(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】歯肉の健康指標の算出方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/026 20060101AFI20230214BHJP
【FI】
A61B5/026 120
(21)【出願番号】P 2019034644
(22)【出願日】2019-02-27
【審査請求日】2021-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大杉 侑子
(72)【発明者】
【氏名】千葉 厚子
(72)【発明者】
【氏名】大山 勤
【審査官】▲瀬▼戸井 綾菜
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-535339(JP,A)
【文献】特開2018-124242(JP,A)
【文献】特開2000-271097(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0347943(US,A1)
【文献】特開2016-123689(JP,A)
【文献】特開2019-025071(JP,A)
【文献】Yuko Ohsugi et al.,Age-related changes in gingival blood flow parameters measured using laser speckle flowmetry,Microvascular Research,2018年10月27日,Volume 122,Pages 6-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/03
A61B 1/00-1/32
A61B 3/00-3/18
A61B 10/00
A61C 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザースペックルフローグラフィーを用いる、歯肉の健康指標の算出装置であって、
レーザー光を歯肉に照射するレーザー光照射装置、
歯肉に照射されたレーザー光の散乱光を、偏光フィルターを通して受光し、スペックル画像を形成するデジタルビデオカメラ、
歯肉の二次元画像を形成するデジタルカメラ、
演算装置、及び
デジタルビデオカメラ又は演算装置で形成された画像を表示する画像表示装置を備え、
演算装置は、
スペックル画像からMBR画像を形成する機能、
MBR画像を心拍で規格化した平均一心拍のMBR画像を形成する機能、
平均一心拍のMBR画像において、一心拍分のMBR値を平均した平均MBR画像を形成する機能、
平均MBR画像と二次元画像とを重ね合わせる機能、
平均MBR画像と二次元カラー画像との重ね合わせ画像において歯に属する画素が指定されると、演算装置が、該重ね合わせ画像において、指定された画素の周囲の画素であって、その平均MBR値と、指定された画素の平均MBR値との差が所定範囲内の領域を歯領域とし、歯領域と隣接する画素であって、その平均MBR値と歯領域の平均MBR値との差が所定範囲を超える画素の領域を歯間乳頭部又は辺縁歯肉部とすることにより平均一心拍のMBR画像から歯間乳頭部又は辺縁歯肉部を抽出する機能、
抽出した歯間乳頭部又は辺縁歯肉部の平均一心拍のMBR値の波形からblowout
time(以下、BOTという)及びFalling rateを計測する機能、
被験者ごとにBOT及びFalling rateとその計測日時を記憶する機能、及び
BOT及びFalling rateのそれぞれについて、ある時点での計測値と、それ以前の計測値との変化率を算出し、これらの変化率を歯肉の健康指標として出力する機能
を有する歯肉の健康指標の算出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザースペックルフローグラフィーにより観察される歯肉の血流状態から歯肉の健康指標を算出する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザースペックルフローグラフィー(LSFG)は、生体組織に照射されたレーザー光が赤血球等により散乱され、散乱光が干渉することにより形成されるスペックル(斑点模様)を撮影し、そのスペックル画像の画素の時間的空間的変動量(MBR値)を求め、MBR画像(所謂、血流マップ)を形成する手法である。
【0003】
LSFGによる眼底の血流計測に関しては、眼底血流画像化システム(LSGF-NAVI、ソフトケア有限会社)が市販され、MBR画像に基づく血流解析や波形解析が行なわれている。例えば、MBR値の経時的な変化を心拍で規格化した平均一心拍のMBR値の波形から算出されるblowout time(以下、BOTという)やblowout score(以下、BOSという)という評価項目と動脈硬化との関連性が報告されている(非特許文献1、非特許文献2)。
【0004】
