(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】周溶接部の検査方法及び検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/04 20180101AFI20230214BHJP
【FI】
G01N23/04
(21)【出願番号】P 2019144577
(22)【出願日】2019-08-06
【審査請求日】2022-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100174285
【氏名又は名称】小宮山 聰
(72)【発明者】
【氏名】松田 皓平
(72)【発明者】
【氏名】春田 石男
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-179857(JP,A)
【文献】特開2017-15655(JP,A)
【文献】特開平9-297111(JP,A)
【文献】特開2014-130058(JP,A)
【文献】特開平8-49804(JP,A)
【文献】特開2011-247586(JP,A)
【文献】米国特許第4435829(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
B23K 1/00 - B23K 33/00
G01B 15/00 - G01B 15/08
C21D 7/00 - C21D 7/13
C21D 9/00 - C21D 9/70
A61B 6/00 - A61B 6/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周溶接された管の周溶接部にX線源からX線を放射し、前記管を透過したX線をX線検出器で検出して透過X線像を撮影する検査方法であって、
検査対象の管又は前記検査対象の管と同一品種の管を用いて、周溶接部と前記X線源との間の前記管の軸方向に沿った距離を変えながら複数の透過X線像を撮影し、前記複数の透過X線像に基づいて透過X線像上における周溶接部の位置の適正範囲を設定する適正範囲設定工程と、
前記検査対象の管の周溶接部と前記X線源との間の前記管の軸方向に沿った距離を調整する工程と、
前記検査対象の管の周溶接部に前記X線源からX線を放射し、前記検査対象の管を透過したX線を前記X線検出器で検出して透過X線像を撮影する撮影工程と、
前記撮影工程で撮影した透過X線像上における前記検査対象の管の周溶接部の位置を取得する位置取得工程と、
前記位置取得工程で取得した位置が前記適正範囲設定工程で設定した適正範囲内であるかを判定する工程とを備える、周溶接部の検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の周溶接部の検査方法であって、
前記適正範囲設定工程は、前記複数の透過X線像の各々が撮影されたときの前記周溶接部と前記X線源との間の前記管の軸方向に沿った距離が適正であったかを判定する判定工程を含み、
前記判定工程では、下記の式で定義されるラップ率が1/2以上である場合に、当該透過X線像が撮影されたときの前記周溶接部と前記X線源との間の前記管の軸方向に沿った距離が適正であったと判定する、周溶接部の検査方法。
ラップ率=(当該透過X線像上において、前記X線源側の周溶接部と前記X線検出器側の周溶接部とが重なって写っている部分の前記管の軸方向に沿った長さ)/(当該透過X線像上における前記X線源側の周溶接部の前記管の軸方向に沿った長さ)
【請求項3】
請求項1に記載の周溶接部の検査方法であって、
前記撮影工程は、前記周溶接部を前記検査対象の管の軸方向の周りに角度θ間隔で撮影する工程を含み、
前記適正範囲設定工程は、前記複数の透過X線像の各々が撮影されたときの前記周溶接部と前記X線源との間の前記管の軸方向に沿った距離が適正であったかを判定する判定工程を含み、
前記判定工程では、当該透過X線像上において前記X線源側の周溶接部及び前記X線検出器側の周溶接部の一方のみが写っている部分の前記管の径方向長さL1と、前記管の内径IDとが下記の式を満たす場合に、当該透過X線像が撮影されたときの前記周溶接部と前記X線源との間の前記管の軸方向に沿った距離が適正であったと判定する、周溶接部の検査方法。
L1≧ID×sin(θ/2)
【請求項4】
周溶接された管の周溶接部にX線を放射するX線源と、
前記管を透過したX線を検出するX線検出器と、
制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記X線検出器から透過X線像を受け取り、前記透過X線像上における前記管の周溶接部の位置を取得する位置取得工程と、
