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特許7226309樹脂膜、それを含むディスプレイおよびそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】樹脂膜、それを含むディスプレイおよびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20230214BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20230214BHJP
   C01B 32/00 20170101ALI20230214BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20230214BHJP
   H10K 50/00 20230101ALI20230214BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20230214BHJP
   H10K 59/00 20230101ALI20230214BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20230214BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230214BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230214BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
H01L29/78 626C
H01L29/78 618B
C01B32/00
G09F9/00 338
H05B33/14 A
H05B33/02
H01L27/32
H05B33/10
C08L101/00
C08K3/04
G09F9/30 310
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019516716
(86)(22)【出願日】2019-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2019012183
(87)【国際公開番号】W WO2019188821
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2018064030
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芦部 友樹
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 大地
【審査官】岩本 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-071093(JP,A)
【文献】特開2009-018568(JP,A)
【文献】国際公開第2015/163422(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/136008(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0190925(US,A1)
【文献】特開2006-030920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09F 9/30
H01L 21/336
H01L 29/786
C01B 32/00
G09F 9/00
H01L 51/50
H05B 33/02
H01L 27/32
H05B 33/10
C08L 101/00
C08K 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜トランジスタの支持基板として用いられる樹脂膜であって、
耐熱性樹脂を含み、
所定の樹脂膜面におけるシート抵抗が1×1012Ωより大きく1×1016Ω未満である、
ことを特徴とする樹脂膜。
【請求項2】
更に導電性粒子を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の樹脂膜。
【請求項3】
前記導電性粒子がカーボン粒子である、
ことを特徴とする請求項2に記載の樹脂膜。
【請求項4】
前記導電性粒子の含有量が、前記耐熱性樹脂の100質量部に対して0.01質量部以上3質量部以下である、
ことを特徴とする請求項2または3に記載の樹脂膜。
【請求項5】
膜厚が4μm以上40μm以下である、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の樹脂膜。
【請求項6】
前記所定の樹脂膜面の算術平均粗さが10nm以下である、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載の樹脂膜。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一つに記載の樹脂膜を備える、
ことを特徴とするディスプレイ。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一つに記載の樹脂膜を製造する樹脂膜の製造方法であって、
耐熱性樹脂または前記耐熱性樹脂の前駆体と溶剤とを含む樹脂組成物を支持体に塗布する塗布工程と、
前記塗布工程によって得られた塗膜を加熱して樹脂膜を得る加熱工程と、
を含むことを特徴とする樹脂膜の製造方法。
【請求項9】
加熱後の前記樹脂膜を研磨する研磨工程を含む、
ことを特徴とする請求項8に記載の樹脂膜の製造方法。
【請求項10】
加熱後の前記樹脂膜にレーザーを照射する照射工程を含む、
ことを特徴とする請求項8に記載の樹脂膜の製造方法。
【請求項11】
加熱後の前記樹脂膜の上にレジストを塗布して、前記支持体上の前記樹脂膜と前記樹脂膜を覆う前記レジストとの積層体を形成するレジスト塗布工程と、
得られた前記積層体を前記レジストが塗布された側からドライエッチングして、前記樹脂膜を露出させるエッチング工程と、
を含むことを特徴とする請求項8に記載の樹脂膜の製造方法。
【請求項12】
請求項8~11のいずれか一つに記載の樹脂膜の製造方法によって支持体上に樹脂膜を製造する膜製造工程と、
前記樹脂膜の上に薄膜トランジスタ素子を形成する素子形成工程と、
前記支持体から、前記薄膜トランジスタ素子が形成された前記樹脂膜を剥離する剥離工程と、
を含むことを特徴とするディスプレイの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂膜、それを含むディスプレイおよびそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンズイミダゾール等の耐熱性樹脂は、様々な電子デバイスの材料として使用されている。最近では、有機ELディスプレイ、電子ペーパー、カラーフィルターなどのディスプレイの基板に樹脂膜を用いることで、衝撃に強く、フレキシブルなディスプレイを製造することができる。特に、ディスプレイ用の薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:TFT)は製造工程において高温処理が必要になるため、その支持基板に耐熱性樹脂の樹脂膜を用いる開発が進められている。
【0003】
TFT支持基板用の樹脂膜は、高い耐熱性に加え、高い絶縁性を有する樹脂膜が使用されている。例えば特許文献1には、TFT基板として1×1017[Ω・cm]以上の体積抵抗率を有する樹脂基板を用いることで、信頼性に優れたTFTを製造する例が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-212360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の樹脂膜は、膜上に異物が付着しやすいという課題があった。特に、TFTの製造プロセスでは、TFTの支持基板に用いられる樹脂膜は高温プロセスを通過するため、この樹脂膜上に付着した僅かな異物からの発ガスによってTFT素子が破壊され、画素欠陥となる恐れがある。このため、TFT製造の歩留まりが悪化するという課題があった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、異物が付着しにくく、TFT製造の歩留まりを向上させることができる、TFT支持基板に好適な樹脂膜、それを含むディスプレイおよびそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る樹脂膜は、薄膜トランジスタの支持基板として用いられる樹脂膜であって、耐熱性樹脂を含み、所定の樹脂膜面におけるシート抵抗が1×1012Ωより大きく1×1016Ω未満である、ことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る樹脂膜は、上記の発明において、更に導電性粒子を含む、ことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る樹脂膜は、上記の発明において、前記導電性粒子がカーボン粒子である、ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る樹脂膜は、上記の発明において、前記導電性粒子の含有量が、前記耐熱性樹脂の100質量部に対して0.01質量部以上3質量部以下である、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る樹脂膜は、上記の発明において、膜厚が4μm以上40μm以下である、ことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る樹脂膜は、上記の発明において、前記所定の樹脂膜面の算術平均粗さが10nm以下である、ことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るディスプレイは、上記の発明のいずれか一つに記載の樹脂膜を備える、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る樹脂膜の製造方法は、上記