(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】ピーニング処理装置
(51)【国際特許分類】
B06B 3/04 20060101AFI20230214BHJP
【FI】
B06B3/04
(21)【出願番号】P 2019129036
(22)【出願日】2019-07-11
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【氏名又は名称】栗林 和輝
(72)【発明者】
【氏名】島貫 広志
(72)【発明者】
【氏名】米澤 隆行
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-055799(JP,A)
【文献】特開2015-073939(JP,A)
【文献】特開2003-088809(JP,A)
【文献】特開平08-290474(JP,A)
【文献】特表2009-529402(JP,A)
【文献】国際公開第2019/064930(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B06B 1/00- 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械振動発生装置により発生する機械振動を伝播するウェーブガイドと、
円弧状の円弧部を有し、一端部が前記ウェーブガイドに接触して前記機械振動を伝播するとともに他端部が被処理材を打撃する打撃ピンと、
前記打撃ピンを振動可能に保持するピン保持機構と、
を備えることを特徴とするピーニング処理装置。
【請求項2】
前記打撃ピンの前記一端部が接触する前記ウェーブガイドの接触面は、前記機械振動の振動方向に垂直な面に対して傾斜していることを特徴とする請求項1に記載のピーニング処理装置。
【請求項3】
前記ピン保持機構は、前記打撃ピンが挿通される貫通孔を有する複数のピンフォルダ部と、それぞれの前記ピンフォルダ部の一端部に接触して前記ピンフォルダ部の移動を制限するピンフォルダ軸とを有し、
前記ピンフォルダ軸は、前記打撃ピンよりも前記円弧部の円弧中心側に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載のピーニング処理装置。
【請求項4】
前記ピンフォルダ部の前記貫通孔の内周面と前記打撃ピンの外周面とが互いに離間し、前記ピンフォルダ部と前記打撃ピンの外周面とに接するピン抜け止め具が更に備えられ、
前記ピン抜け止め具のうち少なくとも前記打撃ピンの外周面に接する部位は、前記打撃ピンの振動とともに振動可能であることを特徴とする請求項3に記載のピーニング処理装置。
【請求項5】
複数の前記ピンフォルダ部は、当該ピンフォルダ部の前記一端部において一体となっていることを特徴とする請求項3または4に記載のピーニング処理装置。
【請求項6】
複数の前記ピンフォルダ部の前記一端部が前記ピンフォルダ軸の外周面に沿って回動可能であることを特徴とする請求項5に記載のピーニング処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピーニング処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接構造物の溶接止端部の疲労対策として、グラインダー等による溶接止端部の形状改善だけでなく、超音波衝撃処理などの各種ピーニング処理による溶接止端部の残留応力制御技術が用いられている。
超音波衝撃処理では、超音波導波体と被処理材との間に配置された打撃ピンを介して被処理材に超音波衝撃を加える。一般的に、打撃ピンは、超音波導波体の振動方向と超音波衝撃の発生方向とが一直線上になるように配置される。しかし、狭隘部においてピーニング処理を行うためには、超音波導波体の振動方向と異なる方向へ超音波衝撃を発生させることが好ましい。
【0003】
