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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/00 20160101AFI20230214BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20230214BHJP
   H02P 25/22 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
H02P29/00
B62D6/00
H02P25/22
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018208146
(22)【出願日】2018-11-05
(65)【公開番号】P2020078107
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】藤 公志
(72)【発明者】
【氏名】三鴨 悟
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 智宏
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-106874(JP,A)
【文献】特開2018-153070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/00
B62D 6/00
H02P 25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータが有する複数系統の巻線群に対する給電を系統ごとに独立して制御する系統数と同数の制御回路と、
複数の前記制御回路により各々生成される各系統の状態を示す状態信号を複数の前記制御回路の間で授受する通信線と、
複数の前記制御回路により各々生成される正常動作を示す周期パルス信号を複数の前記制御回路の間で授受する信号線と、を有し、
前記制御回路は、前記通信線を通じた通信の成否、および前記信号線を通じて取得される他系統の前記周期パルス信号の正否の組み合わせに基づき、前記通信線を通じた通信が異常なのか、他系統の前記制御回路の機能が停止しているのかを判定するように構成され、
前記通信線および前記信号線は、それぞれ複数設けられていることを前提として、
前記制御回路は、複数の前記通信線のいずれか1つを通じた通信が成立、かつ前記信号線を通じて取得される他系統の前記周期パルス信号が異常であるとき、当該異常を示す前記周期パルス信号を伝送する前記信号線の異常である旨判定し、自己の動作を停止するように構成されるモータ制御装置。
【請求項2】
前記制御回路は、前記通信線を通じた通信が不成立、かつ前記信号線を通じて取得される他系統の前記周期パルス信号が正常であるとき、前記通信線を通じた通信が異常である旨判定する請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記制御回路は、前記通信線を通じた通信が不成立、かつ前記信号線を通じて取得される他系統の前記周期パルス信号が異常であるとき、他系統の前記制御回路の機能が停止している旨判定する請求項1または請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
記制御回路は、複数の前記通信線のいずれか1つを通じた通信が不成立、かつ前記信号線を通じて取得される他系統の前記周期パルス信号が正常であるとき、複数の前記通信線のいずれか1つを通じた通信の異常である旨判定する請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の操舵機構に付与されるアシストトルクの発生源であるモータを制御する制御装置が知られている。たとえば特許文献1の制御装置は、2系統の巻線を有するモータに対する給電を制御する。制御装置は、2系統の巻線にそれぞれ対応する2組の駆動回路および制御システムを有している。各制御システムは、各駆動回路の制御を通じて各系統の巻線に対する給電を独立して制御する。
【0003】
各系統の制御システムは、マイクロコンピュータを有している。各系統のマイクロコンピュータの一方はマスター、他方はスレーブとして機能する。各系統のマイクロコンピュータは、自己系統の異常を示す情報を互いに授受する。マスターとして機能するマイクロコンピュータに異常が発生した場合、これまでスレーブとして機能していたマイクロコンピュータがマスターとして機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-103899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の制御装置において、第1のマイクロコンピュータおよび第2のマイクロコンピュータは、これらの異常を検出するなかで、原因が異なるものの結果的に同じ異常として検出することが懸念される。たとえば第1のマイクロコンピュータは、第2のマイクロコンピュータが機能停止した場合と、第2のマイクロコンピュータとの間の通信が不成立となった場合とでは、いずれの場合も第2のマイクロコンピュータとの間の通信異常として検出する。また、第2のマイクロコンピュータは、第1のマイクロコンピュータが機能停止した場合と、第1のマイクロコンピュータとの間の通信が不成立となった場合とでは、いずれの場合も第1のマイクロコンピュータとの間の通信異常として検出する。これは、第1のマイクロコンピュータあるいは第2のマイクロコンピュータが機能停止した場合においても、第1のマイクロコンピュータと第2のマイクロコンピュータとの間の通信が不成立となるからである。このように、第1のマイクロコンピュータおよび第2のマイクロコンピュータは、通信異常の原因を特定できないおそれがあった。
【0006】
