(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】酸素吸収性積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20230214BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20230214BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
B32B27/00 D
B32B27/32 Z
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2018210015
(22)【出願日】2018-11-07
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】駒形 大樹
(72)【発明者】
【氏名】太田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】宮井 智弘
(72)【発明者】
【氏名】川合 佳史子
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-013868(JP,A)
【文献】特開2018-118395(JP,A)
【文献】国際公開第2010/023899(WO,A1)
【文献】特開平05-162251(JP,A)
【文献】国際公開第2014/123116(WO,A1)
【文献】特開昭54-157142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
B65D 65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素バリア性を有する表面側基材に、
温度220℃の条件下において剪断速度100s
-1
のときの溶融粘度が90Pa・s未満である酸素吸収性接着剤樹脂を含むドライラミネート接着剤を用いて、25℃-90%RHの環境下で、9000cc/(m
2・day・atm)以上の酸素透過度を有
し、密度912kg/m
3
以上であり、かつ、厚み20μm以上のポリエチレン系樹脂フィルムからなる内面側基材をドライラミネートすることを特徴とする酸素吸収性積層体の製造方法。
【請求項2】
前記内面側基材が、密度915kg/m
3未満のポリエチレン系樹脂フィルムからなる請求項
1に記載の酸素吸収性積層体の製造方法。
【請求項3】
前記表面側基材と前記内面側基材との間に、前記ドライラミネート接着剤を固形分0.1~30g/m
2
の塗布量で塗布する請求項1又は2に記載の酸素吸収性積層体の製造方法。
【請求項4】
酸素バリア性を有する表面側基材に、酸素吸収性接着剤樹脂を含むドライラミネート接着剤を用いて、25℃-90%RHの環境下で、9000cc/(m
2・day・atm)以上の酸素透過度を有
し、密度912kg/m
3
以上であり、かつ、厚み20μm以上のポリエチレン系樹脂フィルムからなる内面側基材をドライラミネートしてなり、
前記表面側基材と前記内面側基材との間に、前記ドライラミネート接着剤を固形分0.1~30g/m
2の塗布量で塗布してなる酸素吸収性樹脂層が形成され
、かつ、当該酸素吸収性樹脂層に含まれる酸素吸収性樹脂は、温度220℃の条件下において剪断速度100s
-1
のときの溶融粘度が90Pa・s未満であることを特徴とする酸素吸収性積層体。
【請求項5】
前記内面側基材が、密度915kg/m
3未満のポリエチレン系樹脂フィルムからなる請求項4に記載の酸素吸収性積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素吸収性積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内容物の酸化による変質、好気性菌の繁殖による品質低下などを防止して、長期保存を可能にするために、包装体内の空気を窒素などの不活性ガスに置き換えながら内容物を充填密封する、いわゆる、ガス置換包装が知られている。JIS Z 0108:2012によれば、このようなガス置換包装には、ガスバリア性の優れた包装材料を用いるとされているが、ガス置換包装によっても包装体内の酸素を完全に除去するのは困難である。このため、例えば、特許文献1には、酸素バリア層とともに、酸素吸収機能を有する樹脂層を設けた積層体からなる容器に、内容物をガス置換包装することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1では、酸素吸収材として鉄粉を使用しており、鉄粉などの無機系の酸素吸剤は高い酸素吸収性能を発揮できるきものの、その固有の色相に樹脂層を着色してしまうことから、透明性が要求される包装材には不向きである。
