(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】緩衝装置、鉄道車両用台車および鉄道車両
(51)【国際特許分類】
B61F 5/12 20060101AFI20230214BHJP
B61F 5/08 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
B61F5/12
B61F5/08
(21)【出願番号】P 2018247655
(22)【出願日】2018-12-28
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】伊保 日和吏
(72)【発明者】
【氏名】下川 嘉之
【審査官】藤井 浩介
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-085262(JP,A)
【文献】特開2015-105554(JP,A)
【文献】米国特許第04228741(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 5/12
B61F 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に延びる横梁および前記第1方向に垂直な第2方向に延びる一対の側梁を有する台車枠と、前記台車枠に支持された車体と、を備えた鉄道車両において、前記車体の底部の中心部と前記台車枠との間の力の伝達経路上に設けられ、前記伝達経路に発生する前記第1方向の力を緩衝する緩衝装置であって、
前記伝達経路において直列に接続される緩衝部および位置調整部を備え、
前記緩衝部および前記位置調整部はそれぞれ、前記第1方向の力に対する反力を発生し、
前記緩衝部は、前記第1方向の力に基づいて前記第1方向に移動する第1移動体と、前記第1移動体を前記第1方向に摺動可能に支持する第1支持体と、を有し、
前記第1移動体および前記第1支持体のいずれか一方は変形部を含み、前記変形部は、前記伝達経路に設けられ、前記第1方向の力に基づいて前記第1移動体が前記第1支持体に対して摺動する前に前記第1方向に弾性変形し、
前記位置調整部は、第2移動体と、前記第1方向の力に基づいて前記第2移動体が前記第1方向に相対的に移動できるように前記第2移動体を支持する第2支持体と、前記第2支持体に充填され、前記第2移動体の前記第2支持体に対する相対的な移動に従って流動する流体と、を有し,
前記第1方向の力が所定の第1閾値以上の場合には、前記位置調整部において発生する反力が前記緩衝部において発生する反力よりも大きくなり、
前記第1方向の力が前記第1閾値以下の所定の第2閾値未満の場合には、前記位置調整部において発生する反力が前記緩衝部において発生する反力よりも小さくなる、緩衝装置。
【請求項2】
前記第2支持体は、前記流体の流動を規制することによって前記反力を発生する、請求項1に記載の緩衝装置。
【請求項3】
前記第1移動体および前記第1支持体のうちの一方は、ロッドおよび前記ロッドに固定されたピストンを含み、
前記第1移動体および前記第1支持体のうちの他方は、前記ピストンを摺動可能に収容したシリンダを含み、
前記ピストンは、ゴムからなる前記変形部を含む、請求項1または2に記載の緩衝装置。
【請求項4】
前記第2支持体は、前記流体としてシリコンが充填されたゴムブッシュである、請求項1から3のいずれかに記載の緩衝装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の緩衝装置を備えた鉄道車両用台車。
【請求項6】
請求項5に記載の鉄道車両用台車を備えた鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝装置、鉄道車両用台車および鉄道車両に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両には、大規模な地震が発生した際に、脱線等の事故を回避できる性能を備えることが求められる場合がある。そこで、従来、地震発生時に脱線等の事故を回避するための種々の技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された鉄道車両では、車体と台車との間に、車体の位置を維持するための規制機構が設けられている。また、規制機構は、クラッシャブル部材を備えている。この鉄道車両では、地震によって鉄道車両に大きな振動エネルギーが与えられた場合に、クラッシャブル部材が変形することによって、振動エネルギーを吸収することができる。これにより、鉄道車両の脱線を抑制することができる。
【0004】
