(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】ピン端子、コネクタ、コネクタ付きワイヤーハーネス、及びコントロールユニット
(51)【国際特許分類】
C25D 7/00 20060101AFI20230214BHJP
C25D 5/02 20060101ALI20230214BHJP
C25D 5/12 20060101ALI20230214BHJP
C25D 5/50 20060101ALI20230214BHJP
H01R 12/58 20110101ALI20230214BHJP
H01R 13/03 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
C25D7/00 H
C25D5/02 Z
C25D5/12
C25D5/50
H01R12/58
H01R13/03 D
(21)【出願番号】P 2019170930
(22)【出願日】2019-09-19
【審査請求日】2021-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 幹朗
(72)【発明者】
【氏名】加藤 暁博
(72)【発明者】
【氏名】公文代 充弘
(72)【発明者】
【氏名】坂 喜文
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-154835(JP,A)
【文献】特開2005-206942(JP,A)
【文献】特開2014-191998(JP,A)
【文献】特開2015-149200(JP,A)
【文献】特開2015-210942(JP,A)
【文献】特開2018-090875(JP,A)
【文献】特開2019-057447(JP,A)
【文献】国際公開第2018/221087(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/02
C25D 5/12
C25D 5/50
C25D 7/00
H01R 12/58
H01R 13/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状の基材と、前記基材の所定の領域を覆うめっき層とを備えるピン端子であって、
前記基材の構成材料は、純銅又は銅合金であり、
前記めっき層は、錫を含む金属から構成される錫系層を備え、
前記基材の一端側は、前記基材の周方向の全ての領域を覆う先端被覆部を備え、
前記基材の他端側は、前記基材の周方向の異なる位置に後端被覆部と露出領域とを備え、
前記錫系層は、前記先端被覆部
、および前記後端被覆部を含み、
前記先端被覆部は、前記基材の周方向の異なる位置に薄膜部と厚膜部とを備え、
前記ピン端子の一端から前記ピン端子の長手方向に沿って1mmの地点を測定箇所とし、前記測定箇所で測定された前記先端被覆部の厚さの最大値t
1
と最小値t
2
との差(t
1
-t
2
)が0.20μm以上であり、
前記薄膜部は前記最小値t
2
を有し、前記厚膜部は前記最大値t
1
を有し、
前記薄膜部は、
外層と、前記基材に接して設けられ
る内層とを備え、
前記外層の構成材料は、純錫であり、
前記内層の構成材料は、錫と銅とを含む合金であり、
前記薄膜部の表面に存在するウィスカの数は、一辺の長さが0.35mmである正方形の視野内に15個以下であり、
メニスコグラフ試験機によって測定される前記先端被覆部の最大濡れ力は、0.25mN以上であ
り、
前記後端被覆部は、前記基材の他端側における周方向の一部の領域を覆い、かつ前記基材の長手方向に均一的な厚さを有し、
前記露出領域では、前記めっき層が設けられず前記基材が露出される、
ピン端子。
【請求項2】
棒状の基材と、前記基材の所定の領域を覆うめっき層とを備えるピン端子であって、
前記基材の構成材料は、純銅又は銅合金であり、
前記めっき層は、錫を含む金属から構成される錫系層を備え、
前記基材の一端側は、前記基材の周方向の全ての領域を覆う先端被覆部を備え、
前記基材の他端側は、前記基材の周方向の異なる位置に後端被覆部と露出領域とを備え、
前記錫系層は、前記先端被覆部
、および前記後端被覆部を含み、
前記先端被覆部は、前記基材の周方向の異なる位置に薄膜部と厚膜部とを備え、
前記ピン端子の一端から前記ピン端子の長手方向に沿って1mmの地点を測定箇所とし、前記測定箇所で測定された前記先端被覆部の厚さの最大値t
1
と最小値t
2
との比t
2
/t
1
が0.2以上0.8未満であり、
前記薄膜部は前記最小値t
2
を有し、前記厚膜部は前記最大値t
1
を有し、
前記薄膜部は、
外層と、前記基材に接して設けられ
る内層とを備え、
前記外層の構成材料は、純錫であり、
前記内層の構成材料は、錫と銅とを含む合金であり、
前記薄膜部の表面に存在するウィスカの数は、一辺の長さが0.35mmである正方形の視野内に15個以下であり、
メニスコグラフ試験機によって測定される前記先端被覆部の最大濡れ力は、0.25mN以上であ
り、
前記後端被覆部は、前記基材の他端側における周方向の一部の領域を覆い、かつ前記基材の長手方向に均一的な厚さを有し、
前記露出領域では、前記めっき層が設けられず前記基材が露出される、
ピン端子。
【請求項3】
前記薄膜部における前記外層の厚さは、0.5μm以上であり、
前記薄膜部における前記内層の厚さは、0.1μm以上である
請求項1または請求項2に記載のピン端子。
【請求項4】
前記基材において前記先端被覆部を備える箇所をその軸に直交する平面で切断した断面において、
前記基材の形状は、長方形状であり、
前記基材の外周面は、対向配置される第一面及び第二面と、対向配置される第三面及び第四面とを備え、
前記先端被覆部における前記第一面及び前記第二面の少なくとも一方を覆う箇所は、前記最大値t
1を有し、
前記先端被覆部における前記第三面及び前記第四面の少なくとも一方を覆う箇所は、前記最小値t
2を有する
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のピン端子。
【請求項5】
前記めっき層は、前記先端被覆部における前記第一面及び前記第二面を覆う箇所と前記基材との間に下地層を備え、
前記先端被覆部における前記第三面及び前記第四面を覆う箇所は、前記基材に接して設けられ、
前記下地層の構成材料は、純ニッケル又はニッケル合金である
請求項4に記載のピン端子。
【請求項6】
前記第一面、前記第二面、前記第三面、及び前記第四面において、前記ピン端子の一端から前記ピン端子の長手方向に沿って1mmの地点と、3mmの地点と、5mmの地点とを前記先端被覆部の厚さの測定箇所とし、三つの前記測定箇所において最大厚さと最小厚さとの差をとり、この差の最大値が1.0μm以下である
請求項4または請求項5に記載のピン端子。
【請求項7】
前記基材の構成材料は、前記銅合金であり、
前記銅合金におけるZnの含有量が20質量%以下である請求項1から
請求項6のいずれか1項に記載のピン端子。
【請求項8】
請求項1から
請求項7のいずれか1項に記載のピン端子を備える、
コネクタ。
【請求項9】
請求項8に記載のコネクタと、ワイヤーハーネスとを備え、
前記ワイヤーハーネスは、前記ピン端子の他端側の領域に接続される、
コネクタ付きワイヤーハーネス。
【請求項10】
請求項8に記載のコネクタ、
または請求項9に記載のコネクタ付きワイヤーハーネスと、回路基板とを備え、
前記回路基板と前記ピン端子の一端側の領域とは、はんだによって接続される、
コントロールユニット。
【請求項11】
前記回路基板は、エンジンの燃料噴射及びエンジン点火の少なくとも一方の制御を行う
請求項10に記載のコントロールユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ピン端子、コネクタ、コネクタ付きワイヤーハーネス、及びコントロールユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
相手側端子と回路基板とを接続する端子として、棒状のピン端子が利用されている。ピン端子は、代表的には、特許文献1の明細書[0002]に記載されるように、銅合金からなる基材と、基材の表面を覆う錫めっき層とを有する。
【0003】
特許文献1は、最外層を構成するめっき層として、Sn母相中にSn-Pd系合金相が存在しており、かつ最外層中のPdの含有率が特定の範囲であるものを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
はんだ濡れ性に優れる上に、相手側端子に接続する際の挿入性にも優れるピン端子が望まれている。更に、製造性にも優れるピン端子が望ましい。
【0006】
ピン端子の一端側の領域は、回路基板に接続される領域に利用される。ピン端子の他端側の領域は、相手側端子に接続される領域に利用される。
【0007】
ピン端子と回路基板のスルーホールとの接続には、一般にはんだが利用される。従来、良好なはんだ濡れ性を確保するために、特許文献1に記載されるように、いわゆる後めっき法が利用されている。後めっき法は、板材を打ち抜いたり、塑性加工を施したりして所定の形状の基材を成形した後、基材にめっき層を形成する方法である。後めっき法では、基材の外周面が実質的に全周にわたってめっき層で覆われる。そのため、はんだが塗布されるピン端子の一端側の領域において、はんだは、基材に直接接すること無く、錫めっき層に接する。従って、後めっき法によるピン端子は、はんだ濡れ性に優れる。
【0008】
しかし、後めっき法では、めっき層における基材の端部を覆う箇所が局所的に厚くなり、肥大箇所が形成されることがある。ピン端子の他端側の領域に肥大箇所があれば、ピン端子を相手側端子に挿入して接続する際の摩擦力が大きくなり易い。摩擦力が大きければ、大きな挿入力が必要である。その結果、ピン端子の挿入性が低下し易い。
【0009】
コントロールユニット、例えば自動車のエンジンコントロールユニット(ECU)に利用されるコネクタには、多数のピン端子を備えるものがある。ピン端子の数に比例して、コネクタにおける上記挿入力が大きくなる。そのため、コネクタの挿入性が更に低下し易い。従って、上記挿入力を低く抑えることが望まれる。
【0010】
特許文献1は、上述の特定の最外層を備えることで、上記挿入力を低くできる上に、良好なはんだ濡れ性を確保できるとする。しかし、後めっき法によって上記最外層が形成されれば、上述の肥大箇所が生じ得る。従って、上記挿入力を低くすることに対して、改善の余地がある。また、製造過程では、Pdめっき層を形成する必要がある。そのため、製造性の点でも、改善の余地がある。
【0011】
そこで、本開示は、はんだ濡れ性に優れる上に、相手側端子への挿入性にも優れるピン端子を提供することを目的の一つとする。また、本開示は、はんだ濡れ性に優れる上に、相手側端子への挿入性にも優れるコネクタ、コネクタ付きワイヤーハーネス、コントロールユニットを提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示のピン端子は、
棒状の基材と、前記基材の所定の領域を覆うめっき層とを備えるピン端子であって、
前記基材の構成材料は、純銅又は銅合金であり、
前記めっき層は、錫を含む金属から構成される錫系層を備え、
前記基材の一端側は、前記基材の周方向の全ての領域を覆う先端被覆部を備え、
前記錫系層は、前記先端被覆部を含み、
前記先端被覆部は、前記基材の周方向の異なる位置に薄膜部と厚膜部とを備え、
前記薄膜部は、前記基材に接して設けられ、
前記薄膜部の表面に存在するウィスカの数は、一辺の長さが0.35mmである正方形の視野内に15個以下であり、
メニスコグラフ試験機によって測定される前記先端被覆部の最大濡れ力は、0.25mN以上である。
【0013】
本開示のコネクタは、
本開示のピン端子を備える。
【0014】
本開示のコネクタ付きワイヤーハーネスは、
本開示のコネクタと、ワイヤーハーネスとを備え、
前記ワイヤーハーネスは、前記ピン端子の他端側の領域に接続される。
【0015】
本開示のコントロールユニットは、
本開示のコネクタ、又は本開示のコネクタ付きワイヤーハーネスと、回路基板とを備え、
前記回路基板と前記ピン端子の一端側の領域とは、はんだによって接続される。
【発明の効果】
【0016】
