(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】歯車加工方法及び歯車加工装置
(51)【国際特許分類】
B23F 5/16 20060101AFI20230214BHJP
B23F 23/12 20060101ALI20230214BHJP
B23Q 17/12 20060101ALI20230214BHJP
B23Q 15/12 20060101ALI20230214BHJP
G05B 19/404 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
B23F5/16
B23F23/12
B23Q17/12
B23Q15/12 A
G05B19/404 K
(21)【出願番号】P 2018212034
(22)【出願日】2018-11-12
【審査請求日】2021-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 高明
(72)【発明者】
【氏名】山田 良彦
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-190096(JP,A)
【文献】特開2014-226754(JP,A)
【文献】特開2015-062967(JP,A)
【文献】特開2015-217500(JP,A)
【文献】特開2018-001343(JP,A)
【文献】特開2018-062056(JP,A)
【文献】特開2012-056051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 1/00-23/12
B23Q 11/00-13/00
B23Q 15/00-15/28
B23Q 17/00-23/00
G05B 19/18-19/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物の回転軸線の平行線に対して歯切り工具の回転軸線を傾斜させた状態で、歯切り工具と工作物とを同期回転させつつ、前記工作物の回転軸線方向への前記歯切り工具の送り動作を複数回に亘って行うことにより、前記工作物を切削加工し、歯車を創成する歯車加工方法であって、
切削加工時に発生する前記歯切り工具の振動を計測する振動計測工程と、
前記振動計測工程で計測した前記歯切り工具の振動の周波数分析を行い、びびり振動が発生したか否かを判定するびびり判定工程と、
びびり振動が発生したと判定した場合に、びびり振動が発生したときの切込量より大きな切込量で、且つ、
びびり振動が発生したときの前記歯切り工具の回転速度を
含む所定の範囲にわたって連続的に加速又は減速させながら切削加工を行い、びびり振動を発生させるびびり加工工程と、
前記びびり加工工程で計測した前記歯切り工具の振動の周波数分析を行い、周波数の変動量が所定量を超えたときの回転速度を検出する検出工程と、
を備える、歯車加工方法。
【請求項2】
工作物の回転軸線の平行線に対して歯切り工具の回転軸線を傾斜させた状態で、歯切り工具と工作物とを同期回転させつつ、前記工作物の回転軸線方向への前記歯切り工具の送り動作を複数回に亘って行うことにより、前記工作物を切削加工し、歯車を創成する歯車加工方法であって、
切削加工時に発生する前記歯切り工具の振動を計測する振動計測工程と、
前記振動計測工程で計測した前記歯切り工具の振動の周波数分析を行い、びびり振動が発生したか否かの判定するびびり判定工程と、
びびり振動が発生したと判定した場合に、びびり振動が発生したときの切込量より大きな切込量で、且つ、
びびり振動が発生したときの前記歯切り工具の回転速度を
含む所定の範囲にわたって連続的に加速又は減速させながら切削加工を行い、びびり振動を発生させるびびり加工工程と、
前記びびり加工工程で計測した前記歯切り工具の振動の周波数分析を行い、周波数の変動量が所定量を超えたときの回転速度を検出する検出工程と、
前記歯切り工具の回転速度を前記検出工程で検出した回転速度で、前記びびり加工工程で切削加工した前記工作物に対する切削加工を再度行う再加工工程と、
を備える、歯車加工方法。
【請求項3】
前記びびり加工工程での
前記所定の範囲は、前記びびり判定工程によりびびり振動が発生したと判定されたときの切削加工時に設定されていた前記歯切り工具の回転速度
を基準として、前記回転速度の-3%から前記回転速度の+3%までの範囲である、請求項1又は2に記載の歯車加工方法。
【請求項4】
前記びびり加工工程は、びびり振動が発生したと判定されたときに切削加工がなされた前記工作物を用いて行う、請求項1-3の何れか一項に記載の歯車加工方法。
【請求項5】
前記びびり加工工程は、びびり振動が発生したと判定されたときに切削加工がなされた前記工作物とは別の前記工作物を用いて行い、
前記歯車加工方法は、びびり振動が発生したときに切削加工がなされた前記工作物に対し、びびり振動が発生したときよりも切込量を小さくしつつ、前記歯切り工具の送り動作を複数回に亘って行いながら切削加工し、前記工作物に歯車を創成する、請求項1-3の何れか一項に記載の歯車加工方法。
【請求項6】
前記びびり加工工程は、最後に前記びびり加工工程を実行してから切削加工した前記工作物の数が所定数に到達した場合に実行される、請求項1-5の何れか一項に記載の歯車加工方法。
【請求項7】