の発明のいずれか一つに記載の樹脂膜を製造する樹脂膜の製造方法であって、耐熱性樹脂または前記耐熱性樹脂の前駆体と溶剤とを含む樹脂組成物を支持体に塗布する塗布工程と、前記塗布工程によって得られた塗膜を加熱して樹脂膜を得る加熱工程と、を含むことを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る樹脂膜の製造方法は、上記の発明において、加熱後の前記樹脂膜を研磨する研磨工程を含む、ことを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る樹脂膜の製造方法は、上記の発明において、加熱後の前記樹脂膜にレーザーを照射する照射工程を含む、ことを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る樹脂膜の製造方法は、上記の発明において、加熱後の前記樹脂膜の上にレジストを塗布して、前記支持体上の前記樹脂膜と前記樹脂膜を覆う前記レジストとの積層体を形成するレジスト塗布工程と、得られた前記積層体を前記レジストが塗布された側からドライエッチングして、前記樹脂膜を露出させるエッチング工程と、を含むことを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係るディスプレイの製造方法は、上記の発明のいずれか一つに記載の樹脂膜の製造方法によって支持体上に樹脂膜を製造する膜製造工程と、前記樹脂膜の上に薄膜トランジスタ素子を形成する素子形成工程と、前記支持体から、前記薄膜トランジスタ素子が形成された前記樹脂膜を剥離する剥離工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、異物が付着しにくく、TFT支持基板に好適な樹脂膜を提供することができる。また、TFT製造時の高温プロセスにおいて、異物の発ガスに由来するTFT素子の破損を抑制することができ、このため、TFT製造の歩留まりを向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、目的や用途に応じて種々に変更して実施することができる。
【0021】
<樹脂膜>
本発明の実施の形態にかかる樹脂膜は、薄膜トランジスタ(TFT)の支持基板として用いられる樹脂膜であり、耐熱性樹脂を含む。また、当該樹脂膜の所定の樹脂膜面におけるシート抵抗は、1×1012Ωより大きく1×1016Ω未満である。例えば、上記所定の樹脂膜面は、当該樹脂膜の膜厚方向両側(表裏両側)のうち一方の面である。当該樹脂膜においては、膜厚方向両側の樹脂膜面のうちシート抵抗が上記範囲である側の面に、TFTが形成されることが好ましい。以下、「樹脂膜」といえば、特に説明がない限り、本発明の実施の形態にかかる樹脂膜をいう。また、樹脂膜の膜厚方向における両側の樹脂膜面のうち、TFTを形成する側の樹脂膜面を「TFT形成面」という。例えば、TFTを形成する前に樹脂膜を支持体上に成膜する場合は、この樹脂膜のうち支持体に接する面とは反対側の面がTFT形成面である。
【0022】
樹脂膜の所定の樹脂膜面におけるシート抵抗が1×1016Ω未満であれば、樹脂膜への異物の付着を低減させることができる。また、TFT製造時の高温プロセスにおいて、異物の発ガスに由来するTFT素子の破損を抑制することができるため、TFT製造の歩留まりを向上させることができる。樹脂膜のシート抵抗が過度(例えば、1×1016Ω以上)に大きいと、樹脂膜が帯電しやすくなり、この結果、樹脂膜と異物との間にクーロン力が働く。このため、異物が樹脂膜面に付着しやすくなる。上記シート抵抗が1×1016Ω未満であれば、電荷の拡散や再結合によって樹脂膜面の電荷密度が小さくなり、この結果、樹脂膜と異物とのクーロン力が小さくなるため、樹脂膜への異物の付着を低減することができると推定される。特に、樹脂膜への異物の付着を低減するという観点から、上記シート抵抗は、1×1015Ω未満であることが好ましい。
【0023】
また、樹脂膜において、上記シート抵抗が1×1012Ωより大きければ、TFT配線間のリークによるTFTの動作不良を防止することができる。特に、上記シート抵抗は、TFTの動作不良の防止の観点から、1×1013Ωより大きいことが好ましく、1×1014Ωより大きいことがより好ましい。本発明においては、上述した樹脂膜におけるシート抵抗の上限値および下限値をそれぞれ任意に組み合わせた範囲も好ましい例である。したがって、上記シート抵抗の範囲としては、例えば、1×1013Ωより大きく1×1016Ω未満なども、好ましい範囲である。
【0024】
樹脂膜のシート抵抗を上記範囲にする方法としては、例えば、耐熱性樹脂を含む樹脂膜中に添加物を添加する方法が挙げられる。添加物としては、例えば、イオン性化合物や導電性粒子等が挙げられる。中でも、本発明の実施の形態に係る樹脂膜は、耐熱性樹脂に加え、更に添加剤として導電性粒子を含むことが好ましい。添加剤が導電性粒子であれば、樹脂膜の耐熱性を下げることなく、当該樹脂膜のシート抵抗を所望の値に制御することができる。
【0025】
なお、本発明におけるシート抵抗は、日本工業規格(JIS K 6271:2015)に従い、二重リング電極法にて測定した値である。測定時に用いる電極は、主電極径を37mmとし、リング電極幅を5.5mmとし、主電極とリング電極との間の距離を1mmとし、対向電極径を55mmとし、銀ペーストにより作製する。測定時の印加電圧は、500Vとする。
【0026】
(導電性粒子)
本発明における導電性粒子は、電気導電性を有する粒子であれば特に制限はない。導電性粒子としては、例えば、カーボン粒子、金属粒子、金属酸化物粒子などが挙げられる。カーボン粒子としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボン繊維、グラフェンなどの粒子が挙げられる。金属粒子としては、金、アルミニウム、銅、インジウム、アンチモン、マグネシウム、クロム、スズ、ニッケル、銀、鉄、チタン、及びそれらの合金などの粒子が挙げられる。金属酸化物粒子としては、酸化イットリウム、酸化インジウム、酸化スズ、およびそれらの複合酸化物などの粒子が挙げられる。これらの導電性粒子は、単独で使用しても良いし、2種以上を併用することもできる。
【0027】
中でも、導電性粒子は、カーボン粒子であることが好ましく、カーボンブラックであることがより好ましい。導電性粒子がカーボン粒子であれば、以下で説明するとおり、TFTの信頼性悪化を防止することができる。一般的に、TFTは、ゲート電極に閾値電圧以上の電圧を印加することにより、半導体層が活性化され、ソース電極とドレイン電極との間に電流が流れることで駆動する。この時、支持基板となる樹脂膜中に電荷が含まれる場合、その電荷に由来する電場が半導体層に影響を及ぼすため、閾値電圧の変動を引き起こすことがある。導電性粒子がカーボン粒子である場合は、樹脂膜中の電荷量の変化を防止することができるため、閾値電圧の変動を防止することができる。
【0028】
本発明において、導電性粒子の形状は、特に限定されず、所望の形状であってもよい。導電性粒子の形状としては、例えば、球状、楕円形状、偏平状、ロッド状、繊維状などが挙げられる。
【0029】
導電性粒子の平均粒子径は、特に制限されるものではないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.02μm以上であることがより好ましい。また、導電性粒子の平均粒子径は、10μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。導電性粒子の平均粒子径が0.01μm以上であれば、当該導電性粒子の添加によって樹脂膜のシート抵抗を制御可能である。導電性粒子の平均粒子径が10μm以下であれば、当該導電性粒子を含有する樹脂膜は、TFT支持基板用の樹脂膜として十分な機械特性を有する。
【0030】
平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの電子顕微鏡写真から測定することができる。具体的には、イオンミリング装置により樹脂膜の断面を露出させた後、この断面のSEM観察を行い、これによって観察された50個の粒子について粒子径を測定し、算術平均した値を平均粒子径とする。なお、この粒子径は、樹脂膜の膜厚方向のフェレー径とする。フェレー径とは、粒子を挟む一定方向の二本の平行線の間隔(一定方向径)を意味する。
【0031】
本発明における樹脂膜中の導電性粒子の含有量は、当該樹脂膜中の耐熱性樹脂の100質量部に対して0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることが更に好ましい。また、上記導電性粒子の含有量は、当該樹脂膜中の耐熱性樹脂の100質量部に対して3質量部以下であることが好ましく、1.5質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることが更に好ましい。上記導電性粒子の含有量が0.01質量部以上であれば、樹脂膜のシート抵抗を低減可能である。上記導電性粒子の含有量が3質量部以下であれば、この含有量の導電性粒子を含有する樹脂膜は、TFT支持基板用の樹脂膜として十分な機械特性を有する。
【0032】
(イオン性化合物)
本発明において、樹脂膜は、耐熱性樹脂に加え、更に添加剤としてイオン性化合物を含有してもよい。イオン性化合物としては、例えば、トリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)などの金属錯体や、酢酸アンモニウムなどの有機塩などを用いることができる。これらのイオン性化合物の樹脂膜中の含有量は、当該樹脂膜中の耐熱性樹脂の100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましい。また、これらのイオン性化合物の樹脂膜中の含有量は、当該樹脂膜中の耐熱性樹脂の100質量部に対して10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることが更に好ましい。
【0033】
(耐熱性樹脂)
