(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シート、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの製造方法、および粘着テープ
(51)【国際特許分類】
C08J 9/36 20060101AFI20230214BHJP
C08J 9/04 20060101ALI20230214BHJP
C09J 7/24 20180101ALI20230214BHJP
C09J 7/26 20180101ALI20230214BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20230214BHJP
【FI】
C08J9/36 CES
C08J9/04 103
C09J7/24
C09J7/26
C09J7/38
(21)【出願番号】P 2018195572
(22)【出願日】2018-10-17
【審査請求日】2021-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福崎 裕太
(72)【発明者】
【氏名】石田 浩
(72)【発明者】
【氏名】秋山 律文
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-514825(JP,A)
【文献】特開2005-008788(JP,A)
【文献】特開平07-166139(JP,A)
【文献】特開2017-190375(JP,A)
【文献】特開2013-209545(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163612(WO,A1)
【文献】特開2015-199925(JP,A)
【文献】国際公開第2018/116844(WO,A1)
【文献】ペトロセン、ウルトラセン,東洋曹達研究報告,日本,東洋曹達株式会社,2015年05月16日,第16巻 第1号(1972),p.37-p.44,URL:https://www.tosoh.co.jp/technology/assets/72-037.pdf,[2022年8月15日検索],インターネット
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00- 9/42
B29C 44/00-44/60;67/20
C09J 7/00- 7/50
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートであって、
ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.05質量部以上0.5質量部以下の滑剤と、0.005質量部以上0.05質量部以下の二酸化珪素と、を含有し、
前記ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの2つの表面のうちの少なくとも一方の表面で、気泡断面が開口し、
前記気泡断面が開口する表面の平均気泡径が400μm以下であり、ゲル分率が35%以上であることを特徴とするポリオレフィン系樹脂架橋発泡シート。
【請求項2】
請求項1に記載のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートであって、
前記ポリオレフィン系樹脂がエチレン系共重合体である、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シート。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートであって、
前記滑剤が脂肪酸アミドである、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シート。
【請求項4】
請求項1から請求項
3までのいずれか一項に記載のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートであって、
前記気泡断面が開口する面の表面粗さRaが、1μm以上5μm以下である、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シート。
【請求項5】
請求項1から請求項
4までのいずれか一項に記載のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートであって、
前記ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの厚さが、0.1mm以上0.5mm以下であり、
前記ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの密度が0.10g/cm
3以上0.50g/cm
3以下である
ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シート。
【請求項6】
請求項1から請求項
5までのいずれか一項に記載のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートを製造する方法であって、
ポリオレフィン系樹脂と滑剤と二酸化珪素とを含有するポリオレフィン系架橋樹脂を発泡させて、架橋発泡シートを作製し、
前記架橋発泡シートを、前記架橋発泡シートの厚み方向に垂直な方向にスライスして、
スライスにより形成されるスライス面で、気泡断面を開口させる
ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの製造方法。
【請求項7】
請求項
6に記載のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの製造方法であって、
前記架橋発泡シートをスライスした後、前記スライス面を加熱し、前記架橋発泡シートを圧縮および延伸する
ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの製造方法。
【請求項8】
粘着テープであって、
請求項1から請求項
7までのいずれか一項に記載のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートと、
前記ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートにおける前記気泡断面が開口する表面上に設けられた粘着剤を含む粘着剤層と、
を備える粘着テープ。
【請求項9】
請求項
8に記載の粘着テープであって、
前記粘着剤がアクリル系粘着剤である、粘着テープ。
【請求項10】
請求項
8または請求項
9に記載の粘着テープであって、
電子・電気機器を構成する部品を、前記電子・電気機器を構成する本体部に接着固定するために用いられる、粘着テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シート、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの製造方法、および粘着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂架橋発泡体は、一般に、優れた柔軟性、緩衝性、断熱性を有している。そのため、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡体をシート状に成形したポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートは、従来、電子・電気機器に組み込まれて、衝撃吸収材、あるいは、防水・防塵用部材として、広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようにポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートを電子・電気機器に組み込んで用いる際の一般的な態様の一つとして、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの表面に粘着剤を接着させて粘着テープとして用いる態様が知られている。そのため、電子・電気機器に組み込んで用いるポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートには、粘着剤との接着性に優れていることが求められる。
【0005】
また、近年、情報技術分野で使用される電子・電気機器は、小型化され、かつ表示部が大面積化されてきている。それに伴い、電子・電気機器に組み込まれる発泡シートにおいては、更なる薄型化が求められている。ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの薄型化のために、厚み方向に垂直な方向にポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートをスライスするスライス加工が有用であることを、本願発明者等は見出した。しかしながら、柔軟性、緩衝性の高いポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートは、その特性により、発泡シートの厚み方向に垂直な方向に対して、スライスに用いる刃が適切に入り難い場合があり、スライス加工性に問題があった。そこで、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートにおいて、粘着剤との接着性の向上、および、スライス加工性の向上が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートが提供される。このポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートは、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.05質量部以上0.5質量部以下の滑剤と、0.005質量部以上0.05質量部以下の二酸化珪素と、を含有し、前記ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの2つの表面のうちの少なくとも一方の表面で、気泡断面が開口することを特徴とする。
