IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-偏光板離型用ポリエステルフィルム 図1
  • 特許-偏光板離型用ポリエステルフィルム 図2
  • 特許-偏光板離型用ポリエステルフィルム 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】偏光板離型用ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230214BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20230214BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20230214BHJP
   C08G 63/183 20060101ALN20230214BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
B32B27/36
B32B27/20 Z
C08G63/183
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019018507
(22)【出願日】2019-02-05
(65)【公開番号】P2020125405
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】多持 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】藤井 秀樹
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-190387(JP,A)
【文献】特開2011-197225(JP,A)
【文献】特開2018-162435(JP,A)
【文献】国際公開第2013/031511(WO,A1)
【文献】特開2009-179729(JP,A)
【文献】特開2010-260892(JP,A)
【文献】特開平08-124150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02;5/12-5/22
B32B 1/00-43/00
B29C 55/00-55/30
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
C08G 63/00-64/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム全体に対するカルシウム元素含有量が280重量ppm以上450重量ppm以下、リン元素含有量が25重量ppm以上33重量ppm以下、アルカリ金属元素含有量が5重量ppm以上9重量ppm以下であって、2層以上からなる積層ポリエステルフィルムであり、少なくとも一方の表層(層A)の当該層に対するカルシウム元素含有量が1500重量ppm以上2500重量ppm以下、リン元素含有量が25重量ppm以上35重量ppm以下、アルカリ金属元素含有量が7重量ppm以上12重量ppm以下であり、少なくとも一つの層(層B)の当該層に対するカルシウム元素含有量が130重量ppm以上270重量ppm以下、リン元素含有量が20重量ppm以上30重量ppm以下、アルカリ金属元素含有量が2重量ppm以上7重量ppm以下であり、フィルムヘイズが7%以上13%以下である偏光板離型用ポリエステルフィルム。
【請求項2】
フィルムの全厚みに占める層Aの厚み比率が1%以上15%以下であり、層Bの厚み比率が85%以上99%以下である請求項に記載の偏光板離型用ポリエステルフィルム。
【請求項3】
層Aの算術平均粗さRaが20nm以上34nm以下である請求項またはに記載の偏光板離型用ポリエステルフィルム。
【請求項4】
3層からなる積層ポリエステルフィルムであって、両表層(層A、層A’)の各層に対するカルシウム元素含有量が1500重量ppm以上2500重量ppm以下、リン元素含有量が25重量ppm以上35重量ppm以下、アルカリ金属元素含有量が7重量ppm以上12重量ppm以下であり、内層(層B)の当該層に対するカルシウム元素含有量が130重量ppm以上270重量ppm以下、リン元素含有量が20重量ppm以上30重量ppm以下、アルカリ金属元素含有量が2重量ppm以上7重量ppm以下である請求項1に記載の偏光板離型用ポリエステルフィルム。
【請求項5】
フィルムの全厚みに占める表層(層A、層A’)の厚み比率が、いずれも1%以上15%以下であり、内層(層B)の厚み比率が70%以上98%以下である請求項に記載の偏光板離型用ポリエステルフィルム。
【請求項6】
少なくとも一方の表層の算術平均粗さRaが20nm以上34nm以下である請求項またはに記載の偏光板離型用ポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は偏光板の検査性に優れた偏光板離型用ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、離型用フィルムは、ポリエステルを基材として、離型性のある樹脂層、たとえばシリコーン樹脂やエポキシ樹脂などを塗布し形成される。ポリエステルを基材とした離型フィルムは、セラミックグリーンシート製造用、液晶偏光板離型用、フォトレジスト用などの各種離型用途に用いられている。一般的な離型フィルムには、離型フィルムの上に離型対象物を設けた際の積層ズレや積層時の欠点を少なくすること、さらに、離型フィルムと離型フィルム上に設けた離型対象物との離型性などが求められる。また、偏光板離型用では、離型フィルムが偏光板と貼り合わされたままクロスニコル検査を受けるため、そのクロスニコル検査を阻害しないために離型フィルム内の異物を低減すること(クロスニコル検査での易検査性)が要望される。その一方で、反射光および透過光を用いた検査も行われることから、離型フィルムのフィルムヘイズを好適な範囲に調整することも要求される。これまでに、離型フィルムの搬送性や離型性を向上させるための方法として、ポリエステルフィルム中に粒子を適量配合し、フィルム表面に微細な突起を形成する技術が知られている。特許文献1では、凝集シリカ、球状シリカ、炭酸カルシウムといった無機粒子を用いている。また、フィルムのヘイズを調整する方法として、ポリエステルフィルム中に粒子を適量配合してフィルムの不透明度を上げる技術が知られており、例えば特許文献2ではカルシウム化合物を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-124150号公報
