(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】レドックスフロー電池用電極、及びレドックスフロー電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/18 20060101AFI20230214BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20230214BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M4/96 B
H01M4/96 M
(21)【出願番号】P 2020525320
(86)(22)【出願日】2019-04-25
(86)【国際出願番号】 JP2019017589
(87)【国際公開番号】W WO2019239732
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2018112349
(32)【優先日】2018-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】池上 雄大
(72)【発明者】
【氏名】董 雍容
(72)【発明者】
【氏名】大矢 正幸
(72)【発明者】
【氏名】關根 良潤
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-033757(JP,A)
【文献】特開2001-085022(JP,A)
【文献】特開2017-091617(JP,A)
【文献】特表2006-527794(JP,A)
【文献】特開2012-009448(JP,A)
【文献】特開2015-045072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/18
H01M 4/86
H01M 4/88
H01M 4/90
H01M 4/92
H01M 4/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、前記基体に担持される触媒部と
、前記触媒部の少なくとも一部を覆うバインダーとを備え、
前記基体は、C,Ti,Sn,Ta,Ce,In,W,及びZnからなる群より選択される1種以上の元素を含有し、
前記触媒部は、Fe,Si,Mo,Ce,Mn,Cu,及びWからなる群より選択される1種以上の元素を含有する、
レドックスフロー電池用電極。
【請求項2】
前記レドックスフロー電池用電極に占める前記触媒部の質量割合が、0.01%以上70%以下である請求項1に記載のレドックスフロー電池用電極。
【請求項3】
前記基体から露出される部分と、前記基体に埋設される部分とを有する前記触媒部を備える請求項1又は請求項2に記載のレドックスフロー電池用電極。
【請求項4】
前記触媒部は、
前記基体から露出される部分を有する第一の触媒部と、
前記基体から露出されずに前記基体に埋設される第二の触媒部とを備える請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池用電極。
【請求項5】
正極電極と、負極電極と、前記正極電極と前記負極電極との間に介在される隔膜とを備える電池セルに正極電解液及び負極電解液を供給して充放電を行うレドックスフロー電池であって、
前記正極電極は、請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池用電極である、
レドックスフロー電池。
【請求項6】
正極電極と、負極電極と、前記正極電極と前記負極電極との間に介在される隔膜とを備える電池セルに正極電解液及び負極電解液を供給して充放電を行うレドックスフロー電池であって、
前記正極電極は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池用電極であり、
前記負極電極は、請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池用電極である
、
レドックスフロー電池。
【請求項7】
前記正極電解液は、正極活物質としてマンガンイオンを含有し、
前記負極電解液は、負極活物質としてチタンイオンを含有する請求項
5又は請求項
6に記載のレドックスフロー電池。
【請求項8】
前記マンガンイオンの濃度及び前記チタンイオンの濃度はそれぞれ、0.3mol/L以上5mol/L以下である請求項
7に記載のレドックスフロー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レドックスフロー電池用電極、及びレドックスフロー電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、隔膜の両側に配置される一対の電極(正極電極と負極電極)にそれぞれ電解液(正極電解液と負極電解液)を供給して、電極上での電気化学反応(電極反応)により充放電を行うレドックスフロー電池が開示されている。電極には、耐薬品性があり、導電性を有し、かつ通液性を有する炭素繊維の集合体が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示に係るレドックスフロー電池用電極は、
基体と、前記基体に担持される触媒部とを備え、
前記基体は、C,Ti,Sn,Ta,Ce,In,W,及びZnからなる群より選択される1種以上の元素を含有し、
前記触媒部は、Fe,Si,Mo,Ce,Mn,Cu,及びWからなる群より選択される1種以上の元素を含有する。
【0005】
本開示に係るレドックスフロー電池は、
正極電極と、負極電極と、前記正極電極と前記負極電極との間に介在される隔膜とを備える電池セルに正極電解液及び負極電解液を供給して充放電を行うレドックスフロー電池であって、
前記正極電極は、上記本開示に係るレドックスフロー電池用電極である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1A】
図1Aは、実施形態に係るレドックスフロー電池用電極を示す模式図である。
【
図1B】
図1Bは、実施形態に係るレドックスフロー電池用電極を示す拡大図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るレドックスフロー電池用電極において、基体に対する触媒部の担持形態の別の一例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係るレドックスフロー電池用電極において、基体に対する触媒部の担持形態の更に別の一例を示す断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係るレドックスフロー電池の動作原理の説明図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係るレドックスフロー電池の概略構成図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係るレドックスフロー電池に備わるセルスタックの概略構成図である。
【
図7】
図7は、試験例1におけるサイクリックボルタモグラムである。
【
図8】
