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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】テニスボール用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20230214BHJP
   A63B 39/00 20060101ALI20230214BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20230214BHJP
   C08K 5/19 20060101ALI20230214BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20230214BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230214BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230214BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20230214BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
C08L21/00
A63B39/00 Z
C08K3/34
C08K5/19
C08K9/04
C08K3/013
C08K3/04
C08K3/36
C08K3/26
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018236310
(22)【出願日】2018-12-18
(65)【公開番号】P2020097672
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 建彦
(72)【発明者】
【氏名】田口 順則
(72)【発明者】
【氏名】志賀 一喜
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 文哉
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡明
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 邦夫
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-029769(JP,A)
【文献】特開2015-189967(JP,A)
【文献】特開2005-082643(JP,A)
【文献】特表2009-501835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
A63B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材ゴムと、カップリング剤で表面処理されたクレーとを含んでおり、
上記カップリング剤が、トリメチルステアリルアンモニウム、ジメチルステアリルベンジルアンモニウム、ジメチルジオクタデシルアンモニウム、オレイルビス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム、ラウリルトリメチルアンモニウム、トリオクチルアンモニウム、ジステアリルジメチルアンモニウム、ベヘニルトリメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウム、n-ドデシルトリメチルアンモニウム、セチルジメチルベンジルアンモニウム、メチルセチルジベンジルアンモニウム、セチルジメチルエチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウムの水酸化物又はハロゲン化物からなる群から選択される、テニスボール用ゴム組成物。
【請求項2】
上記カップリング剤で表面処理されたクレーの量が、上記基材ゴム100質量部に対して、1質量部以上100質量部以下である請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
その0℃における損失正接がtanδとされ、上記カップリング剤で表面処理されたクレーを、表面処理されていないクレーに置換して得られるゴム組成物の、0℃における損失正接がtanδとされるとき、比(tanδ/tanδ)が、0.95以下である請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
その0℃における損失正接tanδと、その40℃における窒素ガス透過係数G(cm3・cm/cm2/sec/cmHg)との積に、1010を乗じて得られる値Vが0.50以下である請求項1から3のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項5】
上記カップリング剤で表面処理されたクレーに含まれる、上記カップリング剤の量が、1質量%以上50質量%以下である請求項1からのいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項6】
上記カップリング剤で表面処理されていないクレーをさらに含む請求項1からのいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項7】
カーボンブラック、シリカ、炭酸マグネシウム及び炭酸カルシウムからなる群から選択される充填剤をさらに含む請求項1からのいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項8】
上記基材ゴムが、ブタジエンゴム及び天然ゴムを含んでおり、この基材ゴム中のブタジエンゴムの天然ゴムに対する質量比B/Nが、1.4以下である請求項1からのいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項9】
硫黄含有量が0.01質量%以上10質量%以下である請求項1からのいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項10】
ショアA硬度Haが20以上88以下である請求項1からのいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項11】
上記充填剤の配合量が、上記基材ゴム100質量部に対して、1質量部以上50質量部以下である、請求項7に記載のゴム組成物。
【請求項12】
上記クレーの平均厚さTが0.001μm以上1.00μm以下である、請求項1から11のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項13】
上記クレーの平均粒子径D 50 (μm)を、その平均厚さT(μm)で除すことにより求められる扁平度DLが20以上200以下である、請求項1から12のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項14】