【文献】特公平6-86537号公報
【文献】特開2005-138538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ポリエステル中の無機粒子含有量を増やした場合、凝集による粗大粒子が発生しやすくなる。そのため、離型フィルムの搬送性や離型性、またはフィルムヘイズを高めるために、フィルムに無機粒子を添加すると、無機粒子の凝集により形成される粗大異物によって検査性が悪化することが問題であった。
本発明は、かかる従来技術の欠点を解消することにある。すなわち、フィルムに添加した無機粒子由来の凝集異物を低減しつつ、加工適性とフィルムヘイズを好適な範囲に調整した離型フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を取る。すなわち、
[I]フィルム全体に対するカルシウム元素含有量が280重量ppm以上450重量ppm以下、リン元素含有量が25重量ppm以上33重量ppm以下、アルカリ金属元素含有量が5重量ppm以上9重量ppm以下であって、フィルムヘイズが7%以上13%以下である偏光板離型用ポリエステルフィルム。
[II]2層以上からなる積層ポリエステルフィルムであって、少なくとも一方の表層(層A)の当該層に対するカルシウム元素含有量が1500重量ppm以上2500重量ppm以下、リン元素含有量が25重量ppm以上35重量ppm以下、アルカリ金属元素含有量が7重量ppm以上12重量ppm以下であり、少なくとも一つの層(層B)の当該層に対するカルシウム元素含有量が130重量ppm以上270重量ppm以下、リン元素含有量が20重量ppm以上30重量ppm以下、アルカリ金属元素含有量が2重量ppm以上7重量ppm以下である[I]に記載の偏光板離型用ポリエステルフィルム。
[III]フィルムの全厚みに占める層Aの厚み比率が1%以上15%以下であり、層Bの厚み比率が85%以上99%以下である[II]に記載の偏光板離型用ポリエステルフィルム。
[IV]層Aの算術平均粗さRaが20nm以上34nm以下である[II]または[III]に記載の偏光板離型用ポリエステルフィルム。
[V]3層からなる積層ポリエステルフィルムであって、両表層(層A、層A’)の各層に対するカルシウム元素含有量が1500重量ppm以上2500重量ppm以下、リン元素含有量が25重量ppm以上35重量ppm以下、アルカリ金属元素含有量が7重量ppm以上12重量ppm以下であり、内層(層B)の当該層に対するカルシウム元素含有量が130重量ppm以上270重量ppm以下、リン元素含有量が20重量ppm以上30重量ppm以下、アルカリ金属元素含有量が2重量ppm以上7重量ppm以下である[I]に記載の偏光板離型用ポリエステルフィルム。
[VI]フィルムの全厚みに占める表層(層A、層A’)の厚み比率が、いずれも1%以上15%以下であり、内層(層B)の厚み比率が70%以上98%以下である[V]に記載の偏光板離型用ポリエステルフィルム。
[VII]少なくとも一方の表層の算術平均粗さRaが20nm以上34nm以下である[V]または[VI]に記載の偏光板離型用ポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0006】
本発明のポリエステルフィルムは、偏光板離型用途に用いた際、反射検査および透過検査をする際に好ましいフィルムヘイズを有するフィルムでありながら、偏光板の欠点検査をする際にクロスニコル検査を阻害する粗大粒子の影響が抑制され、かつ、偏光板の離型性が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】反射検査器を使用した欠点観察法を模式的に示す図である。
図2】透過検査器を使用した欠点観察法を模式的に示す図である。
図3】クロスニコル検査器を使用した輝点欠点観察法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明のポリエステルフィルムは、偏光板離型用途の離型フィルムに好適に用いられる。該用途は偏光板の加工工程において搬送系でのキズを防止する為や、偏光板をディスプレイ基盤に貼り付けるための糊剤を保持するために必要である。本発明のポリエステルフィルムに離型処理を行い、ロール状態にて、糊剤を塗布した偏光板に貼り付けられ、偏光板を打ち抜き、ディスプレイ基盤に貼り付ける際に剥離される。
【0010】
本発明のポリエステルフィルムにおけるポリエステルは、ジカルボン酸構成成分とジオール構成成分を有してなるものである。なお、本明細書内において、構成成分とはポリエステルを加水分解することで得ることが可能な最小単位のことである。
【0011】
ポリエステルを構成するジカルボン酸構成成分としては、本発明を実施するためには、テレフタル酸を全ジカルボン酸構成成分に対して30mol%以上使用することが必要である。テレフタル酸以外のジカルボン酸成分としてはマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、などの脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルエンダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、9,9’-ビス(4-カルボキシフェニル)フルオレン酸等芳香族ジカルボン酸などのジカルボン酸、もしくはそのエステル誘導体が挙げられるがこれらに限定されない。
