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特許7226029鋳片の中心偏析評価装置、方法及びプログラム、並びに評価モデルの学習装置
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  • 特許-鋳片の中心偏析評価装置、方法及びプログラム、並びに評価モデルの学習装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】鋳片の中心偏析評価装置、方法及びプログラム、並びに評価モデルの学習装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/20 20190101AFI20230214BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20230214BHJP
   G01N 21/88 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
G01N33/20 100
G01N21/17 A
G01N21/88 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019070412
(22)【出願日】2019-04-02
(65)【公開番号】P2020169850
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】枚田 優人
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 壮一
(72)【発明者】
【氏名】篠原 雅人
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-007944(JP,A)
【文献】特開2013-217901(JP,A)
【文献】特開2017-173100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00
G01N 33/20
G01N 21/17
G01N 21/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造された鋳片の鋳造方向に垂直な方向の切断面の画像データに基づいて、中心偏析を評価する鋳片の中心偏析評価装置であって、
前記画像データに基づいて、個々の偏析粒の厚みと偏析粒の個数との度数分布を特徴量として抽出する特徴量抽出手段と、
前記特徴量抽出手段で抽出した前記特徴量に基づいて、中心偏析を評価する評価手段とを備え
前記特徴量抽出手段は、偏析粒の向きを判定した上で偏析粒を囲む長方形を設定し、前記長方形の短辺の長さを、当該長方形で囲まれた偏析粒の厚みとすることを特徴とする鋳片の中心偏析評価装置。
【請求項2】
前記特徴量抽出手段は、個々の偏析粒の面積と偏析粒の個数との度数分布を前記特徴量として更に抽出することを特徴とする請求項に記載の鋳片の中心偏析評価装置。
【請求項3】
前記評価手段は、一の切断面における前記特徴量を説明変数とし、評点を目的変数とする機械学習による評価モデルを用いて、対象鋳片の切断面の前記特徴量に基づいて、評点を求めることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋳片の中心偏析評価装置。
【請求項4】
請求項に記載の鋳片の中心偏析評価装置で用いる前記評価モデルの学習を、前記特徴量と評点との組み合わせの実績値に基づいて行う学習手段を備えたことを特徴とする評価モデルの学習装置。
【請求項5】
連続鋳造された鋳片の鋳造方向に垂直な方向の切断面の画像データに基づいて、中心偏析を評価する鋳片の中心偏析評価方法であって、
前記画像データに基づいて、個々の偏析粒の厚みと偏析粒の個数との度数分布を特徴量として抽出するステップと、
前記抽出した前記特徴量に基づいて、中心偏析を評価するステップとを有し、
前記特徴量として抽出するステップでは、偏析粒の向きを判定した上で偏析粒を囲む長方形を設定し、前記長方形の短辺の長さを、当該長方形で囲まれた偏析粒の厚みとすることを特徴とする鋳片の中心偏析評価方法。
【請求項6】
連続鋳造された鋳片の鋳造方向に垂直な方向の切断面のエッチプリント画像データに基づいて、中心偏析を評価するためのプログラムであって、
前記画像データに基づいて、個々の偏析粒の厚みと偏析粒の個数との度数分布を特徴量として抽出する特徴量抽出手段と、
前記特徴量抽出手段で抽出した前記特徴量に基づいて、中心偏析を評価する評価手段としてコンピュータを機能させ
前記特徴量抽出手段は、偏析粒の向きを判定した上で偏析粒を囲む長方形を設定し、前記長方形の短辺の長さを、当該長方形で囲まれた偏析粒の厚みとすることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳片の中心偏析評価装置、方法及びプログラム、並びに評価モデルの学習装置に関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造されたスラブ等の鋳片において、その成分及び組織の均一性を阻害するものの一つに厚さ方向中心部の中心偏析がある。したがって、鋳片の内質を評価するために、鋳片の中心偏析を検出し、その度合いを評価することが行われている。
特許文献1には、偏析エッチプリント法により鋼材の断面組織を転写したものを画像処理し、面積率及び/又は平均偏析粒径を演算し求め、この値とあらかじめ鋼種ごとに設定しておいた面積率及び/又は粒径とを比較し、偏析を推定する鋼材の偏析検出方法が開示されている。