0℃における損失正接tanδが0.10以下である、請求項1から13のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項15】
40℃における窒素ガス透過係数Gが、10.0×10 -10 (cm 3 ・cm/cm 2 /sec/cmHg)以下である請求項1から14のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項16】
請求項1から15のいずれかに記載のゴム組成物を用いて得られるコアを備えたテニスボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テニスボール用ゴム組成物に関する。詳細には、本発明は、テニスボールのコアに用いるゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
テニスボールは、ゴム組成物からなるコアと、このコアを被覆するフェルト(メルトン)とを備えている。このコアは、中空の球体である。硬式テニスで使用されるテニスボールでは、コアの内部に、大気圧よりも40kPaから120kPa高い圧力の圧縮ガスが充填されている。このテニスボールは、加圧テニスボール(プレッシャーボール)とも称される。
【0003】
加圧テニスボールでは、大気圧よりも高いコアの内圧により、優れた反発性能と良好な打球感とが付与される。一方、コアの内圧が大気圧よりも高いことに起因して、充填された圧縮ガスが徐々にコアから漏出する。ガスの漏出によって、コアの内圧が大気圧付近まで減少する場合がある。コアの内圧が減少したテニスボールは、反発性能及び打球感に劣る。反発性能及び打球感の経時変化が少ないテニスボールが要望されている。
【0004】
特開昭61-143455号公報では、ガスの漏出を防止するための材料として、鱗片状ないし平板状充填剤を配合したゴム材料が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭61-143455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特開昭61-143455号公報が開示するゴム材料では、鱗片状又は平板状充填剤が、ガスの透過を阻害して漏出防止に寄与する。しかし、鱗片状又は平板状充填剤の場合、ゴム材料中への均一な分散が容易ではなく、その配合量によっては、ゴム材料中で充填剤同士が接触する場合があった。ゴム材料中での充填剤同士の接触は、このゴム材料から得られるテニスボールの反発性能を低下させる要因の一つである。反発性能が低いテニスボールは、打球感に劣る。打球感を阻害することなく、ガスの漏出を効果的に抑制しうるテニスボール用ゴム組成物は、未だ提案されていない。
【0007】
本発明の目的は、ガスの漏出を防止して、良好な打球感を長期間持続しうるテニスボール用ゴム材料及びテニスボールの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るゴム組成物は、基材ゴムと、カップリング剤で表面処理されたクレーとを含んでいる。このカップリング剤の分子構造中には、ケイ素(Si)が含まれない。
【0009】
好ましくは、このカップリング剤で表面処理されたクレーの量は、この基材ゴム100質量部に対して、1質量部以上100質量部以下である。
【0010】
このゴム組成物の0℃における損失正接がtanδとされ、このカップリング剤で用いて表面処理されたクレーを、表面処理されていないクレーに置換して得られるゴム組成物の、0℃における損失正接がtanδとされるとき、好ましくは、比(tanδ/tanδ)は0.95以下である。
【0011】
好ましくは、このゴム組成物の0℃における損失正接tanδと、このゴム組成物の40℃における窒素ガス透過係数G(cm3・cm/cm2/sec/cmHg)との積に、1010を乗じて得られる値Vは0.50以下である。
【0012】
好ましくは、このカップリング剤は、このクレーとの相互作用が可能な官能基Xと、この基材ゴムとの相互作用が可能な官能基Yとを有し、一般式X-Yで示される化合物である。
【0013】
好ましくは、この官能基Xは、4級アンモニウム基(-NZ)である。ここで、R、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1~30の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、アルケニル基、アルキルフェニル基、アルケニルフェニル基、ヒドロキシアルキル基又はヒドロキシアルケニル基である。Zは陰イオンである。好ましくは、この官能基Yは、炭素数1~30の直鎖状、分岐上又は環状のアルキル基又はアルケニル基である。
【0014】
好ましくは、このカップリング剤で表面処理されたクレーに含まれる、カップリング剤の量は、1質量%以上50質量%以下である。
【0015】
好ましくは、このゴム組成物は、このカップリング剤で表面処理されていないクレーをさらに含む。好ましくは、このゴム組成物は、カーボンブラック、シリカ、炭酸マグネシウム及び炭酸カルシウムからなる群から選択される充填剤をさらに含む。
【0016】
好ましくは、この基材ゴムは、ブタジエンゴム及び天然ゴムを含んでいる。この基材ゴム中のブタジエンゴムの配合量Bの天然ゴムの配合量Nに対する質量比B/Nは、1.4以下である。好ましくは、このゴム組成物の硫黄含有量は0.01質量%以上10質量%以下である。好ましくは、このゴム組成物のショアA硬度Haは、20以上88以下である。
【0017】
このテニスボールは、前述したいずれかのゴム組成物を用いて得られるコアを備えている。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るゴム組成物は、分子構造中にケイ素(Si)を含まないカップリング剤を用いて表面処理されたクレーを含んでいる。このカップリング剤で表面処理されたクレーと、基材ゴムとの親和性は高い。さらに、このカップリング剤で表面処理されたクレーは、基材ゴムを主成分とするマトリックスに、均一且つ微細に分散される。このゴム組成物によれば、均一且つ微細に分散されたクレーによって、打球感を損なうことなく、ガスの漏出が抑制されたテニスボールが得られる。このテニスボールでは、良好な打球感が長期間維持されうる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るテニスボールの一部切り欠き断面図である。
図2図2は、実施例2のゴム組成物からなる試験片のSEM写真(2A:倍率1000倍、2B:倍率5000倍)である。