【0012】
また、かかるポリエステルを構成するジオール構成成分としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール等の脂肪族ジオール類、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、イソソルビドなどの脂環式ジオール類、ビスフェノールA、1,3-ベンゼンジメタノール,1,4-ベンセンジメタノール、9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、芳香族ジオール類等のジオール、上述のジオールが複数個連なったものなどが例としてあげられるがこれらに限定されない。
【0013】
本発明のポリエステルは公知の方法で製造するこができる。具体的にはエステル化工程は単数または複数のエステル化反応槽を使用し、攪拌下に行う。例えば、単一のエステル化反応槽を用いる場合、反応温度は通常240~280℃、大気圧に対する相対圧力は通常0~400kPa、反応時間は通常1~10時間である。エステル化工程で得られるエステル化反応生成物のエステル化反応率は通常95%以上である。
【0014】
溶融重縮合工程は、通常、単数または複数の重縮合反応槽を使用した連続式または回分式で行なうことができ、常圧から漸次減圧して加熱攪拌下に生成するエチレングリコールを系外に留出させながら行なう。例えば、単一の重縮合反応槽を使用した回分式の場合、反応温度は通常250~290℃、常圧から漸次減圧とした最終的な絶対圧力は、通常1.3~0.013kPa(10~0.1Torr)、反応時間は通常1~20時間である。
ポリエステル樹脂の固有粘度は、重合の終点をポリマーの攪拌トルクで判定することができる。攪拌トルクが高い場合には、ポリマーの溶融粘度が高く、固有粘度も高くなる。目標とする固有粘度になるように重合装置の終点判定攪拌トルクを設定すればよい。本発明ではフィルムのIVが0.60以上0.70以下となるように終点判定の攪拌トルクを設定することが好ましい。この範囲とすることで、表面粗さの制御がしやすく、好ましい。
【0015】
得られた重合の終了したポリエステル樹脂は、重合装置下部からストランド状に吐出し、水冷しながらカッターによってカッティングすればよい。カッティングによってチップ形状が制御できるので、本発明において好ましい嵩密度を有するポリエステルチップを得ることができる。
【0016】
本発明において使用する重縮合反応触媒には、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモングリコラート、二酸化ゲルマニウム、有機チタン化合物などの一種または二種以上を用いることができる。中でも得られるポリエステルの透明性および入手性の面から三酸化アンチモンが好ましい。
【0017】
本発明のポリエステルフィルムは、フィルム全体に対するカルシウム元素含有量が280重量ppm以上450重量ppm以下、リン元素含有量が25重量ppm以上33重量ppm以下、アルカリ金属元素含有量が5重量ppm以上9重量ppm以下であって、フィルムヘイズが7%以上13%以下であることが必要である。
【0018】
本発明のポリエステルフィルムを偏光板離型用途に用いる際には、透過光を用いた検査や、反射光を用いた検査を実施する場合がある。ポリエステルフィルムフィルムヘイズが13%を超えていると、透過光を用いた検査において、透過光が十分に透過せず検査に支障を及ぼすため不適である。一方、フィルムヘイズが7%未満となると、反射光を用いた検査において、反射光が透過してしまい検査に支障を及ぼすため不適である。フィルムヘイズを上述の範囲とするには、ポリエステルフィルムに含有するカルシウム元素含有量、リン元素含有量、アルカリ金属元素含有量を制御する方法、ポリエステルフィルムに含有させるカルシウム元素含有化合物、アルカリ金属元素含有化合物、リン元素含有化合物として分解反応を抑制したりポリゴマーの発生を抑制する効果の高い化合物を用いる方法、後述する2層以上構成とし各々の層に含有する元素量を制御する方法などが挙げられる。詳しくは後述する。
【0019】
フィルム全体に対するカルシウム元素含有量、リン元素含有量、アルカリ金属元素含有量を上述の範囲とすることで、ポリエステルの重合触媒金属元素によるポリエステル主鎖骨格の分解や、金属元素の凝集核化を抑制することを可能にしつつ、凝集異物にならない程度の細かい微粒子を形成させることが可能となり、無機粒子を添加しなくとも、あるいは、無機粒子の添加量が少なくともフィルムヘイズが7%を超えるほど高くできるため偏光板離型の検査性に優れ、かつ、離型性に優れたフィルムとすることができる。このとき、フィルム中の無機粒子含有量を1重量%以下とすると、フィルムに均一に微細な微粒子を配置でき、フィルムヘイズおよび算術平均粗さの偏りが小さくなるため好適である。
【0020】
本発明に用いられるカルシウム元素含有化合物としては、例えば炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム等が挙げられる。
【0021】
本発明に用いられるリン元素含有化合物としては、例えばリン酸、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリn-ブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、ジブチルホスフェート、モノブチルホスフェート、トリエチルフォスフォノアセテート、トリス(トリエチレングリコール)ホスフェート、亜リン酸、ジオクチルホスフェート、トリフェニルホスファイト、トリスドデシルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、メチルアッシドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、トリエチレングリコールアシッドホスフェート、イソプロピルアッシドホスフェート、ブチルアッシドホスフェート等が用いられる。
