(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】塗装金属板
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20230214BHJP
【FI】
B32B15/08 G
(21)【出願番号】P 2019099342
(22)【出願日】2019-05-28
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】川本 浩輔
(72)【発明者】
【氏名】藤井 隆志
(72)【発明者】
【氏名】柴尾 史生
(72)【発明者】
【氏名】植田 浩平
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-215621(JP,A)
【文献】特開2002-307900(JP,A)
【文献】特開2007-160784(JP,A)
【文献】特開2005-231213(JP,A)
【文献】特開2003-062471(JP,A)
【文献】特開2016-093979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B05D 1/00-7/26
B41J 2/01
B41J 2/165-2/20
B41J 2/21-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の少なくとも一方の面の表面に複数のドットから構成されるドット状インク層を設けた塗装金属板であり、前記ドット状インク層の弾性率は1.0 GPa以上であり、前記ドット状インク層の膜厚は100 μm以下であり、かつドット径x及びドット間距離yが80 μm≦x≦500 μmかつ、y≦500 μmかつ、0.8x≦y≦(√2/2+0.2)xを、満た
し、前記ドットの95%以上が0.50以上の真円度を有することを特徴とする塗装金属板。
但し、ドット径xは各ドットの面積と等しい面積を持つ真円の直径であり、
ドット間距離yは隣接するドットの重心間距離である。
【請求項2】
前記ドット間距離yがy≦250 μmであることを特徴とする請求項1に記載の塗装金属板。
【請求項3】
前記金属板と前記ドット状インク層の間に少なくとも1層の樹脂層を有していることを特徴とする請求項1
または2に記載の塗装金属板。
【請求項4】
前記ドット状インク層と接する前記樹脂層の弾性率が前記ドット状インク層の弾性率よりも小さいことを特徴とする請求項
3に記載の塗装金属板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗装金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
意匠性を高めるために、インクジェット技術を用いた塗装金属板が開発、実用化されている。特に近年は環境配慮の観点から溶剤フリーである紫外線硬化型のインクの適用が検討されている。紫外線硬化型のインクを適用することで環境負荷物質の低減だけでなく、高速での製造や省スペースも可能となる。
一方で紫外線硬化型のインクは高硬度であることから、紫外線硬化型のインクを用いた塗装金属板は、加工時にインク層を起点とする亀裂が発生し易く、加工部の外観不良が発生しやすい。
【0003】
(従来技術)
紫外線硬化型インクを用いたインクジェット塗装に関する従来技術としては、インク組成物、或いは塗装の下地となるインク受理層用組成物、或いはその両方の組成物を制御することで、加工性と意匠性を向上させたインクジェットによる塗装金属板が提案されている。例えば特許文献1では、ベンゼン環を含まない脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマーを主材とし、官能基数や重量平均分子量を規定したインク組成物を用いることで加工性、密着性に優れる塗装金属板が提案されている。また特許文献2では、インキ受理層の凹凸を制御することで密着性に優れた塗装金属板が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2019-500467号公報
