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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】シート状物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/14 20060101AFI20230214BHJP
   D06M 15/564 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
D06N3/14 101
D06N3/14
D06M15/564
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020513104
(86)(22)【出願日】2019-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2019007200
(87)【国際公開番号】W WO2019198357
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-10-08
(31)【優先権主張番号】P 2018076570
(32)【優先日】2018-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018076571
(32)【優先日】2018-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小出 現
(72)【発明者】
【氏名】宿利 隆司
(72)【発明者】
【氏名】西村 誠
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-106415(JP,A)
【文献】特開2013-112905(JP,A)
【文献】国際公開第2016/063761(WO,A1)
【文献】特開2009-133053(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N 1/00- 7/06
D06M 13/00-15/715
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均単繊維直径が0.1μm以上10μm以下の極細繊維からなる不織布と高分子弾性体からなるシート状物であって、前記高分子弾性体が、炭素数10以上20以下のアルカンジオールに由来する構造単位を含むポリカーボネートジオール、炭素数4以上6以下のアルカンジオールに由来する構造単位を含むポリカーボネートジオール、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤を反応成分としてなる水分散型ポリウレタン樹脂であり、該シート状物の折れシワ回復率が80%以上100%以下であることを特徴とする、シート状物。
【請求項2】
繊維質量に対してポリビニルアルコールを0.1質量%以上50質量%以下付与された、平均単繊維直径が0.1μm以上10μm以下の極細繊維を主構成成分とする繊維質基材に、炭素数10以上20以下のアルカンジオールに由来する構造単位を含むポリカーボネートジオール、炭素数4以上6以下のアルカンジオールに由来する構造単位を含むポリカーボネートジオール、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤を反応させた水分散型ポリウレタンを付与し、次いで繊維質基材から、ポリビニルアルコールを除去する工程を含むことを特徴とする、シート状物の製造方法。
【請求項3】
前記水分散型ポリウレタンが55℃以上80℃以下の温度で凝固することを特徴とする、請求項に記載のシート状物の製造方法。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコールのケン化度が98%以上であることを特徴とする、請求項またはに記載のシート状物の製造方法。
【請求項5】
前記水分散型ポリウレタンがさらに感熱凝固剤を含有することを特徴とする、請求項のいずれかに記載のシート状物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状物およびその製造方法、特に、好適には立毛を有するシート状物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主として不織布等の繊維質基材とポリウレタンからなるシート状物は、天然皮革にない優れた特徴を有しており、人工皮革等の種々の用途に広く利用されている。とりわけ、ポリエステル系繊維質基材を用いたシート状物は、耐光性に優れているため、衣料や椅子張りおよび自動車内装材用途等に年々広がっている。
【0003】
このようなシート状物を製造するにあたっては、繊維質基材にポリウレタンの有機溶剤溶液を含浸せしめた後、得られた繊維質基材をポリウレタンの非溶媒である水または有機溶剤水溶液中に浸漬してポリウレタンを湿式凝固せしめる工程の組み合わせが一般的に採用されている。この場合、ポリウレタンの溶媒である有機溶剤としては、N,N-ジメチルホルムアミド等の水混和性有機溶剤が用いられるが、一般的に有機溶剤は環境への有害性が高いことから、シート状物の製造に際しては、有機溶剤を使用しない手法が強く求められている。
【0004】
具体的な解決手段として、従来の有機溶剤系のポリウレタンに代えて、水中にポリウレタン樹脂を分散させた水分散型ポリウレタンを用いる方法が検討されている。これまでに、水分散型ポリウレタンを用いて柔軟な風合いのシート状物を得るため、例えば水分散型ポリウレタンとして1,10-デカンジオールに由来する構造単位を含有するポリカーボネートジオールを用いるなどして、ポリウレタン分子を柔軟な組成とする方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
あるいは、海島繊維からなる不織布に高ケン化ポリビニルアルコール(PVA)を付与し、海成分を除去後に水分散型ポリウレタンを付与して、最後にPVA除去することで、水分散型ポリウレタンと繊維との間に隙間を形成して交絡部分の把持力を低下させる方法が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特開2017-119755号公報
【文献】国際公開第2014/084253号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、水分散型ポリウレタンを液中に分散させた水分散型ポリウレタン分散液を繊維質基材に含浸し、ポリウレタンを凝固して製造されたシート状物は、風合いが硬くなりやすい傾向にある。その主な理由の一つとして、有機溶剤系ポリウレタンを用いた場合と水分散型ポリウレタンを用いた場合との間に、凝固形態の違いがある。
【0008】
有機溶剤系ポリウレタン液の凝固形態は、前記した有機溶剤に溶解しているポリウレタン分子を水で溶媒置換して凝固する形態、いわゆる湿式凝固方式が採られるのが一般的である。このポリウレタンについて、膜を形成して凝固後の構造を観察すると、湿式凝固方式によって凝固させた有機溶剤系ポリウレタンの膜は、密度が低い多孔膜が形成されていた。この密度の低い多孔質な構造によって、ポリウレタンが繊維質基材に含浸された場合においても、凝固時に繊維とポリウレタンの接触面積が少なくなるため、柔らかいシート状物が得られていると考えられる。
【0009】
一方、水分散型ポリウレタンは、主に加熱することにより、水分散型ポリウレタン分散液の水和状態を崩壊させ、ポリウレタンエマルジョン同士を凝集させることにより凝固させる、いわゆる乾式凝固方式がよく用いられる。このポリウレタンについて、膜を形成して凝固後の構造を観察すると、乾式凝固方式によって凝固させた水分散型ポリウレタンの膜は、密度が高い無孔膜が形成されていた。そのため、繊維質基材とポリウレタンの接着は密になり、繊維の交絡部分が強く把持されるため、風合いが硬くなるものと考えられる。
【0010】
特許文献1に開示された方法においては、風合いの硬さを改善して柔軟な風合いと触感としての反発感を得ることができるものの、逆に一般的な用途には水分散型ポリウレタンが柔軟すぎるため、シート状物を折り曲げた時に発生するシワの回復しやすさについては、十分満足できるものではない。
【0011】
