(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】グラフェンナノリボン前駆体及びグラフェンナノリボンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 25/18 20060101AFI20230214BHJP
C07C 17/269 20060101ALI20230214BHJP
C01B 32/184 20170101ALI20230214BHJP
【FI】
C07C25/18 CSP
C07C17/269
C01B32/184
(21)【出願番号】P 2019063818
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2021-09-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「グラフェンナノリボンの合成・評価とシミュレーション」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】大伴 真名歩
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 信太郎
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-520618(JP,A)
【文献】特開2017-057182(JP,A)
【文献】特開2018-172237(JP,A)
【文献】特許第6973208(JP,B2)
【文献】CHEN, Zongping et al.,Chemical Vapor Deposition Synthesis and Terahertz Photoconductivity of Low-Band-Gap N=9 Armchair Graphene Nanoribbons,Journal of American Chemical Society,2017年03月01日,vol.139, no.10,pp.3635-3638
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C01B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学式(1)で表される構造式を有し、
下記の化学式(1)において、
n
は0であり
、
Xは、臭素、ヨウ素又は塩素であり、
Yは、フッ素で
あることを特徴とするグラフェンナノリボン前駆体。
【化1】
【請求項2】
基板上で、請求項
1に記載のグラフェンナノリボン前駆体を第1の温度に加熱して、Xの脱離及びC-C結合反応を誘起し、前記基板上にポリマーを得る工程と、
前記ポリマーを前記第1の温度よりも高い第2の温度に加熱して、H及びYの脱離並びにC-C結合反応を誘起する工程と、
を有することを特徴とするグラフェンナノリボンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェンナノリボン前駆体及びグラフェンナノリボンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノサイズのグラフェンとして、幅が数nmのリボン形状の擬一次元のグラフェン、所謂、グラフェンナノリボン(graphene nanoribbon:GNR)が知られている。GNRについては、幅と大よそ逆比例する大きさのバンドギャップを持つことが知られている。
【0003】
GNRの用途として、PN接合を有する半導体装置が挙げられる。GNRは、大気中の酸素由来のドーピングを受けてP型半導体として動作しやすい。その一方で、N型半導体として動作するGNRを製造することは困難である。理論上、エッジ構造がアームチェア型のGNRのエッジの水素(H)をフッ素(F)で置換することにより、N型半導体として動作させることができると考えられている。ところが、エッジの水素をフッ素で置換した、エッジ構造がアームチェア型のGNRを安定して製造することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-57182号公報