LSFGによる皮膚の血流計測に関しては、平均一心拍のMBR値の一心拍分のMBR値を平均して得られる平均MBR値が、ストレンゲージ容積脈波法による皮膚血流量の計測値と非常に高い相関があるとの知見に基づき、平均MBR値から血流量を求める方法が提案されている。この平均MBR値を2次元的にマッピングして得られる平均MBR画像は一心拍ごとの皮膚血流量の状態を示すものとなる(特許文献1)。
【0005】
一方、歯周病は細菌の感染によって引き起こされる炎症性疾患であり、歯肉の辺縁が炎症により赤くなったり、腫れたり、歯周ポケットが深くなったり、さらには歯槽骨が溶けて抜歯が必要になったりする。また、歯周病の原因菌が動脈硬化等の循環器病に影響することが知られている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】東邦医学会雑誌,62(3),p185,2015
【文献】日本眼科学会雑誌,117,p110,2013
【文献】国立循環器病研究センター、歯周病と循環器病、URL:http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/general/pamph105.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
歯周病の予防のためには、歯肉の健康を定期的にチェックすることが大切となる。しかしながら、歯肉の健康状態を一般人がチェックすることは難しい。一方、LSFGを歯肉に適用すると、歯科医師によらずともMBR画像を用いて、非侵襲的に短時間に歯肉の血流状態を観察でき、歯肉の健康状態について何らかの情報を得られることが期待される。しかしながら、LSFGにより形成した歯肉の血流画像と歯肉の健康状態との関係は知られていない。
【0009】
そこで、本発明は、LSFGにより歯肉のMBR画像を形成し、一般人でも歯肉の健康状態をチェックできるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、歯肉のMBR画像を形成し、MBR画像から平均一心拍のMBR画像を形成し、歯肉の種々の部位について、平均一心拍の波形から得られる種々の評価項目と歯肉の健康状態との関係を調べたところ、歯間乳頭部又は辺縁歯肉部で算出されるBOT及びFalling rateが歯肉の健康状態と関係していること、BOT及びFalling rateのそれぞれについて、ある時点での計測値とそれ以前の計測値との変化率は歯肉の健康状態の改善又は悪化を機械的に判定するための指標になることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明は、被験者の歯肉にレーザー光を照射し、レーザースペックルフローグラフィーによりMBR画像を形成し、MBR画像を心拍で規格化した平均一心拍のMBR画像を形成し、平均一心拍のMBR画像における歯間乳頭部又は辺縁歯肉部からBOT及びFalling rateを計測し、BOT及びFalling rateのそれぞれについてある時点での計測値とそれ以前の計測値との変化率を算出し、これらの変化率を歯肉の健康指標とする歯肉の健康指標の算出方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、レーザースペックルフローグラフィーを用いる、歯肉の健康指標の算出装置であって、
レーザー光を歯肉に照射するレーザー光照射装置、
歯肉に照射されたレーザー光の散乱光を、偏光フィルターを通して受光し、スペックル画像を形成するデジタルビデオカメラ、
演算装置、及び
デジタルビデオカメラ又は演算装置で形成された画像を表示する画像表示装置を備え、
演算装置は、
スペックル画像からMBR画像を形成する機能、
MBR画像を心拍で規格化した平均一心拍のMBR画像を形成する機能、
平均一心拍のMBR画像において、一心拍分のMBR値を平均した平均MBR画像を形成する機能、
平均一心拍のMBR画像から歯間乳頭部又は辺縁歯肉部を抽出する機能、
抽出した歯間乳頭部又は辺縁歯肉部の平均一心拍のMBR値の波形からBOT及びFalling rateを計測する機能、
被験者ごとにBOT及びFalling rateとその計測日時を記憶する機能、及び
BOT及びFalling rateのそれぞれについて、ある時点での計測値と、それ以前の計測値との変化率を算出し、これらの変化率を歯肉の健康指標として出力する機能を有する歯肉の健康指標の算出装置を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の歯肉の健康指標の算出方法によれば、LSFGによる平均一心拍のMBR画像の歯間乳頭部又は辺縁歯肉部から計測されるBOT及びFalling rateのそれぞれについて、ある時点での計測値とそれ以前での計測値との変化率を歯肉の健康指標として算出するので、この歯肉の健康指標により歯肉の健康状態の改善又は悪化を機械的に判定することができる。したがって、非侵襲的に歯肉の健康状態をチェックすることが可能となり、また一般人でも歯肉の健康状態をチェックすることが可能となる。
