摩耗量を正確に測定できるものではない。
【0004】
特許文献2には、工具のチップ近傍に予め設けた基準マーカを撮像手段で撮影し、設定された検査領域の映像を画像処理して、摩耗又は欠損の程度を判定することにより異常を検出する異常検出装置が記載されている。しかし、この方法では、機器内部に配置した摺動部材の摩耗は検出できない。
【0005】
特許文献3には、対向側部品に対して摩耗側部品を摺動させる配置において、摩耗側部品の摺動面の一部に摩耗検知用ラインを配置した摩耗ゲージを設け、更に対向側部品と摩耗側部品との間で光信号を送受信するための発光素子と受光素子をそれぞれに対面させて設け、摩耗検知用ラインで摩耗を検知すると、摩耗側部品の発光素子から発した光信号を対向側部品に設けた受光素子で受信し、対向側部品の内部に設けた検出回路と制御装置で信号処理する摩耗検知装置が記載されている。しかし、この場合には対向側部品は勿論、摩耗側部品の内部にも配線する必要があり、コスト高になるばかりでなく、過酷な状態の機器内部に設けることは不可能である。
【0006】
また、特許文献4には、タイヤ内に、摩耗可能なセンサー素子と電源と遠隔無線通信手段を含むチューブ状のインジケータ本体が埋め込まれ、センサー素子の摩耗によって変化する物理パラメータを検出してタイヤのトレッドの摩耗を監視できる摩耗感知システムが記載されている。しかし、インジケータ本体が高価なものとなり、受信機や解析機器等を含めるとかなり高価なものになる。尚、タイヤの摩耗量を検知するものとして、従来からタイヤ内部に色の異なる部分を設けてインジケータとし、このインジケータが摩耗によって表面に現れたら摩耗がかなり進んだと判定するというものはある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-003299号公報
【文献】特開平9-295249号公報
【文献】特開2013-088196号公報
【文献】特開2014-118146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、レシプロ圧縮機用ライダーリング、ピストンリング及びロッドパッキンやポンプ用軸受等に使用する摺動部材のように、機器の内部にあり、しかも過酷な雰囲気中で使用される摺動部材の摩耗を精度よく検知でき、内部配線が不要であり、比較的安価にシステム構成できるインジケータ付き摺動部材及びそれを用いた摺動特性検知システムを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前述の課題解決のために、以下に構成するインジケータ付き摺動部材及びそれを用いた摺動特性検知システムを提供する。
【0010】
(1)
相対的に変位する二つの機工部品間に設け、一方の第1機工部品に保持するとともに、他方の第2機工部品の対向面に対して摺動面を摺接する摺動部材であって、
前記摺動部材の前記摺動面よりも摩耗進行側に後退した部分に、規定の摩耗量に達した際に摺動摩擦によって発生するアコースティックエミション(AE)の信号が変化する測定インジケータを成形により一体的に設け、
前記摺動部材は、樹脂材料を含む主材料で構成し、
前記測定インジケータは、前記主材料に充填剤を加えた異種材料で形成され、
主材料より異種材料の方が、AE信号レベルが大きい又は小さい、
ことを特徴とするインジケータ付き摺動部材。
【0011】
(2)
前記充填剤が、短繊維状無機物である(1)記載のインジケータ付き摺動部材。
【0012】
(3)
相対的に変位する二つの機工部品間に設け、一方の第1機工部品に保持するとともに、他方の第2機工部品の対向面に対して摺動面を摺接する摺動部材であって、
前記摺動部材の前記摺動面よりも摩耗進行側に後退した部分に、規定の摩耗量に達した際に摺動摩擦によって発生するアコースティックエミション(AE)の信号が変化する測定インジケータを成形により一体的に設け、
前記摺動部材が、主材料と前記測定インジケータとなる異種材料とが積層された樹脂積層体であり、前記主材料と異種材料が、織布又は不織布からなる基材と熱硬化性樹脂の複合物からなり、