前記位置取得工程で取得した位置が予め設定された適正範囲内であるかを判定する判定工程とを実行する、周溶接部の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周溶接部の検査方法及び検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コイルドチュービングと称される、リールに巻き取られた管が知られている。コイルドチュービングは例えば、洋上のホスト設備と海底坑井とを繋ぐ制御ライン(アンビリカルチューブ)として使用される。コイルドチュービングは、1つのリールに巻き取られる長さが一般的に3000フィートを超えるため、複数の管の端部同士を周溶接して製造される。
【0003】
周溶接が施された管の検査方法として、一般的にX線検査装置が用いられている。例えば特許第3344275号公報には、大径鋼管管端部における溶接部の撮影装置が開示されている。特開2014-44159号公報には、開口の小さな部材であっても、検査部位を正確に把握しながら検査を行うことができる検査方法が開示されている。
【0004】
特開2018-179857号公報には、周溶接部に存在する溶け込み不良を容易にかつ精度良く検出可能な周溶接部の検査方法が開示されている。特開2017-219317号公報には、周溶接部における欠陥の存在する部位に関わらず、精度良く欠陥の寸法を算出可能な周溶接部の検査方法が開示されている。特開2017-219316号公報には、周溶接部の内面ビードの寸法の良否を全数判定可能な検査方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3344275号公報
【文献】特開2014-44159号公報
【文献】特開2018-179857号公報
【文献】特開2017-219317号公報
【文献】特開2017-219316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
X線による周溶接部の検査において、周溶接部とX線源との距離が変動すると、透過X線像の写り方も変動する。検査の一貫性を担保するためには、周溶接部とX線源との距離が毎回所定の範囲内であることを確認する必要がある。
【0007】
本発明の目的は、周溶接部とX線源との距離が所定の範囲内であるかを正確に判断することができる、周溶接部の検査方法及び検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態による周溶接の検査方法は、周溶接された管の周溶接部にX線源からX線を放射し、前記管を透過したX線をX線検出器で検出して透過X線像を撮影する検査方法であって、検査対象の管又は前記検査対象の管と同一品種の管を用いて、周溶接部と前記X線源との間の前記管の軸方向に沿った距離を変えながら複数の透過X線像を撮影し、前記複数の透過X線像に基づいて透過X線像上における周溶接部の位置の適正範囲を設定する適正範囲設定工程と、前記検査対象の管の周溶接部と前記X線源との間の前記管の軸方向に沿った距離を調整する工程と、前記検査対象の管の周溶接部に前記X線源からX線を放射し、前記検査対象の管を透過したX線を前記X線検出器で検出して透過X線像を撮影する撮影工程と、前記撮影工程で撮影した透過X線像上における前記検査対象の管の周溶接部の位置を取得する位置取得工程と、前記位置取得工程で取得した位置が前記適正範囲設定工程で設定した適正範囲内であるかを判定する工程とを備える。
【0009】
本発明の一実施形態による周溶接の検査装置は、周溶接された管の周溶接部にX線を放射するX線源と、前記管を透過したX線を検出するX線検出器と、制御装置とを備える。前記制御装置は、前記X線検出器から透過X線像を受け取り、前記透過X線像上における前記管の周溶接部の位置を取得する位置取得工程と、前記位置取得工程で取得した位置が予め設定された適正範囲内であるかを判定する判定工程とを実行する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、周溶接部とX線源との距離が所定の範囲内であるかを正確に判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による周溶接部の検査装置が配置された、長尺管の製造設備の全体の構成を模式的に示す平面図である。
【
図3】
図3は、X線検査装置をy軸に垂直で
図2の線CLを含む面で切断した断面図である。
【
図4】
図4は、X線検査装置をx軸に垂直で