図3図3は、比較例1のゴム組成物からなる試験片のSEM写真(倍率1000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係るテニスボール2が示された一部切り欠き断面図である。このテニスボール2は、中空のコア4と、このコア4を被覆する2枚のフェルト部6と、この2枚のフェルト部6の間隙に位置するシーム部8とを有している。コア4の厚みは、通常、3mmから4mm程度である。コア4の内部には、圧縮ガスが充填されている。コア4の表面には、2枚のフェルト部6が、接着剤により貼り付けられている。
【0022】
コア4は、本発明の一実施形態に係るゴム組成物から形成されている。このゴム組成物は、基材ゴムと、カップリング剤で表面処理されたクレーとを含んでいる。換言すれば、このゴム組成物は、基材ゴムと、クレーと、このクレーに結合したカップリング剤とを含んでいる。このカップリング剤は、その分子構造中にケイ素(Si)を含んでいない化合物である。
【0023】
クレーとは、含水ケイ酸塩を主成分とする粘土鉱物であり、多数の扁平粒子からなる。このゴム組成物において、クレーをなす多数の扁平粒子は、基材ゴムを主成分とするマトリックスに分散している。本願明細書において、基剤ゴムを主成分とするマトリックスを「ゴム成分」と記載する場合がある。
【0024】
クレーをなす各扁平粒子は、アルミニウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム等の金属イオンとケイ酸が結合してなるシートが層状に積層した構造を有している。このクレーが、その分子構造中にケイ素(Si)を含まないカップリング剤を用いて表面処理されることにより、各扁平粒子の表面に有機官能基が付与されて基材ゴムとの親和性が向上する。さらに、その分子構造中にケイ素(Si)を含まないカップリング剤は、クレーの積層構造の内部にも作用する。これにより、基材ゴムとの混練中に、各扁平粒子の積層構造が破壊され、層間剥離が生じやすくなる。本発明に係るゴム組成物では、層状剥離したクレーの粒子が、微細且つ均一にゴム成分中に分散される。その分子構造中にケイ素(Si)を含まないカップリング剤で表面処理されたクレーは、分散性に優れる。以下、本願明細書において、分子構造中にケイ素(Si)を含まないカップリング剤を、非ケイ素系カップリング剤と称する場合がある。
【0025】
このゴム組成物では、均一且つ微細に分散されたクレーの粒子によって、ガスの漏出が抑制される。このゴム組成物からなるコア4を備えたテニスボール2では、クレーの分散不良に起因する反発性能及び打球感の低下が生じない。このゴム組成物によれば、好適なコンディションを長期間維持することが可能なテニスボール2が得られる。
【0026】
これに対し、分子構造中にケイ素(Si)を含むカップリング剤を用いて表面処理されたクレーでは、このような顕著な効果が得られない。例えば、分子構造中にケイ素(Si)を含むカップリング剤として、シランカップリング剤が知られている。本発明者等が得た知見によると、シランカップリング剤は、その強い疎水性に起因して、クレーの積層構造の内部に作用することができないため、層間剥離による分散性向上効果が得られないものと考えられる。また、シランカップリング剤は、クレーの表面に作用することはできるが、このクレーに結合したシランカップリング剤同士が反応することにより、かえってクレー粒子の分散が阻害されるものと推測される。
【0027】
本発明の効果が得られる限り、その分子構造中にケイ素(Si)を含まないカップリング剤の種類は特に限定されないが、好ましくは、
(1)クレーとの相互作用が可能な官能基Xと、基材ゴムとの相互作用が可能な官能基Yとを有し、一般式X-Yで示される化合物
及び/又は
(2)エーテル型ノニオン系界面活性剤
である。
【0028】
本発明の目的が達成される限り、非ケイ素系カップリング剤として、化合物(1)とエーテル型ノニオン系界面活性剤(2)とが併用されてもよい。クレーとの親和性の観点から、一般式X-Yで示される化合物(1)がより好ましい。
【0029】
一般式X-Yで示される化合物(1)を非ケイ素系カップリング剤として含むゴム組成物では、官能基Xがクレーと相互作用し、官能基Yが基材ゴムと相互作用することにより、クレーと基材ゴムとの親和性が向上する。さらに、このゴム組成物では、官能基Xが、クレーの積層構造の内部にも作用して層間剥離を生じさせることにより、クレーが、より微細な粒子として、ゴム成分中に分散されうる。
【0030】
化合物(1)の官能基Xは、クレーの表面及び/又は積層構造の内部に存在する水酸基、カルボニル基、カルボキシル基等と相互作用する機能を有している限り、その種類は特に限定されない。好ましくは、官能基Xは、4級アンモニウム基(-NZ)である。ここで、R、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1~30の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、アルケニル基、アルキルフェニル基、アルケニルフェニル基、ヒドロキシアルキル基又はヒドロキシアルケニル基であり、Zは、水酸化物イオン、ハロゲン化物イオン等の陰イオンである。
【0031】
クレーとの親和性の観点から、より好ましい官能基Xは、4級アンモニウム基(-NZ)である。立体障害軽減の観点から、R、R及びRの少なくとも1つが、炭素数1~30の直鎖状アルキル基である4級アンモニウム塩が好ましい。直鎖状アルキル基の炭素数は1~25がより好ましく、1~20がさらに好ましく、1~10が特に好ましい。R、R及びRの少なくとも1つが、メチル基である4級アンモニウム基が特に好ましい。陰イオンZとしては、水酸化物イオン及び塩化物イオンが好ましい。
【0032】
官能基Yは、基材ゴムの分子鎖に含まれる官能基(例えば、炭素-炭素二重結合等)又はこの基材ゴムの分子鎖が加硫時に切断されて生じるラジカル等と相互作用する機能を有している限り、その種類は特に限定されない。好ましくは、この官能基Yは、炭素数1~30の直鎖状、分岐上又は環状のアルキル基又はアルケニル基である。
【0033】
官能基Xが4級アンモニウム基である非ケイ素系カップリング剤は、4級アンモニウム塩とも称される。このような4級アンモニウム塩の具体例としては、トリメチルステアリルアンモニウム、ジメチルステアリルベンジルアンモニウム、ジメチルジオクタデシルアンモニウム、オレイルビス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム、ラウリルトリメチルアンモニウム、トリオクチルアンモニウム、ジステアリルジメチルアンモニウム、ベヘニルトリメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウム、n-ドデシルトリメチルアンモニウム、セチルジメチルベンジルアンモニウム、メチルセチルジベンジルアンモニウム、セチルジメチルエチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム等の水酸化物又はハロゲン化物が挙げられる。トリメチルステアリルアンモニウム、ジメチルステアリルベンジルアンモニウム、ジメチルジオクタデシルアンモニウム、オレイルビス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムの水酸化物又はハロゲン化物が好ましい。より好ましい4級アンモニウム塩は、トリメチルステアリルアンモニウム、ジメチルステアリルベンジルアンモニウム、ジメチルジオクタデシルアンモニウム、オレイルビス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムのハロゲン化物である。2種以上が併用されてもよい。
