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特許7226528方向性電磁鋼板被膜形成用塗布剤および方向性電磁鋼板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板被膜形成用塗布剤および方向性電磁鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/00 20060101AFI20230214BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20230214BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
C23C22/00 A
C21D9/46 501B
H01F1/147 183
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021509532
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2020013426
(87)【国際公開番号】W WO2020196657
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2019056722
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】高橋 史明
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-278832(JP,A)
【文献】特開平07-228977(JP,A)
【文献】特開平09-272983(JP,A)
【文献】特開平09-235679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00-22/86
C21D 9/46-9/48
H01F 1/12-1/38
H01F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化アルミニウムおよび/または酸化アルミニウム前駆体化合物を含むアルミニウム源と、
アルカリ金属のホウ酸塩を含むホウ素源と、
前記アルミニウム源と前記ホウ素源との合計質量に対し、酸化珪素換算で5質量%以上10質量%以下の酸化珪素および/または酸化珪素前駆体と、を含み、
前記ホウ素源に含まれるBと前記アルミニウム源に含まれるAlがモル比にしてAl/B:0.5~2.0となるように、前記アルミニウム源と前記ホウ素源とが含まれており、
前記アルミニウム源と前記ホウ素源との合計の固形分濃度は、20質量%以上38質量%以下であり、
pHが2.0以上6.0以下である方向性電磁鋼板被膜形成用塗布剤。
【請求項2】
前記ホウ素源が、ホウ酸を含む、請求項1に記載の方向性電磁鋼板被膜形成用塗布剤。
【請求項3】
前記アルカリ金属が、ナトリウムおよびカリウムのうち少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板被膜形成用塗布剤。
【請求項4】
硝酸、塩酸からなる群から選択される1種または2種以上の無機酸および/または酢酸、クエン酸、シュウ酸からなる群から選択される1種または2種以上の有機酸を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板被膜形成用塗布剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板被膜形成用塗布剤を用いて、ホウ酸アルミニウム被膜を形成する工程を有する、方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板被膜形成用塗布剤および方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、{110}<001>を主方位とする結晶組織を有し、変圧器の鉄心材料として多用されており、特にエネルギーロスを少なくするために鉄損の小さい材料が求められている。
【0003】
特許文献1には、方向性電磁鋼板の鉄損を低減する手段として、仕上げ焼鈍後の鋼板表面にレーザービームを照射して局部的な歪を与え、それによって磁区を細分化する方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、鉄心加工後の歪取り焼鈍(応力除去焼鈍)を施した後もその効果が消失しない磁区細分化手段が開示されている。
【0005】
一方で、鉄及び珪素を含有する鉄合金は結晶磁気異方性が大きいため、外部張力を付加すると磁区の細分化が起こり、鉄損の主要素である渦電流損失を低下させることができる。特に、5%以下の珪素を含有する方向性電磁鋼板の鉄損の低減には鋼板に張力を付与することが有効であることが知られている。この張力は、表面に形成された被膜によって付与される。