【0014】
また、この歯肉の健康指標が、個々の被験者におけるある時点でのBOT及びFalling rateの計測値とそれ以前でのこれらの計測値との変化率であるため、BOTやFalling rate自体の個体間格差が低減又は解消される。したがって、この判定指標は、当該被験者が前回計測時よりも今回計測時に歯肉の健康状態が改善しているのか、あるいは悪化しているのかの判定の良好な目安となる。
【0015】
さらに、この歯肉の健康指標を計測する歯肉の部位を前歯の歯間乳頭部又は辺縁歯肉部とするとスペックル画像を容易に撮ることができる。また、前歯のスペックル画像を撮った場合でも、口腔内の歯肉全体が判定対象となり、奥歯の歯肉の健康状態もチェックできるため、被験者の負担が著しく軽減される。
【0016】
一方、本発明の歯肉の健康指標の算出装置によれば、本発明の歯肉の健康指標を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施例の歯肉の健康指標の算出装置の概略構成図である。
【
図2】
図2は、口角鈎を装着した被験者の口部の正面図である。
【
図3】
図3は、実施例の歯肉の健康指標の算出装置における処理の流れ図である。
【
図4】
図4は、平均一心拍のMBR値を求める方法の説明図である。
【
図5】
図5は、平均MBR値を求める方法の説明図である。
【
図7】
図7は、Falling Rateの説明図である。
【
図8A】
図8Aは、平均MBR画像と二次元カラー画像の重ね合わせ画像である。
【
図8B】
図8Bは、平均MBR画像に、歯領域の輪郭線を表した図である。
【
図8C】
図8Cは、平均MBR画像に、解析範囲を表した図である。
【
図9】
図9は、歯肉血流測定部位と歯肉状態評価部位との説明図である。
【
図10】
図10は、各歯における歯肉評価箇所の説明図である。
【
図11A】
図11Aは、20~30歳代を被験者としたBOTの変化率及びFalling Rateの変化率と歯肉の健康状態の悪化者と改善者との関係図である。
【
図11B】
図11Bは、50~60歳代を被験者としたBOTの変化率及びFalling Rateの変化率と歯肉の健康状態の悪化者と改善者との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、各図中、同一符号は同一又は同等の構成要素を表している。
【0019】
図1は、本発明の一実施例の歯肉の健康指標の算出装置1の概略構成図である。この算出装置は、レーザースペックルフローグラフィーを用いて歯肉の健康指標を算出するもので、レーザー光を歯肉に照射するレーザー光照射装置2、歯肉Sに照射されたレーザー光の散乱光に基づいてスペックル画像を形成するデジタルビデオカメラ3、偏光フィルター4、演算装置5、画像表示装置6を備えている。レーザー光出射口2aはデジタルビデオカメラ3の受光部の近傍にある。歯肉の二次元カラー画像を形成するデジタルカメラの受光部も設けられており、その受光部もデジタルビデオカメラ3の受光部の近傍にある。
【0020】
レーザー光照射装置2及びデジタルビデオカメラ3は、特許文献1に記載されているものと同様とすることができる。ビデオカメラ3を取り付ける雲台やアームは、鏡面反射光及び表面反射光がビデオカメラ3で受光されないようにするため、ビデオカメラ3の固定角度を調整できるものが好ましい。
【0021】
偏光フィルター4は、歯肉Sに照射されたレーザー光の鏡面反射光及び表面反射光を除去し、内部散乱光がビデオカメラ3で受光されるようにするためにビデオカメラ3の受光部の前面に配置されている。
【0022】
演算装置5としては、映像信号の解析処理をできるパーソナルコンピュータに、
図3に示す処理を行う機能を持たせたものを使用することができる。画像表示装置6としては、デジタルビデオカメラ3又は演算装置5で形成された画像を表示できるディスプレイを使用することができる。より具体的には、演算装置5は、デジタルビデオカメラ3で撮られたスペックル画像からMBR画像を形成する機能、及びMBR画像を心拍で規格化した平均一心拍のMBR画像を形成する機能、平均一心拍のMBR画像において、一心拍分のMBR値を平均した平均MBR画像を形成する機能を有する。ここで、MBR画像を心拍で規格化した平均一心拍のMBR画像を形成するとは、
図4に示すように、各画素において、複数心拍分(例えば、4~20心拍分)の複数フレームのMBR値を一心拍分のフレーム数に平均化した画像を形成することをいう。また、平均MBR画像とは、
図5に示すように、各画素において、平均一心拍を構成する全フレームのMBR値を平均して得られる平均MBR値を画素値とする静止画をいう。これらの画像を形成する機能は、特許文献1に記載のコンピュータと同様とすることができる。
【0023】
