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特許7226450プリプレグ、積層体、繊維強化複合材料、及び繊維強化複合材料の製造方法
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  • 特許-プリプレグ、積層体、繊維強化複合材料、及び繊維強化複合材料の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】プリプレグ、積層体、繊維強化複合材料、及び繊維強化複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/24 20060101AFI20230214BHJP
【FI】
C08J5/24 CER
C08J5/24 CEZ
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020542164
(86)(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-08
(86)【国際出願番号】 IB2019000461
(87)【国際公開番号】W WO2019186281
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-02-07
(31)【優先権主張番号】62/650,593
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/814,518
(32)【優先日】2019-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】アルフレッド・ピー・ハロ
(72)【発明者】
【氏名】荒井 信之
(72)【発明者】
【氏名】小柳・アンドリュー・秀夫
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-537543(JP,A)
【文献】特開2010-095557(JP,A)
【文献】特開2008-088276(JP,A)
【文献】国際公開第2008/038591(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00- 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維のマトリックスを含む成分(A)、熱硬化性樹脂を含む成分(B)、及び複数の熱可塑性樹脂の粒子を含む成分(C)、を含むプリプレグであって:
i)前記強化繊維のマトリックスは、10gsm~100gsmの繊維目付を有し、及び成分(B)によって含浸されており、
ii)成分(B)は、前記プリプレグの総重量の36%~48%に相当し;及び
iii)前記プリプレグは、複数プライにレイアップされた場合、脱オートクレーブ硬化前は3.0E-14m未満の面内通気性を有し、脱オートクレーブ硬化後は、a)層間厚さ及び層内厚さが、前記層間厚さをX、前記層内厚さをYとした場合に、比:0.6<2X/Y<1.0、を満たす、層間厚さ及び層内厚さ、並びにb)<1%のボイド率を有する繊維強化複合材料を提供する、積層体を提供する、
プリプレグ。
【請求項2】
前記複数の熱可塑性樹脂の粒子が、積算曲線が合計体積を100%として特定された場合に、90%の積算曲線を有する前記粒子の粒子径が、μm~20μmであるような、レーザー回折散乱法によって測定された粒子サイズ分布を有する、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
成分(C)の前記熱可塑性樹脂の粒子が、前記熱硬化性樹脂の重量に対して重量%~20重量%の量で存在する、請求項2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
成分(B)及び(C)が、硬化された場合、150℃超のガラス転移温度を有する硬化された樹脂マトリックスを提供する、請求項3に記載のプリプレグ。
【請求項5】
成分(B)が、40℃で10010000Pa・sの粘度を有し、及び0.115Pa・sの最低粘度を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のプリプレグ。
【請求項6】
成分(B)が、さらに、前記熱硬化性樹脂に溶解された、ポリビニルホルマール、ポリアミド、ポリカーボナート、ポリアセタール、ポリビニルアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリエーテルニトリル、ポリベンズイミダゾール、これらの誘導体、及びこれらの組み合わせから成る群より選択される少なくとも1つの熱可塑性樹脂を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のプリプレグ。
【請求項7】
成分(B)の前記熱硬化性樹脂中に溶解された前記熱可塑性樹脂が、前記熱硬化性樹脂の100重量部あたり5~30重量部の量で成分(B)に存在する、請求項6に記載のプリプレグ。
【請求項8】
前記成分(C)が、前記プリプレグの表面上又は表面近辺に、実質的に局所的に分布されている、請求項1~7のいずれか一項に記載のプリプレグ。
【請求項9】
前記プリプレグが、前記熱硬化性樹脂の一部を含む第一の層、及び前記強化繊維のマトリックスを含む第二の層、を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のプリプレグ。
【請求項10】
前記第一の層が、前記プリプレグの表面に、又は前記表面から20%の深さまでの前記プリプレグの表面近辺に存在する、請求項9に記載のプリプレグ。
【請求項11】
前記プリプレグの両側が、成分(B)によって実質的に覆われている、請求項1~10のいずれか一項に記載のプリプレグ。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のプリプレグを複数含む積層体。
【請求項13】
熱硬化された請求項12に記載の少なくとも1つの積層体を含む、繊維強化複合材料。
【請求項14】
前記強化繊維のマトリックスが、一方向性である、又は織物構造を有する、請求項13に記載の繊維強化複合材料。
【請求項15】
硬化サイクル後、前記ボイド率が、<1%である、請求項13又は14に記載の繊維強化複合材料。
【請求項16】
請求項12に記載の積層体を、真空ポンプ及びオーブンを用いて成形することを含む、繊維強化複合材料を製造するための方法。
【請求項17】
プリプレグを製造するための方法であって、10gsm~100gsmの繊維目付を有する強化繊維のマトリックスを含む成分(A)を、複数の熱可塑性樹脂の粒子を含む成分(C)と組み合わせた熱硬化性樹脂を含む成分(B)で含浸して、前記プリプレグを形成すること、を含み、
i)成分(B)は、前記プリプレグの総重量の36%~48%に相当し;
ii)前記プリプレグは、複数プライにレイアップされた場合、脱オートクレーブ硬化前は3.0E-14m未満の面内通気性を有し、脱オートクレーブ硬化後は、a)層間厚さ及び層内厚さが、前記層間厚さをX、前記層内厚さをYとした場合に、比:0.6<2X/Y<1.0を満たす、層間厚さ及び層内厚さ、並びにb)<1%のボイド率を有する繊維強化複合材料を提供する、積層体を提供する、
方法。
【請求項18】
繊維強化複合材料を製造するための方法であって:
a)プリプレグの複数のプライをレイアップして、3.0E-14m未満の面内通気性を有する積層体を得る工程;及び
b)前記積層体を硬化して前記繊維強化複合材料を得る工程、
を含み、
i)前記プリプレグは、10gsm~100gsmの繊維目付を有する強化繊維のマトリックスを含む成分(A)、熱硬化性樹脂を含み、前記プリプレグの総重量の36重量%~48重量%に相当する成分(B)、及び複数の熱可塑性樹脂の粒子を含む成分(C)、を含み;
ii)前記強化繊維のマトリックスは、成分(C)と組み合わされた成分(B)によって含浸されており;並びに
iii)前記繊維強化複合材料は、a)層間厚さ及び層内厚さが、前記層間厚さをX、前記層内厚さをYとした場合に、比:0.6<2X/Y<1.0を満たす、層間厚さ及び層内厚さ、並びにb)<1%のボイド率を有する、
方法。
【請求項19】
強化繊維のマトリックスを含む成分(A);
熱硬化性樹脂を含む成分(B);及び
複数の熱可塑性樹脂の粒子を含む成分(C)、
を含むプリプレグであって:
i)前記強化繊維のマトリックスは、10gsm~100gsmの繊維目付を有し、及び成分(B)によって含浸されており;
ii)成分(B)は、前記プリプレグの総重量の36%~48%に相当し;及び
iii)前記プリプレグは、複数プライにレイアップされた場合、脱オートクレーブ硬化前は3.0E-14m未満の面内通気性を有し、脱オートクレーブ硬化後は、層間厚さ及び層内厚さが、前記層間厚さをX、前記層内厚さをYとした場合に、比:0.6<2X/Y<1.0を満たす、層間厚さ及び層内厚さを有する繊維強化複合材料を提供する積層体を提供する、
プリプレグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年3月30日に出願された米国仮特許出願第62/650,593号及び2019年3月6日に出願された米国仮特許出願第62/814,518号の優先権を主張するものである。これらの各特許出願の全開示事項は、あらゆる点で参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、高い度合いのプロセス性を有するプリプレグ積層体(積層体)を提供することができるプリプレグシート、さらにはそのようなプリプレグ積層体から製造され、非常に低いボイド含有率及び非常に優れた耐衝撃性を有する硬化された繊維強化複合材料に関し、プリプレグは、大型で複雑な構造体の製造での使用に良好に適し、自動レイアップ装置に適合する。プリプレグ積層体は、脱オートクレーブ成形プロセスにおいて真空ポンプ及びオーブンを用いるだけで成形することができる。本発明はまた、そのようなプリプレグシート及びプリプレグ積層体を用いて製造された繊維強化複合材料、さらにはプリプレグシート及びプリプレグ積層体を用いる製造方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
