IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-高炉用羽口 図1
  • 特許-高炉用羽口 図2
  • 特許-高炉用羽口 図3
  • 特許-高炉用羽口 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】高炉用羽口
(51)【国際特許分類】
   C21B 7/16 20060101AFI20230214BHJP
   F27B 1/16 20060101ALI20230214BHJP
   C22C 19/05 20060101ALN20230214BHJP
【FI】
C21B7/16 304
F27B1/16
C22C19/05 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019024183
(22)【出願日】2019-02-14
(65)【公開番号】P2020132908
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】吉田 経尊
(72)【発明者】
【氏名】野口 泰隆
(72)【発明者】
【氏名】大本 展久
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-217610(JP,A)
【文献】特開2015-100818(JP,A)
【文献】特開昭63-062858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 7/00- 9/16
F27B 1/00- 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅または銅合金を母材とする羽口本体部と、
前記羽口本体部の表面の少なくとも一部を覆う第1保護層と、
前記第1保護層の表面の少なくとも一部を覆う第2保護層と、
を備え、
前記第2保護層に覆われた前記第1保護層の表面の少なくとも一部の領域には凹凸が形成され、
前記凹凸の隣接する凹部と凸部とにおいて、前記凸部の頂部を基準とする前記凹部の深さは、前記凸部の前記頂部から前記羽口本体部の表面までの高さに対して、10%以上50%未満であり、
前記第1保護層の表面に形成された凹凸において、隣接する凸部の間に位置する凹部の深さを、前記隣接する凸部の間の距離で除した値が、0.1以上2.0未満である、
高炉用羽口。
【請求項2】
前記第1保護層は、純ニッケルまたはニッケル合金を肉盛り溶接して形成されている、
請求項1に記載の高炉用羽口。
【請求項3】
前記第2保護層は、硬質の炭化物、窒化物、酸化物、ほう化物から選択される一種以上を含有させたニッケル合金を、肉盛り溶接して形成されている、
請求項1または請求項2に記載の高炉用羽口。
【請求項4】
前記凹凸は、前記第2保護層に覆われた前記第1保護層の表面の50%以上に形成されている、
請求項1から請求項3のいずれか一つに記載の高炉用羽口。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉用羽口に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉用羽口(以下、単に「羽口」ともいう。)は、高炉の炉内に突き出ており、この突き出た先端部は高温雰囲気に曝されているため、優れた耐熱性が求められる。また、羽口の先端には、炉内の鉱石またはコークスが衝突することがあるので、優れた耐摩耗性も求められる。
【0003】
羽口本体部の内部には水路が設けられ、その水路に冷却水を流すことによって高炉内に突き出た羽口先端付近の温度が低減される。羽口本体部の材質は、通常、熱伝導性に優れた銅または銅合金である。しかしながら、羽口の内部を水冷するだけでは先端の温度を十分には低減できないこと、および、銅は硬度が低く、耐摩耗性の点では劣ることから、羽口先端には耐熱性および耐摩耗性を高めるための保護層が設けられる。保護層を設けることによって羽口の寿命は延長されるものの、それでもなお、長期間使用すると先端が損傷し、羽口の交換が必要になる。羽口を交換するためには高炉を休風する必要があるため、羽口が損傷するとその交換費用のみならず、溶銑の生産量も低下してしまう。
【0004】