本開示のピン端子、本開示のコネクタ、本開示のコネクタ付きワイヤーハーネス、及び本開示のコントロールユニットは、はんだ濡れ性に優れる上に、相手側端子への挿入性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施形態に係るピン端子の概略を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すII-II切断線で切断した断面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示すIII-III切断線で切断した断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係るコネクタの概略を示す側面図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係るコネクタ付きワイヤーハーネスの概略を示す側面図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係るコントロールユニットの概略を示す側面図である。
【
図7】
図7は、ピン端子の製造方法を説明する工程図である。
【
図8A】
図8Aは、試験例1で作製した試料No.3のピン端子における一端側の領域をその軸に直交する平面で切断した断面を示す顕微鏡写真である。
【
図8B】
図8Bは、
図8Aの顕微鏡写真において、破線の長方形Bで囲まれた領域を拡大して示す顕微鏡写真である。
【
図8C】
図8Cは、
図8Aの顕微鏡写真において、破線の長方形Cで囲まれた領域を拡大して示す顕微鏡写真である。
【
図8D】
図8Dは、
図8Aの顕微鏡写真において、破線の長方形Dで囲まれた領域を拡大して示す顕微鏡写真である。
【
図8E】
図8Eは、
図8Aの顕微鏡写真において、破線の長方形Eで囲まれた領域を拡大して示す顕微鏡写真である。
【
図9】
図9は、試験例2で作製した各試料のピン端子について、熱処理温度と最大濡れ力及び錫の突起物の数との関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、試験例2で作製した各試料のピン端子について、基材の一端側の領域に存在する錫系層のうち、純錫からなる外層の厚さと最大濡れ力との関係を示すグラフである。
【
図11】
図11は、試験例2で作製した各試料のピン端子について、基材の一端側の領域に存在する錫系層のうち、錫と銅とを含む合金からなる内層の厚さと錫の突起物の数との関係を示すグラフである。
【
図12A】
図12Aは、試験例2において、二次めっき後に熱処理を施していない試料No.1のピン端子について、薄膜部の表面の顕微鏡写真である。
【
図12B】
図12Bは、試験例2において、二次めっき後の熱処理温度を200℃とした試料No.2のピン端子について、薄膜部の表面の顕微鏡写真である。
【
図12C】
図12Cは、試験例2において、二次めっき後の熱処理温度を220℃とした試料No.4のピン端子について、薄膜部の表面の顕微鏡写真である。
【
図12D】
図12Dは、試験例2において、二次めっき後の熱処理温度を240℃とした試料No.50のピン端子について、薄膜部の表面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)本開示の一態様に係るピン端子は、
棒状の基材と、前記基材の所定の領域を覆うめっき層とを備えるピン端子であって、
前記基材の構成材料は、純銅又は銅合金であり、
前記めっき層は、錫を含む金属から構成される錫系層を備え、
前記基材の一端側は、前記基材の周方向の全ての領域を覆う先端被覆部を備え、
前記錫系層は、前記先端被覆部を含み、
前記先端被覆部は、前記基材の周方向の異なる位置に薄膜部と厚膜部とを備え、
前記薄膜部は、前記基材に接して設けられ、
前記薄膜部の表面に存在するウィスカの数は、一辺の長さが0.35mmである正方形の視野内に15個以下であり、
メニスコグラフ試験機によって測定される前記先端被覆部の最大濡れ力は、0.25mN以上である。
【0019】
本開示のピン端子は、基材の一端側において、最大濡れ力が高く、はんだ濡れ性に優れる。この理由は、基材の一端側の表面を全周にわたって覆う先端被覆部をはんだとの接合領域に利用できるからである。
【0020】
また、本開示のピン端子は、基材の他端側において、相手側端子への挿入性に優れる。この理由の一つとして、以下のことが挙げられる。基材の一端側に、薄膜部と厚膜部という異なる厚さを有する先端被覆部を備えるピン端子は、基材の他端側に上述の肥大箇所を有さない。このようなピン端子では、基材の他端側の領域を相手側端子に接続する際の挿入力が小さい。
【0021】
このような本開示のピン端子は、以下の製造方法によって製造することが挙げられる。この製造方法は、上述の後めっき法ではなく、いわゆる先めっき法とめっきの形成領域を部分的とする後めっき法とを複合的に利用すると共に、後めっき後に特定の熱処理を行う。以下、この製造方法を多段めっき製法と呼ぶことがある。多段めっき製法の詳細は、後述する。先めっき法は、基材の素材となる板に錫系層を形成した後、錫系層付きの板を打ち抜く等して、所定の形状を有する基材を成形する方法である。部分的な後めっき後に特定の熱処理を行うことで、先めっき法によって形成された錫系層、特に純錫から構成される層の溶融が防止される。その結果、上記肥大箇所の発生が防止される。また、特定の熱処理によって、錫系層のうち基材に接する箇所の表面にウィスカが生じることも低減される。
【0022】
更に、本開示のピン端子は、基材の一端側において、錫を含む薄膜部を基材に接して備えるものの、ウィスカの数が少ない。このような本開示のピン端子は、多数のピン端子が近接して配置される用途、例えば各種のコントロールユニットの回路基板に接続される用途等において、隣り合うピン端子間がウィスカによって短絡することを防止できる。
【0023】
加えて、本開示のピン端子は、製造性にも優れる。この理由の一つとして、Pdめっき層の形成が不要であることが挙げられる。
【0024】
(2)本開示のピン端子の一例として、
前記先端被覆部は、外層と内層とを備え、
前記外層の構成材料は、純錫であり、
前記内層の構成材料は、錫と銅とを含む合金である形態が挙げられる。
【0025】
上記形態は、外層によって高い最大濡れ力を有し易く、はんだ濡れ性に優れる。また、内層によってウィスカの発生が低減されて、薄膜部のウィスカの数が少なくなり易い。
【0026】
(3)上記(2)のピン端子の一例として、
前記薄膜部における前記外層の厚さは、0.5μm以上であり、
前記薄膜部における前記内層の厚さは、0.1μm以上である形態が挙げられる。
【0027】
上記形態は、外層によって高い最大濡れ力をより確実に有し易い。また、内層によって薄膜部のウィスカの数がより少なくなり易い。
【0028】
(4)本開示のピン端子の一例として、
前記ピン端子の一端から前記ピン端子の長手方向に沿って1mmの地点を測定箇所とし、前記測定箇所で測定された前記先端被覆部の厚さの最大値t1と最小値t2との差(t1-t2)が0.20μm以上である形態が挙げられる。
【0029】
上記形態は、多段めっき製法によって製造できる。この場合、薄膜部のウィスカの数が少なくなり易い。また、この場合、上述のように肥大箇所の発生が防止されるため、上記形態は相手側端子への挿入性に優れる。更に、この場合、先めっき法によって形成される錫系層の厚さは、概ね、差(t1-t2)に相当する。つまり、基材の他端側の領域は、基材の周方向の一部に厚さが0.20μm以上の錫系層を備える。このような本開示のピン端子は、相手側端子との接続抵抗も低減できる。
【0030】
(5)本開示のピン端子の一例として、
前記ピン端子の一端から前記ピン端子の長手方向に沿って1mmの地点を測定箇所とし、前記測定箇所で測定された前記先端被覆部の厚さの最大値t1と最小値t2との比t2/t1が0.2以上0.8未満である形態が挙げられる。
【0031】
上記形態は、多段めっき製法によって製造できる。この場合、薄膜部のウィスカの数が少なくなり易い。また、この場合、上述のように肥大箇所の発生が防止されるため、上記形態は相手側端子への挿入性に優れる。
【0032】
(6)上記(4)又は(5)のピン端子の一例として、
前記薄膜部は、前記最小値t2を有し、
前記厚膜部は、前記最大値t1を有する形態が挙げられる。
【0033】
上記形態は、はんだ濡れ性に優れると共に、厚膜部ではウィスカの発生をより低減し易い。
【0034】
(7)上記(4)から(6)のいずれか一つのピン端子の一例として、
前記基材において前記先端被覆部を備える箇所をその軸に直交する平面で切断した断面において、
前記基材の形状は、長方形状であり、
前記基材の外周面は、対向配置される第一面及び第二面と、対向配置される第三面及び第四面とを備え、
前記先端被覆部における前記第一面及び前記第二面の少なくとも一方を覆う箇所は、前記最大値t1を有し、
前記先端被覆部における前記第三面及び前記第四面の少なくとも一方を覆う箇所は、前記最小値t2を有する形態が挙げられる。
【0035】
上記形態は、多段めっき製法によって製造できるため、製造性に優れる。代表的には、第一面及び第二面は、先めっき法によるめっき層が形成される面である。第三面及び第四面は、打ち抜きによる切断面である。
【0036】
(8)上記(7)のピン端子の一例として、
前記めっき層は、前記先端被覆部における前記第一面及び前記第二面を覆う箇所と前記基材との間に下地層を備え、
前記先端被覆部における前記第三面及び前記第四面を覆う箇所は、前記基材に接して設けられ、
前記下地層の構成材料は、純ニッケル又はニッケル合金である形態が挙げられる。
【0037】
特に厚膜部では、下地層によってウィスカの発生がより低減され易い。
【0038】
(9)上記(7)又は(8)のピン端子の一例として、
前記第一面、前記第二面、前記第三面、及び前記第四面において、前記ピン端子の一端から前記ピン端子の長手方向に沿って1mmの地点と、3mmの地点と、5mmの地点とを前記先端被覆部の厚さの測定箇所とし、三つの前記測定箇所において最大厚さと最小厚さとの差をとり、この差の最大値が1.0μm以下である形態が挙げられる。
【0039】
上記形態は、はんだが塗布される領域をピン端子の長手方向に長く確保し易く、はんだを塗布し易い。
【0040】
(10)本開示のピン端子の一例として、
前記基材の構成材料は、前記銅合金であり、
前記銅合金におけるZnの含有量が20質量%以下である形態が挙げられる。
【0041】
上記形態では、先端被覆部にはんだを塗布した場合に、はんだ付け不良、具体的には後述するはんだつららが生じ難い。そのため、上述の多数のピン端子が近接して配置される用途等において、隣り合うピン端子間がはんだつららによって短絡することが防止される。このような上記形態は、多数のピン端子を備えるコネクタ等に好適である。
【0042】
(11)本開示のピン端子の一例として、
前記基材の他端側は、前記基材の周方向の異なる位置に後端被覆部と露出領域とを備え、
前記錫系層は、前記後端被覆部を含み、
前記後端被覆部は、前記基材の他端側における周方向の一部の領域を覆い、
前記露出領域では、前記めっき層が設けられず前記基材が露出される形態が挙げられる。
【0043】
上記形態は、基材の一端側の領域を回路基板に接続される領域とし、基材の他端側の領域を相手側端子に接続される領域とすることで、はんだ濡れ性に優れる上に、相手側端子への挿入性にも優れる。また、上記形態は、後端被覆部によって、相手側端子との接続抵抗を低減できる。
【0044】
(12)本開示の一態様に係るコネクタは、
上記(1)から(11)のいずれか一つのピン端子を備える。
【0045】
本開示のコネクタは、先端被覆部によって、ピン端子の一端側の領域と回路基板とをはんだによって良好に接続できる。また、本開示のコネクタは、ピン端子の他端側の領域を相手側端子に挿入し易い。更に、本開示のコネクタは、多数のピン端子が近接して配置される場合でも、各ピン端子のウィスカの数が少ないため、隣り合うピン端子間がウィスカによって短絡することを防止できる。
【0046】
(13)本開示の一態様に係るコネクタ付きワイヤーハーネスは、
上記(12)のコネクタと、ワイヤーハーネスとを備え、
前記ワイヤーハーネスは、前記ピン端子の他端側の領域に接続される。
【0047】
本開示のコネクタ付きワイヤーハーネスは、ピン端子の一端側の領域と回路基板とをはんだによって良好に接続できる。また、本開示のコネクタ付きワイヤーハーネスは、ピン端子の他端側の領域をワイヤーハーネスの端部に取り付けられる端子、即ち相手側端子に挿入し易く、挿入作業性に優れる。更に、本開示のコネクタ付きワイヤーハーネスは、多数のピン端子が近接して配置される場合でも、各ピン端子のウィスカの数が少ないため、隣り合うピン端子間がウィスカによって短絡することを防止できる。
【0048】
(14)本開示の一態様に係るコントロールユニットは、
上記(12)のコネクタ、又は上記(13)のコネクタ付きワイヤーハーネスと、回路基板とを備え、
前記回路基板と前記ピン端子の一端側の領域とは、はんだによって接続される。
【0049】
