(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】熱延コイルの製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 37/58 20060101AFI20230214BHJP
B21B 37/72 20060101ALI20230214BHJP
B21B 38/00 20060101ALI20230214BHJP
B21B 38/04 20060101ALI20230214BHJP
B21C 47/02 20060101ALI20230214BHJP
B21C 51/00 20060101ALI20230214BHJP
B21B 38/02 20060101ALI20230214BHJP
B21B 39/14 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
B21B37/58 B
B21B37/72
B21B38/00 C
B21B38/04 A
B21C47/02 E
B21C51/00 E
B21C51/00 J
B21C51/00 L
B21B38/02
B21B39/14 J
(21)【出願番号】P 2019023164
(22)【出願日】2019-02-13
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】明石 透
(72)【発明者】
【氏名】有墨 誠治
(72)【発明者】
【氏名】寺沢 龍
(72)【発明者】
【氏名】野口 浩嗣
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-121725(JP,A)
【文献】特開2003-181513(JP,A)
【文献】特開2001-179332(JP,A)
【文献】特開2009-050887(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 37/00-37/78
B21B 38/00-38/12
B21C 45/00-49/00
B21C 51/00
B21B 38/00-38/12
B21B 39/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延工程において、板幅に対する仕上板厚の比が0.0083以上の熱延鋼板をコイラーにより巻き取ってコイルを製造する方法であって、
仕上圧延機の最終スタンドにおいて、熱延鋼板の先端から当該先端が前記コイラーに達するまでの長さ分の熱延鋼板の蛇行量を測定し、
前記蛇行量の変動量が100mm以内になるように、前記最終スタンドの左右の圧下量を制御
し、
前記コイラーにおける一対のピンチロール間の間隔を、熱延鋼板の板厚より1mm以上大きくした状態で、当該熱延鋼板を前記コイラーにより巻き取ることを特徴とする、熱延コイルの製造方法。
【請求項2】
前記蛇行量を前記最終スタンドの入側と出側のそれぞれに設置した蛇行計で測定することを特徴とする、請求項1に記載の熱延コイルの製造方法。
【請求項3】
前記蛇行量を前記最終スタンドの入側と出側のそれぞれに設置した板幅計で測定することを特徴とする、請求項1に記載の熱延コイルの製造方法。
【請求項4】
前記蛇行量を前記最終スタンドの入側と出側のそれぞれに設置した温度計で測定することを特徴とする、請求項1に記載の熱延コイルの製造方法。
【請求項5】
前記温度計は、熱延鋼板の表面の温度分布を測定する放射温度計であることを特徴とする、請求項4に記載の熱延コイルの製造方法。
【請求項6】
前記コイラーにおいて、巻取張力を7MPa以上として熱延鋼板を巻き取ることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱延コイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延工程においてコイラーにより熱延鋼板を巻き取ってコイルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延工程において仕上げ圧延後の熱延鋼板は、仕上圧延機からコイラーまでをランアウトテーブルによって搬送される間に、冷却装置によって所定の温度まで冷却された後、コイラー(マンドレル)に巻き取られてコイル(熱延コイル)として製造される。そして、コイルは、一旦所定の巻き取り温度で巻き取られた後にコイルヤードに搬送され、常温に冷却された後、ユーザーに出荷、あるいは次工程へ搬送される。