一方、特許文献2に開示された方法においては、水分散型ポリウレタンであるか否かによらず、シート状物の構造から、柔軟な風合いを発現することができる。一方で、シート状物を折り曲げた時に発生するシワの回復については、水分散型ポリウレタンを用いた場合、繊維の把持力が低くなってしまうため、シワの回復しやすさについては、十分に満足できるものではない。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記の従来技術の背景に鑑み、柔軟な風合いと良好なシワ回復性を両立したシート状物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成すべく本発明者らが検討を重ねた結果、特定のポリカーボネートジオールと、有機ジイソシアネートと、鎖伸長剤とを反応成分としてなる水分散型ポリウレタンを用いることによって、環境に配慮してシート状物を製造できるだけでなく、従来のシート状物と比較して、風合い、シワ回復性に優れたシート状物が得られることを見出し、本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明は前記の課題を解決せんとするものであって、本発明のシート状物は、平均単繊維直径が0.1μm以上10μm以下の極細繊維からなる不織布と高分子弾性体からなるシート状物であって、前記高分子弾性体が、炭素数10以上20以下のアルカンジオールに由来する構造単位を含むポリカーボネートジオール、炭素数4以上6以下のアルカンジオールに由来する構造単位を含むポリカーボネートジオール、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤を反応成分としてなる水分散型ポリウレタン樹脂であり、該シート状物の折れシワ回復率が80%以上100%以下である。
【0016】
また、本発明のシート状物の製造方法は、繊維質量に対してポリビニルアルコールを0.1質量%以上50質量%以下付与された、平均単繊維直径が0.1μm以上10μm以下の極細繊維を主構成成分とする繊維質基材に、炭素数10以上20以下のアルカンジオールに由来する構造単位を含むポリカーボネートジオール、炭素数4以上6以下のアルカンジオールに由来する構造単位を含むポリカーボネートジオール、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤を反応させた水分散型ポリウレタンを付与し、次いで繊維質基材から、ポリビニルアルコールを除去する工程を含む。
【0017】
本発明のシート状物の製造方法の好ましい態様によれば、前記水分散型ポリウレタンが55℃以上80℃以下の温度で凝固する。
【0018】
本発明のシート状物の製造方法の好ましい態様によれば、前記ポリビニルアルコールのケン化度が98%以上である。
【0019】
本発明のシート状物の製造方法の好ましい態様によれば、前記水分散型ポリウレタンがさらに感熱凝固剤を含有する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、製造工程に有機溶剤を使用しない環境配慮型の製造方法によって、柔軟な風合いと、実使用において重要な機能である良好なシワ回復性を両立したシート状物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のシート状物は、平均単繊維直径が0.1μm以上10μm以下の極細繊維からなる不織布と高分子弾性体からなるシート状物であって、前記高分子弾性体が、炭素数8以上20以下のアルカンジオールに由来する構造単位を含むポリカーボネートジオール、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤を反応成分としてなるポリウレタン樹脂であり、該シート状物の折れシワ回復率が80%以上100%以下である。以下にこの構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではない。
【0022】
[極細繊維]
本発明に用いられる極細繊維には、ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体とジオールから得られるポリエステル系樹脂、すなわちポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、およびポリトリメチレンテレフタレートなどの樹脂を用いることができる。
【0023】
前記のポリエステル系樹脂で用いられるジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニル-4,4’-ジカルボン酸およびそのエステル形成性誘導体などが挙げられる。なお、本発明でいうエステル形成性誘導体とは、これらジカルボン酸の低級アルキルエステル、酸無水物およびアシル塩化物などである。具体的には、メチルエステル、エチルエステルおよびヒドロキシエチルエステルなどが好ましく用いられる。本発明で用いられるジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体としてより好ましい態様は、テレフタル酸および/またはそのジメチルエステルである。
【0024】
前記のポリエステル系樹脂で用いられるジオールとしては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、およびシクロヘキサンジメタノールなどが挙げられ、中でもエチレングリコールが好ましく用いられる。
【0025】
また、前記のポリエステル系樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲において、通常用いられる金属酸化物や顔料等の粒子、難燃剤および帯電防止剤等の添加剤を含有させることができる。
【0026】
極細繊維の断面形状としては、丸断面でよいが、楕円、扁平、三角などの多角形、扇形および十字型などの異形断面のものを採用することができる。
【0027】
本発明の極細繊維の平均単繊維直径は、0.1μm以上10μm以下であることが重要である。極細繊維の平均単繊維直径が10μm以下、好ましくは7μm以下、より好ましくは5μm以下であることによって、シート状物をより柔軟なものとすることができ、さらに、立毛の品位を向上させることができる。一方、極細繊維の平均単繊維直径が0.1μm以上、好ましくは0.3μm以上、より好ましくは0.7μm以上であることによって、染色後の発色性に優れたシート状物とすることができるほか、バフィングによる立毛処理を行う際に、束状に存在する極細繊維の分散しやすさ、さばけやすさを向上させることができる。
【0028】
本発明でいう平均単繊維直径とは、以下の方法で測定されるものである。すなわち、
(1)得られたシート状物を厚み方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察する。
(2)観察面内の任意の50本の極細繊維の繊維直径をそれぞれの極細繊維断面において3ヶ所で測定する。ただし、異型断面の極細繊維を採用した場合には、まず単繊維の断面積を測定し、当該断面積となる円の直径を以下の式で算出する。これより得られた直径をその単繊維の単繊維直径とする。
・単繊維直径(μm)=(4×(単繊維の断面積(μm))/π)1/2
(3)得られた合計150点の算術平均値(μm)を算出し、小数点以下第二位で四捨五入する。
【0029】
[不織布]
本発明で用いられる不織布は、前記の極細繊維からなる。なお、不織布には、異なる原料の極細繊維が混合されていることが許容される。
【0030】
前記の不織布の形態としては、前記の極細繊維それぞれが絡合してなる不織布や極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布を用いることができるが、極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布が、シート状物の強度や風合いの観点から好ましく用いられる。柔軟性や風合いの観点から、特に好ましくは、極細繊維の繊維束を構成する極細繊維同士が適度に離間して空隙を有する不織布が好ましく用いられる。このように、極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布は、例えば、極細繊維発現型繊維をあらかじめ絡合した後に極細繊維を発現させることによって得ることができる。また、極細繊維の繊維束を構成する極細繊維同士が適度に離間して空隙を有する不織布は、例えば、海成分を除去することによって島成分の間を空隙とすることができる海島型複合繊維を用いることによって得ることができる。
【0031】
前記の不織布としては、短繊維不織布、あるいは、長繊維不織布のいずれでもよいが、シート状物の風合いや品位の観点から短繊維不織布がより好ましく用いられる。
【0032】
短繊維不織布を用いた場合における短繊維の繊維長は、25mm以上90mm以下の範囲であることが好ましい態様である。繊維長を25mm以上、より好ましくは35mm以上、さらに好ましくは40mm以上であることにより、絡合により耐摩耗性に優れたシート状物となる。また、繊維長を90mm以下、より好ましくは80mm以下、さらに好ましくは70mm以下とすることにより、より風合いや品位に優れたシート状物を得ることができる。