近年、有機系の種々の酸素吸収材が提案されており、その酸素吸収性能も高められてきていることから、有機系の酸素吸収材を使用した透明な積層体からなる包装体が実用化されている。
【0005】
しかしながら、有機系の酸素吸収材を包装体に適用する際には、材料自身の強度が低いなどの理由から、通常は、他の熱可塑性樹脂をブレンドしたり、さらに包装体の内面側にはヒートシール性の樹脂層を設けたりしているが、このような樹脂層を設けることによって本来の酸素吸収性能が阻害されてしまわないようにする必要がある。
【0006】
本発明は、上記したような事情に鑑みてなされたものであり、酸素吸収性能に優れた酸素吸収性積層体、特に、ガス置換包装によっても除去しきれない酸素を早期に吸収して、内容物の長期保存を可能とする包装体を形成するのに好適な酸素吸収性積層体及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る酸素吸収性積層体の製造方法は、酸素バリア性を有する表面側基材に、温度220℃の条件下において剪断速度100s
-1
のときの溶融粘度が90Pa・s未満である酸素吸収性接着剤樹脂を含むドライラミネート接着剤を用いて、25℃-90%RHの環境下で、9000cc/(m2・day・atm)以上の酸素透過度を有し、密度912kg/m
3
以上であり、かつ、厚み20μm以上のポリエチレン系樹脂フィルムからなる内面側基材をドライラミネートする方法としてある。
【0008】
また、本発明に係る酸素吸収性積層体は、酸素バリア性を有する表面側基材に、温度220℃の条件下において剪断速度100s
-1
のときの溶融粘度が90Pa・s未満である酸素吸収性接着剤樹脂を含むドライラミネート接着剤を用いて、25℃-90%RHの環境下で、9000cc/(m2・day・atm)以上の酸素透過度を有し、密度912kg/m
3
以上であり、かつ、厚み20μm以上のポリエチレン系樹脂フィルムからなる内面側基材をドライラミネートしてなり、前記表面側基材と前記内面側基材との間に、前記ドライラミネート接着剤を固形分0.1~30g/m2の塗布量で塗布してなる酸素吸収性樹脂層が形成される構成としてある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酸素吸収性能に優れた酸素吸収性積層体、特に、ガス置換包装によっても除去しきれない酸素を早期に吸収して、内容物の長期保存を可能とする包装体を形成するのに好適な酸素吸収性積層体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る酸素吸収性積層体及びその製造方法について、その実施形態を示しつつ説明する。
【0011】
本発明の実施形態として示す酸素吸収性積層体の製造方法は、ガス置換包装によっても除去しきれない酸素を早期に吸収して、内容物の長期保存を可能とする包装体を形成するのに好適な酸素吸収性積層体を製造するためのものであり、酸素バリア性を有する表面側基材に、酸素吸収性接着剤樹脂を含むドライラミネート接着剤を用いて、25℃-90%RHの環境下で、9000cc/(m2・day・atm)以上の酸素透過度を有する内面側基材をドライラミネートすることによって酸素吸収性積層体を製造する。
【0012】
[表面側基材]
表面側基材は、酸素吸収性積層体を用いて形成された包装体の表面側に位置して、包装体の表面層を形成するための基材であり、包装体内への酸素の透過を抑止する酸素バリア性を有している。
【0013】
表面側基材としては、耐擦傷性、耐薬品性などの観点から、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ナイロン等のポリアミド系樹脂などからなる二軸延伸フィルムを基材フィルムとし、シリカ、アルミナ等の金属酸化物又は金属の蒸着薄膜、アルミニウム箔等の金属箔、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアクリル酸系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂等の酸素バリア性樹脂を主剤とするコーティング層などを含む積層フィルムを用いるのが好ましいが、これに限定されない。表面側基材には、好ましくは25℃-90%RHの環境下における酸素透過度が100cc/(m2・day・atm)以下の酸素バリア性を有する各種基材を用いることができる。
【0014】
[内面側基材]
内面側基材は、酸素吸収性積層体を用いて形成された包装体の内面側に位置して、内容物と接する内面層を形成するための基材であり、25℃-90%RHの環境下で、9000cc/(m2・day・atm)以上、好ましくは15000cc/(m2・day・atm)以上、より好ましくは20000cc/(m2・day・atm)以上の酸素透過度を有している。