【0003】
このように製造されるコイルには、いわゆるテレスコープが発生する場合がある。テレスコープは、コイラーでの巻き取り時に熱延鋼板が段差状にずれ、
図1及び
図2に示すようにコイルCの側面において、熱延鋼板Hの板幅方向に凹凸が生じる現象である。特に、熱延鋼板Hの板厚が大きい場合には、所定周期で凹凸が繰り返され、ギザギザ状のテレスコープJ(以下、ギザ巻きテレスコープJという場合がある)が発生しやすい。このようにギザ巻きテレスコープが発生すると、例えばコイルを搬送する際に、コイル側面の突出部分が折れ込み、損傷するおそれがある。また次工程において、例えばコイルを巻きほどいて製管する場合、熱延鋼板を適切に溶接することができず、歩留まりが低下する。そこで、ギザ巻きテレスコープを低減することは重要となる。
【0004】
特許文献1には、熱間圧延ラインの巻取装置において、一対のピンチロールが被圧延材(熱延鋼板)を曲げる曲げモーメントと同方向の曲げモーメントを作用させるガイドロールを、一対のピンチロールに付設することが開示されている。このように熱延鋼板に曲げモーメントを作用させることで、当該熱延鋼板に作用する張力を確保し、テレスコープの抑制を図っている。
【0005】
特許文献2には、コイラーでのコイルの巻形状を安定化させるため、ピンチロールのレベリングを制御することが開示されている。具体的には、巻取中のコイルについて、コイラー入側での入側オフセンタ量を測定し、その測定結果に基づいて、ピンチロールのレベリングをフィードフォワード制御する。また、巻取り中コイルのテレスコ量および/または巻取前オフセンタ量を測定し、その測定結果に基づいて、ピンチロールのレベリングをフィードバック制御する。
【0006】
特許文献3には、テレスコープが発生したコイルに対し、その側面に形成された巻不揃いを修正する方法が開示されている。この方法では、吊持ちされたコイルを両端側から押圧して、巻不揃いを修正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-73036号公報
【文献】特開2001-179332号公報
【文献】特開2005-186073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らが種々の条件で巻き取られたコイルの形状について詳細に調べたところ、特許文献1に開示されたように熱延鋼板に作用する張力を確保しただけでは、ギザ巻きテレスコープを十分に抑制できないことが分かった。また、特許文献2に開示されたようにピンチロールのレベリングを制御する場合でもやはり、ギザ巻きテレスコープを十分に抑制できないことが分かった。なお、これらギザ巻きテレスコープを抑制できない具体的な原因については、本発明者らが解明した、ギザ巻きテレスコープの発生メカニズムから明らかであり、後述する。
【0009】
また、特許文献3に開示された方法は、ギザ巻きテレスコープの発生自体を抑制するものではなく、熱延鋼板を巻き取った後、別途コイルの巻不揃いを修正するものである。したがって、この巻不揃いの修正に手間やコストがかかる。
【0010】
以上のように、従来、ギザ巻きテレスコープを十分に抑制するには改善の余地がある。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、熱間圧延工程において熱延鋼板のコイルを製造するに際し、当該コイルにおけるテレスコープの発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討を行った結果、ギザ巻きテレスコープが発生するメカニズムが解明された。具体的にギザ巻きテレスコープは、熱延鋼板がコイラーに巻き取られる際に、当該熱延鋼板が蛇行することにより発生することが明らかになった。換言すれば、本発明者らは、ギザ巻きテレスコープの発生を抑制するためには、この熱延鋼板の蛇行を抑制すればよいことを見出した。
【0013】
本発明は、かかる知見に基づいてなされたものであり、熱間圧延工程において、板幅に対する仕上板厚の比が0.0083以上の熱延鋼板をコイラーにより巻き取ってコイルを製造する方法であって、仕上圧延機の最終スタンドにおいて、熱延鋼板の先端から当該先端が前記コイラーに達するまでの長さ分の熱延鋼板の蛇行量を測定し、前記蛇行量の変動量が100mm以内になるように、前記最終スタンドの左右の圧下量を制御し、前記コイラーにおける一対のピンチロール間の間隔を、熱延鋼板の板厚より1mm以上大きくした状態で、当該熱延鋼板を前記コイラーにより巻き取ることを特徴としている。