また、演算装置5は、平均一心拍のMBR画像から歯間乳頭部又は辺縁歯肉部を抽出する機能を有している。この抽出を容易に行えるようにするため、演算装置5は、デジタルカメラで撮られた歯肉の二次元画像、好ましくは二次元カラー画像と平均MBR画像とを重ね合わせる機能を有している。この重ね合わせ機能自体は、特許文献1に記載のコンピュータと同様とすることができる。
【0024】
歯間乳頭部又は辺縁歯肉部の抽出は、歯肉の二次元カラー画像と平均MBR画像との重ね合わせ画像において、色相又は明度により領域を識別する公知の画像処理方法によってもよいが、オペレータがこの重ね合わせ画像上で歯に属する画素を指定し、その後に抽出することが好ましい。画像処理により重ね合わせ画像上で平均MBR値の値によって歯領域と歯肉領域とを自動的に認識させると、口角鈎などの歯以外で血流がない物が歯領域と認識される虞があるが、オペレータが歯に属する画素を指定することによりこのような誤認識をなくすことができる。歯に属する画素が指定された後の歯間乳頭部又は辺縁歯肉部の抽出は次のように行うことが好ましい。即ち、演算装置が、オペレータにより指定された画素の周囲の画素であって、その平均MBR値と、指定された画素の平均MBR値との差が所定範囲内の領域を歯領域として識別し、歯領域と隣接する画素であって、その平均MBR値と歯領域の平均MBR値との差が所定範囲を超える画素の領域を歯間乳頭部又は辺縁歯肉部として抽出することが好ましく、特に、歯領域とそれに隣接する領域との境界から2mmまでの領域を歯間乳頭部又は辺縁歯肉部として抽出することが好ましい。このように、重ね合わせ画像の色相、明度等の色情報によらず、平均MBR値によって歯領域と、歯間乳頭部又は辺縁歯肉部とを識別することにより、歯肉血流を計測するカメラだけで計測部位を識別できるので解析過程を簡潔にすることができる。
【0025】
演算装置5は、抽出した歯間乳頭部又は辺縁歯肉部の平均一心拍のMBR画像からBOT及びFalling rateを計測する機能を有している。ここで、BOTは、
図6に示すように、平均一心拍のMBR値の波形において、半値幅Wと一心拍幅Fとの比(W/F)に定数C
1を掛けて算出される評価項目で、一心拍中に半値幅が占める割合を表している。また、Falling rateは、
図7に示すように、平均一心拍のMBR値の波形において、下降領域の面積S
Fと下降領域を囲む矩形面積Sallとの比(S
F/Sall)に定数C
2を掛けて算出される評価項目である。
【0026】
演算装置5は、計測したBOT及びFalling rateの数値を、計測日時と共に記憶する機能を有し、さらに、被験者ごとにBOT及びFalling rateのそれぞれについて、ある時点での計測値BOT1とそれ以前の計測値BOT2の変化率を算出し、その変化率を歯肉の健康状態の判定指標として出力する機能を有している。ここで、変化率とは、ある時点での計測値をBOT1、それ以前の計測値をBOT2とした場合に、BOT1/BOT2で算出される数値である。また、計測日時としては、スペックル画像の撮影日時とすることができる。
【0027】
本発明の歯肉の健康指標の算出方法は、上述の算出装置1を用いて次のように行うことができる。まず、
図1に示すように、被験者Pの顎を顎載せ台11で固定する。この場合、
図2に示すように、被験者Pに口角鈎10を装着してもらい、歯肉Sの画像を撮りやすくすることが好ましい。次に、被験者Pの歯肉Sにレーザー光照射装置2からレーザー光を照射し、デジタルビデオカメラ3でスペックル画像を撮影する。この場合の撮影条件は、特許文献1の記載と同様にすることができ、例えば、レーザー光としては、波長800~950nmでJISC6802クラス1Mの強度で照射することが好ましい。撮影は、3~150秒間とすることができ、被験者への負担を軽減する点から3~30秒間とすることが好ましい。また、デジタルカメラで被験者Pの二次元カラー画像を撮る。
【0028】
演算装置5にスペックル画像が入力されると、演算装置5は画素ごとにスペックルの時間的空間的変動量であるMBR値を算出し、MBR画像を形成する。次に、MBR画像から平均一心拍のMBR画像を形成し、さらに各画素で平均一心拍のMBR値を平均して平均MBR画像を形成する。
【0029】
次に、解析部位の抽出のため、まず、平均MBR画像とデジタルカメラで撮った二次元カラー画像とを重ね合わせる。
図8Aはこうして得られた重ね合わせ画像の一例である。
【0030】
次に、オペレータが重ね合わせ画像において歯に属する点を指定すると、演算装置5は、指定された画素の周囲の画素であって、その平均MBR値が所定値より小さい領域、例えば、光強度を254階調で表した場合に150未満の領域を歯領域として識別する。この場合、平均MBR画像において0.05~0.2mm
2を1単位としてMBR平均値を算出し、この単位ごとに指定された点との平均MBR値の差を検出して歯領域を定めてもよい。これにより、隣接画素の平均MBR値の差が小さい、歯と歯肉の境界領域でも自動で識別することができる。