【0033】
本発明の不織布には、その内部に強度を向上させるなどの目的で、織物や編物を挿入し、または積層し、または裏張りすることもできる。かかる織物や編物を構成する繊維の平均単繊維直径は、0.3μm以上10μm以下であることによって、ニードルパンチ時における損傷を抑制し、強度を維持することができるため、より好ましい。
【0034】
前記の織物や編物を構成する繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートおよびポリ乳酸などのポリエステルや、6-ナイロンや66-ナイロンなどのポリアミド等の合成繊維、セルロース系ポリマー等の再生繊維、および綿や麻等の天然繊維などを用いることができる。
【0035】
[高分子弾性体]
本発明で用いられる高分子弾性体は、ポリウレタン樹脂である。さらに、そのポリウレタン樹脂は、炭素数8以上20以下のアルカンジオールに由来する構造単位を含むポリカーボネートジオールと、有機ジイソシアネートと、鎖伸長剤とを必須の反応成分とする。
【0036】
(1)ポリウレタン樹脂の各反応成分
以下に、ポリウレタン樹脂の各反応成分について説明する。
【0037】
(1-1)ポリカーボネートジオール
(1-1-1)ジオール成分
前記のポリカーボネートジオールにおけるアルカンジオールの炭素数は8以上20以下である。このような長鎖アルカンジオール由来の構造単位を含むポリカーボネートジオールを用いることで、ポリウレタンのカーボネート基比率を下げることができる。特に、前記のアルカンジオールの炭素数を8以上であることによって、前記のポリウレタンを柔軟なものとすることができる。さらに、シート状物において適度な反発感を発現することができる。一方、炭素数が20以下であることによって、前記のポリカーボネートジオールの結晶性を高めることによりシート状物の耐久性や耐摩耗性を向上させることができる。
【0038】
なお、前記のアルカンジオールの炭素数は、入手の容易さから、8以上12以下であることが好ましく、例えば5-メチル-2,4-ヘプタンジオール、2-メチル-1,7―ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール等が挙げられる。より好ましくは、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオールであり、さらに好ましくは1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオールであり、特に好ましくは1,10-デカンジオールである。
【0039】
本発明で用いられるポリウレタン樹脂には、前記のポリカーボネートジオール以外に、炭素数が4以上6以下のアルカンジオールに由来する構造単位を含むポリカーボネートジオールを反応成分としてさらに含有することが好ましい。このような短鎖アルカンジオール由来の構造単位を含むポリカーボネートジオールを反応成分としてさらに含有することで、特に、ポリカーボネートジオールの炭素数を6以下とすることでポリウレタンの適度な結晶性向上を行うことができる。一方、ポリカーボネートジオールの炭素数を4以上することで、シート状物をより柔軟なものとすることができるだけでなく、ポリウレタンの反発感をさらに向上できるとともに、シート状物のシワ回復性を向上することができる。
【0040】
炭素数が4以上6以下のアルカンジオールとしては、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5ペンタンジオールおよびこれらの2種以上の混合ジオールが挙げられ、より好ましくは、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5ペンタンジオールおよびこれらの2種以上の混合ジオールであり、もっとも好ましいのは、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5ペンタンジオールおよびこれらの混合ジオールである。
【0041】
2種類のジオール成分を用いる場合、炭素数8以上20以下のアルカンジオールに由来する構造単位を含むポリカーボネートジオール(A)と、炭素数4以上6以下のアルカンジオールに由来する構造単位を含むポリカーボネートジオール(B)の合計モル数に対する(A)のモル比率は、好ましくは30モル%以上100モル%以下であり、より好ましくは40モル%以上90モル%以下である。ポリカーボネートジオール(A)のモル比率が30モル%以上であれば、シート状物の風合いが良好となり、また90モル%以下であれば、シート状物のシワ回復性が良好となる。
【0042】
前記のポリカーボネートジオールの数平均分子量は、風合いの観点から、好ましくは500以上であり、より好ましくは700以上であり、さらに好ましくは1000以上である。また、この数平均分子量は、強度の観点から、好ましくは5000以下であり、より好ましくは4500以下であり、さらに好ましくは4000以下である。
【0043】
本発明で用いられるポリウレタン樹脂には、ポリカーボネートジオール以外に、ジオール成分として、さらに他の高分子ジオールを性能に悪影響しない範囲で反応成分として併用することができる。この高分子ジオールを併用する場合には、前記のポリカーボネートジオールの合計質量に対して、好ましくは0質量%以上40質量%以下、更に好ましくは0質量%以上35質量%以下併用することができる。
【0044】
前記の高分子ジオールとしては、数平均分子量が好ましくは500以上5000以下、より好ましくは1000以上4000以下のポリエーテルジオールおよびポリエステルジオールが挙げられる。
【0045】
前記のポリエーテルジオールとしては、例えば、低分子ジオールにアルキレンオキサイドが付加した構造の化合物、およびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0046】
前記の低分子ジオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール;環構造を有する低分子ジオール類[ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼン、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物など]、およびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0047】
アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラハイドロフラン(以下、THFと略記することがある。)、および3-メチル-テトラハイドロフラン(以下、3-M-THFと略記することがある。)などが挙げられる。
【0048】
アルキレンオキサイドは、単独でも2種以上併用してもよく、後者の場合はブロック付加でもランダム付加でも両者の混合系でも用いることができる。これらのアルキレンオキサイドのうち、好ましいアルキレンオキサイドは、エチレンオキサイド単独、プロピレンオキサイド単独、THF単独、3-M-THF単独、プロピレンオキサイドおよびエチレンオキサイドの併用、プロピレンオキサイドおよび/またはエチレンオキサイドとTHFの併用、およびTHFと3-M-THFの併用(併用の場合、ランダム、ブロックおよび両者の混合系)である。
【0049】
これらのポリエーテルジオールの具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下、PTMGと略記することがある。)、ポリ-3-メチル-テトラメチレンエーテルグリコール、THF/エチレンオキサイド共重合ジオール、およびTHF/3-M-THF共重合ジオールなどが挙げられる。これらのうち特に好ましいポリエーテルジオールは、PTMGである。
【0050】
ポリエステルジオールとしては、低分子ジオールおよび/または分子量1000以下のポリエーテルジオールとジカルボン酸とを反応させて得られるポリエステルジオールや、ラクトンの開環重合により得られるポリラクトンジオールが挙げられる。
【0051】
低分子ジオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール;環構造を有する低分子ジオール類[ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼン、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物など]、および、これらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0052】
