(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 18/02 20060101AFI20230214BHJP
F04C 29/04 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
F04C18/02 311Y
F04C29/04 A
(21)【出願番号】P 2019157608
(22)【出願日】2019-08-30
【審査請求日】2021-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】山下 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】服部 友哉
(72)【発明者】
【氏名】前田 拓巳
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/033710(WO,A1)
【文献】特開2002-165406(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0135513(US,A1)
【文献】米国特許第06247907(US,B1)
【文献】特開2014-098357(JP,A)
【文献】米国特許第06305914(US,B1)
【文献】特開2005-188516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
F04C 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジング内に設けられ、駆動軸心周りで回転可能な駆動軸と、
前記ハウジング内に設けられ、前記駆動軸を回転させるモータ機構と、
前記ハウジングに固定されて前記ハウジング内に配置された固定スクロールと、
前記ハウジング内に設けられて前記駆動軸と接続され、回転する前記駆動軸によって公転しつつ、前記固定スクロールとの間に冷媒を圧縮する圧縮室を形成する可動スクロールと、
前記ハウジングに固定されて前記モータ機構と前記可動スクロールとの間に配置され、前記駆動軸を回転可能に支承するとともに、前記ハウジング内に前記モータ機構を収容するモータ室を区画する固定ブロックとを備え、
前記ハウジングには、前記モータ室に冷媒を吸入させる吸入口が形成され、
前記モータ機構は、前記モータ室内に固定されるステータと、前記駆動軸に固定されて前記ステータ内に配置され、前記駆動軸とともに回転可能なロータとを有し、
前記ロータには、前記駆動軸の軸方向に前記ロータを貫通し、内部を冷媒が流通可能な導入通路が形成され、
前記駆動軸には、前記固定ブロックと前記モータ機構との間に配置されるバランスウェイトが設けられ、
前記バランスウェイトは、前記軸方向から見た際、前記駆動軸の径方向で少なくとも前記導入通路の一部を覆う位置まで延在し、
前記導入通路は、前記ロータ及び前記駆動軸の周方向において前記バランスウェイトの外側に位置する第1通路部と、前記バランスウェイトと前記軸方向で対向する第2通路部とを有しており、
前記ステータは、筒状をなすステータコアと、前記ステータコアの前記軸方向の端面から前記軸方向に突出する環状のコイルエンドとを有し、
前記コイルエンドは、前記駆動軸に面する内周面を有し、
前記内周面における前記固定ブロック側は、前記固定ブロックに近づくにつれて前記径方向に広がる形状をなし、
前記バランスウェイトは、前記コイルエンドの一部を前記径方向及び前記軸方向に覆う位置まで延在しており、
前記バランスウェイトは、基端部と、前記基端部と直接接続し、前記基端部から前記径方向に延びるにつれて、前記軸方向で前記固定ブロックに徐々に近づくように傾斜する中間部と、前記基端部とは反対側で前記中間部と直接接続する先端部とを有し、
前記中間部は、前記基端部側から前記先端部側にかけて連続して直線状に傾斜して延び、前記軸方向及び前記径方向において、前記内周面における前記固定ブロックに近づくにつれて前記径方向に広がる形状をなす部分と対向し、
前記バランスウェイトは、前記軸方向及び前記径方向において、前記固定ブロック内で前記駆動軸を支持するラジアル軸受と対向し、
前記基端部は前記軸方向で前記第2通路部と対向し、
前記内周面における前記固定ブロックに近づくにつれて前記径方向に広がる部分は、前記中間部に沿いつつ、前記バランスウェイトから遠ざかるように直線状に傾斜していることを特徴とする電動圧縮機。
【請求項2】
前記第1通路部の通路面積は、前記第2通路部の前記通路面積よりも大きい請求項
1記載の電動圧縮機。
【請求項3】
前記第1通路部は複数である請求項1
又は2記載の電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の電動圧縮機(以下、単に圧縮機という。)が開示されている。この圧縮機は、ハウジングと、駆動軸と、モータ機構と、固定スクロールと、可動スクロールと、固定ブロックとを備えている。
【0003】
駆動軸は、ハウジング内に設けられており、駆動軸心周りで回転可能となっている。モータ機構は、ハウジング内に設けられており、駆動軸を回転させる。固定スクロールは、ハウジングに固定されており、ハウジング内に配置されている。可動スクロールは、ハウジング内に設けられており、駆動軸と接続されている。可動スクロールは、固定スクロールと噛合しており、固定スクロールとの間に圧縮室を形成している。固定ブロックは、ハウジングに固定されており、可動スクロールとモータ機構との間に配置されている。固定ブロックは、駆動軸を回転可能に支承しているとともに、ハウジング内にモータ機構を収容するモータ室を区画している。
【0004】
より詳細には、ハウジングには、外部から圧縮室に冷媒を吸入させる吸入口が形成されている。モータ機構は、ステータとロータとを有している。ステータは、ハウジングの内壁面に固定されることで、モータ室内に固定されている。ロータは、駆動軸に固定されてステータ内に配置されており、駆動軸とともに回転可能となっている。
【0005】
そして、この圧縮機では、駆動軸にバランスウェイトが設けられている。バランスウェイトは、固定ブロックとロータとの間、すなわち、モータ室内に配置されている。バランスウェイトは、駆動軸心から離れるように駆動軸の径方向に延在している。より詳細には、具体的には、バランスウェイトは、駆動軸の径方向でロータを覆う位置まで延在しており、ロータと対向している。
【0006】
この圧縮機では、モータ機構が駆動軸を回転させる。これにより、回転する駆動軸によって、可動スクロールが公転し、吸入口から圧縮室内に吸入された冷媒が圧縮される。ここで、この圧縮機では、駆動軸の回転によってバランスウェイトが生じさせた遠心力が駆動軸に作用する。こうして、圧縮機の作動時における駆動軸心に交差する方向の駆動軸の振れが抑制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の圧縮機では、作動時にモータ機構、特にステータでの発熱量が多いことから、発熱による耐久性の低下が懸念される。このため、ハウジングに対して、モータ室に連通する位置に吸入口を形成するとともに、固定ブロックにモータ室と圧縮室とを連通させる吸入通路を形成し、吸入口からモータ室内に吸入された冷媒によって、ステータを冷却することが考えられる。