また、例えば、特許文献2に開示された鉄道車両防振装置は、通常時には、乗り心地優先モードで車体の減衰要素(ダンパーおよび空気ばね)の減衰力を制御し、地震発生時には、地震時モードで減衰要素の減衰力を制御する。これにより、通常時には、良好な乗り心地が得られ、地震発生時には、車体の振動を小さくして、脱線を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-182111号公報
【文献】特開2007-269201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、特許文献1および2の技術を用いることによって、地震発生時の鉄道車両の脱線を抑制することができると考えられる。しかしながら、特許文献1に開示された技術では、クラッシャブル部材が一度変形すると、通常時の車体の振動を適切に抑制することが難しくなる。このため、クラッシャブル部材が変形するたびに、新たなクラッシャブル部材に取り替える必要がある。これにより、鉄道車両の整備コストが増加する。
【0007】
一方、特許文献2に開示された技術では、地震が発生した後の通常時においても、車体の振動を適切に制御することができると考えられる。しかしながら、ダンパを制御するための制御装置が必要になるので、鉄道車両の製造コストが増加する。
【0008】
そこで、本発明は、通常時および地震発生時の鉄道車両の揺れを適切に制御できる低コストの緩衝装置、鉄道車両用台車および鉄道車両を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記の緩衝装置、鉄道車両用台車および鉄道車両を要旨とする。
【0010】
(1)第1方向に延びる横梁および前記第1方向に垂直な第2方向に延びる一対の側梁を有する台車枠と、前記台車枠に支持された車体と、を備えた鉄道車両において、前記車体の底部の中心部と前記台車枠との間の力の伝達経路上に設けられ、前記伝達経路に発生する前記第1方向の力を緩衝する緩衝装置であって、
前記伝達経路において直列に接続される緩衝部および位置調整部を備え、
前記緩衝部および前記位置調整部はそれぞれ、前記第1方向の力に対する反力を発生し、
前記緩衝部は、前記第1方向の力に基づいて前記第1方向に移動する第1移動体と、前記第1移動体を前記第1方向に摺動可能に支持する第1支持体と、を有し、
前記第1移動体および前記第1支持体のいずれか一方は変形部を含み、前記変形部は、前記伝達経路に設けられ、前記第1方向の力に基づいて前記第1移動体が前記第1支持体に対して摺動する前に前記第1方向に弾性変形し、
前記位置調整部は、第2移動体と、前記第1方向の力に基づいて前記第2移動体が前記第1方向に相対的に移動できるように前記第2移動体を支持する第2支持体と、前記第2支持体に充填され、前記第2移動体の前記第2支持体に対する相対的な移動に従って流動する流体と、を有し、
前記第1方向の力が所定の第1閾値以上の場合には、前記位置調整部において発生する反力が前記緩衝部において発生する反力よりも大きくなり、
前記第1方向の力が前記第1閾値以下の所定の第2閾値未満の場合には、前記位置調整部において発生する反力が前記緩衝部において発生する反力よりも小さくなる、緩衝装置。
【0011】
(2)前記第2支持体は、前記流体の流動を規制することによって前記反力を発生する、上記(1)に記載の緩衝装置。
【0012】
(3)前記第1移動体および前記第1支持体のうちの一方は、ロッドおよび前記ロッドに固定されたピストンを含み、
前記第1移動体および前記第1支持体のうちの他方は、前記ピストンを摺動可能に収容したシリンダを含み、
前記ピストンは、ゴムからなる前記変形部を含む、上記(1)または(2)に記載の緩衝装置。
【0013】
(4)前記第2支持体は、前記流体として例えばシリコンが充填されたゴムブッシュである、上記(1)から(3)のいずれかに記載の緩衝装置。
【0014】
(5)上記(1)から(4)のいずれかに記載の緩衝装置を備えた鉄道車両用台車。
【0015】
(6)上記(5)に記載の鉄道車両用台車を備えた鉄道車両。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、通常時および地震発生時の鉄道車両の揺れを低コストで適切に制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る鉄道車両を模式的に示す正面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る鉄道車両用台車を模式的に示した平面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る緩衝装置を説明するための図である。
