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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】精錬用水冷ランス及び脱炭吹練方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/46 20060101AFI20230214BHJP
   C21C 7/072 20060101ALI20230214BHJP
   C21C 5/32 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
C21C5/46 101
C21C7/072 A
C21C5/32
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018243429
(22)【出願日】2018-12-26
(65)【公開番号】P2020105552
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】井本 健夫
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-218510(JP,A)
【文献】特公昭45-032323(JP,B1)
【文献】特公昭50-000803(JP,B1)
【文献】特開2001-172712(JP,A)
【文献】特開2002-013881(JP,A)
【文献】特開平03-197612(JP,A)
【文献】特開2002-030323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/00
C21C 5/28-5/50
C21C 7/00-7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2系統の独立した供給流路を介して冷却水を流通させる構造を有する精錬用水冷ランスであって、
ランス外周管の内壁の上部から下部に向かって冷却水を流通させることでランスの外周を冷却する、ランスチップに達しない第1の供給流路と、
前記第1の流路よりも内側において上部から前記ランスチップに向かって冷却水を流通させることで前記ランスチップを冷却する、第2の供給流路と、
前記供給流路を流通した前記冷却水を上部へと輸送する、少なくとも1つの排出流路と、
を備える、精錬用水冷ランス。
【請求項2】
前記第1の供給流路を流通した前記冷却水を上部へ輸送する排出流路と、前記第2の供給流路を流通した前記冷却水を上部へ輸送する排出流路とが、同一の流路である、
請求項1に記載の精錬用水冷ランス。
【請求項3】
前記第1の供給流路を流通した前記冷却水を上部へと輸送する第1の排出流路と、前記第2の供給流路を流通した前記冷却水を上部へと輸送する第2の排出流路とを、別々に備える、
請求項1に記載の精錬用水冷ランス。
【請求項4】
前記第1の供給流路を流通した後の前記冷却水の温度及び前記第2の供給流路を流通した後の前記冷却水の温度のうちの少なくとも一方の温度を測定する、温度測定手段を備える、
請求項1~3のいずれか1項に記載の精錬用水冷ランス。
【請求項5】
請求項4に記載の精錬用水冷ランスを用いた脱炭吹練方法であって、
前記温度測定手段により測定された前記冷却水の温度に基づいて、ランスに供給する冷却水量、ランス先端から噴出させる酸素流量、及び、ランス高さのうちの少なくとも1つを調整する、
脱炭吹練方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、精錬用水冷ランス及びそれを用いた脱炭吹練方法等を開示する。
【背景技術】
【0002】
水冷ランスによる酸素吹錬技術は、転炉における脱炭や溶銑予備処理、スクラップ溶解などに用いられる他、電気炉における脱炭加熱や、フェロクロムやフェロマンガンなどの合金鉄や非鉄金属の脱炭反応を伴う吹錬に広く適用されている。
【0003】
近年、炭酸ガスの排出量を削減するためのスクラップの大量配合や、二次燃焼率を向上させる熱裕度の確保が重要視されてきている。そのためには、処理時間の短縮や二次燃焼に消費される酸素量アップのための高速送酸に適用可能な技術の提示が急務となっている。
【0004】