図8は、試験例2におけるリニアスイープボルタモグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
レドックスフロー電池の更なる電池性能の向上が求められており、更なる電極反応の向上が強く望まれている。
【0008】
そこで、本開示は、電極上での電池反応性が高く、セル抵抗率が小さいレドックスフロー電池を構築できるレドックスフロー電池用電極を提供することを目的の一つとする。また、本開示は、電極上での電池反応性が高く、セル抵抗率が小さいレドックスフロー電池を提供することを別の目的の一つとする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示のレドックスフロー電池用電極は、電極上での電池反応性が高く、セル抵抗率が小さいレドックスフロー電池を構築できる。また、本開示のレドックスフロー電池は、電極上での電池反応性が高く、セル抵抗率が小さい。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
【0011】
(1)本開示の実施形態に係るレドックスフロー電池用電極は、
基体と、前記基体に担持される触媒部とを備え、
前記基体は、C,Ti,Sn,Ta,Ce,In,W,及びZnからなる群より選択される1種以上の元素を含有し、
前記触媒部は、Fe,Si,Mo,Ce,Mn,Cu,及びWからなる群より選択される1種以上の元素を含有する。
【0012】
基体を構成する元素として上記に列挙する元素群(以下、元素群Aと呼ぶ)の元素は、酸化劣化し難い元素である。触媒部を構成する元素として上記に列挙する元素群(以下、元素群Bと呼ぶ)の元素は、上記元素群Aの元素で構成される基体に対して担持され易い元素である。また、上記元素群Bの元素は、上記元素群Aの元素で構成される基体に担持されることで、触媒機能を効果的に発揮する元素である。更に、上記元素群Bの元素は、非貴金属元素であり、一般的に触媒として用いられる貴金属元素に比較して、安価な元素である。
【0013】
本開示のレドックスフロー電池用電極は、基体が上記元素群Aの元素を含有することで、長期にわたるレドックスフロー電池の運転における経時的な劣化を抑制でき、耐久性に優れる。また、本開示のレドックスフロー電池用電極は、触媒部が上記元素群Bの元素を含有することで、電極上での電池反応性が高く、セル抵抗率が小さいレドックスフロー電池を構築できる。更に、本開示のレドックスフロー電池用電極は、触媒部が貴金属元素で構成される場合に比較して、低コスト化を図ることができる。
【0014】
(2)本開示のレドックスフロー電池用電極の一例として、
前記レドックスフロー電池用電極に占める前記触媒部の質量割合が、0.01%以上70%以下であることが挙げられる。
【0015】
レドックスフロー電池用電極のうち触媒部の占める質量割合(以下、触媒部の存在比率と呼ぶ)が0.01%以上であることで、電極上での電池反応性を高め易く、セル抵抗率がより小さいレドックスフロー電池を構築できる。触媒部の存在比率は、大きいほど電極上での電池反応性を高め易いが、相対的に基体の存在比率が減少し、レドックスフロー電池用電極の耐久性が低下する。よって、触媒部の存在比率が70%以下であることで、電極上での電池反応性がより高く、耐久性に優れるレドックスフロー電池用電極を得易い。
【0016】
(3)本開示のレドックスフロー電池用電極の一例として、
前記基体から露出される部分と、前記基体に埋設される部分とを有する前記触媒部を備えることが挙げられる。
【0017】
触媒部が基体に埋設される部分を有することで、触媒部が基体に強固に担持される。よって、長期にわたるレドックスフロー電池の運転において、触媒部が基体から脱落することを抑制し易い。一方、触媒部が基体から露出される部分を有することで、本開示のレドックスフロー電池用電極の使用初期から触媒作用を発揮できる。
【0018】
(4)本開示のレドックスフロー電池用電極の一例として、
前記触媒部は、
前記基体から露出される部分を有する第一の触媒部と、
前記基体から露出されずに前記基体に埋設される第二の触媒部とを備えることが挙げられる。
【0019】
基体から露出される部分を有する第一の触媒部は、本開示のレドックスフロー電池用電極の使用初期から触媒作用を発揮できる。一方、基体から露出されずに基体に埋設される第二の触媒部は、長期にわたるレドックスフロー電池の運転において電極が劣化した際に露出され、その露出されたときから触媒作用を発揮できる。よって、第一の触媒部と第二の触媒部の双方を備えることで、本開示のレドックスフロー電池用電極の使用初期から長期にわたって触媒作用を発揮できる。長期にわたるレドックスフロー電池の運転における電極の劣化によって、第一の触媒部が基体から脱落したとしても、第二の触媒部が基体に担持されているからである。
【0020】
(5)本開示のレドックスフロー電池用電極の一例として、
前記触媒部の少なくとも一部を覆うバインダーを備えることが挙げられる。
【0021】
触媒部を覆うバインダーを備えることで、触媒部が基体に強固に担持される。よって、長期にわたるレドックスフロー電池の運転において、触媒部が基体から脱落することを抑制し易い。
【0022】
(6)本開示の実施形態に係るレドックスフロー電池は、
正極電極と、負極電極と、前記正極電極と前記負極電極との間に介在される隔膜とを備える電池セルに正極電解液及び負極電解液を供給して充放電を行うレドックスフロー電池であって、
前記正極電極は、上記(1)から(5)のいずれか1つに記載のレドックスフロー電池用電極である。
【0023】
本開示のレドックスフロー電池は、本開示のレドックスフロー電池用電極を正極電極に用いているため、電極上での電池反応性が高く、セル抵抗率が小さい。レドックスフロー電池では、充放電に伴う副反応によって正極電極が酸化劣化し、セル抵抗率の増加を招き易い。そのため、本開示のレドックスフロー電池用電極を正極電極に用いることで、効果的にセル抵抗率を小さくできるからである。
【0024】
(7)上記レドックスフロー電池の一例として、
前記負極電極は、上記(1)から(5)のいずれか1つに記載のレドックスフロー電池用電極であることが挙げられる。
【0025】
本開示のレドックスフロー電池用電極を負極電極にも用いることで、セル抵抗率をより小さくできる。
【0026】
(8)上記レドックスフロー電池の一例として、
前記正極電解液は、正極活物質としてマンガンイオンを含有し、
前記負極電解液は、負極活物質としてチタンイオンを含有することが挙げられる。
【0027】
正極活物質としてマンガンイオンを含有し、負極活物質としてチタンイオンを含有するマンガン-チタン系電解液の場合、正極電極が酸化劣化し易い。そのため、マンガン-チタン系電解液の場合に、本開示のレドックスフロー電池用電極を正極電極に用いることで、効果的にセル抵抗率を小さくできる。
【0028】
(9)正極活物質としてマンガンイオンを含有し、負極活物質としてチタンイオンを含有する上記レドックスフロー電池の一例として、
前記マンガンイオンの濃度及び前記チタンイオンの濃度はそれぞれ、0.3mol/L以上5mol/L以下であることが挙げられる。
【0029】