【
図4】
図4は、緩衝装置の動作を説明するための図である。
【
図5】
図5は、鉄道車両用台車の取付け向き変更例を模式的に示した図である。
【
図6】
図6は、緩衝装置の取付け向き変更例を模式的に示した図である。
【
図7】
図7は、緩衝装置の他の構造変更例を模式的に示した図である。
【
図8】
図8は、
図7に示した緩衝装置の動作を説明するための図である。
【
図9】
図9は、鉄道車両用台車の他の取付向き変更例を模式的に示した図である。
【
図10】
図10は、鉄道車両台車のその他の変形例を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態に係る緩衝装置、鉄道車両用台車および鉄道車両について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る鉄道車両を模式的に示す正面図である。
【0019】
図1を参照して、鉄道車両100は、鉄道車両用台車10(以下、台車10と略記する。)および車体90を備えている。車体90の底部の中心部には、中心ピン92が固定されている。なお、車体90および中心ピン92の構成としては、公知の鉄道車両の車体および中心ピンの構成を採用できる。したがって、車体90および中心ピン92の詳細な説明は省略する。
【0020】
図2は、台車10を示す平面図である。
図1および
図2を参照して、台車10は、台車枠12、複数の車輪14、複数の車軸16、一対の空気ばね18、牽引装置20および緩衝装置22を備えている。
【0021】
台車枠12は、第1方向X(鉄道車両100の幅方向)に延びる横梁24と、平面視において第1方向Xに垂直な第2方向Y(鉄道車両100の前後方向(進行方向))に延びる一対の側梁26とを備えている。
【0022】
本実施形態では、横梁24は、一対のパイプ部材28および一対の連結部材30を備える。一対のパイプ部材28はそれぞれ、一対の側梁26を貫通するように第1方向Xに延びている。一対の連結部材30は、一対の側梁26よりも外側(第1方向Xにおける外側)において、一対のパイプ部材28を連結している。なお、
図1および
図2に示した台車枠12の構成は一例であり、台車枠の構成としては、公知の種々の台車枠の構成を採用できる。
【0023】
一対の側梁26には、一対の車軸16が回転可能に支持されている。各車軸16に、一対の車輪14が取り付けられている。
【0024】
図1を参照して、台車枠12は、複数の弾性部材32を介して車軸16に支持されている。
図1および
図2を参照して、一対の空気ばね18は、台車枠12において車幅方向の両端部に設けられている。
図1を参照して、本実施形態では、各空気ばね18は、空気ばね座34を介して側梁26および連結部材30に支持されている。本実施形態では、一対の空気ばね18によって、車体90が支持される。すなわち、車体90は、一対の空気ばね18を介して台車枠12に支持される。
【0025】
図2を参照して、本実施形態では、牽引装置20は、Zリンク式の牽引装置である。具体的には、牽引装置20は、上方に向かって開口する孔36aを有する牽引梁36と、一対のリンク部38とを備える。牽引梁36の孔36aには、中心ピン92(
図1参照)が挿入される。これにより、台車10と車体90とが中心ピン92を介して連結される。本実施形態では、一方のリンク部38は、一方のパイプ部材28と牽引梁36とを連結し、他方のリンク部38は、他方のパイプ部材28と牽引梁36とを連結する。これにより、牽引梁36が横梁24に、前後方向(第2方向Y)にかたく、左右方向(第1方向X)に柔軟に支持される。
【0026】
本実施形態では、牽引梁36は、横梁24(台車枠12)に対して第1方向Xに移動できるように一対のリンク部38によって支持されている。したがって、鉄道車両100の走行時に車体90が第1方向X(車幅方向)に揺れた場合、牽引梁36は、中心ピン92とともに、横梁24に対して第1方向Xに移動する。一方で、本実施形態では、空気ばね18は、台車枠12と車体90との間において、第1方向Xにばね要素として作用する。また、牽引梁36は、車体90の中心ピン92によって第1方向Xに支持されている。したがって、台車枠12の一部である横梁24に対して牽引梁36が所定の位置から第1方向Xに移動した場合、空気ばね18(ばね要素)は、中心ピン92を介して、牽引梁36に対して、所定の位置に戻るように第1方向Xの力を付与する。
【0027】
なお、
図2に示した牽引装置20の構成は一例であり、牽引装置の構成としては、公知の種々の牽引装置の構成を採用できる。
【0028】