【0034】
エーテル型ノニオン系界面活性剤(2)は、一般式RO(RO)Hで示される。ここで、Rは、置換基を有してもよい炭素数1~30の直鎖状又は分岐状のアルキル基、アルキルフェニル基、アルケニル基、アルケニルフェニル基又は水素原子であり、Rは、炭素数1~4の直鎖状又は分岐状のアルキレン基であり、nは、1~30の自然数であり、Oは酸素原子であり、Hは水素原子である。
【0035】
このようなエーテル型ノニオン系界面活性剤の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコールアルケニルエーテル、アルキルポリエチレングリコール、アルキルポリエチレングリコールアルキルエーテル、アルキルポリエチレングリコールアルケニルエーテル、アルケニルポリエチレングリコール、アルケニルポリエチレングリコールアルキルエーテル、アルケニルポリエチレングリコールアルケニルエーテル、ポリプロピレングリコールアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールアルケニルエーテル、アルキルポリプロピレングリコール、アルキルポリプロピレングリコールアルキルエーテル、アルキルポリプロピレングリコールアルケニルエーテル、アルケニルポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルフェニルポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテル、アルキルフェノールポリエチレングリコールエーテル、アルキルフェニルポリエトキシエタノール、アルキルフェニルポリグリコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられる。2種以上が併用されてもよい。
【0036】
より好ましいエーテル型ノニオン系界面活性剤(2)は、アルキルポリエチレングリコールである。
【0037】
本発明の効果が得られる限り、非ケイ素系カップリング剤で表面処理されるクレーの種類は特に限定されず、天然物、天然物からの精製品及び合成品から適宜選択されうる。例えば、カオリン、ハロイサイト、ナクライト等のカオリナイト類;ベントナイト、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バイデライト、バーミキュライト等のスメクタイト類;アンティゴライト、アメサイト等のアンティゴライト類;パイロフィライト、タルク等のパイロフィライト類;イライト、グロコナイト等のイライト類、セピオライト、アタパルジャイト等のクロライト;マイカ、白雲母、金雲母、黒雲母等の雲母類が挙げられる。2種以上を併用してもよい。
【0038】
基材ゴムとの親和性及びガス漏出防止の観点から、カオリンクレー及び/又はベントナイトクレーが好ましい。
【0039】
クレーの平均粒子径D50は、その種類によって適宜選択される。ガス漏出防止の観点から、クレーの平均粒子径D50は、0.01μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましく、0.1μm以上が特に好ましい。基材ゴムとの混合性の観点から、平均粒子径D50は20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下が特に好ましい。本願明細書において、平均粒子径D50(μm)とは、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、セイシン企業社製のLMS-3000)によって測定される粒度分布において、小径側から累積して50体積%となる平均粒子径を意味する。
【0040】
クレーの平均厚さTは、その種類によって適宜選択される。ガス漏出防止の観点から、クレーの平均厚さTは1.00μm以下が好ましく、0.80μm以下がより好ましく、0.50μm以下が特に好ましい。基材ゴムとの混合性の観点から、平均厚さTは0.001μm以上が好ましく、0.002μm以上がより好ましく、0.003μm以上が特に好ましい。本願明細書において、クレーの平均厚さT(μm)は、透過型電子顕微鏡等の顕微鏡観察により測定される。具体的には、クレーから採取した複数の粒子を、透過型電子顕微鏡(例えば、日立ハイテクノロジーズ社製のH-9500)で観察して得られた画像から、このクレーの平均粒子径D50と同等の大きさの粒子を選択してその厚さを測定する。12個の粒子について得られた測定値の平均値が、このクレーの平均厚さTとされる。
【0041】
好ましくは、クレーの平均粒子径D50(μm)を、その平均厚さT(μm)で除すことにより求められる扁平度DLは、20以上である。ガス漏出防止の観点から、クレーの扁平度DLは、30以上がより好ましく、40以上がさらに好ましい。ゴム成分との混合性の観点から、好ましい扁平度DLは、200以下である。なお、クレーをなす複数の扁平粒子が凝集又は多層化して集合体を形成している場合、扁平度DLは、この集合体を含んだ状態で測定して得られる平均粒子径D50及び平均厚さTから算出される。
【0042】
基材ゴムとの密着性の観点から、非ケイ素系カップリング剤で表面処理されたクレーに含まれる非ケイ素系カップリング剤の量(以下、変性率とも称する)は、1質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上が特に好ましい。打球感の観点から、変性率は、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下が特に好ましい。
【0043】
本発明の効果が得られる限り、非ケイ素系カップリング剤で表面処理されたクレーを得る方法は、特に限定されない。例えば、水等の溶媒中に分散させたクレーに、所定量の非ケイ素系カップリング剤を添加し、必要に応じて加熱しながら、還流下で反応させた後、乾燥させることにより、非ケイ素系カップリング剤で表面処理されたクレーが得られる。
【0044】
前述した方法で表面処理をおこなう場合、本発明の効果が得られやすいとの観点から、クレーに対する非ケイ素系カップリグ剤の添加量は、1質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上が特に好ましい。打球感の観点から、カップリング剤の量は、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下が特に好ましい。扁平状充填剤に対するカップリング剤の添加量によって、前述の変性率が調整されうる。本発明の目的が達せられる限り、市販品をそのまま使用することも可能である。