【0006】
方向性電磁鋼板には、仕上げ焼鈍工程で鋼板表面の酸化物と焼鈍分離剤とが反応して生成するフォルステライトを主体とする一次被膜、及び特許文献3等に開示されたコロイド状シリカとリン酸塩とを主体とするコーティング液を焼き付けることによって生成する非晶質を主とする二次被膜の2層の被膜によって、板厚0.23mmの場合で10MPa程度の張力が付与されている。
【0007】
上記のような従来被膜の場合、被膜量を多くすることによりさらに大きな張力付与が可能で、張力向上による鉄損改善の可能性は残されているものの、付与張力向上のために現状以上に被膜を厚くすることは、占積率の低下をもたらすため好ましくない。このため、占積率低下を引き起こすことなく、密着性に優れ、薄くて鋼板に大きな張力が付与できる被膜が望まれている。
【0008】
これに対して、特許文献4では、ホウ酸アルミニウム結晶を主とする被膜を表面に有する方向性電磁鋼板が提案されている。
ある被膜が高張力被膜となるためには、被膜のヤング率が高く、かつ熱膨張係数が小さいことが求められる。一般に、結晶は非晶質よりもヤング率が高い。ホウ酸アルミニウムからなる被膜は主たる構成物が結晶であるためシリカとリン酸塩からなる従来の非晶質の被膜よりもヤング率が高い。ホウ酸アルミニウムからなる被膜は、熱膨張係数も十分に低いため、ヤング率の効果と相まって、特許文献3に開示されたような被膜よりも高い張力を得ることが可能である。
しかし、特許文献4の技術では被膜を形成するための塗布液の固形分濃度が低いため、被膜乾燥、焼き付け時に突沸が起こり、被膜欠陥が起こる問題があった。
【0009】
このような被膜欠陥の発生を抑制するため、特許文献5には、固形分濃度を上げるためには酸化アルミニウム前駆体の濃度を上げる必要があり、その際問題となる塗布液の粘度安定性については、解膠剤の添加、強撹拌、加温の3つの条件を組み合わせる方法が開示されている。なお硼酸の濃度を上げるとゲル化を引き起こすためホウ酸の量を上げることは望ましくないことが示されている。特許文献6には、ホウ素、アルミニウム源となる化合物と、水と相溶性を有する有機溶媒と、水とを含む方向性電磁鋼板形成用塗布剤が開示されている。また、特許文献7では塗布液乾燥時の昇温速度を上げる目的で、塗布液として固形分濃度が高い微粒子分散液を用いる方法が開示されている。すなわちこの方法は、酸化ホウ素換算で12~26重量%の可溶性ホウ酸を用いた微粒子分散液を用い、かつ分散液塗布後の乾燥時に粗大なホウ酸結晶形成を抑制するためにホウ酸が析出する温度域を比較的早い速度で昇温する方法である。しかし、ホウ酸は溶解度以下の濃度であれば水に可溶であるが、特許文献7の方法では溶解度を上回る濃度のホウ酸含有液を用いることから、不可避的に溶解残りのホウ酸が微粒子分散液の中に存在する。溶解残りのホウ酸が微粒子分散液の中に存在すると、溶解残りのホウ酸は沈殿しやすいことから塗布液が均一に混合された状態を保つことが困難になり、結果的に高い張力の被膜を得ることが困難となる。沈殿が起きやすい塗布液は、不安定な塗布液であり、生産に用いる場合は不都合を生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開昭58-26405号公報
【文献】特開昭62-86175号公報
【文献】特開昭48-39338号公報
【文献】特開平6-65754号公報
【文献】特開平9-263951号公報
【文献】特開平7-278828号公報
【文献】特開平9-272983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、ホウ酸アルミニウムからなる被膜は、熱膨張係数も十分に低いため、シリカとリン酸塩からなる従来の非晶質の被膜よりも高い張力を得ることができる。しかし、ホウ酸アルミニウム被膜形成用の塗布剤は固形分濃度が低いという欠点があった。具体的には、従来のリン酸塩と非晶質シリカからなる張力被膜の被膜塗布剤における固形分濃度は20質量%程度であるが、ホウ酸アルミニウム被膜形成用の塗布剤は、固形分濃度を10質量%程度まで上げるのが限界であった。
【0012】
塗布剤の固形分濃度が低い場合には必要被膜厚さを確保しようとすると水分の除去工程である乾燥工程に時間がかかる問題が生じ、乾燥時間を短くするため急速に温度を上げると突沸等により被膜欠陥が生じる問題があった。このような被膜欠陥が生じると張力が低下したり、被膜の母材鋼板への密着性が低下する。本発明者らが検討したところ、このような課題を解決するためには、ホウ酸アルミニウム被膜形成用の塗布剤の固形分濃度を従来のリン酸塩と非晶質シリカからなる張力被膜の被膜塗布剤と同程度とすることが必要であることが明らかとなった。