主材料より異種材料の方が、AE信号レベルが大きい又は小さい、
ことを特徴とするインジケータ付き摺動部材。
【0013】
(4)
前記主材料と異種材料とに充填する充填剤が異なる(3)記載のインジケータ付き摺動部材。
【0014】
(5)
前記摺動部材が、圧縮機用シール部材、鉄道用スリ板、軸受、歯車の何れか1種である(1)~(4)何れか1に記載のインジケータ付き摺動部材。
【0015】
(6)
前記(1)~(5)何れか1に記載のインジケータ付き摺動部材を組み込んだ機器にAEセンサーを配置し、該AEセンサーで検知した前記摺動部材からのAE信号から摺動特性情報を取得することを特徴とする摺動特性検知システム。
【0016】
(7)
前記AEセンサーで検知した前記摺動部材からのAE信号に基づき、前記測定インジケータからのAE信号の有無若しくは強度を検出して摩耗情報を取得する(6)記載の摺動特性検知システム。
【0017】
(8)
前記摺動部材の摺動特性情報若しくは摩耗情報を通信手段によって電子情報処理装置に送り、インジケータ付き摺動部材を組み込んだ機器から離れた位置で、摺動特性情報若しくは摩耗情報を閲覧可能とした(6)又は(7)記載の摺動特性検知システム。
【0018】
(9)
複数の摺動部材の摺動特性情報若しくは摩耗情報を、前記電子情報処理装置で一括管理する(8)記載の摺動特性検知システム。
【発明の効果】
【0019】
以上にしてなる本発明のインジケータ付き摺動部材及びそれを用いた摺動特性検知システムは、以下の効果を奏する。
【0020】
(1)によれば、摺動部材の摺動面よりも摩耗進行側に後退した部分に、規定の摩耗量に達した際に摺動摩擦によって発生するアコースティックエミション(AE)の信号が変化する測定インジケータを一体的に設けたので、機器外部からAE信号を検知することによって摺動部材の摺動特性をモニターすることができる。また、AE信号が数値データとして処理可能であるので、摩耗情報を電子処理及び電子管理する事が可能である。そして、摺動面よりも摩耗進行側に後退した部分にある測定インジケータまで摩耗進行することによって、測定インジケータを摩耗ゲージとして規定の摩耗量を確実に検知できる。つまり、測定インジケータの位置まで摩耗が進行した際に、AE信号が大きく又は小さくなるので、容易且つ正確に摩耗情報を取得することができる。
実験結果より、炭素繊維を充填した材料(PTFE)は、ニートのPTFEよりもAE信号のレベルが大きいことを発見し、この知見に基づいて本発明のインジケータ付き摺動部材を樹脂成形の技術で製造することができ、簡単に摺動部材の摺動特性及び摩耗程度を検知することができるようになった。このインジケータ付き摺動部材を用いれば、相手材を攻撃しないで摺動特性情報若しくは摩耗情報を取得可能であり、位置センサーと比較して安価で、配線が不要である。
【0021】
(2)によれば、充填剤として通常よく使用されている材料が使えるので、製造技術が確立されており、安価に摺動部材を構成できる。
【0022】
(3)によれば、(1)の効果に加え、インジケータ付き摺動部材を樹脂積層体で作製すると、測定インジケータと摺動用材料(主材料)との密着性が良く、摺動面全体をインジケータに変化させることが可能なため、より感度差の大きい検知が可能となる。
【0023】
(4)によれば、主材料と異種材料は、充填剤が異なるだけであるので、製造が容易である。
【0024】
(5)によれば、圧縮機用シール部材、鉄道用スリ板、軸受、歯車において、摩耗情報を取得でき、メンテナンスに役立てることができる。
【0025】
(6)によれば、インジケータ付き摺動部材を組み込んだ機器にAEセンサーを配置するだけで、機器が稼働中においても摺動部材の摺動特性情報を取得することができ、常時モニターすることによりメンテナンスを計画的に行える。
【0026】
(7)によれば、摩耗によって交換が必要になった摺動部材を見出すことができる。
【0027】
(8)によれば、摺動特性情報若しくは摩耗情報を管理部署等から閲覧可能である。また、インターネット接続、イントラネット接続すれば、工場以外の本社や営業部署からも摩耗等を検知でき、部材購入がスムーズになる。