緩衝装置22は、車体90の底部の中心部(本実施形態では、中心ピン92)と台車枠12(本実施形態では、一方の側梁26)との間の力の伝達経路上に設けられ、上記伝達経路に発生する第1方向Xの力を緩衝する。本実施形態では、緩衝装置22は、牽引装置20の牽引梁36と一方の側梁26とを連結している。なお、車体90の底部の中心部と台車枠12との間で第1方向Xの力を伝達する伝達経路は複数存在するが、緩衝装置22は、その複数の伝達経路のうちの一の伝達経路に設けられる。以下の説明において伝達経路とは、上記複数の伝達経路のうち、緩衝装置が設けられる一の伝達経路を意味する。本実施形態では、牽引装置20の牽引梁36および緩衝装置22によって一の伝達経路が構成されている。
【0029】
図3は、緩衝装置22を説明するための図であり、(a)は、緩衝装置22の構成を模式的に示した図であり、(b)は、後述する位置調整部44を示した断面図である。なお、
図3(a)においては、緩衝部40の一部を断面で示している。
【0030】
図2および
図3を参照して、緩衝装置22は、緩衝部40、ロッド42、位置調整部44、および支持部材46を備えている。緩衝部40、ロッド42、位置調整部44、および支持部材46は、緩衝装置22と側梁26との間の力の伝達経路において直列に接続されている。
【0031】
図3(a)を参照して、緩衝部40は、ロッド40a、ピストン40b、およびシリンダ40cを有している。
図2を参照して、本実施形態では、ロッド40aは、第1方向Xに延びるように、牽引装置20の牽引梁36に固定されている。また、本実施形態では、ロッド40aは、台車枠12(横梁24)に対して、牽引梁36と一体的に第1方向Xに移動する。ロッド40aは、例えば、鋼等の金属材料からなる。
【0032】
図3(a)を参照して、ピストン40bは、中空円板形状を有し、ロッド40aに固定されている。本実施形態では、ピストン40bは、ゴム等の弾性部材からなる。本実施形態では、ピストン40bとして、中空円板状のゴムが用いられる。本実施形態では、ロッド40aおよびピストン40bが第1移動体に対応し、ピストン40bが変形部に対応する。また、シリンダ40cが、第1支持体に対応する。
【0033】
本実施形態では、ピストン40bは、断面円形の外周面を有し、シリンダ40cは、断面円形の内周面を有している。ピストン40bの外周面とシリンダ40cの内周面とが密着するように、ピストン40bがシリンダ40c内に収容されている。詳細は後述するが、シリンダ40cは、ピストン40bを第1方向Xに摺動可能に支持している。シリンダ40cは、例えば、鋼等の金属材料からなる。本実施形態では、ロッド40aまたはシリンダ40cに対して第1方向Xの力が付与された場合に、ピストン40bが弾性変形し、ピストン40bにおいて第1方向Xの力に対する反力が発生する。また、ピストン40bまたはシリンダ40cに付与される第1方向Xの力が所定の大きさ以上になることによって、ピストン40bは、変形しつつシリンダ40cに対して摺動する。このようにして、緩衝部40において減衰力が発生する。
【0034】
ロッド42は、シリンダ40cの底部から一方の側梁26に向かって第1方向Xに延びるように設けられている。本実施形態では、ロッド42は、シリンダ40cに固定されている。したがって、ロッド42は、台車枠12に対して、シリンダ40cと一体的に第1方向Xに移動する。ロッド42は、例えば、鋼等の金属材料からなる。
【0035】
第1方向Xにおけるロッド42の一端部(シリンダ40cとは反対側の端部)に、位置調整部44が取り付けられている。本実施形態では、位置調整部44は、第2方向Yに延びる軸部材44aと、軸部材44aを支持するリング状のゴムブッシュ44bとを含む。本実施形態では、軸部材44aは、ゴムブッシュ44bの中心部の孔に挿入されている。軸部材44aの両端部は、ロッド42に固定されている。したがって、軸部材44aは、台車枠12に対して、シリンダ40cと一体的に第1方向Xに移動する。本実施形態では、ゴムブッシュ44bは、軸部材44aがゴムブッシュ44bに対して第1方向Xに移動できるように、軸部材44aを支持している。軸部材44aは、例えば、鋼等の金属材料からなる。本実施形態では、軸部材44aが第2移動体に対応し、ゴムブッシュ44bが第2支持体に対応する。
【0036】
図3(b)を参照して、ゴムブッシュ44b内の空間48は、隔壁50,52によって、一対の空間48a,48bに区画されている。隔壁50には貫通孔50aが形成され、隔壁52には貫通孔52aが形成されている。空間48aと空間48bとは、貫通孔50a,52aによって繋がっている。本実施形態では、空間48には、粘性を有する流体が充填されている。空間48に充填される流体としては、例えば、シリコンまたは公知のダイラタンシー流体を用いることができる。
