(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】セラミックファイバーブロックへの不定形耐火物被覆方法
(51)【国際特許分類】
F27D 1/16 20060101AFI20230214BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20230214BHJP
C04B 41/89 20060101ALI20230214BHJP
C04B 35/66 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
F27D1/16 A
F27D1/00 D
C04B41/89 K
C04B35/66
(21)【出願番号】P 2019039490
(22)【出願日】2019-03-05
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100127155
【氏名又は名称】来田 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 佳津弥
(72)【発明者】
【氏名】高橋 尚巳
(72)【発明者】
【氏名】板楠 元邦
(72)【発明者】
【氏名】今川 浩志
(72)【発明者】
【氏名】松本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】荒木 智宏
(72)【発明者】
【氏名】小松 稜平
(72)【発明者】
【氏名】藤松 直奈
【審査官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-283656(JP,A)
【文献】実開昭61-125137(JP,U)
【文献】特開平09-318277(JP,A)
【文献】特開2016-128368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 1/00-1/18
C04B 35/66
C04B 41/87
C04B 41/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱炉の炉壁の内張りに用いたセラミックファイバーブロックの稼働面を不定形耐火物で被覆する方法であって、
コロイダルシリカ及び/又はケイ酸塩水溶液からなり、シリカ含有量が10質量%以上、且つ粘度が常温で4mPa・s~2000mPa・sである補強材を前記セラミックファイバーブロックの稼働面へ
塗布量0.25リットル/m
2
~1.0リットル/m
2
で吹付けた後、該吹付け面に不定形耐火物を塗布して1mm~10mmの耐火物層を形成することを特徴とするセラミックファイバーブロックへの不定形耐火物被覆方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱炉の炉壁の内張りに用いたセラミックファイバーブロックの稼働面を不定形耐火物で被覆する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼業では、鋼片を加熱する加熱炉の断熱性を向上させるため、加熱炉の側壁や天井の内面にセラミックファイバーブロックを碁盤目状に並べて設置することが一般的に行われている。しかし、セラミックファイバーブロックは、長期間の使用に伴い、炉内で発生するスケール(FeO、Fe2O3)と反応して低融点化し損耗する。損耗が進行すると、セラミックファイバーブロックの断熱性能が劣化する。
【0003】
セラミックファイバーブロックの損耗を抑制する方法として、セラミックファイバーブロックの表面を被覆材でコーティングする技術が知られているが、被覆材が剥落するため、セラミックファイバーブロックを保護する効果が十分に発揮されないという問題があった。
【0004】
そこで、例えば特許文献1では、無機質断熱ファイバー(セラミックファイバー)の表面に表面硬化材の塗膜を介して耐火セラミックスの溶射皮膜を有する高耐用性断熱材が開示されている。特許文献1には、表面硬化材塗膜がファイバーと溶射皮膜とのボンド(バインダー)的な役割を果たし、それぞれに対し高接着性を有するため、強固な溶射皮膜にできると記載されている。
【0005】