そこで、例えば特許文献1には、超音波振動する導波体の先端面が振動の軸方向に対して角度をつけて設けられ、その先端面に対して垂直に近い角度で打撃ピンが配置されるピーニング処理装置が開示されている。このように打撃ピンが配置されることによって、導波体による超音波振動の軸方向に対して斜め方向に超音波衝撃を発生させることができる。しかし、特許文献1のピーニング処理装置では、導波体による超音波振動の軸方向に対して打撃ピンの傾斜角度は20~45度が限界である。そのため、狭隘部において特許文献1の技術を適用することは難しい場合がある。
【0004】
また、特許文献2には、導波管自体が共振する120度まで湾曲可能な超音波衝撃処理装置が記載されている。しかし、特許文献2の技術では、導波体の形状が固定されているため角度調整が困難であるうえ、共振する導波管の設計や製造が難しい。
【0005】
また、特許文献3のピーニング処理装置は、超音波振動する導波体と打撃ピンとの間において少しずつ取り付け角度が異なって連なる複数の導波ピンを備える。このように複数の導波ピンが配置されることによって、最終的には導波体の超音波振動の方向に対して大きく傾斜した方向への超音波衝撃の発生が可能となる。しかし、特許文献3のピーニング処理装置では、ある程度の長さを有する複数の導波ピンを連ねて用いるため、装置の先端部が大きくなり易い。そのため、狭隘部において特許文献3の技術を適用することは難しい場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-55799号公報
【文献】特表2009-504397号公報
【文献】特開2015-73939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、従来のピーニング処理装置では、ピーニング処理を施す超音波振動等の機械振動の方向を狭隘部において大きく変えることが難しい場合があった。そのため、例えば、ボックス柱-H形鋼梁の柱梁接合部のスカラップ部の内側においてウェブ側の溶接止端部のピーニング処理を行う場合、柱側のスペースが小さいために従来のピーニング処理装置では溶接止端部にピーニング処理を行えない場合があった。以下、機械振動発生装置により発生する機械振動の方向に対して異なる方向へ打撃を加えてピーニング処理を行うことを「アングル処理」という場合がある。
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、狭隘部においてアングル処理を可能とするピーニング処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のピーニング処理装置は、
機械振動発生装置により発生する機械振動を伝播するウェーブガイドと、
円弧状の円弧部を有し、一端部が前記ウェーブガイドに接触して前記機械振動を伝播するとともに他端部が被処理材を打撃する打撃ピンと、
前記打撃ピンを振動可能に保持するピン保持機構と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
ここで、打撃ピンの一端部とは、当該打撃ピンの一端または当該一端を含む一端部のことをいう。また、打撃ピンの他端部とは、当該打撃ピンの他端または当該他端を含む他端部のことをいう。なお、本発明において「円弧状」とは、打撃ピンの加工精度等を考慮して厳密な円弧状に限定されず、概ね円弧状であれば良い。
【0011】
また、本発明の前記構成において、前記打撃ピンの前記一端部が接触する前記ウェーブガイドの接触面は、前記機械振動の振動方向に垂直な面に対して傾斜していてもよい。
【0012】
また、本発明の前記構成において、前記ピン保持機構は、前記打撃ピンが挿通される貫通孔を有する複数のピンフォルダ部と、それぞれの前記ピンフォルダ部の一端部に接触して前記ピンフォルダ部の移動を制限するピンフォルダ軸とを有し、
前記ピンフォルダ軸は、前記打撃ピンよりも前記円弧部の円弧中心側に配置されていてもよい。
【0013】
ここで、ピンフォルダ部の一端部とは、当該ピンフォルダの一端または当該一端を含む一端部のことをいう。
【0014】
また、本発明の前記構成において、前記ピンフォルダ部の前記貫通孔の内周面と前記打撃ピンの外周面とが互いに離間し、前記ピンフォルダ部と前記打撃ピンの外周面とに接するピン抜け止め具が更に備えられ、
前記ピン抜け止め具のうち少なくとも前記打撃ピンの外周面に接する部位は、前記打撃ピンの振動とともに振動可能であってもよい。