繊維強化複合材料は、特に非常に優れた構造力学特性、さらには耐熱性を必要とする航空宇宙及び宇宙船構成部材を含む産業で広く用いられている。従来から、好ましい成形法の1つは、高い圧密圧力を発生させるオートクレーブを用いて、例えば大型で複雑な構造を、コンソリデーションさせ、硬化された材料中にボイドが存在しないことを実現しており、それによって、剛性、軽量、及び強固な複合体が製造される。他方、これらのオートクレーブ法は、運転及び設備コストが高く、装置容量に場合によっては起因して、成形サイズが制限される場合があり、そのため、代替成形法の開発が推奨される。
【0004】
非常により低い圧密圧力を適用する真空のみの方法に依存する脱オートクレーブ(OOA)成形プロセスなどの成形法が開発されてきた。OOA成形プロセスでは、設備コスト削減の可能性が示され、成形サイズの拡張が可能であるが、これらのプロセスでは、オートクレーブで用いられるような高い圧密圧力が存在しないことにより、大型で複雑な構造へ進出する場合に、一貫してボイドを含まない複合体を実現することが困難である。加えて、OOA成形は、プリプレグとしても知られるマトリックス樹脂で予備含浸された繊維を用いて製造された繊維強化複合体構成部材に適している。プリプレグから複合体パーツ(例えば、大型で複雑な構造のもの)を形成するためには、プリプレグの1又は複数の層が、ハンドレイアップによって、又は自動テープ配置及び/若しくは自動繊維配置などの製造効率が改善された方法によって、モールド内に組み上げられる。マトリックス樹脂を流動させるためにプリプレグのこの集合体に熱が掛けられて、プリプレグ層をコンソリデーションさせ、最終複合体が製造される。
【0005】
脱オートクレーブ成形プロセスへの現行の手法は、セミプリプレグシートを用い、これを組み上げて、手によるレイアップに適する複数のプリプレグシートを備えたプリプレグ積層体とする。そのようなセミプリプレグシートは、プリプレグシートの中央(コア)セクションにドライ(非含浸)繊維領域を有することを特徴とし、それによって、プリプレグシート内に存在する空気、水分、及び他の揮発性物質を、硬化中にプリプレグシートから除去することができる。そのような揮発性物質は、プリプレグシート中に残留させた場合、そのようなプリプレグシートの積層体から形成された硬化された繊維強化複合材料中でボイドを発生させる。硬化された繊維強化複合材料中にボイドが存在することは、望ましいことではなく、なぜなら、そのような欠陥は、通常、これらの材料の物理的及び力学特性に有害な影響を与えるからである。しかし、自動プロセスの過程で、セミ含浸はドライ繊維玉(すなわち、ドライ繊維のクラスター)を発生させる可能性があり、これは、積層体の表面に堆積する場合があり、その結果、工業規格OOAプリプレグで見られるように、欠陥がもたらされる。他方、薄層セミプリプレグは、その薄さ及び/又はかさ係数に起因して毛羽立ちの発生が最小限に抑えられ得ることから、自動プロセスにおいて有利であり得る。
【0006】
重量減少、積層体強度改善、及び最終複合体厚さ制御をさらに容易とするために、繊維目付が低い(工業規格の目付>150gsmと比較して、<100gsm)薄層プリプレグが所望され得る。しかし、ドライ(未含浸)繊維領域を中央に有するOOA成形に適する薄層プリプレグの含浸レベルを制御することは、非常に困難であり得る。薄層プリプレグは、OOA成形に適する規格プリプレグと同様に含浸を制御することによって、通気経路を有するように設計可能であり得る。薄層プリプレグは、揮発性物質及びトラップされた空気をOOA成形中に低減するために必要な面内通気性を提供することができる1又は複数の非連続及び/又は連続の通気経路を含有し得るが、それでも、自動プロセスに適合する。
【0007】
しかし、OOA成形に適するさらなる重量減少を容易とし、非常に優れた機械的性能及び自動プロセスとの適合性を有する薄層プリプレグを開発することが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
OOA成形プロセスは、真空のみでボイドが除去されることに依存していることから、プリプレグは、典型的には、OOA成形プロセスでのコンソリデーションの過程でプリプレグ積層体からのボイドの除去が促進されるように、樹脂による繊維層の部分的な含浸部を有するように操作される。特に、薄層プリプレグは、面内通気性を促進する目的で、プリプレグの繊維領域内にも通気経路を有する場合があり、それによって、プリプレグ積層体の概略面内に、硬化の過程で気体又は揮発性物質が通って排出可能である1又は複数の経路が提供される。本発明者らは、OOA成形プロセスに用いることを意図する薄層プリプレグのプリプレグ積層体(「積層体」とも称する)が、脱オートクレーブ硬化後のボイド率<1%を実現するのに充分な面内通気性を提供することができることを見出した。
【0009】
入念な研究の結果、本発明者らは、積層体に組み込まれた場合に、コンソリデーション及び硬化時に非常に優れた機械的性能及びひときわ低いボイド率を有する脱オートクレーブ成形及び自動プロセスに適する高品質の積層体を提供するプリプレグを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1つの実施形態では、本発明は:
強化繊維のマトリックスを含む成分(A);
熱硬化性樹脂を含む成分(B);及び
複数の熱可塑性樹脂の粒子を含む成分(C)、
を含むプリプレグを提供し、
i)強化繊維のマトリックスは、成分(B)によって含浸され;
ii)成分(B)は、プリプレグの総重量の36%~48%に相当し;及び
iii)プリプレグは、複数プライにレイアップされた場合、脱オートクレーブ硬化後に、a)層間厚さ及び層内厚さが、層間厚さをX、層内厚さをYとした場合に、比:0.6<2X/Y<1.0、を満たす、層間厚さ及び層内厚さ、並びにb)<1%のボイド率を有する繊維強化複合材料を提供する、積層体を提供する。
【0011】
特定の好ましい実施形態によると、上記で述べたプリプレグは、10gsm~100gsmの繊維目付を有する強化繊維のマトリックスを含有し(すなわち、強化繊維のマトリックスを含有するプリプレグは、10gsm~100gsmの繊維目付を有する)、脱オートクレーブ硬化前の積層体は、3.0E-14m未満の面内通気性を有する。
【0012】
本明細書で用いられる場合、「層間厚さ」の用語は、複数プライのプリプレグをレイアップすることによって作製された積層体を硬化することによって得られる繊維強化複合材料中の層間層(本明細書において「中間層」と称される場合もある)の厚さを意味する。層間層(中間層)は、繊維強化複合材料中の強化繊維の隣接する層間の層である。本発明の文脈において、層間層は、成分(C)との組み合わせであるが強化繊維は含有しない成分(B)から誘導される硬化されたマトリックスを含む。したがって、層間厚さは、断面で見た場合の、繊維強化複合材料中の強化繊維の隣接する層間の距離と見なすことができる。
【0013】
本明細書で用いられる場合、「層内厚さ」の用語は、複数プライのプリプレグをレイアップすることによって作製された積層体を硬化することによって得られる繊維強化複合材料中の層内層(本明細書において「内層(intra-layer)」と称される場合もある)の厚さを意味する。層内層(内層)は、繊維強化複合材料中の硬化された樹脂マトリックス中に埋め込まれた強化繊維の層である。本発明の文脈において、層内層は、強化繊維のマトリックス及び成分(B)から誘導される硬化されたマトリックスを含む。したがって、層内厚さは、断面で見た場合の、繊維強化複合材料中の強化繊維層の2つの面間の距離と見なすことができる。
【0014】
上記の第一の実施形態を参照すると、「脱オートクレーブ硬化」は、以下の通りの硬化手順を意味し得る:本発明に従うプリプレグの8プライをレイアップすることによって積層体を製造し、積層体を、真空容器に入れて約100kPaの真空度を用いて室温で3時間脱気することによる真空バッグのみのプロセスを用いて、成形する。脱気完了後、積層体を1.7℃/分の速度で室温から120℃とし、120℃で240分間保持し、その後、最終的に1.7℃/分の速度で180℃として120分間硬化して、繊維強化複合材料を得る。
【0015】
層間厚さ及び層内厚さは、所望に応じて、例えば、プリプレグの樹脂マトリックス含有率(プリプレグの総重量に対する成分(B)+成分(C)の重量)を調節することによって、及びプリプレグに用いられる強化繊維のマトリックスの繊維目付を調節することによって、制御し、変化させることができる。
【0016】
層間厚さ及び層内厚さを測定するための方法は、本明細書の他所で詳細に記載される。
【0017】
第二の実施形態では、プリプレグは、約10gsm~約300gsm、又はより好ましくは約10gsm~約100gsmの繊維目付を有する強化繊維のマトリックスを含有する(すなわち、プリプレグの1平方メートルあたりの強化繊維のグラムでの重量が、約10~約300、又はより好ましくは約10~約100である)。
【0018】
第三の実施形態では、積層体(未硬化の状態)は、3.0E-14m未満の面内通気性を有する。
【0019】
第四の実施形態では、複数の熱可塑性樹脂の粒子は、積算曲線が合計体積を100%として特定された場合に、90%の積算曲線を有する粒子の粒子径が、5μm~20μmであるような、レーザー回折散乱法によって測定された粒子サイズ分布を有する。
【0020】
第五の実施形態では、成分(C)の熱可塑性樹脂の粒子は、熱硬化性樹脂の重量に対して重量%~20重量%の量で存在する。
【0021】
第六の実施形態では、成分(B)及び(C)は、硬化された場合、150℃を超えるガラス転移温度(例:約180℃~約220℃のTg)を有する硬化された樹脂マトリックスを提供する。
【0022】
第七の実施形態では、成分(B)は、40℃で10010000Pa・sの粘度を有し、及び0.115Pa・sの最低粘度を有する。
【0023】
第八の実施形態では、成分(B)は、さらに、熱硬化性樹脂に溶解された、ポリビニルホルマール、ポリアミド、ポリカーボナート、ポリアセタール、ポリビニルアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリエーテルニトリル、ポリベンズイミダゾール、これらの誘導体、及びこれらの組み合わせから成る群より選択される少なくとも1つの熱可塑性樹脂を含む。
