(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】樹脂フィルム、積層体及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20230214BHJP
C08F 299/06 20060101ALI20230214BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230214BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230214BHJP
B05D 3/06 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
C08J5/18 CFF
C08J5/18 CEY
C08F299/06
B32B27/30 A
B05D7/24 302P
B05D7/24 301T
B05D3/06 Z
(21)【出願番号】P 2019546938
(86)(22)【出願日】2019-08-02
(86)【国際出願番号】 JP2019030480
(87)【国際公開番号】W WO2020039892
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2018155933
(32)【優先日】2018-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石田 康之
(72)【発明者】
【氏名】三羽 規文
(72)【発明者】
【氏名】八尋 謙介
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-198852(JP,A)
【文献】国際公開第2008/001855(WO,A1)
【文献】特開2013-184988(JP,A)
【文献】特開2015-124265(JP,A)
【文献】特表2012-526894(JP,A)
【文献】特開平06-049154(JP,A)
【文献】特開2019-151815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00- 5/02、 5/12- 5/22
C08J 7/04- 7/06
C08F 283/01、290/00-290/14
C08F 299/00-299/08
C08G 18/00- 18/87、 71/00- 71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式1のセグメント
から化学式5のセグメントを含み、条件1
および条件3を満た
し、条件Bにおける弾性復元率z
2
が70%以上であることを特徴とする、樹脂フィルム。
条件1:樹脂フィルムのFT-IRスペクトルにおいて、3250cm
-1以上3350cm
-1未満の透過率の最小値(T
1)、及び、3350cm
-1以上3450cm
-1未満の透過率の最小値(T
2)が、式1を満たす。
条件3:化学式2のセグメントのハンセンの溶解度パラメーターのベクトル長さ(以下D
2
とする)と、化学式3のセグメントのハンセンの溶解度パラメーターのベクトル長さ(以下D
3
とする)が、式3を満たす。
条件B:初期チャック間距離20mm、引張速度300mm/minで、歪み量100%までサンプルを伸長後、サンプルへの引っ張り荷重を解放し、測定前に初期試長として印をつけていた距離を測定してLmmとして、以下の式から、弾性復元率z
2
%を算出。
弾性復元率z
2
=(1-(L-20)/20)×100 (%)。
せん断速度s
1
=(300/60)/20=0.25(s
-1
)
式1:T2<T1
式3:|D
2
-D
3
|≦2 ((MPa)
0.5
)
【化1】
【化2】
R
1は、水素またはメチル基を指す。
R
2は、以下のいずれかを指す。
置換または無置換のアルキレン基
置換または無置換のアリーレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアルキレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアリーレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアルキレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアリーレン基
R
3は、以下のいずれかを指す。
置換または無置換のアルキレン基
置換または無置換のアリーレン基
【化3】
R
4
は、以下のいずれかを指し、nは3以上の整数である。
置換または無置換のアルキレン基
置換または無置換のアリーレン基
内部にエーテル基、又はエステル基を有するアルキレン基
内部にエーテル基、又はエステル基を有するアリーレン基
内部にエーテル基、又はエステル基を有する無置換のアルキレン基
内部にエーテル基、又はエステル基を有する無置換のアリーレン基
【化4】
【化5】
pは1以上の整数である。
【請求項2】
垂直に入射させたX線による小角X線散乱において、条件2を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の樹脂フィルム。
条件2:散乱強度(I(q))の対数をY軸に、波数ベクトル(q)の対数をX軸にプロットした時の傾きAが、0.01nm
-1以上0.02nm
-1以下のqの範囲において、式2を満たす。
式2:-5.0≦A≦-3.0
【請求項3】
化学式7のセグメントを含む樹脂前駆体を架橋させた硬化物である、請求項1
又は2に記載の樹脂フィルム。
【化7】
R
5は、水素またはメチル基を指す。
R
6は、以下のいずれかを指す。
置換または無置換のアルキレン基
置換または無置換のアリーレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアルキレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアリーレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアルキレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアリーレン基
R
7は、以下のいずれかを指す。
置換または無置換のアルキレン基
置換または無置換のアリーレン基
【請求項4】
化学式8のセグメントを含む樹脂前駆体を架橋させた硬化物である、請求項1~
3のいずれかに記載の樹脂フィルム。
【化8】
R
8は、水素またはメチル基を指す。
R
9、R
11は、以下のいずれかを指し、nは3以上の整数である。
置換または無置換のアルキレン基
置換または無置換のアリーレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアルキレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアリーレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアルキレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアリーレン基
R
10は、以下のいずれかを指す。
置換または無置換のアルキレン基
置換または無置換のアリーレン基
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかに記載の樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、支持基材を有する積層体であって、
前記支持基材及び前記樹脂フィルムの剥離力が、1N/50mm以下であることを特徴とする、積層体。
【請求項6】
請求項
5に記載の積層体の製造方法であって、
工程1、2、及び3をこの順に行い、かつ、条件4を満たすことを特徴とする、積層体の製造方法。
工程1:支持基材上に、化学式7のセグメントを含む樹脂前駆体を含む塗料組成物を塗布し、塗布層を形成する工程。
工程2:前記塗布層から溶媒を除去する工程。
工程3:活性エネルギー線を照射して、前記樹脂前駆体を架橋させる工程。
条件4:工程2の後でありかつ工程3の前に、溶媒を除去した塗布層が、式4を満たす。
式4: T
4>T
3
T
3:溶媒を除去した塗布層のFT-IRスペクトルにおいて、3250cm
-1以上3350cm
-1未満の透過率の最小値。
T
4:溶媒を除去した塗布層のFT-IRスペクトルにおいて、3350cm
-1以上3450cm
-1未満の透過率の最小値。
【化7】
R
5は、水素またはメチル基を指す。
R
6は、以下のいずれかを指す。
置換または無置換のアルキレン基
置換または無置換のアリーレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアルキレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアリーレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアルキレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアリーレン基
R
7は、以下のいずれかを指す。
置換または無置換のアルキレン基
置換または無置換のアリーレン基
【請求項7】
前記樹脂前駆体が、化学式8のセグメントを含むことを特徴とする、請求項
6に記載の積層体の製造方法。
【化8】
R