【0015】
また、本発明の前記構成において、複数の前記ピンフォルダ部は、当該ピンフォルダ部の前記一端部において一体となっていてもよい。
【0016】
また、本発明の前記構成において、複数の前記ピンフォルダ部の前記一端部が前記ピンフォルダ軸の外周面に沿って回動可能であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、狭隘部においてアングル処理を可能とするピーニング処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るピーニング処理装置の一部を模式的に示す側面図である。
【
図2】
図1に示すピーニング処理装置の先端部を模式的に示す平面図である。
【
図3】
図1に示す打撃ピン、ピンフォルダ部およびピンフォルダ軸を模式的に示す平面図、並びにピンフォルダ部から取り外されたピン抜け止め具を模式的に示す斜視図である。
【
図4】
図3に示すIV-IV線に沿ったピン抜け止め具の断面、並びに、ピンフォルダ部および打撃ピンの一部の断面を模式的に示す図である。
【
図5】
図1に示すピンフォルダ部およびピンフォルダ軸を模式的に示す斜視図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係るピーニング処理装置の一部を模式的に示す側面図である。
【
図7】
図1に示す打撃ピンのバリエーションを示すもので、(a)は断面が楕円形状の打撃ピンの横断面図、(b)は断面が四角形状の打撃ピンの横断面図、(c)は断面が三角形状の打撃ピンの横断面図である。
【
図8】(a)は、ピンフォルダ部の変形例を示す図、(b)は、ピンフォルダ部の他の変形例を示す図である。
【
図9】ピン抜け止め具の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係るピーニング処理装置について説明する。
【0020】
1.第1の実施形態
[ピーニング処理装置の構成]
図1は、本発明の第1の実施形態に係るピーニング処理装置10の一部を模式的に示す側面図である。より具体的には、
図1は、第1の実施形態に係るピーニング処理装置10の先端部の側面と、ピーニング処理装置10によってピーニング処理される被処理材8の断面と、を模式的に示す図である。
また、
図2は、
図1に示すピーニング処理装置10の先端部を模式的に示す平面図である。
なお、以下の説明において、
図1および
図2における左側を前方といい、右側を後方という場合がある。
また、以下の説明において、一端部とは、一端または当該一端を含む一端部のことをいい、他端部とは、他端または当該他端を含む他端部のことをいう。
【0021】
図1および
図2に示すように、第1の実施形態のピーニング処理装置10は、ウェーブガイド6、打撃ピン1、およびピン保持機構11を主な構成として備える。
【0022】
<ウェーブガイド>
ウェーブガイド6は、当該ウェーブガイド6より後方に配置される不図示の機械振動発生装置により発生する機械振動をウェーブガイド6より前方に伝播する。この機械振動発生装置は、例えば超音波振動を含む50Hz以上の機械振動を発生する。以下の説明では、機械振動発生装置が超音波振動を発生するものとする。当該機械振動発生装置は
図1および
図2において左右方向に超音波振動を発生させる。このときウェーブガイド6も
図1および
図2において左右方向に超音波振動する。
【0023】
第1の実施形態のウェーブガイド6は、前後(
図1および
図2において左右)に長尺な略直方体状に形成されており、その後端部の図示は省略されている。また、ウェーブガイド6の先端面6a、すなわちウェーブガイド6のうち打撃ピン1の一端部1aに接触する接触面は、前記機械振動発生装置からウェーブガイド6に伝えられる超音波振動の振動方向に垂直な面Sに対して打撃ピン1側に傾斜している。より具体的には、
図1に示すように、ウェーブガイド6の振動方向に平行且つ打撃ピン1の一端部1aおよび他端部1bを含む断面において、ウェーブガイド6の前方の先端面6aは、打撃ピン1の一端部1aが接触する部位に近い側の端部が遠い側の端部よりも打撃ピン1側(前方)となるように傾斜している。ウェーブガイド6の先端面6aと面Sとの成す角θは、35°以下であることが好ましく、例えば20°とすることができる。
