(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】絶縁電線、ワイヤーハーネス、絶縁電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 7/285 20060101AFI20230214BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
H01B7/285
H01B7/00 301
(21)【出願番号】P 2020569239
(86)(22)【出願日】2019-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2019003196
(87)【国際公開番号】W WO2020157868
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】古川 豊貴
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102011083952(DE,A1)
【文献】特開2007-226999(JP,A)
【文献】特開2008-117616(JP,A)
【文献】特開2016-225112(JP,A)
【文献】特開2000-011771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/285
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料よりなる素線が複数撚り合わせられた導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する絶縁電線において、
前記絶縁電線は、前記絶縁被覆が前記導体の外周から除去された露出部と、前記絶縁被覆が前記導体の外周を被覆した状態にある被覆部と、を長手軸方向に沿って隣接して有し、
さらに、前記露出部における前記素線の間の空間に、止水剤が充填された止水部を有し、
前記止水剤の表面に囲まれた領域において、前記素線の表面は、前記止水剤または他の素線に接触しており、
前記止水部を前記絶縁電線の長手軸方向に垂直に切断した断面における前記素線の楕円率が、前記被覆部を前記絶縁電線の長手軸方向に垂直に切断した断面における前記素線の楕円率よりも小さくなっていることを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
前記止水部を前記絶縁電線の長手軸方向に垂直に切断した断面において、前記導体の外周部に位置する前記素線が、それよりも内側に位置する前記素線よりも、扁平な形状を有していることを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記素線を該素線の軸線方向に垂直に切断した断面の形状は、前記導体の外周部に位置する前記素線と、それよりも内側に位置する前記素線とで、同じであり、
前記止水部を前記絶縁電線の長手軸方向に垂直に切断した断面において、前記導体の外周部に位置する前記素線が、それよりも内側に位置する前記素線よりも、扁平な形状を有していることを特徴とする
請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記止水剤の表面に囲まれた領域は、気泡を含まないか、気泡として、前記導体よりも外側に、全周を前記止水剤に囲まれた気泡のみを含むことを特徴とする請求項1から
3のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記止水部において、前記止水剤は、前記導体の全周を囲んで充填されていることを特徴とする請求項1から
4のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項6】
前記止水部を前記絶縁電線の長手軸方向に垂直に切断した断面において、前記止水剤は、前記導体の一部の領域を囲む部分充填域に充填されており、前記止水部の前記長手軸方向全域にわたって前記部分充填域を重畳したものが、前記導体を全周にわたって囲む領域を占めることを特徴とする請求項1から
4のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項7】
前記導体を構成する全ての前記素線は、該素線の軸線方向に垂直に切断した断面が円形となっていることを特徴とする請求項1から
6のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項8】
前記絶縁電線の長手軸方向に対する傾斜角が、前記導体の外周部に位置する前記素線において、それよりも内側に位置する前記素線よりも大きくなっていることにより、前記止水部を前記絶縁電線の長手軸方向に垂直に切断した断面において、前記導体の外周部に位置する前記素線が、それよりも内側に位置する前記素線よりも、扁平な形状を有していることを特徴とする請求項1から
7のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項9】
請求項1から
8のいずれか1項に記載の絶縁電線を有し、
前記絶縁電線の両端に、それぞれ、他の機器に接続可能な電気接続部を備えていることを特徴とするワイヤーハーネス。
【請求項10】
前記絶縁電線の両端に設けられた前記電気接続部のうち、一方は、外部からの水の侵入を抑制する防水構造を備え、他方は、該防水構造を備えず、
前記止水部は、それら2つの電気接続部の間の位置に設けられていることを特徴とする請求項
9に記載のワイヤーハーネス。
【請求項11】
導電性材料よりなる素線が複数撚り合わせられた導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆とを有する絶縁電線において、前記絶縁被覆が前記導体の外周から除去された露出部と、前記絶縁被覆が前記導体の外周を被覆した状態にある被覆部と、を前記絶縁電線の長手軸方向に沿って隣接させて設ける部分露出工程と、
前記露出部における前記素線の間の空間に、硬化性樹脂組成物よりなる止水剤を充填する充填工程と、
前記絶縁電線を軸回転させながら、前記露出部に充填した前記止水剤を硬化させる硬化工程と、を実行し、請求項1から
8のいずれか1項に記載の絶縁電線を製造することを特徴とする絶縁電線の製造方法。
【請求項12】
前記充填工程の完了後、前記硬化工程を開始するまでの間、前記絶縁電線を軸回転させておくことを特徴とする請求項
11に記載の絶縁電線の製造方法。
【請求項13】
前記充填工程においては、前記止水剤の噴流に、前記露出部を接触させることで、前記止水剤を前記素線の間に充填することを特徴とする請求項
11または
12に記載の絶縁電線の製造方法。
【請求項14】
前記部分露出工程と前記充填工程の間に、前記露出部における単位長さあたりの前記導電性材料の密度を高めながら、前記露出部における前記素線の間隔を広げる密度変調工程を実行するとともに、
前記充填工程を実行した後、前記露出部における前記素線の間隔を狭めて前記素線の撚りピッチを小さくする再緊密化工程を実行することを特徴とする請求項
11から
13のいずれか1項に記載の絶縁電線の製造方法。
【請求項15】
前記充填工程において、前記露出部の径方向一端から他端までの間の領域の半分以上を占めて、前記素線の間の空間に前記止水剤を充填した充填領域と、前記素線の間の領域に前記止水剤を充填しない非充填領域とを、前記露出部の径方向に隣接させて設けることを特徴とする請求項
14に記載の絶縁電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線、ワイヤーハーネスおよび絶縁電線の製造方法に関し、さらに詳しくは、絶縁被覆が除去されて止水剤によって止水処理を施された止水部を有する絶縁電線およびワイヤーハーネス、またそのような絶縁電線を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁電線において、長手軸方向の一部の部位に止水処理が施される場合がある。この際、従来一般には、絶縁電線上に止水部を形成する位置において、絶縁被覆を除去して導体を露出させた状態で、導体を構成する素線の間に止水剤を浸透させる。素線間に止水剤を浸透させる方法は、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1では、芯線間の小さい隙間にも止水材を確実に浸透させることを目的として、被覆電線の一部を加圧室に収容し、加圧室内に送り込んだ気体を被覆電線の絶縁被覆内を通して加圧室外に排出しながら、ホットメルト材よりなる止水材を芯線の間に強制的に浸透させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
絶縁電線において、露出させた導体の素線間に止水剤を充填して、止水処理を施す場合に、止水性能は、使用する止水剤の特性や量のみならず、止水剤の空間分布にも影響される。同じ止水剤を使用するとしても、所定の領域に、止水剤をどのように分布させるかによって、十分な止水性能が得られない場合もありうる。例えば、特許文献1に記載されるように、被覆電線を収容した加圧室に気体を送り込みながら止水剤の浸透を行う場合に、送り込んだ気体が止水剤の層に取り込まれて、止水剤の空間分布に影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
本発明の課題は、止水部における止水剤の空間分布によって、高い止水性能を有する絶縁電線、およびそのような絶縁電線を備えたワイヤーハーネス、またそのような絶縁電線の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明にかかる絶縁電線は、金属材料よりなる素線が複数撚り合わせられた導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する絶縁電線において、前記絶縁電線は、前記絶縁被覆が前記導体の外周から除去された露出部と、前記絶縁被覆が前記導体の外周を被覆した状態にある被覆部と、を長手軸方向に沿って隣接して有し、さらに、前記露出部における前記素線の間の空間に、止水剤が充填された止水部を有し、前記止水剤の表面に囲まれた領域において、前記素線の表面は、前記止水剤または他の素線に接触している。
【0007】
ここで、前記止水剤の表面に囲まれた領域は、気泡を含まないか、気泡として、前記導体よりも外側に、全周を前記止水剤に囲まれた気泡のみを含むとよい。
【0008】
また、前記止水部を前記絶縁電線の長手軸方向に垂直に切断した断面において、前記導体の外周部に位置する前記素線が、それよりも内側に位置する前記素線よりも、扁平な形状を有しているとよい。さらに、前記止水部を前記絶縁電線の長手軸方向に垂直に切断した断面における前記素線の楕円率が、前記被覆部を前記絶縁電線の長手軸方向に垂直に切断した断面における前記素線の楕円率よりも小さいとよい。
