(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】移動体測位システムおよび物流管理システム
(51)【国際特許分類】
G01S 5/08 20060101AFI20230214BHJP
G01S 3/48 20060101ALI20230214BHJP
G01S 1/68 20060101ALI20230214BHJP
G05D 1/02 20200101ALI20230214BHJP
【FI】
G01S5/08
G01S3/48
G01S1/68
G05D1/02 J
(21)【出願番号】P 2019535097
(86)(22)【出願日】2018-07-26
(86)【国際出願番号】 JP2018028093
(87)【国際公開番号】W WO2019031264
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2017153362
(32)【優先日】2017-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 順治
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-236132(JP,A)
【文献】特開2015-200504(JP,A)
【文献】特開2016-156799(JP,A)
【文献】特開平11-205845(JP,A)
【文献】特開2014-134464(JP,A)
【文献】特開2013-038539(JP,A)
【文献】特開2015-143631(JP,A)
【文献】特表2017-509864(JP,A)
【文献】特開2002-167012(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0302869(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 1/00- 1/68
G01S 3/00- 3/74
G01S 5/00- 5/14
G05D 1/02
G65G 1/04
G65G 1/137
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレーアンテナおよび処理回路を有する移動体と、
所定の位置に配置され、それぞれが識別情報を含む信号波を周期的または断続的に放射する複数のビーコンと、
各識別情報を前記複数のビーコンのそれぞれの位置に関連づけるデータを格納する記憶装置と、
を備え、
前記アレーアンテナは、複数のアンテナ素子を有し、前記複数のビーコンのそれぞれから放射された信号波を順次または同時に受信して前記複数のアンテナ素子からアレー信号を出力し、
前記処理回路は、
受信した前記信号波から前記識別情報を読み出し、
前記記憶装置に格納されている前記データを参照し、前記識別情報に基づいて、前記信号波を放射した少なくとも1個のビーコンの位置を決定し、
前記アレー信号に基づいて、受信した前記信号波の到来方向を推定し、
前記信号波を放射した前記少なくとも1個のビーコンの位置および推定された前記信号波の前記到来方向に基づいて、前記移動体の測位を行
い、
前記複数のビーコンのそれぞれは、
第1の時間間隔で前記信号波を放射する第1のモードで動作することと、前記第1の時間間隔よりも短い第2の時間間隔で前記信号波を放射する第2のモードで動作することが可能であり、
前記移動体は、受信した前記信号波から前記識別情報を読み出した後、前記信号波を放射した前記少なくとも1個のビーコンの個数が単数のときは当該単数のビーコンに要求信号波を送信し、前記信号波を放射した前記少なくとも1個のビーコンの個数が複数のときは当該複数のビーコンのうちから選択された幾つかのビーコンに前記要求信号波を送信し、
前記複数のビーコンのそれぞれは、前記第1のモードで動作しているときに前記要求信号波を受け取ると、前記第1のモードから前記第2のモードに切り替える、移動体測位システム。
【請求項2】
前記複数のビーコンは、床面に平行な平面に沿って拡がるグリッドの格子点位置に配置されている、請求項1に記載の移動体測位システム。
【請求項3】
前記複数のビーコンは、建造物の天井に配列されている、請求項1または2に記載の移動体測位システム。
【請求項4】
前記複数のビーコンおよび前記移動体は、それぞれ、近距離無線通信規格に従って通信する通信モジュールを有している、請求項1から3のいずれかに記載の移動体測位システム。
【請求項5】
前記処理回路は、前記信号波を放射した前記少なくとも1個のビーコンの位置および推定された前記信号波の前記到来方向に基づいて、前記移動体の姿勢を求める、請求項1から4のいずれかに記載の移動体測位システム。
【請求項6】
前記複数のビーコンのそれぞれは、前記第2のモードで動作するときに可視光を発する光源を有している、請求項1に記載の移動体測位システム。
【請求項7】
前記移動体の運行管理装置を備え、
前記運行管理装置は、前記複数のビーコンとの間で無線通信を行い、前記複数のビーコンから選択した1個または複数のビーコンの動作を前記第1のモードから前記第2のモードに切り替えさせる、請求項1又は、請求項6のいずれかに記載の移動体測位システム。
【請求項8】
前記運行管理装置は、前記移動体の移動ルートに沿って前記複数のビーコンの動作を、順次、前記第1のモードから前記第2のモードに切り替えさせ、
前記移動体は、前記第2のモードで動作するビーコンに接近するように移動する、請求項7に記載の移動体測位システム。
【請求項9】
前記複数のビーコンのそれぞれは、前記信号波を放射するアンテナと、前記アンテナに接続された半導体集積回路と、電源として動作する電池とを有しており、前記所定の位置に着脱可能に取り付けられている、請求項1から8のいずれかに記載の移動体測位システム。
【請求項10】
前記移動体は、無人搬送車、有人搬送車、移動ロボット、およびドローンのいずれかを含む、請求項1から9のいずれかに記載の移動体測位システム。
【請求項11】
前記移動体の運行管理装置を備え、
前記運行管理装置は、測定された前記移動体の位置を示す情報を無線通信によって前記移動体から取得し、前記移動体の位置をトラッキングする、請求項1から10のいずれかに記載の移動体測位システム。
【請求項12】
前記移動体は、前記記憶装置を備えている、請求項1から11のいずれかに記載の移動体測位システム。
【請求項13】
前記記憶装置は前記移動体から離れており、