本発明の実施の形態に係る樹脂膜は、上述したように、耐熱性樹脂を含む。本発明における耐熱性樹脂とは、300℃以下に融点や分解温度を持たない樹脂を指す。このような耐熱性樹脂として、例えば、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトンなどが挙げられる。これらのうち、本発明に好ましく用いることができる耐熱性樹脂は、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾールであり、より好ましくはポリイミドである。耐熱性樹脂がポリイミドであれば、耐熱性樹脂を含む樹脂膜を用いたディスプレイ基板を製造するにあたり、当該樹脂膜は、製造工程の温度に対する耐熱性(アウトガス特性、ガラス転移温度など)と、製造後のディスプレイに靭性を付与するのに適した機械特性とを有することができる。
【0034】
本発明における耐熱性樹脂として、ポリイミドは、化学式(1)で表される繰り返し単位を有する樹脂であることが好ましい。
【0035】
【化1】
【0036】
化学式(1)中、Aは、炭素数が2以上である4価のテトラカルボン酸残基を示す。Bは、炭素数が2以上である2価のジアミン残基を示す。
【0037】
詳細には、化学式(1)中、Aは、炭素数が2~80の4価の炭化水素基であることが好ましい。また、Aは、水素および炭素を必須成分とし、ホウ素、酸素、硫黄、窒素、リン、ケイ素およびハロゲンから選ばれる1以上の原子を含む、炭素数が2~80の4価の有機基であってもよい。ホウ素、酸素、硫黄、窒素、リン、ケイ素およびハロゲンの各原子は、それぞれ独立に20以下の範囲で化学式(1)中のAに含まれることが好ましく、10以下の範囲で化学式(1)中のAに含まれることがより好ましい。
【0038】
化学式(1)中のAを与えるテトラカルボン酸としては、特に制限はなく、公知のものを用いることができる。このテトラカルボン酸の例として、ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル、シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸や、国際公開第2017/099183号に記載のテトラカルボン酸などが挙げられる。
【0039】
これらのテトラカルボン酸は、そのままの状態で使用することもできれば、酸無水物、活性エステルあるいは活性アミドの状態でも使用することもできる。また、化学式(1)中のAを与えるテトラカルボン酸としては、これらを2種以上用いてもよい。
【0040】
後述の通り、樹脂膜の機械強度の観点から、化学式(1)中のAを与えるテトラカルボン酸としては、芳香族テトラカルボン酸をテトラカルボン酸全体の50モル%以上使用することが好ましい。中でも、当該Aは、化学式(2)または化学式(3)で表される4価のテトラカルボン酸残基を主成分とすることが好ましい。
【0041】
【化2】
【0042】
すなわち、当該Aは、ピロメリット酸または3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸を主成分として用いることが好ましい。ここでいう「主成分」とは、テトラカルボン酸全体の50モル%以上使用する成分を指す。より好ましくは、当該Aの主成分は、テトラカルボン酸全体の80モル%以上使用する成分である。これらのテトラカルボン酸から得られるポリイミドであれば、剛直な構造を有するため、機械強度に優れた樹脂膜が得られる。また、樹脂膜が導電性粒子を含む場合に、導電性粒子が凝集しにくく、導電性粒子の添加による機械強度の低下を抑制することができる。
【0043】
また、樹脂膜を構成する樹脂組成物の支持体に対する塗布性や、洗浄などに用いられる酸素プラズマ、UVオゾン処理に対する樹脂膜の耐性を高めるため、化学式(1)中のAを与えるテトラカルボン酸としては、ジメチルシランジフタル酸、1,3-ビス(フタル酸)テトラメチルジシロキサンなどのケイ素含有テトラカルボン酸を用いてもよい。これらケイ素含有テトラカルボン酸を用いる場合、テトラカルボン酸全体の1~30モル%用いることが好ましい。
【0044】
上記化学式(1)中のAについて例示したテトラカルボン酸は、テトラカルボン酸の残基に含まれる水素の一部がメチル基、エチル基などの炭素数が1~10である炭化水素基、トリフルオロメチル基などの炭素数が1~10であるフルオロアルキル基、F、Cl、Br、Iなどの基で置換されていてもよい。さらには、当該テトラカルボン酸の残基に含まれる水素の一部がOH、COOH、SOH、CONH、SONHなどの酸性基で置換されていると、耐熱性樹脂およびその前駆体のアルカリ水溶液に対する溶解性が向上することから、後述の感光性樹脂組成物として用いる場合に好ましい。
【0045】
一方、化学式(1)中、Bは、炭素数が2~80の2価の炭化水素基であることが好ましい。また、Bは、水素および炭素を必須成分とし、ホウ素、酸素、硫黄、窒素、リン、ケイ素およびハロゲンから選ばれる1以上の原子を含む、炭素数が2~80の2価の有機基であってもよい。ホウ素、酸素、硫黄、窒素、リン、ケイ素およびハロゲンの各原子は、それぞれ独立に20以下の範囲で化学式(1)中のBに含まれることが好ましく、10以下の範囲で化学式(1)中のBに含まれることがより好ましい。
【0046】
化学式(1)中のBを与えるジアミンとしては、特に制限はなく、公知のものを用いることができる。このジアミンの例として、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジ(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、ビス(4-アミノフェノキシフェニル)スルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブタンジアミン、1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、シクロヘキサンジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)や、国際公開第2017/099183号に記載のジアミンなどが挙げられる。
【0047】
これらのジアミンは、そのままの状態で使用することも、あるいは対応するトリメチルシリル化ジアミンとしても使用することもできる。また、化学式(1)中のBを与えるジアミンとしては、これらを2種以上用いてもよい。
【0048】
後述の通り、樹脂膜の機械強度の観点から、化学式(1)中のBを与えるジアミンとしては、芳香族ジアミン化合物をジアミン化合物全体の50モル%以上使用することが好ましい。中でも、当該Bは、化学式(4)で表される2価のジアミン残基を主成分とすることが好ましい。
【0049】
【化3】
【0050】
すなわち、当該Bは、p-フェニレンジアミンを主成分として用いることが好ましい。ここでいう「主成分」とは、ジアミン化合物全体の50モル%以上使用する成分を指す。より好ましくは、当該Bの主成分は、ジアミン化合物全体の80モル%以上使用する成分である。p-フェニレンジアミンを用いて得られるポリイミド(すなわちp-フェニレンジアミン残基を含むポリイミド)であれば、剛直な構造を有するため、機械強度に優れた樹脂膜が得られる。また、樹脂膜が導電性粒子を含む場合に、導電性粒子が凝集しにくく、導電性粒子の添加による機械強度の低下を抑制することができる。
【0051】
特に好ましいのは、化学式(1)において、Aが化学式(2)または化学式(3)で表される4価のテトラカルボン酸残基を主成分とし、Bが化学式(4)で表される2価のジアミン残基を主成分とすることである。そのような構造のポリイミドであれば、より剛直な構造を有するため、より機械強度に優れた樹脂膜が得られる。また、樹脂膜が導電性粒子を含む場合に、導電性粒子がより凝集しにくく、導電性粒子の添加による機械強度の低下をより抑制することができる。
【0052】
また、樹脂膜を構成する樹脂組成物の支持体に対する塗布性や、洗浄などに用いられる酸素プラズマ、UVオゾン処理に対する樹脂膜の耐性を高めるために、化学式(1)中のBを与えるジアミンとしては、1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(4-アニリノ)テトラメチルジシロキサンなどのケイ素含有ジアミンを用いてもよい。これらケイ素含有ジアミン化合物を用いる場合、ジアミン化合物全体の1~30モル%用いることが好ましい。
【0053】
上記化学式(1)中のBについて例示したジアミン化合物は、ジアミン化合物に含まれる水素の一部がメチル基、エチル基などの炭素数が1~10のである炭化水素基、トリフルオロメチル基などの炭素数が1~10であるフルオロアルキル基、F、Cl、Br、Iなどの基で置換されていてもよい。さらには、当該ジアミン化合物に含まれる水素の一部がOH、COOH、SOH、CONH、SONHなどの酸性基で置換されていると、耐熱性樹脂およびその前駆体のアルカリ水溶液に対する溶解性が向上することから、後述の感光性樹脂組成物として用いる場合に好ましい。
【0054】
(樹脂組成物の製造方法)
本発明の実施の形態に係る樹脂膜は、耐熱性樹脂またはその前駆体および溶剤を含む樹脂組成物を支持体に塗布し、焼成することにより得ることができる。耐熱性樹脂の前駆体とは、加熱処理や化学的処理等により、上記耐熱性樹脂へと変換可能な樹脂を指す。本発明に好ましく用いることができる耐熱性樹脂の前駆体としては、例えば、ポリイミド前駆体またはポリベンゾオキサゾール前駆体が挙げられる。具体的には、耐熱性樹脂の前駆体は、ポリアミド酸またはポリヒドロキシアミドであり、より好ましくはポリアミド酸である。なお、このポリアミド酸は、化学式(5)で表される繰り返し単位を有する樹脂であることが好ましい。
【0055】
【化4】
【0056】
化学式(5)中、Cは、炭素数が2以上である4価のテトラカルボン酸残基を示す。Dは、炭素数が2以上である2価のジアミン残基を示す。化学式(5)中、RおよびRは、水素原子、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、炭素数が1~10である炭化水素基または炭素数が1~10であるアルキルシリル基を示す。化学式(5)中、Cの具体例としては、上述した化学式(1)中のAの具体例として記載した構造が挙げられる。化学式(5)中、Dの具体例としては、上述した化学式(1)中のBの具体例として記載した構造が挙げられる。
【0057】