【0015】
内面側基材としては、酸素吸収性積層体を用いて包装体を形成する際に、ヒートシールによって包装体を任意の形態に製袋することができるように、ヒートシール性を有するポリエチレン系樹脂フィルムを用いるのが好ましい。
【0016】
また、内面側基材には、25℃-90%RHの環境下で、9000cc/(m2・day・atm)以上という高い酸素透過度が求められるところ、結晶性熱可塑性樹脂であるポリエチレン系樹脂は、結晶度の低下に伴って密度が低くなるほどガス透過性が高くなるため、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、長鎖分岐を導入した直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン又はこれらを適宜ブレンドした組成物を基材樹脂に用いて、好ましくは密度が915kg/m3未満となるように適宜調整することで、このような高い酸素透過度を容易に実現できることからも好ましい。
なお、これらポリエチレン系樹脂の製造方法は特に限定されるものではない。
【0017】
内面側基材は、所望の酸素透過度を有していれば、その厚みは特に限定されないが、ハンドリング性を維持しつつ、酸素透過度を高めることができるように、内面側基材の厚みは、5~100μmであるのが好ましい。
【0018】
[酸素吸収性接着剤樹脂]
酸素吸収性接着剤樹脂としては、酸素との反応性を有する官能基又は結合基を構造中に含む酸素吸収性ポリエステル系樹脂を用いるのが好ましい。酸素との反応性を有する官能基又は結合基として、例えば、炭素-炭素二重結合基、アルデヒド基、フェノール性水酸基等が挙げられる。特に、炭素-炭素二重結合基を有する不飽和のポリエステル系樹脂が好ましく、不飽和脂環構造を有するポリエステル系樹脂がより好ましい。不飽和脂環構造を有するポリエステル系樹脂は、酸素との反応における副生成物としての低分子量の分解成分の発生量が抑制されるため有利である。
【0019】
不飽和脂環構造を有するポリエステル系樹脂としては、例えば、テトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体を酸成分に用いて、ジオール成分と重合させたポリエステルが挙げられる。テトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体を酸成分とするにあたり、これらはメチルエステル等にエステル化されていてもよい。
【0020】
テトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体としては、4-メチル-Δ3-テトラヒドロフタル酸若しくは4-メチル-Δ3-テトラヒドロ無水フタル酸、cis-3-メチル-Δ4-テトラヒドロフタル酸若しくはcis-3-メチル-Δ4-テトラヒドロ無水フタル酸が特に好ましい。これらのテトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体は、酸素との反応性が非常に高いため、酸成分として好適に使用できる。
【0021】
ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2-フェニルプロパンジオール、2-(4―ヒドロキシフェニル)エチルアルコール、α,α―ジヒドロキシ-1,3-ジイソプロピルベンゼン、o-キシレングリコール、m-キシレングリコール、p-キシレングリコール、α,α―ジヒドロキシ-1,4-ジイソプロピルベンゼン、ヒドロキノン、4,4-ジヒドロキシジフェニル、ナフタレンジオール、又はこれらの誘導体等が挙げられる。好ましくは、脂肪族ジオール、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-ブタンジオールであり、さらに好ましくは、1,4-ブタンジオールである。1,4-ブタンジオールを用いた場合は、樹脂の酸素吸収性能が高く、酸化の過程で生じる分解物の量も少ない。これらのジオール成分は、単独、又は、2種類以上を組み合わせて使用できる。
【0022】
酸素吸収性ポリエステル系樹脂は、テトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体の他に、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸など、他の酸成分又はその誘導体を原料モノマー中に含んで共重合させたものであってもよい。
【0023】