(1-1-2)ジカルボン酸成分
また、ポリカーボネートジオールの構成成分であるジカルボン酸としては、「コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸およびセバシン酸など」の脂肪族ジカルボン酸、「テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸など」の芳香族ジカルボン酸、これらのジカルボン酸のエステル形成性誘導体(例えば、酸無水物や低級アルキル(炭素数1~4)エステルなど)、ラクトンをカルボニル化し、加水分解して得られるジカルボン酸、および、これらの2種以上の混合物が挙げられる。なお、前記のラクトンとしては、ε-カプリラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンおよびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0053】
(1-1-3)ポリカーボネートジオールの具体例
これらのポリカーボネートジオールの具体例としては、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリネオペンチルアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリジエチレンアジペートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、およびポリカプロラクトンジオールなどが挙げられる。
【0054】
(1-2)有機ジイソシアネート
本発明で用いられる有機ジイソシアネートとしては、炭素数(NCO基中の炭素を除く、以下同様。)が6以上20以下の芳香族ジイソシアネート、炭素数が2以上18以下の脂肪族ジイソシアネート、炭素数が4以上15以下の脂環式ジイソシアネート、炭素数が8以上15以下の芳香脂肪族ジイソシアネート、これらのジイソシアネートの変性体(カーボジイミド変性体、ウレタン変性体、ウレトジオン変性体など。)およびこれらの2種以上の混合物等が含まれる。
【0055】
前記の芳香族ジイソシアネートの具体例としては、1,3-および/または1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-および/2,6-トリレンジイソシアネート、2,4’-および/または4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(以下MDIと略記)、4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、および1,5-ナフチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0056】
前記の脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート、および2-イソシアナトエチル-2,6-ジイソシアナトヘキサエートなどが挙げられる。
【0057】
前記の脂環式ジイソシアネートの具体例としては、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキシレン-1,2-ジカルボキシレート、および2,5-および/または2,6-ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0058】
前記の芳香脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、m-および/またはp-キシリレンジイソシアネートや、α、α、α’、α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0059】
これらのうち、好ましい有機ジイソシアネートは脂環式ジイソシアネートであり、特に好ましいジイソシアネートはジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネートである。
【0060】
(1-3)鎖伸長剤
本発明に用いられる鎖伸長剤としては、水、「エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコールおよびネオペンチルグリコールなど」の低分子ジオール、「1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンなど」の脂環式ジオール、「1,4-ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼンなど」の芳香族ジオール、「エチレンジアミンなど」の脂肪族ジアミン、「イソホロンジアミンなど」の脂環式ジアミン、「4,4-ジアミノジフェニルメタンなど」の芳香族ジアミン、「キシレンジアミンなど」の芳香脂肪族ジアミン、「エタノールアミンなど」のアルカノールアミン、ヒドラジン、「アジピン酸ジヒドラジドなど」のジヒドラジド、および、これらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0061】
これらのうち好ましい鎖伸長剤は、水、低分子ジオール、芳香族ジアミンであり、更に好ましくは水、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、4,4’-ジアミノジフェニルメタンおよびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0062】
(2)ポリウレタン樹脂の添加剤
ポリウレタン樹脂には、必要により酸化チタンなどの着色剤、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系など)や酸化防止剤[4,4-ブチリデンービス(3-メチル-6-1-ブチルフェノール)などのヒンダードフェノール;トリフェニルホスファイト、トリクロルエチルホスファイトなどの有機ホスファイトなど]などの各種安定剤、無機充填剤(炭酸カルシウムなど)および公知の凝固調整剤[高級アルコール;セチルアルコール、ステアリルアルコールなど(特公昭42-22719号公報)、結晶性有機化合物;精製されたオクタデシルアルコール、精製されたステアリルアルコールなど(特公昭56-41652号公報)、疎水性ノニオン系界面活性剤;ソルビタンモノステアレート、ソルビタンパルミテートなど(特公昭45-39634号公報および特公昭45-39635号公報)]などを添加させることができる。これらの各添加剤の合計添加量(含有量)は、ポリウレタン樹脂(D)に対して10質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.5質量%以上5質量%以下である。
【0063】
(3)ポリウレタン樹脂の構成
前記のポリウレタン樹脂には、環境負荷を低減させることができるため、バイオマス資源由来の成分を含有することが好ましい。特に、このバイオマス資源由来の成分として、ポリウレタン樹脂の反応成分のうち、バイオマス資源由来の原料の調達が比較的容易である、ポリカーボネートジオールにバイオマス資源由来の成分を用いることが好ましい。
【0064】
なお、前記のポリカーボネートジオールにバイオマス資源由来の成分を用いる場合、ポリカーボネートジオールがバイオマス資源由来の成分のみから構成されても、バイオマス資源由来のポリカーボネートジオールと石油資源由来のポリカーボネートジオールとの共重合体から構成されてもよい。環境負荷の低減の観点からは、バイオマス資源由来のポリカーボネートジオールの量が、石油資源由来のポリカーボネートジオール対比で、より多いことが好ましい。
【0065】
本発明に係るシート状物の高分子弾性体においては、ISO16620(2015)で規定されるバイオマスプラスチック度が5%以上100%以下であることが好ましい。さらに、環境負荷がより低減できることから、高分子弾性体のバイオマスプラスチック度は、15%以上であることがより好ましく、25%以上であることがさらに好ましい。
【0066】
シート状物から高分子弾性体のバイオマスプラスチック度を測定する際には、高分子弾性体のみが可溶の溶媒を用いて高分子弾性体の成分を抽出し単離する方法や、逆に、シート状物から極細繊維および樹脂層が可溶の溶媒を用いてこれらの成分を除去する方法などシート状物の構成成分に応じて適宜採用することができる。それ以外は、下記の方法でバイオマスプラスチック度を測定するものとする。
(1)ISO16620-2に基づき、試料を構成する成分の全炭素中のバイオベース炭素含有率を測定する。
(2)試料を構成する成分および成分比を同定する。
なお、同定には、GC-MSやNMR、元素分析等、公知の方法を用いることができる。