上記樹脂組成物に含まれる溶剤は、耐熱性樹脂およびその前駆体を溶解するものであれば、特に制限なく使用可能である。このような溶剤として、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、N,N-ジメチルイソブチルアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチル、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、3-メトキシブチルアセテートなどのエステル類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類や、国際公開第2017/099183号に記載の溶剤などが挙げられる。上記溶剤としては、これらのうち何れかを単独で使用することもできれば、これらのうち2種以上使用することもできる。
【0058】
耐熱性樹脂またはその前駆体は、既知の方法によって重合することができる。例えば、耐熱性樹脂がポリイミドである場合、テトラカルボン酸、あるいは対応する酸二無水物、活性エステル、活性アミドなどを酸成分とし、ジアミンあるいは対応するトリメチルシリル化ジアミンなどをジアミン成分として反応溶媒中で重合させることにより、耐熱性樹脂の前駆体であるポリアミド酸を得ることができる。また、このポリアミド酸は、カルボキシ基がアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオンと塩を形成したり、炭素数が1~10の炭化水素基または炭素数が1~10のアルキルシリル基でエステル化されたものであってもよい。また、耐熱性樹脂がポリベンゾオキサゾールである場合、ビスアミノフェノール化合物とジカルボン酸とを縮合反応させることにより、耐熱性樹脂の前駆体であるポリヒドロキシアミドを得ることができる。具体的には、この耐熱性樹脂の前駆体を得る方法として、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)のような脱水縮合剤と酸とを反応させ、ここにビスアミノフェノール化合物を加える方法や、ピリジンなどの3級アミンを加えたビスアミノフェノール化合物の溶液にジカルボン酸ジクロリドの溶液を滴下する方法などがある。なお、末端が封止された樹脂を製造する場合は、末端封止剤を重合前のモノマーと反応させたり、重合中および重合後の樹脂と反応させたりすることで、目的とする樹脂を製造することができる。
【0059】
上記の反応溶媒としては、樹脂組成物に含まれる溶剤の具体例として記載した溶剤などを、単独、または2種以上使用することができる。上記の反応溶媒の使用量は、テトラカルボン酸およびジアミン化合物の合計量が反応溶液の全体の0.1~50質量%となるように、調整することが好ましい。
【0060】
また、反応温度は、-20℃~150℃であることが好ましく、0~100℃であることがより好ましい。さらに、反応時間は、0.1~24時間であることが好ましく、0.5~12時間であることがより好ましい。
【0061】
また、反応で使用するジアミン化合物のモル数とテトラカルボン酸のモル数とは、等モルに近いほうが好ましい。等モルに近いほど、機械特性に優れた樹脂膜が得られやすくなる。また、耐熱性樹脂の末端がアミン基である方が、それ以外の基である場合に比べて導電性粒子の分散性が向上する。このため、導電性粒子の分散性の観点から、ジアミン化合物のモル数がテトラカルボン酸のモル数より多いことが好ましい。具体的には、上記の反応溶媒中に、ジアミンの100モルに対して、テトラカルボン酸二無水物を99.5~95モル含むことが好ましく、99.5~97モル含むことがより好ましい。
【0062】
得られたポリアミド酸溶液は、そのまま樹脂組成物として使用してもよい。この場合、反応溶剤に樹脂組成物として使用する溶剤と同じものを用いたり、反応終了後に溶剤を添加したりすることで、樹脂を単離することなく目的の樹脂組成物を得ることができる。
【0063】
得られたポリアミド酸は、更にポリアミド酸の繰り返し単位の一部をイミド化させたり、エステル化させたりしてもよい。この場合、ポリアミド酸の重合で得られたポリアミド酸溶液をそのまま反応に用いてもよく、ポリアミド酸を単離したうえで反応に用いてもよい。
【0064】
また、導電性粒子を含む樹脂膜を得るためには、上記樹脂組成物中に先述の導電性粒子を分散させることが好ましい。
【0065】
樹脂組成物中に導電性粒子を分散させる方法としては、例えば、樹脂組成物に導電性粒子を混合した後に分散させる方法や、溶媒中に導電性粒子を混合して、前分散を行った後、樹脂組成物を混合する方法がある。また、複数種の導電性粒子を含む場合は、それぞれ分散に適した溶剤、またはその溶剤を含む樹脂組成物中で分散させた後、これらを混合することが好ましい。いずれの場合においても、樹脂組成物と導電性粒子とを混合した後に更に導電性粒子を分散させてもよいし、導電性粒子の分散の際に分散剤を樹脂組成物に混合しても良い。導電性粒子の分散は、三本ロール、サンドグラインダー、ボールミル、ビーズミル等の分散機を用いて公知の方法で分散させることができる。樹脂組成物中における導電性粒子の分散強度、分散時間等は、適宜調整することが好ましい。
【0066】
導電性粒子の分散に使用する溶媒としては、樹脂組成物に含まれる溶剤の具体例として記載した溶剤などを、単独、または2種以上使用することができる。特に、導電性粒子の一例であるカーボン粒子の分散効果を高めるためには、少なくともアミド系極性溶媒を含む溶媒を用いることが好ましい。より好ましくは、アミド系極性溶媒が主成分の溶媒もしくはアミド系極性溶媒単独からなる溶媒を用いることである。ここでいう「主成分」とは、n種類の溶媒からなる混合溶媒の場合、(1/n)×100重量%よりも多く含む成分を指す。例えば、アミド系極性溶媒を主成分とする溶媒が2成分系の溶媒である場合、このアミド系極性溶媒は、この溶媒の50重量%より多く含有されている。アミド系極性溶媒を主成分とする溶媒が3成分系の溶媒である場合、このアミド系極性溶媒は、この溶媒の33重量%より多く含有されている。また、導電性粒子の分散時の発熱を小さくし、溶媒のゲル化を抑制するためには、表面張力が26~33ダイン/cmのエチレングリコール系もしくはプロピレングリコール系のエーテルアセテート溶媒を添加してもよい。この場合、エーテルアセテート溶媒は、全溶媒中の1~25重量%混合することが好ましく、5~20重量%混合することがより好ましい。
【0067】
また、上記樹脂組成物は、必要に応じて、光酸発生剤(a)、熱架橋剤(b)、熱酸発生剤(c)、フェノール性水酸基を含む化合物(d)、密着改良剤(e)、および界面活性剤(f)から選ばれる少なくとも一つの添加剤を含んでも良い。これらの添加剤の具体例としては、例えば、国際公開第2017/099183号に記載のものを挙げることができる。
【0068】
(光酸発生剤(a))
上記樹脂組成物は、光酸発生剤(a)を含有することで感光性樹脂組成物とすることができる。光酸発生剤(a)を含有することで、樹脂組成物の光照射部に酸が発生して、この光照射部のアルカリ水溶液に対する溶解性が増大し、この光照射部が溶解するポジ型のレリーフパターンを得ることができる。また、光酸発生剤(a)とエポキシ化合物または後述する熱架橋剤(b)とを含有することで、この光照射部に発生した酸がエポキシ化合物や熱架橋剤(b)の架橋反応を促進し、この光照射部が不溶化するネガ型のレリーフパターンを得ることができる。
【0069】
光酸発生剤(a)としては、例えば、キノンジアジド化合物、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩などが挙げられる。樹脂組成物は、これらを2種以上含有してもよく、これにより、高感度な感光性樹脂組成物を得ることができる。
【0070】
(熱架橋剤(b))
上記樹脂組成物は、熱架橋剤(b)を含有することで、加熱して得られる樹脂膜の耐薬品性や硬度を高めることができる。熱架橋剤(b)の含有量は、樹脂組成物の100質量部に対して、10質量部以上100質量部以下であることが好ましい。熱架橋剤(b)の含有量が10質量部以上100質量部以下であれば、得られる樹脂膜の強度が高く、樹脂組成物の保存安定性にも優れる。
【0071】
(熱酸発生剤(c))
上記樹脂組成物は、さらに熱酸発生剤(c)を含有してもよい。熱酸発生剤(c)は、後述する現像後加熱により酸を発生し、耐熱性樹脂またはその前駆体と熱架橋剤(b)との架橋反応を促進するほか、硬化反応を促進する。このため、得られる耐熱性樹脂膜(耐熱性樹脂を含む樹脂膜)の耐薬品性が向上し、膜減りを低減することができる。熱酸発生剤(c)から発生する酸は、強酸であることが好ましく、例えば、p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などのアリールスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ブタンスルホン酸などのアルキルスルホン酸などが好ましい。熱酸発生剤(c)の含有量は、架橋反応をより促進するという観点から、樹脂組成物の100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、10質量部以下であることが好ましい。
【0072】
(フェノール性水酸基を含む化合物(d))
上記樹脂組成物は、必要に応じて、感光性樹脂組成物のアルカリ現像性を補う目的で、フェノール性水酸基を含む化合物(d)を含有してもよい。フェノール性水酸基を含む化合物(d)を含有することで、得られる感光性樹脂組成物は、露光前はアルカリ現像液にほとんど溶解せず、露光すると容易にアルカリ現像液に溶解するため、現像による膜減りが少なく、かつ短時間で、容易に現像が行えるようになる。そのため、感度が向上しやすくなる。このようなフェノール性水酸基を含む化合物(d)の含有量は、樹脂組成物の100質量部に対して、好ましくは3質量部以上40質量部以下である。
【0073】
(密着改良剤(e))