芳香族ジカルボン酸及びその誘導体としては、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等のベンゼンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、スルホイソフタル酸、スルホイソフタル酸ナトリウム、又はこれらの誘導体等が挙げられる。これらの中でもフタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸が好ましい。
脂肪族ジカルボン酸及びその誘導体としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、無水コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、3,3-ジメチルペンタン二酸、又はこれらの誘導体等が挙げられる。これらの中でもコハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、セバシン酸が好ましい。脂環構造を有するヘキサヒドロフタル酸や、ダイマー酸及びその誘導体も挙げられる。
脂肪族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体としては、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシピバリン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘキサン酸、又はこれらの誘導体が挙げられる。
これらの他の酸成分は、例えば、テレフタル酸ジメチルやビス-2-ヒドロキシジエチルテレフタレートのようにエステル化されていてもよく、無水フタル酸や無水コハク酸のように酸無水物であってもよい。これらは、単独、又は、2種類以上を組み合わせて使用できる。
【0024】
他の酸成分を共重合させることによって、得られる酸素吸収性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度を容易に制御することができ、酸素吸収性能を向上させることがきる。さらに、酸素吸収性ポリエステル系樹脂の結晶性を制御することにより有機溶剤への溶解性を向上させることもできる。
また、テトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体は、重合中の熱によりラジカル架橋反応を起こしやすいため、他の酸成分を配合して、原料モノマー中に含まれるテトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体の組成比を減少させることにより、重合中のゲル化が抑制され、高分子量の酸素吸収性ポリエステル系樹脂を安定的に得ることができる。
【0025】
本発明では、酸素吸収性接着剤樹脂として、テトラヒドロフタル酸誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸誘導体を酸成分とし、1,4-ブタンジオールをジオール成分とし、コハク酸又は無水コハク酸を他の酸成分として、これらを共重合することによって得られた酸素吸収性ポリエステル系樹脂を使用するのが好ましい。
【0026】
この場合、酸素吸収性ポリエステル系樹脂中に含まれるテトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体に由来する構造単位は、全酸成分に対する割合の70~95モル%であり、好ましくは75~95モル%、より好ましくは80~95モル%である。また、コハク酸又は無水コハク酸に由来する構造単位は、全酸成分に対する割合の0~15モル%であり、好ましくは0~12.5モル%、より好ましくは0~10モル%である。
このような組成比にすることにより、酸素吸収性能及び接着性に優れ、かつ、有機溶剤への溶解性に優れた酸素吸収性樹脂を得ることができる。
【0027】
また、酸素吸収性ポリエステル系樹脂の数平均分子量は、好ましくは500~100000であり、より好ましくは2000~10000である。また、重量平均分子量は、好ましくは5000~200000、より好ましくは10000~100000であり、さらに好ましくは20000~70000である。分子量が上記の範囲より低い場合は樹脂の凝集力すなわち耐クリープ性が低下し、高い場合は有機溶剤への溶解性の低下や溶液粘度の上昇による塗工性の低下が生じるため好ましくない。
【0028】
酸素吸収性ポリエステル系樹脂は、例えば、界面重縮合、溶液重縮合、溶融重縮合又は固相重縮合などによって合成することができるが、その際、温度220℃の条件下において剪断速度100s-1のときの溶融粘度が90Pa・s未満、好ましくは60Pa・s未満、より好ましくは30Pa・s未満となるように、原料モノマーの組成比、分子量などの重合条件を適宜調整するのが好ましい。溶融粘度を低く抑えることで、良好な塗工性を発揮させることができ、また、硬化剤を配合することで任意の材料強度にすることができるため、溶剤可溶型のドライラミネート接着剤として好適に使用することができる。