8は、水素またはメチル基を指す。
R
9、R
11は、以下のいずれかを指し、nは3以上の整数である。
置換または無置換のアルキレン基
置換または無置換のアリーレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアルキレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアリーレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアルキレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアリーレン基
R
10は、以下のいずれかを指す。
置換または無置換のアルキレン基
置換または無置換のアリーレン基
【請求項8】
請求項1~
4のいずれかに記載の樹脂フィルムの製造方法であって、
工程1、2、3、及び4をこの順に行うことを特徴とする、樹脂フィルムの製造方法。
工程1:支持基材上に、化学式7のセグメントを含む樹脂前駆体を含む塗料組成物を塗布し、塗布層を形成する工程。
工程2:前記塗布層から溶媒を除去する工程。
工程3:活性エネルギー線を照射して、前記樹脂前駆体を架橋させる工程。
工程4:支持基材を剥離する工程。
【化7】
R
5は、水素またはメチル基を指す。
R
6は、以下のいずれかを指す。
置換または無置換のアルキレン基
置換または無置換のアリーレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアルキレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアリーレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアルキレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアリーレン基
R
7は、以下のいずれかを指す。
置換または無置換のアルキレン基
置換または無置換のアリーレン基
【請求項9】
前記樹脂前駆体が、化学式8のセグメントを含むことを特徴とする、請求項
8に記載の積層体の製造方法。
【化8】
R
8は、水素またはメチル基を指す。
R
9、R
11は、以下のいずれかを指し、nは3以上の整数である。
置換または無置換のアルキレン基
置換または無置換のアリーレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアルキレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアリーレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアルキレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアリーレン基
R
10は、以下のいずれかを指す。
置換または無置換のアルキレン基
置換または無置換のアリーレン基
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い柔軟性と復元性を両立した樹脂フィルムおよび積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイの薄型化、軽量化により、スマートフォン、タブレットなどの新しいデバイスが生まれ、オフィスや家庭などで室内の据置かれて使うものから、ユーザーが好きなところに自由に持ち歩いて使われるようになった。そしてその形は、平面で四角い形から、自在な形に対応できるようになり、日常生活の様々なものにデザインの制約なく組み込むことが可能になった。さらに、現在、自由に曲げることができるディスプレイが実現しつつあり、さらに伸ばすことができるディスプレイも提案されている。これらが実用化されれば、これまでに想像されなかったデバイスやアプリケーションが出現しすることが期待されている。
【0003】
また、歪みや微小な圧力変化、温度を検出できる様々なセンサーは、これまで産業用や医療用などに用いられていたが、小型、軽量化に伴い、モバイル機器をはじめ、日常生活の様々な物に取り付けられるようになり、日常生活における利便性の向上や危険の回避に役に立っている。そして今後、これらのセンサーが、より軽量化し、自在に曲げ伸ばしすることができるようになることで、負荷なく体に付けたりできるようになるようになり、私たちの生活を変えることが期待されている。
【0004】
このようなディスプレイやセンサーの分野においては、これまでにも軽量化や小型化のためにさまざまな樹脂フィルムが用いられてきている。しかし、これまで用いられてきた材料は、剛直な化学結合や強い結晶性を有するフィルムで、自由に曲げることはできるが、伸縮させることはできない。そのため、ディスプレイやセンサーの分野において前述のニーズがある中で、その自由に曲げ伸ばしができる樹脂フィルムが求められている。
【0005】
一方で、自由に曲げ伸ばしができる樹脂材料の代表的なものとして、非特許文献1に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマーがある。さらに、弾性回復性と伸ばしやすさに優れた材料として、特許文献1に記載の「カーボネート結合を有するポリエーテルポリオール(a)と、イソシアネート化合物(b)を反応させて製造されるポリウレタンであって、ポリエーテルポリオール(a)の水酸基価が55以下であるポリウレタン。」が提案されている。
【0006】
また、架橋性の柔軟、復元材料として、特許文献2には「少なくとも(a-1)ポリイソシアネート、(a-2)脂環式構造を有する数平均分子量500以下の低分子量ポリオール及び(a-3)ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの反応物であるウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマー(A)を含む活性エネルギー線硬化性樹脂組成物であって、該組成物における計算網目架橋点間分子量が1000以上、6000以下であることを特徴とする、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-189886号公報
【文献】特開2010-222568号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】古川睦久:熱可塑性ウレタンエラストマーの力学特性の発現,日本ゴム協会誌,第83巻,第9号(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のディスプレイやセンサーにおいて求められている「自由な曲げ伸ばし」は、その用途から、弱い力で大きく伸ばし、ほぼ完全に復元することが、0℃以下の温度で、かつ毎秒1回を超える早い周期で行えることが求められている。
【0010】
一方で、従来、ディスプレイやセンサーなどに用いられる樹脂フィルムにおいて、前述のように剛直な化学結合や高い結晶性を有するフィルムが用いられてきた理由の一つは、製品になるまでの工程にて加熱を伴うため、その耐久性を必要とするからである。
【0011】
そのため、ディスプレイやセンサーなどにおいて、自由に曲げ伸ばしができる樹脂フィルムを使用するには、自由な曲げ伸ばしに必要な、高い柔軟性と、すばやい復元性に加え、後工程に耐える耐熱性も必要とする。
【0012】
以上のような要望に対し、本発明者らが前述の観点について確認したところ、特許文献1に提案されている材料は、確かに柔軟性は優れるが、本用途に必要な高いレベルの復元性と工程に耐える耐熱性は不十分であった。
【0013】
また、特許文献2に提案されている材料について、本発明者らが前述の観点について確認したところ、柔軟性、耐熱性は、ある程度有するが、本用途に必要な高い復元性が不十分であった。
【0014】
以上の点から、本発明の課題は、柔軟性と高い復元性と、製造工程に耐える耐熱性を両立した樹脂フィルム、および積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、以下の発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0016】
化学式1のセグメント及び化学式2のセグメントを含み、条件1を満たすことを特徴とする、樹脂フィルム。
【0017】
条件1:樹脂フィルムのFT-IRスペクトルにおいて、3250cm-1以上3350cm-1未満の透過率の最小値(T1)、及び、3350cm-1以上3450cm-1未満の透過率の最小値(T2)が、式1を満たす。
【0018】
式1:T2<T1
【0019】
【0020】
【0021】
R1は、水素またはメチル基を指す。
【0022】
R2は、以下のいずれかを指す。
置換または無置換のアルキレン基
置換または無置換のアリーレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアルキレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアリーレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアルキレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアリーレン基
R3は、以下のいずれかを指す。
置換または無置換のアルキレン基
置換または無置換のアリーレン基
【発明の効果】
