(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】焼結体
(51)【国際特許分類】
C04B 35/58 20060101AFI20230214BHJP
C04B 35/5831 20060101ALI20230214BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20230214BHJP
B23B 27/20 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
C04B35/58 007
C04B35/5831
B23B27/14 B
B23B27/20
(21)【出願番号】P 2020530935
(86)(22)【出願日】2019-06-11
(86)【国際出願番号】 JP2019023116
(87)【国際公開番号】W WO2020017191
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2018134072
(32)【優先日】2018-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 顕人
(72)【発明者】
【氏名】岡村 克己
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-167206(JP,A)
【文献】特開平06-305732(JP,A)
【文献】特開平06-100302(JP,A)
【文献】特開昭60-016867(JP,A)
【文献】特開昭48-080108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/58-35/599
B23B 27/14-27/20
B23B 51/00-51/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期律表の第4族元素、
バナジウム、タンタル及び第6族元素からなる群より選択される少なくとも1種の第1金属元素の窒化物及び酸窒化物のいずれか一方又は両方を含む粉末由来材料を備え、
前記粉末由来材料の前記第1金属元素の窒化物及び酸窒化物の合計の含有量は、90質量%以上であり、
前記粉末由来材料の含有量は、1体積%以上であり、
前記粉末由来材料において、
前記第1金属元素
、アルミニウムおよび珪素の
合計の原子比率x1と
窒素及び酸素の合計の原子比率y1との比y1/x1の値が1より大きく、
前記粉末由来材料は、立方晶構造を有する、焼結体。
【請求項2】
周期律表の第4族元素、第5族元素及び第6族元素からなる群より選択される少なくとも1種の第1金属元素の窒化物及び酸窒化物のいずれか一方又は両方を含む粉末由来材料を備え、
前記粉末由来材料の前記第1金属元素の窒化物及び酸窒化物の合計の含有量は、90質量%以上であり、
前記粉末由来材料の含有量は、1体積%以上であり、
前記粉末由来材料において、前記第1金属元素、アルミニウムおよび珪素の合計の原子比率x1と窒素及び酸素の合計の原子比率y1との比y1/x1の値が1より大きく、
前記粉末由来材料は、立方晶構造を有し、
さらに少なくとも1種の結合材化合物を、合計で0.5体積%以上50体積%以下含み、
前記結合材化合物は、周期律表の第4族元素、第5族元素及び第6族元素からなる群より選択される少なくとも1種の第2金属元素と、炭素、窒素及び酸素の少なくともいずれかとからなり、
前記結合材化合物において、前記第2金属元素およびアルミニウムの合計の原子比率x2と炭素、窒素及び酸素の合計の原子比率y2との比x2/y2の値が1以上である、焼結体。
【請求項3】
前記比y1/x1の値が1.1以上1.3以下である、請求項1
または請求項2に記載の焼結体。
【請求項4】
前記焼結体は
、Al及びSiのいずれか一方又は両方を含む、請求項1
から請求項3のいずれか1項に記載の焼結体。
【請求項5】
前記焼結体は、さらに少なくとも1種の結合材化合物を、合計で0.5体積%以上50体積%以下含み、
前記結合材化合物は、周期律表の第4族元素、第5族元素及び第6族元素からなる群より選択される少なくとも1種の第2金属元素と、炭素、窒素及び酸素の少なくともいずれかとからなり、
前記結合材化合物において、
前記第2金属元素
およびアルミニウムの
合計の原子比率x2と
炭素、窒素及び酸素の合計の原子比率y2との比x2/y2の値が1以上である、請求項
1に記載の焼結体。
【請求項6】
前記比x2/y2の値が1.04以上1.06以下である、請求項
2または請求項5に記載の焼結体。
【請求項7】
前記焼結体は、さらに立方晶窒化硼素を10体積%以上97体積%以下含む、請求項1~請求項
6のいずれか1項に記載の焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、焼結体、粉末及び粉末の製造方法に関する。本出願は、2018年7月17日に出願した日本特許出願である特願2018-134072号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
切削工具の重要な要求特性の一つとして、耐摩耗性が挙げられる。したがって、優れた耐摩耗性を有する切削工具用の材料の開発が行われている。
【0003】
特開2016-037648号公報(特許文献1)には、焼結体の材料として用いた場合に、優れた耐摩耗性を有する焼結体を得ることのできる硬質材料として、アルミニウムと、窒素と、チタン、クロムおよび珪素からなる群より選択される少なくとも1種とを含み、立方晶岩塩型構造を有する硬質材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本開示の一態様に係る焼結体は、