工作物の回転軸線の平行線に対して歯切り工具の回転軸線を傾斜させた状態で、歯切り工具と工作物とを同期回転させつつ、前記工作物の回転軸線方向への前記歯切り工具の送り動作を複数回に亘って行うことにより、前記工作物を切削加工し、歯車を創成する歯車加工装置であって、
前記歯車加工装置は、
前記歯切り工具の振動を計測する振動計測装置と、
切削加工に関する制御を行う制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記振動計測装置により計測された前記歯切り工具の振動の周波数分析を行い、びびり振動が発生したか否かを判定するびびり判定部と、
前記びびり判定部によりびびり振動が発生したと判定された場合に、びびり振動が発生したときの切込量より大きな切込量で、且つ、
びびり振動が発生したときの前記歯切り工具の回転速度を
含む所定の範囲にわたって連続的に加速又は減速させながら切削加工を行い、びびり振動を発生させるびびり発生加工制御部と、
前記びびり発生加工制御部による切削加工において前記振動計測装置が計測した前記歯切り工具の振動の周波数分析を行い、周波数の変動量が所定量を超えたときの回転速度を検出する適正回転速度検出部と、
を備える、歯車加工装置。
【請求項8】
工作物の回転軸線の平行線に対して歯切り工具の回転軸線を傾斜させた状態で、歯切り工具と工作物とを同期回転させつつ、前記工作物の回転軸線方向への前記歯切り工具の送り動作を複数回に亘って行うことにより、前記工作物を切削加工し、歯車を創成する歯車加工装置であって、
前記歯車加工装置は、
前記歯切り工具の振動を計測する振動計測装置と、
切削加工に関する制御を行う制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記振動計測装置により計測された前記歯切り工具の振動の周波数分析を行い、びびり振動が発生したか否かを判定するびびり判定部と、
前記びびり判定部によりびびり振動が発生したと判定された場合に、びびり振動が発生したときの切込量より大きな切込量で、且つ、
びびり振動が発生したときの前記歯切り工具の回転速度を
含む所定の範囲にわたって連続的に加速又は減速させながら切削加工を行い、びびり振動を発生させるびびり発生加工制御部と、
前記びびり発生加工制御部による切削加工において前記振動計測装置が計測した前記歯切り工具の振動の周波数分析を行い、周波数の変動量が所定量を超えたときの回転速度を検出する適正回転速度検出部と、
前記びびり発生加工制御部による切削加工を行った前記工作物に対する切削加工を、前記びびり発生加工制御部による切削加工時よりも切込量を小さくしつつ、前記適正回転速度検出部が検出した回転速度で前記歯切り工具を回転させながら行う再加工制御部と、
を備える、歯車加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車加工方法及び歯車加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、工作物と歯切り工具とを同期回転させながら、工作物に対する歯切り工具の軸線方向への送り動作を複数回に亘って行うことにより、工作物を切削加工し、歯車を創成する技術が開示されている。歯切り工具によって工作物に歯車を創成する場合において、加工能率の向上を図りつつ、びびり振動を抑制することが要求される。
【0003】
特許文献2には、主軸の回転数(回転速度)を変化させながら切削加工を行いつつ、主軸の振動周波数の変動状態を監視し、振動周波数の変動が所定の基準値を超えたときの主軸の回転数を検出する技術が開示されている。また、特許文献2には、再生びびり振動の発生を検出すると、主軸の回転数を徐々に減少させ、振動周波数の変動が所定の基準値を超えたときの主軸の回転数を検出すると、その検出した回転数を安定回転数(安定回転速度)とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-155990号公報
【文献】特開2015-217500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載の技術を特許文献1に記載の技術に適用しようとした場合、歯切り工具の1回の送り動作が短時間であるため、再生びびりが発生した時点で歯切り工具の回転数を変化させたとしても、振動周波数の変動が所定の基準値を超える前に送り動作が終了し、安定回転速度を検出できない場合がある。
【0006】
一方、特許文献1に記載の技術において、1回の送り動作の中で再生びびりが発生したとしても、その時点で工作物に研削代が残存していた場合には、歯切り工具を適正な回転速度で回転させながら切削加工を行うことにより、最終的には工作物を良品とすることができる。しかしながら、歯切り工具の適正な回転速度を把握できない状態で切削加工を続け、工作物が不良品になった場合に、その工作物は、破棄されることになる。その点において、適正な歯切り工具の回転速度を把握し、製造コストの低減を図りたいとの要請がある。
【0007】
