(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】超音波診断装置用音響結合材および超音波診断装置用カバー
(51)【国際特許分類】
A61B 8/00 20060101AFI20230214BHJP
【FI】
A61B8/00
(21)【出願番号】P 2018193729
(22)【出願日】2018-10-12
【審査請求日】2021-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】衣川 雄規
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-214568(JP,A)
【文献】米国特許第06039694(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波診断装置が備えるプローブの超音波送受信面に密着させて用いられ、
少なくとも弾性材料から構成され、延伸性および非粘着性を有し、
タイプEデュロメータ硬さが2~18の範囲内であり、かつ、反発弾性率が10~45%の範囲内であることを特徴とする、
超音波診断装置用音響結合材。
【請求項2】
前記弾性材料が、シリコーンエラストマー、ウレタンエラストマー、スチレンエラストマー、フッ素エラストマーからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする、
請求項1に記載の超音波診断装置用音響結合材。
【請求項3】
前記弾性材料に加えて、さらに油状成分を含有することを特徴とする、
請求項1または2に記載の超音波診断装置用音響結合材。
【請求項4】
シート状または袋状に構成されていることを特徴とする、
請求項1から3のいずれか1項に記載の超音波診断装置用音響結合材。
【請求項5】
ケーシングと、前記ケーシングの所定方向一端部に配置され、かつ、被検部にて反射された超音波を受信するセンサ部を有するプローブとを備える超音波診断装置に被せられる超音波診断装置用カバーであって、
前記センサ部と前記被検部との間に介在したときに、前記センサ部と前記被検部との間の音響結合が可能な、延伸性および非粘着性を有する音響結合材を備えて
おり、
当該音響結合材は、少なくとも弾性材料から構成され、タイプEデュロメータ硬さが2~18の範囲内であり、かつ、反発弾性率が10~45%の範囲内であることを特徴とする、
超音波診断装置用カバー。
【請求項6】
前記音響結合材を延伸した状態で前記センサ部に密着するように取り付けるブラケットをさらに備えていることを特徴とする、
請求項5に記載の超音波診断装置用カバー。
【請求項7】
前記音響結合材が一方に固定され、他方から前記超音波診断装置が挿入可能に構成される筒状体をさらに備えていることを特徴とする、
請求項5または6に記載の超音波診断装置用カバー。
【請求項8】
ケーシングと、前記ケーシングの所定方向一端部に配置され、かつ、被検部にて反射された超音波を受信するセンサ部を有するプローブとを備える超音波診断装置に対して、音響結合材を取り付ける超音波診断装置用ブラケットであって、
前記音響結合材は、前記センサ部と前記被検部との間に介在したときに、前記センサ部と前記被検部との間の音響結合が可能な、延伸性および非粘着性を有するものであり、
当該音響結合材は、少なくとも弾性材料から構成され、タイプEデュロメータ硬さが2~18の範囲内であり、かつ、反発弾性率が10~45%の範囲内であるとともに、
当該音響結合材は延伸した状態で前記センサ部に密着するように取り付けることを特徴とする、
超音波診断装置用ブラケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置のセンサと被検部との音響結合を良好にするための超音波診断装置用音響結合材と、この超音波診断装置用音響結合材を備える超音波診断装置用カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
患者の体内を可視化するために用いられる超音波診断装置は、一般に、超音波を送受信することができるプローブを備えており、このプローブが画像処理部を介してモニターに接続されている。このような超音波診断装置では、可視化したい部分(即ち、被検部)の表皮にプローブを当て、プローブから超音波を発振させる。そうすると、被検部で超音波が反射されるので、その反射波をプローブによって受信する。画像処理部は、受信した反射波に基づいて画像処理を行い、画像処理によって得られた画像、即ち被検部の断面がモニターに映し出される。
【0003】
ここで、超音波は、空気中を伝搬しにくい、界面で反射波を生じる等といった特性を有する。それゆえ、超音波診断装置では、プローブと体表との間には、良好な音響結合性を実現するためにカプラント(接触媒質)を介在させる。このカプラントには、生体と同様または類似の超音波の音響特性が求められる。生体は水分を含むため、カプラントも含水物として調製(製造)される。代表的なカプラントとしては、半固形状のエコー用ゲルが挙げられる。
【0004】
このようなエコー用ゲルは、プローブまたは体表に塗布し、診断後には拭き取るため、その取扱いが煩雑化する等の問題点を有する。そこで、従来、半固形状のエコー用ゲルに代わる固形のカプラントとして、樹脂に水を含有させた含水樹脂シートが提案されている。例えば、特許文献1には、エチレンオキシドを主成分とする樹脂を架橋した吸水性樹脂シートからなる超音波診断用補助シートが提案されている。この超音波診断用補助シートは、体表に押し当てる形態、あるいは、プローブの超音波発振面(超音波送受信面)に取り付ける形態で使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した含水樹脂シートは、使用条件によっては、使用中に水分が蒸発して含水率が変化し、超音波の伝搬特性に影響を及ぼす可能性がある。また、含水樹脂シートは実質的には固形の「含水ゲル」であるため、樹脂の種類にもよるが機械的強度が低くなる傾向がある。それゆえ、含水樹脂シートの取扱性は、半固形状のエコー用ゲルと比較して優れているとは言い難い場合がある。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、良好な超音波の音響結合性を実現することができるとともに、良好な取扱性も実現することが可能な、超音波診断装置用音響結合材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る超音波診断装置用音響結合材は、前記の課題を解決するために、超音波診断装置が備えるプローブの超音波送受信面に密着させて用いられ、少なくとも弾性材料から構成され、延伸性および非粘着性を有し、タイプEデュロメータ硬さが2~18の範囲内であり、かつ、反発弾性率が10~45%の範囲内である構成である。