周期律表の第4族元素、第5族元素及び第6族元素からなる群より選択される少なくとも1種の第1金属元素の窒化物及び酸窒化物のいずれか一方又は両方を含む粉末由来材料を備え、
前記粉末由来材料において、金属元素の原子比率x1と非金属元素の原子比率y1との比y1/x1の値が1より大きく、
前記粉末由来材料は、立方晶構造を有する、焼結体である。
【0006】
本開示の一態様に係る粉末は、
周期律表の第4族元素、第5族元素及び第6族元素からなる群より選択される少なくとも1種の第1金属元素の窒化物及び酸窒化物のいずれか一方又は両方を含み、
金属元素の原子比率x1と非金属元素の原子比率y1との比y1/x1の値が1より大きく、
立方晶構造を有する材料からなる粉末である。
【0007】
本開示の一態様に係る粉末の製造方法は、
上記に記載の粉末の製造方法であって、
周期律表の第4族元素、第5族元素及び第6族元素からなる群より選択される少なくとも1種の第1金属元素の粒子を含む第1粒子群を準備する工程と、
前記第1粒子群を窒素雰囲気下で衝撃圧縮法で処理して前記粉末を作製する工程とを備える、粉末の製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1の硬質材料を用いて作製された焼結体は、耐摩耗性が良好であるものの、更なる耐摩耗性の向上が求められている。
【0009】
そこで、本目的は、優れた耐摩耗性を有する焼結体、焼結体の材料として用いた場合に、優れた耐摩耗性を有する焼結体を得ることのできる粉末、及び、該粉末の製造方法を提供することを目的とする。
[本開示の効果]
上記態様によれば、優れた耐摩耗性を有する焼結体、焼結体の材料として用いた場合に、優れた耐摩耗性を有する焼結体を得ることのできる該粉末、及び、粉末の製造方法を提供することが可能となる。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0011】
(1)本開示の一態様に係る焼結体は、周期律表の第4族元素、第5族元素及び第6族元素からなる群より選択される少なくとも1種の第1金属元素の窒化物及び酸窒化物のいずれか一方又は両方を含む粉末由来材料を備え、
前記粉末由来材料において、金属元素の原子比率x1と非金属元素の原子比率y1との比y1/x1の値が1より大きく、
前記粉末由来材料は、立方晶構造を有する、焼結体である。
【0012】
本開示の一態様に係る焼結体は、優れた耐摩耗性を有することができる。
(2)前記y1/x1の値が1.1以上1.3以下であることが好ましい。これによると、焼結体の耐摩耗性がさらに向上する。
【0013】
(3)前記焼結体は、さらにAl及びSiのいずれか一方又は両方を含むことが好ましい。これによると、焼結体の耐摩耗性がさらに向上する。
【0014】
(4)前記焼結体は、さらに少なくとも1種の結合材化合物を、合計で0.5体積%以上50体積%以下含み、
前記結合材化合物は、周期律表の第4族元素、第5族元素及び第6族元素からなる群より選択される少なくとも1種の第2金属元素と、炭素、窒素及び酸素の少なくともいずれかとからなり、
前記結合材化合物において、金属元素の原子比率x2と非金属元素の原子比率y2との比x2/y2の値が1以上であることが好ましい。
【0015】
結合材化合物は焼結体中で結合相の役割を果たす。したがって、結合材化合物を含む焼結体は強度が向上するため、焼結体はさらに優れた耐摩耗性を有することができる。
【0016】
(5)前記比x2/y2の値が1.04以上1.06以下であることが好ましい。これによると、焼結体はさらに優れた耐摩耗性を有することができる。
【0017】
(6)前記焼結体は、さらに立方晶窒化硼素を10体積%以上97体積%以下含むことが好ましい。立方晶窒化硼素は極めて高い硬度を有するため、焼結体が立方晶窒化硼素を含むと、焼結体の硬度が高くなり、焼結体の耐摩耗性が向上する。
【0018】
(7)本開示の一態様に係る粉末は、周期律表の第4族元素、第5族元素及び第6族元素からなる群より選択される少なくとも1種の第1金属元素の窒化物及び酸窒化物のいずれか一方又は両方を含み、
金属元素の原子比率x1と非金属元素の原子比率y1との比y1/x1の値が1より大きく、立方晶構造を有する材料からなる粉末である。
【0019】
本開示の一態様に係る粉末は、焼結体の材料として用いた場合に、優れた耐摩耗性を有する焼結体を得ることができる。
【0020】
(8)前記y1/x1の値が1.1以上1.3以下であることが好ましい。このような粉末は、焼結体の材料として用いた場合に、優れた耐摩耗性を有する焼結体を得ることができる。
【0021】
(9)本開示の一態様に係る粉末の製造方法は、上記(7)又は(8)に記載の粉末の製造方法であって、
周期律表の第4族元素、第5族元素及び第6族元素からなる群より選択される少なくとも1種の第1金属元素の粒子を含む第1粒子群を準備する工程と、
前記第1粒子群を窒素雰囲気下で衝撃圧縮法で処理して前記粉末を作製する工程とを備える、粉末の製造方法である。
【0022】
本開示の一態様に係る粉末の製造方法によれば、立方晶構造を有する粉末を得ることができる。
【0023】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の一実施形態に係る焼結体、粉末及び該粉末の製造方法の具体例を、以下に説明する。本明細書において化合物を化学式で表わす場合、原子比を特に限定しない場合は従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるものではない。たとえば単に「TiN」と記す場合も「Ti」と「N」の原子比は50:50の場合のみに限られず、従来公知のあらゆる原子比が含まれるものとする。
【0024】
<実施の形態1:粉末>