【0037】
図2を参照して、第1方向Xにおける支持部材46の一端部は側梁26に固定されている。
図2および
図3(a)を参照して、第1方向Xにおける支持部材46の他端部(ロッド42側の端部)に、ゴムブッシュ44bが固定されている。
図3(a)を参照して、本実施形態では、支持部材46の他端部には、第2方向Yに貫通する断面円形の貫通孔46aが形成されており、貫通孔46aにゴムブッシュ44bがはめ込まれている。これにより、ゴムブッシュ44bの外周部の第1方向Xへの移動が規制されている。支持部材46は、例えば、鋼等の金属材料からなる。
【0038】
図3(b)を参照して、本実施形態では、例えば、軸部材44aに対して矢印X1で示す方向の力が付与されると、軸部材44aがゴムブッシュ44bに対して、矢印X1で示す方向に移動する。これにより、ゴムブッシュ44bの中央部が、ゴムブッシュ44bの外周部に対して矢印X1で示す方向に移動(変形)する。その結果、空間48aの体積が小さくなり、空間48a内の流体が貫通孔50a,52aを通って空間48bへ移動する。詳細な説明は省略するが、軸部材44aに対して矢印X2で示す方向の力が付与されると、空間48b内の流体が貫通孔50a,52aを通って空間48aへ移動する。本実施形態では、ゴムブッシュ44b内において流体が貫通孔50a,52aを通過する際に、流体に対して抵抗力が付与される。言い換えると、ゴムブッシュ44bでは、貫通孔50a,52aにおいて流体の流動が規制される。これにより、軸部材44aの中心部の変形が抑制され、軸部材44aに対して反力が付与される。このように、ゴムブッシュ44bは、流体の流動を規制することによって発生した反力を、軸部材44aに付与する。これにより、軸部材44aの第1方向Xへの移動が規制される。なお、位置調整部44において発生する反力は、軸部材44aの移動速度(初速)が大きいほど大きくなる。
【0039】
なお、本実施形態では、車体90の底部の中心部(本実施形態では、中心ピン92)と台車枠12(本実施形態では、一方の側梁26)との間の力の伝達経路に発生する第1方向Xの力が所定の第1閾値以上の場合には、位置調整部44において発生する反力が、緩衝部40において発生する反力よりも大きくなる。一方、上記伝達経路に発生する第1方向Xの力が所定の第2閾値(第1閾値以下の値)未満の場合には、位置調整部44において発生する反力が緩衝部40において発生する反力よりも小さくなる。
【0040】
図4は、緩衝装置22の動作を説明するための図である。なお、
図4においては、ロッド40aに力が付与されていない場合(通常時)のロッド40aの位置が、破線で示されている。また、緩衝装置22が
図4(a)に示す状態における軸部材44aの中心位置が一点鎖線で示され、緩衝装置22が
図4(d)に示す状態における軸部材44aの中心位置が二点鎖線で示されている。また、以下においては、第1方向Xに平行な方向において、牽引梁36(
図2参照)から緩衝部40に向かう方向をX1方向と記載し、緩衝部40から牽引梁36に向かう方向をX2方向と記載する。
【0041】
図1を参照して、例えば、鉄道車両100が曲線区間を通過する際に、台車枠12に対して車体90がX1方向に揺れたとする。この場合、
図4(a)に示すように、牽引梁36(
図1参照)からロッド40aにX1方向の力F1が付与される。なお、力F1の大きさは、上述の第1閾値以上であるとする。したがって、
図4(a)に示す状態では、位置調整部44において発生する反力が、緩衝部40において発生する反力よりも大きい。このため、シリンダ40c、ロッド42、軸部材44aおよびゴムブッシュ44bは、台車枠12に対して第1方向Xに移動しない。
【0042】
なお、本実施形態では、例えば、鉄道車両100が曲線区間を通過する際に牽引装置20と側梁26との間に発生する力(車体90と台車枠12との間の上記伝達経路に発生する力)では、軸部材44aが第1方向Xに移動しない程度に、第1閾値が設定される。
【0043】
また、本実施形態では、鉄道車両100が曲線区間を通過する際に上記伝達経路に発生する力では、ピストン40bがシリンダ40cに対して摺動しない程度に、緩衝部40が構成されている。このため、鉄道車両100が曲線区間を通過する際にロッド40aに力F1が付与されると、ピストン40bは、シリンダ40cに対して摺動することなく変形する。具体的には、ピストン40bは、中央部がX1方向に膨らむように変形する。本実施形態では、上記のようにピストン40bが変形することによって、台車枠12に対する車体90の揺れを適切に制御することができる。
【0044】
