(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/183 20060101AFI20230214BHJP
B62D 1/19 20060101ALI20230214BHJP
B60R 16/02 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
B62D1/183
B62D1/19
B60R16/02 630K
(21)【出願番号】P 2019074023
(22)【出願日】2019-04-09
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】野沢 康行
(72)【発明者】
【氏名】越智 教博
(72)【発明者】
【氏名】時岡 良一
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 健
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-118591(JP,A)
【文献】特開昭61-67661(JP,A)
【文献】特開2014-31159(JP,A)
【文献】特開2006-218883(JP,A)
【文献】特開2005-53475(JP,A)
【文献】実開昭59-109564(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2017/0113712(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 16/00-17/02
B62D 1/00- 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵に用いられるステアリング装置であって、
操作部材が回転可能に取り付けられ、前記車両の前側と運転者側との間で出退する可動体と、
前記可動体を吊り下げ状態で保持し出退方向に案内する案内部材と、
前記可動体に取り付けられるスイッチレバーと、
操作部材が進出状態の際に二次衝突の衝撃を吸収する衝撃吸収機構とを備え、
前記スイッチレバーは、
前記可動体の前記案内部材より下側の部分に取り付けられ、前記車両の幅方向において前記案内部材を越える位置まで延在する第一棒体と、
前記第一棒体の先端部から前記案内部材の側方にまで上方に突出する第二棒体とを備える
ステアリング装置。
【請求項2】
前記スイッチレバーは、
前記第二棒体の先端部から前記車両の幅方向の外側に向かって突出する第三棒体をさらに備える
請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記スイッチレバーは、前記車両の幅方向において前記可動体の両側に取り付けられる
請求項1または2に記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記可動体を前記出退方向に案内し、自身も前記案内部材に案内されて前記出退方向に往復動する中間部材
を備える請求項1から3のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項5】
前記中間部材は、
前記出退方向に延在する一対の中間レールと、前記中間レールにそれぞれ案内される中間ブロックとを備え、
前記案内部材は、
前記出退方向に延在する一対の基礎レールと、前記基礎レールにそれぞれ案内され、前記中間レールが取り付けられる基礎ブロックとを備え、
前記中間レールと前記基礎レールは一対の前記中間レールを含む直方体の最小領域と一対の前記基礎レールを含む直方体の最小領域との少なくとも一部が重なるように配置される
請求項4に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングホイール等の操作部材が運転者に対して出退するステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の自動運転においてシステムが全責任をもつ自動運転レベル3以上の状態では、運転者はステアリングホイールを持つ必要がなくなる。この場合、自動運転時にステアリングホイールを車両の前方側に退かせることにより運転者の前方の空間を広く確保すれば運転者の快適性を高めることが出来る。特許文献1には、ステアリングホイールの前方側に配置されるワイパーの操作、ライトの操作などに用いられるスイッチレバーを折り曲げて、ステアリングホイールと共に退避場所に移動させ、運転者の前方の空間を広く確保する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、ステアリングホイールの退避前にスイッチレバーを折りたたむ場合、二次衝突時に急にステアリングホイールが退避方向に移動すると、スイッチレバーの折りたたみが間に合わず、スイッチレバーが車体と干渉して所望のプロファイルで衝撃を吸収することが困難となる。
【0005】