本開示の一実施の形態に係る粉末は、周期律表の第4族元素、第5族元素及び第6族元素からなる群より選択される少なくとも1種の第1金属元素の窒化物及び酸窒化物のいずれか一方又は両方を含み、金属元素の原子比率x1と非金属元素の原子比率y1との比y1/x1の値が1より大きく、立方晶構造を有する材料からなる。
【0025】
本実施形態において、第1金属元素に含まれる周期律表の第4族元素は、例えば、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)およびハフニウム(Hf)を含み、第5族元素は、例えば、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)およびタンタル(Ta)を含み、第6族元素は、例えば、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)およびタングステン(W)を含む。
【0026】
第1金属元素の窒化物としては、例えば、窒化チタン(TiN)、窒化ジルコニウム(ZrN)、窒化ハフニウム(HfN)、窒化バナジウム(VN)、窒化ニオブ(NbN)、窒化タンタル(TaN)、窒化クロム(Cr2N)、窒化モリブデン(MoN)、窒化タングステン(WN)を挙げることができる。
【0027】
第1金属元素の酸窒化物としては、例えば、酸窒化チタン(TiON)、酸窒化ジルコニウム(ZrON)、酸窒化ハフニウム(HfON)、酸窒化バナジウム(VON)、酸窒化ニオブ(NbON)、酸窒化タンタル(TaON)、酸窒化クロム(CrON)、酸窒化モリブデン(MoON)、酸窒化タングステン(WON)を挙げることができる。
【0028】
粉末は、上記の第1金属元素の窒化物及び酸窒化物のうち、1種類から構成されていてもよいし、2種類以上が組み合わされて構成されていてもよい。粉末中の上記の第1金属元素の窒化物及び酸窒化物の合計の含有量は、粉末の全質量に対して90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、100質量%であることがもっとも好ましい。
【0029】
粉末は、Al及びSiのいずれか一方又は両方を含むことができる。Al及びSiは粉末中に固溶していることが好ましい。粉末中のAlの含有量は1原子%以上25原子%以下が好ましく、3原子%以上15原子%以下がより好ましい。粉末中のSiの含有量は1原子%以上25原子%以下が好ましく、3原子%以上15原子%以下がより好ましい。
【0030】
粉末は、不可避不純物を含んでいてもよい。不可避不純物の含有割合は、粉末の全質量に対して0質量%以上10質量%未満であることが好ましく、0質量%以上5質量%未満であることがより好ましい。
【0031】
粉末中の金属元素の含有量は、粉末をICP分析することにより測定することができる。粉末中の非金属元素(窒素及び酸素)の含有量は、粉末をガス分析することにより測定することができる。粉末が焼結体中に粉末由来材料として存在する場合は、焼結体を粉砕機(例えば、振動ディスクミル、レッチェ製の「RS200」)にて粉末化し、その粉末についてICP分析及びガス分析を行う。
【0032】
ICP発光分光分析装置としては、例えば、島津製作所製「ICPS-8100」が挙げられる。ガス分析装置としては、例えば、堀場製作所製「EMG950」が挙げられる。
【0033】
粉末において、金属元素の原子比率x1と非金属元素の原子比率y1との比y1/x1の値が1より大きい。ここで金属元素の原子比率x1とは、粉末を構成する全原子数に対する金属元素の合計原子数の割合を意味し、単位は原子%で表すことができる。又、非金属元素の原子比率y1とは、粉末を構成する全原子数に対する非金属元素の合計原子数の割合を意味し、単位は原子%で表すことができる。よって、本実施形態の粉末においては、非金属元素の原子数が、金属元素の原子数より多い。なお、本明細書中、「非金属元素」とは、水素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アスタチン、酸素、硫黄、セレン、テルル、窒素、リン、ヒ素、アンチモンおよび炭素のことをいう。また、「金属元素」とは、前述の「非金属元素」以外の元素のことをいう。
【0034】
粉末において、非金属元素の原子比率y1が、金属元素の原子比率x1より大きいと、粉末の硬度が高くなり、該粉末を焼結体の材料として用いると、優れた耐摩耗性を有する焼結体を得ることができる。この理由は明らかではないが、粉末において、非金属元素の原子比率y1が、金属元素の原子比率x1より大きいと、粉末中に、2つの窒素原子間の共有結合、窒素原子と酸素原子と間の共有結合、及び、2つの酸素原子間の共有結合という、非金属原子間の共有結合が増加する。このため、粉末の硬度が高くなると推察される。
【0035】
粉末中の金属元素の原子比率x1はICP発光分光分析法を用いて分析することにより測定することができる。具体的には、粉末を粉砕した測定用粉末から任意の1gを選び、これを分析する金属元素の数で分割し、各分割粉末において、分析する金属元素のうち、1種の金属元素の原子比率を測定する。例えば、2種の金属元素を測定する場合、測定用粉末1gを2つに分割する。2つの分割粉末を、分割粉末A、分割粉末Bとした場合、分割粉末Aでは1種の金属元素の原子比率を求め、分割粉末Bでは他の1種の金属元素の原子比率を求める。
【0036】
上記の測定作業を1元素につき10回行い、10回の値の平均値を粉末中の1種の金属元素の原子比率とする。分析した全ての金属元素の原子比率の合計を算出し、この値を粉末中の金属元素の原子比率とする。ICP発光分光分析装置としては、例えば、島津製作所製「ICPS-8100」(商品名)が挙げられる。
【0037】
粉末中の金属元素の原子比率x1は、43.48原子%以上48.39原子%以下が好ましく、44.12原子%以上46.88原子%以下がより好ましい。