本発明は、工具の適正な回転速度を把握できる歯車加工方法及び歯車加工装置を提供すること、及び、製造コストの低減を図ることができる歯車加工方法及び歯車加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の歯車加工方法は、工作物の回転軸線の平行線に対して歯切り工具の回転軸線を傾斜させた状態で、歯切り工具と工作物とを同期回転させつつ、前記工作物の回転軸線方向への前記歯切り工具の送り動作を複数回に亘って行うことにより、前記工作物を切削加工し、歯車を創成する。前記歯車加工方法は、切削加工時に発生する前記歯切り工具の振動を計測する振動計測工程と、前記振動計測工程で計測した前記歯切り工具の振動の周波数分析を行い、びびり振動が発生したか否かを判定するびびり判定工程と、びびり振動が発生したと判定した場合に、びびり振動が発生したときの切込量より大きな切込量で、且つ、びびり振動が発生したときの前記歯切り工具の回転速度を含む所定の範囲にわたって連続的に加速又は減速させながら切削加工を行い、びびり振動を発生させるびびり加工工程と、前記びびり加工工程で計測した前記歯切り工具の振動の周波数分析を行い、周波数の変動量が所定量を超えたときの回転速度を検出する検出工程とを備える。
【0009】
本発明の第一の歯車加工装置は、工作物の回転軸線の平行線に対して歯切り工具の回転軸線を傾斜させた状態で、歯切り工具と工作物とを同期回転させつつ、前記工作物の回転軸線方向への前記歯切り工具の送り動作を複数回に亘って行うことにより、前記工作物を切削加工し、歯車を創成する。前記歯車加工装置は、前記歯切り工具の振動を計測する振動計測装置と、切削加工に関する制御を行う制御装置とを備える。前記制御装置は、前記
振動計測装置により計測された前記歯切り工具の振動の周波数分析を行い、びびり振動が発生したか否かを判定するびびり判定部と、前記びびり判定部によりびびり振動が発生したと判定された場合に、びびり振動が発生したと判定されたときの切込量より大きな切込量で、且つ、びびり振動が発生したときの前記歯切り工具の回転速度を含む所定の範囲にわたって連続的に加速又は減速させながら切削加工を行い、びびり振動を発生させるびびり発生加工制御部と、前記びびり発生加工制御部による切削加工において前記振動計測装置が計測した前記歯切り工具の振動の周波数分析を行い、周波数の変動量が所定量を超えたときの回転速度を検出する適正回転速度検出部とを備える。
【0010】
また、本発明の第二の歯車加工方法は、工作物の回転軸線の平行線に対して歯切り工具の回転軸線を傾斜させた状態で、歯切り工具と工作物とを同期回転させつつ、前記工作物の回転軸線方向への前記歯切り工具の送り動作を複数回に亘って行うことにより、前記工作物を切削加工し、歯車を創成する。前記歯車加工方法は、切削加工時に発生する前記歯切り工具の振動を計測する振動計測工程と、前記振動計測工程で計測した前記歯切り工具の振動の周波数分析を行い、びびり振動が発生したか否かを判定するびびり判定工程と、びびり振動が発生したと判定した場合に、びびり振動が発生したときの切込量より大きな切込量で、且つ、びびり振動が発生したときの前記歯切り工具の回転速度を含む所定の範囲にわたって連続的に加速又は減速させながら切削加工を行い、びびり振動を発生させるびびり加工工程と、前記びびり加工工程で計測した前記歯切り工具の振動の周波数分析を行い、周波数の変動量が所定量を超えたときの回転速度を検出する検出工程と、前記歯切り工具の回転速度を前記検出工程で検出した回転速度で、前記びびり加工工程で切削加工した前記工作物に対する切削加工を再度行う再加工工程とを備える。
【0011】
本発明の第二歯車加工装置は、工作物の回転軸線の平行線に対して歯切り工具の回転軸線を傾斜させた状態で、歯切り工具と工作物とを同期回転させつつ、前記工作物の回転軸線方向への前記歯切り工具の送り動作を複数回に亘って行うことにより、前記工作物を切削加工し、歯車を創成する。前記歯車加工装置は、前記歯切り工具の振動を計測する振動計測装置と、切削加工に関する制御を行う制御装置とを備える。前記制御装置は、前記振動計測装置により計測された前記歯切り工具の振動の周波数分析を行い、びびり振動が発生したか否かを判定するびびり判定部と、前記びびり判定部によりびびり振動が発生したと判定された場合に、びびり振動が発生したときの切込量より大きな切込量で、且つ、びびり振動が発生したときの前記歯切り工具の回転速度を含む所定の範囲にわたって連続的に加速又は減速させながら切削加工を行い、びびり振動を発生させるびびり発生加工制御部と、前記びびり発生加工制御部による切削加工において前記振動計測装置が計測した前記歯切り工具の振動の周波数分析を行い、周波数の変動量が所定量を超えたときの回転速度を検出する適正回転速度検出部と、前記びびり発生加工制御部による切削加工を行った前記工作物に対する切削加工を、前記びびり発生加工制御部による切削加工時よりも切込量を小さくしつつ、前記適正回転速度検出部が検出した回転速度で前記歯切り工具を回転させながら行う再加工制御部とを備える。
【0012】
本発明の第一及び第二の歯車加工方法と第一及び第二の歯車加工装置によれば、びびり加工工程及びびびり発生加工制御部は、びびり振動が発生したと判定されたときの切込量より大きな切込量で切削加工を行うことで、びびり振動を確実に発生させやすくすることができる。そして、検出工程及び適正回転速度検出部は、1回の送り動作の中で行う切削加工において、周波数の変動量が所定量を超える回転速度を検出でき、その検出した回転速度を適正な歯切り工具の回転速度として導出することができる。よって、第一及び第二の歯車加工方法と第一及び第二の歯車加工装置とは、1回の送り動作で歯切り工具の適正な回転速度を把握することができる。
【0013】