本開示のコントロールユニットでは、ピン端子の一端側の領域と回路基板とがはんだによって良好に接続される。そのため、ピン端子と回路基板との接続抵抗が低い。また、本開示のコントロールユニットは、ピン端子の他端側の領域をワイヤーハーネスの端部に取り付けられる端子、即ち相手側端子に挿入し易く、挿入作業性に優れる。特に、多数、例えば200以上、更に250以上のピン端子を備える場合でも、相手側端子に接続する際の挿入力が大き過ぎず、挿入作業が容易に行える。更に、本開示のコントロールユニットは、多数のピン端子が近接して配置される場合でも、各ピン端子のウィスカの数が少ないため、ピン端子同士がウィスカによって短絡することを防止できる。
【0050】
(15)本開示のコントロールユニットの一例として、
前記回路基板は、エンジンの燃料噴射及びエンジン点火の少なくとも一方の制御を行う形態が挙げられる。
【0051】
上記形態は、多数、例えば200以上、更に250以上のピン端子を備えることがある。この場合でも、上記形態は、相手側端子に接続する際の挿入力が大き過ぎず、挿入性に優れる。また、各ピン端子のウィスカの数が少ないため、ウィスカによる隣り合うピン端子間の短絡が生じ難い。
【0052】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面を参照して、本開示の実施の形態を詳細に説明する。図中の同一符号は、同一名称物を示す。
【0053】
[ピン端子]
(概要)
以下、主に
図1~
図3を参照して、実施形態のピン端子を説明する。
実施形態のピン端子1は、
図1に示すように棒状の金属部材である。ピン端子1は、代表的には、後述する
図4に示すようにコネクタ6の筐体60に支持されて、電気的接続部材として利用される。ピン端子1の一端側の領域は、相手側端子との接続領域として利用される。ピン端子1の他端側の領域は、後述する
図6に示すように回路基板80との接続領域として利用される。
【0054】
詳しくは、ピン端子1は、棒状の基材2と、めっき層3とを備える。めっき層3は、基材2の所定の領域を覆う。基材2の構成材料は、純銅又は銅合金である。めっき層3は、錫(Sn)を含む金属から構成される錫系層30を備える。
【0055】
実施形態のピン端子1では、基材2の一端側の領域と他端側の領域とにおいて錫系層30によって基材2の表面が被覆される範囲が異なる。基材2の一端側の領域では、
図2に示すように、錫系層30は基材2の周方向の全周を覆う。基材2の他端側の領域では、
図3に示すように、錫系層30は基材2の周方向の一部を覆い、他部を覆わない。基材2の他端側の領域では、めっき層3が設けられず基材2の一部が露出されている。以下、基材2におけるめっき層3から露出された領域を露出領域26と呼ぶ。特に、実施形態のピン端子1は、基材2の一端側の領域において、錫系層30の厚さが基材2の周方向に異なると共に、後述するように高い最大濡れ力を有する。また、このピン端子1は、基材2の一端側の領域において、錫系層30の表面にウィスカの数が少ない、好ましくはウィスカが存在しない。
以下、基材2、めっき層3の全体構成をまず説明する。次に、基材2の一端側の領域、他端側の領域を順に説明する。
【0056】
(基材)
〈組成〉
ピン端子1の主体である基材2は、純銅又は銅合金から構成される。
【0057】
純銅は、99.9質量%以上の銅(Cu)を含み、残部が不可避不純物からなる。純銅からなる基材2は、導電率が高く、接続抵抗を低くし易い。
【0058】
銅合金は、添加元素を含み、残部がCu及び不可避不純物からなり、Cuを最も多く含む合金である。添加元素は、例えば亜鉛(Zn)、錫(Sn)、リン(P)、鉄(Fe)等が挙げられる。添加元素の合計含有量は例えば0.05質量%以上40質量%以下が挙げられる。銅合金からなる基材2は、純銅からなる基材2よりも強度等の機械的特性に優れる。
【0059】
具体的な銅合金として、Znを含む黄銅、Feを含む鉄入り銅、SnとPとを含むリン青銅が挙げられる。黄銅は、JISに規定される合金番号C2600、C2680が挙げられる。鉄入り銅は、上記合金番号C1940が挙げられる。リン青銅は、上記合金番号C5191、C5210が挙げられる。
【0060】
C2600,C2680はZnを28質量%以上40質量%以下程度の範囲で含む。
【0061】
C1940はFeを2.1質量%以上2.6質量%以下、Znを0.05質量%以上0.20質量%以下、Pを0.015質量%以上0.150質量%以下含む。
【0062】
C5191、C5210はそれぞれSnを5.5質量%以上7.0質量%以下、7.0質量%以上9.0質量%以下含むと共に、Pを0.03質量%以上0.35質量%以下含み、Znの含有量が0.20質量%以下である。
【0063】
C2600、C2680、C1940の具体的な組成は、JIS H 3100:2018に規定される。C5191の具体的な組成は、JIS H 3110:2018に規定される。C5210の具体的な組成は、JIS H 3130:2018に規定される。
【0064】
基材2の構成材料が銅合金である場合に、銅合金におけるZnの含有量が20質量%以下である形態が挙げられる。Znの含有量が20質量%以下である銅合金は、例えば上述のC1940、C5191、C5210等が挙げられる。
【0065】
ここで、本発明者らは、以下の知見を得た。基材2の構成材料が黄銅といったZnの含有量が20質量%超である銅合金ではなく、Znの含有量が20質量%以下である銅合金であると、ピン端子1の一端側の領域にはんだを塗布した場合にはんだつららが生じ難い。はんだつららとは、はんだ付けを行った際に、溶融されたはんだが垂れた状態で固まる等して形成されるつらら状にとがった突起物である。多数のピン端子1が近接して配置される用途等において、長いはんだつららが生じたピン端子があれば、このピン端子と、このピン端子に隣り合うピン端子との間がはんだつららによって導通すること、即ち短絡することが考えられる。
【0066】
基材2を構成する銅合金中のZnは、はんだつららの生成を促進し易いと考えられる。また、上記銅合金中のZnの含有量が少ないほど、はんだつららが生成され難いと考えられる。その結果、上述のはんだつららによる短絡が防止され易い。はんだつららによる短絡を防止する観点から、Znの含有量は15質量%以下、更に12質量%以下、10質量%以下が好ましい。Znの含有量が1質量%以下、更に0.5質量%以下である銅合金、例えば上述の鉄入り銅やリン青銅等は、はんだつららが生じ難い上に、純銅よりも機械的強度等に優れて好ましい。なお、Znを実質的に含まない純銅は、はんだつららが生じ難いと考えられる。
【0067】
〈形状〉
基材2の外形は、代表的には直方体状が挙げられる。図示しないが、基材2は、その長手方向の適宜な位置に局所的に張り出した箇所を有してもよい。上記張り出し箇所は、筐体60に対する位置決め等に利用される。その他、基材2の外形は、六角柱状といった多角柱状、円柱状や楕円柱状といった外周面が曲面からなる柱状等が挙げられる。
【0068】
基材2の外形が直方体状である場合、
図2,
図3に示すように、基材2における各端部側の領域を基材2の軸に直交する平面で切断した断面形状は長方形状が挙げられる。代表的には、上記断面形状は、正方形状である。この場合、基材2の外周面は、上記断面において、対向配置される第一面21及び第二面22と、対向配置される第三面23及び第四面24とを備える。第三面23、第四面24は、第一面21、第二面22に対して概ね直交するように設けられる。
図2,
図3では、第一面21、第二面22は、紙面の上面、下面であり、第三面23、第四面24は、紙面の左面、右面である。
【0069】
〈大きさ〉
基材2の大きさ、例えば長さ、幅、高さ等は適宜選択できる。基材2の長さは、基材2の軸に沿った長さである。幅は、基材2の軸に直交する方向に沿った長さであり、例えば
図2,
図3に示す断面において、第一面21及び第二面22の長さである。高さは、基材2の軸及び幅方向の双方に直交する方向に沿った長さであり、例えば上記断面において、第三面23及び第四面24の長さである。例えば、幅及び高さは、0.3mm以上5.0mm以下が挙げられる。
【0070】
(めっき層)
〈概要〉
基材2の表面における所定の領域は、錫系層30を含むめっき層3によって覆われている。基材2の一端側は、先端被覆部31を備える。基材2の他端側は、後端被覆部32を備える。錫系層30は、先端被覆部31と後端被覆部32とを含む。
【0071】
先端被覆部31は、
図2に示すように基材2の一端側における周方向の全ての領域を覆う。錫を含む先端被覆部31ははんだ濡れ性に優れる。このような先端被覆部31によって、基材2の一端側の領域は、基材2の周方向の全周にわたってはんだと良好に濡れることができる。
【0072】
後端被覆部32は、
図3に示すように基材2の他端側における周方向の一部の領域を覆う。錫を含む後端被覆部32は柔らかく変形し易い。このような後端被覆部32によって、基材2の他端側の領域は、相手側端子との接続抵抗を低減できる。
【0073】
〈組成〉
錫系層30は、
図2,
図3に示すように外層302と内層301とを備えることが挙げられる。外層302の構成材料は純錫である。内層301の構成材料は、錫と銅とを含む合金である。外層302は、内層301に接して、内層301の外周に設けられる。
【0074】
純錫は、Snを99質量%以上含み、残部が不可避不純物からなる。更に、純錫は、Snを99.8質量%以上含んでもよい。錫と銅とを含む合金は、代表的にはSnとCuとの二元合金であり、残部が不可避不純物からなるものが挙げられる。上記合金は、Sn及びCuの他に、Zn等の元素を含んでもよい。
【0075】
純錫からなる外層302は、最大濡れ力を高め易い。そのため、先端被覆部31が外層302を備えると、基材2の一端側の領域ははんだと良好に濡れることができる。後端被覆部32が外層302を備えると、相手側端子との接続抵抗を低減できる。
【0076】
上記合金からなる内層301は、錫系層30の表面においてウィスカの発生を低減する。そのため、先端被覆部31、後端被覆部32が内層301を備えると、ウィスカの数が少なくなり易く、多数のピン端子1が近接して配置される用途等において、隣り合うピン端子1間がウィスカによって短絡することを防止することができる。
【0077】
合金層である内層301と純錫層である外層302とを備える錫系層30は、代表的には、各種のめっき法によって純錫層を形成した後、熱処理を施すことで製造することが挙げられる。
【0078】
めっき層3は、錫系層30以外の層を備えてもよい。例えば、めっき層3は、錫系層30と基材2との間に下地層300を備えることが挙げられる。下地層300の構成材料は、例えば純ニッケル又はニッケル合金が挙げられる。純ニッケル又はニッケル合金からなる下地層300は、錫系層30の表面においてウィスカの発生を低減する。下地層300を備えると共に錫系層30が内層301を含むピン端子1は、上述のウィスカによる短絡をより効果的に防止できる。その他、下地層300は、めっき層3の剛性を高め、耐摩耗性の向上に寄与する。
【0079】
純ニッケルは、ニッケル(Ni)を99質量%以上含み、残部が不可避不純物からなる。更に、純ニッケルは、Niを99.9質量%以上含んでもよい。ニッケル合金は、添加元素を含み、残部がNi及び不可避不純物からなり、Niを最も多く含む合金である。添加元素は、例えばSn、Zn、Cu等が挙げられる。
【0080】
(一端側の領域)
基材2の一端側の領域は、錫系層30である先端被覆部31に覆われて、基材2が露出していない。先端被覆部31は、ピン端子1の一端からピン端子1の長手方向に沿った所定の地点、例えば1mmの地点において、基材2の周方向に均一的な厚さではなく、部分的に異なる厚さを有する。つまり、先端被覆部31は、基材2の周方向の異なる位置に薄膜部34と厚膜部35とを備える。上記所定の地点において薄膜部34と厚膜部35とが存在することは、代表的には上記所定の地点において、ピン端子1の軸に直交する平面で切断した断面を観察すれば確認できる。薄膜部34は、先端被覆部31の厚さが相対的に薄い領域である。この薄膜部34は、基材2に接して設けられる。厚膜部35は、先端被覆部31の厚さが相対的に厚い領域である。
【0081】
〈厚さ〉
以下、錫系層30である先端被覆部31の厚さを詳細に説明する。
ピン端子1は、例えば、以下の測定箇所で測定された先端被覆部31の厚さの最大値t1と最小値t2とについて以下の条件(1),(2)の少なくとも一方を満たすことが挙げられる。
(1)最大値t1と最小値t2との差(t1-t2)が0.20μm以上である。
(2)最大値t1と最小値t2との比t2/t1が0.2以上0.8未満である。