【0038】
粉末中の非金属元素の原子比率y1はガス分析測定法を用いて分析することにより測定することができる。具体的には、粉末を粉砕した粉末から任意の1gを選び、これを分析する非金属元素の数で分割し、各分割粉末において、分析する非金属元素のうち、1種の非金属元素の原子比率を測定する。例えば、2種の非金属元素を測定する場合、測定用粉末1gを2つに分割する。2つの分割粉末を、分割粉末1、分割粉末2とした場合、分割粉末1では1種の非金属元素の原子比率を求め、分割粉末2では他の1種の非金属元素の原子比率を求める。
【0039】
上記の測定作業を1元素につき10回行い、10回の値の平均値を粉末中の1種の非金属元素の原子比率とする。分析した全ての非金属元素の原子比率の合計を算出し、この値を粉末中の非金属元素の原子比率とする。ガス分析測定装置としては、例えば、堀場製作所製「EMG950」が挙げられる。
【0040】
粉末中の非金属元素の原子比率y1は、56.52原子%以上51.61原子%以下が好ましく、55.88原子%以上53.13原子%以下がより好ましい。
【0041】
金属元素の原子比率x1と非金属元素の原子比率y1との比y1/x1の値は、1より大きく1.33以下が好ましく、1.1以上1.3以下がより好ましく、1.13以上1.27以下がさらに好ましい。
【0042】
粉末は、立方晶構造を有する。立方晶構造とは、岩塩(塩化ナトリウム)に代表される結晶構造であり、2種類の異なる面心立方格子が、単位の立方格子のリョウ(稜)の方向にリョウ(稜)長の半分ずれて互いに組み合わされた構造である。立方晶構造は高硬度であるため、立方晶構造を有する粉末を焼結体の材料として用いると、優れた耐摩耗性を有する焼結体を得ることができる。
【0043】
粉末が立方晶構造を含むことは、XRDの回折パターンからICDDデータベースと照らし合わせて定性分析を行い解析することで確認が可能である。X線回折装置としては、例えば、RIGAKU製の「miniflex 600」等が挙げられる。
【0044】
粉末は、90体積%以上が立方晶構造を有する材料からなることが好ましく、100体積%、すなわち、全ての粉末が立方晶構造を有する材料からなることがより好ましい。
【0045】
<実施の形態2:焼結体>
本開示の一実施の形態に係る焼結体は、実施の形態1に係る粉末に由来する粉末由来材料を含む焼結体である。該焼結体は硬度の高い粉末に由来する粉末由来材料を含むため、耐摩耗性が優れている。
【0046】
本明細書中、粉末由来材料とは、実施の形態1の粉末を用いて焼結体を作製した場合に、該焼結体中に存在する実施の形態1の粉末に由来する成分を意味する。粉末の構成成分及び各構成成分の比率は、焼結後も維持される。従って、粉末と、これを焼結して得られる焼結体中の粉末由来材料とは、それぞれの構成成分及び各構成成分の比率は同一である。
【0047】
焼結体は、粉末由来材料のみから構成されることができる。すなわち、焼結体中の粉末由来材料の含有量を100体積%とすることができる。また、焼結体は、粉末由来材料の含有量を、例えば、3体積%以上99.5体積%以下とすることができる。この場合は、粉末由来材料に加えて、結合材化合物、立方晶窒化硼素等の他の成分を含むこともできる。これらの他の成分の焼結体中の含有量は、例えば、0.5体積%以上97体積%以下とすることができる。
【0048】
焼結体は、さらにAl及びSiのいずれか一方又は両方を含むことが好ましい。Al及びSiは焼結体中に固溶していることが好ましい。Al及びSiは粉末由来材料中に固溶していることが好ましい。これによると、焼結体の耐摩耗性がさらに向上する。焼結体中のAlの含有量は1原子%以上25原子%以下が好ましく、3原子%以上15原子%以下がより好ましい。焼結体中のSiの含有量は1原子%以上25原子%以下が好ましく、3原子%以上15原子%以下がより好ましい。
【0049】
焼結体中のAl及びSiのそれぞれの含有量は、ICP発光分光分析法を用いて分析することにより測定することができる。具体的な測定方法は、実施の形態1の粉末中の金属元素の原子比率の測定方法と同一である。
【0050】
焼結体は、さらに周期律表の第4族元素、第5族元素及び第6族元素からなる群より選択される少なくとも1種の第2金属元素と、炭素、窒素及び酸素の少なくともいずれかとからなる少なくとも1種の結合材化合物を含むことが好ましい。ここで、第2金属元素に含まれる周期律表の第4族元素、第5族元素及び第6族元素は、例えば、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)およびハフニウム(Hf)を含み、第5族元素は、例えば、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)およびタンタル(Ta)を含み、第6族元素は、例えば、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)およびタングステン(W)を含む。
【0051】
焼結体中の結合材化合物は、隣り合う粉末由来材料同士の界面に存在し、結合相の役割を果たす。結合相は、粉末由来材料同士を強固に結合することができるため、焼結体の強度が向上し、焼結体はさらに優れた耐摩耗性を有することができる。
【0052】
また、焼結体に結合相が含まれることにより、焼結体は粉末由来材料の特性に起因する特性に加え、さらに結合相に起因する特性を有することができる。したがって、結合相の組成を適宜調整することにより、焼結体は、様々な切削条件に必要とされる各ニーズに柔軟に対応することができる。
【0053】