【0024】
第九の実施形態では、成分(B)の熱硬化性樹脂中に溶解された熱可塑性樹脂は、熱硬化性樹脂の100重量部あたり5~30重量部の量で成分(B)に存在する。
【0025】
第十の実施形態では、成分(C)は、プリプレグの表面上又は表面近辺に、実質的に局所的に分布されている。
【0026】
第十一の実施形態では、プリプレグは、熱硬化性樹脂の一部を含む第一の層、及び強化繊維のマトリックスを含む第二の層を含む。
【0027】
第十二の実施形態では、第一の層は、プリプレグの表面に、又は表面から20%の深さまでのプリプレグの表面近辺に存在する。
【0028】
第十三の実施形態では、プリプレグの両側が、成分(B)によって実質的に覆われている。
【0029】
第十四の実施形態では、上記で述べた実施形態のいずれか1つに従う複数のプリプレグを含む積層体が提供される。
【0030】
第十五の実施形態では、上記で述べた第十四の実施形態に従う少なくとも1つの積層体を含む繊維強化複合材料が提供され、積層体は、熱硬化されている。
【0031】
第十六の実施形態では、第十五の実施形態の繊維強化複合材料中の強化繊維のマトリックスは、一方向性である、又は織物構造を有する。
【0032】
第十七の実施形態では、第十五又は十六の実施形態の繊維強化複合材料は、<1%のボイド率を有する。
【0033】
第十八の実施形態では、第十四の実施形態の積層体を、真空ポンプ及びオーブンを用いて成形することを含む、繊維強化複合材料を製造するための方法が提供される。
【0034】
第十九の実施形態では、強化繊維のマトリックスを含む成分(A)を、熱可塑性樹脂の複数の粒子を含む成分(C)と組み合わせた熱硬化性樹脂を含む成分(B)で含浸してプリプレグを形成することを含む、プリプレグを製造するための方法が提供され:
i)成分(B)は、プリプレグの総重量の36%~48%に相当し;及び
ii)プリプレグは、複数プライにレイアップされた場合、脱オートクレーブ硬化後に、a)層間厚さ及び層内厚さが、層間厚さをX、層内厚さをYとした場合に、比:0.6<2X/Y<1.0、を満たす、層間厚さ及び層内厚さ、並びにb)<1%のボイド率を有する繊維強化複合材料を提供する、積層体を提供する。
【0035】
上記で述べた第十九の実施形態の特に好ましい態様によると、プリプレグは、10gsm~100gsmの繊維目付を有する強化繊維のマトリックスを含有し、及び脱オートクレーブ硬化前の積層体は、3.0E-14m未満の面内通気性を有する。
【0036】
第二十の実施形態では、繊維強化複合材料を製造するための方法が提供され、この方法は:
a)プリプレグの複数のプライをレイアップして積層体を得る工程;及び
b)積層体を硬化して繊維強化複合材料を得る工程、
を含み、
i)プリプレグは、複数の熱可塑性樹脂の粒子を含む成分(C)と組み合わせた熱硬化性樹脂を含む成分(B)のプリプレグの総重量に対して36重量%~48重量%によって含浸された強化繊維のマトリックスを含む成分(A)を含み;並びに
ii)繊維強化複合材料は、a)層間厚さ及び層内厚さが、層間厚さをX、層内厚さをYとした場合に、比:0.6<2X/Y<1.0、を満たす、層間厚さ及び層内厚さ、並びにb)<1%のボイド率を有する。
【0037】
上記で述べた第二十の実施形態の特に好ましい態様によると、プリプレグは、10gsm~100gsmの繊維目付を有する強化繊維のマトリックスを含有し、及び脱オートクレーブ硬化前の積層体は、3.0E-14m未満の面内通気性を有する。
【0038】
第二十一の実施形態では:
強化繊維のマトリックスを含む成分(A);
熱硬化性樹脂を含む成分(B);及び
複数の熱可塑性樹脂の粒子を含む成分(C)、
を含むプリプレグが提供され、
i)強化繊維のマトリックスは、成分(B)によって含浸され;
ii)成分(B)は、プリプレグの総重量の36%~48%に相当し;及び
iii)プリプレグは、複数プライにレイアップされた場合、脱オートクレーブ硬化後に、層間厚さ及び層内厚さが、層間厚さをX、層内厚さをYとした場合に、比:0.6<2X/Y<1.0、を満たす、層間厚さ及び層内厚さを有する繊維強化複合材料を提供する、積層体を提供する。
【0039】
上記で述べた第二十一の実施形態の特に好ましい態様によると、プリプレグは、10gsm~100gsmの繊維目付を有する強化繊維のマトリックスを含有し、及び脱オートクレーブ硬化前の積層体は、3.0E-14m未満の面内通気性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1図1は、3つのプリプレグを含む本発明の積層体の例の断面図を示す。
図2図2は、本発明に従う例示的積層体のためのコンソリデーションプロセスの実施形態の模式図であり、硬化前後の例示的積層体を示す。
図3図3は、実施例でより詳細に記載される面内通気性試験の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明は、本明細書において特定の実施形態を参照して説明され、記載されるが、本発明は、示される詳細事項に限定されることを意図するものではない。そうではなく、請求項の均等物の範囲内で、本発明から逸脱することなく、詳細事項に様々な改変が行われてもよい。
【0042】
「およそ」及び「約」の用語は、本明細書で用いられる場合、記載された量に近く、依然として所望される機能を発揮する、又は所望される結果を実現する量を表す。「室温」の用語は、本明細書で用いられる場合、文脈からそうでないことが示されない限り、23℃を意味する。
【0043】
本明細書において、「プリプレグ」とは、強化繊維のマトリックス(例:層)がマトリックス樹脂で含浸されている成形中間基材を意味する。本発明において、(B)熱硬化性樹脂、及び所望に応じて(C)熱可塑性樹脂の粒子(粒子状又は繊維状であってよい)を含有する熱硬化性樹脂組成物が、マトリックス樹脂として用いられる。他の成分も、熱硬化性樹脂組成物中に存在してよく、例えば、1又は複数の硬化剤が挙げられる。プリプレグ中の熱硬化性樹脂は、未硬化の状態であり、繊維強化複合材料は、プリプレグをレイアップし(複数層のプリプレグを積層して積層体を形成)、硬化することによって得ることができる。当然、繊維強化複合材料は、単一層のプリプレグを硬化することによって得ることもできる。繊維強化複合材料が、複数のプリプレグ層をレイアップし、得られた積層体を硬化することによって製造される場合、プリプレグ層の表面部分は、(B)及び所望に応じて成分(C)も含有する、強化繊維の層上に形成され、好ましくは強化繊維層の表面から約20%の深さまでである層間成形層となり、プリプレグの中(内部)は、繊維強化複合材料の強化繊維層となる。さらに、本発明の1つの実施形態では、プリプレグ(典型的には、第一の側及び第二の側及び平均厚さを有するシートの形態)の片側だけが、所望に応じて成分(C)と組み合わされた熱硬化性樹脂組成物成分(B)によって実質的に覆われている。しかし、他の実施形態では、プリプレグの両側が、所望に応じて成分(C)と組み合わされた熱硬化性樹脂組成物成分(B)によって実質的に覆われている。
【0044】
本発明のある特定の実施形態では、プリプレグは、0.001インチ~0.008インチ(0.02mm~0.20mm;1~8ミル)の厚さを有するシートの形態である。本発明に従うプリプレグのプライを有する積層体は、2つ以上のプリプレグプライ、例えば、2~30プライ又は4~20プライを有し得る。
【0045】
「通気性」の用語は、本明細書で用いられる場合、実施例に記載される方法によって測定される通気性パラメータを意味する。
【0046】
図1は、本発明に従うプリプレグを用いて製造することができる典型的な硬化された積層体(すなわち、繊維強化複合材料)の断面図の例を示す。特に、図1は、(コンソリデーション及び硬化の前に)プリプレグの3つの層(プライ)から成る、硬化後の積層体の例を断面で示す。成分(A)は、強化繊維(1)を含み、成分(B)は、熱硬化性樹脂組成物(2)を含む。強化繊維層又は層内層(Y)は、成分(A)を含む。熱可塑性樹脂粒子(3)を含有する成分(C)を含む層間層(X)は、強化繊維の層の間に位置する。層内厚さ(Y)は、成分(A)の繊維領域の厚さに相当し、対応する層間厚さ(X)は、成分(B)及び(C)を含む層の厚さに相当する。通気性が依然として充分であっても、2(X)(X=層間厚さ)の(Y)(=層内厚さ)に対する比が低過ぎる場合、繊維床及び内層中に充填するのに不充分な樹脂含有率となる可能性があり、その結果、高いボイド含有率となり、機械的性能が損なわれる。その比が高過ぎる場合、低いボイド含有率が実現され得るが、繊維の体積分率が低過ぎて、最適な機械的性能を実現できなくなる可能性があり、及び積層体に所望されない重量を加えることにもなり得る。
【0047】
本発明の1つの実施形態に従う部分含浸プリプレグの2プライの場合のコンソリデーションプロセスは、図2を参照して記載され得る。図2は、プリプレグの2プライ(一緒になって通気性積層体を成す)の場合のコンソリデーションプロセスの模式図であり、硬化前(通気性である時点)の積層体(図2の左側)及び硬化後(好ましく低いボイド率を有する繊維強化複合材料に変換された時点)の積層体(図2の右側)を示す。図2の左側の積層体は、硬化前の図1の積層体に類似の構成を示す(但し、図2の積層体は、図1の繊維強化複合材料の製造に用いた積層体の場合の3プライではなく、2プライのみのプリプレグを含有する)。硬化後(図2の右側に示されるように)、強化繊維層又は内層(3)は、硬化された積層体内に完全に形成され、層間成形層(5)は、硬化された積層体中の2つの層間でさらに区別可能である。加えて、未含浸層(6)は、強化繊維層(3)への熱硬化性樹脂組成物(2)のさらなる浸透の結果として排除されている。未含浸層(6)は、積層体を通る気体通気性経路として機能し、それによって、そうでなければ熱硬化性樹脂組成物(2)の硬化時に積層体中にトラップされることで、積層体から製造されて得られた繊維強化複合材料中に望ましくないボイドを作り出す可能性のある積層体中の気体及び揮発性物質の放出が促進される。
【0048】