【0024】
<打撃ピン>
打撃ピン1は、ウェーブガイド6の振動方向に平行且つ打撃ピン1の一端部1aおよび他端部1bを含む断面において円弧状である円弧部1cを有している。
図1に示す例では、打撃ピン1は全体が円弧状に形成されている。ただし、打撃ピン1の形態はこれに限定されず、打撃ピン1の少なくとも一部が円弧状に形成されていればよい。
【0025】
また、打撃ピン1の一端部1aはウェーブガイド6の先端面6aに接触し、打撃ピン1は上記超音波振動を伝播する。この場合、打撃ピン1の一端部1aは、ウェーブガイド6の先端面6aに点または面接触する。打撃ピン1の軸心部付近がウェーブガイド6の先端面6aに接触することが望ましい。このように打撃ピン1の一端部1aがウェーブガイド6に接触することで打撃ピン1に超音波振動が伝えられることにより、打撃ピン1の他端部1bによって被処理材8の処理部9に打撃を加えることができる。打撃ピン1の他端部1b、すなわち打撃ピン1の被処理材8に接触する側の端面の形状は、外側に凸とされ、曲面または平面加工が施されていることが望ましい。
【0026】
打撃ピン1の太さは、被処理材8に加えられる超音波衝撃を発生し得る寸法であれば特に限定されない。ただし、実用的には、打撃ピン1の太さは2.5mm以上10mm以下であることが望ましい。打撃ピン1の太さが2.5mm以上とされることにより、打撃ピン1から被処理材8に超音波衝撃を伝達する際に、打撃ピン1が破損することが抑制され得る。一方、打撃ピン1の太さが10mm以下とされることにより、打撃ピン1の質量を小さくし得るため、超音波衝撃の発生が容易になる。
【0027】
また、円弧部1cの長さは、円弧部1cの中心角および円弧の半径によって定められることが好ましい。具体的には、打撃ピン1の円弧部1cの中心角は、30°以上160°未満であることが望ましく、円弧部1cの円弧の半径は、打撃ピン1の太さの3倍以上8倍以下であることが望ましい。このように円弧部1cの長さの上限を制限することによって、打撃ピン1から被処理材8に超音波衝撃を伝達する際に、打撃ピン1が曲がることや打撃ピン1の強度が不足することが抑制される。また、上記のように円弧部1cの長さの下限を制限することによって、打撃ピン1から被処理材8に超音波衝撃を伝え易くなる。
【0028】
打撃ピン1は、例えば高強度の鋼材によって構成される。より具体的には、打撃ピン1は、HRc60以上の鋼材で構成され、被処理材8の強度を上回る降伏強度を有することが好ましい。
【0029】
<ピン保持機構>
ピン保持機構11は、打撃ピン1を振動可能に保持する。第1の実施形態において、ピン保持機構11は、複数のピンフォルダ部2、ピンフォルダ軸3、ピン抜け止め具4、およびピンフォルダ軸抑え5を備える。以下、これらについて説明する。
【0030】
(ピンフォルダ部)
それぞれのピンフォルダ部2は板状の部位であり、
図1には2枚のピンフォルダ部2が備えられる例を示している。また、
図2に示すように、それぞれのピンフォルダ部2は、打撃ピン1が挿通される貫通孔2hを有している。第1の実施形態のピン保持機構11では、それぞれのピンフォルダ部2の貫通孔2hには、貫通孔2hの内周面と打撃ピン1の外周面とが離間するように打撃ピン1が挿通される。第1の実施形態のピン保持機構11では、貫通孔2hに挿通された打撃ピン1が後に詳述するピン抜け止め具4を介してピンフォルダ部2に保持される。
【0031】
上記のように打撃ピン1の少なくとも一部は円弧状に形成されており、この円弧状に形成されている円弧部1cがピンフォルダ部2の貫通孔2hに挿通される。
【0032】
また、第1の実施形態のそれぞれのピンフォルダ部2は、一端部2aにおいて一体となっており、一端部2aから他端部2bに向かうにつれて互いの距離が大きくなるように配置されている。つまり、2枚のピンフォルダ部2は、
図1に示すように略V字状に配置されている。このような複数のピンフォルダ部2は、例えば、両端部側にそれぞれ貫通孔2hが形成された一枚の板状体を長手方向の中間部で折り曲げられることによって形成される。