【0013】
ホウ酸アルミニウム塗布液の固形分濃度を上げるための特許文献5に記載の技術では、ホウ酸アルミニウム塗布液の固形分濃度を最大でも19質量%程度までしか上げることができない。一方で、特許文献6に記載の技術では、塗布液の乾燥時に有機溶剤由来のガスが生じる場合があり、被膜欠陥を誘発する恐れがあった。また、特許文献7にある方法では、固形分濃度が高い安定な塗布液を得ることができなかった。
【0014】
本発明は、密着性が高く、張力の大きいホウ酸アルミニウム被膜を形成可能な方向性電磁鋼板被膜形成用塗布剤および方向性電磁鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、被膜欠陥を抑えるに十分な固形分濃度の被膜塗布液を得るためには、高濃度のホウ酸溶液を用いればよいこと、また特許文献5にある高濃度ホウ酸溶液におけるゲル化の問題は、塗布液のpHを調整することで回避可能であることを見出した。また、固形分濃度を上げるためには、加熱した水に溶解したホウ酸の水溶液を用いることができることも見出した。
本発明は上記の知見に基づきなされたものであって、その要旨は以下のとおりである。
【0016】
(1) 酸化アルミニウムおよび/または酸化アルミニウム前駆体化合物を含むアルミニウム源と、
アルカリ金属のホウ酸塩を含むホウ素源と、
前記アルミニウム源と前記ホウ素源との合計の質量に対し、酸化珪素換算で5質量%以上10質量%以下の酸化珪素および/または酸化珪素前駆体と、を含み、前記ホウ素源に含まれるBと前記アルミニウム源に含まれるAlがモル比にしてAl/B:0.5~2.0となるように前記アルミニウム源と前記ホウ素源とが含まれており、
前記アルミニウム源と前記ホウ素源との合計の固形分濃度は、20質量%以上38質量%以下であり、
pHが2.0以上~6.0以下である方向性電磁鋼板被膜形成用塗布剤。
(2) 前記ホウ素源が、ホウ酸を含む、(1)に記載の方向性電磁鋼板被膜形成用塗布剤。
(3) 前記アルカリ金属が、ナトリウムおよびカリウムのうち少なくとも1種を含む、(1)または(2)に記載の方向性電磁鋼板被膜形成用塗布剤。
(4) 硝酸、塩酸からなる群から選択される1種または2種以上の無機酸および/または酢酸、クエン酸、シュウ酸からなる群から選択される1種または2種以上の有機酸を含む、(1)~(3)のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板被膜形成用塗布剤。
(5) (1)~(4)のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板被膜形成用塗布剤を用いて、ホウ酸アルミニウム被膜を形成する工程を有する、方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明によれば、密着性が高く、張力の大きいホウ酸アルミニウム被膜を形成可能な方向性電磁鋼板被膜形成用塗布剤および方向性電磁鋼板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態に基づき、本発明を詳細に説明する。
<1.方向性電磁鋼板被膜形成用塗布剤>
まず、本実施形態に係る方向性電磁鋼板被膜形成用塗布剤(以下、単に「塗布剤」ともいう)について説明する。
【0019】
(本発明者の検討)
まず、本実施形態に係る方向性電磁鋼板被膜形成用塗布剤の各成分の説明を行うに先立ち、本発明に至るまでの本発明者の検討について以下説明する。
本発明者は、まず、塗布剤中の固形分濃度を大きくするために、水に対する溶解度の大きいアルカリ金属のホウ酸塩を使用することを着想した。しかし、上述したように、本発明者は、塗布剤のホウ酸濃度を高くすると、塗布剤がゲル化する、密着性が低下するという2つの問題に直面した。
【0020】
まず、第一の課題である塗布剤のゲル化については、酸性で安定化するアルミナゾル等のアルミニウム源に対し、アルカリ性のアルカリ金属のホウ酸塩が加わり、アルミナゾル等のアルミニウム源の環境が中性側に変化することで生じることが推察された。塗布剤が塗布前にゲル化すると正常な被膜が形成できないためこれを避けることが必要である。上記のような原因によるゲル化を回避するためにはアルミナゾル等のアルミニウム源の分散・溶解環境を酸性側に保てればよく、塗布剤に酸を加えるにより解決できることを、本発明者は見出した。
【0021】
次に第二の課題である密着性の劣化については、ホウ酸アルミニウム被膜にアルカリ金属が添加されて生じることが推測された。これは、ホウ酸アルミニウム被膜中にホウ酸アルミニウム結晶質のほかに存在していると考えられる、ガラス質のネットワークの分断が生じるために起こると考えられる。本発明者は、このガラス質は塗布剤に余剰に含まれているホウ素により形成されるホウ酸ガラスからなると推定している。