積層体中のプリプレグプライの硬化時、熱硬化性樹脂組成物(2)は、未含浸層(6)を含浸する。同時に、未含浸層(6)中の空気間隙(air spaces)が熱硬化性樹脂組成物(2)に置き換えられる結果として、プリプレグの密度が増加する。未含浸層の両側に互いに分離されていた熱硬化性樹脂組成物の部分が、硬化時に互いに一体化された状態となり、それによって、そうして得られる繊維強化複合材料中に連続する樹脂マトリックスが形成されるものと考えられ得る。本発明では、この一連のプロセスを、コンソリデーションプロセスと定義する。得られる繊維強化複合材料中に低ボイドを実現するために、上述したコンソリデーションプロセスが、プリプレグの硬化時に完了される。さらに、コンソリデーションプロセスの1工程として、レイアップ時にトラップされた空気及びプリプレグからの揮発性成分が、コンソリデーションプロセスの過程でプリプレグから放出される。本発明のプリプレグでは、層間成形層(5)の熱硬化性樹脂の重量分率は、樹脂の含浸を高い度合いに制御することによって、及びプリプレグ硬化時のマトリックス樹脂の流動を制御することによって、選択される。特に、層間成形層(5)のマトリックス樹脂の流動は、オートクレーブ成形を行わない場合などの低圧力条件であっても、最大化され得る。さらに、レイアップ時にトラップされた空気及びプリプレグからの揮発性成分が、マトリックス樹脂の流動を用いてプリプレグから放出され、同時に、プリプレグ中の未含浸層(6)は、マトリックス樹脂によって素早く含浸することができ、プリプレグのコンソリデーションプロセスを完了することができる。さらに、得られる繊維強化複合材料は、同時に、低ボイド率及び高い耐衝撃性を有することができる。
【0049】
所望される特徴を有する部分含浸プリプレグ(例:長いアウトタイムを経た後であっても充分な通気性を有する積層体にレイアップ可能である、及び硬化してボイド率が<1%である繊維強化複合材料を提供することができる、プリプレグ)を実現する能力を妨害しない限りにおいて、エポキシ樹脂(特に、室温の23℃で固体であるエポキシ樹脂)を、本発明の成分(B)を構成する熱硬化性樹脂に用いることができる。例えば、成分(B)中の含有率が積層体の通気性を許容されない程度まで損なう程高くない限りにおいて、液体及び半固体エポキシ樹脂(室温で液体及び半固体であるエポキシ樹脂)が、上記で述べた固体エポキシ樹脂と組み合わせて用いられてよい。液体及び半固体エポキシ樹脂は、例えば、液体及び半固体のビスフェノールA型エポキシ樹脂、液体及び半固体のビスフェノールF型エポキシ樹脂、液体及び半固体のグリシジルアミン型エポキシ樹脂(例:アラルダイト(登録商標)MY9655、Huntsman Advanced Materialsより販売、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンである)などであってよい。エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂が用いられてもよい。
【0050】
最も好ましくは、硬化された際にマトリックス樹脂の靭性を向上させ、同時に樹脂の粘度を制御して長いアウトタイム及び保存条件時のプリプレグの通気性を改善するなどの改善効果を提供する目的で、成分(B)は、熱硬化性樹脂に加えて、熱硬化性樹脂中にブレンドされ、溶解された少なくとも1つの熱可塑性樹脂を含有する。さらに、熱可塑性樹脂は、結晶性であっても、又はアモルファスであってもよい。特に、ポリアミド、ポリカーボナート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド、フェニルトリメチルインダン構造を有するポリイミド樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリエーテルニトリル、及びポリベンズイミダゾールから成る群より選択される少なくとも1つの種類の熱可塑性樹脂が用いられる。これらの熱可塑性樹脂は、市販の重合体であってよい、又は市販の重合体よりも低い分子量を有するいわゆるオリゴマーであってもよい。
【0051】
10000から70000g/molの数平均分子量を有する熱可塑性樹脂が、好ましくは用いられ、最も好ましくは、20000から60000g/molの数平均分子量を有する熱可塑性樹脂である。熱可塑性樹脂が過剰に低い数平均分子量を有する場合、プリプレグは、過剰なタック性を有する場合があり、したがって、プリプレグの取扱性が損なわれる。さらに、樹脂の流動が高過ぎる可能性があり、このことは、部分含浸プリプレグ中の通気性経路を閉塞し得る。過剰に高い数平均分子量を有する熱可塑性樹脂が用いられる場合、プリプレグは、そのタック性を完全に失うことで、取扱性が悪化する可能性がある、又は熱可塑性樹脂が熱硬化性樹脂中に溶解される場合に樹脂の粘度が高過ぎることに起因して、プリプレグを製造することができない可能性がある。特に、好ましい範囲内の数平均分子量を有する熱可塑性樹脂が用いられ、熱硬化性樹脂中に溶解される場合、プリプレグのプロセスが損なわれない限りにおいて、多量の熱可塑性樹脂が組み込まれてよい。その結果、得られる硬化された繊維強化複合材料で、良好な樹脂流動、高い靭性、及び高い引張強度を実現することができる。
【0052】
さらに、成分(B)中のこれらの熱可塑性樹脂配合量は、熱硬化性樹脂(例:エポキシ樹脂)の100重量部あたり、好ましくは5から30重量部、より好ましくは10から25重量部、最も好ましくは10から23重量部である。熱可塑性樹脂の配合量が低過ぎる場合、靭性が失われ得る可能性があり、より重要なことには、長いアウトタイムのOOA成形プロセスに必要な通気経路を維持するのに充分な粘度レベルを有していないことによって、積層体の通気性が損なわれ得る可能性がある。熱可塑性樹脂の配合量が高過ぎる場合、靭性は改善され得るが、樹脂粘度の著しい上昇に起因してプロセス性が失われる可能性があり、極端なプロセス条件の原因となる。
【0053】
本発明の熱硬化性樹脂組成物(成分(B))の40℃での粘度は、好ましくは約100~約10000Pa・sであり、最も好ましくは約200~約8000Pa・sである。40℃での粘度が低過ぎる場合、樹脂の流動がプリプレグ内の通気経路の早過ぎる閉鎖を起こし得る可能性があり、得られる繊維強化複合材料中の高いボイド含有率が引き起こされ、このことは、プリプレグのアウトタイム性能を低下させることになる。40℃での粘度が高過ぎる場合、改善された通気性が実現され得るが、硬化時の樹脂の流動が制限されて、コンソリデーションプロセスが妨げられる可能性があり、それによって、高いボイド含有率がもたらされる。
【0054】
本発明の熱硬化性樹脂組成物(成分(B))の最低粘度は、実施例に記載の手順に従って測定され、好ましくは0.1~15Pa・s、より好ましくは0.3~10Pa・s、最も好ましくは0.5~10Pa・sである。最低粘度が低過ぎる場合、マトリックス樹脂の流動が高過ぎて、硬化プロセス時に積層体からの樹脂のブリードアウトが引き起こされる可能性がある。さらに、得られる繊維強化複合材料において所望される樹脂分率を実現することができない、プリプレグ中のマトリックス樹脂の流動が不充分となる、及び得られる繊維強化複合材料中に望ましくない程に高い含有率のボイドが存在することになる、という可能性がある。最低粘度が高過ぎる場合、プリプレグ中のマトリックス樹脂の流動が低くなり、積層体のコンソリデーションプロセスが早期に終了する原因となる可能性があり、このことは、得られる繊維強化複合材料中の高いボイド含有率に繋がる可能性が高い(複合材料の力学特性が損なわれる)。
【0055】
本発明において、硬化された繊維強化複合材料に非常に優れた耐衝撃性が所望される場合、成分(B)(熱硬化性樹脂組成物)及び成分(A)(強化繊維のマトリックス)に加えて、熱可塑性樹脂の粒子又は繊維(本明細書において、まとめて単に「粒子」と称する)が、プリプレグの成分(「成分(C)」)として含められてよい。本発明において、成分(C)、熱可塑性樹脂の粒子又は繊維に用いられる材料の種類は、熱硬化性樹脂組成物中にブレンド及び溶解されてよい熱可塑性樹脂として既に記載した様々な種類の熱可塑性樹脂と同様であってよい。これらの中でも、非常に優れた靭性のために耐衝撃性を大きく高めることから、ポリアミドが最も好ましい。ポリアミドの中でも、ナイロン12、ナイロン11、ナイロン6、ナイロン6/12共重合体、及び特開平01-104624号の実施例1に開示されているセミIPN(相互侵入高分子網目構造)を有するようにエポキシ化合物で修飾されたナイロン(セミIPNナイロン)は、エポキシ樹脂と組み合わされて、特に良好な接着強度を付与し、ナイロン6/12共重合体は、(B)熱硬化性樹脂組成物に特に好ましい接着強度を付与する。さらに、(C)熱可塑性樹脂の粒子又は繊維の重量は、好ましくは、プリプレグの総重量に対して20重量%以下であり、及び/又は、好ましくは、プリプレグの総重量に対して1重量%以上である。
【0056】
本発明のプリプレグでは、成分(C)、熱可塑性樹脂の粒子及び/又は繊維は、好ましくは、プリプレグの表面部分に局所的に提供される。言い換えると、多量の上述した粒子及び/又は繊維を有する層が、プリプレグの少なくとも1つの表面上に存在してよく、この場合、成分(C)の粒子及び/又は繊維は、プリプレグを断面から観察した場合に局所的に存在することが明らかに識別可能である。この層は、積層体中の、並びに積層体を硬化及び成形することによって得られる繊維強化複合材料中のプリプレグの隣接する層間に存在することから、以降、層間成形層とも称される。それによって、プリプレグが重ね合わされ、マトリックス樹脂が硬化されて繊維強化複合材料が形成された場合、成分(C)の上述した粒子及び/又は繊維が局所的に存在する層間層が、強化繊維層間に形成される。この特徴は、強化繊維層間の靭性を高めるように働き、得られる繊維強化複合材料は、高度の耐衝撃性を有することになる。
【0057】