これに加え、第二の歯車加工方法及び第二の歯車加工装置によれば、再加工工程及び再加工制御部は、びびり加工工程及びびびり発生加工制御部による切削加工を行った工作物に対する切削加工を行う。このとき、再加工工程及び再加工制御部は、びびり加工工程及びびびり発生加工制御部による切削加工時よりも切込量を小さくしつつ、適正回転速度検出部が検出した回転速度で歯切り工具を回転させながら切削加工を行うので、びびり振動の発生を抑制できる。その結果、第二の歯車加工方法及び第二の歯車加工装置は、びびり加工工程及びびびり発生加工制御部による切削加工を行った工作物を、最終的に良品とすることができる。よって、第二の歯車加工方法及び第二の歯車加工装置は、不良品として破棄される工作物を減らすことができるので、製造コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態における歯車加工装置の斜視図である。
【
図2】回転主軸に固定された歯切り工具を拡大した図である。
【
図3】スカイビング加工を行う際の歯切り工具と工作物との動作を示す図である。
【
図5】安定限界線図と、歯切り工具の回転速度及びびびり振動周波数の関係を示すグラフとを比較した図である。
【
図6】制御装置により実行される振動分析処理を示すフローチャートである。
【
図7】歯切り工具の回転速度をSSR1からSSR2まで加速させながら切削加工を行ったときの歯切り工具の回転速度とびびり振動周波数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る歯車加工方法及び歯車加工装置を適用した実施形態について、図面を参照しながら説明する。まず、
図1から
図3を参照して、本発明の一実施形態である歯車加工装置1の概略を説明する。
【0016】
(1.歯車加工装置1の概略)
図1に示すように、歯車加工装置1は、相互に直交する3つの直進軸(X軸、Y軸及びZ軸)と3つの回転軸(A軸、B軸及びC軸)を駆動軸として有するマシニングセンタである。歯車加工装置1は、ベッド10と、コラム20と、サドル30と、回転主軸40と、テーブル50と、チルトテーブル60と、回転テーブル70と、保持部80と、制御装置100とを主に備える。
【0017】
ベッド10は、床上に配置される。このベッド10の上面には、コラム20及びX軸モータ21(
図4参照)が設けられ、コラム20は、X軸モータ21に駆動されることにより、X軸方向(水平方向)へ移動可能に設けられる。さらに、コラム20の側面には、サドル30及びY軸モータ31(
図4参照)が設けられ、サドル30は、Y軸モータ31によりY軸方向(鉛直方向)に移動可能に設けられる。回転主軸40は、サドル30内に収容された主軸モータ41(
図4参照)により回転可能に設けられる。回転主軸40の先端には、歯切り工具42が固定され、歯切り工具42は、回転主軸40の回転に伴って回転する。なお、駆動軸の構成は、上記の構成に限られるものではなく、加工対象や歯車加工装置の設置設計及び剛性設計により適宜変更してもよい。
【0018】
ここで、
図2を参照しながら、歯切り工具42について説明する。
図2に示すように、歯切り工具42は、外周面に複数の刃42aを備えたスカイビングカッタであり、各々の刃42aの端面は、すくい角γを有するすくい面を構成する。各々の刃42aのすくい面は、歯切り工具42の中心軸線を中心としたテーパ状としてもよく、刃42aごとに異なる方向を向く面状に形成してもよい。
【0019】
図1に戻り、説明を続ける。ベッド10の上面には、テーブル50及びZ軸モータ51(
図4参照)が設けられる。テーブル50は、Z軸モータ51によりZ軸方向(水平方向)に移動可能に設けられる。テーブル50の上面には、チルトテーブル60を支持する一対のチルトテーブル支持部61が設けられる。そして、一対のチルトテーブル支持部61の間には、チルトテーブル60がX軸に平行なA軸(水平方向)周りに揺動可能に設けられる。そして、チルトテーブル60は、チルトテーブル支持部61に設けられたチルトモータ62(
図4参照)に駆動されることでA軸周りに揺動する。
【0020】
さらに、チルトテーブル60の底面には、テーブル用モータ71(
図4参照)が設けられ、回転テーブル70は、テーブル用モータ71によりA軸に直交するB軸回りに回転可能に設けられる。回転テーブル70には、工作物Wを保持する保持部80が装着される。制御装置100は、切削加工に関する制御を行う。なお、制御装置100については、後ほど詳述する。
【0021】
(2.切削加工時における歯車加工装置1の動作)
次に、切削加工時における歯車加工装置1の動作を説明する。歯車加工装置1は、スカイビング加工により工作物Wに歯車を創成する。
図1及び
図3に示すように、歯車加工装置1は、チルトテーブル60をA軸周りに揺動させることにより、工作物Wの回転軸線であるB軸を、歯切り工具42の回転軸線Cの平行線に対して傾斜させる。なお、工作物Wの回転軸線(B軸)に対する歯切り工具42の回転軸線Cの傾斜角を交差角δと称す。そして、歯車加工装置1は、工作物Wと歯切り工具42とを同期回転させつつ、歯切り工具42をB軸方向へ送る(相対移動させる)送り動作を複数回に亘って行うことにより、工作物Wを切削加工し、歯車を創成する。
【0022】