【0023】
柔軟性と高い復元性と、製造工程に耐える耐熱性を両立した樹脂フィルム、ならびに積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を実施するため形態を述べる前に、本発明者らは、従来技術にて本発明の課題を解決できない理由について、以下のように考えている。
【0026】
特許文献1に記載のポリウレタンが、エラストマーとして機能する理由は、ポリマーが柔軟性のあるソフトセグメントと凝集力の高いハードセグメントを有し、それらがミクロ相分離構造を形成していることにある。そして、柔軟なソフトセグメントの変形により伸長性が、ハードセグメント間の凝集力による物理架橋により復元性を発現すると考えている。
【0027】
本発明の課題のような、高いレベルの復元性や工程に耐える耐熱性を発現するには、架橋の強化が必要で、その実現には、より強い凝集力をもったハードセグメントを必要とする。そのためにはハードセグメントの体積を大きくする必要が有るが、反面、弾性率が高くなってしまう。この結果、高いレベルの柔軟性、高いレベルの復元性、耐熱性は、基本的にはトレードオフの関係になっていると考えている。
【0028】
また、より巨視的な面から見ると、前述のように復元性を高くすると、相分離構造を強化する必要があるが、これらは長周期構造を形成する。この結果、伸長-復元時に長周期構造が変形する過程を経るため、復元性は良くても復元する速度が低くなり、本発明の課題にて求められている高いレベルの復元性が得られなかったと考えている。
【0029】
特許文献2に記載のウレタンアクリレートの硬化物は、ハードセグメント間の凝集力による物理架橋に加えて、アクリレートの架橋による化学架橋を有するが、当該材料は、数平均分子量500以下の低分子量ポリオールを用いることを必須としている。おそらく、これが鎖延長剤として機能するため、ハードセグメントの体積が大きくなり、ミクロ相分離構造を作るため、長周期構造が出現して、復元性が低下したと考えている。
【0030】
これに対し、本発明者らは、前述の課題を解決する方法として、復元性の発現と耐熱性の付与に必要な架橋構造を、従来技術のように、ハードセグメント間の凝集による物理架橋に頼らず、小さく強固な化学架橋を、フィルム内で低密度に形成することを考案し、これにより高いレベルの柔軟性と耐熱性を両立することを考案した。また、高いレベルの復元性の発現に悪影響を及ぼす長周期構造を形成させないことが重要と考え、従来技術のような相分離構造を作らないことを目指した。具体的な達成方法について、述べる。
【0031】
本発明の樹脂フィルムは、化学式1と化学式2のセグメントを含み、条件1(樹脂フィルムのFT-IRスペクトルにおいて、3250cm-1以上3350cm-1未満の透過率の最小値(T1)と、3350cm-1以上3450cm-1未満の透過率の最小値(T2)が、式1を満たす)を満たす関係にあることが重要である。
【0032】
式1: T2<T1
樹脂フィルムが、化学式1または化学式2のセグメントを含むことは、様々な分析方法により調べることが可能であるが、熱分解GC―MSによる方法が簡便である。また、樹脂フィルムを形成する原料から判断することもできる。
【0033】
化学式1のセグメントは、(メタ)アクリロイル基がラジカル重合したセグメント、すなわち、樹脂フィルムが、(メタ)アクリロイル基の重合による架橋、すなわち化学架橋を有することを意味している。なお、化学式1のR1は、水素またはメチル基を指す。化学式1のR2は、以下のいずれかを指す。
・置換または無置換のアルキレン基、
・置換または無置換のアリーレン基、
・内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアルキレン基、
・内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアリーレン基、
・内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアルキレン基、
・内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアリーレン基。
【0034】
化学式2のセグメントは、ウレタン結合によるセグメントを指す。なお、化学式2のR3は、以下のいずれかを指す。
・置換または無置換のアルキレン基、
・置換または無置換のアリーレン基。
【0035】
ウレタン結合を含む樹脂のFT-IRスペクトルにおいて、3250cm-1以上3450cm-1未満の領域の吸収は、NH基の伸縮振動に対応する。ここで、NH基が、別のウレタン結合のカルボニル基と水素結合している場合には、3250cm-1以上3350cm-1未満の領域に吸収ピークが、別のウレタン結合のカルボニル基と水素結合していない場合には、3350cm-1以上3450cm-1未満の領域に吸収ピークが現れる。
【0036】
つまり、NH基が、別のウレタン結合のカルボニル基と水素結合している場合には、3250cm-1以上3350cm-1未満の領域の透過率の最小値(T1)と、3350cm-1以上3450cm-1未満の領域の透過率の最小値(T2)が、T2>T1の関係になり、一方でNH基が、別のウレタン結合のカルボニル基と水素結合していない場合には、3250cm-1以上3350cm-1未満の領域の透過率の最小値(T1)と、3350cm-1以上3450cm-1未満の領域の透過率の最小値(T2)が、T1>T2の関係(条件1を満たす関係)になる。
【0037】
従来技術のポリウレタンやウレタンアクリレートには、ウレタンセグメントのNH基とカルボニル基の水素結合が強く、ウレタン結合間の凝集力による物理架橋を有するため、T2>T1になる。これに対して、本発明の樹脂フィルムは、従来技術とは異なり、ウレタン結合を有しながら、ウレタン結合間の凝集力が弱いことを特徴としていることから、T2<T1の関係(条件1を満たす関係)となる。
【0038】
さらに、本発明の樹脂フィルムは、垂直に入射させたX線による小角X線散乱において、条件2を満たすことが好ましい。ここで、条件2とは、散乱強度(I(q))の対数をY軸に、波数ベクトル(q)の対数をX軸にプロットした時の傾きAが、qが、0.01nm-1以上0.02nm-1以下の範囲において、式2を満たす範囲内にあることを指す。小角X線散乱の測定方法については、後述する。
【0039】
式2:-5.0≦A≦-3.0
ここで、散乱強度(I(q))は、測定試料の構造に関係するパラメーターであり、樹脂の構造内に、凝集構造が存在する場合には、その形状に依存する。散乱強度(I(q))は、散乱体が等方的で、有意な長周期の構造を有さない場合には、qの-4乗で減衰し、薄い円板および細長い棒がランダムに配向した場合は、それぞれqの-2乗、qの-1乗で減衰する。つまり、この漸近挙動における波数ベクトルのべき乗数(qAにおけるA)が散乱体の構造を表すものとなる。
【0040】
本発明においては、樹脂フィルムの散乱強度(I(q))の対数を、波数ベクトル(q)の対数に対してプロットし、波数ベクトル(q)が0.01nm-1以上0.02nm-1以下の範囲を最小二乗法で直線近似し、その直線の傾きをAとする。本発明においては、このようにして得られたAの値が、式2(-5.0≦A≦-3.0)を満たす範囲内にあることが好ましい。式2を満たすことにより、樹脂フィルム内にミクロ相分離構造が形成されにくくなり、復元性が高くなる。
【0041】
さらに本発明の樹脂フィルムは、条件2を満たすため、樹脂フィルム内のセグメント間の相互作用を特定の範囲にすること、具体的には、樹脂フィルムが、前述の化学式1のセグメント及び化学式2のセグメントに加えて、化学式3のセグメントを含み、条件3を満たすことが好ましい。
【0042】
【0043】
R4は、以下のいずれかを指し、nは3以上の整数である。
・置換または無置換のアルキレン基、
・置換または無置換のアリーレン基、
・内部にエーテル基、又はエステル基を有するアルキレン基、
・内部にエーテル基、又はエステル基を有するアリーレン基、
・内部にエーテル基、又はエステル基を有する無置換のアルキレン基、
・内部にエーテル基、又はエステル基を有する無置換のアリーレン基。
【0044】
ここで、条件3とは、化学式2のセグメントのハンセンの溶解度パラメーターのベクトル長さ(以下D2とする)と、化学式3のセグメントのハンセンの溶解度パラメーターのベクトル長さ(以下D3とする)について、式3を満たすことである。
【0045】
式3:|D2-D3|≦2 ((MPa)0.5)
ここで、化学式3は、ポリオール残基によるセグメントである。さらにnは、前述のとおり3以上の整数であるが、より好ましくは7以上の整数である。
【0046】
化学式3のnが3を下回るセグメントを含むと、構造にもよるが柔軟性が低下し、特にnが1~2の化合物を含むと、復元性が低下することがある。化学式3のnの上限は、化学式3の構造に依存し、耐熱性や復元性の面から、nは、化学式3のセグメントの平均分子量が2500以下となるように選択することが好ましい。
【0047】
ここで、溶解度パラメーター(SP値)は、ヒルデブランドにより提案された凝集エネルギー密度の平方根で定義される物性値であり、溶媒の溶解挙動を示す数値である。そして、ハンセンの溶解度パラメーター(HSP値)は、このSP値を分散力項(δD)、極性力項(δP)、水素結合力項(δH)の3成分に分割して物質の極性を考慮したものである。HSP値は物質の溶解性を評価するだけでなく、高分子材料の耐溶剤性・耐水性評価、医薬品の溶解性評価、溶媒中の微粒子の凝集・分解性評価など、多岐にわたる分野で注目されるパラメーターのひとつで、HSP値が既知の溶媒を用い、これに対して、溶解の有無や膨潤の有無から求めることができる。