【0009】
一方、圧縮機では、車両等への搭載性の向上を図るため、小型化が要求される。このため、ハウジングが小型化されることより、モータ室内において、ハウジングとステータと間、つまり、ステータの外周側に冷媒が流通するための導入通路を形成することが困難となる。
【0010】
そこで、ロータに対し、駆動軸の軸方向に延びる導入通路を形成することが考えられる。しかし、この圧縮機では、モータ室内でバランスウェイトがロータと対向していることから、導入通路を流通して吸入通路に向かう冷媒がバランスウェイトに衝突し得る。これにより、導入通路から吸入通路を経て圧縮室に吸入される冷媒の圧力損失が大きくなり、圧縮機の作動効率が低下する。また、ロータは、ステータ内に配置されているため、導入通路を流通する冷媒がステータに当たり難く、ステータを好適に冷却することが難しい。このため、このような圧縮機では、発熱による耐久性の低下の問題を十分には解決し得ない。
【0011】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、小型化を実現しつつ、耐久性及び作動効率に優れた電動圧縮機を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の電動圧縮機は、ハウジングと、
前記ハウジング内に設けられ、駆動軸心周りで回転可能な駆動軸と、
前記ハウジング内に設けられ、前記駆動軸を回転させるモータ機構と、
前記ハウジングに固定されて前記ハウジング内に配置された固定スクロールと、
前記ハウジング内に設けられて前記駆動軸と接続され、回転する前記駆動軸によって公転しつつ、前記固定スクロールとの間に冷媒を圧縮する圧縮室を形成する可動スクロールと、
前記ハウジングに固定されて前記モータ機構と前記可動スクロールとの間に配置され、前記駆動軸を回転可能に支承するとともに、前記ハウジング内に前記モータ機構を収容するモータ室を区画する固定ブロックとを備え、
前記ハウジングには、前記モータ室に冷媒を吸入させる吸入口が形成され、
前記モータ機構は、前記モータ室内に固定されるステータと、前記駆動軸に固定されて前記ステータ内に配置され、前記駆動軸とともに回転可能なロータとを有し、
前記ロータには、前記駆動軸の軸方向に前記ロータを貫通し、内部を冷媒が流通可能な導入通路が形成され、
前記駆動軸には、前記固定ブロックと前記モータ機構との間に配置されるバランスウェイトが設けられ、
前記バランスウェイトは、前記軸方向から見た際、前記駆動軸の径方向で少なくとも前記導入通路の一部を覆う位置まで延在し、
前記導入通路は、前記ロータ及び前記駆動軸の周方向において前記バランスウェイトの外側に位置する第1通路部と、前記バランスウェイトと前記軸方向で対向する第2通路部とを有しており、
前記ステータは、筒状をなすステータコアと、前記ステータコアの前記軸方向の端面から前記軸方向に突出する環状のコイルエンドとを有し、
前記コイルエンドは、前記駆動軸に面する内周面を有し、
前記内周面における前記固定ブロック側は、前記固定ブロックに近づくにつれて前記径方向に広がる形状をなし、
前記バランスウェイトは、前記コイルエンドの一部を前記径方向及び前記軸方向に覆う位置まで延在しており、
前記バランスウェイトは、基端部と、前記基端部と直接接続し、前記基端部から前記径方向に延びるにつれて、前記軸方向で前記固定ブロックに徐々に近づくように傾斜する中間部と、前記基端部とは反対側で前記中間部と直接接続する先端部とを有し、
前記中間部は、前記基端部側から前記先端部側にかけて連続して直線状に傾斜して延び、前記軸方向及び前記径方向において、前記内周面における前記固定ブロックに近づくにつれて前記径方向に広がる形状をなす部分と対向し、
前記バランスウェイトは、前記軸方向及び前記径方向において、前記固定ブロック内で前記駆動軸を支持するラジアル軸受と対向し、
前記基端部は前記軸方向で前記第2通路部と対向し、
前記内周面における前記固定ブロックに近づくにつれて前記径方向に広がる部分は、前記中間部に沿いつつ、前記バランスウェイトから遠ざかるように直線状に傾斜していることを特徴とする。
【0013】
本発明の電動圧縮機では、ハウジングに形成された吸入口によって、冷媒がモータ室内に吸入される。また、ロータに対して導入通路が形成されており、モータ室内の冷媒は、導入通路を流通する。このように、この圧縮機では、モータ室内において、ステータの外周側に導入通路を設けるためのスペースを確保する必要がなく、その分、ハウジングを小型化できる。
【0014】
また、この圧縮機では、駆動軸にバランスウェイトが設けられており、このバランスウェイトは、固定ブロックとステータとの間、すなわちモータ室内に配置されている。そして、バランスウェイトは、駆動軸の径方向で少なくとも導入通路の一部を覆う位置まで延在している。
【0015】
ここで、導入通路は、第1通路部と第2通路部とを有している。そして、第1通路部は、ロータ及び駆動軸の周方向において、バランスウェイトの外側に位置している。このため、第1通路部を流通した冷媒は、バランスウェイトに衝突することがない。つまり、第1通路部を流通した冷媒は、バランスウェイトとの衝突に起因する圧力損失を生じさせることなく、最終的に圧縮室に吸入される。一方、第2通路部は、バランスウェイトと対向している。このため、第2通路部を流通した冷媒は、バランスウェイトと衝突することで、モータ室内を駆動軸の径方向の外側、つまり、ステータ側に向かって流通する。これにより、この圧縮機では、第2通路部を流通した冷媒によって、ステータを好適に冷却できる。
【0016】
このように、この圧縮機では、第2通路部を流通する冷媒については、バランスウェイトとの衝突に起因する圧力損失が不可避となるものの、第1通路部を流通した冷媒を含め、圧縮室に吸入される冷媒全体としての圧力損失を抑制することができる。
【0017】
したがって、本発明の電動圧縮機は、小型化を実現しつつ、耐久性及び作動効率に優れている。
【0018】
第1通路部は複数であることが好ましい。この場合には、第1通路部を流通する冷媒の流量を多くすることができるため、圧縮室に吸入される冷媒の圧力損失を好適に抑制することができる。また、第1通路部を複数とすることにより、第1通路部を流通する冷媒の流量を多くするに当たって、導入通路をロータに過度に大きく形成する必要がない。このため、ロータ、ひいてはモータ機構を小型化することができるため、この点においても、圧縮機の小型化を実現できる。
【0019】
また、第1通路部の通路面積は、第2通路部の通路面積よりも大きいことが好ましい。この場合には、第2通路部を流通する冷媒の流量に比べて、第1通路部を流通する冷媒の流量が多くなるため、圧縮室に吸入される冷媒全体としての圧力損失をより好適に抑制することができる。
【0020】
ステータは、筒状をなすステータコアと、ステータコアの軸方向の端面から軸方向に突出する環状のコイルエンドとを有し得る。そして、バランスウェイトは、コイルエンドの一部を径方向及び軸方向に覆う位置まで延在していることが好ましい。