一般に転炉での吹錬においては、炉容体積に応じた送酸速度を目安に吹錬を実施することなどで、ダスト発生の抑制やスロッピング防止など、装置毎の指標が設定された上で安定操業が行われている。酸素吹錬における高速送酸条件では、スピッティングによる炉内での地金発生量が増加するが、同時に炉内発熱量が増加するため、炉口からの粒鉄ロスが大きな問題にならない条件に設定できたとしても、酸素ランスの側壁温度が輻射による高温条件に晒されることになるために、粒鉄がランス外周面に衝突する際の冷却剥離作用が著しく低下する。従って、高速送酸操業を実施するときにはスピッティング(またはスプラッシュ)によるランス地金がランス表面で過剰成長しないように、ランス表面を十分に冷却する必要がある。
【0005】
冷却条件を変更せずにランス付着地金の成長を回避するために、ランス自体を剥離性や膨張率の変化を利用した素材とする手段や、テーパー形状のランス使用が過去に実施されている。しかしながら、それらを前提としても地金剥離性やランス素材などのコスト的な課題がある。例えば、特許文献1に記載されているような不定形材料の被覆や、特許文献2に記載されているようなランス表面の溶射コーティング技術などが提案されてきたが、一定操業毎に被覆物のメンテナンスを必要とする等、操業負荷が大きく、生産性が低下する虞がある。
【0006】
特許文献3に記載されているようなランス外面を水冷する技術においては、蒸発などの影響を受けずに十分な冷却を確保するために、大量の冷却水を炉内に導入することになる。そのため、熱裕度が著しく低下してスクラップ配合比率の大幅な低下を招くなどの課題がある。
【0007】
特許文献4には、これらの問題点を解決するための手段として、循環水によるランス表面冷却効果を管内流速アップやテーパー構造と組み合わせることで地金付着を大幅に軽減する技術が開示されている。特許文献4においては、冷却水が3重管ランスの最外流路を通過してランスチップに達した後にランスの中間流路を上昇して循環する構造のランスが用いられている(特許文献4の図1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平2-73912号公報
【文献】特開平4-88109号公報
【文献】特開2001-172712号公報
【文献】特開2002-30323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
水冷ランスの冷却は、溶融金属に酸素が衝突して形成される高温の火点に近い位置にあるランスチップの冷却が優先される。そのため、例えば、特許文献3の図2、4のように直接炉内輻射の影響を受けない流路からランス先端に低温の冷却水が供給される方式が一般的に採用されている。これに対し、特許文献4の図1に示されるような、ランスチップに冷却水が到達する間に水温の上昇を伴う冷却構造では、ランスチップを十分に冷却できない場合がある。特許文献4に記載された水冷ランスを、転炉における吹錬時間の短縮やスクラップの使用比率増大のための高速送酸などに必要な大流量吹錬、電気炉での脱炭加熱操業、合金鉄の炭素による還元吹錬や非鉄合金の脱炭処理等に適用した場合、ランスチップに地金が付着し易い。また、ランスチップが適切に冷却されない場合、ノズルの熱変形によってラバールノズル噴流が基本設計から変化して冶金的作用に悪影響を及ぼし、安定した操業が困難となる場合がある。また、地金付着によってランスチップを短期間で交換することが必要となり、操業性の悪化やコストアップを回避できないという欠点もある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、少なくとも2系統の独立した供給流路を介して冷却水を流通させる構造を有する精錬用水冷ランスであって、ランス外周管の内壁の上部から下部に向かって冷却水を流通させることでランスの外周を冷却する、ランスチップに達しない第1の供給流路と、前記第1の流路よりも内側において上部から前記ランスチップに向かって冷却水を流通させることで前記ランスチップを冷却する、第2の供給流路と、前記供給流路を流通した前記冷却水を上部へと輸送する、少なくとも1つの排出流路とを備える、精錬用水冷ランスを開示する。
【0011】
本開示の精錬用水冷ランスは、前記第1の供給流路を流通した前記冷却水を上部へ輸送する排出流路と、前記第2の供給流路を流通した前記冷却水を上部へ輸送する排出流路とが、同一の流路であってもよい。
