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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】改質土の製造方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20230214BHJP
   C09K 17/10 20060101ALI20230214BHJP
   C09K 17/02 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
E02D3/12
C09K17/10 P
C09K17/02 P
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019101509
(22)【出願日】2019-05-30
(65)【公開番号】P2020193542
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】杉村 裕二
(72)【発明者】
【氏名】植松 尚大
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-101830(JP,A)
【文献】特開2017-154950(JP,A)
【文献】特開2016-130403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
C09K 17/00-17/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質対象である改質対象土に固化作用を有する改質材を添加して、強度が改善された改質土を製造するにあたり、前記改質対象土に含まれて前記改質材の固化作用を阻害する固化阻害物質による固化阻害能力を消失するために補助材を添加する改質土の製造方法であって、
前記改質対象土について、前記固化阻害物質による固化阻害能力を把握するための下記改質対象土評価試験を行うと共に前記補助材について、前記改質対象土の固化阻害能力を消失させる固化阻害消失能力を把握するための下記補助材評価試験を行い、補助材の添加量を決定することを特徴とする、改質土の製造方法。
〔改質対象土評価試験〕
秤量した改質対象土に所定のpHを有するアルカリ溶液を添加して振とうする吸着処理試験を行い、吸着処理前後のpHから下記式(1)にて吸着アルカリ量を算出すると共に、下記式(2)にて添加アルカリ量を算出し、横軸を吸着アルカリ量とし、縦軸を添加アルカリ量としてこれらの関係をプロットしたグラフから、添加アルカリ量の増加に伴い吸着アルカリ量の増加が飽和する点を最大アルカリ吸着能として、これを固化阻害能力と定義する。
【数1】
〔補助材評価試験〕
純水と補助材とを所定の液固比の試験液にして、連続6時間の攪拌溶出試験により補助材からカルシムイオンを溶出させてpHが12になったら純水を交換し、6時間後のpHが12以下になるまで繰り返す試験を行い、下記式(3)より補助材の単位質量あたりのアルカリ溶出能を求めて、これを固化阻害消失能力と定義する。
【数2】
但し、式中の記号の意味は次のとおりである。
i:溶出操作回数(6時間後のpHが12以下になるまでの繰り返し回数)
pHi:i回目の溶出操作で、6時間後の溶液のpH
【請求項2】
前記改質材がセメントであり、前記補助材が製鋼スラグ又は高炉スラグである、請求項1記載の改質土の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、改質対象である改質対象土に固化作用を有する改質材を添加して、強度が改善された改質土を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、建築構造物や土木構造物基礎地盤、鉄道・道路盛土、護岸や擁壁の裏込めといった土構造物耐震強化等において、これらの強度を高めるために、各種土壌にセメント等を混合して強度を改善(改良)すること(改質土を製造すること)が広く行われている(例えば特許文献1、2参照)。
【0003】
このような地盤の改良にあたり、配合対象である対象土にセメントをより多く混合することで、強度をより高めることができるが、目標強度以上にセメントを添加すると、大幅なコスト高になってしまう。そのため、所定の強度を発現するのに必要なセメントの配合量を決める配合設計が極めて重要になる。
【0004】