【0021】
ステータにおいて、コイルエンドは圧縮機の作動時により発熱し易いことから、コイルエンドに対する十分な冷却が必要となる。この点、この圧縮機では、バランスウェイトがコイルエンドの一部を駆動軸の径方向に覆う位置まで延在している。このため、第2通路部を流通した冷媒は、バランスウェイトによって、コイルエンド側まで好適に流通する。これにより、この圧縮機では、第2通路部を流通した冷媒によって、コイルエンド、ひいてはステータをより好適に冷却できる。
【0022】
また、このようにバランスウェイトがコイルエンドの一部を駆動軸の径方向に覆う位置まで延在することにより、バランスウェイトは、圧縮機の作動時に駆動軸心から十分に離れた位置で遠心力を生じさせることができる。これにより、この圧縮機では、バランスウェイトを軽量化しつつ、バランスウェイトが生じさせた遠心力によって、駆動軸の径方向の振れを好適に抑制できる。
【0023】
さらに、バランスウェイトは、コイルエンドの一部を駆動軸の軸方向にも覆うことから、この圧縮機では、バランスウェイトを固定ブロックとモータ機構との間に配置しつつ、バランスウェイトとコイルエンドとを駆動軸の軸方向に可及的に近づけることが可能となる。これにより、この圧縮機では、軸長の大型化を抑制できるため、この点においても、小型化を実現できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の電動圧縮機は、小型化を実現しつつ、耐久性及び作動効率に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、実施例1の圧縮機を示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1の圧縮機に係り、駆動軸及びバランスウェイトを示す斜視図である。
【
図3】
図3は、実施例1の圧縮機に係り、バランスウェイト及びステータ等を示す要部拡大断面図である。
【
図4】
図4は、実施例1の圧縮機に係り、ロータ、駆動軸及びバランスウェイトを
図1のD1方向から見た正面図である。
【
図5】
図5は、実施例2の圧縮機に係り、ロータ、駆動軸及びバランスウェイトを示す
図4と同様の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を具体化した実施例1、2を図面を参照しつつ説明する。実施例1、2の圧縮機は、具体的には、スクロール型電動圧縮機である。これらの圧縮機は、図示しない車両に搭載されており、車両の冷凍回路を構成している。
【0027】
(実施例1)
図1に示すように、実施例1の圧縮機は、ハウジング1と、固定ブロック3と、駆動軸5と、モータ機構7と、固定スクロール9と、可動スクロール11とを備えている。ハウジング1は、モータハウジング13とコンプレッサハウジング15とで構成されている。なお、
図1では、説明を容易にするため、駆動軸5やモータ機構7等の形状を簡略化して図示している。後述する
図3についても同様である。
【0028】
図1に示すように、本実施例では、モータハウジング13が位置する側を圧縮機の前方側とし、コンプレッサハウジング15が位置する側を圧縮機の後方側として、圧縮機の前後方向を規定している。また、圧縮機の上下方向を規定している。そして、
図2以降では、
図1に対応して前後方向及び上下方向を規定している。なお、これらの各方向は説明の便宜上のための一例であり、圧縮機は、搭載される車両等に対応して、その姿勢が適宜変更される。
【0029】
モータハウジング13は、前壁13aと第1周壁13bとを有している。前壁13aは、モータハウジング13の前端、すなわち、ハウジング1の前端に位置しており、モータハウジング13の径方向に延びている。第1周壁13bは、前壁13aと接続しており、前壁13aから駆動軸5の駆動軸心O方向で後方に向かって延びている。これらの前壁13aと第1周壁13bとにより、モータハウジング13は、有底の筒状をなしている。そして、前壁13aと第1周壁13bとにより、モータハウジング13内には、モータ室17が形成されている。なお、駆動軸心Oは、圧縮機の前後方向と平行である。
【0030】
モータハウジング13には、吸入口13cと支持部13dとが形成されている。吸入口13cは、第1周壁13bにおける前方側に形成されており、モータハウジング13内、すなわち後述するモータ室17と連通している。吸入口13cは、図示しない配管によって、図示しない蒸発器と接続されている。支持部13dは、前壁13aからモータハウジング13内に向かって突出している。支持部13dは、円筒状をなしており、内部に第1ラジアル軸受19が設けられている。なお、吸入口13cを前壁13aに形成しても良い。
【0031】
コンプレッサハウジング15は、後壁15aと第2周壁15bとを有している。後壁15aは、コンプレッサハウジング15の後端、すなわち、ハウジング1の後端に位置しており、コンプレッサハウジング15の径方向に延びている。第2周壁15bは、後壁15aと接続しており、後壁15aから駆動軸心O方向で前方に向かって延びている。これらの後壁15aと第2周壁15bとにより、コンプレッサハウジング15も、有底の筒状をなしている。
【0032】
コンプレッサハウジング15には、油分離室15cと、第1凹部15dと、吐出通路15eと、吐出口15fとが形成されている。油分離室15cは、コンプレッサハウジング15内において後方側に位置しており、コンプレッサハウジング15の径方向に延びている。第1凹部15dは、コンプレッサハウジング15内において、油分離室15cよりも前方側に位置しており、油分離室15cに向かって凹む形状をなしている。吐出通路15eは、コンプレッサハウジング15内において駆動軸心O方向に延びており、油分離室15cと第1凹部15dとに接続している。吐出口15fは、油分離室15cの上端と連通しており、コンプレッサハウジング15の外部に向かって開口している。吐出口15fは、図示しない配管によって、図示しない凝縮器と接続されている。
【0033】
油分離室15c内には、分離筒21が固定されている。分離筒21は、円筒状をなす外周面21aを有している。外周面21aは、油分離室15cの内周面150と同軸をなしている。これらの外周面21a及び内周面150によって、セパレータが構成されている。また、油分離室15c内において、分離筒21よりも下方側には、フィルタ23が設けられている。
【0034】
固定ブロック3は、モータハウジング13とコンプレッサハウジング15との間に設けられている。そして、モータハウジング13とコンプレッサハウジング15と固定ブロック3とは、コンプレッサハウジング15側から複数のボルト25によって締結されている。こうして、固定ブロック3は、モータハウジング13とコンプレッサハウジング15とに挟持されつつ、モータハウジング13及びコンプレッサハウジング15、すなわちハウジング1に固定されている。これにより、固定ブロック3は、ハウジング1内において、モータ機構7と可動スクロール11との間に配置されている。なお、
図1及び