【0009】
前記止水部において、前記止水剤は、前記導体の全周を囲んで充填されているとよい。あるいは、前記止水部を前記絶縁電線の長手軸方向に垂直に切断した断面において、前記止水剤は、前記導体の一部の領域を囲む部分充填域に充填されており、前記止水部の前記長手軸方向全域にわたって前記部分充填域を重畳したものが、前記導体を全周にわたって囲む領域を占めるとよい。
【0010】
本発明にかかるワイヤーハーネスは、上記のような絶縁電線を有し、前記絶縁電線の両端に、それぞれ、他の機器に接続可能な電気接続部を備えている。
【0011】
ここで、前記絶縁電線の両端に設けられた前記電気接続部のうち、一方は、外部からの水の侵入を抑制する防水構造を備え、他方は、該防水構造を備えず、前記止水部は、それら2つの電気接続部の間の位置に設けられているとよい。
【0012】
本発明にかかる絶縁電線の製造方法は、導電性材料よりなる素線が複数撚り合わせられた導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆とを有する絶縁電線において、前記絶縁被覆が前記導体の外周から除去された露出部と、前記絶縁被覆が前記導体の外周を被覆した状態にある被覆部と、を前記絶縁電線の長手軸方向に沿って隣接させて設ける部分露出工程と、前記露出部における前記素線の間の空間に、硬化性樹脂組成物よりなる止水剤を充填する充填工程と、前記絶縁電線を軸回転させながら、前記露出部に充填した前記止水剤を硬化させる硬化工程と、を実行し、上記のような絶縁電線を製造するものである。
【0013】
ここで、前記充填工程の完了後、前記硬化工程を開始するまでの間、前記絶縁電線を軸回転させておくとよい。
【0014】
また、前記充填工程においては、前記止水剤の噴流に、前記露出部を接触させることで、前記止水剤を前記素線の間に充填するとよい。
【0015】
前記部分露出工程と前記充填工程の間に、前記露出部における単位長さあたりの前記導電性材料の密度を高めながら、前記露出部における前記素線の間隔を広げる密度変調工程を実行するとともに、前記充填工程を実行した後、前記露出部における前記素線の間隔を狭めて前記素線の撚りピッチを小さくする再緊密化工程を実行するとよい。
【0016】
この場合に、前記充填工程において、前記露出部の径方向一端から他端までの間の領域の半分以上を占めて、前記素線の間の空間に前記止水剤を充填した充填領域と、前記素線の間の領域に前記止水剤を充填しない非充填領域とを、前記露出部の径方向に隣接させて設けることができる。
【発明の効果】
【0017】
上記発明にかかる絶縁電線においては、導体を構成する素線の間に止水剤が充填されており、素線の表面は、止水剤か他の素線に接触している。つまり、隣接する素線同士、また素線と止水剤を、空気の層等、他の物質を介さずに密着させて、止水剤が分布している。このように、止水剤を、素線の間の空間に均一性高く充填することで、素線間の空間への水の侵入を効果的に抑制できる、高い止水性能を有する止水部を形成することができる。
【0018】
ここで、止水剤の表面に囲まれた領域が、気泡を含まないか、気泡として、導体よりも外側に、全周を止水剤に囲まれた気泡のみを含む場合には、止水部の止水性能を効果的に高めることができる。導体よりも外側に形成され、全周を止水剤に囲まれた気泡は、存在していても、素線に対する止水剤の密着性を低下させるものとはなりにくく、止水部の止水性能に、大きな影響を与えにくい。
【0019】
また、止水部を絶縁電線の長手軸方向に垂直に切断した断面において、導体の外周部に位置する素線が、それよりも内側に位置する素線よりも、扁平な形状を有している場合には、導体の外周部に位置する素線が、それよりも内側に位置する素線よりも、絶縁電線の長手軸方向に対して、大きく傾斜して配置されていることになる。つまり、外周部に位置する素線が、傾斜角の大きな螺旋をなして撚られていることになり、このことは、露出部において、素線の間の空間に、十分な量の止水剤が保持され、高い止水性能が得られることの指標となる。
【0020】
さらに、止水部を絶縁電線の長手軸方向に垂直に切断した断面における素線の楕円率が、被覆部を絶縁電線の長手軸方向に垂直に切断した断面における素線の楕円率よりも小さい場合には、素線が、止水部において、被覆部よりも、絶縁電線の長手軸方向に対して、大きく傾斜して配置されていることになる。つまり、素線が、露出部において、被覆部よりも、小さいピッチで撚り合わせられていることになる。露出部における素線の撚りピッチを小さくしておくことで、止水部の形成に際し、流動性の高い状態で素線の間の空間に充填された止水剤が、素線の間の空間に保持されやすく、止水剤の垂下や流出の影響を避けて、高い止水性能を有する止水部を形成しやすくなる。
【0021】
止水部において、止水剤が、導体の全周を囲んで充填されている場合には、止水部の各部において、高い止水性能を確保しやすい。
【0022】
あるいは、止水部を絶縁電線の長手軸方向に垂直に切断した断面において、止水剤が、導体の一部の領域を囲む部分充填域に充填されており、止水部の長手軸方向全域にわたって部分充填域を重畳したものが、導体を全周にわたって囲む領域を占める場合には、止水部の各部の断面においては、導体の一部の領域にしか止水剤が充填されないため、止水剤の使用量を少なく抑えるとともに、止水部の外径を小さく抑えやすくなる。一方、止水部の長手方向全域で見た止水剤の分布としては、導体の全周を囲んで止水剤が配置された状態にあり、止水部全体として、十分に高い止水性能を達成することができる。
【0023】
上記発明にかかるワイヤーハーネスは、上記のような絶縁電線を有し、絶縁電線の両端に、それぞれ、他の機器に接続可能な電気接続部を備えている。絶縁電線の止水部において、導体を構成する素線の間に止水剤が充填されており、かつ、素線の表面が、止水剤か他の素線に接触していることにより、高い止水性能を有するワイヤーハーネスとなる。特に、両端の電気接続部の一方に水が接触することがあっても、その水が絶縁電線を構成する導体を伝って他方の電気接続部、およびその電気接続部に接続された機器に侵入するのを、効果的に抑制することができる。
【0024】
ここで、絶縁電線の両端に設けられた電気接続部のうち、一方が、外部からの水の侵入を抑制する防水構造を備え、他方が、該防水構造を備えず、止水部が、それら2つの電気接続部の間の位置に設けられている場合には、防水構造を備えていない方の電気接続部に水が侵入することがあっても、その水が絶縁電線を構成する導体を伝って、防水構造を備えた方の電気接続部、およびその電気接続部に接続された機器に侵入するのを、効果的に抑制することができる。そのため、一方の電気接続部に形成された防水構造による防水性能の有効性を高め、その電気接続部が形成された機器を、水の侵入から高度に保護することができる。
【0025】
上記発明にかかる絶縁電線の製造方法においては、充填工程において、露出部における素線の間の空間に、硬化性樹脂組成物よりなる止水剤を充填した後、硬化工程において、絶縁電線を軸回転させながら、露出部に充填した止水剤を硬化させる。絶縁電線を軸回転させることにより、未硬化の状態にある充填剤の空間分布の均一性を高めた状態で、止水剤を硬化させることができる。よって、止水部の各部において、止水剤を、素線に密着した状態で均一性高く充填して硬化させることができ、高い止水性能を有する止水部を備えた絶縁電線が製造される。
【0026】
ここで、充填工程の完了後、硬化工程を開始するまでの間、絶縁電線を軸回転させておく場合には、未硬化の状態にある充填剤の空間分布の均一性を高める効果に、特に優れる。よって、特に止水性能に優れた止水部を備えた絶縁電線を製造しやすい。
【0027】
また、充填工程において、止水剤の噴流に、露出部を接触させることで、止水剤を素線の間に充填する場合には、気泡の発生を抑制しながら、素線の間の空間に、止水剤を均一性高く充填しやすい。
【0028】
部分露出工程と充填工程の間に、露出部における単位長さあたりの導電性材料の密度を高めながら、露出部における素線の間隔を広げる密度変調工程を実行するとともに、充填工程を実行した後、露出部における素線の間隔を狭めて素線の撚りピッチを小さくする再緊密化工程を実行する場合には、密度変調工程において、露出部における素線の間隔を広げておくことで、充填工程において、素線の間の空間への止水剤の充填を、高い均一性をもって、かつ効率的に行いやすくなる。さらに、充填工程の後に再緊密化工程を実施することで、充填工程において充填した止水剤を素線間の空間に保持しやすくなるので、得られる絶縁電線において、優れた止水性能を達成しやすくなる。また、再緊密化工程を実施することで、止水部の断面において、露出部の導体を構成する素線、特に導体の外周部に位置する素線を、扁平な形状をとるものとしやすい。
【0029】
この場合に、充填工程において、露出部の径方向一端から他端までの間の領域の半分以上を占めて、素線の間の空間に止水剤を充填した充填領域と、素線の間の領域に止水剤を充填しない非充填領域とを、露出部の径方向に隣接させて設ける形態においては、充填工程において、露出部の径方向に沿って一部の領域にしか止水剤を充填しなくても、充填工程の後に再緊密化工程を実行することで、止水剤を、導体の径方向の広い領域に分布させることが可能となる。よって、止水剤の使用量を少なく抑えながら、高い止水性能を有する止水部を、形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の第一の実施形態にかかる絶縁電線を示す透視側面図である。
【
図3】止水剤の中に素線に接触した気泡を有する止水部を示す断面図である。
【
図4】本発明の第二の実施形態にかかる絶縁電線を示す図であり、(a)は側面図、(b)および(c)はそれぞれ(a)中のA-A断面図およびB-B断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態にかかるワイヤーハーネスを、両端に接続される機器とともに示す概略側面図である。
【
図6】本発明の第一の実施形態にかかる絶縁電線を製造するための各工程を示すフロー図である。
【
図7】上記絶縁電線を製造するための各工程を説明する絶縁電線の断面図であり、(a)は止水部を形成する前の状態、(b)は部分露出工程、(c)は緊密化工程を示している。
【
図8】上記絶縁電線を製造するための各工程を説明する絶縁電線の断面図であり、(a)は弛緩工程、(b)は充填工程、(c)は再緊密化工程を示している。
【
図9】上記絶縁電線を製造するための各工程を説明する絶縁電線の断面図であり、(a)は被覆移動工程、(b)は硬化工程を示している。
【
図10】導体の断面における素線の楕円率と撚りピッチとの関係を説明する概念図であり、(a)は1本の素線の側面図、(b)は撚りの1ピッチ分を示す断面図である。
【