さらに、熱可塑性樹脂の粒子又は繊維(「成分(C)」)の存在は、熱硬化性樹脂組成物(成分(B))と組み合わされた場合、樹脂粘度を上昇させ得る。粒子の添加に起因して粘度が上昇した場合、熱硬化性樹脂は、プリプレグの表面近くにより効果的に維持される可能性があり、それによって、通気経路の早過ぎる閉鎖が防止される。(C)熱可塑性樹脂の粒子又は繊維の重量は、好ましくは、熱硬化性樹脂の重量に対して約6重量%~約20重量%である。さらに、熱硬化性樹脂が≧20000Pa・sの初期粘度を有する場合、樹脂をプリプレグの表面に維持し、通気経路の早過ぎる閉鎖を防止するために、≧6重量%の粒子含有率及び<20重量%の粒子含有率を用いることがより好ましい。熱可塑性樹脂粒子の配合量が低過ぎる場合、通気経路が閉鎖され、靭性が失われ得る可能性がある。熱可塑性樹脂粒子の配合量が高過ぎる場合、靭性は改善され得るが、樹脂粘度の著しい上昇に起因してプロセス性が失われる可能性があり、極端なプロセス条件の原因となる。
【0058】
熱硬化性樹脂組成物(成分(B))は、熱硬化性樹脂を硬化することができる1つ以上の硬化剤を含有していてよく、含有していることが好ましい。エポキシ樹脂用の硬化剤は、エポキシ基と反応することができる活性基を有するいかなる化合物であってもよい。例えば、少なくとも1つのアミノ基、酸無水物基、又はアジド基を有する化合物が、硬化剤として適している。硬化剤のより具体的な例としては、ジアミノジフェニルスルホンの様々な異性体、アミノ安息香酸エステル、様々な種類の酸無水物、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ポリフェノール化合物、イミダゾール誘導体、脂肪族アミン、テトラメチルグアニジン、チオウレアアダクトアミン、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、及び他のカルボン酸無水物、カルボン酸ヒドラジド、カルボン酸アミド、ポリメルカプタン、並びに三フッ化ホウ素エチルアミン錯体、及び他のルイス酸錯体などが挙げられる。これらの硬化剤は、単独で、又は組み合わせて用いられてもよい。
【0059】
芳香族ジアミンを硬化剤として用いることにより、好ましい耐熱性を有する硬化された樹脂が得られ得る。特に、ジアミノジフェニルスルホンの様々な異性体は、好ましい耐熱性を有する硬化された樹脂を提供することから、最も適している。添加される芳香族ジアミン硬化剤の量は、好ましくは、化学量論的当量(エポキシ樹脂のエポキシ含有率に対して)であるが、場合によっては、およそ0.7~1.0の当量比(硬化剤:エポキシ)を用いることによって、高い弾性率を有する硬化された樹脂が得られ得る。
【0060】
本発明のプリプレグ中の樹脂含有率(すなわち、熱硬化性樹脂組成物(成分(B)の量)は、約36%~約48%、より好ましくは38%~46%、最も好ましくは38%~42%である。すなわち、成分(B)は、プリプレグの総重量の約36%~約48%、より好ましくは38%~46%、最も好ましくは38%~42%に相当する。樹脂含有率が低過ぎる場合、樹脂が不充分であることによって不良な含浸が発生する可能性があり、このことは、プリプレグを用いて得られる繊維強化複合材料中に大量のボイドを形成させる。樹脂含有率が高過ぎる場合、ボイドは低減され得るが、繊維体積分率の低下が、機械的性能を含む可能性があり、プリプレグに所望されない重量が付加され得る。
【0061】
硬化されたマトリックス樹脂のガラス転移温度は、繊維強化複合材料の耐熱性に影響を与える。本発明の熱硬化性樹脂組成物の硬化生成物は、高いガラス転移温度を有することが好ましい。具体的には、得られる硬化された材料のガラス転移温度は、>150℃(例:約180℃~約220℃)であることが好ましい。
【0062】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の製造では、ニーダー、プラネタリーミキサー、三本ロールミル、二軸押出機などが有利には用いられてよい。2つ以上のエポキシ樹脂が用いられる場合、エポキシ樹脂が装置に配置された後、エポキシ樹脂を均一に溶解するために、この混合物は、撹拌しながら60~160℃の範囲内の温度に加熱される。このプロセスの過程で、硬化剤を除く他の成分(例:熱可塑性樹脂粒子)がエポキシ樹脂に添加されて、エポキシ樹脂と共に混練されてよい。その後、混合物は、撹拌しながら80℃以下の温度まで冷却され、続いて硬化剤が添加され、これらの成分を分散させるために混練される。
【0063】
次に、繊維強化プラスチック(FRP)材料(別の選択肢として、本明細書において「繊維強化複合材料」と称される)について述べる。本発明で用いられる強化繊維の種類に特に限定又は制限はなく、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、ホウ素繊維、アルミナ繊維、及び炭化ケイ素繊維を含む広範な繊維が用いられてよい。炭素繊維は、特に軽量で堅いFRP材料を提供し得る。例えば、180から800GPaの引張弾性率を有する炭素繊維が用いられてよい。180から800GPaの高い弾性率を有する炭素繊維が熱硬化性樹脂組成物と組み合わされてプリプレグが得られる場合、剛性、強度、及び耐衝撃性の望ましいバランスが、FRP材料で実現され得る。
【0064】
強化繊維の形態に対して特に限定又は制限はなく、例えば、長繊維(一方向に延伸)、トウ、布、マット、ニット、組紐、及び短繊維(10mm未満の長さに切断)を含む様々な形態の繊維が用いられてよい。ここで、長繊維とは、少なくとも10mmにわたって実質的に連続している単繊維又は繊維束を意味する。他方、短繊維とは、10mm未満の長さに切断された繊維束である。強化繊維束が同じ方向に整列された繊維構成は、高い比強度及び比弾性率が必要とされる用途に適し得る。
【0065】
本発明のFRP材料は、プリプレグ積層成形法、レジントランスファー成形法、レジンフィルムインフュージョン法、ハンドレイアップ法、シートモールディングコンパウンド法、フィラメントワインディング法、及びプルトルージョン法などの方法を用いて製造され得るが、これに関して特に限定又は制限は適用されない。これらの方法の中でも、非常に優れた剛性及び強度を得られるFRP材料に付与するために、プリプレグ積層成形法が用いられ得る。
【0066】
プリプレグは、熱硬化性樹脂組成物及び強化繊維の実施形態を含有し得る。そのようなプリプレグは、強化繊維基材を、本発明の熱硬化性樹脂組成物で含浸することによって得られ得る。含浸法としては、ウェット法及びホットメルト法(ドライ法)が挙げられる。
【0067】
ウェット法は、熱硬化性樹脂組成物をメチルエチルケトン又はメタノールなどの溶媒中に溶解することによって作製された熱硬化性樹脂組成物の溶液中に、強化繊維がまず浸漬され、取り出され、続いてオーブンなどによる蒸発を通して溶媒が除去されて、強化繊維が熱硬化性樹脂組成物で含浸される方法である。ホットメルト法は、予め加熱することによって流体とされた熱硬化性樹脂組成物で強化繊維を直接含浸することによって、又は樹脂フィルムとして用いるために、離型紙などを熱硬化性樹脂組成物でまずコーティングし、次に平らな形状に構成された強化繊維の片面若しくは両面の上にフィルムを配置し、続いて熱及び圧力を適用することで強化繊維を樹脂で含浸することによって実行され得る。ホットメルト法では、実質的に残留溶媒を中に含まないプリプレグが得られ得る。
【0068】
プリプレグの強化繊維断面密度(すなわち、FAW)は、約10g/m~300g/mであってよいが、本発明の特に好ましい実施形態では、約10g/m~100g/mである。強化繊維の体積分率が少なくとも50%である場合、このことによって、その非常に優れた比強度及び比弾性率という点でのFRP材料の利点を得ることができ、さらには、硬化時間中にFRP材料が過剰な熱を発生させることを防止することもできる。強化繊維の体積分率が、80%以下である場合、樹脂による含浸を充分とすることができ、FRP材料中に大量のボイドが形成されるリスクが低減される。
【0069】
含浸条件は、得られるプリプレグが、1又は複数の通気経路(未含浸強化繊維の領域)を、典型的には断面で見た場合のプリプレグの中央領域に含有するように、選択、制御されてよい。
【0070】
プリプレグ積層成形法、プレス成形法、オートクレーブ成形法、真空バッグ成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法などでの加熱加圧の適用は、適宜用いられてよい。
【0071】
本発明のプリプレグに用いられる強化繊維は、既に述べたように、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、又はホウ素繊維などであってよい。これらの中でも、炭素繊維が、比強度及び比弾性率の観点から好ましい。
【0072】
本発明のプリプレグでは、単位面積あたりの強化繊維の量は、好ましくは10g/m~300g/m、より好ましくは10g/m~200g/m、最も好ましくは10g/m~100g/mである。強化繊維の量が高い場合、重量の負荷(weight penalty)に加えて、プリプレグの複合厚さ及びドレープ性が損なわれ得る。強化繊維の量が低い場合、積層体の所望される厚さを得るために必要とされる積層される層の数を増加させる必要があるが、重量の軽減及び性能は維持され得る。
【0073】
本発明のプリプレグシートは、好ましくは30%~80%の繊維重量含有率を有し(すなわち、強化繊維は、プリプレグの30重量%~80重量%に相当する)、より好ましくは40%~70%、最も好ましくは50%~65%である。繊維重量含有率が低過ぎる場合、マトリックス樹脂の量が多過ぎる可能性があり、非常に優れた比強度及び比弾性率を有する繊維強化複合材料の利点が実現されなくなる。繊維重量含有率が高過ぎる場合、樹脂が不充分であることによって不適切な含浸が発生する可能性があり、プリプレグを用いて得られる繊維強化複合材料中に大量のボイドが形成される可能性がある。
【0074】