図3では、複数のボルト25のうちの1つのみを図示している。また、ハウジング1に対する固定ブロック3の固定方法は、適宜設計可能である。
【0035】
そして、固定ブロック3がハウジング1に固定されることにより、固定ブロック3は、モータハウジング13の前壁13a及び第1周壁13bとともに、ハウジング1内にモータ室17を区画している。つまり、モータ室17は、モータハウジング13内に存在しており、吸入口13cと連通している。これにより、吸入口13cは、蒸発器を経た冷媒をモータ室17内に吸入させる。このように、この圧縮機では、モータ室17が吸入室を兼ねている。
【0036】
固定ブロック3には、モータ室17内、ひいてはモータ機構7に向かって突出するボス3aが形成されている。ボス3aの先端には、挿通孔3bが形成されている。ボス3a内には、第2ラジアル軸受27と、シール材29とが設けられている。ボス3aの外径は、後述するコイルエンド73の内径よりも小さく形成されている。また、固定ブロック3の後面側には、複数の自転阻止ピン31が固定されている。各自転阻止ピン31は、固定ブロック3から後方に向かって延びている。なお、
図1及び
図3では、複数の自転阻止ピン31のうちの1つのみを図示している。
【0037】
さらに、固定ブロック3には、吸入通路3cが形成されている。吸入通路3cは、固定ブロック3を前後方向、つまり駆動軸心O方向に貫通している。これにより、吸入通路3cは、モータ室17内と、コンプレッサハウジング15内とを連通している。ここで、吸入通路3cは、固定ブロック3において、モータ機構7よりも駆動軸5の径方向の外側、より具体的には、ステータ7aよりも径方向の外側となる位置に配置されている。
【0038】
図2に示すように、駆動軸5は、駆動軸心O方向に延びる円柱状をなしている。駆動軸5は、小径部5aと、大径部5bと、テーパ部5cとで構成されている。小径部5aは、駆動軸5の前端側に位置している。大径部5bは、小径部5aよりも後方側に位置している。大径部5bは、小径部5aよりも大径に形成されている。大径部5bの後端には、平面状をなす後端面5dが形成されている。テーパ部5cは、小径部5aと大径部5bとの間に位置している。テーパ部5cは前端で小径部5aと接続している。そして、テーパ部5cは、後方に向かうにつれて拡径しつつ、後端で大径部5bに接続している。
【0039】
また、大径部5bには、偏心ピン50が固定されている。偏心ピン50は、後端面5dにおいて、駆動軸心Oから偏心した位置に配置されている。偏心ピン50は、駆動軸5よりも小径をなす円柱状に形成されており、後端面5dから後方に向かって延びている。
【0040】
図1に示すように、駆動軸5は、ハウジング1内に設けられている。そして、駆動軸5は、小径部5aが第1ラジアル軸受19を介して、モータハウジング13の支持部13dに回転可能に支承されている。また、大径部5bの後端側及び偏心ピン50は、固定ブロック3の挿通孔3bに挿通されて、ボス3a内に進入している。そして、ボス3a内において、大径部5bの後端側は、第2ラジアル軸受27に回転可能に支承されている。こうして、駆動軸5は、ハウジング1内で駆動軸心O周りに回転可能となっている。また、シール材29によって、固定ブロック3と駆動軸5との間が封止されている。さらに、偏心ピン50は、ボス3a内でブッシュ50aに嵌合している。
【0041】
図2に示すように、駆動軸5において、大径部5bには、バランスウェイト33が一体に形成されている。バランスウェイト33は、大径部5bにおいて、駆動軸心Oから偏心した位置に配置されている。より具体的には、バランスウェイト33は、駆動軸心Oを挟んで偏心ピン50の反対側となる位置に配置されている。
【0042】
バランスウェイト33は、略扇型をなす板状に形成されている。バランスウェイト33は駆動軸5の径方向で大径部5bから離れる方向、すなわち、大径部5bからモータハウジング13の第1周壁13b側に向かって延びている。バランスウェイト33は、基端部33aと、中間部33bと、先端部33cとで構成されている。
図3に示すように、基端部33aは、大径部5bと接続しており、大径部5bから駆動軸5の径方向に略垂直に延びている。中間部33bは、基端部33aと接続している。中間部33bは、基端部33aから駆動軸5の径方向に延びるにつれて、後方側に徐々に傾斜している。中間部33bは、前面330と後面331とを有している。前面330及び後面331は、中間部33bの形状と同様、駆動軸5の径方向に延びるにつれて、後方側に徐々に傾斜している。先端部33cは、中間部33bと接続しており、中間部33bから駆動軸5の径方向に略垂直に延びている。
【0043】
バランスウェイト33は、駆動軸5がハウジング1内に設けられることにより、モータ室17内に位置している。つまり、バランスウェイト33は、モータ室17内であって、固定ブロック3とモータ機構7との間に位置している。この際、バランスウェイト33、より具体的には、基端部33aは、固定ブロック3のボス3aから距離L1の長さで離間している。これにより、モータ室17内において、バランスウェイト33はボス3aと非接触となっている。
【0044】
図1に示すように、モータ機構7は、モータ室17内に収容されており、バランスウェイト33よりも前方に位置している。モータ機構7は、ステータ7aとロータ7bとを有している。ステータ7aは、ロータ7bの外周側、つまり、ロータ7bと第1周壁13bの内周面との間に配置されている。そして、ステータ7aは、第1周壁13bの内周面に固定されている。これにより、ステータ7aはモータ室17内に固定されている。モータ機構7は、ステータ7aを通じて、モータハウジング13の外部に設けられたインバータ(図示略)と接続されている。
【0045】
ステータ7aは、ステータコア71とコイルエンド73とを有している。ステータコア71は円筒状に形成されている。ステータコア71には、コイル75が捲回されている。コイルエンド73は、ステータコア71における軸方向の端面、すなわち、ステータコア71の前端面及び後端面から、ステータコア71の軸方向に突出する環状をなしている。コイルエンド73は、コイル75の一部によって形成されている。ここで、上記のように、ボス3aの外径は、コイルエンド73の内径よりも小さいため、コイルエンド73は、モータ室17内において、ボス3aの先端を駆動軸心O方向、すなわち駆動軸5の軸方向に覆っている。
【0046】
図3に示すように、コイルエンド73は、駆動軸5に面する内周面73aを有している。内周面73aにおける後方側、つまり、固定ブロック3側は、固定ブロック3に近づくにつれて駆動軸5の径方向に広がる形状をなしている。より具体的には、内周面73aの後方側は、バランスウェイト33の中間部33bに沿いつつ、中間部33bの前面330、ひいてはバランスウェイト33から遠ざかるように傾斜している。このような内周面73aの形状により、モータ室17内において、中間部33bと内周面73a、ひいては、バランスウェイト33とコイルエンド73との干渉が回避されている。
【0047】