【0029】
本発明において、酸素吸収性接着剤樹脂は、有機溶剤に溶解させてドライラミネート接着剤として用いることができるように調製される。有機溶剤としては、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、イソプロパノール等が挙げられる。特に、酢酸エチルは残留溶剤を原因とする異臭トラブルが比較的少ないことから、軟包装のドライラミネート用接着剤の溶剤として一般的であり、産業応用を考慮するとトルエンやキシレン等を含有しない酢酸エチル単一溶剤を用いるのが好ましい。
【0030】
また、酸素吸収性ポリエステル系樹脂を使用する場合には、イソシアネート系硬化剤を配合して2液硬化型接着剤として使用することができる。
イソシアネート系硬化剤としては、例えば、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、リジンジイソシアネート、リジンメチルエステルジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、n-ペンタン-1,4-ジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート系硬化剤、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、メチルシクロヘキシルジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート等の脂環族イソシアネート系硬化剤が挙げられる。これらの中でも、脂肪族イソシアネート系硬化剤としては、XDI及びHDIが好ましく、脂環族イソシアネート系硬化剤としては、IPDIが好ましい。特に好ましくはXDIである。XDIを使用することにより、最も優れた酸素吸収性能を発揮する。
これらの脂肪族及び/又は脂環族イソシアネート系硬化剤は、アダクトやイソシアヌレート、ビュレット体等、分子量を増大させたポリイソシアネート化合物として使用されることが好ましい。
また、これらの脂肪族及び/又は脂環族イソシアネート系硬化剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
イソシアネート系硬化剤は、主剤である酸素吸収性ポリエステル系樹脂に対して、固形分重量部で3phr~30phr添加することが好ましく、より好ましくは3phr~20phr、さらに好ましくは3phr~15phrである。添加量が少なすぎると、接着性及び凝集力が不十分となり、多すぎると、樹脂組成物単位重量中に含まれる酸素吸収成分の配合量が少なくなり、酸素吸収性能が不十分となる。また、硬化により樹脂の運動性が著しく低下した場合、酸素吸収反応が進行しにくくなり、酸素吸収性能は低下する。
【0032】
本発明にあっては、このようにして調製されたドライラミネート接着剤を用いて、表面側基材に内面側基材をドライラミネートする。その際、公知のドライラミネーターを使用することができ、酸素吸収性接着剤樹脂を含むドライラミネート接着剤を表面側基材に塗布し、乾燥オーブンを通過させて有機溶剤を揮散させ、50~120℃に加温したニップロールにより内面側基材を貼り合わせる一連のラミネート工程を経ることによって、表面側基材と内面側基材との間に、ドライラミネート接着剤に含まれる酸素吸収性接着剤樹脂からなる酸素吸収性樹脂層が形成された、酸素吸収性積層体を製造することができる。
【0033】
このようにして酸素吸収性積層体を製造するにあたり、酸素吸収性接着剤樹脂を含むドライラミネート接着剤の塗布量は、固形分で0.1~30g/m2であるのが好ましく、より好ましくは1~15g/m2、さらに好ましくは2~10g/m2である。
【0034】
以上のような酸素吸収性積層体によって形成された包装体は、その内面層を形成する内面側基材によって、包装体として十分なヒートシール強度を確保することができる。そして、内面側基材は、25℃-90%RHの環境下で、9000cc/(m2・day・atm)以上という高い酸素透過度を有しているため、酸素吸収性樹脂層の酸素吸収性能を阻害することなく、ガス置換包装によっても除去しきれない酸素を早期に吸収することができ、酸素の初期濃度が低い状況下での酸素の吸収速度を速めるのに有効である。
【実施例】
【0035】
以下、具体的な実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。
【0036】
[実施例1]