マンガンイオンの濃度及びチタンイオンの濃度がそれぞれ0.3mol/L以上であることで、価数変化反応を行う金属元素を十分に含み、エネルギー密度が高いマンガン-チタン系のレドックスフロー電池を得ることができる。一方、マンガンイオンの濃度及びチタンイオンの濃度がそれぞれ5mol/L以下であることで、電解液を酸の水溶液とする場合でも良好に溶解でき、電解液の製造性に優れる。
【0030】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係るレドックスフロー電池用電極、及びレドックスフロー電池の詳細を、以下に図面を参照しつつ説明する。図中の同一符号は、同一名称物を示す。
【0031】
≪レドックスフロー電池用電極≫
図1~
図3を参照して、実施形態に係るレドックスフロー電池用電極10(以下、単に「電極」と呼ぶ場合がある)を説明する。実施形態に係る電極10は、レドックスフロー電池1(
図4)の構成要素に利用され、電解液に含まれる活物質が電池反応を行う反応場である。
図1Aは、電極10の全体図である。
図1Bは、電極10の一部拡大図である。電極10は、
図1Bに示すように、互いに絡み合う複数の繊維を主体とする繊維集合体で構成される。
図1Bでは、電極10を構成する複数の繊維を模式的に示す。
図1Cは、電極10を構成する各繊維(基体110)において、繊維の長手方向に平行な平面で切断した断面図である。電極10は、
図1Cに示すように、基体110と、基体110に担持される触媒部111とを備える。実施形態に係る電極10は、基体110を構成する元素、及び触媒部111を構成する元素として、それぞれ特定元素を含有する点を特徴の一つとする。
【0032】
〔基体〕
基体110は、炭素(C)、チタン(Ti)、スズ(Sn)、タンタル(Ta)、セリウム(Ce)、インジウム(In)、タングステン(W)、及び亜鉛(Zn)からなる群より選択される1種以上の元素を含有する。基体110は、単一元素からなる材料又は上記元素を含む合金や化合物からなる材料であることが挙げられる。基体110は、上記に列挙した元素以外の元素を含む場合もあり得る。基体110は、電極10のベースを構成する。基体110は、電極10に占める割合が30質量%以上99質量%以下であることが挙げられる。基体110は、その構造(繊維の組み合わせ形態)によって繊維集合体(電極10)に占める繊維の割合が異なる。繊維集合体の繊維の組み合わせ形態は、例えば、不織布や織布、ペーパー等が挙げられる。
【0033】
基体110を構成する繊維の横断面の平均径は、円相当径が3μm以上100μm以下であることが挙げられる。ここで言う繊維の横断面とは、繊維の長手方向と直交する方向に平行な平面で切断した断面である。繊維の円相当径が3μm以上であることで、繊維の集合体の強度を確保することができる。一方、繊維の円相当径が100μm以下であることで、単位重量当たりの繊維の表面積を大きくでき、十分な電池反応を行うことができる。繊維の円相当径は、更に5μm以上50μm以下、特に7μm以上20μm以下であることが挙げられる。ここで言う円相当径とは、上記繊維の横断面の面積を有する真円の直径である。基体110を構成する繊維の横断面の平均径は、電極10を切断して繊維の横断面を露出させ、顕微鏡下で5視野以上、1視野につき3本以上の繊維について測定した結果を平均することで求められる。
【0034】
基体110による繊維集合体の空隙率は、40体積%超98体積%未満であることが挙げられる。繊維集合体の空隙率が40体積%超であることで、電解液の流通性を向上できる。一方、繊維集合体の空隙率が98体積%未満であることで、繊維集合体の密度が大きくなって導電性を向上でき、十分な電池反応を行うことができる。基体110による繊維集合体の空隙率は、更に60体積%以上95体積%以下、特に70体積%以上93体積%以下であることが挙げられる。
【0035】
〔触媒部〕
触媒部111は、鉄(Fe)、ケイ素(Si)、モリブデン(Mo)、セリウム(Ce)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、及びタングステン(W)からなる群より選択される1種以上の元素を含有する。触媒部111は、上記に列挙する元素を含有する非貴金属元素からなることが好ましい。触媒部111は、上記に列挙する元素群より選択される1種の元素を含有する場合、その元素単体、その元素の酸化物、又はその元素単体及び同元素の酸化物の双方を含有することが挙げられる。触媒部111は、上記に列挙する元素群より選択される複数種の元素を含有する場合、複数種の元素単体、各元素の酸化物の複数種、各元素を複数種含む化合物、各元素を複数種含む固溶体、又はそれらの組み合わせで含有することが挙げられる。例えば、上記に列挙する元素群より選択される複数種の元素をX,Yとしたとき、二種の元素単体:X+Y、各元素の酸化物の二種:XnOm+YpOq、各元素を二種含む化合物(複合酸化物):(Xs,Yt)O等が挙げられる。特に、触媒部111は、上記に列挙する元素群より選択される元素(複数種含む場合は、各元素)の酸化物の形態で含有することが多い。触媒部111は、上記に列挙した元素以外の元素を含む場合もあり得るが、その元素も非貴金属元素であることが好ましい。触媒部111は、基体110に担持され、電極10上での電池反応性を向上する。
【0036】
基体110及び触媒部111が同一元素を含有していてもよい。この場合、基体110は、元素単体からなり、触媒部111は、その元素の化合物からなることが挙げられる。化合物としては、酸化物が挙げられる。例えば、基体110及び触媒部111が共にWを含有する場合、W単体からなる基体110に、W酸化物からなる触媒部111が担持される形態が挙げられる。また、基体110及び触媒部111が共にCeを含有する場合、Ce単体からなる基体110に、Ce酸化物からなる触媒部111が担持される形態が挙げられる。基体110及び触媒部111が同一元素を含有していた場合であっても、いずれに含有される元素であるかは、透過型電子顕微鏡(TEM)により結晶構造を観察することで判別可能である。元素単体と元素の化合物とは、結晶構造が異なるからである。
【0037】
触媒部111は、基体110に担持される。ここで言う担持とは、触媒部111が基体110に導通した状態で固定されることを言う。触媒部111が基体110に固定される形態としては、触媒部111が基体110に直接的に固定される形態と、基体110に間接的に固定される形態とがある。触媒部111が基体110に直接的に固定される形態として、
図1Cに示すように、触媒部111が基体110の表面に付着することが挙げられる。また、触媒部111が基体110に直接的に固定される形態として、
図2に示すように、触媒部111の少なくとも一部分が基体110に埋設されることが挙げられる。具体的には、触媒部111が、基体110から露出される部分と、基体110に埋設される部分とを有する形態が挙げられる。触媒部111が基体110から露出される部分を有することで、電極10の使用初期から触媒作用を発揮できる。一方で、触媒部111が基体110に埋設される部分を有することで、触媒部111が基体110に強固に担持され、長期にわたるレドックスフロー電池1(
図4)の運転において、触媒部111が基体110から脱落することを抑制し易い。他に、触媒部111は、