【0033】
また、それぞれのピンフォルダ部2の他端部2bは自由端とされる。このようにそれぞれのピンフォルダ部2の他端部2bが自由端とされることによって、ピンフォルダ部2が打撃ピン1の振動を妨げ難くなる。打撃ピン1の振動をより妨げ難くするため、ピンフォルダ部2は、例えば、厚さ0.5mm~1.0mm程度の高張力鋼薄板(ばね材)等の強度が高く弾性振動を許容する素材で構成されることが望ましい。
なお、ピンフォルダ部2の他端部2bには、
図2に二点鎖線で示すように、面取り部2cが形成されもよい。
【0034】
(ピン抜け止め具)
図3は、
図1に示す打撃ピン1、ピンフォルダ部2およびピンフォルダ軸3を模式的に示す平面図、並びにピンフォルダ部2から取り外されたピン抜け止め具4を模式的に示す斜視図である。また、
図4は、
図3に示すIV-IV線に沿ったピン抜け止め具4の断面、並びに、ピンフォルダ部2および打撃ピン1の一部の断面を模式的に示す図である。
【0035】
上記のようにピンフォルダ部2の貫通孔2hの内周面と打撃ピン1の外周面とは互いに離間しており、第1の実施形態のピン抜け止め具4は、このように離間したピンフォルダ部2と打撃ピン1の外周面とに接するように配置される。より具体的には、次の通りである。第1の実施形態のピン抜け止め具4は、
図3に示すように所定の厚みを有する環状の部材である。ピン抜け止め具4の内周面は、打撃ピン1の外周面に密着する。また、ピン抜け止め具4の外周面には円周方向に切り込み4cが形成されている。この切り込み4cにピンフォルダ部2の貫通口2hの縁が嵌められることによって、ピン抜け止め具4がピンフォルダ部2に固定される。このようにしてピン抜け止め具4は、貫通孔2hの内周面と打撃ピン1の外周面との間に配置される。ピン抜け止め具4がこのように配置されることにより、打撃ピン1は、ピン抜け止め具4の摩擦力によってピン抜け止め具4介して間接的にピンフォルダ部2に保持される。
【0036】
また、ピン抜け止め具4のうち少なくとも打撃ピン1の外周面に接する部位は、打撃ピン1の振動とともに振動可能である。例えば、ピン抜け止め具4は、外周面側がピンフォルダ部2に固定されつつ、内周面側が円弧部1cの円弧方向に沿って変形または伸縮可能となっている。このため、打撃ピン1は、ピンフォルダ部2に対して相対的に、円弧部1cの円弧方向に沿って振動可能となる。
【0037】
ピン抜け止め具4は、ピンフォルダ部2および打撃ピン1より軟質でありながら打撃ピン1の超音波振動を妨げ難く、繰り返し振動に耐える材料で構成されることが好ましい。ピン抜け止め具4を構成する好ましい材料の具体例としては、ゴムやシリコン等の粘弾性体が挙げられる。容易に変形または伸縮可能な粘弾性体によってピン抜け止め具4が構成されることにより、ピン抜け止め具4の粘弾性を利用して上記のように打撃ピン1が円弧部1cに沿って円弧方向に運動(振動)し易くなる。また、ピン抜け止め具4によって、打撃ピン1がピンフォルダ部2から抜け落ちることや、打撃ピン1が振動方向に垂直な面内において回転することが抑制される。さらに、ピン抜け止め具4によってピンフォルダ部2と打撃ピン1との接触が抑制されるため、打撃ピン1の損傷が抑制される。
【0038】
(ピンフォルダ軸)
図5は、
図1に示すピンフォルダ部2およびピンフォルダ軸3を模式的に示す斜視図である。ピンフォルダ軸3は、円柱状等の棒状の部材である。また、ピンフォルダ軸3は、
図1に示すように、打撃ピン1よりも打撃ピン1の円弧部1cの円弧中心側に配置される。より具体的には、ピンフォルダ軸3は、ウェーブガイド6の振動方向に平行且つ打撃ピン1の一端部1aおよび他端部1bを含む面に対して中心軸が垂直となるように配置される。ピンフォルダ軸3の中心軸は、打撃ピン1の円弧部1cの円弧中心と重なることが好ましい。
【0039】