さらに、本発明の積層体は、熱硬化性樹脂組成物(成分(B))を強化繊維のマトリックス(成分(A))に部分的に含浸させて、積層体の形成にその後用いられるプリプレグを得ることによって作り出される、1又は複数の通気性経路を有し得る。通気性は、材料(積層体)の、その材料中に気体(空気)を通過させる状態として表すことができる。本発明の積層体は、(硬化される前に)3.0E-14m未満の面内通気性パラメータを有していてよく、有していることが好ましく、前記積層体の硬化後のボイド率は、<1%である。好ましくは、硬化される前の積層体は、少なくとも1.0E-14mの面内通気性パラメータを有する。したがって、ある特定の実施形態では、本発明に従うプリプレグは、1.0E-14m~3.0E-14mの面内通気性パラメータを有する未硬化の積層体を提供する。積層体を製造するために用いられるプリプレグの通気性が低過ぎる場合、デバルキング時のトラップされた空気及び揮発性物質の完全な引き抜き並びに硬化時の完全なコンソリデーションプロセスが実現されない可能性があり、このことは、部品品質の悪化及びプロセス時間の延長に繋がり、したがって、非効率的な製造方法となる。通気性が高過ぎる状態で維持される場合、樹脂の流動が硬化時に繊維床を完全に濡れさせるのに充分に適切でないことから、積層体の不充分なコンソリデーションが発生する可能性があり、このことは、部品品質の悪化を引き起こし、非効率的な製造方法に繋がる。
【0075】
本発明のある特定の実施形態では、本発明に従うプリプレグ(特に、比較的薄いプリプレグ、例えば、10プライ積層体にレイアップされた場合に、約0.02インチ~約0.04インチの平均厚さを有する未硬化の積層体を提供するプリプレグ、又は約10g/m~約100g/mの繊維目付を有する強化繊維のマトリックスを含有するプリプレグ)の複数プライをレイアップすることによって組み上げられた未硬化の積層体(すなわち、未硬化のプリプレグ積層体)の平均厚さは、それが硬化されて繊維強化複合材料を形成した後の積層体の平均厚さと同程度である。これは、そのようなプリプレグが、未硬化樹脂マトリックス(成分(B)+成分(C)、本明細書において「熱硬化性樹脂組成物」と称される場合もある)で本質的に完全に含浸されており(ニアネット厚さ(near net thickness))、硬化時に最小限の樹脂流動(樹脂喪失)しか呈さないことに起因するものと考えられる。すなわち、未硬化状態と硬化状態との間での積層体の全体厚さの変化は、比較的小さい。したがって、X及びYの値は、積層体の硬化後にほとんど変化しない。未硬化積層体のX及びYの値は、以下の手順に従って測定されてよく:[0°]構造の一方向プリプレグの8プライを用いて、長さ300mm及び幅300mmの積層体を作製し、続いてこれをデバルキングする。長さ25mm×幅25mmのサンプル片をこの未硬化積層体から切り出す。次に、層間層X及び層内層Yが視野内で明確に区別されるように、倍率50×以上の光学顕微鏡を用いて3枚の写真を撮影する。この3枚の写真から、層間層Xに対して25回の厚さ測定を行い、層内層Yに対しても25回の厚さ測定を行う。平均層間厚さ及び平均層内厚さを算出し、X及びYに対する層間厚さ及び層内厚さとして用いる。
【実施例
【0076】
本発明のある特定の実施形態を、例としてより詳細に以降で記載する。様々な特性の測定は、以下で述べる方法を用いて行った。これらの特性は、特に断りのない限り、約23℃の温度及び約50%の相対湿度を含む環境条件下で測定した。実施例及び比較例で用いた成分は以下の通りであった。表1は、成分(B)及び(C)の組成、熱硬化性樹脂の特性、並びにプリプレグ及びそれから製造された硬化された繊維強化複合材料の特性を示す。
【0077】
強化繊維
本発明で用いられる強化繊維の種類に特に限定又は制限はなく、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、ホウ素繊維、アルミナ繊維、及び炭化ケイ素繊維を含む広範な繊維が用いられてよい。炭素繊維は、特に軽量で堅いFRP材料を提供し得る。例えば、180から800GPaの引張弾性率を有する炭素繊維が用いられてよい。180から800GPaの高い弾性率を有する炭素繊維が熱硬化性樹脂組成物と組み合わされてプリプレグが得られる場合、剛性、強度、及び耐衝撃性の望ましいバランスが、そのようなプリプレグから製造された硬化されたFRP材料で実現され得る。
【0078】
強化繊維の形態に対して特に限定又は制限はなく、例えば、長繊維(一方向に延伸)、トウ、布、マット、ニット、組紐、及び短繊維(10mm未満の長さに切断)を含む様々な形態の繊維が用いられてよい。ここで、長繊維とは、少なくとも10mmにわたって実質的に連続している単繊維又は繊維束を意味する。他方、短繊維とは、10mm未満の長さに切断された繊維束である。強化繊維束が同じ方向に整列された繊維構成は、高い比強度及び比弾性率が必要とされる用途に適し得る。
【0079】
熱硬化性樹脂
本発明で有用である熱硬化性樹脂は、本明細書において、熱の適用によって自己硬化して、又は外部からのエネルギー源(例:熱、光、マイクロ波などの電磁波、UV、電子ビーム、又は他の適切な方法)の供給によって硬化剤若しくは架橋化合物と共に硬化されて、必要とされる樹脂弾性率を有する三次元架橋網目構造を形成することができるいずれかの樹脂として定義され得る。2つ以上の異なる熱硬化性樹脂の混合物又はブレンドが用いられてもよい。熱硬化性樹脂は、限定されないが、エポキシ樹脂、エポキシノボラック樹脂、エステル樹脂、ビニルエステル樹脂、シアネートエステル樹脂、マレイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ビスマレイミド-トリアジン樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、レゾルシノール型樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ポリウレタン、及びこれらの混合物から選択され得る。
【0080】
強度、歪、弾性率、及び耐環境影響性の極めて優れたバランスの観点から、一官能性、二官能性、及び高官能性(又は多官能性)のエポキシ樹脂並びにこれらの混合物を含むエポキシ樹脂の使用が有利であり得る。多官能性エポキシ樹脂(1分子あたり2つ以上のエポキシ官能基を含有するエポキシ樹脂)が、非常に優れたガラス転移温度(Tg)、弾性率、及び強化繊維への高い接着性さえも提供することから、好ましくは選択される。これらのエポキシは、アミン(例:ジアミン及び少なくとも1つのアミン基と少なくとも1つのヒドロキシル基とを含有する化合物を用いて製造されたエポキシ樹脂で、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジル-p-アミノフェノール、トリグリシジル-m-アミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、及びテトラグリシジルキシリレンジアミン、並びにこれらの異性体など)、フェノール(例:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールR型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、及びレゾルシノール型エポキシ樹脂)、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、トリス(ヒドロキシフェノール)メタンベースのエポキシ(Huntsman製Tactix(登録商標)742など)、グリオキサールフェノールノボラックのテトラグリシジルエーテル、フルオレンベースのエポキシ、イソシアネート変性エポキシ樹脂、及び炭素-炭素二重結合を有する化合物(例:脂環式エポキシ樹脂)などの前駆体から製造される。エポキシ樹脂が、上記の例に限定されないことには留意されたい。これらのエポキシ樹脂をハロゲン化することによって製造されるハロゲン化エポキシ樹脂が用いられてもよい。さらに、これらのエポキシ樹脂の2つ以上と、グリシジルアニリン、グリシジルトルイジン、又は他のグリシジルアミン(特に、グリシジル芳香族アミン)などの1つのエポキシ基を有する化合物若しくはモノエポキシ化合物との混合物が、熱硬化性樹脂マトリックスの配合に用いられてもよい。
【0081】
市販のビスフェノールA型エポキシ樹脂製品の例としては、jER(登録商標)825、jER(登録商標)828、jER(登録商標)834、jER(登録商標)1001、jER(登録商標)1002、jER(登録商標)1003、jER(登録商標)1003F、jER(登録商標)1004、jER(登録商標)1004AF、jER(登録商標)1005F、jER(登録商標)1006FS、jER(登録商標)1007、jER(登録商標)1009、jER(登録商標)1010(これらは三菱ケミカル株式会社製)、並びにEPON(登録商標)825及びEPON(登録商標)828(Momentive製)が挙げられる。市販の臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂製品の例としては、jER(登録商標)505、jER(登録商標)5050、jER(登録商標)5051、jER(登録商標)5054、及びjER(登録商標)5057(これらは三菱ケミカル株式会社製)が挙げられる。市販の水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂製品の例としては、ST5080、ST4000D、ST4100D、及びST5100(これらは新日鉄化学株式会社製)が挙げられる。
【0082】
市販のビスフェノールF型エポキシ樹脂製品の例としては、jER(登録商標)806、jER(登録商標)807、jER(登録商標)4002P、jER(登録商標)4004P、jER(登録商標)4007P、jER(登録商標)4009P、及びjER(登録商標)4010P(これらは三菱ケミカル株式会社製)、並びにエポトート(登録商標)YDF2001、エポトート(登録商標)YDF2004(これらは新日鉄化学株式会社製)、並びにエピクロン(登録商標)830(大日本インキ化学工業株式会社製)が挙げられる。市販のテトラメチル-ビスフェノールF型エポキシ樹脂製品の例は、YSLV-80XY(新日鉄化学株式会社製)である。
【0083】
ビスフェノールS型エポキシ樹脂の例は、エピクロン(登録商標)EXA-154(DIC株式会社製)である。
【0084】