【0045】
本発明に係るゴム組成物において、その分子構造中にケイ素(Si)を含まないカップリング剤を用いて表面処理されたクレーの配合量は、その種類等によって適宜調整される。ガス漏出防止の観点から、好ましくは、この非ケイ素系カップリング剤で表面処理されたクレーの量は、基材ゴム100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、20質量部以上がさらに好ましく、30質量部以上が特に好ましい。打球感の観点から、この量は、100質量部以下が好ましく、90質量部以下がより好ましく、80質量部以下がさらに好ましく、70質量部以下が特に好ましい。
【0046】
本発明の効果が阻害されない範囲で、ゴム組成物が、非ケイ素系カップリング剤で表面処理されていないクレーを含んでもよく、非ケイ素系カップリング剤以外のカップリング剤で表面処理されたクレーを含んでもよい。
【0047】
本発明の効果が得られる限り、ゴム組成物が、さらに他の充填剤を含んでもよい。この他の充填剤として、例えば、シリカ、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、グラファイト、グラフェン、フラーレン、カーボンナノチューブ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、珪藻土、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ビスマス、硫酸バリウム等が挙げられる。カーボンブラック、シリカ、炭酸マグネシウム及び炭酸カルシウムからなる群から選択される1又は2以上が好ましい。これら他の充填剤は、表面処理されたものであってもよく、表面処理されていなくてもよい。2種以上を併用してもよい。
【0048】
他の充填剤の平均粒子径D50は、その種類に応じて適宜設定される。ガス漏出防止の観点から、他の充填剤の平均粒子径D50は、0.01μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましく、0.10μm以上が特に好ましい。打球感の観点から、他の充填剤の平均粒子径D50は、50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましく、10μm以下が特に好ましい。他の充填剤の平均粒子径D50(μm)は、前述したクレーと同様の方法にて測定される。
【0049】
本発明の効果が阻害されない限り、他の充填剤の配合量は特に限定されない。補強性の観点から、他の充填剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上が特に好ましい。打球感の観点から、他の充填剤の配合量は、50質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、20質量部以下が特に好ましい。2種以上を併用する場合、その合計量が上記範囲内となるように調整される。
【0050】
非ケイ素系カップリング剤で表面処理されたクレーと、これに該当しない充填剤とを併用する場合、補強性及びガス漏出防止の観点から、その総配合量は、基材ゴム100質量部に対して、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、20質量部以上が特に好ましい。打球感の観点から、総配合量は、200質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましい。なお、本願明細書において、非ケイ素系カップリング剤に該当しない充填剤とは、前述した他の充填剤、非ケイ素系カップリング剤で表面処理されていないクレー、非ケイ素系カップリング剤以外のカップリング剤で表面処理されたクレーを意味する。
【0051】
非ケイ素系カップリング剤で表面処理されたクレーと、これに該当しない充填剤とを併用する場合、ガス漏出防止の観点から、非ケイ素系カップリング剤で表面処理されたクレーが前述の総配合量に占める比率は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましく、上限値は100質量%である。
【0052】
本発明に係るゴム組成物において、好適な基材ゴムの例は、天然ゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリクロロプレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、イソブチレン-イソプレン共重合体及びアクリルゴムである。より好ましい基材ゴムは、天然ゴム及びポリブタジエンである。これらのゴムの2種以上が併用されてもよい。
【0053】
天然ゴムとポリブタジエンとが併用される場合、打球感の観点から、天然ゴムの配合量Nに対するポリブタジエンゴムの配合量Bの質量比B/Nは、1.4以下が好ましく、1.0以下がより好ましく、0.4以下が特に好ましい。基材ゴムの全量が、天然ゴムであってもよい。
【0054】
好ましくは、このゴム組成物は、加硫剤、加硫促進剤及び加硫助剤をさらに含んでいる。加硫剤として、例えば、粉末硫黄、不溶性硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄等の硫黄;モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド等の硫黄化合物が挙げられる。加硫剤の配合量は、その種類に応じて調整されるが、反発性能の観点から、基材ゴム100質量部に対して0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましい。加硫剤の配合量は5.0質量部以下が好ましい。
【0055】
好適な加硫促進剤として、例えば、グアニジン系化合物、スルフェンアミド系化合物、チアゾール系化合物、チウラム系化合物、チオウレア系化合物、ジチオカルバミン酸系化合物、アルデヒド-アミン系化合物、アルデヒド-アンモニア系化合物、イミダゾリン系化合物、キサンテート系化合物等が挙げられる。反発性能の観点から、加硫促進剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、1.0質量部以上が好ましく、2.0質量部以上がより好ましい。加硫促進剤の配合量は、6.0質量部以下が好ましい。
【0056】
加硫助剤としては、ステアリン酸等の脂肪酸、亜鉛華等の金属酸化物、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属塩が例示される。
【0057】