【文献】特開2014-166698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、紫外線硬化型インクを用いたインクジェット技術による塗装金属板において、より厳しい曲げ加工が要求される家電筐体や、建材に適用できるような、厳しい加工に耐え、かつ鋼板との密着性や意匠性を満足する塗装金属板は提案されていない。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、紫外線硬化型インク等を用いたインクジェット技術等による塗装金属板において、加工性と意匠性を満足する塗装金属板の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記目的を達成するために鋭意研究を行う中で、紫外線硬化型インクを用いたインクジェットによるインクのドット径を制御するとともに、インクのドット径とインクのドット間の距離を特定の条件とすることで、インクジェットによる塗装外観の意匠性を確保しつつ、加工性、密着性を確保できることを見出した。
【0008】
上記知見に基づき完成された発明の要旨は、以下の通りである。
(1) 金属板の少なくとも一方の面の表面に複数のドットから構成されるドット状インク層を設けた塗装金属板であり、前記ドット状インク層の弾性率は1.0 GPa以上であり、前記ドット状インク層の膜厚は100 μm以下であり、かつドット径x及びドット間距離yが80 μm≦x≦500 μmかつ、y≦500 μmかつ、0.8x≦y≦(√2/2+0.2)xを、満たし、前記ドットの95%以上が0.50以上の真円度を有することを特徴とする塗装金属板。
但し、ドット径xは各ドットの面積と等しい面積を持つ真円の直径であり、
ドット間距離yは隣接するドットの重心間距離である。
(2)前記ドット間距離yがy≦250 μmであることを特徴とする(1)に記載の塗装金属板。
(3)前記金属板と前記ドット状インク層の間に少なくとも1層の樹脂層を有していることを特徴とする(1)または(2)に記載の塗装金属板。
(4)前記ドット状インク層と接する前記樹脂層の弾性率が前記ドット状インク層の弾性率よりも小さいことを特徴とする(3)に記載の塗装金属板。
【発明の効果】
【0009】
以上発明したように本発明によれば、紫外線硬化型インクを用いたインクジェット技術に代表されるような硬質なドット状インク層を有する塗装金属板においても、厳しい加工を受けてもインク層の亀裂の発生を抑制することができ、加工性と意匠性を満足する塗装金属板の提供を可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明による一態様の構成を模式的に例示した図。
【
図2】本発明による一態様のドット径(x)とドット間距離(y)を模式的に説明した図。
【
図3】実施例、比較例で描画を試みた360×360ピクセルのパターン画像を示す図。
【
図4】実施例、比較例で作製したインク印刷塗装材の概略を模式的に示す図。
【
図5】実施例、比較例で試みた印刷画像の2値化処理後の輪郭判別基準の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
本発明の塗装金属板は、金属板と、金属板の少なくとも一方の表面上方に配置されたドット状のインク層とを有する。本発明の塗装金属板は、例えば、家電用外板、建材用サイディング等に好適に使用することが出来る。以下、本発明の塗装金属板の各構成要素について説明する。
【0013】
[金属板]
本発明の金属板は特に限定されない。適宜公知の金属板を使用することが可能であり、例えば、冷延鋼板、アルミニウム板、ステンレス鋼板、などや、これらの表面に金属めっき処理されたものなどを例示することができる。金属板の厚さは、必要とされる曲げ等の加工が実際的に可能なものであれば、特に限定されるものではなく、0.1~3.2 mmであってもよい。
【0014】
[インク層]
本発明の構成となるドット状インク層(「インク層」と称することがある)は、主に紫外線硬化型インクのような、インクから構成される複数のドットにより形成される硬質なインク層を対象とする。具体的には弾性率が1.0 GPa以上のインク層を対象とする。インク層は、弾性率が1.0 GPa以上であれば、紫外線硬化型インクにより形成されるものには限定されず、本発明の効果を得ることができる。インク層の弾性率は、原子間力顕微鏡を用いたナノインデーション法により、インク層の断面で観察される少なくとも10のドットの弾性率を測定し、それらの値を平均することによって求めることができる。
【0015】
本発明による一態様のインク層は、表面から観察するとインクがドット状に存在する(