前記移動体は、無線通信によって前記記憶装置から前記データの一部を取得する、請求項1から11のいずれかに記載の移動体測位システム。
【請求項14】
アレーアンテナ、処理回路、および通信モジュールを有する移動体と、
所定の位置に配置され、それぞれが識別情報を含む信号波を周期的または断続的に放射する複数のビーコンと、
前記識別情報を前記複数のビーコンのそれぞれの位置に関連づけるデータを格納する記憶装置を有し、かつ、前記通信モジュールを介して前記移動体と通信を行う、管理装置と、
を備え、
前記アレーアンテナは、複数のアンテナ素子を有し、前記複数のビーコンのそれぞれから放射された信号波を順次または同時に受信して前記複数のアンテナ素子からアレー信号を出力し、
前記処理回路は、前記アレー信号に基づいて、受信した前記信号波の到来方向を推定し、受信した前記信号波から前記識別情報を読み出し、
前記管理装置は、
前記通信モジュールを介して、推定された前記信号波の前記到来方向および前記識別情報を前記移動体から取得し、
前記記憶装置に格納されている前記データを参照し、前記識別情報に基づいて、前記信号波を放射した少なくとも1個のビーコンの位置を決定し、
前記信号波を放射した前記少なくとも1個のビーコンの位置および前記信号波の前記到来方向に基づいて、前記移動体の測位を行う、移動体測位システムと、
前記移動体によって運ばれる荷物が前記移動体から荷卸しされたことを検知するセンシング装置と、
前記移動体測位システムによって測定された前記移動体の位置と、前記センシング装置の出力とに基づいて、前記移動体から荷卸しされた前記荷物の位置を記憶する荷物位置管理装置と、
を備える、物流管理システム。
【請求項15】
請求項1から13のいずれかに記載の移動体測位システムと、
前記移動体によって運ばれる荷物が前記移動体から荷卸しされたことを検知するセンシング装置と、
前記移動体測位システムによって測定された前記移動体の位置と、前記センシング装置の出力とに基づいて、前記移動体から荷卸しされた前記荷物の位置を記憶する荷物位置管理装置と、
を備える、物流管理システム。
【請求項16】
前記センシング装置は、ユーザの入力操作に応じて前記荷物が前記移動体から荷卸しされたことを検知し、前記出力を無線通信によって前記荷物位置管理装置に送信する、請求項14又は、請求項15に記載の物流管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、移動体測位システムおよび物流管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
衛星電波を受信できない屋内などの環境で携帯端末などの位置を推定するインドア・ポジショニング・システムの開発が活発に進められている。例えば携帯端末が内蔵するビーコンが信号波を放射する場合、この信号波を環境内に固定された複数のアレーアンテナで受信することにより、携帯端末の位置を推定することが可能になる。
【0003】
1個のアレーアンテナによれば、電磁波を放射するビーコンの方向、すなわち信号波の到来方向を推定することができる。ただし、アレーアンテナからビーコンまでの正確な距離を求めることはできない。従って、ビーコンの位置を正確に推定するためには、異なる位置に配置された複数のアレーアンテナを用いて、それぞれのアレーアンテナを基準とする信号波の到来方向から幾何学的な計算を行う必要がある。
【0004】
電磁波放射源の方向を1個のアレーアンテナによって推定し、その推定位置をカメラで取得した画像内に表示する技術が特開2007-19828号公報に開示されている。このような技術によれば、カメラで取得した画像に含まれている建造物などの配置を参考にして、電波放射源の方向または位置を推定することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来技術によれば、アレーアンテナによって電波放射源の方向を推定することは可能であるが、アレーアンテナの位置そのものは既知であるとの前提が採用されている。
【0007】
本開示の実施形態は、新しい移動体測位システムおよび物流管理システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の移動体測位システムは、例示的な実施形態において、アレーアンテナおよび処理回路を有する移動体と、所定の位置に配置され、それぞれが識別情報を含む信号波を周期的または断続的に放射する複数のビーコンと、各識別情報を前記複数のビーコンのそれぞれの位置に関連づけるデータを格納する記憶装置とを備える。前記アレーアンテナは、複数のアンテナ素子を有し、前記複数のビーコンのそれぞれから放射された信号波を順次または同時に受信して前記複数のアンテナ素子からアレー信号を出力する。前記処理回路は、受信した前記信号波から前記識別情報を読み出し、前記記憶装置に格納されている前記データを参照し、前記識別情報に基づいて、前記信号波を放射した少なくとも1個のビーコンの位置を決定し、前記アレー信号に基づいて、受信した前記信号波の到来方向を推定し、前記信号波を放射した前記少なくとも1個のビーコンの位置および推定された前記信号波の前記到来方向に基づいて、前記移動体の測位を行い、前記複数のビーコンのそれぞれは、第1の時間間隔で前記信号波を放射する第1のモードで動作することと、前記第1の時間間隔よりも短い第2の時間間隔で前記信号波を放射する第2のモードで動作することが可能であり、前記移動体は、受信した前記信号波から前記識別情報を読み出した後、前記信号波を放射した前記少なくとも1個のビーコンの個数が単数のときは当該単数のビーコンに要求信号波を送信し、前記信号波を放射した前記少なくとも1個のビーコンの個数が複数のときは当該複数のビーコンのうちから選択された幾つかのビーコンに前記要求信号波を送信し、前記複数のビーコンのそれぞれは、前記第1のモードで動作しているときに前記要求信号波を受け取ると、前記第1のモードから前記第2のモードに切り替える。
【0009】