ところが、我が国には泥炭、ローム、黒ボク等の高有機質土や火山灰細粒土が広く分布しており、これらを含んだ土壌が前述のような改質対象となる場合も多い。そして、このような土は腐植酸(フミン酸、フルボ酸等)やアロフェン等の非晶質含水珪酸アルミナ鉱物を多く含んでおり、これらは、セメントの水和により溶出するカルシウムイオンや生成する水酸化物イオンを吸着、沈殿するなどして固化作用を阻害する。そのため、先のようなセメントの配合設計を困難なものにしてしまう。
【0005】
そこで、改質対象である対象土中のフミン酸、フルボ酸、アロフェン等の固化阻害物質の含有量を測定して、改質土の配合設計を行う方法が提案されている(例えば特許文献3、4参照)。しかしながら、これらの方法のように、固化阻害物質の含有量を予め把握することができたとしても、対象土が改質されるにあたってセメントの固化作用を正確に予測するのは難しい。また、固化阻害物質ごとにその含有量を分析すること自体にも手間が掛かる。そのため、複数種類の配合をそれぞれ実施して、所定の強度が発現されることを確認しているのが実情であり、また、結果的に、セメントを必要以上に配合してしまうことにもなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-281407号公報
【文献】特許第3007905号
【文献】特開2014-218856号公報
【文献】特開2016-188524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況のもと、本発明者らは、改質対象である対象土にセメント等の改質材を添加して、強度が改善された改質土を製造するにあたり、改質材の添加量をできるだけ抑えながら、必要な強度を発現させて改質土を得ることができる方法について鋭意検討を行った。
【0008】
その結果、対象土が保有するフミン酸やフルボ酸、アロフェン、ビチューメン等の固化阻害物質による固化阻害能力を把握する事前試験を行った上で、この固化阻害能力を消失させる補助材を対象土に添加すると共に改質材を添加することで、固化阻害物質による固化阻害能力を消失させて(無効化して)、セメント等の改質材の固化作用を最大限活用することができるようになることを見出し、本発明に至った。
【0009】
したがって、本発明の目的は、セメント等の固化作用を有する改質材の添加量を必要最小限にしながら、その固化作用を最大限活用して、コストを抑えて効率良く改質土を得ることができる改質土の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)改質対象である改質対象土に固化作用を有する改質材を添加して、強度が改善された改質土を製造するにあたり、
前記改質対象土について、前記改質材の固化作用を阻害する固化阻害物質による固化阻害能力を把握するための改質対象土評価試験を行った上で、該固化阻害能力を消失させる補助材を前記改良対象土に添加すると共に、前記改質材を添加して改質土を得ることを特徴とする、改質土の製造方法。
(2)前記補助材について、前記改質対象土の固化阻害能力を消失させる固化阻害消失能力を把握するための補助材評価試験を行った上で、補助材の添加量を決定する、(1)に記載の改質土の製造方法。
(3)前記固化阻害能力がアルカリ吸着能であり、前記固化阻害消失能力がアルカリ溶出能である、(2)に記載の改質土の製造方法。
(4)前記改質材がセメントであり、前記補助材が製鋼スラグ又は高炉スラグである、(1)~(3)のいずれかに記載の改質土の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、セメント等の固化作用を有する改質材の添加量を必要最小限にしながら、その固化作用を最大限活用して、改質土を製造することができるようになる。
【0012】
特に、本発明では、フミン酸やフルボ酸、アロフェン等といった固化阻害物質による固化阻害作用を固化阻害能力としてまとめて把握することで、事前試験に要する手間を極力省くことができる。加えて、改質対象土が保有する固化阻害能力を封じる(消失させる)補助材と、固化作用を有する改質材とをそれぞれの役割に応じて使い分けることで、比較的高価なセメントの配合量を必要最小限にすることができ、トータルでのコストを抑えることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、セメント等の改質材から生じたカルシウムイオンを対象土が吸着する様子を模式図で示した説明図である。
図2図2は、実施例で得られた供試体の一軸圧縮強さについて、改質土の配合における『セメント/(対象土+製鋼スラグ)』と供試体の一軸圧縮強さとの関係をグラフにしたものである。
図3図3は、実施例で得られた供試体の一軸圧縮強さについて、改質土の配合における『セメント/改質土の体積1m』と供試体の一軸圧縮強さとの関係をグラフにしたものである。