なお、スカイビング加工において、工作物Wの回転速度V1及び歯切り工具42の回転速度V2は、交差角δと切削速度V3に基づいて決定される。そして、切削速度V3及び工作物Wに対する歯切り工具42の送り速度V4は、歯車加工に要する加工時間(サイクルタイム)、歯切り工具42の諸元、工作物Wの材質、及び、工作物Wに形成する歯車のねじれ角等に基づいて設定される。即ち、切削速度V3及び送り速度V4は、歯車加工を行う際の加工能率及び歯切り工具42の工具寿命等を勘案し、最適な速度に設定される。
【0023】
(3.制御装置100について)
次に、
図4を参照して、制御装置100の詳細を説明する。
図4に示すように、制御装置100は、歯車加工を行う際の加工条件を設定する加工条件設定部110と、各種モータの駆動制御を行う駆動制御部120とを主に備える。
【0024】
加工条件設定部110は、加工プログラム記憶部111と、回転速度設定部112と、送り速度設定部113と、切込量設定部114とを主に備える。加工プログラム記憶部111には、1つの工作物Wに対する歯車加工を行う際に用いる加工プログラムが記憶される。この加工プログラムには、例えば、工作物Wの回転軸線方向への歯切り工具42の送り動作の回数(パス数)や、送り動作毎に設定する切込量に関する情報等を含む。
【0025】
回転速度設定部112は、歯車加工時における工作物W及び歯切り工具42の回転速度を設定する。歯切り工具42の回転速度は、例えば、歯切り工具42の回転速度と、再生びびりが発生する限界切込量との関係を示す周知の安定限界線図に基づいて導出される安定限界速度に設定される。
図5の上側には、歯切り工具42の固有振動数や切削抵抗、加工点の動剛性等に基づいて作成された安定限界線図が示されており、この安定限界線図に基づき、歯切り工具42の安定限界速度は、
図5に示す回転速度範囲において、SS1,SS2,SS3,SS4であることが導出される。
【0026】
なお、
図5の下側には、歯切り工具42の回転速度と再生びびり振動の周波数との関係を示すグラフである。このグラフは、安定限界速度を境に、再生びびり振動の周波数が急激に変動することを示す。
【0027】
送り速度設定部113は、歯車加工時における送り速度V4を設定する。切込量設定部114は、歯車加工時における切込量(切込深さ)を設定する。なお、本実施形態において、歯車加工装置1は、加工プログラム記憶部111に記憶される加工プログラムに基づき、1つの工作物Wに対して3回の送り動作を行う。そして、歯車加工装置1は、3回の送り動作のうち1回目及び2回目の送り動作において荒加工を行い、3回目の送り動作において仕上加工を行う。なお、加工プログラムにおいて、回転速度及び送り速度は、荒加工と仕上加工とで同一に設定されると共に、切込量は、仕上加工のほうが荒加工よりも小さく設定される。
【0028】
駆動制御部120は、工具回転速度制御部121と、工作物回転速度制御部122と、位置制御部123とを主に備える。工具回転速度制御部121は、回転速度設定部112に設定された回転速度で歯切り工具42が回転するように主軸モータ41を駆動制御する。工作物回転速度制御部122は、回転速度設定部112に設定された回転速度で工作物Wが回転するようにテーブル用モータ71を駆動制御する。
【0029】
位置制御部123は、X軸モータ21、Y軸モータ31、Z軸モータ51及びチルトモータ62を駆動制御する。なお、本実施形態において、制御装置100は、1つの位置制御部123によってX軸モータ21、Y軸モータ31、Z軸モータ51及びチルトモータ62を駆動制御しているが、X軸モータ21、Y軸モータ31、Z軸モータ51及びチルトモータ62を別個に駆動制御してもよい。
【0030】
そして、位置制御部123は、切込量設定部114に設定された切込量で切削加工が行われるように工作物Wに対する歯切り工具42の位置決め及び角度調整を行う。また、位置制御部123は、送り速度設定部113に設定された送り速度で歯切り工具42が送られるようにZ軸モータ51を駆動制御する。
【0031】
また、歯車加工装置1は、切削加工時に発生する歯切り工具42の振動を計測する振動計測装置90を更に備える。振動計測装置90は、例えば、回転主軸40に取り付けられる加速度センサである。
【0032】
そして、制御装置100は、振動計測装置90の計測結果に基づき、びびり振動が発生したか否かの判定を行うびびり判定部130を備える。びびり判定部130は、工作物Wの切削加工中に計測した歯切り工具42の振動の周波数分析(フーリエ解析等)を行い、再生びびりが発生すると予測される周波数帯域の振幅を監視する。その結果、振幅が所定の閾値を超えた場合に、びびり判定部130は、びびり振動が発生したと判定する。
【0033】
また、制御装置100は、歯切り工具42の適正な回転速度を導出する分析部140を備える。分析部140は、加工条件設定部110に設定された加工条件で行った切削加工においてびびり振動が発生した場合に、その後に実行する切削加工の中で、歯切り工具42の適正な回転速度を導出する。
【0034】
分析部140は、びびり発生加工制御部141と、適正回転速度検出部142とを備える。びびり発生加工制御部141は、1回の送り動作の中で行う切削加工において、加工条件設定部110に設定された加工条件とは異なる加工条件で各種モータの駆動制御を行い、意図的にびびり振動を発生させる。本実施形態において、びびり発生加工制御部141は、2回目の送り動作で行う切削加工(荒加工)において、歯切り工具42の回転速度を連続的に加速させながら工作物Wの切削加工(以下「びびり加工」と称す)を行う。