図2の線CLを含む面で切断図した断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態による周溶接部の検査方法のフロー図である。
【
図7】
図7は、垂直撮影における周溶接部とX線源との位置関係を模式的に示す断面図である。
【
図8】
図8は、垂直撮影で撮影された透過X線像を模式的に示す図である。
【
図9】
図9は、斜め撮影における周溶接部とX線源との位置関係を模式的に示す断面図である。
【
図10】
図10は、斜め撮影で撮影された透過X線像を模式的に示す図である。
【
図11】
図11は、垂直撮影で撮影された透過X線像上における周溶接部PWの位置が、適正範囲内であると判断される場合の例である。
【
図12】
図12は、垂直撮影で撮影された透過X線像上における周溶接部PWの位置が、適正範囲内ではないと判断される場合の例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。各図に示された構成部材間の寸法比は、必ずしも実際の寸法比を示すものではない。
【0013】
[長尺管の製造設備]
本発明の一実施形態による周溶接部の検査方法及び検査装置の適用例として、長尺管の製造設備を説明する。
図1は、本発明の一実施形態による周溶接部の検査装置40が配置された、長尺管の製造設備1の全体の構成を模式的に示す平面図である。この製造設備1はあくまでも例示であり、本実施形態による検査方法が適用される設備、又は本実施形態による検査装置が配置される設備の構成を限定するものではない。
【0014】
製造設備1は、管Pを軸方向に搬送しながら、複数の管Pの端部同士を周溶接して長尺管を製造する設備である。管Pは、例えばステンレス鋼管である。長尺管がアンビリカルチューブとして用いられる場合、管Pは、好ましくは二相ステンレス鋼管である。管Pは、電縫管であってもよいし、継目無管であってもよい。
【0015】
以下、説明の便宜のため、管Pの軸方向をy方向と呼ぶ。また、鉛直方向をz方向と呼び、y方向及びz方向の両方に垂直な方向をx方向と呼ぶ。
【0016】
製造設備1は、搬送装置10、溶接装置20、巻取装置30、及び検査装置40を備えている。
【0017】
搬送装置10は、管Pをy方向に搬送する。搬送装置10は、より具体的には、管Pをx方向の両側から挟持してy方向に搬送するサイドクランプローラ11と、管Pのz方向下側に配置され、管Pを下方から支持するVローラ12とを備えている。搬送装置10は、管Pを管軸方向(y方向)に搬送するものであればよく、この構成に限定されない。搬送装置10は例えば、管Pをy方向に押し出すプッシャであってもよい。
【0018】
溶接装置20は、隣接する一対の管Pの端部同士を周溶接する。溶接装置20は、より具体的には、周溶接機21と、一対の挟持装置22とを備えている。一対の挟持装置22は、隣接する一対の管Pを互いの軸心が一致するように挟持する。周溶接機21は、隣接する一対の管Pの端部を周溶接し、周溶接部PWを形成する。
【0019】
巻取装置30は、溶接装置20によって周溶接されて形成された長尺管をリール31によって巻き取る。巻取装置30は、より具体的には、リール31に加えて、リール31を回転させる回転機構(不図示)と、リール31をx方向に移動させる移動機構(不図示)とを備えている。巻取装置30は、回転機構によってリール31を回転させるとともに、移動機構によってリール31を移動させることで、長尺管をリール31の外表面上に巻き取る。
【0020】
検査装置40は、溶接装置20と巻取装置30との間に配置され、溶接装置20によって形成された周溶接部PWの品質を検査する。
【0021】
検査装置40は、より具体的には、X線検査装置41と、X線検査装置41を覆って形成された筐体42と、筐体42の入側及び出側の各々に設けられたX線漏洩防止機構43とを備えている。X線検査装置41の詳しい構成は後述する。X線漏洩防止機構43は、管Pの外周を覆うシャッタを備えており、周溶接部PWの検査中にこのシャッタを閉じることで、X線が筐体42の外側に漏洩するのを防止する。
【0022】
検査装置40は、X線検査装置41によって撮影された透過X線像を分析する制御装置50、及び分析結果を表示する表示装置55をさらに備えている。これらの装置の詳しい動作については後述する。
【0023】
検査装置40によって周溶接部PWに欠陥が見つかった場合の対処としては、これに限定されないが、例えば周溶接部PWの両側を切断して欠陥のある周溶接部PWを除去し、切断によって形成された端部同士を再び周溶接することが考えられる。
【0024】