図11】実際に作製した止水部の断面を示す写真であり、(a)は実施例、(b)は比較例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を用いて本発明の実施形態にかかる絶縁電線およびワイヤーハーネス、また絶縁電線の製造方法について、詳細に説明する。
【0032】
[第一の実施形態にかかる絶縁電線]
(絶縁電線の概略)
図1に、本発明の第一の実施形態にかかる絶縁電線1の概略を示す。絶縁電線1は、金属材料よりなる素線2aが複数撚り合わせられた導体2と、導体2の外周を被覆する絶縁被覆3と、を有している。そして、絶縁電線1の長手軸方向の中途部に、止水部4が形成されている。
【0033】
導体2を構成する素線2aは、いかなる導電性材料よりなってもよいが、絶縁電線の導体の材料としては、銅を用いることが一般的である。銅以外にも、アルミニウム、マグネシウム、鉄などの金属材料を用いることもできる。これらの金属材料は、合金であってもよい。合金とするための他の金属材料としては、鉄、ニッケル、マグネシウム、シリコン、これらの組み合わせなどが挙げられる。全ての素線2aが同じ金属材料よりなっても、複数の金属材料よりなる素線2aが混合されてもよい。
【0034】
導体2における素線2aの撚り合わせ構造は、特に指定されないが、止水部4を形成する際に、素線2aの間隔を広げやすい等の観点からは、単純な撚り合わせ構造を有していることが好ましい。例えば、複数の素線2aを撚り合わせてなる撚線を複数集合させて、さらに撚り合わせる親子撚構造よりも、全ての素線2aを一括して撚り合わせた構造とする方が良い。また、導体2全体や各素線2aの径も特に指定されるものではないが、導体2全体および各素線2aの径が小さい場合ほど、止水部4において、素線2aの間の微細な隙間に止水剤5を充填して止水の信頼性を高めることの効果および意義が大きくなるので、おおむね、導体断面積を8mm2以下、素線径を0.45mm以下とするとよい。
【0035】
絶縁被覆3を構成する材料も、絶縁性の高分子材料であれば、特に指定されるものではなく、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、オレフィン系樹脂等を挙げることができる。また、高分子材料に加えて、適宜フィラーや添加剤を含有してもよい。さらに、高分子材料は架橋されていてもよい。
【0036】
止水部4には、絶縁被覆3が導体2の外周から除去された露出部10が含まれている。そして、露出部10において、導体2を構成する素線2aの間の空間に、止水剤5が充填されている。
【0037】
止水剤5は、露出部10の素線2aの間の空間と連続して、露出部10の導体2の外周も被覆していることが好ましい。さらに、止水剤5は、
図1に示すとおり、露出部10の素線2aの間の空間および導体2の外周部と連続して、露出部10の両側に隣接する被覆部20の端部の外周、つまり絶縁被覆3が導体2の外周を被覆したままの状態にある領域の端部の絶縁被覆3の外周にも配置されていることが好ましい。この場合には、止水剤5は、露出部10の一方側に位置する被覆部20の端部から他方側に位置する被覆部20の端部までにわたる領域の外周、本実施形態においては全周を連続して被覆するとともに、それら外周部と連続して、露出部10の素線2aの間の領域に充填された状態にある。止水部4における止水剤5の分布の詳細については、後に説明する。
【0038】
止水剤5を構成する材料は、水等の流体を容易に透過させず、止水性を発揮することのできる樹脂組成物であれば、特に限定されないが、流動性の高い状態で素線2aの間の空間に均一に充填しやすい等の理由で、熱可塑性樹脂組成物、または硬化性樹脂組成物よりなることが好ましい。それらの樹脂組成物を流動性の高い状態で素線2aの間や露出部10と被覆部20の端部の外周(外周域)に配置した後、流動性の低い状態とすることで、止水性能の高い止水部4を安定して形成することができる。中でも、止水剤5として、硬化性樹脂を用いることが好ましい。硬化性樹脂としては、熱硬化性、光硬化性、湿気硬化性、二液反応硬化性、嫌気硬化性等の硬化性をいずれか1つまたは複数有するものであるとよい。特に、素線2aの間の空間や、露出部10および被覆部20の端部の外周域に配置した止水剤5を短時間で硬化させ、止水剤5の分布の均一性に優れた止水部4を形成する観点から、止水剤5を構成する樹脂組成物は、光硬化性、特に紫外線硬化性を有することが好ましい。さらに、素線2aの表面に密着して硬化させる観点から、止水剤5を構成する樹脂組成物は、嫌気硬化性、つまり酸素分子を遮断された状態で金属に接触すると硬化する特性を有することが好ましい。
【0039】
止水剤5を構成する具体的な樹脂種は、特に限定されるものではない。シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂等を例示することができる。これらの樹脂材料には、適宜、止水剤5としての樹脂材料の特性を損なわない限りにおいて、各種添加剤を添加してもよい。また、構成の簡素性の観点からは、止水剤5を1種のみ用いることが好ましいが、必要に応じて、2種以上を混合または積層等して用いてもよい。導体2を外部に対して絶縁する観点から、止水剤5は、絶縁性材料をよりなることが好ましい。
【0040】
止水剤5としては、充填時の状態において、4Pa・s以上、さらには5Pa・s以上、10Pa・s以上の粘度を有する樹脂組成物を用いることが好ましい。素線2aの間の領域や外周域、特に外周域に、止水剤5を配置した際に、流出や垂下等を起こさずに、それらの領域に均一性の高い状態で保持されやすいからである。一方、止水剤5の充填時の粘度は、200Pa・s以下に抑えられていることが好ましい。粘度を過剰に高くしないことで、素線2aの間の領域に止水剤5を十分に浸透させやすくなるからである。
【0041】
上記のように、止水剤5が露出部10の素線2aの間の空間に充填されることで、素線2aの間の領域が止水され、素線2aの間の領域に、水等の流体が外部から侵入するのが抑制される。また、絶縁電線1のある部位において、素線2aの間に水が侵入することがあっても、素線2aを伝って、その水が絶縁電線1の他の部位に移動するのが、抑制される。例えば、絶縁電線1の一端に付着した水が、素線2aの間の空間を、絶縁電線1の他端に向かって移動するのを、抑制することができる。
【0042】
止水剤5が露出部10の導体2の外周部を被覆している場合には、止水剤5は、露出部10を物理的に保護する役割も果たす。加えて、止水剤5が絶縁性材料よりなる場合には、止水剤5は、露出部10の導体2を外部に対して絶縁する役割も果たす。さらに、露出部10に隣接する被覆部20の端部の外周も、止水剤5で一体に被覆することで、絶縁被覆3と導体2の間の止水も行うことができる。つまり絶縁被覆3と導体2の間の空間に水等の流体が外部から侵入するのが抑制される。また、絶縁電線1のある部位において、絶縁被覆3と導体2の間に水が侵入することがあっても、絶縁被覆3と導
体2の間の空間を伝って、その水が絶縁電線1の他の部位に移動するのが、抑制される。例えば、絶縁電線1の一端に付着した水が、絶縁被覆3と導体2の間の空間を、絶縁電線1の他端に向かって移動するのを、抑制することができる。
【0043】
なお、本実施形態においては、需要の大きさや、素線2aの間隔の広げやすさ等の観点から、止水部4を、絶縁電線1の長手軸方向中途部に設けているが、同様の止水部4を、絶縁電線1の長手軸方向端部に設けてもよい。その場合、絶縁電線1の端部は、端子金具等、別の部材を接続した状態にあっても、何も接続していない状態にあってもよい。また、止水剤5に被覆された止水部4の中に、導体2および絶縁被覆3に加えて、接続部材等、別の部材を含んでもよい。別の部材を含む場合の例として、複数の絶縁電線1を接合したスプライス部を含んで、止水部4を設ける形態を挙げることができる。
【0044】
(止水部における止水剤の分布および断面の状態)
上記のように、本実施形態にかかる絶縁電線1の止水部4においては、露出部10の導体2を構成する素線2aの間の空間を含む領域に、止水剤5が充填されている。十分に高い止水性能を有する止水部4とするためには、止水部4における止水剤5の空間分布が重要となる。ここで、
図2,3に示した止水部4,4’の断面図を参照しながら、止水剤5の空間分布について説明する。
図2は、高い止水性能を示す本実施形態にかかる絶縁電線1の止水部4について、
図3は、十分な止水性能を示しにくい止水部4’について、絶縁電線1の長手軸方向に垂直に切断した断面を示している。以下、特記しないかぎり、止水部4,4’における止水剤5の分布および断面の状態の説明において、対象とする断面は、絶縁電線1の長手軸方向に垂直に止水部4,4’を切断した断面を指すものとする。
【0045】
図2に示すように、本実施形態にかかる絶縁電線1の止水部4においては、止水剤5の表面5aに囲まれた領域において、素線2aの表面が、止水剤5または他の素線2aに接触している。換言すると、導体2に含まれる素線2aの表面の各領域が、止水剤5か、その素線2aに隣接する他の素線2aのいずれかと接触しており、止水剤5が欠損した箇所に空気が満たされた気泡Bや、その気泡Bに水等の液体が侵入して形成された液胞等、止水剤5および素線2aの構成材料以外の物質には接触していない。止水剤5は、素線2aの間の空間に、密に充填され、気泡B等を介さずに、素線2aの表面に密着している。
【0046】
図3に、
図2の止水部4とは異なり、素線2aの表面のうち一部の領域が、気泡Bに接触している止水部4’を示している。ここでは、符号2a’で表示した4本の素線2aが、それぞれ、気泡Bと接触している。このように、素線2aに接触する気泡Bが存在すると、それらの気泡Bが、水の侵入経路となり、素線2aの間の領域に水が侵入する可能性が高まる。また、止水部4’に外力が印加された際等に、気泡Bが、亀裂等の損傷の起点となる場合があり、生じた損傷部を介して、素線2aの間に水が侵入する可能性もある。気泡Bや損傷部を介して素線2aの間の領域に侵入した水は、素線2aを伝って、被覆部20等、絶縁電線1の他の部位に移動する場合がある。このように、止水部4’を構成する止水剤5の中に、素線2aに接触する気泡Bが存在することで、止水部4’の止水性能を十分に高めることが、難しくなる。
【0047】
これに対し、
図2のように、素線2aの表面が、止水剤5か他の素線2aに接触しており、素線2aに接触する気泡Bが、止水剤5の表面5aに囲まれた領域の中に存在しない場合には、気泡Bを介して素線2aの間の領域に水が侵入する事態や、気泡Bが原因で水の侵入経路となりうる損傷が発生する事態が、起こりにくい。よって、止水部4において、素線2aの間の領域に水が侵入するのを、各素線2aの表面に密着した止水剤5により、効果的に抑制することができる。また、絶縁電線1のある部位において素線2aの間に侵入した水が、素線2aを伝って、絶縁電線1の他の部位に移動するのも、効果的に抑制することができる。このように、止水部4において、素線2aの表面を止水剤5または他の素線2aに接触させておき、素線2aに接触する気泡Bを排除することで、高い止水性能を有する止水部4を構成することができる。