本開示の他の移動体測位システムを搭載した物流管理システムは、例示的な実施形態において、アレーアンテナ、処理回路、および通信モジュールを有する移動体と、所定の位置に配置され、それぞれが識別情報を含む信号波を周期的または断続的に放射する複数のビーコンと、前記識別情報を前記複数のビーコンのそれぞれの位置に関連づけるデータを格納する記憶装置を有し、かつ、前記通信モジュールを介して前記移動体と通信を行う、管理装置とを備える。前記アレーアンテナは、複数のアンテナ素子を有し、前記複数のビーコンのそれぞれから放射された信号波を順次または同時に受信して前記複数のアンテナ素子からアレー信号を出力する。前記処理回路は、前記アレー信号に基づいて、受信した前記信号波の到来方向を推定し、受信した前記信号波から前記識別情報を読み出す。前記管理装置は、前記通信モジュールを介して、推定された前記信号波の前記到来方向および前記識別情報を前記移動体から取得し、前記記憶装置に格納されている前記データを参照し、前記識別情報に基づいて、前記信号波を放射した少なくとも1個のビーコンの位置を決定し、前記信号波を放射した前記少なくとも1個のビーコンの位置および前記信号波の前記到来方向に基づいて、前記移動体の測位を行い、前記移動体によって運ばれる荷物が前記移動体から荷卸しされたことを検知するセンシング装置と、前記移動体測位システムによって測定された前記移動体の位置と、前記センシング装置の出力とに基づいて、前記移動体から荷卸しされた前記荷物の位置を記憶する荷物位置管理装置とを備える。
【0010】
本開示の物流管理システムは、例示的な実施形態において、上記の移動体測位システムと、前記移動体によって運ばれる荷物が前記移動体から荷卸しされたことを検知するセンシング装置と、前記移動体測位システムによって測定された前記移動体の位置と、前記センシング装置の出力とに基づいて、前記移動体から荷卸しされた前記荷物の位置を記憶する荷物位置管理装置とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示の実施形態によれば、アレーアンテナを備える移動体の位置を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態における移動体測位システムの例示的な構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、工場または倉庫などの建造物の天井に複数のビーコンが配置されている例を示す図である。
【
図3】
図3は、直線状に配置されたM個のアンテナ素子を有するアレーアンテナと、異なる方向から到来する複数の信号波との関係を示す図である。
【
図4】
図4は、k番目の信号波を受信しているアレーアンテナを模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、天井に多数のビーコンが配置された倉庫などの建造物の内部を模式的に示す斜視図である。
【
図6】
図6は、本開示の実施形態における個々のビーコン20の構成例を模式的に示す図である。
【
図7A】
図7Aは、第1のモードで動作するビーコンから第1の時間間隔T1で放射される信号波を模式的に示す波形図である。
【
図7B】
図7Bは、第2のモードで動作するビーコンから第2の時間間隔T2で放射される信号波を模式的に示す波形図である。
【
図8】
図8は、アレーアンテナによる到来方向の推定が相対的に高い正確度を示す領域Cを模式的に示す斜視図である。
【
図9】
図9は、アレーアンテナによる到来方向の推定が相対的に高い正確度を示す領域Cを模式的に示す平面図である。
【
図10】
図10は、移動体の姿勢(向き)が不特定の場合において、角度αが40°の場合に移動体が存在し得る円周P1を模式的に示す図である。
【
図11】
図11は、移動体の姿勢が不特定の場合において、角度αが20°の場合に移動体が存在し得る円周P2を模式的に示す図である。
【
図12】
図12は、相対的に低い密度でビーコンが配列されている例を示す図である。
【
図13A】
図13Aは、移動体の移動に伴ってビーコンの動作を第1モードから第2モードに切り替える様子を模式的に示す図である。
【
図13B】
図13Bは、移動体の移動に伴ってビーコンの動作を第1モードから第2モードに切り替える様子を模式的に示す図である。
【
図14】
図14は、本開示による物流管理システムの実施形態を説明するための倉庫内の模式的レイアウト図である。
【
図15】
図15は、本開示による物流管理システムの他の実施形態を説明するための倉庫内の模式的レイアウト図である。
【
図16】
図16は、本開示による物流管理システムの更に他の実施形態を説明するための倉庫内の模式的レイアウト図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態を説明する。なお、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。本発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供する。これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0014】
<基本構成例>
本開示は、移動体測位システム、および移動体測位システムを利用する物流管理システムに関している。
【0015】
まず、
図1を参照して、本開示の実施形態における移動体測位システムの例示的な構成例を説明する。
【0016】
この例における移動体測位システム100は、アレーアンテナ12および処理回路14を有する少なくとも1個の移動体10と、所定の位置に配置され、それぞれが識別情報を含む信号波を周期的または断続的に放射する複数のビーコン20とを備える。
図1には、例示的に2個の移動体10が示されている。移動体10の典型例は、無人搬送車、有人搬送車、移動ロボット、および/またはドローンである。
【0017】
種々の実施形態において、複数のビーコン20は、床面に平行な平面に沿って拡がるグリッドの格子点位置に配置され得る。ある具体例において、複数のビーコン20は、建造物の天井に配列され得る。
図1の例では、N×M個(NおよびMは、いずれも正の整数)のビーコン20が2次元面内においてN行およびM列に周期的に配列されている。
図1では、個々のビーコン20を区別するため、i行j列(iおよびjは、1≦i≦N、1≦j≦Mを満たす整数)の位置にあるビーコン20に(i,j)の参照符号を付している。ビーコン20の配列は、行および列状の矩形配列に限定されない。各ビーコン20は、種々の形状を有する領域内において、任意の位置に配置され得る。
【0018】