【0014】
前記熱延コイルの製造方法において、前記蛇行量を前記最終スタンドの入側と出側のそれぞれに設置した蛇行計で測定してもよい。
【0015】
前記熱延コイルの製造方法において、前記蛇行量を前記最終スタンドの入側と出側のそれぞれに設置した板幅計で測定してもよい。
【0016】
前記熱延コイルの製造方法において、前記蛇行量を前記最終スタンドの入側と出側のそれぞれに設置した温度計で測定してもよい。かかる場合、前記温度計は、熱延鋼板の表面の温度分布を測定する放射温度計であってもよい。
【0017】
前記熱延コイルの製造方法では、前記コイラーにおいて、巻取張力を7MPa以上として熱延鋼板を巻き取るようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、仕上圧延機の最終スタンドにおいて、熱延鋼板の先端から当該先端が前記コイラーに達するまでの長さ分の熱延鋼板の蛇行量の変動量を100mm以内にするので、テレスコープの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】熱延コイルにギザ巻きテレスコープが発生した様子を示す説明図である。
【
図2】熱延コイルにギザ巻きテレスコープが発生した様子を示す説明図である。
【
図3】熱間圧延設備の仕上圧延機以降の構成の概略を示す説明図である。
【
図5】ギザ巻きテレスコープが発生するメカニズムを示す説明図である。
【
図6】ギザ巻きテレスコープの発生率と熱延鋼板の曲がり量との関係を示すグラフである。
【
図7】ギザ巻きテレスコープの発生率と巻取張力との関係を示すグラフである。
【
図8】ピンチロールと熱延鋼板との関係を示す説明図である。
【
図9】ギザ巻きテレスコープの発生率とピンチロールギャップとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0022】
<熱間圧延設備>
まず、本発明に係る熱間圧延設備の構成について説明する。
図3は、熱間圧延設備1の仕上圧延機2以降の構成の概略を示す説明図である。
【0023】
熱間圧延設備1には、加熱炉(図示せず)から排出され粗圧延機(図示せず)で圧延された鋼板Hを所定の厚みに連続圧延する仕上圧延機2、仕上げ圧延後の鋼板H(以下、熱延鋼板H)を所定温度まで冷却する冷却装置3、冷却された熱延鋼板Hを巻き取るコイラー4が、熱延鋼板Hの搬送方向にこの順で設けられている。仕上圧延機2とコイラー4との間には、熱延鋼板Hを搬送するランアウトテーブル5が設けられている。そして、仕上圧延機2で圧延された熱延鋼板Hは、ランアウトテーブル5上で搬送中に冷却装置3によって冷却された後、コイラー4に巻き取られてコイルCとして製造される。
【0024】
仕上圧延機2は、複数の仕上圧延スタンド、例えば
図3に示すように第1スタンドF1~第7スタンドF7の7つの仕上圧延スタンドから構成されている。本実施形態では、第7スタンドF7が最終スタンドとなる。なお、各圧延スタンドにはそれぞれ上下一対の圧延ロール(ワークロール)やバックアップロール等が設けられているが、これら各圧延スタンド等の構成は公知であるため、詳細な説明は省略する。
【0025】
仕上圧延機2の第7スタンドF7の入側と出側にはそれぞれ、熱延鋼板Hの蛇行量を測定する蛇行計6、7が設けられている。蛇行量は、圧延ラインの幅方向中心に対する、熱延鋼板Hの幅方向中心のずれ量をいう。なお、蛇行計6、7には公知の測定器が用いられ、例えばセンサを用いて蛇行量を測定してもよいし、カメラで熱延鋼板Hを撮像して蛇行量を測定してもよい。
【0026】
図4は、コイラー4の構成の概略を示す説明図である。なお、
図4の例は、コイラー4での巻き取り操業開始の状態を示している。コイラー4は、ピンチロール10、シュート11、マンドレル12、及びラッパーロール13を有している。
【0027】
コイラー4では、熱延鋼板Hを一対のピンチロール10a、10bでマンドレル12の方向にベンディングし、シュート11を通過させる。ここで、熱延鋼板Hの先端がマンドレル12に到達する前までは、ラッパーロール13は閉となっており(マンドレル12と接触)、互いに鋼板速度より数%増速した速度で回転しながら待機している。そして、熱延鋼板Hがマンドレル12とラッパーロール13に到達すると、これらマンドレル12とラッパーロール13で熱延鋼板Hを挟み込みながら巻き取る。
【0028】