市販のテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン樹脂製品の例としては、Sumiepoxy(登録商標)ELM434(住友化学株式会社製)、YH434L(新日鉄化学株式会社製)、jER(登録商標)604(三菱ケミカル株式会社製)、並びにアラルダイト(登録商標)MY720、MY721、及びMY722(Huntsman Advanced Materials製)が挙げられる。市販のトリグリシジルアミノフェノール又はトリグリシジルアミノクレゾール樹脂製品の例としては、Sumiepoxy(登録商標)ELM100(住友化学株式会社製)、アラルダイト(登録商標)MY0500、MY0510、及びMY0600、MY0610(これらはHuntsman Advanced Materials製)、並びにjER(登録商標)630(三菱ケミカル株式会社製)が挙げられる。市販のテトラグリシジルキシリレンジアミン製品及びその水素化製品の例としては、TETRAD-X及びTETRAD-C(これらは三菱ガス化学株式会社製)が挙げられる。
【0085】
市販のフェノールノボラック型エポキシ樹脂製品の例としては、jER(登録商標)152及びjER(登録商標)154(これらは三菱ケミカル株式会社製)、並びにエピクロン(登録商標)N-740、N-770、及びN-775(これらはDIC株式会社製)が挙げられる。
【0086】
市販のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂製品の例としては、エピクロン(登録商標)N-660、N-665、N-670、N-673、及びN-695(これらはDIC株式会社製)、並びにEOCN-1020、EOCN-102S、及びEOCN-104S(これらは日本化薬株式会社製)が挙げられる。
【0087】
市販のレゾルシノール型エポキシ樹脂製品の例は、デナコール(登録商標)EX-201(ナガセケムテックス株式会社製)である。
【0088】
市販のナフタレン型エポキシ樹脂製品の例としては、HP-4032、HP4032D、HP-4700、HP-4710、HP-4770、HP-5000、EXA-4701、EXA-4750、及びEXA-7240(これらはDIC株式会社製)、並びにMY0816(これはHuntsman製)が挙げられる。
【0089】
市販のジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂製品の例としては、エピクロン(登録商標)HP7200、HP7200L、HP7200H、及びHP7200HH(これらはDIC株式会社製)、Tactix(登録商標)558(Huntsman Advanced Material製)、並びにXD-1000-1L及びXD-1000-2L(これらは日本化薬株式会社製)が挙げられる。
【0090】
市販のビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂製品の例としては、jER(登録商標)YX4000H、YX4000、及びYL6616(これらは三菱ケミカル株式会社製)、並びにNC-3000(日本化薬株式会社製)が挙げられる。
【0091】
市販のイソシアネート変性エポキシ樹脂製品の例としては、AER4152(旭化成エポキシ株式会社製)、及びACR1348(株式会社ADEKA製)が挙げられ、これらの各々は、オキサゾリドン環を有する。
【0092】
適切なエポキシ樹脂は、室温(23℃)で固体、半固体、又は液体であってよい。固体、半固体、及び/又は液体エポキシ樹脂の混合物が用いられてもよい。
【0093】
適切な他の種類のエポキシ樹脂としては、GAN(日本化薬株式会社製)などのグリシジルアニリン、GOT(日本化薬株式会社製)などのグリシジルトルイジン、及びアラルダイト(登録商標)MY9655(Huntsman Advanced Materials)などのテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンが挙げられる。
【0094】
熱可塑性樹脂粒子
1又は複数の熱可塑性樹脂の粒子が、熱硬化性樹脂、及び所望に応じて硬化剤などの1又は複数の他の成分と共に、熱硬化性樹脂組成物中に用いられてよい。そのような粒子の形状及び形態は、特に限定されない。例えば、粒子は、粉末及び/又は繊維の形態であってよい。熱可塑性樹脂粒子の形状又は形態は、球状、非球状、多孔性、中実、中空、針形状、ウィスカー形状、又はフレーク形状であってもよい。
【0095】
熱可塑性樹脂繊維が用いられる場合、そのような繊維は、短繊維又は長繊維であってよい。短繊維の場合、特開平02-69566(A)号に記載のように粒子と同様に繊維を用いる方法、又はマットでのプロセスの方法が可能である。長繊維の場合、特開平04-292634(A)号に記載のようにプリプレグの表面上に水平方向に長繊維を配向する方法、又は国際公開第94016003(A)号に記載のように繊維をランダムに配向する方法が用いられ得る。さらに、繊維は、特開平02-32843(A)号に記載のように織物などの、又は国際公開第94016003(A)号に記載のように不織材若しくは編物などのシート型の基材としてプロセスされ、用いられてもよい。さらに、短繊維チップ、チョップドストランド、ミルドファイバー、及び短繊維が、スレッドとして紡糸され、次に水平方向に又はランダムに配向されて織物又は編物が形成される方法が用いられてもよい。
【0096】
熱可塑性樹脂粒子は、繊維層を含浸してプリプレグを形成するのに用いられる熱硬化性樹脂組成物(未硬化樹脂マトリックス)の他の成分と組み合わされた場合に、熱可塑性樹脂粒子が25℃で熱硬化性樹脂中に溶解せず、むしろ個別の粒子として維持されるように選択されるべきである。1又は複数の熱可塑性樹脂に加えて、粒子は、フィラー、安定剤などの熱可塑性樹脂に典型的に用いられるいずれの添加剤も含む1又は複数の追加成分を含んでいてもよい。
【0097】
好ましくは、熱可塑性樹脂粒子の粒子サイズは、約5ミクロン~50ミクロンの範囲内である。特に、熱可塑性樹脂粒子の粒子サイズ分布は、レーザー回折散乱法、及び合計体積を100%として特定される積算曲線によって測定されてよく、90%の積算曲線を有する熱可塑性樹脂粒子の粒子径が、5~20ミクロンである。本明細書において、粒子径は、粒子サイズ分布がレーザー回折散乱法によって測定された場合の、合計体積が100%である積算曲線上の各体積%における粒子径を意味する。本発明で用いられる粒子サイズ分布は、Seishin Enterprise Co.,Ltd.製のLMS-24を用いたレーザー回折散乱法によって測定される。粒子径は、得られた粒子サイズ分布の積算曲線上の50体積%(メジアン径)及び90体積%で特定される。
【0098】
熱可塑性樹脂粒子の熱可塑性樹脂は、結晶性であっても、又は非晶性であってもよい。詳細には、ポリアミド、ポリカーボナート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド、フェニルトリメチルインダン構造を有するポリイミド樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリエーテルニトリル、及びポリベンズイミダゾールから成る群より選択される少なくとも1つの種類の熱可塑性樹脂が、熱可塑性樹脂粒子を形成するために用いられる。ポリアミド粒子が、本発明での使用のために特に好ましい。ポリアミドの中でも、ナイロン12、ナイロン11、ナイロン6、ナイロン6/12コポリマー、及び特開平01-104624号の実施例1に開示されているセミIPN(相互侵入高分子網目構造)を有するようにエポキシ化合物で修飾されたナイロン(セミIPNナイロン)は、エポキシ樹脂と組み合わされて、特に良好な接着強度を付与し、ナイロン6/12コポリマーは、熱硬化性樹脂組成物に特に好ましい接着強度を付与する。
【0099】
熱可塑性樹脂粒子の量は、好ましくは、プリプレグシートの総重量に対して20重量%以下であり、及び/又は、好ましくは、プリプレグシートの総重量に対して1重量%以上である。
【0100】
可溶性熱可塑性樹脂
本発明のある特定の態様によると、硬化された際にマトリックス樹脂の靭性を向上させ、同時に熱硬化性樹脂組成物の粘度を制御するなどの改善効果を提供する目的で、熱硬化性樹脂組成物は、少なくとも1つの熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂粒子に加えて、熱硬化性樹脂中にブレンドされ、溶解された少なくとも1つの熱可塑性樹脂(以降、「可溶性熱可塑性樹脂」と称する場合がある)を含んでよい。さらに、可溶性熱可塑性樹脂は、結晶性であっても、又は非晶性であってもよい。特に、ポリアミド、ポリカーボナート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド、フェニルトリメチルインダン構造を有するポリイミド樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリエーテルニトリル、及びポリベンズイミダゾールから成る群より選択される少なくとも1つの種類の可溶性熱可塑性樹脂が用いられる。これらの可溶性熱可塑性樹脂は、市販の重合体であってよい、又は市販の重合体よりも低い分子量を有するいわゆるオリゴマーであってよい。
【0101】
10000から70000g/molの数平均分子量を有する可溶性熱可塑性樹脂が、好ましくは用いられ、最も好ましくは、20000から60000g/molの数平均分子量を有する可溶性熱可塑性樹脂である。好ましい範囲内の数平均分子量を有する熱可塑性樹脂が用いられ、熱硬化性樹脂中に溶解される場合、プリプレグのプロセスが損なわれない限りにおいて、多量の可溶性熱可塑性樹脂が組み込まれてよい。その結果、それから得られる硬化された繊維強化複合材料において、良好な樹脂の流動、高い靭性、及び高い引張強度を実現することができる。
【0102】
さらに、熱硬化性樹脂組成物中のこれらの可溶性熱可塑性樹脂の配合量は、熱硬化性樹脂(例:エポキシ樹脂)の100重量部あたり、好ましくは5から30重量部、より好ましくは10から25重量部、最も好ましくは10から23重量部である。熱可塑性樹脂の配合量が低過ぎる場合、靭性が失われ得る可能性がある。熱可塑性樹脂の配合量が高過ぎる場合、靭性は改善され得るが、樹脂粘度の著しい上昇に起因してプロセス性が失われる可能性があり、極端なプロセス条件の原因となる。
【0103】
適切な可溶性熱可塑性樹脂としては、例えば、47000g/molの数平均分子量を有する「スミカエクセル(登録商標)」PES5003P(住友化学株式会社製)などの末端ヒドロキシル基を有するポリエーテルスルホンが挙げられる。