(3)(1)、(2)の結果から、バイオマス資源由来の成分を特定する。
(4)試料の成分のうち、バイオマス資源由来の成分の割合(質量比)を試料のバイオマスプラスチック度として算出する。
【0067】
本発明に用いられるポリウレタン樹脂の数平均分子量は、樹脂強度の観点から20000以上であることが好ましく、また、粘度安定性と作業性の観点から500000以下であることが好ましい。数平均分子量は、更に好ましくは30000以上150000以下である。
【0068】
前記のポリウレタン樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより求めることができ、例えば次の条件で測定される。
・機器:東ソー(株)社製HLC-8220
・カラム:東ソーTSKgel α-M
・溶媒:DMF
・温度:40℃
・校正:ポリスチレン
本発明で用いられる高分子弾性体は、シート状物中で繊維同士を適度に把持しており、好ましくはシート状物の少なくとも片面に立毛を有する観点から、不織布の内部空間に存在していることが好ましい態様である。
【0069】
[シート状物]
本発明のシート状物は、実使用においてシワが残存しにくいものであり、実使用におけるシワの残存しにくさを示すシワ回復率は、重要な指標である。本発明のシート状物の折れシワ回復率は80%以上100%以下である。シワ回復率が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上であることによって、シート状物にかかる荷重が除去された後に、速やかにシワが回復するシート状物であるといえる。
【0070】
なお、本発明における折れシワ回復率とは、試験片を2つ折にし、1ポンドの荷重を5分掛け、荷重除去10秒後の角度を測定して、完全に折れてしまって回復しない状態を0%、完全に2つ折前の状態に戻った状態を100%として評価したものである。よって、シワ回復率の上限は100%である。
【0071】
本発明ではシート状物の柔軟性とシワ回復率の両立が必要であるが、高分子弾性体のみの機能で柔軟性とシワ回復率を両立することは困難である。なぜなら、シート状物を柔軟にするためには、高分子弾性体の結晶性を低下させて柔軟にする必要があるが、結晶性の低い高分子弾性体は、ストレッチ性は発現しても素早いストレッチバック性は発現できないものである。素早いストレッチバック性を発現するためには、高分子弾性体の結晶性を向上させる必要があるが、その場合、高分子弾性体は硬くなり、シート状物の風合いは硬くなる。さらに、シート状物の柔軟な風合いと高度なシワ回復率を両立するために、柔軟な風合いは後述するPVA付与後に高分子弾性体を付与し、その後PVAを除去するプロセスを適用することで、高分子弾性体が繊維を直接把持しない構造から発現させ、高度なシワ回復率は結晶性を調整した高分子弾性体によって発現させることもできる。
【0072】
[シート状物の製造方法]
次に、本発明のシート状物の製造方法について述べる。
【0073】
本発明で用いられる極細繊維を得る手段としては、直接紡糸や極細繊維発現型繊維を用いることができるが、中でも極細繊維発現型繊維を用いることが好ましい態様である。極細繊維発現型繊維は、溶剤に対する溶解性が異なる2成分の熱可塑性樹脂を海成分と島成分とし、海成分だけを溶剤などを用いて溶解除去することによって島成分を極細繊維とする海島型複合繊維や、2成分の熱可塑性樹脂を繊維断面放射状あるいは層状に交互に配置し、各成分を剥離分割することによって極細繊維に割繊する剥離型複合繊維や多層型複合繊維などを採用することができるが、製品品位が均一にできることから、海島型複合繊維が好ましく用いられる。
【0074】
海島型複合繊維の海成分としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリスチレン、スルホイソフタル酸ナトリウムやポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステル、ポリ乳酸、ポリビニルアルコールまたはその共重合体などが挙げられる。
【0075】
海島型複合繊維の繊維極細化処理(脱海処理)は、溶剤中に海島型複合繊維を浸漬し、搾液することによって行うことができる。海成分を溶解する溶剤としては、トルエンやトリクロロエチレンなどの有機溶剤、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液や熱水を用いることができる。
【0076】
繊維極細化処理は、連続染色機、バイブロウォッシャー型脱海機、液流染色機、ウィンス染色機およびジッガー染色機等の装置を用いることができる。
【0077】
海成分の溶解除去は、高分子弾性体の付与前および付与後のいずれのタイミングでも行うことができる。高分子弾性体付与前に脱海処理を行うと、極細繊維に直接高分子弾性体が密着する構造となって極細繊維を強く把持できることから、シート状物の耐摩耗性がより良好となる。一方、高分子弾性体付与後に脱海処理を行うと、高分子弾性体と極細繊維間に、脱海された海成分に起因する空隙が生成することから、極細繊維を直接高分子弾性体が把持せずにシート状物の風合いは柔軟となる。
【0078】
本発明で用いられる海島型複合繊維における海成分と島成分の質量割合は、海成分:島成分=10:90~80:20の範囲であることが好ましい。海成分の質量割合が10質量%を下回る場合、島成分の極細化が不十分となる。また、海成分の質量割合が80質量%を超える場合、溶出成分の割合が多いため生産性が低くなる。海成分と島成分の質量割合は、より好ましくは、海成分:島成分=20:80~70:30の範囲である。
【0079】
本発明において、海島型複合繊維で代表される極細繊維発現型繊維を延伸する場合は、未延伸糸を一旦巻取り後、別途延伸を行うか、もしくは未延伸糸を引取りそのまま連続して延伸を行うなど、いずれの方法も採用することができる。延伸は、湿熱または乾熱あるいはその両者によって、1段~3段延伸する方法で適宜行うことができる。次に、延伸された海島型複合繊維に、好ましくは捲縮加工を施し、所定長にカットして不織布の原綿を得る。捲縮加工やカット加工は通常の方法を用いることができる。
【0080】
本発明で用いられる海島型複合繊維等の複合繊維は、座屈捲縮が付与されていることが好ましい。それは、座屈捲縮により、短繊維不織布を形成した場合の繊維間の絡合性が向上し、高密度と高絡合化が可能となるためである。複合繊維に座屈捲縮を付与するためには、通常のスタッフィングボックス型のクリンパーが好ましく用いられるが、本発明において好ましい捲縮保持係数を得るためには、処理繊度、クリンパー温度、クリンパー加重および押込み圧力等を適宜調整することが好ましい態様である。
【0081】
座屈捲縮が付与された極細繊維発現型繊維の捲縮保持係数は、3.5以上15以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは4以上10以下の範囲である。捲縮保持係数が3.5以上であることにより、不織布を形成した際に不織布の厚み方向の剛性が向上し、ニードルパンチ等の絡合工程における絡合性を維持することが可能である。また、捲縮保持係数を15以下とすることにより、捲縮がかかりすぎることなく、カーディングにおける繊維ウェッブの開繊性に優れる。
【0082】
ここでいう捲縮保持係数とは、次の式で表されるものである。
・捲縮保持係数=(W/L-L1/2
・W:捲縮消滅荷重(捲縮が伸びきった時点の荷重:mg/dtex)
・L:捲縮消滅荷重下の繊維長(cm)
・L:6mg/dtex下での繊維長(cm)。30.0cmをマーキングする。
【0083】
測定方法としては、まず、試料に100mg/dtexの荷重をかけ、その後、10mg/dtex刻みで荷重を増加させ、捲縮の状態を確認する。捲縮が伸びきるまで荷重を加えていき、捲縮が伸びきった状態における、マーキングの長さ(30.0cmからの伸び)を測定する。
【0084】
本発明で用いられる複合繊維の単繊維繊度は、ニードルパンチ工程等の絡合性の観点から、2dtex以上10dtex以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは3dtex以上9dtex以下の範囲である。
【0085】
本発明のシート状物の製造で用いられる複合繊維は、98℃の温度における収縮率が5%以上40%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以上35%以下である。収縮率をこの範囲とすることにより、熱水処理によって繊維密度を向上することができ、本革のような充実感を得ることできる。
【0086】
収縮率の測定法は、具体的には、まず、複合繊維の束に50mg/dtexの荷重をかけ、30.0cmをマーキングする(L)。その後、98℃の温度の熱水中で10分間処理し、処理前後の長さ(L)を測定し、(L-L)/L×100を算出する。測定は3回実施し、その平均値を収縮率とするものである。