本発明の目的は、複数の制御回路の間における通信の異常原因を特定することができるモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成し得るモータ制御装置は、モータが有する複数系統の巻線群に対する給電を系統ごとに独立して制御する系統数と同数の制御回路と、複数の前記制御回路により各々生成される各系統の状態を示す状態信号を前記制御回路の間で授受する複数の通信線と、複数の前記制御回路により各々生成される正常動作を示す周期パルス信号を複数の前記制御回路の間で授受する信号線と、を有している。前記制御回路は、前記通信線を通じた通信の成否、および前記信号線を通じて取得される他系統の前記周期パルス信号の正否の組み合わせに基づき、前記通信線を通じた通信が異常なのか、他系統の前記制御回路の機能が停止しているのかを判定する。
【0008】
通信線を通じた通信が不成立である場合であれ、通信相手である他系統の制御回路が機能停止した場合であれ、制御回路と他系統の制御回路との間の通信は異常な状態となるところ、上記の構成によれば、複数の制御回路の間における通信の異常原因を特定することができる。たとえば通信線を通じた通信が成立しない場合であれ、他系統の周期パルス信号が正常であるときには、当該他系統の制御回路は動作しているといえる。このため、他系統の制御回路は機能を停止した状態ではなく、通信線を通じた通信が異常であることが分かる。このように、制御回路は、通信線を通じた通信の成否、および信号線を通じて取得される他系統の周期パルス信号の正否の組み合わせに基づき、通信線を通じた通信が異常なのか、他系統の制御回路の機能が停止しているのかを切り分けて判定することができる。
【0009】
上記のモータ制御装置において、前記制御回路は、前記通信線を通じた通信が不成立、かつ前記信号線を通じて取得される他系統の前記周期パルス信号が正常であるとき、前記通信線を通じた通信が異常である旨判定することが好ましい。
【0010】
この構成によるように、通信線を通じた通信が不成立である場合であれ、信号線を通じて取得される他系統の周期パルス信号が正常であるときには、当該他系統の制御回路は動作しているといえる。このため、他系統の制御回路は機能を停止した状態ではなく、通信線を通じた通信が異常であることが分かる。
【0011】
上記のモータ制御装置において、前記制御回路は、前記通信線を通じた通信が不成立、かつ前記信号線を通じて取得される他系統の前記周期パルス信号が異常であるとき、他系統の前記制御回路の機能が停止している旨判定することが好ましい。
【0012】
通信相手である他系統の制御回路の機能が停止した場合、通信線を通じた通信が不成立となる。また、機能が停止した他系統の制御回路により生成される周期パルス信号も異常を示す。したがって、上記の構成によるように、通信線を通じた通信が不成立であって、しかも信号線を通じて取得される他系統の周期パルス信号が異常であれば、他系統の制御回路の機能は停止しているといえる。
【0013】
上記のモータ制御装置において、前記通信線および前記信号線は、それぞれ複数設けられていることを前提として、前記制御回路は、複数の前記通信線のいずれか1つを通じた通信が不成立、かつ前記信号線を通じて取得される他系統の前記周期パルス信号が正常であるとき、複数の前記通信線のいずれか1つを通じた通信の異常である旨判定することが好ましい。
【0014】
この構成によるように、複数の通信線のいずれか1つを通じた通信が不成立である場合であれ、信号線を通じて取得される他系統の周期パルス信号が正常であるときには、当該他系統の制御回路は動作しているといえる。このため、他系統の制御回路は機能を停止した状態ではなく、複数の通信線のいずれか1つを通じた通信の異常であることが分かる。
【0015】
上記のモータ制御装置において、前記通信線および前記信号線は、それぞれ複数設けられていることを前提として、前記制御回路は、複数の前記通信線のいずれか1つを通じた通信が成立、かつ前記信号線を通じて取得される他系統の前記周期パルス信号が異常であるとき、当該異常を示す前記周期パルス信号を伝送する前記信号線の異常である旨判定することが好ましい。
【0016】
通信相手である他系統の制御回路の機能が停止した場合、通信線を通じた通信がすべて不成立となる。したがって、上記の構成によるように、信号線を通じて取得される他系統の周期パルス信号が異常である場合であれ、複数の通信線のいずれか1つを通じた通信が成立している状態であれば、他系統の制御回路は機能を停止した状態ではなく、異常を示す周期パルス信号を伝送する信号線の異常であるといえる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のモータ制御装置によれば、複数の制御回路の間における通信の異常原因を特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】モータ制御装置の一実施の形態を示すブロック図。
図2】一実施の形態における第1のマイクロコンピュータの異常判定条件、判定結果である異常の内容、第1の制御部の動作状態、および第2の制御部の動作状態を示す一覧図。
図3】一実施の形態における第2のマイクロコンピュータの異常判定条件、判定結果である異常の内容、第1の制御部の動作状態、および第2の制御部の動作状態を示す一覧図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、モータ制御装置の一実施の形態を説明する。
図1に示すように、モータ制御装置としてのECU(電子制御ユニット)11は、モータ12の駆動を制御する。モータ12は、三相のブラシレスモータである。モータ12は、ロータ13、第1の巻線群14、第2の巻線群15、第1の回転角センサ16および第2の回転角センサ17を有している。第1の巻線群14および第2の巻線群15は、それぞれU相コイル、V相コイル、およびW相コイルを有している。第1の回転角センサ16および第2の回転角センサ17は、モータ12(ロータ13)の回転角θm1,θm2を検出する。