この圧縮機では、モータ室17内において、バランスウェイト33は、駆動軸5側から、駆動軸5の径方向でロータ7bを越えてステータ7aのコイルエンド73まで延びている。これにより、バランスウェイト33の中間部33b及び先端部33cは、コイルエンド73の後方側の一部を駆動軸5の径方向及び軸方向に覆っている。この際、中間部33bは、第1領域X1において、コイルエンド73の内周面73aの後方側を駆動軸5の径方向に覆っているとともに、第2領域X2において、内周面73aの後方側を駆動軸5の軸方向に覆っている。
【0048】
図1に示すように、ロータ7bは、ステータ7a内に配置されている。ロータ7bは、ロータ本体701と、第1保持プレート702と、第2保持プレート703と、ロータウェイト704、複数の結合ピン705と、図示しない複数のマグネットコアとを有している。
【0049】
ロータ本体701は、略円環状に形成された複数枚の鋼板を駆動軸心O方向に積層することによって形成されている。ロータ本体701、すなわち各鋼板には、駆動軸5を挿通させる軸孔701aが形成されている。これにより、ロータ本体701は、駆動軸心O方向に延びる略円筒体をなしている。また、各マグネットコアは、ロータ本体701に設けられている。
【0050】
第1保持プレート702及び第2保持プレート703は、円盤状をなす金属製の板材によって形成されている。第1保持プレート702は、ロータ本体701の後方に配置されている。第2保持プレート703は、ロータ本体701の前方に配置されている。
図4に示すように、ロータウェイト704は、略半円状をなす金属の板材によって形成されている。
図1に示すように、ロータウェイト704は、第1、2保持プレート702、703よりも板厚が厚く設定されている。なお、ロータウェイト704の形状や板厚は、適宜設計可能である。
【0051】
ロータ7bでは、駆動軸心O方向の前方側から、ロータウェイト704、第1保持プレート702、ロータ本体701及び第2保持プレート703がこの順で配置されている。また、ロータウェイト704、第1保持プレート702、ロータ本体701及び第2保持プレート703に対して、複数の結合ピン705が挿通されている。そして、結合ピン705の前端及び後端がかしめられることにより、ロータ本体701が第1、2保持プレート702、703に挟持されつつ、第1、2保持プレート702、703に固定されている。また、第1保持プレート702の前面にロータウェイト704が固定されている。なお、各結合ピン705によるロータ本体701、第1、2保持プレート702、703及びロータウェイト704の固定は適宜変更可能である。
【0052】
また、ロータ7bには、第1~5導入通路77a~77eが形成されている。第1~5導入通路77a~77eは、本発明における「導入通路」の一例である。第1~5導入通路77a~77eは、第1保持プレート702からロータ本体701を経て、第2保持プレート703まで、すなわち、吸入口13c側から固定ブロック3側まで駆動軸心O方向に延びている。つまり、第1~5導入通路77a~77eは、ロータ7bを駆動軸心O方向に貫通している。第1~5導入通路77a~77eは、いずれも同形状に形成されており、略扇形状をなしている。なお、第1~5導入通路77a~77eの形状や個数は適宜設計可能である。
【0053】
第1~5導入通路77a~77eは、ロータ7bの周方向に等間隔で配置されている。ここで、上記のように、第1保持プレート702の前面にロータウェイト704が固定されているため、第1~5導入通路77a~77eのうち、第2導入通路77b及び第3導入通路77cは、ロータウェイト704と対向している。これにより、第2導入通路77b及び第3導入通路77cの各前端は、ロータウェイト704によって完全には閉鎖されていないものの、大部分がロータウェイト704によって覆われた状態となっている。一方、第1導入通路77a、第4導入通路77d及び第5導入通路77eは、ロータウェイト704に対してロータ7bの周方向にずれている。
【0054】
この圧縮機では、ロータ本体701の軸孔701aに対して、駆動軸5の大径部5bを焼き嵌めすることにより、ロータ7bが駆動軸5に固定されている。この際、バランスウェイト33に対して、ロータウェイト704が駆動軸心Oを挟んだ反対側に位置するように、ロータ7bと駆動軸5との位置決めが行われている。なお、キー結合等によって、ロータ7bと駆動軸5との固定を行っても良い。
【0055】
このように、ロータ7bと駆動軸5とが固定されることにより、この圧縮機では、ステータ7a内でロータ7bが回転することにより、モータ室17内において、ロータ7bと駆動軸5がと一体で駆動軸心O周りに回転する。
【0056】
また、ロータ7bと駆動軸5とが固定されることにより、バランスウェイト33がロータ7bの後方に位置する。ここで、ロータ7bと駆動軸5とを固定するに当たって、
図3に示すように、バランスウェイト33とロータ7bとの間に離間空間81が設けられている。この離間空間81により、バランスウェイト33、より具体的には、基端部33aは、ロータ7bから駆動軸5の軸方向で後方に距離L2だけ離間している。このため、バランスウェイト33とロータ7bとも非接触となっている。ここで、距離L2は、固定ブロック3のボス3aからバランスウェイト33までの距離L1よりも長く設定されている。また、バランスウェイト33において、中間部33bは、駆動軸5の径方向に延びるにつれて、後方側に徐々に傾斜しているため、中間部33b及び先端部33cは、距離L2よりもより後方に離間している。なお、ロータ7bと駆動軸5とが固定された際、バランスウェイト33がロータ7bと接触しなければ、距離L2の長さ、すなわち離間空間81の大きさは適宜設計可能である。
【0057】
そして、
図4に示すように、この圧縮機では、ロータ7bと駆動軸5とが固定された際、バランスウェイト33は、第1導入通路77aと第4導入通路77dとの間に位置している。そして、上記のように、ロータ7bと駆動軸5とは、一体で駆動軸心O周りに回転する。このため、第1~4導入通路77a~77dは、ロータ7b及び駆動軸5の周方向、すなわち、ロータ7b及び駆動軸5の回転方向において、バランスウェイト33の外側に常に位置することになる。一方、バランスウェイト33、より具体的には、バランスウェイト33の基端部33aは、第5導入通路77eと駆動軸5の軸方向で常に対向する関係にある。ここで、バランスウェイト33とロータ7bとの間に離間空間81が設けられているため、第5導入通路77eを含め、第1~5導入通路77a~77eとバランスウェイト33とは、駆動軸5の軸方向に距離L2で離間している。
【0058】
つまり、この圧縮機では、第1~5導入通路77a~77eのうち、第1~4導入通路77a~77dは、ロータ7b及び駆動軸5の周方向において、バランスウェイト33の外側に常に位置する第1通路部771のみで構成されている。これに対し、第5導入通路77eは、バランスウェイト33と駆動軸5の軸方向で対向する第2通路部772のみで構成されている。こうして、この圧縮機では、4つの第1通路部771と、1つの第2通路部772とが存在する。また、第1通路部771の通路面積は、第1~4導入通路77a~77dの各通路面積の和によって構成され、第2通路部772の通路面積は、第5導入通路77eの通路面積によって構成される。そして、第1~5導入通路77a~77eは、いずれも同一の形状であるため、この圧縮機では、第1通路部771の通路面積が第2通路部772の通路面積よりも大きくなっている。