【0028】
(9)によれば、複数の摺動部材を一括管理する事で、部品の交換や購入がスムーズになる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】各種試験部材から発生するAE信号を測定する実験装置を示す簡略断面図である。
【
図2】各種試験部材Bから発生するAE波形を示すグラフである。
【
図3】(a)~(f)は本発明のインジケータ付き摺動部材の各種構造を示す簡略断面図である。
【
図4】インジケータ付き摺動部材を組み込んだ機器の具体例を示し、(a)は一部破断した斜視図、(b)は要部の断面図である。
【
図5】
図4の状態から摺動部材の摺動面が摩耗した場合の状態を示し、(a)は一部破断した斜視図、(b)は要部の断面図である。
【
図6】本発明の摺動特性検知システムの簡略説明図である。
【
図7】試験部材CのAE信号を測定する実験装置の部分斜視図である。
【
図9】主材料(摺動用材料)のみの試験体のAE信号の経時変化のグラフである。
【
図10】異種材料(測定インジケータ4)のみの試験体のAE信号の経時変化のグラフである。
【
図11】試験部材CのAE信号の経時変化のグラフである。
【
図12】試験部材Cの摺動特性を示し、(a)は摩擦係数の経時変化のグラフ、(b)は摩耗高さの経時変化のグラフ、(c)は温度の継時変化のグラフである。
【
図13】2種類のプリプレグを厚み方向に交互に積層し、樹脂積層体を作製する工程の一部を示す簡略説明図である。
【
図15】試験部材DのAE信号の経時変化のグラフである。
【
図16】試験部材DCの摺動特性を示し、(a)は摩擦係数の経時変化のグラフ、(b)は摩耗高さの経時変化のグラフである。
【
図17】樹脂積層体からなる板状のインジケータ付き摺動部材を示す斜視図である。
【
図18】樹脂積層体からなる円筒状のインジケータ付き摺動部材を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1及び
図2は本発明の原理を実証するための実験装置と実験結果を示し、
図3~
図6は本発明のインジケータ付き摺動部材及びそれを用いた摺動特性検知システムを示し、図中符号1は摺動部材、2は第1機工部品、3は第2機工部品、4は測定インジケータ、5はAEセンサーをそれぞれ示している。
【0031】
本発明において、アコースティックエミッション(Acoustic Emission:AE)は、固体が変形あるいは破壊する際に、それまで蓄えられていたひずみエネルギーが解放されて、その一部が弾性波として放出される現象である。短時間にひずみエネルギーが解放されると大きなAE波が生じる。
【0032】
先ず、
図1に示した実験装置Aによって、各種の試験部材Bから発生するAE信号をAEセンサー5で検知して違いを区別できるかどうかを実験した。実験装置Aは、ベース台6の上に回転テーブル7を配置するとともに、ベース台6に設けた支持部に、アーム部8を片持ち状態で水平な支軸9にて取付け、該アーム部8の先端部が上下方向に揺動可能に設け、該アーム部8の中間に設けたホルダー10に前記試験部材Bを保持し、前記回転テーブル7の上面に固定した相手材11と前記試験部材Bを対面させて配置する。前記試験部材Bを保持した状態で、前記アーム部8を含む部分をバランサー12で相殺して、前記相手材11に対する前記試験部材Bの接触圧力をゼロとする。そして、前記アーム部8の先端に設けたウェイト13によって前記相手材11に対する前記試験部材Bの接触圧力を調整する。尚、実験装置Aには、摩耗変位計や摩擦力検出器なども別途備えている。
【0033】
そして、前記ホルダー10には、AEセンサー5を固定し、前記回転テーブル7を所定回転数で回転させて、前記試験部材Bと相手材11との摺動摩擦によって発生するAE信号を検知する。ここで、計測に使用したAEセンサー5は、製品名:AE-900M-WB((株)NF回路設計ブロック)である。その出力をプリアンプ(製品名:AE-912、(株)NF回路設計ブロック)で増幅し、ディスクリミネータ(製品名:AE9922、(株)NF回路設計ブロック)で処理した後、データロガー(製品名:NR-600、(株)キーエンス)に記録した。前記試験部材Bの種類としては、(1)PTFE、(2)グラファイト粉末充填のPTFE(グラファイト粉末25体積%)、(3)ブロンズ粉末充填のPTFE(ブロンズ粉末25体積%)、(4)ガラス短繊維充填のPTFE(ガラス短繊維25体積%)、(5)炭素短繊維充填のPTFE(炭素短繊維25体積%)の5種類である。何れの試験部材Bも同じ形状とした。