図4図4は、補助材評価試験による製鋼スラグ溶出液の溶出操作回数とpHとの関係をグラフにしたものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明では、改質対象である改質対象土(以下、単に対象土とも言う)に対して、固化作用を有する改質材を添加して強度が改善された改質土を製造するにあたり、対象土について事前試験(改質対象土評価試験)を行い、改質材の固化作用を阻害する固化阻害物質による固化阻害能力を把握して、その固化阻害能力を消失させる補助材を対象土に添加すると共に、改質材を添加して改質土を得るようにする。
【0015】
先ず、対象土が保有する固化阻害物質とは、例えば、土壌に含まれるフミン酸、フルボ酸等の腐植酸やビチューメンをはじめ、アロフェンといった非晶質含水珪酸アルミナ鉱物等である。これらは、先に述べたように、セメント等の改質材の水和により生じたカルシウムイオンを吸着するなどして固化作用を阻害するものとして知られている。そして固化阻害物質を含有する土壌の具体例としては、例えば、後述の実施例で示す阿蘇黒ボク土や関東ローム等が挙げられる。
【0016】
これらの固化阻害物質による改質材の固化作用を阻害するメカニズムについて、参考文献1(朝倉宏、肴倉宏史、田中信壽、松藤敏彦:土壌によるアルカリ性溶液中和に関する研究、第7回衛生工学シンポジウム、1991)を参照すると図1のように示すことができる。
【0017】
固化阻害物質による改質材の固化作用を阻害するメカニズムは、i)陽イオン交換とii)土粒子表面の荷電発現にともなう中和が挙げられる。このうち、i)は、電気的に負に帯電する粘土粒子(永久電荷)に結合している交換性陽イオン(H+、Mg2+等)がセメントの混合時に間隙水中に溶出するCa2+と陽イオン交換し、H++OH-→H2O、Mg2++2OH-→Mg(OH)2の反応により、間隙溶液中のCa2+、OH-の減少が生じる。また、ii)は、周辺溶液のpHに依存する荷電発現として起こる現象であり(変異電荷)、例えば、アロフェン等の非晶質含水珪酸アルミナ鉱物や腐植酸のカルボキシル基など分子末端のOHからH+が乖離して、液相のOH-の中和と、OH-からH+が乖離した末端のO2-に陽イオンであるCa2+が結合する。このようなアルカリ吸着現象は、セメント等による改質における水和反応を阻害する現象と同様なメカニズムであると考えられる。
【0018】
このようなアルカリ吸着メカニズムに基づき、本発明では、対象土中の固化阻害物質による固化阻害能力について、改質対象土評価試験により予め把握するようにする。好ましくは、上述したメカニズムにて消費された間隙水中の水酸化物イオンOHに着目して、対象土の固化阻害能力をアルカリ吸着能として捉えて測定するのがよい。このアルカリ吸着能を測定する方法については特に制限されないが、好適には、後述する実施例で示すようなバッチによるアルカリ吸着試験法を用いるのがよい。
【0019】
一方で、対象土に添加する補助材については、対象土の固化阻害能力を消失させる固化阻害消失能力を有するものであればよい。ここで、上記のようなアルカリ吸着メカニズムに従えば、固化阻害消失能力とは、セメント等の改質材の場合と同様に、アルカリ成分(カルシウムイオン)を溶出することができるものである。すなわち、この補助材を利用して、対象土の固化阻害物質の固化阻害能力に蓋をして、固化阻害能力を無効化するといった考え方である。
【0020】
この補助材の固化阻害消失能力について、好ましくは、アルカリ溶出能であるのがよい。補助材のアルカリ溶出能を測定する方法は、特に制限されないが、好適には、アルカリ吸着能を測定する改質対象土評価試験の場合と同様、後述する実施例で示すようなアルカリ溶出試験であるのがよい。また、本発明により改質土を得るにあたり、好ましくは、補助材の事前試験として、固化阻害消失能力を把握するための補助材評価試験、すなわち、好ましくはアルカリ溶出試験を行って、固化阻害消失能力を把握した上で、補助材の添加量を決定するようにするのがよい。
【0021】
本発明にける改質材については、固化作用を有して改質対象である対象土の強度を改善することができるものであればよく、特に制限されないが、好ましくはセメントであるのがよい。具体的には、水硬性セメントであり、例えば、普通、早強、超早強、白色、耐硫酸塩、中庸熱、低熱などの各種ポルトランドセメントを挙げることができる。また、これらのようなポルトランドセメントに高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ等を混合した混合セメントを用いてもよく、或いは、アルミナセメント等の特殊セメント等を用いるようにしてもよい。