【0009】
前記構成によれば、超音波診断装置用音響結合材は、弾性材料を主成分としており、その硬さおよび反発弾性率が所定の範囲内であるため、従来のカプラントと同様に良好な音響結合性を実現することができる。しかも、この音響結合材は良好な延伸性を実現できるため、延伸した状態でプローブの超音波送受信面に密着させることができる。これにより、密着した音響結合材と超音波送受信面との間に空気層が形成されることを回避することができるので、空気層に由来する音響結合性の低下を有効に回避することができる。それゆえ、前記構成の音響結合材は、良好な超音波の音響結合性を実現することができる。
【0010】
また、前記構成の音響結合材は、弾性材料を主成分とすることで良好な音響結合性を実現できるので、従来の含水樹脂シートとは異なり、実質的に水分を含まないものとして構成することができる。それゆえ、使用時に水分が蒸発して含水率が変化し、超音波の伝搬特性に影響を及ぼす可能性を有効に回避することができる。加えて、音響結合材が水分を含まない構成であれば、水分の含有に由来する雑菌増殖、変質、または腐敗等の発生を有効に回避することができる。
【0011】
さらに、前記構成の音響結合材は、その硬さおよび反発弾性率が前記の範囲内であるため、延伸した状態の音響結合材を、超音波送受信面を含むプローブの外表面に密着させた状態でも破断することがなく、良好な密着状態を保持することができる。それゆえ、プローブの形状等にもよるが、取付部材または固定部材を用いなくても、プローブへの密着状態を維持することが可能になる。それゆえ、前記構成の音響結合材は、良好な超音波の音響結合性を実現するとともに、良好な取扱性も実現することができる。
【0012】
前記構成の超音波診断装置用音響結合材においては、前記弾性材料が、シリコーンエラストマー、ウレタンエラストマー、スチレンエラストマー、フッ素エラストマーからなる群より選択される少なくとも1種である構成であってもよい。
【0013】
また、前記構成の超音波診断装置用音響結合材においては、前記弾性材料に加えて、さらに油状成分を含有する構成であってもよい。
【0014】
また、前記構成の超音波診断装置用音響結合材は、シート状または袋状に構成されてもよい。
【0015】
本発明に係る超音波診断装置用カバーは、前記の課題を解決するために、ケーシングと、前記ケーシングの所定方向一端部に配置され、かつ、被検部にて反射された超音波を受信するセンサ部を有するプローブとを備える超音波診断装置に被せられる超音波診断装置用カバーであって、前記センサ部と前記被検部との間に介在したときに、前記センサ部と前記被検部との間の音響結合が可能な、延伸性および非粘着性を有する音響結合材を備えている構成である。
【0016】
前記構成の超音波診断装置用カバーにおいては、前記音響結合材を延伸した状態で前記センサ部に密着するように取り付けるブラケットをさらに備えている構成であってもよい。
【0017】
また、前記構成の超音波診断装置用カバーにおいては、前記音響結合材が一方に固定され、他方から前記超音波診断装置が挿入可能に構成される筒状体をさらに備えている構成であってもよい。
【0018】
本発明に係る超音波診断装置用ブラケットは、前記の課題を解決するために、ケーシングと、前記ケーシングの所定方向一端部に配置され、かつ、被検部にて反射された超音波を受信するセンサ部を有するプローブとを備える超音波診断装置に対して、音響結合材を取り付ける超音波診断装置用ブラケットであって、前記音響結合材は、前記センサ部と前記被検部との間に介在したときに、前記センサ部と前記被検部との間の音響結合が可能な、延伸性および非粘着性を有するものであり、当該音響結合材は延伸した状態で前記センサ部に密着するように取り付ける構成である。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、以上の構成により、良好な超音波の音響結合性を実現することができるとともに、良好な取扱性も実現することが可能な、超音波診断装置用音響結合材を提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る音響結合材を備える超音波診断装置用カバーを用いた、カバー付き超音波診断装置を示す正面図である。
【
図2】
図1に示す超音波診断装置用カバーに用いられる音響結合材である、プローブカバー体の一例を示す模式図である。
【
図3】本発明に係る音響結合材を備える超音波診断装置用カバーに用いられるブラケットの一例を示す正面図である。
【
図4】
図3に示すブラケットを備える超音波診断装置用カバーを用いた、カバー付き超音波診断装置を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(実施の形態1)
本開示に係る超音波診断装置用音響結合材(適宜「音響結合材」と略す)は、超音波診断装置が備える超音波を送受信するプローブの超音波送受信面に密着させて用いられる。なお、本開示に係る音響結合材は、音響整合材、参照変形体、音響媒体、または弾性体と称してもよい。この音響結合材は、少なくとも弾性材料から構成され、延伸性および非粘着性を有し、タイプEデュロメータ硬さが2~18の範囲内であり、かつ、反発弾性率が10~45%の範囲内である。
【0022】
従来のカプラントには、前述したように、生体と同様または類似の音響結合性を実現するために、半固形または固形の含水ゲルが用いられてきた。これに対して、本開示に係る音響結合材は、弾性材料を主成分とする構成であり、その硬さおよび反発弾性率が所定の範囲内となっている。これは、含水ゲルではない弾性材料を主成分とする音響結合材が所定の物性を満たすことでカプラントとして有効に機能し得ることを本発明者らが独自に見出したことによる。
【0023】
このように、本開示に係る音響結合材は、従来のカプラントと同様に良好な音響結合性を実現することができる。しかも、この音響結合材は良好な延伸性を実現できるため、延伸した状態でプローブの超音波送受信面に密着させることができる。これにより、密着した音響結合材と超音波送受信面との間に空気層が形成されることを回避することができるので、空気層に由来する音響結合性の低下を有効に回避することができる。