羽口の保護層には、ニッケル系の材質が用いられることが多い。ニッケル合金は高温における強度、耐食性に優れ、また、マトリックス中に硬質の金属間化合部を析出させたり、炭化物、窒化物などを混合させることによって硬度を増したりできるのがその理由である。例えば、特許文献1には、羽口本体である銅との接合性が高いニッケル合金またはステンレス鋼を素材とする溶射層を、羽口本体の表面に形成することで、耐久性を高めた羽口が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、羽口本体表面に溶着された、ニッケル系、クロム系またはニッケル-クロム系の金属中間層上に、ニッケルなどの金属マトリックスにセラミックス粒子を散在状態で含む硬化肉盛材を溶着させた保護層が記載されている。特許文献2の発明のように、溶接肉盛層を重ねることで、羽口の耐熱性および耐摩耗性を向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭58-199855号公報
【文献】特開平11-217610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2の構成にて耐熱性と耐摩耗性が確保されるが、炉内の温度変動または溶融物からの熱衝撃を受けて、最外層には繰り返し応力が加わるため、疲労特性にも注目する必要がある。実際に、使用後の最外層には亀甲状のき裂が発生し、さらにこれらが進行することによって、き裂が、羽口本体表面の保護層と、その保護層表面の保護層との界面に達し、その後、界面に沿ってき裂が進行することになる。界面のき裂が、保護層の剥離につながり、さらに損傷が促進され、その結果、保護層が脱落し、羽口表面が炉内に曝されることになる。最終的に羽口本体の損傷が進行することになり、最悪の場合、羽口を交換せざるを得なくなる。羽口本体の損傷を回避するためには、保護層の剥離を抑制する必要がある。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題を鑑み、長寿命化を実現できる高炉用羽口を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の高炉用羽口は、銅または銅合金を母材とする羽口本体部と、前記羽口本体部の表面の少なくとも一部を覆う第1保護層と、前記第1保護層の表面の少なくとも一部を覆う第2保護層と、を備え、前記第2保護層に覆われた前記第1保護層の表面の少なくとも一部の領域には凹凸が形成され、前記凹凸の隣接する凹部と凸部とにおいて、前記凸部の頂部を基準とする前記凹部の深さは、前記凸部の前記頂部から前記羽口本体部の表面までの高さに対して、10%以上50%未満であり、前記第1保護層の表面に形成された凹凸において、隣接する凸部の間に位置する凹部の深さを、前記隣接する凸部の間の距離で除した値が、0.1以上2.0未満である。
【発明の効果】
【0010】
この構成によると、第1保護層と第2保護層との界面に沿ったき裂の進行を抑制できる。このため、保護層の脱落につながる剥離を防止し、保護性能を維持できることで、高炉用羽口の長寿命化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態に係る高炉用羽口の一例を示した断面図である。
図2図2は、羽口本体部と、第1保護層と、第2保護層との積層断面を示す図である。
図3図3は、hi/Hiと、き裂の有無との関係を調査した実験結果を示す図である。
図4図4は、hi/Wiと、き裂の有無との関係を調査した実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本実施形態に係る高炉用羽口10の一例を示した断面図である。図1に示す丸印は、第1保護層3と第2保護層4との界面の一部を拡大した図である。
【0013】
<1.1.羽口本体部について>
高炉用羽口10は羽口本体部1を備える。羽口本体部1は略円筒状である。羽口本体部1は、熱伝導性に優れた銅または銅合金からなる。羽口本体部1は、その先端部1bが高炉の内壁から内側に向かって突出した状態で高炉内に配置される。高炉の操業時には、羽口本体部1を介して高炉内へ高温(例えば1200℃程度)の熱風が供給される。
【0014】
羽口本体部1の内部には、周方向に沿った水路2が設けられている。水路2に冷却水を流すことによって、羽口本体部1の先端部1b付近の温度を低減している。
【0015】
<1.2.第1保護層について>
高炉用羽口10は、羽口本体部1の外表面1aを覆う第1保護層3を備える。第1保護層3は、外表面1aの一部を覆っていてもよいし、全部を覆っていてもよい。第1保護層3は、少なくとも、高炉の内壁から内側に向かって突出した羽口本体部1の先端部1bを覆っていればよい。
【0016】