また、特許文献2には、鋼材の断面のエッチプリント画像の2値化処理及びラベリング処理により抽出される偏析領域の特徴量を求め、特徴量があらかじめ設定した閾値以下あるいは以上の領域を、偏析を検出する検出対象から除外する鋼材の中心偏析評価方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平01-167636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鋳片の内質には、個々の偏析粒の面積よりも、個々の偏析粒の厚みが与える影響が大きい。偏析粒の面積が大きくても、厚みが小さい場合は、圧延時に偏析が十分に押しつぶされ、疵等の内質に影響を及ぼすことは少ない。一方、偏析粒の厚みが大きいと、圧延後の鋼板にも偏析粒が残ってしまい、疵等の内質に影響を及ぼしてしまう。しかしながら、特許文献1や特許文献2では、偏析粒の厚みに基づいて、中心偏析を評価することは行っていない。
【0005】
本発明は上記のような点に鑑みてなされたものであり、鋳片の中心偏析を適正に評価できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するための本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1] 連続鋳造された鋳片の鋳造方向に垂直な方向の切断面の画像データに基づいて、中心偏析を評価する鋳片の中心偏析評価装置であって、
前記画像データに基づいて、個々の偏析粒の厚みと偏析粒の個数との度数分布を特徴量として抽出する特徴量抽出手段と、
前記特徴量抽出手段で抽出した前記特徴量に基づいて、中心偏析を評価する評価手段とを備え
前記特徴量抽出手段は、偏析粒の向きを判定した上で偏析粒を囲む長方形を設定し、前記長方形の短辺の長さを、当該長方形で囲まれた偏析粒の厚みとすることを特徴とする鋳片の中心偏析評価装置。
] 前記特徴量抽出手段は、個々の偏析粒の面積と偏析粒の個数との度数分布を前記特徴量として更に抽出することを特徴とする[1]に記載の鋳片の中心偏析評価装置。
] 前記評価手段は、一の切断面における前記特徴量を説明変数とし、評点を目的変数とする機械学習による評価モデルを用いて、対象鋳片の切断面の前記特徴量に基づいて、評点を求めることを特徴とする[1]又は[2]に記載の鋳片の中心偏析評価装置。
] [3]に記載の鋳片の中心偏析評価装置で用いる前記評価モデルの学習を、前記特徴量と評点との組み合わせの実績値に基づいて行う学習手段を備えたことを特徴とする評価モデルの学習装置。
] 連続鋳造された鋳片の鋳造方向に垂直な方向の切断面の画像データに基づいて、中心偏析を評価する鋳片の中心偏析評価方法であって、
前記画像データに基づいて、個々の偏析粒の厚みと偏析粒の個数との度数分布を特徴量として抽出するステップと、
前記抽出した前記特徴量に基づいて、中心偏析を評価するステップとを有し、
前記特徴量として抽出するステップでは、偏析粒の向きを判定した上で偏析粒を囲む長方形を設定し、前記長方形の短辺の長さを、当該長方形で囲まれた偏析粒の厚みとすることを特徴とする鋳片の中心偏析評価方法。
] 連続鋳造された鋳片の鋳造方向に垂直な方向の切断面のエッチプリント画像データに基づいて、中心偏析を評価するためのプログラムであって、
前記画像データに基づいて、個々の偏析粒の厚みと偏析粒の個数との度数分布を特徴量として抽出する特徴量抽出手段と、
前記特徴量抽出手段で抽出した前記特徴量に基づいて、中心偏析を評価する評価手段としてコンピュータを機能させ
前記特徴量抽出手段は、偏析粒の向きを判定した上で偏析粒を囲む長方形を設定し、前記長方形の短辺の長さを、当該長方形で囲まれた偏析粒の厚みとすることを特徴とするプログラム。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、鋳片の中心偏析を適正に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る鋳片の中心偏析評価装置の機能構成を示す図である。
図2】対象鋳片の切断面の画像を模式的に示す図である。
図3】偏析粒の特徴量を抽出する処理を説明するための図である。
図4】ある鋳片の切断面における第1の特徴量及び第2の特徴量に対して評点が与えられている状態を示す図である。
図5】実施形態に係る評価モデルの学習装置の機能構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
図1に、実施形態に係る鋳片の中心偏析評価装置100の機能構成を示す。鋳片の中心偏析評価装置100は、連続鋳造されたスラブ等の鋳片の鋳造方向に垂直な方向の切断面(以下、対象鋳片の切断面という)の画像データに基づいて、中心偏析を評価する。
【0010】
入力部101は、対象鋳片の切断面の画像データを入力する。対象鋳片の切断面の画像データは、例えばエッチプリント法により対象鋳片の切断面の組織を転写したエッチプリントを、スキャニングすることにより画像データ化したものである。図2に、対象鋳片の切断面の画像201を模式的に示す。図2に示すように、鋳片の厚さ方向中心部に中心偏析が発生している。
【0011】
対象鋳片の切断面の画像データを生成するにあたり、中心偏析の発生領域だけをトリミングしたり、鮮明化のための2値化を行ったり等の画像処理を施すが、画像処理は公知の手法を利用すればよく、ここではその説明を省略する。事前にこれらの処理が施された画像データを入力部101を介して入力するようにしてもよいし、これらの処理前の画像データを入力部101を介して入力して、本装置100が処理を施すようにしてもよい。
なお、対象鋳片の切断面の画像データはどのような手法で取得してもよく、例えば対象鋳片の切断面をカメラ等により直接撮影した画像データを取得するような形態としてもよい。
【0012】