第2金属元素と炭素とからなる結合材化合物(炭化物)としては、例えば、炭化チタン(TiC)、炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化ハフニウム(HfC)、炭化バナジウム(VC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化タンタル(TaC)、炭化クロム(Cr3C2)、炭化モリブデン(MoC)、炭化タングステン(WC)を挙げることができる。
【0054】
第2金属元素と窒素とからなる結合材化合物(窒化物)としては、例えば、窒化チタン(TiN)、窒化ジルコニウム(ZrN)、窒化ハフニウム(HfN)、窒化バナジウム(VN)、窒化ニオブ(NbN)、窒化タンタル(TaN)、窒化クロム(Cr2N)、窒化モリブデン(MoN)、窒化タングステン(WN)、窒化チタンジルコニウム(TiZrN)、窒化チタンハフニウム(TiHfN)、窒化チタンバナジウム(TiVN)、窒化チタンニオブ(TiNbN)、窒化チタンタンタル(TiTaN)、窒化チタンクロム(TiCrN)、窒化チタンモリブデン(TiMoN)、窒化チタンタングステン(TiWN)、窒化ジルコニウムハフニウム(ZrHfN)、窒化ジルコニウムバナジウム(ZrVN)、窒化ジルコニウムニオブ(ZrNbN)、窒化ジルコニウムタンタル(ZrTaN)、窒化ジルコニウムクロム(ZrCrN)、窒化ジルコニウムモリブデン(ZrMoN)、窒化ジルコニウムタングステン(ZrWN)、窒化ハフニウムバナジウム(HfVN)、窒化ハフニウムニオブ(HfNbN)、窒化ハフニウムタンタル(HfTaN)、窒化ハフニウムクロム(HfCrN)、窒化ハフニウムモリブデン(HfMoN)、窒化ハフニウムタングステン(HfWN)、窒化バナジウムニオブ(VNbN)、窒化バナジウムタンタル(VTaN)、窒化バナジウムクロム(VCrN)、窒化バナジウムモリブデン(VMoN)、窒化バナジウムタングステン(VWN)、窒化ニオブタンタル(NbTaN)、窒化ニオブクロム(NbCrN)、窒化ニオブモリブデン(NbMoN)、窒化ニオブタングステン(NbWN)、窒化タンタルクロム(TaCrN)、窒化タンタルモリブデン(TaMoN)、窒化タンタルタングステン(TaWN)、窒化クロムモリブデン(CrMoN)、窒化クロムタングステン(CrWN)、窒化モリブデンクロム(MoWN)を挙げることができる。
【0055】
第2金属元素と酸素とからなる結合材化合物(酸化物)としては、例えば、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化バナジウム(V2O5)、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化クロム(Cr2O3)、酸化モリブデン(MoO3)、酸化タングステン(WO3)を挙げることができる。
【0056】
第2金属元素と炭素と窒素とからなる結合材化合物(炭窒化物)としては、例えば、炭窒化チタン(TiCN)、炭窒化ジルコニウム(ZrCN)、炭窒化ハフニウム(HfCN)を挙げることができる。
【0057】
第2金属元素と酸素と窒素とからなる結合材化合物(酸窒化物)としては、例えば、酸窒化チタン(TiON)、酸窒化ジルコニウム(ZrON)、酸窒化ハフニウム(HfON)、酸窒化バナジウム(VON)、酸窒化ニオブ(NbON)、酸窒化タンタル(TaON)、酸窒化クロム(CrON)、酸窒化モリブデン(MoON)、酸窒化タングステン(WON)を挙げることができる。
【0058】
結合材化合物は、1種類を用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
焼結体中の結合材化合物の含有量は、0.5体積%以上50体積%以下が好ましく、15体積%以上45体積%以下がより好ましく、30体積%以上40体積%以下がさらに好ましい。
【0059】
結合材化合物において、金属元素の原子比率x2と非金属元素の原子比率y2との比x2/y2の値は1以上であることが好ましい。ここで金属元素の原子比率x2とは、結合材化合物を構成する全原子数に対する金属元素の合計原子数の割合を意味する。又、非金属元素の原子比率y2とは、結合材化合物を構成する全原子数に対する非金属元素の合計原子数の割合を意味する。すなわち、本実施形態の結合材化合物においては、金属元素の原子比率が、非金属元素の原子比率と同じか、又は、大きいことが好ましい。なお、「金属元素」、及び、「非金属元素」とは、実施の形態1において説明した通りである。
【0060】
結合材化合物において、金属元素の原子比率が、非金属元素の原子比率と同じか、又は、大きいと、過剰である金属元素と上記粉末由来材料中の過剰な非金属元素とが反応することにより、結合が強固になり耐欠損性が向上する。
【0061】
結合材化合物中の金属元素及び非金属元素の原子比率x2及びy2は、下記の方法で測定することができる。STEM観察により粉末由来材料と結合材化合物を元素マッピングにより分離する。粉末由来材料と結合材化合物とが同様の元素を用いている場合は、電子回折パターンから結晶構造を同定し、結合材化合物部分を特定する。結合材化合物部分をポイント分析することで定量分析を行う。ポイント分析を20点測定し平均値をそれぞれx2、y2の値とする。STEMとしては、例えば、JOEL製「JEM-ARM300F」が挙げられる。
【0062】
結合材化合物中の金属元素の原子比率x2は、50原子%以上53原子%以下が好ましく、51原子%以上52原子%以下がより好ましい。
【0063】
結合材化合物中の非金属元素の原子比率y2は、47原子%以上50原子%以下が好ましく、48原子%以上49原子%以下がより好ましい。
【0064】
金属元素の原子比率x2と非金属元素の原子比率y2との比x2/y2の値は、1以上1.13以下が好ましく、1.02以上1.10以下がより好ましく、1.04以上1.06以下がさらに好ましい。
【0065】