【0048】
HSP値は、前述の方法の他に、構造式から推算することもでき、前述のように条件3において化学式2や化学式3のセグメントのハンセンの溶解度パラメーターを求めるには、次の方法を使用することができる。すなわち、Hansen Solubility Parameter in Practice(HSPiP)ver.4.0.03(https://www.hansen-solubility.com)の、DIYモード中の“polymer”を用い、各セグメントの構造を、smiles記法で入力し、計算させることで、条件3で用いる化学式2及び化学式3のセグメントのハンセンの溶解度パラメーターを求めることができる。
【0049】
また、ここで、化学式2と化学式3のセグメントのハンセンの溶解度パラメーターのベクトル長さD2、D3は、下の式で求められる。
【0050】
D2=(δD2
2+δP2
2+δH2
2)1/2
δD2:化学式2のセグメントの分散力項
δP2:化学式2のセグメントの極性力項
δH2:化学式2のセグメントの水素結合力項
D3=(δD3
2+δP3
2+δH3
2)1/2
δD3:化学式3のセグメントの分散力項
δP3:化学式3のセグメントの極性力項
δH3:化学式3のセグメントの水素結合力項
本発明の樹脂フィルムが条件3を満たすことで、樹脂フィルム内の各セグメント間の相互作用を特定の範囲にすることができる。溶解度パラメーターの差は、大きいほど相溶性が悪く、差が小さいほど相溶性が良いことを指す。前述のように、条件3において、|D2-D3|は、2(MPa)0.5以下であること(つまり、式3を満たすこと)が好ましいが、|D2-D3|は1.5(MPa)0.5以下がより好ましい。
【0051】
さらに、本発明の樹脂フィルムは、条件1、条件2、条件3を満たすために特定のセグメントの組み合わせを用いることが好ましく、具体的には化学式4のセグメントを含み、さらに化学式5のセグメント又は化学式6のセグメントのいずれかを含むことが好ましい。
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
pは1以上の整数、
rは1以上の整数、
sは1以上の整数である。
【0056】
ここで、化学式4のセグメントは、前述の化学式2のセグメントであるウレタン結合として好ましいものである。化学式5のセグメントと化学式6のセグメントは、前述の化学式3のセグメントであるポリオール残基として好ましいものである。化学式4のセグメントと化学式5のセグメントの組み合わせ、又は、化学式4のセグメントと化学式6のセグメントの組み合わせとすることで、各セグメント間の相互作用を好ましい範囲にすることができ、相分離構造を作りにくくすることができるために好ましい。
【0057】
本発明の樹脂フィルムは、化学式7のセグメントを含む樹脂前駆体を架橋させた硬化物であることが好ましく、化学式8のセグメントを含む樹脂前駆体を架橋させた硬化物であることがより好ましい。
【0058】
【0059】
ここで化学式7のセグメントのR5は、水素またはメチル基を指し、R6は、以下のいずれかを指す。
・置換または無置換のアルキレン基、
・置換または無置換のアリーレン基、
・内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアルキレン基、
・内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアリーレン基、
・内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアルキレン基、
・内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアリーレン基。
【0060】
さらに化学式7のセグメントのR7は、以下のいずれかを指す。
・置換または無置換のアルキレン基、
・置換または無置換のアリーレン基。
【0061】
【0062】
ここで化学式8のセグメントのR8は、水素またはメチル基を指し、R9、R11は、以下のいずれかを指し、nは3以上の整数である。
・置換または無置換のアルキレン基、
・置換または無置換のアリーレン基、
・内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアルキレン基、
・内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアリーレン基、
・内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアルキレン基、
・内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアリーレン基。
【0063】
さらに化学式8のセグメントのR10は、以下のいずれかを指す。
・置換または無置換のアルキレン基、
・置換または無置換のアリーレン基。
【0064】
ここで樹脂前駆体とは、架橋させることができる部位を有する化合物を指す。化学式7のセグメントは、Xで示される(メタ)アクリル基が末端にあり、Yで示されるウレタン結合がそれに隣接していることを示しており、(メタ)アクリル基が、架橋させる部位に相当する。化学式8は、さらに、Yで示されるウレタン結合のもう一端が、Zで示されるとおり柔軟性を付与するためのポリオール残基になっていることを示している。
【0065】
本発明の樹脂フィルムは、その一方の面に支持基材を有する積層体を形成してもよい。特に本発明の積層体は、本発明の樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、支持基材を有する積層体であって、前記支持基材及び前記樹脂フィルムの剥離力が、1N/50mm以下であることを特徴とする積層体である。なお、樹脂フィルムとの剥離力が1N/50mm以下である支持基材のことを、以下においては剥離可能な支持基材と記す。
【0066】
本発明の積層体の構成について、図を用いて説明する。本発明の積層体1は、
図1に示すように、樹脂フィルム2の少なくとも一方の面に、剥離可能な支持基材3(樹脂フィルムとの剥離力が1N/50mm以下の支持基材)を有する積層体である。
【0067】
ここで、支持基材とは、本発明の積層体を形成する際に、その一方の面に樹脂フィルムを設けるにあたり、後述する積層体の製造方法にて、樹脂フィルム形成用塗料組成物をその表面に展開することが可能な、面内方向に平坦な物品である。
【0068】
本発明の積層体において支持基材を設ける理由は、後述する積層体の製造方法において、支持基材上に液体の塗料組成物を塗布して、架橋させることで樹脂フィルムを形成するために加え、樹脂フィルムが加工される後工程内での加工性や搬送性を確保するためである。そのため、樹脂フィルムから剥離可能(樹脂フィルムとの剥離力が1N/50mm以下)で、樹脂フィルムの後加工性を含めた機能に影響を及ぼさなければ、特に限定されないが、
図2のように積層体4が樹脂フィルム5との間に離型層6を含む支持基材7を有することが好ましい。
【0069】
また、積層体をロール状に巻き取って中間製品とする場合、ロールの巻き姿を安定化させるため、
図3のように積層体8が、樹脂フィルム9とは反対側に離型層10を含む支持基材11を有してもよい。無論、
図4のように積層体12が、樹脂フィルム13との間に離型層14を、反対側に離型層15を含む支持基材16を有してもよい。この場合、離型層14と離型層15は同一でもよいが、ロールから積層体を巻き出す時の樹脂フィルム13と、離型層15間での剥離力と、後工程で樹脂フィルムと13と離型層14の間の剥離力を調整する必要があるため、異なる方が好ましい。
【0070】
また、樹脂フィルムの工程内での搬送性向上や傷つき防止のため、
図5のように積層体17が、樹脂フィルム18の一方の面に剥離可能な支持基材19を、もう一方の面に剥離可能な保護材料20を有してもよい。この保護材料と支持基材は同一であってもよいが、
図6のように積層体21が、樹脂フィルム22との間に離型層23を含む支持基材24と、保護材料25とを有してもよく、
図7のように積層体26が、樹脂フィルム27との間に離型層28を含む支持基材29と、離型層30を含む保護材料31とを有してもよく、
図8のように積層体32が、樹脂フィルム33との間に離型層34を含む支持基材35と、粘着層36を含む保護材料37とを有してもよい。積層体が、粘着層を有する保護材料を有するか、離型層を用いる保護材料を有するかは、後工程の適性や樹脂フィルムの物性から適宜選択される。
【0071】
前述のとおり、本発明の積層体において、支持基材と樹脂フィルム間の剥離力は、1N/50mm以下であり、800mN/50mm以下であることが好ましい。支持基材と樹脂フィルム間の剥離力について、下限は特に限定されないが、10mN/50mm未満になると、製造工程で、支持基材と樹脂フィルムが剥がれたり、浮いたりすることがあるので、支持基材と樹脂フィルム間の剥離力は10mN/50mm以上であることが好ましい。
【0072】
さらに、本発明の積層体の製造方法は、特に限定されないが、工程1、2、及び3をこの順に行い、かつ条件4を満たすことが好ましい。
【0073】
工程1は、支持基材上に、化学式7のセグメントを含む樹脂前駆体を含む塗料組成物を塗布して、塗布層を形成する工程、工程2は、塗布層から溶媒を除去する工程、工程3は、塗布層に活性エネルギー線を照射して、樹脂前駆体を架橋させる工程である。なお、工程1で用いる塗料組成物としては、化学式8のセグメントを含む樹脂前駆体を含む塗料組成物を用いることがより好ましい。