【0020】
ECU11とモータ12(第1の巻線群14、および第2の巻線群15)との間は、バスバーあるいはケーブルなどによって互いに接続されている。ECU11は、第1の巻線群14および第2の巻線群15に対する給電を系統ごとに制御する。ECU11は、第1の巻線群14に対する給電を制御する第1の制御部20、および第2の巻線群15に対する給電を制御する第2の制御部30を有している。
【0021】
第1の制御部20は、制御回路としての第1のマイクロコンピュータ21、および第1のインバータ22を有している。
第1のマイクロコンピュータ21は、第1のクロック生成部21aを有している。第1のクロック生成部21aは、ECU11に設けられる図示しない水晶発振器から取り込む基本周波数のクロックに基づき、第1のクロックSCL1を生成する。第1のクロックSCL1は、第1のマイクロコンピュータ21の各部(CPUおよびその周辺回路)の動作タイミングを規定するためのクロック信号である。また、第1のクロックSCL1は、第1のマイクロコンピュータ21が正常に動作していることを示す周期パルス信号でもある。第1のクロックSCL1は、一定周期でハイレベルの電圧とローレベルの電圧とを交互に繰り返す。
【0022】
第1のマイクロコンピュータ21は、第1の巻線群14に対して供給すべき電流の目標値である第1の電流指令値を演算する。第1の電流指令値は、モータ12に要求されるトータルとしての発生トルクの半分を第1の巻線群14により発生させるために必要とされる電流量の半分(50%)の値に設定される。第1のマイクロコンピュータ21は、第1の巻線群14に供給される実際の電流の値を第1の電流指令値に追従させる電流フィードバック制御を実行することにより、第1のインバータ22に対する指令信号S1(PWM信号)を生成する。第1のマイクロコンピュータ21は、第1の回転角センサ16を通じて検出されるモータ12(ロータ13)の回転角θm1を使用して第1の巻線群14に対する通電を制御する。
【0023】
第1のインバータ22は、PWM方式の三相インバータであって、第1のマイクロコンピュータ21により生成される指令信号S1に基づいて各相のスイッチング素子がスイッチングすることにより、直流電源から供給される直流電力を三相交流電力に変換する。第1のインバータ22を通じて指令信号S1に応じた電流が第1の巻線群14に供給される。
【0024】
第2の制御部30は、基本的に第1の制御部20と同様の構成を有している。すなわち、第2の制御部30は、制御回路としての第2のマイクロコンピュータ31、および第2のインバータ32を有している。
【0025】
第2のマイクロコンピュータ31は、第2のクロック生成部31aを有している。第2のクロック生成部31aは、ECU11に設けられる図示しない水晶発振器から取り込む基本周波数のクロックに基づき、第2のクロックSCL2を生成する。第2のクロックSCL2は、第2のマイクロコンピュータ31の各部(CPUおよびその周辺回路)の動作タイミングを規定するためのクロック信号である。また、第2のクロックSCL2は、第2のマイクロコンピュータ31が正常に動作していることを示す周期パルス信号でもある。
【0026】
第2のマイクロコンピュータ31は、第2の巻線群15に対して供給すべき電流の目標値である第2の電流指令値を演算する。第2の電流指令値は、モータ12に要求されるトータルとしての発生トルクの半分を第2の巻線群15により発生させるために必要とされる電流量の半分(50%)の値に設定される。第2のマイクロコンピュータ31は、第2の巻線群15に供給される実際の電流の値を第2の電流指令値に追従させる電流フィードバック制御を実行することにより、第2のインバータ32に対する指令信号S2(PWM信号)を生成する。第2のマイクロコンピュータ31は、第2の回転角センサ17を通じて検出されるモータ12(ロータ13)の回転角θm2を使用して第2の巻線群15に対する通電を制御する。第2のインバータ32を通じて指令信号S2に応じた電流が第2の巻線群15に供給される。
【0027】
第1のマイクロコンピュータ21および第2のマイクロコンピュータ31は、第1の通信線41および第2の通信線42を介して相互にデジタル信号の授受を行う。第1のマイクロコンピュータ21と第2のマイクロコンピュータ31との間で行われる第1の通信線41および第2の通信線42を通じた通信の規格としては、たとえば同期式のシリアル通信の規格の一種であるSPI(Serial Peripheral Interface)が採用される。また、第1のマイクロコンピュータ21および第2のマイクロコンピュータ31は、それぞれ自己および自己の属する系統の異常を検出する機能を有している。
【0028】
第1のマイクロコンピュータ21は、デジタル信号として自己の属する第1の系統の状態を示す第1の状態信号Sd1を生成し、この生成される第1の状態信号Sd1を第1の通信線41および第2の通信線42を介して第2のマイクロコンピュータ31へ供給する。第1の状態信号Sd1には、第1の系統の異常発生状態、第1の系統の動作状態および第1の巻線群14による発生トルクが含まれる。第1の系統の異常発生状態には、たとえば第1のマイクロコンピュータ21、第1のインバータ22、および第1の回転角センサ16の異常の有無が含まれる。第1の系統の動作状態には、第1のマイクロコンピュータ21が第1の巻線群14に対する給電制御を実行することができる状態、および電源電圧の低下などに起因して第1の巻線群14に対する給電制御を実行することができない状態の2つの状態がある。発生トルクは、第1の巻線群14が発生するトルクの程度であって、第1の巻線群14に対して供給される電流の目標値である電流指令値に対応する。
【0029】