【0022】
一方の補助材については、アルカリ成分を溶出する点で改質材と共通する。そのため、改質材及び補助材として同じ種類のものを用いることでも構わないが、比較的高価なセメントの配合量を極力減らして無駄を省く観点から、補助材は改質材より安価なものであるのがよい。このような補助材としては、例えば、製鋼スラグ、高炉スラグ、コンクリートガラ、石炭灰等を挙げることができる。なかでも、改質材と補助材の好ましい組み合わせとしては、改質材がセメントであり、補助材が製鋼スラグ又は高炉スラグであるのがよい。
【0023】
本発明において、改質材の添加量については特に制限されず、改質土の用途等に応じて適宜設定することができる。その際、本発明では、補助材により対象土の固化阻害能力が消失されて、改質材の固化作用をほぼそのまま見込むことができるため、予め用意した配合設計に従い、改質材と補助材を同時に対象土に添加するようにしてもよい。或いは、補助材を先に添加して対象土の固化阻害能力を消失させた上で、必要な強度が発現するように改質材を後から添加するようにしてもよい。また、本発明においては、必要に応じて、硬化促進剤や分散剤等の混和剤、塩化カルシウム等を添加するようにしてもよい。
【0024】
本発明による方法は、例えば、建築構造物や土木構造物の基礎地盤強化、耐震強化をはじめ、鉄道・道路盛土、岸壁裏込めのような土構造物等での地盤強化や耐震強化などにおいて利用することができる。特に、広い面積で改質土が必要となるような広大な敷地での地盤改良に好適であると言える。
【実施例
【0025】
以下、実施例に基づきながら本発明について説明するが、本発明はこれらの内容に制限されるものではない。
【0026】
(実施例1)
改質対象である改質対象土(以下、単に「対象土」という)として熊本県 南阿蘇村 立野で採取した阿蘇黒ボク土を用意し、改質材として高有機質土用セメント(太平洋セメント社製ジオセット225、以下、単に「セメント」という)を用意し、補助材として製鋼スラグを用意して、表1に示す配合により、次のようにしてそれぞれ改質土を製造した。なお、ここで用意した製鋼スラグは、JIS A 5015:2013「道路用鉄鋼スラグ」に基づく呼び名で最大粒径37.5mm、均等係数13.5、曲率係数2.0の粒度範囲を有するものである。
【0027】
【表1】
【0028】
上記表1に示された配合1~20について、それぞれ対象土の含水比を自然含水状態とし、絶乾状態のセメント、製鋼スラグとを、2軸強制練りミキサーを用いて攪拌混合して試験用改質土を得た。次いで、得られた試験用改質土について、配合1~10についてはφ5cm×高さ10cmの型枠に、配合11~20についてはφ15cm×高さ30cmの型枠に投入した後、締固め度95%で静的に締固めを行って供試体を作製した。このようにして、各配合から得られた供試体について、その一軸圧縮強さを測定し、それぞれサンプル数2(n=2)としてその平均値を求めた。結果を表1にまとめて示す。
【0029】
また、この実施例1に係る各配合から得られた供試体の一軸圧縮強さについて、改質土の配合ごとに『セメント/(対象土+製鋼スラグ)』を求めて、供試体の一軸圧縮強さとの関係をグラフにまとめたものが図2である。ここでは、改質土が製鋼スラグを含む場合と含まない場合との2種類の系統に分けている。
【0030】
図2に示されるように、対象土にセメントのみを混合した系(配合1~10)では、横軸の『セメント/(対象土+製鋼スラグ)』が0.06程度までは殆ど強度が発現しないことが分かる。一方で、製鋼スラグが更に混合された系(配合11~20)では、『セメント/(対象土+製鋼スラグ)』のセメント添加が少ない範囲ではセメント添加に伴う強度の上昇が小さいが、セメント添加量の増加とともに強度が上昇しているのが分かる。つまり、これらを比較して、対象土にセメントのみを混合した系では、セメントのアルカリ分が対象土に吸着されて固化反応が起き難くなるためと考えられる。また、単位体積当たりのセメント添加量と供試体の一軸圧縮強さとの関係を対象土にセメントのみを混合した系(配合1~10)とセメントに加えて製鋼スラグが対象土に混合された系(配合11~20)とでそれぞれ示したものが図3である。図3では、図2と同様の関係がうかがえる。
【0031】
そこで、この実施例1で使用した対象土である阿蘇黒ボク土についてアルカリ吸着能(固化阻害能力)を測定すると共に、補助材である製鋼スラグについてアルカリ溶出能(固化阻害消失能力)を測定する試験を行った。結果を下記の表2に示す。
【0032】