【0087】
本発明では、極細繊維束内の繊維数は8本/束以上1000本/束以下であることが好ましく、より好ましくは10本/束以上800本/束以下である。繊維数が8本/束未満の場合には、極細繊維の緻密性が乏しく、例えば、摩耗等の機械物性が低下する傾向がある。また、繊維数1000本/束より多い場合には、立毛時の開繊性が低下し、立毛面の繊維分布が不均一となって、良好な製品品位とならない。
【0088】
本発明のシート状物を構成する繊維絡合体である不織布を得る方法としては、複合繊維ウェブをニードルパンチやウォータジェットパンチにより絡合させる方法、スパンボンド法、メルトブロー法、および抄紙法などを採用することができ、中でも、前述のような極細繊維束の態様とする上で、ニードルパンチやウォータジェットパンチなどの処理を経る方法が好ましく用いられる。
【0089】
不織布は、前述のように、不織布と織編物を積層一体化させてもよく、これらをニードルパンチやウォータジェットパンチ等により一体化する方法が好ましく用いられる。
【0090】
ニードルパンチ処理に用いられるニードルにおいては、ニードルバーブ(切りかき)の数は好ましくは1本以上9本以下である。ニードルバーブを好ましくは1本以上とすることにより、効率的な繊維の絡合が可能となる。一方、ニードルバーブを好ましくは9本以下とすることにより、繊維損傷を抑えることができる。
【0091】
バーブに引っかかる複合繊維の本数は、バーブの形状と複合繊維の直径によって決定される。そのため、ニードルパンチ工程で用いられる針のバーブ形状は、キックアップが0μm以上50μm以下であり、アンダーカットアングルが0°以上40°以下であり、スロートデプスが40μm以上80μm以下であり、そしてスロートレングスが0.5mm以上1.0mm以下のものが好ましく用いられる。
【0092】
また、パンチング本数は、1000本/cm以上8000本/cm以下であることが好ましい。パンチング本数を好ましくは1000本/cm以上とすることにより、緻密性が得られ高精度の仕上げを得ることができる。一方、パンチング本数を好ましくは8000本/cm以下とすることにより、加工性の悪化、繊維損傷および強度低下を防ぐことができる。
【0093】
また、ウォータジェットパンチ処理を行う場合には、水は柱状流の状態で行うことが好ましい。具体的には、直径0.05mm以上1.0mm以下のノズルから圧力1MPa以上60MPa以下で水を噴出させることが好ましい態様である。
【0094】
ニードルパンチ処理あるいはウォータジェットパンチ処理後の不織布の見掛け密度は、0.15g/cm以上0.45g/cm以下であることが好ましい。見掛け密度を好ましくは0.15g/cm以上とすることにより、シート状物が十分な形態安定性と寸法安定性が得られる。一方、見掛け密度を好ましくは0.45g/cm以下とすることにより、高分子弾性体を付与するための十分な空間を維持することができる。
【0095】
このようにして得られた不織布は、緻密化の観点から、乾熱もしくは湿熱またはその両者によって収縮させ、さらに高密度化することが好ましい態様である。また、不織布はカレンダー処理等により、厚み方向に圧縮することもできる。
【0096】
本発明では、繊維質基材にPVAを付与するが、繊維質基材にPVAを付与する方法としては、特に限定はなく、当分野で通常用いる各種方法を採用できるが、PVAを水に溶解させ、繊維質基材に含浸し加熱乾燥する方法が最も単純な工程であり、好ましい。乾燥温度は、温度が低すぎると乾燥時間が長く必要となり、温度が高すぎるとPVAが不溶化して、後で溶解除去することができなくなるため、雰囲気温度80℃以上170℃以下で乾燥することが好ましく、乾燥温度はさらに好ましくは110℃以上150℃以下である。乾燥時間は、通常1分以上20分以下、加工性の観点から、好ましくは1分以上10分以下、より好ましくは1分以上5分以下である。また、PVAをより不溶化するために、乾燥後に加熱処理を行ってもよい。加熱処理の好ましい雰囲気温度は80℃以上170℃以下である。加熱処理することで、PVAの不溶化とPVAの熱劣化が同時に進行するため、より好ましい温度は80℃以上140℃以下である。
【0097】
本発明に用いるPVAはケン化度98%以上、重合度500以上3500以下であることが好ましい。PVAのケン化度を98%以上とすることで、水分散型ポリウレタンを付与する際に水分散型ポリウレタン液内にPVAが溶解するのを防ぐことができる。水分散型ポリウレタン液内にPVAが溶解すると、立毛を構成する極細繊維の表面を保護するのに十分な効果が得られないだけでなく、さらにPVAが溶解した水分散型ポリウレタン液を繊維質基材に付与する際、ポリウレタン内部にPVAが取り込まれ、後にPVAを除去することが困難となるため、安定的にポリウレタンと繊維の接着状態を制御できず、風合いは硬くなる。
【0098】
また、PVAは重合度によって水への溶解性が変化し、PVAの重合度は小さいほど、
水分散型ポリウレタンを付与する際に、水分散型ポリウレタン液にPVAが溶解する。PVAの重合度は高いほど、PVA水溶液の粘度が高くなり、繊維質基材にPVA水溶液を含浸する際に、繊維質基材内部にPVAを浸透させることができないことから、PVA重合度は好ましくは1000以上3000以下、より好ましくは1200以上2500以下である。
【0099】
繊維質基材へのPVAの付与量は、繊維質基材の繊維質量に対し、0.1質量%以上50質量%以下であり、好ましくは1質量%以上45質量%以下である。PVAの付与量を0.1質量%以上とすることにより、柔軟性と風合いの良好なシート状物が得られ、PVAの付与量を50質量%以下とすることにより、加工性が良く、耐摩耗性等の物理特性が良好なシート状物が得られる。
【0100】
本発明では、不織布に高分子弾性体である水分散型ポリウレタン樹脂を付与するが、水分散型ポリウレタン樹脂の付与は、複合繊維からなる不織布でも、極細繊維化された不織布でもどちらに対しても付与することができる。
【0101】
水分散型ポリウレタン付与後の凝固は、乾熱凝固または湿熱凝固、あるいはこれらを組み合わせて凝固させることができる。
【0102】
水分散型ポリウレタンは、(I)界面活性剤を用いて強制的に水中に分散・安定化させる強制乳化型ポリウレタンと、(II)ポリウレタン分子構造中に親水性構造を有し、界面活性剤が存在しなくても水中に分散・安定化する自己乳化型ポリウレタンに分類されるが、本発明ではいずれを用いてもよい。
【0103】
繊維質基材に水分散型ポリウレタンを付与する方法としては、特に限定はないが、水分散型ポリウレタン液を繊維質基材に含浸・塗布し、凝固後、加熱乾燥する方法が均一に付与できるため、好ましい。
【0104】
水分散型ポリウレタン液の濃度(水分散型ポリウレタン液に対するポリウレタンの含有量)は、水分散型ポリウレタン液の貯蔵安定性の観点から、10質量%以上50質量%以下が好ましく、より好ましくは15質量%以上40質量%以下である。
【0105】
また、本発明に用いる水分散型ポリウレタン液は、貯蔵安定性や製膜性向上のために、水溶性有機溶剤をポリウレタン液に対して40質量%以下含有していてもよいが、製膜環境の保全等の点から、有機溶剤の含有量は1質量%以下とすることが好ましい。
【0106】
また、本発明で用いられる水分散型ポリウレタン液としては、感熱凝固性を有するものが好ましい。感熱凝固性を有する水分散型ポリウレタン液を用いることにより、繊維質基材の厚み方向に均一にポリウレタンを付与することができる。
【0107】
本発明の感熱凝固性とは、ポリウレタン液を加熱した際に、ある温度(感熱凝固温度)に達するとポリウレタン液の流動性が減少し、凝固する性質のことを言う。ポリウレタン付きシート状物の製造においてはポリウレタン液を繊維質基材に付与後、それを乾式凝固、湿熱凝固、湿式凝固、あるいはこれらの組み合わせにより凝固させ、乾燥することにより繊維質基材にポリウレタンを付与する。感熱凝固性を示さない水分散型ポリウレタン液を凝固させる方法としては乾式凝固が工業的な生産において現実的であるが、その場合、繊維質基材の表層にポリウレタンが集中するマイグレーション現象が発生し、ポリウレタン付きシート状物の風合いは硬化する傾向にある。その場合は、水分散型ポリウレタン液の粘度を増粘剤で調整することで、マイグレーションを防ぐことができる。また、感熱凝固性を示す水分散型ポリウレタン液の場合も、増粘剤を加え乾式凝固することでマイグレーションを防ぐことができる。
【0108】
増粘剤としては、グアーガム等の多糖類、ノニオン系界面活性剤等を用いることができる。
【0109】