本開示における移動体測位システム100は、各識別情報を複数のビーコン20のそれぞれの位置に関連づけるデータを格納する記憶装置40を備えている。この関連づけは、例えば、全てのビーコン20について、(i,j)=(xi,yi)の関係を示す詳細なテーブルによって表現され得る。ここで、(xi,yi)は、ビーコン(i,j)の位置座標である。より具体的には、例えば3行2列目に位置しているビーコン(3,2)の位置は、上記のデータを参照することにより、例えば(15,20)であることを知ることができる。床面のある基準位置を原点(0,0)とするとき、例えば真東に15m、真北に20mの位置にビーコン(3,2)の位置があることがわる。なお、このように正確な位置座標の値を知ることが必要のない場合もある。つまり、信号波から読み出された識別情報により、その信号波を発するビーコン20が3行2列の位置にあることがわかれば十分な場合もある。本開示では、このような場合でも、各識別情報は、複数のビーコン20のそれぞれの位置に関連づけられているものとする。
【0019】
記憶装置40は、移動体10が備えていてもよいし、移動体10から離れた位置に置かれていてもよい。
図1の左側に記載されている移動体10は、記憶装置40を内蔵している。
【0020】
図示されている例において、複数のビーコン20および移動体10は、それぞれ、近距離無線通信規格に従って通信する通信モジュールCMを有している。記憶装置40が移動体10から離れた位置に置かれている場合、移動体10は、移動体10が備える通信モジュールCMを用いて、無線通信によって記憶装置40から前記データの一部を取得することができる。取得したデータの一部は、移動体10が備える不図示のメモリに保持される。
【0021】
処理回路14および通信モジュールCMは、単一または複数の半導体集積回路によって実現され得る。処理回路14は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサまたはコンピュータと呼ばれることがある。処理回路14は、汎用的なマイクロコントローラまたはデジタルシグナルプロセッサなどのコンピュータと、当該コンピュータに種々の命令を実行させるコンピュータプログラムを内蔵したメモリとを備える回路によって実現され得る。処理回路14には、不図示のレジスタ、キャッシュメモリおよび/またはバッファが含まれ得る。
【0022】
図2は、工場または倉庫などの建造物の天井Cに複数のビーコン20が配置されている例を示している。この例において、移動体10は、床Fの上を走行する。
図2に示されている例において、複数のビーコン20から信号波W1、W2、W3、W4、W5が放射されている。
【0023】
ビーコン20は、タグとも呼ばれる。本開示のある実施形態において、ビーコン20は、ブルートゥース(登録商標)・ロー・エナジー規格に従って信号波を放射し得る(アドバタイジング)。ビーコン20は、他の近距離無線通信規格に従って動作する機器であってもよい。信号波の周波数は、例えばマイクロ波帯域またはミリ波帯域である。ビーコン20からは、例えば10ミリ秒以上10秒以下の時間間隔で例えば2.4ギガヘルツ帯の信号波が放射される。信号波の周波数は、アレーアンテナ12で受信できる限り、一定である必要はなく、複数の周波数をホッピングし得る。
【0024】
ビーコン20による信号波の放射は、ビーコン20のアンテナに依存する異方性を有していてもよい。ビーコン20が放射する信号波は、ビーコン20に関する識別情報とは別に、付加情報を含み得る。付加情報の例は、ビーコン20の位置座標である。ビーコン20は、外部にある種々のセンサと電気的に接続されていてもよい。このような場合、ビーコン20は、これらのセンサによって取得された種々の測定値を信号波に含めて放射することも可能である。
【0025】
図2の例において、移動体10のアレーアンテナ12には、ビーコン20から放射された信号波W1-W5がそれぞれ異なる角度で入射し得る。
図2の例では、アレーアンテナ12の中心を始点とする矢印D1の方向には信号波W1を放射しているビーコン20が存在している。同様に、アレーアンテナ12の中心を始点とする矢印D2および矢印D3の方向には、それぞれ、信号波W2を放射しているビーコン20および信号波W3を放射しているビーコン20が存在している。移動体10が移動すると、そのアレーアンテナ12を基準とするビーコン20の相対位置は変化する。このため、アレーアンテナ12の中心を始点としてビーコン20に向けられた矢印D1-D3の方向(角度)は、移動体10の移動に伴って変化する。
【0026】
図2には、アレーアンテナ12を備えていない移動体10Aが記載されている。この移動体10Aは、アレーアンテナ12を備える移動体10に追従して、あるいは、移動体10に牽引されて走行してもよい。逆に、アレーアンテナ12を備えていない移動体10Aがアレーアンテナ12を備える移動体10を牽引したり、誘導したりしてもよい。
図2には、無線端末を携帯するユーザ1が記載されている。ユーザ1は、無線端末により、移動体10および/または移動体10Aと通信し、走行指示を送信することもできる。ユーザ1は、移動体10が測定した移動体10の位置(自己位置)を示す情報を移動体10から直接に取得してもよい。移動体10の操舵の形式は任意である。移動体10がフォークリフトである場合、作業者が移動体10に乗って移動体10を運転し得る。
【0027】
<アレー信号処理>
図3および
図4を参照して、アレーアンテナ12の構成例および処理回路14による信号波の到来方向推定の原理を説明する。アレーアンテナ12は、2次元(平面)状に配列された複数のアンテナ素子を有している。処理回路14は、到来方向推定アルゴリズムを実行して信号波の到来方向を推定するコンピュータであり得る。
【0028】
簡単のため、2次元状に配置されたアンテナ素子のうちの、直線状に配置された一列のアンテナ素子に着目して、当該一列のアンテナ素子に入射する信号波の到来方向を推定する技術を説明する。
【0029】
図3は、直線状に配置されたM個のアンテナ素子12-1、・・・、12-m、・・・、12-Mを有するアレーアンテナ12と、異なる方向から到来する複数の信号波Wkとの関係を示している。ここで、Mは2以上、典型的には4以上の整数であり、mは1以上M以下の整数である。また、Kは1以上の整数であり、kは1以上K以下の整数である。信号波Wkは、例えば
図2に示されるように天井Cに配列されたビーコン20から放射された電磁波である。ビーコン20がブルートゥース(登録商標)・ロー・エナジー規格に従って信号波を放射する場合、この電磁波は、所定の時間間隔で放射されるマイクロ波であり、識別情報を含むアドバダイシングパケットの形態で変調されている。
【0030】