【0012】
本開示の精錬用水冷ランスは、前記第1の供給流路を流通した前記冷却水を上部へと輸送する第1の排出流路と、前記第2の供給流路を流通した前記冷却水を上部へと輸送する第2の排出流路とを、別々に備えてもよい。
【0013】
本開示の精錬用水冷ランスは、前記第1の供給流路を流通した後の前記冷却水の温度及び前記第2の供給流路を流通した後の前記冷却水の温度のうちの少なくとも一方の温度を測定する、温度測定手段を備えることが好ましい。
【0014】
前記温度測定手段を備える精錬用水冷ランスを用いることで、脱炭吹練時におけるランス付着地金を一層抑えることができる。すなわち、本願は上記課題を解決するための好ましい手段として、前記温度測定手段を備える精錬用水冷ランスを用いた脱炭吹練方法であって、前記温度測定手段により測定された前記冷却水の温度に基づいて、ランスに供給する冷却水量、ランス先端から噴出させる酸素流量、及び、ランス高さのうちの少なくとも1つを調整する、脱炭吹練方法を開示する。
【発明の効果】
【0015】
本開示の精錬用水冷ランスにおいては、ランス外周管の内壁に設けられた第1の供給流路を流通する冷却水によってランス外周を適切に冷却できるとともに、第1の供給流路よりも内側に設けられた第2の供給流路を流通する冷却水によってランスチップを適切に冷却することができる。本開示の精錬用水練ランスによれば、例えば、転炉における吹錬時間短縮やスクラップ使用比率増大のための高速送酸などに必要な大流量吹錬時、電気炉での脱炭加熱操業時、合金鉄の炭素による還元吹錬時や非鉄合金の脱炭処理時等において、ランス外周及びランスチップを適切に冷却することができ、ランスへの地金付着を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】精錬用水冷ランス100の構造を説明するための概略図である。(A)がランスを下方から視た図、(B)がIB-IB断面図、(C)がIC-IC断面図、(D)がID-ID断面図である。断面図においては、便宜上、一部の部材を省略して示している。
図2】精錬用水冷ランス100における冷却水の流通方向及び酸素流通方向を説明するための概略図である。(A)が第1の供給流路を介して排出流路へと流通する冷却水流を示し、(B)が第2の供給流路を介して排出流路へと流通する冷却水流を示し、(C)が酸素の流れを示している。
図3】精錬用水冷ランス200の構造を説明するための概略図である。(A)がランスを下方から視た図、(B)がIIIB-IIIB断面図、(C)がIIIC-IIIC断面図、(D)がIIID-IIID断面図である。断面図においては、便宜上、一部の部材を省略して示している。
図4】精錬用水冷ランス200における冷却水の流通方向及び酸素流通方向を説明するための概略図である。(A)が第1の供給流路を介して第1の排出流路へと流通する冷却水流を示し、(B)が第2の供給流路を介して第2の排出流路へと流通する冷却水流を示し、(C)が酸素の流れを示している。
図5】従来の脱炭吹練時に生じる課題について説明するための概略図である。
図6】精錬用水冷ランス100、200を用いた脱炭吹錬方法について説明するための概略図である。
図7】実施例1、2にて用いたランスAの構造を説明するための概略図である。
図8】実施例3~5にて用いたランスBの構造を説明するための概略図である。
図9】比較例1~3にて用いたランスCの構造を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の精錬用水冷ランスやそれを用いた脱炭吹練方法の一例を示すが、本開示の技術は下記の形態に限定されるものではない。
【0018】
1.精錬用水冷ランス100
図1に、精錬用水冷ランス100の構造を概略的に示す。図1(A)がランスを下方から視た図、図1(B)がIB-IB断面図、図1(C)がIC-IC断面図、図1(D)がID-ID断面図である。尚、断面図においては、説明を簡略化するため、一部の部材を省略して示している。また、図2に、精錬用水冷ランス100における冷却水の流通方向及び酸素流通方向を概略的に示す。図2(A)が第1の供給流路1を介して排出流路3へと流通する冷却水流を示し、図2(B)が第2の供給流路2を介して排出流路3へと流通する冷却水流を示し、図2(C)がノズルから噴出される酸素の流れを示している。