水分散型ポリウレタン液の感熱凝固温度は、55℃以上80℃以下であることが好ましい。感熱凝固温度を55℃以上とすることにより、ポリウレタン液の貯蔵時の安定性が良好となり、操業時のマシンへのポリウレタンの付着等を抑制することができる。また、感熱凝固温度を80℃以下とすることにより、繊維質基材の表層へのポリウレタンのマイグレーション現象を抑制することができ、さらに繊維質基材からの水分蒸発前にポリウレタンの凝固が進行することで、ポリウレタンが強く繊維を拘束しない構造を形成することが出来、良好な柔軟性、反発感および、優れた折れシワ回復性を達成することが可能である。
【0110】
本発明のひとつの態様において、感熱凝固温度を前記のとおりとするために、適宜感熱凝固剤を添加してもよい。感熱凝固剤としては例えば、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム等の無機塩;過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アゾビスイソブチロニトリル、および過酸化ベンゾイル等のラジカル反応開始剤などが挙げられる。
【0111】
本発明の好ましい態様においては、ポリウレタン液を、繊維質基材に含浸、塗布等し、乾式凝固、湿熱凝固、湿式凝固、あるいはこれらの組み合わせによりポリウレタンを凝固させることができる。
【0112】
前記湿熱凝固の温度は、ポリウレタンの感熱凝固温度以上とすることが好ましく、40℃以上200℃以下とすることが好ましい。湿熱凝固の温度を40℃以上、より好ましくは80℃以上とすることにより、ポリウレタンの凝固までの時間を短くしてマイグレーション現象をより抑制することができる。一方、湿熱凝固の温度を200℃以下、より好ましくは160℃以下とすることにより、ポリウレタンやPVAの熱劣化を防ぐことができる。
【0113】
前記湿式凝固の温度は、ポリウレタンの感熱凝固温度以上とし、40℃以上100℃以下とすることが好ましい。熱水中での湿式凝固の温度を40℃以上、より好ましくは80℃以上とすることにより、ポリウレタンの凝固までの時間を短くしてマイグレーション現象をより抑制することができる。
【0114】
前記乾式凝固の雰囲気温度および乾燥の雰囲気温度は、80℃以上140℃以下とすることが好ましい。乾式凝固の雰囲気温度および乾燥の雰囲気温度を80℃以上、より好ましくは90℃以上とすることにより、生産性に優れる。一方、乾式凝固の雰囲気温度および乾燥の雰囲気温度を140℃以下、より好ましくは130℃以下とすることにより、ポリウレタンやPVAの熱劣化を防ぐことができる。
【0115】
本発明において、ポリウレタンを凝固させた後に、加熱処理をしてもよい。加熱処理をすることでポリウレタン分子間の界面が減少し、より強固なポリウレタンとなる。より好ましい様態においては、水分散ポリウレタンを付与したシートからPVAを除去した後に加熱処理することが好ましい。加熱処理の雰囲気温度は、80℃以上170℃以下とすることが好ましい。
【0116】
本発明では、水分散型ポリウレタンを付与した繊維質基材からPVAを除去する工程を含む。水分散型ポリウレタン付与後の繊維質基材から、PVAを除去することにより、柔軟なシート状物を得るものであるが、PVAを除去する方法は特に限定されず、例えば、60℃以上100℃以下の熱水にシートを浸漬し、必要に応じてマングル等で搾液することにより、溶解除去することが好ましい態様である。
【0117】
PVAを付与する工程では、マイグレーションによってPVAが繊維質基材の表層に多く付着し、内層へのPVAの付着量は少ない。その後、水分散型ポリウレタンを付与してから厚み方向に半裁することにより、PVA付着量が多い側には水分散型ポリウレタンは少なく付着し、PVA付着量が少ない側には水分散型ポリウレタンは多く付着する構造のシート状物が得られる。PVAが多く付着していた面(水分散型ポリウレタン付着が少ない面)をシート状物の立毛面とした場合、PVAが付与されていたことによって、ポリウレタンと立毛を構成する極細繊維の間に空隙が大きく生じ、立毛を構成する繊維に自由度が与えられ、表面の風合いが柔軟となり、良好な外観品位と柔らかなタッチが得られる。逆に、PVAが少なく付着していた面(水分散型ポリウレタン付着が多い面)をシート状物の立毛面とした場合、立毛を構成する繊維はポリウレタンに強く把持されることによって立毛長は短いが、緻密感のある良好な外観品位が得られ、さらには耐摩耗性が良好となる。さらに、シート厚み方向に半裁する工程を含むことにより、生産効率を向上させることができる。
【0118】
本発明では、シート状物の少なくとも一面を起毛処理して表面に立毛を形成させてもよい。立毛を形成する方法は、特に限定されず、サンドペーパー等によるバフィング等、当分野で通常行われる各種方法を用いることができる。立毛長は短すぎると優美な外観が得られにくく、長すぎると、ピリングが発生しやすくなる傾向にあることから、立毛長は0.2mm以上1mm以下とすることが好ましい。
【0119】
また、本発明のひとつの態様において、起毛処理の前に、シート状物に滑剤としてシリコーン等を付与してもよい。滑剤を付与することにより、表面研削による起毛が容易に可能となり、表面品位が非常に良好となるため好ましい。また、起毛処理の前に帯電防止剤を付与してもよく、帯電防止剤の付与により、研削によってシート状物から発生した研削粉がサンドペーパー上に堆積しにくくなるため好ましい態様である。
【0120】
本発明のひとつの態様において、シート状物は、染色することができる。染色方法としては、当分野で通常用いられる各種方法を採用することができるが、シート状物の染色と同時に揉み効果を与えてシート状物を柔軟化することができることから、液流染色機を用いる方法が好ましい。
【0121】
染色温度は、繊維の種類にもよるが、80℃以上150℃以下とすることが好ましい。染色温度を80℃以上、より好ましくは110℃以上とすることにより、繊維への染着を効率良く行わせることができる。一方、染色温度を150℃以下、より好ましくは130℃以下とすることにより、ポリウレタンの劣化を防ぐことができる。
【0122】
本発明で用いられる染料は、繊維質基材を構成する繊維の種類にあわせて選択すればよく、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系繊維であれば分散染料を用いることができ、ポリアミド系繊維であれば酸性染料や含金染料を用いることができ、更にそれらの組み合わせを用いることができる。分散染料で染色した場合は、染色後に還元洗浄を行ってもよい。
【0123】
また、染色時に染色助剤を使用することも好ましい態様である。染色助剤を用いることにより、染色の均一性や再現性を向上させることができる。また、染色と同浴または染色後に、例えば、シリコーン等の柔軟剤、帯電防止剤、撥水剤、難燃剤、耐光剤および抗菌剤等を用いた仕上げ剤処理を施すことができる。
【実施例
【0124】
次に、実施例を用いて本発明のシート状物について、さらに具体的に説明する。
【0125】
[評価方法]
(1)シート状物の平均単繊維直径:
シート状物の繊維を含む厚さ方向に垂直な断面を、走査型電子顕微鏡(SEM キーエンス社製VE-7800型)を用いて3000倍で観察し、30μm×30μmの視野内で無作為に抽出した50本の単繊維直径をμm単位で、小数第1位まで測定した。ただし、これを3ヶ所で行い、合計150本の単繊維の直径を測定し、平均値を小数第1位までで算出した。繊維直径が50μmを超える繊維が混在している場合には、当該繊維は極細繊維に該当しないものとして平均繊維直径の測定対象から除外するものとする。また、極細繊維が異形断面の場合、前記したように、まず単繊維の断面積を測定し、当該断面を円形と見立てた場合の直径を算出することによって単繊維の直径を求めた。これを母集団とした平均値を算出し、平均単繊維直径とした。
【0126】
(2)シート状物の柔軟性:
JIS L 1096:2010「織物および編物の生地試験方法」の8.21「剛軟度」の、8.21.1に記載のA法(45°カンチレバー法)に基づき、タテ方向とヨコ方向へそれぞれ2×15cmの試験片を5枚作成し、45°の角度の斜面を有する水平台へ置き、試験片を滑らせて試験片の一端の中央点が斜面と接したときのスケールを読み、5枚の平均値を求めた。
【0127】
(3)シート状物の反発感:
シート状物の反発感を、触感により下記の基準に従い評価した。
5級:反発弾性に富む風合い。
4級:やや反発弾性に富む風合い。
3級:ややペーパーライクな風合い。
2級:ペーパーライクな風合い。
1級:極めてペーパーライクな風合い。
【0128】
(4)シート状物の折れシワ回復率:
10cm×10cmの試験片を5枚作成し、試験片を2つ折にし、1ポンドの荷重を5分掛け、荷重除去10秒後の角度を測定して、5枚の平均値を求めた。完全に折れた状態を0%、完全に2つ折前の状態に戻った状態を100%として、折れシワ回復率を評価した。