焼結体は、さらに立方晶窒化硼素を10体積%以上97体積%以下含むことが好ましく、30体積%以上65積%以下含むことがより好ましく、45体積%以上55体積%以下含むことがさらに好ましい。
【0066】
立方晶窒化硼素は極めて高い硬度を有するため、焼結体が立方晶窒化硼素を含むと、焼結体の硬度が高くなり、焼結体の耐摩耗性が向上する。
【0067】
本実施の形態の焼結体は、工具の材料として用いることができる。上記焼結体は、耐摩耗性に優れるため、これを用いた工具もまた、耐摩耗性に優れることとなる。
【0068】
工具としては、切削工具、研削工具、耐摩工具、摩擦撹拌接合用工具等を挙げることができる。切削工具としては、ドリル、エンドミル、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切り工具、リーマまたはタップを例示することができる。切削工具は、その全体が本実施の形態の焼結体により構成されていてもよく、その一部(たとえば、刃先部分)が本実施の形態の焼結体により構成されていてもよい。
【0069】
切削工具の全体が本実施の形態の焼結体からなる場合、焼結体を所望の形状に加工することにより、切削工具を作製することができる。焼結体の加工は、たとえば、レーザーまたはワイヤー放電によって行うことができる。また、切削工具の一部が本実施の形態の焼結体からなる場合、工具を構成する基体の所望の位置に焼結体を接合することにより、切削工具を作製することができる。なお、焼結体の接合方法は特に制限されないが、基体から焼結体が離脱することを抑制する観点から、基体と焼結体との間に、基体と焼結とを強固に結合させるための接合層を介在させることが好ましい。
【0070】
<実施の形態3:粉末の製造方法>
本開示の一実施の形態に係る粉末の製造方法は、周期律表の第4族元素、第5族元素及び第6族元素からなる群より選択される少なくとも1種の第1金属元素の粒子を含む第1粒子群を準備する工程(以下、「第1粒子群準備工程」ともいう)と、前記第1粒子群を窒素雰囲気下で衝撃圧縮法で処理して前記粉末を作製する工程(以下、「粉末作製工程」)とを備える。
【0071】
(第1粒子群準備工程)
第1粒子群準備工程において、周期律表の第4族元素、第5族元素及び第6族元素からなる群より選択される少なくとも1種の第1金属元素の粒子を含む第1粒子群を準備する。これらの粒子は、いずれも平均粒径が2μm以下であることが好ましく、さらに1μm以下であることが好ましい。本明細書において「平均粒径」とは、マイクロトラックなどの粒度分布測定機により測定した値を意味する。
【0072】
第1粒子群は、粉末の原料となる。粉末を構成する金属元素は、第1粒子群のみから供給される。このため、第1粒子群中の各金属元素の含有比率は、目的とする粉末中の各金属元素の含有比率と同一とする必要がある。一方、粉末中の窒素は、雰囲気(窒素雰囲気)から供給される。このため、第1粒子群中の窒素の含有比率は、粉末中の窒素の含有比率と同一である必要はない。また、粉末中の酸素は、窒素と同様に雰囲気(酸素窒素混合ガス)から供給される。このため、第1粒子群中の酸素の含有比率は、粉末中の酸素の含有比率と同一である必要はない。
【0073】
第1粒子群は、周期律表の第4族元素、第5族元素及び第6族元素からなる群より選択される少なくとも1種の第1金属元素の粒子をエタノールなどの有機溶媒中で超音波分散するか、またはビーズミルで粉砕、混合して、得られたスラリーをドライヤーなどで乾燥して得ることができる。
【0074】
(粉末作製工程)
次に、粉末作製工程において、第1粒子群を窒素雰囲気下で衝撃圧縮法で処理して粉末を作製する。
【0075】
まず、第1粒子群をPt製カプセルに充填する。かしめたカプセル上部に銀ろう材を塗布し、0.1MPa以上0.6MPa以下の圧力で窒素又は窒素酸素混合ガス雰囲気中で熱処理を行い、Pt製カプセルに窒素又は窒素酸素混合ガスを封入する。
【0076】
次に、窒素又は窒素酸素を封入したPt製カプセルをSUS製カプセル内に配置し、一般的な1段式火薬銃衝撃圧縮装置にて、15GPa以上の圧力、及び、1500℃以上の温度で加圧加温する。これにより、第1粒子群から立方晶構造を有する粉末を合成することができる。衝撃圧縮法における圧力は、15GPa以上50GPa以下が好ましく、20GPa以上40GPa以下がさらに好ましい。衝撃圧縮法における温度は、1500℃以上3000℃以下が好ましく、2000℃以上2500℃以下がさらに好ましい。
【0077】
得られた粉末は、ボールミル装置やビーズミル装置などで、平均粒径0.1μm以上10μm以下に粉砕することが好ましい。粉末は、焼結体の原料として用いることができる。
【0078】
<実施の形態4:焼結体の製造方法>
本開示の一実施の形態に係る焼結体の製造方法は、実施の形態3の粉末の製造方法によって、粉末を作製する工程(以下、「粉末作製工程」ともいう)と、前記粉末を含む第2粒子群を準備する工程(以下、「第2粒子群準備工程」ともいう)と、前記第2粒子群を焼結して焼結体を得る工程(「焼結体作製工程」ともいう)とを備える。
【0079】
(粉末作製工程)
粉末作製工程において、上記の粉末の製造方法を用いて粉末を作製する。具体的な方法は、実施の形態3の粉末の製造方法と同一である。
【0080】
(第2粒子群準備工程)
次に、粉末作製工程で得られた粉末を含む第2粒子群を準備する。
【0081】
第2粒子群は、粉末のみを含む、すなわち、粉末を100体積%含むことができる。又、粉末とともに、結合材化合物粒子及び立方晶窒化硼素粒子の一方又は両方の粒子を含んでいてもよい。
【0082】
第2粒子群が結合材化合物粒子を含む場合は、第2粒子群中の結合材化合物粒子の含有量は、0.5体積%以上50体積%以下が好ましく、15体積%以上45体積%以下がより好ましく、30体積%以上40体積%以下がさらに好ましい。これによると、第2粒子群を焼結して得られた焼結体の耐摩耗性が向上する。