<ギザ巻きテレスコープの発生メカニズム>
本実施形態では、以上の構成の熱間圧延設備1で製造されるコイルCにおいて、
図1及び
図2に示したギザ巻きテレスコープの発生を抑制する。まず、本発明らはギザ巻きテレスコープが発生するメカニズムを解明した。すなわち、仕上げ圧延後の熱延鋼板Hの先端がマンドレル12に巻き付くまでの間に、当該熱延鋼板Hが蛇行することにより、ギザ巻きテレスコープが発生することが明らかになった。
【0029】
図5は、ギザ巻きテレスコープが発生するメカニズムを示す説明図である。なお、
図5において、マンドレル12から離れた位置に図示された熱延鋼板Hは、マンドレル12に巻き取られる直前の熱延鋼板Hの状態を示している。
【0030】
仕上圧延機2の第7スタンドF7の出側において熱延鋼板Hは蛇行し、
図5(a)に示すように熱延鋼板Hの先端がマンドレル12に到達した際にキャンバー(横曲がり)が発生する。すなわち、熱延鋼板Hの巻き取り開始時にオフセンターが生じ、圧延ラインの中心Rcに対して熱延鋼板Hの先端の中心Hcがずれる。かかる場合、熱延鋼板Hには張力T(
図5中の斜線部)が作用する。例えば熱延鋼板Hが左側に曲がると、幅方向の右側端部に作用する張力Tは、左側端部に作用する張力Tよりも大きくなり、左右端部で張力差が生じる。そうすると張力Tの復元力、いわゆる糸巻効果により、
図5(b)に示すように熱延鋼板Hは中立位置に戻る。中立位置は、オフセンターでない位置であり、熱延鋼板Hの先端の中心Hcと圧延ラインの中心Rcが一致する位置である。
【0031】
しかしながら、
図5(a)に示すように熱延鋼板Hが中立位置からずれている間に、上述したように例えば熱延鋼板Hが左側に曲がると、板幅方向の右側端部に作用する張力Tが大きくなり、当該熱延鋼板Hの右側が伸びる。すなわち、熱延鋼板Hが巻きずれる進行方向側の幅方向断面張力Tが大きくなり伸びる。そうすると、この熱延鋼板Hの右側の巻き付きが遅れ、
図5(b)に示すように中立位置になっても、熱延鋼板Hのマンドレル12への巻き付け角度が3次元的な湾曲変形で直角に戻らない。このため、中立位置になっても板幅方向の張力差は解消されず、
図5(b)中の矢印で示すように熱延鋼板Hは中立位置より反対側に移動する。そして、
図5(c)に示すように熱延鋼板Hの幅方向に幾何学的な中立点、すなわち左右端部の接触状態が同じ位置になると、幅方向の張力差がなくなり、巻きずれが停止する。
【0032】
巻きずれが停止した状態で、
図5(d)に示すように熱延鋼板Hが巻き重なると、それまでの巻きずれによってコイルの下面の面圧が低下し、反対側の面圧が増加するため、幅方向の張力差がつき始める。そうすると、
図5(d)中の矢印で示すように熱延鋼板Hは反対側に向かって移動し、巻きずれが発生する。このように
図5(a)~(d)の状態が周期的に繰り返され、熱延鋼板Hが振動して、ギザ巻きテレスコープが発生する。
【0033】
また別の見方として、ギザ巻きテレスコープのメカニズムは糸巻効果だけでも説明できる。
(1)一旦巻き取り開始時に曲がり等でオフセンターが発生し、糸巻き効果でマンドレルに対し、熱延鋼板が直角(幾何学的中立点、すなわちマクロ的にピンチロールとマンドレルで幅方向板位置が一致する状態)に巻き付こうとする。しかしマンドレルに対し熱延鋼板が見掛けの直角で巻き付く位置になっても、さらに巻きずれが生じるのは1周前の熱延鋼板からの巻きずれの影響で幾何学的には進行方向に3次元的に(板厚及び幅方向)湾曲しており、左右等しく接触して巻き取るまでには至っていないからである。
(2)ギザ巻きテレスコープ現象は中立位置で熱延鋼板のウォークが停止せず行き過ぎる。その原因は熱延鋼板が中立位置からずれている間、寄った側の板張力が大きくなることにある。すなわち、板張力が大きくなることで寄った側の熱延鋼板がマンドレル入側で伸びるため、マンドレルへの巻きつきが遅れ、この遅れによって中立位置になっても熱延鋼板のマンドレルへの巻きつけ角が直角に戻らないため、行き過ぎて振動現象になるのである。
【0034】
なお、以上のメカニズムでギザ巻きテレスコープが発生するが、上述した特許文献1に開示されたように熱延鋼板に作用する張力を確保する場合や、特許文献2に開示されたようにピンチロールのレベリングで板を弾性変形させて制御する場合では、熱延鋼板の振動までを抑制することはできない。このため、従来の方法ではギザ巻きテレスコープを十分に抑制すことはできない。
【0035】
<ギザ巻きテレスコープと熱延鋼板の板幅及び仕上板厚との関係>