上記樹脂組成物は、密着改良剤(e)を含有してもよい。密着改良剤(e)を含有することにより、感光性樹脂膜を現像する場合などに、シリコンウェハ、ITO、SiO、窒化ケイ素などの下地基材との密着性を高めることができる。また、耐熱性樹脂膜と下地の基材との密着性を高めることにより、洗浄などに用いられる酸素プラズマやUVオゾン処理に対する耐性を高めることもできる。また、焼成時やディスプレイ製造時の真空プロセスで樹脂膜が基板から浮く膜浮き現象を抑制することができる。密着改良剤(e)の含有量は、樹脂組成物の100質量%に対して、0.005~10質量%であることが好ましい。
【0074】
(界面活性剤(f))
上記樹脂組成物は、塗布性を向上させるために界面活性剤(f)を含有してもよい。界面活性剤(f)としては、例えば、住友3M社製の“フロラード”(登録商標)、DIC社製の“メガファック”(登録商標)、旭硝子社製の“スルフロン”(登録商標)などのフッ素系界面活性剤、信越化学工業社製のKP341、チッソ社製のDBE、共栄社化学社製の“ポリフロー”(登録商標)、“グラノール”(登録商標)、ビック・ケミー社製のBYKなどの有機シロキサン界面活性剤、共栄社化学社製のポリフローなどのアクリル重合物界面活性剤が挙げられる。界面活性剤(f)は、樹脂組成物の100質量部に対し、0.01~10質量部含有することが好ましい。
【0075】
上述した光酸発生剤(a)、熱架橋剤(b)、熱酸発生剤(c)、フェノール性水酸基を含む化合物(d)、密着改良剤(e)および界面活性剤(f)等の添加剤を樹脂組成物に溶解させる方法としては、撹拌や加熱が挙げられる。光酸発生剤(a)を含む場合、加熱温度は、感光性樹脂組成物としての性能を損なわない範囲で設定することが好ましく、通常、室温~80℃である。また、各成分の溶解順序は特に限定されず、例えば、溶解性の低い化合物から順次溶解させる方法がある。また、界面活性剤(f)など、撹拌溶解時に気泡を発生しやすい成分については、他の成分を溶解してから最後に添加することで、気泡の発生による他成分の溶解不良を防ぐことができる。
【0076】
上述した製造方法によって得られた樹脂組成物の一例であるワニスは、濾過フィルターを用いて濾過し、ゴミなどの異物を除去することが好ましい。フィルター孔径は、例えば、10μm、3μm、1μm、0.5μm、0.2μm、0.1μm、0.07μm、0.05μmなどがあるが、これらに限定されない。濾過フィルターの材質には、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン(NY)、ポリテトラフルオロエチエレン(PTFE)などがあるが、ポリエチレンやナイロンが好ましい。
【0077】
<樹脂膜の製造方法>
次に、本発明の実施の形態に係る樹脂膜の製造方法について説明する。この樹脂膜の製造方法は、上述した樹脂組成物から本発明の実施の形態に係る樹脂膜を製造する方法の一例である。詳細には、この樹脂膜の製造方法は、耐熱性樹脂または当該耐熱性樹脂の前駆体と溶剤とを含む樹脂組成物を支持体に塗布する塗布工程と、この塗布工程によって得られた塗膜を加熱して樹脂膜を得る加熱工程とを含む。
【0078】
塗布工程では、まず、本発明における樹脂組成物の一つであるワニスを支持体上に塗布する。支持体としては、シリコン、ガリウムヒ素などのウェハ基板、サファイアガラス、ソーダ石灰硝子、無アルカリガラスなどのガラス基板、ステンレス、銅などの金属基板あるいは金属箔、セラミックス基板、などが挙げられる。中でも、表面平滑性、加熱時の寸法安定性の観点から、無アルカリガラスが好ましい。
【0079】
ワニスの塗布方法としては、スピン塗布法、スリット塗布法、ディップ塗布法、スプレー塗布法、印刷法などが挙げられ、これらを組み合わせてもよい。樹脂膜をディスプレイ用基板(例えばディスプレイに設けられるTFTの支持基板)として用いる場合には、大型サイズの支持体上に塗布する必要があるため、特にスリット塗布法が好ましく用いられる。
【0080】
塗布に先立ち、支持体を予め前処理してもよい。この前処理の方法としては、例えば、前処理剤をイソプロパノール、エタノール、メタノール、水、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、乳酸エチル、アジピン酸ジエチルなどの溶媒に0.5~20質量%溶解させた溶液を用いて、スピンコート、スリットダイコート、バーコート、ディップコート、スプレーコート、蒸気処理などの方法で支持体表面を処理する方法が挙げられる。また、必要に応じて、減圧乾燥処理を施し、その後、50℃~300℃の熱処理により支持体と前処理剤との反応を進行させることができる。
【0081】
塗布後は、ワニスの塗膜を乾燥させることが一般的である。乾燥方法としては、減圧乾燥や加熱乾燥、あるいはこれらを組み合わせて用いることができる。減圧乾燥の方法としては、例えば、真空チャンバー内に塗膜を形成した支持体を置き、真空チャンバー内を減圧することで行なう。また、加熱乾燥は、ホットプレート、オーブン、赤外線などを使用して行なう。ホットプレートを用いる場合、プレート上に直接、もしくは、プレート上に設置したプロキシピン等の治具上に塗膜を形成した支持体を保持して加熱乾燥する。加熱温度は、ワニスに用いられる溶剤の種類や目的により様々であり、室温から180℃の範囲で1分間~数時間、加熱を行うことが好ましい。
【0082】
塗布対象の樹脂組成物に光酸発生剤が含まれる場合、次に説明する方法により、乾燥後の塗膜からパターンを形成することができる。例えば、この方法では、塗膜上に所望のパターンを有するマスクを通して化学線を照射し、露光する。露光に用いられる化学線としては、紫外線、可視光線、電子線、X線などがあるが、本発明では水銀灯のi線(365nm)、h線(405nm)、g線(436nm)を用いることが好ましい。ポジ型の感光性を有する場合、露光部が現像液に溶解する。ネガ型の感光性を有する場合、露光部が硬化し、現像液に不溶化する。
【0083】
露光後、現像液を用いて、ポジ型の場合は露光部を除去し、また、ネガ型の場合は非露光部を除去することにより、塗膜に所望のパターンを形成する。現像液としては、ポジ型およびネガ型のいずれの場合も、テトラメチルアンモニウムなどのアルカリ性を示す化合物の水溶液が好ましい。また、場合によっては、これらのアルカリ水溶液にN-メチル-2-ピロリドンなどの極性溶媒、アルコール類、エステル類、ケトン類などを単独あるいは数種を組み合わせたものを添加してもよい。
【0084】
その後、支持体上の塗膜を加熱処理して樹脂膜を製造する加熱工程が行われる。この加熱工程では、180℃以上600℃以下、好ましくは220℃以上600℃以下の範囲で塗膜を加熱処理し、この塗膜を焼成する。これにより、支持体上に樹脂膜を製造することができる。加熱温度が220℃以上であれば、イミド化が十分に進行し、機械特性に優れた樹脂膜が得られる。
【0085】
(算術平均粗さ)
本発明の実施の形態に係る樹脂膜が導電性粒子を含む場合、その樹脂膜面の算術平均粗さは、増加しやすい。このため、以下に述べる第1~第3の方法によって樹脂膜面の算術平均粗さを改善することが好ましい。
【0086】
第1の方法は、加熱により焼成した後の樹脂膜を研磨する方法である。この第1の方法において、研磨に用いる砥粒は、固定砥粒、遊離砥粒のいずれであってもよい。また、樹脂膜の研磨は、乾式研磨、湿式研磨のいずれの方法で行われても良いが、具体的には、化学機械研磨(以下、CMPという)によって行われることが好ましい。CMPとは、研磨液によって化学的に被加工物の表面を研磨し易く変質させながら、研磨液に含まれる砥粒と研磨パッドとによって機械的に研磨する技術である。例えば、シリコンウエハの研磨に際しては、遊離砥粒と酸或いはアルカリ溶液とを混合したスラリー溶液を研磨パッドに供給して、シリコンウエハの表面を研磨する。このスラリー溶液には、過酸化水素や過硫酸アンモニウムなどの酸化剤が添加されるほか、金属配線ウエハでは金属イオンを安定化させるための有機錯化剤や過渡エッチングを抑制する腐食抑制剤、或いは溶液の表面張力を下げる界面活性剤などが適量添加されている。本発明においては、上記の例に限らず、添加する導電性粒子と化学的に作用する成分を含む研磨液を選択して用いることが好ましい。このような第1の方法が樹脂膜の製造方法に適用される場合、この樹脂膜の製造方法は、上述した加熱工程による加熱後の樹脂膜を研磨する研磨工程を含む。
【0087】
第2の方法は、加熱により焼成した後の樹脂膜にレーザーを照射する方法である。一般的に、固体にレーザー光を照射すると、レーザーアブレーションによって固体表面が分解される。導電性粒子を含む樹脂膜にレーザー光を照射した場合、樹脂膜および導電性粒子のそれぞれでレーザーアブレーションが発生する。導電性粒子は、一部の例外を除いて、電荷密度が大きく、バンドギャップが小さいため、樹脂膜よりも吸光度が大きい傾向にある。従って、導電性粒子は、レーザー光を吸収しやすいため、レーザー照射による分解が樹脂膜よりも進行しやすい。また、導電性粒子を含む樹脂膜では、導電性粒子が凸部として樹脂膜面に露出している。従って、レーザー照射によって導電性粒子を効率的に分解させることにより、樹脂膜面の算術平均粗さを改善することができる。この第2の方法では、レーザー光として、紫外光から赤外光の波長範囲のレーザー光を用いることができる。このような第2の方法が樹脂膜の製造方法に適用される場合、この樹脂膜の製造方法は、上述した加熱工程による加熱後の樹脂膜にレーザーを照射する照射工程を含む。
【0088】
第3の方法は、加熱により焼成した後の樹脂膜上にレジストを塗布し、得られた積層体をレジストが塗布された側からドライエッチングして樹脂膜を露出させる方法である。具体的には、この第3の方法において、まず、レジスト塗布工程が行われる。このレジスト塗布工程では、上述した加熱工程による加熱後(詳細には加熱による焼成後)の樹脂膜の上にレジストを塗布し、これにより、支持体上の樹脂膜と当該樹脂膜を覆うレジストとの積層体を形成する。レジストとしては、感光性または非感光性のいずれの材料でもよく、例えば、ノボラック系レジスト、ポリヒドロキシスチレン系レジスト、アクリル系レジストなどを使用することができる。エッチング後の算術平均粗さ改善の観点から、導電性粒子とレジストとのエッチング耐性は、近いほうが好ましい。例えば、導電性粒子がカーボン粒子である場合、レジストとしては、ノボラック等の芳香環を多く有する材料を使用することが好ましい。
【0089】