図2に示すように、基体110から露出されずに基体110に埋設される形態が挙げられる。触媒部111が完全に基体110に埋設されている場合、この触媒部111は、電極10が経時的に劣化した際に露出される。その露出された触媒部111が、触媒作用を発揮する。基体110の表面に付着した状態の触媒部111(
図1C)と、一部分が基体110に埋設された状態の触媒部111(
図2)と、完全に基体110に埋設された状態の触媒部111(
図2)とが混在していてもよい。完全に基体110に埋設された状態の触媒部111は、電極10の使用初期には触媒作用を発揮できない。そのため、基体110から露出される部分を有する触媒部111は必ず含まれる。
【0038】
電極10は、
図3に示すように、触媒部111の少なくとも一部を覆うバインダー112を備えることができる。バインダー112は、基体110から触媒部111にわたって両者110,111を覆うように設けられることが挙げられる。触媒部111が基体110に間接的に固定される形態として、触媒部111が基体110に付着されず、バインダー112により触媒部111が基体110に接触した状態に固定されることが挙げられる。バインダー112を備える場合、基体110と触媒部111とが非接触であり、基体110と触媒部111との間にバインダー112が介在していてもよい。基体110と触媒部111とが非接触の場合、触媒部111と基体110とは導通できない。そのため、バインダー112を備える場合、基体110に直接的に接触した状態の触媒部111は必ず含まれる。触媒部111が基体110に直接的に固定されており、更にバインダー112でも固定されていてもよい。つまり、基体110に付着した状態の触媒部111や、基体110に埋設された部分を有する触媒部111を含み、更にバインダー112を備えていてもよい。いずれであっても、バインダー112を備えることで、触媒部111が基体110に強固に担持される。完全にバインダー112に覆われた状態の触媒部111は、電極10の使用初期には触媒作用を発揮できない。そのため、バインダー112から露出される部分を有する触媒部111は必ず含まれる。
【0039】
バインダー112は、炭素(C)、アルミニウム(Al)、及びリン(P)からなる群より選択される1種以上の元素を含有する。電極10のうちバインダー112の占める質量割合は、1%以上50%以下、更に20%以上40%以下であることが挙げられる。上記質量割合は、基体110と触媒部111とバインダー112との合計含有量を100質量%としたときのバインダー112を構成する元素の合計含有量の質量割合である。バインダー112の質量割合は、熱重量測定(TG)により求められる。
【0040】
触媒部111は、代表的には、固形物である。固形物としては、粒状体、針状体、直方体、短繊維、長繊維等が挙げられる。触媒部111は、代表的には、
図1Cに示すように、基体110の全領域に亘ってほぼ均一的に分散して存在する。触媒部111は、基体110に直接的に密着して接触する部分を有することが挙げられる。上記の特定元素を含有する触媒部111は、上記の特定元素を含有する基体110に直接的に担持されることで、触媒効果を効果的に発揮し易いからである。なお、上記の特定元素を含有する触媒部111は、上記の特定元素を含有する基体110に対して直接的に担持され易い。
【0041】
電極10に占める触媒部111の質量割合(触媒部111の存在比率)は、0.01%以上70%以下であることが挙げられる。触媒部111の存在比率は、電極10を100質量%としたときの触媒部111を構成する元素の合計含有量の質量割合である。例えば、電極10が基体110と触媒部111とで構成される場合、基体110と触媒部111との合計含有量を100質量%とする。また、電極10が基体110と触媒部111とバインダー112(
図3)とで構成される場合、基体110と触媒部111とバインダー112との合計含有量を100質量%とする。触媒部111の存在比率が0.01%以上であることで、電極10上での電池反応性を高め易く、セル抵抗率がより小さいレドックスフロー電池1を構築できる。触媒部111の存在比率は、大きいほど電極10上での電池反応性を高め易いが、相対的に基体110の存在比率が減少し、電極10の耐久性が低下する。よって、触媒部111の存在比率が70%以下であることで、電極10上での電池反応性がより高く、耐久性に優れる電極10を得易い。触媒部111の存在比率は、更に0.1%以上70%以下、1%以上70%以下、特に10%以上50%以下、10%以上30%以下であることが挙げられる。触媒部111の存在比率は、TGにより求められる。
【0042】
〔目付量〕
電極10は、目付量(単位面積当たりの重量)が50g/m2以上10000g/m2以下であることが挙げられる。電極10の目付量が50g/m2以上であることで、十分な電池反応を行うことができる。一方、目付量が10000g/m2以下であることで、空隙が過度に小さくなることを抑制でき、電解液の流通抵抗の上昇を抑制し易い。電極10の目付量は、更に100g/m2以上2000g/m2以下、特に200g/m2以上700g/m2以下であることが挙げられる。
【0043】
〔厚み〕
電極10は、外力の作用しない状態での厚みが0.1mm以上5mm以下であることが好ましい。電極10の上記厚みが0.1mm以上であることで、電解液との間で電池反応を行う電池反応場を増大できる。一方、電極10の上記厚みが5mm以下であることで、この電極10を用いたレドックスフロー電池1を薄型とできる。電極10の上記厚みは、更に0.2mm以上2.5mm以下、特に0.3mm以上1.5mm以下であることが挙げられる。
【0044】
≪レドックスフロー電池用電極の製造方法≫
上述した電極10は、基体110と、触媒部111の構成元素を含有する塗布液とを準備し、塗布液を基体110の表面に塗布して熱処理を施すことで得られる。
【0045】
基体110として、C,Ti,Sn,Ta,Ce,In,W,及びZnからなる群より選択される1種以上の元素を含有する繊維が互いに絡み合った繊維集合体を準備する。この繊維集合体の大きさや形状は、所望の電極10の大きさや形状となるように適宜選択すればよい。この準備した繊維集合体は、ブラストやエッチング処理等を行い、表面積拡大、表面粗化を行ったものを利用することが挙げられる。ブラストやエッチング処理後、表面の選択エッチングを行い清浄化及び活性化を行う。清浄化における酸清浄に用いる酸として、代表的には、硫酸、塩酸、フッ酸等があり、これらの液に繊維集合体を浸漬し表面の一部を溶解することにより活性化を行うことができる。
【0046】
触媒部111を構成する元素の原料と溶媒とを含有する塗布液を準備する。触媒部111を構成する元素の原料としては、金属アルコキシド、塩化物、酢酸塩、有機金属化合物がある。具体的には、タングステン酸アンモニウム五水和物、塩化タングステン、タングステン酸ナトリウム水和物等が挙げられる。他に、塩化鉄、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物、炭酸セリウム、硫酸マンガン、硫酸銅等が挙げられる。溶媒としては、水や有機溶媒を利用できる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等が挙げられる。溶媒は、塗布液全体に対して70質量%以上95質量%以下含有することが挙げられる。塗布液には、安定化剤として、アセチルアセトン等を含有することができる。安定化剤は、塗布液全体に対して1質量%以上10質量%以下含有することが挙げられる。これら原料と溶媒、更には安定化剤を含有した含有物を、窒素雰囲気で1時間以上5時間以下程度撹拌することで、所望の触媒部111の構成元素を含有する塗布液が得られる。