図8Bにこうして識別した歯領域の輪郭線を示す。歯肉は歯領域に隣接する領域であり、光強度を上述のように254階調で表した場合に、歯肉の画素の平均MBR値が所定値以上、例えば150以上の領域であるが、解析範囲としては、そのような平均MBR値を有する領域であって、歯と歯肉との境界から歯肉側に1~2mmまでの領域を抽出することが好ましい。
図8Cにこうして抽出する解析範囲を示す。この解析範囲は、炎症の起きやすい歯間乳頭部と辺縁歯肉部となる。
【0031】
演算装置5は平均MBR画像で歯間乳頭部又は辺縁歯肉部を抽出すると、平均一心拍のMBR画像においてBOT及びFalling rateを計測し、その計測日時と共にその数値を記憶する。同じ被験者の異なる計測日時でのスペックル画像を同様に撮り、BOT及びFalling rateを計測すると、演算装置はBOTの変化率とFalling rateの変化率を算出する。
【0032】
本発明の歯肉の健康指標の算出方法は、こうして算出されるBOTの変化率とFalling rateの変化率を健康指標として、例えば次のように歯肉の健康状態の改善又は悪化を判定する。
BOTの変化率が1未満でFalling rateの変化率が1未満の場合、歯肉の健康状態は確実に悪化している。
BOTの変化率が1未満でFalling rateの変化率が1以上の場合、歯肉の健康状態は悪化している可能性が高い。
BOTの変化率が1以上でFalling rateの変化率が1未満の場合、歯肉の健康状態は改善されている可能性がある。
BOTの変化率が1以上でFalling rateの変化率が1以上の場合、歯肉の健康状態は悪化している可能性が高い。
【0033】
この判定結果は、口腔内の歯肉全体の状態に関するもので、スペックル画像を撮った前歯の歯肉だけに関するものではない。これは、口腔内のいずれかの歯肉で炎症が起きると、その影響が歯肉全体の血管の硬化状態等に影響するためと推察される。したがって、本発明によれば、前歯のスペックル画像を撮ることにより、奥歯の歯肉に炎症がある場合でも歯肉の健康状態が悪化していると判定されるので、歯肉の治療の必要性が動機づけられる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
50~60歳代の14名及び20~30歳代の15名を被験者とし、
図1に示した装置を用いて
図9に示す上顎の中切歯とその左右の合計4本の前歯の歯肉のスペックル画像を撮影し、BOT及びFalling rateを、計測日を変えて計測し、異なる計測日間でのBOTの変化率とFalling rateの変化率を算出した。この場合、計測日は、初回と、初回の計測日から2週間後、1ヶ月後、2ヶ月後の合計4回行い、初回の計測日と2週間後、1ヶ月後、2ヶ月後の計測日との変化率、2週間後の計測日と1ヶ月後、2ヶ月後の計測日との変化率、1ヶ月後の計測日と2ヶ月後の計測日の6通りの変化率を求めた。
【0035】
一方、各計測日において、上顎及び下顎の第一小臼歯~第2大臼歯の合計16本の歯肉の健康状態として歯肉の出血の程度と歯肉の炎症の程度を歯科衛生士が次の基準で0~3のスコアをつけることにより評価した。
【0036】
歯肉の出血の程度
歯周ポケット内にプルオーブを軽圧(20~25g)で挿入した直後の出血の程度に基づく基準
0:出血が認められない。
1:点状の出血が認められる。
2:線状の出血が認められる。
3:自然出血が認められる。
【0037】
歯肉の炎症の程度
0:清浄な歯肉。炎症が認められない。
1:軽度の炎症。発赤等の色調の変化がある。プロービングで出血しない。
2:中程度の炎症。発赤と浮腫がある。プロービングで出血する。
3:高度の炎症。著しい発赤、腫脹、潰瘍がある。自然出血傾向がある。
【0038】
これらの評価では、各歯において
図10に黒丸で示した歯の周囲の6箇所を評価した。そして、6(箇所/本)×16本=96箇所の合計のスコアを評価点とした。
【0039】
各計測日において評価点がそれ以前の計測日に対して歯肉の出血の程度と歯肉の炎症の程度の双方とも評価点が増加していた者を悪化者、双方とも評価点が減少していた者を改善者とし、それらのBOTの変化率とFalling rateの変化率との関係を
図11A、
図11Bに示した。これらの図から、BOTの変化率及びFalling rateの変化率の双方が1.0未満であると、歯肉の炎症状体が確実に悪化していることがわかる。また、BOTの変化率が1以上でFalling rateの変化率が1未満の場合に改善者が多く出現していることがわかる。
【0040】
なお、BOTに代えてBOSを使用しても歯肉の炎症状態の良好な指標は得られなかった。
【符号の説明】
【0041】
1 歯肉の健康状態の判定指標の算出装置
2 レーザー光照射装置
2a レーザー光出射口
3 デジタルビデオカメラ
4 偏光フィルター
5 演算装置
6 画像表示装置
10 口角鈎
11 顎載せ台
P 被験者
S 歯肉