【0048】
ここで、素線2aの表面の各領域は、止水剤5と他の素線2aのいずれに接触していてもよいが、止水剤5に接触している方が、素線2aに止水剤5が直接密着することで、その素線2aへの水の接触を、特に効果的に抑制し、高い止水性能を発揮することができる。しかし、素線2aの表面が他の素線2aに接触する場合でも、隣接する2本の素線2aが接触した接触界面に、水が侵入することができず、十分に高い止水性能を確保することができる。素線2aに接触する気泡Bが形成されていないことで、隣接する素線2aの位置関係のずれも起こりにくく、隣接する素線2aの間の接触界面に水が侵入できない状態が、維持される。
【0049】
止水部4の断面には、
図3に示したような素線2aに接触した気泡B以外に、素線2aには接触せず、全周を止水剤5に囲まれた気泡Bが形成される場合がある。理想的には、止水剤5の表面5aに囲まれた領域に、どのような種類の気泡Bも含まれていない形態が好ましいが、素線2aに接触した気泡Bでなければ、気泡Bが存在していても、止水部4の止水性能を大きく低下させるものとはならない。例えば、導体2が占める領域よりも外側に、全周を止水剤5に囲まれた気泡Bが存在していてもよい。
図2に示した形態でも、全周を止水剤5に囲まれた気泡Bが、導体2の外側の領域に存在している。
【0050】
なお、上記のように、素線2aに接触した気泡Bは、止水性能の低下の要因となるが、要求される止水性能の水準が低い場合等には、素線2aに接触した気泡Bが、少量であれば、また小さいものであれば、存在していても、所望の止水性能を満たせる場合もある。例えば、止水部4の断面において、素線2aに接触した気泡Bの断面積の合計が、素線2aの断面積の合計に対して、5%以下であるとよい。また、素線2aに接触した気泡Bのそれぞれの断面積が、1本の素線2aの断面積に対して、80%以下であるとよい。一方、止水剤5に全周を囲まれ、素線2aには接触していない気泡Bであっても、素線2aに近接していると、止水部4の止水性能に影響を及ぼす場合がある。そこで、気泡Bと素線2aの間には、素線2aの線径の30%以上の間隔が保持され、その間隔の間に、止水剤5が充填されているとよい。
【0051】
さらに、止水部4の断面において、導体2の外周部に位置する素線2aが、それよりも内側に位置する素線2aよりも、扁平な形状を有していることが好ましい。
図2でも、導体2の外周部に位置する素線2a1が、略楕円径の扁平な断面を有している。それら導体の外周部に位置する素線2a1よりも内側に位置する素線2a2は、扁平度の低い断面を有している。
【0052】
導体2を構成する素線2aが、比較的傾斜角の小さい緩やかな螺旋状に撚り合わせられている場合には、各素線2aの軸線方向が、絶縁電線1の長手軸方向に近い方向に延びているので、絶縁電線1の長手軸方向に垂直に切断した断面において、素線2aの断面は、円形に近い扁平度の低いものとなる。しかし、導体2を構成する素線2aが、比較的傾斜角の大きい急な螺旋状に撚り合わせられている場合には、各素線2aの軸線方向が、絶縁電線1の長手軸方向に対して、大きく傾斜した方向に延びているので、絶縁電線1の長手軸方向に垂直に切断した際に、各素線2aの軸線方向に対して斜めに切断することになる。よって、素線2aの断面は、楕円形に近似できる扁平なものとなる。これらのことから、上記のように、止水部4の断面において、導体2の外周部に位置する素線2a1が、それよりも内側に位置する素線2a2よりも扁平な形状を有しているということは、導体2の外周部に位置する素線2a1の方が、内側の素線2a2よりも、傾斜角の大きい急な螺旋状に撚られていることを意味する。
【0053】
上記のように、止水剤5を流動性の高い状態で素線2aの間の領域に充填した後、流動性を下げることで、止水部4を形成することができるが、流動性の高い状態の止水剤5を素線2aの間の空間に充填した状態で、導体2の外周部に位置する素線2a1を、傾斜角の大きい急な螺旋状に撚った状態としておくことで、充填された止水剤5が、導体2の外部への流出や漏出を起こしにくくなり、素線2aの間の領域に均一性高く充填された状態に留まりやすい。その結果、素線2aの間に十分な量の止水剤5が充填され、高い止水性能を示す止水部4を形成しやすくなる。特に、後に絶縁電線1の製造方法として説明するように、露出部10における単位長さ当たりの導電性材料の密度を高めながら、露出部10における素線2aの間隔を広げた状態で(密度変調工程)、素線2aの間の空間に止水剤5を充填するとともに(充填工程)、充填後に露出部10における素線2aの間隔を狭めて撚りピッチを小さくする(再緊密化工程)、という製造方法をとる場合には、導体2の外周部の素線2a1の断面形状が扁平になりやすく、素線2aの間の空間に止水剤5を保持しやすくする効果に優れる。このように、導体2の外周部に位置する素線2a1の断面形状が扁平になっていることは、高い止水性能を示す止水部4を形成するうえで、指標の1つとなる。
【0054】
素線2aの断面形状が扁平となっている程度を評価する具体的な指標として、楕円率を用いることができる。楕円率は、断面形状において、短軸の長さ(短径)を長軸の長さ(長径)で除したものである(短径/長径)。楕円率の値が小さいほど、断面形状が扁平であることを示す。止水部4の断面において、導体2の外周部に位置する素線2a1の楕円率が、それよりも内側に位置する素線2a2の楕円率よりも小さな値をとることが好ましい。さらに、導体2の外周部に位置する素線2a1の楕円率は、0.95以下であることが好ましい。すると、上記のように、素線2aの間に十分な量の止水剤5を保持し、高い止水性能を有する止水部4を構成する効果に優れる。一方、導体2の外周部に位置する素線2a1の楕円率は、0.50以上であることが好ましい。すると、上記のような止水性能向上の効果を飽和させない範囲で、導体の外周部の素線2a1と内側部分の素線2a2の間での実長の差を、小さく抑えることができる。
【0055】
止水部4の断面において、導体2の外周部に位置する素線2a1の楕円率が、それよりも内側に位置する素線2a2の楕円率よりも小さくなっていることに加え、それら止水部4の断面における素線2a1,2a2の楕円率、特に外周部に位置する素線2a1の楕円率が、被覆部20(特に後述する遠隔域22)を絶縁電線1の長手軸方向に垂直に切断した断面における素線2aの楕円率よりも小さくなっていることが好ましい。このことは、素線2aの撚りピッチが、止水部4を構成する露出部10において、被覆部20におけるよりも小さくなっていることを示すものとなる。上記のように、露出部10における素線2aの間隔を広げた状態で(密度変調工程)、素線2aの間の空間に止水剤5を充填するとともに(充填工程)、充填後に露出部10における素線2aの間隔を狭めて撚りピッチを小さくする(再緊密化工程)、という製造方法をとる場合に、素線2aの間の空間に止水剤5を保持しやすくする効果に優れるが、再緊密化工程において、露出部10における素線2aの撚りピッチを、被覆部20における撚りピッチよりも狭めることで、止水剤5を素線2aの間の空間に保持する効果が、特に高くなる。よって、断面における素線2aの楕円率が、露出部10において、被覆部20よりも小さくなっていることも、高い止水性能を示す止水部4を形成するうえで、良い指標となる。
【0056】
ここで、断面における素線2aの楕円率と撚りピッチの関係について、
図10に示す簡略化したモデルを用いて説明する。
図10(a)において、外径dの素線2aが、破線で示す絶縁電線1の軸に沿った状態から、角度θだけ傾斜して撚られた状態を、実線で示している。この傾斜した素線2aを、絶縁電線1の軸に垂直な断面Sで切断した際に、断面における長軸の長さをaとすると、素線2aの楕円率εは、ε=d/aとなる。a=d/cosθなので、ε=cosθとなる。ここで、
図10(b)に示すように、長さpで表現される撚り構造の1ピッチにおいて、素線2aが、距離πLだけ、径方向に沿って移動するとみなす。この際、傾斜角θは、θ=arctan(πL/p)と表現される。ここで、撚りピッチをn倍にした際に、傾斜角がθnになるとすると、θn=arctan(πL/np)=arctan(tanθ/n)となる。上記のように、素線2aの断面の楕円率は、素線2aの傾斜角がθである場合に、ε=cosθであり、傾斜角がθnとなれば、ε=cosθn=cos(arctan(tanθ/n))となる。これは、nに対して単調増加関数となっている。すなわち、素線2aの撚りピッチが大きいほど、断面における素線2aの楕円率εが大きくなる。7本の素線2aを撚り合わせて導体2を構成する場合には、
図10(b)中に点線で表示するように、L=2dと近似することができる。なお、素線2aの外径dの測定方法としては、レーザー測定器を用いて測定する方法を挙げることができる。この場合、素線2aの長手方向において位置が異なる数か所において、それぞれ30回ほど測定した平均値を外径dとすればよい。導体2が絶縁被覆3に被覆されている場合には、ストリッパーやカッターによるそぎ落とし、焼き払い等によって絶縁被覆3を取り除いたうえで、測定を行えばよい。
【0057】
さらに、止水部4において、素線2aの間の空間に十分な量の止水剤5が充填されているかを評価する指標として、止水剤充填率を用いることができる。止水剤充填率は、止水部4の断面において、導体2に囲まれた領域の面積(A0)に占める、素線2aの間に止水剤5が充填された領域の面積(A1)の割合として定義される(A1/A0×100%)。例えば、止水部4の断面において、導体2の外周部の素線2a1の中心を結んだ多角形の領域の面積(A0)を基準として、その領域の中で止水剤5が充填された領域の面積(A1)の割合として、止水剤充填率を求めることができる。例えば、この止水剤充填率が5%以上、さらには10%以上であれば、止水性能の確保に十分な量の止水剤5が素線2aの間の空間に充填されていると言える。一方、過剰量の止水剤5の使用を避ける観点から、止水剤充填率は、90%以下に抑えておくことが好ましい。
【0058】
また、上記のように、素線2aの表面は、止水剤5に接触していても、他の素線2aに接触していてもよいが、止水剤5に接触している方が、高い止水性能を確保しやすい。この観点から、止水部4の断面で、素線2aの周において、隣接する素線2aではなく止水剤5に接触している部位の長さの合計が、全素線2aの周長の合計のうち、80%以上であることが好ましい。また、隣接する素線2aの間隔が十分に空いている方が、素線2aの間の空間に止水剤5を充填しやすいため、止水部4の断面において、隣接する素線2aとの間隔が、素線2aの外径の30%以上である箇所が、存在しているとよい。
【0059】