(2)(1)に記載のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートであって、前記ポリオレフィン系樹脂がエチレン系共重合体である、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シート。
(3)(1)または(2)に記載のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートであって、前記滑剤が脂肪酸アミドである、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シート。
(4)(1)から(3)までのいずれか一項に記載のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートであって、ゲル分率が35%以上である、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シート。
(5)(1)から(4)4までのいずれか一項に記載のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートであって、前記気泡断面が開口する面の平均気泡径が400μm以下である、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シート。
(6)(1)から(5)までのいずれか一項に記載のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートであって、前記気泡断面が開口する面の表面粗さRaが、1μm以上5μm以下である、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シート。
(7)(1)から(6)までのいずれか一項に記載のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートであって、前記ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの厚さが、0.1mm以上0.5mm以下であり、前記ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの密度が0.10g/cm3以上0.50g/cm3以下であるポリオレフィン系樹脂架橋発泡シート。
(8)(1)から(7)のいずれか一項に記載のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートを製造する方法であって、 ポリオレフィン系樹脂と滑剤と二酸化珪素とを含有するポリオレフィン系架橋樹脂を発泡させて、架橋発泡シートを作製し、前記架橋発泡シートを、前記架橋発泡シートの厚み方向に垂直な方向にスライスして、スライスにより形成されるスライス面で、気泡断面を開口させるポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの製造方法。
(9)(8)に記載のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの製造方法であって、前記架橋発泡シートをスライスした後、前記スライス面を加熱し、前記架橋発泡シートを圧縮および延伸するポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの製造方法。
(10)粘着テープであって、(1)から(7)までのいずれか一項に記載のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートと、前記ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートにおける前記気泡断面が開口する表面上に設けられた粘着剤を含む粘着剤層と、を備える粘着テープ。
(11)(10)に記載の粘着テープであって、前記粘着剤がアクリル系粘着剤である、粘着テープ。
(12)(10)または(11)に記載の粘着テープであって、電子・電気機器を構成する部品を、前記電子・電気機器を構成する本体部に接着固定するために用いられる、粘着テープ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートにおいて、粘着剤との接着性およびスライス加工性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの構成:
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明の実施形態に係るポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートは、ポリオレフィン系樹脂と、滑剤と、二酸化珪素と、を含む。
【0010】
(A-1)ポリオレフィン系樹脂:
本発明の実施形態に係るポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートが含むポリオレフィン系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレンなどに代表されるポリエチレン系樹脂を挙げることができる。なお、上記した密度の定義は、「超低密度」とは0.910g/cm3未満であり、「低密度」とは0.910g/cm3以上0.940g/cm3以下であり、「高密度」とは0.940g/cm3より大きく0.965g/cm3以下であることをいう。
【0011】
また、ポリオレフィン系樹脂としてポリエチレン系樹脂を用いる場合には、ホモポリエチレンの他、エチレン系共重合体を用いることができる。エチレン系共重合体とは、エチレンと他の単量体との共重合体および多元共重合体を指す。エチレン系共重合体としては、例えば、エチレンと炭素数4以上のα-オレフィン(例えば、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン等が挙げられる)とを重合して得られるエチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体等を挙げることができる。
【0012】
エチレン-酢酸ビニル共重合体において、酢酸ビニルの含有率は、4.5質量%以上とすることが好ましく、10質量%以上とすることがより好ましい。また、酢酸ビニルの含有率は、50質量%以下とすることが好ましく、35質量%以下とすることがより好ましい。さらに、エチレン-酢酸ビニル共重合体の融点は、50℃以上が好ましく、60℃以上がさらに好ましい。また、エチレン-酢酸ビニル共重合体の融点は、110℃以下が好ましく、100℃以下がさらに好ましい。ここで、酢酸ビニルの含有率と融点とは、おおよそ相関があり、酢酸ビニルの含有率が高いほど、エチレン-酢酸ビニル共重合体の融点は低くなる。例えば、酢酸ビニルの含有率が4.5~10質量%程度では、融点は110~100℃程度となり、酢酸ビニルの含有率が10~35質量%程度では、融点は100~60℃程度となり、酢酸ビニルの含有率が35~50質量%程度では、融点は60~50℃程度となる。酢酸ビニルの含有率を50質量%以下にして、エチレン-酢酸ビニル共重合体の融点の低下を抑えることで、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの製造過程において「おこし」等の不具合、すなわち、樹脂投入時に樹脂同士が合着する等の不具合の発生を抑えることができる。また、酢酸ビニルの含有率を4.5質量%以上にして、エチレン-酢酸ビニル共重合体の融点の上昇を抑えることで、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの製造過程において、発泡剤等を含むポリオレフィン系樹脂組成物の溶融混練時に、剪断発熱により発泡剤が分解する不都合を抑えることができる。さらに、酢酸ビニルの含有率を4.5質量%以上とすることで、得られるポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートにおける柔軟性や伸びを高めることができる。このようなエチレン-酢酸ビニル共重合体のJIS K6760に基づくメルトマスフローレート(MFR)は、特に限定するものではないが、1g/10分以上、25g/10分以下が好ましい。MFRの値を1g/10分以上とすることで、既述した溶融混練時に、剪断発熱により発泡剤が分解する不都合を抑えることができる。また、MFRの値を25g/10分以下とすることで、既述した溶融混練時におけるポリオレフィン系樹脂組成物の粘度を抑えることができ、溶融混練を支障無く行なうことが容易になる。
【0013】