【0019】
図1及び2に示すように、ランス100は、少なくとも2系統の独立した供給流路を介して冷却水を循環させる構造を有する。具体的には、ランス外周管11の内壁の上部から下部に向かって冷却水を流通させることでランスの外周を冷却する、第1の供給流路1と、第1の流路1よりも内側において上部からランスチップ20に向かって冷却水を流通させることでランスチップ20を冷却する、第2の供給流路2と、供給流路1、2を流通した冷却水を上部へと輸送する、少なくとも1つの排出流路3とを備えている。
【0020】
1.1.管11~13
図1及び2に示すように、ランス100は、その胴部において、外周管11と酸素流通管13との間に2つの管12a、12bを備える4重管構造を有している。ランス100においては、図2(D)に示すように、4重管構造により画定される4つの空間のうち、外周管11の内壁と管12aの外壁とによって画定される最も外側の空間を第1の供給流路1とし、管12aの内壁と管12bの外壁とによって画定される空間を排出流路3とし、管12bの内壁と酸素流通管13の外壁とによって確定される空間を第2の供給流路2とし、酸素流通管13の内側の空間を酸素流路4としている。また、図示していないが、各管11~13の間にはリブが設けられていてもよく、これにより、各管11~13の相対的な位置関係を固定することができる。
【0021】
このような構造を有するランス100においては、図2(A)に示すように、第1の供給流路1の上部から下部へと冷却水を流通させることで、ランスの外周を内側から適切に冷却することができる。また、図2(B)に示すように、第2の供給流路2の上部から下部へと冷却水を流通させることで、冷却作用を実質的に発揮させる前に当該冷却水をランスチップ20へと到達させることができ、当該冷却水をランスチップ20の内表面に行き渡らせることで、ランスチップ20の外表面を内側から適切に冷却することができる。さらに、図2(C)に示すように、ランス100においては、酸素流路4の上部から下部へと精錬用の酸素気流が流通し、ラバールノズルの噴出口30から精錬対象の溶湯に向かって酸素気流を下方に噴出可能とされている。
【0022】
ランス100においては、第1の供給流路1を流通した冷却水を上部へ輸送する排出流路3と、第2の供給流路2を流通した冷却水を上部へ輸送する排出流路3とが、同一の流路であってもよい。冷却水は排出流路3を介してランス上部へと輸送され、その後、再び供給流路1、2を介してランスの下部へと流通される。このように、供給流路1、2と排出流路3とを介して冷却水を循環させることで、ランス外周及びランスチップ20を絶え間なく冷却することができる。
【0023】
ランス100において、管11~13の材質は特に限定されるものではなく、従来の精錬用水冷ランスにおける材質と同様のものとすればよい。例えば、炭素鋼等の鋼からなる管11~13とすることができる。管11~13の外径や内径についても特に限定されるものではなく、ランス100の大きさ等に応じて適宜決定すればよい。
【0024】
1.2.ランスチップ20
本技術分野において「ランスチップ」とは、ランスの最下端(先端面)のみを指すのではなく、ランス下端部分に備えられる部材を指す。具体的には、ランス100において、ランスチップ20は、上記の管11~13の下に設けられ、ラバールノズル等を内包し得る部材である。管11~13とランスチップ20とは溶接や嵌合等によって互いに固定されている。ランス100からランスチップ20のみを交換する場合があることや、ランスチップ20と管11~13の当接部分の全体を溶接することは困難であること等から、ランス100においては、管11等に対してランスチップ20の一部のみを溶接し、残りの部分は嵌合や当接等によって管11等とランスチップ20とを着脱容易に固定するとよい。ランスチップ20は少なくとも外表面を熱伝導率の高い金属により構成するとよい。例えば、銅や銅合金によって構成することが好ましい。
【0025】
1.3.ノズル
図1及び2に示すランス100は下端に4つの噴出口30を有するラバールノズルを備えている。ただし、噴出口の数は4つに限定されるものではない。また、ラバールノズル以外のノズルを採用することも可能である。ノズルの形状や材質については従来と同様とすればよい。ここでは詳細な説明を省略する。