また、ステアリングホイールの退避中において、スイッチレバーが折りたたまれているため、スイッチ操作を行うことができないという問題があった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、スイッチレバーを折りたたむことなくステアリングホイールなどの操作部材と共に退避させることができ、二次衝突時においてもスイッチレバーが衝撃吸収に悪影響を及ぼさないステアリング装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の1つであるステアリング装置は、車両の操舵に用いられるステアリング装置であって、操作部材が回転可能に取り付けられ、前記車両の前側と運転者側との間で出退する可動体と、前記可動体を吊り下げ状態で保持し、出退方向に案内する案内部材と、前記可動体に取り付けられるスイッチレバーと、操作部材が進出状態の際に二次衝突の衝撃を吸収する衝撃吸収機構とを備え、前記スイッチレバーは、前記可動体の前記案内部材より下側の部分に取り付けられ、前記車両の幅方向において前記案内部材を越える位置まで延在する第一棒体と、前記第一棒体の先端部から前記案内部材の側方にまで上方に突出する第二棒体とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スイッチレバーを折りたたむ複雑な機構を備えることなく、簡単かつ迅速にスイッチレバーを操作部材とともに出退させることができる。また、操作部材が進出状態の際に二次衝突が発生した場合でもスイッチレバーが衝撃吸収に悪影響を及ぼすことがない。また、操作部材が出退している間においてもスイッチ操作が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施の形態に係るステアリング装置を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、実施の形態に係るステアリング装置のスイッチレバー近傍を示す上面図である。
【
図3】
図3は、実施の形態に係るステアリング装置のスイッチレバー近傍を示す側面図である。
【
図4】
図4は、実施の形態に係るステアリング装置を操作部材を省略して示す正面図である。
【
図5】
図5は、実施の形態に係るステアリング装置と車体ビームとの配置関係を示す断面図である。
【
図6】
図6は、実施の形態に係る突出状態の操作部材をダッシュボード内に収容する際のステアリング装置の動作の流れを示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、スイッチレバーの別態様を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明に係るステアリング装置の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0011】
また、図面は、本発明を示すために適宜強調や省略、比率の調整を行った模式的な図となっており、実際の形状や位置関係、比率とは異なる場合がある。
【0012】
図1は、実施の形態に係るステアリング装置を示す斜視図である。
図2は、実施の形態に係るステアリング装置のスイッチレバー近傍を示す上面図である。
図3は、実施の形態に係るステアリング装置のスイッチレバー近傍を示す側面図である。
図4は、実施の形態に係るステアリング装置を操作部材を省略して示す正面図である。ステアリング装置100は、手動運転と自動運転とを切り替えることができる自動車、バス、トラック、建設機械、農業機械などの車両に取り付けられる装置であり、操作部材110が取り付けられる可動体123と、案内部材125と、スイッチレバー101と、衝撃吸収機構102とを備えている。本実施の形態の場合、ステアリング装置100は、第一出退機構121と、第二出退機構122と、折りたたみ機構130と、反力発生装置140とをさらに備えている。ステアリング装置100は、いわゆるステアバイワイヤと言われるシステムに組み込まれる装置であり、操作部材110とタイヤとは機械的に接続されておらず、操作部材110の操舵角を示す情報を出力することによりモータによりタイヤを旋回させて転舵する。
【0013】
操作部材110は、手動運転時において運転者に操作されることにより車輪の角度(転舵角)を指示するための部材であり、接続部114を介して可動体123に取り付けられている。本実施の形態の場合、操作部材110として、ステアリングホイールが採用されているが、操作部材110としては、特にステアリングホイールに限定されるわけではなく、運転者の操作により車両の進行方向を変更できるものであれば、スティック状、パッド状など任意の構造物を採用することができる。
【0014】
接続部114は、操作部材110と折りたたみ機構130とを接続し、操作部材110の回転中心が操舵軸上に位置する様に保持する部材である。なお、接続部114は、図面等に記載された形状、配置、姿勢などに限定されるものでは無く、任意に設定することが可能である。
【0015】