第1保護層3は、外表面1aに肉盛溶接により設けられる。第1保護層3の材質は、羽口本体部1との密着性に優れるとともに、熱伝導率が高い材料を選択することができる。第1保護層3の材質には、羽口本体部1との密着性の観点からは、羽口本体部1に用いられる銅または銅合金の熱膨張率に近い材料、具体的には、熱膨張率(線膨張率)が13~16×10-6/℃の範囲である材料を選択することができる。また、熱伝導率が高い材料とは、例えば、熱伝導率が10W/(m・K)以上の範囲にある材料である。第1保護層3の材質としては、例えば、純ニッケルまたはニッケル合金(例えばニッケルクロム合金)からなるものを選択できる。
【0017】
より具体的には、質量%で、Cr:0~40.0%、Mn:0~4.0%、Ti:0~3.0%、Al:0~3.0%、Nb:0~3.0%、Fe:0~9.0%を含み、残部がNiおよび不純物からなる材料である。不純物とは、ニッケルまたはニッケル合金を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料その他の要因により混入し、本発明の効果を阻害しない範囲で許容される成分を意味する。
【0018】
Cr(クロム)は、耐食性を向上させるので、第1保護層3の材料中に含まれていてもよい。その含有量が過剰な場合には、溶接時に割れが発生するので、その上限は40.0%とする。上記の効果を発揮させるためには、その含有量を5.0%以上とするのが好ましく、10.0%以上とするのがより好ましい。さらに好ましいのは、14.0%以上である。また、上限は、35.0%とするのが好ましく、30.0%とするのがより好ましく、25.0%とするのがさらに好ましい。
【0019】
Mn(マンガン)は、溶接時の湯流れ性を高め溶接欠陥の発生を抑制するので、第1保護層3の材料中に含まれていてもよい。その含有量が過剰な場合には、延性およびじん性が低下して割れ易くなるので、その上限は4.0%とする。上記の効果を発揮させるためには、その含有量を0.5%以上とするのが好ましく、1.0%以上とするのがより好ましく、1.5%以上とするのがさらに好ましい。また、上限は、3.5%とするのが好ましく、3.0%とするのがより好ましく、2.5%とするのがさらに好ましい。
【0020】
Ti(チタン)は、ニッケルと金属間化合物を形成して保護層の硬さを高め、耐摩耗性を向上させるので、第1保護層3の材料中に含まれていてもよい。その含有量が過剰な場合には、延性およびじん性が低下して割れ易くなるので、その上限は3.0%とする。上記の効果を発揮させるためには、その含有量を0.5%以上とするのが好ましく、1.0%以上とするのがより好ましく、1.5%以上とするのがさらに好ましい。また、上限は、2.5%とするのが好ましく、2.0%とするのがより好ましく、1.5%とするのがさらに好ましい。
【0021】
Al(アルミニウム)は、ニッケルと金属間化合物を形成して第1保護層3の硬さを高め、耐摩耗性を向上させるので、第1保護層3の材料中に含まれていてもよい。その含有量が過剰な場合には、延性およびじん性が低下して割れ易くなるので、その上限は3.0%とする。上記の効果を発揮させるためには、その含有量を0.5%以上とするのが好ましく、1.0%以上とするのがより好ましく、1.5%以上とするのがさらに好ましい。また、上限は、2.5%とするのが好ましく、2.0%とするのがより好ましく、1.5%とするのがさらに好ましい。
【0022】
Nb(ニオブ)は、ニッケルと金属間化合物を形成して保護層の硬さを高め、耐摩耗性を向上させるので、第1保護層3の材料中に含まれていてもよい。その含有量が過剰な場合には、延性およびじん性が低下して割れ易くなるので、その上限は3.0%とする。上記の効果を発揮させるためには、その含有量を0.5%以上とするのが好ましく、1.0%以上とするのがより好ましく、1.5%以上とするのがさらに好ましい。また、上限は、2.5%とするのが好ましく、2.0%とするのがより好ましく、1.5%とするのがさらに好ましい。
【0023】
Fe(鉄)は、ニッケル合金中に固溶することで第1保護層3の強度を向上させ、耐摩耗性を向上させるので、第1保護層3の材料中に含まれていてもよい。また、Nbと複合添加した場合には、Nbと金属間化合物を形成して第1保護層3の硬さを高め、耐摩耗性を向上させる。その含有量が過剰な場合には、延性およびじん性が低下して割れ易くなるという問題があるので、その上限は9.0%とする。上記の効果を発揮させるためには、その含有量を0.5%以上とするのが好ましく、1.0%以上とするのがより好ましく、1.5%以上とするのがさらに好ましい。また、上限は、8.5%とするのが好ましく、8.0%とするのがより好ましく、7.5%とするのがさらに好ましい。