【0026】
1.4.効果
以上の通り、ランス100においては、ランス外周管の内壁に設けられた第1の供給流路1によってランス外周を適切に冷却できるとともに、第1の供給流路1よりも内側(第1の供給流路1に対してランス外周管の中心側)に設けられた第2の供給流路2によってランスチップ20を適切に冷却することができる。ランス100によれば、例えば、転炉における吹錬時間短縮やスクラップ使用比率増大のための高速送酸などに必要な大流量吹錬時、電気炉での脱炭加熱操業時、合金鉄の炭素による還元吹錬時や非鉄合金の脱炭処理時等において、ランス外周及びランスチップ20を適切に冷却することができ、ランスへの地金付着を抑えることができる。また、精錬においてランスチップ20へのダメージを抑えることができ、ランスチップ20を長期間に亘って交換することなく使用することができるとともに、ノズルの熱変形等を抑制することもできる。すなわち、ランスチップ交換作業の削減や生産量あたりのランスチップの使用個数を節約することができることはもちろん、ノズルの冷却不足によるノズル変形に起因した酸素ジェット強度の変化やそれに伴う脱炭不良やスロッピングの発生等の冶金制御性の悪化を効率的に回避することができる。
【0027】
2.精錬用水冷ランス200
上述のランス100においては、第1の供給流路1を流通した冷却水と、第2の供給流路を流通した冷却水とを一つの排出流路3へと合流させる形態について説明した。しかしながら、本開示の技術は当該形態に限定されるものではない。図3に、精錬用水冷ランス200の構造を概略的に示す。図3においてランス100と実質的に同じ部材については同一の符号を付すものとする。図3(A)がランスを下方から視た図、図3(B)がIIIB-IIIB断面図、図3(C)がIIIC-IIIC断面図、図3(D)がIIID-IIID断面図である。尚、断面図においては、説明を簡略化するため、一部の部材を省略して示している。また、図4に、精錬用水冷ランス200における冷却水の流通方向及び酸素流通方向を概略的に示す。図4(A)が第1の供給流路1を介して排出流路3aへと流通する冷却水流を示し、図4(B)が第2の供給流路2を介して排出流路3bへと流通する冷却水流を示し、図4(C)がノズルから噴出される酸素の流れを示している。
【0028】
図3及び4に示すように、ランス200は、第1の供給流路1を流通した冷却水を上部へと輸送する第1の排出流路3aと、第2の供給流路2を流通した冷却水を上部へと輸送する第2の排出流路3bとを、別々に備えている。このように、排出流路を2つ以上設け、ランス200のランス外周を冷却するための供給水流及び排出水流と、ランス200のランスチップを冷却するための供給水流及び排出水流とを独立とすることで、各水流の流量の制御等がより容易となる。また、後述するように、温度測定手段によって冷却水の温度を測定する場合に、第1の供給流路1を流通してランス外周の冷却を経た冷却水の温度と、第2の供給流路2を流通してランスチップの冷却を経た冷却水の温度とを別々に測定することができ、冷却水温度の異常が生じている流路を容易に特定することができる。すなわち、地金付着やランスチップの冷却不良等をより正確にモニターすることができる。
【0029】
3.その他
上述の通り、ランス100やランス200は、内部に供給流路1、2と排出流路3とを備えており、当該流路1~3を介して冷却水が循環される。一般的に冷却水の温度が60℃を超えると、受熱に対して冷却水量が不足することに起因して、ランス内部において冷却水の沸騰(例えば膜沸騰)が生じ、ランス外周やランスチップの抜熱不良が生じる虞がある。そのため、ランス内部における冷却水の温度が所定の温度以下となるように、第1の供給流路1や第2の供給流路2を流通させる冷却水の流量等を適宜調整するとよい。この場合、ランスは、冷却水の温度を把握するための温度測定手段を備えることが好ましい。温度測定手段によって冷却水の温度を測定する箇所については、冷却水が冷却作用を発揮した後の部分である排出側(排出流路内)とすればよく、後述するように、ランスの系外において温度を測定してもよい(図6参照)。すなわち、ランス100、200は、第1の供給流路1を流通した後の冷却水の温度及び第2の供給流路2を流通した後の冷却水の温度のうちの少なくとも一方の温度を測定する、温度測定手段104(図6参照)を備えることが好ましい。温度測定手段の形態は特に限定されるものではなく、熱電対や温度センサ等の一般的なものをいずれも採用可能である。尚、冷却水の沸騰が発生しない冷却条件においても、より強力な冷却を行ってランスの外表面に一端付着した地金の温度を下げることで、ランス付着地金の成長を抑制することができる。例えば、本発明者の知見では、冷却水の排水温度が45℃以下となるように装置の設計や操業条件の制御をすることで、ランス及びランスチップの保護効果に加えて、ランス表面における付着地金の成長を抑制する効果が顕著となる。