エチレン-アクリル酸エチル共重合体において、アクリル酸エチルの含有率は、2質量%以上とすることが好ましく、4質量%以上とすることがさらに好ましい。アクリル酸エチルの含有率を2質量%以上とすることで、得られるポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートにおける柔軟性や伸びを高めることができる。また、アクリル酸エチルの含有率は、30質量%以下とすることが好ましく、20質量%以下とすることがさらに好ましい。アクリル酸エチルの含有率を30質量%以下とすることで、得られるポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートが過剰に柔軟になることを抑えることができる。その結果、長尺状のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートをロール状に巻き取ったときにシート間が経時的に密着することを抑制し、ロールからポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートが取り出し難くなるという不都合を抑えることができる。
【0014】
さらに、ポリオレフィン系樹脂としては、ホモポリプロピレン、エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体などに代表されるポリプロピレン系樹脂を挙げることができる。
【0015】
本発明の実施形態に係るポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートが含むポリオレフィン系樹脂は、より好ましくは低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体とすればよい。さらに好ましくは、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体とすればよい。ポリオレフィン系樹脂としてエチレン系共重合体を用いる場合には、柔軟性および追従性に優れたポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートが得られるため、特に好ましい。本発明の実施形態に係るポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートが含むポリオレフィン系樹脂は、上記したポリオレフィン系樹脂のうちの、単一の樹脂であってもよく、複数種類の樹脂の混合物であってもよい。
【0016】
(A-2)滑剤および二酸化珪素:
本発明の実施形態に係るポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートは、接着性およびスライス加工性の向上のために、所定量の滑剤および二酸化珪素を含む。ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの「接着性」とは、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シート上に粘着剤層を設けて、粘着テープの用途で用いることを想定した性能を示す。接着性は、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートと粘着剤層との間の剥離強度によって評価することができる。ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの「スライス加工性」とは、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートに対してスライス加工を良好に施すことができる性能を示す。スライス加工とは、厚み方向に垂直な方向にポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートをスライスして、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートを、より薄型化する加工である。
【0017】
本発明の実施形態に係るポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートが含む滑剤としては、発泡体成形に用いられる公知の滑剤が使用できる。例えば、脂肪酸アミド;ステアリン酸、ベヘニン酸、12-ヒドロキシステアリン酸等の脂肪酸カルボン酸及びその誘導体;流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス等の炭化水素;ステアリン酸ブチル、ステアリン酸モノグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、硬化ヒマシ油、ステアリン酸ステアリル等の脂肪酸エステル;ステアリルアルコール等の高級アルコール;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸鉛等の金属石鹸等が挙げられる。 滑剤が示す滑性は、その作用機構から、樹脂と加工機械の接触面で潤滑性を持たせる外部滑性と、樹脂相互間の潤滑性を向上させる内部滑性とに分類される。本発明の実施形態に係る滑剤は、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートのスライス加工性を向上させる観点から、優れた外部滑性を示すことが望ましい。優れた外部滑性を示し、また、入手が容易であるという観点から、滑剤としては脂肪酸アミドを用いることが望ましい。
【0018】
脂肪酸アミドとしては、ヒドロキシ脂肪酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド等が挙げられる。
【0019】
ヒドロキシ脂肪酸アミドとしては、特に制限はなく、様々な化合物の中から適宜選択して用いることができる。中でも、ヒドロキシ脂肪酸の部分の炭素数が8以上22以下の範囲にあるものが好ましく、入手の容易さ、および得られる効果の観点から、炭素数が18のものが特に好ましい。ヒドロキシ脂肪酸アミドの具体例としては、ヒドロキシステアリン酸アミド、リシノール酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド等が挙げられる。ヒドロキシ脂肪酸アミドには、水酸基が含まれており、水酸基による金属への吸着が顕著な化合物である。そのため、滑剤としてヒドロキシ脂肪酸アミドを用いることにより、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートと金属との動摩擦係数を低下させ、滑り性を向上させて、スライス加工性を向上させる効果を特に高めることができる。
【0020】
本実施形態のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートが含む滑剤としては、上記した滑剤のうちの単一の物質を用いてもよく、複数種類の物質を混合して用いてもよい。
【0021】
ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートにおける滑剤の含有量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.05質量部以上とすることが好ましく、0.06質量部以上とすることがより好ましい。また、滑剤の含有量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.5質量部以下とすることが好ましく、0.4質量部以下とすることがより好ましい。ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートにおける二酸化珪素の含有量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.005質量部以上とすることが好ましく、0.006質量部以上とすることがより好ましい。また、二酸化珪素の含有量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.05質量部以下とすることが好ましく、0.04質量部以下とすることがより好ましい。ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートにおいて、所望の接着性およびスライス加工性を実現するためには、滑剤と二酸化珪素との双方を配合し、各々の含有量が上記範囲を満たすことが望ましい。滑剤および二酸化珪素の各々の含有量が上記範囲よりも少ない場合には、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの接着性およびスライス加工性を向上させる効果が不十分となる。滑剤および二酸化珪素の各々の含有量が上記範囲よりも多い場合には、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの表面(例えば、スライス加工によって形成されるスライス面)に、滑剤や二酸化珪素がより多く存在することに起因して、接着性が低下し得る。さらに、滑剤および二酸化珪素の各々の含有量が上記範囲よりも多い場合には、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの外観を損なう可能性がある。具体的には、滑剤および二酸化珪素の含有量が多いと、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの製造過程において、ポリオレフィン系樹脂を押出成形によりシート化する際に、ダイスから吐出されたシート状のポリオレフィン系樹脂から滑剤等の添加剤がブリードアウトし易くなる。その結果、ブリードアウトした滑剤等が、製造途中のシートの搬送に用いられるポリッシングロール等に転写されてポリオレフィン系樹脂シートに付着し、得られるポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの外観を損なうことになる。