【0022】
塗布剤中のアルミニウム、ホウ素の組成は、ホウ酸アルミニウム結晶の化学量論組成よりもホウ素の量が多い設計とすることができる。ホウ素の量を多くすると、張力向上効果と密着性の向上効果が図れるためである。この場合において、本発明者は、余剰のホウ素は、ホウ酸アルミニウム被膜中でガラス質となって被膜と鋼板の密着性の確保に貢献していると推定している。
【0023】
このガラス質にカリウムなどの一価の金属元素が含まれると、ガラスのネットワーク構造が破壊され、結果としてホウ酸アルミニウム被膜の密着性が損なわれると考えられる。本発明者は、このような密着性劣化機構が働いていると考え、ガラス形成元素を補うことで問題解決を図った。種々解決策を検討した結果、塗布液のアルミニウムとホウ素の比率を最適化するとともに、酸化珪素をホウ酸アルミニウム被膜中に添加することで密着性を確保することができることを見出した。具体的には、塗布剤について、アルミニウムとホウ素の比率を従来よりもホウ素過剰の組成とするとともに、酸化珪素を適量添加することにより、密着性の向上が図れることを見出した。
【0024】
したがって、本実施形態に係る方向性電磁鋼板被膜形成用塗布剤は、酸化アルミニウムおよび/または酸化アルミニウム前駆体化合物を含むアルミニウム源と、アルカリ金属のホウ酸塩を含むホウ素源と、前記アルミニウム源と前記ホウ素源との合計質量に対し酸化ケイ素換算で5質量%以上10質量%以下の酸化珪素および/または酸化珪素前駆体と、水と、を含み、ホウ素源に含まれるBとアルミニウム源に含まれるAlがモル比にしてAl/B:0.5~2.0となるように前記アルミニウム源と前記ホウ素源とが含まれており、前記アルミニウム源と前記ホウ素源との合計の固形分濃度は、20質量%以上38質量%以下であり、pHが2.0以上6.0以下である。
以下、塗布剤に含まれる各成分等について詳細に説明する。
【0025】
(アルミニウム源)
塗布剤のアルミニウム源は、酸化アルミニウムおよび/または酸化アルミニウム前駆体化合物を含む。酸化アルミニウム前駆体化合物は、形成されるホウ酸アルミニウム被膜中で酸化アルミニウムを形成可能であれば特に限定されず、例えば、ベーマイトのようなAl・mHOで表記される酸化アルミニウムの水和物、水酸化アルミニウム等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
アルミニウム源は、塗布剤中で分散していてもよいが、塗布在中に溶解していてもよい。通常、アルミニウム源は、塗布剤中で分散する。アルミニウム源は、塗布剤中で安定して分散するように、粒子状であることが好ましい。この場合、アルミニウム源のレーザー回折散乱法による体積基準平均粒径(D50)は、例えば0.005μm以上1.0μm以下、好ましくは0.015μm以上0.7μm以下である。
【0027】
また、アルミニウム源は、ゾル状で、塗布剤に添加されてもよい。このようなゾルと呼ばれる微粒子分散系を用いることにより薄くて均一、かつ、密着性の良いホウ酸アルミニウム被膜が得られる。このようなゾルとしては、例えばアルミナゾル、ベーマイトゾル等が挙げられる。ベーマイトゾルおよびアルミナゾルは、作業性、あるいは価格等の点から特に適している。
【0028】
また、塗布剤中のアルミニウム源の含有量は、後述する固形分濃度およびホウ素源との比率を満足すれば特に限定されないが、例えば1質量%以上25質量%以下、好ましくは2質量%以上20質量%以下であることができる。
【0029】
(ホウ素源)
塗布剤のホウ素源は、アルカリ金属のホウ酸塩を含む。
アルカリ金属のホウ酸塩は、水等の塗布剤の溶媒に対する溶解度が非常に高く、固形分濃度の高い塗布剤の製造を可能とする。
アルカリ金属としては、特に限定されず、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムが挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、ナトリウム、カリウムは、ホウ酸塩とした際に塗布剤の溶媒に対する溶解度が大きく、また、製造コストの点からも有利である。
【0030】
アルカリ金属のホウ酸塩を構成するホウ酸成分としては、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸等のホウ素のオキソ酸が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、四ホウ酸は、ホウ酸塩とした際に塗布剤の溶媒に対する溶解度が大きく、塗布剤の固形分濃度の増加に好適に寄与できる。ここで、アルカリ金属のホウ酸塩を用いず、ホウ酸のみでホウ酸濃度を高めようとすると、ホウ酸は水に対する溶解度が小さいために溶け残りのホウ酸が存在した水溶液となる。このようなホウ酸水溶液は撹拌を止めると溶け残りのホウ酸が沈殿し、塗布液用ホウ酸源としては不安定なホウ酸水溶液となる。なお不安定なホウ酸水溶液かどうかは、撹拌を止めるとホウ酸が沈殿することから、水溶液中の沈殿の有無で容易に判定できる。本実施形態に係る塗布剤は、溶け残りのホウ酸が存在しない水溶液であるとすることができる。