【0059】
図1に示すように、固定スクロール9は、コンプレッサハウジング15に固定されており、コンプレッサハウジング15内に配置されている。固定スクロール9は、固定基板9aと、固定周壁9bと、固定渦巻壁9cとを有している。固定基板9aは、固定スクロール9の後端に位置しており、円盤状に形成されている。固定基板9aには、第2凹部9dと吐出ポート9eとが形成されている。第2凹部9dは、固定基板9aの後端面から前方に向かって凹む形状をなしている。第2凹部9dは、固定スクロール9がコンプレッサハウジング15に固定されることにより、第1凹部15dと対向する。こうして、第1凹部15dと第2凹部9dとによって、吐出室35が形成されている。吐出室35は、吐出通路15eを通じて油分離室15cと連通している。吐出ポート9eは、固定基板9a内を駆動軸心O方向に延びており、第2凹部9d、ひいては、吐出室35と連通している。
【0060】
また、固定基板9aには、ピン37によって、吐出リード弁39とリテーナ41とが取り付けられている。ピン37、吐出リード弁39及びリテーナ41は、吐出室35内に配置されている。吐出リード弁39は、弾性変形することにより、吐出ポート9eの開閉を行う。リテーナ41は、吐出リード弁39の弾性変形量を規制する。
【0061】
固定周壁9bは、固定基板9aの外周で固定基板9aと接続しており、前方に向かって筒状に延びている。固定周壁9bには、連通孔9fが形成されている。連通孔9fは、固定周壁9bを固定スクロール9の径方向に貫通しており、コンプレッサハウジング15内に開口している。固定渦巻壁9cは、固定基板9aの前面に立ち上げられており、固定周壁9bの内側で固定周壁9bと一体をなしている。
【0062】
また、固定スクロール9には、給油通路43が形成されている。給油通路43は、固定基板9a内及び固定周壁9b内を貫通している。これにより、給油通路43の後端は固定基板9aの後端面に開口しており、給油通路43の前端は固定周壁9bの前端面に開口している。給油通路43は、フィルタ23を通じて油分離室15cと連通している。なお、給油通路43の形状は適宜設計可能である。
【0063】
可動スクロール11は、コンプレッサハウジング15内に設けられており、固定スクロール9と固定ブロック3との間に位置している。可動スクロール11は、可動基板11aと、可動渦巻壁11bとを有している。可動基板11aは、可動スクロール11の前端に位置しており、円盤状に形成されている。可動基板11aには、第3ラジアル軸受45を介してブッシュ50aが回転可能に支持されている。これにより、可動スクロール11は、ブッシュ50a及び偏心ピン50を通じて、駆動軸心Oから偏心した位置で駆動軸5と接続されている。
【0064】
また、可動基板11aには、各自転阻止ピン31の先端部を遊嵌状態で受ける自転阻止孔11cが凹設されている。各自転阻止孔11cには円筒状のリング47が遊嵌されている。
【0065】
可動渦巻壁11bは、可動基板11aの前面に立ち上げられており、固定基板9aに向かって延びている。可動渦巻壁11bの中心近傍には、可動渦巻壁11bの前端に開口しつつ、可動渦巻壁11b内を前後方向に延びて可動基板11aまで貫通する給気孔11dが貫設されている。
【0066】
固定スクロール9と可動スクロール11とは互いに噛み合わされている。これにより、固定スクロール9と可動スクロール11との間には、固定基板9a、固定渦巻壁9c、可動基板11a及び可動渦巻壁11bによって、圧縮室49が形成されている。圧縮室49は、固定周壁9bの連通孔9fを通じてコンプレッサハウジング15内、ひいては吸入通路3cに連通可能となっている。また、圧縮室49は、吐出ポート9eと連通している。
【0067】
固定スクロール9及び可動スクロール11と、固定ブロック3との間には、弾性プレート51が設けられている。そして、固定スクロール9及び可動スクロール11は、弾性プレート51を介して固定ブロック3と当接している。弾性プレート51は、金属製の薄板によって形成されている。可動スクロール11は、弾性プレート51の弾性変形時の復元力によって、固定スクロール9側に付勢されている。
【0068】
また、可動基板11a及び弾性プレート51により、固定ブロック3のボス3a内には、背圧室53が形成されている。背圧室53は給気孔11dと連通している。
【0069】
以上のように構成されたこの圧縮機では、
図1及び
図3の破線矢印で示すように、吸入口13cからモータ室17内の前方側に蒸発器を経た低温低圧の冷媒が吸入される。そして、この冷媒は、ロータ7bの第1~5導入通路77a~77eを流通してモータ室17内の後方側、つまり、モータ室17内における固定ブロック3側に至り、さらに、モータ室17内から固定ブロック3の吸入通路3cを流通する。また、インバータによって制御されつつ、モータ機構7が作動し、ロータ7bが駆動軸心O周りで回転する。これにより、駆動軸5が駆動軸心O周りで回転し、可動スクロール11が公転する。このため、可動基板11aが固定渦巻壁9cの先端を摺動するとともに、固定渦巻壁9cと可動渦巻壁11bとが互いに摺動する。この際、各自転阻止ピン31がリング47の内周面を摺動しつつ転動することにより、可動スクロール11は自転が規制されて公転のみ可能となっている。このように、可動スクロール11が公転することにより、吸入通路3cを流通する冷媒がコンプレッサハウジング15内から連通孔9fを経て、圧縮室49内に吸入される。そして、圧縮室49は、可動スクロール11の公転によって、容積を減少させつつ、内部の冷媒を圧縮する。
【0070】
また、この圧縮機では、可動スクロール11の公転によって、給気孔11dが圧縮室49に僅かに開く。これにより、圧縮室49内の高圧の冷媒の一部が給気孔11dを経て背圧室53内に流入し、背圧室53が高圧となる。このため、この圧縮機では、弾性プレート51及び背圧室53の圧力によって、可動スクロール11が固定スクロール9側に付勢され、圧縮室49が好適に封止される。
【0071】
圧縮室49で圧縮された高圧の冷媒は、吐出ポート9eから吐出室35に吐出され、さらに、吐出室35から、吐出通路15eを経て油分離室15cに至る。そして、この高圧の冷媒は、分離筒21の外周面21aと油分離室15cの内周面150との間を周回する過程で潤滑油を分離しつつ、分離筒21の内部を流通して吐出口15fから吐出される。
【0072】
一方、冷媒から分離された潤滑油は、油分離室15c内に貯留される。そして、この潤滑油は、フィルタ23を経て給油通路43を流通することにより、固定スクロール9と可動スクロール11との摺動箇所に供給され、固定スクロール9と可動スクロール11との摺動箇所を潤滑する。また、給油通路43を流通する潤滑油は、第2ラジアル軸受27と駆動軸5との間の他、モータ室17内にも供給される。