また、ピンフォルダ軸3は、ピンフォルダ軸3の側面(外周面)の一部がピンフォルダ部2の一端部2aに接触するように配置される。より具体的には、ピンフォルダ軸3は、上記のように2枚のピンフォルダ部2を構成する略V字状に曲げられた板状体の曲げ部の内側に接するように配置される。すなわち、2枚のピンフォルダ部2を構成する板状体がピンフォルダ軸3に回し掛けられる。よって、それぞれのピンフォルダ部2の一端部2aは、ピンフォルダ軸3の外周面に沿って回動可能である。このように、それぞれのピンフォルダ部2の一端部2aはピンフォルダ軸3に接触する。よって、ピンフォルダ軸3は、ピンフォルダ部2の移動、具体的にはピンフォルダ軸3側から打撃ピン1側へのピンフォルダ部2の移動を制限する。また、上記のようにピンフォルダ部2とピンフォルダ軸3とが非接着とされることにより、ピンフォルダ部2とピンフォルダ軸3との接触部において、応力集中が緩和される。その結果、超音波衝撃による疲労亀裂の発生が抑制される。
【0040】
ピンフォルダ軸3は、強度、靱性、耐久性を備えていることが好ましい。よって、ピンフォルダ軸3を構成する材料として、例えば、高強度ばね鋼や、焼き入れられ、必要に応じて焼き戻された工具鋼等が好ましい。
【0041】
(ピンフォルダ軸抑え)
ピンフォルダ軸抑え5は、
図1および
図2に表れている。ピンフォルダ軸抑え5は、
図2に示すように2枚の板状部5a,5bを含む。一方の板状部5aにピンフォルダ軸3の一端が固定され、他方の板状部5bにピンフォルダ軸3の他端が固定される。また、2枚の板状部5a,5bはウェーブガイド6を挟むように配置される。それぞれの板状部5a,5bの前方端はウェーブガイド6の先端面6aよりも前方に突出している。このように前方に突出した板状部5a,5bの一部はピンフォルダ部2を挟む横ブレガイド7とされる。横ブレガイド7が形成されることにより、ウェーブガイド6の振動方向に垂直な面内において、ピンフォルダ部2および打撃ピン1のずれが抑制される。
【0042】
[ピーニング処理装置の動作]
次に、上述した第1の実施形態に係るピーニング処理装置10の動作について説明する。
【0043】
ウェーブガイド6が
図1に両矢印で示すように前後(
図1において左右)に振動(超音波振動)すると、その振動は打撃ピン1に伝えられる。そして、打撃ピン1はピンフォルダ軸3を中心とする円弧状に振動(超音波振動)する。このように打撃ピン1が円弧状に振動する際に、ピン抜け止め具4によって打撃ピン1は振動可能に保持される。上記のように打撃ピン1が円弧状に振動することによって、振動方向が打撃ピン1によって円周方向に変換される。このため、
図1に矢印で示すように、ウェーブガイド6の超音波振動の方向とは異なる方向の超音波衝撃が、打撃ピン1によって被処理材8の処理部9に加えられる。
【0044】
以上のように、第1の実施形態のピーニング処理装置10によれば、一端部1aがウェーブガイド6に接触して機械振動を伝播する打撃ピン1が、円弧状の円弧部1cを有する。また、この打撃ピン1がピン保持機構11によって円弧部1cの円弧方向に沿って振動可能に保持される。このため、打撃ピン1の一端部1aに加えられる振動は、機械振動発生装置が発生する機械振動の方向と異なる円弧方向(周方向)に変えられる。そして、打撃ピン1の他端部1bによって被処理材8が打撃される。このように、第1の実施形態のピーニング処理装置10は、打撃ピン1の形状に応じて、被処理材8に加えられる打撃の方向を機械振動発生装置が発生する機械振動の方向と異なる方向に変えることができる。したがって、小さな空間において、被処理材8に加えられる打撃の方向を機械振動発生装置が発生する機械振動の方向と異なる方向に変えることができる。よって、第1の実施形態のピーニング処理装置10により、従来技術では行えなかった狭隘部でのアングル処理を容易に行うことができる。
【0045】
また、ウェーブガイド6の先端面(接触面)6aが、機械振動の振動方向に垂直な面に対して傾斜しているので、被処理材8に加えられる打撃の方向を機械振動発生装置が発生する機械振動の方向と異なる方向に変えることが容易になる。
【0046】
また、打撃ピン1は、上記のように移動が制限されたピンフォルダ部2によって、円弧方向に沿って振動可能に保持される。このため、打撃ピン1は、位置ずれが抑制されつつ円弧方向に沿ってスムーズに振動し得る。
【0047】