止水部4における止水剤5の分布は、止水性能以外の止水部4の特性にも、影響を与える。上記のように、止水部4において、止水剤5を、素線2aの間の空間のみならず、導体2の外周部にも配置することで、止水剤5を、導体2に対する保護部材および絶縁部材としても機能させることができる。この場合に、導体2の外周に配置した止水剤5の層の厚さが、導体2の周方向に沿って均一であるほど、止水剤5の層が有する物理的特性の均一性を高めることができ、保護部材および絶縁部材としての性能が高くなる。例えば、止水剤5の層の厚さに、大きなばらつきが生じていると、止水剤5の層が薄くなった箇所においては、止水剤5の材料強度や止水性能の不足が起こる可能性がある一方、止水剤5の層が厚くなった箇所では、外部の物体への接触による止水剤5の損傷が起こりやすくなる。しかし、止水剤5の層の厚さの均一性を高くしておくことで、それらの事態を抑制し、全周において、均一で高い特性を発揮しやすくなる。
【0060】
止水剤5の層の厚さの均一性は、偏芯率によって評価することができる。止水剤5の層の厚さは、止水部4の断面において、止水剤5の表面5aと導体2の外周との間の距離Tとして計測できる。そして、その計測した距離Tについて、全周における最大値に対する最小値の割合として、偏芯率を見積もることができる(最小値/最大値×100%)。この偏芯率を70%以上としておけば、止水剤5の厚さの均一性として、十分に高いものとなり、高い止水性能を有するとともに、保護部材や絶縁部材としても高い特性を有する止水部4を構成しやすい。
【0061】
以上、止水部4の止水性能をはじめとする特性を高める観点から、止水部4の断面における止水剤5の分布等の状態について、好ましい形態を説明した。ここで、評価を行う断面としては、止水部4の代表的な箇所、例えば止水部4の長手軸方向中央部の断面を採用すればよい。そして、その採用した断面において、上記のような各形態が満たされているとよい。
【0062】
(止水部と他の部位での電線導体の状態の差異)
上記のように、本実施形態にかかる絶縁電線1の止水部4においては、止水剤5の分布状態等、断面が所定の状態を有していることが、止水部4の止水性能をはじめとする特性を高める観点から好ましい。加えて、止水部4に含まれる露出部10における導体2の状態が、絶縁電線1の他の部位における導体2の状態との比較において、以下のようになっていると、素線2aの間の空間をはじめとする所定の領域への止水剤5の充填および保持において、さらに有利である。
【0063】
まず、絶縁電線1において、金属材料の単位長さあたり(絶縁電線1の長手軸方向における単位長さあたり)の金属材料の密度が、均一になっておらず、不均一な分布を有しているとよい。なお、絶縁電線1の長手軸方向全域にわたって、各素線2aは連続した略均一な径の線材として設けられており、本明細書において、金属材料の単位長さあたりの密度が領域間で異なる状態とは、素線2aの径や本数は一定であるが、撚り合わせの状態等、素線2aの集合状態が変化している状態を指す。
【0064】
具体的には、導体2における単位長さあたりの金属材料の密度が、露出部10において、絶縁被覆3に被覆された被覆部20よりも高くなっているとよい。ただし、被覆部20において、露出部10にすぐ隣接する隣接域21においては、部分的に、露出部10よりも単位長さあたりの金属材料の密度が低くなっている可能性がある。つまり、単位長さあたりの金属材料の密度が、露出部10において、被覆部20全体のうち、少なくとも、そのような隣接域21を除いた遠隔域22よりも高くなっている。遠隔域22においては、単位長さあたりの金属材料の密度をはじめとする導体2の状態は、止水部4を設けないままの絶縁電線1における状態と実質的に等しい。なお、隣接域21において、単位長さあたりの金属材料の密度が低くなりうる理由としては、露出部10への金属材料の充当、露出部10と被覆部20の間の連続性確保のための導体2の変形等を挙げることができる。
【0065】
例えば
図9(b)に、上記のような金属材料の密度の分布を含む導体2の状態を模式的に示している。
図7~
図9においては、導体2が占める領域の内部に斜線を付しているが、その斜線の密度が高いほど、素線2aの撚りピッチが小さい、つまり素線2aの間隔が狭いことを示している。また、導体2として示している領域の幅(上下の寸法)が広いほど、導体2の径が大きく広がっていることを示している。ただし、それら図示したパラメータは、素線2aの撚りピッチおよび導体径に比例するものではなく、領域ごとの相対的な大小関係を模式的に示すものである。また、図示したパラメータは、各領域の間で不連続になっているが、実際の絶縁電線1においては、導体2の状態が領域間で連続的に変化している。
【0066】
図9(b)に示すように、露出部10においては、被覆部20の遠隔域22よりも、導体2の径が大きく広がっており、導体2において、単位長さあたりに素線2aとして含まれる金属材料の量が多くなっている。このように、露出部10において、単位長さあたりの金属材料の密度を高め、単位長さあたりに含まれる素線2aの実長を長くすることで、絶縁電線1の製造方法として後に詳しく説明するように、素線2aを撓ませて、素線2aの間隔を広く取り、素線2aの間に大きな空間を確保した状態で、素線2aの間の空間への止水剤5の浸透を行うことができる。その結果、素線2aの間の空間に止水剤5を浸透させやすくなり、露出部10の各部に、止水剤5を、高い均一性をもって充填しやすくなる。
【0067】
さらに、露出部10においては、単位長さあたりの金属材料の密度が、被覆部20の遠隔域22における密度よりも高くなっていることに加え、素線2aの撚りピッチが、被覆部20の遠隔域22における撚りピッチよりも小さくなっていることが好ましい。露出部10において、素線2aの撚りピッチが小さくなり、素線2aの間隔が狭くなっていることも、止水性能の向上に効果を有するからである。つまり、止水剤5が流動性の高い状態で素線2aの間の空間に充填された、止水部4の形成途中の状態において、素線2aの間隔を狭めておくことで、止水剤5を、垂下したり流出したりすることなく、素線2aの間の空間に均一に留まらせやすい。その状態から、止水剤5の流動性を低下させると、露出部10において、高い止水性能が得られる。また、露出部10において、撚りピッチが遠隔域22よりも小さくなっていることで、単位長さあたりの金属材料の密度が遠隔域22よりも高くなっていても、露出部10における導体径を、遠隔域22における導体径との比較において、過度に大きくならないように、抑えることができる。すると、止水部4全体としての外径を、遠隔域22における絶縁電線1の外径に比べて、同程度、あるいは著しくは大きくならないように抑えることが可能となる。露出部10において、導体2の外周部に位置する素線2a1の撚りピッチを小さくすることで、上記のように、素線2a1が大きく傾斜した状態となり、止水部4の断面におけるそれらの素線2a1の断面形状が、扁平となる。また、素線2aの撚りピッチを、止水部4(露出部10)において、被覆部20よりも小さくすることで、断面における素線2aの楕円率が、止水部4において、被覆部20よりも小さくなる。
【0068】
[第二の実施形態にかかる絶縁電線]
上記で説明した、本発明の第一の実施形態にかかる絶縁電線1においては、露出部10において、止水剤5が、導体2の全周を囲む領域に充填されていた。しかし、必ずしも、導体2の全周を取り囲む領域に止水剤5を充填しなくても、十分な止水性能を有する止水部を形成することができる。そこで、本発明の第二の実刑形態にかかる絶縁電線1Aとして、導体2の一部の領域にのみ止水剤5が充填された形態について簡単に説明する。ここでは、上記第一の実施形態にかかる絶縁電線1と異なる点についてのみ説明し、第一の実施形態にかかる絶縁電線1と共通する構成については、図面に共通の符号で表示するとともに、説明を省略する。
【0069】
図4に、本発明の第二の実施形態にかかる絶縁電線1Aの概略を示す。本絶縁電線1Aにおいては、止水部4Aにおいて、止水剤5が、露出部10を構成する導体2の全周を囲んでおらず、一部の領域のみを囲んでいる。具体的には、
図4(b),(c)に示すように、絶縁電線1Aの長手軸方向に垂直に止水部4Aを切断した断面において、導体2の一部の領域を囲む部分充填域51,52にのみ、止水剤5が配置されている。つまり、部分充填域51,52を構成する止水剤5の表面51a,52aに囲まれた領域の中に、素線2aの間の空間を含め、止水剤5が充填されている。止水剤5の表面51a,52aに囲まれた領域において、素線2aの表面は、止水剤5と他の素線2aに接触しており、気泡B等、他の物質に接触していない。
【0070】
止水剤5は、止水部4Aの長手軸方向に沿った各位置の断面においては、導体2の一部の領域を囲む部分充填域(51,52,…)にしか充填されていないが、止水部4A全体として見た際には、止水剤5が、導体2の全周を囲んで配置されている。つまり、止水部4Aの長手軸方向全域にわたって、断面の部分充填域(51,52,…)を重畳したものが、導体2を全周にわたって囲む領域を占める。例えば、図示した形態では、
図4(b)のA-A断面において止水剤5が充填された部分充填域51が、導体2の上側(
図4(a)の手前側に相当)の半分以上の領域を囲んで形成されている。一方、
図4(c)のB-B断面において止水剤5が充填された部分充填域52が、導体2の下側(
図4(a)の奥側に相当)の半分以上の領域を囲んで形成されている。これら2か所の断面における部分充填域51,52を重畳すると、2つの部分充填域51,52が、上下方向中央部で一部重なった状態で、
図4(b),(c)中に点線で示した、導体2を全周にわたって囲む領域が、網羅されることになる。
【0071】
図示した形態では、
図4(a)に示すように、止水部4Aの長手軸方向に沿って、部分充填域(51,52,…)が、導体2の中心に対する角度を連続的に変化させながら、設けられている。つまり、止水剤5が、導体2の長手軸方向に沿って、螺旋を描いて、充填されている。螺旋を1ピッチ分以上設ければ、部分充填域(51,52,…)を止水部4Aの長手軸方向全域にわたって重畳したものが、導体2を全周にわたって囲む領域を占めるようになる。
【0072】
このように、露出部10において、導体2の全周を囲んで止水剤5を充填しなくても、止水部4A全体として見れば、導体2の全周を囲んで止水剤5が充填された状態となるように、止水部4Aを構成しておけばよい。そうすれば、導体2の全周を囲んで止水剤5を配置する場合よりは劣るとしても、ある程度高い止水性能を有する止水部4Aを構成することができる。その結果、止水性能を確保しながら、止水剤5の使用量を低減することが可能となる。止水剤5の使用量を低減することは、止水部4Aの外径を小さく抑えることにもつながる。
【0073】