また、特許文献2では、無機繊維質断熱材(セラミックファイバー)を内張に用いた炉壁構造体の補修方法において、補修箇所にある既設の無機繊維質断熱材に防塵材を吹付け、その後で無機繊維質接着材を吹付け、さらに補修用の無機繊維質湿式吹付材を吹付ける技術が開示されている。特許文献2には、強度の劣化した既設の無機繊維質断熱材を大幅に除去することなく、その表面に新規の無機繊維質断熱材を新設できるので、施工が容易となり、工期も短縮でき、さらに作業環境を改善する効果もあると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-248972号公報
【文献】特開平9-318277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1記載の技術は、溶射皮膜を採用しているため、セラミックファイバーが過度に加熱(セラミックファーバーブロックを設置した炉の温度を超える温度、例えば1200℃を超える温度)されて劣化しやすく破断を招き易いという課題がある。
【0008】
また、特許文献2記載の技術によれば、セラミックファイバーブロックを無機繊維質湿式吹付材で被覆することにより断熱性能が向上するが、耐火材と比較して強度が低く、バーナー噴流によって無機繊維質湿式吹付材が剥落するという課題がある。
そこで、無機繊維質湿式吹付材による被覆に代えて、単位面積当たりの被覆質量が増大する不定形耐火物を吹付けたところ、セラミックファイバーが破断して耐火物層が剥落する場合があることが判明した。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、セラミックファイバーブロックを保護する不定形耐火物がセラミックファイバーから剥落するのを抑制してセラミックファイバーの損耗量を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、加熱炉の炉壁の内張りに用いたセラミックファイバーブロックの稼働面を不定形耐火物で被覆する方法であって、
コロイダルシリカ及び/又はケイ酸塩水溶液からなり、シリカ含有量が10質量%以上、且つ粘度が常温で4mPa・s~2000mPa・sである補強材を前記セラミックファイバーブロックの稼働面へ塗布量0.25リットル/m
2
~1.0リットル/m
2
で吹付けた後、該吹付け面に不定形耐火物を塗布して1mm~10mmの耐火物層を形成することを特徴としている。
【0011】
ここで、「塗布」は、スプレーなどによる吹付け、鏝塗り、刷毛塗り、手塗りなど従来から知られている塗布技術の総称である。
【0012】
セラミックファイバーブロックの表面を保護する不定形耐火物(以下、「耐火材」と呼ぶことがある。)は、接着面での剥離が課題とされていた。
【0013】
本発明者らは上記課題について詳細な検討を行い以下の知見を得た。
セラミックファイバーは高温にさらされると硬化し、引張強度が低下して折れやすくなる。そのため、接着面の強度を上げても、接着面近傍のセラミックファイバーが破断し、耐火材と耐火材近傍のセラミックファイバーが剥落する場合がある。
【0014】
上記知見に基づき、本発明者らは、耐火材近傍のセラミックファイバーを強化することにより耐火材の剥落を防止する本発明に想到した。即ち、シリカ(SiO2)を含有する補強材をセラミックファイバーブロックの稼働面へ吹付けて、セラミックファイバー層にシリカを浸透させる。加熱炉の稼働に伴って、セラミックファイバー層に浸透したシリカがガラス化してセラミックファイバー間に架橋を形成してセラミックファイバー層を強化する。これにより、耐火材近傍のセラミックファイバーが折れにくくなり、耐火材と耐火材近傍のセラミックファイバーが剥落しにくくなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るセラミックファイバーブロックへの不定形耐火物被覆方法では、加熱炉の稼働に伴って、セラミックファイバー層に浸透したシリカがガラス化してセラミックファイバー間に架橋を形成するので、耐火材近傍のセラミックファイバーが折れにくくなり、耐火材と耐火材近傍のセラミックファイバーが剥落しにくくなる。その結果、耐火材によるセラミックファイバーブロックの保護効果が充分発揮され、セラミックファイバーの損耗量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明が実施されたセラミックファイバーブロックの側面図である。
【
図2】セラミックファイバーブロックに吹付けた補強材の粘度が常温で5000mPa・sの場合におけるセラミックファイバー層の状態を示したイメージ図である。
【