酸成分として4-メチル-Δ3-テトラヒドロ無水フタル酸を45モル%、cis-3-メチル-Δ4-テトラヒドロ無水フタル酸を21モル%で含有するメチルテトラヒドロ無水フタル酸異性体混合物(日立化成社製「HN-2200」)を90重量部、ジオール成分として1,4-ブタンジオールを130重量部、他の酸成分として無水コハク酸を10重量部、重合触媒としてイソプロピルチタナートを300ppmの組成比で反応釜に仕込み、窒素雰囲気中150℃~200℃で生成する水を除きながら約6時間反応させた。引き続いて0.1kPaの減圧下、200~220℃で約3時間重合を行い、酸素吸収性ポリエステル樹脂を得た。
得られた酸素吸収性ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、約7400であった。
なお。重量平均分子量(Mw)は、溶媒にクロロホルムを使用して、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、東ソー社製「HLC-8120型GPC」)により、ポリスチレン換算で測定した。
また、レオメータ(TAインスツルメント社製「ARES-G2」)を用いて、温度220℃の条件下において剪断速度100s-1のときの溶融粘度を測定したところ、3Pa・sであった。
【0037】
得られた酸素吸収性ポリエステル樹脂を酢酸エチルに20重量%の濃度で溶解させるとともに、イソシアネート系硬化剤(DICグラフィックス社製「KL-75」)を固形分換算で7phrとなるように配合して、酸素吸収性接着剤樹脂を含むドライラミネート接着剤を調製した。
【0038】
一方、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートを基材とした厚さ12μmの透明アルミナ蒸着フィルムを表面側基材とし、25℃-90%RHの環境下で、22000cc/(m2・day・atm)の酸素透過度を有する密度912kg/m
3
、厚さ20μmのポリエチレン系樹脂フィルム(住化積水フィルム社製「GH030」)を内面側基材として、これらをドライラミネーターにセットした。そして、表面側基材のアルミナ蒸着膜側に、前述のドライラミネート接着剤を塗布量5g/m2で塗布して、内面側基材のコロナ処理面側とドライラミネートすることによって、透明な酸素吸収性積層体を製造した。
なお、表面側基材として用いた透明蒸着フィルムの25℃-90%RHの環境下における酸素透過度は、0.6cc/(m2・day・atm)であった。
【0039】
このようにして製造された酸素吸収性積層体の脱酸素速度を評価した。その結果を表1に示す。
なお、脱酸素速度は以下のように評価した。
<脱酸素速度の評価>
120cm2に切り出した酸素吸収性積層体を、グリセリン水溶液からなる調湿液とともに、酸素不透過性のスチール箔積層カップ(ヘッドスペース量81.5cc)に仕込んでアルミ箔積層フィルム蓋でヒートシール密封し、25℃の環境下で、時間経過に伴う容器内の酸素濃度の変化をガスクロマトグラフ装置(島津製作所製「GC-2014」)にて測定した。
酸素濃度の変化を測定するにあたっては、容器内の初期の酸素濃度が4%となるように窒素ガスで調整し、さらに調湿液により相対湿度を90%RHに制御した。
24時間保管後の容器内の酸素濃度が、初期酸素濃度の40%以下まで減少しているものを良好(○)、それ以外を不良(×)とした。
【0040】
【0041】
[実施例2]
内面側基材として、25℃-90%RHの環境下で、10000cc/(m2・day・atm)の酸素透過度を有する密度913kg/m
3
、厚さ30μmのポリエチレン系樹脂フィルム(タマポリ社製「SK615P」)を用いた以外は実施例1と同様にして酸素吸収性積層体を製造し、実施例1と同一の条件で、脱酸素速度を評価した。その結果を表1に示す。
【0042】
[実施例3]
密度918kg/m
3
のポリエチレン系樹脂(宇部丸善ポリエチレン社製「L719」)を、25℃-90%RHの環境下で12000cc/(m2・day・atm)の酸素透過度を有する厚さ20μmのフィルムに成膜し、これ内面材基材として用いた以外は実施例1と同様にして酸素吸収性積層体を製造し、実施例1と同一の条件で、脱酸素速度を評価した。その結果を表1に示す。
【0043】
[比較例1]
内面側基材として、25℃-90%RHの環境下で、5000cc/(m2・day・atm)の酸素透過度を有する密度0.920kg/m3、厚さ40μmのポリエチレン系樹脂フィルム(宇部フィルム社製「F120N」)を用いた以外は実施例1と同様にして酸素吸収性積層体を製造し、実施例1と同一の条件で、脱酸素速度を評価した。その結果を表1に示す。
【0044】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。