【0030】
上記の説明では、複数の管を同心円状に設けた4重管構造を有するランス100や5重管構造を有するランス200を例示しつつ、本開示の精錬用水冷ランスの冷却構造を説明した。しかしながら、本開示の精錬用水冷ランスはこのような同心円状の多重管構造を有するものに限定されない。本開示の精錬用水冷ランスは、ランス外周を冷却するための流路を設け、さらにそれよりも内側にランスチップを冷却するための流路を個別に設けた点に一つの特徴があり、これを実現できる限りにおいて冷却水流路の形態を様々な形態とすることができる。例えば、後述の実施例(ランスB、図8参照)のように、4重管構造において2つ以上の排出流路を設けることも可能である。また、圧損等による必要流量の確保が可能であれば、ランスの内側の空間に小径のパイプやホースを横並びに複数配列させる形態等の独立流路構造としても差支えがない。特に、局所的に冷却が必要と判断される場合等において、冷却水を独立して供給する流路を3本以上設けることも可能である。
【0031】
上記の説明では、冷却水の供給流路が2つ、冷却水の排出流路が1つ又は2つ備えられるランス100、200を例示した。しかしながら、本開示の精錬用水冷ランスは、冷却水の供給流路を少なくとも2つ独立して備えていればよく、3つ以上の供給流路が備えられていてもよい。また、冷却水の排出流路は少なくとも1つ備えられていればよい。さらに、本開示の精錬用水冷ランスは、上述したランス外周を冷却するための供給流路やランスチップを冷却するための供給流路のほか、これら以外の供給流路を備えていてもよい。
【0032】
4.脱炭吹練方法
図5に示すように、従来のランスを用いて溶鉄の脱炭吹練を行った場合、ランスの外周やランスチップが十分に冷却されず、ランスの外表面に地金が多量に付着する虞があった。一方、本開示のランスによれば、上述したように、少なくとも2系統の冷却水流路を介してランス外周とランスチップとの双方を適切に冷却することができることから、脱炭吹練時、ランスの外表面における地金の付着を抑制することができる。特に、上述したように、温度測定手段により冷却水の温度を制御することで、ランスへの地金の付着を一層抑制できるものと考えられる。以下、脱炭吹練方法の特に好ましい形態について説明する。
【0033】
図6に脱炭吹練におけるランスや転炉の状態を示す。図6に示す脱炭吹錬方法においては、温度測定手段104を備える精錬用水冷ランス100、200を用いた脱炭吹練方法であって、温度測定手段104により測定された冷却水の温度に基づいて、ランス100、200に供給する冷却水量、ランス先端から噴出させる酸素流量、及び、ランス高さのうちの少なくとも1つを調整することを特徴とする。
【0034】
図6に示すように、冷却水の排水温度を温度測定手段104によってモニターし、冷却が不足している場合には冷却水量を増加させたり、送酸速度やランス高さを変更することによって、脱炭吹錬時により安定した操業が可能となる。特に、ランス200のように排水流路を複数設け、ランス外周を冷却するための冷却水とランスチップを冷却するための冷却水との各々について排水温度を独立に測定する場合、各々の流路における冷却水量の変更、抜熱部位に応じたランスパターンの変更(例えば、ランス外周の加熱が大きい場合には二次燃焼率を低下させる操作の実施、ランスチップの加熱が大きい場合には、ランス高さ上昇による火点距離確保などの制御選択)などの効果的な操業が実施できる。
【0035】