【0074】
条件4:工程2の後でありかつ工程3の前に、溶媒を除去した塗布層が、式4を満たす。
式4: T4>T3
T3:溶媒を除去した塗布層のFT-IRスペクトルにおいて、3250cm-1以上3350cm-1未満の透過率の最小値。
T4:溶媒を除去した塗布層のFT-IRスペクトルにおいて、3350cm-1以上3450cm-1未満の透過率の最小値。
【0075】
条件4は、工程3の前後でのNH基の変化を示したものであり、工程2の後であり、かつ工程3を行う前の塗布層のFT-IRスペクトルは、式4に示すように前述のT4>T3の関係、すなわち、ウレタン結合のNH基と、別のウレタン結合のカルボニル基と水素結合が強く、工程3を行った後の樹脂フィルムのFT-IRスペクトルは、条件1を満たし(式1に示すように前述のT1>T2の関係となり)、すなわち、ウレタン結合のNH基が、別のウレタン結合のカルボニル基と水素結合が弱いことを示している。
【0076】
条件4中の式4を満たすということは、化学式7または化学式8のセグメントを含む樹脂前駆体が、工程2において溶媒が除去される過程で、ウレタン結合間の水素結合によって集まり、ウレタン結合に隣接する(メタ)アクリル基が集まるため、樹脂前駆体の架橋部位が少なくても、強固な架橋反応を進めることができる。
【0077】
また、条件4中の式4を満たすということは、その後の活性エネルギー線照射による架橋で、(メタ)アクリル基間で架橋反応することにより、ウレタン結合間の距離が変わり、ウレタン結合間の凝集力が低くなり、これにより高い復元性を発現することができていると考えている。
【0078】
[本発明の形態]
以下、本発明の実施の形態について具体的に述べる。
【0079】
[樹脂フィルム]
本発明の樹脂フィルムは、単体で膜状の構造を成り立たせているものであれば、その層数に特に限定はなく、1層から形成されていてもよいし、2層以上の層から形成されていてもよい。ここで層とは、厚み方向に向かって、隣接する部位と区別可能な境界面を有し、かつ有限の厚みを有する部位を指す。より具体的には、前記樹脂フィルムの断面を電子顕微鏡(透過型、走査型)または光学顕微鏡にて断面観察した際、不連続な境界面の有無により区別されるものを指す。樹脂フィルムの厚み方向に組成が変わっていても、その間に前述の境界面がない場合には、1つの層として取り扱う。
【0080】
本発明の樹脂フィルムは、その課題である、柔軟性、復元性、耐熱性の他に、光沢性、耐指紋性、成型性、意匠性、耐傷性、防汚性、耐溶剤性、反射防止、帯電防止、導電性、熱線反射、近赤外線吸収、電磁波遮蔽、易接着等の他の機能を有してもよく、その場合にはさらに1つ以上の層を形成してもよい。例えば前述の機能を有する機能層、粘着層、電子回路層、印刷層、光学調整層等や他の機能層を設けてもよい。
【0081】
前記樹脂フィルムの厚みは特に限定はなく、その用途によって適宜選択される。樹脂フィルムの厚みの下限は、樹脂フィルム自身の弾性率、破断伸度、積層体からの剥離力や剥離角度などの影響を受けるため、一概には定まらないが、後述する積層体の製造方法を用いて、一般的な柔軟材料同等の物性を実現する場合には、数μm程度が下限である。
【0082】
[積層体]
本発明の積層体は、前述の物性を示す樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、支持基材を有し、支持基材及び樹脂フィルムの剥離力が、1N/50mm以下である積層体を意味し、この態様でありさえすれば、積層体が平面状態であっても、又は成形された後の3次元形状のいずれであってもよい。
【0083】
[支持基材]
本発明の積層体に用いられる支持基材は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれを用いてもよく、ホモ樹脂であってもよく、共重合または2種類以上のブレンドであってもよい。支持基材を構成する樹脂は、成形性が良好であれば好ましく、その点から熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0084】
支持基材に好適に用いられる熱可塑性樹脂の例としては、ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリスチレン・ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン樹脂、脂環族ポリオレフィン樹脂、ナイロン6・ナイロン66などのポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、4フッ化エチレン樹脂・3フッ化エチレン樹脂・3フッ化塩化エチレン樹脂・4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン共重合体・フッ化ビニリデン樹脂などのフッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリグリコール酸樹脂、ポリ乳酸樹脂などを用いることができる。
【0085】
支持基材に好適に用いられる熱硬化性樹脂の例としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂などを用いることができる。熱可塑性樹脂は、十分な延伸性と追従性を備える樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂は、強度・耐熱性・透明性の観点から、特に、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、もしくはメタクリル樹脂であることがより好ましい。
【0086】
支持基材に好適に用いられるポリエステル樹脂とは、エステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子の総称であって、酸成分およびそのエステルとジオール成分の重縮合によって得られる。具体例としてはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどを挙げることができる。またこれらに酸成分やジオール成分として他のジカルボン酸およびそのエステルやジオール成分を共重合したものであってもよい。これらの中で透明性、寸法安定性、耐熱性などの点でポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレートが特に好ましい。
【0087】
また支持基材には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、無機粒子、有機粒子、減粘剤、熱安定剤、滑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、屈折率調整のためのドープ剤などが添加されていてもよい。
【0088】
さらに支持基材は、単層構成、積層構成のいずれであってもよい。
【0089】
また、支持基材の表面には、本発明の樹脂フィルムとは別に易接着層、帯電防止層、アンダーコート層、紫外線吸収層、離型層などの機能性層をあらかじめ設けることも可能であり、本発明の積層体においては、支持基材と樹脂フィルム間の剥離力を低下させるため、離型層を有することが好ましい。離型層の詳細については後述する。
【0090】
離型層が設けられた支持基材の例として、東レフィルム加工株式会社製の“セラピール”(登録商標)、ユニチカ株式会社製の“ユニピール”(登録商標)、パナック株式会社製の“パナピール”(登録商標)、東洋紡株式会社製の“東洋紡エステル”(登録商標)、帝人株式会社製の“ピューレックス”(登録商標)などを挙げることができ、これらの製品を利用することもできる。
【0091】
支持基材の表面には、前記樹脂フィルムを形成する前に各種の表面処理を施すことも可能である。表面処理の例としては、薬品処理、機械的処理、コロナ放電処理、火焔処理、紫外線照射処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理、混酸処理およびオゾン酸化処理が挙げられる。これらの中でもグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理および火焔処理が好ましく、グロー放電処理と紫外線処理がさらに好ましい。
【0092】
[離型層]
本発明の積層体に用いられる支持基材は、前述のように離型層を有することが好ましい。離型層を有する支持基材は、離型フィルムとも呼ばれる。離型層は、密着性や帯電防止性、耐溶剤性等を付与する観点から複数の層から構成されていてもよく、支持基材の両面にあってもよい。
【0093】
離型層の組成や厚みは、樹脂フィルムからの剥離力を、前述の好ましい範囲にすることができれば特に限定されないが、離型層の面内均一性、品位、剥離力の面から10~500nmであることが好ましく、20~300nmであることがより好ましい。
【0094】
[保護材料]
本発明の積層体は,前述の
図5のように樹脂フィルムの支持基材とは反対側の面に保護材料を有していてもよい。保護材料と支持基材の区別は、積層体の製造方法において、塗料組成物を塗工するものを支持基材とし、樹脂フィルム形成後に貼合されたものを保護材料とする。保護材料は、前述の支持基材と同じものでも、異なるものでもよいが、後工程の使用において、前述の支持基材と、剥離力に差を有することが好ましい。保護材料と支持基材の樹脂フィルムからの剥離力の大小関係は、後工程での使用方法に応じて適宜選択される。そのため、保護材料は、前述の