【0035】
適正回転速度検出部142は、歯切り工具42の適正な回転速度を検出する。
図5の上側のグラフ(安定限界線図)が示すように、びびり振動の発生は、歯切り工具42の回転速度及び切込量に依存し、びびり振動が発生しない切込量である限界切込量は、歯切り工具42の回転速度が安定限界速度SS1,SS2,SS3,SS4であるときに大きくなる。つまり、歯車加工装置1は、歯切り工具42の回転速度を安定限界速度に設定することで、加工能率の向上を図ることができる。
【0036】
図5の下側のグラフが示すように、びびり振動の周波数は、歯切り工具42の回転速度の変化に伴って変動すると共に、安定限界速度を境に急激に変動する。この点に着目し、適正回転速度検出部142は、びびり加工時に計測した歯切り工具42の振動の周波数分析を行い、周波数の変動量が所定量を超えたときの回転速度を検出する。つまり、分析部140は、適正回転速度検出部142が検出した回転速度を、実際の安定回転速度として導出し、導出した安定回転速度を回転速度設定部112に設定する。
【0037】
また、制御装置100は、びびり振動が発生したと判定されたときに切削加工がなされた工作物Wに対し、加工条件設定部110に設定した加工条件を修正して切削加工を行う加工条件修正部150を備える。そして、加工条件修正部150は、再加工制御部151と、分割加工制御部152とを備える。
【0038】
再加工制御部151は、びびり加工を行った工作物Wに対して切削加工を行う際に、工作物Wが良品となるように各種モータの駆動制御を行う。再加工制御部151は、2回目の送り動作でびびり加工を行った工作物Wに対して3回目の切削加工(仕上加工)を行う際に、歯切り工具42の回転速度を、適正回転速度検出部142が検出した安定回転速度に設定する。この場合、歯車加工装置1は、仕上加工時にびびり振動が発生することを抑制できる。また、歯車加工装置1は、びびり加工を行った工作物Wに対し、歯切り工具42の回転速度を適正にした状態で仕上加工を行うことにより、最終的に工作物Wが良品となるように切削加工することができる。その結果、歯車加工装置1は、不良品として廃棄する工作物Wを少なくすることができるので、全体的な製造工ストの低減を図ることができる。
【0039】
分割加工制御部152は、加工条件設定部110に設定された加工条件で行った切削加工(荒加工)でびびり振動が発生したと判定された後、当該切削加工がなされた工作物Wを切削加工する際に各種モータの駆動制御を行う。分割加工制御部152は、送り動作に残数がある場合(切削代が残存している場合)に、送り動作の残り回数を、加工プログラムに基づいて決められた送り動作の残り回数よりも増やし、1回の送り動作毎の切込量を小さくする。
【0040】
このように、分割加工制御部152は、びびり振動が発生した時に切削加工がなされた工作物Wが良品となるように加工条件を修正し、切削加工を行う。これにより、歯車加工装置1は、びびり振動が発生した場合であっても、びびり振動が発生したときに切削加工がなされた工作物が不良品として廃棄されることを少なくすることができるので、全体的な製造工ストの低減を図ることができる。
(4:振動分析処理)
【0041】
次に、
図6に示すフローチャートを参照しながら、制御装置100により実行される振動分析処理について説明する。振動分析処理は、工作物Wの切削加工中に計測した振動を分析し、びびり振動が発生したか否かを判定する。そして、振動分析処理は、びびり振動が発生したと判断した場合に、歯切り工具42の適正な回転速度を求める。また、振動分析処理は、びびり振動が発生したときに切削加工がなされた工作物Wに対し、その工作物Wが最終的に良品となるような加工条件で切削加工を再度行う。
【0042】
図6に示すように、振動分析処理において、制御装置100は、工作物Wの切削加工中に発生する歯切り工具42の振動を計測する(S1:振動計測工程)。なお、S1の処理の中で行われる切削加工は、加工条件設定部110に設定された加工条件で行われ、歯切り工具42の回転速度及び切込量は、1回の送り動作を通して不変とする。そして、びびり判定部130は、計測した歯切り工具42の振動の周波数分析を行い、びびり振動が発生したか否かの判定を行う(S2:びびり判定工程)。なお、S2の処理は、1回の送り動作が終了する毎に行う。
【0043】
S2の処理において、びびり振動が発生しなかったと判定された場合(S3:No)、回転速度設定部112に設定された回転速度を変更する必要がないため、制御装置100は、そのまま本処理を終了する。そして、制御装置100は、S1の処理で行った送り動作が最後の送り動作でない(荒加工である)場合には、次の送り動作を行い、S2の処理で行った切削加工が最後の送り動作(仕上加工)であれば、工作物Wを交換し、新たに工作物Wに対する切削加工を行う。
【0044】
一方、S2の処理において、びびり振動が発生したと判定した場合(S3:Yes)、分割加工制御部152は、切削加工中の工作物(びびり振動が発生したときに切削加工がなされた工作物W)に対する切削加工を再度行う(S4)。なお、S4の処理は、S1の処理で行った送り動作が最後の送り動作でない(荒加工である)場合に実行される。つまり、S2の処理で行った切削加工が最後の送り動作(仕上加工)の場合、工作物Wに切削代が残存しないため、S4の処理は、省略される。
【0045】