可動体123は、操作部材110が操舵軸周りに回転可能に取り付けられ、ステアリング装置100が取り付けられる車両の前側と運転者側(後側)との間で出退する構造体である。本実施の形態の場合、可動体123は、反力発生装置140と操作部材110とを連結する可動シャフト180(
図4参照)を備えている。可動シャフト180は、管状の部材であり、管軸が出退方向129に沿うように配置され、一対の中間レール171を含む直方体の最小領域と少なくとも一部が重なるように配置されている。さらに、可動シャフト180は、一対の基礎レール181を含む直方体の最小領域とも一部が重なるように配置されている。また、可動シャフト180は、
図5に示すように、減速機142を介して反力モータ141と接続されており、反力モータ141の回転軸は、一対の中間レール171を含む最小領域とは交差しない位置に配置されている。このように、可動シャフト180、反力モータ141を配置することにより、ステアリング装置100を薄型化することが可能となり、ステアリング装置100を車体内に配置する場合の自由度を向上させることが可能となる。
【0016】
本実施の形態の場合、可動体123は、チルト機構190を介して、中間部材124の中間ブロック172に接続されている。チルト機構190は、モータや機械要素を組み合わせることにより構成されており、入力された信号に基づき操作部材110が上下方向に移動するように、可動体123の全体を中間部材124に対して傾動させる。これにより、チルト機構190が備えるモータや減速機を小型化することができ、ステアリング装置100の内側にチルト機構190を収容してステアリング装置100全体の小型化を図ることができる。また、ステアリング装置100全体を傾動させる場合に比べてステアリング装置100の剛性を高めることが可能となる。また、進出状態のステアリング装置100において、ダッシュボードなどから突出する可動体123のみ傾動させるため、傾動範囲を大きくすることが可能となる。また、ステアリング装置100を後退させる際に可動体123と車体などとが干渉する位置においては可動体123を傾動させて干渉を回避することができる。
【0017】
中間部材124は、可動体123を出退方向129に案内し、自身も案内部材125に案内されて出退方向129に往復動する構造体である。中間部材124は、案内部材125の運転者側端部に達した場合、案内部材125よりも運転者側に突出するものとなっている。これにより、可動体123を案内部材125の長さ以上に出退させることができる。本実施の形態の場合、中間部材124は、一対の中間レール171と、一対の中間ブロック172と、中間フレーム173とを備えている。
【0018】
中間レール171は、出退方向129に延在する棒状の部材である。中間レール171の形状は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、断面矩形の棒状であり、対向する両側面にはそれぞれ、中間ブロック172が備える球体と係合する長手方向に延在する溝を備えている。一対の中間レール171は、幅方向(図中Y軸方向)において可動体123の両側にそれぞれ配置されている。なお本実施の形態の場合、中間レール171は、同形状の部材が面対称に配置されているが、異なる形状の中間レール171が配置されてもよい。
【0019】
中間ブロック172は、中間レール171の側方において中間レール171にそれぞれ案内される部材である。中間ブロック172の形状、構造は特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、中間ブロック172は、中間レール171が備える溝と中間ブロック172の本体との間で転がる複数の球体を備えている。中間ブロック172は、球体が中間レール171と当接して転がりながら移動する経路である当接部と、中間ブロック172の移動によって当接部から排出された球体を再び当接部に戻す経路である循環部とを備えている。中間ブロック172は、一対の中間レール171にそれぞれ対向する様に取り付けられている。一対の中間ブロック172の対向する面には、可動体123が備える可動フレーム120が架橋状に取り付けられている。
【0020】
なお本実施の形態の場合、中間部材124は、中間レール171と中間ブロック172とにより球体が循環するいわゆるリニアガイドを備えているが、中間部材124が備える直動機構はこれに限定されるものではない。例えば中間部材124は、球体が中間ブロック172に回転可能に固定されているボールスライド構造でもよく、球体を備えず中間ブロック172と中間レール171とが面接触して摺動するスライド構造などでもよい。
【0021】
中間フレーム173は、後述の案内部材125が備える一対の基礎ブロック182に架橋状に取り付けられ、一対の中間レール171を出退方向129に延在するように保持する部材である。
【0022】