【0073】
この圧縮機では、可動スクロール11が偏心ピン50及びブッシュ50aを通じて、駆動軸5と接続されている。このため、圧縮機の作動時には、可動スクロール11の公転に伴う遠心力が駆動軸5に作用する。一方、駆動軸5にはバランスウェイト33が設けられていることから、圧縮機の作動時には、バランスウェイト33が生じさせた遠心力が駆動軸5に作用する。さらに、駆動軸5とロータ7bとは固定されており、ロータ7bは、ロータウェイト704を有している。このため、圧縮機の作動時には、ロータウェイト704が生じさせた遠心力もロータ7bを通じて駆動軸5に作用することになる。こうして、この圧縮機では、バランスウェイト33が生じさせた遠心力及びロータウェイト704が生じさせた遠心力によって、駆動軸5に作用する可動スクロール11の遠心力を好適に相殺することが可能となっている。このため、この圧縮機では、作動時における駆動軸5の径方向の振れを好適に抑制することが可能となっている。
【0074】
そして、この圧縮機では、ロータ7bに第1~5導入通路77a~77eが形成されているため、モータ室17内において、ステータ7aの外周側に第1~5導入通路77a~77eを設けるためのスペースを確保する必要がない。これにより、この圧縮機では、モータハウジング13の小型化が可能となっている。
【0075】
また、この圧縮機では、モータ室17内において、バランスウェイト33が固定ブロック3とロータ7bとの間に配置されている。また、ロータ7bに形成された第1~5導入通路77a~77eのうち、第1~4導入通路77a~77dは、ロータ7b及び駆動軸5の周方向において、バランスウェイト33の外側に常に位置しており、第5導入通路77eは、バランスウェイト33と常に対向している。
【0076】
このため、各第1通路部771、すなわち第1~4導入通路77a~77dを流通した冷媒は、バランスウェイト33に衝突することなく、モータ室17から吸入通路3cに至り、吸入通路3cを経て圧縮室49に吸入される。つまり、各第1通路部771を流通した冷媒は、バランスウェイト33との衝突に起因する圧力損失を生じさせることなく圧縮室49に吸入される。なお、第2、3導入通路77b、77cの各前端は、大部分がロータウェイト704によって覆われた状態となっている。このため、第1、4導入通路77a、77dに比べて、第2、3導入通路77b、77cでは、冷媒が流通する際の抵抗が大きくなる。この結果、第2、3導入通路77b、77cを流通した冷媒は、バランスウェイト33との衝突に起因する圧力損失は生じないものの、第1、4導入通路77a、77bを流通した冷媒に比べて圧力損失が大きくなる。
【0077】
一方、第2通路部772、すなわち第5導入通路77eを流通した冷媒は、バランスウェイト33の基端部33aと衝突することで、モータ室17内を駆動軸5の径方向の外側、つまり、ステータ7a側に向かって流通する。これにより、この圧縮機では、第2通路部772を流通した冷媒によって、コイルエンド73を含め、ステータ7aを好適に冷却することが可能となっている。
【0078】
ここで、この圧縮機では、駆動軸5の回転によって、バランスウェイト33が駆動軸5とともにモータ室17内で回転する。このため、第5導入通路77eを流通し、ステータ7aの冷却を行った冷媒は、回転するバランスウェイト33によって、モータ室17内で攪拌される。このため、第5導入通路77eを流通した冷媒は、モータ室17内で攪拌される過程で第1~4導入通路77a~77dを流通した冷媒と混合される。そして、バランスウェイト33によって攪拌されることにより、第1~5導入通路77a~77eを流通した冷媒は、モータ室17内において、ステータ7aの外側、つまり、モータ機構7の外側に向かいつつ、吸入通路3c、ひいては圧縮室49内に至ることになる(
図1の破線矢印参照)。
【0079】
このように、この圧縮機では、第5導入通路77eを流通する冷媒については、バランスウェイト33との衝突に起因する圧力損失が不可避となっているものの、第1~4導入通路77a~77dを流通した冷媒を含め、圧縮室49に吸入される冷媒全体としての圧力損失を抑制することが可能となっている。
【0080】
したがって、実施例1の圧縮機は、小型化を実現しつつ、耐久性及び作動効率に優れている。
【0081】
特に、この圧縮機では、第1~5導入通路77a~77eのうち、第1~4導入通路77a~77dの4つが第1通路部771となっている。このため、この圧縮機では、第1通路部771を流通する冷媒の流量を多くするに当たって、第1~4導入通路77a~77dをロータ7bに過度に大きく形成する必要がない。このため、ロータ7b、ひいてはモータ機構7を小型化することができるため、この点においても、この圧縮機では小型化を実現している。
【0082】
また、この圧縮機では、4つの第1通路部771が存在することによって、第1通路部771全体としての流路面積は、第2通路部772の流路面積よりも大きくなっている。このため、第2通路部772を流通する冷媒の流量に比べて、第1通路部771を流通する冷媒の流量が多くなっている。このため、圧縮室49に吸入される冷媒全体としての圧力損失を好適抑制することが可能となっている。
【0083】
さらに、この圧縮機では、バランスウェイト33とロータ7bとの間には、離間空間81が設けられており、この離間空間81によって、バランスウェイト33の基端部33aとロータ7b、すなわち、基端部33aと第5導入通路77eとは、距離L2だけ離間している。このため、基端部33aと第5導入通路77eとは、駆動軸5の軸方向で対向するものの、第5導入通路77eにおける冷媒の流通が基端部33aによって妨げられ難くなっている。このため、第1~4導入通路77a~77d、つまり第1通路部771と同様、第2通路部772である第5導入通路77eにおいても、冷媒が好適に流通可能となっている。
【0084】
また、この圧縮機では、バランスウェイト33が駆動軸5側から、駆動軸5の径方向でコイルエンド73の一部を駆動軸5径方向及び軸方向に覆う位置まで延びている。この圧縮機では、作動時にステータ7aにおいて、コイルエンド73が発熱し易いものの、第5導入通路77eを流通した冷媒は、バランスウェイト33によって、コイルエンド73側まで好適に流通することになる。また、バランスウェイト33の中間部33bの前面330を含め、中間部33bは、基端部33aから駆動軸5の径方向に延びるにつれて、後方側に徐々に傾斜している。これらにより、この圧縮機では、バランスウェイト33が第5導入通路77e流通した冷媒をコイルエンド73側まで好適に案内することが可能となっている。このため、第5導入通路77eを流通した冷媒によって、コイルエンド73、ひいてはステータ7aを好適に冷却することが可能となっている。
【0085】
このように、バランスウェイト33が駆動軸5の径方向でコイルエンド73の一部を駆動軸5径方向に覆う位置まで延びることにより、圧縮機の作動時にバランスウェイト33は、駆動軸心Oから十分に離れた位置で遠心力を生じさせることが可能となっている。これにより、この圧縮機では、バランスウェイト33の板厚を薄く形成して軽量化を図りつつ、バランスウェイト33が生じさせる遠心力を大きくすることが可能となっている。