第2のマイクロコンピュータ31は、第1のマイクロコンピュータ21と同様に、デジタル信号として自己の属する第2の系統の状態を示す第2の状態信号Sd2を生成し、この生成される第2の状態信号Sd2を第1の通信線41および第2の通信線42を介して第1のマイクロコンピュータ21へ供給する。
【0030】
第1のマイクロコンピュータ21は、第2の状態信号Sd2を通じて第2の系統による第2の巻線群15に対する給電制御を実行することができない状態である旨認識されるとき、第1の巻線群14に対して第1の給電制御または第2の給電制御を実行する。第1の給電制御とは、2系統駆動を実行する通常時の給電制御であって、モータ12に要求されるトータルとしての発生トルクの半分を第1の巻線群14により発生するトルクで賄うための給電制御をいう。第2の給電制御とは、モータ12に要求されるトータルとしての発生トルクを第1の巻線群14により発生するトルクですべて賄うための給電制御をいう。第2の給電制御を実行する場合、第1の巻線群14に対する電流指令値は、2系統駆動を実行する通常時の2倍の値に設定される。
【0031】
第2のマイクロコンピュータ31も、第1の状態信号Sd1を通じて第1の系統による第1の巻線群14に対する給電制御を実行することができない状態である旨認識されるとき、第1のマイクロコンピュータ21と同様に、第2の巻線群15に対して第1の給電制御または第2の給電制御を実行する。
【0032】
このように、モータ12における2系統の巻線群に対する給電を独立して制御することにより、一方系統に異常が発生した場合であれ、他方系統の巻線群への給電を通じてモータ12を継続して回転させることができる。
【0033】
第1のマイクロコンピュータ21および第2のマイクロコンピュータ31は、第1の信号線43および第2の信号線44を介して相互に第1のクロックSCL1および第2のクロックSCL2の授受を行う。第1のマイクロコンピュータ21および第2のマイクロコンピュータ31は、第1の状態信号Sd1、第2の状態信号Sd2、第1のクロックSCL1、第2のクロックSCL2に基づき、相互に監視を行う。ここで、第1のマイクロコンピュータ21および第2のマイクロコンピュータ31のいずれか一方が機能停止した場合、機能停止したマイクロコンピュータにより生成される第1のクロックSCL1または第2のクロックSCL2が異常を示すとともに、第1の通信線41および第2の通信線42を介した通信がすべて途絶する。このことを利用して、第1のマイクロコンピュータ21および第2のマイクロコンピュータ31は、通信相手のマイクロコンピュータとの間における単なる通信異常なのか、通信相手のマイクロコンピュータの機能が停止したのかを判定する。
【0034】
図2に示すように、第1のマイクロコンピュータ21は、つぎの(A)~(E)の異常を検出する。
(A)第2のマイクロコンピュータ31の機能停止
(B)第2の信号線44の異常(オープン故障を含む)
(C)第1の通信異常(第1の通信線41および第2の通信線42の双方の異常)
(D)第2の通信異常(第2の通信線42の異常)
(E)第3の通信異常(第1の通信線41の異常)
異常(A)~(E)の具体的な検出方法は、つぎの通りである。
【0035】
<異常(A)>
第1のマイクロコンピュータ21は、つぎの判定条件(A1)~(A3)のすべてが同時に成立するとき、第2のマイクロコンピュータ31の機能が停止している旨判定する。
【0036】
(A1)第1の通信線41を通じた通信が不成立であること。
(A2)第2の通信線42を通じた通信が不成立であること。
(A3)第2のクロックSCL2が異常(取得不能を含む。)であること。
【0037】
第1の通信線41を通じた通信、および第2の通信線42を通じた通信の双方が不成立であって、しかも第2のクロックSCL2が異常である場合、第2のマイクロコンピュータ31はその機能が停止した状態である蓋然性が高い。このため、正常に動作している第1のマイクロコンピュータ21のみでモータ12(第1の巻線群14)に対する給電制御が実行される。すなわち、ECU11において、第2のマイクロコンピュータ31を含む第2の制御部30はその動作を停止した状態であるものの、第1のマイクロコンピュータ21を含む第1の制御部20は正常動作を継続する。
【0038】
<異常(B)>
第1のマイクロコンピュータ21は、つぎの判定条件(B1),(B1)のすべてが同時に成立するとき、第2の信号線44に異常が発生している旨判定する。
【0039】
(B1)第1の通信線41を通じた通信および第2の通信線42を通じた通信の少なくとも一方が成立すること。
(B2)第2のクロックSCL2が異常(取得不能を含む。)であること。
【0040】
第2のマイクロコンピュータ31が機能停止している場合、第1の通信線41を通じた通信および第2の通信線42を通じた通信の双方が不成立となる。このため、第1の通信線41を通じた通信および第2の通信線42を通じた通信の少なくとも一方が成立するとき、第2のマイクロコンピュータ31はその機能が停止した状態ではなく動作している状態である。したがって、第1の通信線41を通じた通信および第2の通信線42を通じた通信の少なくとも一方が成立しているにもかかわらず、第2のクロックSCL2が異常である場合、第2の信号線44に異常が発生している蓋然性が高い。たとえば第2のクロックSCL2の異常状態として、第2のクロックSCL2が取得できない状態である場合、第2の信号線44のオープン故障(断線)が発生しているおそれがある。
【0041】
第1のマイクロコンピュータ21は、第2の信号線44に異常が発生している旨判定されるとき、自己の動作を停止する。これは、第2のクロックSCL2が異常(取得不能を含む。)となった以降、第1のマイクロコンピュータ21は、第2のマイクロコンピュータ31との間の単なる通信異常であるのか、第2のマイクロコンピュータ31の機能が停止しているのかを判定することができないからである。したがって、第2の信号線44に異常が発生した場合、第2のマイクロコンピュータ31のみによってモータ12(第2の巻線群15)に対する給電制御が実行される。すなわち、ECU11において、第1のマイクロコンピュータ21を含む第1の制御部20はその動作を停止する一方、第2のマイクロコンピュータ31を含む第2の制御部30は正常動作を継続する。