【文献】特開2017-50424号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】ACS Nano 11,6204(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的は、エッジの水素をフッ素で置換した、エッジ構造がアームチェア型のグラフェンナノリボンを安定して製造することができるグラフェンナノリボン前駆体及びグラフェンナノリボンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一形態によれば、下記の化学式(1)で表される構造式を有し、下記の化学式(1)において、nは0であり、Xは、臭素、ヨウ素又は塩素であり、Yは、フッ素であるグラフェンナノリボン前駆体が提供される。
【0008】
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、エッジの水素をフッ素で置換した、エッジ構造がアームチェア型のグラフェンナノリボンを安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態に係るGNR前駆体の構造式を示す図である。
【
図2A】第1の実施形態に係るGNR前駆体を用いたGNRの製造方法を示す図(その1)である。
【
図2B】第1の実施形態に係るGNR前駆体を用いたGNRの製造方法を示す図(その2)である。
【
図3A】第1の実施形態に係るGNR前駆体の製造方法を示す図(その1)である。
【
図3B】第1の実施形態に係るGNR前駆体の製造方法を示す図(その2)である。
【
図4A】第1の実施形態に係るGNR前駆体の原料の構造式を示す図(その1)である。
【
図4B】第1の実施形態に係るGNR前駆体の原料の構造式を示す図(その2)である。
【
図5】1,4-ジブロモ-2,3-ジヨードベンゼンを合成する方法を示す図である。
【
図6】第2の実施形態に係るGNR前駆体の構造式を示す図である。
【
図7A】第2の実施形態に係るGNR前駆体を用いたGNRの製造方法を示す図(その1)である。
【
図7B】第2の実施形態に係るGNR前駆体を用いたGNRの製造方法を示す図(その2)である。
【
図8A】第2の実施形態に係るGNRのSTM像を示す図である。
【
図8B】
図8Aに示すSTM写真の内容を模式的に示す図である。
【
図9A】X線光電子分光スペクトルを示す図(その1)である。
【
図9B】X線光電子分光スペクトルを示す図(その2)である。
【
図9C】一対のアームチェア間のC原子の配列を示す模式図である。
【
図10】顕微ラマン分光スペクトルを示す図である。
【
図11】9AGNR及びF-9AGNRの電子構造を並べて示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について添付の図面を参照しながら具体的に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省くことがある。
【0012】
(第1の実施形態)
第1の実施形態は、グラフェンナノリボン(GNR)の製造に好適なGNR前駆体に関する。
図1は、第1の実施形態に係るGNR前駆体の構造式を示す図である。
【0013】
第1の実施形態に係るGNR前駆体100は
図1に示す構造式を有する。
図1において、nは、0以上の整数であり、Xは、臭素(Br)、ヨウ素(I)又は塩素(Cl)であり、Yは、水素(H)又はフッ素(F)である。
【0014】
ここで、第1の実施形態に係るGNR前駆体100を用いたGNRの製造方法について説明する。
図2A~
図2Bは、第1の実施形態に係るGNR前駆体を用いたGNRの製造方法を示す図である。
【0015】
まず、GNRを成長させる触媒金属基板の表面清浄処理を超高真空中で行う。表面清浄処理により、触媒金属基板の表面上の有機系汚染物質を除去したり、表面の平坦性を向上したりすることができる。触媒金属基板としては、例えば、表面のミラー指数が(111)、(110)、(100)又は(788)の金(Au)基板、銀(Ag)基板又は銅(Cu)基板を用いることができる。
【0016】
次いで、表面清浄処理を施した触媒金属基板を大気に曝すことなく、超高真空下にて、触媒金属基板の表面温度を、Xの脱離温度T
X以上Y原子の脱離温度T
Y未満の第1の温度、例えば200℃~300℃に加熱し、第1の温度に保持する。そして、GNR前駆体100を触媒金属基板の表面に真空蒸着する。GNR前駆体100の蒸着量は、1分子層程度になるように調節することが望ましい。温度が第1の温度の触媒金属基板の表面にて、GNR前駆体100からX原子が脱離してウルマン反応を起こし、C-C結合反応が誘起される。この結果、