次に、ギザ巻きテレスコープと熱延鋼板の板幅及び仕上板厚との関係について説明する。本発明者らは、熱延鋼板の板幅と仕上板厚を変動させてシミュレーションを行った。このシミュレーションでは、板幅と仕上板厚に対して、ギザ巻きテレスコープが発生したか否かを調べた。なお、ここでは、
図2に示されるギザ巻きの高さが2mm以上の場合をギザ巻きの発生有りとし、ギザ巻きの高さが2mm未満の場合をギザ巻きの発生無しとした。一般に、ギザ巻きの高さが2mm未満であれば、コイルを搬送する場合に、コイル側面の突出部分が折れ込むことはなく、また、コイルを巻きほどいて製管する場合にも、熱延鋼板を適切に溶接することができるからである。シミュレーション結果を表1に示す。表1を参照すると、板幅wに対する仕上板厚tが大きいと、ギザ巻きテレスコープが発生しやすいことが分かった。これは、板幅wに対する仕上板厚tが大きいと、熱延鋼板に作用する張力が大きくなり、上述した熱延鋼板の振動が継続しやすいためであると推察される。そして具体的には、板幅wに対する仕上板厚tの比t/wが、0.0083以上(t/w≧10/1200)の場合、ギザ巻きテレスコープが発生した。そこで、本実施形態は、t/wが0.0083以上の熱延鋼板を対象とする。
【0036】
【0037】
<ギザ巻きテレスコープと熱延鋼板の蛇行量との関係>
次に、ギザ巻きテレスコープと熱延鋼板の蛇行量との関係について説明する。本発明者らは、実操業における熱延鋼板の曲がり量を計測し、ギザ巻きテレスコープとの関係を調べた。具体的には、仕上圧延機の第7スタンド(最終スタンド)において熱延鋼板の板幅を計測し、熱延鋼板の蛇行量、すなわち圧延ラインの幅方向中心に対する熱延鋼板の幅方向中心のずれ量を算出した。ここでの蛇行量には鋼板自体のキャンバー(横曲り)量を含む。そして、熱延鋼板の曲がり量を熱延鋼板の先端の蛇行量から、熱延鋼板の全長の蛇行量の平均値を差し引いたものを算出した。この曲がり量は換言すれば、熱延鋼板の全長における蛇行量の平均値を基準とした、熱延鋼板の先端の蛇行量であり、蛇行量の変動量であるといえる。なお、本調査では、熱延鋼板の仕上板厚は6mm以上かつ18mm未満であり、熱延鋼板の引張強度は40MPa以上かつ55MPa未満であった。
【0038】
本調査の結果を
図6に示す。
図6には、曲がり量の範囲に対して、調査を行ったギザ巻きテレスコープの発生率を示している。なお、曲がり量のプラスは熱延鋼板の一方向への蛇行を示し、マイナスは当該一方向と反対方向への蛇行を示す。また、例えば“<-200”は曲がり量が-200mmより小さいことを示し、“<-150”は曲がり量が-200mm以上かつ150mmより小さいことを示している。
図6を参照すると、熱延鋼板の曲がり量が100mmを超えると、ギザ巻きテレスコープの発生率が急増することが分かった。換言すれば、当該曲がり量を100mm以内にすると、ギザ巻きテレスコープの発生を抑制できることが分かった。
【0039】
<ギザ巻きテレスコープの抑制方法>
以上の知見に基づき、本発明者らは、ギザ巻きテレスコープの発生を抑制するためには、熱延鋼板の蛇行を抑制すればよいことを見出した。より詳細には、上述したように熱延鋼板の対象は、板幅に対する仕上板厚の比が0.0083以上の鋼板である。
【0040】
また、上述したように熱延鋼板の曲がり量、すなわち蛇行量の変動量が100mm以内であればよい。そして、この基準を適用する対象は、熱延鋼板の先端がマンドレルに達するまでであり、例えば先端から150m~200mの範囲である。以下の説明においては、この熱延鋼板の範囲を先端部という場合がある。なお、熱延鋼板の先端部以降の範囲では、仕上げ圧延後の第7スタンドにおいて熱延鋼板に張力が発生するため、熱延鋼板の蛇行によってギザ巻きテレスコープは発生しにくい。
【0041】
以下、具体的に
図3に示した熱間圧延設備1を用いて、ギザ巻きテレスコープを抑制する方法について説明する。まず、蛇行計6、7を用いて、仕上圧延機2の第7スタンドF7における熱延鋼板Hの先端部の蛇行量を測定する。そして、蛇行計6、7で測定された蛇行量に基づいて、当該蛇行量の変動量が100mm以内になるように、第7スタンドF7の左右の圧下量を制御する。
【0042】