【0022】
本発明に用いられるアルカリ金属元素含有化合物としては、特に限られるものでは無いが、前述リン元素含有化合物に加えて、リン酸アルカリ金属塩を添加することで加水分解および熱分解が向上し、フィルムが熱処理や熱加工される際に発生する線状オリゴマー量を抑制することができるという観点から、リン酸アルカリ金属塩を用いることが好ましい。アルカリ金属元素の含有量としては、フィルムを熱処理や熱加工する際に発生するオリゴマー量の観点から、アルカリ金属元素として5重量ppm以上9重量ppm以下が好ましい。アルカリ金属元素含有量が5重量ppmを下回ると、カルボキシル基末端から発生したプロトンをトラップしきれず線状オリゴマーが発生しやすくなるため好ましくなく、9重量ppmを上回ると過剰となったアルカリ金属元素イオンがPET分子鎖の分解を促進し、異物化を起こすため好ましくない。
【0023】
リン元素含有量としては、25重量ppm以上33重量ppm以下が好ましい。リン元素含有量が25重量ppmを下回ると、重合活性の低下をもたらすため好ましくなく、33重量ppmを上回ると添加したリン化合物が異物化を起こし、さらにフィルムの静電印加性が悪化するため好ましくない。
【0024】
本発明におけるリン酸アルカリ金属塩としては特に限定しないが、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウムが挙げられる。その中でもリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムが耐加水分解性の観点から好ましい。
【0025】
本発明のポリエステルフィルムは、2層以上の積層構造であっても良い。少なくとも一方の表層部(層A)に添加するカルシウム元素量を変えることで、層Aの算術平均粗さを調整でき、フィルムの搬送性や積層体との離型性を向上させることができる。層Aの算術平均粗さは20~34nmであることが好ましい。算術平均粗さが20nmを下回ると、フィルムの剥離帯電によるブロッキングが発生し塗布抜けを生じる場合がある。また、算術平均粗さが34nmを超えると、積層体との密着性が損なわれる場合がある。より好ましくは20~30nmである。前記層A以外の層(層B)のカルシウム元素量を変えることで、フィルム全体としてのフィルムヘイズを調整することができる。層Aの当該層に対するカルシウム元素含有量は1500重量ppm以上2500重量ppm以下、好ましくは1900重量ppm以上2100重量ppm以下とし、層Bの当該層に対するカルシウム元素含有量は130重量ppm以上270重量ppm以下、好ましくは150重量ppm以上250重量ppm以下とすると、搬送性および離型性と好適なフィルムヘイズの両立が可能となる。
【0026】
また、層Aは含有するカルシウム元素が多く、フィルム中の線状オリゴマーと溶出したカルシウムイオンが凝集することを防ぐため、線状オリゴマーの発生を抑制するリン酸アルカリ金属塩を多く含むことが好ましい。そのため、アルカリ金属元素として7重量ppm以上12重量ppm以下の範囲で含有させると好ましい。層Bは、アルカリ金属元素量は2重量ppm以上7重量ppm以下の範囲で含有させると好ましい。
【0027】
リン元素含有量は、層Aは、重合活性およびリン化合物による異物抑制、静電印加キャスト性の観点から、25重量ppm以上35重量ppm以下であることが好ましい。層Bは、20重量ppm以上30重量ppmであることが好ましい。
【0028】
本発明のポリエステルフィルムの総厚みは、単層または2層以上の構造の場合も好ましくは15μm以上50μm以下であり、さらに好ましくは25μm以上40μm以下である。2層構造の場合は、フィルムの全厚みに占める層Aの厚み比率が1%以上15%以下であることが好ましい。層Aの厚み比率が1%以下だと算術平均粗さが20nm以下になり搬送性や離型性を損なうため好ましくなく、厚み比率が15%以上だと算術平均粗さは達成できるものの添加するべき粒子量が多くなりコスト面で不利になるため好ましくない。
【0029】
本発明のポリエステルフィルムは、3層構成の場合、両表層(層A、A’)の当該層に対するカルシウム元素含有量は1500重量ppm以上2500重量ppm以下であることが好ましく、好ましくは1900重量ppm以上2100重量ppm以下とし、リン元素含有量が25重量ppm以上35重量ppm以下、アルカリ金属元素含有量が7重量ppm以上12重量ppm以下であることが好ましく、内層(層B)の当該層に対するカルシウム元素含有量は130重量ppm以上270重量ppm以上、好ましくは150重量ppm以上250重量ppm以下とし、リン元素含有量が20重量ppm以上30重量ppm以下、アルカリ金属元素含有量が2重量ppm以上7重量ppm以下とすることが好ましい。3層構成の場合は内層部にフィルム特性に悪影響を与えない範囲で、製膜工程で発生するエッジ部分の回収原料、あるいはほかの製膜工程のリサイクル原料などを混合して使用することが容易となるのでコスト的にも優位であり好ましい。
【0030】
本発明のポリエステルフィルムの総厚みは、3層構造の場合も好ましくは15μm以上50μm以下であり、さらに好ましくは25μm以上40μm以下である。3層構造の場合は、フィルムの全厚みに占める層Aおよび層A’の厚み比率が1%以上15%以下であることが好ましい。層Aの厚み比率が1%以下だと算術平均粗さが20nm以下になり搬送性や離型性を損なうため好ましくなく、厚み比率が15%以上だと算術平均粗さは達成できるものの添加するべき粒子量が多くなりコスト面で不利になるため好ましくない。
【0031】
以下、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法について例を挙げて説明するが、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、かかる例によって得られる物のみに限定して解釈されるものではない。