上記測定箇所は、ピン端子1において先端被覆部31が設けられている一端からピン端子1の長手方向に沿って1mmの地点とする。最大値t1、最小値t2、後述する厚さt31、t32、ti、toの測定方法の詳細は、後述の試験例で説明する。なお、先端被覆部31が内層301と外層302とを備える場合、先端被覆部31の厚さは、内層301の厚さと外層302の厚さとの合計厚さである。
【0082】
代表的には、
図2に示すように薄膜部34は最小値t
2を有し、厚膜部35は最大値t
1を有する。
【0083】
条件(1),(2)の少なくとも一方を満たすピン端子1は、基材2の一端側では先端被覆部31によってはんだ濡れ性に優れると共に、基材2の他端側では相手側端子への挿入性に優れる。挿入性に優れる理由の一つは、基材2の他端側において後端被覆部32が局所的に厚い肥大箇所を有さない、好ましくは基材2の長手方向に均一的な厚さを有するからである。ここで、多段のめっきと特定の熱処理とを行う多段めっき製法を利用すれば、以下のピン端子1が得られる。このピン端子1は、基材2の周方向に不均一な厚さを有する錫系層30、つまり薄膜部34と厚膜部35とを有する錫系層30を基材2の一端側に備え、上記肥大箇所が無い錫系層30を基材2の他端側に備える。即ち、条件(1),(2)の少なくとも一方を満たすピン端子1が得られる。従って、特定の厚さ条件を満たす先端被覆部31を基材2の一端側に備えるピン端子1は、上記肥大箇所を有さない後端被覆部32を基材2の他端側に備えるといえる。
【0084】
差(t1-t2)は例えば0.30μm以上、0.50μm以上、0.80μm以上でもよい。差(t1-t2)が1.0μm以上であれば、ピン端子1は良好なはんだ濡れ性を維持し易い。
【0085】
差(t1-t2)の上限は特に設けない。但し、差(t1-t2)が大きいほど先めっき法によるめっき時間が長くなる等、製造性が低下し易い。良好な製造性の観点から、差(t1-t2)は例えば5.0μm以下、4.5μm以下、4.0μm以下が挙げられる。差(t1-t2)が0.20μm以上5.0μm以下、更に1.0μm以上4.0μm以下であると、ピン端子1は、はんだ濡れ性、挿入性、製造性に優れる。また、ピン端子1と相手側端子との接続抵抗が低くなり易い。
【0086】
比t2/t1が上記範囲で大きいほど、薄膜部34が厚いといえ、基材2の一端側の領域は、先端被覆部31によってはんだとより確実に濡れることができる。比t2/t1が上記範囲で小さいほど、先めっき法によるめっき厚さが適切に確保され易い。これらの点から、比t2/t1は例えば0.25以上、0.30以上、0.35以上、0.40以上でもよい。また、比t2/t1は例えば0.75以下、0.70以下、0.60以下でもよい。比t2/t1が0.25以上0.75以下、更に0.40以上0.60以下であると、ピン端子1は、はんだ濡れ性、挿入性、製造性に優れる。
【0087】
条件(1)及び(2)の双方を満たすピン端子1は、基材2の一端側では先端被覆部31によってはんだ濡れ性により優れると共に、基材2の他端側では相手側端子への挿入性により優れる。
【0088】
基材2の大きさにもよるが、最大値t1の絶対値は、例えば1.0μm以上7.0μm以下が挙げられる。最小値t2の絶対値は、例えば0.8μm以上4.0μm以下が挙げられる。但し、t2<t1である。
【0089】
最大値t1,最小値t2の具体的な位置として、基材2の断面形状が上述の長方形である場合、先端被覆部31における第一面21及び第二面22の少なくとも一方を覆う箇所が最大値t1を有することが挙げられる。また、先端被覆部31における第三面23及び第四面24の少なくとも一方を覆う箇所が最小値t2を有することが挙げられる。
【0090】
より具体的な形態として、
図2に示すように第一面21及び第二面22にそれぞれ厚膜部35を備えると共に、第三面23及び第四面24にそれぞれ薄膜部34を備えることが挙げられる。少なくとも一方の厚膜部35が最大値t
1を有する。少なくとも一方の薄膜部34が最小値t
2を有する。このような薄膜部34、厚膜部35を有する先端被覆部31は、例えば多段めっき製法を利用すれば得られる。第一面21及び第二面22には、先めっき法による錫系層と後めっき法による錫系層とが形成される。つまり、厚い錫系層が形成される。この厚い錫系層が最終的に厚膜部35をなす。打ち抜きによる切断面である第三面23及び第四面24には、後めっき法による錫系層が各面に接して形成される。第三面23及び第四面24は、先めっき法による錫系層を有しない。つまり、第三面23及び第四面24には、後めっき法による薄い錫系層が各面に接して形成される。この薄い錫系層が最終的に薄膜部34をなす。
【0091】
第一面21、第二面22にそれぞれ設けられる厚膜部35の厚さ、第三面23、第四面24にそれぞれ設けられる薄膜部34の厚さは、
図2に示すように、各面に沿って均一的な厚さであることが挙げられる。各面に沿って均一的な厚さであるとは、以下の最大厚さと最小厚さとの差が0.20μm未満であることが挙げられる。ピン端子1の一端からピン端子1の長手方向に沿って、例えば1mmの地点において、各面上の先端被覆部31に対して複数の測定箇所をとる。各面の測定箇所で測定された先端被覆部31の厚さのうち、最大厚さと最小厚さとの差をとる。上記差が0.15μm以下、0.10μm以下であると、上記地点において、厚膜部35、薄膜部34はより均一的な厚さを有するといえる。厚膜部35、薄膜部34がそれぞれ均一的な厚さであれば、はんだの厚さが均一的になり易い。
【0092】
第一面21上の厚膜部35の厚さと第二面22上の厚膜部35の厚さとが実質的に等しいことが挙げられる。また、第三面23上の薄膜部34の厚さと第四面24上の薄膜部34の厚さとが実質的に等しいことが挙げられる。この形態は、
図2に示す断面において、ピン端子1の幅方向の二等分線及び高さ方向の二等分線をそれぞれ中心として対称な形状といえる。対称形状のピン端子1は、成形条件やめっき条件を調整し易く、製造性に優れる。
【0093】
第一面21から第四面24にそれぞれ設けられる錫系層30の厚さにおいて、ピン端子1の長手方向における厚さの差が小さいことが挙げられる。この形態は、先端被覆部31においてはんだが塗布される領域をピン端子1の長手方向に長く確保し易い。そのため、このピン端子1は、基材2の一端側の領域にはんだを塗布し易い。
【0094】
定量的には、第一面21、第二面22、第三面23、及び第四面24において、ピン端子1の一端からピン端子1の長手方向に沿って1mmの地点と、3mmの地点と、5mmの地点とを先端被覆部31の厚さの測定箇所とする。三つの測定箇所において最大厚さと最小厚さとの差をとる。四面について求めた四つの差のうち、最大値が1.0μm以下である。
【0095】
上記差の最大値は、0.95μm以下、更に0.90μm以下、0.85μm以下、0.80μm以下でもよい。
【0096】
先端被覆部31が内層301と外層302とを備える場合に、薄膜部34における内層301の厚さt31は0.1μm以上が挙げられる。また、薄膜部34における外層302の厚さt32は0.5μm以上が挙げられる。
【0097】
内層301の厚さt31が0.1μm以上であれば、薄膜部34が基材2に接して設けられていても、内層301によって薄膜部34の表面にウィスカが発生し難く、ウィスカの数が少なくなり易い。好ましくはウィスカが実質的に存在しない。そのため、隣り合うピン端子1間がウィスカによって短絡することが防止される。厚さt31は例えば0.11μm以上、0.15μm以上でもよい。更に、厚さt31が0.2μm以上であれば、ウィスカの発生がより低減される。
【0098】
外層302の厚さt
32が0.5μm以上であれば、高い最大濡れ力をより確実に有し易い。そのため、基材2において薄膜部34を備える箇所、
図2では第三面23、第四面24は、外層302によってはんだと良好に濡れることができる。厚さt
32は例えば0.6μm以上、0.8μm以上でもよい。更に、厚さt
32が1.0μm以上であれば、基材2において薄膜部34を備える箇所は、はんだとより良好に濡れることができる。
【0099】
内層301の厚さt31の上限、外層302の厚さt32の上限は特に設けない。但し、厚さt31、t32が大きいほど、めっき時間が長くなる等、製造性が低下し易い。良好な製造性の観点から、内層301の厚さt31は例えば1.0μm以下、0.8μm以下が挙げられる。外層302の厚さt32は例えば3.9μm以下、3.5μm以下が挙げられる。内層301の厚さt31が例えば0.1μm以上1.0μm以下、更に0.15μm以上0.8μm以下であれば、ピン端子1はウィスカの発生を低減できる上に、製造性にも優れる。外層302の厚さt32が例えば0.5μm以上3.9μm以下、更に1.0μm以上3.5μm以下であれば、ピン端子1ははんだ濡れ性に優れる上に、製造性にも優れる。
【0100】
厚膜部35における外層302の厚さは、薄膜部34における外層302の厚さt32よりも厚いこと、例えば1.0μm以上、更に1.5μm以上、2.0μm以上が挙げられる。厚膜部35における内層301の厚さは、薄膜部34における内層301の厚さt31よりも厚いこと、例えば0.20μm以上、更に0.25μm以上、0.30μm以上が挙げられる。
【0101】
下地層300を備える場合、下地層300の厚さは、例えば0.3μm以上4.0μm以下、更に0.5μm以上2.0μm以下が挙げられる。
【0102】
〈構造〉
先端被覆部31は、基材2の周方向の全周にわたって基材2と接して設けられていてもよい。この場合、薄膜部34、厚膜部35はいずれも、内層301と外層302とを備えることが好ましい。この理由は、外層302によってはんだ濡れ性に優れつつ、内層301によって先端被覆部31の任意の表面においてウィスカの発生を低減できるからである。薄膜部34の内層301の厚さt31は0.1μm以上がより好ましい。この理由は、上述のように薄膜部34の表面にウィスカの数が少ない上に、厚膜部35の内層301の厚さが厚さt31よりも厚いため、ウィスカの発生を更に低減し易いからである。
【0103】
先端被覆部31は、基材2の周方向の一部において基材2と接し、他部において基材2に接しないように設けられていてもよい。先端被覆部31において基材2と接しない箇所には、下地層300が設けられることが挙げられる。一例として、薄膜部34は基材2に接して設けられ、厚膜部35は基材2に接触せず、下地層300に接して設けられることが挙げられる。上述のように薄膜部34の内層301の厚さt31は0.1μm以上であれば、薄膜部34の表面にウィスカの数が少ない。厚膜部35は、比較的厚い内層301に加えて下地層300によって、ウィスカの発生を更に低減し易い。この形態は、多段めっき製法を利用する場合に、先めっき法において純ニッケル又はニッケル合金からなる下地層300を形成した後、錫系層を形成することで製造できる。
【0104】
より具体的な形態として、基材2の断面形状が上述の長方形である場合、めっき層3は先端被覆部31における第一面21及び第二面22を覆う箇所と基材2との間に下地層300を備え、上記箇所が厚膜部35であることが挙げられる。また、先端被覆部31における第三面23及び第四面24を覆う箇所は基材2に接して設けられ、上記箇所が薄膜部34であることが挙げられる。即ち、第一面21と第二面22とは、下地層300と厚膜部35とを順に備える。第三面23と第四面24とは、薄膜部34を備え、下地層300を備えていない。
【0105】
〈ウィスカ〉
実施形態のピン端子1では、先端被覆部31の薄膜部34において、ウィスカの数が少ない。ここでのウィスカは、錫からなる突起物であり、JIS C 60068-2-82:2009に規定される比較的長い突起物、例えば長さ10μm以上の針状の突起物である。
【0106】
定量的には、薄膜部34に存在するウィスカの数が以下の視野内に15個以下である。上記視野は、一辺の長さが0.35mmである正方形の領域である。ウィスカの数の測定方法は、後述の試験例で説明する。
【0107】
ウィスカの数が0.35mm×0.35mmの領域内に15個以下であれば、薄膜部34にウィスカの数が少ない。そのため、多数のピン端子1が近接して配置される用途等において、隣り合うピン端子1間がウィスカによって短絡することが防止される。ウィスカの数が少ないほど、上述の短絡をより確実に防止できる。上記短絡の防止の観点から、ウィスカの数は上記領域内に10個以下、5個以下、3個以下が好ましく、0個、即ちウィスカが存在しないことがより好ましい。なお、錫からなる突起物として、ノジュールと呼ばれる球状の突起物、即ち比較的短い突起物がある。ノジュールが存在するものの、上述の比較的長い突起物であるウィスカが少なければ、好ましくは存在しなければ、上記短絡が生じ難い。
【0108】
ウィスカの数が上記領域内に15個以下であるピン端子1は、代表的には薄膜部34に備えられる内層301の厚さt31が0.1μm以上であることが挙げられる。また、このようなピン端子1は、例えば多段めっき製法によって製造できる。