図2)ものであり、断面方向から観察した際にインク層を構成するドットどうしが不連続であってもよい。インク層を構成するドットの径xは500μm以下、ドットの間隔yは500μm以下である。また、インク層の膜厚は、100μm以下である。
【0016】
本発明では、ドット径を”1つのドットの面積と等しい面積を持つ真円の直径”、ドット間距離を”隣接するドットの重心間距離”と定義する。ドット径をx、ドット間距離をyと表す。これらは、光学顕微鏡で、倍率500倍で、任意の10視野について5×5のドットについて各ドット径(x)とドット間距離(y)を求める。これらの解析については顕微鏡で観察された画像を、画像解析ソフトウェアImageJを用いて解析して求める。全測定値の平均値をドット径(x)とドット間距離(y)とする。
このとき、80 μm≦x≦500 μmかつ、y≦500 μmかつ、0.8x≦y≦(√2/2+0.2)xを満たすところで、加工性(加工を行ってもインク層の亀裂が発生しにくいこと)と、意匠性(塗装した印刷物の色濃度が適切な範囲であり鮮明に画像が認識できること)とを両立できる。なお、色濃度は、印刷物画像を画像解析により2値化処理し、画像を印刷した塗装部面積(印刷ドットと認識されるものの合計面積)を、未塗装部分も含めた印刷領域の面積で割ることで求められる。色濃度が低すぎる場合には画像の色が薄くなり視認が困難であり、色濃度が高すぎる場合には画像の色が濃くなり(インクつぶれ)視認が困難となる。色濃度が低すぎず高すぎない場合に、鮮明に画像を認識できる。xが80 μm 未満では、吐出インク量が少な過ぎるため、インクが狙い位置に着弾せず、塗装された意匠の品質が担保できない。また、xが500 μmを超えると、ドット状インク層が加工に耐えられず、ドットでのクラックの発生や、ドットの金属板からのはく離の虞がある。
一般的にドットにより形成された意匠(画像)が最も鮮明となるドット径、ドット間の距離は、正方形の各頂点にドットの重心があると仮定した場合、最も離れた2つの頂点に重心があるドット同士が接する場合である。これを本発明で規定するドット径xとドット間距離yで表すと、y=(√2/2)xとなる。この関係は、本発明で良好な加工性を得られることを見出したyの上限値(√2/2+0.2)xと近い値となっている。このためy≦(√2/2+0.2)xを満たすことで良好な意匠性の担保が可能となる。y>500 μmの場合、ドット間隔が大き過ぎて鮮明な画像にならない。また、人間が1 m離れた距離から印刷物を見た場合のドット間隔の視認限界は250 μmであるため、y≦250 μmであることが一層望ましい。
また、インク層は、複数のドットから構成されるものであり、インク層の膜厚は、上記と同様に光学顕微鏡および画像解析ソフトウェアを用いて解析して求める。測定値は、少なくとも10点以上の平均値とする。
【0017】
ドットの形状が大きく乱れていると、隣接するドット同士が複合し加工時に亀裂が入りやすくなる。そのため、本発明の効果が得られるのは、ドットの95%以上が0.50以上の真円度を有するような、ドット形状が適切に制御された場合である。
【0018】
インク層の塗装方法は特に限定されない。塗装方法は、例えばインクジェット印刷、シルクロール印刷、スクリーン印刷等が挙げられる。特に、版が不要でありオンデマンド印刷が可能である、インクジェット印刷が望ましい。
【0019】
インク層の種類は弾性率が1.0GPa以上であれば特に限定されない。例えば、活性光線硬化型インク、水系インク、溶剤系インク等がある。中でも、環境配慮の観点から、溶剤を含まない活性光線硬化型インクが望ましい。
【0020】
前記活性光線硬化型インクの種類は、活性光線を照射することにより硬化するものであれば特に限定されない。活性光線硬化型インクの例には、ラジカル重合型の紫外線硬化型インクおよびカチオン重合型の紫外線硬化型インク、電子線硬化型インクが含まれる。特に、ラジカル重合型の紫外線硬化型インクが望ましい。
【0021】
前記紫外線硬化型インクの組成物は、顔料、反応性モノマー、反応性オリゴマー、光重合開始剤を有してもよい。
【0022】
前記紫外線硬化型インクの顔料の種類は特に限定されない。有機顔料、無機顔料いずれも用いることが出来る。インクジェット印刷の場合、インクジェットノズル近傍で詰まりが発生しないような顔料粒子径にすることが望ましい。
【0023】
前記紫外線硬化型インクを構成する反応性モノマー、反応性オリゴマーは特に限定されない。
【0024】