上述したような少なくとも2系統の独立した供給流路においては、例えば、図6に示すような冷却水配管101からの冷却水を独立分割するための外周管冷却用バルブ101aとランスチップ冷却用バルブ101bとによって、当該冷却水の流量を各々制御することが好ましい。一方、脱炭吹錬の操業時は、図6に示すように、ランス上部の排水配管103を通過する排水に対して流量測定手段105で流量を確認しつつ温度測定手段104にて適正な冷却ができているかを把握するとよい。特に、図6(B)に示すように、排水流路103a、103b毎に温度測定手段104と流量測定手段105とを独立に設けることで、ランスチップの適正な冷却と地金付着抑制のためのランス冷却状況をモニタリングでき、冷却不足、過剰冷却などに対する容易な操業制御が可能である。
【0036】
脱炭吹錬における酸素の吹き付けの形態等は本技術分野においてよく知られている。図6に示す形態においては、転炉内の溶鉄にフレキシブルホースなどの酸素配管102からランス100、200の酸素流路へと酸素を供給し、酸素ジェットによる脱炭時に粒鉄が飛散した状態を示している。上述の通り、本開示のランスを用いて脱炭吹練を行う場合、ランス外周及びランスチップが適切に冷却されることから、ランス外表面における地金の付着を抑制することができる。
【0037】
尚、溶銑脱燐や合金還元操業などに見られる、酸素と同時に粉体吹付を実施する操業においても本開示のランスを適用できることは、当業者にとって自明である。
【実施例
【0038】
以下、実施例を示しつつ、本開示の精錬用水冷ランスによる効果についてより詳細に説明する。
【0039】
精錬用水冷ランスの実用効果を確認するために、ヒートサイズ310tの上底吹き転炉(底吹撹拌酸素は3000Nm/h一定)による精錬実験を実施した。高炉によって製造され、溶銑予備処理によって脱珪、脱硫、脱燐処理を実施した溶銑と、製鉄所内で発生したリターンスクラップ(連続鋳造段階でのクロップ、圧延後鋼材における、幅や端部形状、製品疵に起因する製品に適さない部位の切落とし部など)を挿入した状態で、4孔ランスによるスラグレス脱炭吹錬処理を実施した。
【0040】
溶銑成分(質量%)は[C]:3.8%、[Si]<0.1%、[Mn]<0.05%、
[P]<0.02%、「S」<0.01%で、転炉挿入前温度(溶銑鍋時)は1270℃
であった。
【0041】
ランスの種類はランスA(4重管ランス)、ランスB(4重管ランス、ただし、冷却水流路を縦に分割することで、ランス外周を冷却した冷却水の排水と、ランスチップを冷却した冷却水の排水とを独立とし、ランス出口部にて両者の排水温度を測定する機能あり)、ランスC(3重管ランス、冷却水がランスチップ冷却後に外管内壁より上昇する従来のランス)の3種類を使用した。図7~9に、これらランスA、B、Cの冷却構造(但し、送酸ノズル断面を含まない断面)を図示する。
【0042】
ランス冷却水能力は350t/hであり、通常操業では上吹き酸素72000Nm/h、ランス冷却水300t/hの吹錬を基準としていたが、ランスの効果を検証するために高速送酸による精錬特性調査を実施した。実験は同一水準で10chづつ行い、操業結果の平均値で評価した。操業条件及び操業結果を下記表1に示す。
【0043】
なお、実験に用いた設備の通常操業では、吹錬完了後の出鋼、排滓と、次チャージ溶銑とスクラップ挿入までの、非吹錬時間内において、炉上に設けた自動運転の付着地金剥離装置で問題なく除去できる付着量の目安は0.5t程度である。それを超える付着量がある場合には、一般的にクイックチェンジと呼ばれる待機ランスとの交換を実施した上で、待機位置における作業員のバーナー溶断などが必要となり、生産性を著しく低下させる。以上のことから、吹錬での許容できる1chあたりの地金付着量を0.5tとした。
【0044】
【表1】
【0045】
実施例1は、ランス全冷却水流量は通常操業の比較例1と等しい300Nm/hにて高速送酸操業を実施したものである。表1に示すように、実施例1においては、ランス外周への冷却水供給流路とランスチップへの冷却水供給流路とを独立にすることでランス外周及びランスチップの双方に低温の冷却水を供給できた結果、高速送酸操業にも関わらずランス地金平均付着量が0.41t/chと比較例1に示す通常操業の0.42t/chと同レベルに抑制することができ、且つ、脱炭(送酸)時間を比較例1の14.5分から11.5分へと大幅に短縮できるとともに、スクラップ配合比率も10.2%から22.5%と大幅に向上させることができた。
【0046】
実施例2は、実施例1に加えてトータルのランス冷却水流量(外管と先端部の合計)を設備能力の最大(350m/h)にして脱炭吹練を実施した結果である。表1に示すように、ランス冷却作用が向上したことによって、ランス地金平均付着量を0.23t/chと一層低減できた。