ここで、溶接装置20及び検査装置40は、y方向に移動できるように構成されていることが好ましい。この構成は例えば、溶接装置20及び検査装置40をy方向に移動可能な台車の上に設置することで実現できる。この構成によれば、周溶接部PWに欠陥が見つかった場合、溶接装置20及び検査装置40を巻取機30側に移動させることで、巻取機30によって巻き取られた長尺管をアンコイルすることなく、溶接装置20による周溶接をやり直すことができる。
【0025】
溶接装置20及び検査装置40はまた、それぞれ独立に移動できるように構成されていることがより好ましい。この構成によれば、管Pの長さに応じて溶接装置20と検査装置40との間の距離を調整することで、溶接装置20による周溶接と、検査装置40による検査とを併行して行えるようにできる。
【0026】
[X線検査装置]
次に、
図2~
図4を参照して、X線検査装置41の詳しい構成を説明する。
図2は、X線検査装置41の斜視図である。
図3は、X線検査装置41をy軸に垂直で
図2の線CLを含む面で切断した断面図であり、
図4は、X線検査装置41をx軸に垂直で
図2の線CLを含む面で切断図した断面図である。なお線CLは、y軸に垂直で、後述するX線源412の放射点412a(
図3及び
図4)を通る直線である。
【0027】
X線検査装置41は、回転機構411、X線源412、及びX線検出器413を備えている。
【0028】
回転機構411は、外側環状部材411aと、外側環状部材411aの内側に回転可能に取り付けられた内側環状部材411bとを備えている。回転機構411は、内側環状部材411bの回転軸がy方向と平行になるように配置されている。
【0029】
X線源412は、放射点412a(例えばスリットの開口)から管Pに向けてX線を放射する。X線検出器413は、管Pを挟んでX線源412に対向する位置に配置され、管Pを透過したX線を検出する。X線検出器413は、平面検出器(FPD)が好適に用いられる。以下では、X線源412によるX線の放射と、X線検出器413によるX線の検出とを合わせて、透過X線像の撮影と呼ぶ場合がある。
【0030】
X線源412及びX線検出器413は、回転機構411の内側環状部材411bに取り付けられている。この構成によれば、内側環状部材411bを回転させることによって、X線源412とX線検出器413とが互いに対向した状態を維持しながら、X線源412及びX線検出器413を管Pの軸方向の周りに回転させることができる。
【0031】
管Pは、管Pの中心P0(
図3)が内側環状部材411bの回転中心と一致するように配置することが好ましい。このように管Pを配置することで、内側環状部材411bを回転させても、X線源412から管Pまでの距離、及び、管PからX線検出器413までの距離を一定に保つことができる。
【0032】
X線検査装置41は例えば、内側環状部材411bを回転させて、予め決められた複数の位置(例えば、60°間隔の三箇所)で透過X線像を撮影する。撮影された透過X線像は、X線検出器413から制御装置50(
図1)に送信される。制御装置50は例えば、透過X線像を表示装置55(
図1)に出力する。作業者は、表示装置55に表示された透過X線像を確認して、溶接部PWに欠陥がないかを判断する。作業者が欠陥の有無を判断することに代えて、制御装置50が画像解析等によって欠陥の有無を自動的に判別し、判別結果を表示装置55に出力するようにしてもよい。あるいは、判別結果を表示装置55に出力するのに代えて、制御装置50が搬送装置10(
図1)や溶接装置20(
図1)に指令を送り、欠陥があった場合は周溶接を自動でやり直すようにしてもよい。
【0033】
[周溶接部の検査方法]
以下、
図5を参照して、本実施形態による周溶接部の検査方法をより詳細に説明する。
【0034】
図5は、本発明の一実施形態による周溶接部の検査方法のフロー図である。この検査方法は、透過X線像上における周溶接部の位置の適正範囲を設定する適正範囲設定工程(ステップS1)と、周溶接部PWとX線源412との間のy方向に沿った距離を調整する工程(ステップS2)と、透過X線像を撮影する工程(ステップS3)と、透過X線像上における周溶接部PWの位置を取得する工程(ステップS4)と、取得した位置が適正範囲内であるかを判定する工程(ステップS5)とを備えている。
【0035】
まず、検査対象の管又は検査対象の管と同一品種の管を用いて、周溶接部PWとX線源412との間のy方向に沿った距離を変えながら複数の透過X線像を撮影し、当該複数の透過X線像に基づいて透過X線像上における周溶接部の位置の適正範囲を設定する(ステップS1)。