【0034】
図2に、各種試験部材Bの摺動摩擦によって発生したAE信号を、横軸を時間軸として示す。この実験結果より、主材料(PTFE)に、グラファイト粉末(2)、ブロンズ粉末(3)、ガラス短繊維(4)、炭素短繊維(5)等の充填剤をPTFEに充填した異種材料の方が、ニートのPTFE(1)よりもAE信号のレベルが大きいことがわかる。特に、
炭素短繊維を充填したPTFE(5)は、他の充填剤を充填したPTFE異種材料よりもAE信号が大きく、測定インジケータとして優れている事が分かる。
【0035】
次に、
図3~
図6に示した実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。本発明のインジケータ付き摺動部材1は、相対的に変位する二つの機工部品2,3間に設け、一方の第1機工部品2に保持するとともに、他方の第2機工部品3の対向面に対して摺動面14を摺接する摺動部材1であって、前記摺動部材1には規定の摩耗量に達した際に摺動摩擦によって発生するアコースティックエミション(AE)の信号が変化する測定インジケータ4を設けたものである。
【0036】
また、本発明の摺動特性検知システムは、インジケータ付き摺動部材を組み込んだ機器にAEセンサー5を配置し、該AEセンサーで検知した前記摺動部材1からのAE信号から摺動特性情報を取得するものである。
【0037】
ここで、前記測定インジケータ4が、前記摺動面14よりも摩耗進行側に後退した部分であること、更には、前記測定インジケータ4が、前記摺動部材1を主として構成する主材料とは異なる異種材料で形成され、主材料より異種材料の方が、AE信号レベルが大きいことが好ましいが、小さくても良い。つまり、摺動部材1が正常な場合にはAE信号レベルが小さく、所定の摩耗量になったときにAE信号レベルが大きくなる方が、実用的には好ましい。
【0038】
具体的には、前記測定インジケータ4を構成する材料は、前記異種材料が、前記主材料に充填剤を加えた材料である。勿論、前記摺動部材1の主材料とは異なる樹脂材料に充填剤を加えた材料で前記測定インジケータ4を構成しても良い。更に、用途によっては摺動部材1を構成する主材料にAE信号のレベルが小さな充填剤を加えて摺動特性を改善しても良い。また、主材料にAE信号のレベルが大きな充填剤を加えて摺動特性を改善しても良い。例えば、摺動部材1が研磨機能を有し、相手材の表面を研磨する作用を備えている場合には、主材料に相手材に対して攻撃性の高い充填剤を添加し、異種材料に相手材に対して攻撃性の低い、つまり低摩擦性の充填剤を添加することも可能である。
【0039】
あるいは、前記摺動部材1が、主材料と異種材料とが積層された樹脂積層体であり、前記主材料と異種材料が、織布又は不織布からなる基材と熱硬化性樹脂の複合物からなっていても構わない。そして、前記主材料と異種材料とに充填する充填剤を異なる種類のものを用い、主材料より異種材料の方が、AE信号レベルが大きく又は小さくなるようにすることが必要である。
【0040】
前記摺動部材1の主材料は、PTFE、PPS、PEEK、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアセタール、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等、摺動部材に用いられる材料であれば何でも良く、また樹脂単体又は複数の樹脂からなる複合材であっても良い。特に充填剤の有無によって、摩耗時のAE信号の差異が大きいPTFEが最も良い。また、前記異種材料として測定インジケータ4を構成する充填剤は、炭素繊維、ガラス繊維、グラファイト、ブロンズ、二硫化モリブデン等何でも良いが、特にガラス繊維、炭素繊維等の短繊維充填剤(短繊維状無機物)を加えたものがAE波形を測定し易い。