【0032】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、以下の工程を有する方法によって得ることができる。
(工程1)ポリエステル樹脂をシート状に溶融押出し、前記シート状に溶融押出したポリエステル樹脂を18~50℃のキャスティングロール上で1~15秒接触させて冷却固化せしめて厚み180~1400μmの未延伸ポリエステルフィルムを得る工程行程。
(工程2)(工程1)で得られた未延伸ポリエステルフィルムを、長手方向に延伸倍率が2.5~5倍で延伸した後、冷却をして一軸延伸ポリエステルフィルムを得る工程。
(工程3)(工程2)で得られた一軸延伸ポリエステルフィルムを、幅方向に延伸倍率が3~6倍、かつ、幅方向の延伸倍率が長手方向の延伸倍率よりも高い延伸倍率で延伸した後、冷却をして、二軸延伸ポリエステルフィルムを得る工程。
(工程4)前記二軸延伸ポリエステルフィルムを、熱処理温度が180~230℃にて熱処理して、二軸配向ポリエステルフィルムを得る工程。
【0033】
以下にそれぞれの工程について詳しく説明する。
・(工程1)未延伸フィルムの作成
ポリエステル樹脂を、必要に応じて乾燥し、押出機に供給し溶融押出する。フィルムの固有粘度を上述の範囲とするためには、押出機に供給するポリエステル樹脂の平均固有粘度は0.55~0.64dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.55~0.62dl/gである。また押出機に供給するポリエステル樹脂の固有粘度のバラツキは0.002~0.030dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.005~0.030である。なお、押出機に供給するポリエステル樹脂の固有粘度のバラツキは、後述する測定方法により求められるものであり、原料として押出機に供給するポリエステル樹脂から無作為に抽出する50サンプルについて固有粘度の測定を行い、得られた値の標準偏差σとして算出されるものである。原料として供給するポリエステル樹脂の固有粘度に一定のバラツキを有さしめることで、フィルムの結晶の面配向指数を高くしつつ、配向角を小さくすることが可能となる。原料として供給するポリエステル樹脂の固有粘度のバラツキが0.002dl/g未満であると、結晶の面配向指数χi値が低くなるため輝点欠点を低減できない場合がある。一方、原料として供給するポリエステル樹脂の固有粘度のバラツキが0.030dl/gを超えると、得られる二軸配向ポリエステルフィルムの特性が安定しない上、配向角が高くなり、偏光板をクロスニコル法で検査する際の光漏れが大きくなり検査の阻害となる場合がある。原料として供給するポリエステル樹脂のバラツキを上記の範囲とする方法は、特に限られるものでは無い。原料として供給するポリエステル樹脂の重合をバッチ式重合方法で得る場合は、連続式重合方法で得る場合に比べて、固有粘度のバラツキは大きくなる。
【0034】
続いて押出機により溶融押出されたポリエステル樹脂をフィルターにより濾過する。小さな異物もフィルム欠点となるため、このフィルターには例えば5μm以上の異物を95%以上捕集する高精度のものを用いることが有効である。溶融したポリエステル樹脂は熱分解や、加水分解をすることで、その分子鎖が切れ、固有粘度が低下する。溶融押出を行う際のポリエステル樹脂の温度および水分率は、最終的に得られるフィルムの固有粘度を上述の範囲とすることができれば、特に限定されないが、安定して溶融押出を行うためには、その温度はポリエステル樹脂の融点+5~+40℃、水分率は300ppm以下であることが好ましい。
【0035】
続いてT型口金等を用いてシート状に成形し、シート状に成形されたポリエステル樹脂をキャスティングロール上で冷却固化せしめて未延伸フィルムを得る。この際、キャスティングロールの温度は18~50℃、シート状に成形されたポリエステル樹脂がキャスティングロールに接触する冷却時間は1~15秒であることが好ましい。キャスティングロールの温度が18℃未満であると、キャスティングドラム上に結露が生じやすくなり、製膜性が悪化する場合がある。キャスティングロールの温度が50℃を超えると、結晶の面配向指数χi値が低くなる場合がある。これは、キャスティングロールの温度が高いと冷却効率が悪化するため、得られる未延伸フィルム中に微結晶が生成され、その後の延伸工程での結晶配向化が進みやすくなるためである。同様に、キャスティングロールに接触して冷却される時間が1秒未満であると、冷却効率が悪化し、得られる未延伸フィルム中に微結晶が生成される結果、結晶の面配向指数χi値が低くなる傾向がある。キャスティングロールによる冷却時間は、キャスティングロールを大径化したり、ラインスピードを下げることで長くしたりすることができるが、設備スペースや生産性を鑑みるとその上限は15秒である。より好ましくは、キャスティングロールの温度は20~30℃、シート状に成形されたポリエステル樹脂がキャスティングロールに接触する冷却時間は3~12秒である。
【0036】
また、工程1で得られる未延伸フィルムの厚みは180~1400μmであることが好ましい。未延伸フィルムの厚みが180μm未満であると、配向角や熱収縮率を所望の範囲となるように延伸するためには膜厚みが十分でなく、延伸中に膜破れなどが起きる場合がある。一方、未延伸フィルムの厚みが1400μmを超えると、ポリエステル樹脂シートをキャスティングロール上で冷却固化する際、厚み方向で冷却ムラが発生し、結晶の面配向指数χi値が低くなる傾向がある。また、二軸配向ポリエステルフィルムの最終厚みが、偏光板離型用途に適した範囲から外れる場合がある。
・(工程2)一軸延伸フィルムの作成