図7のように離型層を有しても良く、
図8のように粘着層を有してもよく、
図6のように層を有さなくてもよい。
【0095】
[積層体の製造方法]
本発明の積層体の製造方法は特に限定されないが、好ましくは、前述のとおり、工程1、2、及び3をこの順に行い、かつ、条件4を満たす方法である。つまり、支持基材上に、化学式7のセグメントを含む樹脂前駆体を含む塗料組成物を塗布して塗布層を形成し(工程1)、次いで塗布層から溶媒を除去して乾燥し(工程2)、活性エネルギー線を照射して、樹脂前駆体を架橋させる(工程3)ことで、樹脂フィルムを作ることにより、積層体を製造する方法である。
【0096】
工程1の支持基材上への塗料組成物の塗布方法は、支持基材上に塗料組成物を塗布し、面内均一な塗布層を形成できれば、特に限定されない。フィルム上への塗布方法としては、ディップコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法やダイコート法(米国特許第2681294号明細書)などから適宜、選択できる。ここで塗布層とは、塗布工程により形成された「液体の層」を指す。
【0097】
工程2の溶媒を除去する方法、つまり乾燥方法は、支持基材上に形成された塗布層から、溶媒を除去することができれば、特に限定されない。乾燥方法としては、伝熱乾燥(高熱物体への密着)、対流伝熱(熱風)、輻射伝熱(赤外線)、その他(マイクロ波、誘導加熱)によりなどが挙げられるが、この中でも、本発明の製造方法では、精密に幅方向でも乾燥速度を均一にする必要から、対流伝熱または輻射伝熱を使用した方式が好ましい。
【0098】
工程3の架橋方法は、乾燥後、溶媒を除去した塗布層に対して活性エネルギー線を照射することにより、反応させ、塗膜を架橋させるものである。
【0099】
活性エネルギー線による架橋は、汎用性の点から電子線(EB)および/または紫外線(UV)であることが好ましい。また、紫外線を照射する際に用いる紫外線ランプの種類としては、例えば、放電ランプ方式、フラッシュ方式、レーザー方式、無電極ランプ方式等が挙げられる。放電ランプ方式である高圧水銀灯を用いて紫外線硬化させる場合、紫外線の照度が100~3,000(mW/cm2)が好ましく、より好ましくは200~2,000(mW/cm2)、さらに好ましくは300~1,500(mW/cm2)、となる条件で紫外線照射を行うことがよく、紫外線の積算光量が、100~3,000(mJ/cm2)が好ましく、より好ましくは200~2,000(mJ/cm2)、さらに好ましくは300~1,500(mJ/cm2)となる条件で紫外線照射を行うことがよい。ここで、紫外線照度とは、単位面積当たりに受ける照射強度で、ランプ出力、発光スペクトル効率、発光バルブの直径、反射鏡の設計及び被照射物との光源距離によって変化する。しかし、搬送スピードによって照度は変化しない。また、紫外線積算光量とは単位面積当たりに受ける照射エネルギーで、その表面に到達するフォトンの総量である。積算光量は、光源下を通過する照射速度に反比例し、照射回数とランプ灯数に比例する。
【0100】
[樹脂前駆体]
樹脂前駆体は、架橋させることができる部位を有する化合物であれば、特に限定されないが、化学式7のセグメントを含む樹脂前駆体が好ましく、化学式8のセグメントを含む樹脂前駆体がよりこのましい。化学式7のセグメントは、前述のように、図中のXで示される(メタ)アクリル基が末端にあり、この末端にある(メタ)アクリル基(X)が、架橋させることができる部位に相当する。さらに、(メタ)アクリル基(X)は、図中のYで示されるウレタン結合と隣接している。さらに化学式8のセグメントは、Yで示されるポリイソシアネート残基ウレタン結合のもう一端と、化学式8中のZで示されるポリオール残基(Z)が隣接していることを意味している。
【0101】
化学式7のウレタン結合部(Y)は、好ましくは、TDI、MDI、NDI、TODI、XDI、PPDI、TMXDI、HMDI、IPDI、H6XDI、H12MDI等のポリイソシアネートの残基であり、より好ましくは、化学式4の構造である。
【0102】
化学式7のポリオール残基は、好ましくは、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールであり、より好ましくは、前述の化学式4のセグメント及び化学式5のセグメント、または、化学式4のセグメント及び化学式6のセグメントを含むことが好ましい。
【0103】
[塗料組成物]
本発明の積層体の製造方法にて用いられる「塗料組成物」は、支持基材上に面内均一に塗布でき、本発明の特性を示す樹脂フィルムを形成することができれば特に限定されないが、前述の積層体の製造方法に適した塗料組成物であることが好ましい。具体的には、前述の樹脂前駆体と、後述する溶媒やその他の成分を加えて、塗料組成物とすることが好ましい。
【0104】
[溶媒]
本発明の積層体の製造方法に用いられる塗料組成物は溶媒を含んでもよく、塗布層を面内に均一に形成するためには、溶媒を含む方が好ましい。溶媒の種類数としては1種類以上20種類以下が好ましく、より好ましくは1種類以上10種類以下、さらに好ましくは1種類以上6種類以下、特に好ましくは1種類以上4種類以下である。ここで「溶媒」とは、前述の乾燥工程にてほぼ全量を蒸発させることが可能な、常温、常圧で液体である物質を指す。
【0105】
ここで、溶媒の種類とは溶媒を構成する分子構造によって決まる。すなわち、同一の元素組成で、かつ官能基の種類と数が同一であっても結合関係が異なるもの(構造異性体)、前記構造異性体ではないが、3次元空間内ではどのような配座をとらせてもぴったりとは重ならないもの(立体異性体)は、種類の異なる溶媒として取り扱う。例えば、2-プロパノールと、n-プロパノールは異なる溶媒として取り扱う。さらに、溶媒を含む場合には以下の特性を示す溶媒であることが好ましい。
【0106】
[塗料組成物中のその他の成分]
本発明の積層体の製造方法に用いられる塗料組成物は,酸化防止剤、重合開始剤、硬化剤や触媒を含むことが好ましい。重合開始剤および触媒は、樹脂フィルムの架橋を促進するために用いられる。重合開始剤としては、塗料組成物に含まれる成分をアニオン、カチオン、ラジカル重合反応等による重合、縮合または架橋反応を開始あるいは促進できるものが好ましい。
【0107】
酸化防止剤は、その作用機構から、ラジカル連鎖開始防止剤、ラジカル捕捉剤、過酸化物分解剤に大別され、本発明の課題である、高温条件下での劣化抑制に対してこれらのいずれでも本発明の効果は得られるが、ラジカル捕捉剤、または過酸化物分解剤がより好ましく ヒンダードフェノール系、セミヒンダードフェノール系のラジカル捕捉剤、またはホスファイト系、チオエーテル系の過酸化物分解剤が特に好ましい。
【0108】
重合開始剤、硬化剤および触媒は種々のものを使用できる。また、重合開始剤、硬化剤および触媒はそれぞれ単独で用いてもよく、複数の重合開始剤、硬化剤および触媒を同時に用いてもよい。さらに、酸性触媒や、熱重合開始剤を併用してもよい。酸性触媒の例としては、塩酸水溶液、蟻酸、酢酸などが挙げられる。熱重合開始剤の例としては、過酸化物、アゾ化合物が挙げられる。また、光重合開始剤の例としては、アルキルフェノン系化合物、含硫黄系化合物、アシルホスフィンオキシド系化合物、アミン系化合物などが挙げられる。また、ウレタン結合の形成反応を促進させる架橋触媒の例としては、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジエチルヘキソエートなどが挙げられる。
【0109】
光重合開始剤としては、硬化性の点から、アルキルフェノン系化合物が好ましい。アルキルフェノン形化合物の具体例としては、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-フェニル)-1-ブタン、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-(4-フェニル)-1-ブタン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタン、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルフォリニル)フェニル]-1-ブタン、1-シクロヘキシル-フェニルケトン、2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-[4-(2-エトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、ビス(2-フェニル-2-オキソ酢酸)オキシビスエチレン、およびこれらの材料を高分子量化したものなどが挙げられる。
【0110】
また、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、樹脂フィルムを形成するために用いる塗料組成物にレベリング剤、滑剤、帯電防止剤等を加えてもよい。これにより、樹脂フィルムはレベリング剤、滑剤、帯電防止剤等を含有することができる。
【0111】
レベリング剤の例としては、アクリル共重合体またはシリコーン系、フッ素系のレベリング剤が挙げられる。帯電防止剤の例としてはリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などの金属塩が挙げられる。
【0112】
[樹脂フィルムの製造方法]
本発明の樹脂フィルムの製造方法は特に限定されないが、好ましくは、工程1、2、3、及び4をこの順に行うことを特徴とする、樹脂フィルムの製造方法である。