図3】セラミックファイバーブロックに吹付けた補強材の粘度が常温で1.3mPa・sの場合に、加熱炉の稼働に伴って、セラミックファイバー層に浸透したシリカがガラス化してセラミックファイバー同士が固着したときのイメージ図である。
【
図4】セラミックファイバーブロックに吹付けた補強材の粘度が常温で4mPa・s以上90mPa・s以下の場合に、加熱炉の稼働に伴って、セラミックファイバー層に浸透したシリカがガラス化してセラミックファイバー同士が固着したときのイメージ図である。
【
図5】セラミックファイバーブロックに吹付けた補強材の粘度が常温で90mPa・s超2000mPa・s以下の場合に、加熱炉の稼働に伴って、セラミックファイバー層に浸透したシリカがガラス化してセラミックファイバー同士が固着したときのイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。
【0018】
加熱炉の側壁や天井といった炉壁の内面(炉内壁)には、セラミックファイバーブロックが碁盤目状に並べて設置(内張り)されている。セラミックファイバーブロック10は、
図1に示すように、セラミックファイバーからなるブロック体11と、ブロック体11を炉殻13の内面に固定するための支持金物12と、支持金物12をブロック体11に装着するためのビーム材(図示省略)とから概略構成されている。
【0019】
ブロック体11は、シート状のセラミックファイバーブランケットを積層して直方体状としたものであり、ブロック体11の一辺の長さは100mm~600mm程度とされている。本実施の形態では、帯状のセラミックファイバーブランケットを葛折り状に折りたたんでブロック体11としている。
【0020】
セラミックファイバーブロック10を炉殻13の内面に固定する際は、支持金物12から突出するボルト14を、炉殻13に形成したボルト孔(図示省略)に挿入し、炉殻13の外面に露出しているボルト14にワッシャー15及びナット16を取付け、炉殻13の内面にセラミックファイバーブロック10を固定する。
【0021】
次に、セラミックファイバーブロック10の稼働面を不定形耐火物で被覆する方法(本発明の一実施の形態に係るセラミックファイバーブロックへの不定形耐火物被覆方法)について説明する。
[STEP-1]
コロイダルシリカ及び/又はケイ酸塩水溶液からなり、シリカ含有量が10質量%以上、且つ粘度が常温で4mPa・s~2000mPa・sである補強材を、スプレー等を用いてセラミックファイバーブロック10の稼働面へ吹付け、ブロック体11に補強材浸潤層17を形成する(
図1参照)。
【0022】
補強材の粘度は、JIS Z8803:2011「液体の粘度測定方法」に記載されている細管粘度計により測定する。
【0023】
コロイダルシリカは、非晶質シリカ粒子(粒径1μm以下)を添加した水溶液で、常温粘度が1.0mPa・s以上のものが知られている。非晶質シリカ粒子の添加量を増加させると粘度が上昇するが、それ以外に、水の一部を代替する高粘性液体の添加によりコロイダルシリカの粘度を調整することができる。高粘性液体には、有機物系バインダーを使用することができる。
【0024】
ケイ酸塩水溶液は、シリカを含有する水溶液で、常温粘度1.0mPa・s以上のものが知られている。シリカの含有量を増加させると粘度が上昇するが、それ以外に、アルカリ金属の添加や、水の一部を代替する高粘性液体の添加によりケイ酸塩水溶液の粘度を調整することができる。
【0025】
コロイダルシリカ及び/又はケイ酸塩水溶液からなる補強材のシリカ含有量が10質量%未満の場合、セラミックファイバー20間にガラス化したシリカ21からなる架橋を形成することができない(
図3参照)。シリカ含有量の上限値は補強材の粘度によって規定される。
【0026】
また、補強材の粘度が常温で4mPa・s未満、例えば1.3mPa・sの場合、
図3に示すように、補強材の粘度が低すぎるため、セラミックファイバー20間にガラス化したシリカ21からなる架橋を形成することができない。一方、補強材の粘度が常温で2000mPa・s超、例えば5000mPa・sの場合、
図2に示すように、補強材がセラミックファイバー層に浸透せず補強材浸潤層17が形成されない。
【0027】
補強材の粘度が常温で4mPa・s~2000mPa・sの場合、
図4及び
図5に示すように、シリカ成分がセラミックファイバー層に浸透してセラミックファイバー20間にガラス化したシリカ21からなる架橋が複数形成される。これにより、セラミックファイバー20同士が固着し、セラミックファイバー層を強化することができる。特に、補強材の粘度が常温で4mPa・s~90mPa・sの場合(