前記(工程1)で得られた未延伸フィルムを、長手方向に延伸倍率が2.5~5.0倍で延伸、冷却することによって、一軸延伸ポリエステルフィルムを得る。長手方向への延伸は、90~130℃の延伸温度で1段階的に、もしくは多段階的に分けて延伸することが好ましい。ボーイング現象およびフィルム長手方向の厚みムラを抑える観点から、延伸温度は100~120℃、延伸倍率は3~4倍がより好ましく、延伸ムラおよびキズを防止する観点から延伸は2段階以上に分けて行うことが好ましい。また、長手方向延伸により幅方向の収縮が生じるが、この延伸工程から冷却工程におけるフィルムの幅縮みは15%以下であることが好ましい。フィルムの幅縮みが15%を超えるとフィルムの蛇行や幅変動が生じる、またはフィルムの幅方向の面配向の均一性が悪化するため、5m幅にわたって結晶の面配向指数χi値を6.0以上とすることが困難になる場合がある。フィルムの幅縮みは、長手方向延伸を行う前のフィルム端部の厚みプロファイルを調整したり、延伸張力をニップロールなどで調整したりすることで制御することができる。
なお、ここで示したフィルムの幅縮みは、長手方向延伸工程直前のフィルム幅と延伸・冷却を終えた後のフィルム幅との差を長手方向延伸工程直前のフィルム幅で除することで算出される。
(工程2)における冷却工程におけるフィルム温度は25~45℃であると、次の(工程行程3)における幅方向の延伸を安定して行う上で好ましい。
・(工程3)二軸延伸フィルムの作成
前記(工程2)で得られた一軸延伸ポリエステルフィルムを、幅方向に延伸倍率が3.0~6.0倍、かつ、幅方向の延伸倍率が長手方向の延伸倍率よりも高い延伸倍率で延伸する。幅方向の延伸は、90~130℃の延伸温度で延伸することが好ましい。延伸温度が90℃よりも低く、延伸倍率が6.0倍よりも高くなると配向角は低減する傾向にあるが、フィルムが破断しやすくなる、また結晶の面配向指数χi値が低くなる。延伸温度は100~120℃、延伸倍率は4.0~5.0倍であるとより好ましい。また、配向角を低くするためには、幅方向の延伸倍率が、長手方向の延伸倍率よりも高いことが好ましい。幅方向の延伸倍率より長手方向延伸倍率を高くすると、フィルム内の分子配向が長手方向側に傾くため、配向角バラツキを抑制することが困難となる。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを製造するに際し、長手方向の延伸の後に幅方向延伸後を行う。幅方向延伸後に長手方向延伸を行うと、最初の幅方向延伸後に分子が主に幅方向に強く配向するが、その後に長手方向延伸を行うと長手方向にも配向してしまい、配向角が高くなってしまうためである。
【0037】
続いて幅方向に延伸したフィルムをフィルム温度25~45℃、フィルムの幅縮み速度が0.1~20%/minにて冷却することによって、冷却された二軸延伸ポリエステルフィルムを得る。冷却工程におけるフィルム温度は25~45℃とすることが幅縮みによる幅方向の配向緩和を抑制し、ボーイング現象を抑制できるため好ましい。より好ましくは、30~40℃である。冷却工程におけるフィルム温度が45℃より高いと、フィルム幅縮みによる張力が影響して製膜性が悪くなり、また幅方向の配向緩和を抑制する効果が十分に出ない場合がある。冷却工程におけるフィルム温度が20℃未満に冷却することは、生産性が悪く場合がある。
【0038】
ポリエステルフィルムの冷却方法は、熱処理を行うテンターによる空冷方法、熱処理領域の上下にアルミ板などの遮蔽板で熱風を遮断する空冷方法、ロールによる冷却方法等が挙げられる。熱処理を行うテンターによる空冷方法では各ゾーンが長手方向に全てつながっているため、随伴気流など高温空気の自由な流れによりフィルム上下や幅方向に温度差が発生し、フィルム温度を十分冷却できない場合がある。その場合は、圧縮空気などを送り込んで積極的に冷却することで対応することもできる。
【0039】
また、ロールによる冷却方法では、使用するロール本数や設定温度は限られるものではないが、ロール本数を複数本用いて冷却することが好ましい。ロールによる冷却方法においてフィルム温度を上記の範囲とするためには、ロール温度は20~45℃であることが好ましく、さらに好ましくは30~40℃である。また、ロールによる冷却方法ではフィルムをニップロールで冷却ロールに荷重をかけて密着させると、安定して冷却が行えるため好ましい。
【0040】
また、この冷却工程において、フィルムの幅縮み速度は0.1~20%/minであることが好ましい。幅縮み速度が0.1%/min未満では、フィルムの幅縮みが抑制されたことによるフィルム張力が影響し、製膜性が悪くなり、フィルム破れ等の原因となる場合がある。また、幅縮み速度が20%/minより速いと、フィルムの幅縮みによる配向緩和を抑制する効果は少なく、ボーイング現象の抑制が不十分となる場合がある。フィルムの幅縮み速度は、0.2~18%/minとすることがさらに好ましい。幅縮み速度を制御する方法としては、冷却工程長さ、製膜速度から幅縮みの速度を設定し、様々な方法で実現することができる。具体的にはテンターにおける空冷方法においては両端をクリップで把持し、レール幅を調整することで幅縮み速度を所望の値にすることが出来る。
【0041】
なお、ここで示した冷却工程におけるフィルムの幅縮み速度は、幅方向延伸工程を経た後であって冷却工程に入る直前のフィルム幅W1(mm)、冷却工程を経た後のフィルム幅W2(mm)、冷却工程の通過時間をT1(min)としたときに式(1)にて算出されるものである。
フィルムの幅縮み速度 =(W1-W2)/W1 × 1/T1 式(1)
また、(工程3)の冷却工程においてフィルムは温度が低下した状態である程度の時間を経ることが好ましい。この理由としては、以下のように推測している。前述したように冷却工程では幅縮みをする際に配向緩和が起こっていると考えられるが、フィルムを冷却することによって配向緩和を止めるには一定の時間が必要であると推測される。そのため、冷却工程の通過時間が不十分であると配向緩和を抑制できないため、ボーイング現象を抑制する効果が少ないと推測している。本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを製造するに際して、冷却工程の通過時間は、10秒間以上が好ましく、更に好ましくは15秒間以上である。冷却工程の通過時間の上限は特に限定されないが、60秒間以下である