【0042】
<異常(C)>
第1のマイクロコンピュータ21は、つぎの判定条件(C1)~(C3)のすべてが同時に成立するとき、第1の通信異常が発生している旨判定する。第1の通信異常とは、第1の通信線41および第2の通信線42の双方が異常である状態をいう。
【0043】
(C1)第1の通信線41を通じた通信が不成立であること。
(C2)第2の通信線42を通じた通信が不成立であること。
(C3)第2のクロックSCL2が正常であること。
【0044】
第1の通信線41を通じた通信、および第2の通信線42を通じた通信の双方が不成立である場合であれ、第2のクロックSCL2が正常であるときには、第1の通信線41および第2の通信線42に異常が発生しているだけであって、第2のマイクロコンピュータ31は正常に動作している。しかしここでは、製品仕様などによるものの、第1の通信異常が発生した場合、第1のマイクロコンピュータ21を第2のマイクロコンピュータ31に優先して動作させる。したがって、第1の通信異常が発生した場合、正常に動作している第1のマイクロコンピュータ21のみでモータ12(第1の巻線群14)に対する給電制御が実行される。すなわち、ECU11において、第1のマイクロコンピュータ21を含む第1の制御部20は正常動作を継続する一方、第2のマイクロコンピュータ31を含む第2の制御部30はその動作を停止する。
【0045】
ちなみに、製品仕様などによっては、第1の通信異常が発生した場合、第2のマイクロコンピュータ31を第1のマイクロコンピュータ21に優先して動作させる構成が採用されることもある。この場合、第1の通信異常が発生したとき、第2のマイクロコンピュータ31のみでモータ12(第2の巻線群15)に対する給電制御が実行される。
【0046】
<異常(D)>
第1のマイクロコンピュータ21は、つぎの判定条件(D1)~(D3)のすべてが同時に成立するとき、第2の通信異常が発生している旨判定する。第2の通信異常とは、第2の通信線42が異常である状態をいう。
【0047】
(D1)第1の通信線41を通じた通信が成立していること。
(D2)第2の通信線42を通じた通信が不成立であること。
(D3)第2のクロックSCL2が正常であること。
【0048】
第2の通信線42を通じた通信が不成立であっても、第1の通信線41を通じた通信が成立していること、および第2のクロックSCL2が正常であることから、第2のマイクロコンピュータ31は正常に動作している。ただし、第1のマイクロコンピュータ21は、第2の通信異常が発生した旨判定されるとき、自己の動作を停止する。これは、第2の通信線42が異常となった以降、第1のマイクロコンピュータ21は第2の状態信号Sd2を取得することができないからである。したがって、第2の通信異常が発生した場合、正常に動作している第2のマイクロコンピュータ31のみによってモータ12(第2の巻線群15)に対する給電制御が実行される。すなわち、ECU11において、第1のマイクロコンピュータ21を含む第1の制御部20はその動作を停止する一方、第2のマイクロコンピュータ31を含む第2の制御部30は正常動作を継続する。
【0049】
<異常(E)>
第1のマイクロコンピュータ21は、つぎの判定条件(E1)~(E3)のすべてが同時に成立するとき、第3の通信異常が発生している旨判定する。第3の通信異常とは、第1の通信線41が異常である状態をいう。
【0050】
(E1)第1の通信線41を通じた通信が不成立であること。
(E2)第2の通信線42を通じた通信が成立していること。
(E3)第2のクロックSCL2が正常であること。
【0051】
第1の通信線41を通じた通信が不成立であっても、第2の通信線42を通じた通信が成立していること、および第2のクロックSCL2が正常であることから、第2のマイクロコンピュータ31は正常に動作している。ただし後述するように、第2のマイクロコンピュータ31も第1のマイクロコンピュータ21と同様の異常検出機能を有している。そして第2のマイクロコンピュータ31は、第3の通信異常が発生した旨判定されるとき、自己の動作を停止する。これは、第1の通信線41が異常となった以降、第2のマイクロコンピュータ31は第1の状態信号Sd1を取得することができないからである。したがって、第3の通信異常が発生した場合、正常に動作している第1のマイクロコンピュータ21のみによってモータ12(第1の巻線群14)に対する給電制御が実行される。すなわち、ECU11において、第1のマイクロコンピュータ21を含む第1の制御部20は正常動作を継続する一方、第2のマイクロコンピュータ31を含む第2の制御部30はその動作を停止する。
【0052】
図3に示すように、第2のマイクロコンピュータ31は、つぎの(F)~(J)の異常を検出する。
(F)第1のマイクロコンピュータ21の機能停止
(G)第1の信号線43の異常(オープン故障を含む)
(H)第1の通信異常(第1の通信線41および第2の通信線42の双方の異常)
(I)第2の通信異常(第2の通信線42の異常)
(J)第3の通信異常(第1の通信線41の異常)
異常(F)~(J)の具体的な検出方法は、つぎの通りである。
【0053】
<異常(F)>
第2のマイクロコンピュータ31は、つぎの判定条件(F1)~(F3)のすべてが同時に成立するとき、第1のマイクロコンピュータ21の機能が停止している旨判定する。
【0054】
(F1)第1の通信線41を通じた通信が不成立であること。
(F2)第2の通信線42を通じた通信が不成立であること。
(F3)第1のクロックSCL1が異常(取得不能を含む。)であること。
【0055】