また、この第3の方法では、上述したレジスト塗布工程に続いて、エッチング工程が行われる。このエッチング工程では、レジスト塗布工程によって得られた積層体をレジストが塗布された側からドライエッチして、樹脂膜を露出させる。この際、ドライエッチング処理としては、例えば、プラズマエッチングや反応性イオンエッチング等を使用することができる。また、エッチングガスとしては、酸素、アルゴン、四フッ化炭素等を使用できるが、レジストや導電性粒子を効率的にエッチングするために酸素を使用することが好ましい。上述したような第3の方法が樹脂膜の製造方法に適用される場合、この樹脂膜の製造方法は、上記レジスト塗布工程と上記エッチング工程とを含む。
【0090】
なお、レジストの膜厚は、0.5μm以上5μm以下であることが好ましく、1μm以上3μm以下であることがより好ましい。レジストが0.5μm以上であれば、レジスト塗布後の算術平均粗さが良好となり、後に続くエッチング処理により露出させた樹脂膜の算術平均粗さも良好となる。レジストが5μm以下であれば、エッチング時間を短縮することができる。
【0091】
上述した第1~第3の方法による処方は、樹脂膜における所定の樹脂膜面、すなわち、シート抵抗が1×1012Ωより大きく1×1016Ω未満である樹脂膜面に施すことが好ましい。
【0092】
本発明における樹脂膜の、シート抵抗が1×1012Ωより大きく1×1016Ω未満である樹脂膜面の算術平均粗さは、特に限定されるものではないが、10nm以下であることが好ましく、9nm以下であることがより好ましい。当該樹脂膜面の算術平均粗さが10nm以下であれば、TFT形成時の無機膜のクラックや膜厚のバラつきが発生しないため、TFT素子間の性能バラつきを抑制することができる。また、樹脂膜が導電性粒子を含有する場合、当該樹脂膜面の算術平均粗さが10nm以下であれば、膜表面に露出した導電性粒子上の無機膜への応力集中が原因と推定される、フレキシブルデバイスを折り曲げた際のTFTの破損を抑制することができる。
【0093】
なお、本発明における算術平均粗さは、表面粗さ測定機(東京精密社製、サーフコム1400D)を用い、日本工業規格(JIS B 0633:2001)に従い求められる算術平均粗さRaである。この算術平均粗さの測定条件において、評価長さは1.25mmとし、カットオフ波長は0.25mmとする。
【0094】
以上の塗布工程および加熱工程などを経て得られた樹脂膜は、支持体から剥離して用いることができるし、あるいは、支持体から剥離せずに、そのまま用いることもできる。
【0095】
剥離方法の例としては、機械的な剥離方法、水に浸漬する方法、塩酸やフッ酸などの薬液に浸漬する方法、紫外光から赤外光の波長範囲のレーザー光を樹脂膜と支持体との界面に照射する方法などが挙げられる。特に、樹脂膜(例えばポリイミド樹脂膜)の上にデバイスを作成してから剥離を行う場合は、デバイスへ損傷を与えることなく剥離を行う必要があるため、紫外光のレーザーを用いた剥離が好ましい。なお、剥離を容易にするために、ワニス等の樹脂組成物を支持体へ塗布する前に、支持体に離型剤を塗布したり犠牲層を製膜したりしておいてもよい。離型剤としては、シリコーン系、フッ素系、芳香族高分子系、アルコキシシラン系等が挙げられる。犠牲層としては、金属膜、金属酸化物膜、アモルファスシリコン膜等が挙げられる。
【0096】
本発明の実施の形態に係る樹脂膜の膜厚は、特に限定されるものではないが、4μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、6μm以上であることが更に好ましい。また、樹脂膜の膜厚は、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、25μm以下であることがより好ましい。樹脂膜の膜厚が4μm以上であれば、TFT支持基板用の樹脂膜として十分な機械特性が得られる。また、樹脂膜の膜厚が40μm以下であれば、TFT支持基板用の樹脂膜として十分な靭性が得られる。
【0097】
TFT支持基板用の樹脂膜上に異物が含まれると、TFT製造プロセスにおける高温プロセスにおいて、異物からの発ガスによりTFT素子が破壊され、このTFT素子の破壊が、ディスプレイの画素欠陥を引き起こす。このため、樹脂膜上の異物数は、できる限り少ないほうが好ましい。例えば、縦350mm×横300mmの基板上の領域においては、大きさが10μm以上の異物数は、50個以下であることが好ましく、20個以下であることがより好ましく、10個以下であることが更に好ましい。なお、樹脂膜上の異物数は、例えば、自動欠陥電荷結合素子(CCD)検査装置などの自動光学検査装置などを用いて測定することができる。
【0098】
<ディスプレイおよびその製造方法>
次に、本発明の実施の形態に係るディスプレイおよびその製造方法について説明する。本発明の実施の形態に係るディスプレイは、TFTの支持基板として用いられる上記の樹脂膜を備える。
【0099】
以下では、本発明の実施の形態に係る樹脂膜を含むディスプレイを製造する方法を説明する。このディスプレイの製造方法では、上述した樹脂膜の製造方法によって支持体上に樹脂膜を製造する膜製造工程と、この樹脂膜の上にTFT素子を形成する素子形成工程と、上記支持体からTFT素子が形成された樹脂膜(すなわちTFT支持基板用の樹脂膜)を剥離する剥離工程とを含む。
【0100】
まず、膜製造工程では、上述した樹脂膜の製造方法に従い、塗布工程および加熱工程等を行って、ガラス基板などの支持体の上に上述の樹脂膜を製造する。このように製造された樹脂膜は、支持体上に形成された状態または支持体から剥離された状態のいずれであっても、TFT素子の支持基板(以下、TFT支持基板と適宜いう)として用いることができる。また、樹脂膜の上には、必要に応じて無機膜が設けられる。これにより、基板外部から水分や酸素が樹脂膜を通過して画素駆動素子や発光素子の劣化を引き起こすのを防ぐことができる。無機膜としては、例えば、ケイ素酸化物(SiOx)、ケイ素窒化物(SiNy)、ケイ素酸窒化物(SiOxNy)などが挙げられる。これらは、単層をなすように用いることもできれば、複数の種類を積層して複数層をなすように用いることもできる。また、これらの無機膜は、例えば、ポリビニルアルコールなどの有機膜と交互に積層して用いることもできる。これらの無機膜の成膜方法は、化学気相成長法(CVD)や物理気相成長法(PVD)などの蒸着法を用いて行われることが好ましい。また、必要に応じて無機膜の上に樹脂膜を形成したり、更に無機膜を形成したりすることで、無機膜や樹脂膜を複数層具備するTFT支持基板を製造することができる。なお、プロセスの簡略化の観点から、各樹脂膜の製造に用いられる樹脂組成物は、同一の樹脂組成物であることが好ましい。
【0101】
つづいて、素子形成工程では、上記のように得られた樹脂膜上にTFT素子を形成する。本発明において、TFT素子は、トップゲート型TFTまたはボトムゲート型TFTのいずれの構成であっても良い。TFT素子がトップゲート型TFTである場合、例えば、樹脂膜上に、半導体層、ゲート絶縁膜、ゲート電極を形成し、これらを覆うように層間絶縁膜を形成する。続いて、この層間絶縁膜にコンタクトホールを形成し、コンタクトホールを埋め込むようにして、一対のソース電極およびドレイン電極を形成する。更に、これらを覆うように、層間絶縁膜を形成する。
【0102】
半導体層は、ゲート電極と対向する領域にチャネル領域(活性層)を含んでいる。半導体層は、低温多結晶シリコン(LTPS)または非結晶シリコン(a-Si)等から構成されていてもよく、酸化インジウム錫亜鉛(ITZO)、酸化インジウムガリウム亜鉛(IGZO:InGaZnO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化インジウムガリウム(IGO)、酸化インジウム錫(ITO)および酸化インジウム(InO)等の酸化物半導体から構成されていてもよい。なお、これらの半導体層を形成する場合に、上記樹脂膜等の構造体は、高温プロセスを通過することが一般的である。例えば、LTPSを形成する場合に、a-Si形成後に、脱水素を目的とした450℃、120分等のアニールを実施することがある。これらの高温プロセスにおいて、先述の異物からの発ガスが発生した場合、樹脂膜上の無機膜が膜浮きするため、半導体層が破壊される等により、TFTが破損することがある。
【0103】
ゲート絶縁膜は、例えば、酸化シリコン(SiOx)、窒化シリコン(SiNx)、酸窒化シリコン(SiON)および酸化アルミニウム(AlOx)等のうちの1種よりなる単層膜、またはそれらのうちの2種以上よりなる積層膜により構成されていることが好ましい。
【0104】
ゲート電極は、印加されるゲート電圧によって半導体層中のキャリア密度を制御すると共に、電位を供給する配線としての機能を有するものである。このゲート電極の構成材料としては、例えば、チタン(Ti)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、ネオジウム(Nd)、銅(Cu)のうちの少なくとも1種を含む、単体および合金が挙げられる。あるいは、このゲート電極の構成材料は、それらのうちの少なくとも1種を含む化合物、または2種以上を含む積層膜であってもよい。また、このゲート電極の構成材料としては、例えば、ITO等の透明導電膜が用いられてもよい。
【0105】
層間絶縁膜は、例えば、アクリル系樹脂、ポリイミド(PI)、ノボラック系樹脂等の有機材料により構成されている。あるいは、層間絶縁膜は、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン酸窒化膜および酸化アルミニウム等の無機材料により構成されてもよい。
【0106】
ソース電極およびドレイン電極は、TFTにおけるソース、ドレインとして各々機能するものである。ソース電極およびドレイン電極は、例えば、上記したゲート電極の構成材料として列挙したものと同様の金属または透明導電膜を含んで構成されている。これらのソース電極およびドレイン電極としては、電気伝導性の良い材料が選択されることが望ましい。
【0107】
得られたTFTは、有機ELディスプレイ、液晶ディスプレイ、電子ペーパー等のディスプレイに使用することができる。TFTを有機ELディスプレイに使用する場合、TFT上には、更に、第一電極、有機EL素子、第二電極、封止膜が順に形成される。第一電極は、例えば、上記したソース電極およびドレイン電極に接続されており、第二電極は、例えば、配線などを通じて、各画素に共通のカソード電位が供給されるように構成されている。封止膜は、有機EL素子を外部から保護するための層である。この封止膜は、例えば、酸化シリコン(SiOx)、窒化シリコン(SiNx)、酸窒化シリコン(SiON)などの無機材料や、その他の有機材料により構成されていてもよい。