本発明の効果を阻害しない範囲で、このゴム組成物が、非ケイ素系カップリング剤に該当しない他のカップリング剤をさらに含んでもよい。このゴム組成物は、さらに老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、軟化剤、加工助剤、着色剤等の添加剤を含みうる。
【0058】
好ましくは、このゴム組成物は硫黄を含んでいる。ゴム組成物中に含まれる硫黄は、架橋構造の形成に寄与しうる。ゴム組成物の架橋密度は、このゴム組成物から得られるテニスボール2の打球感及び反発性能に影響する。反発性能の観点から、このゴム組成物の硫黄含有量は、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上が特に好ましい。打球感の観点から、硫黄含有量は、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、7質量%以下が特に好ましい。本願明細書において、ゴム組成物の硫黄含有量は、第17改正日本薬局方、一般試験法に記載の酸素フラスコ燃焼法に準じて測定される。なお、このゴム組成物に含まれる硫黄は、単体としての硫黄であってもよく、硫黄化合物に含まれる硫黄原子でもよい。この硫黄が、加硫剤又は加硫促進剤に由来するものであってもよい。
【0059】
ゴム組成物の0℃における損失正接tanδは、このゴム組成物からなるコア4及びこのコアを備えたテニスボール2の反発性能と相関する。適正な反発性能により、良好な打球感がもたらされる。この観点から、このゴム組成物の0℃における損失正接tanδは、0.10以下が好ましく、0.09以下がより好ましく、0.08以下が特に好ましく、その下限値は0である。なお、本願明細書において、0℃における損失正接tanδは、粘弾性スペクトロメーターで得られる温度分散曲線の0℃におけるtanδの値である。測定方法の詳細については、後述する。
【0060】
このゴム組成物の0℃における損失正接がtanδとされ、このゴム組成物に含まれる非ケイ素系カップリング剤で表面処理されたクレーの全量を、表面処理されていないクレーに置換して得られるゴム組成物の0℃における損失正接がtanδとされるとき、その比(tanδ/tanδ)が0.95以下であることがこのましい。比(tanδ/tanδ)は、このゴム組成物におけるクレーの分散性及びゴム成分との密着性を示す指標である。この比(tanδ/tanδ)が0.95以下であるゴム組成物では、クレーの分散不良に起因する打球感及び反発性能の低下が抑制される。この観点から、比(tanδ/tanδ)は、0.90以下がより好ましく、0.85以下が特に好ましく、その下限値は0である。
【0061】
好ましくは、このゴム組成物では、その0℃における損失正接tanδと、その40℃における窒素ガス透過係数G(cm3・cm/cm2/sec/cmHg)との積に、1010を乗じて得られる値V(=tanδ×G×1010)が、0.50以下である。この値Vが、0.50以下であるゴム組成物を用いて得られるコア4では、経時的なガスの漏出が低減される。このコア4を備えたテニスボール2では、長期間、適正な反発性能及び良好な打球感が維持される。この観点から、この値Vは、0.40以下がより好ましく、0.30以下が特に好ましい。下限は特に限定されないが、好ましい値Vは0.001以上である。
【0062】
コア4からのガスの漏出が防止され、好適な打球感及び反発性能が維持される、との観点から、このゴム組成物の40℃における窒素ガス透過係数Gは、10.0×10-10(cm3・cm/cm2/sec/cmHg)以下が好ましく、9.0×10-10(cm3・cm/cm2/sec/cmHg)以下がより好ましい。本願明細書において、窒素ガス透過係数Gは、JIS K7126-1に記載の差圧法に準拠して測定される。
【0063】
反発性能の観点から、このゴム組成物のショアA硬度Haは、20以上が好ましく、40以上がより好ましく、50以上が特に好ましい。打球感の観点から、硬度Haは、88以下が好ましく、85以下がより好ましく、80以下が特に好ましい。硬度Haは、自動硬度計(H.バーレイス社の商品名「デジテストII」)に取り付けられたタイプAデュロメータによって測定される。測定には、熱プレスで成形された、厚みが約2mmであるスラブが用いられる。23℃の温度下に2週間保管されたスラブが、測定に用いられる。測定時には、3枚のスラブが重ね合わされる。
【0064】
本発明の目的が達成される限り、このゴム組成物を製造する方法は、特に限定されない。例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等既知の混練機に、基材ゴムと、カップリング剤で表面処理されたクレーと、適宜選択された他の添加剤等とを投入して溶融混練した後、得られた混練物に加硫剤等を添加して、加圧及び加熱することにより、このゴム組成物が製造されてもよい。また、炭素系充填剤を配合する場合は、予め基剤ゴムと混合されたマスターバッチの状態で、ゴム組成物に添加されることが好ましい。炭素系充填剤がマスターバッチとして添加されることにより、ゴム組成物中における炭素系充填剤の分散性が向上する。なお、本願明細書において、炭素系充填剤とは、炭素原子を主構成成分とする多数の粒子からなる充填剤を意味する。好ましくは、その構成成分の90質量%以上が炭素原子である充填剤を意味する。
【0065】
混練条件及び加硫条件は、ゴム組成物の配合により選択される。好ましい混練温度は50℃以上180℃以下である。好ましい加硫温度は、140℃以上180℃以下である。加硫時間は2分以上60分以下が好ましい。
【0066】
このゴム組成物を用いて、テニスボール2を製造する方法も、特に限定されない。例えば、このゴム組成物を所定の金型中で加硫成形することにより、2つの半球状のハーフシェルを形成する。この2個のハーフシェルを、その内部にアンモニウム塩及び亜硝酸塩を含む状態で、貼り合わせた後、圧縮成形することにより、中空の球状体であるコア4を形成する。コア4の内部では、アンモニウム塩及び亜硝酸塩の化学反応により窒素ガスが発生する。この窒素ガスにより、コア4の内圧が高められる。次に、予め、ダンベル状に裁断し、その断面にシーム糊を付着させたフェルト部6を、このコア4の表面に貼り合わせることにより、テニスボール2が得られる。
【実施例
【0067】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0068】
[クレーの表面処理]
[変性クレー3]
カオリンクレー(イメリス社製の商品名「ECKALITE120」)900gと、精製水5Lと、ジメチルステアリルベンジルアンモニウムクロリド(和光純薬工業社製)100gとを混合し、100℃で3時間加熱還流した後、得られた混合物を80℃以下の温度で減圧濃縮して乾燥することにより、ジメチルステアリルベンジルアンモニウム変性カオリンクレー(変性率10質量%)を得た。
【0069】
[変性クレー4]