前記紫外線硬化型インクに含まれる光重合開始剤は特に限定されない。
【0025】
[樹脂層]
本発明による一態様は前記金属板と前記ドット状インク層の間に少なくとも1層の樹脂層を有することができる。金属板とインク層との間に設けられた樹脂層が、ドット状インクを塗装する際のインク受理層として機能することで、加工性、密着性、意匠性の向上が可能となる。樹脂層は、弾性率がインク層より大きいと、曲げ等の加工時にインク層よりも先に樹脂層に亀裂が発生し、それに追従してインク層にも亀裂が入るため、本発明の効果が得られない。そのため、樹脂層は、弾性率がインク層より小さいことが好ましい。また、樹脂層は、インク受理性を有するものであると、塗装が容易となり好ましい。これらの特性を有するものであれば、特に限定されない。樹脂層のマトリックスとなる樹脂の種類は特に限定されない。樹脂の種類としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。加工性やコストの観点から、特にポリエステル樹脂が好ましい。
【0026】
樹脂層の弾性率は、インク層と同じように原子間力顕微鏡を用いたナノインデーション法により断面を測定することによって求めることができる。
【0027】
前記樹脂層のマトリックスとなるポリエステルの種類は、硬化剤であるメラミン樹脂、イソシアネートと架橋反応を起こすことが出来れば特に限定されない。ポリエステルの数平均分子量は、加工性の観点から3000以上であることが望ましい。ポリエステルのガラス転移点は、加工性の観点から70℃以下、硬度の観点から20℃以上であることが望ましい。特に好ましいのは、30~60℃である。
【0028】
前記樹脂層を構成するメラミン樹脂は、ポリエステルの架橋剤としての役割を果たす。メラミン樹脂は、メチル化メラミン、ブチル化メラミン、イミド基型メラミン等の公知のものを用いることが出来る。メラミン樹脂は、メチル化メラミン樹脂を単独で使用してもよいし、他のメラミン樹脂と併用してもよい。メラミン樹脂の配合は、金属接着性の観点からポリエステル:メラミン樹脂=70:30~80:20程度であることが望ましい。
【0029】
触媒は、メラミン樹脂の反応を促進させる。触媒の例には、ドデシルベンゼンスルホン酸等がある。
【0030】
アミンの例には、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、モノエタノールアミン等がある。
【0031】
樹脂層の膜厚は、特に限定されないが、10μm以上であることが望ましい。樹脂層が10μm未満であると、塗膜耐久性や隠蔽性が損なわれる可能性がある。特に限定されないが、10~40μmの範囲内が好ましい。膜厚が10μm未満の場合、樹脂層の耐久性および隠蔽性が不十分となるおそれがある。また、膜厚が40μm超の場合、製造コストが増大するとともに、焼付け時にワキが発生しやすくなるおそれがある。樹脂層の膜厚は、インク層と同じように断面を観察、測定することによって求めることができる。
【0032】
樹脂層は顔料を含んでいても良い、樹脂層が顔料を含む場合樹脂層中の顔料の濃度、粒径は、加工性や密着性、意匠性等必要な性能が確保可能であれば特に限定されない。
【0033】
前記樹脂層の塗装方法は特に限定されない。例えば、ロールコート法やカーテンフロー法、スプレー法等がある。塗料の乾燥条件は、特に限定されない。
【0034】
[オーバーコート]
前記インク層の上に、必要に応じてオーバーコート層を設けてもいい。
【0035】
オーバーコート層を形成するためのオーバーコート塗料の種類は、特に限定されない。オーバーコート塗料に用いられる樹脂成分は、特に限定されない。樹脂成分の例には、アクリル樹脂系、ポリエステル系、アルキド樹脂系、シリコーン変性アクリル樹脂系、シリコーン変性ポリエステル系、シリコーン樹脂系、フッ素樹脂系が含まれる。これらの樹脂成分は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
[化成処理皮膜]
金属板と樹脂層の間には、化成処理皮膜や下塗り塗膜等が形成されていても良い。
【0037】
化成処理皮膜(化性処理層)は、金属板の表面全体に形成されており、塗膜密着性及び耐食性を向上させる。化成処理皮膜を形成する化成処理の種類は、特に限定されない。化成処理の例には、クロメート処理、クロムフリー処理、リン酸塩処理が含まれる。化成処理皮膜の付着量は、塗膜密着性および耐食性の向上に有効な範囲内であれば特に限定されない。