【0047】
得られた繊維集合体の表面に得られた塗布液を塗布する。塗布方法としては、刷毛塗法、噴霧法、浸漬法、フローコート法、ロールコート法等が挙げられる。繊維集合体に塗布液を塗布した後は、乾燥する。その後、塗布液を塗布した繊維集合体に、酸素を含む雰囲気中、300℃以上700℃以下×10分以上5時間以下の熱処理を行う。酸素を含む雰囲気は、酸化性雰囲気や、還元ガスが含まれるガス中で酸化状態を調整した雰囲気が含まれ、例えば空気中が挙げられる。熱処理温度を300℃以上、熱処理時間を10分以上とすることで、基体110の全領域に亘ってほぼ均一的に分散して触媒部111を付着させることができる。一方、熱処理温度を700℃以下、熱処理時間を5時間以下とすることで、基体110に対する触媒部111の存在比率が大きくなり過ぎることを抑制できる。熱処理温度は、更に400℃以上600℃以下、特に450℃以上550℃以下とすることが挙げられる。また、熱処理時間は、更に15分以上2時間以下、特に30分以上1時間以下とすることが挙げられる。
【0048】
上記熱処理によって、繊維集合体の内部に触媒部111の構成元素が熱拡散によって浸透し、繊維集合体を構成する各繊維(基体110)の外周面に触媒部111が分散して密着される。上記塗布液を基体110の表面に塗布した後に熱処理を施して得られた電極10では、触媒部111は、主に、基体110の表面に付着した状態となる。また、上記熱処理を施して得られた電極10では、触媒部111の一部分が基体110に埋設された状態となることもある。
【0049】
他に、物理的気相成長法(PVD)や化学的気相成長(CVD)法を用いて、触媒部111を基体110に担持することもできる。PVD法としては、スパッタ法が挙げられる。具体的には、準備した基体110に、触媒部111を構成する元素単体又はその元素の酸化物をPVD法やCVD法で付着する。触媒部111を構成する元素単体を基体110に付着した場合、付着後に、熱処理を行うことが挙げられる。この熱処理により、基体110に付着した元素を酸化する。熱処理条件は、酸素を含む雰囲気中、例えば空気中で、300℃以上700℃以下×15分以上2時間以下とすることが挙げられる。PVD法やCVD法を用いて得られた電極10では、触媒部111は、主に、触媒部111の一部分が基体110に埋設された状態となる。
【0050】
PVD法やCVD法を用いて、触媒部111を基体110に担持するにあたり、準備した基体110の表面を溶融させることで、触媒部111を完全に基体110に埋設することもできる。
【0051】
バインダー112を備える電極10は、触媒部111の構成元素を含有するバインダー液を基体110の表面に塗布して熱処理を施すことで得られる。バインダー液は、触媒部111を構成する元素の原料と、バインダー112を構成する元素の原料と、溶媒とを含有する。触媒部111を構成する元素の原料、及びバインダー112を構成する元素の原料としては、元素単体を用いることが挙げられる。溶媒としては、水や有機溶媒を利用できる。基体110に対するバインダー液の塗布方法としては、刷毛塗法、噴霧法、浸漬法、フローコート法、ロールコート法等が挙げられる。基体110にバインダー液を塗布した後は、乾燥する。その後、バインダー液を塗布した基体110に、酸素を含む雰囲気中、例えば空気中で、300℃以上700℃以下×15分以上2時間以下の熱処理を行う。
【0052】
≪レドックスフロー電池≫
図4~
図6を参照して、実施形態に係るレドックスフロー電池1(RF電池)を説明する。RF電池1は、代表的には、
図4に示すように、交流/直流変換器や変電設備等を介して、発電部と、電力系統や需要家等の負荷とに接続される。RF電池1は、発電部を電力供給源として充電を行い、負荷を電力消費対象として放電を行う。発電部は、例えば、太陽光発電機、風力発電機、その他一般の発電所等が挙げられる。
【0053】
RF電池1は、
図4に示すように、電池セル100と、電池セル100に電解液を循環供給する循環機構(正極循環機構100P及び負極循環機構100N)とを備える。電池セル100は、隔膜11で正極セル12と負極セル13とに分離されている。正極セル12には、正極電解液が供給される正極電極14が内蔵され、負極セル13には、負極電解液が供給される負極電極15が内蔵されている。実施形態に係るRF電池1は、正極電極14が上述した実施形態に係る電極10で構成される点を特徴の一つとする。この例では、負極電極15も上述した実施形態に係る電極10で構成される。
【0054】
電池セル100は、
図6に示すように、一組のセルフレーム16,16に挟まれて構成される。セルフレーム16は、表裏面に正極電極14及び負極電極15がそれぞれ配置される双極板161と、双極板161の周縁を囲む枠体162とを備える。
【0055】
隔膜11は、正極電極14と負極電極15とを分離すると共に、所定のイオンを透過する分離部材である。双極板161は、電流を流すが電解液を通さない導電部材で構成される。双極板161の片面(表面)側には正極電極14が接触するように配置され、双極板161の反対面(裏面)側には負極電極15が接触するように配置される。枠体162は、内側に電池セル100となる領域を形成する。具体的には、枠体162の厚みは、双極板161の厚みよりも大きい。枠体162は、双極板161の周縁を囲むことで、双極板161の表面(裏面)と枠体162の表面(裏面)との間に段差を形成する。この段差の内部に正極電極14(負極電極15)が配置される空間が形成される。
【0056】
正極セル12に正極電解液を循環供給する正極循環機構100Pは、正極電解液タンク18と、導管20,22と、ポンプ24とを備える。正極電解液タンク18は、正極電解液を貯留する。導管20,22は、正極電解液タンク18と正極セル12との間を繋ぐ。ポンプ24は、上流側(供給側)の導管20に設けられる。負極セル13に負極電解液を循環供給する負極循環機構100Nは、負極電解液タンク19と、導管21,23と、ポンプ25とを備える。負極電解液タンク19は、負極電解液を貯留する。導管21,23は、負極電解液タンク19と負極セル13との間を繋ぐ。ポンプ25は、上流側(供給側)の導管21に設けられる。
【0057】
正極電解液は、正極電解液タンク18から上流側の導管20を介して正極電極14に供給され、正極電極14から下流側(排出側)の導管22を介して正極電解液タンク18に戻される。また、負極電解液は、負極電解液タンク19から上流側の導管21を介して負極電極15に供給され、負極電極15から下流側(排出側)の導管23を介して負極電解液タンク19に戻される。
図4及び
図5において、正極電解液タンク18内及び負極電解液タンク19内に示すマンガン(Mn)イオン及びチタン(Ti)イオンは、正極電解液中及び負極電解液中に活物質として含むイオン種の一例を示す。