【0024】
また、本開示に係る音響結合材は、エラストマー成分を主成分とすることで良好な音響結合性を実現できるので、従来の含水樹脂シート等とは異なり、実質的に水分を含まないものとして構成することができる。それゆえ、使用時に水分が蒸発して含水率が変化し、超音波の伝搬特性に影響を及ぼす可能性を有効に回避することができる。加えて、音響結合材が水分を含まない構成であれば、水分の含有に由来する雑菌増殖、変質、または腐敗等の発生を有効に回避することができる。
【0025】
さらに、本開示に係る音響結合材は、その硬さおよび反発弾性率が前記の範囲内であるため、延伸した状態の音響結合材を、超音波送受信面を含むプローブの外表面に密着させた状態でも破断することがなく、良好な密着状態を保持することができる。それゆえ、プローブの形状等にもよるが、取付部材または固定部材を用いなくても、プローブへの密着状態を維持することが可能になる。以下、本開示に係る音響結合材の代表的な構成例について具体的に説明する。
【0026】
本開示に係る超音波診断装置用音響結合材は、前記の通り、少なくともエラストマー成分で構成されるものであればよいが、相対的に架橋密度が小さく「ゲル」状の挙動を示すものであることが好ましい。具体的なエラストマー成分は特に限定されず、ゴム弾性を示す高分子材料であればよい。代表的なエラストマー成分としては、シリコーンエラストマー、ウレタンエラストマー、スチレンエラストマー、フッ素エラストマー等を挙げることができる。これらエラストマー材料は1種類のみを用いてもよいし2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。本開示に係る音響結合材の主成分がこれらエラストマー材料からなる群より選択される少なくとも1種であれば、より一層良好な音響結合性を実現することができる。
【0027】
なお、エラストマー成分(または後述する他の成分)が1種類のみとは、例えば、シリコーンエラストマーに分類される具体的な高分子(樹脂)が1種類であることを意味する。また、エラストマー成分が2種類以上とは、シリコーンエラストマーに分類される具体的な1種類以上の高分子と、他のエラストマーに分類される具体的な1種類以上の高分子との組合せであってもよいし、シリコーンエラストマーに分類される具体的な高分子の2種類以上の組合せであってもよい。
【0028】
前記エラストマー成分である高分子の分子量は特に限定されず、後述する音響結合材の物性を実現可能であれば、公知の分子量の範囲を適宜採用することができる。分子量の種類も特に限定されず、重量平均分子量であってもよいし数平均分子量であってもよい。また、前記エラストマー成分である高分子を構成する単量体は1種類のみであればよいがし、2種類以上の単量体を含む構成すなわち共重合体であってもよい。共重合体の種類も特に限定されず、ランダム共重合であってもよいし、交互共重合であってもよいし、ブロック共重合であってもよいし、グラフト共重合であってもよい。また、前記エラストマー成分は、高分子同士を架橋する架橋構造を含んでもよい。
【0029】
本開示に係る音響結合材は、前記エラストマー成分で構成されていればよいが、他の成分を含有してもよい。代表的な他の成分としては、油状成分を挙げることができる。エラストマー成分に油状成分を含有させることで、非水性の固体ゲルを形成することができるので、より一層良好な音響結合性を実現できるとともに、油状成分の配合量を調整することで、後述する音響結合材の物性を好適な範囲内に調整しやすくなる。
【0030】
具体的な油状成分は特に限定されず、非水溶性で常温範囲内(例えば20℃±15℃(5~35℃の範囲内))の液体、もしくは、常温範囲内では固体であるが低融点(例えば80℃以下)のものであって、前記エラストマー成分と相溶性を示すものであればよい。代表的な油状成分としては、シリコーンオイル、フッ素オイル、ポリオールエステル(POE)、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、芳香族系オイル等を挙げることができる。これら油状成分は1種類のみを用いてもよいし2種類以上を適宜組み合わせてもよい。
【0031】
エラストマー成分に対する油状成分の配合量は特に限定されないが、エラストマー成分の質量を基準(100質量%)としたときに、油状成分の配合量は、0~90質量%の範囲内であればよく、60~90質量%の範囲内であることが好ましい。90質量%を超えると、油状成分の量が多くなり過ぎて、良好な音響結合性を実現できないおそれがある。
【0032】
本開示に係る音響結合材は、少なくとも前記エラストマー成分を含有しており、他の成分として油状成分を含有してもよいが、さらに公知の他の成分を含有してもよい。具体的には、例えば、可塑剤、軟化剤、滑剤、安定剤、帯電防止剤、加硫剤(架橋剤)、難燃剤、着色剤、老化防止剤等の公知の添加剤を挙げることができる。なお、前記の油状成分は、エラストマー成分(もしくは音響結合材)の「物性調整剤」と位置付けることができるが、当該油状成分は、「物性調整剤」とともに前記の添加剤としての機能を兼ねるものであってもよい。
【0033】
前述した他の成分の含有量は特に限定されない。すなわち、エラストマー成分、もしくは、エラストマー成分および油状成分に対して他の成分を添加したときに、当該他の成分を添加する目的を実現でき、かつ、後述する音響結合材の物性を損なわない範囲内で添加すればよい。
【0034】
ここで、本開示に係る音響結合材は、前記の通り、延伸性とともに非粘着性を有するものであるので、他の成分として粘着付与剤を含有しないものであることが特に好ましい。本発明者らの鋭意検討の結果、音響結合材が粘着付与剤を含有すると音響結合性を低下させることが明らかとなった。つまり、音響結合材が粘着付与剤を有すると、カプラントとして好適に機能できないおそれがあるため、粘着付与剤の含有は好ましくない。
【0035】
代表的な粘着付与剤としては、アルキルフェノール-ホルムアルデヒド系樹脂、アルキルフェノール系-アセチレン系樹脂、クマロン-インデン樹脂、キシレン-ホルムアルデヒド樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリブテン樹脂、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂等を挙げることができるが特に限定されない。