【0086】
さらに、バランスウェイト33がコイルエンド73の一部を駆動軸の軸方向にも覆うことから、この圧縮機では、バランスウェイト33を固定ブロック3とモータ機構7との間に配置し、かつ、バランスウェイト33とロータ7bとの間に離間空間81を確保しつつも、バランスウェイト33とコイルエンド73とを駆動軸の軸方向に可及的に近づけることが可能となる。これにより、この圧縮機では、軸長の大型化を抑制できるため、この点においても、小型化を実現できる。
【0087】
また、この圧縮機では、固定ブロック3に形成された吸入通路3cがモータ機構7よりも径方向の外側に配置されている。このため、バランスウェイト33によって攪拌されて、モータ機構7の外側に向かって流通する冷媒が吸入通路3cに好適に流通可能となっている。このため、この圧縮機では、モータ室17から吸入通路3cへ流通する過程において、冷媒の圧力損失が生じ難くなっている。
【0088】
(実施例2)
図5に示すように、実施例2の圧縮機では、実施例1の圧縮機に比べて、バランスウェイト33が周方向に大型化されている。このため、この圧縮機では、ロータ7bと駆動軸5とが固定された際、バランスウェイト33の基端部33aは、第5導入通路77eに加えて、第1導入通路77aの一部と、第4導入通路77dの一部と常に対向する関係にある。この結果、この圧縮機では、第1導入通路77a及び第4導入通路77dにおいて、仮想線で囲われた部分は、ロータ7b及び駆動軸5の周方向において、バランスウェイト33の外側に常に位置するため、第1通路部771となっている。一方、第1導入通路77a及び第4導入通路77dにおいて、仮想線で囲われた部分以外は、バランスウェイト33の基端部33aに対向するため、第2通路部772となっている。
【0089】
このように、この圧縮機では、第5導入通路77eに加えて、第1導入通路77aの一部及び第4導入通路77dの一部も第2通路部772となるため、実施例1の圧縮機に比べて、第2通路部772全体としての通路面積が増大しており、その分、第1通路部771全体としての通路面積が減少している。なお、第1、4導入通路77a、77dにおいて仮想線で囲われた部分の他、第2、3導入通路77b、77cは、第1通路部771となるため、この圧縮機でも、第1通路部771は複数存在している。この圧縮機における他の構成は、実施例1の圧縮機と同様であり、同一の構成については同一の符号を付して構成に関する詳細な説明を省略する。
【0090】
この圧縮機では、バランスウェイト33が大型化されることにより、圧縮機の作動にバランスウェイト33がより大きな遠心力を生じさせることが可能となっている。このため、固定スクロール9及び可動スクロール11が大型化され、駆動軸5に作用する可動スクロール11の遠心力が大きくなる場合であっても、駆動軸5の径方向の振れを好適に抑制することが可能となっている。
【0091】
また、この圧縮機では、第5導入通路77eに加えて、第1導入通路77aの一部及び第4導入通路77dの一部も第2通路部772となるため、第2通路部772を流通する冷媒の流量が増大する。このため、この圧縮機では、実施例1の圧縮機に比べて、圧縮室49に吸入される冷媒全体としての圧力損失が不可避的に大きくなるものの、その分、第2通路部772を流通した冷媒によって、コイルエンド73、ひいてはステータ7aを十分に冷却することが可能となっている。この圧縮機における他の作用は、実施例1の圧縮機と同様である。
【0092】
以上において、本発明を実施例1、2に即して説明したが、本発明は上記実施例1、2に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0093】
例えば、実施例1、2の圧縮機では、駆動軸5にバランスウェイト33を一体に形成している。しかし、これに限らず、駆動軸5とバランスウェイト33とを別体に形成し、圧入やネジ止め等によってバランスウェイト33を駆動軸5の大径部5bに固定することで、バランスウェイト33を駆動軸5に設ける構成としても良い。
【0094】
また、実施例1、2の圧縮機では、バランスウェイト33を略扇型をなす板状に形成している。しかし、これに限らず、基端部33a、中間部33b及び先端部33cの各形状を含め、バランスウェイト33の形状は、可動スクロール11の公転に伴う遠心力の大きさに応じて、適宜設計可能である。
【0095】
さらに、実施例1、2の圧縮機では、バランスウェイト33が駆動軸5の径方向でステータ7aのコイルエンド73まで延びている。しかしこれに限らず、バランスウェイト33は、駆動軸5の径方向で少なくとも第5導入通路77eの一部を覆う位置まで延びていれば良い。
【0096】
また、実施例1、2の圧縮機において、バランスウェイト33の中間部33bは、基端部33aから駆動軸5の径方向に延びるにつれて、後方側に徐々に傾斜する形状となっている。しかし、これに限らず、中間部33bは、基端部33aから駆動軸5の径方向に垂直に延びる形状とし、中間部33bの前面330のみが駆動軸5の径方向に延びるにつれて、後方側に徐々に傾斜する形状となっていても良い。
【0097】
さらに、実施例1、2の圧縮機において、バランスウェイト33に対して、冷媒をコイルエンド73側に案内可能なフィンや溝等の案内部を設けても良い。
【0098】
また、実施例1、2の圧縮機では、第1~5導入通路77a~77eを同一の形状に形成している。しかし、これに限らず、第1~5導入通路77a~77eのうち、第1通路部771となる第1~5導入通路77a~77eと、第2通路部772となる第1~5導入通路77a~77eとで異なる形状に形成しても良い。
【0099】
さらに、実施例1、2の圧縮機において、第2、3導入通路77b、77cの形成を省略する一方、第1、4、5導入通路77a、77d、77eを一体化して1つの導入通路を構成し、この導入通路に、第1通路部771と第2通路部772とが設けられる構成としても良い。
【0100】
また、実施例1、2の圧縮機では、吸入通路3cを固定ブロック3に形成しているが、これに限らず、モータハウジング13等に吸入通路3cを形成しても良い。また、実施例1、2の圧縮機について、固定ブロック3がモータハウジング13の内周面に対して、隙間を一部形成しつつ嵌合されるように構成することにより、この隙間を吸入通路3cとしても良い。つまり、モータハウジング13と固定ブロック3との間に吸入通路3cが形成されても良い。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は車両等の空調装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0102】
1…ハウジング
3…固定ブロック
3c…吸入通路
5…駆動軸
7…モータ機構
7a…ステータ
7b…ロータ
9…固定スクロール
11…可動スクロール
13c…吸入口
33…バランスウェイト
49…圧縮室
71…ステータコア
73…コイルエンド
77a~77e…第1~5導入通路(導入通路)
O…駆動軸心