特徴量抽出部102は、入力部101で入力した対象鋳片の切断面の画像データに基づいて、個々の偏析粒の輪郭を検出する。図3は、偏析粒の特徴量を抽出する処理を説明するための図であり、図3(a)に一部の偏析粒301を拡大して示す。
【0013】
次に、特徴量抽出部102は、個々の偏析粒301の厚みを求め、偏析粒の厚みと偏析粒の個数との度数分布を第1の特徴量として抽出する。具体的には、まず偏析粒301の向きを判定する。図3(b)に示すように、例えば偏析粒301の最長部位になる方向を長手方向302として定める。そして、長手方向302に垂直な方向の最短部位を偏析粒301の厚みhとする。このとき、図3(b)に示すように、偏析粒301を囲む長方形303を設定するようにすればよい。長方形303は、長片が長手方向302に延びるようにし、一対の長辺及び一対の短辺それぞれが偏析粒301に接するように設定される。そして、長方形303の短辺の長さを、当該長方形303で囲まれた偏析粒301の厚みhとする。
【0014】
また、特徴量抽出部102は、個々の偏析粒301の面積を求め、偏析粒の面積と偏析粒の個数との度数分布を第2の特徴量として抽出する。具体的には、偏析粒301のピクセル数に基づいて、偏析粒301の面積を求める。
【0015】
評価モデル保持部103は、機械学習による評価モデルを保持する。評価モデルは、一の切断面における第1の特徴量(偏析粒の厚みの度数分布)及び第2の特徴量(偏析粒の面積の度数分布)を説明変数とし、評点を目的変数とする。評点とは、鋳片の内質を評価する点であり、予め定められた基準に則って、第1の特徴量及び第2の特徴量に応じて与えられる。原則的には、厚みの大きい偏析粒の個数が多いほど、また、面積の大きい偏析粒が多いほど、評点は悪くなる方向になる。図4に、ある鋳片の切断面における第1の特徴量及び第2の特徴量に対して評点が与えられている状態を示す。図4の例では、面積が0~1の範囲に1620個、面積が1~5の範囲に278個、・・・厚みが0~3の範囲に40個、厚みが3~3.5の範囲に60個、・・・のように偏析粒が分布している。評点を求めるための評価モデルは、第1の特徴量及び第2の特徴量と評点との組み合わせの実績値に基づいて学習を行うことにより構築されている。なお、機械学習による評価モデルには、例えば線形重回帰、サポートベクターマシン、ランダムフォレスト、又はニューラルネットワークを用いればよい。
【0016】
評価部104は、評価モデル保持部103が保持する評価モデルを用いて、特徴量抽出部102で抽出した、対象鋳片の切断面における第1の特徴量及び第2の特徴量に基づいて、対象鋳片の評点を求める。
【0017】
出力部105は、特徴量抽出部102で抽出した、対象鋳片の切断面における第1の特徴量及び第2の特徴量や、評価部104で求めた対象鋳片の評点を出力する。例えば出力部105は、対象鋳片の切断面における第1の特徴量及び第2の特徴量や、評点を不図示の表示装置に表示する。オペレータは、表示装置に表示される評価モデルによる評点を見て、予め定められた基準に則って評点の適否を確認し、評点を適宜修正することができる。なお、対象鋳片の切断面における第1の特徴量及び第2の特徴量と評点(オペレータによる確認済みのもの)との組み合わせは、後述するデータベース504に実績値として蓄積される。
【0018】
以上述べように、偏析粒の厚みの度数分布、更には偏析粒の面積の度数分布に基づいて、鋳片の中心偏析を適正に評価することができる。
また、機械学習技術の適用により、過去実績とフィッティングした評価モデルを構築することができ、定期的な再学習による精度の担保が可能である。
【0019】
図5に、実施形態に係る評価モデルの学習装置500の機能構成を示す。
評価モデルの学習装置500は、定期的(例えば毎月)に、鋳片の中心偏析評価装置100の評価モデル保持部103が保持する評価モデルの学習を行う。
データベース504には、オペレータによる評価済みの実績値、すなわち鋳片の切断面における第1の特徴量及び第2の特徴量と評点との組み合わせの実績値が蓄積される。
【0020】
入力部501は、データベース504から、前回の学習以降に蓄積された実績値(鋳片の切断面における第1の特徴量及び第2の特徴量と評点との組み合わせの実績値)を入力する。
学習部502は、入力部501で入力した実績値に基づいて、評価モデル保持部103が保持する評価モデルの学習を行う。
更新部503は、評価モデル保持部103が保持する評価モデルを、学習部502で再学習した評価モデルに更新する。
このように、数学の専門知識を持つ者がいなくても、運用後の実データを用いた評価モデルの校正、調整が容易である。
【0021】
以上のようにした鋳片の中心偏析評価装置100や評価モデルの学習装置500は、例えばCPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータ装置により構成され、CPUが所定のプログラムを実行することにより、その機能が実現される。
以上、本発明を実施形態と共に説明したが、上記実施形態は本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
本発明は、本発明の鋳片の中心偏析評価機能や評価モデルの学習機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータがプログラムを読み出して実行することによっても実現可能である。
【符号の説明】
【0022】
100:鋳片の中心偏析評価装置
101:入力部
102:特徴量抽出部
103:評価モデル保持部
104:評価部
105:出力部
500:評価モデルの学習装置
501:入力部
502:学習部
503:更新部
504:データベース
図1
図2
図3
図4
図5