【0036】
本開示に係る音響結合材は、延伸性および非粘着性を有するものであればよいが、このうち延伸性に関する物性については、前記の通り、タイプEデュロメータ硬さが2以上18以下(2~18)の範囲内であればよく、かつ、反発弾性率が10%以上45%以下(10~45%)の範囲内を挙げることができる。
【0037】
本開示に係る音響結合材においてタイプEデュロメータ硬さ(便宜上、タイプE硬さと略す)は、JIS K 6249の規定に基づいて測定すればよい。また、本開示に係る音響結合材において反発弾性率は、JIS K 6400-3-3の規定に基づいて測定すればよい。本開示に係る音響結合材の硬さおよび反発弾性率が上記範囲内であれば、良好な延伸性を実現できるとともに良好な音響結合性を実現することができる。
【0038】
本開示に係る音響結合材のタイプE硬さは、前記の通り2~18の範囲内であればよいが、好ましい一例として、3以上17以下(3~17)の範囲内を挙げることができ、より好ましい一例として、4以上16以下(4~16)の範囲内を挙げることができる。
【0039】
また、本開示に係る音響結合材の反発弾性率は、前記の通り10~45%の範囲内であればよいが、好ましい一例として、15%以上40%以下(15~40%)の範囲内を挙げることができ、より好ましい一例として、18%以上37%以下(18~37%)の範囲内を挙げることができる。
【0040】
なお、本開示に係る音響結合材においては、延伸性および音響結合性に関する物性として、硬さおよび反発弾性率以外に、引張応力試験、引張強さ、または延伸率を評価してもよい。
【0041】
本開示に係る音響結合材の引張応力試験による評価については、JIS K 6251に規定される試験に基づき、試験片の伸びが300%のときの引張応力が0.01MPa以上0.15MPa以下(0.01~0.15MPa)の範囲内であればよい。引張応力の好ましい一例としては、0.04MPa以上0.08MPa以下(0.04~0.08MPa)の範囲内を挙げることができる。
【0042】
また、本開示に係る音響結合材の引張強さについては、JIS K 6249に規定される方法に基づく測定結果が0.7MPa以上であればよく、延伸率は、JIS K 6249に規定される方法に基づく測定結果が1200%以上であればよい。なお、引張強さの上限または延伸率の上限はいずれも特に限定されず、良好な延伸性または音響結合性に影響を及ぼさない程度であればよい。
【0043】
本開示に係る音響結合材における非粘着性とは、当該音響結合材をプローブの超音波送受信面(およびプローブの他の外面)に密着させてから剥がす際に、超音波送受信面に当該音響結合材の一部が残存することなく容易に剥離できる性質を意味し、例えば、粘着剤を入れていないゲル或いはポリウレタンシート等を表面に貼り付けたゲルを意味する。一例として、鏡面のガラスあるいは樹脂シート等の円滑な面に多少付着するものの、例えば紙面あるいは非鏡面の樹脂シート等に付着しないような場合には、非粘着性を有するということができる。
【0044】
非粘着性の評価方法は特に限定されないが、本開示においては、JIS Z 0237の規定に基づいて剥離強度を測定したときに、2N/10mm以下であれば非粘着性を有すると判断することができる。条件によっては、1N/10mm以下であるときに非粘着性を有すると判断してもよい。
【0045】
本開示に係る音響結合材の具体的な形状は特に限定されず、超音波診断装置のプローブにおける超音波送受信面に密着可能な形状であればよい。具体的には、シート状または袋状を挙げることができる。シート状の場合、一般的な矩形(長方形または正方形)であればよいが、円形または楕円形であってもよいし、より複雑な形状であってもよい。袋状の場合には、超音波診断装置のプローブに延伸した状態で被覆できるように、開口側が大きく開口の反対側となる封止側に向かって先細りするような形状を挙げることができる。なお、袋状の超音波結合材の詳細については後述する。
【0046】
本開示に係る音響結合材の厚さは特に限定されないが、1mm以上3mm以下(1~3mm)の範囲内を挙げることができる。厚さ1mm未満の場合、諸条件にもよるが、音響結合材を延伸させたときの厚さが薄くなり過ぎて、音響結合性あるいは耐久性等に影響を与えるおそれがあり、また、延伸の有無にかかわらず厚さが相対的に小さい(薄い)ため製造しにくくなる傾向にある。一方、厚さが3mmを超えると、諸条件にもよるが延伸性または音響結合性に影響が生じるおそれがあり、また、相対的に厚さが相対的に大きい(厚い)ため延伸性が低下する傾向にある。なお、本開示に係る音響結合材のサイズまたは形状等については特に限定されず、密着対象であるプローブ(および超音波送受信面)の形状等といった諸条件に応じて適宜設定することができる。
【0047】
このように、本開示に係る超音波診断装置用音響結合材は、弾性材料を主成分としており、その硬さおよび反発弾性率が所定の範囲内であるため、従来のカプラントと同様に良好な音響結合性を実現することができる。しかも、この音響結合材は良好な延伸性を実現できるため、延伸した状態でプローブの超音波送受信面に密着させることができる。これにより、密着した音響結合材と超音波送受信面との間に空気層が形成されることを回避することができるので、空気層に由来する音響結合性の低下を有効に回避することができる。それゆえ、前記構成の音響結合材は、良好な超音波の音響結合性を実現することができる。
【0048】
また、本開示に係る音響結合材は、弾性材料を主成分とすることで良好な音響結合性を実現できるので、従来の含水樹脂シートとは異なり、実質的に水分を含まないシート等として構成することができる。それゆえ、使用時に水分が蒸発して含水率が変化し、超音波の伝搬特性に影響を及ぼす可能性を有効に回避することができる。加えて、音響結合材が水分を含まない構成であれば、水分の含有に由来する雑菌増殖、変質、または腐敗等の発生を有効に回避することができる。
【0049】
さらに、本開示に係る音響結合材は、その硬さおよび反発弾性率が前記の範囲内であるため、延伸した状態の音響結合材を、超音波送受信面を含むプローブの外表面に密着させた状態でも破断することがなく、良好な密着状態を保持することができる。それゆえ、プローブの形状等にもよるが、取付部材または固定部材を用いなくても、プローブへの密着状態を維持することが可能になる。それゆえ、本開示に係る音響結合材は、良好な超音波の音響結合性を実現するとともに、良好な取扱性も実現することができる。