【0031】
アルカリ金属のホウ酸塩の好適な組み合わせの具体例は、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウム、四ホウ酸リチウム等が挙げられる。特に、水に対する溶解度が大きいことから、アルカリ金属のホウ酸塩は、好ましくは四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウムを含み、より好ましくは四ホウ酸カリウムを含む。
【0032】
また、ホウ素源は、上述したアルカリ金属のホウ酸塩に加え、後述する固形分濃度の範囲を維持できる範囲で、他のホウ素源を用いることもできる。このような他のホウ素源としては、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸等のホウ素のオキソ酸(ホウ酸)、Bで表される酸化ホウ素等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、HBOで表されるオルトホウ酸は、作業性およびコストの観点から好ましい。
【0033】
また、塗布剤中のホウ素源の含有量は、後述する固形分濃度およびアルミニウム源との比率を満足すれば特に限定されないが、例えば5質量%以上30質量%以下であることができる。特にホウ酸ナトリウム水溶液の固形分量を上げる方法としては、ホウ酸と四ホウ酸ナトリウムを重量比で1:1.25とした配合比とし、80℃以上の水に完全に溶解させたのち、室温(25±15℃)まで冷却してポリホウ酸ナトリウム水溶液を得る方法が知られている。この方法を用いると、室温でそれぞれを混合する場合よりも高い固形分濃度の、ホウ素源を含む水溶液を得ることができる。
【0034】
ここで、上述したように、本実施形態に係る塗布剤には、従来と比較して、ホウ素源がアルミニウム源に対し、多く含まれている。具体的には、塗布剤は、モル比にしてAl/Bが0.5~2.0となるようにアルミニウム源とホウ素源とを含む。これにより、形成されるホウ酸アルミニウム被膜中のガラス質のネットワークが十分に形成され、密着性が向上する。ここで、ホウ素源が少なすぎると密着性向上の効果がなく、一方ホウ素源が多すぎると張力の低下やホウ酸アルミニウム被膜の耐水性の劣化による錆が発生する。
【0035】
なお、上述したようなアルミニウム源とホウ素源とのモル比を満足することにより、ホウ酸アルミニウム被膜の密着性は向上するが、同モル比を満足するのみでは、密着性は十分には向上せず、後述するように酸化珪素および/または酸化珪素前駆体を塗布剤に含有させることによって、ホウ酸アルミニウム被膜の密着性が十分に向上する。
【0036】
また、塗布剤中におけるアルミニウム源とホウ素源との合計の固形分濃度は、20質量%以上38質量%以下である。ここでの固形分濃度は、アルミニウム源とホウ素源との合計質量の塗布剤における濃度である。アルミニウム源は酸化アルミニウム(Al)、ホウ素源はオルトホウ酸(HBO)に換算して評価する。固形分濃度は、これら酸化アルミニウムと、オルトホウ酸の重量がこれに溶媒および酸の重量を加えた全体の量に占める重量%である。本実施形態に係る塗布剤は、ホウ素源としてアルカリ金属のホウ酸塩を含み、かつ、後述する所定量の酸を含むことにより、このような固形分濃度を達成することができる。このようにアルミニウム源とホウ素源との合計の固形分濃度が大きいことにより、密着性が高く、張力の大きいホウ酸アルミニウム被膜を形成することができる。また、本実施形態に係る塗布剤は、従来問題であった塗布剤のゲル化や、密着性の低下も防止されている。
【0037】
アルミニウム源とホウ素源との合計の固形分濃度が20質量%未満である場合、固形分濃度が小さくなる結果、必要被膜厚さを確保しようとすると溶媒の除去工程(乾燥工程)に過度に時間を要し、乾燥時間を短くするため急速に温度を上げると突沸等により被膜欠陥が生じてしまう。上記の固形分濃度は、好ましくは25質量%以上である。
【0038】
アルミニウム源とホウ素源との合計の固形分濃度が38質量%超である場合、塗布液がゲル化しやすくなり、不安定になる。上記の固形分濃度は、好ましくは35質量%以下である。
【0039】
(酸化珪素および酸化珪素前駆体)
また、塗布剤は、酸化珪素および/または酸化珪素前駆体を含む。酸化珪素および/または酸化珪素前駆体は、ホウ酸アルミニウム被膜中のガラス質のネットワークの形成に寄与し、得られるホウ酸アルミニウム被膜の密着性の向上に寄与する。