アレーアンテナ12には、様々な角度から到来する複数の信号波W1、・・・、Wk、・・・、WKが、同時に、または順次、入射する。信号波の入射角度(到来方向を示す角度θk)は、アレーアンテナ12のブロードサイドB(アンテナ素子群が並ぶ平面に対して垂直な方向)を基準とする到来方向の角度を表している。k番目の信号波Wkに注目する。「k番目の信号波」とは、異なる方位に存在する複数のビーコン20からアレーアンテナ12にK個の信号波が入射しているときにおける、入射角θkによって識別される信号波を意味する。
【0031】
図4は、k番目の信号波を受信しているアレーアンテナ12を模式的に示している。図示される例において、M個のアンテナ素子12-1、・・・、12-m、・・・、12-Mを備えるアレーアンテナ12から、信号波Wkに応答して信号(アレー信号)が出力される。このアレー信号は、M個の要素を持つ「ベクトル」として、数1のように表現できる。
(数1)
S=[S
1,S
2,…,S
M]
T
【0032】
ここで、S
m(m:1~Mの整数;以下同じ。)は、m番目のアンテナ素子が受信した信号の値である。上つきのTは転置を意味する。Sは列ベクトルである。列ベクトルSは、アレーアンテナ12の構成によって決まる方向ベクトル(ステアリングベクトルまたはモードベクトル)と、波源(信号源)であるビーコン20における信号波を示す複素ベクトルとの積によって与えられる。波源の個数がKであるとき、各波源から個々のアンテナ素子に到来する信号の波が線形的に重畳される。このとき、S
mは数2のように表現できる。
【数2】
【0033】
数2におけるak、θkおよびφkは、それぞれ、k番目の信号波の振幅、信号波の入射角度(到来方向を示す角度)、および初期位相である。また、λは到来波の波長、jは虚数単位である。
【0034】
数2から理解されるように、Smは、実部(Re)と虚部(Im)とから構成される複素数として表現されている。ノイズ(内部雑音または熱雑音)を考慮してさらに一般化すると、アレー信号Xは数3のように表現できる。
(数3)
X=S+N
【0035】
Nはノイズのベクトル表現である。処理回路14は、数3に示されるアレー信号Xを用いて到来波の自己相関行列Rxx(数4)を求める。
【数4】
【0036】
ここで、上付きのHは複素共役転置(エルミート共役)を表す。処理回路14は、自己相関行列Rxxの固有値を算出する。求めた複数の固有値のうち、熱雑音によって定まる所定値以上の値を有する固有値(信号空間固有値)の個数が、到来波の個数に対応する。そして、信号波の到来方向の尤度が最も大きくなる(最尤度となる)角度を算出することにより、受信した信号波を放射したビーコン20の個数および方向を特定することができる。信号波の到来方向を示す角度を推定する方法は、この例に限定されない。種々の到来方向推定アルゴリズムを用いて行うことができる。
【0037】
直線状に配置された一列のアンテナ素子を用いた場合、アンテナ素子の列に入射する無線信号に位相差が生じる方向(第1方向)については、無線信号の到来方向を推定することができる。しかしながら、第1方向に垂直な第2方向については、無線信号の到来方向を推定することはできない。第2方向に関する到来方向を推定するためには、2次元(平面)的に配置されたアンテナ素子を用いることが必要である。2次元的に配置されたアンテナ素子を用いて第1方向および第2方向の両方に関する角度を算出する技術は周知であるため、本明細書での詳細な説明は省略する。
【0038】
本実施形態において、アレーアンテナ12の直径は、例えば20センチメートル程度であり、平面内に2次元状に配列された例えば7個のアンテナ素子を備える。アレーアンテナ12の重量は、例えば500グラム程度である。アレーアンテナ12の構成およびサイズは、この例に限定されない。上面から視たアレーアンテナ12の外観形状も、円形である必要はなく、楕円形、長方形、多角形、星形、その他の形状であり得る。アンテナ素子の個数は、8個以上であってもよいし、3~6個の範囲内にあってもよい。
【0039】
本開示の実施形態におけるアンテナ素子は、床Fに平行な平面内に配列されている。具体的には、アレーアンテナ12の中心に位置する1個のアンテナ素子の周りに、6個のアンテナ素子が等間隔で同心円上に配列され得る。この配置はあくまでも一例にすぎない。
【0040】
アレーアンテナ12は、不図示のモノリシック・マイクロ波集積回路などの高周波回路およびAD変換回路を内蔵していてもよい。このような回路は、アレーアンテナ12に備えられる代わりに、処理回路14とアレーアンテナ12との間に接続されていてもよい。
【0041】
このように本開示の実施形態において、アレーアンテナ12は、複数のアンテナ素子を有し、複数のビーコン20のそれぞれから放射された信号波を順次または同時に受信して複数のアンテナ素子からアレー信号を出力する。処理回路14は、受信した信号波から識別情報を読み出す。そして、記憶装置40に格納されているデータを参照し、識別情報に基づいて、信号波を放射した少なくとも1個のビーコンの位置を決定する。処理回路14は、アレーアンテナ12から出力されたアレー信号に基づいて信号波の到来方向を推定し、信号波の到来方向を規定する角度を推定する。信号波の到来方向は、DOA(Direction Of Arrival)またはAOA(Angle Of Arrival)と称されることがある。
【0042】
上記の方法によって推定される信号波の到来方向は、移動体10を基準とする角度(極座標)によって規定される。一方、複数のビーコン20のそれぞれの位置は既知である。従って、信号波から識別情報を読み出すことにより、その信号波を放射したビーコン20を特定することができる。前述したように、記憶装置40には、各識別情報を複数のビーコン20のそれぞれの位置に関連づけるデータが格納されている。このデータを参照すれば、識別情報によって特定されたビーコン20の位置を把握することができる。
【0043】
図5は、天井Cに多数のビーコン20が配置された倉庫などの建造物の内部を模式的に示す斜視図である。
図5には、1個または複数個のビーコン20から放射された信号波を受け取り、測位(localizationまたはpositioning)を実行しながら走行する3台の移動体10a、10b、10cが記載されている。
図5には、移動体10a、10b、10cの運行を管理する管理装置30が示されている。
【0044】
なお、