【0129】
(5)ポリウレタン液の凝固温度
ポリウレタン液20gを内径12mmの試験管に入れ、温度計を先端が液面よりも下になるように差し込んだ後、試験管を封止し、95℃の温度の温水浴にポリウレタン液の液面が温水浴の液面よりも下になるように浸漬した。温度計により試験管内の温度の上昇を確認しつつ、適宜1回あたり5秒以内の時間、試験管を引き上げてポリウレタン液の液面の流動性の有無を確認できる程度に揺すり、ポリウレタン液の液面が流動性を失った温度を凝固温度とした。この測定をポリウレタン液1種につき3回ずつ行い、平均値を算出した。
【0130】
[化学物質の表記]
下記の参考例で用いた化学物質の略号の意味は、次の通りである。
・EG:エチレングリコール
・SSIA:5-スルホイソフタル酸ナトリウム
・水添MDI:4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート
・DMPA:2,2-ジメチロールプロピオン酸
・PVA:ポリビニルアルコール
[参考例1:ポリウレタン樹脂水分散体(1)の合成]
攪拌機および温度計を備えた加圧可能な容器に、数平均分子量1989(水酸基価56.4)の1,10-デカンジオール/1,4-ブタンジオール(モル%比:70/30、質量部比:140質量部/60質量部)共重合ポリカーボネートジオール200質量部、EG9質量部、DMPA5質量部、水添MDI56質量部およびアセトン112質量部を仕込み、反応系を窒素ガスで置換したのち、攪拌下、溶液の温度を80℃に維持して12時間反応させ、末端イソシアネート基ウレタンプレポリマーのアセトン溶液を得た。得られた該アセトン溶液を25℃の温度まで冷却して、希釈溶剤としてのアセトン743質量部、中和剤としてのトリエチルアミン7質量部を加えた。水583質量部を該アセトン溶液に加えホモミキサーで1分間攪拌して乳化した後、減圧下でアセトンを留去し、25℃の温度まで冷却した後に水を加えて固形分40質量%に調整し、ポリウレタン樹脂水性分散体(1)を得た。
【0131】
[参考例2:ポリウレタン樹脂水分散体(2)の合成]
参考例1において、共重合ポリカーボネートジオールの組成比率を1,10-デカンジオール/1,4-ブタンジオール(モル%比:50/50、質量部比:100質量部/100質量部)とした以外は参考例1と同様にして固形分40質量%に調整し、ポリウレタン樹脂水性分散体(2)を得た。
【0132】
[参考例3:ポリウレタン樹脂水分散体(3)の合成]
参考例1において、共重合ポリカーボネートジオールを1,10-デカンジオールのみからなるポリカーボネートジオールとした以外は参考例1と同様にして固形分40質量%に調整し、ポリウレタン樹脂水性分散体(3)を得た。
【0133】
[参考例4:ポリウレタン樹脂水分散体(4)の合成]
参考例1において、共重合ポリカーボネートジオールを1,6-ヘキサンジオールのみからなるポリカーボネートジオールとした以外は参考例1と同様にして固形分40質量%に調整し、ポリウレタン樹脂水性分散体(4)を得た。
【0134】
[実施例1]
(不織布)
海成分としてSSIA8モル%共重合ポリエステルを用い、島成分としてポリエチレンテレフタレートを用いて、海成分が20質量%、島成分が80質量%の複合比率で、島数が16島/1フィラメント、平均単繊維直径が20μmの海島型複合繊維を得た。得られた海島型複合繊維を、繊維長51mmにカットしてステープルとし、カードおよびクロスラッパーを通して繊維ウェブを形成し、ニードルパンチ処理により、目付が750g/mで、厚みが3.2mmの不織布を製造した。このようにして得られた不織布を、98℃の温度の湯中に2分間浸漬させて収縮させ、100℃の温度で5分間乾燥させ、繊維質基材用不織布とした。
【0135】
(繊維補強)
上記の繊維質基材用不織布にケン化度99%、重合度1400のPVA(日本合成化学株式会社製NM-14)の10質量%水溶液を含浸させ、140℃の温度で10分
間加熱乾燥を行い、繊維質基材用不織布の繊維質量に対するPVAの付着量が30質量%のPVA付与シートを得た。
【0136】
(繊維極細化)
得られたPVA付与シートを、95℃の温度に加熱した濃度10g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して30分間処理を行い、海島型複合繊維の海成分を除去した極細繊維からなるシート(PVA付与極細繊維不織布)を得た。
【0137】
(ポリウレタン樹脂の付与)
ポリウレタン樹脂水分散液(1)固形分100質量%に対して、感熱凝固剤として硫酸ナトリウム(表2では「NaSO」と記載)2質量%を加え、水によって全体を固形分10質量%に調製し、水分散型ポリウレタン液を得た。感熱凝固温度は、65℃であった。得られたPVA付与極細繊維不織布を、前記水分散液に浸漬し、次いで150℃の温度の熱風で15分間乾燥することにより、繊維重量に対してポリウレタンが25質量%付与された、厚みが1.8mmのポリウレタン樹脂付与シートを得た。
【0138】
(補強樹脂の除去)
得られたポリウレタン樹脂付与シートを、95℃に加熱した水中に浸漬して10分処理を行い、付与したPVAを除去したシートを得た。
【0139】
(半裁と起毛)
得られたPVA除去後のポリウレタン樹脂付与シートを厚さ方向に垂直に半裁し、半裁面の反対側をサンドペーパー番手240番のエンドレスサンドペーパーで研削することにより、厚みが0.7mmの立毛を有するシート状物を得た。
【0140】
(染色と仕上げ)
得られた立毛を有するシート状物を、液流染色機を用いて120℃の温度条件下で黒色染料を用いて染色を行い、次いで乾燥機で乾燥を行い、極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物は、柔軟な風合いと良好な反発感を有し、シワ回復率は良好であった。
【0141】
[実施例2]
(不織布)
海成分としてSSIA8モル%共重合ポリエステルを用い、島成分としてポリエチレンテレフタレートを用いて、海成分が45質量%、島成分が55質量%の複合比率で、島数が36島/1フィラメント、平均単繊維直径が17μmの海島型複合繊維を得た。得られた海島型複合繊維を、繊維長51mmにカットしてステープルとし、カードおよびクロスラッパーを通して繊維ウェブを形成し、ニードルパンチ処理により、目付が750g/mで、厚みが3mmの不織布を製造した。このようにして得られた不織布を、98℃の温度の湯中に2分間浸漬させて収縮させ、100℃の温度で5分間乾燥させ、繊維質基材用不織布とした。
【0142】
(繊維補強)~(染色と仕上げ)
繊維補強から染色と仕上げまでは、実施例1と同様に行い、極細繊維の平均単繊維直径が3μmのシート状物を得た。得られたシート状物は、柔軟な風合いと良好な反発感を有し、シワ回復率は良好であった。
【0143】
[実施例3、4]
実施例1の(ポリウレタン樹脂の付与)において、ポリウレタン樹脂水分散体を変更した(具体的には、実施例3においては、ポリウレタン樹脂水分散体(2)、実施例4においては、ポリウレタン樹脂水分散体(3)に変更した)以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物は、柔軟な風合いと良好な反発感を有し、シワ回復率は良好であった。
【0144】
[実施例5]
実施例1の(ポリウレタン樹脂の付与)において、感熱凝固温度を85℃に調整したこと以外は、実施例と同様にして極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物は、柔軟な風合いと良好な反発感を有し、シワ回復率は良好であった。
【0145】
[比較例1]
実施例1の(ポリウレタン樹脂の付与)において、ポリウレタン樹脂水分散液(4)を用いた以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物の風合いは硬く、ペーパーライクな触感であり、シワ回復率は低かった。
【0146】
【表1】
【0147】
【表2】
【0148】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更及び変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお本出願は、2018年4月12日付で出願された日本特許出願(特願2018-076570)及び同日付で出願された日本特許出願(特願2018-076571)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明のシート状物は、家具、椅子および壁装や、自動車、電車および航空機などの車輛室内における座席、天井や内装などの表皮材、非常に優美な外観を有する内装材、および衣料や工業材料等として好適に用いることができる。