案内部材125は、車両に取り付けられ、可動体123を中間部材124を介して吊り下げ状態で保持し出退方向129に案内する構造体である。案内部材125の形状や構造は特に限定されるものでは無いが、本実施の形態の場合、案内部材125は、一対の基礎レール181と、一対の基礎ブロック182と、基礎フレーム183とを備えている。
【0023】
基礎レール181は、出退方向129に延在する棒状の部材である。基礎レール181の形状は、特に限定されるものではないが、本実施の形態2の場合、中間レール171と同じ断面形状であり、中間レール171よりも長い。一対の基礎レール181は、幅方向(図中Y軸方向)において一対の中間レール171の外側にそれぞれ配置されている。基礎レール181は、
図4に示すように、一対の基礎レール181を含む仮想的な直方体の最小領域内に一対の中間レール171を含む最小領域の一部が含まれるように配置されている。このように基礎レール181、および中間レール171を配置することにより、基礎レール181が配置される領域、および中間レール171が出退する領域を全体として薄型にすることができ、折りたたまれて中間レール171の下方に配置される操作部材110のスペースなどを容易に確保することが可能となる。
【0024】
基礎ブロック182は、基礎レール181の側方において基礎レール181にそれぞれ案内される部材である。基礎ブロック182の形状、構造は特に限定されるものではないが本実施の形態の場合、基礎ブロック182は、中間ブロック172と同じものが用いられている。基礎ブロック182は、一対の基礎レール181にそれぞれ対向する様に取り付けられている。一対の基礎ブロック182の対向する面には、中間フレーム173が架橋状に取り付けられ、中間フレーム173を介して中間レール171が取り付けられている。
【0025】
基礎フレーム183は、車体に取り付けられ、一対の基礎レール181を出退方向129に延在するように保持する部材である。本実施の形態の場合、基礎フレーム183は、基礎レール181を保持するレール保持部184と、レール保持部184を介して一対の基礎レール181を連結する基礎梁部185を備えている。基礎梁部185は、レール保持部184を含む直方体の最小領域よりも基礎レール181の配置されている側と反対側に突出した状態で配置されている。基礎梁部185は、ステアリング装置100が車体に取り付けられた状態において、
図5に示すように、車体の一部であり左右方向に延在する車体ビーム200と出退方向129から見た際に少なくとも一部が重なるように配置される。これにより、中間フレーム173や可動シャフト180が出退方向129に移動する際、中間フレーム173や可動シャフト180の基礎梁部185との干渉なく、基礎フレーム183をできる限り上方に配置できる。そのため、チルト機構190の支点を上方に配置することが可能となる。また、減速機142等の周辺部材を配置する場合の自由度を向上させることが可能となる。また、車体ビーム200に突出箇所があった場合でも、突出箇所との干渉を回避しつつ基礎フレーム183をできる限り上方に配置することができ、操作部材110の収容スペースや、通過領域と運転者の足との間隔をできる限り広くすることが可能となる。
【0026】
スイッチレバー101は、ワイパーの操作、ライトの操作、および方向指示器の操作の少なくとも1つを行うためのスイッチが先端部分に取り付けられた棒状の部材であり、可動体123に取り付けられている。スイッチレバー101は、第一棒体191と、第二棒体192とを備えている。本実施の形態の場合、スイッチレバー101は、第三棒体193をさらに備えている。
【0027】
第一棒体191は、内部にスイッチ用の電線が配線された筒状の部材であり、可動体123の案内部材125より下側の部分に取り付けられ、車両の幅方向(図中Y軸方向)において案内部材125を越える位置まで延在している。本実施の形態の場合、第一棒体191は、スイッチ筐体194を介して可動フレーム120に取り付けられており、一対の基礎レール181を含む仮想的な平面と平行で中間ブロック172よりも下方に位置する平面内に配置されている。第一棒体191は、運転者が容易に操作できるようにスイッチ筐体194から車両の幅方向に遠ざかるに従い操作部材110に漸次近づくように配置されている。スイッチ筐体194にはスイッチ用の制御基板などが収容されている。
【0028】
第二棒体192は、内部にスイッチ用の電線が配線された筒状の部材であり、第一棒体191の先端部から案内部材125の側方に至るまで上方に突出している。本実施の形態の場合、第一棒体191と第二棒体192とは一体である。第二棒体192は、運転者が操作部材110を把持している位置にスイッチをできる限り近づくように配置されている。
【0029】
第三棒体193は、内部にスイッチ用の電線が配線された筒状の部材であり、第二棒体192の先端部から車両の幅方向(図中Y軸方向)の外側に向かって突出する。本実施の形態の場合、第三棒体193は、第一棒体191と同じ方向に突出している。第三棒体193には、単数、または複数の回転スイッチ、押しボタンスイッチ(不図示)などが取り付けられている。