【0108】
最後に、剥離工程では、上記のようにTFT素子が形成された樹脂膜を支持体から剥離し、この樹脂膜を備えるディスプレイが製造される。支持体と樹脂膜とをこれらの界面で剥離する方法としては、レーザーを用いる方法、機械的な剥離方法、支持体をエッチングする方法などが挙げられる。レーザーを用いる方法では、ガラス基板などの支持体に対し、TFT素子が形成されていない側からレーザーを照射することで、TFT素子にダメージを与えることなく、支持体と樹脂膜との剥離を行うことができる。また、支持体と樹脂膜とを剥離しやすくするためのプライマー層を、支持体と樹脂膜との間に設けても構わない。レーザー光としては、紫外光から赤外光の波長範囲のレーザー光を用いることができるが、紫外光が特に好ましい。より好ましいレーザー光は、308nmのエキシマレーザーである。支持体と樹脂膜との剥離における剥離エネルギーは、250mJ/cm以下であることが好ましく、200mJ/cm以下であることがより好ましい。
【実施例
【0109】
以下、実施例等をあげて本発明を説明するが、本発明は、下記の実施例等によって限定されるものではない。まず、下記の実施例および比較例で行った評価、測定および試験等について説明する。
【0110】
(第1項目:異物数評価)
第1項目では、異物数評価について説明する。この異物数評価では、各実施例で得られた樹脂膜とガラス基板とからなる積層体について、自動欠陥電荷結合素子(CCD)検査装置(アドモンサイエンス社製、LCF-4015-RU)を用い、大きさが10μm以上の異物の個数(異物数)を測定した。
【0111】
(第2項目:膜浮き評価)
第2項目では、膜浮き評価について説明する。この膜浮き評価では、各実施例で得られた樹脂膜とガラス基板とからなる積層体について、樹脂膜上にCVDにより厚さ50nmのSiO膜を成膜した後、450℃、120分間の加熱処理を行った。その後、樹脂膜からのSiO膜の膜浮きを目視および光学顕微鏡で観察した。膜浮きが見られなかったものは「合格」とし、膜浮きが見られたものは「不合格」とした。
【0112】
(第3項目:樹脂膜のシート抵抗測定)
第3項目では、樹脂膜のシート抵抗測定について説明する。このシート抵抗測定では、各実施例で得られた樹脂膜について、抵抗測定装置(KEITHLEY社製、6517B)を用い、日本工業規格(JIS K 6271:2015)に従い、二重リング電極法にてシート抵抗の測定を行った。なお、測定面は、樹脂膜のうち剥離前にガラス基板と接していない側の樹脂膜面(すなわちTFT形成面)とした。電極は銀ペーストにより作製し、主電極径は37mmとし、リング電極幅は5.5mmとし、主電極とリング電極との間の距離は1mmとし、対向電極径は55mmとし、印加電圧は500Vとした。
【0113】
(第4項目:樹脂膜の機械強度測定)
第4項目では、樹脂膜の機械強度測定について説明する。この機械強度測定では、各実施例で得られた樹脂膜について、テンシロン万能材料試験機(オリエンテック社製、RTM-100)を用い、日本工業規格(JIS K 7127:1999)に従って機械強度の測定を行った。測定条件として、試験片の幅は10mmとし、チャック間隔は50mmとし、試験速度は50mm/minとし、測定数n=10とした。
【0114】
(第5項目:樹脂膜の1%重量減少温度測定)
第5項目では、樹脂膜の1%重量減少温度測定について説明する。この測定では、各実施例で得られた樹脂膜について、熱重量測定装置(島津製作所社製、TGA-50)を用いて、1%重量減少温度を測定した。この際、昇温速度は、10℃/分とした。
【0115】
(第6項目:TFTの信頼性試験)
第6項目では、TFTの信頼性試験について説明する。この信頼性試験では、各実施例で得られたTFTについて、半導体デバイス・アナライザ(Agilent社製、B1500A)を用い、初期の閾値電圧Vthと、1時間駆動させた後の閾値電圧Vthとの変化量ΔVth=Vth-Vthを測定した。ΔVthが小さいほど、TFTの信頼性が長期間保たれることを示す。なお、TFTの駆動条件として、ドレイン電圧Vdは15Vとし、ソース電圧Vsは0Vとし、ゲート電圧Vgは15Vとした。
【0116】
(第7項目:樹脂膜の算術平均粗さ測定)
第7項目では、樹脂膜の算術平均粗さ測定について説明する。この測定では、各実施例で得られた樹脂膜とガラス基板とからなる積層体について、表面粗さ測定機(東京精密社製、サーフコム1400D)を用い、日本工業規格(JIS B 0633:2001)に従い、算術平均粗さRaを測定した。測定条件として、評価長さは1.25mmとし、カットオフ波長は0.25mmとした。
【0117】
(第8項目:平均粒子径の測定)
第8項目では、平均粒子径の測定について説明する。この平均粒子径の測定では、各実施例で得られた樹脂膜とガラス基板とからなる積層体について、イオンミリング装置(日本電子社製、IB-09010CP)を用いて断面を露出させた。続いて、この露出させた断面を走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、S-4800)により観察した。この断面から観察された50個の粒子について樹脂膜の膜厚方向のフェレー径を測定し、得られた測定値を算術平均して、樹脂膜中の導電性粒子の平均粒子径を求めた。
【0118】
(化合物)
実施例および比較例では、下記に示す化合物が適宜使用される。実施例および比較例で適宜使用される化合物および略称は、以下に示す通りである。
BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
PDA:p-フェニレンジアミン
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
AD1:カーボンブラック(MA100:三菱ケミカル社製)
AD2:カーボンナノチューブ(#698849:SIGMA-ALDRICH社製)
AD3:銀ナノ粒子(#576832:SIGMA-ALDRICH社製)
AD4:トリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)
【0119】
(実施例1)
実施例1では、2000mL4つ口フラスコに、温度計、撹拌羽根付き撹拌棒をセットした。次に、乾燥窒素気流下、NMP(850g)を投入し、60℃に昇温した。昇温後、撹拌しながらPDA(40.91g(378.3mmol))を投入し、溶解したことを確認したのち、BPDA(109.09g(370.8mmol))を投入し、12時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、AD1(1.37g)を投入し、ビーズミルにより分散した。最後に、フィルター孔径が2μmのフィルターで濾過してワニスを得た。
【0120】
つづいて、上記のように得られたワニスを、スリット塗布装置(東レエンジニアリング社製)を用いて、縦350mm×横300mm×厚さ0.5mmの無アルカリガラス基板(AN-100、旭硝子株式会社製)上に塗布した。つづいて、同じ装置により、40℃の温度で加熱真空乾燥を行った。最後に、ガスオーブン(INH-21CD、光洋サーモシステム社製)を用いて、窒素雰囲気下(酸素濃度100ppm以下)、450℃で30分加熱して、ガラス基板上に膜厚10μmの樹脂膜を形成した。得られた樹脂膜とガラス基板とからなる積層体を用いて、上記第1項目の方法で異物数評価を実施し、上記第2項目の方法で膜浮き評価を実施した。
【0121】
つづいて、ガラス基板をフッ酸に4分間浸漬して樹脂膜をガラス基板から剥離し、風乾して樹脂膜を得た。得られた樹脂膜について、上記第3項目の方法でシート抵抗を測定し、上記第4項目の方法で機械強度を測定し、上記第5項目の方法で1%重量減少温度を測定した。
【0122】
つづいて、ガラス基板から剥離する前の樹脂膜上に、CVDによりSiO膜を形成した。ついで、このSiO膜上にTFTを形成した。具体的には、半導体層を成膜し、フォトリソグラフィおよびエッチングにより、この半導体層を所定の形状にパターニングした。続いて、ゲート絶縁膜をCVD法を用いて成膜した。この後、ゲート絶縁膜上に、ゲート電極をパターン形成した後、このゲート電極をマスクとしてゲート絶縁膜をエッチングすることで、ゲート絶縁膜をパターニングした。続いて、層間絶縁膜を形成した後、半導体層の一部に対向する領域に、コンタクトホールを形成した。この後、層間絶縁膜上に、このコンタクトホールを埋め込むようにして、金属材料よりなる一対のソース電極およびドレイン電極を形成した。そして、これらの層間絶縁膜と一対のソース電極およびドレイン電極とを覆うようにして、層間絶縁膜を形成することで、TFTを形成した。
【0123】
最後に、ガラス基板に対し、樹脂膜が成膜されていない側からレーザー(波長:308nm)を照射し、樹脂膜とガラス基板とをこれらの界面で剥離した。このようにして得られたTFTについて、上記第6項目の方法で信頼性試験を実施した。
【0124】
(実施例2)
実施例2では、AD1の添加量を0.068gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、評価等を行った。なお、実施例2におけるAD1の添加量(0.068g)は、樹脂膜中の耐熱性樹脂の100質量部に対して、0.05質量部に相当する。
【0125】
(実施例3)
実施例3では、AD1の添加量を3.42gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、評価等を行った。なお、実施例3におけるAD1の添加量(3.42g)は、樹脂膜中の耐熱性樹脂の100質量部に対して、2.5質量部に相当する。
【0126】
(実施例4)
実施例4では、AD1をAD2に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、評価等を行った。
【0127】
(実施例5)