第1の通信線41を通じた通信、および第2の通信線42を通じた通信の双方が不成立であって、しかも第1のクロックSCL1が異常である場合、第1のマイクロコンピュータ21はその機能が停止した状態である蓋然性が高い。このため、正常に動作している第2のマイクロコンピュータ31のみでモータ12(第2の巻線群15)に対する給電制御が実行される。すなわち、ECU11において、第1のマイクロコンピュータ21を含む第1の制御部20はその動作を停止した状態であるものの、第2のマイクロコンピュータ31を含む第2の制御部30は正常動作を継続する。
【0056】
<異常(G)>
第2のマイクロコンピュータ31は、つぎの判定条件(G1),(G1)のすべてが同時に成立するとき、第1の信号線43に異常が発生している旨判定する。
【0057】
(G1)第1の通信線41を通じた通信および第2の通信線42を通じた通信の少なくとも一方が成立すること。
(G2)第1のクロックSCL1が異常(取得不能を含む。)であること。
【0058】
第1のマイクロコンピュータ21が機能停止している場合、第1の通信線41を通じた通信および第2の通信線42を通じた通信の双方が不成立となる。このため、第1の通信線41を通じた通信および第2の通信線42を通じた通信の少なくとも一方が成立するとき、第1のマイクロコンピュータ21はその機能が停止した状態ではなく動作している状態である。したがって、第1の通信線41を通じた通信および第2の通信線42を通じた通信の少なくとも一方が成立しているにもかかわらず、第1のクロックSCL1が異常である場合、第1の信号線43に異常が発生している蓋然性が高い。たとえば第1のクロックSCL1の異常状態として、第1のクロックSCL1が取得できない状態である場合、第1の信号線43のオープン故障(断線)が発生しているおそれがある。
【0059】
第2のマイクロコンピュータ31は、第1の信号線43に異常が発生している旨判定されるとき、自己の動作を停止する。これは、第1のクロックSCL1が異常(取得不能を含む。)となった以降、第2のマイクロコンピュータ31は、第1のマイクロコンピュータ21との間の単なる通信異常であるのか、第1のマイクロコンピュータ21の機能が停止しているのかを判定することができないからである。したがって、第1の信号線43に異常が発生した場合、第1のマイクロコンピュータ21のみによってモータ12(第1の巻線群14)に対する給電制御が実行される。すなわち、ECU11において、第1のマイクロコンピュータ21を含む第1の制御部20は正常動作を継続する一方、第2のマイクロコンピュータ31を含む第2の制御部30はその動作を停止する。
【0060】
<異常(H)>
第2のマイクロコンピュータ31は、つぎの判定条件(H1)~(H3)のすべてが同時に成立するとき、第1の通信異常が発生している旨判定する。第1の通信異常とは、第1の通信線41および第2の通信線42の双方が異常である状態をいう。
【0061】
(H1)第1の通信線41を通じた通信が不成立であること。
(H2)第2の通信線42を通じた通信が不成立であること。
(H3)第1のクロックSCL1が正常であること。
【0062】
第1の通信線41を通じた通信、および第2の通信線42を通じた通信の双方が不成立である場合であれ、第1のクロックSCL1が正常であるときには、第1の通信線41および第2の通信線42に異常が発生しているだけであって、第1のマイクロコンピュータ21は正常に動作している。しかしここでは、製品仕様などによるものの、第1の通信異常が発生した場合、第1のマイクロコンピュータ21を第2のマイクロコンピュータ31に優先して動作させる。このため、第2のマイクロコンピュータ31は、第1の通信異常が発生した旨判定されるとき、自己の動作を停止する。したがって、第1の通信異常が発生した場合、正常に動作している第1のマイクロコンピュータ21のみでモータ12(第1の巻線群14)に対する給電制御が実行される。すなわち、ECU11において、第1のマイクロコンピュータ21を含む第1の制御部20は正常動作を継続する一方、第2のマイクロコンピュータ31を含む第2の制御部30はその動作を停止する。
【0063】
ちなみに、製品仕様などによっては、第1の通信異常が発生した場合、第2のマイクロコンピュータ31を第1のマイクロコンピュータ21に優先して動作させる構成が採用されることもある。この場合、第1の通信異常が発生したとき、第2のマイクロコンピュータ31のみでモータ12(第2の巻線群15)に対する給電制御が実行される。
【0064】
<異常(I)>
第2のマイクロコンピュータ31は、つぎの判定条件(I1)~(I3)のすべてが同時に成立するとき、第2の通信異常が発生している旨判定する。第2の通信異常とは、第2の通信線42が異常である状態をいう。
【0065】
(I1)第1の通信線41を通じた通信が成立していること。
(I2)第2の通信線42を通じた通信が不成立であること。
(I3)第1のクロックSCL1が正常であること。
【0066】
第2の通信線42を通じた通信が不成立であっても、第1の通信線41を通じた通信が成立していること、および第1のクロックSCL1が正常であることから、第1のマイクロコンピュータ21は正常に動作している。しかし前述したように、第1のマイクロコンピュータ21は、第2の異常が発生した旨判定されるとき、自己の動作を停止する。これは、第2の通信線42が異常となった以降、第1のマイクロコンピュータ21は第2の状態信号Sd2を取得することができないからである。したがって、第2の通信異常が発生した場合、正常に動作している第2のマイクロコンピュータ31のみによってモータ12(第2の巻線群15)に対する給電制御が実行される。すなわち、ECU11において、第1のマイクロコンピュータ21を含む第1の制御部20はその動作を停止する一方、第2のマイクロコンピュータ31を含む第2の制御部30は正常動作を継続する。
【0067】