【0036】
図4を参照して、周溶接部PWとX線源412との間のy方向に沿った距離(距離d)について説明する。透過X線像を撮影する際の距離dの好適値は、検査の目的によって異なる。後述するとおり、透過X線像の撮影は、周溶接部PWをX線源412の放射点412aの真下に配置して行う場合と、周溶接部PWをX線源412の放射点412aから離れた位置に配置して行う場合とがある。また、距離dの好適値や許容される範囲は、管Pの寸法、溶接の条件等によっても変化する。
【0037】
そこで本実施形態では、予め検査対象の管又は検査対象の管と同一品種の管を用いて距離dを変えながら複数の透過X線像を撮影し、距離dの許容される範囲を調べる。
【0038】
この工程で使用する管は、検査対象の管又は検査対象の管と同一品種の管である。「検査対象の管と同一品種の管」とは、検査対象の管と同一の材質、同一の寸法であって、同一の溶接条件(溶接材料、溶接材料供給速度、溶接入熱量、溶接速度、溶接層数等)で溶接された管を意味する。
【0039】
例えば、長尺管を製造する場合、当該長尺管の1つ目の周溶接部に対して適正範囲設定工程を行うことが考えられる。これは、「検査対象の管」を使用して適正範囲決定工程を行う場合に該当する。一方、製造の対象となる長尺管とは別に、当該長尺管と同一の材質、同一の寸法であって、同一の溶接条件で溶接された管を使用して適正範囲設定工程を行ってもよい。これは、「検査対象の管と同一品種の管」を使用して適正範囲決定工程を行う場合に該当する。以下の説明では、「検査対象の管」と「検査対象と同一品種の管」とを区別せず、単に管と呼ぶ場合がある。
【0040】
同一品種の管を製造する場合、その都度適正範囲設定工程を行う必要はなく、当該品種について過去に決定した適正範囲を使用することもできる。すなわち、適正範囲設定工程は、一品種について一回だけ行えばよい。もっとも、同一品種の管に対してその都度適正範囲設定工程を行っても問題はない。
【0041】
適正範囲設定工程(ステップS1)は、より詳細には、周溶接部PWとX線源412との間のy方向に沿った距離を調整する工程(ステップS1-1)と、透過X線像を撮影する工程(ステップS1-2)と、撮影した透過X線像上における周溶接部PWの位置を取得する工程(ステップS1-3)と、当該透過X線像が撮影されたときの周溶接部PWとX線源412との間のy方向に沿った距離が適正であったかを判定する工程(ステップS1-4)と、透過X線像上における周溶接部PWの位置の適正範囲を決定する工程(ステップS1-5)とを含んでいる。
【0042】
まず、周溶接部PWとX線源412との間のy方向に沿った距離(距離d)を調整する(ステップS1-1)。距離dの調整は例えば、搬送装置10(
図1)によって管Pのy方向の位置を変えることによって行うことができる。また、搬送装置10によらず、管Pのy方向の位置を手動で調整してもよい。X線源412、X線検査装置41、又は検査装置40(
図1)をy方向に移動させることでも、距離dを調整することができる。
【0043】
後述するように、本実施形態では距離dの正確な値を測定する必要はない。
図4では、線CLを基準として距離dを図示しているが、距離dの絶対値は問題とならないため、X線源412の任意の位置を基準として距離dを定義してもよい。
【0044】
続いて、管Pの周溶接部PWの透過X線像を撮影する(ステップS1-2)。より具体的には、管Pの周溶接部PWにX線源412からX線を放射し、管Pを透過したX線をX線検出器413によって検出する。
【0045】
続いて、撮影した透過X線像上における周溶接部PWの位置を取得する(ステップS1-3)。
図6は、透過X線像の一例である。この透過X線像は、紙面上下方向(Y方向)が管Pの軸方向(y方向)に対応し、紙面左右方向(X方向)が管Pの径方向に対応する。この透過X線像から、透過X線像上における周溶接部PWの位置を特定する。
【0046】
透過X線像上における周溶接部PWの位置の特定方法は特に限定されず、後述する位置取得工程(ステップS4)で特定される位置と同じ位置を特定できるものであればよい。例えば、外面余盛の頂点位置(CAP位置)を周溶接部PWの位置とすることが考えられる。
図6の例では、CAP位置のY座標(py)を周溶接部PWの位置としている。CAP位置の特定は例えば、エッジ検出等の画像処理によって行ってもよいし、透過X線像を表示装置55(
図1)に出力した上で、作業者が特定するようにしてもよい。CAP位置は、管Pの径方向(紙面左右方向)のどちらか一方側で特定してもよいし、両側のCAP位置の平均値としてもよい。また、CAP位置に代えて、例えば、2本のフュージョンラインの中間を周溶接部PWの位置としてもよい。