【0040】
酸化珪素としては、特に限定されないが、各種公知の酸化珪素を用いることができる。特に、コロイダルシリカは、塗布剤中における分散性に優れている。
また、酸化珪素前駆体としては、酸化珪素を形成可能な化合物、例えばシラン化合物が挙げられる。シラン化合物としては、特に限定されないが、例えば、テトラエトキシシラン等のアルコキシシランや、他の酸化珪素前駆体等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。あるいは、これらのシラン化合物の一部を予め加水分解したものを用いてもよい。
【0041】
また、塗布剤中における酸化珪素および酸化珪素前駆体の合計の含有量は、アルミニウム源とホウ素源との合計質量に対し、酸化ケイ素換算で5質量%以上10質量%以下である。これにより、得られるホウ酸アルミニウム被膜の密着性および張力を同時に優れたものとすることができる。
【0042】
これに対し、酸化珪素および酸化珪素前駆体の合計の含有量が上記下限値未満である場合、得られるホウ酸アルミニウム被膜の密着性が劣るものとなる。酸化珪素および酸化珪素前駆体の合計の含有量は、アルミニウム源とホウ素源との合計質量に対し、酸化ケイ素換算で好ましくは6質量%以上である。
【0043】
また、酸化珪素および酸化珪素前駆体の合計の含有量が上記上限値を超えると、ホウ酸アルミニウムの形成に影響を与える結果、得られるホウ酸アルミニウム被膜の張力が劣るものとなる。酸化珪素および酸化珪素前駆体の合計の含有量は、アルミニウム源とホウ素源との合計質量に対し、酸化ケイ素換算で好ましくは8質量%以下である。
【0044】
また、酸化珪素および/または酸化珪素前駆体を含有させるのみでは、ホウ酸アルミニウム被膜の密着性は十分には向上せず、上述したようなアルミニウム源とホウ素源とのモル比を満足した上で、酸化珪素および/または酸化珪素前駆体を含有させることにより、初めてホウ酸アルミニウム被膜の密着性が十分なものとなる。
【0045】
(酸)
塗布剤は、通常酸を含む。ここで、本明細書において、「酸」とはブレンステッド-ローリの酸塩基理論において定義される酸をいい、プロトンを供与する物質を言う。塗布剤がこのような酸を含むことにより、塗布剤のpHを後述する範囲に調節することができ、塗布剤中におけるアルミニウム源の分散安定性および溶解性が向上し、塗布剤のゲル化が防止される。
【0046】
このような酸としては、硝酸、塩酸等の無機酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸等の有機酸が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、酸としては、ホウ酸アルミニウム被膜形成時において、例えば加熱中に、分解または揮発するものが好ましい。
【0047】
このような分解または揮発する酸としては、硝酸、塩酸からなる群から選択される1種または2種以上の無機酸および/または有機酸が、酢酸、クエン酸、シュウ酸からなる群から選択される1種または2種以上の有機酸が挙げられる。したがって、塗布剤は、これらから選択される1種または2種以上の酸を含むことが好ましい。
【0048】
塗布液中における酸の含有量は、塗布剤のpHを適切な範囲(2.0以上6.0以下)に維持することができれば特に限定されず、目的とするpHに応じて適宜調節することができる。
【0049】
(溶媒)
また、塗布剤は、溶媒を含む。溶媒は、各成分を分解する溶媒としても機能するとともに、各成分を分散させる分散媒としても機能する。
【0050】
このような溶媒としては、特に限定されないが、水や、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
特に、溶媒としては、作業性および乾燥時の欠陥抑制効果並びに各成分の分散性、溶解性に優れる観点から、水が好ましい。
【0051】
以上、説明した塗布剤のpHは、2.0以上6.0以下である。塗布剤のpHが上記の範囲内である場合、アルミニウム源を安定して分散、溶解できる。
【0052】
これに対し、塗布剤中におけるpHが上記上限値を超えると、十分にアルミニウム源の分散安定性、溶解性を向上させることができず、塗布剤がゲル化してしまう。この結果、塗布剤を鋼板上に塗布し、乾燥する際に、ホウ酸アルミニウム被膜にひび割れや空隙が多発する等、微細な被膜欠陥が生じて健全な被膜が得られなくなり、結果的に十分な張力が得られなくなる。塗布剤のpHは、好ましくは、5.0以下である。
【0053】
一方で、塗布剤中におけるpHが上記下限値未満の場合、かえって塗布液が不安定になる。この結果、塗布剤を鋼板上に塗布し、乾燥する際に、ホウ酸アルミニウム被膜にひび割れや空隙が多発する等、微細な被膜欠陥が生じて健全な被膜が得られなくなり、結果的に十分な張力が得られなくなる。塗布剤のpHは、好ましくは、3.0以上である。