【0024】
第1保護層3の厚さ(平均厚さ)は、1.5~6.0mmとするのが好ましい。1.5mm未満では、耐摩耗性などの保護層としての機能を維持することが困難となる場合があり、6.0mmを超えると、羽口本体部1の先端部1bを十分に冷却することが困難となる場合があるからである。
【0025】
肉盛溶接方法は、公知の方法を採用することができ、例えば、被覆アーク溶接法、MAG溶接法、炭酸ガスアーク溶接法、MIG溶接法、TIG溶接法、サブマージアーク溶接法などが挙げられる。中でも、三次元的に曲面形状である羽口先端へのニッケルまたはニッケル合金の溶接作業性を高めるためには、TIG溶接法を採用するのが好ましい。
【0026】
第1保護層3が形成される際、第1保護層3の表面、少なくとも、後述の第2保護層4が形成される第1保護層3の表面の少なくとも一部に、凹凸が形成されるように、肉盛溶接される。凹凸は、略円筒状である羽口本体部1の中心軸Pに沿った断面の表面に沿う方向に形成されている。凹凸の深さについては、後に詳述する。なお、凹凸は、中心軸Pの周方向に沿って形成されてもよい。
【0027】
<1.3.第2保護層について>
高炉用羽口10は、第1保護層3の表面に設けられた第2保護層4を備える。第2保護層4は、第1保護層3の表面の少なくとも一部に肉盛溶接により設けられた肉盛溶接層である。上記のように、第1保護層3の表面には凹凸が形成されている。このため、第1保護層3と、第2保護層4との界面は、少なくとも一部が凹凸状となる。
【0028】
第2保護層4の材質は、高炉の操業時に、炉内の鉱石またはコークスとの衝突に耐えうる耐摩耗性(具体的には、ビッカース硬さで180Hv以上)に優れるとともに、熱伝導率が高い材料(具体的には10W/mK以上)を選択することができる。例えば、第2保護層4の材質には、硬質の炭化物、窒化物、酸化物、ほう化物から選択される一種以上を含有させたニッケル合金を用いることができる。炭化物としては、TiC、WC、NbC、VCなどが例示されるが、中でもTiCが好ましい。これは、TiCが、硬さが大きく、耐摩耗性の向上に極めて有効な材料だからである。
【0029】
第2保護層4の材料中の炭化物は、均一に分散している状態が好ましい。炭化物の粒径が大きすぎると、均一に分散させることが困難となるので、炭化物の粒径の最大値は、200μm以下とするのが好ましい。また、炭化物の平均粒径は40~100μmの範囲するのが好ましい。また、炭化物の体積率が高すぎても均一に分散させることが困難となるので、第2保護層4の材料中の炭化物の体積率の最大値は30%以下とするのが好ましく、5~25%とするのがさらに好ましい。
【0030】
第2保護層4は、第1保護層3の表面の少なくとも一部、詳しくは、炉内の鉱石またはコークスが衝突しやすい個所に設けられていればよい。特に、高炉内に配置された高炉用羽口10において、上側半分を構成する部分の表面に第2保護層4が設けられていることが好ましい。このとき、第2保護層4が設けられていない部分の第1保護層3の厚さと、第2保護層4が設けられている部分の第1保護層3および第2保護層4の合計厚さとが実質的に同一であることが好ましい。なお、高炉の操業時に、炉内の鉱石またはコークスが衝突しにくい箇所である高炉用羽口10の下部にも第2保護層4を設けてもよい。
【0031】
第2保護層4の厚さ(平均厚さ)は、3.0~6.0mmとするのが好ましい。3.0mm未満では、十分な耐摩耗性を維持することが困難となる場合があり、6.0mmを超えると、羽口本体部1の先端部1bを十分に冷却することが困難となる場合があるからである。
【0032】
第2保護層4が設けられている箇所について、第1保護層3の厚さTaと第2保護層4の厚さTbとの和(Ta+Tb)は、4.5~9.0mmとするのが好ましい。4.5mm未満では、十分な耐摩耗性を確保できないという問題が生じるおそれがあり、9.0mmを超えると、羽口本体部1の先端部1bを十分に冷却できないという問題が生じるおそれがあるからである。
【0033】
<2.第1保護層3の凹凸について>
第2保護層4が形成される第1保護層3の表面には、所定条件の凹凸が形成されるように、肉盛溶接により第1保護層3が形成される。以下に、形成する凹凸の条件について説明する。
【0034】
図2は、羽口本体部1と、第1保護層3と、第2保護層4との積層断面を示す図である。
【0035】