このうち、阿蘇黒ボク土のアルカリ吸着能の測定は、バッチによる試験法であるアルカリ吸着試験に従った。この方法の詳細は参考文献2(嘉門雅史,勝見武,大山将:セメント・石灰安定処理発生土の環境要因としてのアルカリ溶出とその制御,第7回廃棄物学会研究発表会,1996.)に記載されている。
【0033】
先ず、2Lのポリビン容器に純水及び水酸化カルシウム(関東化学株式会社:特級)を適量加え、スターラーにて攪拌して、pH11、pH12、pH12.5の3水準のアルカリ溶液を調製した。次に、250mlのポリビン容器に含水率を測定した対象土を1~50gの範囲で秤量し、上記3水準のアルカリ溶液を各100ml添加し、振とう速度200rpmにて2時間吸着処理を行い、終了後のpHを測定した。そして、この吸着処理による試験前後のpHから下記の式(1)にて吸着アルカリ量を算出し、下記の式(2)から添加アルカリ量を算出した。その際、ブランク測定(空試験)として、対象土を添加せずにアルカリ溶液のみを同様に振とうして2時間の吸着処理を行い、pHの測定を実施した。また、対象土についての含水率の測定は、試料(対象土)を105~110℃で2時間以上乾燥させた後、重量法により測定して求めた。更に、pH測定方法はJIS K0102:2013の「12.1ガラス電極法」に従った。
【数1】
【0034】
上記で得られた結果について、横軸を吸着アルカリ量とし、縦軸を添加アルカリ量として両者の関係をプロットし、得られたグラフから、添加アルカリ量の増加に伴い、吸着アルカリ量が最大値を示す点(吸着アルカリ量の増加が飽和する点)でもって最大アルカリ吸着能と定義し、それを対象土のアルカリ吸着能とした。
【0035】
一方、補助材である製鋼スラグについてのアルカリ溶出能の測定は、アルカリ吸着試験と同様に特定の方法に限られないが、ここでは、JIS K0058-1に示すタンクリーチング法に従った。先ず、純水10Lをバケツ等大型容器に入れ、1kgの製鋼スラグを有姿のままポリビン容器に入れて、製鋼スラグに係る液固比10(純水10kg、製鋼スラグ1kg)の試料液とした。尚、溶媒量、スラグ量、液固比については、特段定められたものではない。
【0036】
次いで、この製鋼スラグに係る試料液について、電導式回転翼で回転速度を200rpmとして、連続2~6時間攪拌溶出試験を行った。この攪拌時間は任意でよく、スラグから溶出するカルシウムにより溶液のpHが12程度以上(水酸化カルシウムの飽和時のpH=12.5)になったら、溶媒を交換し、平衡時のpH=12程度以下になるまで上記操作を繰り返し行う。
【0037】
以上の試験で、製鋼スラグの単位質量あたりのアルカリ溶出能を以下の式で定義し、本実施例で用いた製鋼スラグのアルカリ溶出能を求めた。また、図4は、この溶出試験における繰り返し回数と平衡pHの変化を示したものである。
【数2】
但し、式中の記号の意味は次のとおりである。
i:溶出操作回数(6時間後のpHが12以下になるまでの繰り返し回数)
pHi:i回目の溶出操作で、6時間後の溶液のpH
【0038】
【表2】
【0039】
表2の結果を用いれば、図2図3で示された傾向を理解することができる。すなわち、本実施例に係る改質土中での対象土のアルカリ吸着能が製鋼スラグのアルカリ溶出能よりも若干上回るため、対象土に製鋼スラグを添加する系(配合11~20)において、セメントが配合されていない場合では強度が発現されていないものの、セメント添加量の増加に伴い、供試体の強度が急激に増加することが分かる。一方、対象土にセメントのみを添加する系(配合1~10)では、セメント添加量が少ない領域では、対象土にカルシウムが吸着されて強度が発現しない。そして、セメント/(対象土+製鋼スラグ)が0.06あたりからセメントのアルカリ溶出によって対象土のアルカリ吸着総量が補われて、強度が発現しはじめると考えられる。
【0040】
以上、これら実施例の内容に基づけば、改質対象である対象土が保有するフミン酸やフルボ酸、アロフェン等の固化阻害物質によるアルカリ吸着能(固化阻害能力)を把握する対象土事前試験を行った上で、このアルカリ吸着能を消失させる補助材を対象土に添加すると共に改質材を添加することで、固化阻害物質によるアルカリ吸着能を消失させて(無効化して)、セメント等の改質材による固化作用を最大限活用することができることが分かる。つまり、本発明によれば、セメント等の固化作用を有する改質材の添加量を必要最小限にしながら、その固化作用を最大限活用して、改質土を製造することができるようになる。その際、補助材と改質材とをそれぞれの役割に応じて使い分けることで、トータルでのコストを抑えることができる。
図1
図2
図3
図4