実施例5では、AD1をAD3に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、評価等を行った。
【0128】
(実施例6)
実施例6では、AD1をAD4に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、評価等を行った。
【0129】
(実施例7)
実施例7では、樹脂膜の膜厚を3μmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、評価等を行った。
【0130】
(実施例8)
実施例8では、樹脂膜の膜厚を6μmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、評価等を行った。
【0131】
(比較例1)
比較例1では、AD1を添加しないこと以外は、実施例1と同様にして、評価等を行った。
【0132】
(比較例2)
比較例2では、AD1の添加量を0.0014gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、評価等を行った。なお、比較例2におけるAD1の添加量(0.0014g)は、樹脂膜中の耐熱性樹脂の100質量部に対して、0.001質量部に相当する。
【0133】
(比較例3)
比較例3では、AD1の添加量を7.2gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、評価等を行った。なお、比較例3におけるAD1の添加量(7.2g)は、樹脂膜中の耐熱性樹脂の100質量部に対して、5質量部に相当する。
【0134】
(比較例4)
比較例4では、AD1を添加せず且つ樹脂膜の膜厚を3μmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、評価等を行った。
【0135】
上述した実施例1~8および比較例1~4の各評価結果は、表1および表2に示す。
【0136】
【表1】
【0137】
【表2】
【0138】
(実施例9)
実施例9では、上述した実施例1で得られた、TFT形成前の樹脂膜とガラス基板とからなる積層体について、上記第7項目の方法で樹脂膜の算術平均粗さを測定した。続いて、以下に示す第1~第4の処方をそれぞれ実施した後、樹脂膜の算術平均粗さを再度測定した。
【0139】
第1の処方では、HS-J700-1(研磨液:日立化成株式会社製)を用いて、樹脂膜をCMPにより研磨した後、水洗、乾燥させた。第2の処方では、樹脂膜のTFT形成面に波長308nmのレーザー発振器を用いてレーザーを照射した後、この樹脂膜を水洗、乾燥させた。この際、レーザーの周波数は300Hzとし、照射エネルギーは60mJとした。第3の処方では、樹脂膜にOFPR-800(東京応化工業社製)を膜厚が2μmになるように塗布し、乾燥後にRIE装置によりドライエッチングして樹脂膜を露出させた後、水洗、乾燥させた。この際、エッチングガスはOとした。第4の処方では、OFPR-800を塗布、乾燥するプロセスを省略すること以外は、上記第3の処方と同じ条件でドライエッチングした後、水洗、乾燥させた。
【0140】
また、上記第1~第4の処方を実施する前の積層体と実施した後の積層体とについて、それぞれ上記第8項目の方法で樹脂膜中の導電性粒子の平均粒子径を測定した。第1~第4の処方の実施前、第1の処方の実施後、第2の処方の実施後、第3の処方の実施後、第4の処方の実施後の平均粒子径は、それぞれ、0.35μm、0.33μm、0.37μm、0.36μm、0.33μmであった。
【0141】
(実施例10~16および比較例5~8)
実施例10~16および比較例5~8では、表3および表4に示されるように、実施例1~8および比較例1~4のいずれかで得られた樹脂膜とガラス基板とからなる積層体を用いて、実施例9と同様に、樹脂膜の算術平均粗さの評価を各々行った。
【0142】
上述した実施例9~16および比較例5~8の各評価結果は、表3および表4に示す。なお、表3、4中の「表面粗さ」は、上述した第7項目の方法で測定された樹脂膜の算術平均粗さである。
【0143】
【表3】
【0144】
【表4】
【0145】
(実施例17~48)
実施例17~48では、上述した実施例1で得られた樹脂膜とガラス基板とからなる積層体を用いる代わりに、表5~表8に示されるように、実施例9~16の第1~第4の処方をそれぞれ実施した後の樹脂膜とガラス基板とからなる積層体を用いること以外は、実施例1と同様にして、評価等を行った。実施例17~48の各評価結果は、表5~8に示す。なお、表5~8中の「処方」欄において、「1.」は上記第1の処方を意味し、「2.」は上記第2の処方を意味し、「3.」は上記第3の処方を意味し、「4.」は上記第4の処方を意味する。
【0146】
【表5】
【0147】
【表6】
【0148】
【表7】
【0149】
【表8】
【0150】
(実施例49)
実施例49では、上述した実施例1で得られた、TFT形成前の樹脂膜とガラス基板とからなる積層体と、上述した実施例9で得られた樹脂膜とガラス基板とからなる積層体(4種:上記第1~第4の処方をそれぞれ実施したもの)とを使用して、実施例1に記載の方法でTFTを形成した。続いて、樹脂膜をガラス基板から剥離する前に、更にITOからなる第一電極を配線に接続させて形成した。その後、レジストを塗布、プリベークし、所望のパターンのマスクを介して露光し、現像した。このレジストパターンをマスクとして、ITOエッチャントを用いたウエットエッチングによりパターン加工を行った。その後、レジスト剥離液(モノエタノールアミンとジエチレングリコールモノブチルエーテルとの混合液)を用いて該レジストパターンを剥離した。レジストパターン剥離後の基板を水洗し、加熱脱水して、平坦化膜付き電極基板を得た。次に、第一電極の周縁を覆う形状の絶縁膜を形成した。
【0151】
さらに、真空蒸着装置内で所望のパターンマスクを介して、正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層を順次蒸着して設けた。次いで、基板上方の全面に、アルミニウムとマグネシウムとの積層(Al/Mg)から成る第二電極を形成した。さらに、CVDにより、SiOとSiNとの積層から成る封止膜を形成した。最後に、ガラス基板に対し、樹脂膜が成膜されていない側からレーザー(波長:308nm)を照射し、樹脂膜とガラス基板とをこれらの界面で剥離し、これにより、有機ELディスプレイを得た。
【0152】
続いて、この得られた有機ELディスプレイを、駆動回路を介して電圧を印加することにより、発光させた。この時、有機ELディスプレイの全画素に対する、ダークスポットとよばれる非発光画素および、輝点とよばれる常時発光する画素の発生割合を観察した。これらの両方を合わせた発生率が1%以下である場合は、レベルAと評価した。また、当該発生率が1%より大きく5%以下である場合は、レベルBと評価し、当該発生率が5%より大きく10%以下である場合は、レベルCと評価し、当該発生率が10%より大きい場合は、レベルDと評価した。これらのレベルA~Dは、有機ELディスプレイの評価結果の良好さを示すものであり、レベルAが「優良」を意味し、レベルB、C、Dは、この順に評価結果の悪化を意味する。これらのレベルA~Dの各々による評価結果の意味は、他の評価結果についても同様である。
【0153】
続いて、有機ELディスプレイの中央部に5mmの金属円柱を固定し、この金属円柱への抱き角が0°(サンプルが平面の状態)から180°(円柱で折り返した状態)となる範囲で、有機ELディスプレイの発光面が外側になるように折り曲げ動作を実施した。この折り曲げ動作後に有機ELディスプレイを再度発光させ、輝点およびダークスポットの発生割合を観察した。1回の折り曲げ動作で上記発生率が増加した場合はレベルDと評価し、2~3回の折り曲げ動作で上記発生率が増加した場合はレベルCと評価し、4~6回の折り曲げ動作で上記発生率が増加した場合はレベルBと評価し、7~9回の折り曲げ動作で上記発生率が増加した場合はレベルAと評価した。また、10回の折り曲げ動作で上記発生率が増加しなかった場合はレベルSと評価した。なお。レベルSは、評価結果が「最良(レベルAよりも良好)」であることを意味する。
【0154】
(実施例50)
実施例50では、使用する樹脂膜とガラス基板とからなる積層体を、下記の積層体に変更したこと以外は、実施例49と同様にして、評価等を行った。実施例50において評価対象とする積層体は、上述した実施例1で得られた、TFT形成前の樹脂膜とガラス基板とからなる積層体に、以下に示す第5の処方を実施して得られた樹脂膜とガラス基板とからなる積層体、である。なお、第5の処方を実施して得られた樹脂膜とガラス基板とからなる積層体について、上記第7項目の方法で樹脂膜の算術平均粗さを測定した結果、この算術平均粗さは50nmであった。
【0155】
第5の処方では、ポリイミドエッチング液としてTPE3000(東レエンジニアリング社製)を用いて温度60℃で1分間エッチング処理した後、水洗、乾燥させた。
【0156】
(比較例9)
比較例9では、使用する樹脂膜とガラス基板とからなる積層体を、上述した比較例1で得られた、TFT形成前の樹脂膜とガラス基板とからなる積層体と、上述した比較例5で得られた樹脂膜とガラス基板とからなる4種の積層体(上記第1~第4の処方をそれぞれ実施したもの)とに変更したこと以外は、実施例49と同様にして、評価等を行った。
【0157】
(比較例10)
比較例10では、使用する樹脂膜とガラス基板とからなる積層体を、上述した比較例1で得られた、TFT形成前の樹脂膜とガラス基板とからなる積層体に対して上記第5の処方を実施し、これにより得られた樹脂膜とガラス基板とからなる積層体、に変更したこと以外は、実施例49と同様にして、評価等を行った。なお、上記第5の処方を実施して得られた樹脂膜とガラス基板とからなる積層体について、上記第7項目の方法で樹脂膜の算術平均粗さを測定した結果、この算術平均粗さは20nmであった。
【0158】
上述した実施例49、実施例50、比較例9および比較例10の各評価結果は、表9に示す。
【0159】
【表9】
【産業上の利用可能性】
【0160】
以上のように、本発明に係る樹脂膜、それを含むディスプレイおよびそれらの製造方法は、異物が付着しにくくTFT支持基板に好適な樹脂膜、およびこれを用いたディスプレイに適している。