【0038】
下塗り塗膜(プライマー層)は、基材または化成処理皮膜の表面に形成されており、塗膜密着性及び耐食性を向上させる。下塗り塗膜は、例えば樹脂を含む下塗り塗料を基材または化成処理皮膜の表面に塗布し、乾燥(または硬化)させることで形成される。下塗り塗料に含まれる樹脂の種類は、特に限定されない。樹脂の種類の例には、ポリエステル、アクリル樹脂などが含まれる。また、下塗り塗膜の膜厚は、上記の機能を発揮することができれば、特に限定されない。
【0039】
金属板の表面に化成処理皮膜を形成する場合、化成処理皮膜は、金属板の表面に化成処理液を塗布し、乾燥させることで形成される。化成処理液の塗布方法は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択すればよい。そのような塗布方法の例には、ロールコート法やカーテンフロー法、スピンコート法、スプレー法などが含まれる。化成処理液の乾燥条件は、化成処理液の組成などに応じて適宜設定すればよい。また、下塗り塗料の塗布方法は、化成処理液の塗布方法と同じ方法を使用できる。なお、化成処理被膜に下塗り塗膜をさらに形成する場合、下塗り塗膜は、化成処理皮膜の表面に下塗り塗料を塗布し、乾燥させることで形成される。
【実施例】
【0040】
金属板には片面の付着量が30g/m2の電気亜鉛めっき鋼板(EG)、JIS G 4305に準ずるステンレス板(SUS)、JIS G 3141に準ずる冷延鋼板(SP)、JIS H 4000に準ずるアルミ板(Al)を使用した。板厚は0.5 mmのものを用いた。
【0041】
インク層形成には、NanoPrinter-1100D(Microjet社製)を用いてインクジェット塗布を実施した。インクには、水系インクとしてSPC-0180 M(ミマキエンジニアリング社製)、溶剤系インクとしてSU100-M-60(ミマキエンジニアリング社製)、UV硬化型インクとしてEUVS-MG(ローランド社製)を使用した。インクの弾性率は1.0GPa以上のものを用いた。ヘッドにはIJHD-1000(Microjet社製)を用いた。NanoPrinter-1100Dの駆動条件は、電圧パルス幅を88 μs、電圧周波数を300 Hzに固定し、印加電圧を40 Vから80 Vの間で制御することでインク吐出速度が8.5 m s
-1となるよう調整した。ノズルヘッドと基材間の距離は2.0 mm、液滴量は20から500 plの範囲内で調整した。
図3に示す360×360ピクセルのパターン画像を印刷した。1つのピクセルの辺の長さが、表1、表2に示すドット径およびドット間距離と等しくなるようインクジェット装置を設定し、印刷した。
図4にインク印刷塗装材の概略図を示す。表1では、金属板上に直接インク層を設ける条件のものを挙げた。表2では、金属板とインク層との間に少なくとも1層の樹脂層を設ける条件のものを挙げた。
【0042】
表2では、化性処理層を有する条件も含めた。化成処理層には、CT-E300N(日本パーカライジング社製)を使用した。付着量は100 mg m-2として、PMT(素材最高到達温度)70℃で乾燥した後空冷することで形成した。
【0043】
表2では、プライマー層を有する条件も含めた。プライマー層は、ポリエステル樹脂を主成分とするPDN1(日本ペイントインダストリアルコーティングス社製)を膜厚5 μmとして、PMT210℃(到達まで50 秒)で焼き付けた後水冷して形成した。
【0044】
樹脂層には2種類の塗料を焼付けて作成した。ポリエステル樹脂系塗料としては、非晶質ポリエステル樹脂であるバイロン270(東洋紡社製)とシクロヘキサノン(富士フイルム和光純薬社製)を30:70の重量割合で混合、溶解させ、そこにメチル化メラミン樹脂であるサイメル303(オルネクスジャパン社製)を、ポリエステル樹脂の30mass%添加し、ドデシルベンゼンスルホン酸であるキャタリスト600(オルネクスジャパン社製)を、ポリエステル樹脂の0.4mass%、トリエチルアミンをポリエステル樹脂の0.5mass%添加し、防錆顔料であるK-WHITE Ca650(テイカ社製)をポリエステル樹脂の10mass%添加し、十分に撹拌した。
また、ポリウレタン系樹脂として、スーパーフレックス170(第一工業製薬社製)を使用した。膜厚はいずれも15 μmとして、PMT230℃(到達まで30 秒)で焼き付けた後水冷して形成した。
【0045】