【0022】
(A-3)他の成分:
本実施形態のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートは、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの特性に対する影響が許容範囲であれば、さらに、他の成分を含有していてもよい。例えば、ポリオレフィン系樹脂以外の他の熱可塑性樹脂を含有していてもよい。ポリオレフィン系樹脂以外の他の熱可塑性樹脂であって、ハロゲンを含まない樹脂としては、例えば、ポリスチレン;ポリメチルメタクリレートやスチレン-アクリル酸共重合体などのアクリル樹脂;スチレン-ブタジエン共重合体;エチレン-酢酸ビニル共重合体;ポリ酢酸ビニル;ポリビニルアルコール;ポリビニルアセタール;ポリビニルピロリドン;石油樹脂;セルロース;酢酸セルロース、硝酸セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体;低分子量ポリエチレン;高分子量ポリエチレン;飽和アルキルポリエステル樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリテート等の芳香族ポリエステル樹脂;ポリアミド樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリエステルスルホン樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;ビニル重合性モノマーおよび含窒素ビニルモノマーを有する共重合体などが挙げられる。ポリオレフィン系樹脂以外の他の熱可塑性樹脂であって、ハロゲンを含まない樹脂は、さらに、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、ジメチルシリコーンゴム、エチレンプロピレンゴムなどのエラストマーを含むこととしてもよい。ポリオレフィン系樹脂以外の他の熱可塑性樹脂であって、ハロゲンを含む樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化三フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、フルオロカーボン樹脂、パーフルオロカーボン樹脂、溶剤可溶性パーフルオロカーボン樹脂などが挙げられる。本実施形態のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートは、ポリオレフィン系樹脂以外の他の熱可塑性樹脂として、上記した樹脂のうちの一種類の樹脂を含有することとしてもよく、複数種類の樹脂を含有することとしてもよい。ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートにおける所望の物性に合わせて、含有する樹脂の種類、および、含有する樹脂の含有量を適宜設定すればよい。
【0023】
本実施形態のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートが含有する他の成分は、気泡核調整剤、酸化防止剤、熱安定剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、無機充填剤等の各種添加剤のうちの少なくともいずれか一つとしてもよい。
【0024】
本実施形態のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートは、ポリオレフィン系樹脂が主成分であることが重要である。ここで主成分とは、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートにおいて、質量的に最も大きい成分を意味する。より好ましくは、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの全成分100質量%において、ポリオレフィン系樹脂は50質量%以上100質量%以下とすればよい。既述したポリオレフィン系樹脂以外の他の熱可塑性樹脂や、その他の添加剤などは、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの全成分100質量%において、0質量%以上50質量%以下とすればよい。ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートにおける滑剤、二酸化珪素、およびその他の添加剤の含有率は、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートのガスクロマトグラフ質量分析および元素分析により求めることができる。また、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートにおける熱可塑性樹脂の含有率は、フーリエ変換型赤外分光光度計(FT-IR)を用いた測定により求めることができる。
【0025】
(A-4)ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの特性:
本実施形態のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートは、その厚み方向に垂直な2つの表面のうちの少なくとも一方の表面で、気泡断面が開口している。気泡断面が開口する面における平均気泡径は、400μm以下とすることが好ましく、380μm以下とすることがより好ましく、350μm以下とすることがさらに好ましい。気泡断面が開口する面における平均気泡径を、より小さくし、例えば400μm以下とすることで、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの表面平滑性の低下を抑え、既述した粘着剤との接着性の低下を抑えることができる。このような接着性の低下の抑制は、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シート表面の平滑性の低下を抑えることにより、粘着剤との接触面積をより大きく確保できるために得られる効果と考えられる。また、気泡断面が開口する面における平均気泡径は、250μm以上とすることが好ましく、270μm以上とすることがより好ましい。気泡断面が開口する面における平均気泡径を、より大きくし、例えば250μm以上とすることで、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートにおける密度の上昇を抑え、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの柔軟性を確保することが容易になる。 気泡断面が開口する面における平均気泡径は、例えば、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートにおける後述するゲル分率、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートを製造する際にポリエチレン系樹脂に加える発泡剤の種類および量、後述する発泡工程における温度および時間等によって調節することができる。
【0026】
本実施形態のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートにおいて、気泡断面が開口する面の表面粗さRaは、1μm以上とすることが好ましく、2μm以上とすることがより好ましい。気泡断面が開口する面の表面粗さRaの値を、より大きくし、例えば1μm以上とすることで、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの製造の過程および製造後において、樹脂シートのブロッキングを抑制することができる。ブロッキングとは、重ねられた樹脂シートが互いに付着して剥離し難くなる現象をいう。また、気泡断面が開口する面の表面粗さRaは、5μm以下とすることが好ましく、4μm以上とすることがより好ましい。気泡断面が開口する面の表面粗さRaの値を、より小さくし、例えば5μm以下とすることで、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの表面の平滑性の低下を抑え、既述したように粘着剤との接着性の低下を抑えることができる。気泡断面が開口する面の表面粗さRaは、例えば、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートにおける後述するゲル分率、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートを製造する際にポリエチレン系樹脂に加える発泡剤の種類および量、後述する発泡工程における温度および時間等によって調節することができる。
【0027】