【0030】
スイッチレバー101は、第三棒体193が上下、および前後の少なくとも一方の方向に移動できる様にスイッチ筐体194に対し傾動可能に取り付けられている。また、スイッチレバー101は、車両の幅方向において可動体123に含まれるスイッチ筐体194の両側に取り付けられている。スイッチレバー101の第三棒体193に取り付けられた回転スイッチなどを運転者が操作し、またスイッチレバー101全体を運転者が傾動させることにより、ワイパーの動作の調整、ライトの調整、方向指示器の操作などを実行できる。
【0031】
衝撃吸収機構102は、車両が何らかの物体に衝突した際に、運転者が進出した状態の操作部材110に衝突する二次衝突の衝撃を吸収する構造体である。衝撃吸収機構102の衝撃吸収方法は特に限定されるものではなく、動摩擦力を利用する方法、塑性変形を利用する方法、弾性変形を利用する方法、破断を利用する方法などを例示できる。本実施の形態の場合、衝撃吸収機構102は、第二出退機構122と中間ブロック172との間に介在配置されている。通常時において第二出退機構122を動作させると、衝撃吸収機構102を介して中間ブロック172が中間レール171に沿って移動し、可動体123を出退させることができる。この場合、衝撃吸収機構102は変形せず、衝撃吸収動作は発生していない。二次衝突が発生すると、操作部材110に発生した衝撃は中間ブロック172に伝えられる。この場合、衝撃吸収機構102は衝撃を熱エネルギーに変換しながら変形し、衝撃を吸収する。
【0032】
第一出退機構121は、案内部材125に対し中間部材124を往復動させる機構であり、出退駆動源126を備えている。第一出退機構121の構造は特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、第一出退機構121としては、第一ネジ軸161、および第一ナット163が相対的に直動するボールネジが採用されている。また、第一出退機構121は、出退駆動源126の駆動力が伝達される駆動力伝達機構166が採用されている。
【0033】
第一ネジ軸161は、外周面に螺旋状の溝が設けられた軸体であり、出退方向129に延在し、案内部材125に対し、出退方向129、および出退方向129を軸として回転する回転方向のいずれにも動かないように固定されている。
【0034】
第一ナット163は、刺し通された第一ネジ軸161の周面に設けられた螺旋状の溝とボールを介して係合する部材であり、中間部材124の端面に対し、出退方向129には固定され、出退方向129を軸として回転する回転方向には回転するように取り付けられている。
【0035】
第一ナット163は、出退駆動源126により駆動力伝達機構166を介して回転駆動力が付与される。第一ナット163が正回転、または逆回転することにより出退方向129に延在する第一ネジ軸161に対して中間部材124を往復動させることができるものとなっている。
【0036】
駆動力伝達機構166は、特に限定されるものではなく、第一ナット163に回転駆動力を付与する機構であればよい。駆動力伝達機構166は、例えば、ベルトドライブ、歯車の組み合わせなどを例示することができる。本実施の形態の場合は、歯車の組み合わせが採用されている。出退駆動源126は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合は、電動モータが用いられており、中間部材124と共に可動体123も出退方向129に駆動させる力を発生させている。
【0037】
第二出退機構122は、出退駆動源126の駆動力を用い、中間部材124の往復動に連動して可動体123を往復動させる機構である。第二出退機構122の構造は特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、第二出退機構122は、第二ネジ軸162、および第二ナット164が相対的に直動するボールネジが採用されている。
【0038】
第二ネジ軸162は、第一ネジ軸161と同様、外周面に螺旋状の溝が設けられた軸体である。また、第二ネジ軸162は、出退方向129に延在し、中間部材124に対し、出退方向129には固定されているが、出退方向129を軸として回転するように中間部材124に取り付けられている。
【0039】
第二ナット164は、刺し通された第二ネジ軸162の溝とボールを介して係合する部材であり、衝撃吸収機構102の側面に固定されている。以上により、第二出退機構122は、中間部材124に回転可能に取り付けられた第二ネジ軸162を回転させることにより、第二ネジ軸162に刺し通された第二ナット164が出退方向129に往復動可能となっており、第二ナット164に伴い衝撃吸収機構102を介して可動体123が中間部材124に対して往復動する。
【0040】
また、第二ネジ軸162は、出退駆動源126により駆動力伝達機構166を介して第一ナット163と共に回転駆動力が付与されている。つまり、第二ネジ軸162と第一ナット163とは連動している。