と生産性が良好となるため好ましい。
・(工程4)二軸延伸フィルムの熱処理
前記(工程3)で得られた二軸延伸ポリエステルフィルムを、熱処理することによって、二軸配向ポリエステルフィルムを得る。熱処理温度は180~230℃が好ましく、さらに好ましくは180~215℃、とくに好ましくは185~210℃である。熱処理温度が180℃未満では熱処理が不十分となり、150℃30分間熱処理した後のフィルム長手方向の熱収縮率を2.5~7.0%、フィルム幅方向の熱収縮率を2.5~8.0%の範囲に収めることが困難となる場合がある。熱処理温度が230℃より高いと、ボーイングが発生しやすくなり配向角を上述の範囲に制御することが困難となるため好ましくない。
また、上記熱処理においては、必要に応じて弛緩処理を行ってもよい。弛緩処理は、幅方向・長手方向いずれの方向について行っても良く、幅方向・長手方向を同時に行っても、それぞれ別に行っても良い。弛緩率は、フィルムの全幅に対して好ましくは1~20%、さらに好ましくは1~15%であると、熱寸法安定性の優れたフィルムを得るのに有効である。
【実施例
【0042】
実施例および比較例における特性値の測定方法および評価方法は次の通りである。
【0043】
(1)ポリエステルフィルム中のカルシウム元素量およびリン元素量、アルカリ金属元素量
カルシウム、リン、アルカリ金属元素の含有量については、ポリエステルフィルムを細かく裁断した後、溶融プレス機で円柱状に成型し、理学電機(株)製蛍光X線分析装置(型番:3270)を用いて測定した。
【0044】
(2)フィルムヘイズ
JIS K7105(1981)に準じ、フィルム長手方向4cm×フィルム幅方向3.5cmの寸法に切り出したものをサンプルとし、ヘイズメータ(スガ試験機製HGM-2DP(C光用))を用いて測定する。フィルム幅方向に対して均等に3点測定し、その平均値を測定結果とした。
【0045】
(3)フィルム積層厚み
表面からエッチングしながらXPS(X線光電子光法)、IR(赤外分光法)あるいはコンフォーカル顕微鏡などで、その粒子濃度のデプスプロファイルを測定する。片面に積層したフィルムにおける表層では、表面という空気-樹脂の界面のために粒子濃度は低く、表面から遠ざかるにつれて粒子濃度は高くなる。本発明の片面に積層したフィルムの場合は、深さ[I]で一旦極大値となった粒子濃度がまた減少し始める。この濃度分布曲線をもとに極大値の粒子濃度の1/2になる深さ[II](ここで、II>I)を積層厚さとした。さらに、無機粒子などが含有されている場合には、二次イオン質量分析装置(SIMS)を用いて、フィルム中の粒子のうち最も高濃度の粒子の起因する元素とポリエステルの炭素元素の濃度比(M+/C+)を粒子濃度とし、層(A)の表面からの深さ(厚さ)方向の分析を行う。そして上記同様の手法から積層厚さを得る。
【0046】
(4)算術平均粗さRa
三次元微細表面形状測定器(小坂製作所製ET-350K)を用いて測定し、得られたフィルム表面の線形プロファイル曲線より、JIS・B0601-1994に準じ、算術平均粗さRaを求めた。以下に示す条件で測定を行った。
X方向測定長さ:0.5mm、X方向送り速度:0.1mm/秒。
Y方向送りピッチ:5μm、Y方向ライン数:40本。
カットオフ:0.25mm。
触針圧:0.02mN。
高さ(Z方向)拡大倍率:5万倍。
【0047】
(5)反射検査での易検査性
反射検査器での易検査性を評価する機器に、照明手段としてLEDライト(アトー製 HBLF-L1400)、受光手段として分解能100μmのCCDカメラ(ヒューテック製 PCTME8040)を複数配置し、反射光の照射角度と検出角度を40°になるよう設置した反射検査器を使用した。反射検査器のLEDライトの出力およびカメラの検出感度を変えずにフィルムを検査した際、カメラが検出する映像信号を最大明度の場合が255、最小明度の場合が0となるように256分割した出力値で評価し、ベース出力値が127±20の範囲に収まるかで判定した。装置の概略図を図1に示す。
○:ベース信号出力値が127±20の範囲内である(明欠点・暗欠点の両方が正常に検査できる)。
×:ベース信号出力値が127±20の範囲外である(明欠点・暗欠点のどちらかが正常に検査できない)。
【0048】
(6)透過検査での易検査性
透過検査器での易検査性を評価する機器に、照明手段としてLEDライト(ヒューテック社製 FLS-L3200)、受光手段として分解能70μmのCCDカメラ(ヒューテック社製 DCFMB1A80)を複数配置し、透過光が直接カメラに進入するよう設置した透過検査器を使用した。透過検査器のLEDライトの出力およびカメラの検出感度を変えずにフィルムを検査した際、カメラが検出する映像信号を最大明度の場合が1023、最小明度の場合が0となるように1024分割した出力値で評価し、ベース出力値が512±40の範囲に収まるかで判定した。装置の概略図を図2に示す。
○:ベース信号出力値が512±40の範囲内である(明欠点・暗欠点の両方が正常に検査できる)。
×:ベース信号出力値が512±40の範囲外である(明欠点・暗欠点のどちらかが正常に検査できない)。
【0049】
(7)輝点個数
輝点欠点とは、クロスニコル検査において検知されるフィルム中の欠陥による光漏れのことを指し、輝点欠点を評価する機器として、照明手段としてLEDライト(アトー製 HBLF-WSL1500、HBLF-WSL700)および角度調整が可能な第1の偏光板が設けられ、受光手段として分解能50μmのCCDカメラ(ヒューテック製 GMFMB3B80)と角度調整が可能な第2の偏光板を組み合わせて複数配置されているクロスニコル検査器を使用した。クロスニコル検査器のカメラの検出感度を変えずにフィルム1000mを検査し、検出サイズ100μm以上の輝点欠点個数を測定した。装置の概要を図3に示す。
【0050】
(8)クロスニコル検査での易検査性
前述の輝点欠点個数をクロスニコル検査での易検査性の指標としてそれぞれ評価した。(○以上を合格とした)。