カオリンクレーの量を500gに変更し、ジメチルステアリルベンジルアンモニウムクロリドの量を500gに変更した以外は、クレー3と同様にして、ジメチルステアリルベンジルアンモニウム変性カオリンクレー(変性率50質量%)を得た。
【0070】
[変性クレー5]
カオリンクレーの量を450gに変更し、ジメチルステアリルベンジルアンモニウムクロリドの量を550gに変更した以外は、クレー3と同様にして、ジメチルステアリルベンジルアンモニウム変性カオリンクレー(変性率55質量%)を得た。
【0071】
[変性クレー6]
カオリンクレーの量を550gに変更し、100gのジメチルステアリルベンジルアンモニウムクロリドを、450gのアルキルポリエチレングリコール(和光純薬工業社製)に変更した以外は、クレー3と同様にして、アルキルポリエチレングリコール変性カオリンクレー(変性率45質量%)を得た。
【0072】
[変性クレー7]
カオリンクレー(イメリス社製の商品名「ECKALITE120」)600gと、精製水5Lと、トリエチルアミン(東京化成工業社製)5gと、オクタデシルトリエトキシシラン(東京化成工業社製)598gとを混合し、100℃で3時間加熱還流した後、得られた混合物を80℃以下の温度で減圧濃縮して乾燥することにより、オクタデシルシリル変性カオリンクレー(変性率40質量%)を得た。
【0073】
[実施例1]
80質量部の天然ゴム(商品名「SMR CV60」)、20質量部のポリブタジエンゴム(JSR社製の商品名「BR01」)、0.51質量部のステアリン酸(日油社製の商品名「つばき」)、56質量部の変性クレー1(ホージュン社製の4級アンモニウムカチオン変性ベントナイトクレー、商品名「レボナイト400」)、15質量部のカーボンブラック(キャボットジャパン社製の商品名「ショウブラックN330」)、5質量部の酸化亜鉛(正同化学社製の商品名「酸化亜鉛2種」)及び4.99質量部のシリカ(東ソー・シリカ社製の商品名「ニプシールVN3」)をバンバリーミキサーに投入して、90℃で5分間混練した。得られた混練物を40℃以下に冷却後、3.6質量部の硫黄(三新化学社製の商品名「サンフェルEX」、20%オイル含有)、1質量部の加硫促進剤1(三新化学社製の商品名「サンセラーD」)、1質量部の加硫促進剤2(大内新興化学社製の商品名「ノクセラーCZ」)及び1.88質量部の加硫促進剤3(大内新興化学社製の商品名「ノクセラーDM」)を添加して、オープンロールを用いて50℃で3分間混練することにより、実施例1のゴム組成物を得た。なお、カーボンブラックは、予め、基材ゴムと混練してマスターバッチを作成した後、このマスターバッチを、所定の配合量となるようにバンバリーミキサーに投入した。
【0074】
[実施例2-15]
ゴム組成物の組成を下表1-7に示されるものに変更した他は、実施例1と同様の方法にて、実施例2-15のゴム組成物を得た。
【0075】
[比較例1及び比較例4-12]
表1-7に示される通り、実施例1-15で用いた各変性クレー(非ケイ素系カップリング剤で表面処理されたクレー)を、それぞれ、未変性クレー8(カップリング剤で表面処理されていないクレー)に変更した他は、実施例1-15と同様の方法にて、比較例1及び比較例4-12のゴム組成物を得た。
【0076】
[比較例2]
表2に示される通り、実施例1で用いた56質量部の変性クレー1を、30.8質量部の未変性クレー8及び25.2質量部のカップリング剤(和光純薬社製のジメチルステアリルベンジルアンモニウムクロリド)に変更した他は、実施例1と同様の方法にて、比較例2のゴム組成物を得た。
【0077】
[比較例3]
表2に示される通り、実施例1で用いた変性クレー1を、シランカップリング剤で表面処理した変性クレー7に変更した他は、実施例1と同様の方法にて、比較例3のゴム組成物を得た。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】
【0083】
【表6】
【0084】
【表7】
【0085】
表1-7に記載された化合物の詳細は、以下の通りである。
NR:天然ゴム、商品名「SMR CV60」
BR:JSR社製のポリブタジエンゴム、商品名「BR01」
ステアリン酸:日油社製の商品名「つばき」
変性クレー1:ホージュン社製のジメチルジオクタデシルアンモニウム変性ベントナイトクレー、商品名「エスベンNX80」、変性率約45質量%、平均粒子径(D50)2μm、扁平度(DL)50
変性クレー2:ホージュン社製のジメチルステアリルベンジルアンモニウム変性ベントナイトクレー、商品名「レボナイト400」、変性率約35%質量%、平均粒子径(D50)5μm、扁平度(DL)40
変性クレー3:ジメチルステアリルベンジルアンモニウム変性カオリンクレー、変性率10質量%
変性クレー4:ジメチルステアリルベンジルアンモニウム変性カオリンクレー、変性率50質量%
変性クレー5:ジメチルステアリルベンジルアンモニウム変性カオリンクレー、変性率55質量%
変性クレー6:アルキルポリエチレングリコール変性カオリンクレー、変性率45質量%
変性クレー7:オクタデシルシリル変性カオリンクレー、変性率40質量%
未変性クレー8:イメリス社製のカオリンクレー、商品名「ECKALITE120」、平均粒子径(D50)4μm、扁平度(DL)20
カップリング剤:和光純薬社製のジメチルステアリルベンジルアンモニウムクロリド
カーボンブラック:キャボットジャパン社製の商品名「ショウブラックN330」、平均粒子径(D50)0.03μm、扁平度(DL)1、BET比表面積79m/g
酸化亜鉛:正同化学社製の商品名「酸化亜鉛2種」、平均粒子径(D50)0.6μm、扁平度(DL)1、BET比表面積4m/g
シリカ:東ソー・シリカ社製の商品名「ニプシールVN3」、平均粒子径(D50)20μm、扁平度(DL)1、BET比表面積200m/g
イオウ:三新化学社製の不溶性硫黄、商品名「サンフェルEX」、20%オイル含有
加硫促進剤1:三新化学社製の1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)、商品名「サンセラーD」
加硫促進剤2:大内新興化学社製のN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CZ)、商品名「ノクセラーCZ」
加硫促進剤3:大内新興化学社製のジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド(MBTS)、商品名「ノクセラーDM」
【0086】
[走査型電子顕微鏡観察]
実施例2及び比較例1のゴム組成物を、それぞれモールドに投入して、160℃で2分間、プレス加硫することにより、平板状の試験片を作製した。得られた各試験片の表面をクライオトームで切削し、走査型電子顕微鏡(フィリップス社製のXL-30)を用いて観察した。実施例2について得られた結果が図2に示されている。比較例1について得られた結果が図3に示されている。図2(2A)及び図3は倍率1000倍のSEM写真であり、図2(2B)は倍率5000倍のSEM写真である。
【0087】