図2Aに示すように、GNR前駆体100の複数の分子が凸の向きを反転しながら一方向に配列した、芳香族化合物が連なったポリマー110が安定的に形成される。
【0017】
次いで、触媒金属基板の表面温度を、Hの脱離温度T
H以上の第2の温度、例えば350℃~450℃に加熱し、第2の温度に保持する。この結果、
図2Bに示すように、ポリマー110からH及びYが脱離して、C-C結合反応が誘起されてポリマー110が芳香環化し、エッジのHがFで置換された、エッジ構造がアームチェア型のGNR150が形成される。
【0018】
このように、GNR前駆体100を加熱すると、Xが脱離して、Xと結合していたC同士がGNR前駆体100間で結合し、その後に、H及びYが脱離して、Hと結合していたC同士がGNR前駆体100間で結合し、Yと結合していたC同士がGNR前駆体100間で結合する。Xと結合していたC同士の結合によりGNR前駆体100の配列が決定され、その後のH、Yと結合していたC同士の結合によりGNR150の構造が固定される。このため、エッジのHがFで置換された、エッジ構造がアームチェア型のGNR150を安定して製造することができる。
【0019】
次に、第1の実施形態に係るGNR前駆体100の製造方法について説明する。
図3A~
図3Bは、第1の実施形態に係るGNR前駆体100の製造方法を示す図である。
【0020】
まず、
図4Aに構造式を示す物質160及び
図4Bに構造式を示す物質130を準備する。
図4Aに示す物質は、1,4-ジブロモ-2,3-ジヨードベンゼン(1,4-dibromo-2,3-diiodobenzene)であり、
図4Bに示す物質130は、ベンゼン又はアセンのボロン酸である。アセンとしては、例えばナフタレン、アントラセン、ナフタセン、ペンタセン又はヘキサセンを用いることができる。
【0021】
次いで、これらを溶媒に溶解させ、触媒を加え、塩基の存在下で攪拌することで鈴木カップリング反応を生じさせる。攪拌を継続して溶媒を蒸発させることで、
図3Aに示すように、物質160に含まれる一方のヨウ素(I)がモノカップリングした物質140が得られる。
【0022】
その後、
図3Aに示す物質140及び物質130を溶媒に溶解させ、触媒を加え、塩基の存在下で攪拌することで鈴木カップリング反応を生じさせる。攪拌を継続して溶媒を蒸発させることで、
図3Bに示すように、物質140に含まれるヨウ素(I)がモノカップリングしたGNR前駆体100が得られる。
【0023】
そして、例えばカラムクロマトグラフィーによりGNR前駆体100の精製を行う。
【0024】
このようにして、GNR前駆体100をボトムアップ法で製造することができる。
【0025】
1,4-ジブロモ-2,3-ジヨードベンゼンは、例えば、次の方法で合成することができる。
図5は、1,4-ジブロモ-2,3-ジヨードベンゼンを合成する方法を示す図である。
【0026】
まず、2,5-ジブロモアニリン(2,5-dibromoaniline)(化合物11)、抱水クロラール(chloral hydrate)(化合物12)及び塩酸ヒドロキシルアミン(hydroxylammonium chloride)(化合物13)をエタノール水溶液中で反応させて、(2,5-ジブロモフェニル)-2-(ヒドロキシイミノ)アセトアミド((2,5-dibromophenyl)-2-(hydroxyimino)acetamide)(化合物14)を得る。この反応は、例えば80℃で12時間行う。
【0027】
次いで、濃硫酸に(2,5-ジブロモフェニル)-2-(ヒドロキシイミノ)アセトアミド(化合物14)を加え、加熱することで、4,7-ジブロモインドリン-2,3-ジオン(4,7-dibromoindoline-2,3-dione)(化合物15)を得る。この反応は、例えば100℃で30分間行う。
【0028】
その後、4,7-ジブロモインドリン-2,3-ジオン(化合物15)を水酸化ナトリウム水溶液に溶解させ、過酸化水素水を滴下し攪拌する。続いて、ろ過を行い、塩酸を用いてカルボキシル基に水素を付加し、pHを4に調整する。そして、ろ過を行うことで2-アミノ-3,6-ジブロモ安息香酸(2-amino-3,6-dibromobenzoic acid)(化合物16)を得る。