表2では、オーバーコート層を有する条件も含めた。オーバーコート層には樹脂層として使用したポリエステル樹脂系塗料から、防錆顔料であるK-WHITE Ca650(テイカ社製)を添加しないものを使用した。具体的には、非晶質ポリエステル樹脂であるバイロン270(東洋紡社製)とシクロヘキサノン(富士フイルム和光純薬社製)を30:70の重量割合で混合、溶解させ、そこにメチル化メラミン樹脂であるサイメル303(オルネクスジャパン社製)を、ポリエステル樹脂の30mass%添加し、ドデシルベンゼンスルホン酸であるキャタリスト600(オルネクスジャパン社製)を、ポリエステル樹脂の0.4mass%、トリエチルアミンをポリエステル樹脂の0.5mass%添加し、十分に撹拌した。これを焼付け、膜厚はいずれも15 μmとして、PMT230℃(到達まで30 秒)で焼き付けた後水冷して形成した。
【0046】
インク層のドット径、及びドット間距離は光学顕微鏡ECLIPSE L150(NIKON社製)により測定した。倍率は500倍で測定し、印刷画像(
図3)のうち、異なる4つのパターン領域内のそれぞれのドットついて撮影した。撮影した画像を、画像解析ソフトウェアImageJを用いて解析し、ドットの面積、及び重心座標を求めた。そこから、同面積を持つ真円の直径、及び隣り合うドットの重心間距離を算出し、x、yとした。
【0047】
表1、2に記載の条件で作製した塗装金属板の亀裂評価のために、T曲げ試験を行った。T曲げ試験は、作製した塗装金属板を、インク印刷面が外側になるように10mmφのステンレス製の円柱棒に添って、インク印刷塗装材の中央部でUの字の形に曲げてから、雰囲気温度が20℃の下で、折り曲げ跡がC方向と水平になるように、180度折り曲げ、0, 1, 2, 3, 4T曲げ加工を行った。
【0048】
樹脂層及びインク層の弾性率は、原子間力顕微鏡SPI-3800(SII社製)を用いてナノインデーション法により断面を測定することによって求めた。カンチレバーには、Si製であり、曲率半径が2~5 nmであり、バネ定数35 N/mである、SI-DF40S(SII社製)を使用した。光てこ法によりDeflection電圧の変化を測定し、Deflection電圧とカンチレバーの反り量が比例関係にあることから、カンチレバーの反り量を求めた。カンチレバーにかかる力は、フックの法則よりカンチレバーの反り量に、ばね定数を掛けることにより求めた。カンチレバーにかかる力とプローブ先端半径から、弾性率を求めた。
【0049】
亀裂評価:インク印刷塗装材の曲げ頂点部を目から20cm離した位置で目視評価した。0Tで亀裂が認識されなかった場合を6点、1Tで亀裂が認識されなかった場合を5点、2Tで亀裂が認識されなかった場合を4点、3Tで亀裂が認識されなかった場合を3点、4Tで亀裂が認識されなかった場合を2点、4Tでも亀裂が認識された場合を1点とした。
【0050】
外観評価:インク印刷塗装材を、デジタル一眼レフカメラ(NIKON DX AF-S NIKKOR 18-55mm)を用いて、レンズと印刷物との距離を25cmとして撮影した後、画像解析ソフトウェアImageJを用いて解析した。色濃度に関しては、印刷物画像を2値化処理し、
図3の画像を印刷した塗装部面積を、未塗装部分も含めた正方形領域の面積で割ることで定義した。輪郭に関しては、撮影画像を閾値「128」で2値化処理し(
図5)、二値化後の撮影画像で元画像の濃度の異なる4つ領域の境界すべてが判別可能なものを”輪郭評価OK”、 撮影二値化後の撮影画像で元画像の濃度の異なる4つの領域の境界のうち一つでも判別不能なものは”輪郭評価OK”としない。インク印刷の色濃度が0.7を超えるもの、又は0.3を下回るものを1点、色濃度は0.3以上0.7以下で鮮明に画像が認識できた場合を2点、色濃度は0.3以上0.7以下であり、さらに4つの異なる領域間の輪郭が判別可能(輪郭評価OK)であった場合を3点とした。
【0051】
亀裂・外観両立域:亀裂評価が4点以上、外観評価が3点のものを、◎とした。亀裂評価が4点以上、外観評価が2点のものを、○とした。それ以外のものを×とした。◎または○であれば、加工性(加工を行ってもインク層の亀裂が発生しにくいこと)と、意匠性(塗装した印刷物の色濃度が適当な範囲であり鮮明に画像が認識できること)とを両立できるもの、と評価する。
【0052】
表1に金属板とインク層のみ形成した場合の結果を、表2に金属板表面に化成処理層、プライマー層、及び3種類の樹脂層を設け、その表面にインク層を形成した場合の結果を示す。
【0053】
【0054】