【0109】
〈濡れ力〉
実施形態のピン端子1では、メニスコグラフ試験機によって測定される先端被覆部31の最大濡れ力が0.25mN以上である。最大濡れ力の測定方法は、後述の試験例で説明する。
【0110】
最大濡れ力が0.25mN以上であれば、基材2の一端側の領域は、先端被覆部31によってはんだと良好に濡れることができ、はんだ濡れ性に優れる。最大濡れ力が大きいほど、はんだ濡れ性に優れる。良好なはんだ濡れ性の観点から、最大濡れ力は0.26mN以上、更に0.28mN以上が好ましく、0.30mN以上がより好ましい。
【0111】
最大濡れ力の上限は特に設けない。
【0112】
最大濡れ力が0.25mN以上であるピン端子1は、代表的には基材2の一端側の領域において、基材2の周方向の全周にわたって外層302を備え、薄膜部34に備えられる外層302の厚さt32が0.5μm以上であることが挙げられる。このようなピン端子1は、例えば多段めっき製法によって製造できる。
【0113】
(他端側の領域)
基材2の他端側は、後端被覆部32と露出領域26とを備える。後端被覆部32と露出領域26とは、基材2の周方向の異なる位置に設けられる。露出領域26では、めっき層3が設けられず基材2が露出されている。
【0114】
後端被覆部32は、先端被覆部31に連続しており、一体の錫系層30を構成する。但し、後端被覆部32の厚さt35と先端被覆部31の厚膜部35の厚さ、代表的には最大値t1とは、異なることが多い。この厚さの差に応じて、錫系層30は基材2の長手方向に段差を有する。
【0115】
後端被覆部32、露出領域26の具体的な位置として、基材2の断面形状が上述の長方形である場合、
図3に示すように第一面21及び第二面22上に後端被覆部32を有し、第三面23及び第四面24が露出領域26であることが挙げられる。この形態は、第一面21及び第二面22において基材2の一端側の領域に先端被覆部31の厚膜部35を備え、基材2の他端側の領域に後端被覆部32を備える。また、この形態は、第三面23及び第四面24において一端側の領域に薄膜部34を備え、基材2の他端側の領域では基材2が露出されている。
【0116】
第一面21、第二面22にそれぞれ設けられる後端被覆部32の厚さは、基材2の長手方向に均一的な厚さであることが挙げられる。長手方向に均一的な厚さであるとは、以下の最大厚さと最小厚さとの差の最大値が0.2μm未満であることが挙げられる。ピン端子1において後端被覆部32が設けられている他端からピン端子1の長手方向に沿って1mmの地点と、3mmの地点と、5mmの地点とを後端被覆部32の厚さの測定箇所とする。三つの測定箇所において最大厚さと最小厚さとの差をとる。二面について求めた二つの差のうち、最大値をとる。この最大値が0.15μm以下、更に0.1μm以下であると、後端被覆部32はより均一的な厚さを有するといえる。後端被覆部32が長手方向に均一的な厚さであれば、このピン端子1は、上述の肥大箇所を有しておらず、基材2の他端側の領域を相手側端子に挿入し易い。
【0117】
第一面21、第二面22にそれぞれ設けられる後端被覆部32の厚さは、
図3に示すように、各面に沿って均一的な厚さであることが挙げられる。各面に沿って均一的な厚さであるとは、以下の最大厚さと最小厚さとの差が0.20μm未満を満たすことが挙げられる。ピン端子1の他端からピン端子1の長手方向に沿って、例えば1mmの地点において各面上の後端被覆部32に対して、複数の測定箇所をとる。各面の測定箇所で測定された後端被覆部32の厚さのうち、最大厚さと最小厚さとの差をとる。上記差が0.15μm以下、0.10μm以下であると、上記地点において、後端被覆部32はより均一的な厚さを有するといえる。後端被覆部32が均一的な厚さであれば、相手側端子との接触面積を適切に確保し易く、接続抵抗が低くなり易い。
【0118】
第一面21上の後端被覆部32の厚さと第二面22上の後端被覆部32の厚さとが実質的に等しいことが挙げられる。この形態は、
図3に示す断面において、ピン端子1の幅方向の二等分線及び高さ方向の二等分線をそれぞれ中心として対称な形状といえる。対称形状のピン端子1は、成形条件やめっき条件を調整し易く、製造性に優れる。
【0119】
多段めっき製法を利用する場合、後端被覆部32は、先めっき法によって形成される錫系層によって製造される。この錫系層の厚さは、上述のように先端被覆部31における差(t1-t2)に対応する。後端被覆部32の厚さt35が差(t1-t2)以上であれば、相手側端子との接触面積を適切に確保し易く、相手側端子との接続抵抗が低くなり易い。
【0120】
後端被覆部32の具体的な厚さとして、先端被覆部31の厚膜部35の厚さ、代表的には最大値t1よりも薄いことが挙げられる。また、後端被覆部32が内層301と外層302とを備える場合、後端被覆部32の内層301の厚さtiは、薄膜部34の内層301の厚さt31よりも厚く、厚膜部35の内層301の厚さよりも薄いことが挙げられる。また、この場合、後端被覆部32の外層302の厚さtoは、薄膜部34の外層302の厚さt32よりも厚く、厚膜部35の外層302の厚さよりも薄いことが挙げられる。このようなピン端子1は、例えば多段めっき製法によって製造できる。
【0121】
[コネクタ]
以下、主に
図4を参照して、実施形態のコネクタ6を説明する。
実施形態のコネクタ6は、実施形態のピン端子1を備える。代表的には、コネクタ6は、複数のピン端子1と筐体60とを備える。各ピン端子1は、L字状に屈曲された状態で筐体60に保持される。
【0122】
筐体60は、樹脂等の電気絶縁材料からなる成形体である。筐体60は、底部と周壁部とを有する。底部には、図示しない複数の貫通孔が整列状態で設けられる。各貫通孔に複数のピン端子1が圧入されることで、底部はピン端子1を保持する。底部に保持された各ピン端子1は、
図4の紙面上下方向及び紙面垂直方向にそれぞれ、所定の間隔をあけて並ぶ。周壁部は、底部の周縁から立設されて環状に連続する。底部と周壁部とで囲まれる内部空間には、相手側端子を備える相手側のコネクタ、例えば後述する
図5に示すコネクタ76が挿入される。なお、
図4、後述する
図6は、筐体60の一部を切り欠いて示す。
【0123】
各ピン端子1において、先端被覆部31を備える一端側の領域は筐体60外に露出される。各ピン端子1において、後端被覆部32を備える他端側の領域は筐体60の内部空間に配置される。基材2における後端被覆部32が設けられた箇所、例えば第一面21及び第二面22が
図4の紙面上側、下側に配置されるように、各ピン端子1は筐体60に保持される。コネクタ76が挿入されると、後端被覆部32は相手側端子に接触することで電気的に接続される。
【0124】
コネクタ6におけるピン端子1の数、筐体60の底部に対するピン端子1の配置位置、筐体60の形状、筐体60の構成材料等は適宜選択できる。
【0125】
[コネクタ付きワイヤーハーネス]
以下、主に
図5を参照して、実施形態のコネクタ付きワイヤーハーネス7を説明する。
実施形態のコネクタ付きワイヤーハーネス7は、実施形態のコネクタ6と、ワイヤーハーネス70とを備える。ピン端子1において後端被覆部32が設けられた他端側の領域はワイヤーハーネス70が接続される。ピン端子1において先端被覆部31が設けられた一端側の領域は、回路基板80に接続される。コネクタ6によって、ワイヤーハーネス70の一端は、回路基板80に電気的に接続される。ワイヤーハーネス70の他端は、回路基板80に制御される図示しない電子機器に電気的に接続される。
【0126】
ワイヤーハーネス70は、一つ又は複数の電線71と、電線71の各端部に取り付けられるコネクタ74,75とを備える。電線71は、導体と、電気絶縁層とを備える。導体は、代表的には、銅やアルミニウム、これらの合金等の導電性材料から構成される。電気絶縁層は、樹脂等の電気絶縁材料から構成され、導体の外周を覆う。コネクタ74,75には、適宜な雄コネクタ、雌コネクタが利用できる。
【0127】
コネクタ付きワイヤーハーネス7は、
図5に例示するようにワイヤーハーネス70のコネクタ7
5と実施形態のコネクタ6との間に別のコネクタ76を備えてもよい。例えば、コネクタ75が雄コネクタであり、コネクタ76が雌コネクタであることが挙げられる。
【0128】
[コントロールユニット]
以下、主に
図6を参照して、実施形態のコントロールユニット8を説明する。
実施形態のコントロールユニット8は、実施形態のコネクタ6、又は実施形態のコネクタ付きワイヤーハーネス7と、回路基板80とを備える。ピン端子1における先端被覆部31が設けられた一端側の領域と回路基板80とは、はんだ85によって接続される。
図6に示すコントロールユニット8は、実施形態のコネクタ6を備える。実施形態のコネクタ付きワイヤーハーネス7を備えるコントロールユニット8は、
図5の二点鎖線を参照するとよい。
【0129】
回路基板80は、複数のスルーホール81を備える。スルーホール81にはピン端子1の一端側の領域が挿入される。このピン端子1の一端側の領域とスルーホール81とがはんだ85によって導通する。なお、
図6は、回路基板80の一部を切り欠いて示す。また、
図6は、代表して一つのスルーホール81の断面のみを示す。
【0130】
回路基板80は、ピン端子1の他端側の領域に接続されるワイヤーハーネス70によって、ワイヤーハーネス70のコネクタ74側に接続される電子機器を制御する。回路基板80は図示しないケースに収納される。
【0131】
回路基板80は、例えば、エンジンの燃料噴射及びエンジンの点火の少なくとも一方の制御を行うことが挙げられる。このような回路基板80を備えるコントロールユニット8は、エンジンコントロールユニットと呼ばれる。エンジンコントロールユニットは、多数、例えば200以上、更に250以上のピン端子1を備えることがある。エンジンコントロールユニット以外のコントロールユニット8でも、多数のピン端子1を備えることがある。
【0132】
(主な効果)
実施形態のピン端子1は、はんだ濡れ性に優れる上に、相手側端子への挿入性に優れる。特に、上述の多数のピン端子1を備える用途において、相手側端子に接続する際の挿入力が大きくなり過ぎることが抑制される。また、実施形態のピン端子1では、先端被覆部31の薄膜部34にウィスカの数が少ない。そのため、上述の用途において、隣り合うピン端子1間がウィスカによって短絡することを防止できる。このようなピン端子1は、多段めっき製法で製造すれば生産性よく製造できる。
【0133】
実施形態のコネクタ6、実施形態のコネクタ付きワイヤーハーネス7、実施形態のコントロールユニット8は、実施形態のピン端子1を備えるため、はんだ濡れ性に優れる上に、相手側端子への挿入性に優れる。特に、コネクタ6が多数、例えば200以上、更に250以上のピン端子1を備える場合でも、相手側端子に接続する際の挿入力が大きくなり過ぎることが抑制されて、接続作業性に優れる。また、コネクタ6が多数のピン端子1を備える場合でも、各ピン端子1のウィスカの数が少ないため、ウィスカによって隣り合うピン端子1間が短絡することが防止される。
【0134】
(ピン端子の製造方法)
以下、
図7を適宜参照して、ピン端子の製造方法の一例を説明する。
実施形態のピン端子1は、例えば、以下のように製造することが挙げられる。まず、いわゆる先めっき法によってめっき付き基材を成形する。得られためっき付き基材の一端側の領域にのみ、錫系層を形成する。基材の他端側の領域には錫系層を形成しない。このめっき後に特定の条件で熱処理を施す。
【0135】
上記の製造方法、即ち多段めっき製法は、以下の知見に基づくものである。
先めっき法では、錫系層の厚さが均一的になり易い。しかし、先めっき法で得られる成形体では、打ち抜きによる切断面が生じる。切断面は、基材が露出された面であり、錫系層を有さない。この基材の露出部分によって、上記成形体は、はんだ濡れ性に劣る。
【0136】
上記成形体のうち、例えば上記切断面を含めて基材の一端側の領域のみを覆うように錫めっき層を更に形成すれば、はんだ濡れ性が高くなる。但し、基材の直上に設けられた錫めっき層の表面にウィスカが生じ易い。
【0137】
例えば上記成形体に施す二回目のめっき後にリフロー処理を施せば、ウィスカの発生が低減される。しかし、リフロー処理によって、基材の他端側に存在する先めっき法による錫系層、特に純錫層が溶融する。
【0138】
ここで、従来、錫めっき後のリフロー処理では、特許文献1に記載されるように錫の融点を超える温度、例えば300℃~400℃程度が利用されている。上述の純錫層の溶融によって、基材の他端側では、錫系層に局所的に厚い箇所、即ち肥大箇所が生じて、相手側端子への挿入性が低下する。
【0139】