<異常(J)>
第2のマイクロコンピュータ31は、つぎの判定条件(J1)~(J3)のすべてが同時に成立するとき、第3の通信異常が発生している旨判定する。第3の通信異常とは、第1の通信線41が異常である状態をいう。
【0068】
(E1)第1の通信線41を通じた通信が不成立であること。
(E2)第2の通信線42を通じた通信が成立していること。
(E3)第1のクロックSCL1が正常であること。
【0069】
第1の通信線41を通じた通信が不成立であっても、第2の通信線42を通じた通信が成立していること、および第1のクロックSCL1が正常であることから、第1のマイクロコンピュータ21は正常に動作している。ただし、第2のマイクロコンピュータ31は、第3の通信異常が発生した旨判定されるとき、自己の動作を停止する。これは、第1の通信線41が異常となった以降、第2のマイクロコンピュータ31は第1の状態信号Sd1を取得することができないからである。したがって、第3の通信異常が発生した場合、正常に動作している第1のマイクロコンピュータ21のみによってモータ12(第1の巻線群14)に対する給電制御が実行される。すなわち、ECU11において、第1のマイクロコンピュータ21を含む第1の制御部20は正常動作を継続する一方、第2のマイクロコンピュータ31を含む第2の制御部30はその動作を停止する。
【0070】
したがって、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)第1のマイクロコンピュータ21は、第1の通信線41を通じた通信の成否、第2の通信線42を通じた通信の成否、および第2のクロックSCL2の正否の組み合わせに基づき、通信異常の原因(真の異常内容)を特定することができる。具体的には、第1のマイクロコンピュータ21は、第2のマイクロコンピュータ31との間の通信異常が単なる第1の通信線41および第2の通信線42の異常によるものなのか、第2のマイクロコンピュータ31の機能停止によるものなのかを切り分けて判定することができる。また、第2のマイクロコンピュータ31も第1のマイクロコンピュータ21と同様にして、第1の通信線41を通じた通信の成否、第2の通信線42を通じた通信の成否、および第1のクロックSCL1の正否の組み合わせに基づき、通信異常の原因(真の異常内容)を特定することができる。具体的には、第2のマイクロコンピュータ31は、第1のマイクロコンピュータ21との間の通信異常が単なる第1の通信線41および第2の通信線42の異常によるものなのか、第1のマイクロコンピュータ21の機能停止によるものなのかを切り分けて判定することができる。したがって、第1のマイクロコンピュータ21および第2のマイクロコンピュータ31は、相互の通信異常の原因を特定することができる。
【0071】
なお、通信線(41,42)を通じた通信の成否とは、通信線を通じた通信が成立するかどうか(信号の授受が正しく行われているかどうか)の判定結果をいう。マイクロコンピュータ(21,31)間の通信が不成立となる原因としては、たとえばマイクロコンピュータの異常、通信線の異常(断線、短絡)、あるいは電磁ノイズなどがある。また、クロック(SCL1,SCL2)の正否とは、クロックが正しいものであるかどうかの判定結果をいう。たとえばクロックのパルスパターンが定められたパターンであれば、クロックは正常である旨判定される。クロックのパルスパターンが定められたパターンと異なる異常パターンを示すとき、クロックは異常である旨判定される。クロックの異常には、クロックの途絶が含まれる。また、通信の異常とは、マイクロコンピュータ(21,31)は正しく動作しているものの、通信線に断線あるいは短絡などの異常が発生することに起因してマイクロコンピュータ間の通信線を通じた通信(信号の授受)が正しく行われない状態(通信が不成立となる状態)をいう。また、マイクロコンピュータの機能とは、マイクロコンピュータが有する種々の役割をいい、たとえば外部の機器との間で信号の授受を行う通信機能(入出力機能)、およびCPU(central processing unit)による演算機能(制御機能)などがある。マイクロコンピュータの機能停止とは、マイクロコンピュータが有する種々の機能の少なくとも一の動作が停止することをいう。マイクロコンピュータにおいて動作を停止する機能部分によっては、外部機器との間の通信(信号の授受)を行うことが困難となる。マイクロコンピュータの機能が停止する原因としては、たとえば電源電圧の低下、あるいはノイズなどが考えられる。
【0072】
(2)ECU11において、第1のマイクロコンピュータ21および第2のマイクロコンピュータ31は、通信異常の原因、すなわち真の異常内容を特定することができる。このため、ECU11は、より高い動作信頼性が要求される電動パワーステアリング装置、あるいはステアバイワイヤ式の操舵装置の制御装置として好適である。この場合、ECU11は、電動パワーステアリング装置の駆動源であるアシストモータ、あるいはステアバイワイヤ式の操舵装置における転舵機構の駆動源である転舵モータを制御する。アシストモータあるいは転舵モータとしては、本実施の形態と同様に、複数系統の巻線群を有するものが採用される。したがって、ECU11における第1のマイクロコンピュータ21および第2のマイクロコンピュータ31は、通信異常の原因(真の異常内容)に応じてアシストモータあるいは転舵モータに対する給電を継続すること、ひいては操舵アシストあるいは転舵動作を継続することができる。
【0073】
ちなみに、第1のマイクロコンピュータ21および第2のマイクロコンピュータ31として、それぞれ前述した通信異常の原因(真の異常内容)を特定する機能を持たない構成を採用した場合、つぎのようなことが懸念される。すなわち、第1のマイクロコンピュータ21および第2のマイクロコンピュータ31として、フェールセーフの観点から通信異常が検出された場合には即時にモータ(第1の巻線群14および第2の巻線群15)への給電を停止する構成を採用せざるを得ない状況も考えられる。