【0050】
(実施の形態2)
本開示に係る音響結合材は、前記実施の形態1で説明したように、超音波診断装置が備えるプローブの超音波送受信面に延伸した状態で密着させてカプラントとして用いることができればよく、その具体的な使用方法または適用方法は特に限定されない。本実施の形態2では、音響結合材の代表的な使用方法または適用方法の一例について説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0051】
本開示に係る音響結合材は、超音波診断装置が備えるプローブの超音波送受信面にそのまま貼り付けて使用することができるが、例えば、
図1に示すように、超音波診断装置用カバーに設けられるプローブカバー体として用いることができる。
【0052】
具体的には、
図1に示すカバー付き超音波診断装置10Aは、皮下にある血管等を可視化しながら針等を穿刺する際に用いられるものであり、例えば透析治療においてカテーテルを血管に留置する際に用いられる。このような機能を有するカバー付き超音波診断装置10Aは、超音波診断装置11と、超音波診断装置用カバー20Aを備えており、超音波診断装置11は、それに超音波診断装置用カバー20Aを被せて使用される。超音波診断装置用カバー20Aには、本開示に係る音響結合材であるプローブカバー体30Aが設けられている。以下では、
図1および
図2を参照して、超音波診断装置11、および超音波診断装置用カバー20Aの構成の一例について説明する。
【0053】
[超音波診断装置]
図1に示すように、超音波診断装置11は、体表に当てられた状態で被検部(すなわち皮下組織)に超音波を発振すると共に被検部にて反射された超音波(すなわち反射波)を受信する。また、超音波診断装置11は、受信した反射波に基づいて画像処理を行い、被検部の断面を映し出すようになっている。このような機能を有する超音波診断装置11は、ケーシング12と、プローブ13と、モニター14とを有している。
【0054】
ケーシング12は、公知の合成樹脂で構成され、正面視で大略矩形状かつ断面扁平状の箱体である。ケーシング12を構成する合成樹脂としては、例えばポリカーボネート、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂、SAS(シリコン・アクリロニトリル・スチレン)、およびポリプロピレン等の合成樹脂を挙げることができるが特に限定されない。
【0055】
また、ケーシング12の先端部12aは、最先端に向かって先細りの台形状に形成され、この先端部12aの端面にはプローブ13が配置されている。すなわち、超音波診断装置11は、その先端部12aにプローブ13を有している。また、ケーシング12は、中間部分において後側に反り返るように湾曲し、その湾曲部から基端側にかけて後側に傾倒している。さらに、ケーシング12の前面には、モニター14が配置され、モニター14は画像を映し出すようになっている。
【0056】
プローブ13は、超音波を送受信するセンサ部を有している。このセンサ部は、例えば圧電素子等の振動子および音響レンズによって構成されており、ケーシング12の先端部12aの端面に埋め込むように取り付けられている。センサ部は、その下端面が先端部12aの端面と面一となるようにケーシング12に配置されている。また、センサ部は、ケーシング12内に収容される制御装置(図示せず)に接続され、制御装置からの指令に応じて超音波を発振するようになっている。
【0057】
また、センサ部は、発振した超音波を被検部に送信するとともに、当該被検部で反射される反射波を受信し、受信する超音波に応じた信号を制御装置に出力する。すなわち、このセンサ部の振動子が被検部で反射される反射波によって振動して、その振動に応じた信号を制御装置に出力する。制御装置は、画像処理機能を有しており、その信号に基づいて画像処理を行って画像データをモニター14に出力する。
【0058】
画像表示部の一例であるモニター14は、例えば液晶型モニターおよび有機EL型モニターであり、画像データに応じた画像を表示するようになっている。すなわち、モニター14には、センサ部で受信した反射波に基づいて作成される画像、例えば被検部の断面を映し出すようになっている。このような機能を有するモニター14は、前述の通りケーシング12の前面に配置されている。さらに詳細に説明すると、モニター14の左右の幅は、ケーシング12の左端付近から右端付近までにわたり、上下の高さはケーシング12において湾曲部から基端付近までにわたっている。
【0059】
このように構成されている超音波診断装置11は、そのプローブ13を被検部の体表に当て、その状態でプローブ13のセンサ部の振動子から超音波を発振させる。発振される超音波は被検部にて反射され、その反射をセンサ部の振動子にて受信する。そうすると、センサ部の振動子が反射波に応じて振動し、振動子はその振動に応じた信号を制御装置に出力する。制御装置は、その信号に基づいて画像処理を行い、それによって被検部の断面がモニター14に映し出される。
【0060】
このような機能を有する超音波診断装置11は、被検部の体表上においてプローブ13を走査されるようにして使用される。そのため、超音波診断装置11に関して滅菌処理を行わない場合には、超音波診断装置11に超音波診断装置用カバー20Aが被せられている。
【0061】
[超音波診断装置用カバー]
超音波診断装置用カバー20Aは、超音波診断装置11に血液等が付着しないように、あるいは付着した血液等が飛散しないようするべく、超音波診断装置11全体を覆ってしている。このような機能を有する超音波診断装置用カバー20Aは、
図1に示す例では、筒状体21およびプローブカバー体30Aを備えており、筒状体21に超音波診断装置11を挿入して収めることができるようになっている。
【0062】
筒状体21は、滅菌処理が施された無菌の軟質体であり、具体的には弾性が生じないフィルム体である。筒状体21は、上下が開口し、正面視で上下方向に長尺の大略矩形状の軟質体である。筒状体21は、透明性が高い樹脂材料で構成される軟質体である。筒状体21を構成する樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、およびポリ塩化ビニル等を挙げることができるが特に限定されない。
【0063】