○:200μm以上の輝点が0.6個/m以下である。
△:200μm以上の輝点が0.6~1.0個/mである。
×:200μm以上の輝点が1.0個/m以上である。
【0051】
(実施例1):
テレフタル酸とエチレングリコールのスラリー(エチレングリコール/テレフタル酸のモル比が1.05~1,30)を255℃で、水を留出しながらエステル化反応を行う。エステル化反応終了後、ポリエステル組成物に対し、三酸化二アンチモンを0.0207質量%(0.693mol/t相当)、酢酸マンガンを0.014質量%(0.281mol/t相当)、リン酸を0.014質量%(1.428mol/t相当)、水酸化カリウム水溶液を0.0005質量%(0.09mol/t相当)となるように添加し、引き続いて、真空下、290℃まで加熱、昇温して重縮合反応を行い、固有粘度0.70のポリエステルペレットを得た。
【0052】
次に、真比重2.71g/cm、平均粒径1.0μmの炭酸カルシウムを準備し、10重量%のエチレングリコールスラリーとした。このスラリーをジェットアジテイターで一時間分散処理を行い、5μm以上の捕集効率95%のフィルターで高精度濾過した。このスラリーをエステル化反応終了後、ポリエステル組成物に対し、三酸化二アンチモンを0.0105質量%(0.352mol/t相当)、酢酸マンガンを0.030質量%(0.602mol/t相当)、リン酸を0.008質量%(0.816mol/t相当)、リン酸二水素ナトリウムを0.010質量%(0.792mol/t相当)となるように添加し、引き続き、上記と同じように重縮合反応を行い、平均粒径1.0μmの炭酸カルシウムを1重量%含む、固有粘度0.62の炭酸カルシウム含有マスターポリエステルペレットを得た。
【0053】
これらのポリエステルをそれぞれ160℃で8時間減圧乾燥し、水分率を100ppmとした後、別々の押出機に供給し、275℃で溶融押出して、5μm以上の捕集効率95%の高精度フィルターで濾過した後、矩形の3層用合流ブロックで合流積層し、ポリエステル層A/ポリエステル層B/ポリエステル層A’からなる3層積層とした。その後、285℃に保ったスリットダイを介し静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃のキャスティングロール上で7sec冷却固化し、厚み570μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを、まず103℃に加熱したロールとラジエーションヒーターによって長手方向に3.4倍延伸した。このときの幅縮み量は14%であった。続いてテンターにて幅方向に110℃で4.4倍に延伸した。その後、冷却工程の幅縮み速度18%/minでフィルム温度が35℃になるよう冷却した。この冷却工程ではロール方式を採用し、ロールの温度は30℃とし、冷却工程の通過時間は15秒とした。次いで195℃で熱処理を行って、全フィルム厚み38μm、フィルムの積層厚さがポリエステルA/ポリエステルB/ポリエステルA=2.0μm/34μm/2.0μm、フィルム幅5.1mの3層からなる二軸配向ポリエステルフィルムを巻き取って中間製品ロールを作成した。得られた中間製品ロールからサンプルを採取し、フィルムヘイズ、算術平均粗さ、輝点個数を測定し、反射検査および透過検査を実施したところ、フィルムヘイズは10%、算術平均粗さは23nm、輝点個数は0.5個/mであり、反射検査器での易検査性は○、透過検査での易検査性は○だった。
【0054】
(実施例2、3、比較例1、2):
層Aの炭酸カルシウム添加量を変えた以外は実施例1と同様に実施し、3層からなる二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた結果を表1にまとめた。
【0055】
(実施例4、5、比較例3、4):
層Aのリン酸添加量を変えた以外は実施例1と同様に実施し、3層からなる二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた結果を表1にまとめた。
【0056】
(実施例6、7、比較例5、6):
層Aのリン酸二水素ナトリウム添加量を変えた以外は実施例1と同様に実施し、3層からなる二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた結果を表1にまとめた。
【0057】
(実施例8、9、比較例7、8、15):
層Bの炭酸カルシウム添加量を変えた以外は実施例1と同様に実施し、3層からなる二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた結果を表1にまとめた。
【0058】
(実施例10、比較例9、10):
層Bのリン酸添加量を変えた以外は実施例1と同様に実施し、3層からなる二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた結果を表1にまとめた。
【0059】
(実施例11、比較例11、12):
層Bのリン酸二水素ナトリウム添加量を変えた以外は実施例1と同様に実施し、3層からなる二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた結果を表1にまとめた。
【0060】
(実施例12、13、比較例13、14)
層Aおよび層A’の厚み比率を変えた以外は実施例1と同様に実施し、3層からなる二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた結果を表1にまとめた。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【符号の説明】
【0063】
1:検査対象のフィルム
2:照明手段
3:受光手段
4:信号処理手段
5:検査対象のフィルム
6:照明手段
7:受光手段
8:信号処理手段
9:検査対象のフィルム
10:第1の偏光フィルター
11:第2の偏光フィルター
12:照明手段
13:受光手段
14:信号処理手段
図1
図2
図3