【0047】
実施例3は、冷却水の排出温度の測定を独立に実施して、冷却水量の制御によってランス外周用の冷却水とランスチップ用の冷却水の排出温度が常に室温~45℃の範囲となるように操業した結果である。具体的には、排水温度が高温になった場合に装置の許容範囲内で水温がほぼ室温である冷却水の流量を上昇させる制御を実施した。その結果、表1に示すように、高速送酸、高スクラップ配合比率でランス地金付着量が0.08t/chと、極めて少ない非常に良好な操業を実現することができた。尚、ここでいう室温は季節や設置環境によって異なるがおおむね20~25℃の範囲である。
【0048】
実施例4は、冷却水温度が常に実験期間の室温である約25℃~45℃の範囲を維持するようにランス高さを2.0~3.0mの範囲で変化させ、二次燃焼によるランス輻射と火点からのランスチップへの輻射による受熱を制御しながら操業を実施した結果である。表1に示すように、実施例3と同様に、ランス地金付着量が0.09t/chと、非常に良好な操業結果が得られた。
【0049】
実施例5は、冷却水温度が通常吹錬の60℃を超えない範囲を確認しつつ、送酸速度を最大で85000Nm/hまでの範囲で上昇させ、冷却水温度が60℃を超える危険性がある場合には80000Nm/hまでの範囲に送酸速度を低下させて吹錬した結果である。表1に示すように、ランス地金付着量は許容範囲であり、なおかつ、吹錬時間、スクラップ配合比が24.8%の高速送酸、高い熱裕度における操業を実施することができた。
【0050】
比較例1は、従来のランスを使用して通常の操業(図9(A))を実施した結果である。表1に示すように、安定操業はできているものの、実施例1~5の結果と比較して、送酸時間が14.5分と長くスクラップ配合比率も10.2%と低位であった。
【0051】
比較例2は、従来のランスにおいて、冷却水の流通方向を比較例1とは逆方向(ランス外管の内壁を上部から下部へと冷却水を流通させてランスの外周を冷却した後、ランスチップからランス内部の流路を介して冷却水を上部に輸送して排出するもの)として操業(図9(B))した結果である。表1に示すように、ランスチップの溶損異常による吹錬の停止が10chのうち2ch見られ、定常操業では実施できない操業条件と判断された。
【0052】
比較例3は、従来のランスを使用した上で、ランス冷却水流量を最大条件として、高速送酸(80000Nm/h)実験を実施したものである。表1に示すように、ランスへの地金付着量が許容範囲を超える1.32t/chと著しく増加しており、地金除去作業負荷による生産性の低下が懸念された。また、ランスチップの溶損異常による吹錬停止が10chの内3ch見られ、定常操業では実施できない操業条件と判断された。
【0053】
実施例1~5の結果から明らかなように、精錬時にランス外周及びランスチップを適切に冷却するためには、以下の(1)~(4)の構成を備えるランスとすればよいことが分かった。
(1)少なくとも2系統の独立した供給流路を介して冷却水を循環させる構造を設ける。(2)ランス外周管の内壁の上部から下部に向かって冷却水を流通させることでランスの外周を冷却する、ランス外周冷却用供給流路を設ける。
(3)ランス外周冷却用供給流路の内側において上部からランスチップに向かって冷却水を流通させることでランスチップを冷却する、ランスチップ冷却用供給流路を設ける。
(4)供給流路を流通した冷却水を上部へと輸送する、排出流路を設ける。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本開示の精錬用水冷ランスによれば、酸素吹錬を伴う操業時に問題となるランスへの地金の付着や地金の成長を効率的に抑制でき、かつ、高速送酸や高二次燃焼率操業など装置負荷の高い操業を安定的に実施できる。そのため、吹練時の生産性の向上、熱裕度向上による省エネルギーなどが実現でき、その産業上の利用価値は極めて高い。
【符号の説明】
【0055】
1 第1の供給流路
2 第2の供給流路
3 排出流路
4 酸素流路
20 ランスチップ
100、200 精錬用水冷ランス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9