【0041】
以上のように本実施の形態の場合、第一出退機構121、および第二出退機構122は、共にボールネジが採用されている。これにより出退駆動源126により操作部材110をスムーズに出退させることができるばかりでなく、手動により操作部材110を出退させることも可能である。
【0042】
折りたたみ機構130は、可動体123に取り付けられ、出退方向129と交差する軸である折りたたみ軸(図中Y軸方向)周りに操作部材110を回転させ、可動体123に対して操作部材110を折りたたむ機構である。
【0043】
折りたたみ機構130は、折りたたみ軸(図中Y軸方向)周りにおいて、操作部材110の下部が車両の前側に向くように、操作部材110の全体を可動体123に対して回転させる。
【0044】
反力発生装置140は、操作部材110を運転者が回して操舵する際に、運転者の操舵に応じたトルクを操作部材110に付与する装置である。この反力発生装置140は、例えば、タイヤと操作部材とが機械的に接続されていた従来の車両において運転者が操舵に必要な力の感覚などを再現する装置である。
【0045】
次に、車両に取り付けられたステアリング装置100の動作について説明する。
図6は、突出状態の操作部材をダッシュボード内に収容する際のステアリング装置の動作の流れを示すフローチャートである。
【0046】
手動運転から自動運転に変更されたことを示す情報をステアリング装置100が受信すると、運転者に向かって突出状態の操作部材110は、設定位置にまで戻される(S101)。設定位置は、限定されるものではないが、本実施の形態の場合は、手動運転時に車両を直進させる際の操作部材110の姿勢、いわゆるセンター位置である。また、操作部材110を設定位置に戻す回転移動は、反力発生装置140により行う。また、設定位置において操作部材110をロック機構等によりロックしてもよい。
【0047】
次に、出退駆動源126を動作させて中間部材124、および可動体123を連動して動作させ、操作部材110の後退を開始する(S102)。
【0048】
次に、折りたたみ機構130を動作させて操作部材110を出退方向129と交差する軸で回転させ、可動体123に対し操作部材110の折りたたみを開始する(S103)。
【0049】
ここで、操作部材110を設定位置に戻すタイミングと、操作部材110の後退開始タイミングと、操作部材110の折りたたみ開始タイミングは、上記の順番に限定されず、順序が入れ替わっても、または少なくとも2つのタイミングが同時でもかまわない。また、後退と折りたたみは同じ期間内に実行してもよく、また操作部材110の折りたたみ完了後に後退を開始してもかまわない。なお、操作部材110の後退を先に開始すると、折りたたまれている途中の操作部材110の上連結部113が運転者と干渉する可能性を低減させることが可能となる。
【0050】
次に、折りたたみ機構130は、操作部材110が、ダッシュボードに挿入される前に操作部材110の折りたたみを完了させる(S104)。操作部材110の折りたたみ角度は特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、折りたたみ機構130は、操作部材110を含む面が出退方向129に平行、または略平行になるまで操作部材110を回転させて折りたたむ。このように、操作部材110を折りたたむことにより、出退方向129においてダッシュボードに対する操作部材110の投影面積を小さくすることができ、操作部材110をダッシュボード内に収容する際に操作部材110が通過する開口部の面積を抑制することができる。従って、ダッシュボードの構造的強度の低下を抑制しつつダッシュボードの美観を向上させることが可能となる。
【0051】
次に、中間部材124、および可動体123をさらに後退させ、折りたたみが完了した操作部材110を反力発生装置140、および折りたたみ機構130と共にダッシュボードの開口部に通過させる(S105)。この段階においても、中間部材124、および案内部材125とスイッチレバー101とは干渉することがない。
【0052】
最後に、操作部材110が完全にダッシュボード内に収容されれば、ステアリング装置100の後退動作を停止し、操作部材110の収納を完了する(S106)。
【0053】
一方、収容状態の操作部材110をダッシュボード内から進出させる際のステアリング装置の動作の流れは、上記流れと逆に行われる。ここで、操作部材110を進出させている間、または進出完了時において、自動運転によって転舵されている転舵角をステアリング装置100が取得し、転舵角に応じた操舵角を決定する。そして、操舵角に対応した操作部材110の回転角になるように、反力発生装置140が操作部材110を操舵軸周りに回転させてもかまわない。これによれば、運転者に違和感を与えることなく、自動運転から手動運転にスムーズに移行させることが可能となる。
【0054】