上記のように、止水部4Aの長手軸方向全域にわたって部分充填域(51,52,…)を重畳したものが、導体2を全周にわたって囲む領域を占めるようにできれば、止水部4Aの各位置の断面において、部分充填域(51,52,…)を、どのような形状および面積で形成してもかまわない。しかし、各部において高い止水性能を得る観点から、
図4(b),(c)のように、導体2の半分以上の面積を占める領域を囲むように、各位置での部分充填域(51,52,…)を設定することが好ましい。
【0074】
また、止水剤5を、導体2の長手軸方向に沿って螺旋状に配置する場合に、上記のように、少なくとも1ピッチ分を配置すれば、十分に高い止水性能を得ることができるが、ピッチ数を増やせば、止水性能をさらに高めることができる。一方、止水部4Aの各部の断面における部分充填域(51,52,…)の面積を大きくするほど、止水剤5を設ける螺旋のピッチ数を少なくしても、高い止水性能を確保することができ、
図4(b),(c)のように、導体2の半分以上の面積を占める領域を囲むように、各位置での部分充填域(51,52,…)を設定した場合には、螺旋を半ピッチ分としてもよい。
【0075】
[ワイヤーハーネス]
本発明の一実施形態にかかるワイヤーハーネス6は、上記で説明した、止水部4を備えた本発明の第一の実施形態にかかる絶縁電線1(または止水部4Aを備えた第二の実施形態にかかる絶縁電線1A;以下、「ワイヤーハーネス」の節において同じ)を有している。
図5に、本実施形態にかかるワイヤーハーネス6の一例を示す。ワイヤーハーネス6を構成する絶縁電線1の両端には、それぞれ、コネクタ等、他の機器U1,U2に接続可能な電気接続部61,63が設けられている。ワイヤーハーネス6は、上記実施形態にかかる絶縁電線1に加えて、他種の絶縁電線をともに含むものであってもよい(不図示)。
【0076】
ワイヤーハーネス6において、絶縁電線1の両端に設けられる電気接続部61,63、およびそれら電気接続部61,63が接続される機器U1,U2の種類は、どのようなものであってもよいが、止水部4による止水性能を有効に利用する観点から、絶縁電線1の一端が防水されており、他端が防水されていない形態を、好適な例として挙げることができる。
【0077】
そのような形態として、
図5に示すように、絶縁電線1の一端に設けられた第一の電気接続部61には、防水構造62が形成されている。防水構造62としては、例えば、第一の電気接続部61を構成するコネクタにおいて、コネクタハウジングとコネクタ端子の間の空間を封止するゴム栓が設けられている。防水構造62が設けられていることにより、第一の電気接続部61の表面等に水が付着することがあっても、その水は、第一の電気接続部61の内部に侵入しにくい。
【0078】
一方、絶縁電線1の他端に設けられた第二の電気接続部63には、第一の電気接続部61に設けられているような防水構造が、形成されていない。よって、第二の電気接続部63の表面等に水が付着すると、その水が第二の電気接続部63の内部に侵入できる可能性がある。
【0079】
ワイヤーハーネス6を構成する絶縁電線1の中途部、つまり第一の電気接続部61と第二の電気接続部63の間の位置には、導体2が露出された露出部10が形成され、さらにその露出部10を含む領域に、止水剤5が充填された止水部4が形成されている。止水部4の具体的な位置および数は、特に限定されるものではないが、防水構造62が形成された第一の電気接続部61への水の影響を効果的に抑制する観点から、第二の電気接続部63よりも第一の電気接続部61に近い位置に、少なくとも1つの止水部4が設けられることが好ましい。
【0080】
絶縁電線1の両端に電気接続部61,63を有するワイヤーハーネス6は、2つの機器U1,U2の間を電気的に接続するのに用いることができる。例えば、防水構造62を有する第一の電気接続部61が接続される第一の機器U1として、電気制御装置(ECU)等、防水が要求される機器を適用すればよい。一方、防水構造を有さない第二の電気接続部63が接続される第二の機器U2として、防水の必要のない機器を適用すればよい。
【0081】
ワイヤーハーネス6を構成する絶縁電線1が止水部4を有することにより、ワイヤーハーネス6の外部から侵入した水が、導体2を構成する素線2aを伝って移動することがあっても、絶縁電線1に沿った水の移動が、止水部4を超えて進行するのを、抑制することができる。つまり、外部から侵入した水が、止水部4を超えて移動して、両端の電気接続部61,63に達し、さらには電気接続部61,63に接続された機器U1,U2に侵入するのを、抑制することができる。例えば、防水構造を有していない第二の電気接続部63の表面に付着した水が、第二の電気接続部63の内部に侵入し、導体2を構成する素線2aを伝って、絶縁電線1に沿って移動することがあっても、その水の移動は、止水部4に充填された止水剤5によって、阻止される。その結果、水は、止水部4を超えて、第一の電気接続部61が設けられた方に移動することができず、第一の電気接続部61の位置まで達し、第一の電気接続部61および第一の機器U1に侵入することができない。このように、止水部4によって水の移動を抑制することで、防水構造62による第一の電気接続部61および機器U1に対する防水性を、有効に利用することが可能となる。
【0082】
絶縁電線1に設けられた止水部4によって、水の移動を抑制する効果は、水が付着した箇所や水が付着した原因、また水の付着が起こった時やその後の環境を問わず、発揮される。例えば、ワイヤーハーネス6を自動車に設けた場合等に、非防水の第二の電気接続部63から、素線2aの間の空間等、絶縁電線1の内部に侵入した水が、毛管現象や冷熱呼吸現象によって、防水構造62を有する第一の電気接続部61および第一の機器U1に侵入するのを、効果的に抑制することができる。冷熱呼吸現象とは、自動車の走行等に伴って、防水構造62を有する第一の電気接続部61および第一の機器U1が加熱された後、放冷された際に、絶縁電線1に沿って、第一の電気接続部61側が低圧で、第二の電気接続部63側が相対的に高圧となった圧力差が生じることで、第二の電気接続部63に付着した水が、第一の電気接続部61および第一の機器U1の方へと引き上げられる現象である。
【0083】
[絶縁電線の製造方法]
次に、上記第一の実施形態にかかる絶縁電線1の製造方法の一例を説明する。上記第二の実施形態にかかる絶縁電線1Aも、基本的に同じ製造方法によって製造することができ、異なる操作を行う工程についてのみ、その差異を説明する。
【0084】
図6に、本製造方法の概略を示す。ここでは、(1)部分露出工程、(2)密度変調工程、(3)充填工程、(4)再緊密化工程、(5)被覆移動工程、(6)硬化工程をこの順に実行することで、絶縁電線1の長手軸方向の一部の領域に、止水部4を形成する。(2)密度変調工程は、(2-1)緊密化工程と、それに続く(2-2)弛緩工程より構成することができる。以下、各工程について説明する。なお、ここでは、絶縁電線1の中途部に止水部4を形成する場合を扱うが、各工程における具体的な操作や、各工程の順序は、止水部4を形成する位置等、形成すべき止水部4の構成の詳細に応じて、適宜調整すればよい。
【0085】
(1)部分露出工程
まず、部分露出工程において、
図7(a)に示したような連続した線状の絶縁電線1を用いて、
図7(b)のように、露出部10を形成する。露出部10の長手方向両側には、被覆部20が隣接して存在する。
【0086】
このような露出部10を形成する方法の一例として、まず、露出部10を形成すべき領域の略中央に当たる位置において、絶縁被覆3の外周に、略円環状の切込みを形成する。そして、切込みの両側において絶縁被覆3を外周から把持し、相互に離間させるように、絶縁電線1の軸方向に沿って移動させる(運動M1)。移動に伴って、両側の絶縁被覆3の間に、導体2が露出されるようになる。このようにして、被覆部20に隣接した状態で、露出部10を形成することができる。
【0087】
(2)密度変調工程
上記部分露出工程において、導体2が露出した露出部10を形成した後、そのまま充填工程を実施し、露出部10の導体2を構成する素線2aの間の空間に、止水剤5を充填してもよいが、充填工程の前に、密度変調工程を実施することが好ましい。
【0088】
密度変調工程においては、露出部10、および被覆部20の隣接域21および遠隔域22の間で、金属材料の密度に不均一な分布を形成するとともに、露出部10における導体2の素線2aの間隔を広げる。金属材料の密度の不均一な分布としては、具体的には、単位長さあたりの金属材料の密度が、露出部10において、遠隔域22よりも高くなった状態を形成する。そのような密度の分布の形成は、例えば、緊密化工程と、それに続く弛緩工程によって、露出部10における素線2aの間隔の拡大と同時に達成することができる。
【0089】
密度変調工程を実施することで、素線2aの間の空隙を広げた状態で、次の充填工程において、止水剤5を均一性高く充填することが可能となる。素線2aの間の微細な空隙にも、止水剤5が浸透しやすくなることで、止水剤5が十分に充填されず、気泡Bとして残る空間を、少なく、また小さく抑えることができる。
【0090】
(2-1)緊密化工程
緊密化工程においては、
図7(c)に示すように、一旦、露出部10における撚りを、元の状態よりも緊密にする。具体的には、絶縁電線1を、素線2aが撚り合わせられている方向に捩るように回転させ、さらに撚りを強くかけるようにする(運動M2)。これにより、露出部10における素線2aの撚りピッチが小さくなり、素線2aの間隔が小さくなる。
【0091】
この際、露出部10の両側の被覆部20において、露出部10に隣接する部位を外側から把持して、把持した部位(把持部30)を相互に対して逆向きに回転させるようにして、導体2に捻りを加えれば、把持部30から露出部10へと導体2を繰り出すことができる。導体2の繰り出しにより、
図7(c)に示すように、把持部30において、当初よりも、素線2aの撚りピッチが大きくなり、単位長さあたりの金属材料の密度が低くなる。その分、当初把持部30に存在していた金属材料の一部が露出部10に充当され、露出部10における素線2aの撚りピッチが小さくなる。そして、露出部10における単位長さあたりの金属材料の密度が高くなる。なお、把持部30から露出部10に円滑に導体2を繰り出させるために、把持部30において絶縁電線1を外周から挟み込む力は、絶縁被覆3に対して導体2が相対移動できる程度に抑えておくことが好ましい。
【0092】
(2-2)弛緩工程
その後、弛緩工程において、
図8(a)に示すように、露出部10における素線2aの撚りを、緊密化工程において緊密化した状態から、再度緩める。撚りの弛緩は、単に把持部30における把持を解放することにより、あるいは、把持部30を把持して、緊密化工程と反対方向に、つまり導体2が撚り合わせられている方向と逆方向に、捻るように回転させることにより(運動M3)、行うことができる。
【0093】