図4において、実線矢印は充電、破線矢印は放電を意味する。正極電解液の循環及び負極電解液の循環によって、正極電極14に正極電解液を循環供給すると共に、負極電極15に負極電解液を循環供給しながら、各極の電解液中の活物質イオンの価数変化反応に伴って充放電を行う。
【0058】
正極電解液は、例えば、正極活物質としてマンガンイオン、バナジウムイオン、鉄イオン、ポリ酸、キノン誘導体、及びアミンから選択される1種以上を含有することが挙げられる。また、負極電解液は、負極活物質としてチタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、ポリ酸、キノン誘導体、及びアミンから選択される1種以上を含有することが挙げられる。正極活物質の濃度、及び負極活物質の濃度は適宜選択できる。例えば、正極活物質の濃度、及び負極活物質の濃度の少なくとも一方は、0.3mol/L以上5mol/L以下であることが挙げられる。上記濃度が0.3mol/L以上であれば、大容量の蓄電池として十分なエネルギー密度(例えば、10kWh/m3程度)を有することができる。上記濃度が高いほどエネルギー密度が高められることから、0.5mol/L以上、更に1.0mol/L以上、1.2mol/L以上、1.5mol/L以上とすることができる。溶媒に対する溶解度を考慮すると、上記濃度は、5mol/L以下、更に2mol/L以下が利用し易く、電解液の製造性に優れる。電解液は、活物質に加えて、硫酸、リン酸、硝酸、塩酸から選択される1種以上の酸又は酸塩を含む水溶液等を利用できる。
【0059】
RF電池1は、代表的には、複数の電池セル100が積層されたセルスタック200と呼ばれる形態で利用される。セルスタック200は、
図6に示すように、あるセルフレーム16、正極電極14、隔膜11、負極電極15、別のセルフレーム16が繰り返し積層された積層体と、積層体を挟む一対のエンドプレート210,220と、エンドプレート210,220間を繋ぐ長ボルト等の連結部材230及びナット等の締結部材とを備える。締結部材によってエンドプレート210,220間が締め付けられると、積層体は、その積層方向の締付力によって積層状態が保持される。セルスタック200は、所定数の電池セル100をサブスタック200Sとし、複数のサブスタック200Sを積層した形態で利用される。サブスタック200Sやセルスタック200における電池セル100の積層方向の両端に位置するセルフレーム16には、双極板161に代えて給排板(図示せず)が配置される。
【0060】
正極電極14及び負極電極15への各極の電解液の供給は、セルフレーム16における枠体162の対向する一片(給液側片、
図6の紙面下側)に形成される給液マニホールド163,164、給液スリット163s,164s、及び給液整流部(図示せず)により行われる。正極電極14及び負極電極15からの各極の電解液の排出は、枠体162の対向する他片(排液側片、
図6の紙面上側)に形成される排液整流部(図示せず)、排液スリット165s,166s、及び排液マニホールド165,166により行われる。正極電解液は、給液マニホールド163から枠体162の片面側(紙面表側)に形成された給液スリット163sを介して正極電極14に供給される。そして、正極電解液は、
図6上図の矢印に示すように正極電極14の下側から上側へ流通し、枠体162の片面側(紙面表側)に形成された排液スリット165sを介して排液マニホールド165に排出される。負極電解液の供給及び排出は、枠体162の反対面側(紙面裏側)で行われる点を除き、正極電解液と同じである。各枠体162間には、電池セル100からの電解液の漏洩を抑制するために、Oリングや平パッキン等の環状のシール部材167(
図5及び
図6)が配置されている。枠体162には、環状のシール部材167を配置するためのシール溝(図示せず)が周方向にわたって形成されている。
【0061】
上述したRF電池1の基本構成は、公知の構成を適宜利用できる。
【0062】
〔効果〕
実施形態に係るレドックスフロー電池用電極10は、特定元素からなる元素群Aより選択される1種以上の元素を含有する基体110に、特定元素からなる元素群Bより選択される1種以上の元素を含有する触媒部111が担持される。この構成により、上記電極10は、電解液との反応性に優れ、セル抵抗率が小さいRF電池1を構築できる。元素群Aは、C,Ti,Sn,Ta,Ce,In,W,及びZnからなる。元素群Bは、Fe,Si,Mo,Ce,Mn,Cu,及びWからなる。元素群Bの元素は、元素群Aの元素で構成される基体110に対して担持され易く、かつ元素群Aの元素で構成される基体110に担持されることで、触媒機能を効果的に発揮するからである。特に、上記電極10は、電極10に占める触媒部111の占める質量割合が0.01%以上であることで、電極10上での電池反応性を高め易く、セル抵抗率がより小さいRF電池1を構築できる。
【0063】
電極10の一形態として、触媒部111の一部分が基体110に埋設されたり、触媒部111の一部分がバインダー112に覆われたりすることで、触媒部111が基体110に強固に担持され易い。触媒部111が基体110に強固に担持されることで、長期にわたるRF電池1の運転において、触媒部111が基体110から脱落することを抑制し易い。基体110から露出された部分を有する第一の触媒部111に加えて、基体110から露出されずに基体110に埋設された第二の触媒部111を備えることで、電極10の使用初期から長期にわたって触媒作用を発揮できる。長期にわたる触媒作用の発揮によって、長期にわたって電極10と電解液との反応性を良好に維持できる。第二の触媒部111は、長期にわたるRF電池1の運転において電極10が劣化した際に露出され、その露出されたときから触媒作用を発揮できるからである。つまり、長期にわたるRF電池1の運転における電極10の劣化によって、第一の触媒部111が基体110から脱落したとしても、第二の触媒部111が基体110に担持されているからである。
【0064】
上記電極10は、基体110が上記元素群Aの元素を含有することで、酸化劣化し難く、長期にわたるRF電池1の運転における経時的な劣化を抑制でき、耐久性に優れる。更に、上記電極10は、触媒部111が上記元素群Bの元素を含有することで、一般的に触媒として用いられる貴金属元素のみを用いる場合に比較して、低コスト化を図ることができる。
【0065】
実施形態に係るRF電池1は、実施形態に係るレドックスフロー電池用電極10を正極電極14に用いることで、電極上での電池反応性が高く、セル抵抗率が小さい。RF電池1は、充放電に伴う副反応によって正極電極14が酸化劣化し、セル抵抗率の増加を招き易い。そのため、上記電極10を正極電極14に用いることで、効果的にセル抵抗率を小さくできるからである。特に、RF電池1の電解液が、正極活物質としてマンガンイオンを含有し、負極活物質としてチタンイオンを含有するマンガン-チタン系電解液の場合、正極電極が酸化劣化し易い。そのため、上記電極10を正極電極14に用いることで、効果的にセル抵抗率を小さくできる。
【0066】
上記RF電池1は、太陽光発電、風力発電等の自然エネルギーの発電に対して、発電出力の変動の安定化、発電電力の余剰時の蓄電、負荷平準化等を目的とした大容量の蓄電池に利用できる。また、上記RF電池1は、一般的な発電所に併設されて、瞬低・停電対策や負荷平準化を目的とした大容量の蓄電池としても好適に利用できる。