本実施形態のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートのゲル分率は、特に限定されないが、35%以上とすることが好ましく、36%以上とすることがより好ましい。ゲル分率を、より大きくし、例えば35%以上とすることで、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートにおいて気泡が大きくなり過ぎることを抑制できる。その結果、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの表面で開口する気泡断面の平均気泡径が抑えられて、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの表面平滑性の悪化、および、既述した粘着剤との接着性の悪化を抑えることができる。また、本実施形態のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートのゲル分率は、60%以下とすることが好ましく、50%以下とすることがより好ましい。ゲル分率を、より小さくし、例えば60%以下とすることで、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートを製造する際に、シートの発泡状態の制御が容易になり、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートにおける気泡断面の平均気泡径、密度、厚さ等を所望の範囲に調節することが容易になる。さらに、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの柔軟性の低下を抑えることができる。
【0028】
ゲル分率とは、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートを構成するポリエチレン系樹脂における架橋度の指標となる値である。具体的には、ゲル分率は、樹脂サンプルを溶剤中に浸漬し、浸漬後の樹脂サンプルの乾燥質量(不溶解分の質量)の、浸漬前の樹脂サンプルの質量に対する割合を、百分率で表わした値である。本実施形態では、樹脂サンプルを浸漬する溶剤としてテトラリンを用い、浸漬時間を3時間としている。例えば、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートを製造する際に、ポリオレフィン系樹脂に電離性放射線を照射してポリオレフィン系樹脂を架橋させる場合には、ゲル分率は、架橋のための照射線量(ポリオレフィン系樹脂が吸収する吸収線量)によって調節することができる。
【0029】
本実施形態のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの厚さは、0.1mm以上とすることが好ましく、0.15mm以上としてもよい。ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの厚さを、より厚くして、例えば0.1mm以上とすることで、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの衝撃吸収性やクッション性の確保が容易となる。また、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの厚さは、0.5mm以下とすることが好ましく、0.4mm以下としてもよい。ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの厚さを、より薄くして、例えば0.5mm以下とするならば、電子・電器機器の部品を機器本体に固定するためにポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートを用いる場合に、電子・電器機器の薄型化が、より容易になる。例えば、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの製造工程において、ポリエチレン系樹脂を押出成形によりシート化する場合には、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの厚さは、押出機のダイスの形状により調節することができる。さらに、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの製造工程において、厚み方向に垂直な方向にポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートをスライスする既述したスライス加工を行なう場合には、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの厚さは、スライス加工を行なう装置に取り付けたスライス用の刃の配置(装置における刃の上下のクリアランス)によって調節することができる。
【0030】
本実施形態のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの密度は、0.10g/cm3以上とすることが好ましく、0.20g/cm3以上とすることがより好ましい。ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの密度を、より高くし、例えば0.10g/cm3以上とすることで、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの強度および衝撃吸収性の確保、あるいは、加工時におけるシワの発生の抑制が、より容易になる。また、本実施形態のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの密度は、0.50g/cm3以下とすることが好ましく、0.40g/cm3以下とすることがより好ましい。ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの密度を、より低くし、例えば0.50g/cm3以下とすることで、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートが硬くなりすぎることを抑え、緩衝性を確保することが容易になる。ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの密度は、例えば、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートのゲル分率、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートを製造する際にポリエチレン系樹脂に加える発泡剤の種類および量、後述する発泡工程における温度および時間等によって調節することができる。なお、本実施形態のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの密度とは、内部に形成された気泡を含めた発泡体全体としての密度である。
【0031】
本実施形態のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートは、独立気泡構造を持つことが好ましい。ここでいう独立気泡構造とは、気泡と気泡の間に存在する樹脂部分に、気泡間を連通させる孔などが無く、隣り合った気泡の間でガスが流通しないものをいう。これに対して、連続気泡構造とは、隣り合った気泡の間が孔によって連通しており、気泡間でガスが流通する構造をいう。独立気泡構造を有することにより、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの緩衝性を高めることができると共に、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの成形を、より容易にできるという効果が得られる。本実施形態のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートにおいて、独立気泡率は、少なくとも90%以上であることが好ましい。
【0032】
発泡シートにおける独立気泡率とは、以下のようにして測定された値をいう。すなわち、25mm角に裁断した試料を厚み約5cmに重ね合わせて試料片を作製し、この試料片の実体積Vを、マイクロメリテックス乾式自動密度計(株式会社島津製作所製、アキュピックII(V1.0))を用いて測定する。このとき、試料片は、重ねる試料間にできるだけ隙間が空かないように積み重ねて約5cmの厚みとする。また、試料片の外形から試料片の見かけ体積V0を算出する。得られた値から次式により独立気泡率(%)を算出する。
独立気泡率(%)=[1-(V0-V)/V0]×100
【0033】
本実施形態のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートは、表面に公知の表面処理が施されていてもよい。例えば、下塗り処理、コロナ放電処理、プラズマ処理などの化学的または物理的な表面処理が施されていてもよい。より具体的には、アクリル系粘着剤層等との密着性を高めるため、慣用の表面処理、例えば、コロナ放電処理、クロム酸処理、オゾン暴露、火炎暴露、高圧電撃暴露、イオン化放射線処理等の化学的または物理的方法による酸化処理等が施されていてもよく、下塗り剤や剥離剤などによるコーティング処理等が施されていても良い。ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの表面平滑性に変化を与えないという観点から、コロナ放電処理が望ましい。
【0034】
B.ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの製造方法:
本実施形態のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの製造方法に特に制限はないが、ポリオレフィン系樹脂に対して滑剤および二酸化珪素を配合した樹脂組成物から、架橋発泡シートを作製する工程(以下、架橋発泡シート形成工程とも呼ぶ)と、上記架橋発泡シートを、その厚み方向に垂直な方向にスライスして、スライスにより形成されるスライス面で、気泡断面を開口させる工程(以下、スライス工程とも呼ぶ)と、を有することが好ましい。さらに、上記架橋発泡シートをスライスした後、架橋発泡シートを加熱して、さらに圧縮および延伸する工程(以下、加熱・圧縮・延伸工程とも呼ぶ)を有していてもよい。本実施形態のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの製造方法としては、長尺状に形成した樹脂シートをロールツーロール方式によって連続搬送して、各工程に供する態様を採用することが好ましい。
【0035】
(B-1)架橋発泡シート形成工程:
ポリオレフィン系樹脂に対して滑剤および二酸化珪素を配合した樹脂組成物から、架橋発泡シートを形成する架橋発泡シート形成工程は、上記樹脂組成物をシート状に成形するシート化工程と、上記樹脂組成物を架橋させてポリオレフィン系架橋樹脂を形成する架橋工程と、上記ポリオレフィン系架橋樹脂を発泡させる発泡工程と、を含む。本実施形態では、好ましくは、シート化工程、架橋工程、発泡工程の順で行なっている。ただし、架橋発泡シート形成工程において、各工程の順序の入れ替え、あるいは、複数の工程を同時に行なうことも可能である。
【0036】
シート化工程は、例えば、ポリオレフィン系樹脂と滑剤と二酸化珪素と熱分解型発泡剤とを含むポリオレフィン系樹脂組成物を、溶融混練した後に押出成形することにより行なうことができる。具体的には、例えば、上記ポリオレフィン系樹脂組成物の所定量を、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、ミキシングロール等の混練装置を用いて、熱分解型発泡剤の分解温度未満で均一に溶融混練し、これをシート状に成形する。混練装置において、処理中に発生する揮発成分を除去するため、必要に応じて真空ベント等の脱気設備を設置することとしてもよい。押出機における長さと直径の比である(L/D)比も、特に限定はされない。上記ポリオレフィン系樹脂組成物は、さらに、既述した他の成分としての添加剤を含んでいてもよい。
【0037】
滑剤および二酸化珪素は、製造の過程において分解することがほとんどないため、既述した本実施形態のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートにおける滑剤および二酸化珪素の含有量は、ポリオレフィン系樹脂組成物における滑剤および二酸化珪素の配合量と一致する。また、これら滑剤および二酸化珪素の原料形状は特に限定されず、例えば、粉体状、あるいは樹脂を含むペレット状で用意して、上記した混練装置に供給すればよい。また、必要に応じてさらに他の添加剤を配合したコンパウンドとして用意してもよい。滑剤および二酸化珪素は、ポリオレフィン系樹脂の溶融混錬時にポリオレフィン系樹脂に添加してもよく、あるいは、溶融混錬前にポリオレフィン系樹脂に添加してもよい。
【0038】
熱分解型発泡剤としては、本実施形態のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの原料であるポリオレフィン系樹脂を含む樹脂組成物の溶融温度よりも高い分解温度を有するものであれば、特に限定されない。好ましくは、アゾジカルボンアミドが挙げられる。また、アゾジカルボンアミドと同等もしくはそれより高い分解温度を有する発泡剤である、ヒドラゾシカルボンアミド、アゾジカルボン酸バリウム塩、ジニトロソペンタエチレンテトラミン、ニトロソグアニジン、p,p’-オキシビスベンゼンスルホニルセミカルバジド、トリヒドラジンシンメトリックトリアジン、ビスベンゼンスルホニルヒドラジド、バリウムアゾジカルバキシレート、アゾビスイソブチロニトリル、トルエンスルホニルヒドラジド等を用いることとしてもよい。これらの熱分解型発泡剤は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。熱分解型発泡剤の配合量は、樹脂成分の合計量100質量部に対して、2~40質量部程度とすればよく、所望の発泡倍率に応じて配合量を設定すればよい。ここで、「樹脂成分の合計量100質量部」とは、ポリオレフィン系樹脂、および、他の熱可塑性樹脂等の全ての樹脂の合計量100質量部を意味する。この場合、ポリオレフィン系樹脂組成物に加える添加剤等を、予め樹脂と混合したペレットとして用意する場合には、「樹脂成分の合計量100質量部」は、添加剤を含有するペレット中の樹脂量を含む。
【0039】
架橋工程は、例えば、上記シート化工程により得られた樹脂シートに対して、電離性放射線を所定線量照射して、ポリオレフィン系樹脂を架橋させることにより実行される。電離性放射線としては、電子線、X線、β線、γ線等が使用される。樹脂シートが吸収する吸収線量は、例えば1kGy以上300kGy以下とすればよく、所望のゲル分率に応じて適宜設定すればよい。架橋工程は、電離性放射線照射による架橋に代えて、過酸化物による架橋や、シラン架橋により行なってもよい。
【0040】
発泡工程は、例えば、架橋工程後の上記樹脂シートを、熱分解型発泡剤の分解温度以上であって、ポリオレフィン系樹脂組成物の融点以上の温度、例えば、190℃以上290℃以下の温度範囲で加熱することにより実行される。発泡工程における樹脂シートの加熱は、例えば、熱風、赤外線、メタルバス、オイルバス、ソルトバス等を用いて行なうことができる。架橋の対象となる樹脂シートの搬送路において熱風等の熱媒が配置される部位の長さや、熱媒に接しつつ樹脂シートが搬送される際の搬送速度等によって、発泡工程の時間を調節することができる。このような発泡工程により、ポリオレフィン系樹脂組成物から成る架橋発泡シートが形成される。発泡工程において、上記のように熱風等を用いて加熱を行なうことにより、シート表面として、気泡がほとんど開口していない表面(以下、スキン面と呼ぶ)が形成された架橋発泡シートが得られる。
【0041】
(B-2)スライス工程:
スライス工程とは、既述したように、上記架橋発泡シートを、その厚み方向(ZD方向:Thickness Direction)に垂直な方向にスライスして、スライスにより形成されるスライス面で、気泡断面を開口させる工程である。架橋発泡シートの厚み方向に垂直な方向とは、架橋発泡シートのMD方向(Machine Direction)およびTD方向(Transverse Direction)によって規定されるMD-TD面に平行な方向をいう。架橋発泡シート形成工程で得られた架橋発泡シートを2分割する場合には、分割後の架橋発泡シートは、一方の面にスキン面を有し、他方の面に、気泡断面が開口するスライス面を有する。スライス工程における分割の数は、3分割以上であってもよい。このようなスライス工程を行なうことで、架橋発泡シートの少なくとも一方の面にスライス面を形成することができると共に、架橋発泡シートを、より薄くすることができる。そのため、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートを製造する際に、スライス工程を採用することで、比較的薄いポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートを製造する製造効率を高めることができる。また、架橋発泡シートの一方の面をスキン面として、他方の面をスライス面とする場合には、本実施形態のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートにおいて、表裏のそれぞれの面において、異なる機能を付与することが可能になる。
【0042】
スライス工程で架橋発泡シートをスライスするために用いる機器は、工業用軟質材やゴムシートをスライスできるものであればよい。スライス工程は、例えば、架橋発泡シートを上下一対のニップロールで挟みつつ、架橋発泡シートの幅方向(TD方向)に回転する刃を備えるスライサー(スプリッティングマシン)を用いて行なうことができる。スライス工程に用いるスライサーとしては、例えば、株式会社ニッピ機械社製「NP-120」を用いることができる。
【0043】
(B-3)加熱・圧縮・延伸工程:
スライス工程の後には、架橋発泡シートを加熱して、さらに圧縮および延伸する加熱・圧縮・延伸工程を行なうこととしてもよい。ただし、これらの工程は必須ではない。また、例えば、架橋発泡シートを加熱する工程のみを行なうこととしてもよい。
【0044】
架橋発泡シートを加熱する工程では、架橋発泡シート表面のうちの少なくとも一方の面を加熱すればよく、少なくともスライス面を加熱することが好ましい。例えば、ロールツーロール方式によってポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートを製造する装置において、スライス工程を行なう装置の下流側に電気ヒータを設け、スライスされた架橋発泡シートのスライス面を上記ヒータと対向させつつ、架橋発泡シートを連続搬送すればよい。加熱の温度は、架橋発泡シートを構成するポリオレフィン系樹脂が軟化する温度であって、ポリオレフィン系樹脂の融点以下の温度とすればよい。このようにして架橋発泡シートを加熱してスライス面の表面を軟化させることにより、スライス面の表面粗さRaの値、および、スライス面で開口する気泡断面の平均気泡径を、より小さくし、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの表面平滑性を高めることができる。これにより、スライス面における粘着剤との接着性を高めることができる。ただし、スライス工程と加熱・圧縮・延伸工程は連続搬送ではなく、それぞれ単独であっても良い。