本実施形態では、第1保護層3の表面の凹凸は、中心軸Pに沿った断面の表面に沿う方向に形成されている。以下では、図2で示す凹凸が前記断面の表面上で、羽口送風口側から高炉内壁側に向かう方向に沿って形成されているものとして説明する。この凹凸のうち、いずれか一つの凸部を1番目の凸部と規定する。その凸部と、高炉内壁側に向かう方向に隣接する凸部を2番目の凸部とし、以下順に、3番目、4番目、・・・、i番目の凸部とする。また、1番目の凸部に隣接する凹部を1番目の凹部とし、以下順に、2番目、3番目、4番目、・・・、i番目の凹部とする。
【0036】
i番目の凸部の高さをHi(i=1、2、3・・・)で表す。凸部の高さとは、凸部の頂部から、羽口本体部1の表面までの高さである。また、i番目の凹部の深さをhi(i=1、2、3・・・)で表す。凹部の深さとは、i番目の凸部の頂部を基準とし、その頂部からi番目の凹部の底部までの距離である。この場合、凹部の深さhiは、凸部の高さHiに対して10%以上50%未満である。
【0037】
つまり、第1保護層3は、形成後に0.1≦hi/Hi<0.5の関係が満たされるよう、隣り合う肉盛の重ねを調整して形成される。なお、第1保護層3の表面を機械加工(例えば、旋盤、フライス盤、マシニングセンタなど)で削り、上記条件を満たす凹凸を形成するようにしてもよい。機械加工で凹凸を形成する場合、第1保護層3は拡散接合により形成してもよい。
【0038】
0.1≦hi/Hi<0.5の関係を満たす凹凸を、第1保護層3と第2保護層4との界面に形成することで、第2保護層4に生じたき裂が、界面に沿って進行することを抑制することができる。本発明者らは、この理由として、界面に沿ってき裂が進行する場合、凹部から凸部へ向かう際に凸部が抵抗となり、き裂の進行が抑えられる、と考えた。そして、これを確認するために、本発明者らは、hi/Hiと、き裂の有無との関係を調査する実験を行った。
【0039】
この実験では、ニッケルクロム合金を材質とする狙い厚さ3mmの第1保護層3と、チタンカーバイドを含有させたニッケル合金を材質とする狙い厚さ3mmの第2保護層4とを有する試験片を用いて、熱サイクル試験を行った。そして、試験後の試験片の切断面から、凹凸に対するき裂の有無を調査した。その結果を、図3に示す。図3は、hi/Hiと、き裂の有無との関係を調査した実験結果を示す図である。図3に示すように、hi/Hiが0.1未満では、き裂が視られるが、hi/Hiが0.1以上では、き裂は視られない。このように、hi/Hiは0.1以上となるように凹凸を付けることが望ましいことが分かる。また、hi/Hiが大きすぎると、ひずみの集中を過度に招き、界面方向でなく、積層方向にき裂が発生しやすくなるおそれがあるため、hi/Hiは0.5未満とする。以上から、0.1≦hi/Hi<0.5の関係を満たす凹凸を形成することで、第1保護層3と、第2保護層4との界面に沿ったき裂の進行を抑えられることが分かる。これにより、第1保護層3と、第2保護層4との剥離を抑制できる。
【0040】
なお、凹凸形成方法を考慮すると、hi/Hiは0.2以上が好ましい。また、第1保護層3と、第2保護層4との剥離を抑制するために形成する凹凸は、0.1≦hi/Hi<0.5を満たすと説明したが、i番目の凸部の高さと、(i-1)番目の凹部の深さとが、0.1≦h(i-1)/Hi<0.5の関係も満たすことが、より好ましい。
【0041】
さらに、凸部と隣り合う凸部の距離について、図2に示すように、i番目の凸部の頂部とi+1番目の凸部の頂部間の距離を凸部間距離と定義し、Wi(i=1、2、3・・・)で表す。凸部間距離と凹部深さの関係を凸部高さと凹部深さの関係と同様の調査を行った結果を図4に示す。図4は、hi/Wiと、き裂の有無との関係を調査した実験結果を示す図である。凸部間距離Wiと凹部深さhiの関係は0.1≦hi/Wi<2.0であることが望まれる。これは、図4に示すように、hi/Wiが0.1未満であると、界面が平坦に近づくため、凸部での抵抗が小さくなり、界面に沿ったき裂の進行を抑制することができなくなるからである。また、hi/Wiが2.0以上であると凹凸の形成の工数が増大するのに加え、凹部底に過度な応力集中が発生し、厚さ方向のき裂が発生しやすくなるためである。
【0042】
なお、上記第1保護層3の表面の凹凸は第2保護層4に覆われた部分の一部であっても良い。特に熱負荷が高くなる個所に適宜設ければ良いが、第2保護層4に覆われた部分の50%以上が好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、界面での剥離発生の可能性を低減して、長寿命化を実現できる高炉用羽口が得られる。
【符号の説明】
【0044】
1 羽口本体部
1a 外表面
1b 先端部
2 水路
3 第1保護層
4 第2保護層
10 高炉用羽口
図1
図2
図3
図4