一方、上記二回目のめっき後に特定の条件で熱処理を施せば、基材の各端部において、上記の溶融を防止して肥大箇所の発生を低減しつつ、ウィスカの数が効果的に低減される。
【0140】
多段めっき製法は、例えば、以下の工程を備えることが挙げられる。
〈成形工程〉めっき付き板91を所定の形状に打ち抜いて、複数の棒状部920が並列された成形材92を作製する。めっき付き板91は、錫を含む金属から構成される錫系層を備える。
〈二次めっき工程〉各棒状部920の一端側の領域に、二次めっき層931を形成する。二次めっき層931は、純錫から構成される純錫層を備える。
〈熱処理工程〉二次めっき層931を備える部分めっき材93に熱処理を施す。
熱処理温度は、錫の融点未満である。錫の融点は、約232℃である。
【0141】
以下、多段めっき製法を工程ごとに説明する。
〈成形工程〉
成形工程は、いわゆる先めっき法によって成形材92を製造する工程である。
【0142】
《めっき付き板》
成形工程において用いるめっき付き板91は、素材板90と図示しない一次めっき層とを備える。
図7は、素材板90、めっき付き板91として、コイル状に巻き取られた長尺な板材を示す。
【0143】
素材板90の構成材料は、純銅又は銅合金である。純銅及び銅合金の詳細は、上述の(基材)〈組成〉の項を参照するとよい。
【0144】
一次めっき層は、素材板90の表裏面に設けられる。一次めっき層は、錫系層のみでもよいし、錫系層以外のめっき層を含んでもよい。錫系層は、純錫層のみでも、純錫層と合金層とを含んでもよい。合金層は、錫と銅とを含む合金から構成される。なお、純錫層の一部は、後述の熱処理によって合金層に変化し得る。錫系層以外のめっき層は、例えば、錫系層と素材板90との間に設けられる下地層300が挙げられる。下地層300の詳細は、上述の(めっき層)〈組成〉の項を参照するとよい。
【0145】
一次めっき層中の錫系層の厚さは、上述の差(t1-t2)に概ね相当する。そのため、差(t1-t2)が所定の範囲となるように、一次めっき層中の錫系層の厚さを調整する。一次めっき層中の錫系層の厚さは例えば0.20μm以上5.0μm以下が挙げられる。
【0146】
一次めっき層が下地層300を備える場合、下地層300の厚さが例えば上述の所定の範囲となるように、一次めっき条件を調整する。
【0147】
めっき付き板91は、公知の製造方法によって製造することが挙げられる。一次めっき層は、各種のめっき法、代表的には電気めっき法によって形成することが挙げられる。
【0148】
《成形材》
成形材92は、複数の棒状部920と連結部925とを備える。
複数の棒状部920は、各棒状部920の軸が平行するように、所定の間隔をあけて並列される。各棒状部920において隣り合う棒状部920に対向する箇所では、連結部925の形成箇所を除いて、素材板90が露出される。各棒状部920の表裏面は、一次めっき層を備える。代表的には、各棒状部920において、各棒状部920の軸に直交する平面で切断した断面形状は、
図2,
図3に示す長方形状が挙げられる。
【0149】
連結部925は、隣り合う棒状部920を接続する。代表的には、連結部925は、棒状部920の長手方向の中心位置及びその近傍に設けられる。
【0150】
成形材92は、公知のプレス成形法によって製造することが挙げられる。上述の断面形状が長方形状であれば、打ち抜き加工によって成形材92を容易に成形することができる。
【0151】
〈二次めっき工程〉
二次めっき工程は、先めっき法による成形材92に対して、部分的にめっきを施して二次めっき層931を形成する工程、即ち部分的な後めっき法を行う工程である。
【0152】
詳しくは、成形材92において各棒状部920の一端側の領域に二次めっき層931を形成し、各棒状部920の他端側の領域には二次めっき層931を形成しない。そのため、各棒状部920の他端側の領域では、素材板90が露出された領域と、一次めっき層を備える領域とが各棒状部920の周方向の異なる位置に存在する。
【0153】
二次めっき層931は、各棒状部920の一端側の領域において、各棒状部920の周方向の全周を覆うように形成する。その結果、各棒状部920の一端側の領域では、二次めっき層931は、素材板90が露出された領域に接して設けられる第一被覆箇所と、素材板90ではなく一次めっき層に接して設けられる第二被覆箇所とを備える。第一被覆箇所と第二被覆箇所とは、各棒状部920の周方向の異なる位置に存在する。
【0154】
第一被覆箇所は、最終的に上述の薄膜部34を構成する。第一被覆箇所は、二次めっき層931を備え、かつ一次めっき層を備えていないため、上述の最小値t2を有し易い。
【0155】
第二被覆箇所は、最終的に上述の厚膜部35を構成する。第二被覆箇所は、一次めっき層の錫系層と二次めっき層931中の純錫層とを備えるため、上述の最大値t1を有し易い。
【0156】
二次めっき層931中の純錫層の厚さは、代表的には上述の最小値t2に概ね相当する。そのため、最小値t2が所定の範囲となるように、二次めっき層931中の純錫層の厚さを調整する。二次めっき層931中の純錫層の厚さは例えば0.8μm以上4.0μm以下が挙げられる。
【0157】
二次めっき層931は、各種のめっき法、代表的には電気めっき法によって形成することが挙げられる。二次めっき層931の形成前に、脱脂、酸洗浄等の前処理を行うことが挙げられる。
【0158】
〈熱処理工程〉
熱処理工程は、部分めっき材93の一端側の領域に存在する二次めっき層931中の純錫層の一部を合金化するための熱処理を行う工程である。合金化によって、錫と銅とを含む合金からなる層が形成されることで、錫系層30の表面にウィスカが発生することを低減することができる。特に、この熱処理は、部分めっき材93の他端側の領域に存在する一次めっき層中の純錫層が溶融され難いように、熱処理温度を錫の融点以下とする。
【0159】
定量的には、熱処理温度は230℃未満である。熱処理温度が低いほど、上述の溶融が防止され易い。また、熱処理後において、純錫からなる層が厚く残存し易い。結果として、はんだ濡れ性に優れる錫系層30が得られる。熱処理温度が高いほど、合金化が促進され、上記合金から構成される層が厚くなり易い。結果として、錫系層30においてウィスカの発生が低減され易い。溶融の防止、及び良好なはんだ濡れ性の観点から、熱処理温度は225℃以下、220℃以下が好ましい。ウィスカの発生の低減の観点から、熱処理温度は150℃以上が好ましく、180℃超、190℃以上、200℃以上がより好ましい。
【0160】
熱処理温度の保持時間は、棒状部920の大きさ等に応じて適宜選択できる。例えば、保持時間は5秒以上60秒以下が挙げられる。所定の保持時間が経過したら、加熱をやめて、熱処理工程を終了する。
【0161】
熱処理工程を経て得られる熱処理材94は、棒状部920の一端側の領域に、二次めっき層931から製造された熱処理層941を備える。熱処理層941は、上述の合金から構成される層と、この合金層に接して設けられる純錫から構成される層とを備える。即ち、熱処理層941は、上述の内層301と外層302とを備える錫系層30に相当する。上記合金層の少なくとも一部は、素材板90に接して設けられる。
【0162】
〈その他の工程〉
熱処理材94に対して、連結部925を切断し、隣り合う棒状部920を切り離すことで、実施形態のピン端子1が得られる。棒状部920の一端側の熱処理層941は、先端被覆部31を構成する。棒状部920の他端側の領域において、錫系層は、後端被覆部32を構成し、素材板90が露出された領域は、
図3に示す露出領域26を構成する。
【0163】
[試験例1]
種々の製造条件で、基材の表面の少なくとも一部を覆う錫系層を備えるピン端子を作製して、錫系層の厚さ、はんだ濡れ性、錫の突起物の数、はんだ付けの良否を調べた。
【0164】
(試料No.1~No.7,No.50)
試料No.1~No.7,No.50のピン端子は、上述の多段めっき製法を用いて製造した試料である。試料ごとに、3以上のサンプルを用意した。
【0165】
製造過程の概略を述べると、一次めっき層が形成されためっき付き板を所定の形状に打ち抜いて、複数の棒状部と連結部とを有する成形材を作製する。成形材において、並列される各棒状部の一端側の領域に、各棒状部の周方向の全周を覆うように二次めっき層を形成する。二次めっき後、試料No.1を除いて熱処理を施す。熱処理後、隣り合う棒状部をつなぐ連結部を切断することで、ピン端子が得られる。試料No.1は、二次めっき後、熱処理を施さずに連結部を切断した。
【0166】
めっき付き板は、銅合金板の表裏面に錫系層を備え、下地層といった錫系層以外の層を備えていない。錫系層は、錫と銅とを含む合金層を銅合金板側に備え、合金層の上に純錫層を備える。
【0167】
銅合金板は、JIS合金番号C2600の黄銅から構成される板と、JIS合金番号C1940のリン青銅から構成される板とを用意した。
【0168】
銅合金板は、0.5mm、0.64mm、1.0mm、2.8mmの厚さを有するものを用意した。
【0169】
二次めっき層は、純錫層であり、下地層といった純錫層以外の層を含まない。
【0170】
各試料のピン端子は、棒状の基材と、基材の所定の領域を覆う錫系層とを備え、基材の一部が露出されている。各ピン端子の各端部側の領域を基材の長手方向に直交する平面で切断した断面において、基材の断面形状は正方形状である。ここでは、上記断面において正方形の一辺の長さが異なる以下の4種のピン端子を作製した。
【0171】
上記一辺の長さが0.5mmであるピン端子を0.5型と呼ぶ。
上記一辺の長さが0.64mmであるピン端子を0.64型と呼ぶ。
上記一辺の長さが1.0mmであるピン端子を1.0型と呼ぶ。
上記一辺の長さが2.8mmであるピン端子を2.8型と呼ぶ。
【0172】
0.5型のピン端子は、厚さ0.5mmの銅合金板を用いて製造した。
0.64型のピン端子は、厚さ0.64mmの銅合金板を用いて製造した。
1.0型のピン端子は、厚さ1.0mmの銅合金板を用いて製造した。
2.8型のピン端子は、厚さ2.8mmの銅合金板を用いて製造した。
【0173】
上述の断面において、基材の外周面は、正方形の各面を構成する第一面、第二面、第三面、第四面を備える。
第一面は、打ち抜き加工時にパンチが押し付けられる面、いわゆるダレ面である。
第二面は、第一面に対向する面であり、いわゆるバリ面である。
第三面、第四面は、互いに対向する面であると共に、第一面及び第二面に直交する面であり、打ち抜き加工によって生じる切断面である。
【0174】
試料No.1~No.7,No.50のピン端子において、基材の一端側の領域は基材の周方向の全て、ここでは第一面から第四面を覆う錫系層を備え、基材が露出していない。基材の他端側の領域は、基材の周方向の一部、ここでは第一面及び第二面を覆う錫系層を備える。基材の周方向の他部、ここでは第三面及び第四面は、錫系層を含むめっき層が設けられておらず露出されている。基材の一端側の錫系層、及び他端側の錫系層はいずれも、純錫から構成される外層と、錫と銅とを含む合金から構成される内層とを備える。
【0175】
〈端子サイズと基材の組成〉
試料No.1~No.4,No.50は、0.64型のピン端子であり、銅合金板がリン青銅板であるめっき付き板を用いて作製した。即ち、試料No.1~No.4,No.50の基材はいずれも、銅合金中のZnの含有量が20質量%以下であるリン青銅から構成される。
試料No.5~No.7は、順に0.5型、1.0型、2.8型のピン端子であり、銅合金板が黄銅板であるめっき付き板を用いて作製した。
試料No.3-1として、銅合金板が黄銅板であることを除いて、試料No.3と同様にして作製したものを用意した。
試料No.5~No.7,試料No.3-1の基材はいずれも、銅合金中のZnの含有量が20%超である黄銅から構成される。
【0176】
〈熱処理条件〉
試料No.1は、二次めっき後に熱処理を行っておらず、表中にはハイフン「-」を記載する。
試料No.2~No.4,No.50では、二次めっき後の熱処理温度が異なり、順に200℃、210℃、220℃、240℃である。
試料No.5~No.7の熱処理温度は、210℃である。
熱処理の保持時間はいずれも、30秒である。
【0177】
(試料No.101)
試料No.101のピン端子は、いわゆる後めっき法によって錫系層を設けた試料である。このピン端子は、基材の一端から他端にわたって基材の表面全体を覆う錫系層を備え、基材が露出していない。
【0178】
試料No.101のピン端子、及び後述の試料No.102のピン端子はいずれも、0.64型のピン端子であり、銅合金板が黄銅板であるめっき付き板を用いて作製した。
【0179】
(試料No.102)