【0041】
尚、相手材、つまり第2機工部品3の材質は何でも良いが、例えばSUS、鋳鉄、炭素鋼等が用いられる。
【0042】
前記測定インジケータ4は、前記摺動部材1の主材料とは異種材料で構成するほか、段部形成、凹部形成、着色を施して、主材料とは形状的若しくは視覚的にも区別可能な構成とする事もできるが、材料検討によってAE波形を強調でき、コントロールもできる異種材料であるのが望ましい。
【0043】
図3は、本発明に係るインジケータ付き摺動部材1の各種態様を示している。
図3(a)の摺動部材1は、前記摺動面14の端部に該摺動面14よりも摩耗進行側に後退した位置に前記測定インジケータ4を設けた構造である。前記摺動面14が厚さDだけ摩耗して前記摺動面14に測定インジケータ4が現れ、該測定インジケータ4の相手材と摺動するようになったときに、該測定インジケータ4から大きなAE信号を発生するというものである。この厚さDが、摺動部材1の規定された摩耗量、つまり摩耗量の許容値となる。
【0044】
図3(b)の摺動部材1は、前記摺動面14の内部に該摺動面14よりも摩耗進行側に後退した位置に前記測定インジケータ4を設けた構造である。
図3(c)の摺動部材1は、
図3(a)の構造の変形例であり、前記摺動面14と前記測定インジケータ4の段差部分が摺動部材1の材料で覆われた構造である。
図3(d)の摺動部材1は、
図3(b)の構造の変形例であり、前記摺動面14と前記測定インジケータ4の段差部分が摺動部材1の材料で覆われた構造である。
図3(e)の摺動部材1は、
図3(d)の構造の変形例であり、摺動部材1の内部に前記測定インジケータ4を埋設した構造である。
図3(f)の摺動部材1は、
図3(d)の構造の変形例であり、前記測定インジケータ4が前記摺動面14から奥部なるにつれて断面積が大きくなる構造としたものである。
【0045】
図3(a)~(e)の摺動部材1は、厚さDだけ摺動面14が摩耗した後、前記測定インジケータ4が摺動するようになると、AE信号のレベルが不連続に大きくなるので、そのAE信号の変化を検知して摩耗情報とする。また、前記測定インジケータ4に至るまでの摺動面14から発生するAE信号は摺動特性情報としてモニターする。
【0046】
また、
図3(f)の摺動部材1は、最初から前記測定インジケータ4の摺動摩擦によって測定インジケータ4のAE信号が摺動面14からのAE信号に重畳されて検知されるが、摩耗量が増えるにつれてトータルのAE信号のレベルが徐々に大きくなるので、AE信号のレベルに比例して摩耗量を対応させることができる。
【0047】
図4(a)、(b)は、
図3(a)の摺動部材1の具体的使用例であり、産業用大型レシプロ圧縮機のピストン(第1機工部品2)のライダーリングとして用いた簡略図を示している。この場合、シリンダーが第2機工部品3となる。ライダーリングはピストンの自重を支えるので、摩耗が激しい部品である。
図5(a)、(b)は、摺動部材1の摺動面14が摩耗して、測定インジケータ4が相手材(第2機工部品3)と摺動し始めた状態を示している。
【0048】
前記摺動部材1を製造する方法は、先ず異種材料からなる測定インジケータ4を成形し、それを主材料の成形時にインサートしても良い。他の製造方法としては、主材料からなるプリプレグと異種材料からなるプリプレグを積層し、加熱加圧して樹脂積層体としても良い。
【0049】
前記プリプレグは、フェノール樹脂やエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂のプレポリマーを溶剤に溶解したワニスを、織布又は不織布からなる基材に含浸させた後、乾燥して作製する。この際に、ワニスに各種充填剤を添加しておき、加熱加圧後の積層体の各層におけるAE信号レベルを変化させる。勿論、異なる基材を用いることでもAE信号レベルは変化する。
【0050】