次に、制御装置100は、工作物Wを交換し(S5)、交換された新たな工作物Wに対するびびり加工を行う(S6:びびり加工工程)。本実施形態において、びびり加工は、2回目の送り動作の中で行うため、1回目の送り動作の中で行う切削加工は、加工条件設定部110に設定された加工条件で行う。
【0046】
S6の処理後、分析部140は、S6のびびり加工工程で計測した歯切り工具42の振動の周波数分析を行う。そして、適正回転速度検出部142は、周波数の変動量が所定量を超えたときの回転速度、つまり、
図5の下側のグラフにおいて、周波数が急変し、周波数曲線が分断されたときの歯切り工具42の回転速度を検出する(S7:検出工程)。そして、適正回転速度検出部142は、検出した回転速度を、歯切り工具42の適正な回転速度として回転速度設定部112に再設定する(S8)。
【0047】
ここで、S6からS8の処理について具体例を挙げながら説明する。例えば、びびり振動が発生したときの加工条件として、回転速度設定部112に設定された歯切り工具42の回転速度がSS3、切込量設定部114に設定された切込量がF1であったとする。この場合、S6の処理において、びびり発生加工制御部141は、例えば、歯切り工具42の回転速度を、回転速度SS3に対して±3%の範囲であるSSR1からSSR2になるまで連続的に加速させながらびびり加工を行う。また、S6の処理において、びびり発生加工制御部141は、例えば、歯切り工具42の切込量を、F1よりも25%大きくしたF2に設定した状態でびびり加工を行う。
【0048】
そして、
図7に示すように、適正回転速度検出部142は、S7の処理において、びびり振動が発生すると予測される周波数帯域の振幅を監視し、周波数が急変したときの歯切り工具42の回転速度SS3´を検出する。そして、適正回転速度検出部142は、S8の処理において、検出された回転速度SS3´を、適正な歯切り工具42の回転速度として回転速度設定部112に再設定する。
【0049】
図6に戻り、振動分析処理の説明を続ける。S8の処理後、再加工制御部151は、びびり加工においてびびり振動を発生させながら切削加工を行った工作物Wに対し、歯切り工具42の回転速度をSS3´に設定した状態で仕上加工(再加工)を再度行い(S9:再加工工程)、本処理を終了する。このように、歯車加工装置1は、S9の再加工工程で、びびり加工がなされた工作物Wに対する切削加工を再度行う際に、歯切り工具42の回転速度を、S7の検出工程で検出した回転速度に設定する。よって、歯車加工装置1は、びびり加工がなされた工作物Wを、最終的には良品にすることができ、不良品として破棄される工作物Wの数を減らすことができる。
【0050】
ここで、びびり加工時における切込量は、切込量設定部114に設定された切込量(加工プログラムに基づいて定められた2回目の送り動作での切込量)よりも大きくなるため、3回目の送り動作(仕上加工)における切込量は、切込量設定部114に設定された切込量(加工プログラムに基づいて定められた3回目の送り動作での切込量)よりも小さくなる。その一方で、びびり加工で発生させた再生びびりによって不良となった加工面が仕上加工で良好となるように、びびり加工後の工作物Wには、一定以上の切削代を残存させておく必要がある。
【0051】
この点に関し、びびり発生加工制御部141は、1回目の送り動作での切込量を、切込量設定部114に設定された切込量(加工プログラムに基づいて定められた1回目の送り動作での切込量)よりも小さくしてもよい。これにより、歯車加工装置1は、2回目の送り動作での切込量を確保しつつ、びびり加工後の工作物Wに対し、一定以上の切削代を残存させておくことができる。よって、歯車加工装置1は、びびり加工で発生させた再生びびりによって不良となった加工面を、仕上加工で良好にすることができ、びびり加工を行った工作物Wを最終的に良品とすることができる。
【0052】
またこの場合、びびり発生加工制御部141は、びびり加工後に行う仕上加工を2回に分けて行い、各々の送り動作での切込量を分割して小さくしてもよい。これにより、歯車加工装置1は、工作物Wの加工面の面性状を良くすることができる。
【0053】
このように、びびり発生加工制御部141は、びびり振動が発生したときの加工条件を元に、びびり加工時における加工条件を決定する。即ち、加工条件設定部110に設定された加工条件で行った切削加工でびびり振動が発生した場合に、びびり発生加工制御部141は、びびり加工時における切込量を、切込量設定部114に設定された切込量よりも大きくする。これにより、びびり発生加工制御部141は、1回の送り動作の中で行う1回のびびり加工で、びびり振動を発生させやすくすることができる。
【0054】
その結果、適正回転速度検出部142は、1回の送り動作の中で行う切削加工において、周波数の変動量が所定量を超える回転速度を検出でき、その検出した回転速度を適正な歯切り工具の回転速度として導出することができる。このように、歯車加工装置1は、1回の送り動作の中で行うびびり加工で歯切り工具42の適正な回転速度(安定限界速度)を検出できるので、安定限界速度の把握を効率よく行うことができる。そして、再加工制御部151は、歯切り工具42を適正な回転速度に設定した状態で仕上加工を行うことにより、びびり加工でびびり振動を発生させながら切削加工を行った工作物Wを、最終的には良品とすることができる。よって、歯車加工装置1は、不良品として破棄される工作物Wの数量を減らすことができる分、全体的な製造コストの低減を図ることができる。