鉄道車両100が曲線区間から直線区間に移動することによって、ロッド40aに付与されている力F1が除荷される。これにより、ピストン40bが元の形状に戻り、ロッド40aがX2方向に移動して元の位置に戻る。
図1および
図2を参照して、ロッド40aが元の位置に戻ることによって、牽引装置20の牽引梁36および車体90の位置も元の位置に戻る。
【0045】
一方、例えば、地震の発生により、台車10が大きく揺れた場合、
図4(b)に示すように、牽引梁36からロッド40aに、力F1よりも大きいX1方向の力F2が付与される。なお、力F2の大きさは上述の第1閾値以上であるので、
図4(b)に示す状態においても、シリンダ40c、ロッド42、軸部材44aおよびゴムブッシュ44bは、台車枠12に対して第1方向Xに移動しない。
【0046】
本実施形態では、地震等によって牽引装置20と側梁26との間(車体90と台車枠12との間の上記伝達経路)に大きな力が発生した場合に、ピストン40bがシリンダ40cに対して摺動するように、緩衝部40が構成されている。
図4(b)に示す例では、ロッド40aに力F2が付与されることによって、ピストン40bは、変形しつつシリンダ40cに対してX1方向に移動している。より具体的には、ピストン40bの外周面が、シリンダ40cに対してX1方向に移動している。その後、地震による揺れが収まり、ロッド40aに付与されている力F2が除荷されると、
図4(c)に示すように、ピストン40bが元の形状に戻り、ロッド40aがX2方向に移動する。しかし、上述のように、ピストン40bの外周面がシリンダ40cに対してX1方向に移動しているので、ピストン40bが元の形状に戻るだけでは、ロッド40aは元の位置に戻れない。この点に関して、本実施形態では、上述したように、台車枠12(
図2参照)に対して牽引梁36(
図2参照)が所定の位置からX1方向に移動した場合、空気ばね18のX1方向の反力によって、中心ピン92は、牽引梁36に対して、元の位置に戻るようにX2方向の力を付与する。これにより、
図4(c)に示すように、ロッド40aにX2方向の力F3が付与される。その後、位置調整部44が動作し、牽引梁36および車体90が元の位置に戻る。
【0047】
なお、本実施形態では、上述の第2閾値は、牽引梁36からロッド40aに付与される力F3よりも大きくなるように設定されている。上述したように、牽引装置20と側梁26との間(車体90と台車枠12との間の上記伝達経路)に発生する第1方向Xの力が第2閾値未満の場合には、位置調整部44において発生する反力は緩衝部40において発生する反力よりも小さくなる。したがって、
図4(c)に示す状態では、位置調整部44において発生する反力は、緩衝部40において発生する反力よりも小さい。これにより、
図4(d)に示すように、軸部材44aがゴムブッシュ44bに対してX2方向に移動する。その結果、ロッド42、シリンダ40c、ピストン40bおよびロッド40aが台車枠12に対してX2方向に移動し、ロッド40aが元の位置に戻る。
【0048】
以上のように、本実施形態では、通常時には、ピストン40bが変形することによって、緩衝部40において適切な減衰力を発生することができる。また、地震等によって鉄道車両100に大きな振動が発生した場合には、ピストン40bが変形しつつシリンダ40cに対して摺動することによって、適切な減衰力を発生することができる。したがって、本実施形態によれば、通常時および地震発生時に鉄道車両の揺れを適切に制御することができる。
【0049】
また、本実施形態では、大きな振動が繰り返し鉄道車両100に生じた場合でも、位置調整部44において軸部材44aの移動が許容される限り、緩衝装置22を取り替える必要がない。これにより、鉄道車両100の整備コストを抑制できる。さらに、本実施形態では、制御装置を用いた電気的な制御を行う必要がない。これにより、鉄道車両100の製造コストを抑制できる。
【0050】
以上により、本実施形態によれば、通常時および地震発生時の鉄道車両100の揺れを、低コストで適切に制御することができる。
【0051】
なお、上記においては、牽引装置20の牽引梁36が台車枠12に対してX1方向に移動する場合(牽引梁36からロッド40aにX1方向の力が付与される場合)について説明したが、牽引梁36が台車枠12に対してX2方向に移動する場合についても、同様の作用効果が得られる。また、上記においては、牽引梁36からロッド40aに付与される第1方向Xの力を基準に緩衝装置22の動作を説明したが、側梁26から支持部材46に第1方向Xの力が付与されるとした場合も、緩衝装置22の動作は同様である。
【0052】
(他の実施形態)