前記基材に用いる繊維としては、アラミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ナイロン繊維、フッ素樹脂繊維、PPS繊維、ガラス繊維、カーボン繊維等の人造繊維、綿、麻、亜麻等のセルロース繊維が用いられる。また、不織布、織物等の布帛何でも良い。AE信号レベルの差を検知するため、ガラス繊維、カーボン繊維等の比較的相手攻撃性の高い繊維と、フッ素樹脂繊維等の相手攻撃性の低い繊維を組み合わせると、AE信号レベルの変化を検知しやすい傾向にある。
【0051】
フェノール樹脂としては、フェノール類とアルデヒド類との反応物であればよく、公知のものを採用することができる。フェノール類は、特に限定されず、アルキルフェノール(クレゾール、キシレノールなど)、多価フェノール類(レゾルシンなど)、フェニルフェノール、アミノフェノールなどが挙げられる。また、アルデヒド類は、特に限定されず、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フルフラールなどが挙げられる。また、フェノール樹脂は、レゾール型、ノボラック型の何れでもよい。変性フェノール樹脂でもよい。これらは、摺動部材の用途等に応じて適宜選択することができる。後述するように、レゾール型又はノボラック型フェノール樹脂等を含むプリプレグを調製する場合、生地とのより良好な一体の観点からは、ノボラック型フェノール樹脂が好ましい。
【0052】
レゾール型フェノール樹脂は、例えば、フェノール類とアルデヒド類をアルデヒド類過剰かつ塩基触媒下で反応させたものである。ノボラック型フェノール樹脂は、例えば、フェノール類とアルデヒド類をフェノール類過剰かつ酸触媒下で反応させたものである。このようなレゾール型フェノール樹脂及びノボラック型フェノール樹脂は、市販のものを使用することができる。例えば、住友ベークライト株式会社製のスミライトレジン(登録商標)PRシリーズ等が挙げられる。
【0053】
レゾール型フェノール樹脂及びノボラック型フェノール樹脂を硬化させることで摺動部材とし得る。レゾール型フェノール樹脂は加熱又は酸添加により硬化させることができる。ノボラック型フェノール樹脂は、架橋剤の存在下で加熱することで硬化させることができる。ノボラック型フェノール樹脂を硬化させる際の架橋剤は、例えばヘキサメチレンテトラミン等が挙げられる。また、硬化の際の条件は、レゾール型フェノール樹脂及びノボラック型フェノール樹脂の種類等に応じて、適宜選択することができる。
【0054】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ノボラック型、環状脂肪族型、長鎖脂肪族型、グリシジルエステル型、グリシジルアミン型等が挙げられる。
【0055】
基材には、樹脂以外に他の添加剤が含浸されても良い。例えば、潤滑剤、制振剤、補強剤、耐熱剤、難燃剤、耐候剤等が挙げられる。
【0056】
潤滑剤としては、例えば、グラファイト、二硫化モリブデン、カーボンブラック、炭素繊維、六方晶窒化ホウ素、タルク等が挙げられる。
【0057】
制振剤としては、例えば、グラファイト、炭素繊維、チタン酸カリウム、マイカ等が挙げられる。
【0058】
補強剤としては、例えば、炭素繊維、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、ゾノトライト、アラミド繊維、ガラス繊維、タルク、マイカ等が挙げられる。
【0059】
耐熱剤としては、例えば、ガラスバルーン、シリカバルーン、シラスバルーン等の断熱剤、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素等の熱伝導性付与剤、アルミナ、酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、木炭粉末等の熱線輻射剤等が挙げられる。
【0060】
難燃剤としては、例えば、水酸化アルミ、水酸化マグネシウム等の水酸化物系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、アンチモン系難燃剤、硼酸亜鉛、赤燐、炭酸亜鉛、ハイドロタルサイト、ドーソナイト等が挙げられる。
【0061】