さらに、2枚(複数)のピンフォルダ部2は、当該ピンフォルダ部2の一端部2aにおいて一体となっている。このため、当該ピンフォルダ部2の一端部2aをピンフォルダ軸3に回し掛けることによって、2枚(複数)のピンフォルダ部2を容易にピンフォルダ軸3に接触させるとともに、ピンフォルダ部2の移動を容易に制限できる。
加えて、2枚(複数)のピンフォルダ部2の一端部2aは、ピンフォルダ軸3に非接着であるとともにピンフォルダ軸3の外周面に沿って回動可能であるので、ピンフォルダ部2とピンフォルダ軸3との接触部において応力集中が緩和される。その結果、疲労亀裂の発生が抑制される。
【0048】
2.第2の実施形態
図6は、本発明の第2の実施形態に係るピーニング処理装置の一部を模式的に示す側面図である。なお、
図6において、
図1に示す第1の実施形態と共通部分には同一符号を付してその説明を省略ないし簡略化する。
【0049】
第2の実施形態に係るピーニング処理装置10では、ウェーブガイド6の先端面6aの傾きが第1の実施形態のウェーブガイド6の先端面6aの傾きと異なる。
図6に示すように、第2の実施形態に係るウェーブガイド6の先端面6aは、機械振動発生装置からウェーブガイド6に伝えられる超音波振動の振動方向に垂直な面Sに対して、
図1に示す第1の実施の形態とは反対側に傾斜している。すなわち、
図6に示すように、第2の実施形態に係るウェーブガイド6の先端面6aは、ウェーブガイド6の振動方向に平行且つ打撃ピン1の一端部1aおよび他端部1bを含む断面において、打撃ピン1の一端部1aが接触する部位に近い側の端部よりも遠い側の端部が前方となるよう傾斜している。ウェーブガイド6の先端面6aの向きは、被処理材8の処理部9の形状とピーニング処理装置10の先端の形状の取り合いの関係から適宜決定されてもよい。
【0050】
3.変形例
上記実施形態では、機械振動発生装置からウェーブガイド6に伝えられる超音波振動の振動方向に垂直な面Sに対してウェーブガイド6の先端面6aが傾斜している例を挙げた。しかし、本発明はこれらの形態に限定されない。ウェーブガイド6の先端面6aは、機械振動発生装置からウェーブガイド6に伝えられる超音波振動の振動方向に垂直でもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、打撃ピン1の振動方向に垂直な断面が円形である例を挙げた。しかし、本発明は当該形態に限定されない。打撃ピン1が被処理材8を打撃中に発生する反力の方向がずれることによって、打撃ピン1は、振動方向に垂直な面内において回転する方向に力を加えられる場合がある。このような打撃ピン1の回転を抑制する観点から、打撃ピン1の振動方向に垂直な断面は非円形であってもよい。打撃ピン1の回転が抑制されることにより、打撃ピン1によって所定の方向に被処理材8を打撃することが容易になる。以下に打撃ピン1の断面形状のバリエーションについて説明する。
【0052】
図7は、打撃ピン1のバリエーションを示す図である。
図7(a)は、振動方向に垂直な断面が楕円形状である打撃ピン1の横断面図である。
図7(b)は、振動方向に垂直な断面が四角形である打撃ピン1の横断面図である。
図7(c)は、振動方向に垂直な断面が三角形である打撃ピン1の横断面図である。これらの場合、貫通孔2hの内周面の形状またはピン抜け止め具4の内周面の形状は、打撃ピン1の外形に合わせて楕円形、四角形、三角形であることが好ましい。打撃ピン1の回転を拘束し易くなるからである。ただし、貫通孔2hの内周面の形状またはピン抜け止め具4の内周面の形状は、
図7(a)~
図7(c)に二点鎖線で示すように、打撃ピン1に接する円形状であってもよいし、破線で示すように、打撃ピン1に接し且つ打撃ピン1の外形と異なる多角形状であってもよい。加工性などの観点からは、打撃ピン1の断面形状は、楕円形、四角形または三角形のような単純な形状であることが好ましい。
なお、打撃ピン1の断面が上記のような非円形の場合、打撃ピン1の振動方向に垂直な断面のうちの最大径となる部分の太さを打撃ピン1の太さとする。
【0053】