上述の実施形態では、緩衝装置22のロッド40aを牽引装置20の牽引梁36に固定し、緩衝装置22の支持部材46を台車枠12の側梁26に固定した場合について説明したが、
図5に示す鉄道車両用台車10aのように、緩衝装置22のロッド40aを台車枠12の側梁26に固定し、緩衝装置22の支持部材46を牽引装置20の牽引梁36に固定してもよい。この場合も、上述の実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0053】
また、上述の実施形態では、第1移動体としてロッド40aおよびピストン40bを用い、第1支持体としてシリンダ40cを用いた構成を有する緩衝装置22について説明したが、緩衝装置の構成は上述の例に限定されない。例えば、
図6に示す緩衝装置22aのように、ロッド40aおよびシリンダ40cを第1移動体として用い、ロッド42に固定されたピストン40bを第1支持体として用いてもよい。なお、緩衝装置22aにおいては、ロッド40aおよびシリンダ40cは、台車枠12(横梁24)に対して、牽引梁36と一体的に第1方向Xに移動する。詳細な説明は省略するが、本実施形態に係る緩衝装置22aにおいても、上述の緩衝装置22と同様の作用効果が得られる。また、本実施形態に係る緩衝装置22aも、上述の緩衝装置22と同様に、ロッド40aを牽引装置20の牽引梁36に固定し、支持部材46を側梁26に固定してもよく、ロッド40aを側梁26に固定し、支持部材46を牽引梁36に固定してもよい。
【0054】
また、上述の緩衝装置22では、中空円板状のゴムからなるピストン40bを変形部として用いる場合について説明したが、
図7に示す緩衝装置22bのように、ピストン40bの代わりに、トーラス状(ドーナツ状)のロールゴムからなるピストン41を変形部として用いてもよい。
【0055】
図8は、緩衝装置22bの動作を説明するための図である。なお、
図8においては、ロッド40aに力が付与されていない場合(通常時)のロッド40aの位置が、破線で示されている。また、緩衝装置22bが
図8(a)に示す状態における軸部材44aの中心位置が一点鎖線で示され、緩衝装置22が
図8(d)に示す状態における軸部材44aの中心位置が二点鎖線で示されている。
【0056】
図1を参照して、例えば、鉄道車両100が曲線区間を通過する際に、台車枠12に対して車体90がX1方向に揺れたとする。この場合、
図8(a)に示すように、ロッド40aにX1方向の力F1が付与される。なお、力F1の大きさは、上述の第1閾値以上であるとする。したがって、
図8(a)に示す状態では、位置調整部44において発生する反力が、緩衝部40において発生する反力よりも大きい。このため、シリンダ40c、ロッド42、軸部材44aおよびゴムブッシュ44bは、台車枠12に対して第1方向Xに移動しない。
【0057】
なお、上述したように、鉄道車両100が曲線区間を通過する際に牽引装置20と側梁26との間に発生する力(車体90と台車枠12との間の上記伝達経路に発生する力)では、軸部材44aが第1方向Xに移動しない程度に、第1閾値が設定される。
【0058】
また、鉄道車両100が曲線区間を通過する際に上記伝達経路に発生する力では、ピストン41がシリンダ40cに対して摺動しない程度に、緩衝部40が構成されている。このため、鉄道車両100が曲線区間を通過する際にロッド40aに力F1が付与されると、
図8(a)に示すように、ピストン41は、シリンダ40cに対して摺動することなく変形する。具体的には、ピストン41は、中央部がX1方向に膨らむように変形する。
【0059】
鉄道車両100が曲線区間から直線区間に移動することによって、ロッド40aに付与されている力F1が除荷される。これにより、ピストン41が元の形状に戻り、ロッド40aがX2方向に移動して元の位置に戻る。
【0060】
一方、台車10が大きく揺れた場合、
図8(b)に示すように、ロッド40aに、力F1よりも大きいX1方向の力F2が付与される。なお、力F2の大きさは上述の第1閾値以上であるので、
図8(b)に示す状態においても、シリンダ40c、ロッド42、軸部材44aおよびゴムブッシュ44bは、台車枠12に対して第1方向Xに移動しない。
【0061】
本実施形態では、地震等によって牽引装置20と側梁26との間(車体90と台車枠12との間の上記伝達経路)に大きな力が発生した場合に、ピストン41がシリンダ40cに対して摺動(より具体的には、転動)するように、緩衝部40が構成されている。
図8(b)に示す例では、ロッド40aに力F2が付与されることによって、ピストン41は、変形および転動しつつシリンダ40cに対してX1方向に移動している。その後、ロッド40aに付与されている力F2が除荷されると、