【0083】
第2粒子群が立方晶窒化硼素粒子を含む場合は、第2粒子群中の立方晶窒化硼素粒子の含有量は、10体積%以上97体積%以下が好ましく、30体積%以上65体積%以下がより好ましく、45体積%以上55体積%以下がさらに好ましい。これによると、第2粒子群を焼結して得られた焼結体の耐摩耗性が向上する。
【0084】
第2粒子群が結合材化合物粒子及び立方晶窒化硼素粒子の一方又は両方を含む場合は、第2粒子群をボールミルやジェットミルを用いて混合することが好ましい。第2粒子群の平均粒径は、0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0085】
(焼結体作製工程)
前記第2粒子群を10GPa以上15GPa以下の圧力および800℃以上1900℃以下の温度で処理して、焼結体を作製する。焼結体作製工程は、非酸化雰囲気下で行うことが好ましく、特に真空中、または窒素雰囲気下で行うことが好ましい。焼結方法は特に限定されないが、放電プラズマ焼結(SPS)、ホットプレス、超高圧プレスなどを用いることができる。
【0086】
得られた焼結体は、第2粒子群中の各元素の配合比を維持したものとなる。
【実施例】
【0087】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0088】
[実施例1]
(試料No.102~104、106、107、109~123)
<第1粒子群の準備>
市販の窒化チタン粒子(日本新金属株式会社製「TiN-01」)、窒化ジルコニウム粒子(日本新金属株式会社製「ZrN-01」)、窒化ハフニウム粒子(日本新金属株式会社製「HfN-O」)、窒化バナジウム粒子(日本新金属株式会社製「VN-O」)、窒化ニオブ粒子(日本新金属株式会社製「NbN-O」)、窒化タンタル粒子(日本新金属株式会社製「TaN-O」)、窒化クロム粒子(日本新金属株式会社製「Cr2N-O」)、アルミニウム粒子(ミナルコ製「#700F」、表1中「Al」と示す。)、珪素粒子(山石金属株式会社製「No.700」、表1中「Si」と示す。)を、表1の「第1粒子群原料粒子の種類」の欄に記載の量で準備し、Pt製カプセルに充填する。かしめたカプセル上部に銀ろう材を塗布し、表1の「窒素熱処理の窒素圧」の欄に記載の圧力(0.1MPa~0.6MPa)で窒素熱処理を行い、Pt製カプセルに窒素を封入する。
【0089】
<粉末作製工程>
次に、上記で準備した窒素を封入したPt製カプセルをSUS製カプセル内に配置し、一般的な1段式火薬銃衝撃圧縮装置にて、狙い圧力30GPa、狙い温度1500℃にて衝撃圧縮処理を行い、粉末を得る。
【0090】
<焼結体作製工程>
上記のPt製カプセルから粉末を回収し、別のPt製カプセルに充填する。これをベルト型高圧発生装置にて7GPa、1500℃の条件下で、30分維持して焼結して焼結体を得る。
【0091】
(試料No.101)
試料No.101では、市販のチタンナイトライド粉(日本新金属株式会社製「TiN-01」)を表1の「第1粒子群原料粒子の種類」の欄に記載の量で準備し、これをPt製カプセルに充填し、ベルト型高圧発生装置にて7GPa、1500℃の条件下で、30分維持して焼結して焼結体を得る。
【0092】
(試料No.105、108)
試料No.105及び108では、それぞれ市販のチタンナイドライド粉(日本新金属株式会社製「TiN-01」)又はジルコニウムナイトライド粉(日本新金属株式会社製「ZrN-01」)を、表1の「第1粒子群原料粒子の種類」の欄に記載の量で準備し、ダイヤモンドアンビルを用いて、窒素雰囲気下で、18GPa、3073℃の条件で、15分維持して焼結して焼結体を得る。
【0093】
<分析評価>
上記で得られた粉末(試料No.101及び試料No.105では、市販のチタンナイトライド粉、試料No.108では、ジルコニウムナイトライド粉)及び焼結体をX線回折装置で測定したところ、全ての粉末及び焼結体は立方晶構造であることが確認された。また、上記で得られた粉末及び焼結体をX線回折装置で測定した。各相のピーク強度比は、粉末と焼結体とで一致していた。すなわち、焼結体中の各元素の組成比は、粉末中の各元素の配合比を維持していることが確認された。
【0094】
上記で得られた焼結体を粉砕して得られた粉末について、ICP発光分光分析法(使用装置:島津製作所製「ICPS-8100」)により各金属元素の原子比率を分析し、ガス分析測定法(使用装置:堀場製作所製「EMG950」)により各非金属元素の原子比率を分析した。具体的な測定方法は、実施の形態1の粉末中の金属元素の原子比率、及び、粉末中の非金属元素の原子比率の測定方法と同一であるため、その説明は繰り返さない。本実施例では、第1粒子群は粉末のみを含むため、焼結体を粉砕して得られた粉末は、粉末由来材料のみを含む。結果を表1の「焼結体(粉末由来材料)分析値」の欄に示す。なお、上記の粉末及び焼結体のX線回折装置での測定結果から、焼結体中の各金属元素の原子比率及び各非金属元素の原子比率は、それぞれ粉末中の各金属元素の原子比率及び各非金属元素の原子比率と同一であることが確認された。
【0095】
各金属元素の原子比率及び各非金属元素の原子比率を用いて、それぞれ、金属元素の原子比率x1及び非金属元素の原子比率y1を算出し、これらを用いて、金属元素の原子比率x1と非金属元素の原子比率y1との比y1/x1の値を算出した。結果を表1の「y1/x1」の欄に示す。
【0096】
<切削評価>
得られた焼結体を、レーザーにより切断して仕上げ加工し、工具型番DNGA150408の切削工具を作製した。得られた切削工具を用いて、以下の切削条件で浸炭焼入鋼(SCM415H、硬度HRC60)の切削試験を行い、耐摩耗性を評価した。
切削速度:300m/min.