筒状体21は、正面から見た外形形状が超音波診断装置11と類似している。すなわち、筒状体21は、断面扁平状の筒状構造であり、下端側部分が下端に向かって先細りの台形状に形成されている。また、筒状体21では、その上端(すなわち基端)および下端(すなわち先端)が開いており、上端および下端に開口部が形成されている。筒状体21は、軟質体であるため、超音波診断装置11を内部に収容しやすく、また、透明性が高いため、内部に収容した超音波診断装置11のモニター14を筒状体21の外部から確認することができる。
【0064】
筒状体21における上側の開口部は、超音波診断装置11をその先端部12aから挿入できるように形成されている。筒状体21における下側の開口部は、上側の開口部に比して径が小さくなっており、超音波診断装置11を筒状体21の上側の開口部から挿入した後に自然と下側の開口部が超音波診断装置11の先端側周辺に接し、下側の開口部から抜け出さないように支持する。
【0065】
また、下側の開口部は、超音波診断装置11を筒状体21に挿入した状態で当該超音波診断装置11の先端部12aの外周縁形状より若干大きく形成されており、下側の開口部から超音波診断装置11の先端部12a(すなわちプローブ13におけるセンサ部)が突き出させることができるようになっている。超音波診断装置11の先端部12aは筒状体21から突き出ているため、プローブカバー体30Aと超音波診断装置11の先端部12aとの間に隙間が生じないようにすることができる。
【0066】
このような形状を有する筒状体21は、上下方向(すなわち所定方向)において超音波診断装置11より長尺に形成されており、その中に超音波診断装置11の略全体が収まるようになっている。
【0067】
プローブカバー体30Aは、本実施の形態2では、底部、側面および開口部を有する袋状または有底筒状であり、超音波診断装置11が納められた筒状体21の下側の開口部を塞ぎ、下側の開口部から突き出た超音波診断装置11のセンサ部と隙間なく当接するように筒状体21に設けられている。つまり、プローブカバー体30Aは、超音波診断装置11の先端部12aとプローブカバー体30Aとの間に何も介在しないように、超音波診断装置11に固定される。
【0068】
図2上図に示すように、プローブカバー体30Aは、正面視で先細りの大略台形状で且つ断面扁平状の袋体であり、先端側(すなわち下側)が閉じられ、且つ基端側(上側)に開口部を有している。また、プローブカバー体30Aの内周面および外周面は、超音波診断装置11の先端部12aと略同形状で形成されているものの、当該先端部12aに比べて小さくなっている。
【0069】
このような形状を有するプローブカバー体30Aは、前記実施の形態1で説明した本開示に係る音響結合材により構成されている。この音響結合材は、前記の通り、少なくとも弾性材料から構成されるため、良好な延伸性を有する。それゆえ、プローブカバー体30Aは、
図2下図に模式的に示すように、例えば、その開口部を2本の指40で外側に押し広げることで、超音波診断装置11の先端部12aの幅よりも大きく広げることができる。これにより、当該先端部12aをプローブカバー体30A内に容易に入れることができる。
【0070】
しかも、プローブカバー体30Aは、延伸した状態で超音波診断装置11の先端部12a(および先端部12aの大部分を覆う筒状体21)の上から被せられている。このとき、先端部12aに設けられるセンサ部にプローブカバー体30Aすなわち音響結合材が隙間なく密接される。このとき、プローブカバー体30Aは、その内部に先端部12aが挿入されている状態で内側に収縮しようとする。そのため、プローブカバー体30A自身が先端部12aに圧接されることになり、当該先端部12aからプローブカバー体30Aがずれ落ちることが抑制され、プローブカバー体30Aすなわち音響結合材がセンサ部に隙間なく密接した状態が良好に維持される。
【0071】
さらに、
図1に示すように、超音波診断装置11におけるケーシング12の先端部12aの各側面には、嵌合凸部12b,12bが形成されている。一対の嵌合凸部12b,12bは、大略半球状に形成されており、先端部12aの側面から幅方向に突出している。一対の嵌合凸部12b,12bは、超音波診断装置11の先端部12aに延伸したプローブカバー体30Aを被せたときに、プローブカバー体30Aの内面にそれぞれ当接するため、当該プローブカバー体30Aを部分的に外側に押し広げる。そのため、一対の嵌合凸部12b,12bがプローブカバー体30Aの係止部として機能するので、プローブカバー体30Aの先端部12aからずれ落ちをより一層有効に抑制できるとともに、プローブカバー体30Aすなわち音響結合材がセンサ部に隙間なく密接した状態をより一層良好に維持することができる。
【0072】
プローブカバー体30Aは、前記の通り、弾性材料を主成分としており、センサ部(プローブ13の超音波送受信面)と被検部の体表との間において良好な音響結合性を実現することができる。それゆえ、センサ部が密接された状態にて被検部の体表に当てることで被検部の断面が良好な状態でモニター14に映し出させることができる。
【0073】
このように、本開示に係る超音波診断装置用カバー20Aは、ケーシング12と、当該ケーシング12の所定方向一端部に配置されかつ被検部にて反射された超音波を受信するセンサ部を有するプローブ13とを備える超音波診断装置11に被せられる超音波診断装置用カバー20Aであって、前記センサ部と前記被検部との間に介在したときに、前記センサ部と前記被検部との間の音響結合が可能な、延伸性および非粘着性を有する音響結合材(袋状のプローブカバー体30A)を備えている構成であればよく、好ましくは、超音波診断装置11が挿入可能に構成される筒状体21を備える構成であればよい。
【0074】
(実施の形態3)
前述した実施の形態2に係る超音波診断装置用カバー20Aは、筒状体21と、前記実施の形態1に係る音響結合材からなる袋状のプローブカバー体30Aで構成されているが、本開示はこれに限定されず、例えば、平坦な板状(シート状)のプローブカバー体30Bを超音波診断装置11の先端部12aに固定するためのブラケットを備えてもよい。このような構成の超音波診断装置用カバーについて、
図3および
図4を参照して具体的に説明する。
【0075】
本実施の形態3に係るカバー付き超音波診断装置10Bは、
図3に示すブラケット23と、
図4に示すように、このブラケット23を含む超音波診断装置用カバー20Bと、超音波診断装置11とを備える構成である。超音波診断装置11の具体的な構成については前記実施の形態2で説明済であるため、本実施の形態3での説明は省略する。