【0047】
続いて、撮影した透過X線像から、当該透過X線像を撮影したときの距離dが適正であったかを判定する(ステップS1-4)。距離dが適正であったかを判定する方法は、検査の目的によって異なるが、以下のようなものを例示できる。
【0048】
透過X線像の撮影は、周溶接部PWをX線源412の放射点412aの真下に配置して行う場合と、周溶接部PWをX線源412の放射点412aから離れた位置に配置して行う場合とがある。以下、前者を垂直撮影、後者を斜め撮影と呼ぶ。
【0049】
図7は、垂直撮影における周溶接部PWとX線源412との位置関係を模式的に示す断面図である。
図8は、垂直撮影で撮影された透過X線像を模式的に示す図である。
図7に示すように、X線源412から放射されたX線は、X線源412側の周溶接部PW1と、X線検出器413側の周溶接部PW2とを通過する。そのため
図8に示すように、透過X線像には、周溶接部PW1と周溶接部PW2とが部分的に重なって表示される。
【0050】
垂直撮影の場合、周溶接部PW1と周溶接部PW2とが重なって写っている部分が大きいほど好ましい。これは、周溶接部の中央に現れる溶け込み不良が周溶接部PW1と周溶接部PW2との境界部部に重なると、判別がしにくくなるためである。そのため例えば、下記の式で定義されるラップ率が1/2以上である場合に、当該透過X線像を撮影したときの距離dが適正であったと判定することができる。
ラップ率=(周溶接部PW1と周溶接部PW2とが重なって写っている部分のY方向の長さw1)/(周溶接部PW1のY方向の長さw)
【0051】
図9は、斜め撮影における周溶接部PWとX線源412との位置関係を模式的に示す断面図である。
図10は、斜め撮影で撮影された透過X線像を模式的に示す図である。斜め撮影の場合も、垂直撮影の場合と同様に、透過X線像には、X線源412側の周溶接部PW1とX線検出器413側の周溶接部PW2とが部分的に重なって表示される。
【0052】
斜め撮影の場合、周溶接部PW1と周溶接部PW2とが重なって写っている部分が小さいほど好ましい。具体的には、透過X線像の撮影を管Pの軸方向の周りに角度θ間隔で行う場合、周溶接部PW1及び周溶接部PW2の一方のみが写っている部分の径方向長さL1と管Pの内径IDとが、下記の関係を満たすことが好ましい。
L1≧ID×sin(θ/2)
【0053】
例えば透過X線像の撮影を60°間隔で周方向の3箇所から行う場合、周溶接部PW1及び周溶接部PW2の一方のみが写っている部分の径方向長さL1が、管Pの内径IDの半分以上とすることが好ましい。そのため例えば、周溶接部PW1及び周溶接部PW2の一方のみが写っている部分の径方向長さL1が管Pの内径IDの半分以上である場合に、当該透過X線像を撮影したときの距離dが適正であったと判定することができる。また、透過X線像の撮影を30°間隔で周方向の6箇所から行う場合、周溶接部PW1及び周溶接部PW2の一方のみが写っている部分の径方向長さL1が管Pの内径IDの約0.258倍以上である場合に、当該透過X線像を撮影したときの距離dが適正であったと判定することができる。
【0054】
以下、必要なデータを取得できるまで、ステップS1-1~ステップS1-4を繰り返す。具体的には例えば、透過X線像上における周溶接部の位置の適正範囲の上下限を特定できるまで、ステップS1-1~ステップS1-4を繰り返す。
【0055】
その後、ステップS1-3で取得した透過X線像上における周溶接部PWの位置と、ステップS1-4で取得した判定結果とに基づいて、透過X線像上における周溶接部の位置の適正範囲を決定する(ステップS1-5)。具体的には例えば、適正と判断された透過X線像うち、最も短い距離で撮影された透過X線像における周溶接部PWの位置を、周溶接部PWの位置の適正範囲の上限又は下限とする(上限とするか下限とするかは、透過X線像上の座標の原点の取り方による。)。同様に、適正と判断された透過X線像うち、最も長い距離で撮影された透過X線像における周溶接部PWの位置を、周溶接部PWの位置の適正範囲の下限又は上限とする。
【0056】
すなわち本実施形態では、周溶接部PWとX線源412との間のy方向に沿った距離(距離d)を、距離dの値そのものではなく、透過X線像上における周溶接部の位置(透過X線像に写った周溶接部の位置)によって管理する。本実施形態によれば、距離dの正確な値を測定する必要がない。そのため、距離dを測定するための追加のハードウェア(センサ等)を必要とすることなく、距離dを正確に管理することができる。