図8(c)に示すように、ピストン41が元の形状に戻り、ロッド40aがX2方向に移動する。しかし、上述のように、ピストン41がシリンダ40cに対してX1方向に移動しているので、ピストン41が元の形状に戻るだけでは、ロッド40aは元の位置に戻れない。この点に関して、上述したように、中心ピン92が牽引梁36に対して、空気ばね18のX1方向の反力により,元の位置に戻るようにX2方向の力を付与する。これにより、
図8(c)に示すように、ロッド40aにX2方向の力F3が付与される。その後、上述したように、位置調整部44が動作し、牽引梁36および車体90が元の位置に戻る。
【0062】
以上のように、ピストン41を用いた緩衝装置22bも緩衝装置22と同様に動作するので、緩衝装置22bを用いた場合も、緩衝装置22を用いた場合と同様の作用効果が得られる。さらに、緩衝装置22bにおいては、ピストン41が転動することによって第1方向Xの力を緩衝することができる。
【0063】
なお、詳細な説明は省略するが、
図6の緩衝装置22aにおいて、ピストン40bの代わりにピストン41を用いてもよい。この場合も、上述の実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0064】
図2に示した台車10では、支持部材46が側梁26に固定されるように緩衝装置22が設けられ、
図5に示した台車10aでは、ロッド40aが側梁26に固定されるように緩衝装置22が設けられているが、緩衝装置22の配置は上述の例に限定されない。具体的には、緩衝装置は、車体90と台車枠12との間の上記伝達経路に設けられていればよい。したがって、例えば、
図9に示す台車10bのように、支持部材46が、連結部材60を介して横梁24に固定されていてもよく、
図10に示す台車10cのように、ロッド40aが、連結部材62を介して横梁24に固定されていてもよい。
【0065】
また、上述の実施形態では、Zリンク式の牽引装置20を用いる場合について説明したが、一本リンク式の牽引装置を用いてもよい。この場合、一対のパイプ部材28のうちのいずれかと中心ピン92とが、一つのリンク部によって連結される。例えば、
図2の台車10において牽引装置20の代わりに一本リンク式の牽引装置を用いる場合には、ロッド40aが中心ピン92に取り付けられる。具体的には、ロッド40aと中心ピン92とが相対的に回転できるように、例えば、ゴムブッシュまたは球面ブッシュ等の緩衝部材を介してロッド40aが中心ピン92に取り付けられる。また、例えば、
図5の台車10aにおいて牽引装置20の代わりに一本リンク式の牽引装置を用いる場合には、支持部材46が中心ピン92に取り付けられる。具体的には、支持部材46と中心ピン92とが相対的に回転できるように、例えば、ゴムブッシュまたは球面ブッシュ等の緩衝部材を介して支持部材46が中心ピン92に取り付けられる。
【0066】
上述の実施形態では、位置調整部として、軸部材44aおよびゴムブッシュ44bを用いた場合について説明したが、位置調整部として、ピストンおよびシリンダを備えた公知の種々のオイルダンパを用いてもよい。この場合、例えば、軸部材44aの代わりにピストン(第2移動体)がロッド42に固定され、そのピストンを収容するシリンダ(第2支持体)が、ゴムブッシュ44bおよび支持部材46の代わりに、側梁26または牽引梁36に固定される。なお、詳細な説明は省略するが、上記のように位置調整部を構成する場合にも、上述の位置調整部44と同様に反力を発生させる。
【0067】
上述の実施形態では、変形部として弾性部材からなるピストン40b,41を用いた場合について説明したが、変形部の構成は上述の例に限定されない。変形部は、第1方向Xの力に基づいて第1移動体が第1支持体に対して摺動する前に第1方向Xに弾性変形するように構成されていればよい。したがって、変形部が、弾性部材以外の部材を含んでいてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、通常時および地震発生時の鉄道車両の揺れを低コストで適切に制御できる。
【符号の説明】
【0069】
10 鉄道車両用台車
12 台車枠
14 車輪
16 車軸
18 空気ばね
20 牽引装置
22,22a,22b 緩衝装置
24 横梁
26 側梁
28 パイプ部材
30 連結部材
32 軸ばね
34 空気ばね座
36 牽引梁
38 リンク部
40 緩衝部
40a ロッド
40b ピストン
40c シリンダ
42 ロッド
44 位置調整部
44a 軸部材
44b ゴムブッシュ
46 支持部材
46a 貫通孔
48,48a,48b 空間
50,52 隔壁
50a,52a 貫通孔