耐候剤としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0062】
以上のような添加剤のうち、摺動部材の相手材への攻撃性を抑制しつつ、機能を発揮させる観点からは、二硫化モリブデン、グラファイト、カーボンブラック及び炭素繊維から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0063】
AE信号レベルの差を検知するため、炭素繊維、ウォラストナイト等の補強材を添加したプリプレグと、グラファイト、二硫化モリブデン、カーボンブラック等の相手攻撃性を抑制する添加剤を添加したプリプレグを組み合わせることが好ましい。
【0064】
このように作製した樹脂積層体は、測定インジケータ4と摺動用材料(主材料)との密着性が良く、摺動面全体をインジケータに変化させることが可能なため、より感度差の大きい検知が可能となる。
【0065】
このようにインジケータ付き摺動部材1を組み込んだ機器から、摺動部材1のAE信号を検知するには、AEセンサー5を用いるが、機器の内部は天然ガス、プロパンガス、水素ガス、窒素ガス、炭酸ガス、エチレンガス等からなる高圧雰囲気であるため、AEセンサー5は機器の外部、本実施形態ではシリンダー(第2機工部品3)の外部に接触状態で配置する。そして、
図6に示すように、前記AEセンサー5の受信信号は、プリアンプ15で増幅した後、ディスクリミネータ16でノイズを除去してデジタル信号とする。このように機器に設置したAEセンサー5から得られたAE信号はデジタル処理された後、図示しないがデータロガーに記録したり、通信手段、特に無線通信手段やインターネット通信手段によって電子情報処理装置17に送られ、管理されるのである。
【0066】
本発明の摺動特性検知システムは、インジケータ付き摺動部材を組み込んだ機器にAEセンサー5を配置し、該AEセンサーで検知した前記摺動部材1からのAE信号から摺動特性情報を取得するが、前記AEセンサー5で検知した前記摺動部材1からのAE信号に基づき、前記測定インジケータ4からのAE信号の有無若しくは強度を検出して摩耗情報を取得することが好ましい。そして、前記摺動部材1の摺動特性情報若しくは摩耗情報を通信手段によって電子情報処理装置17に送り、インジケータ付き摺動部材を組み込んだ機器から離れた位置で、摺動特性情報若しくは摩耗情報を閲覧可能とした。この場合、複数の摺動部材の摺動特性情報若しくは摩耗情報を、前記電子情報処理装置17で一括管理することもできる。
【0067】
AE信号は、プリアンプ15で増幅した後、ディスクリミネータ16で解析処理やノイズを除去すると、AE信号がより顕著になり、摩耗等の測定が行い易い。更に、AE信号をフーリエ解析、エンベロープ処理しても良い。
【0068】
前記電子情報処理装置17として、パーソナルコンピュータ(PC)、タブレット型PC、スマートフォン等の個人端末を用いて摺動特性の摩耗等の摺動特性を閲覧することができる。更に、摺動部材の摺動特性情報若しくは摩耗情報を通信手段によって取得し、管理者が摺動部材をリモートで一括管理可能となり、部品の交換や購入時期の予測が容易となる。摺動特性を蓄積し、ビッグデータを蓄積し、過去の測定結果と比較することで、将来起こり得る摩耗や劣化を推測し、交換の時期を推測することが出来る。また、摺動部材を使用する機器にとって必要なニーズを探すこともできる。
【0069】
また、2つ以上のAEセンサー5を異なる位置に用いることで、異常個所の特定が可能となる。
【実施例1】
【0070】
前述の実験装置Aを用い、
図7及び
図8に示した試験部材C(摺動部材1)を接触圧力Pで押圧しながら摺動実験を行い、AE信号の経時変化を計測した。試験部材Cの主材料は、PTFE75体積%に芳香族ポリエステル25体積%を配合した摺動用材料であり、異種材料(測定インジケータ4)は、PTFEに炭素短繊維(CF)を15体積%充填した材料である。ここで、前記芳香族ポリエステルは、溶融液晶性全芳香族ポリエステル(住友化学株式会社製、スミカスーパーLCP(登録商標))を用いた。そして、前記試験部材Cの主材料は、外形が直径5mm、長さ7.4mmの円柱形であり、測定インジケータ4は直径2.5mmで、端部から0.4mmだけ内部に位置した形状である。尚、比較として主材料(摺動用材料)のみ、異種材料(測定インジケータ4)のみの同一外形の試験体を用いて、個々の材料のAE信号の経時変化を計測した。実験条件は全て同じであり、接触圧力Pは1MPa、速度(接触面中心での相対速度)は3m/sec、試験時間は24h、相手材はFC250(Ra≒0.2μm)である。