【0074】
(3)モータ12における2系統の巻線群(14,15)に対する給電を独立して制御することにより、一方系統に異常が発生した場合であれ、他方系統の巻線群への給電を通じてモータ12を回転させることができる。またこの場合、正常系統のマイクロコンピュータが先の第2の給電制御(モータ12に要求されるトータルとしての発生トルクを正常系統の巻線群により発生するトルクですべて賄うための給電制御)を実行する構成を採用した場合、つぎのような効果も得られる。すなわち、正常系統の巻線群に対して供給する電流の目標値(第1の電流指令値または第2の電流指令値)が2系統駆動を実行する通常時の2倍の値に設定されるため、一方系統に異常が発生した場合であれ、モータ12はトータルとして2系統駆動が実行されるときと同程度のトルクを発生する。特に、ECU11を電動パワーステアリング装置あるいはステアバイワイヤ式の操舵装置に適用する場合、適切な操舵アシストあるいは転舵動作を継続して行うことができる。
【0075】
(4)通信異常が発生した場合であっても第1のマイクロコンピュータ21および第2のマイクロコンピュータ31が動作していることがある。この状況下において、第1のマイクロコンピュータ21および第2のマイクロコンピュータ31が、通信異常に起因して互いに通信相手の機能が停止した旨誤判定した場合であって、しかも失陥系統の巻線群が発生するトルクを補うために自己系統の巻線群への給電量を増大させる先の第2の給電制御が実行される場合、つぎのようなことが懸念される。すなわち、モータ12に供給されるトータルの電流量が本来供給される電流量よりも多くなるため、モータ12は過大なトルクを発生するおそれがある。特に、ECU11を電動パワーステアリング装置に適用した場合、セルフステアリングが生じることが懸念される。
【0076】
この点、本実施の形態では、通信異常の原因(真の異常内容)を特定することができるところ、第1の通信線41および第2の通信線42の少なくとも一方の通信が不成立である場合、通信相手からの状態信号(Sd1,Sd2)が取得できなくなった方のマイクロコンピュータは動作を停止する。このため、通信相手からの状態信号(Sd1,Sd2)を取得することができる方のマイクロコンピュータが第2の給電制御を実行したとしても、モータ12に供給されるトータルの電流量は2系統駆動を実行する通常時の電流量と同じとなる。したがって、モータ12が過大なトルクを発生することがない。また、ECU11を電動パワーステアリング装置に適用した場合において、セルフステアリングが発生することもない。
【0077】
<他の実施の形態>
なお、本実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・本実施の形態のECU11は、電動パワーステアリング装置、あるいはステアバイワイヤ式の操舵装置以外の他の車載機器に使用されるモータの制御装置に具体化してもよい。
【0078】
・本実施の形態では、第1の通信線41および第2の通信線42を設けたが、3本以上の通信線を設けてもよい。
・本実施の形態では、2系統の巻線群(14,15)に対する給電を独立して制御するようにしたが、モータ12が3系統以上の巻線群を有するものである場合、これら3系統以上の巻線群に対する給電を独立して制御するようにしてもよい。この場合、ECU11として、系統数と同数の個別の制御部を有する構成を採用する。各系統の制御部は、複数の通信線および複数の信号線を介して相互に接続される。
【0079】
・第1のマイクロコンピュータ21および第2のマイクロコンピュータ31の正常動作を示す信号はクロック(SCL1,SCL2)に限らない。すなわち、第1のマイクロコンピュータ21および第2のマイクロコンピュータ31は、動作を監視するための専用の周期パルス信号を生成するようにしてもよい。この専用の周期パルス信号のパルス周期は一定でなくてもよい。また、専用の周期パルス信号のパルスパターンはクロックと異なっていてもよい。
【0080】
・第1のマイクロコンピュータ21は、先の図2に示される異常(A)~異常(E)のうち少なくとも1つの異常を判定するようにしてもよい。また、第2のマイクロコンピュータ31は、先の図3に示される異常(F)~異常(J)のうち少なくとも1つの異常を判定するようにしてもよい。
【0081】
・本実施の形態では、第1の信号線43および第2の信号線44を設けたが、これらに代えて第1のマイクロコンピュータ21と第2のマイクロコンピュータ31との間で双方向通信(クロックの授受)を行う単一の信号線を設けてもよい。このようにしても、第1のマイクロコンピュータ21および第2のマイクロコンピュータ31は、互いに第1のクロックSCL1および第2のクロックSCL2の授受を行うことができる。
【0082】
・本実施の形態では、第1の通信線41および第2の通信線42を設けたが、いずれか一方のみを設けるようにしてもよい。すなわち、第1のマイクロコンピュータ21および第2のマイクロコンピュータ31は、互いに第1の通信線41または第2の通信線42を介して双方向通信(信号の授受)を行うようにしてもよい。このようにしても、第1のマイクロコンピュータ21は、先の図2に示される異常(A)を判定することができる。また、第2のマイクロコンピュータ31は、先の図3に示される異常(F)を判定することができる。
【符号の説明】
【0083】
11…ECU(モータ制御装置)、12…モータ、14…第1の巻線群、15…第2の巻線群、21…第1のマイクロコンピュータ(制御回路)、31…第2のマイクロコンピュータ(制御回路)、41…第1の通信線、42…第2の通信線、43…第1の信号線、44…第2の信号線、SCL1…第1のクロック(周期パルス信号)、SCL2…第2のクロック(周期パルス信号)、Sd1…第1の状態信号、Sd2…第2の状態信号。
図1
図2
図3