【0104】
以下の方法を用いて、各実施例における熱硬化性樹脂組成物及びプリプレグの特性決定を行った。
【0105】
(1)熱硬化性樹脂組成物の粘度測定
硬化剤以外のすべての成分の所定量をミキサー中で溶解することによって混合物を作り、次に所定量の硬化剤を混合物に混合して、熱硬化性樹脂組成物を得た。40℃での粘度及び最低粘度を、以下の方法によって特定する。
【0106】
熱硬化性樹脂組成物の粘度は、パラレルプレートを用いた動的粘弾性測定装置(ARES、TA Instruments製)を用い、2℃/分の速度で昇温しながら、歪10%、周波数0.5Hz、及びプレート間隔1mm、及びプレート寸法40mmで、30℃から170℃で測定した。本発明において、粘度とは、複素粘弾性係数を意味する。最低粘度は、2℃/分の昇温速度、振動周波数0.5Hz、及びパラレルプレート(40mm径)の条件下での温度と粘度との相関曲線から算出することができる。30℃での粘度(初期粘度と称する)及び最低粘度(最高樹脂流動性点(highest resin flow point)と称する→ほぼ液体状態)は、同じパラメータを用いたARES装置のプロットから曲線を作成して得ることができる。
【0107】
(2)繊維強化複合材料のボイド率測定
[0°]構造で8プライの一方向プリプレグから成り、積層体長さ300mm及び幅300mmの硬化された複合材料を、製造した。この積層体から長さ25mm×幅25mmの3つのサンプル片を切り出し、断面を研磨し、次に、積層体の上表面及び下表面が視野内に収まるようにして、倍率50×以上の光学顕微鏡を用いて各サンプル片に対して3枚、合計9枚の写真を撮影した。断面積に対するボイドの表面積率を算出し、平均ボイド率をボイド率として用いた。
【0108】
(3)以下の手順を用いて、複数のプリプレグを用いて製造した積層体の面内通気性を測定する。通気性試験測定は、「Gas Transport and Water Vapourization in Out-of-Autoclave Prepreg Laminates」(University of British Columbia 2012)と題するKevin Hsiaoの修士論文の36~48ページに記載の手順に従って行った。面内及び厚さ方向の気体通気性を測定し、アウトタイム、保存、及び真空コンディショニング時間などのプロセス条件の効果を記録した。まず、4~10プライの一方向プリプレグを、およそ50mm(w)×300mm(l)の寸法で切り出した。次に、所望される公称厚さ(およそ0.03インチ(0.7mm))に基づいてプライをレイアップし、約95kPaのレベルの真空下、室温(約23℃)でコンソリデーションした。各サンプルを、図3に示されるように、2つの通気エッジ部(breathing edges)が面内試験方向に露出したままとなるようにレイアップした。露出したエッジ部を、ガラス繊維束で覆い、ブリーザーの層及び真空ポートと接触して配置して、気体(空気)の除去及びモニタリングのための完全な経路を形成した。次に、通気性試験機を、リークしていないかどうか確認した。その後、試験を開始し、定常状態の流れが得られたところで、流量データを、所望される時間間隔で記録した。
【0109】
この試験では、積層体スタックを通してのQを測定して、通気性Kを、ダルシーの定常流から算出するものであり:
【数1】
数式中:
K[m]は、通気性であり、
Q[m/s]は、定常状態の体積流量であり、
μ[Pa*s]は、室温における空気の動粘度であり、
L[m]は、サンプル長さであり、
A[m]は、断面積であり、
[Pa]は、流入圧力であり、
[Pa]は、流出圧力である。
【0110】
(4)以下の手順を用いて、プリプレグをレイアップして積層体とし、その積層体を硬化することによって得られる繊維強化複合材料の厚さX及びYを測定する。
【0111】
[0°]構造で8プライの一方向プリプレグから成り、積層体長さ300mm及び幅300mmの硬化された複合材料を製造する。この硬化積層体から、長さ25mm×幅25mmのサンプル片を切り出し、断面を研磨する。次に、層間層X及び層内層Yが視野内で明確に区別されるように、倍率50×以上の光学顕微鏡を用いて3枚の写真を撮影する。この3枚の写真から、層間層Xに対して25回の厚さ測定を行い、層内層Yに対しても25回の厚さ測定を行う。平均層間厚さ及び平均層内厚さを算出し、X及びYに対する層間厚さ及び層内厚さとして用いる。
【0112】
(5)衝撃後圧縮(CAI)
一方向プリプレグを、[+45°/0°/-45°/90°]構成で擬似等方性となるように積み重ねて、公称厚さ約0.18”を実現する。次に、プリプレグ積層体を、真空容器に入れて約100kPaの真空度を用いて室温で3時間脱気することによる真空バッグのみのプロセスを用いて、成形する。脱気完了後、積層体を1.7℃/分の速度で室温から120℃とし、120℃で240分間保持し、その後、最終的に1.7℃/分の速度で180℃として120分間硬化して、繊維強化複合材料を得る。長さ150mm及び幅100mmのサンプルをこの積層体から切り出し、衝撃後圧縮強度を、SACMA SRM 2R-94に従ってサンプル中央部に6.7J/mmの落錘衝撃を加えることによって特定する。
【0113】
実施例1~2、及び4~7、並びに比較例1~2
13重量部のPES5003Pポリエーテルスルホンを、ニーダー中、60重量部のアラルダイト(登録商標)MY9655及び40重量部のEPc830(登録商標)に添加、溶解し、45重量部のAradur(登録商標)9664-1を、硬化剤として混練し、次に20重量部の微粒子(成分(C))を添加して、熱硬化性樹脂組成物(成分(B))を製造した。比較例2では、実施例1~2、及び4~7、並びに比較例の場合と1同じ手順に従ったが、微粒子(成分(C))は除外した。
【0114】
製造した熱硬化性樹脂組成物(成分(B)、例の一部では成分(C)と組み合わせた)を、ナイフコーターを用いて離型紙上に適用して、約20~30g/mの重量を有する2枚の樹脂フィルムを得た。次に、上述の製造した2枚の樹脂フィルムを、密度1.8g/cmでシートの形態の一方向に配向した炭素繊維(T1100;成分(A))の両側に重ね合わせ、ローラー温度130℃及びローラー圧0.20MPaを用いて炭素繊維のシートに樹脂を含浸させて、炭素繊維目付70g/m及びマトリックス樹脂重量分率33~48%である一方向プリプレグを製造した。
【0115】
前述のプリプレグの8プライを室温でレイアップすることによって、積層体(繊維強化複合材料の前駆体)を製造し、以下で定めるように、真空容器にそれを入れて約100kPaの真空度を用いて室温で3時間脱気することによる真空バッグのみのプロセスを用いて成形した。脱気完了後、積層体を1.7℃/分の速度で室温から120℃とし、120℃で240分間保持し、その後、最終的に1.7℃/分の速度で180℃として120分間硬化して、繊維強化複合材料を得た。
【0116】
比較例1及び2と比較して、同等の3.0E-14m未満の面内通気性レベルであるが、樹脂含有率を36%~48%増加し、層間層と層内層との間の厚さ比2X/Yを0.6~1.0とすることにより、脱オートクレーブ成形プロセスにおいて、衝撃後圧縮(CAI)の良好な機械的性能を依然として維持しながら、ボイド含有率<1%が実現される。微粒子の成分(C)を含まない比較例2の場合、ボイド含有率<1%は実現されるが、CAIの機械的性能が失われ、さらには、粘度レベルが低過ぎて、OOA成形プロセスに適するセミプリプレグを製造することができない。さらに、実施例2は、同じ充填量で異なる層間強化粒子(PA2)を用いているが、<1%のボイド及び良好な機械的性能を実現しながら、同等の面内通気性を示している。
【0117】
実施例3及び比較例1~2
18重量部のPES5003Pポリエーテルスルホンを、樹脂粘度を上げるために、ニーダー中、60重量部のアラルダイト(登録商標)MY9655及び40重量部のEPc830(登録商標)に添加、溶解し、45重量部のAradur(登録商標)9664-1を、硬化剤として混練し、次に20重量部の微粒子(成分(C))を添加して、熱硬化性樹脂組成物(成分(B))を製造した。比較例1及び2と比較して、樹脂粘度を上げ、樹脂含有率を36%に増加し、層間厚さと層内厚さとの厚さ比(2X/Y)を0.6~1.0とすることにより、脱オートクレーブ成形プロセスにおいて、CAIの良好な機械的性能を依然として維持しながら、ボイド含有率<1%が実現される。
【0118】
実施例8及び比較例3
プリプレグの製造に用いた強化繊維のマトリックスが90g/mの繊維目付を有すること以外は実施例1~2及び4~7と同様にして、プリプレグ及び積層体を製造した。比較例3と比較して、樹脂含有率を40%に増加し、層間厚さと層内厚さとの厚さ比(2X/Y)を0.6~1.0とすることにより、脱オートクレーブ成形プロセスにおいて、CAIの良好な機械的性能を依然として維持しながら、ボイド含有率<1%が実現される。
【0119】
実施例9~10及び比較例4~5
用いた繊維の種類が150g/m及び190g/mの繊維目付を有するT800であること以外は実施例1~2及び4~7と同様にして、プリプレグ及び積層体を製造した。比較例4及び5と比較して、樹脂含有率を40%に増加し、層間厚さと層内厚さとの厚さ比(2X/Y)を0.6~1.0とすることにより、脱オートクレーブ成形プロセスにおいて、CAIの良好な機械的性能を依然として維持しながら、ボイド含有率<1%が実現される。実施例9及び10において類似の改善が見られたものの、樹脂含有率の増加の結果、プリプレグの望ましくない重量負荷がもたらされる。
【0120】
実施例11及び比較例6
用いた繊維の種類が301g/mの繊維目付を有するT800であること以外は実施例1~2及び4~7と同様にして、プリプレグ及び積層体を製造した。比較例6と比較して、樹脂含有率を42%に増加し、層間厚さと層内厚さとの厚さ比(2X/Y)を0.6~1.0とすることにより、脱オートクレーブ成形プロセスにおいて、CAIの良好な機械的性能を依然として維持しながら、ボイド含有率<1%が実現される。実施例及び11において類似の改善が見られたものの、樹脂含有率の増加の結果、プリプレグの望ましくない重量負荷及び厚さの増加がもたらされる。
【0121】
【表1】
図1
図2
図3