【0054】
なお、上述したpHは、例えば酸の添加により実現でき、一例として、pHが2.0以下の酸の溶液を5.0質量%以上10.0質量%以下加えることで実現できる。
【0055】
以上説明した本実施形態に係る塗布剤によれば、塗布剤のゲル化およびホウ酸アルミニウム被膜の密着性の低下を防止しつつ、ホウ素源およびアルミニウム源の固形分濃度を大きくすることができる。このため、十分な被膜厚さのホウ酸アルミニウム被膜を形成する際に、塗布剤を鋼板上に塗布した後の乾燥に要する時間が大幅に短縮される。また、乾燥時の温度等の乾燥条件を温和なものとすることができ、被膜欠陥の発生を抑制することができる。この結果、本実施形態に係る塗布剤を用いた場合、密着性が高く、張力の大きいホウ酸アルミニウム被膜を形成することができる。
【0056】
<2.方向性電磁鋼の製造方法>
以下に、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法について述べる。本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法は、上述した本実施形態に係る方向性電磁鋼板被膜形成用塗布剤を用いて、ホウ酸アルミニウム被膜を形成する工程を有する。
【0057】
(方向性電磁鋼板被膜形成用塗布剤の準備)
まず、上記工程に先立ち、方向性電磁鋼板被膜形成用塗布剤(塗布剤)を準備する。塗布剤の製造方法は特に限定されないが、例えば塗布剤を構成する各材料を混合することに得ることができる。材料の混合順序は特に限定されるものではなく、作業性や、各材料の分散性・溶解性に合わせて適宜設定することができる。
【0058】
(母材鋼板の準備)
次に、ホウ酸アルミニウム被膜を形成する母材鋼板を準備する。母材鋼板としては、具体的には、(1)従来公知の方法で仕上げ焼鈍を行って、表面にフォルステライト質の一次被膜が形成された鋼板、(2)一次被膜および付随的に生成している内部酸化層を酸に浸漬して除去した鋼板、(3)上記(2)で得た鋼板に水素含有雰囲気中で平坦化焼鈍を施した鋼板、あるいは化学研磨や電解研磨等の研磨を施した鋼板、(4)被膜生成に対して不活性であるアルミナ粉末等、または塩化物等の微量添加物を添加した従来公知の焼鈍分離剤を塗布し、一次被膜を生成させない条件下で仕上げ焼鈍を行った鋼板やその表面を(3)のような方法で平坦化した鋼板等の仕上げ焼鈍が完了した鋼板を準備すればよい。なお、母材鋼板の準備は、上述した塗布剤の準備と前後してもよい。
【0059】
(ホウ酸アルミニウム被膜の形成)
次に、得られた塗布剤を用いて、鋼板の表面にホウ酸アルミニウム被膜を形成する。ホウ酸アルミニウム被膜の形成は、鋼板の表面に塗布剤を塗布し、その後乾燥・焼き付けを行うことによりおこなうことができる。
【0060】
鋼板表面への塗布は、例えば、ロールコーター等のコーター、ディップ法、スプレー吹き付けあるいは電気泳動等、従来公知の方法によって行うことができる。
【0061】
塗布剤の塗布後の鋼板を乾操後、焼き付けを行うことにより、鋼板の表面にホウ酸アルミニウム被膜が形成される。焼き付けは、例えば750℃以上の温度で行うことができる。焼き付け温度は750℃末満の場合、塗布した前駆体が酸化物とならない場合があり、また焼き付け温度が低いため十分な張力が発現せず、好ましくない。焼き付け温度は、好ましくは750℃以上1200℃以下、より好ましくは800℃以上1000℃以下である。
【0062】
焼き付け時の雰囲気は窒素等の不活性ガス雰囲気、窒素-水素混合雰囲気等の還元性雰囲気が好ましく、空気、あるいは酸素を過度に含む雰囲気は鋼板を過度に酸化させる可能性があり好ましくない。
雰囲気ガスの露点については0~40℃で良好な結果が得られる。
【0063】
以上のようにして高い密着性および張力を有するホウ酸アルミニウム被膜を備えた方向性電磁鋼板を製造することができる。
【実施例
【0064】
以下に本発明を実施例に基づいてより詳細に説明するが、以下に示す実施例は、本発明のあくまでも一例であって、本発明はかかる実施例にのみ限定されるものではない。
【0065】
実施例1
市販のホウ酸(オルトホウ酸)、四ホウ酸カリウムあるいは四ホウ酸ナトリウムと、酸化アルミニウム(Al)粉末(平均粒径:0.4μm)、0.5M硝酸水溶液、酸化珪素を表1に示した割合に混合した。なお、硝酸水溶液のpHは0.5であった。実施例1-1~1-6および比較例1-1~1-7に係る塗布剤としてのスラリーを上記のように室温で作製した。なお、溶媒としては水を用いた。一方、実施例1-6の塗布液は、高濃度ポリホウ酸を次のようにして準備して作成した。まず水700gを80℃に熱して、実施例1-6にある量のホウ酸と四ホウ酸ナトリウムを加え、完全にこれらが溶解するまで温度を保ちつつ撹拌した。完全に溶解した後この溶液を室温(30℃)まで徐冷し、高濃度ポリホウ酸液を準備した。これに酸化アルミニウム粉末と0.5M硝酸水溶液、酸化珪素を表1にある量を加えて十分に撹拌した。