この際、導体2の剛性により、緊密化工程において露出部10の両側の把持部30から繰り出された導体2が、再度、絶縁被覆3に被覆された領域の中に完全に戻ることはなく、少なくとも一部は露出部10に留まる。その結果、導体2が露出部10に繰り出された状態のままで、その導体2における素線2aの撚りが緩むので、露出部10において、緊密化工程実施前に比べて実長として長い素線2aが、撓んで配置された状態となる。つまり、
図8(a)に示すように、露出部10において、緊密化工程実施前の状態(
図7(b))に比べて、導体2が全体として占める領域の径が大きくなり、単位長さ当たりの金属材料の密度が高くなる。露出部10における撚りピッチは、少なくとも、緊密化工程によって撚りを緊密化した状態よりも大きくなり、弛緩の程度によっては、緊密化工程実施前よりも大きくなる。素線2aの間隔を大きく広げる観点からは、緊密化工程実施前よりも撚りピッチを大きくする方がよい。
【0094】
被覆部20において、緊密化工程で絶縁被覆3を外側から把持していた把持部30は、弛緩工程を経て、単位長さあたりの金属材料の密度が露出部10よりも低く、さらには緊密化工程実施前の状態よりも低くなった隣接域21となる。被覆部20において、緊密化工程で把持部30としていなかった領域、つまり、露出部10から離間した領域は、遠隔域22となる。遠隔域22においては、単位長さあたりの金属材料の密度、素線2aの撚りピッチ等、導体2の状態が、緊密化工程実施前から実質的に変化していない。隣接域21において単位長さあたりの密度が低くなった分の金属材料は、露出部10に充当され、露出部10における単位長さあたりの金属材料の密度を高めるのに寄与する。その結果、単位長さあたりの金属材料の密度は、露出部10において最も高く、遠隔域22において次に高く、隣接域21において最も低い状態となる。
【0095】
(3)充填工程
次に、充填工程において、
図8(b)のように、露出部10における素線2aの間の空間に、流動性の高い状態とした止水剤5を充填する。止水剤5の充填操作は、塗布、浸漬、滴下、注入等、止水剤5の粘度等の特性に応じた任意の方法で、素線2aの間の空間に、液状の樹脂組成物を導入することによって行えばよい。
【0096】
充填工程においては、止水剤5を素線2aの間の空間に充填するとともに、露出部10の導体2の外周にも、止水剤5を配置することが好ましい。そのためには、例えば、露出部10に導入する止水剤5の量を、素線2aの間の空間を埋めても余剰が生じる量に設定しておけばよい。この際、止水剤5を、露出部10の外周に加えて、さらに被覆部20の端部の絶縁被覆3の外周部にも配置してもよいが、充填工程よりも後に被覆移動工程を実施する場合には、被覆移動工程において、露出部10に導入された止水剤5の一部を、被覆部20の絶縁被覆3の外周部に移動させることができる。よって、充填工程では、素線2aの間の空間に加えて、露出部10の外周に止水剤5を配置しておけば十分である。
【0097】
上記第一の実施形態にかかる絶縁電線1のように、止水部4において、導体2の全周を囲んで止水剤5を充填する場合には、充填工程において、露出部10を構成する導体2の全周を囲む領域に、止水剤5を配置しておくことが好ましい。一方、第二の実施形態にかかる絶縁電線1Aのように、止水部4Aの各部の断面において、導体2の一部の領域を囲む部分充填域(51,52,…)にのみ止水剤5を充填する場合には、露出部10を構成する導体2の長手軸方向の各位置において、断面内の一部の領域にのみ止水剤5を配置しておけば十分である。好ましくは、素線2aの間の空間に止水剤5を充填した充填領域を、素線2aの間の領域に止水剤5を充填しない非充填領域と、露出部10を構成する導体2の径方向(例えば上下方向)に隣接させて設けておくとよい。この際、充填領域は、露出部10を構成する導体2の径方向一端から他端までの間の距離(導体2の直径)の半分以上を占めるように設けることが好ましい。例えば、浸漬によって止水剤5を充填する場合、導体2の下側の一部の領域、好ましくは下側半分以上の領域を止水剤5に浸漬し、下側に充填領域を、上側に非充填領域を形成すればよい。
【0098】
上記密度変調工程で、露出部10の素線2aの間隔を広げたうえで、充填工程において、露出部10に止水剤5を導入することで、広げられた素線2aの間の部位に、止水剤5が浸透しやすくなる。そのため、止水剤5を、露出部10の各部において、高い均一性をもって、ムラなく浸透させやすい。その結果、止水剤5の硬化を経て、優れた止水性能を有する信頼性の高い止水部4を形成することができる。また、止水剤5が、4Pa・s以上のような比較的高い粘度を有している場合でも、素線2aの間隔を十分に広げておくことで、素線2aの間の空間に、止水剤5を高い均一性をもって浸透させることができる。
【0099】
上記のように、素線2aの間の領域をはじめとする絶縁電線1の所定の箇所への止水剤5の充填は、塗布、浸漬等、どのような方法で行ってもよい。しかし、止水剤5の充填における均一性を高める観点、また多数の絶縁電線1に対して止水部4の形成を行う際の作業性を高める観点等から、浸漬によって、止水剤5の充填を行うことが好ましい。
【0100】
例えば、止水剤5を噴出させる噴流装置を用いて、絶縁電線1の所定箇所を、止水剤5に浸漬することが好ましい。その際、止水剤5を均一性高く充填するために、絶縁電線1を軸回転させながら、止水剤5の噴流に絶縁電線を接触させてもよい。
【0101】
充填工程において、素線2aの間の空間を含む所定の部位に止水剤5を導入する際の条件によって、形成される止水部4における気泡Bの量や分布を制御することができる。流速を比較的小さくして止水剤5を導入すれば、液状の止水剤5の中での気泡の発生を抑え、素線2aに接触する気泡Bを含め、止水部4に形成される気泡Bを少なく、また小さく抑えることができる。例えば、上記のように、噴流装置を用いて充填工程を実施すれば、止水剤5の流速を小さく抑えても、素線2aの間の空間に、均一性高く止水剤5を充填しやすいため、気泡Bの発生を抑えて、止水部4を形成することができる。
【0102】
一方、止水剤5の流速を大きくして、止水剤5の導入を行う場合には、止水剤5に溶存している気体に由来する気泡の生成や、外部からの気体の巻き込み等により、硬化前の液体状の止水剤5の中に、気泡が発生しやすくなる。その状態で止水剤5が硬化すると、止水部4に、気泡Bが発生することになる。例えば、絶縁電線1において、止水剤5を充填すべき箇所を容器に封入し、容器内を負圧とすることで、素線2aの間の空間に、止水剤5を強制的に引き込む場合には、止水剤5の引き込みの際に、止水剤5に溶解していた気体成分が気泡を形成しやすい。また、負圧による強制的な止水剤5の引き込みに際し、止水剤5の流れの下流に相当する部位に、空気の層が形成されやすい。これらの要因により、止水剤5の硬化を経て形成される止水部4において、素線2aに接する部位を含め、気泡Bが形成されやすくなる。特許文献1に記載される形態のように、加圧条件で止水剤5を素線2aの間の空間に充填する際にも、同様に、止水剤5の流動に伴って空気の層が形成されることで、止水部4に気泡Bが形成されやすくなる。
【0103】
(4)再緊密化工程
充填工程が完了すると、次に、再緊密化工程において、
図8(c)に示すように、素線2aの間の空間に止水剤5が充填された状態の露出部10において、素線2aの間隔を狭める。この工程は、例えば、先の密度変調工程における緊密化工程と同様に、露出部10の両側の被覆部20を、隣接域21において絶縁被覆3の外側から把持して、導体2を素線2aの撚り合わせ方向に、捻るように回転させ、素線2aの撚りを緊密化することによって、実行することができる(運動M4)。なお、再緊密化工程においては、緊密化工程とは異なり、露出部10へと導体2を繰り出す操作は行わない。
【0104】
再緊密化工程により、露出部10の素線2aの間の空間が狭められると、その狭い空間に止水剤5が閉じ込められることになるので、硬化等によって止水剤5の流動性が十分に低下するまでの間に、止水剤5が、流出や垂下等を起こさずに素線2aの間の空間に留まりやすい。それにより、止水剤5の硬化等を経て、優れた止水性能を有する信頼性の高い止水部4を形成しやすくなる。そのような効果を高く得るため、再緊密化工程において、露出部10における素線2aの撚りピッチを小さくすることが好ましく、例えば、再緊密化工程を経た後の状態で、隣接域21、さらには遠隔域22よりも露出部10の撚りピッチが小さくなるようにすればよい。再緊密化を経ることで、形成される止水部4を絶縁電線1の長手軸方向に垂直に切断した断面において、導体2の外周に位置する素線2a1の断面形状が扁平となりやすい。また、絶縁電線1の長手軸方向に垂直に切断した断面における素線2aの楕円率が、止水部4において、被覆部20よりも小さくなりやすい。上でも述べたように、導体2の外周に位置する素線2a1が扁平な断面形状を有すること、また断面における楕円率が止水部4において、被覆部20よりも小さくなっていることは、十分な量の止水剤5が、素線2aの間の領域に保持されていることの指標となる。
【0105】
また、再緊密化工程を実施することで、素線2aの間の領域に充填された止水剤5の再配置が促進され、止水剤5の分布の均一性が高まる。例えば、充填工程を終えた状態で、止水剤5の中に、気泡Bが生成しているとしても、再緊密化工程の実施に伴って止水剤5が移動することで、その気泡Bが、周囲から移動してきた止水剤5によって埋められ、消滅する場合がある。さらに、再緊密化工程を実施することで、導体2の周方向に沿った止水剤5の分布の均一性も高められる。特に、第二の実施形態にかかる絶縁電線1Aを製造するにあたり、先の充填工程において、充填領域と非充填領域を、上下方向等、露出部10の径方向に沿って隣接させて設けた場合に、再緊密化工程において導体2に撚りを加えることで、充填領域に配置されていた止水剤5が、導体2の広い領域に行き渡るようになる。例えば、止水剤5が、螺旋を描いて、導体2の全周にわたって配置された状態となりやすい。
【0106】
再緊密化工程は、素線2aの間に充填した止水剤5が流動性を有する間、つまり、硬化性樹脂組成物よりなる止水剤5であれば、止水剤5が硬化する前、あるいは硬化の途中で行うことが好ましい。すると、再緊密化の操作が、止水剤5の存在によって妨げられにくい。
【0107】
特に、先の充填工程を、噴流装置等を用いて、止水剤5への絶縁電線1の浸漬によって行う場合には、絶縁電線1を止水剤5に浸漬した状態のまま、再緊密化工程を実施することが好ましい。すると、再緊密化の操作自体に起因して、止水剤5が、絞り出されるようにして、素線2aの間の空間から排除される事態を、回避しやすい。例えば、露出部10を含む絶縁電線1の所定の箇所を、止水剤5の噴流に接触させて、充填工程として、素線2aの間の空間等に、止水剤5を行き渡らせた後、絶縁電線1を噴流に接触させた状態のまま、導体2を捻るように回転させ(運動M4)、再緊密化工程を実施するとよい。
【0108】
(5)被覆移動工程
次に、被覆移動工程において、