試料No.102のピン端子は、いわゆる先めっき法によって錫系層を設けた試料である。このピン端子は、基材の一端から他端にわたって基材の第一面及び第二面を覆う錫系層を備える。基材の第三面及び第四面は、基材の一端から他端にわたって錫系層が設けられておらず露出されている。
【0180】
なお、各試料のピン端子において基材を覆う錫系層が存在することは、例えば、上述の断面をとり、断面を成分分析することで確認することが挙げられる。成分分析は、例えば走査型電子顕微鏡に付属されるエネルギー分散型X線分光装置(SEM-EDX)を利用することが挙げられる。
【0181】
(錫系層の厚さの測定)
各試料のピン端子において、基材の一端側の領域に存在する錫系層の厚さを測定した。先めっき法を用いて作製した試料No.102については、錫系層の厚さを測定していない。
【0182】
試料No.1~No.7,No.50,No.101のピン端子における基材の一端側の領域では、上述のように基材の周方向の全周にわたって錫系層が存在する。この基材の一端側の領域において、ピン端子の一端からピン端子の長手方向に沿って1mmの地点を錫系層の厚さの測定箇所とする。
基材の第一面から第四面の各面に対して、測定点をとる。
各面の測定点は対向位置にとる。第一面及び第二面は、各面の幅方向の中心位置及びその近傍に測定点をとる。第三面及び第四面は、各面の高さ方向の中心位置及びその近傍に測定点をとる。
【0183】
錫系層の厚さの測定は、ここでは市販の蛍光X線膜厚計を用いて行った。また、蛍光X線膜厚計による成分分析を利用して、上述の各測定点において合金層である内層の厚さ、純錫層である外層の厚さをそれぞれ測定した。錫系層の厚さは、内層の厚さと外層の厚さとの合計厚さである。なお、錫系層の厚さの測定は、ピン端子の断面をとり、この断面をSEM等で観察した像を用いて行ってよい。
【0184】
更に、試料No.1~No.7,No.50では、ピン端子の一端から離れた位置においても錫系層の厚さを測定した。具体的には、上述した基材の一端側に存在する錫系層において、ピン端子の一端からピン端子の長手方向に沿って3mmの地点、5mmの地点をそれぞれ錫系層の厚さの測定箇所とする。各測定箇所において、基材の四面の各面に対して上述の測定点をとる。各測定点において錫系層の厚さを測定した。
【0185】
各試料のサンプル数を3とし、サンプル毎に錫系層の厚さを測定した。更に、試料No.1~No.7,No.50では、3つのサンプルについてそれぞれ、内層の厚さ及び外層の厚さを測定した。錫系層の厚さ、内層の厚さ、外層の厚さのそれぞれについて、3つのサンプルの平均値を表1に示す。表1は、試料No.1~No.7のうち、0.64型のピン端子である試料No.1~No.4の測定結果を抜粋して示す。試料No.5~No.7の測定結果は記載を省略する。
【0186】
上述の先端から1mmの地点について、錫系層の厚さの最大値t1(μm)及び最小値t2(μm)を表2,表3に示す。また、最大値t1と最小値t2との差(t1-t2)(μm)、最大値t1に対する最小値t2の比(t2/t1)を表2,表3に示す。
【0187】
更に、試料No.1~No.7,No.50では、上述の先端から1mmの地点について、基材の第三面及び第四面を覆う錫系層のうち、内層の厚さの最小値を厚さt31(μm)とし、外層の厚さの最小値を厚さt32(μm)として表2,表3に示す。
【0188】
更に、試料No.1~No.7,No.50について、錫系層における基材の長手方向の厚さの差を調べた。具体的には、基材の一端側の領域に存在する錫系層において、上述の一端から1mmの地点、3mmの地点、5mmの地点を錫系層の厚さの測定箇所とし、各測定箇所において上述のように測定点をとる。基材の各面、例えば第一面における三つの測定点で測定された錫系層の厚さについて、最大厚さと最小厚さとの差をとる。基材の各面について求めた合計四つの差のうち、最大値を表2の項目「一端側 長手方向の厚さ差」に示す。表2は、試料No.1~No.4,No.50の測定結果を抜粋して示す。
【0189】
(はんだ濡れ性)
各試料のピン端子において、基材の一端側の領域の最大濡れ力(mN)を測定した。
最大濡れ力の測定は、各試料のサンプル数を3とし、サンプル毎に最大濡れ力を測定し、3つの測定値を平均した値を表3,後述の表4に示す。後めっき法を用いて作製した試料No.101については、最大濡れ力を測定していない。試料No.1~No.7のうち、試料No.3,No.5~No.7の測定結果は、表3に示す。試料No.1,No.2,No.4,No.50の測定結果は表4に記載する。
【0190】
最大濡れ力の測定は、市販のメニスコグラフ試験機を用いて測定する。
試験は、JIS C 5402-12-7:2005に記載されるようにJIS C 60068-2-54:2009の試験手順に従って行う。試験条件は、JIS C 60068-2-54:2009を参照して、以下のように設定する。
【0191】
〈試験条件〉
試験に用いるはんだは、鉛フリーはんだ合金である。
試験に用いるフラックスは、低活性フラックスであるロジンフラックスを用いる。このロジンフラックスは、質量分率でロジン25%を質量分率で75%イソプロピルアルコール(IPA)に溶解したIPA溶液である。
浸漬温度は、245℃±10℃である。
浸漬速度は、4mm/sec±2mm/secである。
浸漬深さは、1.5mm±0.5mmである。
フラックスを塗布してから、はんだに浸漬するまでの時間は、一定である。
【0192】
メニスコグラフ試験機にはんだの浸漬温度、浸漬速度、浸漬深さを設定して試験を実施し、濡れ波形のグラフを得る。市販のメニスコグラフ試験機を利用すれば、このグラフから、最大濡れ力が自動的に得られる。
【0193】
(錫の突起物の数)
各試料のピン端子において、基材の一端側の領域に存在する錫系層に生じる錫の突起物の数を測定した。
錫の突起物の数の測定は、各試料のサンプル数を3とし、サンプル毎に上述の針状の突起物であるウィスカ及び球状の突起物であるノジュールの合計数を測定し、3つの測定値を平均した値を表3,後述の表4に示す。試料No.101,No.102については、錫の突起物の数を測定していない。試料No.1~No.7のうち、試料No.3,No.5~No.7の測定結果は、表3に示す。試料No.1,No.2,No.4,No.50の測定結果は表4に記載する。
【0194】
錫の突起物の数の測定は、以下の条件で行う。
各試料のピン端子を以下の高温多湿な環境に所定時間保持して、試験片を作製する。
環境条件は、温度が85℃であり、湿度が85%である。保持時間は60時間である。
作製した各試験片において、基材の一端側の領域に存在する錫系層の表面を市販の三次元レーザ顕微鏡で観察する。この錫系層の表面の観察領域は、上記錫系層のうち、基材の第三面又は第四面を覆う箇所であって、ピン端子の一端からピン端子の長手方向に沿って0.5mmの地点から1.5mmの地点までの範囲から選択する。
この顕微鏡観察像において、ノジュール及びウィスカの数を数える。
観察視野は、一辺の長さが0.35mmである正方形とする。観察倍率は、数μmオーダーのノジュールが測定可能なように調整する。
【0195】
(はんだ付けの良否)
基材がリン青銅である試料No.3のピン端子と、基材が黄銅である試料No.3-1のピン端子において、基材の一端側の領域にはんだ付けを行った後、はんだつららの長さ(mm)を調べた。はんだ付けに用いるはんだは、鉛フリーはんだ合金である。
【0196】
はんだつららの長さは、各試料のピン端子において一端側の領域を市販のマイクロスコープで拡大して観察し、この観察像を用いて測定した。はんだつららは、ピン端子の一端からはんだつららの先端までの距離とする。はんだつららの長さが短いほど、はんだ付けが良好になされているといえる。
【0197】
【0198】
【0199】
【0200】
表2,表3に示すように、試料No.1~No.7,No.50ではいずれも、基材の一端側の領域に存在する錫系層の厚さについて、差(t1-t2)が0.20μm以上である。これらの試料は、後めっき法を用いて作製した試料No.101よりも大きな差(t1-t2)を有することが分かる。また、試料No.1~No.7,No.50では、基材の第一面又は第二面上に存在する錫系層の厚さが最大値t1をとり、基材の第三面又は第四面上に存在する錫系層の厚さが最小値t2をとることが分かる。即ち、試料No.1~No.7,No.50のピン端子は、基材の一端側の領域において、最小値t2をとる薄膜部と、最大値t1をとる厚膜部とを基材の周方向の異なる位置に有するといえる。
【0201】
また、表2,表3に示すように、試料No.1~No.7,No.50ではいずれも、基材の一端側の領域に存在する錫系層の厚さについて、比(t2/t1)が0.2以上0.8未満である。これらの試料では、試料No.101よりも、比(t2/t1)が小さいことが分かる。つまり、試料No.1~No.7,No.50では、ピン端子の一端側の領域において、錫系層の最大値t1と最小値t2との差がある程度大きいといえる。
【0202】
以上のことから、試料No.1~No.7,No.50では、基材の一端側の領域において、基材の周方向の全てを覆う錫系層を有し、かつこの錫系層の厚さが基材の周方向に異なっており、厚さの差がある程度大きいといえる。これらのことは、
図8A~
図8Eに示す顕微鏡写真からも裏付けられる。
【0203】
図8Aは、試料No.3のピン端子のうち、サンプルの一つについて、断面をSEMで観察したSEM像である。上記断面は、基材の一端側の領域において、ピン端子の一端からピン端子の長手方向に沿って3mmの地点を基材の軸に平行な平面で切断したものである。
【0204】
図8B~
図8Eは、
図8Aにおいて白い破線の長方形で囲まれた領域を拡大して示す。
図8B~
図8Eは、順に基材の第一面、第二面、第三面、第四面を覆う錫系層を示す。
図8B~
図8Eにおいて、濃い灰色の領域は基材2であり、黒色の領域は埋め込み樹脂である。基材2と埋め込み樹脂との間に存在する灰色の領域は錫系層30である。錫系層30のうち、基材2に近い側の領域は、錫と銅とを含む合金からなる内層301である。錫系層30のうち、内層301に接する薄い灰色の領域は、純錫からなる外層302である。
図8Bにのみ、符号を付して示す。
【0205】
図8B及び
図8Cと、
図8D及び
図8Eとを比較する。この比較から、基材の第一面及び第二面を覆う錫系層の厚さ、内層の厚さ、外層の厚さはいずれも、基材の第三面及び第四面を覆う錫系層の厚さ、内層の厚さ、外層の厚さよりも厚いことが分かる。この厚さの相違に関する事項は、切断位置をピン端子の一端からピン端子の長手方向に沿って1mmの地点とした場合も同様である。また、この厚さの相違に関する事項は、試料No.1,No.2,No.4~No.7についても同様である。
【0206】
そして、表3,後述の表4に示すように試料No.1~No.7では、最大濡れ力が0.25mN以上であり、はんだ濡れ性に優れることが分かる。試料No.1~No.7の最大濡れ力が高い理由の一つとして、基材の一端側の領域において基材の周方向の全てを覆う錫系層を有することが挙げられる。特にこの錫系層が純錫からなる外層を含み、外層の厚さが適切であることが挙げられる。定量的には、上記錫系層のうち、薄膜部に備えられる外層の厚さt32が0.5μm以上であり、ここでは1.0μm以上である。厚膜部に備えられる外層の厚さは、薄膜部の外層の厚さt32よりも厚い。即ち、基材の一端側の領域では、基材の周方向の全周にわたって、はんだ濡れ性に優れる純錫層が適切に存在するといえる。
【0207】
一方、試料No.50の最大濡れ力は、後述する表4に示すように0.25mN未満である。試料No.50の最大濡れ力が低い理由の一つとして、試料No.50の熱処理温度が試料No.2~No.7の熱処理温度よりも高いことが考えられる。
【0208】
他方、試料No.102は、最大濡れ力を測定できず、はんだ濡れ性に劣る。この理由の一つとして、試料No.102では、基材の一端側の領域において基材の一部、ここでは基材の第三面及び第四面が露出されていることが考えられる。
【0209】
試料No.1~No.7,No.50では、上述の針状の突起物であるウィスカが観察されなかった。一部の試料において、球状の突起物であるノジュールのみが観察された。従って、表3,後述する表4に示す錫の突起物の数は、ノジュールの数である。表3,表4に示すように試料No.5を除いて、試料No.2~No.7,No.50では、0.35mm×0.35mmにおけるノジュールの数が15個以下であり、ウィスカが存在しない上にノジュールの数も少ないことが分かる。特に、試料No.3,No.4,No.7,No.50におけるノジュールの数は0個であり、ウィスカ及びノジュールが実質的に存在していない。試料No.2~No.7,No.50ではウィスカ及びノジュールの数が少ない理由の一つとして、基材の露出領域である第三面及び第四面に接して錫系層が設けられているものの、この錫系層が錫と銅とを含む合金からなる内層を含み、内層の厚さが適切であることが挙げられる。定量的には、基材の第三面及び第四面に接して設けられている薄膜部中の内層の厚さt31が0.1μm以上である。厚膜部に備えられる内層の厚さは、薄膜部の内層の厚さt31よりも厚い。即ち、基材の一端側の領域では、基材の周方向の全周にわたって、ウィスカ及びノジュールの発生を抑制する作用を有する合金層が適切に存在するといえる。そのため、試料No.2~No.7は下地層を備えていなくても、錫系層の表面にウィスカ及びノジュールが生じ難いといえる。