【0067】
[試験例1]
非貴金属元素を含有する触媒部を備える電極を作製し、その電極上での電池反応性、及びその電極を用いたRF電池のセル抵抗率を調べた。
【0068】
〔試料の作製〕
・試料No.1-1
基体と、基体に担持される触媒部とを備える電極を作製した。
基体として、複数の炭素繊維からなるカーボンペーパーを用いて、大きさが3.3mm×2.7mmで厚みが0.45mmの繊維集合体を作製した。この繊維集合体は、各炭素繊維の繊維径が円相当径で10μmであり、空隙率が85体積%であった。
触媒部の構成元素を含有する塗布液として、タングステン酸アンモニウム五水和物((NH4)10W12O41・5H2O)を含有する水溶液を作製した。溶媒(水)は、塗布液全体に対して1質量%とした。
上記基体を上記塗布液に浸漬し、基体(各炭素繊維)の外周面に上記塗布液を付着させた。その塗布液が付着した基体を乾燥させた後、480℃×1時間の熱処理を施した。
【0069】
得られた電極(試料No.1-1)について、断面を走査型電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分光法を利用した分析装置(SEM-EDX)を用いて調べた。その結果、試料No.1-1の電極は、基体(各炭素繊維)の外周面に触媒部がほぼ均一的に分散して存在することが確認された。また、基体(各炭素繊維)の外周面に付着した状態の触媒部と、一部分が基体(各炭素繊維)に埋設された状態の触媒部とが混在していることが確認された。X線回析法(XRD)で結晶構造を測定し、X線マイクロアナライザー(EPMA)で元素組成を測定することで触媒部の存在状態を調べた。その結果、触媒部は、酸化タングステン(WO3)の形態で存在することがわかった。電極に占める触媒部の質量割合は20%であった。
【0070】
・試料No.1-11
電極として、試料No.1-1の基体と同様の基体を作製した。試料No.1-11の電極は、基体のみで構成され、触媒部を備えない。
【0071】
〔電池反応性〕
上記の試料No.1-1及び試料No.1-11の電極をそれぞれ、事前に充電した電解液中に浸漬し、電位走査を行った。この電解液は、濃度1.0mol/Lのマンガンイオンを含む。電位走査は、銀/塩化銀電極を参照電極として、定常的なサイクリックボルタモグラムが得られるまで、0.5Vから1.6Vの範囲を3mV/sで繰り返し行った。その結果を
図7に示す。
図7において、横軸は印加した電位であり、縦軸は応答電流値である。
図7におけるサイクリックボルタモグラム曲線は、上側の曲線が酸化波を示し、下側の曲線が還元波を示す。また、
図7では、試料No.1-1を実線で示し、試料No.1-11を破線で示す。
【0072】
図7に示すサイクリックボルタモグラムでは、試料No.1-1と試料No.1-11の酸化波又は還元波同士を比較したときに、電流値の絶対値が大きいほど電極上での電池反応性が大きいことを意味する。試料No.1-1と試料No.1-11の酸化波同士を比較すると、試料No.1-1では、電位1.40V付近で電流値のピークが見られ、試料No.1-11では、電位1.46V付近で電流値のピークが見られる。試料No.1-1は、試料No.1-11に比較して電流値の絶対値が大きいことがわかる。また、試料No.1-1と試料No.1-11の還元波同士を比較すると、試料No.1-1では、電位1.26V付近で電流値のピークが見られ、試料No.1-11では、電位1.17V付近で電流値のピークが見られる。試料No.1-1は、試料No.1-11に比較して電流値の絶対値が大きいことがわかる。試料No.1-1の電流値の絶対値が大きい理由は、炭素繊維で構成される基体に酸化タングステンで構成される触媒部が担持されているため、触媒部の触媒機能が効果的に発揮されたからと考えられる。触媒部の触媒機能が効果的に発揮されることで、電極上での電池反応性を向上できる。
【0073】
また、
図7に示すサイクリックボルタモグラムでは、試料No.1-1と試料No.1-11の酸化波の電位と還元波の電位とを比較したときに、電流値のピーク付近での電位差が小さいほど電極上での電池反応性が大きいことを意味する。その結果、試料No.1-1は、試料No.1-11に比較して上記電位差が小さいことがわかる。試料No.1-1の上記電位差が小さい理由は、炭素繊維で構成される基体に酸化タングステンで構成される触媒部が担持されているため、触媒部の触媒機能が効果的に発揮されたからと考えられる。触媒部の触媒機能が効果的に発揮されることで、電極上での電池反応性を向上できる。
【0074】
〔セル抵抗率〕
正極電極と、負極電極と、隔膜とを用いて、単セル構造のRF電池を作製した。正極電極には、上記の試料No.1-1及び試料No.1-11の電極を用いた。負極電極には、試料No.1-11と同様の電極(触媒部を備えない炭素繊維集合体)を用いた。電解液は、正極電解液として活物質にマンガンイオン、負極電解液として活物質にチタンイオンを含むマンガン-チタン系電解液を用いた。各試料は、単セル構造のRF電池としたため、RF電池の内部抵抗は、セル抵抗率として表す。各試料について、電池セルに電流密度が256mA/cm2の定電流で充放電を行った。この試験では、予め設定した所定の切替電圧に達したら、充電から放電に切り替え、複数サイクルの充放電を行った。各サイクルの充放電後、各試料についてセル抵抗率(Ω・cm2)を求めた。セル抵抗率は、複数サイクルのうち、任意の1サイクルにおける充電時平均電圧及び放電時平均電圧を求め、{(充電時平均電圧と放電時平均電圧の差)/(平均電流/2)}×セル有効面積とした。この例では、電解液に浸漬開始直後(浸漬日数0日)の電極におけるセル抵抗率を求めた。
【0075】
その結果、セル抵抗率は、試料No.1-1では、0.76Ω・cm2であり、試料No.1-11では、0.83Ω・cm2であった。試料No.1-11に比較して、試料No.1-1のセル抵抗率が低減された理由は、炭素繊維で構成される基体に酸化タングステンで構成される触媒部が担持されているため、触媒部の触媒機能が効果的に発揮され、電極上での電池反応性を向上できたからと考えられる。
【0076】
[試験例2]
非貴金属元素を含有する触媒部を備える電極として、電極のうち触媒部の占める質量割合(触媒部の存在比率)を変えた模擬電極を作製し、触媒部における電池反応性を調べた。
【0077】
〔試料の作製〕
・試料No.2-1~2-5
導電材と、その導電材内部に保持される触媒部とを備える模擬電極を作製した。模擬電極の作製には、まずプラスチックからなる円筒状部材を準備する。次に、円筒状部材の一端側の中空部分に棒状の真鍮を挿入し、他端側の中空部分にカーボンペーストオイル(導電材)と、各試料における触媒部を構成する粉末(酸化タングステン(WO3)の粉末)とを充填する。これらの粉末を押し固めて、模擬電極が得られる。各試料において、カーボンペーストオイルと触媒部(上記粉末)との存在比率を変えた。具体的には、触媒部の存在比率は、試料No.2-1では、0質量%、試料No.2-2では、17質量%、試料No.2-3では、25質量%、試料No.2-4では、50質量%、試料No.2-5では、67質量%とした。触媒部の存在比率は、カーボンペーストオイルと触媒部(上記粉末)との合計含有量を100質量%としたときの触媒部の含有量の質量割合である。