図9(a)に示すように、露出部10の両側の被覆部20に配置された絶縁被覆3を、相互に接近させるようにして、露出部10に向かって移動させる(運動M5)。被覆移動工程も、再緊密化工程と同様、露出部10に充填した止水剤5が流動性を有する間、つまり、硬化性樹脂組成物よりなる止水剤5であれば、止水剤5が硬化する前、あるいは硬化の途中で行うことが好ましい。被覆移動工程は、再緊密化工程と合わせて、実質的に一度の操作で行うようにすることもできる。上記のように、噴流装置等を用いて、絶縁電線1を止水剤5に浸漬して充填工程を実施した状態のまま、再緊密化工程を実施する場合には、被覆移動工程も、そのように絶縁電線1を止水剤5に浸漬した状態のまま、実施するとよい。
【0109】
露出部10の端部等において、充填工程によって、十分な量の止水剤5を素線2aの間の空間に配置できていない領域が存在していたとしても、被覆移動工程によって、そのような領域にも止水剤5が行き渡るようになり、露出部10において導体2が露出した部位の全域で、素線2aの間に止水剤5が充填された状態となる。さらに、露出部10の導体2の外周に配置されていた止水剤5の一部を、被覆部20の絶縁被覆3の外周に移動させることができる。これにより、露出部10の素線2aの間の空間、露出部10の導体2の外周、被覆部20の端部の絶縁被覆3の外周の3つの領域に、止水剤5が連続して配置された状態となる。
【0110】
上記3つの領域に止水剤5が配置されることで、次の硬化工程を経て、素線2aの間の領域における止水性能に優れるとともに、外周が物理的に保護および電気的に絶縁され、さらに導体2と絶縁被覆3の間の止水性能にも優れた止水部4を、共通の材料から、同時に形成することができる。なお、充填工程において、露出部10の端から端まで、さらには両側の被覆部20の端部まで含む領域に、十分に止水剤5を導入できる場合等には、被覆移動工程を省略してもよい。
【0111】
(6)硬化工程
最後に、硬化工程において、止水剤5を流動性の低い状態にする。止水剤5が、各種硬化性樹脂組成物よりなる場合には、その種類に応じた硬化方法を適用すればよい。つまり、止水剤5が熱硬化性を有する場合は加熱により、光硬化性を有する場合は光照射により、湿気硬化性を有する場合には大気中での放置等による加湿により、嫌気硬化性を有する場合には、止水剤5が導体2に接触した状態での時間の経過により、止水剤5の硬化を行えばよい。硬化工程を経て、高い止水性能を有する止水部4を備えた絶縁電線1を得ることができる。
【0112】
硬化工程を実行する間、止水剤5の流動性が十分に低下するまでの間、
図9(b)に示すように、絶縁電線1を、軸回転させるとよい(運動M6)。加えて、充填工程、さらに再緊密化工程および被覆移動工程を行った後、硬化工程を開始するまでの間に、加工装置間での絶縁電線1の移動等により、時間を要する場合には、その時間の間も、絶縁電線1を軸回転させておくことが好ましい。
【0113】
絶縁電線1を軸回転させることなく、静止させたままで、止水剤5の硬化を行うとすれば、未硬化の止水剤5が重力に従って垂下することで、重力方向下方となっていた位置に、上方となっていた位置よりも厚い止水剤5の層が形成された状態で、止水剤5が硬化することになる。すると、止水剤5の硬化後に得られる止水部4において、導体2が偏芯した状態となりやすい(偏芯率が低くなりやすい)。
【0114】
そこで、絶縁電線1を軸回転させながら硬化工程を実施することで、さらには、硬化工程を開始する前から絶縁電線1を軸回転させておくことで、未硬化の止水剤5が、絶縁電線1の周方向に沿って1か所に留まりにくくなり、全周にわたって、厚さの均一性の高い止水剤5の層が形成されやすくなる。すると、止水部4における導体2の偏芯が軽減され(偏芯率が高くなり)、全周において、止水性能や物理的特性の均一性が高い止水部4を形成することができる。
【0115】
また、絶縁電線1を軸回転させることで、素線2aの間の領域においても、止水剤5の再配置を促進し、止水剤5の分布の均一性を高めた状態で、硬化させやすくなる。例えば、止水剤5の中に、気泡Bが生成しているとしても、絶縁電線1の軸回転に伴って、未硬化の止水剤5が移動することで、その気泡Bが、周囲から移動してきた止水剤5によって埋められて消滅した状態で、止水剤5を硬化させられる可能性がある。また、絶縁電線1を軸回転させて、導体2の外周における止水剤5の層の厚さの均一性を高めた状態で、止水剤5の硬化を行うことで、素線2aの間の領域においても、各部に充填された止水剤5の硬化を、均一性の高い条件で進めることができる。例えば、止水剤5が光硬化性の樹脂組成物よりなる場合に、導体2の外周に形成される止水剤5の層の厚さの均一性を高めておくことで、その止水剤5の層を透過して素線2aの間の領域に届く光の強度の均一性が高くなり、各部における止水剤5の硬化において、硬化速度等、硬化時の条件の均一性を高めることができる。その結果、硬化条件の不均一性に起因して、止水剤5が十分に硬化しない箇所等で、気泡Bをはじめとし、不均一な構造が形成されるのを、抑制することができる。
【0116】
特に、止水剤5が、紫外線硬化性等、光硬化性を有する場合には、絶縁電線1を軸回転させながら硬化工程を実施することで、光源80を1つしか用いなくても、絶縁電線1の周方向に沿って、全域に、光源80からの光Lを照射することができ、全周の止水剤5の光硬化を、均一性高く進行させることができる。光硬化機構は、他の硬化機構よりも、止水剤5の硬化を高速に進めるものであることが多く、止水剤5として光硬化性樹脂を用いることで、止水剤5が、気泡Bの発生や偏芯が抑制された均一性の高い状態で、素線2aの間の領域や導体2の外周に配置され、硬化された止水性能に優れる止水部4を、高い生産性をもって、形成することができる。
【実施例】
【0117】
以下に本発明の実施例を示す。ここでは、止水部における止水剤の分布と止水性能の相関について、検証した。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0118】
(試験方法)
(1)試料の作製
導体断面積0.5mm2(素線径0.18mm、素線数20)の銅撚線導体の外周に、PVCよりなる厚さ0.35mmの絶縁被覆を形成した絶縁電線の中途部に、長さ8mmの露出部を形成した。そして、止水剤を用いて、露出部に対して、止水部を形成した。止水剤としては、紫外線硬化性および嫌気硬化性を有する樹脂である、スリーボンド社製「3062F」を使用した。
【0119】
止水部の形成に際しては、
図6にフロー図を示したとおり、各工程を順に実施した。充填工程においては、絶縁電線の露出部の全域を含む部位の全周を囲む領域に、止水剤を充填した。また、硬化工程においては、絶縁電線を軸回転させながら、紫外線照射を行った。
【0120】
ここで、実施例にかかる試料を作製する際には、大気圧下で、噴流を用いて、充填工程を実施した。再緊密化工程および被覆移動工程も、絶縁電線を噴流に接触させたままの状態で行った。一方、比較例にかかる試料を作製する際には、充填工程において、噴流を用いず、絶縁電線の露出部を含む領域を封入した容器を真空ポンプによって排気し、-75kPaの負圧条件で、止水剤を引き込むことで、素線の間の空間を含む領域に、止水剤を注入した。この際の止水剤の流速は、実施例における噴流の流速よりも大きかった。
【0121】
(2)止水部の断面の観察
実施例および比較例にかかる各試料について、止水部の長手軸方向中央部を、絶縁電線の長手軸方向に垂直に切断した。そして、切断面に対して光学顕微鏡写真を撮影し、断面の状態を観察した。
【0122】
(3)止水性能の評価
実施例および比較例にかかる絶縁電線の止水部について、リーク試験により、素線間、また導体と絶縁被覆の間の止水性能を評価した。具体的には、各絶縁電線の止水部から一端部にわたる領域を水中に浸漬し、絶縁電線の他端部から、200kPaで空気圧を印加した。そして、水中に浸漬した止水部および絶縁電線の端部を目視にて観察した。
【0123】
空気圧印加によって、止水部の素線間の部位、つまり止水部の中途部と、絶縁電線の端部のいずれの部位からも、気泡が発生するのが確認されなかった場合には、止水性能が高いと評価した。一方、いずれか少なくとも一方の部位から気泡が発生するのが確認された場合には、止水性能が不十分であると評価した。
【0124】
(結果)
図11(a),(b)に、それぞれ、実施例および比較例にかかる試料の止水部に対して得られた断面写真を示す。各写真において、明るく観察されている領域が、導体を構成する素線に対応し、暗く観察されている領域が、止水剤に対応する。そして、止水剤の中に、比較的明るいグレーで観察されている領域が、気泡に対応する。
【0125】
止水性能の評価結果としては、実施例においては、気泡の発生が見られず、高い止水性能を有すると評価された。一方、比較例においては、気泡の発生が見られ、止水性能が不十分であると評価された。
【0126】
図11(b)に示す比較例にかかる試料の止水部の断面を見ると、素線の間の領域および導体の外周部に、止水剤が充填されている。しかし、図中に矢印で表示するように、気泡が素線に接触して形成されている。素線間の空間に止水剤を充填する際に、負圧条件において止水剤を強制的に引き込んだために、止水剤内に気泡が発生し、その状態で止水剤が硬化したことで、止水剤中に気泡が形成されたものと考えられる。
【0127】
一方、
図11(a)に示す実施例にかかる試料の止水部の断面を見ると、素線の間の領域および導体の外周部に、止水剤が密に充填されており、
図11(b)で見られたような、素線に接触する気泡は見られない。導体の左上の辺りに、小さな気泡が見られるが、明らかに、導体よりも外側の領域に形成されており、素線に接触するものではない。このように、実施例にかかる試料においては、各素線の表面が、気泡に接触せず、止水剤または他の素線に接触したものとなっている。止水剤を素線間の空間に充填する際に、噴流を用い、比較的流速が遅い状態で止水剤を導入したことにより、気泡の発生が抑制されたものと考えられる。
【0128】
このような止水剤の分布状態の差異が、実施例と比較例での止水性能の差異に反映されていると解釈することができる。つまり、実施例においては、止水剤が密に充填され、素線の表面が、止水剤または他の素線に接触した状態となっていることにより、止水部が高い止水性能を示したのに対し、比較例においては、素線に接触して気泡が形成されていることにより、止水性能が低くなってしまったと考えられる。
【0129】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0130】
1,1A 絶縁電線
2 導体
2a 素線
3 絶縁被覆
4,4A 止水部
5 止水剤
51,52 部分充填域
6 ワイヤーハーネス
10 露出部
20 被覆部
21 隣接域
22 遠隔域
61 第一の電気接続部
62 防水構造
63 第二の電気接続部
B 気泡