【0076】
超音波診断装置用カバー20Bは、
図4に示すように、筒状体21、レールファスナ22、ブラケット23、およびプローブカバー体30Bを備えている。筒状体21は、前記実施の形態2と同様に、透明性が高い非弾性の軟質フィルム体から成る断面扁平状の筒状構造であり、滅菌処理が施されている。筒状体21は、ブラケット23およびプローブカバー体30Bと組み付けた状態において、下端部が最下端に向かって先細りの台形状に形成されている。
【0077】
他方、筒状体21の上端部は、前記実施の形態2と同様に開口部が形成されているが、その開口部付近において周方向全体に亘ってレールファスナ22が取り付けられている。レールファスナ22は、雄側レール部と雌側レール部とを有しており、2つのレール部は互いに突き合せることで係合するようになっている。例えば、雄側レール部および雌側レール部は、筒状体21の内周面の前側部分および後側部分に対向するように設けられており、突き合せることで互いに係合して筒状体21の上側を塞いでいる。
【0078】
筒状体21の下側の開口部には、プローブカバー体30Bを取り付けるためのブラケット23が設けられている。ブラケット23は、
図3に示すように、ブラケット本体31とガイド部34とを有している。ブラケット本体31は、プローブカバー体30Bすなわち実施の形態1で説明した音響結合材よりも硬質の材料で構成されていればよい。このような恒湿の材料としては、例えば、ポリカーボネート、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂、SAS(シリコン・アクリロニトリル・スチレン)、またはポリプロピレン等の合成樹脂を挙げることができるが特に限定されない。
【0079】
ブラケット本体31は、
図3に示すように正面視では大略板状に形成され、図示しない平面視では左右横長の偏平状かつ環状に形成されている。ブラケット本体31は、図示しない内孔を有し、この内孔を規定する内周面は下側に向かって先細りのテーパ状に形成されている。また、この内孔は、超音波診断装置11の先端部12aにおける外周縁の形状と同じく左右横長に形成されており、内孔には超音波診断装置11の先端部12aを挿通できるようになっているが、この内孔に先端部12aを挿入した際にその中間部分にて当該内孔に嵌まり込み、それ以上下方に突出しないようになっている。このように構成されていることで、音響結合材(プローブカバー体30B)が超音波診断装置11により過剰に引き延ばされ、音響結合材がブラケット本体31から離脱してしまう事態を防止することができる。また、ブラケット本体31には、超音波診断装置11を保持すべく一対の係止片35が一体的に形成されている。
【0080】
係合部である一対の係止片35は、
図3に示すように上下方向に延びる板状の部材であり、ブラケット本体31の上面に一体的にそれぞれ設けられている。この一対の係止片35は、その主面を互いに対向させるように左右に離して配置されている。一対の係止片35は、前面側ではなく左右に設けられているため、穿刺操作の際に穿刺の邪魔になることがない。また、一対の係止片35は、超音波診断装置11の先端部12aの側面形状に合わせて上方に向かって互いに離れるように外側に傾斜するように延在しており、それらの間に超音波診断装置11の先端部12aが入れられるようになっている。
【0081】
また、図示しないが、一対の係止片35の各々の主面には係止孔が形成されており、この係止孔は、超音波診断装置11における一対の嵌合凸部12b,12b(被係合部、
図1参照)の各々に対応させて形成されている。すなわち、これら係止孔は、ブラケット本体31に対して超音波診断装置11を所定位置まで挿入した際に一対の嵌合凸部12b,12bが嵌合するように配置されており、一対の嵌合凸部12b,12bが係止孔に嵌合することで超音波診断装置11がブラケット本体31に係止されて保持される。
【0082】
また、超音波診断装置11は平板状(シート状)のプローブカバー体30Bを変形させる位置でブラケット本体31に固定される。言い換えれば、シート状のプローブカバー体30Bは、前記実施の形態1で説明した音響結合材であるため、当該プローブカバー体30Bを延伸した状態でブラケット本体31により超音波診断装置11の先端部12aに固定される。このため、プローブカバー体30Bと超音波診断装置11の先端部12aとの間に隙間が生じることが防止され、先端部12aにプローブカバー体30B(音響結合材)を密着させた状態を良好に保持することができる。
【0083】
ブラケット本体31は、
図4に示すように筒状体21の下側の開口部に設けられている。前記の通り、ブラケット本体31の外周面の形状は、平面視で左右横長の扁平状かつ環状であり、筒状体21の下側の開口部は、全周にわたってブラケット本体31の外周面に沿わせるようにして固着され、より具体的は例えば溶着されている。このように取り付けられているブラケット本体31には、プローブカバー体30Bが固定されており、プローブカバー体30Bは、ブラケット本体31を介して筒状体21に固定されている。
【0084】
プローブカバー体30Bは、略平坦な板状すなわちシート状であって平面視で横長の大略矩形の板状に形成されており、平面視での輪郭形状はブラケット本体31における内孔の形状に類似している。より具体的には、プローブカバー体30Bは、ブラケット本体31に固定すべく内孔より若干大きく形成されている。このような形状を有するプローブカバー体30Bは、前記の通り、実施の形態1で説明した音響結合材により構成されているので、伸縮可能である。
【0085】
ブラケット本体31は、プローブカバー体30Bを固定すべく、
図3に示すように上下2つの部材、すなわち第一ブラケット部32および第二ブラケット部33により構成されている。第一ブラケット部32および第二ブラケット部33は、いずれも平面視で左右横長の扁平状かつ環状であり、互いに略同形状にて形成されている。また、第一ブラケット部32の上面には、前述した一対の係止片35,35が形成されており、第一ブラケット部32は、その下面を第二ブラケット部33の上面に突き合わせるようにして、当該第二ブラケット部33に重ね合わせられている。
【0086】