【0055】
また、びびり発生加工制御部141は、回転速度設定部112に設定された回転速度の±3%の範囲内で歯切り工具42を加速させる。これにより、歯車加工装置1は、1回の送り動作の中で行うびびり加工において、歯切り工具42の回転速度の変化量を小さくすることができる。つまり、びびり振動は、回転速度変化(変動)が大きい場合に抑制されることがある。これに対し、歯車加工装置1は、歯切り工具42の回転速度の変化量を小さくすることで、びびり振動が抑制されることを回避できる。また、びびり発生加工制御部141は、歯切り工具42の回転速度の変化を回転速度設定部112に設定された回転速度の前後で行うことにより、びびり振動を発生させやすくすることができる。
【0056】
なお、本実施形態において、びびり加工は、加工条件設定部110に設定した加工条件で切削加工したときにびびり振動が発生したと判定された工作物Wとは別の工作物Wを用いて行う。この場合、びびり発生加工制御部141は、びびり振動が発生したときに切削加工がなされた工作物Wに残存する切削代とは関係なく、びびり加工時における加工条件を設定できる。よって、歯車加工装置1は、びびり加工を行った後、工作物Wに残存する切削代を十分に確保できるので、びびり加工を行った工作物Wを最終的に良品とすることができる。
【0057】
その一方で、歯車加工装置1は、加工条件設定部110に設定した加工条件で行った切削加工でびびり振動が発生した場合に、そのびびり振動が発生したときに切削加工がなされた工作物Wに切削代が残存していれば、その工作物Wが最終的に良品となるような加工条件で、切削加工を再度行う。このとき、分割加工制御部152は、びびり振動が発生したときよりも切込量を小さくしつつ、歯切り工具42の送り動作を複数回に亘って行いながら切削加工する。これにより、歯車加工装置1は、びびり振動が再度発生することを抑制することができるので、びびり振動が発生したときに切削加工がなされた工作物Wを最終的に良品とすることができる。
【0058】
(5.その他)
以上、上記実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変形改良が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、本実施形態では、びびり加工時において歯切り工具42の回転速度を変化させる範囲が、回転速度設定部112に設定された回転速度の±3%の範囲内とする場合を例に挙げて説明したが、歯切り工具42の回転速度を変化させる範囲は、適宜変更してもよい。
【0059】
例えば、上記実施形態では、1つの工作物Wに対して3回の送り動作を行う場合を例に挙げて説明したが、本発明は、複数回の送り動作を行う歯車加工装置及び歯車加工方法に適用することが可能である。また、上記実施形態において、びびり加工が2回目の送り動作の中で行われる場合について説明したが、1回目の送り動作の中でびびり加工を行ってもよい。つまり、びびり加工は、複数回行う送り動作のうち、最後の送り動作以外の送り動作の中で行えばよい。
【0060】
また、本実施形態において、びびり加工は、歯切り工具42の回転速度を加速させながら工作物Wの切削加工を行う場合について説明したが、歯切り工具42の回転速度を減速させながら工作物Wの切削加工を行ってもよい。さらに、本実施形態において、びびり加工は、歯切り工具42の回転速度を連続的に変化させる場合について説明したが、歯切り工具42の回転速度を段階的に変化させてもよい。例えば、歯切り工具42は、定速での回転と加速しながらの回転とを繰り返しながら切削加工を行い、振動計測装置90は、歯切り工具42が定速で回転しているときに歯切り工具42の振動を計測する。この場合、適正回転速度検出部142は、歯切り工具42の回転速度を連続的に変化させる場合と比べて、適正な回転速度を正確に検出しやすくすることができる。
【0061】
上記実施形態では、分析部140が、加工条件設定部110に設定された加工条件で切削加工を行っているときにびびり振動が発生した場合に、びびり加工を行うと共に歯切り工具42の回転速度の再設定を行う場合について説明したが、これに限られるものではない。例えば、制御装置100が、びびり加工を行った後に切削加工を行った工作物Wの数をカウントするカウント部を備え、分析部140は、カウント部のカウント値が所定数に到達した場合、即ち、びびり加工後に切削加工を行った工作物Wの数が所定数に到達した場合に、びびり加工及び歯切り工具42の回転速度の再設定を行ってもよい。
【0062】
この場合、分析部140は、びびり加工及び歯切り工具42の回転速度の再設定を定期的に行うことができる。つまり、実際の安定限界速度は、歯車加工装置1の各種部品や歯切り工具42等の経年劣化によって変化することも考えられる。これに対し、歯車加工装置1は、適正な回転速度を定期的に見直すことにより、びびり振動の発生を未然に防止することができる。
【符号の説明】
【0063】
1:歯車加工装置、 42:歯切り工具、 90:振動計測装置、 100:制御装置、 130:びびり判定部、 141:発生加工制御部、 142:適正回転速度検出部、 151:再加工制御部、 S1:振動計測工程、 S2:びびり判定工程、 S6:びびり加工工程、 S7:検出工程、 S9:再加工工程、 O:歯切り工具の回転軸線、 W:工作物