【0113】
工程1:支持基材上に、化学式7のセグメントを含む樹脂前駆体を含む塗料組成物を塗布し、塗布層を形成する工程。
【0114】
工程2:前記塗布層から溶媒を除去する工程。
【0115】
工程3:活性エネルギー線を照射して、前記樹脂前駆体を架橋させる工程。
【0116】
工程4:支持基材を剥離する工程。
【0117】
工程1~3については、すでに積層体の製造方法の項で説明したとおりである。そして工程4については、工程3を終えて樹脂フィルムを形成した後に、支持基材を剥離することで樹脂フィルムを得る工程を意味する。工程4の支持基材の剥離方法は、支持基材と樹脂フィルムを均一に剥離することができれば、特に限定されないが、一般的には、樹脂フィルム側を粘着層などを介して固定した上で、支持基材側を剥離する方法が好ましい。
【0118】
なお、樹脂フィルムを製造するに際しては、前述の条件4も満たすことがさらに好ましい。つまり、工程2の後でありかつ工程3の前に、溶媒を除去した塗布層が、式4を満たすことが好ましい。
式4: T4>T3
T3:溶媒を除去した塗布層のFT-IRスペクトルにおいて、3250cm-1以上3350cm-1未満の透過率の最小値。
T4:溶媒を除去した塗布層のFT-IRスペクトルにおいて、3350cm-1以上3450cm-1未満の透過率の最小値。
【0119】
さらに本発明の樹脂フィルムの製造方法においては、工程1で用いる塗料組成物は、化学式8のセグメントを含む樹脂前駆体を含むことがより好ましい。
【0120】
[用途例]
本発明の樹脂フィルムは、高い柔軟性や伸縮性を活かした用途に好適に用いることができる。
【0121】
一例を挙げると、メガネ・サングラスのフレームやレンズ、化粧箱、食品容器などのプラスチック成形品、水槽、展示用などのショーケース、スマートフォンの筐体、タッチパネル、カラーフィルター、フラットパネルディスプレイ、フレキシブルディスプレイ、フレキシブルデバイス、ウェアラブルデバイス、センサー、回路用材料、電気電子用途、キーボード、テレビ・エアコンのリモコンなどの家電製品、ミラー、窓ガラス、建築物、ダッシュボード、カーナビ・タッチパネル、ルームミラーやウインドウなどの車両部品、および、医療用フィルム、衛生材料用フィルム、農業用フィルム、建材用フィルム等、それぞれの表面材料や内部材料や構成材料や製造工程用材料に好適に用いることができる。
【実施例】
【0122】
次に、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。実施例および比較例において使用した各成分と略号は以下のとおりである。
【0123】
[成分、略号]
「ジイソシアネート」
・IPDI: イソホロンジイソシアネート
・MDI: 4,4’ジフェニルメタンジイソシアネート
・HMDI: ヘキサメチレンジイソシアネート
・H12MDI:メチレンビス(4,1-シクロヘキシレン)= ジイソシアネート
「ポリオール」
・MPDAA: ポリ3メチルペンタンジオールアジペート 株式会社クラレ製 クラレポリオールP-2010 (質量平均分子量 2000)
・PBAA-1: ポリブチレンアジペート 東ソー株式会社製 「ニッポラン」(登録商標)3027(質量平均分子量2500)
・PBAA-2: ポリブチレンアジペート 東ソー株式会社製 「ニッポラン」4009(質量平均分子量1000)
・PBAA-3: ポリブチレンアジペート 東ソー株式会社製 「ニッポラン」4010(質量平均分子量2000)
・PTMG: ポリテトラメチレングリコール 三菱ケミカル株式会社製 PTMG2000(質量平均分子量2000)
・PEAA: ポリエチレングリコールアジペート 東ソー株式会社製 「ニッポラン」4040(質量平均分子量2000)
「低分子量ポリオール」
・BD: ブタンジオール
・MPD:3-メチル-1,5-ペンタンジオール
「ヒドロキシアクリレート」
・HEA: ヒドロキシエチルアクリレート
・HPA: ヒドロキシプロピルアクリレート
・4HBA: 4ヒドロキシブチルアクリレ-ト。
【0124】
[樹脂前駆体、および樹脂の合成]
[樹脂前駆体A]
温度計、撹拌機、水冷コンデンサー、窒素ガス吹き込み口を備えた4つ口フラスコに、ジイソシアネート(IPDI)0.43モル%、ポリオール(MPDAA)0.29モル%を、固形分濃度60質量%になるようにトルエンで希釈して仕込み、90℃で反応させ、残存イソシアネート基が初期添加量の1.4質量%となった時点で温度を70℃に下げ、ヒドロキシアクリレート(HEA)0.29モルを加え反応させ、残存イソシアネート基が初期添加量0.3質量%となった時点で反応を終了し、トルエンを追加して固形分濃度を60質量%に調整して、樹脂前駆体Aのトルエン溶液を得た。
【0125】
[樹脂前駆体B~Q]
前記樹脂前駆体Aの合成に対し、ジイソシアネート、ポリオール、ヒドロキアクリレートの組み合わせを表1に記載の組み合わせに変えた以外は同様にして、樹脂前駆体B~Qのトルエン溶液を合成した。
【0126】
[樹脂A]
PTMG 0.22モル%、MDI 0.50モル%、BD 0.25モル%、およびMPD 0.03モル%の割合で、加熱下に液状状態で一括して定量ポンプによって2軸押出機(L/D=34;φ=30mm)に連続供給して、260℃で重合を行って樹脂Aを得た。
【0127】
【0128】
[塗料組成物の調合]
[塗料組成物1]
以下の材料とメチルエチルケトンを用いて希釈し、固形分濃度40質量%の樹脂フィルム形成用塗料組成物1を得た。
【0129】
・樹脂前駆体A トルエン溶液 (固形分濃度60質量%):100質量部
・光重合開始剤“IRGACURE”(登録商標)184 (BASFジャパン株式会社製):1.5質量部。
【0130】
[塗料組成物2~17の調合]
前記塗料組成物1の調合に対し、樹脂前駆体Aを表2に記載の樹脂前駆体の組み合わせに変えた以外は同様にして、塗料組成物2~17を調合した。
【0131】
[塗料組成物の18の調合]
冷却したトルエンを攪拌した状態で、ペレット状の樹脂Aを固形分濃度が20質量%になるように添加し、溶液が透明になったことを確認したうえで、温度を70℃まで昇温して完全に溶解し、塗料組成物18を得た。
【0132】
[離型層用塗料組成物]
下記材料を混合し、メチルエチルケトン/イソプロピルアルコール混合溶媒(質量混合比50/50)を用いて希釈し、固形分濃度5質量%の離型層用塗料組成物を得た。
・側鎖型カルビノール変性反応型シリコーンオイル
(X-22-4015信越化学工業(株) 固形分濃度:100質量%):5質量部
・両末端型ポリエーテル変性反応型シリコーンオイル
(X-22-4952信越化学工業(株) 固形分濃度:100質量%):5質量部
・アクリル変性アルキド樹脂溶液
(ハリフタール KV-905 ハリマ化成株式会社 固形分濃度 53質量%):100質量部
・イソブチルアルコール変性メラミン樹脂溶液
(メラン2650L 日立化成株式会社 固形分濃度 60質量%):20質量部
・パラトルエンスルホン酸:5質量部。
【0133】
[積層体、樹脂フィルムの製造方法]
[離型層付き支持基材の形成]
小径グラビアコーターを有する塗布装置を用い、厚み50μmのポリエステルフィルム(東レ(株)製商品名“ルミラー”(登録商標)R75X)に、離型層用塗料組成物を離型層厚みが、約200nmになるように、グラビアロールの線数、グラビアロールの周速、離型層用塗料組成物固形分濃度を調整して塗布し、次いで熱風温度140℃にて30秒保持することで、乾燥と架橋を行い、離型層付き支持基材を得た。
【0134】
[積層体の形成方法A]
(工程1)
支持基材として、前述の離型層付き支持基材を使用し、スロットダイコーターによる連続塗布装置を用い、前述の塗料組成物を、前述の支持基材の離型層上に、架橋後の樹脂フィルムの厚みが指定の膜厚になるように、吐出流量を調整して塗布し、塗布層を形成した。
【0135】
(工程2)
工程1にて形成した塗布層を、下記の条件で乾燥させて、溶媒を除去した。また、この工程2が完了した時点で、溶媒を除去した塗布層(架橋前の樹脂フィルム)について、FT-IR測定を行った。FT-IR測定の方法については、後述する。
【0136】
送風温度 : 温度:80℃、
風速 : 塗布面側:5m/秒、反塗布面側:5m/秒
風向 : 塗布面側:基材の面に対して平行、反塗布面側:基材の面に対して垂直
滞留時間 : 2分間
(工程3)
工程2にて、溶媒を除去して得られた塗布層(未架橋の樹脂フィルム)に、下記の条件で活性エネルギー線を照射して架橋させ、積層体を得た。
【0137】
照射光源 : 高圧水銀灯
照射出力 : 400W/cm2
積算光量 : 120mJ/cm2
酸素濃度 : 0.1体積%。
【0138】
[積層体の形成方法B]
(工程1)
支持基材として、前述の離型層付き支持基材を使用し、スロットダイコーターによる連続塗布装置を用い、前述の塗料組成物を、前述の支持基材の離型層上に、樹脂フィルムの厚みが指定の膜厚になるように、吐出流量を調整して塗布し、塗布層を形成した。
【0139】
(工程2)
工程1にて形成した塗布層を、下記の条件で乾燥させて、溶媒を除去した。また、この工程2が完了した時点で、溶媒を除去した塗布層について、FT-IR測定を行った。FT-IR測定の方法については、後述する。
【0140】
送風温度 : 温度:80℃、
風速 : 塗布面側:5m/秒、反塗布面側:5m/秒
風向 : 塗布面側:基材の面に対して平行、反塗布面側:基材の面に対して垂直
滞留時間 : 2分間