また、上記実施形態では、ピンフォルダ部2が2枚設けられる例を挙げた。しかし、本発明は当該形態に限定されない。例えば、打撃ピン1の振動方向に垂直な断面が円形である場合、上記のような打撃ピン1の回転を抑制し易くする観点から、板状のピンフォルダ部2は3枚以上設けられてもよい。ただし、ピンフォルダ部2の剛性を調整する等して、2枚の板状のピンフォルダ部2でも打撃ピン1の回転を抑制し得る。ピンフォルダ部2の枚数が増えるほど打撃ピン1に超音波衝撃が起こり難くなる場合があるため、ピンフォルダ部2は2枚であることが望ましい。
【0054】
打撃ピン1の回転を抑制するためには、打撃ピン1の振動方向への変形に対するピンフォルダ部2の剛性が高いことが好ましい。例えば、ピンフォルダ部2自体の剛性が高められてもよい。また、上記実施形態では、それぞれのピンフォルダ部2の他端部1bが自由端とされる例を挙げて説明したが、複数のピンフォルダ部2同士が互いの間隔を保つ補強材によって連結されることにより、ピンフォルダ部2の剛性が高められてもよい。また、打撃ピン1の回転を抑制するためには、ピンフォルダ部2の貫通孔2hの内周面と打撃ピン1との間のクリアランスを小さくすることも効果的である。
【0055】
また、上記実施形態では、それぞれのピンフォルダ部2の一端部2aが一体とされる例を挙げて説明したが、本発明は当該形態に限定されない。それぞれのピンフォルダ部2は互いに分離していてもよい。この場合、例えば、それぞれのピンフォルダ部2の一端部2aがピンフォルダ軸3に固定され、ピンフォルダ軸3がそれぞれのピンフォルダ部2とともに軸心周りに回動してもよい。この場合、ピンフォルダ部2の一端部2aをピンフォルダ軸3に固定する手段は特に限定されない。例えば、ピンフォルダ部2の一端部2aがピンフォルダ軸3の側面に嵌め込まれてもよく、接着されてもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、ピンフォルダ部2の移動を制限するために、ピンフォルダ部2の一端部2aをピンフォルダ軸3に回し掛けている。ただし、ピンフォルダ部2の移動を制限する形態はこれに限定されない。
図8(a)及び
図8(b)は、それぞれピンフォルダ部2の変形例を示す図である。
図8(a)に示す例では、ワイヤやゴムバンド等の結束部材20によって、ピンフォルダ部2の一端部2aをピンフォルダ軸3に留めている。また、
図8(b)に示す例では、ピンフォルダ部2の一端部2aに環状部21が形成されており、この環状部21にピンフォルダ軸3を通すことによって、ピンフォルダ部2の一端部2aをピンフォルダ軸3に留めている。これらの形態であっても、ピンフォルダ部2の一端部2aはピンフォルダ軸3の外周面に沿って回動可能であり、ピンフォルダ部2がピンフォルダ軸3から離間することが抑制される。
【0057】
また、上記実施形態ではピン抜け止め具4が打撃ピン1とピンフォルダ2との間に挟まる形態を例示したが、ピン抜け止め具4は当該形態に限定されない。
図9は、ピン抜け止め具4の変形例を示す断面図である。
図9に示すピン抜け止め具4は、2つの環状部材4aによって構成される。それぞれの環状部材4aは、その内周面が打撃ピン1の外周面に密着して固定されている。また、2つの環状部材4aの間にピンフォルダ部2の貫通孔2hの縁が挟まれることによって、ピン抜け止め具4を介して打撃ピン1がピンフォルダ部2に固定される。この場合、貫通孔2hの内周面と打撃ピン1の外周面との間には微小な隙間Gが形成されることが好ましい。
【0058】
また、上記実施形態では、ピン抜け止め具4が備えられる例を挙げたが、ピン抜け止め具4は必須の構成ではない。ピン抜け止め具4が備えられない場合、貫通孔2hの内周面と打撃ピン1の外周面とが接するように、貫通孔2hに打撃ピン1が挿通されてもよい。このとき、貫通孔2hの内周面は、打撃ピン1の損傷が抑制されるように軟質な材料で構成されることが好ましい。
【符号の説明】
【0059】
1 打撃ピン
1a 一端部
1b 他端部
1c 円弧部
2 ピンフォルダ部
2a 一端部
2b 他端部
3 ピンフォルダ軸
4 ピン抜け止め具
5 ピンフォルダ軸抑え
6 ウェーブガイド
6a 先端面(接触面)
7 横ブレガイド
8 被処理材
9 処理部
10 ピーニング処理装置
11 ピン保持機構
S 機械振動の振動方向に垂直な面