切込み量:0.15mm
送り量:0.15mm/rev
切削油:なし
切削工具の耐摩耗性は、以下の方法で評価した。上記の切削条件で1km切削し、刃先の逃げ面側を光学顕微鏡で観察し、逃げ面摩耗幅を測定する。逃げ面摩耗幅が0.2mmに到達するまでは、このサイクルを繰り返し、0.2mmとなった時点での切削距離を工具寿命と判定する。実際には、横軸を切削距離、縦軸を逃げ面摩耗幅とした直線グラフを描き、縦軸の0.2mmのラインと直線グラフとの交点を切削距離として判断する。切削距離が長いほど、耐摩耗性に優れていることを示す。
【0097】
結果を表1の「切削距離」の欄に示す。
【0098】
【0099】
<結果>
試料No.1の焼結体は、TiNからなる粉末由来材料を含み、該粉末由来材料中の金属元素の原子比率x1と非金属元素の原子比率y1との比y1/x1の値が1であり、比較例に該当する。
【0100】
試料No.102~123の焼結体は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta又はCrの窒化物又は酸窒化物からなる粉末由来材料を含み、該粉末由来材料中の「y1/x1」の値が1より大きく、実施例に該当する。
【0101】
試料No.102~123の焼結体を用いて作製された工具は、試料No.101の焼結体を用いて作製された工具よりも、切削距離が長く、耐摩耗性に優れていることが確認された。
【0102】
[実施例2]
(試料No.201~245)
<第2粒子群の準備>
実施例1で得られた試料No.103、106、109の粉末、及び、市販の窒化チタン(TiN)粒子(日本新金属株式会社製「TiN-01」)、窒化ジルコニウム(ZrN)粒子(日本新金属株式会社製「ZrN-01」)、窒化バナジウム(VN)粒子(日本新金属株式会社製「VN-O」)、窒化ニオブ(NbN)粒子(日本新金属株式会社製「NbN-O」)、窒化タンタル(TaN)粒子(日本新金属株式会社製「TaN-O」)、窒化クロム(Cr2N)粒子(日本新金属株式会社製「Cr2N-O」)、炭化タンタル(TaC)粒子(日本新金属株式会社製「TaC」)、炭化チタン(TiC)粒子(日本新金属株式会社製「TiC-01」)、炭化ジルコニウム(ZrC)粒子(日本新金属株式会社製「ZrC-O」)、炭化ニオブ(NbC)粒子(日本新金属株式会社製「NbC」)、炭化バナジウム(VC)粒子(日本新金属株式会社製「VC」)、Al2O3粒子(大明化学製「TM-DAR」)を、表2の「第2粒子群配合比率」の欄に記載の配合比率で準備し、遊星ミルにより混合して第2粒子群(焼結体原料粒子)を得る。これらの粒子のうち、粉末以外は、結合材化合物の原料に該当する。
【0103】
<焼結体作製工程>
上記の第2粒子群(Pt製カプセルに充填する。これをベルト型高圧発生装置にて7GPa、1500℃の条件下で、30分維持して焼結して焼結体を得る。
【0104】
<分析評価>
上記で得られた第2粒子群及び焼結体をX線回折装置で測定した。各相のピーク強度比は、第2粒子群と焼結体とで一致していた。すなわち、焼結体中の各元素の組成比は、第2粒子群中の各元素の配合比を維持していることが確認された。
【0105】
第2粒子群中の各元素の配合比から、結合材化合物中の金属元素の原子比率x2及び非金属元素の原子比率y2を算出し、これらを用いて、金属元素の原子比率x2と非金属元素の原子比率y2との比x2/y2の値を算出した。結果を表2の「x2/y2」の欄に示す。
【0106】
<切削評価>
得られた焼結体を用いて、実施例1と同様の切削工具を作製し、実施例1と同様の切削条件で、耐摩耗性を評価した。結果を表2の「切削距離」の欄に示す。
【0107】
【0108】
<結果>
試料No.201~203の焼結体は、TiN、ZrN又はHfNを含む粉末((y1/x1)>1)、並びに、Ti、Zr、V、Nb、Ta又はCrの窒化物又は炭化物、もしくはAl2O3からなる結合材化合物を備え、y1/x1及びx2/y2の値が1より大きく、実施例に該当する。試料No.201~203の焼結体を用いて作製された工具は、実施例1の試料No.101(比較例に該当)の焼結体を用いて作製された工具よりも、切削距離が長く、耐摩耗性に優れていることが確認された。
【0109】
[実施例3]
(試料No.301~323)
<第2粒子群の準備>
実施例1で得られた試料No.103、106、109の粉末、実施例2で用いた市販のTiN粒子、ZrN粒子、VN粒子、NbN粒子、TaN粒子、Cr2N粒子、TaC粒子、TiC粒子、ZrC粒子、NbC粒子、VC粒子、Al2O3粒子、及び、立方晶窒化硼素(グローバルダイヤ社製「FBN-AM 0-2」)を、表3の「第2粒子群配合比率」の欄に記載の配合比率で準備し、遊星ミルにより混合して第2粒子群を得る。これらの粒子のうち、粉末及び立方晶窒化硼素粒子以外は、結合材化合物の原料粒子である。
【0110】
<焼結体の作製>
上記の第2粒子群をPt製カプセルに充填する。これをベルト型高圧発生装置にて7GPa、1500℃の条件下で、30分維持して焼結して焼結体を得る。
【0111】
<分析評価>
上記で得られた第2粒子群及び焼結体をX線回折装置で測定した。各相のピーク強度比は、第2粒子群と焼結体とで一致していた。すなわち、焼結体中の各元素の組成比は、第2粒子群中の各元素の配合比を維持していることが確認された。
【0112】
第2粒子群中の各元素の配合比から、結合材化合物中の金属元素の原子比率x2及び非金属元素の原子比率y2を算出し、これらを用いて、金属元素の原子比率x2と非金属元素の原子比率y2との比x2/y2の値を算出した。結果を表3の「x2/y2」の欄に示す。
【0113】
<切削評価>
得られた焼結体を用いて、実施例1と同様の切削工具を作製し、実施例1と同様の切削条件で、耐摩耗性を評価した。結果を表3の「切削距離」の欄に示す。
【0114】
【0115】
<結果>
試料No.301~323の焼結体は、TiN、ZrN又はHfNを含む粉末(y1/x1>1)及び立方晶窒化硼素を備え、y1/x1の値が1より大きく実施例に該当する。試料No.301~323の焼結体を用いて作製された工具は、実施例1の試料No.101の焼結体を用いて作製された工具よりも、切削距離が長く、耐摩耗性に優れていることが確認された。
【0116】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
【0117】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。