【0057】
続いて、検査対象の管Pの周溶接部PWとX線源412との間のy方向に沿った距離を調整する(ステップS2)。この調整は、ステップS1-1と同様に、搬送装置10(
図1)によって管Pのy方向の位置を変えることによって行ってもよいし、搬送装置10によらず、管Pのy方向の位置を手動で調整してもよい。あるいは、X線源412、X線検査装置41、又は検査装置40(
図1)をy方向に移動させることで調整してもよい。この工程においても、周溶接部PWとX線源412との間のy方向に沿った距離の正確な値を測定する必要はない。
【0058】
続いて、検査対象の管Pの周溶接部PWの透過X線像を撮影する(ステップS3)。より具体的には、管Pの周溶接部PWにX線源412からX線を放射し、管Pを透過したX線をX線検出器413によって検出する。
【0059】
続いて、撮影した透過X線像上における周溶接部PWの位置を取得する(ステップS4)。撮影した透過X線像上における周溶接部PWの位置の取得は、ステップS1-3で用いたものと同様の方法を用いることができる。好ましくは、ステップS1-3で用いたものと同じ方法で行う。
【0060】
最後に、ステップS4で取得した透過X線像上における周溶接部PWの位置が、ステップS1で決定した透過X線像上における周溶接部PWの適正範囲内であるかを判定する(ステップS5)。具体的には例えば、ステップS4で取得した透過X線像上における周溶接部PWの位置が、ステップS1で決定した透過X線像上における周溶接部PWの適正範囲の上限と下限との間にあるかどうかを判定する。
【0061】
図11は、垂直撮影で撮影された透過X線像上における周溶接部PWの位置(1400)が、適正範囲(1400~1600)内であると判断される場合の例である。
図12は、垂直撮影で撮影された透過X線像上における周溶接部PWの位置(1630)が、適正範囲(1400~1600)内ではないと判断される場合の例である。
【0062】
透過X線像上における周溶接部PWの位置が適正範囲内であれば、当該透過X線像を撮影したときの周溶接部PWとX線源412との間のy方向に沿った距離が適正であったと判断できる。一方、透過X線像上における周溶接部PWの適正範囲内でなければ、当該透過X線像を撮影したときの周溶接部PWとX線源412との間のy方向に沿った距離が適正ではなかったと判断できる。この場合の対処としては、これに限定されないが、例えばステップS2に戻って距離の調整と透過X線像の撮影とをやり直すことが考えられる。
【0063】
以上、本発明の一実施形態による周溶接部の検査方法を説明した。本実施形態による周溶接の検査方法によれば、周溶接部PWとX線源412との間のy方向に沿った距離が所定の範囲内であるかを正確に判断することができる。これによって、周溶接部の検査の一貫性を担保することができる。
【0064】
本実施形態によればまた、周溶接部PWとX線源412との間のy方向に沿った距離の正確な値を測定する必要がなく、当該距離を測定するためのセンサ等が不要である。そのため、装置の構成を複雑にせずに済み、また、当該センサ等によってX線が遮られたり、散乱されたりするおそれがない。
【0065】
なお、透過X線像上における周溶接部PWの位置を取得する工程(ステップS4)及び透過X線像上における周溶接部PWの位置が適正範囲内であるかを判定する工程(ステップS5)は、作業者が行ってもよいし、制御装置50(
図1)が自動で行うようにしてもよい。
【0066】
ステップS4及びステップS5を制御装置50が行う場合、制御装置50にステップS1で設定した適正範囲を予め記憶させておき、制御装置50が、X線検出器から透過X線像を受け取り、透過X線像上における管の周溶接部の位置を取得する工程と、取得した位置が予め設定された適正範囲内であるかを判定する工程とを実行するようにすればよい。
【0067】
制御装置50は、判定結果を表示装置55(
図1)に出力するようにしてもよいし、判定結果が不合格であれば自動で透過X線像の撮影をやり直すように搬送装置10(
図1)や検査装置40(
図1)に指令を送るようにしてもよい。
【0068】
以上、本発明の実施の形態を説明した。上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 製造設備
10 搬送装置
20 溶接装置
21 周溶接機
22 挟持装置
30 巻取装置
31 リール
40検査装置
41X線検査装置
411 回転機構
411a 外側環状部材
412b 内側環状部材
412 X線源
412a 放射点
413 X線検出器
P 管
PW、PW1、PW2 周溶接部