図5では、ビーコン20が目立つように個々のビーコン20を大きく記載している。ビーコン20は、例えば約1センチメール×約1センチメール程度の小さなサイズを有していてもよい。ビーコン20は、人に視認できない状態で天井Cに埋め込まれていてもよい。複数のビーコン20の幾つかは、壁面、窓、および柱などの固定物に取り付けられていてもよい。天井などの取り付け面は平坦である必要はなく、全てのビーコン20が1枚の平面内に位置している必要もない。
【0045】
図5に示されるように、広い範囲に多数のビーコン20が配置されている形態では、全てのビーコン20が連続して信号波を放射し続けると、個々のビーコン20による消費電力が過度に増加してしまう。このため、ビーコン20は、信号波の放射(ブロードキャスト)のインターバル(時間周期)を変更する機能を有していることが好ましい。
【0046】
図6は、本開示の実施形態における個々のビーコン20の構成例を模式的に示す図である。
図6に示されるように、ビーコン20は、信号波を放射するアンテナ24と、アンテナ24に接続された半導体集積回路26と、電源として動作する電池(バッテリ)28とを有している。アンテナ24は、小型のアンテナであり、アレーアンテナである必要はない。半導体集積回路26は、プロセッサ、メモリ、高周波発振器回路などを含み得る。
【0047】
ある実施形態において、複数のビーコン20のそれぞれは、第1の時間間隔で信号波を放射する第1のモードで動作することと、第1の時間間隔よりも短い第2の時間間隔で信号波を放射する第2のモードで動作することが可能である。複数のビーコン20のそれぞれは、第2のモードで動作するときに可視光を発する光源22を有していてもよい。
【0048】
複数のビーコン20は、座標が既知の所定位置に着脱可能に取り付けられている。長期間の使用によってバッテリ28の供給電圧が低下したビーコン20は、所定の位置から外され、新しいビーコンに交換され得る。ビーコン20のバッテリ28のみが新しいバッテリに交換されてもよい。
【0049】
複数のビーコン20は、それぞれ、例えば天井に配置された複数の照明器具に取り付けられていてもよい。個々の照明装置は、電灯線などから給電を受ける点灯回路を有している。ビーコン20は、このような点灯回路から給電されてもよい。また、ビーコン20の消費電力は少ないため、バッテリの代わりに、照明器具の光源が発する光を電力に変換する小型太陽電池などの素子をビーコン20の電源として利用しても良い。
【0050】
図7Aは、第1のモードで動作するビーコン20から第1の時間間隔T1で放射される信号波を模式的に示す波形図である。矢印で示される複数の矩形部分が信号波の放射が行われている期間を示している。第1の時間間隔T1は、例えば5秒以上に設定され得る。
【0051】
図7Bは、第2のモードで動作するビーコン20から第2の時間間隔T2で放射される信号波を模式的に示す波形図である。矢印で示される複数の矩形部分が信号波の放射が行われている期間を示している。第2の時間間隔T2は、1秒以下、例えば500ミリ秒以下に設定され得る。
【0052】
ビーコン20は、通常、第1のモードで動作している。しかし、例えば移動体10が接近してきたとき、第1のモードから第2のモードに動作を切り替えることができる。移動体10が接近してきたことを検知するため、様々な構成を採用することができる。ある例によれば、特定のビーコン20を検出した移動体10から当該ビーコン20に要求信号波(リクエスト)を送信する。具体的には、移動体10は、受信した信号波から識別情報を読み出すことにより、信号波を放射した少なくとも1個のビーコンの個数が単数か複数かを判別することができる。信号波を放射したビーコン20の個数が単数のときは、この単数のビーコン20に要求信号波を送信する。一方、信号波を放射したビーコン20の個数が複数のときは、当該複数のビーコン20のうちから選択された幾つかのビーコン20に要求信号波を送信する。典型的には、移動体10の現在位置に最も近いビーコン20に要求信号波が送られ得る。複数のビーコン20のそれぞれは、第1のモードで動作しているときに要求信号波を受け取ると、第1のモードから第2のモードに切り替える。こうすることにより、信号波の放射に伴う電力の非効率的な消費が抑制される。その結果、バッテリ28の寿命が延びる。ブルートゥース(登録商標)・ロー・エナジー規格に従う場合、ビーコン20はアドバタイザーとして動作し、アレーアンテナ12を備える移動体10はスキャナとして動作し得る。ビーコン20が放射する信号波は、前述したように、アドバタイジングパケットの形態で識別情報などを移動体10に伝えることができる。
【0053】
なお、
図2の例では、信号波W3、W4、W5を放射しているビーコン20は第1のモードで動作し、信号波W1、W2を放射しているビーコン20は第2のモードで動作している。第1のモードで動作しているビーコン20は、第2のモードで動作しているビーコン20に比べて、移動体10から相対的に遠い位置にある。
【0054】
<測位>
前述したように、アレーアンテナ12および処理回路14の動作の結果、受信した信号波の到来方向を推定することができる。しかし、信号波の到来方向は、移動体10を基準とする、信号波を発したビーコン20の方向である。以下、ビーコン20が発した信号波の到来方向に基づいて、移動体10の位置および姿勢を求める方法の例を説明する。
【0055】
図8および
図9を参照する。
図8は、アレーアンテナ12による到来方向の推定が相対的に高い正確度を示す領域Cを模式的に示す斜視図である。
図9は、領域Cを模式的に示す平面図である。
【0056】
アレーアンテナ12による到来方向の推定が相対的に高い正確度を示す領域Cの範囲は、領域Cを底面とする円錐によって規定される。この円錐の高さHは、アレーアンテナ12からビーコン20の配列面までの距離に相当する。円錐の頂点にアレーアンテナ12の中心が位置し、円錐の頂角はアレーアンテナ12の画角または視野(angle of view)に相当する。円錐の大きさは、アレーアンテナ12の感度および指向性、ならびにビーコン20の信号波放射パワーおよび指向性などに依存する。
【0057】
移動体10は、この円錐の外側に位置する多数のビーコン20と通信することは可能である。しかし、受信した信号波の到来方向の推定正確度は、円錐から離れるに従って低下する傾向にある。正確度の高い測位(位置推定)を行うには、領域Cの内部に位置するビーコン20を利用することが好ましい。
【0058】
図8および
図9に示される例において、ビーコン20Xから放射された信号波の到来方向Dが角度αおよび角度βによって特定されている。