図4参照)、ガラス化したシリカ21がセラミックファイバー20間に適度な空隙を残して架橋を形成するので、セラミックファイバーブロック10の高い断熱性を維持することができる。
【0028】
補強材の塗布量は0.25リットル/m2~1.0リットル/m2とする。
補強材の塗布量が0.25リットル/m2未満の場合、セラミックファイバー20間に架橋が形成されない一方、補強材の塗布量が1.0リットル/m2超の場合、セラミックファイバー20間に適度な空隙が形成されずセラミックファイバーブロック10の断熱性が損なわれる。
【0029】
[STEP-2]
補強材を吹付けた面に不定形耐火物を塗布して1mm~10mmの耐火物層18を形成する(
図1参照)。
【0030】
耐火物層18は、炉内で発生するスケール(FeO、Fe2O3)からセラミックファイバーを保護する機能を有している。
耐火物層18が1mm未満の場合、不定形耐火物による被覆化が不十分となる一方、耐火物層18が10mm超であると、自重により耐火物層18が剥落する。
【0031】
以上、本発明の一実施の形態について説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
【実施例】
【0032】
本発明の効果について検証するために実施した検証試験について説明する。
試験結果の一覧を表1に示す。
【0033】
【0034】
施工対象は、炉内雰囲気が1050~1200℃となる加熱炉の天井部とした。
天井部のライニングは、鉄皮側より、セラミックファイバーブロック、耐火物層(不定形耐火物の厚さは表1参照)とした。なお、セラミックファイバーブロックの厚さは、炉の稼働初期に鉄皮温度が100~150℃の範囲となるよう設定している。
【0035】
補強材は、表1記載の材料からなる補強材をセラミックファイバーブロックの稼働面へ所定量(0.5リットル/m2)吹付けた。当該吹付けの後、不定形耐火物を吹付けもしくは鏝塗によって施工した。
不定形耐火物には、かさ密度1.1(g/cm3)のアルミナ質不定形耐火物を使用した。
なお、比較例1では、アルミナゾルの10質量%添加と有機物系バインダー添加量の調整により補強材の粘度を調整した。従来例は補強材を使用しなかった。
【0036】
試験結果の評価は以下のように行った。
判定1は全試験ケースについて実施した。加熱炉の稼働から半年が経過した時点で、天井部位の900mm×900mmの範囲を目視点検し、セラミックファイバー層の露出が確認できなかった場合を○判定、セラミックファイバー層の露出が確認できた場合(耐火物層の剥落が確認できた場合)は×判定とした。
判定2は実施例のみ実施した。試験を実施した部位について炉の稼働初期の鉄皮温度が130℃未満の場合は優判定、130℃以上の場合は劣判定とした。
【0037】
検証試験より判明した事項を以下に列記する。
・実施例1~8では、セラミックファイバー層の露出が確認されず、判定1は○判定、判定2は実施例3を除いて優判定であった。実施例3は、粘度が好ましい範囲の上限である90mPa・sを超えたため、断熱性が低下し、判定2が劣判定であった。ただし、実用可能である。
【0038】
・比較例1は、補強材にアルミナゾルを添加したものであり、シリカ含有量が0(ゼロ)質量%であったため、粘度が4mPa・s(4mPa・s~2000mPa・sの範囲内)、不定形耐火物の厚みが3mm(1~10mmの範囲内)であったが、判定1が×判定であった。
・比較例2は、補強材としてコロイダルシリカを用い、シリカ含有量が10質量%、不定形耐火物の厚みが3mm(1~10mmの範囲内)であったが、粘度が1.4mPa・s(4mPa・s未満)であったため、判定1が×判定であった。
・比較例3は、粘度が3000mPa・s(2000mPa・s超)であったため、判定1が×判定であった。
・比較例4は、不定形耐火物の厚みが20mm(10mm超)であったため、判定1が×判定であった。
【0039】
・従来例は、補強材を用いていなかったため、不定形耐火物の厚みが3mm(1~10mmの範囲内)であったが、判定1が×判定であった。
【符号の説明】
【0040】
10:セラミックファイバーブロック、11:ブロック体、12:支持金物、13:炉殻、14:ボルト、15:ワッシャー、16:ナット、17:補強材浸潤層、18:耐火物層、20:セラミックファイバー、21:ガラス化したシリカ