【0071】
図9は、主材料(摺動用材料)のみの試験体のAE信号の経時変化の測定結果、
図10は異種材料(測定インジケータ4)のみの試験体のAE信号の経時変化の測定結果を示している。これらの測定結果により、主材料のAE信号は平均1.3V、異種材料のAE信号は平均5.8Vであった。主材料と異種材料の断面積比は4:1であるので、前記試験部材CのAE信号の経時変化の傾向は、初期1.3Vから異種材料が完全に露出したときに約2.4Vに上昇すると予測される。
図11は、試験部材CのAE信号の経時変化の測定結果であり、若干の違いはあるがほぼ推測どおりの結果が得られ、試験開始から約14時間が経過したときに、異種材料(測定インジケータ4)が露出し始めたことが伺える。
【0072】
図12は、試験部材CのAE信号の経時変化の測定と同時に測定した摺動特性の経時変化を示し、(a)は摩擦係数の経時変化、(b)は摩耗高さの経時変化、(c)は温度の継時変化を示している。これらの摺動特性の経時変化の測定結果より、試験開始から約14時間が経過したとき変化が現れることが確認でき、前述のAE信号の変化の開始時期と一致した。
【実施例2】
【0073】
試験部材Dとして、
図13に示すように、2種類のプリプレグ(スターライト工業社製 #11630及び#16650)を厚み方向に交互に積層し、全体として22層積層した後、180℃、5MPaで60分加熱加圧し、摺動部材を得た。このフェノール樹脂積層体からなる摺動部材から
図14に示すような断面の円柱状の試験部材Dを作製した。
【0074】
前述の実験装置Aを用い、実施例1と同じ実験条件で試験部材Dの摺動実験を行い、AE信号の経時変化を計測した。試験部材DのAE信号の経時変化の測定結果であり、1層目(主材料18)と2層目(異種材料19)でAE信号レベルが大きく変化していることが分かった。
図16は、試験部材DのAE信号の経時変化の測定と同時に測定した摺動特性の経時変化を示し、(a)は摩擦係数の経時変化、(b)は摩耗高さの経時変化を示している。実権開始から約12時間経過したときのAE信号レベルの変化は、1層目が摩耗し、2層目が露出したことを意味するが、その時点を境に摺動特性において、摩擦係数は若干下降傾向であるものの、摩耗高さの不連続性は見られなかった。つまり、摺動部材としての基本的な特性は、異種材料19(測定インジケータ4)の層でも備わっていることが分かった。
【0075】
このようなフェノール樹脂積層体からなる摺動部材もインジケータの機能が備わっており、本発明の範疇となる。
図17は、板状のインジケータ付き摺動部材1を示し、
図18は円筒状、若しくはリング状のインジケータ付き摺動部材1を示している。尚、同じ種類のプレプレグを複数枚積層すれば、所定厚さの同質の層ができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明に係るインジケータ付き摺動部材及びそれを用いた摺動特性検知システムは、圧縮機用のライダーリング、ピストンリング、ロッドパッキン、チップシール等のシール部材、軸受、歯車、鉄道車両用のスリ板等に用いることができる。
【符号の説明】
【0077】
A 実験装置
B 試験部材
C 試験部材
D 試験部材
1 摺動部材
2 第1機工部品
3 第2機工部品
4 測定インジケータ
5 AEセンサー
6 ベース台
7 回転テーブル
8 アーム部
9 支軸
10 ホルダー
11 相手材
12 バランサー
13 ウェイト
14 摺動面
15 プリアンプ
16 ディスクリミネータ
17 電子情報処理装置
18 主材料(摺動用材料)
19 異種材料(測定インジケータ)