【0210】
一方、試料No.1では、後述の表4に示すように0.35mm×0.35mmにおけるノジュールの数が35個超である。また、試料No.1では、薄膜部の内層の厚さt31が0.1μm未満である。試料No.1では、内層の厚さt31が薄いことでノジュールの数が多くなったと考えられる。この理由の一つとして、試料No.1は二次めっき後に熱処理を行っていないことが考えられる。
【0211】
その他、表2の項目「一端側 長手方向の厚さ差」に示すように試料No.1~No.4では、上述の差の最大値が1μm以下である。基材の一端側の領域では、基材の長手方向における錫系層の厚さの差が小さいといえる。この点は、試料No.5~No.7についても同様である。一方、試料No.50では、上記差の最大値が3μm超と大きい。上記差の最大値が大きい理由の一つとして、試料No.50の熱処理温度が試料No.2~No.7の熱処理温度よりも高く、特に錫の融点よりも高いことが考えられる。熱処理温度が錫の融点よりも高いことで、二次めっき層が熱処理時に溶融されて、熱処理後に錫系層の厚さの不均一が生じたと考えられる。
【0212】
また、試料No.1~No.7,No.50のピン端子について、二次めっきを行わなかった基材の他端側の領域について、基材の第一面及び第二面に存在する錫系層の厚さを調べた。ここでは、上述の長手方向の厚さ差を評価する場合と同様にして、最大厚さと最小厚さとの差の最大値を調べた。その結果、試料No.1~No.7では、上記差の最大値は0.2μm未満であり、錫系層は基材の長手方向に均一的な厚さを有するといえる。試料No.50の最大値は0.2μm以上であり、錫系層は肥大箇所を有するといえる。この理由の一つとして、試料No.50の熱処理温度が試料No.2~No.7の熱処理温度よりも高く、特に錫の融点よりも高いことが挙げられる。熱処理温度が錫の融点よりも高いことで、第一面及び第二面を覆う一次めっき層が熱処理時に溶融されて、熱処理後に錫系層の厚さの不均一が生じたと考えられる。
【0213】
次に、はんだ付けの良否について述べる。
基材が黄銅から構成される試料No.3-1のはんだつららの長さは、0.77mmである。基材がリン青銅から構成される試料No.3のはんだつららの長さは0.17mmであり、試料No.3-1に比較して短い。この理由の一つとして、試料No.3の基材ではZnの含有量が20質量%以下、ここでは0.05質量%以上0.20質量%以下であり、Znの含有量が28質量%超である黄銅よりも少ないことが考えられる。試料No.3では、Znの含有量が少ないことで、はんだつららの形成が抑制されたと考えられる。
【0214】
以上のことから、基材の一端側の領域に、基材の周方向の全周を覆う錫系層を備え、この錫系層の厚さが基材の周方向に異なるピン端子は、最大濡れ力が大きく、はんだ濡れ性に優れることが示された。特にこの錫系層に備えられる薄膜部中の純錫層の厚さt32が0.5μm以上であると、はんだ濡れ性により優れる。また、このピン端子は、銅を含む基材に接して上記薄膜部が設けられているものの、上記薄膜部の表面にウィスカの数が少ないことが示された。特に上記薄膜部中の合金層の厚さt31が0.1μm以上であると、ウィスカの数だけでなく、ノジュールの数も少ない。はんだ濡れ性及び錫の突起物の数については、後述の試験例2でより詳細に説明する。
【0215】
上述のはんだ濡れ性に優れる効果、ウィスカ及びノジュールの数が少ない効果は、基材の構成材料の組成によらず得られることが示された。更に、基材の構成材料が銅合金である場合にZnの含有量が20質量%以下であると、はんだつららが短く、はんだ付け不良が低減されることが示された。
【0216】
加えて、上述のはんだ濡れ性に優れるピン端子は、基材の他端側の領域に、基材の長手方向に均一的な厚さを有する錫系層を備えることが示された。このようなピン端子は、相手側端子に他端側の領域を挿入し易く、挿入性に優れるといえる。
【0217】
そして、上述のようにはんだ濡れ性に優れる上に、相手側端子への挿入性にも優れるピン端子、更にはウィスカの数が少ないピン端子は、上述の多段めっき製法を利用すること、特に二次めっき後の熱処理温度を錫の融点以下とすることで製造されることが示された。熱処理温度については、後述する試験例2でより詳細に説明する。
【0218】
なお、基材の断面形状が正方形以外の長方形や多角形、円形等である場合には、錫系層の厚さの測定点を以下のようにとる。基材の断面形状が正方形以外の長方形や多角形の場合、上述の先端からの1mmの地点等において、基材の任意の一面について幅方向の中心位置及びその近傍を測定点とする。この測定点の対向位置も測定点とする。また、両測定点をつなぐ直線に対して、直交する方向に位置する対向箇所も測定点とする。基材の断面形状が円形の場合、上述の先端からの1mmの地点等において、任意の直径方向に対向する箇所、及びこの直径方向と90°ずれた直径方向に対向する箇所をそれぞれ測定点とする。
【0219】
[試験例2]
二次めっき後の熱処理温度と、ピン端子の最大濡れ力及び錫の突起物の数との関係を調べた。
【0220】
ここでは、試験例1で作製した試料に加えて、以下の試料No.51,No.52を作製した。試料No.51,No.52は、試料No.3に対して、二次めっき後の熱処理温度を150℃又は180℃に変えたことを除いて、試料No.3と同様にして作製した。
【0221】
試料No.1~No.4,No.50~No.52について、二次めっき後の熱処理温度(℃)、最大濡れ力(mN)、錫の突起物の数(個/(0.35mm×0.35mm))を表4に示す。また、これらの試料について、基材の一端側の領域に存在する錫系層の最大値t1(μm)、最小値t2(μm)、基材の第三面及び第四面に存在する薄膜部中の内層の厚さt31(μm)及び外層の厚さt32(μm)を表4に示す。差(t1-t2)、比(t2/t1)を求め、その結果も表4に示す。最大濡れ力、錫の突起物の数、錫系層の厚さの測定方法は、試験例1と同様である。
【0222】
図9は、二次めっき後の熱処理温度と、最大濡れ力及び錫の突起物の数との関係を示すグラフである。このグラフにおいて、横軸は、熱処理温度(℃)を示す。左縦軸は、最大濡れ力(mN)を示し、凡例は丸印である。右縦軸は、錫の突起物の数(個/(0.35mm×0.35mm))を示し、凡例は菱形印である。
【0223】
図10は、各試料の外層の厚さt
32と、最大濡れ力との関係を示すグラフである。このグラフにおいて、横軸は、外層の厚さt
32(μm)を示す。縦軸は、最大濡れ力(mN)を示す。
【0224】
図11は、各試料の内層の厚さt
31と、錫の突起物の数との関係を示すグラフである。このグラフにおいて、横軸は、内層の厚さt
31(μm)を示す。縦軸は、錫の突起物の数(個/(0.35mm×0.35mm))を示す。
【0225】
図12A~
図12Dは、順に試料No.1,No.2,No.4,No.50のピン端子において、錫の突起物の数の測定に利用する顕微鏡観察像である。
図12A~
図12Dの顕微鏡観察像はいずれも、上述の三次元レーザ顕微鏡で観察した像であり、一辺の長さが0.35mmである正方形の観察視野を示す。
【0226】
【0227】
表4,
図9に示すように、最大濡れ力及び錫の突起物の数は、二次めっき後の熱処理温度に影響を受けるといえる。
【0228】
最大濡れ力に着目する。
最大濡れ力は、熱処理温度が210℃までの範囲において概ね一定であり、熱処理温度の上昇に伴って低下し、熱処理温度が240℃であると極端に低下する。
【0229】
また、
図10に示すように、基材の一端側の領域に存在する錫系層のうち、基材に接して設けられた薄膜部において、純錫からなる外層の厚さt
32が厚いほど最大濡れ力が高い傾向にある。ここでは、外層の厚さt
32が1.0μm以上であると、最大濡れ力は0.3mN以上であり、0.4mN以上の試料も多い。外層の厚さt
32が0.5μm以上であれば、0.25
mN以上の最大濡れ力が期待できる。
【0230】
以上のことから、熱処理温度が低いほど、二次めっきによって形成した純錫層が熱処理後に残存して、外層の厚さt
32が厚くなり易いことで、最大濡れ力が高められるといえる。ここでは、熱処理温度は、240℃未満が好ましいといえ、
図9に示すグラフの傾向から錫の融点(約232℃)未満が好ましいといえる。また、最大濡れ力の向上の観点からは、熱処理温度は220℃以下がより好ましいといえる。
【0231】
次に、錫の突起物の数に着目する。
いずれの試料も、上述の針状の突起物であるウィスカが観察されず、一部の試料に、球状の突起物であるノジュールのみが観察された。従って、表4,
図9,
図11に示す錫の突起物の数は、ノジュールの数である。また、以下に述べるノジュールの数は、0.35mm×0.35mmの視野内に存在する数である。
【0232】
錫の突起物の数は、熱処理を行わないと多く、熱処理温度の上昇に伴って少なくなる。
図12Aに示すように、熱処理を行っていない試料No.1では、上述の針状の突起物であるウィスカが存在しないものの、球状のノジュールの数が多く、30個を超える。
図12Aに付した白い破線の丸は、複数のノジュールのうち、一部のノジュールを囲んでいる。なお、ノジュールであれば30個超と多くても、ノジュールに起因するピン端子同士の短絡が生じ難い。但し、ノジュールが多過ぎると、針状の突起物であるウィスカに成長することが危惧される。そのため、ノジュールのみの数は、本例のように40個以下が好ましい。
【0233】
これに対し、熱処理温度が180℃を超えると、特に200℃以上であるとノジュールの数は15個以下、ここでは更に10個以下である。
図12Bにおいて複数の円形状領域の中心にある粒状の部分がノジュールである。この試験では、熱処理温度が200℃を超えるとノジュールの数は0個であり、ウィスカ及びノジュールが実質的に存在していない。
図12C,
図12Dでは、上述の円形状の領域が観察されない。
【0234】
また、
図11に示すように、基材の一端側の領域に存在する錫系層のうち、基材に接して設けられた薄膜部において、錫と銅とを含む合金からなる内層の厚さt
31が厚いほど、ノジュールの数が少ない。ここでは、内層の厚さt
31が0.1μm以上であると、ノジュールの数が30個以下である。内層の厚さt
31が0.2μm以上であればノジュールの数は20個以下である。更に、内層の厚さt
31が0.2μm超であればノジュールの数が15個以下、ここでは更に10個以下である。
【0235】
以上のことから、熱処理温度が高いほど、二次めっきによって形成した純錫層が熱処理によって合金化して内層の厚さt31が厚くなり易いことで、ノジュールを含めてウィスカの数が少なくなるといえる。ここでは、熱処理温度は180℃超、更に200℃以上が好ましいといえる。
【0236】
本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0237】
例えば、試験例1,2の基材の組成、基材の大きさ、めっき層の組成や厚さ、熱処理条件等を適宜変更できる。
めっき層の組成の変形例として、試験例1,2で用いためっき付き板として、錫系層と銅合金板との間に下地層を含むものを用いることが挙げられる。この場合、基材の一端側の領域は、先端被覆部の厚膜部の下に下地層を含む。基材の他端側の領域は、錫系層である後端被覆部の下に下地層を含む。
【符号の説明】
【0238】
1 ピン端子
2 基材
21 第一面、22 第二面、23 第三面、24 第四面、26 露出領域
3 めっき層
30 錫系層、31 先端被覆部、32 後端被覆部
34 薄膜部、35 厚膜部
300 下地層、301 内層、302 外層
6 コネクタ
60 筐体
7 コネクタ付きワイヤーハーネス
70 ワイヤーハーネス、71 電線、74,75,76 コネクタ
8 コントロールユニット
80 回路基板、81 スルーホール、85 はんだ
90 素材板、91 めっき付き板、92 成形材、93 部分めっき材
94 熱処理材
920 棒状部、925 連結部、931 二次めっき層、941 熱処理層
t1 最大値、t2 最小値、t31,t32,ti,to 厚さ