以上の実施の形態のように、ステアリング装置100は、案内部材125との干渉を回避するように屈曲したスイッチレバー101を備えているため、スイッチレバー101を折り曲げる複雑な動作をすることなくスムーズに操作部材110を車両の前方に向かって後退させることができる。従って、二次衝突が発生した場合においてもスイッチレバー101が案内部材125と干渉することなく操作部材110が後退するため、所望の衝撃吸収プロファイルが実現される。また、進出状態の操作部材110を運転者が操作している際には、ワイパーの操作、ライトの操作、および方向指示器の操作等を手元で行う事ができ、利便性を向上させることが可能となる。
【0055】
また、本実施の形態のように、中間部材124を備えることにより、出退方向129において案内部材125の長さを短くしても操作部材110のストロークを十分確保することが可能となる。また、
図4に示すようにステアリング装置100を縮ませた状態では、出退方向129において、中間部材124、可動体123、操作部材110、折りたたみ機構130、および反力発生装置140が案内部材125内に収まっている。従って、ダッシュボード内の空間が狭い場合でも、ステアリング装置100を配置することができ、ダッシュボードの設計の自由度を向上させることが可能となる。
【0056】
また、可動体123と中間部材124とが連動して出退するため、操作部材110を進出させる期間、後退させる期間の短縮化を図ることが可能となる。
【0057】
また、中間レール171、および基礎レール181を仮想的な一平面と重なるように配置することで、ステアリング装置100全体を薄型化することが可能となる。従って、運転者が手動運転時に操作する操作部材110をダッシュボード内に収容できる程度の長いストローク(ロングスライド)を確保しながら、車体ビーム200と運転者の膝や足との間の狭い空間にステアリング装置100を高い自由度で配置することが可能となる。さらに、操作部材110をダッシュボードの内側に収容した状態において、運転者の足下に広い空間を確保することが可能となる。
【0058】
また、基礎レール181を最も長くすることにより、ステアリング装置100の長いストローク(ロングスライド)を確保しながら、剛性を高めることができ、操作部材110を運転者が操作する際の安定性や、可動体123を出退させる際の安定性を確保することが可能となる。
【0059】
なお、本発明は、上記実施の形態、2に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本発明の主旨、すなわち、請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本発明に含まれる。
【0060】
例えば、可動体123は、中間部材124を介して案内部材125に案内され、出退する場合を説明したが、中間部材124を備えず可動体123が直接的に案内部材125に案内されても構わない。また、ステアリング装置100は、3段階以上で伸縮する装置であってもかまわない。
【0061】
また、スイッチレバー101は、
図7に示すように第三棒体193を備えず、第一棒体191と第二棒体192を備えるものでもかまわない。
【0062】
また、折りたたみ機構130は、折りたたみ駆動源132を備えず、運転者の操作により回転する機構であってもよい。また、第一出退機構121、および第二出退機構122により操作部材110が後退する駆動力を利用して操作部材110を可動体123に対して回転させる機構であってもよい。
【0063】
また、第一出退機構121、および第二出退機構122は、一つの出退駆動源126に基づき同時に動作する場合を説明したが、第一出退機構121、および第二出退機構122は、別々に駆動源を備えても構わない。
【0064】
また、ステアリング装置100は、スイッチレバー101を1本のみ備えていても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、手動運転が可能であり、かつ自動運転が可能な自動車、バス、トラック、農機、建機など車輪、または無限軌道などを備えた車両などに利用可能である。
【符号の説明】
【0066】
100…ステアリング装置、101…スイッチレバー、102…衝撃吸収機構、110…操作部材、113…上連結部、114…接続部、120…可動フレーム、121…第一出退機構、122…第二出退機構、123…可動体、124…中間部材、125…案内部材、126…出退駆動源、129…出退方向、130…折りたたみ機構、132…駆動源、140…反力発生装置、141…反力モータ、142…減速機、161…第一ネジ軸、162…第二ネジ軸、163…第一ナット、164…第二ナット、166…駆動力伝達機構、171…中間レール、172…中間ブロック、173…中間フレーム、180…可動シャフト、181…基礎レール、182…基礎ブロック、183…基礎フレーム、184…レール保持部、185…基礎梁部、190…チルト機構、191…第一棒体、192…第二棒体、193…第三棒体、194…スイッチ筐体、200…車体ビーム