【0045】
架橋発泡シートを圧縮および延伸する工程は、架橋発泡シートを厚み方向(ZD方向)に圧縮しつつ、架橋発泡シートを引き延ばす力を加える工程である。圧縮は、例えば、架橋発泡シートを一対のニップロールで挟むことにより実行できる。このように架橋発泡シートを圧縮して抑えつつ、樹脂流れの下流側から延伸する力を加えることで、架橋発泡シートを引き延ばすことができる。このとき、圧縮および延伸する工程に先立って加熱を行なっているため、架橋発泡シートは軟化しており、所望の程度に容易に引き延ばすことができる。圧縮および延伸する工程を行なうことで、より薄いポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートを得ることができる。なお、架橋発泡シートの延伸は、一方向のみの延伸ではなく、多方向の延伸としてもよい。例えば、樹脂の流れ方向であるMD方向のみに延伸することとしてもよく、MD方向に加えて、架橋発泡シートの幅方向であるTD方向にも引っ張り力を加えて、延伸することとしてもよい。上記のように架橋発泡シートの圧縮を行なう場合には、圧縮の度合いによって、得られるポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの密度を調節することができる。例えば、上記一対のニップロール間の間隙を小さくして、圧縮度合いを高めることにより、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの密度を高めることができる。
【0046】
(B-4)その他の製造方法:
本実施形態のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートの製造方法は、上記した製造方法に限定されることなく、従来から公知の異なる方法を採用することが可能である。一例を以下に示す。まず、ポリオレフィン系樹脂、化学架橋剤、滑剤、二酸化珪素、および、気泡核剤としてタルクを混合して樹脂組成物を調製した後、押出機にてペレットを作製する。次に並列した二段式のタンデム型押出機の第一押出機に、上記ペレットを供給して溶融混練する。そして、第一押出機の途中から、発泡剤として超臨界状態の炭酸ガス(二酸化炭素)を圧入して、溶融状態の樹脂組成物と二酸化炭素を均一に混合混練した上で、発泡剤を含む溶融樹脂組成物を第二押出機に連続的に供給する。第二押出機では、上記溶融樹脂組成物を溶融混練しつつ、発泡に適した樹脂温度に冷却し、その後、第二押出機の先端に取り付けた金型の円環ダイから押出発泡させて、円筒状の発泡体を得る。この円筒状の発泡体をカッターにより切開して、発泡シートを得ることとしてもよい。
【0047】
上記のように、物理発泡により発泡シートを作製する場合には、作製の条件によっては、得られる発泡シートは、スキン面を有することなく、表面において気泡断面が開口している場合がある。このようなポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートであっても、ポリオレフィン系樹脂に対する滑剤および二酸化珪素の配合量を、既述した範囲とすることで、粘着剤との接着性を高める既述した効果が得られる。また、このようにして得た発泡シートは、さらに、既述したスライス工程に供して薄型化してもよい。このような構成としても、ポリオレフィン系樹脂に対する滑剤および二酸化珪素の配合量を既述した範囲とすることにより、スライス加工性が高まるため、スライス加工を良好に行なうことができる。あるいは、上記物理発泡により作製した発泡シートを、さらに、既述した加熱・圧縮・延伸工程に供することとしてもよい。
【0048】
C.粘着テープ:
本実施形態のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートは、粘着テープを作製するために好適に用いることができる。粘着テープを作製するには、本実施形態のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートのスキン面もしくは気泡断面が開口する面、または、スキン面と気泡断面が開口する面との両面に、粘着剤層を積層すればよい。粘着剤層を積層する面を、気泡断面が開口する面とする場合には、この気泡断面が開口する面における平均気泡径および表面粗さRaの値を、既述した範囲とすることで、粘着剤との接着性を高めることができる。
【0049】
粘着剤層に含まれる粘着剤としては、一般的に用いられている公知の粘着剤を使用することができる。例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤(天然ゴム系粘着剤、合成ゴム系粘着剤など)、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリアミド系粘着剤、エポキシ系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、フッ素系粘着剤などが挙げられる。また、粘着剤は、エマルジョン系粘着剤、溶剤系粘着剤、ホットメルト型粘着剤、オリゴマー系粘着剤、固系粘着剤などのいずれの形態の粘着剤であってもよい。粘着剤としては、上記した接着剤のうちの単一の接着剤を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、上記粘着剤としては、被着体への汚染防止などの観点から、アクリル系粘着剤を用いることが好ましい。すなわち、本実施形態の粘着テープは、本実施形態のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シート上に、アクリル系粘着剤を含む粘着剤層を有することが好ましい。
【0050】
粘着剤層の厚さは、特に限定されないが、5μm以上とすることが好ましく、7μm以上とすることがより好ましい。これにより、粘着テープにおいて十分な接着性を得ることが、より容易になる。また、粘着剤層の厚さは、200μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましい。これにより、粘着テープ全体を薄型化することが容易になり、粘着テープが使用される電子・電気機器の小型化、および薄厚化が容易になる。なお、粘着剤層は、単層であってもよいし、粘着剤の種類等が異なる複数種類の層が積層された積層体であってもよい。
【0051】
本実施形態のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートを用いた粘着テープは、例えば、携帯型電話機やビデオカメラ等の電子・電気機器を構成する部品を、電子・電気機器を構成する本体部に接着固定するために用いることができる。また、本実施形態の粘着テープは、電子・電気機器の本体内に内装される電子部品に衝撃が加わるのを防止する衝撃吸収材や、電子・電気機器本体内に埃や水分等が進入するのを防止するシール材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。後述する複数種類の実施例および比較例のポリオレフィン系樹脂架橋発泡シート(以下、樹脂発泡シートとも呼ぶ)を作製し、物性等の測定および性能等の評価を行なった。まず、測定および評価の方法について説明する。
【0053】
(厚さの測定)
樹脂発泡シートの厚さは、ISO 1923(1981)「発泡プラスチック及びゴム一線寸法の測定方法」に従って測定した。具体的には、樹脂発泡シートを平坦な台に静置させ、10cm2の面積を持つ円形測定子をつけたダイヤルゲージを、樹脂発泡シート表面に10g/10cm2の一定圧力で接触させて測定した。
【0054】
(密度の測定)
樹脂発泡シートの密度は、JIS K6767(1999)「発泡プラスチック-ポリエチレン-試験方法」に準じて測定・計算した。具体的には、10cm角の試験片(樹脂発泡シート)の厚さおよび質量を測定し、以下の式によって密度を求めた。
密度(g/cm3)=試験片の質量(g)/[試験片面積100(cm2)×試験片の厚さ(cm)]
【0055】
(ゲル分率の測定)
樹脂発泡シートのゲル分率の測定は、次のようにして実施した。樹脂発泡シートを約0.5mm角に切断したものを、0.1mgの精度で100mg秤量した。秤量した樹脂発泡シートを、140℃のテトラリン200mLに3時間浸漬した後、100メッシュのステンレス製金網で自然濾過し、金網上の不溶解分を1時間120℃下で熱風オーブンにて乾燥した。次いで、乾燥した不溶解分を、シリカゲルを入れたデシケータ内で30分間冷却し、この不溶解分の質量を精密に秤量し、次の式に従って発泡体のゲル分率を百分率で算出した。
ゲル分率(%)=[不溶解分の質量(mg)/秤量した樹脂発泡シートの質量(mg)]×100
【0056】
(平均気泡径の測定)
平均気泡径は、樹脂発泡シートの気泡断面が開口する面において、MD方向とTD方向のそれぞれについての平均気泡径を求め、その後、MD方向の平均気泡径とTD方向の平均気泡径とを平均することにより求めた。以下では、MD方向の平均気泡径の測定方法について説明する。
【0057】
樹脂発泡シートの気泡断面が開口する面を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「S-3000N」)にて、65倍に拡大して撮影した。次に、撮影した画像をA4用紙上に印刷し、MD方向に平行な任意の線分(長さ60mm)上にある気泡数を数えて、気泡の平均弦長(t)を下記式により算出した。
平均弦長t(mm)=60(mm)/気泡数
【0058】