【0029】
次いで、1,2-ジクロロメタン、ヨウ素及び亜硝酸イソアミルの溶液に、2-アミノ-3,6-ジブロモ安息香酸(化合物16)を滴下することで、1,4-ジブロモ-2,3-ジヨードベンゼン(1,4-dibromo-2,3-diiodobenzene)(化合物17)を得る。この反応は、例えば80℃で16時間行う。
【0030】
このようにして、1,4-ジブロモ-2,3-ジヨードベンゼンを合成することができる。
【0031】
なお、nは0以上の整数であれば特に限定されないが、安定したGNR前駆体100を得るためには、nは0以上5以下の整数であることが好ましい。また、GNRの長さは特に限定されず、例えば、数十nmとすることができる。Xにヨウ素を用いた場合、長いGNRを製造しやすい。
【0032】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、GNRの製造に好適なGNR前駆体に関する。
図6は、第2の実施形態に係るGNR前駆体の構造式を示す図である。
【0033】
第2の実施形態に係るGNR前駆体200は
図6に示す構造式を有する。すなわち、第2の実施形態に係るGNR前駆体200は、
図1において、nが0であり、XがBrであり、YがFである構造式を有する。GNR前駆体200は、いわば3´,6´-ジブロモ-3´,3´´,4´,4´´,5´,5´´-ヘキサフルオロ-1,1´:2´,1´´-ターフェニル(3',6'-dibromo-3',3'',4',4'',5',5''-hexafluoro-1,1':2',1''-terphenyl)である。
【0034】
ここで、第2の実施形態に係るGNR前駆体200を用いたGNRの製造方法について説明する。
図7A~
図7Bは、第2の実施形態に係るGNR前駆体を用いたGNRの製造方法を示す図である。
【0035】
先ず、GNRを成長させる触媒金属基板の表面清浄処理を超高真空中で行う。この表面清浄処理では、例えば、表面へのArイオンスパッタ及び超高真空下でのアニールを1サイクルとし、これを複数サイクル実施する。例えば、各サイクルにおいて、Arイオンスパッタでは、イオン加速電圧を1.0kVとし、イオン電流を10μAとし、時間を1分間とし、アニールでは、5×10-7Pa以下の真空度を保持しつつ、温度を400℃~500℃とし、時間を10分間とする。例えば、サイクル数は3サイクルとする。表面清浄処理により、触媒金属基板の表面上の有機系汚染物質を除去したり、表面の平坦性を向上したりすることができる。ここでは、触媒金属基板として、表面のミラー指数が(111)の金(Au)基板を用いる。以下、Au基板の(111)面を「Au(111)面」ということがある。
【0036】
次いで、表面清浄処理を施した触媒金属基板を大気に曝すことなく、超高真空下にて、触媒金属基板の表面温度を、Brの脱離温度以上、かつHの脱離温度未満の第1の温度、例えば200℃に加熱し、第1の温度に保持する。そして、GNR前駆体200を触媒金属基板の表面に真空蒸着する。GNR前駆体200の蒸着量は、1分子層程度になるように調節することが望ましい。温度が第1の温度の触媒金属基板の表面にて、GNR前駆体200からBrが脱離してウルマン反応を起こし、C-C結合反応が誘起される。この結果、
図7Aに示すように、GNR前駆体200の複数の分子が凸の向きを反転しながら一方向に配列した、芳香族化合物が連なったポリマー210が安定的に形成される。
【0037】
次いで、触媒金属基板の表面温度を、Hの脱離温度T
H以上の第2の温度、例えば400℃に加熱し、第2の温度に保持する。この結果、
図7Bに示すように、ポリマー210からH及びFが脱離して、C-C結合反応が誘起されてポリマー210が芳香環化し、エッジのHがFで置換された、エッジ構造がアームチェア型のGNR250が形成される。
【0038】
このように、GNR前駆体200を加熱すると、Brが脱離して、Brと結合していたC同士がGNR前駆体200間で結合し、その後に、H及びFが脱離して、Hと結合していたC同士がGNR前駆体200間で結合し、Fと結合していたC同士がGNR前駆体200間で結合する。Brと結合していたC同士の結合によりGNR前駆体200の配列が決定され、その後のH、Fと結合していたC同士の結合によりGNR250の構造が固定される。このため、エッジのHがFで置換された、エッジ構造がアームチェア型のGNR250を安定して製造することができる。