【0066】
得られた塗布剤について、粘度およびpHを測定した。粘度は、B型粘度計を用い、30℃の塗布剤について、pHは、30℃の塗布剤について、pHメーターを用いて測定を行った。結果を表1に示す。
【0067】
得られた塗布剤を30分間撹拌を止めて静置した後、Siを3.2質量%含有する厚さ0.23mmの仕上げ焼鈍が完了した一方向性珪素鋼板(フォルステライト質の一次被膜あり)に焼き付け後の被膜重量で4.5g/mとなるように塗布した。これを乾燥し、850℃60秒で焼き付けた。ここで乾燥、焼き付け時の雰囲気は、水素を10vol.%含む窒素雰囲気で、露点は30℃とした。以上により実施例1-1~1-6および比較例1-1~1-7に係るホウ酸アルミニウム被膜を有する方向性電磁鋼板を得た。
【0068】
得られた方向性電磁鋼板について、ホウ酸アルミニウム被膜の密着性および被膜張力の評価を行った。
ホウ酸アルミニウム被膜の密着性は、板をφ20mmの円筒に巻き付け、被膜の剥離が無い試料の密着性を良とし、それ以外を不良とした。
被膜張力の測定はホウ酸アルミニウム被膜を形成した鋼板の片側の被膜を除去し、鋼板の曲りから算出した。被膜の除去には水酸化ナトリウム水溶液を用いた。被膜張力が12MPa以上のものを良とし、これに満たない場合を不良とした。
以上の結果を表1に示す。
【0069】
表1に示すように、実施例1-1~1-6に係る塗布剤では、目標の固形分濃度(アルミニウム源とホウ素源の合計質量の塗布剤における濃度)が得られており、これを用いて製造した実施例1-1~1-6に係る方向性電磁鋼板では、密着性が良好で張力の高いホウ酸アルミニウム被膜が形成されたことが理解できる。
目標の固形分濃度に達していない比較例1-1、1-2に係る塗布剤を用いて製造された鋼板は、その被膜張力が低かった。これは塗布剤乾燥時に突沸等の被膜欠陥が生じたためであると推測された。一方、アルカリ金属を含まない比較例1-7は、固形分濃度が30%と高かったものの張力が十分ではなかった。これはアルカリ金属のホウ酸塩を含有しない組成のため、投入したホウ酸が溶解度を超えていることからホウ酸が析出したままで液の均一性が不安定であり、30分間の撹拌停止中に析出ホウ酸が沈殿して意図した組成の被膜が得られなかったためと推測された。
【0070】
【表1】
【0071】
実施例2
市販のほう酸(オルトホウ酸)、四ホウ酸カリウムと、酸化アルミニウム(Al)粉末(平均粒径:0.4μm)、酸化珪素、および硝酸(0.1M、pH1.0)、塩酸(0.1M、pH0.9)、酢酸(0.5M、pH1.9)、クエン酸(0.2M、pH2.0)、シュウ酸(0.1M、pH1.5)からなる各種の酸の水溶液を表2に示した割合に混合し、実施例2-1~2-5および比較例2-1~2-2に係る塗布剤としてのスラリーを作製した。なお、溶媒としては水を用いた。
【0072】
得られた塗布剤について、粘度およびpHを測定した。粘度は、B型粘度計を用い、30℃の塗布剤について、pHは、30℃の塗布剤について、pHメーターを用いて測定を行った。結果を表2に示す。
【0073】
得られた塗布剤を、Siを3.2質量%含有する厚さ0.23mmの仕上げ焼鈍が完了した一方向性珪素鋼板(フォルステライト質の一次被膜あり)に焼き付け後の被膜重量で4.5g/mとなるように塗布した。これを乾燥し、850℃60秒で焼き付けた。ここで乾燥、焼き付け時の雰囲気は、水素を10vol.%含む窒素雰囲気で、露点は30℃とした。以上により実施例2-1~2-5および比較例2-1~2-2に係るホウ酸アルミニウム被膜を有する方向性電磁鋼板を得た。
【0074】
得られた方向性電磁鋼板について、ホウ酸アルミニウム被膜の密着性および被膜張力の評価を行った。
ホウ酸アルミニウム被膜の密着性は、板をφ20mmの円筒に巻き付け、被膜の剥離が無い試料の密着性を良とし、それ以外を不良とした。
被膜張力の測定はホウ酸アルミニウム被膜を形成した鋼板の片側の被膜を除去し、鋼板の曲りから算出した。被膜の除去には水酸化ナトリウム水溶液を用いた。被膜張力が12MPa以上のものを良とし、これに満たない場合を不良とした。
以上の結果を表2に示す。
【0075】
表2に示すように、実施例2-1~2-5に係る塗布剤では、目標の固形分濃度が得られており、これを用いて製造した実施例2-1~2-5に係る方向性電磁鋼板では、密着性が良好で張力の高いホウ酸アルミニウム被膜が形成されたことが理解できる。
【0076】
【表2】
【0077】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。