ただし、上記した任意の線分は、できる限り、隣り合う気泡間の接点を通過するのではなく、気泡内を通過するようにした。上記線分が気泡間の接点を通過する場合には、当該接点を通過する箇所では、線分上の気泡数を2として数えた。計測は、測定方向(MD方向)当たり、6本の線分を引いて行なった。撮影した画像の倍率は、画像上のスケールバーを、株式会社ミツトヨ製「デジマチックキャリパ」にて1/100mmまで計測し、次式により求めた。
画像倍率=画像上のスケールバーの長さの実測値(mm)/スケールバーの表示値(mm)
【0059】
そして、次式によりMD方向における気泡径(d)を算出した。
d(mm)=t(mm)/[0.616×画像倍率]
【0060】
TD方向においても、MD方向と同様に気泡径(d)を算出し、MD方向とTD方向の気泡径(d)の算術平均値を、平均気泡径とした。
【0061】
(表面粗さRaの測定)
樹脂発泡シートの表面粗さRaは、樹脂発泡シートの気泡断面が開口する面について、JIS B0601-2001の表面粗さ測定法に準拠して測定した。具体的には、株式会社小坂研究所製の表面粗さ測定機SE-2300を用いて、測定長30mm、測定スピード0.5mm/s、カットオフ値2.5mmに設定して測定した。
【0062】
(スライス加工性の評価)
各々の樹脂発泡シートについて、スライス加工性を評価した。各々の樹脂発泡シートは、後述するようにスライス加工を経て製造されている。ここでは、スライス加工直後のシートではなく、スライス加工を経て最終的に得られた各々の樹脂発泡シートの形状に基づいて、スライス加工性の評価を行なった。評価結果は、以下のように示す。なお、以下の基準において、「スライス面が平滑である」とは、表面粗さRaが7μm以下であることを指し、「スライス面に凹凸がある」とは、表面粗さRaが7μmを超えることを指す。また、「カット不良が発生した」とは、樹脂発泡シートの幅方向端部において、ひだ状の変形が生じたことを示し、「カット不良がない」とは、樹脂発泡シートの幅方向端部において、上記のような変形が生じなかったことを示す。このような変形の有無は、目視により明確に判別できるものであった。
A:スライス面が平滑で、幅方向端部のカット不良がない。
B:スライス面が平滑であるが、幅方向端部のカット不良が発生した 。
C:スライス面に凹凸があり、幅方向端部のカット不良が発生した。
【0063】
(接着性の評価)
樹脂発泡シートの接着性を評価するために、樹脂発泡シートにおける気泡断面が開口する面に、アクリル系粘着剤を含む粘着剤層として、市販の両面粘着テープ(住友スリーエム社製、製品番号「KRE-19」)を貼り合わせた。そして、剥離強度を測定することによって、樹脂発泡シートと粘着剤との接着性を評価した。接着性は、JIS Z0237:2009「粘着テープ・粘着シート試験方法」に一部準拠して測定した。具体的には、樹脂発泡シートと粘着剤層とを貼り合わせた後に、粘着剤層を有するシートを幅19mm、長さ150mmに裁断し、裁断したシートに対して質量2kgのゴムローラを1往復させて樹脂発泡シートと粘着剤層とを圧着させ、温度23℃、湿度50%の条件下に30分静置して、試験片とした。このような試験片を用いて、オリエンテック社製テンシロン万能試験機UCT-500にて、樹脂発泡シートと粘着剤層との間で180度剥離試験を行ない、剥離強度を測定した。評価結果は、以下のように示す。
A:剥離強度が5N以上。
B:剥離強度が3N以上、5N未満。
C:剥離強度が3N未満。
【0064】
(総合評価)
スライス加工性の評価結果と、接着性の評価結果とに基づいて、総合評価を行なった。評価結果は、以下のように示す。
A:スライス加工性の評価結果と接着性の評価結果の双方が「A」
B:上記「A」以外であって、スライス加工性の評価結果と接着性の評価結果のうちのいずれも「C」ではない。
C:スライス加工性の評価結果と接着性の評価結果のうちの少なくとも一方が「C」である。
【0065】
以下では、実施例1~12、および比較例1~14について説明する。各試料の組成、加工方法、物性、および評価結果を、表1-表4にまとめて示す。表1では、実施例1-8について示し、表2では、実施例9-12について示し、表3では、比較例1-9について示し、表4では、比較例10-14について示す。また、表1-4では、加工方法に関して、「加熱・圧縮・延伸工程」を、単に、「延伸工程」と記載している。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
[実施例1]
ポリオレフィン系樹脂として、エチレン-酢酸ビニル共重合体(密度:0.936g/cm3、MFR:1.5g/10分、酢酸ビニル含有量:15質量%。東ソー社製「ウルトラセン630」。EVAと表わす)を用い、滑剤として、ヒドロキシ脂肪酸アミドを用いた。上記ポリオレフィン系樹脂100質量部に、滑剤0.06質量部と、二酸化珪素0.006質量部とを配合した。さらに、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、発泡剤としてアゾジカルボンアミドを含むペレット(永和化成工業社製「パンスレンH7330」)5.4質量部、熱安定剤(BASFジャパン株式会社製「イルガノックス1010」)0.11質量部、顔料としてカーボンブラック1.7質量部を配合した。これらの材料を、ヘンシェルミキサーにて混合し、スクリュ直径60mmの押出機に投入し、シリンダー内温度が160℃となるように温度調節した状態で溶融・混練した後、押出成形により、厚さ0.65mmのポリオレフィン系樹脂シートを作製した。
【0071】
このようにして得られたポリオレフィン系樹脂シートに、加速電圧800kVにて、所定の吸収線量の電子線を両面から照射して架橋シートを得た後、この架橋シートを235℃に設定した塩浴上に浮かべ、上方から赤外線ヒータで加熱し、発泡させた。その後、得られた発泡シートを50℃の水で冷却し、発泡シート表面を水洗して乾燥させ、厚さが1.1mm、密度が155kg/m3、ゲル分率が38%の、両面にスキン面を有する発泡体の長尺ロールを得た。得られた発泡体の長尺ロールを、スプリッティングマシンにより、厚み方向に垂直な方向にスライスした(スライス工程)。その結果、厚さが0.55mmであり、一方の面がスキン面であり、他方の面であるスライス面において気泡断面が開口する長尺ロール発泡体を得た。スライスされた長尺ロール発泡体のスライス面を、赤外線ヒータにより150℃~180℃で加熱し(加熱工程)、間隙0.1mmのニップロールを用いて上記発泡体を厚み方向に圧縮しながら、MD方向に140%に延伸した(圧縮・延伸工程)。その結果、ポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートを得た。得られたポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートを、既述した評価方法に従って評価した。
【0072】
[実施例2-8]
ポリオレフィン系樹脂、ヒドロキシ脂肪酸アミド、二酸化珪素、発泡剤、熱安定剤、および顔料に係る組成、並びに、MD方向の延伸率などを表1に記載の通り実施した以外は、実施例1と同様にして作製した。
【0073】
[実施例9]
ポリオレフィン系樹脂として、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(密度:0.930g/cm3、MFR:6.0g/10分、アクリル酸エチル含有量:15質量%。デュポン社製「エルバロイAC2615」。EEAと表わす)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして作製した。
【0074】
[実施例10]
ヒドロキシ脂肪酸アミドおよび二酸化珪素の含有量を、表2の通りとしたこと以外は、実施例9と同様にして作製した。
【0075】
[実施例11]
架橋工程における照射線量を異ならせたこと以外は、実施例6と同様にして作製した。
【0076】
[実施例12]
加熱工程における加熱の対象となる面を、スキン面としたこと以外は、実施例6と同様にして作製した。
【0077】
[比較例1-9]
ポリオレフィン系樹脂、ヒドロキシ脂肪酸アミド、二酸化珪素、発泡剤、熱安定剤、および顔料に係る組成、並びに、MD方向の延伸率などを表1に記載の通り実施した以外は、実施例1と同様にして作製した。
【0078】
[比較例10-14]
ポリオレフィン系樹脂として、実施例9,10と同様のエチレン-アクリル酸エチル共重合体を用い、ポリオレフィン系樹脂、ヒドロキシ脂肪酸アミド、二酸化珪素、発泡剤、熱安定剤、および顔料に係る組成、並びに、MD方向の延伸率などを表1に記載の通り実施した以外は、実施例1と同様にして作製した。
【0079】
表1-4に示されるように、少なくとも一方の面において気泡断面が開口するポリオレフィン系樹脂架橋発泡シートにおいて、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.05質量部以上0.5質量部以下の滑剤と、0.005質量部以上0.05質量部以下の二酸化珪素と、を含有する構成とすることで、優れたスライス加工性および接着性を示すことが確認された。また、実施例6と実施例11との比較結果より、ゲル分率を35%以上とすることで、気泡断面が開口する面の平均気泡径を400μm以下とし、表面粗さRaの値を5μm以下とすることが容易となり、スライス加工性および接着性が向上することが確認された。また、実施例6と実施例12との比較結果より、加熱・圧縮・延伸工程における加熱の対象を、気泡断面が開口する面とすることで、気泡断面が開口する面の表面粗さRaの値を5μm以下とすることが容易になり、接着性が向上することが確認された。