図2及び図3において、ゴム組成物に含まれるクレー粒子が、白色部分として示されている。図2に示される通り、実施例2のゴム組成物中のクレー粒子は、倍率1000倍のSEM写真(2A)では明瞭に観察されず、倍率5000倍のSEM写真(2B)において、微細な薄片状に分散していることが観察された。一方、比較例1のゴム組成物中のクレー粒子は、倍率1000倍のSEM写真(図3)で明瞭に観察される大きさであった。このことから、所定のカップリング剤で表面処理されたクレー粒子では、他のゴム成分との混練中に層間剥離が生じて、その分散性が向上するが、表面処理されていないクレー粒子では、そのような作用効果が生じないことがわかる。
【0088】
[硫黄含有量測定]
実施例1-15及び比較例1-12のゴム組成物の硫黄含有量を、第17改正日本薬局方、一般試験法に記載の酸素フラスコ燃焼法に準じて測定した。各ゴム組成物10mgを燃焼させた後、合計55mLのメタノールを添加し、次いで0.005mol/Lの過塩素酸溶液20mLを正確に添加した。10分間放置して得られた溶液を、イオンクロマトグラフィー(島津製作所製のHIC-SP)を用いて測定することにより、硫黄含有量を定量した。得られた硫黄含有量(wt.%)が、下表8-13に示されている。
【0089】
[粘弾性測定]
実施例1-15及び比較例1-12のゴム組成物をモールドに投入して、160℃で2分間プレス加硫することにより、それぞれ、厚さ2mmの加硫ゴムシートを作製した。得られた各加硫ゴムシートを切断して、それぞれ、幅4mm、長さ20mmの試験片を準備した。各試験片の0℃における損失正接を、粘弾性スペクトロメーター(ユービーエム社製のE4000)を用いて、引張モード、初期歪み10%、周波数10Hz、振幅0.05%で測定した。
【0090】
実施例1-15のゴム組成物について得られた損失正接が、tanδ(0℃)として下表8-13に示されている。比較例1及び4-12のゴム組成物について得られた損失正接が、tanδ(0℃)として下表8-13に示されている。
【0091】
下表8に示されたNo.1-3のtanδ/tanδは、実施例1-3について得られたtanδと、実施例1-3中の各変性クレーと同量の未変性クレーを含む比較例1について得られたtanδとの比である。
【0092】
下表10に示されたNo.4-6のtanδ/tanδ及び下表11に示されたNo.7のtanδ/tanδは、実施例4-7について得られたtanδと、それぞれ、実施例4-7中の各変性クレーと同量の未変性クレーを含む比較例4-7について得られたtanδとの比である。
【0093】
下表11に示されたNo.8及び9のtanδ/tanδ並びに下表12に示されたNo.10のtanδ/tanδは、実施例8-1-0について得られたtanδと、実施例8-10中の各変性クレーと同量の未変性クレーを含む比較例1について得られたtanδとの比である。
【0094】
下表12に示されたNo.11及び12のtanδ/tanδ並びに下表13に示されたNo.13-15のtanδ/tanδは、実施例11-15について得られたtanδと、それぞれ、実施例11-15中の各変性クレーと同量の未変性クレーを含む比較例8-12について得られたtanδとの比である。
【0095】
[窒素ガス透過係数測定]
実施例1-15及び比較例1-12のゴム組成物を用いて、それぞれ、厚さ2mm、直径60mmの円盤状の試験片を準備した。JIS K7126-1「プラスチック-フィルム及びシート-ガス透過度試験方法-第1部:差圧法」に準じて、各試験片の厚さ方向の窒素ガス透過係数(cm3・cm/cm2/sec/cmHg)を測定した。測定には、GTRテック社製のガス透過試験機「GTR-30ANI」を使用した。測定条件は、サンプル温度40℃、測定セルの透過断面積15.2cm、差圧0.2MPaとした。測定はすべて23±0.5℃の室内でおこなった。得られた窒素ガス透過係数が、G(×10-10)として下表8-13に示されている。
【0096】
[硬度]
実施例1-15及び比較例1-12のゴム組成物をそれぞれモールドに投入して、160℃で2分間、プレス加硫することにより、厚さ2mmの試験片を各3枚作製した。得られた各試験片を23℃の温度下で2週間保管した。その後、「ASTM-D 2240-68」の規定に準拠して、それぞれ3枚に重ね合わせた試験片に、タイプAデュロメータを装着した自動硬度計(前述の「デジテストII」)を押し付けることにより硬度を測定した。得られたショアA硬度がHaとして下表8-13に示されている。
【0097】
[テニスボールの製造]
実施例1のゴム組成物を、モールドに投入して、150℃で4分間加熱することにより、2枚のハーフシェル(厚さ3.2±0.4mm)を形成した。1枚のハーフシェルに塩化アンモニウム、亜硝酸ナトリウム及び水を投入した後、他のハーフシェルと接着し、150℃で4分間加熱することにより、球状のコアを形成した。このコアの表面に、その断面にシーム糊を付着させた2枚のフェルト部(ミリケン社製、厚み3.1mm)を貼り合わせることにより、テニスボールを得た。同様にして、実施例2-15及び比較例1-12のゴム組成物からなるコアをそれぞれ備えたテニスボールを製造した。各テニスボールの直径は65±1mmであり、その内圧は0.08±0.02MPaであった。
【0098】
[耐久性]
製造後、大気圧下、気温20℃±2℃、相対湿度60%の環境下で24時間保存したテニスボールと、同条件で、3ヶ月間保存したテニスボールとについて、それぞれ、その内圧(大気圧との差)を測定した。3ヶ月保存後のテニスボールの内圧の、24時間保存後のテニスボールの内圧に対する比率(内圧低下率(%))を算出し、以下の判定基準により耐久性(内圧の低下しにくさ)を評価した。この結果が、下記表8-13に示されている。
A:15%未満
B:15%以上20%未満
C:20%以上25%未満
D:25%以上
【0099】
[打球感]
製造後、大気圧下、気温20℃、相対湿度60%の環境下に24時間静置したテニスボールを、50名のプレーヤーにテニスラケットで打撃させ、その打球感を聞き取った。「打球感が良い」と回答したプレーヤーの数に基づき、以下の格付けをおこなった。この結果が、下記表8-13に示されている。
A:40人以上
B:30-39人
C:20-29人
D:19人以下
【0100】
【表8】
【0101】
【表9】
【0102】
【表10】
【0103】
【表11】
【0104】
【表12】
【0105】
【表13】
【0106】
表8-13に示される通り、実施例のゴム組成物では、比較例のゴム組成物に比べて、打球感を大きくは阻害することなく、耐久性が向上した。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0107】
以上説明されたゴム組成物は、圧縮ガスが充填された種々の中空ボールの製造にも適用されうる。
【符号の説明】
【0108】
2・・・テニスボール
4・・・コア
6・・・フェルト部
8・・・シーム部
図1
図2
図3