ここで、蛇行計7は第7スタンドF7から例えば10m~15mの位置に設置されている。かかる場合、蛇行計7で蛇行量が測定される位置は、熱延鋼板Hが第7スタンドF7から10m~15m進んだ位置になり、すなわち蛇行量の測定位置と左右の圧下量の制御位置(第7スタンドF7)とが一致しない。この点、本実施形態では、第7スタンドF7の入側と出側に設置した蛇行計6、7のそれぞれで蛇行量を測定する。そして、例えばこれら蛇行計6、7で測定された蛇行量の平均値を、第7スタンドF7における熱延鋼板Hの蛇行量とする。このように蛇行計6、7を用いることで、第7スタンドF7における熱延鋼板Hの蛇行量を計測することができ、蛇行量の測定位置と左右の圧下量の制御位置とが一致する。その結果、熱延鋼板Hの蛇行量の変動量をより正確に100mm以内に制御することができる。
【0043】
また、蛇行計6、7で測定された第7スタンドF7における熱延鋼板Hの蛇行量に基づいて、その蛇行量の変動量が100mm以内になるように、第7スタンドF7の左右の圧下量を制御する。具体的には、第7スタンドF7におけるワークサイドの圧下量とドライブサイドの圧下量のバランスを調整することで、左右の圧下量を制御する。そして、このように第7スタンドF7における蛇行量の変動量を100mm以内に抑え、熱延鋼板Hの蛇行を抑えることで、ギザ巻きテレスコープの発生を抑制することができる。
【0044】
なお、以上の実施形態では、第7スタンドF7における熱延鋼板Hの蛇行量を測定するのに蛇行計6、7を用いたが、蛇行量の測定手段はこれに限定されない。第7スタンドF7の入側と出側のそれぞれに、例えば熱延鋼板Hの板幅を測定する測定計を設置してもよい。このように板幅を測定することで、蛇行量を把握することができる。あるいは、第7スタンドF7の入側と出側のそれぞれに、例えば熱延鋼板Hの表面の温度を測定する温度計、より具体的には熱延鋼板Hの表面の温度分布を測定する放射温度計を設置してもよい。このように表面温度を測定することで、蛇行量を把握することができる。
【0045】
<ギザ巻きテレスコープと巻取張力との関係>
次に、ギザ巻きテレスコープと熱延鋼板の巻取張力との関係について説明する。本発明者らは、上述したようにギザ巻きテレスコープを抑制するためには、熱延鋼板の蛇行を抑制すればよいが、さらにギザ巻きテレスコープを抑制するためには、コイラー(マンドレル)で熱延鋼板を巻き取る際の巻取張力を大きくすればよいことを見出した。
【0046】
本発明者らは、巻取張力を変動させてシミュレーションを行った。そして、巻取張力に対するギザ巻きテレスコープの発生率を調べた。そのシミュレーションの結果を
図7に示す。
図7を参照すると、巻取張力が7MPaより小さいと、ギザ巻きテレスコープが発生する場合があることが分かった。換言すれば、巻取張力が7MPa以上になると、ギザ巻きテレスコープの発生を抑制できることが分かった。
【0047】
<ギザ巻きテレスコープとピンチロールの間隔との関係>
次に、ギザ巻きテレスコープとピンチロールの間隔との関係について説明する。本発明者らは、上述したようにギザ巻きテレスコープを抑制するためには、熱延鋼板の蛇行を抑制すればよいが、さらにギザ巻きテレスコープを抑制するためには、ピンチロールの間隔を熱延鋼板の板厚より大きくすればよいことを見出した。すなわち、
図8に示すように一対のピンチロール10a、10bの間隔L1は、熱延鋼板Hの板厚L2よりも大きい。
【0048】
本発明者らは、ピンチロールの間隔を変動させてシミュレーションを行った。そして、ピンチロールの間隔に対するギザ巻きテレスコープの発生率を調べた。そのシミュレーションの結果を
図9に示す。
図9には、ピンチロールギャップとして、ピンチロール10a、10bの間隔L1と熱延鋼板Hの板厚L2の差(=L1-L2)を示している。
図9を参照すると、ピンチロールギャップが1mmより大きいと、ギザ巻きテレスコープが発生する場合があることが分かった。換言すれば、ピンチロールギャップが1mm以上になると、ギザ巻きテレスコープの発生を抑制できることが分かった。
【0049】
なお、ピンチロールのそもそもの作用は、熱延鋼板をベンディングすることであるが、上述したようにピンチロールギャップを大きくしても熱延鋼板のベンディング作用には問題はない。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、熱間圧延工程においてコイラーにより熱延鋼板を巻き取ってコイルを製造する際に有用である。
【符号の説明】
【0052】
1 熱間圧延設備
2 仕上圧延機
3 冷却装置
4 コイラー
5 ランアウトテーブル
6、7 蛇行計
10(10a、10b) ピンチロール
11 シュート
12 マンドレル
13 ラッパーロール
F1~F7 仕上圧延スタンド
C コイル
H 熱延鋼板