【0078】
〔電池反応性〕
上記の試料No.2-1~2-5の電極を用いてリニアスイープボルタンメトリー測定を行った。具体的には、上記の試料No.2-1~2-5の電極をそれぞれ、事前に充電した電解液中に浸漬し、電位走査を行った。この電解液は、濃度1.0mol/Lのマンガンイオンを含む。電位走査は、銀/塩化銀電極を参照電極として、充電した電解液の開放電圧(1.23V)から低電位側に3mV/sで行った。その結果を
図8に示す。
図8において、横軸は印加した電位であり、縦軸は応答電流値である。
図8では、試料No.2-1を細実線、試料No.2-2を点線、試料No.2-3を一点鎖線、試料No.2-4を破線、試料No.2-5を太実線で示す。
【0079】
図8に示すリニアスイープボルタモグラムでは、ピーク電位が大きいほど電極上での電池反応速度が速いことを意味する。試料No.2-1のピーク電位は、1.04Vであり、試料No.2-2~2-5のピーク電位は、1.20V付近である。この電位1.20Vは、電解液におけるMn
3+→Mn
2+の還元電位と考えられる。試料No.2-2~2-5は、料No.2-1に比較して、ピーク電位が大きいことがわかる。試料No.2-2~2-5のピーク電位が大きい理由は、触媒部の触媒機能が効果的に発揮され、電極上での電池反応性を向上できたからと考えられる。
【0080】
また、
図8に示すリニアスイープボルタモグラムでは、ピーク電流値の絶対値が大きいほど電極上での電池反応性が大きいことを意味する。試料No.2-2~2-5を比較したとき、電位1.2V付近で電流値のピークが見られ、タングステンの存在比率が大きくなるほど、そのピーク電流値の絶対値が大きくなることがわかる。この傾向が見られる理由は、触媒部の存在比率が大きいほど触媒部の触媒機能が効果的に発揮され、電極上での電池反応性を向上できたからと考えられる。
【0081】
[試験例3]
非貴金属元素を含有する触媒部を備える電極として、触媒部の構成元素を変えた模擬電極を作製し、触媒部における電池反応性を調べた。
【0082】
〔試料の作製〕
・試料No.3-1~3-6、3-11
試験例2と同様に、導電材と、その導電材内部に保持される触媒部とを備える模擬電極を作製した。各試料において、触媒部を構成する粉末の構成元素を変えた。試料No.3-1は、酸化マンガン(MnO2)の粉末を用いた。試料No.3-2は、酸化銅(CuO2)の粉末を用いた。試料No.3-3は、酸化セリウム(CeO2)の粉末を用いた。試料No.3-4は、酸化ケイ素(SiO2)の粉末を用いた。試料No.3-5は、酸化モリブデン(MoO3)の粉末を用いた。試料No.3-6は、酸化鉄(FeO)の粉末を用いた。試料No.3-1~3-6はいずれも、触媒部(上記粉末)の存在比率を25質量%とした。試料No.3-11は、カーボンペーストオイルのみで構成される。つまり、試料No.3-11は、100質量%のカーボンペーストオイルで構成され、触媒部(上記粉末)は0質量%である。
【0083】
〔電池反応性〕
上記の試料No.3-1~3-6、3-11の模擬電極を用いてリニアスイープボルタンメトリー測定を行った。測定条件は、試験例2と同様である。その結果を表1に示す。表1では、ピーク電位と、そのピーク電位でのピーク電流値とを示す。
【0084】
【0085】
表1に示すように、試料No.3-1~3-6は、試料No.3-11に比較して、ピーク電位が大きく、電池反応速度が速いことがわかる。また、また、料No.3-1~3-6は、試料No.3-11に比較して、ピーク電流値の絶対値が大きく、電池反応性が大きいことがわかる。この傾向が見られる理由は、触媒部の触媒機能が効果的に発揮され、電極上での電池反応性を向上できたからと考えられる。
【0086】
[試験例4]
非貴金属元素を含有する触媒部を備える電極を作製し、その電極上での電池反応性を調べた。
【0087】
〔試料の作製〕
・試料No.4-1
基体と、基体に担持される触媒部とを備える電極を作製した。
基体として、複数の炭素繊維からなるカーボンペーパーを用いて、大きさが3.3mm×2.7mmで厚みが0.45mmの繊維集合体を作製した。この繊維集合体は、各炭素繊維の繊維径が円相当径で10μmであり、空隙率が85体積%であった。
触媒部の構成元素を含有する塗布液として、硫酸マンガン(MnSO4)を含有する水溶液を作製した。溶媒(水)は、塗布液全体に対して1質量%とした。
上記基体を上記塗布液に浸漬し、基体(各炭素繊維)の外周面に上記塗布液を付着させた。その塗布液が付着した基体を乾燥させた後、480℃×1時間の熱処理を施した。
【0088】
得られた電極(試料No.4-1)について、断面を走査型電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分光法を利用した分析装置(SEM-EDX)を用いて調べた。その結果、試料No.4-1の電極は、基体(各炭素繊維)の外周面に触媒部がほぼ均一的に分散して存在することが確認された。また、X線回析法(XRD)で結晶構造を測定し、X線マイクロアナライザー(EPMA)で元素組成を測定することで触媒部の存在状態を調べた。その結果、触媒部は、酸化マンガン(MnO3)の形態で存在することがわかった。電極に占める触媒部の質量割合は20%であった。
【0089】
・試料No.4-11
電極として、試料No.4-1の基体と同様の基体を作製した。試料No.4-11の電極は、基体のみで構成され、触媒部を備えない。
【0090】
〔電池反応性〕
上記の試料No.4-1及び試料No.4-11の電極を用いてリニアスイープボルタンメトリー測定を行った。測定条件は、試験例2と同様である。その結果を表2に示す。表2では、ピーク電位と、そのピーク電位でのピーク電流値とを示す。
【0091】
【0092】
表2に示すように、試料No.4-1は、試料No.4-11に比較して、ピーク電位が大きく、電池反応速度が速いことがわかる。また、試料No.4-1は、試料No.4-11に比較して、ピーク電流値の絶対値が大きく、電池反応性が大きいことがわかる。この傾向が見られる理由は、触媒部の触媒機能が効果的に発揮され、電極上での電池反応性を向上できたからと考えられる。
【0093】
本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。例えば、基体及び触媒部の各組成を特定元素及び特定範囲で変更したり、電解液の種類を変更したりできる。
【符号の説明】
【0094】
1 レドックスフロー電池(RF電池)
100 電池セル
11 隔膜
10 電極
110 基体、111 触媒部、112 バインダー
12 正極セル、13 負極セル
14 正極電極、15 負極電極
16 セルフレーム
161 双極板、162 枠体
163,164 給液マニホールド、165,166 排液マニホールド
163s,164s 給液スリット、165s,166s 排液スリット
167 シール部材
100P 正極循環機構、100N 負極循環機構
18 正極電解液タンク、19 負極電解液タンク
20,21,22,23 導管、24,25 ポンプ
200 セルスタック
200S サブスタック
210,220 エンドプレート、230 連結部材