以上の方法により実施例1~16、比較例1~2の積層体および樹脂フィルムを作成した。各実施例、比較例に対応する樹脂フィルム形成用塗料組成物、積層体の形成方法、およびそれぞれの樹脂フィルムの厚みは、後述の表2に記載した。
【0141】
【0142】
[樹脂フィルム、積層体の評価]
積層体および樹脂フィルムについて、次に示す性能評価を実施し、得られた結果を表3、4、5に示す。特に断らない場合を除き、測定は各実施例・比較例において1つのサンプルについて場所を変えて3回測定を行い、その平均値を用いた。
【0143】
なお、樹脂フィルムについては、積層体と同等とみなし、同様の評価を行った。
【0144】
〔支持基材と樹脂フィルムの剥離力〕
積層体において、樹脂フィルムと支持基材を予め端部から少し剥離しておき、引張試験機で測定するための掴みしろを形成した。次いで、23℃65%RH環境下にて、引張試験機を用いて300(mm/分)の速度で180度剥離した時の抵抗値(N)を測定した。なお、抵抗値(N)は支持基材および樹脂層の幅(mm)で除した後に50倍し、それぞれの幅が50mmに相当する剥離力(mN/50mm)に換算した。樹脂フィルムの両側に支持基材が存在する積層体については、それぞれの支持基材について測定を行った。
【0145】
[FT-IRによる樹脂フィルム(又は溶媒を除去した後の塗布層)の赤外吸収スペクトルの測定」
樹脂フィルムの表面に対して、ATR法によるFT-IRスペクトルの測定を行った。測定装置、測定条件は以下の通りである。
【0146】
測定装置: Varian社製 FT-IR Varian-670
測定条件: 光源 特殊セラミックス
検出器 DTGS
分解能 4cm-1
積算回数 128回
測定波数範囲 4,000~680cm-1。
【0147】
得られたスペクトルから、3250cm-1以上3350cm-1未満の透過率の最小値(T1)と、3350cm-1以上3450cm-1未満の透過率の最小値(T2)を求めた。
【0148】
溶媒を除去した後の塗布層についても、同様に測定して、得られたスペクトルから、3250cm-1以上3350cm-1未満の透過率の最小値(T3)と、3350cm-1以上3450cm-1未満の透過率の最小値(T4)を求めた。
【0149】
[小角X線散乱]
樹脂フィルムに対して、小角X線散乱の測定を行った。本発明における小角X線散乱の測定は、銅を陰極とする回転陰極型X線発生装置をX線源とし、グラファイト結晶を用いたX線単色化装置によりCu-Kα線のみを抽出し入射X線として使用した。
【0150】
測定試料へのX線の入射に際しては、50cm以上の間隔を隔てて設置した二つの直径1mmの円形の穴が開いたX線用スリットにより、X線ビームの形状を絞る。
【0151】
試料からの散乱X線を試料位置から1.5m離れた場所に設置したX線用比例計数管を用いて散乱角度0度~3.5度までの範囲で測定し、散乱強度分布データを得る。得られた散乱強度分布デ-タから試料を置かない状態(ブランク)で測定した散乱強度(通常「空気散乱強度」と呼ばれる)とX線透過率との積を引いて差を求める。ここでX線透過率とは入射したX線の強度に対する、入射したX線の中で、散乱せずに試料を透過したX線の強度の割合である。
【0152】
上記で算出した差から更に、熱散漫散乱によるバックグラウンド強度を差し引き、補正散乱強度(I(q))を得る。なお、熱散漫散乱によるバックグラウンド強度は、散乱角度2度以上における散乱強度の最小値を与える散乱角度よりも広角側の散乱強度に対し、次式のカーブフィッティングを行い決定したものを用いた。
(バックグラウンド強度)=aq2+b
a、b: カーブフィッティング で最適化される変数
q:波数ベクトル q=2sinθ/1.542
2θ:散乱角度。
【0153】
[樹脂フィルムの柔軟性の評価]
積層体を10mm幅×150mm長の矩形に切り出した後、支持基材から樹脂フィルムを剥離し、試験片とした。なお、それぞれ150mm長の方向を樹脂フィルムの長手方向に合わせた。引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT-100)を用いて、初期引張チャック間距離50mmとし、引張速度300mm/minに設定し、測定温度23℃で引張試験を行った。
【0154】
チャック間距離が、a(mm)のときのサンプルにかかる荷重b(N)を読み取り、以下の式から、ひずみ量x(%)と応力y(N/mm2)を算出した。ただし、試験前のサンプル厚みをk(mm)とする。
【0155】
ひずみ量:x=((a-50)/50)×100
応力:y=b/(k×10)。
【0156】
上記で得られたデータのうち、歪み量5%での応力を5%歪み応力とし、5MPa以下を合格とした。
【0157】
[樹脂フィルムの復元性の評価]
樹脂フィルムを10mm幅×150mm長の矩形に切り出し試験片とした。なお、それぞれ150mm長の方向を樹脂フィルムの長手方向に合わせた。引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT-100)を用いて、測定温度23℃において、復元性の優劣を見るため、変形速度と歪み量の異なる2条件で評価を行った。
【0158】
条件A:初期チャック間距離50mm、引張速度50mm/minで、歪み量20%までサンプルを伸長後、サンプルへの引っ張り荷重を解放し、測定前に初期試長として印をつけていた距離を測定してLmmとして、以下の式から弾性復元率z1(%)と、せん断速度s1(s-1)を算出した。
【0159】
弾性復元率z1=(1-(L-50)/10)×100 (%)。
【0160】
せん断速度s1=(50/60)/10=0.08(s-1)
条件B:初期チャック間距離20mm、引張速度300mm/minで、歪み量100%までサンプルを伸長後、サンプルへの引っ張り荷重を解放し、測定前に初期試長として印をつけていた距離を測定してLmmとして、以下の式から、弾性復元率z2%を算出した。
【0161】
弾性復元率z2=(1-(L-20)/20)×100 (%)。
【0162】
せん断速度s1=(300/60)/20=0.25(s-1)
上記の評価において、条件Aが90%以上で、条件Bが70%以上を、合格とした。
【0163】
[樹脂フィルムの寸法変化率の測定]
積層体を10mm幅の矩形に切り出した後、樹脂フィルムから支持基材を剥離し、試験片とした。
【0164】
JIS K7244(1998)の引張振動-非共振法に基づき(これを動的粘弾性法とする)、セイコーインスツルメンツ株式会社製の動的粘弾性測定装置“DMS6100”を用いて樹脂フィルムの貯蔵弾性率と損失弾性率を求めた。
測定モード:引張
チャック間距離:20mm
試験片の幅:10mm
周波数:1Hz
歪振幅:10μm
最小張力:20mN
力振幅初期値:40mN
測定温度:-100℃から200℃まで
昇温速度:5℃/分
この時、貯蔵弾性率や損失弾性率の測定と同時にdL値(LVDT(Linear Variable Differential Transformer)の出力値)が得られ、これが測定時の試験片の寸法に対応する値を表す。30℃におけるdL値をa30(μm)とし、150℃におけるdL値をa150(μm)として、以下の式にて寸法変化率を求めた。
(寸法変化率)=((a150-a30)/20,000)×100。
【0165】
さらに、上記式で得られた30℃における寸法を基準とした150℃の寸法変化率の絶対値を算出し、2.5%以下を、合格とした。
【0166】
表3に樹脂フィルムの化学式1から7のセグメントの含有/非含有を、表4に前述の条件1から条件4の評価結果と支持基材と樹脂フィルム間の剥離力を、表5に樹脂フィルムの柔軟性、復元性、耐熱性の評価結果をまとめた。
【0167】
【0168】
【0169】
【0170】
表3において、化学式1の欄の「含む」の意味は、各々の実施例等が化学式1のセグメントを含むことを意味し、「含まない」の意味は、各々の実施例等が化学式1のセグメントを含まないことを意味する。化学式2~6についても、化学式1と同様である。また化学式7の欄の「含む」の意味は、各々の実施例等が、化学式7のセグメントを含む樹脂前駆体を架橋させた硬化物であることを意味し、「含まない」の意味は、各々の実施例等が、化学式7のセグメントを含む樹脂前駆体を架橋させた硬化物ではないことを意味する。化学式8についても、化学式7と同様である。
【符号の説明】
【0171】
1、4、8、12、17、21、26、32:積層体
2、5、9、13、18、22、27、33:樹脂フィルム
6、10、14、15、23、28、30、34:離型層
3、7、11、16、19、24、29、35:支持基材
20、25、31、37:保護材料
36:粘着層
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明の樹脂フィルムは、高い柔軟性や伸縮性を活かした用途に好適に用いることができる。
【0173】
一例を挙げると、メガネ・サングラスのフレームやレンズ、化粧箱、食品容器などのプラスチック成形品、水槽、展示用などのショーケース、スマートフォンの筐体、タッチパネル、カラーフィルター、フラットパネルディスプレイ、フレキシブルディスプレイ、フレキシブルデバイス、ウェアラブルデバイス、センサー、回路用材料、電気電子用途、キーボード、テレビ・エアコンのリモコンなどの家電製品、ミラー、窓ガラス、建築物、ダッシュボード、カーナビ・タッチパネル、ルームミラーやウインドウなどの車両部品、および、医療用フィルム、衛生材料用フィルム、農業用フィルム、建材用フィルム等、それぞれの表面材料や内部材料や構成材料や製造工程用材料に好適に用いることができる。