第二ブラケット部33の外周面には、周方向に間隔をあけて複数の係合突起部(図示せず)が形成され、また第一ブラケット部32の外周面には、複数の係合突起部に対応させて複数の係合部32aが形成されている。係合部32aの各々には、係合孔が形成されており、この係合孔に対応する係合突起部が嵌まり込むようになっている。このように嵌まり込むことによって、対応する係合部32aおよび係合突起部同士が係合し、2つのブラケット部32,33が互いに離れず、かつずれないようになっている。すなわち、2つのブラケット部32,33は、挿入方向である上下方向に重ね合わせることによって互いに係止されている。
【0087】
第二ブラケット部33の上面には、その内周縁に凹部33aが形成されている。凹部33aは、第二ブラケット部33の内周縁において周方向に全周にわたって形成されており、残余部より下方に凹んでいる。第二ブラケット部33の凹部33aに第一ブラケット部32を被せることによって、これらブラケット部32,33が固定される。したがって、凹部33aは、上下のブラケット部32,33を固定するための嵌合部である。また、第一ブラケット部32および第二ブラケット部33を固定した状態では、ブラケット本体31の内周面に周方向全周にわたって図示しない収容空間を形成する。収容空間は、外側に凹む空間であり、その中にプローブカバー体30Bの外周縁を全周にわたって収めることができる。すなわち、プローブカバー体30Bの外周縁の形状は、内部空間の形状に合わせて形成されており、第二ブラケット部33に第一ブラケット部32を重ねて装着することによってプローブカバー体30Bの外周縁が2つのブラケット部32,33によって挟持されている。
【0088】
このようにしてプローブカバー体30Bは、ブラケット本体31に固定され、また固定された状態において内孔を塞いでいる。すなわち、プローブカバー体30Bは、筒状体21の下側の開口部を塞ぐようにブラケット本体31を介して筒状体21に設けられている。
【0089】
プローブカバー体30Bを保持するブラケット本体31には、
図3に示すようにガイド部34が設けられている。ガイド部34は、留置針等の針装置の針を案内して穿刺方向を決定づけるためのものであり、大略ブロック状に形成されている。
【0090】
次に、超音波診断装置11を使用すべくそれに超音波診断装置用カバー20Bを被せる作業について説明する。超音波診断装置用カバー20Bは、無菌状態を保つべく図示しない無菌パック等の袋の中に入れられている。超音波診断装置用カバー20Bは、使用時にこの無菌パックから取り出され、筒状体21の上側の開口部を開口させる。超音波診断装置11は、その先端部12aから広げた開口部に挿入される。
【0091】
超音波診断装置11の先端部12aがブラケット本体31の内孔に入り、当該先端部12aの端面がプローブカバー体30Bに当たる。超音波診断装置11をさらに押し込むと、プローブカバー体30Bが超音波診断装置11の先端部12aの形状に合わせて延伸し、超音波診断装置11の先端部12aがブラケット本体31から突出する。なお、超音波診断装置11を押し込み続けると、一対の嵌合凸部12b,12bが係止片35,35の係止孔に嵌まり込むので、超音波診断装置11がブラケット本体31に係合して装着される。
【0092】
このように超音波診断装置用カバー20Bでは、ブラケット本体31の内孔を塞ぐように板状(シート状)のプローブカバー体30Bが保持されているので、筒状体21に入れた超音波診断装置11の先端部12aをブラケット本体31の内孔に入れて押し込むだけで、先端部12aをプローブカバー体30Bに押し付けて密接させることができる。これにより、プローブ13のセンサ部と被検部との間でプローブカバー体30Bすなわち音響結合材による良好な音響結合を実現することができる。
【0093】
また、プローブカバー体30Bは平坦な板状(シート状)に形成されているので、超音波診断装置11の先端部12aを押し付けて引き延ばすことができる。これにより、プローブ13のセンサ部をプローブカバー体30Bに密接させた状態にてセンサ部をプローブカバー体30Bに押し付けることができる。これにより、センサ部とプローブカバー体30Bとの間に隙間が生じて空気が介在することを良好に抑制することができる。その結果、センサ部と被検部との間でプローブカバー体30Bすなわち音響結合材による、さらに一層良好な音響結合を実現することができる。
【0094】
超音波診断装置11が筒状体21の所定位置まで挿入されれば、レールファスナ22が超音波診断装置11の上側部分に位置するので、レールファスナ22の雄側レール部と雌側レール部とを突き合せて係合させて上側の開口部を閉じる。これにより、超音波診断装置11全体が超音波診断装置用カバー20B内に密閉されるので、超音波診断装置11が外部から汚染されることが回避される。
【0095】
このように、本実施の形態3に係る超音波診断装置用カバー20Bは、ケーシング12と、当該ケーシング12の所定方向一端部に配置され、かつ被検部にて反射された超音波を受信するセンサ部を有するプローブ13とを備える超音波診断装置11に被せられる超音波診断装置用カバー20Bであって、センサ部と被検部との間に介在したときに、センサ部と被検部との間の音響結合が可能な、延伸性および非粘着性を有する音響結合材(シート状のプローブカバー体30B)と、当該音響結合材を延伸した状態で前記センサ部に密着するように取り付けるブラケット23と、を備えている構成であればよく、好ましくは、超音波診断装置11が挿入可能に構成される筒状体21を備える構成であればよい。
【0096】
また、本開示においては、音響結合材を延伸した状態で超音波診断装置のセンサ部に密着するように取り付けることができればよい。それゆえ、本開示は、前記実施の形態2に係る超音波診断装置用カバー20Aまたは本実施の形態3に係る超音波診断装置用カバー20Bに限定されず、例えば、音響結合材を延伸した状態でセンサ部に密着するように取り付ける超音波診断装置用ブラケットも含まれる。ブラケットの構成は特に限定されず、本実施の形態3で説明した前述した構成であってもよいし、超音波診断装置11の具体的な構成に応じた他の構成であってもよい。
【0097】
なお、本発明は前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0098】
10A、10B:カバー付き超音波診断装置
11:超音波診断装置
12:ケーシング
12a:先端部
12b:嵌合凸部
13:プローブ
14:モニター(画像表示部)
20A,20B:超音波診断装置用カバー
21:筒状体
22:レールファスナ
23:ブラケット
30A,30B:プローブカバー体(音響結合材)
31:ブラケット本体
34:ガイド部
35:係止片