図8には、移動体10に固有のローカル座標(移動体座標)のw軸が示され、
図9には、このローカル座標のu軸およびv軸が示されている。uv平面は床に平行である。w軸は鉛直方向(高さ方向)に平行である。u軸、v軸、およびw軸は、相互に直交する右手系uvw座標を構成している。一方、倉庫などの建造物に固有の座標は、相互に直交するX軸、Y軸、およびZ軸によって構成される右手系のXYZ座標である。XYZ座標は、個々の移動体10の位置および姿勢(向き)に拠らないグローバルな世界座標である。
【0059】
図8に示されるように、角度αは、到来方向Dとw軸との間の角度である。一方、
図9に示されるように、角度βは、到来方向Dをu-v面に垂直に投影して形成した線分とu軸との間の角度(方位角)である。ここで、移動体10の向きが不明であると、世界座標のX軸と移動体座標のu軸との間の角度は不明である。
【0060】
前述したように、信号波に含まれていた識別情報に基づいて、ビーコン20Xの位置座標が取得される。また、アレー信号処理により、ビーコン20Xからの信号波の到来方向(角度αおよび角度βの推定値)が得られる。しかし、角度αおよび角度βの推定値は、移動体10を基準にする値であるため、移動体10の向きが決まらないと、グローバル座標上における移動体10の位置座標は決まらない。
【0061】
図10は、移動体10の向きが不特定の場合において、到来方向の角度αが40°のときに移動体10が存在し得る円周P1を模式的に示す図である。これに対して、
図11は、移動体10の向きが不特定の場合において、到来方向の角度αが20°のときに移動体10が存在し得る円周P2を模式的に示す図である。
図10および
図11からわかるように、角度αが小さいほど、移動体10が存在する可能性がある範囲は狭くなる。なお、移動体10の向きが既知である場合、移動体10の位置は円周P1またはP2の一点に特定できる。
【0062】
移動体10が受け取る信号波が1つであり、その到来方向の先に1個のビーコン20しか存在しない場合は、このように移動体10の向きが不明であれば、移動体10の位置は不特定になる。しかし、移動体10の位置および向きは、複数(好ましくは3個以上)のビーコン20からの信号波の到来方向を推定できれば、それら複数のビーコン20の座標に基づいて算出され得る。すなわち、例えば
図10に示されるビーコン20Xを頂点とする円錐の底面における円周P1と、他のいずれかのビーコン20を頂点とする円錐の底面における円周との交点に移動体10が存在していることになる。これにより、移動体10の位置のみならず姿勢(角度)を推定することも可能になる。従って、ビーコン20の配列は、領域C(
図8、
図9)が常に複数のビーコン20を含むように決定されることが好ましい。ただし、移動体10が移動する過程で、一時的に、領域C内に含まれるビーコン20の個数が1個になることがあっても、移動体10のそれまでの向きが既知であり、その向きが走行中に維持されていると仮定できれば、移動体10の位置を特定することが可能である。
【0063】
次に
図12を参照する。
図12では、
図9に比べて相対的に低い密度でビーコン20が配列されている。移動体座標のuv面の原点は、グローバル座標のXY面を移動するため、uv面の原点とXY面の原点とは必ずしも一致しない。しかし、
図12には、両原点が一致した状態を模式的に記載し、X軸に対するu軸の回転を示す角度Θを表わしている。
【0064】
前述したように、ある1個のビーコン20に対する到来方向を示す角度α、βが得られたとしても、移動体10の向き、すなわち角度θが不明であれば、uv面の原点の位置(移動体の位置)は、そのビーコン20の周り(角度αでビーコン20を臨み得る領域)のどこに位置しているかは定まらない。
【0065】
図12には、
図9に示される領域Cに相当する第1領域C1と、第1領域C1よりも広い第2領域C2が記載されている。第1領域C1に位置するビーコン20に比べると、第2領域C2に位置するビーコン20では、到来方向の推定の正確度は相対的に低い。しかし、第1領域C1に位置するビーコン20からの信号波に加えて、第2領域C2に位置するビーコン20からの信号波を用いることにより、移動体10の位置および向きを推定することが可能である。第1領域C1の外側においては、角度αよりも方位角である角度βの推定精度の方が高い。このため、角度βの情報は、より遠くに位置するビーコン20からの信号波を利用しても相対的に正確度は高く、移動体10の向きを求める上で有益な情報を得ることが可能である。
【0066】
図13Aおよび
図13Bは、移動体10の移動に伴ってビーコン20の動作を第1モードから第2モードに切り替える様子を模式的に示している。これらの図において、第1モードで動作するビーコン20は白い矩形で示されているが、第2モードで動作するビーコン20aは、ハッチング付きの矩形で示されている。第2モードで動作するビーコン20aは、移動体10の予定経路に沿って選択されている。移動体10は、信号波を受信する時間間隔を測定することにより、第2モードで動作するビーコン20aを第1モードで動作するビーコン20から識別することができる。移動体10は、第2モードで動作するビーコン20aを検出することにより、走行すべき経路(進行方向)を知ることが可能になる。
【0067】
上記の動作は、システムが移動体10の運行管理装置を用いることにより実現できる。ある実施形態において、移動体測位システムは、運行管理装置30を備える。運行管理装置30は、複数のビーコン20との間で無線通信を行い、複数のビーコン20から選択した1個または複数のビーコン20の動作を第1のモードから第2のモードに切り替えさせる。運行管理装置30は、移動体10の移動ルートに沿って複数のビーコン20の動作を、順次、第1のモードから第2のモードに切り替える。また、移動体10は、第2のモードで動作するビーコン20aに接近するように移動する。
【0068】
なお、運行管理装置30は、移動体10がアレー信号処理によって求めた自己位置情報を無線通信によって移動体10から取得し、移動体10の位置をトラッキングすることができる。
【0069】