【0039】
次に、第2の実施形態に係るGNR前駆体200の製造方法について説明する。
【0040】
まず、1,4-ジブロモ-2,3-ジヨードベンゼン及び3,4,5-トリフルオロフェニルボロン酸(3,4,5-trifluoro phenylboronic acid)を準備する。3,4,5-トリフルオロフェニルボロン酸は、
図4Bにてnが0の構造式を有する。
【0041】
次いで、第1の実施形態に係るGNR100の製造方法と同様に、2度、鈴木カップリング反応を生じさせ、溶媒を蒸発させることで、GNR前駆体200が得られる。そして、例えばカラムクロマトグラフィーによりGNR前駆体200の精製を行う。
【0042】
このようにして、GNR前駆体200をボトムアップ法で製造することができる。
【0043】
図8Aに、第2の実施形態に倣って製造したGNRの走査型トンネル顕微鏡(scanning tunneling microscope:STM)像を示す。
図8Bは、
図8Aに示すSTM写真の内容を模式的に示す図である。
【0044】
図8A及び
図8Bに示すように、幅が1.5nm弱、長さが10nm~20nm程度で、厚さが単原子層程度の一次元構造が得られた。つまり、GNRが製造されたことが確認された。
【0045】
図9A及び
図9Bに、製造したGNRのX線光電子分光(XPS)スペクトルを示す。
図9Aに示すように、触媒金属基板のAuの4p軌道のピーク22の他にフッ素の1s軌道のピーク21が確認された。また、
図9Bに示すように、C-F結合のピーク23及びエッジの内側に位置するCの1s軌道のピーク24が確認された。ピーク24の強度はピーク23の強度の3.4倍である。
図9Cに示すように、一対のアームチェアに着目すると、エッジの内側に位置するC原子26の数は14であり、エッジに位置し、F原子と結合したC原子25の数は4である。従って、C原子26の数はC原子25の数の3.5倍である。このことから、エッジに位置するC原子25のほぼ全部にF原子が結合しているといえる。
【0046】
図10に、製造したGNRの顕微ラマン分光スペクトルを示す。
図10に示すように、グラフェンの存在を示すGバンドのピーク31が確認された。また、GNRがアームチェア型であることを示すDバンドのピーク32も確認された。
【0047】
図9A、
図9B及び
図10に示す結果から、エッジのHがFで置換された、エッジ構造がアームチェア型のGNRが製造されたことが確認できた。
【0048】
図11に、9AGNR及びF-9AGNRの電子構造を並べて示す。9AGNRは、リボン幅方向に4個の六員環が配列し、炭素原子9個分の幅を持つアームチェア型のGNRである。F-9AGNRは、エッジのHがFで置換された9AGNRである。9AGNR及びF-9AGNRの電子状態を密度汎関数法(density functional theory:DFT)で計算したところ、F-9AGNRの仕事関数が4.75eVとなり、9AGNRの仕事関数は3.50eVとなった。これは、9AGNRとF-9AGNRとを接合することでPN接合を実現できることを意味する。
【0049】
以下、本発明の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0050】
(付記1)
上記の化学式(1)で表される構造式を有し、
上記の化学式(1)において、
nは、0以上の整数であり、
Xは、臭素、ヨウ素又は塩素であり、
Yは、水素又はフッ素であることを特徴とするグラフェンナノリボン前駆体。
(付記2)
nが0以上5以下の整数であることを特徴とする付記1に記載のグラフェンナノリボン前駆体。
(付記3)
Yがフッ素であることを特徴とする付記1又は2に記載のグラフェンナノリボン前駆体。
(付記4)
基板上で、付記1乃至3のいずれか1項に記載のグラフェンナノリボン前駆体を第1の温度に加熱して、Xの脱離及びC-C結合反応を誘起し、前記基板上にポリマーを得る工程と、
前記ポリマーを前記第1の温度よりも高い第2の温度に加熱して、H及びYの脱離並びにC-C結合反応を誘起する工程と、
を有することを特徴とするグラフェンナノリボンの製造方法。
【符号の説明】
【0051】
100、200:GNR前駆体
110、210:ポリマー
150、250:グラフェンナノリボン