上記の実施形態では、移動体10が測位のための演算処理を行っている。本開示の移動体測位システムは、この例に限定されない。他の実施形態において、移動体10ではなく、管理装置30が移動体10の位置を決定するための演算処理を実行する。このような実施形態の移動体測位システムも、上述の移動体10および複数のビーコン20を備える。また、この移動体測位システムは、識別情報を複数のビーコンのそれぞれの位置に関連づけるデータを格納する記憶装置を有する管理装置であって、通信モジュールを介して移動体10と通信を行う管理装置30を備える。この管理装置30は、通信モジュールを介して、推定された信号波の到来方向および識別情報を移動体から取得する。そして、記憶装置に格納されているデータを参照する。また、識別情報に基づいて、信号波を放射した少なくとも1個のビーコンの位置を決定する。更に、管理装置30は、信号波を放射した少なくとも1個のビーコン20の位置および信号波の到来方向に基づいて、移動体10の位置を推定することができる。
【0070】
本開示は、上述した種々の移動体測位システムを備える物流管理システムにも関している。この物流管理システムは、移動体によって運ばれる荷物が移動体から荷卸しされたことを検知するセンシング装置を備える。センシング装置は、移動体を運転する作業者が携帯しているモバイル端末であってもよい。また、センシング装置は、移動体に取り付けられた重量センサであってもよい。モバイル端末の場合、そのタッチスクリーンを操作することにより、作業者は荷卸しを行った荷物の番号などをセンシング装置に入力する。この物流管理システムは、移動体測位システムによって測定された移動体の位置と、センシング装置の出力とに基づいて、移動体から荷卸しされた荷物の位置を記憶する荷物位置管理装置を備える。
【0071】
図14は、本開示による物流管理システムの実施形態を説明する倉庫内の模式的レイアウト図である。この例では、倉庫の天井において、N×M個(NおよびMは、いずれも正の整数)のビーコン20がN行およびM列に周期的に配列されている。
図14において、個々のビーコン20を区別するため、i行j列(iおよびjは、1≦i≦N、1≦j≦Mを満たす整数)の位置にあるビーコン20に(i,j)の参照符号を付している。
【0072】
この例における移動体10は、有人搬送台車である。移動体10は、センシング装置55を搭載した状態で倉庫内に移動する。操舵は移動体10に乗車しているユーザ(作業者または運転者)が行う。移動体10は、破線で示された経路を移動する。経路は、図示される例に限定されず、より複雑なパターンを有していてもよい。経路の途中において、作業者が荷物60および荷物62をそれぞれ異なる位置に荷卸しした。荷卸しに際して、作業者は荷卸しを行ったことを示す操作をセンシング装置55に対して行う。この実施形態において、センシング装置55は、作業者の入力操作に応じて荷物が移動体10から荷卸しされたことを、無線通信によって荷物位置管理装置50に送信する。こうして、荷物位置管理装置50は、荷物が置かれたことを、そのときの移動体10の位置に関連づけて記憶することができる。移動体10の位置は、前述した移動体測位システムによる移動体10のトラッキングに基づいて取得することができる。また、移動体測位システムによる移動体10の測位は、センシング装置55が作業者の入力操作があったときに実行してもよい。
【0073】
移動体10を操舵する者は、移動体10の走行ルートを前もって知る必要は無く、倉庫内で移動体10を走行させながら、適当な空きスペースに荷物を降ろしてもよい。
【0074】
荷物位置管理装置50は、移動体10の運行管理装置30を兼ねていてもよい。この場合、荷物位置管理装置50は、荷物を置くべき位置を作業者に知得させるため、適切な走行ルートを決定した後、走行ルートに沿ってビーコン20の動作を第1モードから第2モードに切り替えてもよい。第2モードで動作するビーコン20の光源22が可視光を発すると、移動体10を操舵する者は、光源22の発光状を頼りに、走行ルートに沿って移動体10を走行させることが可能になる。
【0075】
<他の実施形態>
走行する移動体10の位置、あるいは荷下ろしの位置について、正確な位置座標が必要のない場合もある。そのような場合、「位置」としては、複数のビーコン20にそれぞれ割り当てられた複数の区画領域のいずれであるかが特定できれば十分である。
【0076】
図15は、本開示による物流管理システムの他の実施形態を示す図である。
図15には、複数のビーコン20にそれぞれ割り当てられた複数の区画領域70が示されている。区画領域70は、縦横に延びる一点鎖線の境界線200によって仕切られている。境界線200は仮想的な線であり、実際に建造物の天井または床に引かれている必要はない。
【0077】
図15の例において、荷物60は、ID21の識別番号を有するビーコン20に割り当てられた区画領域70に置かれている。一方、荷物62は、ID38の識別番号を有するビーコン20に割り当てられた区画領域70に置かれている。
【0078】
このように、本実施形態における荷物60、62の位置は、具体的なグルーバル座標の値ではなく、区画領域単位に特定される。前述したように、本開示の移動体測位システムによれば、移動体10から荷下ろしをしたときに最も近い位置にあるビーコン20に固有の識別情報を検出できる。この識別情報があれば、荷物を置いた位置を区画領域単位で特定することが可能である。移動体10に最も近い位置にあるビーコンとは、信号波を受けたアレーアンテナを基準として、
図8に示す角度αが最も小さな到来方向を示すビーコンである。
【0079】
この場合、移動体10の向き(
図12の角度Θ)を知る必要はない。従って、信号波の到来方向(特に角度α)が推定できれば、移動体10の最も近い位置にあるビーコン20を識別することは容易である。
【0080】
図16は、本開示による物流管理システムの更に他の実施形態を示す図である。この例において、ビーコン20の配列は、一定の周期を有していない。区画領域70は、荷物の置かれる領域にあわせて決定され得るため、ビーコン20は、大きさが異なる区画領域70の例えば中心に相当する位置に配置され得る。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本開示の移動体測位システムは、屋内における移動体の測位に好適に用いられる。また、屋外においても、ビーコンを適切に配置することにより、移動体の測位に利用することが可能である。また、物流倉庫、工場、病院、空港などにおいて、部品、完成品、荷物などの搬送および位置管理に好適に利用され得る。
【符号の説明】
【0082】
10・・・移動体、12・・・アレーアンテナ、14・・・処理回路、20・・・ビーコン、22・・・光源、24・・・アンテナ、26・・・半導体集積回路、28・・・バッテリ(電池)、30・・・管理装置、40・・・記憶装置、50・・・荷物位置管理装置